JP2014156651A - 溶射皮膜と皮膜付金属部材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】
金属酸化物を主成分とする溶射粒子が金属基材上に堆積されてなる溶射皮膜であって、該溶射皮膜は、基材に隣接する領域に第1の溶射層を備え、溶射皮膜の表面を含む領域に第2の溶射層を備えており、第2の溶射層の表面の気孔率は5%以上15%以下である溶射皮膜とする。
【選択図】図1
Description
なかでも、プラズマ溶射法等によるセラミック粉末の溶射技術は、セラミック材料の特長である耐熱性、耐摩耗性、耐腐食性および耐絶縁性等といった優れた化学的・機械的特性を、比較的経済的にかつ高速で厚膜として基材に付与できることから、ジェットエンジン、ガスタービンエンジン、製紙用ロール、ポンプ軸等の一般工業向けの金属製部材に広く適用されている。また、近年では、かかるセラミック溶射技術が医療・半導体分野で使用される機器の金属製部材等へも適用されており、上記の付加機能がより高精度に実現されるようになっている。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、意匠性と機械的特性とを兼ね備えた全く新しいセラミック溶射皮膜を提供することを目的とする。また、かかる溶射皮膜を備えた皮膜付金属部材を提供することを他の目的とする。
このような意匠性および化学的・機械的特性は、溶射皮膜を構成する金属酸化物が元来有する特性に由来して実現され得るものであり、上記で特定される第2の溶射層により高い意匠性が実現され得る。具体的には、第2の溶射層は、表面を研磨した場合に、独特の深みのある艶感が付与された美麗な外観を実現し得るものとして構成され得る。このような溶射皮膜は、これまでに実現されていない全く新しいコーティング皮膜であり、本発明によってはじめて提供されるものである。
上記で特定される形態の第1の溶射層により、主として基板に対する衝撃を抑えつつ高い密着力(皮膜密着性)が実現され得る。具体的には、第1の溶射層は、溶射時の基材に対する柔軟性および密着性を実現しつつ、機械的性質に優れた溶射皮膜を実現することができる。
かかる構成によると、溶射皮膜の表面は、上記の通りの平均粒子径を有する溶射粒子により形成されており、陶磁器等に特有の自然な風合いや肌合いといった意匠性がより高められた溶射皮膜が提供される。
第1の溶射層における気孔が上記の範囲の大きさであることで、溶射皮膜の機械的強度をより高いものとして実現することができる。
第2の溶射層における気孔が上記の範囲の大きさであることで、より高い意匠性を実現することができる。たとえば、この溶射皮膜を研磨した場合に、色調のみならず艶感や輝きにまで深みのある極めて美麗なコーティング皮膜を実現し得る。
μm以上400μm以下であることを特徴としている。
第1の溶射層は厚みが薄いほど軽量化を図ることができるものの、過度に薄くすること
で皮膜密着性および機械的特性が十分に得られない。したがって、第1の溶射層の厚みを
上記の範囲とすることで、厚みをより薄く抑えながらも密着性および機械的特性が確保された溶射皮膜を実現することができる。
第2の溶射層は厚みが薄いほど軽量化を図ることができるものの、第1の溶射層の光の透過性が高いことから、金属基材の透けを無くすためには第2の溶射層は適度な厚みが必要となる。また、後述の、溶射皮膜の表面を研磨する形態においては、研磨により除去される厚みを予め考慮して第2の溶射層を形成することが好ましい。かかる観点から、第2の溶射層を上記の範囲内で調整することで、厚みをより薄く抑えながらも基材の色の影響のない意匠性の高い溶射皮膜を簡便に実現することができる。
上記第2の溶射層の表面が研磨されることで、本発明の溶射皮膜の優れた意匠性がより一層顕著となるために好ましい。すなわち、表面が研磨された形態の溶射皮膜は、その風合いに暖かみがありながらも光が照射されることで輝きを放つため、あたかも美術品としての磁器に匹敵する極めて美麗な外観を実現し得る。あるいは、天然石や、いわゆる宝石、輝石などと呼ばれて鑑賞および装飾に用いられる鉱物に匹敵する壮麗な美しさを実現し得る。より具体的には、例えば、金属酸化物がアルミナである場合、ほぼ完全に純白であって、光の照射により独特の輝きを放つ、白磁器のような外観となり得る。なお、第1の溶射層は、金属酸化物からなる溶射粒子の本質的な特性に基づいて透明であるため、かかる意匠性は主として第2の溶射層の構成により実現されるものと考えられる。また、例えば白磁器はカオリンからなる純白で硬い素地の表面を、透明で光沢性のあるガラス質の釉が覆っている点で、本発明の溶射皮膜とはその構成が全く異なる。したがって、かかる構成により、深みのある色調(例えば、白色)と艶感とを併せ持つ極めて美麗で、全く新しいコーティング皮膜が提供される。
