本発明は、接着剤層と、前記接着剤層を介してその両側にそれぞれ設けられた、ケイ素、酸素、および炭素を含有するバリア層(以下、単に「バリア層」とも称する)と、基材とを有するガスバリア性フィルムである。ここで、前記バリア層は、下記条件(i)〜(iii)を全て満たす:
(i)前記バリア層の膜厚方向における前記バリア層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、
前記バリア層の膜厚の90%以上の領域で、多いほうから(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)、(炭素の原子比)の順となっている;
(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有する;および
(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値と最小値との差の絶対値が5at%以上である。
本発明は、上記条件(i)〜(iii)を全て満たす特定のバリア層を接着剤層を介してその両側にそれぞれ設け、フィルムの応力を5〜30N/25mmの範囲とすることに特徴がある。かかる構成を有することにより、上記した発明の効果を有効に発現することができる。
本発明に係るバリア層は、単独で使用すると、ガスバリア性能について水蒸気透過率で10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの性能を持たせるのは困難である。ガスバリア性能について、10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの水蒸気透過率を達成しようとした場合、例えば、バリア層を多層化したり、接着剤で積層するなどして、膜厚を極端に厚くする必要がある。しかしながら、膜厚を極端に厚くした場合には、ガスバリア性フィルムの屈曲性が極端に劣化して、水蒸気透過率が劣化してしまい、長期の保存安定性に劣るという問題があった。これに対して、本発明に係るバリア層を、接着剤層を介してその両側に設け、更にフィルムの応力を非常に狭い範囲に制限することによって、驚くべきことに、膜厚を極端に厚くしなくても、ガスバリア性能について10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの水蒸気透過率を達成し、しかもフィルムを屈曲及び耐衝撃に対して、ガスバリア性の低下を十分に抑制することができ、長期の保存安定性に優れるガスバリア性フィルムが得られることを見出し得たものである。ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。なお、本発明は下記に限定されるものではない。すなわち、本発明に係るバリア層にはケイ素原子および酸素原子に加えて炭素原子が存在するが、このうちケイ素原子および酸素原子を存在させることによってガスバリア性を付与でき、炭素原子を存在させることによってバリア層に柔軟性を付与することができる。このため、本発明に係るバリア層は、ガスバリア性および柔軟性を有する。特にバリア層の炭素元素組成がサイン(SIN)カーブ周期に変化することにより、バリア層表面方向での引張ないし収縮の力学的な力の緩和が大きく、接着面での剥がれが抑えられる。かかるバリア層を接着剤層を介してその両側にそれぞれ設けることで、接着剤層を介した両側でバリア層表面方向での引張ないし収縮の力学的な力の緩和が大きく、接着面での剥がれをより一層抑えることができる。また酸素及び水蒸気が、該ガスバリア性フィルムの端面(側面)、特にフィルム内の接着剤層から浸入するのを効果的に抑制することもできる。そのため、長期保存性(エージング)でも、当該接着剤層を介した層との接着界面のずれを防止でき、その部分から水や酸素が侵入するのを効果的に防止することもできる。上記に加えて、更にフィルムの応力を非常に狭い範囲に制限することによって、フィルムを屈曲及び耐衝撃に対しても、接着面での剥がれを効果的に抑制でき、ガスバリア性能を格段に高めることができ、ガスバリア性能について10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの水蒸気透過率を達成し、尚且つガスバリア性の低下を大幅に抑制することができ、長期の保存安定性を向上させることもできる。
以上のように、本発明に係るガスバリア性フィルムは、十分なガスバリア性(低い水蒸気透過率)を有しており、しかもフィルムを屈曲及び耐衝撃に対して、ガスバリア性の低下を十分に抑制することが可能な(長期の保存安定性に優れる)ガスバリア性フィルムを提供することが可能となる。そのため、本発明のガスバリア性フィルムは、ガスバリア性能について水蒸気透過率で10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの性能が要求されている有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜太陽電池、液晶ディスプレイ等の電子デバイスに好適に用いることができる。
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、「重量」と「質量」、「重量%」と「質量%」および「重量部」と「質量部」は同義語として扱う。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で測定する。
<ガスバリア性フィルムの層構成>
図1は、本発明に係るガスバリア性フィルムの代表的な層構成の例を模式的に表した断面概略図である。
(1)図1(a)の構成例 このうち、図1(a)に示すガスバリア性フィルム10Aの構成例では、接着剤層14と、前記接着剤層14を介してその両側にそれぞれ設けられた、バリア層12a、12bと、基材11a、11bとを有する。詳しくは、基材11a上に設けられたバリア層12aからなるフィルム13aと、基材11b上に設けられたバリア層12bからなるフィルム13bとが、接着剤層14を介して、その両側にそれぞれ設けられた(貼り付けられた)構成であって、フィルム13aのバリア層12aと、フィルム13bの基材11bとが接着剤層14に直接、形成された(貼り付けられた)層構成となっている。
(2)図1(b)の構成例ないし変形例
次に、図1(b)に示すガスバリア性フィルム10Bの構成例では、接着剤層14と、前記接着剤層14を介してその両側にそれぞれ設けられた、バリア層12a、12bと、基材11a、11bとを有する。詳しくは、基材11a上に設けられたバリア層12aからなるフィルム13aと、基材11b上に設けられたバリア層12bからなるフィルム13bとが、接着剤層14を介して、その両側にそれぞれ設けられた(貼り付けられた)構成であって、フィルム13aのバリア層12aと、フィルム13bのバリア層12bとが接着剤層14に直接、形成された(貼り付けられた)層構成となっている。
なお、ガスバリア性フィルム10B(または10A)の変形例としては、フィルム13aと、フィルム13bとが、接着剤層14を介して、その両側にそれぞれ設けられた(貼り付けられた)構成であって、フィルム13aの基材11aと、フィルム13bの基材11bとが接着剤層14に直接、形成された(貼り付けられた)層構成であってもよい。
(3)図1(c)の構成例
次に、図1(c)に示すガスバリア性フィルム10Cの構成例では、接着剤層14と、前記接着剤層14を介してその両側にそれぞれ設けられた、12a1、12a2、12b1、12b2と、基材11a、11bとを有する。詳しくは、基材11aの両面にそれぞれ設けられたバリア層12a1、12a2からなるフィルム13aと、基材11bの両面にそれぞれ設けられたバリア層12b1、12b2からなるフィルム13bとが、接着剤層14を介して、その両側にそれぞれ設けられた(貼り付けられた)構成であって、フィルム13aのバリア層12a2と、フィルム13bのバリア層12b1とが接着剤層14に直接、形成された(貼り付けられた)層構成となっている。
(4)図1(d)の構成例
このうち、図1(d)に示すガスバリア性フィルム10Dの構成例では、接着剤層14と、前記接着剤層14を介してその両側にそれぞれ設けられた、バリア層12a、12bと、基材11aとを有する。詳しくは、基材11a上に設けられたバリア層12aからなるフィルム13aと、剥離基材11b’上に設けられたバリア層12bからなるフィルム13b’とが、接着剤層14を介して、その両側にそれぞれ貼り付けられた(設けられた)構成において、フィルム13aのバリア層12aと、フィルム13b’のバリア層12bとが接着剤層14に直接、貼り付けられた(形成された)後に、フィルム13b’の剥離基材11b’が剥離除去された層構成となっている。
(図1(a)〜(d)の層構成の多層化例)
ここで、ガスバリア性フィルム10A〜10Cの構成例ないし変形例では、2枚のフィルム13a、13bが、接着剤層14を介して貼り付けられた(設けられた)例を示したが、これらの応用例として、3枚以上のフィルム13a、13b、13c(図示せず)・・が、2以上の接着剤層14、14a(図示せず)・・を介して順次積層された(貼り付けられた)ものであってもよい。これらの応用例の場合には、1つのフィルムのバリア層または基材と、もう1つのフィルムの基材またはバリア層とが、1つの接着剤層に直接、形成された(貼り付けられた)層構成が、適当に組み合わされて順次積層され多層化された層構成となる。なお、ガスバリア性フィルム10Dの構成例では、2枚のフィルム13a、13b’が、接着剤層14を介して貼り付けられた(設けられた)後に、フィルム13b’の剥離基材11b’が剥離除去された例を示したが、その応用例として、3枚以上以降のフィルム13c’(図示せず)・・も、接着剤層・・を介して、2枚目のフィルム13b’と同様に貼りつけ後に、剥離基材11c’(図示せず)・・を剥離除去することで、順次積層されたものであってもよい。この応用例の場合には、1つの基材上に、バリア層と接着剤層とが交互に複数積層され多層化された層構成となる。
(図1(a)〜(d)の特定のバリア層の適用例について)
更にガスバリア性フィルム10A〜10Dの構成例、変形例ないしそれらの応用例では、フィルム13a、13b、13b’、13c(図示せず)・・のそれぞれのバリア層12a、12a1、12a2、12b、12b1、12b2、12c(図示せず)、12c1(図示せず)、12c2(図示せず)、・・は、単一層(1層)のバリア層で形成された構成(構造)であってもよいし、2層以上のバリア層が積層された構成(構造)であってもよい。この際、2層以上のバリア層が積層された構成の場合には、このうちの少なくとも1層が、上記した条件(i)〜(iii)を全て満たす特定のバリア層であればよく、他のバリア層は上記した条件(i)〜(iii)を全て満たす必要はなく、既存のバリア層を適用してもよい。なお、ガスバリア性フィルム10Cの構成例ないしその応用例では、1つのフィルム(例えば、13a)内の2つのバリア層(例えば、12a1、12a2)のうちの少なくとも1つのバリア層(例えば、12a2)が、上記した条件(i)〜(iii)を全て満たす特定のバリア層であればよく、もう一方のバリア層(例えば、12a1)は上記した条件(i)〜(iii)を全て満たす必要はなく、既存のバリア層を適用してもよい。好ましくは1つのフィルム内の2つのバリア層(例えば、12a1、12a2)のいずれもが、上記した条件(i)〜(iii)を全て満たす特定のバリア層であるのが望ましい。
(図1(a)〜(d)の構成への下地層、平滑層の導入例)
またガスバリア性フィルム10A〜10Dの構成例、変形例ないしそれらの応用例では、13a、13b、13c(図示せず、)・・の少なくとも1つのフィルム、好ましくは2以上のフィルム、より好ましくは全てのフィルムにおいて、該フィルムの基材と、該基材上のバリア層との間に、炭素含有ポリマーの下地層(図示せず)が設けられていてもよい。該下地層を設けることで、フィルムの平滑性を高めることができる点で優れている。またガスバリア性フィルム10Dの構成例ないしその応用例では、13b’、13c’(図示せず、)・・の少なくとも1つのフィルム、好ましくは2以上のフィルム、より好ましくは全てのフィルムにおいて、該フィルムの剥離基材と、該剥離基材上のバリア層との間に、炭素含有ポリマーの平滑層(図示せず)が設けられていてもよい。該平滑層を設けることで、フィルムの平滑性を高めることができる点で優れている。
(図1(a)〜(d)の構成の形成例)
またガスバリア性フィルム10A〜10Dの構成例、変形例ないしそれらの応用例では、まず、基材上の接着剤層や下地層、バリア層を湿式又は乾式法により塗布又は蒸着等により積層したフィルムを形成する。次に、これらのフィルムを適当な大きさにカットした後に接着剤層を介して貼り合せて形成することができる。或いは、基材上の接着剤層や下地層、バリア層、更には接着剤層を湿式又は乾式法により塗布又は蒸着等により、繰り返し積層(形成)していくことで、目的のガスバリア性フィルムを形成してもよいなど、特に制限されるものではない。
<ガスバリア性フィルム>
本発明のガスバリア性フィルムは、例えば、図1(a)〜(b)に示すように、接着剤層14と、該接着剤層14を介してその両側にそれぞれ設けられた、ケイ素、酸素および炭素を含有するバリア層12a(12a1、12a2)、12b(12b1、12b2)と、基材11a、11b(設けない例もある)と、必要に応じて、更に下地層ないし平滑層(共に図示せず)とを有する。ここで、基材、バリア層および接着剤層等の層構成(積層順序)は、図1(a)〜(b)に例示した通りであるが、図1(b)〜図1(d)のようにバリア層同士が接着剤層14に直接、形成された層構成となっていることが好ましい。このような構造により、接着剤層を介した両側でバリア層表面方向での引張ないし収縮の力学的な力の緩和が大きく、接着面での剥がれをより一層抑えることができる。また酸素及び水蒸気が、該ガスバリア性フィルムの端面(側面)、特にフィルム内の接着剤層から浸入するのを効果的に抑制することもできる。そのため、長期保存性(エージング)でも、当該接着剤層を介した層との接着界面のずれを防止でき、その部分から水や酸素が侵入するのを効果的に防止することもできる点で優れている。但し、上記外の層構成であっても、実施例に示すように、ガスバリア性能について10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの水蒸気透過率を達成し、尚且つガスバリア性の低下を大幅に抑制することができ、長期の保存安定性を向上させることができる。
また、本発明のガスバリア性フィルムは、基材、バリア層および接着剤層を必須に有するが、他の部材をさらに含むものであってもよい。本発明のガスバリア性フィルムは、例えば、基材と、バリア層または接着剤層との間に;バリア層と接着剤層との間に;またはバリア層もしくは接着剤層が形成されていない他方の面に、他の部材を有していてもよい。ここで、他の部材としては、特に制限されず、従来のガスバリア性フィルムに使用される部材が同様にしてあるいは適宜修飾して使用できる。具体的には、酸窒化珪素、二酸化珪素、酸化アルミ、または酸化アルミ珪素等の無機層、下地層、アンカーコート層、ブリードアウト防止層、ならびに保護層、吸湿層や帯電防止層の機能化層などが挙げられる。
なお、本発明において、バリア層は、単一層として存在してもあるいは2層以上の積層構造を有していてもよい。
