JP2014141365A - 水溶性カドミウムの溶出が抑制された水溶性リン酸含有肥料 - Google Patents

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Abstract

【課題】水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保されている肥料の提供。
【解決手段】水溶性カドミウムは、肥料自体に含まれていることもあり、水と接触した過リン酸石灰からは水溶性カドミウムが溶出する。水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料について、水酸アパタイトの使用とpH制御によって、水溶性カドミウムの溶出を抑制しながら水溶性リン酸の溶出を確保できること見いだした。水溶性カドミウムを含む固体の水溶性リン酸含有肥料に、水酸アパタイトを配合し、必要に応じてアルカリを配合されてることで、水に溶出させたときにpH4〜6の範囲内にあるものとした。pH4〜6となることで、水溶性リン酸が溶出される一方、水溶性カドミウムが水酸アパタイトに吸着される。したがって、栽培土や栽培水に施用したときに、水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保される。
【選択図】図16

Description

本発明は、水溶性カドミウムの溶出が抑制された水溶性リン酸含有肥料に関する。さらに詳述すると、本発明は、過リン酸石灰等の水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料を原料とする、水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出は確保されている改良肥料に関する。また、過リン酸石灰等の水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出抑制方法に関する。
1970年に発生した「イタイイタイ病」を契機に、農用地土壌汚染法が制定され、食用に供する農作物に対するカドミウム(Cd)の基準値が定められた。また、近年、健康や食品に対する関心の高まりから、国際的にもカドミウム汚染防止対策が厳しく求められるようになってきている。
かかる状況下、農作物のカドミウム汚染防止対策に関する技術がいくつか提案されている。例えば、特許文献1では、少なくとも一種の肥料に対し、アルギン酸又はその塩が、アルギン酸として1〜15重量%含有されるようにし、転動造粒などの方法で0.5〜10mmとした粒状肥料を土壌に撒布することが提案されている。これにより、土壌中の水溶性カドミウムを不溶化して植物のカドミウム吸収を抑制し、農作物のカドミウム汚染を低減するようにしている。
また、特許文献2では、土壌に石灰系資材と石膏系資材を併せて施用することが提案されている。詳細には、土壌に石灰系資材を施用することによって、土壌の水素イオン濃度(pH)を一定値以上のアルカリ条件に保つことで、水溶性カドミウムを不溶性として水溶性カドミウムの溶出を制限し、水稲のカドミウム吸収を抑制するようにしている。また、土壌に石膏系資材を施用することによって、その硫黄成分が土壌の湛水による還元に伴い水溶性カドミウムの不溶化を促進し、収穫までの過程における水稲のカドミウム吸収を抑制して、水稲のカドミウム汚染を低減すると共に、水稲の生育促進を図るようにしている。
特開2005−231950号 特開2006−43号
ところで、水溶性カドミウムは、肥料自体に含まれていることもある。例えば、過リン酸石灰は、リン鉱石に硫酸を作用させて製造されるものであるが、このリン鉱石には不純物としてカドミウムが含まれている。したがって、水と接触した過リン酸石灰からは水溶性カドミウムが溶出する。
ここで、過リン酸石灰のカドミウム含有量の基準値については、肥料取締法により規定されているが、カドミウムの溶出量の基準値は規定されていない。一方で、汚泥肥料に関しては、肥料取締法により、原材料として用いる汚泥について、金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める内閣府令(昭和48年総理府令第5号)の別表第一の基準において、カドミウムで溶出量0.3mg/Lであることが規定されている。
過リン酸石灰の中には、汚泥肥料のカドミウム溶出量の規定に近い溶出量を示すものもある。また、過リン酸石灰は家庭用園芸肥料としても販売されており、園芸作業において一般人が直接手で触れる可能性もある。肥料を扱う作業者の安全性に鑑みれば、水に接触した際に水溶性カドミウム溶出量の少ないものが安全であることは明らかである。また、肥料からの水溶性カドミウムの溶出を抑制することで、農作物のカドミウム汚染の低減にも貢献し得るものと考えられる。
そこで、過リン酸石灰について、水溶性カドミウムの溶出を抑制する方法を確立することが望ましいと考えられる。このような方法としてまず考えられることは、カドミウム含有量の少ないリン鉱石を原料として用いることである。しかし、近年、リン資源の枯渇が問題となっており、リン鉱石の品質が低下している状況にあることから、カドミウム含有量の少ないリン鉱石を原料として用いることは困難である。
次に考えられることは、特許文献1や2に記載されている方法のように、pHを上昇させることによって過リン酸石灰からの水溶性カドミウムの溶出を抑制することである。しかし、pHを上昇させると、過リン酸石灰からの水溶性カドミウムの溶出のみならず、水溶性リン酸の溶出も抑制されてしまう。つまり、過リン酸石灰の本質的機能たる水溶性リン酸の溶出機能が喪失するという問題が生じる。
そこで、過リン酸石灰について、水溶性カドミウムの溶出を抑制しながら水溶性リン酸の溶出を確保する技術の確立が望まれる。