上記第2の溶射層は、溶射皮膜に特有の気孔を含んだ皮膜組織により、研磨しても適度な凹凸が形成され得る。かかる凹凸が適切に形成されていることによって、上記のとおりの優れた光沢を実現する光反射性が高められるものと考えられる。例えば光沢度で75以上の優れた輝きを実現するものとなり得る。また同時に、かかる凹凸の存在により、この溶射皮膜に人が触れた際の触感、すなわち肌合いが向上され、さらに適度な滑り止め効果もが実現され得る。
上記の溶射皮膜は、かかる溶射皮膜を構成する金属酸化物の組成によりその色調(色相)が様々に調整され得る。そして特に、上記金属酸化物が酸化アルミニウムである場合には、例えば、ほぼ完全な白色の溶射皮膜を実現することができる。換言すると、あたかも白磁のように純白できめ細やかな質感が実現され得る点でより好ましい。
Pα1(%)= Iα/(Iα+Iγ)×100 ・・・(1)
により定義されるα−アルミナ相率Pα1が8%以上25%以下であることを特徴としている。
酸化アルミニウムを主成分とする溶射粒子に含まれるα−アルミナ相は、溶射の際に溶射粉末が十分に溶融されなかったことを意味し得る。かかる構成の第1の溶射層は、上記の割合でα−アルミナ相が残存するように溶射の際の溶融粒子の状態が調整されたものである。すなわち、基材に衝突する際の溶融粒子の持つ衝撃エネルギーと熱とがより適切に抑えられた状態で溶射皮膜が形成されている。したがって、本発明の溶射皮膜は、基材にへこみや反りを生じさせる虞がより低減されたものとして提供され得る。
Pα2(%)= Iα/(Iα+Iγ)×100 ・・・(2)
により定義されるα−アルミナ相率Pα2が7%以下であることを特徴としている。
かかる構成の第2の溶射層は、α−アルミナ相の残存量が上記の割合となるよう溶射の際の溶融粒子の状態が調整されている。すなわち、基材に衝突する際の溶融粒子は大部分が溶融されており、溶射粒子同士の密着性がより高められた状態で溶射皮膜が形成されている。したがって、本発明の溶射皮膜は、表面を含む領域の溶射粒子同士の密着性が高められたものとして形成され得る。
従来のアルミナ等の金属酸化物からなる溶射皮膜を鉄鋼等の金属基材に直接溶射して形成すると、十分な密着力が得られないことが知られている。そこで、この密着力を改善するために、一般的には、金属基材と金属酸化物からなる溶射皮膜との間に金属からなる下地層を設けることが欠かせない(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、上記の溶射皮膜は、例えば、第1の溶射層を構成する粒子が、例えば扁平で比較的粒径が大きい溶射粒子により、密着性良く形成されていることから、例えば、商業的用途で求められる密着性については確保され得る。
これにより、密着性および機械的特性に加えて意匠性に優れたセラミック質の溶射皮膜を備える金属部材が提供される。例えば、陶磁器のようなきめ細やかな肌合いを醸し出す金属性部材や、さらには、深みのある色艶を備えた極めて美麗な外観を有する金属部材が提供される。
アルミニウムおよびその合金は、金属材料の中でも軽量であって、熱伝導性に優れることから、近年パソコンや携帯電話等の電気製品の外装材等としての使用が検討されている。しかしながら、アルミニウムまたはその合金は、その反面で傷がつきやすいといった欠点もある。しかしながら、上記の溶射皮膜は、機械的強度に優れ、たとえば高硬度であり得る。したがって、本発明の皮膜付金属部材の基材としてアルミニウムまたはその合金からなる部材を採用することで、かかるアルミニウム系の基材に優れた機械的強度を付与することが可能となり、本発明の利点がより効果的に発揮されるために好ましい。
上記の溶射皮膜は、溶射原料である金属酸化物粒子の衝突エネルギーを低減させた状態で、かつ該金属酸化物の溶融粒子の温度を低く抑えた状態で、金属基材の表面に衝突させることで形成することが可能である。そのため、比較的厚みの薄い金属薄板を基材として用いた場合でも、基材を変形させることなく、好適に皮膜付金属部材を得ることができる。特に、厚みが5mm以下のアルミニウム系の基材とした場合であっても、好適に皮膜付金属部材を得ることができる。
