JP2014147900A - 多孔質膜の製造方法および製造装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】親水性ポリマーと疎水性ポリマーとを含む製膜原液の凝固により形成された中空糸膜前駆体(多孔質膜前駆体)30を加熱容器11に導入して走行させ、加熱する際に、加熱容器11内に設けられた駆動ロール14a,14eを有する走行手段により、中空糸膜前駆体30を加熱容器11内で走行させ、その際、駆動ロール14a,14eのうち、最も上流側に配置された駆動ロール14aよりもさらに上流側を走行する中空糸膜前駆体30に加わる張力を張力検出手段40で検出する。検出された検出結果に応じて、最も上流側に配置された駆動ロール14aの回転速度を制御手段50により制御する。
【選択図】図1
Description
そこで、次亜塩素酸塩などの酸化剤を含む薬液に製膜工程後の中空糸膜前駆体を浸漬し、中空糸膜前駆体に薬液を保持させた後、薬液を保持した中空糸膜前駆体を加熱し、中空糸膜前駆体中に残存する親水性ポリマーを分解することが知られている(例えば、特許文献1および2参照。)。薬液を保持した中空糸膜前駆体を加熱する方法としては、ガイドロールを用いて中空糸膜前駆体を高温に保持された加熱容器の内部に導入し、走行させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
[1]親水性ポリマーと疎水性ポリマーとを含む製膜原液の凝固により形成された多孔質膜前駆体を加熱容器に導入して走行させ、前記多孔質膜前駆体を加熱する加熱工程を有する多孔質膜の製造方法であって、
前記加熱工程では、前記加熱容器内に設けられた少なくとも1つの駆動ロールを有する走行手段により、前記多孔質膜前駆体を前記加熱容器内で走行させ、
前記駆動ロールのうち、最も上流側に配置された駆動ロールよりもさらに上流側を走行する前記多孔質膜前駆体に加わる張力を検出し、検出された検出結果に応じて、最も上流側に配置された前記駆動ロールの回転速度を制御する、多孔質膜の製造方法。
[2]親水性ポリマーと疎水性ポリマーとを含む製膜原液の凝固により形成された多孔質膜前駆体を加熱する加熱装置を有する多孔質膜の製造装置であって、
前記加熱装置は、
前記多孔質膜前駆体が導入されて走行する加熱容器と、
前記加熱容器内に設けられた少なくとも1つの駆動ロールを有し、前記多孔質膜前駆体を前記加熱容器内で走行させる走行手段と、
前記駆動ロールのうち、最も上流側に配置された駆動ロールよりもさらに上流側を走行する前記多孔質膜前駆体に加わる張力を検出する張力検出手段と、
該張力検出手段により検出された検出結果に応じて、最も上流側に配置された前記駆動ロールの回転速度を制御する制御手段と、
を有する、多孔質膜の製造装置。
[3]前記加熱装置は、
常圧の飽和水蒸気を前記加熱容器内に供給することにより、前記加熱容器内を加熱する水蒸気供給手段と、
前記飽和水蒸気を前記加熱容器から排出する水蒸気排出手段と、
をさらに有し、
前記水蒸気供給手段は、前記加熱容器の上部から前記飽和水蒸気を供給し、
前記水蒸気排出手段は、前記加熱容器の下部から前記飽和水蒸気を排出する、[2]に記載の多孔質膜の製造装置。
[4]前記加熱容器には、前記多孔質膜前駆体が導入される入口部と導出される出口部とが形成され、
前記入口部と出口部は、前記加熱容器の下部に形成されている、[3]に記載の多孔質膜の製造装置。
第1実施形態例では、加熱工程の一例として、加熱容器内に導入され走行する多孔質膜前駆体に対して、酸化剤を含む加熱した薬液を接触させることで、多孔質膜前駆体中に残存する親水性ポリマーを酸化剤により分解する工程を示して、本発明を詳細に説明する。また、多孔質膜の一例として中空糸膜を例示して、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書では、加熱工程後の洗浄工程が終了したものを中空糸膜(多孔質膜)と言い、洗浄工程が終了する前の段階のものを中空糸膜前駆体(多孔質膜前駆体)と言う。
第1実施形態例の製造方法および製造装置について、順次説明する。
[製膜工程]
製膜工程は、中空糸膜前駆体を形成する工程である。
