LSIなどの微小回路形成における欠陥の検出・測長・形状評価は種々の手法が使われている。例えば、光学式の検査装置では微小回路の光学像を生成し、その画像を異常検出のために検査する。しかし、それら光学像では、ごく小さい形状特徴の特定を可能にするには解像度が不十分であり、回路形成上で有害な欠陥と無害な欠陥との区別が不十分である。そのような計測・検査装置の対象試料は、技術の進歩とともに益々微細化しており、例えば、最新のDRAMの製造工程では、メタル配線の配線幅が90nm以下、ロジックICでは、ゲート寸法が45nmにまで達している。
電子ビーム利用による欠陥検査手法は、コンタクト孔、ゲートおよび配線などの微小な形状特徴と微小欠陥の形状特徴を画像化するのに十分な解像度を備え、さらに、欠陥形状の陰影像コントラストに基づく重度の欠陥の分類検出に利用できる。したがって、微小回路の計測・検査に対しては、荷電粒子線を応用した計測・検査手法は光学式検査手法に比べてはるかに有利である。
荷電粒子線応用装置の一つである走査電子顕微鏡(SEM)は、加熱形又は電界放出形の電子源から放出された荷電粒子ビームを集束して細いビーム(プローブビーム)を形成し、当該プローブビームを試料上で走査する。当該走査により試料からは二次荷電粒子(二次電子あるいは反射電子)が発生し、この二次荷電粒子を一次荷電粒子線の走査と同期して画像データの輝度信号とすると走査像が得られる。一般の走査電子顕微鏡では、負電位を印加した電子源と接地電位間の引出し電極で電子源から放出された電子を加速し、試料に照射する。
SEMなどの走査荷電粒子顕微鏡の分解能と荷電粒子ビームのエネルギーには密接な関係がある。高いエネルギーの一次荷電粒子線が試料に到達すると(つまり一次荷電粒子線のランディングエネルギーが大きいと)、一次荷電粒子が試料内に深く進入するため、二次電子および反射電子の試料上の放出範囲が広がる。その結果、荷電粒子ビームのプローブサイズよりも前記放出範囲が広くなり、観察分解能が著しく劣化する。
一方、ランディングエネルギーを低くするために一次荷電粒子線のエネルギーを小さくしすぎると、収差により荷電粒子ビームのプローブサイズが著しく増大し、観察分解能が劣化する。
更に、SEM像のコントラストは、試料に照射する一次荷電粒子ビーム電流値に影響される。ビーム電流が少なくなると二次信号とノイズとの比(S/N)が著しく低下し、走査像のコントラストが劣化する。従って、ビーム電流値はなるべく大きくなるように制御することが望ましいが、一次荷電粒子線のエネルギーが小さくなると、クーロン効果により細いプローブビームの形成が困難となる。よって、一次荷電粒子線のエネルギーを小さく制御しすぎると走査像を取得するために必要なビーム電流量が不足し、高倍率、高分解能での走査像取得が困難となる。
したがって、高分解能な観察を行うためには、一次荷電粒子線のエネルギー、特にランディングエネルギーを、観察対象にあわせて適切に制御する必要がある。
ランディングエネルギーの制御技術としては、リターディング方式が多く使用されている。リターディング方式においては、試料に対して一次荷電粒子線を減速させるような電位を印加し、荷電粒子線のエネルギーを試料に到達する直前で所望のエネルギーまで低下させる。
例えば、特許文献1には、リターディングのための負電位を試料に印加するタイミングを試料の装着・交換と連動させて制御する発明が開示されている。
特許文献2には、試料の傾斜観察をリターディング方式で行う際に、試料傾斜に起因して発生する非対称なリターディング電界の影響(非点収差の発生、二次電子検出効率の低下)の低減を目的として、対物レンズの磁極を上下に分割して下側磁極に試料と同じ電位を印加する発明が開示されている。
特許文献3には、電子線を応用した電位測定装置の発明が開示されている。特許文献3に記載の電位測定装置においては、対物レンズを励磁のためのヨーク部と磁極部とに分割して、対物レンズを2つの磁気回路により構成し、かつ磁極部に二次電子の引き上げ電界を印加する。特許文献3によれば、対物レンズを2分割することにより、試料と対物レンズの作動距離に応じて磁気回路を設計しやすくなり、よって作動距離に関係なく電子ビームのスポット径を適切に制御可能となる。
簡単のため、以下の実施例では、主として走査電子顕微鏡を用いた装置への適用例について説明するが、各実施例の電磁重畳型対物レンズは、電子ビームだけではなくイオンビーム装置も含めた荷電粒子線装置一般に対して適用可能である。また、以下の実施例では、半導体ウェハを試料とする装置について説明を行うが、各種荷電粒子線装置で使用する試料としては、半導体ウェハの他、半導体基板、パターンが形成されたウェハの欠片、ウェハから切り出されたチップ、ハードディスク、液晶パネルなど、各種の試料を検査・計測対象とすることができる。
実施例1では、走査電子顕微鏡への適用例について説明する。
図1(a)は、走査電子顕微鏡の全体構成を示す模式図である。本実施例の走査電子顕微鏡は、真空筺体内101に形成された電子光学系102、その周囲に配置された電子光学系制御装置103、制御電源に含まれる個々の制御ユニットを制御し、装置全体を統括制御するホストコンピュータ104、制御装置に接続された操作卓105、取得画像を表示されるモニタを備える表示手段106などにより構成される。電子光学系制御装置103は、電子光学系102の各構成要素に電流、電圧を供給するための電源ユニットや、各構成要素に対して制御信号を伝送するための信号制御線などにより構成される。