また、過リン酸石灰以外にも、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料が各種存在している。肥料を扱う作業者の安全性や農作物のカドミウム汚染の低減について考慮すれば、過リン酸石灰だけでなく、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料全般について、水溶性カドミウムの溶出を抑制しながら水溶性リン酸の溶出を確保する技術を確立することが望ましいと考えられる。
本発明は、水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保されている肥料を提供することを目的とする。
また、本発明は、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料について、水溶性カドミウムの溶出を抑制しながら水溶性リン酸の溶出を確保する方法を提供することを目的とする。
かかる課題を解決するため、本願発明者が鋭意検討を行った結果、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料について、水酸アパタイトの使用とpH制御によって、水溶性カドミウムの溶出を抑制しながら水溶性リン酸の溶出を確保できることを知見するに至り、さらに種々検討を重ねて本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の肥料は、水溶性カドミウムを含む固体の水溶性リン酸含有肥料に、水酸アパタイトが配合され、必要に応じてアルカリが配合されて、水に溶出させたときにpH4〜6の範囲内にあるものとしている。
本発明の肥料によると、水に溶出させたときにpH4〜6となり、水溶性リン酸が溶出される一方、水溶性カドミウムが水酸アパタイトに吸着される。したがって、栽培土や栽培水に施用したときに、水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保される。
また、本発明の肥料は、水溶性カドミウムを含む液体の水溶性リン酸含有肥料に、水酸アパタイトが配合され、必要に応じてアルカリが配合されて、pH4〜6の範囲内にあるものとしてもよい。この場合にも、栽培土や栽培水に施用したときに、水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保される。
ここで、本発明の肥料においては、水溶性カドミウムを含む液体の水溶性リン酸含有肥料100重量部に対し、水酸アパタイトが少なくとも5重量部配合されていることが好ましい。
また、本発明の肥料においては、アルカリが、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
さらに、本発明の肥料においては、水酸アパタイトが、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液中で反応させて合成された合成物及び/又は骨炭であることが好ましい。また、合成物は、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液中で、温度60℃以上で且つ反応開始pH8.8以上の条件で、12時間以上反応させて合成されたものであることが好ましい。
次に、本発明の水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出抑制方法は、栽培土又は栽培水に、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料と水酸アパタイトを施用すると共に、必要に応じてアルカリを施用し、栽培土又は栽培水のpHを4〜6に調整するようにしている。
本発明の水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出抑制方法によると、栽培土又は栽培水に、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料と水酸アパタイトを施用すると共に、必要に応じてアルカリを施用し、栽培土又は栽培水のpHを4〜6に調整することで、栽培土又は栽培水に水溶性リン酸が溶出される一方、水溶性カドミウムが水酸アパタイトに吸着される。したがって、栽培土又は栽培水への水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保される。
ここで、本発明の水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出抑制方法においては、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料100重量部に対し、水酸アパタイトを少なくとも5重量部施用することが好ましい。
また、アルカリとして、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
さらに、水酸アパタイトとして、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液中で反応させて合成された合成物及び/又は骨炭を用いることが好ましい。また、合成物として、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液中で、温度60℃以上で且つ反応開始pH8.8以上の条件で、12時間以上反応させて合成されたものを用いることが好ましい。