予め粗面化された金属基材に対し、上記の溶射皮膜を溶射によって形成することにより、金属基材と溶射皮膜との密着性が十分に高められた皮膜付金属部材を得ることができる。例えば、例えば、金属基材に対する溶射皮膜の密着強度は、5MPa以上のものとして得ることができる。これにより、意匠性、機械的特性及びと膜密着性のいずれもが高いレベルで実現された皮膜付金属部材が実現される。
図1は、一実施形態に係る皮膜付金属部材の構成を模式的に示した断面図である。ここで開示される皮膜付金属部材100は、例えば図1に例示されるように、金属基材30の表面に、溶射皮膜1が備えられている。
金属基材30を構成する材料としては特に制限されず、各種の金属材料を用いることができる。例えば、各種SUS材等に代表される鉄鋼、インコネル等に代表される耐熱合金、インバー,コバール等に代表される低膨張合金、ハステロイ等に代表される耐食合金、軽量構造材等として有用な1000シリーズ〜7000シリーズアルミニウム合金等に代表されるアルミニウム合金等が例示される。本発明の溶射皮膜1は、溶射の際の溶融粒子の金属基材30への衝突時の衝撃と熱とを低減して形成し得るものである。したがって、なかでも、金属基材30としてアルミニウムまたはアルミニウム合金を用いた場合、とりわけアルミニウム合金の薄板を用いた場合に、本発明の皮膜付金属部材1の特長が明瞭となるために好ましい。かかるアルミニウム合金の薄板は、例えば、厚みが5mm以下であってよく、例えば、3mm以下、さらに限定的には1mm以下であり得る。以下、金属基材30としてアルミニウム合金の薄板を用いた場合を例にして説明を行う。
第1の溶射層10は、一般的な溶射皮膜に見られるように、主として扁平な溶射粒子12が堆積することで構成されている。また、第2の溶射層20は、一般的な溶射皮膜に見られるように、主として扁平な溶射粒子22が堆積することで構成されている。そして、この溶射粒子12,22の周縁には、気孔14,24が形成され得る。
溶射皮膜1における気孔14,24の存在は、皮膜1の機械的特性および密着性に大きな影響を与え得る。本発明の溶射皮膜1においては、第1の溶射層10の基材30の表面に垂直な断面における気孔率を20%以下に抑えることで、第1の溶射層10と基材30との熱膨張係数の差に起因する基材30の反りを抑えつつ、基材30に対する高い密着性を確保するようにしている。基材30の反りを抑えるには、第1の溶射層10の気孔率は2%以上とすることが好ましく、典型的には5%以上、例えば、10%以上とすることができる。しかしながら、気孔率が高すぎると密着性が低下したり、皮膜硬度が低下する虞があるために好ましくない。かかる点で、第1の溶射層10の気孔率は20%以下とする。気孔率は、典型的には18%以下であり、例えば、15%以下であり得る。
なお、溶射皮膜1に含まれる気孔14,24の形態は、溶射粒子12,22の堆積状態によるため、基材30に対して垂直な方向と、水平な方向とでその様子が異なる場合がある。第1の溶射層10に関する気孔率を基材30に垂直な断面において評価するのは、かかる断面にて評価される気孔率が第1の溶射層10の密着性と熱収縮特性とにより影響を与え得るとの知見に基づいている。
本明細書において、第1の溶射層10に関する平均気孔径とは、基材30の表面に垂直な断面における気孔14の所定の方向について測定された直径の平均値(定方向平均径)である。かかる平均気孔径は、上記の気孔率と同様に、基材30に略垂直な第1の溶射層10の断面組織の観察像を画像解析することで求められる。例えば、上記のとおり用意した観察像について2値化した気孔部に関し、所定の方向について気孔部分の寸法を測定し、平均することで求めることができる。なお、本明細書において、平均気孔径の測定は、上記の気孔率の測定と同様に、走査型電子顕微鏡(SEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−3000N)による観察像(好適には、二次電子像、組成像あるいはX線像のいずれかであり得る。)に基づき、画像解析ソフト(株式会社日本ローパー製、Image−Pro Plus)を用いて画像解析することで行っている。