電子光学系102は、電子ビーム(一次荷電粒子ビーム)110を生成する電子源111、一次電子ビームを偏向する偏向器112、電子ビームを集束する電磁重畳型対物レンズ123、ステージ上に保持された試料114から放出される二次粒子(二次粒子)115を集束発散するブースタ磁路部材116、二次粒子が衝突するための反射部材118、当該衝突により再放出される副次粒子(三次粒子)を検出する中央検出器122などにより構成される。反射部材118は、一次ビームの通過開口が形成された円盤状の金属部材により構成され、その底面が二次粒子反射面126を形成している。
電子源111から放出された電子ビーム110は、引き出し電極130と加速電極131との間に形成される電位差により加速され、電磁重畳型対物レンズ123に達する。対物レンズ123は、入射した一次電子ビームを試料114上に集束させる。
次に、図1(b)を用いて、本実施例の電磁重畳型対物レンズ123の内部構成を詳細に説明する。図1(b)には、電磁重畳型対物レンズ123の内部構成の他、被計測・検査試料114も合わせて示した。
本実施例の電磁重畳型対物レンズ123は、一次電子線光軸(あるいは電子光学系102の中心軸)の周囲に配置されたヨーク部材132、当該ヨーク部材132と一次電子線光軸の間の空間内に設けられたブースタ磁路部材116、ヨーク部材132の底面と試料114により構成される閉空間内に配置された制御磁路部材133の3つの磁路部材と、コイル134とを少なくとも含んで構成される。一次電子線光軸あるいは電子光学系102の中心軸は、電磁重畳型対物レンズ123あるいは真空筐体101の中心軸と一致するように構成される場合が多い。
図1(b)のヨーク磁路部材132は、内部が中空の円環部材により構成されており、その断面は、一次電子線光軸への対向面側が斜面になった台形形状をなす。本実施例の電磁重畳型対物レンズにおいては、ヨーク磁路部材は、一次電子ビーム光軸が円環部材の中心を通るように配置される。円環部材のヨーク磁路部材132の内部にはコイル134が保持されており、当該コイルにより一次電子ビームを集束するための磁束が励磁される。当該台形形状の下底の内面側(一次電子ビームへの対向面側)には空間が設けてあり、当該空間により、励磁された磁束がヨーク磁路部材132内で閉磁路を形成せずにブースタ磁路部材116と制御磁路部材133へ流れるようになっている。また、ヨーク磁路部材132の上面側(一次電子線の入射方向)と底面側(一次電子線の出射方向)には、一次電子ビームの通過する開口を備える。また、ヨーク磁路部材の材料としては軟磁性材料が用いられる。なお、図1(b)に示したヨーク磁路部材132は、断面が台形形状の円環部材が用いられているが、励磁された磁束をブースタ磁路部材116および制御磁路部材133に受け渡す機能が果たされる限り、ヨーク磁路部材132の形状は特に問わない。例えば、ヨーク磁路部材の断面がコの字型であってもよい。
ブースタ磁路部材116は、ヨーク磁路部材132を構成する円環部材の内面側(一次電子線への対向領域)に沿って設けられた円筒(あるいは円錐)形状部材であり、電磁重畳型対物レンズの内部で、円筒の中心軸が一次電子ビーム光軸(あるいは真空筐体101の中心軸)は一致するように配置される。材料としては、ヨーク磁路部材132と同様に軟磁性材料が使用される。円筒の下部側先端部(試料対向面側の先端部)は、コイルにより励磁された磁束が集中する磁極(ポールピース)を構成する。
ヨーク磁路部材132の底面側には制御磁路部材133が配置される。制御磁路部材133は、中央部に前記ブースタ磁路を配置するための開口を有する円盤又は円錐形状の軟磁性板である。ヨーク磁路部材132は、電磁重畳型対物レンズの内部で、一次電子ビーム光軸に対して同軸となるように配置される。制御磁路部材133の開口端部は、磁束が集中する磁極を構成し、制御磁路部材133の磁極とブースタ磁路部材116の磁極の空隙(ギャップ)間に磁束が集中することにより、一次電子ビームに対する従来よりも強いレンズ効果が発生させることができる。ブースタ磁路部材に属するポールピースを上部磁極、制御磁路部材に属するポールピースを下部磁極と呼ぶ場合もある。
制御磁路部材133とブースタ磁路部材116だけではなく、ヨーク部材132と制御磁路部材133、ヨーク部材132とブースタ磁路部材116も、各々所定のギャップを介して空間的に分離されている。ただし、上記のヨーク部材132と制御磁路部材133とブースタ磁路部材116とは、磁気的には強く結合しており、コイル134によって励起された磁束は、上記の各磁路部材中を貫流する。ブースタ磁路部材116と制御磁路部材133が隣接する先端部は、試料に隣接して磁束を集めるために厚み3mm以下に薄く構成される。一方、ブースタ磁路部材116と制御磁路部材133がヨーク部材132に隣接する根元部は、磁気飽和を回避するために厚み1cm以上に構成される。