本発明の肥料によれば、水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保されているので、栽培土や栽培水に施用したときに、水溶性リン酸含有肥料の特長たる水溶性リン酸の農作物への供給の即効性が確保されながらも、作業者が水溶性カドミウムに直接触れる可能性を大幅に低減して作業者の安全性が確保されるという効果が奏される。また、肥料から溶出する水溶性カドミウムに起因する農作物のカドミウム汚染を低減することも可能となる。
また、本発明の水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出抑制方法によれば、水溶性リン酸含有肥料について、水溶性カドミウムの溶出を抑制しながらも、水溶性リン酸の溶出を確保することが可能となる。したがって、水溶性リン酸含有肥料の特長たる水溶性リン酸の農作物への供給の即効性を確保しながらも、作業者が水溶性カドミウムに直接触れる可能性を大幅に低減して作業者の安全性を確保することが可能となる。また、肥料から溶出する水溶性カドミウムに起因する農作物のカドミウム汚染を低減することも可能となる。
各種pH条件で合成したHAPのXRD波形を示す図である。 各種pH条件で合成したHAPのCd吸着試験結果を示す図である。 各種合成時間で合成したHAPのXRD波形を示す図である。 各種合成時間で合成したHAPのCd吸着試験結果を示す図である。 各種温度条件で合成したHAPのXRD波形を示す図である。 各種温度条件で合成したHAPのCd吸着試験結果を示す図である。 各種原材料で合成したHAPのXRD波形を示す図である。 各種原材料で合成したHAPのCd吸着試験結果を示す図である。 異なる副生リン酸ナトリウムを使用して合成したHAPのXRD波形を示す図である。 異なる副生リン酸ナトリウムを使用して合成したHAPのCd吸着試験結果を示す図である。 各試料のXRD測定結果におけるHAP最大ピーク値とバッチ試験における残存Cd濃度の関係を示す図である。 各種過リン酸石灰肥料のCd溶出試験結果を示す図である。 各種過リン酸石灰肥料へのアルカリ薬品添加量とpHの関係を示す図である。 肥料溶出試験(7時間後)における液相のリン濃度測定結果を示す図である。 肥料溶出試験(7時間後)終了時のpHと液相のCd濃度の関係を示す図である。 吸着剤としてHAP又は骨炭を添加した際のCd溶出量を示す比較図である。 吸着剤としてHAP又は骨炭を添加した際のP溶出量を示す比較図である。 吸着剤としてHAP又は骨炭を添加した際の溶出試験終了時のpHと液相のCd濃度の関係を示す図である。
以下、本発明を実施するための形態について、図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の肥料は、水溶性カドミウムを含む固体の水溶性リン酸含有肥料に、水酸アパタイトが配合され、必要に応じてアルカリが配合されて、水に溶出させたときにpH4〜6の範囲内にあるものとしている。
水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出は、pHに依存する。即ち、水溶性カドミウムはpHが低い方が溶出しやすい傾向にある。また、水溶性リン酸は弱酸性域で溶出しやすいことから、即効性のリン肥料自体のpHは弱酸性に調整されている。水溶性リン酸の含有量が多い肥料は、水溶性リン酸を即効性をもって農作物に供給しやすい反面、水溶性カドミウムが溶出しやすいというリスクを有している。本発明の肥料は、かかるリスクを回避しつつ、水溶性リン酸の溶出を確保して、水溶性リン酸を即効性をもって農作物に供給しやすいものとしている。
本発明に用いられる水溶性カドミウムを含む固体の水溶性リン酸含有肥料としては、例えば、過リン酸石灰、重過リン酸石灰、リン酸苦土肥料、複合肥料である化成肥料や配合肥料、苦土重焼リン(焼成リン肥)及びリンスター(登録商標)等が挙げられるが、水溶性リン酸と水溶性カドミウムを含む肥料であれば、必ずしもこれらに限定されるものではない。
ここで、上記リスクを考慮すると、本発明においては、水溶性カドミウムを含み(例えば、0.1mg/kg以上)、水溶性リン酸の含有量が多い肥料(例えば、水溶性リン酸含有量が1重量%以上、好適には5重量%以上、より好適には10重量%以上、さらに好適には13重量%以上)を用いることが有効である。したがって、水溶性リン酸を13重量%以上含む肥料である、過リン酸石灰、重過リン酸石灰及びリン酸苦土肥料を用いることが特に有効である。
本発明に用いられる水酸アパタイトは、化学式Ca10(PO(OH)で表される化合物である。水酸アパタイトは、水溶性カドミウムを吸着する一方で、水溶性リン酸は吸着せず、水溶性リン酸の溶出には殆ど影響を与えることがない。したがって、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料に水酸アパタイトを配合することによって、水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保された肥料とすることができる。
本発明に用いられる水酸アパタイトとしては、水溶性カドミウムの吸着能を有するものであれば特に限定されるものではないが、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液中で反応させて合成された合成物及び/又は骨炭を用いることが好適である。このような合成物や骨炭を使用することで、水酸アパタイトの水溶性カドミウム吸着能が高められて、水溶性カドミウムの溶出がより良好に抑制される。
ここで、水酸アパタイトの合成物に用いられるリン酸ナトリウムは、市販の試薬としてもよいし、リン酸ナトリウムを含む資材等としてもよい。例えば、食品工場から排出される副生リン酸ナトリウム等としてもよい。本願発明者の実験によれば、全リン酸(POとして)26.9重量%、オルトリン酸(POとして)25重量%、pH9.2の副生リン酸ナトリウム、全リン酸(POとして)22.5重量%、オルトリン酸(POとして)18.8重量%、pH12.8の副生リン酸ナトリウムを用いた場合にも、カドミウム吸着能の優れた水酸アパタイトを合成できることが確認されている。