さらに、本発明では、バリア層は、基材の少なくとも一方の面に形成されていればよい。このため、本発明のガスバリア性フィルムは、基材の一方の面にバリア層が形成される形態(図1(a)、(b)、(d))、ならびに基材の両面にバリア層が形成される形態(図1(c))双方を包含する。
<ガスバリア性フィルムの応力>
本発明のガスバリア性フィルムの応力は、5〜30N/25mm、好ましくは8〜25N/25mm、より好ましくは10〜20N/25mmの範囲である。フィルムの応力が上記範囲内であれば、経時によるガスバリア性フィルムのクラック発生を抑制できるほか、フィルムを屈曲及び耐衝撃に対して、ガスバリア性の低下を十分に抑制することができ、長期の保存安定性に優れるガスバリア性フィルムを提供することができる。更にガスバリア性能について水蒸気透過率で10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの性能を達成することができ、高いガスバリア性(低い水蒸気透過率)が要求されている有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜太陽電池、液晶ディスプレイ等に好適に用いることができる点で優れている。
本発明のガスバリア性フィルムの応力の測定は、ガスバリア性フィルム試料を、半径が10mmの曲率になるように、180度の角度で100回の屈曲を繰り返した後、下記の接着強度(ラミネート強度)を測定することでフィルムの応力(引張応力)を求めた。
接着強度試験は、JIS K6854−3:1999に準拠して行い、試験条件は次の通りとした。
・試験環境:23℃、50%RH
・試料(サンプル)サイズ:幅25mm×長さ150mm
・剥離速度:300mm/min
・試験方法:層間接着剤(接着剤層)で貼り合わされたガスバリア性フィルム試料をそれぞれ試験測定機(オリエンテック社製、テンシロン万能試験機RTC−1250)の上下に固定した。測定中には剥離部が180°となるように固定し、ガスバリア性フィルム試料が剥がれた際の負荷を測定し、剥離強度(単位:N/25mm)を求めた。
以下、本実施形態のガスバリア性フィルムの構成要件につき、詳しく説明する。
[基材]
本発明に係るガスバリア性フィルムは、通常、基材(図1の基材11a、11b参照)として、プラスチックフィルムまたはシートが用いられ、無色透明な樹脂からなるフィルムまたはシートが好ましく用いられる。用いられるプラスチックフィルムは、バリア層、ハードコート層等を保持できるフィルムであれば材質、厚み等に特に制限はなく、使用目的等に応じて適宜選択することができる。前記プラスチックフィルムとしては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリアクリロニトリル系樹脂、アセタール系樹脂、メタクリル樹脂、メタクリル酸−マレイン酸共重合体、ポリスチレン樹脂、透明フッ素樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素化ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、セルロースアシレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂環式ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、シクロオレフィルンコポリマー、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリエステル樹脂、アクリロイル化合物などの熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でも、耐熱性及び線膨張率が高く、製造コストが低いという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、PET、PENが特に好ましい。また、これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
本発明に係るガスバリア性フィルムを有機EL素子等の電子デバイスの基板として使用する場合は、前記基材は耐熱性を有する素材からなることが好ましい。具体的には、線膨張係数が15ppm/K以上100ppm/K以下で、かつガラス転移温度(Tg)が100℃以上300℃以下の樹脂基材が使用される。該基材は、電子部品用途、ディスプレイ用積層フィルムとしての必要条件を満たしている。即ち、これらの用途に本発明のガスバリア性フィルムを用いる場合、ガスバリア性フィルムは、150℃以上の工程に曝されることがある。この場合、ガスバリア性フィルムにおける基材の線膨張係数が100ppm/Kを超えると、ガスバリア性フィルムを前記のような温度の工程に流す際に基板寸法が安定せず、熱膨張および収縮に伴い、遮断性性能が劣化する不都合や、或いは、熱工程に耐えられないという不具合が生じやすくなる。15ppm/K未満では、フィルムがガラスのように割れてしまいフレキシビリティが劣化する場合がある。
基材のTgや線膨張係数は、添加剤などによって調整することができる。基材として用いることができる熱可塑性樹脂のより好ましい具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET:70℃)、ポリエチレンナフタレート(PEN:120℃)、ポリカーボネート(PC:140℃)、脂環式ポリオレフィン(例えば日本ゼオン株式会社製、ゼオノア(登録商標)1600:160℃)、ポリアリレート(PAr:210℃)、ポリエーテルスルホン(PES:220℃)、ポリスルホン(PSF:190℃)、シクロオレフィンコポリマー(COC:特開2001−150584号公報に記載の化合物:162℃)、ポリイミド(例えば三菱ガス化学株式会社製、ネオプリム(登録商標):260℃)、フルオレン環変性ポリカーボネート(BCF−PC:特開2000−227603号公報に記載の化合物:225℃)、脂環変性ポリカーボネート(IP−PC:特開2000−227603号公報に記載の化合物:205℃)、アクリロイル化合物(特開2002−80616号公報に記載の化合物:300℃以上)等が挙げられる(括弧内はTgを示す)。
本発明に係るガスバリア性フィルムを偏光板と組み合わせて使用する場合、ガスバリア性フィルムのバリア層がセルの内側に向くように配置することが好ましい。このとき、偏光板よりセルの内側にガスバリア性フィルムが配置されることになるため、ガスバリア性フィルムのレターデーション値が重要になる。このような態様でのガスバリア性フィルムの使用形態は、レターデーション値が10nm以下の基材フィルムを用いたガスバリア性フィルムと円偏光板(1/4波長板+(1/2波長板)+直線偏光板)を積層して使用するか、あるいは1/4波長板として使用可能な、レターデーション値が100nm〜180nmの基材フィルムを用いたガスバリア性フィルムに直線偏光板を組み合わせて用いるのが好ましい。
レターデーションが10nm以下の基材フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート(富士フイルム株式会社製:フジタック(登録商標))、ポリカーボネート(帝人化成株式会社製:ピュアエース(登録商標)、株式会社カネカ製:エルメック(登録商標))、シクロオレフィンポリマー(JSR株式会社製:アートン(登録商標)、日本ゼオン株式会社製:ゼオノア(登録商標))、シクロオレフィンコポリマー(三井化学株式会社製:アペル(登録商標)(ペレット)、ポリプラスチック株式会社製:トパス(登録商標)(ペレット))、ポリアリレート(ユニチカ株式会社製:U100(ペレット))、透明ポリイミド(三菱ガス化学株式会社製:ネオプリム(登録商標))等を挙げることができる。
また1/4波長板としては、上記のフィルムを適宜延伸することで所望のレターデーション値に調整したフィルムを用いることができる。
本発明に係るガスバリア性フィルムは、有機EL素子等の電子デバイスとして利用されることから、プラスチックフィルムは透明であることが好ましい。すなわち、光線透過率が通常80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。光線透過率は、JIS K7105:1981に記載された方法、すなわち積分球式光線透過率測定装置を用いて全光線透過率および散乱光量を測定し、全光線透過率から拡散透過率を引いて算出することができる。
ただし、本発明に係るガスバリア性フィルムをディスプレイ用途に用いる場合であっても、観察側に設置しない場合などは必ずしも透明性が要求されない。したがって、このような場合は、プラスチックフィルムとして不透明な材料を用いることもできる。不透明な材料としては、例えば、ポリイミド、ポリアクリロニトリル、公知の液晶ポリマーなどが挙げられる。
本発明に係るガスバリア性フィルムに用いられる基材(プラスチックフィルム)の厚みは、用途によって適宜選択されるため特に制限がないが、本発明のガスバリア性フィルムを製造する際の安定性を考慮して適宜に設定することができる。基材の厚みとしては、真空中においてもフィルム基材の搬送が可能であるという観点から、典型的には、5〜500μmの範囲であることが好ましい。さらに、プラズマCVD法により本発明にかかるバリア層を形成する場合には、基材を通して放電しつつ本発明にかかるバリア層を形成することから、前記基材の厚みは、50〜200μmの範囲であることがより好ましく、50〜100μmの範囲であることが特に好ましい。これらの基材(プラスチックフィルム)は、透明導電層、プライマー層等の機能層を有していても良い。機能層については、上述したもののほか、特開2006−289627号公報の段落番号「0036」〜「0038」に記載されているものを好ましく採用できる。
基材は、表面の平滑性が高いものが好ましい。表面の平滑性としては、平均表面粗さ(Ra)が2nm以下であるものが好ましい。下限は特にないが、実用上、0.01nm以上である。必要に応じて、基材の両面、少なくともバリア層を設ける側を研摩し、平滑性を向上させておいてもよい。
また、上記に挙げた樹脂等を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。
本発明で用いられる基材は、従来公知の一般的な方法により製造することが可能である。例えば、材料となる樹脂を押し出し機により溶融し、環状ダイやTダイにより押し出して急冷することにより、実質的に無定形で配向していない未延伸の基材を製造することができる。また、未延伸の基材を一軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸、チューブラー式同時二軸延伸等の公知の方法により、基材の流れ(縦軸)方向、または基材の流れ方向と直角(横軸)方向に延伸することにより延伸基材を製造することができる。この場合の延伸倍率は、基材の原料となる樹脂に合わせて適宜選択することできるが、縦軸方向および横軸方向にそれぞれ2〜10倍が好ましい。
基材の少なくとも本発明に係るバリア層を設ける側には、密着性向上のための公知の種々の処理、例えばコロナ放電処理、火炎処理、酸化処理、またはプラズマ処理や、後述するプライマー層の積層等を行うことが好ましく、必要に応じて上記処理を組み合わせて行うことがより好ましい。
[剥離基材]
本発明に係るガスバリア性フィルムの構成要件ではないが、図1(d)に示すように、製造段階で用いる剥離基材としては、特に制限されるものではなく、従来公知の剥離基材を用いることができる。具体的には、例えば、実施例に示すように、上記基材表面に離型剤層を形成したものを用いることができる。具体的な離型剤層としては、例えば、シリコーン樹脂のほか、エポキシ樹脂などを用いることができる。
該離型剤層の厚さとしては、10〜250μm、好ましくは25〜100μmの範囲とするのが望ましい。
剥離基材の形成方法としても、例えば、実施例に示すように、シリコーン樹脂溶液等の離型剤溶液を作製する。市販の硬化型シリコーン(信越化学工業(株)製・KS−847Hなど)をメチルエチルケトンやトルエンなどの溶液に溶解させ、塗布に適した粘度となるようにシリコーン剤の固形分濃度を調整することで、離型剤溶液としてのシリコーン樹脂溶液を作製する。次に、この離型剤溶液を、乾燥後の塗膜厚が所定の厚さとなるようにバーコーター等を用いて上記基材フィルムに塗布し、所定の加熱温度で一定時間で乾燥および硬化反応を行わせて、ロール状に巻回した、離型剤層を有する剥離基材フィルムを得ることができるが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
[バリア層]
本発明に係るバリア層は、図1に示すように、接着剤層14を介して、その両側にそれぞれ設けられる層(図1の12a(12a1、12a2)、12b(12b1、12b2)参照)であり、ケイ素、酸素、および炭素を含有する層である。通常は、図1に示すように、基材の少なくとも一方の面に形成される。そして、該バリア層は、上記条件(i)〜(iii)を満たす。
まず、バリア層は、(i)前記バリア層の膜厚方向における前記バリア層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、前記バリア層の膜厚の90%以上(上限:100%)の領域で、(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)、(炭素の原子比)の順で多い(原子比がO>Si>C)。前記の条件(i)を満たさない場合、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性や屈曲性が不十分となる。ここで、上記炭素分布曲線において、上記(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)および(炭素の原子比)の関係は、バリア層の膜厚の、少なくとも90%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましく、少なくとも93%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましい。ここで、バリア層の膜厚の少なくとも90%以上とは、バリア層中で連続していなくてもよく、単に90%以上の部分で上記した関係を満たしていればよい。
また、バリア層は、(ii)前記炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有する。該バリア層は、前記炭素分布曲線が少なくとも3つの極値を有することが好ましく、少なくとも4つの極値を有することがより好ましいが、5つ以上有してもよい。前記炭素分布曲線の極値が1つ以下である場合、得られるガスバリア性フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性が不十分となる。なお、炭素分布曲線の極値の上限は、特に制限されないが、例えば、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは20以下である。極値の数は、バリア層の膜厚にも起因するため、一概に規定することはできない。