次に、ブースタ磁路部材116、ヨーク部材132および制御磁路部材133への印加電位について説明する。ヨーク部材132と制御磁路部材133とブースタ磁路部材116は、絶縁材料を介して互いに電気的に絶縁されている。ブースタ磁路部材116には、ヨーク部材132の電位に対する電位が正になり、かつ上記加速電極131の電位に対する電位差が正になるような電位が供給される。この電位はブースタ電源135により供給される。また、ヨーク部材132には接地電位に保たれる。このため、電子ビーム110は、加速電極131とブースタ磁路部材116との間の電位差によって電子ビーム110の軌道上で最も加速された状態で、上記ブースタ磁路部材116を通過する。
本実施例の荷電粒子ビーム装置においても、リターディング方式を採用する。従って、対物レンズと試料間には減速電界を形成する必要がある。制御磁路部材133には、ヨーク部材132の電位に対する電位が負になるような電位が供給されており、この電位は制御磁路電源136により供給される。また、ステージ140には、ステージ電源141によって、ブースタ磁路部材116との電位差が負になる電位が印加される。このため、ブースタ磁路部材116を通過した電子ビーム110は、急激に減速され試料表面に到達する。ここで、一次ビームのランディングエネルギーは、電子源111とステージ140の電位差のみで決まるため、電子源111とステージ140のへの印加電位を所定値に制御すれば、ブースタ磁路部材116や加速電極131への印加電位がどうであってもランディングエネルギーを所望の値に制御可能である。
わかりやすさのため、上で説明した各構成要素の制御電圧値の大小関係を数式で表現すると、以下の通りとなる。
(1)電子源<試料電位<制御磁路部材<ヨーク部材≒0V<ブースタ磁路部材
(2)電子源<加速電極≒0V<ブースタ磁路
従って、加速電極131とブースタ磁路部材116への印加電位を電子源111に対して正に設定することにより、電子ビーム110は電子光学系102を高速に通過させることができ、試料上での電子ビーム110のプローブサイズを小さくすることができる。
しかし、電磁重畳型対物レンズ123と試料上の間で生じる電子ビーム110の減速作用は、レンズの集束作用を阻害してしまう。そのため、電磁重畳型対物レンズ123にはビームの強い集束作用が必要になる。さらに、電磁重畳型対物レンズ123を試料に近づけることによっても、電子ビーム110をより細く集束できる。そのため、電磁重畳型対物レンズ123は試料直上の隣接した狭い距離での強い収束作用が必要になる。
図2には、制御磁路部材のある対物レンズと無い対物レンズにおける軸上磁場分布と、本実施例の電磁重畳型対物レンズ内の磁極部材の配置関係とを較して示した。図2の左側の図において、実線および点線で示されるカーブの横軸方向の大きさが軸上(一次電子ビーム光軸にほぼ一致)での磁束密度分布を示し、縦軸が対物レンズ内での高さを示す。実線で示されるカーブは第3磁極がある場合、点線で示されるカーブは第3磁極が無い場合に相当する。レンズ作用の強さは磁束密度分布の大きさと急峻さにほぼ比例するため、電磁重畳型対物レンズのレンズ作用は、図2に示されるカーブのピーク位置で発生すると考えてよい。また図2の右側の図において、実線で示される電子ビームは第3磁極を有する対物レンズのレンズ作用を受ける一次電子ビームの断面の概略図を示し、点線で示される電子ビームは第3磁極を有さない対物レンズのレンズ作用を受ける一次電子ビームの断面の概略図をそれぞれ示す。一般化のため、図2右側の概略図においては、ブースタ磁路部材、ヨーク部材および制御磁路部材を、それぞれ第1磁極、第2磁極、第3磁極として示してある。
図2の右側概略図に示される対物レンズ内の磁極構成では、従来技術よりも試料に近い位置に第3磁極を配置できるため、対物レンズのレンズ作用発生位置を従来よりも試料に近づけることができる。リターディング方式を採用する荷電粒子線装置の場合、リターディング電界を形成するために、従来は試料に負の高電圧を印加し、第2磁極に試料印加電圧よりも高い電位(典型的には接地電位)を印加していた。このため、第2磁極と試料間の距離は放電の発生しない程度に大きくせざるを得ず、よって、従来の第2磁極は、本実施例の第3磁極の位置ほどには試料に近づけることができなかった。
本実施例の電磁重畳型対物レンズにおいては、第3磁極にはリターディング電位とほぼ同等な電位が印加されるため、試料と電極間の放電の問題が無く、よって第3磁極と試料間のギャップを狭くすることができる。従って、レンズ作用の大きな位置を従来よりも試料に近づけることができる。なお、制御磁路部材133には、リターディング電位とほぼ同等の負の高電圧が印加されるため、制御磁路部材133はヨーク部材132に対して耐電圧構造にする必要がある。
また、第3磁極は、機能的には従来の第2磁極の底面側の磁路を分割したことに相当する。上述の通り、磁路を分割することにより上下の磁極への磁束の集中度は高まり、電子ビーム110に対するより集束作用の強い対物レンズが実現される。その結果、電子ビーム110をより細く集束することが可能となり、従って高分解能な顕微鏡観察ができる。
以上の理由により、本実施例の伝重畳型対物レンズは、レンズの短焦点化と集束作用を両立することが可能となる。
一方、本実施例の伝重畳型対物レンズであっても、ワーキングディスタンスを小さくできる限界はあり、その限界はレンズ作用の強さの上限により定まる。レンズ作用の強さは、コイル134に印加する電流量を増やせば大きくなるが、ヨーク部材132と制御磁路部材133とブースタ磁路部材116が磁気飽和するため、励磁電流量を増やしていくと軸上磁場のピークが鈍くなる。ピーク形状が崩れてしまうと電磁重畳型対物レンズ123の集束作用が劣化し、高分解能な顕微鏡観察はできなくなる。集束作用の劣化を回避できる最短の電磁重畳型対物レンズ123と試料間の距離がワーキングディスタンスの下限値であって、本実施例では最短焦点距離と称する。