製膜工程では、まず、疎水性ポリマーと親水性ポリマーとを含む製膜原液を調製する。ついで、この製膜原液を環状の吐出口が形成されたノズルから凝固液中に吐出し、凝固液中で凝固させる製膜工程により、中空糸膜前駆体を形成する。
製膜工程は、製膜原液が空気と接触する空走部を経て、凝固液中へ導入される乾湿式紡糸法でも、直接凝固液に導かれる湿式紡糸法のいずれにより行ってもよい。また、ここで製造する中空糸膜前駆体の構成には特に制限はなく、例えば多孔質基材を備えたものでも、多層構造であって、取扱時の擦れ等に対して耐久性のあるものでもよい。
また、親水性ポリマーには、2種以上の樹脂を混合して使用することもできる。例えば親水性ポリマーとして、より高分子量のものを用いると、膜構造の良好な中空糸膜を形成しやすい傾向がある。一方、低分子量の親水性ポリマーは、後述の親水性ポリマー除去工程において中空糸膜前駆体からより除去されやすい点で好適である。よって、目的に応じて、分子量が異なる同種の親水性ポリマーを適宜ブレンドして用いてもよい。
一方、親水性ポリマーの濃度の下限は、中空糸膜前駆体をより形成しやすいものとするために1質量%が好ましく、5質量%がより好ましい。親水性ポリマーの濃度の上限は、製膜原液の取扱性の点から20質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。
加熱工程では、製膜工程で形成された中空糸膜前駆体を加熱された加熱容器に導入して走行させることにより、中空糸膜前駆体を加熱する。
この例では、加熱容器内を走行する中空糸膜前駆体に、酸化剤を含む薬液を加熱容器内において接触させ、薬液を保持した中空糸膜前駆体を加熱容器で加熱する形態を示す。酸化剤の作用により、中空糸膜前駆体中に残存する親水性ポリマーが分解される。
図1の加熱装置10は、1つの加熱容器11と、高温の常圧の飽和水蒸気を加熱容器11内に供給することにより、加熱容器11内を加熱する加熱手段としての水蒸気供給手段12と、飽和水蒸気を加熱容器11から排出させる水蒸気排出手段21とを備えている。また、該加熱装置10は、中空糸膜前駆体30を加熱容器11内で走行させる走行手段として、加熱容器11内に設けられた導入ロール13および8本の走行ロール14a〜14hを備えている。また、該加熱装置10は、加熱容器11内を走行する中空糸膜前駆体30に対して薬液を接触させる薬液接触手段15を備えている。
加熱容器11には、中空糸膜前駆体30が加熱容器11に導入される入口部23が設けられている。入口部23は、この例では、加熱容器11の下部の側壁部11aに形成された開口部である。また、加熱容器11には、中空糸膜前駆体30が加熱容器11から導出される出口部が形成されている。この例では、上述の水蒸気排出手段21が出口部を兼ねており、出口部は、加熱容器11の下部の側壁部11aに形成された開口部である。
なお、液体置換手段により水封部16,17に導入される新しい液体とは、使用履歴のない新しい水が好ましいが、例えば、水封部16,17から抜き出された液体を新しい水で希釈したものなどであってもよい。また、水封部16,17には、液体を新しい水で希釈しつつ循環供給してもよい。
また、走行ロール14a〜14hは、導入ロール13よりも軸方向の長さが大きく形成されている。これにより、詳しくは後述するが、導入ロール13により導入された中空糸膜前駆体30は、走行ロール14a〜14hの図中手前側から後方側、あるいは、後方側から手前側(すなわち、上流側から下流側。)に向けて複数回巻き付きながら、走行できるようになっている。
また、この際、中空糸膜前駆体30の入口部23と出口部とが、水蒸気排出手段21と同様に加熱容器11の下部に設けられていると、飽和水蒸気の上から下への流れが安定に形成されやすく、エネルギーロスを低減することができる。さらに、この例のように、中空糸膜前駆体30の出口部が水蒸気排出手段21を兼ねた形態であると、一層エネルギーロスを低減できる。
このように走行ロール14a〜14hのうちの一部が駆動ロールであると、中空糸膜前駆体30の膜の潰れを抑制できる。