ここで、少なくとも2つの極値を有する場合(好ましくは3つ以上の極値を有する場合)においては、前記炭素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における前記バリア層の膜厚方向における前記バリア層の表面からの距離(L)の差の絶対値(以下、単に「極値間の距離」とも称する)が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、75nm以下であることが特に好ましい。このような極値間の距離であれば、バリア層中に炭素原子比が多い部位(極大値)が適度な周期で存在するため、バリア層に適度な屈曲性を付与し、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラックの発生をより有効に抑制・防止できる。なお、本明細書において「極値」とは、前記バリア層の膜厚方向における前記バリア層の表面からの距離(L)に対する元素の原子比の極大値または極小値のことをいう。また、本明細書において「極大値」とは、バリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が増加から減少に変わる点であって、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点からバリア層の膜厚方向におけるバリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上減少していればよい。同様にして、本明細書において「極小値」とは、バリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点からバリア層の膜厚方向におけるバリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上増加していればよい。ここで、少なくとも3つの極値を有する場合の、極値間の距離の下限は、極値間の距離が小さいほどガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果が高いため、特に制限されないが、バリア層の屈曲性、クラックの抑制/防止効果、熱膨張性などを考慮すると、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。
さらに、バリア層は、(iii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「Cmax−Cmin差」とも称する)が5at%以上である。前記絶対値が5at%未満では、得られるガスバリア性フィルムを屈曲させた場合に、ガスバリア性が不十分となる。Cmax−Cmin差は6at%以上であることが好ましく、7at%以上であることがより好ましく、10at%以上であることが特に好ましい。上記Cmax−Cmin差とすることによって、ガスバリア性をより向上することができる。なお、本明細書において、「最大値」とは、各元素の分布曲線において最大となる各元素の原子比であり、極大値の中で最も高い値である。同様にして、本明細書において、「最小値」とは、各元素の分布曲線において最小となる各元素の原子比であり、極小値の中で最も低い値である。ここで、Cmax−Cmin差の上限は、特に制限されないが、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果などを考慮すると、50at%以下であることが好ましく、40at%以下であることがより好ましい。
加えて、(iv)該バリア層の厚みは、900nmを超えるものである。900nm以下の場合、ガスバリア性が不十分となる。該バリア層の厚みは950〜2000nmであることが好ましく、1000〜1500nmであることがより好ましい。
本発明において、前記バリア層の前記酸素分布曲線が少なくとも1つの極値を有することが好ましく、少なくとも2つの極値を有することがより好ましく、少なくとも3つの極値を有することがさらに好ましい。前記酸素分布曲線が極値を少なくとも1つ有する場合、得られるガスバリア性フィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより向上する。なお、酸素分布曲線の極値の上限は、特に制限されないが、例えば、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。酸素分布曲線の極値の数においても、バリア層の膜厚に起因する部分があり一概に規定できない。また、少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記酸素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における前記バリア層の膜厚方向におけるバリア層の表面からの距離の差の絶対値がいずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。このような極値間の距離の距離であれば、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラックの発生をより有効に抑制・防止できる。ここで、少なくとも3つの極値を有する場合の、極値間の距離の下限は、特に制限されないが、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果、熱膨張性などを考慮すると、10nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましい。
加えて、本発明において、前記バリア層の前記酸素分布曲線における酸素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「Omax−Omin差」とも称する)が3at%以上であることが好ましく、5at%以上であることがより好ましく、6at%以上であることがさらにより好ましく、7at%以上であることが特に好ましい。前記絶対値が3at%以上であれば、得られるガスバリア性フィルムのフィルムを屈曲させた場合におけるガスバリア性がより向上する。ここで、Omax−Omin差の上限は、特に制限されないが、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果などを考慮すると、50at%以下であることが好ましく、40at%以下であることがより好ましい。
本発明において、前記バリア層の前記ケイ素分布曲線におけるケイ素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「Simax−Simin差」とも称する)が10at%以下であることが好ましく、7at%以下であることがより好ましく、5at%以下であることがさらに好ましく、3at%以下であることが特に好ましい。前記絶対値が10at%以下である場合、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性がより向上する。ここで、Simax−Simin差の下限は、Simax−Simin差が小さいほどガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果が高いため、特に制限されないが、ガスバリア性などを考慮すると、1at%以上であることが好ましく、2at%以上であることがより好ましい。
また、本発明において、バリア層の膜厚方向に対する炭素および酸素原子の合計量はほぼ一定であることが好ましい。これにより、バリア層は適度な屈曲性を発揮し、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生をより有効に抑制・防止されうる。より具体的には、バリア層の膜厚方向における該バリア層の表面からの距離(L)とケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する、酸素原子および炭素原子の合計量の比率(酸素および炭素の原子比)との関係を示す酸素炭素分布曲線において、前記酸素炭素分布曲線における酸素および炭素の原子比の合計の最大値および最小値の差の絶対値(以下、単に「OCmax−OCmin差」とも称する)が5at%未満であることが好ましく、4at%未満であることがより好ましく、3at%未満であることがさらに好ましい。前記絶対値が5at%未満であれば、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性がより向上する。なお、OCmax−OCmin差の下限は、OCmax−OCmin差が小さいほど好ましいため、0at%であるが、0.1at%以上であれば十分である。
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線、および前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における前記バリア層の膜厚方向における前記バリア層の表面からの距離(L)に概ね相関することから、「バリア層の膜厚方向におけるバリア層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出されるバリア層の表面からの距離を採用することができる。なお、本発明では、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線および酸素炭素分布曲線は、下記測定条件にて作成した。
(測定条件)
エッチングイオン種:アルゴン(Ar+);
エッチング速度(SiO2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec;
エッチング間隔(SiO2換算値):10nm;
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名“VG Theta Probe”;
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポットおよびそのサイズ:800×400μmの楕円形。
本発明において、バリア層の厚み(乾燥膜厚)は、上記(i)〜(iii)を満たす限り、特に制限されない。バリア層の厚み(ここでは、図1に示すバリア層12a、12a1、12a2、12b、12b1、12b2の個々のバリア層の厚みをいう)は、5〜3000nmであることが好ましく、10〜2000nmであることがより好ましく、100〜1000nmであることが特に好ましい。バリア層が5nm以上の厚みであれば、ガスバリア性フィルムは、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等の優れたガスバリア性を有効に発現することができる。またバリア層が3000nm以下の厚みであれば、屈曲によるガスバリア性の低下を大幅に抑制し、屈曲時のクラック発生抑制/防止効果を有効に発揮できる点で優れている。なお、バリア層が2層以上から構成される場合には、各バリア層が上記したような厚みを有することが好ましい。また、ガスバリア性フィルムを構成する、接着剤層を介してその両側に設けられてなる、少なくとも2層以上のバリア層全体の厚みは特に制限されないが、バリア層全体の厚み(乾燥膜厚)が、通常10〜10000nmの範囲であり、10〜5000nmの範囲であることが好ましく、100〜3000nmの範囲であることより好ましく、200〜2000nmの範囲であることが特に好ましい。バリア層全体の厚みが10nm以上であれば、ガスバリア性フィルムは、酸素ガスバリア性、水蒸気バリア性等の優れたガスバリア性を有効に発現することができる。またバリア層全体の厚みが10000nm以下であれば、屈曲によるガスバリア性の低下を大幅に抑制し、屈曲時のクラック発生抑制/防止効果を有効に発揮できる点で優れている。
本発明において、膜面全体において均一でかつ優れたガスバリア性を有するバリア層を形成するという観点から、前記バリア層が膜面方向(バリア層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。ここで、バリア層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定によりバリア層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線および前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
さらに、本発明においては、前記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。ここで、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記バリア層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該バリア層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(1)で表される条件を満たすことをいう。
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、上記条件(i)〜(iii)を全て満たすバリア層は、接着剤層を介して、その両側にそれぞれ1層のみを備えていてもよいし(図1(a)、(b)、(d)参照)、2層以上を備えていてもよい(図1(c)参照)。さらに、このような複数のバリア層の材質は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、および前記炭素分布曲線において、ケイ素の原子比、酸素の原子比、および炭素の原子比が、該バリア層の膜厚の90%以上の領域において前記(i)で表される条件を満たす場合には、前記バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、33〜67at%であることが好ましく、45〜67at%であることがより好ましい。さらに、前記バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、3〜33at%であることが好ましく、3〜25at%であることがより好ましい。
さらに、前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、および前記炭素分布曲線において、ケイ素の原子比、酸素の原子比、および炭素の原子比が、該バリア層の膜厚の90%以上の領域において、前記(i)で表される条件に代えて、(炭素の原子比)>(ケイ素の原子比)>(酸素の原子比)で表される条件(i’)を満たす場合には、前記バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の含有量の原子比率は、25〜45at%であることが好ましく、30〜40at%であることがより好ましい。また、前記バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の含有量の原子比率は、1〜33at%であることが好ましく、10〜27at%であることがより好ましい。さらに、前記バリア層中におけるケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の含有量の原子比率は、33〜66at%であることが好ましく、40〜57at%であることがより好ましい。