電子光学系102の調整時には、光学系の各種制御パラメータに応じて対物レンズの励磁電流を調整する必要がある場合がある。例えば、電子ビーム110のランディングエネルギーを変えた場合には、ランディングエネルギーの調整量に応じて励磁量を調整する必要がある。図3には、最短焦点距離の電子ビームのランディングエネルギー依存性を本実施例の対物レンズと従来の対物レンズとで対比して示した。実線が第3磁極がある場合、点線が第3磁極が無い場合の依存性を示す。実線および点線の上側の領域が合焦点の領域に相当する。図3より、ランディングエネルギーが同一であれば、第3磁極を備えた本実施例の対物レンズは、第3磁極の無い従来の対物レンズよりも最短焦点距離を短くできることが分かる。これは、急峻な軸上磁場ピークを試料直上に近づけることにより、試料直上での電子ビーム110の集束作用を強化することで、第1磁極の磁気飽和を回避しやすくなったためである。本実施例の電磁重畳型対物レンズの構成により、ランディングエネルギーが50eVから10keVまでの電子ビームを集束可能の電磁重畳型対物レンズで集束できるようにできた。
一次ビーム照射により発生した二次粒子115は、極性が負であるため、試料114とブースタ磁路部材116との間の電位差によって加速され、電磁重畳型対物レンズ123の上面に達する。高電圧が印加されたブースタ磁路部材116を通過した二次粒子115は急激に減速される。次に、二次粒子115は上段側反射部材118に到達し、二次粒子衝突面126と衝突して三次粒子147を発生する。上段側反射部材の側方に配置された中央検出器122の本体には、中央取り込み電源148により引き込み電界が形成されており、上記再放出された三次粒子を強力な電界で検出器内に取り込む。これにより、トップビュー像を得ることができる。
なお、上段側反射部材118と中央検出器122に変えて、軸上検出器(マルチチャンネルプレートや軸上シンチレータや半導体検出器など)を用いることも可能である。
以上説明した電磁重畳型対物レンズを使用して集束される一次電子ビームを試料上で走査し、当該走査によって発生した二次荷電粒子を検出してホストコンピュータ104により画像化することにより、従来よりも高分解能な顕微鏡観察を行うことが可能となる。
本実施例では、レビューSEMへの適用例について説明する。
図4には、本実施例のレビューSEMの全体構成図を示すが、図1と動作・機能が同じ構成要素については、煩雑さをさけるために説明は省略する。
図4に示すレビューSEMは、大まかに、真空筺体内101に形成された電子光学系102、その周囲に配置された電子光学系制御装置103、制御電源に含まれる個々の制御ユニットを制御し、装置全体を統括制御するホストコンピュータ104、制御装置に接続された操作卓105、取得画像を表示されるモニタを備える表示手段106などにより構成される。電子光学系制御装置103は、電子光学系102の各構成要素に電流、電圧を供給するための電源ユニットや、各構成要素に対して制御信号を伝送するための信号制御線などにより構成される。
電子光学系102の構成要素は、図1で説明した電子光学系の構成とほぼ同一であるが、陰影像の検出機能を備える点で異なる。陰影像とは被検査試料から発生する2次電子と反射電子の方位角や仰角を選別して検出することにより得られる、陰影が強調された像(試料表面の凹凸に対応して明暗のついた試料像)のことであり、陰影像を用いることにより欠陥を効率的に検出できる。このため、本実施例のレビューSEMの電子光学系102は、二次粒子の方位角や仰角の選別手段として、下段側反射部材117および上段側反射部材118の2つの反射部材と、二次粒子への反射部材への衝突により再放出される副次粒子(三次粒子)119を検出する左検出器120と右検出器121と中央検出器122を備える。下段側反射部材117は、電磁重畳型対物レンズ123と偏向器112の間に配置される。下段側反射部材117は、錐形状の金属部材により構成され、その側面には、二次粒子が衝突するための左衝突面124と右衝突面125とが形成されている。また、上段側反射部材118は、一次ビームの通過開口が形成された円盤状の金属部材により構成され、その底面が二次粒子反射面126を形成している。左検出器120と右検出器121と中央検出器122の配置位置は図4に示される位置に限らず変更が可能である。例えば、上段側反射部材118の二次粒子反射面に軸上検出器を配置すれば中央検出器122とほぼ同じ機能を実現可能である。また、左衝突面124と右衝突面に軸上検出器を配置すれば、左検出120と右検出器121とほぼ同じ機能を実現可能である。また、電磁重畳型偏向器(E×B偏向器)を一次電子線の光軸上に配置すれば、一次電子ビーム110は偏向せずに二次粒子反射面から放出された三次粒子を中央検出器122に誘導することもできる。