すなわち、全ての走行ロールが仮にフリーロールであると、フリーロールの回転抵抗が、フリーロールの数だけ中空糸膜前駆体に付与されて、中空糸膜前駆体の膜張力の増加につながる。一方、一部が駆動ロールであると、該駆動ロールにおいて、それよりも上流側のフリーロールの回転抵抗により中空糸膜前駆体に付与された膜張力を解消でき、それにより、膜張力に起因する中空糸膜前駆体の膜の潰れを抑制できる。
このように第1の駆動ロール14aよりも上流側を走行する中空糸膜前駆体30に加わる張力を検出し、検出結果を第1の駆動ロール14aと第2の駆動ロール14eの回転速度の制御にフィードバックすることにより、加熱工程において中空糸膜前駆体30に加わる張力を適切に制御し、張力が大きい場合や小さい場合に生じる不都合を回避できる。
薬液槽15a,15bからの排出液は、加熱容器11の底部を流れ、飽和水蒸気の凝縮水とともにドレイン18a,18bから排出される。
第1の実施形態例の加熱工程では、まず、水蒸気供給手段12により加熱容器11内に高温の常圧の飽和水蒸気を連続的に供給し、加熱容器11内を飽和水蒸気で満たして加熱する。ここで加熱容器11内の温度は、理想的には、常圧の飽和水蒸気温度である約100℃であるが、それよりも低温であってもよい。一方、加熱容器11内に配置された各薬液槽15a,15bには、供給ポンプ19a,19bにより、薬液供給源15c,15dから薬液を供給する。ここで、加熱容器11外における、供給ポンプ19aと第1薬液槽15aの間、および、供給ポンプ19bと第2薬液槽15bの間には、図示略のヒータを設けて、薬液を加熱容器11外で加熱してから、各薬液槽15a,15bに供給するようにしてもよい。
より上流側のゾーンでは、親水性ポリマーがより多く残存している中空糸膜前駆体30が薬液に接触し、その際、中空糸膜前駆体30からは、親水性ポリマーの一部が該ゾーン内の薬液中に移行し、移行した親水性ポリマーの分解が該ゾーンの薬液中で進行する。その結果、該ゾーン中の薬液の酸化剤は、移行してきた親水性ポリマーの分解に消費され、その濃度は低下する。そして、カスケード式である第1薬液槽では、このように酸化剤の濃度が低下した薬液がそれもより下流側のゾーンに供給される。
このように第1薬液槽においては、中空糸膜前駆体30に薬液をk1回接触させる際において、1回目の接触時からk1回目の接触時にかけて、使用する薬液中の酸化剤の濃度が徐々に低下するようになっている。
下流側のゾーンの薬液と接触する中空糸膜前駆体30は、上流側において親水性ポリマーの一部がすでに分解されたものであるため、親水性ポリマーの残存量が低く、高濃度で酸化剤を含む薬液を使用する必要はない。
よって、このようにカスケード式の第1の薬液槽を採用し、1回目の接触時からk1回目の接触時にかけて、使用する薬液中の酸化剤の濃度を低下させることによって、酸化剤を無駄なく使用でき、その使用量を削減できる。
また、第1薬液槽におけるゾーンの数は、この例では、中空糸膜前駆体30が第1薬液槽内の薬液に接触する回数と同じk1とされ、1つのゾーンにおいて1回ずつ接触が行われる態様となっているが、第1薬液槽におけるゾーンの数をk1未満として、1つのゾーンの薬液に中空糸膜前駆体30が複数回接触する態様であってもよい。
また、このように酸化剤の濃度を低下させる形態として、ここではカスケード式の薬液槽を例示して説明したが、酸化剤の濃度を低下させ得る限り、カスケード式の薬液槽を採用する形態に限定されない。
なお、図4では、ガイドバー70,70を走行ロール14aに取り付ける形態を例示したが、必要に応じて、走行ロール14a〜14hのうちの少なくとも1つに設けることができる。また、規制溝も、必要に応じて、走行ロール14a〜14hのうちの少なくとも1つに設けることができる。ガイドバーと規制溝は、1つの走行ロールに対して併用してもよい。
また、薬液槽15a,15b内が立板により複数のゾーンに区切られている場合、薬液槽15a,15bに対応して設置された走行ロール14a,14eの表面には、該表面と立板とが接触しないように、立板に対応する位置に溝を形成することが好ましい。また、走行ロール14a,14eそれぞれを、薬液槽15a,15bのゾーン毎に対応する独立したロールにより構成することがさらに好ましい。