水酸アパタイトの合成に用いられる石膏は、市販の試薬としてもよいし、石膏ボード廃棄物や脱硫石膏等の石膏廃棄物等としてもよい。
水酸アパタイトの合成に用いられるアルカリ溶液としては水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ水酸化物の水溶液等が挙げられる。
水酸アパタイトの合成物を合成する際には、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液に投入し、温度60℃以上、好適には温度80℃以上とし、反応開始pH8.8以上、好適にはpH9以上、より好適にはpH12以上、さらに好適にはpH13以上とし、反応時間を12時間〜48時間、好適には12時間程度とすることが好適である。この場合、水酸アパタイトの合成物のカドミウム吸着能を非常に優れたものとでき、水酸アパタイトの合成物を本発明の肥料に配合した場合に、水溶性カドミウムの溶出がさらに良好に抑制される。
本発明の肥料において、アルカリは必要に応じて配合される。ここで、「必要に応じて」の意味は、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料を水に溶出したときのpHが4〜6の範囲内にある場合にはアルカリは添加する必要がなく、pHが4〜6の範囲を逸脱するときに、アルカリを配合するという意味である。例えば、苦土重焼リン(焼成リン肥)やリンスター(登録商標)は、水に溶出させたときにpHが4〜6の範囲にある水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料であることから、このような肥料を用いる場合には、アルカリを配合せずとも構わない。尚、本発明の肥料において、水に溶出させたときのpHを4未満とした場合には、水酸アパタイトが急速に溶解し、水溶性カドミウム吸着能が喪失して、水溶性カドミウムの溶出が抑制されなくなる。また、pH6を超えると水溶性リン酸の溶出が起こり難くなるので、pHは6以下とするのが好適であり、5.5以下とするのがより好適である。尚、水に溶出した後のpHの値については、例えば、固液比(L/S)=10(L/kg)で調整したpHの値とすればよい。ここで、Lは水の容積であり、Sは本発明の肥料の重量である。
本発明において用いられるアルカリとしては、pHを調整できるものであれば特に限定はされるものではないが、ナトリウムが含まれていると農作物の生育に悪影響を及ぼすことがある。したがって、ナトリウムを含まないアルカリを用いることが好適である。ここで、本発明において用いられるアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される1種以上が特に好適である。カリウムとマグネシウムは肥料用成分であることから、農作物の生育に悪影響を及ぼすことなく、むしろ農作物の生育に良好に作用し得る。また、カリウムとマグネシウムはリンと結合しないことから、水溶性リン酸の不溶化により、農作物にリンが吸収されなくなるのを防ぐことができる。尚、コスト面を考慮すると、水酸化マグネシウムや酸化マグネシウムの使用がより好適である。
本発明の肥料において、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料と水酸アパタイトの配合割合については、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料100重量部に対して、水酸アパタイトを少なくとも5重量部とすることが好適であり、少なくとも10重量部とすることがより好適である。これにより、水酸アパタイトに水溶性カドミウムを良好に吸着させて、その溶出を抑制することができる。尚、水酸アパタイト自体もリンを含有していることから、肥料全体のリン含有量は水酸アパタイトの配合量を増やしてもあまり影響されない。しかし、水酸アパタイトには水溶性リンは含まれていないため、水酸アパタイト配合により肥料重量あたりに含まれる水溶性リン酸量は相対的に小さくなる。このため、水酸アパタイトの配合割合の上限は、肥料の仕様として製造者が設定したい水溶性リン酸の含有量値により定められる。現実的な範囲として、水酸アパタイトは肥料100重量部に対して最大でも30重量部程度配合すれば十分である。
本発明の肥料の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料、水酸アパタイト、及び(必要に応じて)アルカリを顆粒等の状態で混合したものを用いるようにしてもよいし、所定のバインダーを用いて一体化し粒状としてもよい。一体化する場合には、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料を、水酸アパタイト及びアルカリのいずれか一方あるいは双方で被覆するようにして、肥料規格における被覆リン酸肥料のような形態としてもよい。
本発明の肥料は、農作物を栽培する栽培土や栽培水に施用されて、当該栽培土や栽培水において、肥料からの水溶性カドミウムの溶出が抑制されながらも、水溶性リン酸の溶出が確保され、農作物に水溶性リン酸が供給される。肥料の施用量については、リン酸質肥料や複合肥料等における常識的な範囲とすればよい。