一次ビーム照射により発生した二次粒子115は、極性が負であるため、試料114とブースタ磁路部材116との間の電位差によって加速され、電磁重畳型対物レンズ123の上面に達する。高電圧が印加されたブースタ磁路部材116を通過した二次粒子115は急激に減速される。これにより、二次粒子に含まれる高速成分(反射電子)は、低速成分とは軌道分離され、下段側反射部材117の左衝突面124ないし右衝突面125とに衝突する。本実施例の電磁重畳型対物レンズを用いることにより、上記軌道分離を実現し、陰影像のコントラストと分解能を同時に向上することができる。左衝突面124ないし右衝突面125には、二次粒子115の高速成分の衝突により発生する三次粒子119を、左検出器120ないし右検出器121に誘導するための電界形成用の電位が、左電源142と右電源143から電位がそれぞれ供給される。このとき、左検出器120と右検出器121に取り込まれる反射電子の量を制御することが可能である。左電源142と右電源143を1つにまとめて、左衝突面124と右衝突面125を同電位にしても良いが、反射電子の量を制御できなくなる。更に、左検出器120と右検出器121とには、誘導された反射電子を検出器に取り込むための電界形成用電位が、左取り込み電源144と右取り込み電源145がそれぞれ供給される。
反射電子の場合は、試料114から電磁重畳型対物レンズ123の磁界により回転しながら下段側反射部材117に向かって進む。反射電子が下段側反射部材117に衝突する座標は、磁界による回転を考慮すると試料からの放出時の方位角と対応付けられる。したがって、左衝突面124と右衝突面125を磁界による回転量を考慮して配置すると、試料表面の凹凸に対応付けることも可能である。
また、反射電子(厳密には、二次粒子の高速成分)が分離された二次粒子146は、下段側反射部材117よりも電子源111側に備えた上段側反射部材118に到達し、二次粒子衝突面126と衝突して三次粒子147を発生する。上段側反射部材の側方に配置された中央検出器122の本体には、中央取り込み電源148により引き込み電界が形成されており、上記再放出された三次粒子を強力な電界で検出器内に取り込む。これにより、試料表面の凹凸像と同時にトップビュー像を得ることができる。
また、本実施例のレビューSEMの電子光学系は、電磁重畳型対物レンズ123よりも電子源111側に、二次電子集束用のアシスト電極を備えている。アシスト電極は電子ビーム110が通過する開口を備えた導体板により構成され、リターディング電位や加速電位の大きさは、試料から放出された二次電子の大部分が該開口を通過するように制御される。該アシスト電極により二次電子の発散を抑制をすることで、試料表面の凹凸に対して異なった明暗のついた高コントラストな試料像を得ることができる。
しかし、LSI形成過程のレジスト膜や、絶縁膜などの検査を行うと、画像形成のための荷電粒子線照射により、帯電やダメージが生じる。この帯電により、2次電子の軌道が変化し,観察像に輝度斑(シェーディング)が発生することがある。本実施例の装置構成では、二次粒子の方位角選別のために、二次粒子検出器を一次電子ビーム光軸に対して軸対称な位置に配置しているが、試料が帯電すると二次粒子軌道の光軸が検出器の中心軸から相対的にずれる。シェーディングはそのような場合に発生する。また、欠陥検出感度の向上のために陰影像を強調すると、2次電子の軌道変化の観察像への影響が増大し、シェーディングがさらに発生しやすくなる。このとき、該アシスト電極の集束制御により二次粒子のより高速成分のみを分離して、左衝突面124と右衝突面125に衝突させることにより上記シェーディングを抑制することができる。すなわち、上記シェーディングと上記ダメージが無い状態で、高分解能で高コントラストなSEM観察を実現すると、検出感度と検出速度が高い検査方法を提供することができる。そこで、ビームランディングに加えて一次電子ビームのビーム電流量も、観察対象にあわせて適切に選択する必要がある。
本実施例の走査電子顕微鏡は、欠陥画像を高速に取得する動作モード(レビューモード)と作製パターンの外観を測長・検査する動作モード(測長モード)の2つの動作モードで自動制御できるようになっている。
表示手段106の表示画面には、常に、「レビューモード」/「測長モード」の2つの切り替えボタンと「帯電除去」というボタンが表示されており、装置ユーザは、操作卓105を介していずれかのボタンを選択できるようになっている。さらに、画像処理装置をホストコンピュータ104に組み込む。表面電位計を設けると、ウェハの帯電分布を測定し、ホストコンピュータ104に帯電分布関数を格納することもできる。Zセンサを設けると、常時ウェハなどの試料114と電磁重畳型対物レンズ123間の距離を測定することができる。ホストコンピュータ104には、各動作モードに応じた、電子光学系制御装置、ステージ制御装置及び画像処理装置に設定されるべきパラメータの情報が格納されており、必要に応じて電子光学系制御装置103に伝送される。
シェーディング発生時には、装置動作を帯電除去モードに切り替えることにより、シェーディングを除去することができる。装置ユーザが「帯電除去」ボタンを押すと、ヨーク部材132と下段側反射部材117の間に設けたアシスト電極と下段反射部材117への印加電圧を変更する。これにより、試料の帯電状態に応じた二次粒子検出条件が実現され、シェーディングの除去された画像を得ることができる。