本発明では、バリア層の形成方法は特に制限されず、従来と方法を同様にしてあるいは適宜修飾して適用できる。バリア層は、好ましくは化学気相成長(CVD)法、特に、プラズマ化学気相成長法(プラズマCVD、PECVD(plasma−enhanced chemical vapor deposition)、以下、単に「プラズマCVD法」とも称する)により形成され、基材を一対の成膜ローラー上に配置し、前記一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させるプラズマCVD法により形成されることがより好ましい。また、該バリア層の配置は、特に制限されないが、基材上に配置されればよい。以下では、本発明で好ましく使用されるプラズマCVD法を利用してバリア層を形成する方法を以下に説明する。
[バリア層の形成方法]
次に、本発明に係るバリア層を形成する好ましい方法について説明する。本発明のガスバリア性フィルムは、前記基材(または剥離基材)(「バリア層形成方法」においては、これらをまとめて基材という)の少なくとも一方の表面上にバリア層を形成することにより製造することができる(図1(a)〜(d)参照)。なお、基材上にバリア層を形成させた後、さらに接着剤層を前記バリア層上に形成する操作を繰り返すことにより製造することもできる(図1(d)の層構成参照)。本発明に係るバリア層を前記基材の表面上に形成させる方法としては、ガスバリア性の観点から、プラズマCVD法を採用することが好ましい。なお、前記プラズマCVD法はペニング放電プラズマ方式のプラズマCVD法であってもよい。
また、プラズマCVD法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ローラーの間の空間にプラズマ放電を発生させることが好ましく、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラーのそれぞれに前記基材を配置して、一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにして、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラー上に基材を配置して、かかる一対の成膜ローラー間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分も同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、通常のローラーを使用しないプラズマCVD法と比較して成膜レートを倍にでき、なおかつ、略同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よく上記条件(i)〜(iii)を全て満たす層を形成することが可能となる。
また、このようにして一対の成膜ローラー間に放電する際には、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが好ましい。さらに、このようなプラズマCVD法に用いる成膜ガスとしては、有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量未満であることが好ましい。また、本発明のガスバリア性フィルムにおいては、前記バリア層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
また、本発明に係るガスバリア性フィルムは、生産性の観点から、ロールツーロール方式で前記基材の表面上に前記バリア層を形成させることが好ましい。また、このようなプラズマCVD法によりバリア層を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え、かつ前記一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、図1に示す製造装置を用いた場合には、プラズマCVD法を利用しながらロールツーロール方式で製造することも可能となる。
以下、図2を参照しながら、本発明に係るバリア層の形成方法について、より詳細に説明する。なお、図2は、本発明に係るバリア層を製造するために好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。また、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
図2に示す製造装置31は、送り出しローラー32と、搬送ローラー33、34、35、36と、成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、成膜ローラー39および40の内部に設置された磁場発生装置43、44と、巻取りローラー45とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、磁場発生装置43、44とが図示を省略した真空チャンバ内に配置されている。さらに、このような製造装置31において前記真空チャンバは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバ内の圧力を適宜調整することが可能となっている。
このような製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39と成膜ローラー40)を一対の対向電極として機能させることが可能となるように、各成膜ローラーがそれぞれプラズマ発生用電源42に接続されている。そのため、このような製造装置31においては、プラズマ発生用電源42により電力を供給することにより、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の空間に放電することが可能であり、これにより成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の空間にプラズマを発生させることができる。なお、このように、成膜ローラー39と成膜ローラー40とを電極としても利用する場合には、電極としても利用可能なようにその材質や設計を適宜変更すればよい。また、このような製造装置においては、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39および40)は、その中心軸が同一平面上において略平行となるようにして配置することが好ましい。このようにして、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39および40)を配置することにより、成膜レートを倍にでき、なおかつ、同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となる。そして、このような製造装置によれば、CVD法により基材2の表面上にバリア層3を形成することが可能であり、成膜ローラー39上において基材2の表面上にバリア層成分を堆積させつつ、さらに成膜ローラー40上においても基材2の表面上にバリア層成分を堆積させることもできるため、基材2の表面上にバリア層を効率よく形成することができる。
成膜ローラー39および成膜ローラー40の内部には、成膜ローラーが回転しても回転しないようにして固定された磁場発生装置43および44がそれぞれ設けられている。
成膜ローラー39および成膜ローラー40にそれぞれ設けられた磁場発生装置43および44は、一方の成膜ローラー39に設けられた磁場発生装置43と他方の成膜ローラー40に設けられた磁場発生装置44との間で磁力線がまたがらず、それぞれの磁場発生装置43、44がほぼ閉じた磁気回路を形成するように磁極を配置することが好ましい。このような磁場発生装置43、44を設けることにより、各成膜ローラー39、40の対向側表面付近に磁力線が膨らんだ磁場の形成を促進することができ、その膨出部にプラズマが収束され易くなるため、成膜効率を向上させることができる点で優れている。
また、成膜ローラー39および成膜ローラー40にそれぞれ設けられた磁場発生装置43および44は、それぞれローラー軸方向に長いレーストラック状の磁極を備え、一方の磁場発生装置43と他方の磁場発生装置44とは向かい合う磁極が同一極性となるように磁極を配置することが好ましい。このような磁場発生装置43、44を設けることにより、それぞれの磁場発生装置43、44について、磁力線が対向するローラー側の磁場発生装置にまたがることなく、ローラー軸の長さ方向に沿って対向空間(放電領域)に面したローラー表面付近にレーストラック状の磁場を容易に形成することができ、その磁場にプラズマを収束させることができため、ローラー幅方向に沿って巻き掛けられた幅広の基材2を用いて効率的に蒸着膜であるバリア層3を形成することができる点で優れている。
成膜ローラー39および成膜ローラー40としては適宜公知のローラーを用いることができる。このような成膜ローラー39および40としては、より効率よく薄膜を形成せしめるという観点から、直径が同一のものを使うことが好ましい。また、このような成膜ローラー39および40の直径としては、放電条件、チャンバのスペース等の観点から、直径が300〜1000mmφの範囲、特に300〜700mmφの範囲が好ましい。成膜ローラーの直径が300mmφ以上であれば、プラズマ放電空間が小さくなることがないため生産性の劣化もなく、短時間でプラズマ放電の全熱量が基材2にかかることを回避できることから、基材2へのダメージを軽減でき好ましい。一方、成膜ローラーの直径が1000mmφ以下であれば、プラズマ放電空間の均一性等も含めて装置設計上、実用性を保持することができるため好ましい。
このような製造装置31においては、基材2の表面がそれぞれ対向するように、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39と成膜ローラー40)上に、基材2が配置されている。このようにして基材2を配置することにより、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の対向空間に放電を行ってプラズマを発生させる際に、一対の成膜ローラー間に存在する基材2のそれぞれの表面を同時に成膜することが可能となる。すなわち、このような製造装置によれば、プラズマCVD法により、成膜ローラー39上にて基材2の表面上にバリア層成分を堆積させ、さらに成膜ローラー40上にてバリア層成分を堆積させることができるため、基材2の表面上にバリア層を効率よく形成することが可能となる。
このような製造装置に用いる送り出しローラー32および搬送ローラー33、34、35、36としては適宜公知のローラーを用いることができる。また、巻取りローラー45としても、基材2上にバリア層3を形成したガスバリア性フィルム1を巻き取ることが可能なものであればよく、特に制限されず、適宜公知のローラーを用いることができる。
また、ガス供給管41および真空ポンプとしては、原料ガス等を所定の速度で供給または排出することが可能なものを適宜用いることができる。
また、ガス供給手段であるガス供給管41は、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の対向空間(放電領域;成膜ゾーン)の一方に設けることが好ましく、真空排気手段である真空ポンプ(図示せず)は、前記対向空間の他方に設けることが好ましい。このようにガス供給手段であるガス供給管41と、真空排気手段である真空ポンプを配置することにより、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間の対向空間に効率良く成膜ガスを供給することができ、成膜効率を向上させることができる点で優れている。
さらに、プラズマ発生用電源42としては、適宜公知のプラズマ発生装置の電源を用いることができる。このようなプラズマ発生用電源42は、これに接続された成膜ローラー39と成膜ローラー40とに電力を供給して、これらを放電のための対向電極として利用することを可能とする。このようなプラズマ発生用電源42としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが可能なもの(交流電源など)を利用することが好ましい。また、このようなプラズマ発生用電源42としては、より効率よくプラズマCVDを実施することが可能となることから、印加電力を100W〜10kWとすることができ、かつ交流の周波数を50Hz〜500kHzとすることが可能なものであることがより好ましい。また、磁場発生装置43、44としては適宜公知の磁場発生装置を用いることができる。さらに、基材2としては、本発明で用いられる基材の他に、バリア層3を予め形成させたものを用いることができる。このように、基材2としてバリア層3を予め形成させたものを用いることにより、バリア層3の厚みを厚くすることも可能である。
このような図2に示す製造装置31を用いて、例えば、原料ガスの種類、プラズマ発生装置の電極ドラムの電力、真空チャンバ内の圧力、成膜ローラーの直径、ならびにフィルム(基材)の搬送速度を適宜調整することにより、本発明に係るバリア層を製造することができる。すなわち、図2に示す製造装置31を用いて、成膜ガス(原料ガス等)を真空チャンバ内に供給しつつ、一対の成膜ローラー(成膜ローラー39および40)間に放電を発生させることにより、前記成膜ガス(原料ガス等)がプラズマによって分解され、成膜ローラー39上の基材2の表面上および成膜ローラー40上の基材2の表面上に、バリア層3がプラズマCVD法により形成される。この際、成膜ローラー39、40のローラー軸の長さ方向に沿って対向空間(放電領域)に面したローラー表面付近にレーストラック状の磁場が形成して、磁場にプラズマを収束させる。このため、基材2が、図2中の成膜ローラー39のA地点および成膜ローラー40のB地点を通過する際に、バリア層で炭素分布曲線の極大値が形成される。これに対して、基材2が、図2中の搬送ローラー39のC1およびC2地点、ならびに成膜ローラー40のC3およびC4地点を通過する際に、バリア層で炭素分布曲線の極小値が形成される。このため、2つの成膜ローラーに対して、通常、5つの極値が生成する。また、バリア層の極値間の距離(炭素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値におけるバリア層の膜厚方向におけるバリア層の表面からの距離(L)の差の絶対値)は、成膜ローラー39、40の回転速度(基材の搬送速度)によって調節できる。なお、このような成膜に際しては、基材2が送り出しローラー32や成膜ローラー39等により、それぞれ搬送されることにより、ロールツーロール方式の連続的な成膜プロセスにより基材2の表面上にバリア層3が形成される。
前記ガス供給管41から対向空間に供給される成膜ガス(原料ガス等)としては、原料ガス、反応ガス、キャリアガス、放電ガスが単独または2種以上を混合して用いることができる。バリア層3の形成に用いる前記成膜ガス中の原料ガスとしては、形成するバリア層3の材質に応じて適宜選択して使用することができる。このような原料ガスとしては、例えば、ケイ素を含有する有機ケイ素化合物や炭素を含有する有機化合物ガスを用いることができる。このような有機ケイ素化合物としては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ヘキサメチルジシラン(HMDS)、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。これらの有機ケイ素化合物の中でも、化合物の取り扱い性および得られるバリア層のガスバリア性等の特性の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンが好ましい。これらの有機ケイ素化合物は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。また、炭素を含有する有機化合物ガスとしては、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンを例示することができる。これら有機ケイ素化合物ガスや有機化合物ガスは、バリア層3の種類に応じて適切な原料ガスが選択される。