ここで第3対ロールの下ロール14eには、図3では図示略の第2薬液槽が配置されているため、中空糸膜前駆体30が第3対ロールの下ロール14eを通過する毎に、中空糸膜前駆体30には飽和水蒸気により加熱された薬液が接触し、中空糸膜前駆体30中に浸透する。そして、第2薬液槽も、中空糸膜前駆体30が下ロール14eに巻きついて第2薬液槽中の薬液に接触する回数と同じk2のゾーンに図示略の立板で分割されているとともに、酸化剤の濃度が低下した薬液が、槽内の上流側のゾーンから下流側のゾーンに順次供給されるカスケード式である。そして、中空糸膜前駆体30は、第3対ロールの下ロール14eを1回目に通過する際には、第2薬液槽のゾーンのうち、最も上流側のゾーンの薬液に接触し、2回目に通過する際には、第2薬液槽のゾーンのうち、2番目に上流側のゾーンの薬液に接触する。このように第2薬液槽においても、中空糸膜前駆体30は、下ロール14eを通過する毎に、より下流側のゾーンの薬液に接触していく。
よって、第2薬液槽においても、中空糸膜前駆体30に薬液をk2回接触させる際において、1回目の接触時からk2回目の接触時にかけて、使用する薬液中の酸化剤の濃度は徐々に低下するようになっている。
また、第1薬液槽と第2薬液槽とのそれぞれにおいて、薬液中の酸化剤の濃度が上流側から下流側に向けて低下している場合、第1薬液槽におけるk1回目の接触時の薬液よりも、第2薬液槽における1回目の接触時の薬液の方が、酸化剤の濃度が低くなるように設定されていてもよいし、設定されていなくてもよい。すなわち、薬液への全k(=k1+k2)回の接触において、1回目の接触時からk回目の接触時にかけて、使用する薬液中の酸化剤の濃度が必ずしも徐々に低下していなくてもよい。
第1対ロールにおいては、このような薬液の接触、浸透と、親水性ポリマーの分解とが複数回交互に繰り返される。第2対ロールでは、中空糸膜前駆体30が保温され、親水性ポリマーの分解が進行する。ついで、第3対ロールにおいては、第1対ロールの場合と同様に、薬液の接触、浸透と、親水性ポリマーの分解とが複数回交互に繰り返され、第4対ロールでは、中空糸膜前駆体30が保温され、親水性ポリマーの分解が進行する。
また、カスケード式である第1薬液槽15aおよび第2薬液槽15b内での酸化剤の濃度勾配や流量は特に制限されず、中空糸膜前駆体30中の親水性ポリマーの残存状態や、酸化剤の使用効率の観点から適宜設定すればよい。
なお、この例では、張力検出手段40としてダンサーロール41を備えた形態を例示したが、張力を検出できる手段であれば、この形態には限定されない。
また、加熱容器11内に走行手段として設けられる駆動ロールの数は、この例では2つとしたが、1つでも、3つ以上の複数個でもよい。1つの場合には、制御手段は、その1つの駆動ロールの回転速度を制御する。
また、この例では、中空糸膜前駆体30の入口部23と出口部とが、水蒸気排出手段21と同様に加熱容器11の下部に設けられ、さらに、中空糸膜前駆体30の出口部が水蒸気排出手段21を兼ねた形態であるため、一層エネルギーロスを低減できる。
また、この例では、1つの加熱容器11内で薬液を加熱するだけでなく、薬液の接触前の中空糸膜前駆体30を予め加熱し、かつ、薬液が接触した後の中空糸膜前駆体30を高温に保温することもできるため、中空糸膜前駆体30への薬液の浸透速度をより向上させ、かつ、中空糸膜前駆体30に残存する親水性ポリマーの分解速度をより高めることができる。仮に、薬液の接触、中空糸膜前駆体の保温をそれぞれ別々の容器で行うと、各容器間で中空糸膜前駆体が一旦冷却され、親水性ポリマーの分解速度が低くなるおそれがある。
また、このように噴霧部を備えたスプレー手段などの薬液接触手段と薬液供給源15c,15dとを接続する配管のうち、加熱容器11内に導入されている部分の少なくとも一部に、薬液と加熱容器11内の気体との熱交換により薬液が加熱される図示略の熱交換部を設けてもよい。具体的には、例えばポリテトラフルオロエチレンなどからなる表面積(伝熱面積)の大きなコイルチューブ配管などで熱交換部を構成することが好適である。これにより、薬液供給源15c,15dからの薬液が中空糸膜前駆体30に噴霧される前に、表面積の大きなコイルチューブ配管内を流れることで効率的に加熱される。なお、熱交換部は、コイルチューブから構成されるコイルチューブ式の他、プレート式、多管式などでもよい。