以上説明した構成は、本実施例を実現するレビューSEMの最小構成である。例えば、電子ビームの集束を助けるコンデンサレンズやビーム電流を測定するファラデーカップなどを設けても本実施例の機能を達成することができる。例えば、加速電極131と上段側反射部材118の間にコンデンサレンズを設けることにより、電子ビームの集束を助けることができる。さらにコンデンサレンズを2段として、その間に電流制限絞りを設けると、ビーム電流と対物レンズでのビームの開きを独立に制御できるようになり電子ビームの集束を助けることができる。また、上記偏向器112は、一般に静電型と電磁型のタイプがある。
レビューモードでは以下のような手順で欠陥画像を取得する。
(1)所望のウェハを装置内にロードする。
(2)ウェハのアライメントを行う。
(3)欠陥座標に移動し、合焦点を見つける。
(4)欠陥観察像を取得する。
ウェハ上の複数箇所の欠陥観察像を取得する際は工程(3)と(4)を繰り返す。この手順は、欠陥観察像を迅速かつ多量に集める有効な手段である。
また、工程(3)において欠陥座標精度が不足する場合は、以下のフロー(5)〜(8)を装置が実行することにより、正確な欠陥座標位置を検出し、欠陥の像を取得する。
(5)手順(3)の状態よりも電子光学系の光学倍率を下げる。
(6)同じ位置で合焦点を見つける。必要であればステージ位置調整やイメージシフトなどにより、電子ビームの照射領域を微調整する。
(7)低倍観察像を取得し、画像処理で欠陥位置を特定する。
(8)手順(5)の状態よりも電子光学系の光学倍率を上げる。
(9)欠陥観察像を取得する。
ウェハ内の複数箇所の欠陥観察像を取得する際は工程(3)〜(9)を繰り返す。
また、工程(7)において、画像処理のみでは欠陥位置を特定できない場合は、以下のような手順で欠陥観察像を取得する。
(10)欠陥に隣接するダイの座標に移動し、合焦点を見つける。
(11)低倍観察像を取得する。
(12)欠陥座標に移動し、合焦点を見つける。
(13)低倍観察像を取得し、手順(11)で取得した観察像と比較して欠陥位置を特定する。
(14)電子光学系の光学倍率を上げて、特定された欠陥位置の像を取得する。
ウェハ内の複数箇所の欠陥観察像を取得する際は工程(10)から(14)を繰り返す。工程(10)から(14)を装置に実行させることにより、欠陥座標精度や欠陥サイズに柔軟に対応して欠陥観察像を集めることが可能となる。
一方、測長モードでは以下のような手順で作製パターンの観察像を取得する。
(1)所望のウェハを装置内にロードする。
(2)ウェハのアライメントを行う。
(3)観察座標に移動し、合焦点を見つける。
(4)作製パターンの観察像を取得する。
ウェハ上の複数箇所の作製パターンの観察像を取得する際は工程(3)と(4)を繰り返す。この手順は、作製パターンの観察像を迅速かつ多量に集める有効な手段である。
また、工程(3)において観察座標精度が不足する場合は、以下のような手順で観察像を取得する。
(5)ウェハの再アライメントを行う。
(6)アライメント座標に移動し、合焦点を見つける。
(7)アライメント観察像を取得し、画像処理で観察座標のアライメントを行う。
(8)観察座標に移動し、合焦点を見つける。
(9)作製パターンの観察像を取得する。ウェハ内の複数箇所の観察像を取得する際は工程(6)から(9)を繰り返す。
作製パターンの形状判定を行うときは、以下のような手順で作製パターンの観察像を取得する。
(10)行程(9)での画像取得位置に隣接するダイの観察座標に移動し、合焦点を見つける。
(11)参照観察像を取得する。
(12)観察座標に移動し、合焦点を見つける。
(13)観察像を取得し、(11)の参照観察像と比較する。
また、工程(10)および(12)において観察座標精度が不足する場合は、以下のような手順で観察像を取得する。
(14)ウェハの再アライメントを行う。
(15)隣接するダイのアライメント座標に移動し、合焦点を見つける。
(16)アライメント観察像を取得し、画像処理で観察座標のアライメントを行う。
(17)隣接するダイの参照観察座標に移動し、合焦点を見つける。
(18)作製パターンの参照観察像を取得する。
(19)アライメント座標に移動し、合焦点を見つける。
(20)アライメント観察像を取得し、画像処理で観察座標のアライメントを行う。
(21)観察座標に移動し、合焦点を見つける。
(22)作製パターンの観察像を取得し、(18)の参照観察像と比較する。
ウェハ内の複数箇所の作製パターンの観察像を取得する際は工程(15)から(22)を繰り返す。この手順は、観察座標精度や作製パターンに柔軟に対応して観察像を集めることができる手段である。
次に、本実施例のレビューSEMにおける電磁重畳型対物レンズの制御方法について説明する。レビューモードと測長モードのどちらの場合でも、電磁重畳型対物レンズにより電子ビームの焦点を制御して合焦点を見つけなければならない。しかし、磁気飽和などによる電磁重畳型対物レンズの焦点距離の限界や、二次粒子の反射部材の衝突位置の変化による検出器の限界などの制約から、本実施例の走査電子顕微鏡は、焦点位置を大きく変更することはできない。
焦点位置が大きく変動する要因は、試料帯電と試料高さの2つである。試料帯電が原因になる場合には、リターディング電位を微調整することにより、電磁重畳型対物レンズの焦点距離の限界と、検出器の限界の制約を受けること無く合焦点を検出することができる。試料高さが原因になる場合には、例えば以下の手法により合焦点位置を検出することができる。