また、前記成膜ガスとしては、前記原料ガスの他に反応ガスを用いてもよい。このような反応ガスとしては、前記原料ガスと反応して酸化物、窒化物等の無機化合物となるガスを適宜選択して使用することができる。酸化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、酸素、オゾンを用いることができる。また、窒化物を形成するための反応ガスとしては、例えば、窒素、アンモニアを用いることができる。これらの反応ガスは、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができ、例えば酸窒化物を形成する場合には、酸化物を形成するための反応ガスと窒化物を形成するための反応ガスとを組み合わせて使用することができる。
前記成膜ガスとしては、前記原料ガスを真空チャンバ内に供給するために、必要に応じて、キャリアガスを用いてもよい。さらに、前記成膜ガスとしては、プラズマ放電を発生させるために、必要に応じて、放電用ガスを用いてもよい。このようなキャリアガスおよび放電用ガスとしては、適宜公知のものを使用することができ、例えば、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス;水素を用いることができる。
このような成膜ガスが原料ガスと反応ガスを含有する場合には、原料ガスと反応ガスの比率としては、原料ガスと反応ガスとを完全に反応させるために理論上必要となる反応ガスの量の比率よりも、反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことが好ましい。反応ガスの比率を過剰にし過ぎないことで、形成されるバリア層3によって、優れたバリア性や耐屈曲性を得ることができる点で優れている。また、前記成膜ガスが前記有機ケイ素化合物と酸素とを含有するものである場合には、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量以下であることが好ましい。
以下、前記成膜ガスとして、原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(有機ケイ素化合物、HMDSO、(CH3)6Si2O)と、反応ガスとしての酸素(O2)を含有するものとを用い、ケイ素−酸素系の薄膜を製造する場合を例に挙げて、成膜ガス中の原料ガスと反応ガスとの好適な比率等について、より詳細に説明する。
原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO、(CH3)6Si2O)と、反応ガスとしての酸素(O2)と、を含有する成膜ガスをプラズマCVDにより反応させてケイ素−酸素系の薄膜を作製する場合、その成膜ガスにより下記反応式(1)で表されるような反応が起こり、二酸化ケイ素が生成する。
このような反応においては、ヘキサメチルジシロキサン1モルを完全酸化するのに必要な酸素量は12モルである。そのため、成膜ガス中に、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素を12モル以上含有させて完全に反応させた場合には、均一な二酸化ケイ素膜が形成されてしまう(炭素分布曲線が存在しない)ため、上記条件(i)〜(iii)を全て満たすバリア層を形成することができなくなってしまう。そのため、本発明において、バリア層を形成する際には、上記反応式(1)の反応が完全に進行してしまわないように、ヘキサメチルジシロキサン1モルに対して酸素量を化学量論比の12モルより少なくすることが好ましい。
なお、実際のプラズマCVDチャンバ内の反応では、原料のヘキサメチルジシロキサンと反応ガスの酸素とは、ガス供給部から成膜領域へ供給されて成膜されるので、反応ガスの酸素のモル量(流量)が原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の12倍のモル量(流量)であったとしても、現実には完全に反応を進行させることはできず、酸素の含有量を化学量論比に比して大過剰に供給して初めて反応が完結すると考えられる(例えば、CVDにより完全酸化させて酸化ケイ素を得るために、酸素のモル量(流量)を原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の20倍以上程度とする場合もある)。そのため、原料のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)は、化学量論比である12倍量以下(より好ましくは、10倍以下)の量であることが好ましい。このような比でヘキサメチルジシロキサンおよび酸素を含有させることにより、完全に酸化されなかったヘキサメチルジシロキサン中の炭素原子や水素原子がバリア層中に取り込まれ、上記条件(i)〜(iv)を全て満たすバリア層を形成することが可能となって、得られるガスバリア性フィルムにおいて優れたガスバリア性および耐屈曲性を発揮させることが可能となる。なお、有機EL素子や太陽電池などのような透明性を必要とするデバイス用のフレキシブル基板への利用の観点から、成膜ガス中のヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)に対する酸素のモル量(流量)の下限は、ヘキサメチルジシロキサンのモル量(流量)の0.1倍より多い量とすることが好ましく、0.5倍より多い量とすることがより好ましい。
また、真空チャンバ内の圧力(真空度)は、原料ガスの種類等に応じて適宜調整することができるが、0.5Pa〜100Paの範囲とすることが好ましい。
また、このようなプラズマCVD法において、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電するために、プラズマ発生用電源42に接続された電極ドラム(本実施形態においては、成膜ローラー39および40に設置されている)に印加する電力は、原料ガスの種類や真空チャンバ内の圧力等に応じて適宜調整することができるものであり一概に言えるものでないが、0.1〜10kWの範囲とすることが好ましい。このような印加電力が100W以上であれば、パーティクルが発生を十分に抑制することができ、他方、10kW以下であれば、成膜時に発生する熱量を抑えることができ、成膜時の基材表面の温度が上昇するのを抑制できる。そのため基材が熱負けすることなく、成膜時に皺が発生するのを防止できる点で優れている。
基材2の搬送速度(ライン速度)は、原料ガスの種類や真空チャンバ内の圧力等に応じて適宜調整することができるが、0.25〜100m/minの範囲とすることが好ましく、0.5〜20m/minの範囲とすることがより好ましい。ライン速度が0.25m/min以上であれば、基材に熱に起因する皺の発生を効果的に抑制することができる。他方、100m/min以下であれば、生産性を損なうことなく、バリア層として十分な厚みを確保することができる点で優れている。
上記したように、本実施形態のより好ましい態様としては、本発明に係るバリア層を、図2に示す対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いたプラズマCVD法によって成膜することを特徴とするものである。これは、対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いて量産する場合に、可撓性(屈曲性)に優れ、機械的強度、特にロールツーロールでの搬送時の耐久性と、バリア性能とが両立するバリア層を効率よく製造することができるためである。このような製造装置は、太陽電池や電子部品などに使用される温度変化に対する耐久性が求められるガスバリア性フィルムを、安価でかつ容易に量産することができる点でも優れている。
[接着剤層]
本発明のガスバリア性フィルムは、少なくとも1つの接着剤層(図1の接着剤層14参照)を有する。詳しくは、図1(a)〜(d)に示すように、ケイ素、酸素および炭素を含有するバリア層12a(12a1、12a2)、12b(12b1、12b2)、が、接着剤層14を介してその両側にそれぞれ設けられた層構成となるように、接着剤層が用いられている。通常は、図1に示すように、バリア層12aを有するフィルム13aと、バリア層12bを有するフィルム13bと(更にはバリア層12c、・・を有するフィルム13c、・・を)、接着剤層14(更には接着剤層14a・・)を介して、2枚以上積層したものである。
接着剤層14の付与の方法としては、接着剤をフィルム(図1の13a、13b、13b’参照))の片面(基材・剥離基材側またはバリア層側)に塗布する方法、あるいは接着性フィルムを接着剤層14として、2枚のフィルム(図1の13a、13b)間に積層させる方法がいずれも本発明では使用できる。
接着剤層14に使用する接着剤としては、(1)熱硬化型接着剤、(2)エネルギー線硬化系接着剤等を使用することができる。
上記(1)の熱硬化系接着剤としては、例えばポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、エーテル系樹脂、フェノール系樹脂、フラン系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、エポキシ系樹脂等が挙げられる。
上記(2)のエネルギー線硬化型接着剤としては、例えば、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。上記のうち、好ましくは、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びアクリル系樹脂から選択される少なくとも1種である。さらに気泡の発生を少なくする点から、エポキシ系樹脂、又はアクリル系樹脂が好ましく、エポキシ系樹脂がより好ましい。
接着剤層14は、ドライラミネート法により、接着剤を蒸着膜(バリア層)面またはフィルム(基材、剥離基材)面上に塗布し、乾燥することにより形成することが好ましい。接着剤層14を形成後、各層を熱ロールでニップして貼り合わせるなど、常法に従ってドライラミネーションを行うことにより、多層フィルム(ガスバリア性フィルム)を作製することができる。
具体的な接着剤の配合例としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート成分、エポキシ(メタ)アクリレート成分、脂環式(メタ)アクリレート成分、及び必要に応じて含有される重合開始剤などからなるものが挙げられる。
また、接着剤としては、ウレタン系、アクリル系、ポリエステル系などの各種接着剤を使用することができる。これらの中でも、ウレタン系のポリオール成分とポリイソシアネート成分とからなる二液反応型が好ましい。ウレタン系接着剤としては、反応により、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂とポリエステル系ポリウレタン樹脂を形成するものがあり、ポリエステル系ポリウレタン樹脂を形成するものが好ましい。好ましい二液反応型のウレタン系接着剤としては、東洋モートン株式会社から市販されているAD−502/CAT−10、AD−578A/CAT−10などが挙げられる。
接着剤層14の厚み(図1(a)に示す1層分の接着剤層の厚み)は、通常1〜20μm、好ましくは2〜10μm、より好ましくは3〜5μm程度である。該接着剤層14の厚みが20μm以下であれば、貼り合わせの接着剤層14からガスが入りこみバリア性が劣化するのを効果的に防止することができる。また1μm以上であれば、長期間安定した接着性が有効に発現することができる点で優れている。
[下地層(平滑層、プライマー層)]
本発明のガスバリア性フィルムは、基材(剥離基材)のバリア層を有する面、好ましくは基材(剥離基材)とバリア層との間に下地層(プライマー層)または平滑層を有していてもよい。下地層または平滑層は、突起等が存在する基材(剥離基材)の粗面を平坦化するために、あるいは、基材(剥離基材)に存在する突起により、バリア層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。本発明においては、下地層または平滑層を設けた場合、接着剤層を介してその両側に設けられたバリア層の収縮、膨張等の力学的な力の緩和効果をより一層大きくできるため、接着剤層での接着の際、及び経時での環境条件による変動により接着剤層が収縮、膨張等しても、接着面での剥がれが抑えられ、ガスバリア機能が劣化するのを効果的に抑制することができる点でも優れている。このような下地層または平滑層は、いずれの材料で形成されてもよいが、炭素含有ポリマーを含むことが好ましく、炭素含有ポリマーから構成されることがより好ましい。すなわち、本発明のガスバリア性フィルムは、基材とバリア層との間に炭素含有ポリマーを含む下地層(図1(a)〜(d)参照)、またはバリア層上(剥離基材とバリア層との間に形成し、剥離基材を剥離除去した後のバリア層上)に、炭素含有ポリマーを含む平滑層(図1(d)参照)をさらに有することが好ましい。
また、下地層(平滑層)は、炭素含有ポリマー、好ましくは硬化性樹脂を含む。前記硬化性樹脂としては特に制限されず、活性エネルギー線硬化性材料等に対して紫外線等の活性エネルギー線を照射し硬化させて得られる活性エネルギー線硬化性樹脂や、熱硬化性材料を加熱することにより硬化して得られる熱硬化性樹脂等が挙げられる。該硬化性樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
下地層(平滑層)の形成に用いられる活性エネルギー線硬化性材料としては、例えば、アクリレート化合物を含有する組成物、アクリレート化合物とチオール基を含有するメルカプト化合物とを含有する組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、グリセロールメタクリレート等の多官能アクリレートモノマーを含有する組成物等が挙げられる。具体的には、JSR株式会社製のUV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR(登録商標)シリーズ(シリカ微粒子に重合性不飽和基を有する有機化合物を結合させてなる化合物)を用いることができる。また、上記のような組成物の任意の混合物を使用することも可能であり、光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性のモノマーを含有している活性エネルギー線硬化性材料であれば特に制限はない。