かかる未溶融部分の占める割合は、例えば、第1の溶射層10の基材30に垂直な断面組織の観察像を画像解析ソフトを用いて解析することで把握することができる。すなわち、第1の溶射層10における溶射粒子12の溶融部分の面積と、未溶融部分の面積とを求め、これらから未溶融部分の占める割合を算出することができる。なお、溶射粒子12の溶融部分の面積および未溶融部分の面積は、例えば、第1の溶射層10の基材30に垂直な断面の組織を所定の倍率の顕微鏡で観察することで得られた観察像について、画像解析ソフトを用いて、溶融部分と未溶融部分とを分離する2値化を行い、それぞれの面積を算出することで得ることができる。なお、第1の溶射層10の溶射粒子12について溶融部分と未溶融部分とを分離するにあたっては、画像を目視したときに、元の溶射粉末の形状を残さずに扁平な形状を呈した部分を溶融部分と判断し、元の溶射粉末の中心部を残して粒子形状を維持した部分を未溶融部分と判断することができる。
このようにして求められる未溶融部分の占める割合は、おおよそ1%以上25%以下であるのが好ましい。
溶射皮膜1における気孔14,24の存在は、皮膜1の機械的特性および密着性に大きな影響を与え得る。本発明の溶射皮膜1においては、第2の溶射層20の表面の気孔率上記の範囲に限定することで、溶射粒子22同士の固着力を確保しつつ、高い表面意匠性を実現するようにしている。溶射皮膜1に上記の通りの優れた意匠性を備えるためには、第2の溶射層20の気孔率は5%以上とすることが必須であり、典型的には6%以上であるのが好ましく、例えば8%以上であり得る。しかしながら、高すぎる気孔率は第2の溶射層20の密着強度や皮膜強度を損ねてしまう。かかる点で、第2の溶射層20の気孔率は15%以下とする。気孔率は13%以下であるのが好ましく、例えば、11%以下であり得る。
なお、第2の溶射層20に関する気孔率をその表面において評価するのは、かかる表面にて評価される気孔率が溶射皮膜1の意匠性に大きな影響を与え得るとの知見に基づいている。
したがって、溶射粒子22の平均粒子径および第2の溶射層20の気孔率が上記の範囲にあることで、第2の溶射層20は金属酸化物の組成および光の散乱具合等に応じた色を呈し、その表面形態から陶磁器の素地等にみられる自然な風合いや肌合いを備えたものとなり得る。例えば、金属酸化物がアルミナの場合、第2の溶射層20はアルミナ粉末と同様の白色を呈し、白磁器の素地にみられる純白できめ細やかな肌合いを備えたものとなり得る。溶射粒子22の平均粒子径は、5μm以上であることが好ましく、例えば10μm以上であり得る。また溶射粒子22の平均粒子径は、25μm以下であることが好ましく、例えば20μm以下であり得る。このような第2の溶射層20は、例えば、平均粒子径が1μm以上20μm以下の溶射粉末を用いたプラズマ溶射により好適に形成することができる。
なお、平均粒子径とは、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置により測定された粒度分布における積算値50%での粒径(50%体積平均粒子径)を意味するものとする。本明細書中において、平均粒子径の測定には、株式会社堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒度測定器“LA−300”を使用した値を採用している。
第2の溶射層20における平均気孔径は、上記第1の溶射層10の場合と同様にして求めることができる。
このような光の反射、透過および散乱等の現象は、この溶射皮膜1に独特の輝きを与えるものとなり得る。これは、例えば表面にのみ備えられた艶出しのコーティング皮膜による反射等とは本質的に異なるものであって、深みのある艶と輝きを実現し得る。かかる艶および輝きを備えることにより、この溶射皮膜1は深みのある独特の艶感を有する極めて美麗な外観を備えたものとなり得る。例えば、金属酸化物がイットリア(Y2O3)やアルミナの場合、白磁のような完全な白色と深みのある艶感とを併せ持つ極めて美麗な外観を呈する。このような溶射皮膜1は、これまでに実現されていない、全く新しいコーティング皮膜であり得る。
なお、ここでいう光沢度は20°グロス値であり、JIS Z8741に準拠して測定することができる。測定に用いる光沢計は特に限定されず、従来公知の光沢計を用いればよい。例えば、コニカミノルタオプティクス社製の商品名「GM−268Plus」またはその類似品を用いて測定することができる。
また、この明細書における表面粗さRaは、従来公知の表面粗さ形状測定機(例えば東京精密社製「SURFCOM 1500DX」またはその類似品)を用いて測定することができる。測定は、例えば測定長さ10mm、測定速度0.3mm/秒の条件で行うことが好ましい。