(1)ステージ固定時にウェハの面内のそりを減らすために静電チャックを用いる、
(2)試料の厚さにあわせてステージの高さを制御する、
(3)電磁重畳型対物レンズのコイルの励磁電流を変更する、
(4)ブースタ磁路部材への印加電圧を変更する、
以上説明した構成により、反射電子を弁別検出し、陰影コントラストの強調された像を取得することが可能となり、浅い凹凸の微細な異物等を高感度に検出することが可能となる。
本実施例では、静電吸着装置を備えたレビューSEMの構成例について説明する。
図5には、本実施例のレビューSEMの全体構成図を示すが、静電チャック以外の構成要素については図4と動作・機能が同じであるため、静電チャック以外の構成要素については説明は省略する。
本実施例のレビューSEMは、試料ステージに静電チャック機構が設けられており、電子光学系制御装置103には、信号制御線や電子光学系102用の電源ユニットなどの他、ステージ制御装置が組み込まれている。ステージ制御装置は、静電チャックの各構成要素に電流、電圧を供給するための電源ユニットや、各構成要素に対して制御信号を伝送するための信号制御線などにより構成される。
静電チャック機構は、ステージ140に設けられた誘電層200と内部電極201および上記内部電極201とウェハ114間に電圧を印加するための内部電極電源203などにより構成される。電圧印加により内部電極201とウェハ114の間には静電吸着力が発生し、発生した力によってウェハ114が吸着される。吸着方式の違いによって、静電チャックは一般的にクーロン力型とジョンソン・ラベック力型に分類される。クーロン力型は内部電極201とウェハ間の電流を小さく、ジョンソン・ラベック力型は内部電極201とウェハ間の電位差を小さくできる。また一般に、誘電層200下部の内部電極201によって、静電チャックは単極方式と双極方式に分類される。双極方式は誘電層200とウェハ114の各層に堆積する電荷を中性に保つことができる。
また、ステージ140にはウェハに接触するためのコンタクト電極202が設けられ、上記コンタクト電極202には、電源によって、ブースタ磁路との電位差が負になるような電位が印加されている。制御磁路部材133とコンタクト電極202の電位差を±100V以内に設定すると、ウェハと制御磁路間の電位差を抑制できる。上記電位差の制御により、1次ビームの集束と二次粒子の収集と分別の効率を制御することが可能となる。これにより高分解能なトップビュー像と陰影像を得ることができる。
また、ウェハなど大型の平板試料を観察対象にする場合、試料ステージとして静電チャックを用いると試料のそりが抑制され、電子ビームの照射領域を含む観察領域が平坦化される。すなわちウェハと制御磁路間の間隔のばらつきが抑制されるため、対物レンズの磁極をそれだけ試料に近づけることが可能となる。従って、レンズの短焦点化と集束作用の両立が可能な本発明の伝重畳型対物レンズは静電チャックと非常に相性が良く、両者を組み合わせて使用することにより、実施例1、2で説明した荷電粒子光学系よりも作動距離の短い照射光学系を実現することが可能となる。以上により、1次ビームをより小さく集束しビーム径を縮小し、二次粒子の収集と分別の効率を改善することができ、高分解能なトップビュー像と陰影像を得ることが可能となる。
図6(a)、図6(b)には、静電吸着装置を備えたレビューSEMの変形例について示した。図6(a)は、レビューSEMの全体構成図、図6(b)には、制御磁路部材の温度制御機構を備えた電磁重畳型対物レンズの構成を示す模式図である。静電チャックはウェハ114を吸着する際に発熱する。特に、ジョンソン・ラベック力型の静電チャックは発熱が多い。そのため、静電チャックに吸着後、温度が安定するまでの間、ウェハ114は熱膨張する。ウェハが熱膨張すると、ビームランディング位置のドリフトが発生し観察像にボケが生じるだけではなく、ウェハのアライメントがずれてしまう。すると、所望のウェハ座標に移動することができずに、「レビューモード」/「測長モード」などの自動制御ができなくなる。このドリフトを抑制するためには、ウェハの温度管理が必要である。
一般的には、静電チャック機構は温度制御機構を備えており、静電チャック内の配管300に気体や液体を流すことにより、ステージ140の温度を制御することができる。しかし、ウェハ114と静電チャックの温度を測定したところ、ウェハと静電チャックの間に温度差が生じることがわかった。これは、輻射熱による熱流入がウェハにあるためである。電磁重畳対物レンズ123は、強力な磁場を励起する必要からコイル134に大電流を流すため発熱源となる。特に、電磁重畳対物レンズの制御磁路はウェハと狭ギャップで向かいあっているために、輻射熱によるウェハへの熱流入が大きい。そこで、制御磁路部材に制御磁路部材の温度を制御する機構を設けた。
制御磁路部材133の内部には、冷媒を流すための冷却配管301が埋め込まれている。本実施例では、冷媒としては水を使用した。制御磁路部材を冷却すると、前記電磁重畳型対物レンズで発生する熱をウェハに対する熱輻射シールドの機能をもたせることができる。これにより、ウェハと静電チャック間の温度差が抑制され、結果的に、ビームランディング位置のドリフトおよびウェハのアライメントのずれが抑制された。