光重合性不飽和結合を分子内に1個以上有する反応性モノマーとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、n−デシルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、アリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、ブトキシエチレングリコールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、グリセロールアクリレート、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、イソボニルアクリレート、イソデキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、2−メトリキエチルアクリレート、メトキシエチレングリコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ステアリルアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサジオールジアクリレート、1,3−プロパンジオールアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、2,2−ジメチロールプロパンジアクリレート、グリセロールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、グリセロールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ポリオキシエチルトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールトリアクリレート、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリオキシプロピルトリメチロールプロパントリアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、1,2,4−ブタンジオールトリアクリレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールジアクリレート、ジアリルフマレート、1,10−デカンジオールジメチルアクリレート、ペンタエリスリトールヘキサアクリレート、および、上記のアクリレートをメタクリレートに換えたもの、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、1−ビニル−2−ピロリドン等が挙げられる。上記の反応性モノマーは、1種または2種以上の混合物として、あるいはその他の化合物との混合物として使用することができる。
活性エネルギー線硬化性材料を含む組成物は、光重合開始剤を含有することが好ましい。
光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モノフォリノ−1−プロパン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モノフォリノフェニル)−ブタノン−1、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、四臭化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性の色素とアスコルビン酸、トリエタノールアミン等の還元剤の組み合わせ等が挙げられ、これらの光重合開始剤を1種または2種以上の組み合わせで使用することができる。
熱硬化性材料としては、具体的には、クラリアント社製のトゥットプロムシリーズ(有機ポリシラザン)、セラミックコート株式会社製のSP COAT耐熱クリアー塗料、アデカ社製のナノハイブリッドシリコーン、DIC株式会社製のユニディック(登録商標)V−8000シリーズ、EPICLON(登録商標) EXA−4710(超高耐熱性エポキシ樹脂)、信越化学工業株式会社製のシリコン樹脂 X−12−2400(商品名)、日東紡績株式会社製の無機・有機ナノコンポジット材料SSGコート、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリアミドアミン−エピクロルヒドリン樹脂等が挙げられる。
下地層(平滑層)の形成方法は、特に制限はないが、硬化性材料を含む塗布液をスピンコーティング法、スプレー法、ブレードコーティング法、ディップ法、グラビア印刷法等のウエットコーティング法、または蒸着法等のドライコーティング法により塗布し塗膜を形成した後、可視光線、赤外線、紫外線、X線、α線、β線、γ線、電子線等の活性エネルギー線の照射および/または加熱により、前記塗膜を硬化させて形成する方法が好ましい。活性エネルギー線を照射する方法としては、例えば超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等を用い好ましくは100〜400nm、より好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、または、走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射する方法が挙げられる。
硬化性材料を溶媒に溶解または分散させた塗布液を用いて下地層を形成する際に使用する溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール類、α−もしくはβ−テルピネオール等のテルペン類等、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチルケトン、2−ヘプタノン、4−ヘプタノン等のケトン類、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、セロソルブ、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2−メトキシエチルアセテート、シクロヘキシルアセテート、2−エトキシエチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート等の酢酸エステル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル、3−エトキシプロピオン酸エチル、安息香酸メチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。
下地層(平滑層)は、上述の材料に加えて、必要に応じて、熱可塑性樹脂や酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤等の添加剤を含有することができる。また、成膜性向上および膜のピンホール発生防止等のために適切な樹脂や添加剤を使用してもよい。熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニルおよびその共重合体、塩化ビニルおよびその共重合体、塩化ビニリデンおよびその共重合体等のビニル樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、アクリル樹脂およびその共重合体、メタクリル樹脂およびその共重合体等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
下地層(平滑層)の平滑性は、JIS B 0601:2001年で規定される表面粗さで表現される値で、最大断面高さRt(p)が、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。10nm以上であれば、接着性の点で好ましく、30nm以下であればその上のバリア層の均一性の点で好ましい。
表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡)で、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が数十μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する粗さである。
下地層(平滑層)は、上記炭素含有ポリマー中に、添加剤として、表面に光重合反応性を有する感光性基が導入された反応性シリカ粒子(以下、単に「反応性シリカ粒子」ともいう)を含んでもよい。ここで、光重合反応性を有する感光性基としては、(メタ)アクリロイルオキシ基に代表される重合性不飽和基等を挙げることができる。また上記炭素含有ポリマーは、この反応性シリカ粒子の表面に導入された光重合反応性を有する感光性基と光重合反応可能な化合物、例えば、重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物を含むものであってもよい。また上記炭素含有ポリマーとしては、このような反応性シリカ粒子や重合性不飽和基を有する不飽和有機化合物に適宜汎用の希釈溶剤を混合することによって固形分を調整したものを用いることができる。
ここで、反応性シリカ粒子の平均粒子径としては、0.001〜0.1μmの平均粒子径であることが好ましい。平均粒子径をこのような範囲にすることにより、後述する平均粒子径1〜10μmの無機粒子からなるマット剤と組合せて用いることによって、本発明のガスバリア性フィルムを有機エレクトロルミネッセンス素子、有機薄膜太陽電池及び液晶ディスプレイ等の電気デバイスに適用する上で、防眩性と解像性とをバランスよく満たす光学特性と、ハードコート性とを兼ね備えた平滑層を形成し易くなる。なお、このような効果をより得易くする観点からは、さらに平均粒子径として0.001〜0.01μmのものを用いることがより好ましい。本発明に用いられる平滑層中には、上述の様な無機粒子を質量比として20%以上60%以下含有することが好ましい。20%以上添加することで、バリア層との密着性が向上する。また60%以下とすることで、フィルムを湾曲(屈曲)させたり、加熱処理を行った場合にクラックが生じたり、ガスバリア性フィルムの透明性や屈折率等の光学的物性に影響を及ぼすことなく、効果的に利用することができ利点で優れている。
本発明では、重合性不飽和基修飾加水分解性シランが、加水分解性シリル基の加水分解反応によって、シリカ粒子との間に、シリルオキシ基を生成して化学的に結合しているようなものを、反応性シリカ粒子として用いることができる。
前記加水分解性シリル基としては、例えば、アルコキシリル基、アセトキシリル基等のカルボキシリレートシリル基、クロシリル基等のハロゲン化シリル基、アミノシリル基、オキシムシリル基、ヒドリドシリル基等が挙げられる。
前記重合性不飽和基としては、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、プロペニル基、ブタジエニル基、スチリル基、エチニイル基、シンナモイル基、マレート基、アクリルアミド基等が挙げられる。
下地層(平滑層)の厚さ(1層分の下地層(平滑層)の厚さ)としては、特に制限されないが、0.1〜10μm、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜7μmの範囲が望ましい。0.1μm以上にすることにより、下地層(平滑層)を有するフィルムとしての平滑性を十分なものにし易くなる。また10μm以下にすることにより、下地層(平滑層)を有するフィルムの光学特性のバランスを調整し易くなると共に、平滑層をフィルムの一方の面にのみ設けた場合におけるフィルムのカールを抑え易くすることができるようになる点で優れている。
[アンカーコート層]
本発明に係る基材の表面には、接着性(密着性)の向上を目的として、アンカーコート層を易接着層として形成してもよい。このアンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1種または2種以上併せて使用することができる。上記アンカーコート剤は、市販品を使用してもよい。具体的には、シロキサン系UV硬化型ポリマー溶液(信越化学工業株式会社製、「X−12−2400」の3%イソプロピルアルコール溶液)を用いることができる。
これらのアンカーコート剤には、従来公知の添加剤を加えることもできる。そして、上記のアンカーコート剤は、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知の方法により基材上にコーティングし、溶剤、希釈剤等を乾燥除去することによりコーティングすることができる。上記のアンカーコート剤の塗布量としては、0.1〜5g/m2(乾燥状態)程度が好ましい。なお、市販の易接着層付き基材を用いてもよい。
または、アンカーコート層は、物理蒸着法または化学蒸着法といった気相法により形成することもできる。例えば、特開2008−142941号公報に記載のように、接着性等を改善する目的で酸化ケイ素を主体とした無機膜を形成することもできる。
また、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10.0μm程度が好ましい。
[ブリードアウト防止層]
本発明のガスバリア性フィルムは、ブリードアウト防止層をさらに有することができる。ブリードアウト防止層は、下地層を有するフィルムを加熱した際に、フィルム基材中から未反応のオリゴマー等が表面へ移行して、接触する面を汚染する現象を抑制する目的で、下地層を有する基材の反対面に設けられる。ブリードアウト防止層は、この機能を有していれば、基本的に下地層(平滑層)と同じ構成をとっても構わない。
ブリードアウト防止層に含ませることが可能な化合物としては、分子中に2個以上の重合性不飽和基を有する多価不飽和有機化合物、あるいは分子中に1個の重合性不飽和基を有する単価不飽和有機化合物等のハードコート剤を挙げることができる。
ここで、多価不飽和有機化合物としては、例え、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、単価不飽和有機化合物としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。
その他の添加剤として、マット剤を含有してもよい。マット剤としては、平均粒子径が0.1〜5μm程度の無機粒子が好ましい。
このような無機粒子としては、シリカ、アルミナ、タルク、クレイ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化ジルコニウム等の1種または2種以上を併せて使用することができる。
ここで、無機粒子からなるマット剤は、ハードコート剤の固形分100重量部に対して2重量部以上、好ましくは4重量部以上、より好ましくは6重量部以上、20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは16重量部以下の割合で混合されていることが望ましい。
また、ブリードアウト防止層には、ハードコート剤およびマット剤の他の成分として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、光重合開始剤等を含有させてもよい。
このような熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニルおよびその共重合体、塩化ビニルおよびその共重合体、塩化ビニリデンおよびその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール系樹脂、アクリル樹脂およびその共重合体、メタクリル樹脂およびその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
また、熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートプレポリマーとからなる熱硬化性ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