なお、表1中の(*)印は、表面が研磨された形態の溶射皮膜に対してなされる評価である。また、かかる判定の基準は、評価の対象である溶射皮膜の用途や目的等に応じて、適宜変更することもできる。例えば、「色むら」や「輝きのむら」等は、意図しないむらについての判断を示しており、意匠性を高める目的で溶射皮膜に意図的に付与される「色むら」や「輝きのむら」については、かかる評価の対象に含まれない。
この密着性は、例えば、JIS H 8667:2002 サーメット溶射皮膜試験方法の解説「3.2密着性」に記載される評価方法に基づいて好ましく測定することができる。なお、本明細書においては、上記の解説「3.2密着性」に記載される評価方法におい
て、接着剤にはエポキシ樹脂を使用し、引張り速度は1mm/minで皮膜の破断荷重(N)を計測し、下記の式で算出した値を密着強度として採用した。
密着強度(MPa)=破断荷重(N)/接着面積(mm2)
本実施形態では、アルミニウム合金製の薄板基板上に、(1)アルミナ(Al2O3)粉末、(2)イットリア(Y2O3)粉末、(3)ムライト(Al6O13Si2)粉末をそれぞれプラズマ溶射法により溶射することで化粧塗装を行い、皮膜付金属部材を作製した。
金属基材としては、寸法が50mm×50mmで厚さが5mmのアルミニウム合金(A6061)の板材を用いた。溶射皮膜は、第1の溶射層と第2の溶射層とから構成される2層構造とし、第1の溶射層を形成するための溶射粉末として平均粒子径が25μmの(1)α−アルミナ粉末、(2)イットリア粉末、(3)ムライト粉末を、第2の溶射層を形成するための溶射粉末として平均粒子径が10μmの(1)α−アルミナ粉末、(2)イットリア粉末、(3)ムライト粉末をそれぞれ用いた。
なお、比較のために、従来の一般的な溶射条件で溶射皮膜を形成した。すなわち、上記の第1の溶射層用のα−アルミナ粉末のみを用い、溶射距離90mm、基材に対するプラズマ照射角度を90°とし、その他の条件は上記と同様にして、プラズマ溶射を行うことで、アルミニウム合金基材上に約200μmの厚さの溶射皮膜を形成した。これを比較の皮膜付金属部材とする。
上記のようにして得られた本発明の皮膜付金属部材1および2については、溶射皮膜が、アルミナまたはイットリアに由来した純白できめ細やかな肌合いを有しており、自然の温かみのある外観を呈していた。皮膜付金属部材3については、溶射皮膜がムライトに由来した薄茶色を呈しており、自然の温かみのある外観を実現していた。このムライトについては、原料に金属などの不純物を微量に含むものを用いたため、溶射皮膜は粉末材料の見た目の色(白色)にはならなかった。なお、具体的な例は示さないが、溶射粉末としてムライトを用いる場合、不純物の種類や量によって、溶射皮膜の色調を例えば灰色〜茶色等に調整して形成できることを確認している。また、アルミニウム合金基材に変形等は見られず、高品位な化粧塗装がなされていると判断された。すなわち、皮膜付金属部材1〜3の溶射皮膜のいずれもが、10人の評価者により、肌合い、外観、色の点で、「良い」と評価することができた。
(1)第1の溶射層について、金属基材に垂直な断面における平均気孔径および気孔率を調べた。
(2)第2の溶射層について、表面の平均気孔径および気孔率を調べた。
(3)第1の溶射層および第2の溶射層について、α−アルミナ相とγ−アルミナ相との合計に占めるα−アルミナ相の割合を調べた。かかる割合Pαは、第1の溶射層および第2の溶射層についてのX線回折分析(XRD)の結果から、α−アルミナの(113)面に帰属される回折ピーク(2θ=43°付近)の強度をIα、γ−アルミナの(400)面に帰属されるピーク(2θ=45°付近)の強度をIγとして、上記の式(1)および(2)により求めた。
(4)第1の溶射層および第2の溶射層について、基材に垂直な断面におけるビッカース硬さを微小硬さ試験機(株式会社島津製作所製、マイクロビッカース硬度計HMV−1)を用いて硬さ記号HV0.2(試験力1.961N)にて測定した。測定点は10カ所とした。
次に、上記で得られた本発明の皮膜付金属部材1〜3と比較の皮膜付金属部材の表面を研磨した。表面の研磨には、研磨粒子として平均粒子径1.3μmのアルミナ粒子を含む研磨スラリーを用いて表面粗さRaが300nm程度となるまで予備研磨を行ったのち、粒径が100nmのコロイダルシリカを含む研磨スラリーを用いて表面粗さRaを100nm以下とする鏡面研磨を行った。鏡面研磨の研磨条件は以下のとおりである。