尚、本発明の肥料を施用する栽培土や栽培水としては、例えば土壌や水田等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ここで、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料、水酸アパタイト、及び(必要に応じて)アルカリは、上記の様に肥料の形態として混合ないしは一体化して栽培土や栽培水に施用することなく、それぞれ別個に施用するようにしてもよい。この場合にも、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出を抑制しながら、水溶性リン酸の溶出を確保することができる。
具体的には、栽培土又は栽培水に水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料を施用したときの当該栽培土又は当該栽培水のpHが4〜6の範囲内であればアルカリは施用せず、pHが4〜6の範囲を逸脱していればアルカリを施用する。水溶性リン酸含有肥料、水酸アパタイト、及びアルカリの施用順は特に限定されず、同時にまたは順次施用するようにすればよいが、栽培土又は栽培水がpH4未満の場合には、アルカリを施用する前に水酸アパタイトを施用すると、水酸アパタイトが急速に溶解する虞があるので、アルカリを施用してから水酸アパタイトを施用することが好ましい。また、栽培土又は栽培水に水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料、及び(必要に応じて)アルカリが施用されて、当該栽培土又は当該栽培水のpHが4〜6の範囲内となっている場合には、肥料から水溶性カドミウムが溶出してしまうので、この場合には、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料、及び(必要に応じて)アルカリを施用と同時に、あるいはその直後に水酸アパタイトを施用することが好ましい。
また、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料、水酸アパタイト、及び(必要に応じて)アルカリを別個に施用する場合の、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料と水酸アパタイトの施用割合は、本発明の肥料の場合と同様、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料100重量部に対して、水酸アパタイトを少なくとも5重量部とすることが好適であり、少なくとも10重量部とすることがより好適である。水酸アパタイトの施用割合の上限についても同様である。
本発明は、水田への中間追肥として水溶性リン酸含有肥料を施用する場合に非常に有効である。特に、稲作においてカドミウム吸収抑制のために湛水管理された水田に対して中間追肥する際、本発明の肥料、または本発明の水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出抑制方法を採用することによって、カドミウム吸収抑制の管理に対する悪影響を回避することが可能になる。
上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料として固体の肥料を用いた場合を例に挙げて説明したが、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料は、液体リン酸肥料などの液体の肥料であってもよい。この場合、必要に応じてアルカリを配合して、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料に水酸アパタイトとアルカリを配合した後のpHが4〜6の範囲にあるものとすればよい。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例に限られるものではない。
1.水酸アパタイト(HAP)合成条件の検討
副生リン酸ナトリウム(食品工場から発生したもの)と石炭火力発電所の脱硫石膏を原料として、カドミウム(Cd)吸着に適したHAP合成条件について検討した。
副生リン酸ナトリウムは、全リン酸(POとして)26.9重量%、オルトリン酸(POとして)25.0重量%であり、オルトリン酸以外のリン酸も含まれていた。pHは9.2であった。
(1)pH条件の検討
(1−1)合成方法
副生リン酸ナトリウムを純水に106.3g/Lの割合で溶解し、全リン(P)量で10g/L相当の溶液を調製した。溶液を硫酸または水酸化ナトリウムで指定pHに調整後、脱硫石膏をカルシウム(Ca)として化学量論比率よりも10%少ない量(83.4g/L)を加え、80℃の水温で6時間加熱振とうし、その後自然冷却を行った。
指定pH(HAP合成時のpH)は、5、7、9、11、12又は13に設定した。尚、pHの実測値はそれぞれ4.9、7.0、8.8、11.0、12.0、13.1であった。
(1−2)分析方法
合成物に対してはXRD(X-ray diffraction)分析を行い、生成物を同定した。XRD測定はリガク(株)製RINT2000を使用して実施した。
上記合成物を用いてCd吸着試験を実施した。Cd標準液を希釈し、原液濃度5mg/Lの溶液を生化学用緩衝剤MES(同仁化学研究所製、30mmol/L)を用いてpH6に調整した溶液に、L/S=1g/Lの固液比で合成したHAPを投入し、6時間振とう後、固液分離した。ろ液は、硝酸−過塩素酸分解して前処理し、Cd濃度をICP(Inductively coupled plasma、島津製作所ICPS−8100)で測定した。また、水酸アパタイト(以降、HAP)の代わりに骨炭(和光純薬製)を用いて同様のCd吸着試験を実施した。尚、骨炭も主成分は水酸アパタイトである。
(1−3)試験結果
合成開始時と終了時(6時間後)のpH測定値を表1に示す。
Figure 2014141365