また、電離放射線硬化性樹脂としては、光重合性プレポリマーもしくは光重合性モノマー等の1種または2種以上を混合した電離放射線硬化塗料に、電離放射線(紫外線または電子線)を照射することで硬化するものを使用することができる。ここで光重合性プレポリマーとしては、1分子中に2個以上のアクリロイル基を有し、架橋硬化することにより3次元網目構造となるアクリル系プレポリマーが特に好ましく使用される。このアクリル系プレポリマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート等が使用できる。また光重合性モノマーとしては、上記に記載した多価不飽和有機化合物等が使用できる。
また、光重合開始剤としては、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾインベンゾエート、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−(4−モルフォリニル)−1−プロパン、α−アシロキシムエステル、チオキサンソン類等が挙げられる。
以上のようなブリードアウト防止層は、ハードコート剤、および必要に応じて他の成分を配合して、適宜必要に応じて用いる希釈溶剤によって塗布液として調製し、塗布液を基材フィルム表面に従来公知の塗布方法によって塗布した後、電離放射線を照射して硬化させることにより形成することができる。なお、電離放射線を照射する方法としては、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、メタルハライドランプ等から発せられる100〜400nm、好ましくは200〜400nmの波長領域の紫外線を照射する、または走査型やカーテン型の電子線加速器から発せられる100nm以下の波長領域の電子線を照射することにより行うことができる。
ブリードアウト防止層の厚さとしては、1〜10μm、好ましくは2〜7μmであることが望ましい。1μm以上にすることにより、フィルムとしての耐熱性を十分なものにし易くなり、10μm以下にすることにより、平滑フィルムの光学特性のバランスを調整し易くなると共に、平滑層を透明高分子フィルムの一方の面に設けた場合におけるバリアフィルムのカールを抑え易くすることができるようになる。
本発明のガスバリア性フィルムは上述したもののほか、特開2006−289627号公報の段落番号「0036」〜「0038」に記載されているものを好ましく採用できる。
<電子デバイス>
本発明のガスバリア性フィルムは、空気中の化学成分(酸素、水、窒素酸化物、硫黄酸化物、オゾン等)によって性能が劣化するデバイスに好ましく用いることができる。前記デバイスの例としては、例えば、有機EL素子、液晶表示素子(LCD)、薄膜トランジスタ、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池(PV)等の電子デバイスを挙げることができる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、ガスバリア性能について水蒸気透過率で10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの性能が要求されている有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機薄膜太陽電池及び液晶ディスプレイなどの電子デバイスに好ましく用いられ、有機EL素子または有機薄膜太陽電池により好ましく用いられ、有機EL素子に特に好ましく用いられる。
本発明のガスバリア性フィルムは、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のガスバリア性フィルムを設ける方法である。ガスバリア性フィルムを設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
本発明のガスバリア性フィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリア性フィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
(有機EL素子)
ガスバリア性フィルムを用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリア性フィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、IPS型(In−Plane Switching)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
(太陽電池)
本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のガスバリア性フィルムは、バリア層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。本発明のガスバリア性フィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー等が挙げられる。
<光学部材>
本発明のガスバリア性フィルムは、光学部材としても用いることができる。光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
(円偏光板)
本発明におけるガスバリア性フィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角が45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−865554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「重量部」あるいは「重量%」を表す。また、下記操作において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%の条件で行う。
最初に評価方法について説明する。ガスバリア性フィルムの各特性値は、下記の方法に従って測定される。
(1)[水蒸気バリア性の評価方法]
各ガスバリア性フィルム試料の水蒸気透過率を測定する方法として、下記Ca法による測定を行った。即ち、各ガスバリア性フィルム試料として、実施例1のガスバリア性フィルム試料No.111〜135、実施例2のガスバリア性フィルム試料No.201〜299及びNo.299−1〜299−6、実施例3のガスバリア性フィルム試料No.301〜353について実施した。
(水蒸気バリアー性評価用セルの作製)
各ガスバリア性フィルム試料のバリア層面(図1(a)、(c)、(d)の2層構成の適用例ないし3層構成の応用例、図1(b)の層構成の変形例)または基材面(図1(b)の2層構成の適用例及び3層構成の応用例)に、真空蒸着装置(日本電子製真空蒸着装置 JEE−400)を用い、ガスバリア性フィルム試料の蒸着させたい部分(12mm×12mmを9箇所)以外をマスクし、金属カルシウムを蒸着させた。その後、真空状態のままマスクを取り去り、シート片側全面にアルミニウムをもう一つの金属蒸着源から蒸着させた。アルミニウム封止後、真空状態を解除し、速やかに乾燥窒素ガス雰囲気下で、厚さ0.2mmの石英ガラスに封止用紫外線硬化樹脂(ナガセケムテックス製)を介してアルミニウム封止側と対面させ、紫外線を照射することで、水蒸気バリア性評価用セルを作製した。
得られた両面を封止した試料を、60℃、90%RHの高温高湿下で保存し、特開2005−283561号公報に記載の方法に基づき、金属カルシウムの腐食量からセル内に透過した水分量から水蒸気透過率を計算した。
なお、ガスバリア性フィルム面以外からの水蒸気の透過がないことを確認するために、比較試料としてガスバリア性フィルム試料の代わりに、厚さ0.2mmの石英ガラス板を用いて金属カルシウムを蒸着した試料を、同様な60℃、90%RHの高温高湿下保存を行い、1000時間経過後でも金属カルシウム腐食が発生しないことを確認した。
(使用した装置および材料)
蒸着装置:日本電子(株)製真空蒸着装置JEE−400
恒温恒湿度オーブン:Yamato Humidic ChamberIG47M
水分と反応して腐食する金属:カルシウム(粒状)
水蒸気不透過性の金属:アルミニウム(φ3〜5mm、粒状)。
(2)[保存性(耐屈曲性):屈曲試験後の水蒸気透過度の評価]
各ガスバリア性フィルム試料を、半径が10mmの曲率になるように、180度の角度で100回の屈曲を繰り返した後、上記(1)の[水蒸気バリア性の評価方法]と同様の方法で透過水分量を測定し、屈曲処理前後での透過水分量の変化より、下式に従って耐劣化度を測定し、下記の基準に従って保存性(屈曲耐性)を評価した。即ち、各ガスバリア性フィルム試料として、実施例1のガスバリア性フィルム試料No.111〜135、実施例2のガスバリア性フィルム試料No.201〜299及びNo.299−1〜299−6、実施例3のガスバリア性フィルム試料No.301〜353について実施した。
保存性(屈曲耐性)の評価基準は、下記の通りである;
5:耐劣化度が、90%以上である
4:耐劣化度が、80%以上、90%未満である
3:耐劣化度が、60%以上、80%未満である
2:耐劣化度が、30%以上、60%未満である
1:耐劣化度が、30%未満である。
(3)[フィルムの応力(引張応力)の評価]
各ガスバリア性フィルム試料を、半径が10mmの曲率になるように、180度の角度で100回の屈曲を繰り返した後、下記の接着強度(ラミネート強度)を測定することでフィルムの応力(引張応力)の評価を行った。
(接着強度(T字剥離)試験)
接着強度試験は、JIS K6854−3:1999に準拠して行い、実施例1のガスバリア性フィルム試料No.111〜135、実施例2のガスバリア性フィルム試料No.201〜299及びNo.299−1〜299−6、実施例3のガスバリア性フィルム試料No.301〜353について実施した。試験条件は次の通りとした。
・試験環境:23℃、50%RH
・試料(サンプル)サイズ:幅25mm×長さ150mm
・剥離速度:300mm/min
・試験方法:層間接着剤(接着剤層)で貼り合わされたガスバリア性フィルム試料をそれぞれ試験測定機(オリエンテック社製、テンシロン万能試験機RTC−1250)の上下に固定した。測定中には剥離部が180°となるように固定し、ガスバリア性フィルム試料が剥がれた際の負荷を測定し、剥離強度(単位:N/25mm)を求めた。
(4)[元素組成比]
基材上に各バリア層(C−1)〜(C−3)を形成した試料1〜3につき、下記条件にてXPSデプスプロファイル測定を行い、ケイ素元素分布、酸素元素分布、炭素元素分布及び酸素炭素分布を得た。
エッチングイオン種:アルゴン(Ar+)
エッチングレート(SiO2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec
エッチング間隔(SiO2換算値):10nm
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名「VG Theta Probe」
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形。
こうして評価したデータをもとにバリア層の表面からの距離を横軸にケイ素分布曲線、酸素分布曲線及び炭素分布曲線を求めた。なお、グラフの横軸に記載の「距離(nm)」はエッチング時間とエッチング速度とから計算して求めた値である。
実施例1(ガスバリア性フィルム試料No.111〜135)
A.基材
基材として、2軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム(PENフィルム、厚み:100μm、幅:350mm、帝人デュポンフィルム(株)製、商品名「テオネックスQ65FA」)を使用した。
A1.剥離基材の作製(ガスバリア性フィルム試料No.118、119、126、127、134、135で使用)
(シリコーン樹脂溶液の作製)
まず、離型剤層を形成するために離型剤溶液として、シリコーン樹脂溶液を作製した。
下記組成1に示すように、ポリジメチルシロキサンとジメチルハイドロジェンシランの混合溶液に白金触媒を加えて付加反応させるタイプの硬化型シリコーン(信越化学工業(株)製・KS−847H)をメチルエチルケトン(MEK)およびトルエンの混合溶液中に溶解させ、シリコーン剤の固形分濃度が3.0質量%のシリコーン樹脂溶液を作製した。
組成1;信越化学工業(株)製・KS−847H 300g(固形分濃度30質量%、樹脂90g)、白金触媒CAT−PL−50T(信越化学工業(株)製)3.0g、MEK/トルエン(質量比)=50/50溶液 2700g。
(剥離基材の作製)
前記シリコーン樹脂溶液を、乾燥後の塗膜厚が0.1μmとなるようにバーコーターにて38μm厚の上記Aの基材(フィルム)上に塗布し、加熱温度110℃、40秒で乾燥および硬化反応を行わせてロール状に巻回した、0.1μm厚の離型剤層を有する剥離基材(フィルム)を作製した。
ガスバリア性フィルム試料No.118、119、126、127、134、135では、この剥離基材上に、以下に示すバリア層を実施例1の他のガスバリア性フィルム試料と同様に作製し、表1に示したフィルム構成になるように積層して最表層の剥離基材(フィルム)のみ離形した。ガスバリア性フィルム試料No.119、127、135では、同様の操作を繰り返し行うことで、表1に示したフィルム構成になるように積層した。
B.下地層(平滑層)の形成
上記基材および剥離基材の易接着面に、JSR株式会社製 UV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR Z7501を、乾燥後の膜厚が3μmになるようにワイヤーバーで塗布した後、80℃、3分で乾燥後、空気雰囲気下、高圧水銀ランプ使用、硬化条件;1.0J/cm2で硬化を行い、下地層(平滑層)を形成した。このときの表面粗さを表す最大断面高さRt(p)は16nmであった。なお、表面粗さは、AFM(原子間力顕微鏡 AFM:Digital Instruments社製)を用い、極小の先端半径の触針を持つ検出器で連続測定した凹凸の断面曲線から算出され、極小の先端半径の触針により測定方向が30μmの区間内を多数回測定し、微細な凹凸の振幅に関する平均の粗さから求めた。
なお、基材の両面にバリア層を形成する場合には、上記と同様にして上記基材の一方の面(易接着面)に、下地層を形成し、その後、上記と同様にして上記基材のもう一方の面(易接着面)に、下地層を形成した。
C.バリア層の形成
(C−1)本発明構成のバリア層の形成
上記Bで得られた下地層が表面に形成された基材(剥離基材)を、下地層が上になるように、図2に示すコベルコ社製プラズマCVDロールコーターW35シリーズ装置に装着して、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を用いて、下記製膜条件(プラズマCVD条件)にて製膜し、バリア層を150nmの厚さで下地層上に形成した。
なお、基材の両面にバリア層を形成する場合には、上記Bで得られた下地層が両面に形成された基材の一方の面に、上記と同様にして製膜し、バリア層を150nmの厚さで一方の面(下地層)上に形成し、その後、基材のもう一方の面に、上記と同様にして製膜し、バリア層を150nmの厚さで、もう一方の面(下地層)上に形成した。
この段階で得られたフィルム(基材Aの片面にバリア層形成)を試料1として、上記(4)の元素組成比の測定方法に従って、ケイ素元素分布、酸素元素分布、炭素元素分布及び酸素炭素分布を得た。試料1のバリア層から得られたケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線を図3に示す。