なお、薬液接触手段としては、異なる形態の手段を併用して、加熱容器内のある箇所ではスプレー手段を採用し、他の箇所では薬液槽を採用した形態などであってもよい。
スプレー手段の設置箇所には特に制限はないが、上ロール14b上を通過する中空糸膜前駆体30に薬液が噴霧されるような位置への設置が好ましい。これにより、噴霧された薬液の大部分が中空糸膜前駆体30に接触し、薬液を無駄にすることなく効率的な接触を行える。
また、より効率的に薬液を中空糸膜前駆体30に接触させるために、薬液を中空糸膜前駆体30上に滴下する方法を採用することもできる。
また、薬液接触手段には、中空糸膜前駆体が通過する通過路と、中空糸膜前駆体の通過方向と交差する角度(例えば90度。)で設けられた薬液供給路とを備えたガイド型の薬液付与手段を用いることもできる。このガイド型の薬液付与手段の通過路に中空糸膜前駆体を通過させ、その際に薬液供給路から薬液を供給することにより、中空糸膜前駆体の周面側に薬液を効果的に付着させることができる。このような薬液付与手段としては、例えば、市販されているオイリングガイド(湯浅糸道工業(株)製)などを転用することもできる。
加熱工程後には、中空糸膜前駆体を洗浄液に浸漬して洗浄する洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄工程で使用する洗浄液としては、清澄で、親水性ポリマーの分解物が分散または溶解する液体であれば特に限定されるものではないが、洗浄効果が高いことから水が好ましい。使用する水としては、水道水、工業用水、河川水、井戸水等が挙げられ、これらにアルコール、無機塩類、酸化剤、界面活性剤等を混合して使用してもよい。また、洗浄液としては、疎水性ポリマーの良溶媒と水との混合液を用いることもできる。
洗浄温度は、親水性ポリマーの溶液の粘度を低く抑えて、拡散移動速度の低下を防ぐため、高い方が好適であり、50℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上である。さらに、洗浄液を沸騰させながら洗浄を行うと、沸騰によるバブリングによって中空糸膜前駆体の外表面に付着した親水性ポリマーや汚れを掻き取ることもできるため、効率のよい洗浄が可能となる。このような洗浄工程により、中空糸膜が得られる。
洗浄工程後には、中空糸膜を乾燥する乾燥工程を行う。乾燥工程の方法としては特に制限はなく、中空糸膜を熱風乾燥機などの乾燥装置に導入する方法で行えばよい。
製膜工程と加熱工程との間には、製膜工程で得られた中空糸膜前駆体を洗浄液に浸漬して洗浄する予備洗浄工程を行ってもよい。洗浄液としては、洗浄工程で例示したもののなかから選択できる。
また、以上の説明においては、多孔質膜として中空糸膜を例示して、その製造方法および製造装置を説明したが、多孔質膜は中空糸膜に限定されず、例えば、平膜、管型膜なども例示することができる。
上述の第1実施形態例では、加熱工程として、製膜工程で得られた中空糸膜前駆体30を1つの加熱容器11内において、加熱するだけでなく、該中空糸膜前駆体30に酸化剤を含む薬液を接触させることにより、親水性ポリマーを分解する工程を採用した。しかしながら、加熱工程の前に薬液処理工程を別途設け、加熱工程に用いる加熱装置とは異なる装置(薬液処理装置)により、薬液処理工程を行ってもよい。
薬液処理装置60は、薬液が入れられた処理槽61と、中空糸膜前駆体30が薬液に複数回浸漬されるように中空糸膜前駆体30をガイドするガイド手段62と、ガイド手段62を支持する支持部材63と、処理槽61の内部に設けられた冷却器64と、薬液を処理槽61に供給する薬液供給管65と、処理槽61から薬液を排出する薬液排出管66とを備える。
また、処理槽61は、耐食性を有する材質とされ、なかでも、チタンが好ましい。処理槽61がチタン製であれば、腐食防止効果が高く、錆の発生を抑制できるため、処理槽61の劣化を抑制でき、また、錆の接触による中空糸膜前駆体30の傷付きを防止できる。