石膏がHAPに転換する反応過程においては、硫酸が発生するため、pHは合成前より合成後のほうがより酸性の値を示す。HAPは、中性からアルカリ性の範囲で生成することから、合成時の液相のpHは7以上を保つことが望ましいと考えられるが、合成開始時にpH11に調整した試料でも、合成終了時にはpH5.1まで低下していた。このことから、合成開始時のpHは約12以上に設定することが望ましいと考えられた。
次に、各合成物のXRD波形データを図1に示す。図1に示す6つの波形データは、上から順に、pH5、7、9、11、12、13条件の合成物における波形データである。また、波形ピークに記載したアルファベットについて、「G」はGypsum(石膏、CaSO:2HO)、「P」はportlandite(ポートランダイト、Ca(OH))、「H」はhydroxyapatite(水酸アパタイト)を表している。検出可能な鉱物のうちhydroxyapatiteのピークは、pH9〜13条件の合成物で明瞭に確認することができた。また、pH13条件の合成物ではportlanditeのピークも確認された。gypsumのピークは全てのpH条件の合成物で存在し、6時間経過後も一部石膏が未反応のまま残存していることが確認された。
Cd吸着試験の結果を図2に示す。縦軸はバッチ操作終了後に液相中に残存するCd濃度を計測したものである。pH5及び7条件の合成物を用いた場合にはCdが高濃度で残存しており、吸着能は他と比較して大幅に劣ることが明らかとなった。pH9〜13条件の合成物を用いた場合には、Cd残存濃度0.99〜0.21mg/Lの範囲にあり、中でもpH13条件の合成物のCd吸着能が最も優れており、市販骨炭と匹敵するCd吸着能を示した。
(2)合成時間の検討
(2−1)合成方法
上記1の(1)の合成方法で、指定pH(HAP合成時のpH)を13とし、温度80℃とし、振とう時間を1、3、6、12又は48時間とした試料を作製した。
(2−2)分析方法
上記1の(2)と同様の方法で、XRD分析とCd吸着試験を実施した。
(2−3)試験結果
各合成物のXRD波形データを図3に示す。図3に示す5つの波形データは、上から順に、1、3、6、12、48時間条件の合成物における波形データである。Gypsumのピークは石膏の分解に伴い、時間とともに小さくなることが確認された。また1時間後にはportlanditeが生成するが、時間とともにそのピーク値が小さくなる傾向が見られた。これに対し、hydroxyapatiteのピークは時間とともに大きくなる傾向が見られた。
Cd吸着試験の結果を図4に示す。合成時間1〜6時間条件の合成物を用いた場合には0.5mg/L以上のCdが残存しているのに対して、合成時間12〜48時間条件の合成物を用いた場合には0.2mg/L以下のCd残存濃度であり、市販骨炭と匹敵するCd吸着性能を示した。以上の結果から、優れたCd吸着性能を確保するためには、合成時間を12時間以上とすることが望ましいことが明らかとなった。
(3)合成温度の検討
(3−1)合成方法
上記1の(1)の合成方法で、指定pH(HAP合成時のpH)を13とし、振とう時間を6時間とし、温度を40℃、60℃又は80℃として試料を作製した。
(3−2)分析方法
上記1の(2)と同様の方法で、XRD分析とCd吸着試験を実施した。
(3−3)試験結果
各合成物のXRD波形データを図5に示す。図5に示す3つの波形データは、上から順に、40℃、60℃、80℃条件の合成物における波形データである。波形を比較すると40℃条件の合成物はhydroxyapatiteのピークが他よりやや小さく、60℃及び80℃のピークの大きさはほぼ同じであった。80℃条件の合成物のみにportlanditeのピークが存在したが、これは温度が高いほうがportlanditeの溶解度が小さくなることを反映している。
Cd吸着試験の結果を図6に示す。40℃よりも60℃及び80℃のCd残存濃度が低いことが確認された。
(4)原材料に関する検討1
(4−1)合成方法
上記1の(1)の合成方法で、指定pH(HAP合成時のpH)を13とし、振とう時間を6時間とし、温度を80℃とし、副生リン酸ナトリウムを試薬第二リン酸ソーダ(和光純薬製)に変更した試料、脱硫石膏を試薬石膏(和光純薬製)に変更した試料を作製した。
(4−2)分析方法
上記1の(2)と同様の方法で、XRD分析とCd吸着試験を実施した。
(4−3)試験結果
各合成物のXRD波形データを図7に示す。図7に示す3つの波形データは、上から順に、脱硫石膏+副生リン酸ナトリウム、試薬石膏+副生リン酸ナトリウム、脱硫石膏+試薬第二リン酸ソーダを原料とした合成物における波形データである。脱硫石膏を試薬石膏に代替した試料のhydroxyapatiteのピークが一番高く、逆にgypsumのピークは一番低い結果となっていた。このことから、脱硫石膏の反応時の分解速度が試薬石膏のそれよりも遅いことが明らかとなった。また、副生リン酸ナトリウムを試薬リン酸ナトリウムに代替した試料についても、hydroxyapatiteピークの増加が見られた。このことから、副生リン酸ナトリウム中の不純物等の影響により、HAPの生成速度が遅くなっているものと推察された。
Cd吸着試験の結果を図8に示す。脱硫石膏を試薬石膏に代替した試料の残存Cd量が最も小さくなった。また、試薬リン酸ナトリウムに代替した試料もCd吸着能の改善がみられた。
(5)原材料に関する検討2
(5−1)合成方法
上記1の(1)の合成方法で、指定pH(HAP合成時のpH)を9.5又は13とし、振とう時間を6時間とし、温度を80℃とし、上記1の(1)で用いた副生リン酸ナトリウムとは別種の副生リン酸ナトリウム(食品工場から発生したもの)を原料として試料を作製した。尚、この副生リン酸ナトリウムは、全リン酸(POとして)22.5重量%、オルトリン酸(POとして)18.8重量%であった。pHは12.8であった。以降の説明では、この副生リン酸ナトリウムを「副生リン酸ナトリウム(新)」と呼び、上記1の(1)で用いた副生リン酸ナトリウムを「副生リン酸ナトリウム(旧)」と呼ぶ。