研磨機:株式会社岡本工作機械製作所製、枚葉研磨機(PNX−322)
研磨荷重:15kPa
定盤回転数:30rpm
ヘッド回転数:30rpm
研磨時間:約20分
研磨スラリーの温度:20℃
研磨スラリーの供給速度:0.5リットル/分(掛け流し使用)
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、種々の改変が可能であることはいうまでもない。
10 第1の溶射層
12 溶射粒子
14 気孔
20 第2の溶射層
22 溶射粒子
24 気孔
30 金属基材
100,100a 皮膜付金属部材
Claims (20)
- 金属酸化物を主成分とする溶射粒子が金属基材上に堆積されてなる溶射皮膜であって、
該溶射皮膜は、前記基材に隣接する領域に第1の溶射層を備え、前記溶射皮膜の表面を含む領域に第2の溶射層を備えており、
前記第2の溶射層の表面の気孔率は5%以上15%以下である、溶射皮膜。 - 前記第1の溶射層の基材表面に垂直な断面における気孔率は2%以上20%以下である、請求項1に記載の溶射皮膜。
- 前記第2の溶射層の前記表面に露出する溶射粒子の平均粒子径が1μm以上30μm以下である、請求項1または2に記載の溶射皮膜。
- 前記第1の溶射層の前記金属基材の表面に垂直な断面における平均気孔径は1μm以上15μm以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶射皮膜。
- 前記第2の溶射層の前記金属基材の表面に平行な断面における平均気孔径は1μm以上20μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の溶射皮膜。
- 前記第1の溶射層の厚みは20μm以上400μm以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の溶射皮膜。
- 前記第2の溶射層の厚みは10μm以上400μm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の溶射皮膜。
- 前記第2の溶射層の表面は研磨されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の溶射皮膜。
- 前記第2の溶射層の表面粗さRaは100nm以下である、請求項8に記載の溶射皮膜。
- 前記表面の光沢度は75以上である、請求項8または9に記載の溶射皮膜。
- 前記金属酸化物が酸化アルミニウムである、請求項1〜10のいずれか1項に記載の溶射皮膜。
- 前記第1の溶射層において、
第1の溶射層のX線回折分析における、α−アルミナの(113)面からの回折強度をIα、γ−アルミナの(400)面からの回折強度をIγとしたとき、次式(1):
Pα1(%)= Iα/(Iα+Iγ)×100 ・・・(1)
により定義されるα−アルミナ相率Pα1が8%以上25%以下である、請求項11に記載の溶射皮膜。 - 前記第2の溶射層において、
第2の溶射層のX線回折分析における、α−アルミナの(113)面からの回折強度をIα、γ−アルミナの(400)面からの回折強度をIγとしたとき、次式(2):
Pα2(%)= Iα/(Iα+Iγ)×100 ・・・(2)
により定義されるα−アルミナ相率Pα2が7%以下である、請求項11または12に記載の溶射皮膜。 - 金属基材の表面に請求項1〜13のいずれか1項に記載の溶射皮膜が備えられている、皮膜付金属部材。
- 前記金属基材はアルミニウムまたはその合金である、請求項14に記載の皮膜付金属部材。
- 前記金属基材は厚みが5mm以下である、請求項14または15に記載の皮膜付金属部材。
- 前記金属基材は粗面化されており、前記金属基材と前記溶射皮膜とは機械的構造により一体化されている、請求項14〜16のいずれか1項に記載の皮膜付金属部材。
- 前記金属基材に対する前記溶射皮膜の密着強度は、5MPa以上である、請求項14〜17のいずれか1項に記載の皮膜付金属部材。
- 電化製品の外装材である、請求項14〜18のいずれか1項に記載の皮膜付金属部材。
- 請求項14〜19のいずれか1項に記載の皮膜付金属部材を少なくとも外装材の一部として備える、物品。
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