ガイド手段62では、下部ガイドロール62aと上部ガイドロール62bとに、中空糸膜前駆体30を交互に掛け回して移送方向を反転させることによって、中空糸膜前駆体30を鉛直方向に往復させながら移送させて、中空糸膜前駆体30の薬液への浸漬と中空糸膜前駆体の薬液からの引き上げとを繰り返すようになっている。これにより、中空糸膜前駆体を薬液に複数回浸漬できるようになっている。
そして、この際、加熱装置10においては、第1実施形態例の場合と同様に、張力検出手段40により、加熱容器11の上流側の外部において、加熱容器11に導入される前の中空糸膜前駆体30に加わる張力を検出し、その検出結果に応じて、制御手段50が第1の駆動ロール14aと必要に応じて第2の駆動ロール14eの回転速度を制御する。このように張力検出手段40による検出結果を少なくとも第1の駆動ロール14aの回転速度の制御にフィードバックすることにより、中空糸膜前駆体30に加わる張力を適切に制御し、中空糸膜前駆体30の異形化や工程トラブルを防止できる。
<実施例>
[製膜工程]
ポリフッ化ビニリデンA(アトフィナジャパン製、商品名カイナー301F)、ポリフッ化ビニリデンB(アトフィナジャパン製、商品名カイナー9000LD)、ポリビニルピロリドン(ISP社製、商品名K−90)、N,N−ジメチルアセトアミドを混合し、これら含有成分比が異なる製膜原液(1)および製膜原液(2)を調製した。
ついで、中心に中空部が形成され、その外側に、2種の液を順次塗布できるように環状の吐出口が二重に順次形成されたノズル(特開2005−42074号公報の図1参照。)を用意し、これを30℃に保温した状態で、中空部には多孔質基材としてポリエステル製マルチフィラメント単繊組紐(マルチフィラメント;420T/180F)を導入するとともに、その外周に製膜原液(2)、製膜原液(1)を内側から順次塗布し、80℃に保温した凝固液(N,N−ジメチルアセトアミド5質量部と水95質量部との混合液)中で凝固させた。このようにして、外表面近傍に分画層を1層有し、内部に向かって孔径が増大する傾斜構造の多孔質層が組紐にコーティングされた中空糸膜前駆体を得た。なお、塗布された製膜原液(1)および(2)のうち、中空糸膜の膜構造を形成する主原液は、外側に塗布された製膜原液(1)である。
さらに、この中空糸膜前駆体の外径よりも大きい内径の中空部が中心に形成され、その外側に、2種の液を順次塗布できるように環状の吐出口が二重に順次形成されたノズル(特開2005−42074号公報の図1参照。)を用意し、これを30℃に保温した状態で、中空部には上述のようにして得られた中空糸膜前駆体を導入するとともに、その外周にグリセリン(和光純薬工業製一級)、製膜原液(1)を内側から順次塗布し、先に使用したものと同じ80℃に保温された凝固液中で凝固させた。このようにしてさらに多孔質層がコーティングされた2層構造で組紐支持体を有する中空糸膜前駆体を得た。
ついで、該中空糸膜前駆体を100℃の水で5分間予備洗浄した。
このときの紡糸速度(中空糸膜前駆体の走行速度)は20m/minとした。
図1に示す加熱装置10を用いて加熱工程を行った。具体的には、図1に示す構成の加熱容器11に中空糸膜前駆体30を入口部23から連続的に導入し、走行させ、常圧の飽和水蒸気による加熱下で加熱工程(分解工程)を行った。駆動ロールは、第1の駆動ロール14aと第2の駆動ロール14eとの2つであり、駆動機構には、第1の駆動ロール14a、第2の駆動ロール14eそれぞれに、ACサーボモータ22a,22bを用いた。そして、加熱容器11の上流側において、ダンサーロール41を備えた張力検出手段40により、その部分の中空糸膜前駆体30に加わる張力を検出し、この検出結果に応じて、制御手段50によりACサーボモータ22a,22bを制御し、第1の駆動ロール14aと第2の駆動ロール14eの回転速度を調整した。なお、中空糸膜前駆体30に付与する張力の初期値(設定値)は、ダンサーロール41の質量を変えることにより、あらかじめ調整している。
また、図1に記載のとおり、水蒸気供給手段12は、加熱容器11の上部から飽和水蒸気を供給し、水蒸気排出手段21は、加熱容器11の下部から飽和水蒸気を排出するように装置を構成した。また、中空糸膜前駆体30が導入される入口部23と導出される出口部は、いずれも加熱容器11の下部に形成し、水蒸気排出手段21が出口部を兼ねるようにした。