(5−2)分析方法
上記1の(2)と同様の方法で、XRD分析とCd吸着試験を実施した。
(5−3)実験結果
各合成物のXRD波形データを図9に示す。図9に示す2つの波形データは、上から順に、副生リン酸ナトリウム(旧)、副生リン酸ナトリウム(新)を原料とした合成物における波形データである。波形に大きな相違は無いが、副生リン酸ナトリウム(新)を用いた試料のgypsumのピークのほうが小さく、副生リン酸ナトリウム(新)を用いた場合のほうが石膏の分解が早く進行することが明らかとなった。
Cd吸着試験の結果を図10に示す。pH13条件の場合、副生リン酸ナトリウム(新)から合成した試料の吸着能は、副生リン酸ナトリウム(旧)とほぼ同等の吸着能を示しており、副生リン酸ナトリウム(新)もHAPの原料として利用可能であることが明らかとなった。尚、副生リン酸ナトリウム(新)は性状が強アルカリ性(pH12.8)であることから、HAP合成時に投入するpH調整のための水酸化ナトリウムの量をより少なくすることができ、薬剤のコストを節減できる利点がある。
(6)まとめ
以上、上記(1)〜(5)の検討により、Cd吸着能を十分に確保するための合成条件として、初期をpH12以上とし、温度を60℃以上とし、合成時間を12時間以上とすることが望ましいことが明らかとなった。
次に、上記(1)〜(5)の各試料XRDのhydroxyapatite最大ピーク値とバッチ試験残存Cd濃度の関係を図11に示す。波形中のHAPピークの高さが高い試料ほどCd吸着能が大きい傾向があることが明らかとなった。これは、試料中のhydroxyapatiteの含有量あるいはその結晶度が高い試料のほうがCd吸着能が高くなることを示していると考えられる。
以上の結果から、Cd吸着性能の高いpH13、温度80℃、合成時間12時間の条件で合成されたHAP試料を、以降の試験に用いることとした。
2.市販の過リン酸石灰肥料からのカドミウム溶出量の検討
園芸用肥料として市場に流通している過リン酸石灰肥料を2銘柄購入し、環境庁告示46号法による溶出試験を実施し、Cd溶出量を測定した。購入した2銘柄の過リン酸石灰肥料の詳細を表2に示す。
Figure 2014141365
溶出試験結果を図12に示す。濃度として0.20〜0.23mg/Lの範囲のCdの溶出が確認された。
尚、溶出試験法の詳細が若干異なるため厳密な比較はできないが、いずれの試料も「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令」(環境省)に定めるCdの上限値0.3mg/Lは超えておらず、これは当該肥料を安定型処分場に埋設したとしても法令上は問題ないレベルである。また、Cdの土壌環境基準0.01mg/Lを超えているが、肥料そのものについては現在、土壌汚染対策法の対象外である。
3.合成HAP試料による肥料からのCd溶出抑制の検討
上記2の過リン酸肥料2銘柄(肥料1、2)を対象として、HAPによる肥料からのCdの溶出抑制について検討した。
(1)中和時の溶出挙動の検討
過リン酸石灰肥料は、一般にリン鉱石に硫酸を作用させて製造するため、水に接触すると弱酸性を示す。一方、HAPの溶解度は、試料の性状により異なるが、一般に中性から酸性へpHが低下すると急速に増加する。Peld等は、pHが4.0未満に低下するに従い、合成HAPからカルシウム(Ca)やリン酸イオン(PO 3−)が液相中に急激に放出される(溶解する)ことを報告している(Peld, M., Tonsuaadu, K. and Bender, M.: Environ. Sci. Technol, 36, 5626-5631 (2004))。
このため、HAPを吸着剤として使う場合には、HAPが溶解しないと考えられる範囲までpHを調整する必要がある。pH調整用アルカリ資材として、肥料用成分であり、且つリンと結合しないマグネシウムやカリウムを含むアルカリ(水酸化マグネシウムや水酸化カリウム)による調整を行い、その際のカドミウム(Cd)とリン(P)の溶出量の変化について検討した。
具体的には、肥料1と肥料2について、固液比L/S=10L/kgで純水に混合し、水酸化カリウム(KOH、関東化学製試薬)又は水酸化マグネシウム(Mg(OH)、関東化学製試薬)を、振とう後1時間の時点で溶液のpHが4.5、5.0、6.0になるように添加した。1時間後のpHを確認後、さらに6時間振とうし、1μmガラスフィルターで固液分離した後、液相中のCd濃度とリン(P)濃度をICP(島津製作所ICPS−8100)で測定した。
(2)HAPによるカドミウム吸着試験
上記3の(1)において、肥料にアルカリ資材を投入後1時間振とうした時点で、HAPを肥料100重量部に対して10重量部投入し、さらに6時間振とう後、上記3の(1)と同様に固液分離し、液相中のCd濃度とリン(P)濃度をICP(島津製作所ICPS−8100)で測定した。
HAPは、上記1の製造試料のうち、Cd吸着性能に優れたpH13、温度80℃、合成時間12時間の条件とした試料を使用した。また、性能比較のための試料として、HAPに代えて骨炭(和光純薬製)を用いた試験も実施した。
(3)試験結果
KOH又はMg(OH)の投入量とpH(1時間後測定)の関係を図13に示す。Mg(OH)を投入した方が単位重量当たりの中和効果が大きく、KOHの半分以下の投入量でKOHと同等の中和効果を奏することが明らかとなった。尚、pH4.5に調整するために必要な薬剤重量は、Mg(OH)の場合には肥料100重量部に対し2.6重量部(肥料1)、4.4重量部(肥料2)であった。KOHの場合には肥料100重量部に対し6.1重量部(肥料1)、12.6重量部(肥料2)であった。