図3より、試料1の本発明構成のバリア層は、上記条件(i)〜(iii)のすべてを満たすことが確認できた。
(製膜条件)
・原料ガス(HMDSO)の供給量:50sccm(ここで、sccmは、Standard Cubic Centimeter per Minuteの略号である。)
・酸素ガス(O2)の供給量:500sccm
・真空チャンバー内の真空度:3Pa
・プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW
・プラズマ発生用電源の周波数:80kHz
・フィルムの搬送速度;1.0m/min。
(C−2)比較バリア層の形成
原料ガス(HMDSO)の供給量を25sccmとした以外はC−1と同様にして比較のための比較バリア層を150nmの厚さで下地層上に形成した。
なお、基材の両面に比較バリア層を形成する場合にも、上記Bで得られた下地層が両面に形成された基材の一方の面に、上記と同様にして比較バリア層を150nmの厚さで一方の面(下地層)上に形成し、その後、基材のもう一方の面に、上記と同様にして比較バリア層を150nmの厚さで、もう一方の面(下地層)上に形成した。
この段階で得られたフィルム(基材Aの片面に比較バリア層形成)を試料2として、上記(4)の元素組成比の測定方法に従って、ケイ素元素分布、酸素元素分布、炭素元素分布及び酸素炭素分布を得た。試料2の比較バリア層から得られたケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線を図4に示す。
図4より、試料2の比較バリア層は、ケイ素および酸素は含有しているが、炭素は含有しておらず、上記条件(i)〜(iii)のすべてを満たしていないことが確認できた。
(C−3)比較バリア層の形成
特許文献4の特開2012−076291号公報を参考に厚さ150nmの炭素含有酸化珪素蒸着層を形成した。すなわち、上記Bで得られた下地層が表面に形成された基材(剥離基材)を、下地層が上になるように、プラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、下記に示す条件で、炭素含有酸化珪素蒸着層(比較バリア層)を150nmの厚さで下地層上に形成した。
なお、基材の両面に炭素含有酸化珪素蒸着層(比較バリア層)を形成する場合にも、上記Bで得られた下地層が両面に形成された基材の一方の面に、上記と同様にして炭素含有酸化珪素蒸着層(比較バリア層)を150nmの厚さで一方の面(下地層)上に形成し、その後、基材のもう一方の面に、上記と同様にして炭素含有酸化珪素蒸着層(比較バリア層)を150nmの厚さで、もう一方の面(下地層)上に形成した。
(蒸着条件)
蒸着用混合ガス反応ガス組成物の混合比
へキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1:10:10(単位:slm)
真空度:6Pa
冷却・電極ドラム供給電力 :22Kw
ライン速度:100m/min。
この段階で得られたフィルム(基材Aの片面に炭素含有酸化珪素蒸着層形成)を試料3として、上記(4)の元素組成比の測定方法に従って、ケイ素元素分布、酸素元素分布、炭素元素分布及び酸素炭素分布を得た。試料3の炭素含有酸化珪素蒸着層(比較バリア層)から得られたケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線を図5に示す。
図5より、試料3の炭素含有酸化珪素蒸着層(比較バリア層)は、上記条件(i)〜(iii)のうち、条件(i)以外の条件を満たしていないことが確認できた。
D.フィルムの貼り合わせ
(接着剤1による貼り合せ)
上記Cで製造した透明フィルムを、押出しラミネート機の第1送り出しロールに装着し、上記Cで製造した他の透明フィルムを第2送り出しロールに装着し、表1に示すフィルム構成となるように、透明フィルムのバリア層または基材と、他の透明フィルムのバリア層または基材とを、クラレ製エバールE105B(接着剤1)、樹脂温度220℃でサンドラミネートして、厚さ3.5μmの押出し樹脂層(接着剤層)を形成した。また、上記透明フィルム及び他の透明フィルムには、上記Cで製造した基材の両面にバリア層を形成したものも、表1に示すフィルム構成となるように使用している。
また、上記Cで製造した透明フィルム(剥離基材を使用)を用いるガスバリア性フィルム試料No.118、119、126、127、134、135では、上記Cで製造した透明フィルムを、押出しラミネート機の第1送り出しロールに装着し、上記Cで製造した他の透明フィルム(剥離基材を使用)を第2送り出しロールに装着し、表1に示すフィルム構成となるように、透明フィルムのバリア層と、他の透明フィルム(剥離基材を使用)のバリア層とを、クラレ製エバールE105B(接着剤1)、樹脂温度220℃でサンドラミネートして、厚さ3.5μmの押出し樹脂層(第1の接着剤層)を形成した。その後、表1に示したフィルム構成になるように、最表層の剥離基材のみ離形した。
ガスバリア性フィルム試料No.119、127、135では、同様の操作を繰り返し行うことで、表1に示したフィルム構成になるように積層した。即ち、上記で製造したガスバリア性フィルム試料No.118、126ないし134のフィルムを、押出しラミネート機の第1送り出しロールに装着し、上記Cで製造した他の透明フィルム(剥離基材を使用)を第2送り出しロールに装着し、表1に示すフィルム構成となるように、試料No.118、126ないし134のフィルムのバリア層と、他の透明フィルム(剥離基材を使用)のバリア層とを、クラレ製エバールE105B(接着剤1)、樹脂温度220℃でサンドラミネートして、厚さ3.5μmの押出し樹脂層(第2の接着剤層)を形成した。その後、表1に示したフィルム構成になるように、最表層の剥離基材のみ離形した。
更に上記Cで製造した透明フィルムを3枚用いる場合には、上記Cで製造した透明フィルムを、押出しラミネート機の第1送り出しロールに装着し、上記Cで製造した他の透明フィルムを第2送り出しロールに装着し、上記Cで製造したさらに他の透明フィルムを第3送り出しロールに装着し、表1に示すフィルム構成となるように、透明フィルムのバリア層または基材と、他の透明フィルムのバリア層または基材とを、クラレ製エバールE105B(接着剤1)、樹脂温度220℃でサンドラミネートして、厚さ3.5μmの押出し樹脂層(第1の接着剤層)を形成すると共に、他の透明フィルムのもう一方の基材またはバリア層と、さらに他の透明フィルムのバリア層または基材とを、クラレ製エバールE105B(接着剤1)、樹脂温度220℃でサンドラミネートして、厚さ3.5μmの押出し樹脂層(第2の接着剤層)を形成した。
こうして、表1に示すフィルム構成を有するガスバリア性フィルム試料No.111〜135を得た。得られた各ガスバリア性フィルム試料の各特性値を上記(1)〜(3)の方法に従って測定、評価した。結果を下記表1に示す。なお、表1のフィルム構成では、下地層(平滑層)の構成を省略して表している。また、ガスバリア性フィルム試料No.111は、上記Dの貼り合せを行うことなく、上記Cで製造した透明フィルム(C−1)を用いて評価した。
上記表1から、本発明のガスバリア性フィルムは、いずれもガスバリア性能について水蒸気透過率で10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの優れた水蒸気バリア性及び長期の保存安定性(耐屈曲性)を示すことが確認できた。
実施例2(ガスバリア性フィルム試料No.201〜299及びNo.299−1〜299−6)
更に表2に示したように、接着剤層の膜厚(複数の接着剤層を用いる場合には、それぞれの膜厚は同じ厚さに形成し、1層分の膜厚)を変化させて、実施例1と同様にして評価を行った。結果を下記表2に示す。
上記表2からも、本発明のガスバリア性フィルムは、いずれもガスバリア性能について水蒸気透過率で10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの優れた水蒸気バリア性及び長期の保存安定性(耐屈曲性)を示すことが確認できた。
実施例3(ガスバリア性フィルム試料No.301〜353)
更に表3に示したように、接着剤1を下記4種類(接着剤2〜5)に変えて、接着剤層の膜厚(複数の接着剤層を用いる場合には、その1層分の膜厚)を表3に示すように変化させて、実施例1と同様にして評価を行った。結果を下記表3に示す。
(接着剤1による貼り合せ)
表3に示したように、接着剤1を用い、接着剤層の膜厚(2つの接着剤層の膜厚は同じ厚さに形成し、1層分の膜厚)を5μmに変化させて、ガスバリア性フィルム試料No.301を得、実施例1と同様にして評価を行った。結果を下記表3に示す。
(接着剤2による貼り合せ)
上記C−1で製造した1枚目の透明フィルムのバリア層面上に、ドライラミネーション法により、接着剤2としてポリウレタン系接着剤(三井化学社製 A525)を塗布した後、その上に、上記C−1で製造した2枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせた。1枚目と2枚目の透明フィルムを第1の接着剤層を介して貼り合せたフィルムのうち、2枚目の透明フィルムのバリア層面上に、ドライラミネーション法により、接着剤2としてポリウレタン系接着剤(三井化学社製 A525)を塗布した後、その上に、上記C−1で製造した3枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせた。2枚目と3枚目の透明フィルムを第2の接着剤層を介して貼り合せたフィルム全体を、その後、さらに40℃にて5日間エージングを行って、ガスバリア性フィルム試料No.302〜314を得た。これらのガスバリア性フィルム試料の接着剤層の膜厚(第1及び第2接着剤層の厚さは、同じである)は、表3に示してある。
(接着剤3による貼り合せ)
接着剤3として、二液反応型のウレタン系接着剤(東洋モートン(株)製「AD−502/CAT−10」)を用いた。上記C−1で製造した1枚目の透明フィルムのバリア層面上に、ドライラミネーション法により上記二液反応型のウレタン系接着剤を塗布した後、その上に、上記C−1で製造した2枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせた。1枚目と2枚目の透明フィルムを第1の接着剤層を介して貼り合せたフィルムのうち、2枚目の透明フィルムのバリア層面上に、ドライラミネーション法により上記二液反応型のウレタン系接着剤を塗布した後、その上に、上記C−1で製造した3枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせた。2枚目と3枚目の透明フィルムを第2の接着剤層を介して積層した(貼り合せた)透明な多層フィルムを得、ロール状に巻回した。この巻回した多層フィルムを40℃で72時間エージング処理した。次いで、ロール状に巻回した状態の多層フィルムを120℃に調整した加熱炉中に投入し、140時間保持して熱処理を行って、ガスバリア性フィルム試料No.315〜327を得た。これらのガスバリア性フィルム試料の接着剤層の膜厚(第1及び第2接着剤層の厚さは、同じである)は、表3に示してある。
(接着剤4による貼り合せ)
上記C−1で製造した1枚目の透明フィルムのバリア層面上に、接着剤4として、ウレタン(メタ)アクリレート成分としてウレタンアクリレートを50質量部、エポキシ(メタ)アクリレート成分としてビスフェノールAグリシジルエーテル型エポキシアクリレート(重量平均分子量2000)20質量部、脂環(メタ)アクリレート成分として、トリシクロデカンジアクリレート30質量部、重合開始剤として2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン 2質量部を混合溶解したものを塗布した後、その上に、上記C−1で製造した2枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせた。1枚目と2枚目の透明フィルムを第1の接着剤層を介して貼り合せたフィルムのうち、2枚目の透明フィルムのバリア層面上に、上記と同様にして接着剤4を塗布した後、その上に、上記C−1で製造した3枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせ、2枚目と3枚目の透明フィルムを第2の接着剤層を介して積層した。これにより、表面粗度(Rms)0.20μmのUV硬化系の接着剤層(第1及び第2接着剤層の表面粗度(Rms)は、同じである)を形成した以外は、特開2009−274395号公報の段落「0039」と同様にして得た真空バックで封止されたガスバリア性フィルムを、80W/cmのメタルハライドランプ(ウシオ電機製、UVC−05016S1AGF01)で紫外線を照射して接着剤層を硬化させて、ガスバリア性フィルム試料No.328〜340を得た。これらのガスバリア性フィルム試料の接着剤層の膜厚(第1及び第2接着剤層の厚さは、同じである)は、表3に示してある。
(接着剤5による貼り合せ)
上記C−1で製造した1枚目の透明フィルムのバリア層面上に、接着剤5として、下記エポキシ系接着剤を塗布した後、その上に、上記C−1で製造した2枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせた。1枚目と2枚目の透明フィルムを第1の接着剤層を介して貼り合せたフィルムのうち、2枚目の透明フィルムのバリア層面上に、上記と同様にして接着剤5を塗布した後、その上に、上記C−1で製造した3枚目の透明フィルムの基材面を貼り合わせ、2枚目と3枚目の透明フィルムを第2の接着剤層を介して積層した。これにより、表面粗度(Rms)0.25μmの熱硬化型の接着剤層(第1及び第2接着剤層の表面粗度(Rms)は、同じである)を形成した。真空装置にて10Paにて真空にして、得られたガスバリア性フィルムをオーブンで、120℃において30分加熱し接着剤層を溶融接着させ、ガスバリア性フィルム試料No.341〜353を得た。これらのガスバリア性フィルム試料の接着剤層の膜厚(第1及び第2接着剤層の厚さは、同じである)は、表3に示してある。
<エポキシ系接着剤(接着剤5)>
接着剤5には、メタキシリレンジアミンから誘導されたグリシジルアミン部位を有するエポキシ樹脂(三菱ガス化学(株)製;TETRAD−X)を50重量部および下記のエポキシ樹脂硬化剤を146重量部含むメタノール/酢酸エチル(体積比)=9/1溶液(固形分濃度;35重量%)を作製し、そこにアクリル系湿潤剤(ビック・ケミー社製;BYK381)を0.4重量部、シリコン系消泡剤(楠本化成(株)製;ディスパロン1930N)を0.05重量部加えたエポキシ系接着剤を用いた。
<エポキシ樹脂硬化剤>
反応容器内に1molのメタキシリレンジアミンを入れ。窒素気流下60℃に昇温し、0.93molのアクリル酸メチルを1時間かけて滴下した。滴下終了後120℃で1時間攪拌し、さらに、生成するメタノールを留去しながら5時間で160℃まで昇温した。100℃まで冷却し、固形分濃度が70重量%になるように所定量のメタノールを加え、エポキシ樹脂硬化剤を得た。
上記表3からも、本発明のガスバリア性フィルムは、いずれもガスバリア性能について水蒸気透過率で10−5〜10−6g/m2/dayのオーダーの優れた水蒸気バリア性及び長期の保存安定性(耐屈曲性)を示すことが確認できた。