第1薬液槽15aおよび第2薬液槽15bそれぞれにおいて、中空糸膜前駆体30は次亜塩素酸ナトリウム(酸化剤)水溶液を10回ピックアップする条件とした。
第1薬液槽15aおよび第2薬液槽15bそれぞれに供給する次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、濃度:120000mg/L、供給量:50ml/minとし、各槽15a、15bに供給された次亜塩素酸ナトリウム水溶液は、直ちに100℃に加熱された。
特開2008−161755号公報の実施例4に記載された減圧工程−洗浄液供給工程−減圧工程により構成された洗浄工程により、中空糸膜前駆体30の中に残存している洗浄可能な親水性ポリマーを洗浄除去し、中空糸膜を得た。
ついで、中空糸膜を熱風乾燥機に導入して乾燥した。
また、加熱容器11内において、高さの異なる3カ所(上段部、中段部、下段部)に熱電対をそれぞれ設置し、加熱工程の気相温度を測定したところ、上段部は100℃、中段部は99.5℃、下段部は99.5℃に維持され、加熱容器11の上下方向において、温度ムラは認められなかった。
なお、加熱容器11の内部の底部から天部(屋根)までの高さは140cmであり、上段部は底部から100cmの高さの位置、中段部は底部から65cmの高さの位置、下段部は底部から25cmの高さの位置とした。
第1の駆動ロールおよび第2の駆動ロールの駆動機構を制御する制御手段として、張力検出手段の検出結果がフィードバックされないものを用いた以外は、実施例と同様にして中空糸膜を製造した。
得られた中空糸膜を長手方向と垂直に切断した切断面を電子顕微鏡で観察したところ、断面は扁平化していた。
11 加熱容器
12 水蒸気供給手段
14a 第1の駆動ロール
14e 第2の駆動ロール
21 水蒸気排出手段(出口部)
23 入口部
30 中空糸膜前駆体(多孔質膜前駆体)
40 張力検出手段
50 制御手段
Claims (4)
- 親水性ポリマーと疎水性ポリマーとを含む製膜原液の凝固により形成された多孔質膜前駆体を加熱容器に導入して走行させ、前記多孔質膜前駆体を加熱する加熱工程を有する多孔質膜の製造方法であって、
前記加熱工程では、前記加熱容器内に設けられた少なくとも1つの駆動ロールを有する走行手段により、前記多孔質膜前駆体を前記加熱容器内で走行させ、
前記駆動ロールのうち、最も上流側に配置された駆動ロールよりもさらに上流側を走行する前記多孔質膜前駆体に加わる張力を検出し、検出された検出結果に応じて、最も上流側に配置された前記駆動ロールの回転速度を制御する、多孔質膜の製造方法。 - 親水性ポリマーと疎水性ポリマーとを含む製膜原液の凝固により形成された多孔質膜前駆体を加熱する加熱装置を有する多孔質膜の製造装置であって、
前記加熱装置は、
前記多孔質膜前駆体が導入されて走行する加熱容器と、
前記加熱容器内に設けられた少なくとも1つの駆動ロールを有し、前記多孔質膜前駆体を前記加熱容器内で走行させる走行手段と、
前記駆動ロールのうち、最も上流側に配置された駆動ロールよりもさらに上流側を走行する前記多孔質膜前駆体に加わる張力を検出する張力検出手段と、
該張力検出手段により検出された検出結果に応じて、最も上流側に配置された前記駆動ロールの回転速度を制御する制御手段と、
を有する、多孔質膜の製造装置。 - 前記加熱装置は、
常圧の飽和水蒸気を前記加熱容器内に供給することにより、前記加熱容器内を加熱する水蒸気供給手段と、
前記飽和水蒸気を前記加熱容器から排出する水蒸気排出手段と、
をさらに有し、
前記水蒸気供給手段は、前記加熱容器の上部から前記飽和水蒸気を供給し、
前記水蒸気排出手段は、前記加熱容器の下部から前記飽和水蒸気を排出する、請求項2に記載の多孔質膜の製造装置。 - 前記加熱容器には、前記多孔質膜前駆体が導入される入口部と導出される出口部とが形成され、
前記入口部と出口部は、前記加熱容器の下部に形成されている、請求項3に記載の多孔質膜の製造装置。
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