コスト面で比較すると、現在の過リン酸石灰肥料の価格(輸入価格)が38円/kg程度であるのに対して、Mg(OH)(単価60円/kg)の必要添加量に対してかかるコストは、これを肥料1kgに添加するとして1.6円、2.6円である。一方、KOH(230円/kg)では14円、29円のコスト増になる。中和のための薬剤コストを比較する限りMg(OH)の使用が現実的であると考えられた。
7時間振とう後の液相中のリン濃度を図14に示す。pH調整剤添加なしの条件では、肥料1は6.9g/L、肥料2は6.7g/Lのリン(P換算)が溶出していた。pH調整剤を添加するとリンの溶出量は低下し、pH4.3〜4.5のpH領域において2.5〜4.7g/Lまで低下し、pH6.0付近では0.3〜0.4g/Lまで低下した。また、Mg(OH)を用いた場合の方がKOHを用いた場合よりもP溶出量減少量は小さかった。さらに、Mg(OH)とKOHの違いによるP溶出の影響の差は肥料1のほうが大きく、肥料2ではその差は小さい傾向があった。
同試験における液相中のCd濃度を図15に示す。Cd溶出量はpHの上昇に伴い減少する傾向が見られた。2種類の肥料間及びpH調整剤間においてCd溶出量に明確な差は見られず、全てのデータは多項式回帰曲線を用いて良好に表現可能であった(回帰曲線Y=0.92588 −0.28807X +0.02272X2,r=0.9589)。
次に、HAPによるカドミウム吸着試験結果を図16に示す。図16の横軸はpH設定値(指定pH)である。全てのケースにおいて、吸着剤(HAP、骨炭)の添加によりCd溶出量は低下傾向を示した。
また、カドミウム吸着試験においてリン溶出量を測定した結果を図17に示す。吸着剤(HAP、骨炭)の添加の有無はリン溶出量にはほとんど影響を与えないことが明らかとなった。
以上の結果から、吸着剤の添加は、肥料成分の水溶性リンの溶出量に影響を与えることなく、水溶性カドミウムを吸着し、カドミウム溶出量を低減する効果があることが明らかとなった。
ここで、7時間経過後のpHの値は、1時間経過時点でのpH設定値をほぼ同一にしても最終的には異なっていた。そこで、7時間経過後のpH値とCd溶出量との関係をプロットし、pHとCd溶出性との関係について整理した。結果を図18に示す。図18中、0%の実線は図15に示す回帰曲線であり、−20%〜−80%の各点線は回帰曲線が示す溶出量からの低減割合を示している。図18によれば、pH4.5以下の領域では、HAP添加試料が0.036〜0.067mg/LのCd濃度を示しているのに対して、骨炭添加試料は0.023〜0.034mg/LのCd濃度を示していた。pH4.5〜5の範囲では、HAP添加試料が0.023〜0.047mg/LのCd濃度を示すのに対して、骨炭添加試料は0.016〜0.024mg/LのCd濃度を示していた。吸着剤無添加の場合に対するCd溶出低減率では、HAP添加が−30%〜−70%、骨炭が−60%〜−80%の範囲にあった。これらの結果から、HAPを添加した場合と骨炭を添加した場合のいずれも、Cd溶出低減効果が奏されることが明らかとなった。

Claims (11)

  1. 水溶性カドミウムを含む固体の水溶性リン酸含有肥料に、水酸アパタイトが配合され、必要に応じてアルカリが配合されて、水に溶出させたときにpH4〜6の範囲内にあることを特徴とする肥料。
  2. 水溶性カドミウムを含む液体の水溶性リン酸含有肥料に、水酸アパタイトが配合され、必要に応じてアルカリが配合されて、pH4〜6の範囲内にあることを特徴とする肥料。
  3. 前記水溶性リン酸含有肥料100重量部に対し、前記水酸アパタイトが少なくとも5重量部配合されている請求項1又は2に記載の肥料。
  4. 前記アルカリが、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される1種以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の肥料。
  5. 前記水酸アパタイトが、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液中で反応させて合成された合成物及び/又は骨炭である請求項1〜4のいずれか1項に記載の改良リン系肥料。
  6. 前記合成物は、前記リン酸ナトリウムと前記石膏を前記アルカリ溶液中で、温度60℃以上で且つ反応開始pH8.8以上の条件で、12時間以上反応させて合成されたものである請求項5に記載の肥料。
  7. 栽培土又は栽培水に、水溶性カドミウムを含む水溶性リン酸含有肥料と水酸アパタイトを施用すると共に、必要に応じてアルカリを施用し、前記栽培土又は前記栽培水のpHを4〜6に調整することを特徴とする、水溶性リン酸含有肥料からの水溶性カドミウムの溶出抑制方法。
  8. 前記水溶性リン酸含有肥料100重量部に対し、前記水酸アパタイトを少なくとも5重量部施用する請求項7に記載の方法。
  9. 前記アルカリとして、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムからなる群から選択される1種以上を用いる請求項7又は8に記載の方法。
  10. 前記水酸アパタイトとして、リン酸ナトリウムと石膏をアルカリ溶液中で反応させて合成された合成物及び/又は骨炭を用いる請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 前記合成物として、前記リン酸ナトリウムと前記石膏を前記アルカリ溶液中で、温度60℃以上で且つ反応開始pH8.8以上の条件で、12時間以上反応させて合成されたものを用いる請求項10に記載の方法。
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