本実施例のレビューSEMにおいては、制御磁路部材133およびステージ104には、温度計302、303がそれぞれ備えられている。温度計302で計測された温度情報は図示されていない信号伝送線を経由してホストコンピュータ104に伝送される。一方、静電チャック用の冷却配管300には、冷媒供給用配管304と冷媒循環手段であるポンプ306が接続されている。冷媒供給用配管304の経路上には、流量調節手段として、マスフローコントローラ305が設けられている。ホストコンピュータ104は、温度計302,303で計測された温度情報を受け取ると、マスフローコントローラ305を制御し冷却配管300,301内を流れる冷媒の流量を適切に制御する。これにより、制御磁路部材133およびステージ104の温度が制御される。以上の機構を備えることにより、制御磁路部材133およびステージ104の温度をさらに高精度に制御することが可能となり、ウェハの熱膨張を管理できるようになった。また、ウェハアライメント精度も500nm以下に改善され、「レビューモード」/「測長モード」などの自動制御のスループットが飛躍的に向上した。なお、冷媒としては水などの液体の他、Heなど熱容量の大きな気体を使用しても同様の効果を得ることができるが、液体の方が冷却効果が高いため好ましい。
以上、本実施例のレビューSEMにより、制御磁路部材とブースタ磁路とウェハのギャップを従来よりも狭く設定することが可能となった。さらに本発明の電磁重畳型対物レンズの性能も向上し、より高分解能なトップビュー像と陰影像を取得することが可能となった。
本実施例では、ステージチルト機能を備えた走査電子顕微鏡への適用例について説明する。図7(a)には、走査電子顕微鏡の全体構成図を、図7(b)には、ステージチルトに対応した電磁重畳型対物レンズの拡大図を示す。
本実施例の走査電子顕微鏡は、真空筺体内101に形成された電子光学系102、その周囲に配置された電子光学系制御装置103、制御電源に含まれる個々の制御ユニットを制御し、装置全体を統括制御するホストコンピュータ104、制御装置に接続された操作卓105、取得画像を表示されるモニタを備える表示手段106などにより構成される。電子光学系制御装置103は、電子光学系102の各構成要素に電流、電圧を供給するための電源ユニットや、各構成要素に対して制御信号を伝送するための信号制御線などにより構成される。
一次電子ビーム照射系や発生した二次粒子検出系の機能・動作については、図1(a)で説明した機能や動作とほぼ同等であるので説明は省略する。
本実施例の走査電子顕微鏡は、ステージチルト機能を備えている。このため、ステージ104は、ステージ傾斜機構と傾斜機構を駆動するためのモータを備える。ステージの傾斜角度は、電子光学系制御装置103を介してホストコンピュータ104により制御される。ステージチルト機能を備えるため、対物レンズの外形も図7(b)に示すような形状を備える。図7(b)に示す電磁重畳型対物レンズは、図1(b)に示される対物レンズと同様に、ヨーク部材132、ブースタ磁路部材116、制御磁路部材133およびコイル134により構成されるが、ヨーク部材132の底面は、図1(b)とは異なり円錐形状をなしている。これは、ステージチルトの際にステージの試料載置面ないし試料に対物レンズの底面が衝突するのを防止するためである。制御磁路部材133は、ヨーク部材132底面の円錐面に沿って配置される。図示されてはいないが、制御磁路部材133は絶縁性の支持部材により保持されており、ヨーク部材132の底面と制御磁路部材133間の距離が一定に保たれるようになっている。ヨーク部材132底面の円錐面の傾き(頂角の角度)は、ステージの最大チルト角にあわせて設計される。
本実施例の電磁重畳型対物レンズは、制御磁路部材133に試料電位をほぼ同等の電位の電圧を印加しているため、ステージ140と制御磁路部材133の間の電位差が従来よりも小さい。このため、ウェハから対物レンズ底面までの距離がウェハ上の各位置で変わってもウェハと対物レンズ底面間の電位分布が異常な形(非対称)にならず、更に電位差そのものの大きさも従来より小さいため、試料114と制御磁路部材133間での放電を抑制できる。従って、従来よりも高分解能な試料の傾斜観察が実現可能となる。さらに、制御磁路部材133によりブースタ磁路部材116をシールドすることにより、電子光学系102の側面の試料室内に配置した検出器において二次粒子を効率的に引き込む電界を形成することが可能となり、高コントラストな観察像を得ることができる。
また、本実施例の電磁重畳型対物レンズにおいては、ブースタ磁路部材116は試料面側が尖った円錐形状であり、先端を細くして試料表面に近づけることにより、ステージをチルトすることで生じた試料室内の傾いた電界の電子ビームへの作用量を減少させ、電子ビームのプローブ形状の非点化を抑制することができる。さらに、ステージがチルトしてもブースタ磁路部材116により二次粒子を吸い上げて、下段側反射部材の左衝突面ないし右衝突面や上段反射部材などに衝突させることが可能になる。その結果、高コントラストなトップビュー像や陰影像を得ることができる。なお、ステージのチルトによりブースタ磁路部材116との最短距離が短くなるため、ブースタ磁路部材116に印加する電圧もチルト角の増大にあわせて制御磁路部材の電位に近づける場合もある。
以上、本実施例の走査電子顕微鏡により、高分解能かつ高コントラストな観察性能とステージチルト機能とが両立した、高性能な走査電子顕微鏡を実現することができる。