JP2014136236A - PbフリーIn系はんだ合金 - Google Patents

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隆士 井関
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修 荒井
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Abstract

【課題】 加工性、濡れ性、および応力緩和性について従来以上に高い要求に応えうるPbフリーIn系はんだ合金を提供する。
【解決手段】 Mg、Mn、NiおよびSbのうちの1種以上を含有するPbフリーIn系はんだ合金であって、Mgを含有する場合は0.01質量%以上1.10質量%以下含有し、Mnを含有する場合は0.01質量%以上1.00質量%以下含有し、Niを含有する場合は0.01質量%以上2.00質量%以下含有し、Sbを含有する場合は0.01質量%以上19.00質量%以下含有し、残部が製造上、不可避的に含まれる元素を除いてInからなる。このIn系はんだ合金は、さらにPを0.001質量%以上0.500質量%以下含有してもよい。
【選択図】 なし

Description

本発明は、Pbを含まないいわゆるPbフリーはんだ合金に関し、とくに加工性、接合性、および応力緩和性の全てに優れるIn系はんだ合金に関する。
一般的なはんだ合金は、シートやワイヤなどのはんだ付けに使用する時の形状への加工性、伸び率、引張強度やシェア強度などの機械的強度、接合性、さらには信頼性などの諸特性をバランスよく有していることが望まれる。しかし、はんだの接合条件やはんだが使われている製品の使用環境等によっては、これら諸特性に対する要求が大きく異なることがある。例えば、コンピューターや通信機器等に使用されるSiチップ等の接合用のはんだには、極めて高い信頼性、具体的には優れた応力緩和性が要求される。
とくに、はんだで接合されるチップが100mm以上の接合面積を持つような大きなチップであったり、チップに流れる電流が頻繁に断続して加熱冷却による熱応力が繰り返し加わったり、自動車や太陽電池のような苛酷な環境で使用されたりする場合、はんだに加わる応力は極めて大きく且つ頻繁に変動する。このような加熱冷却の繰り返しやチップが大きいことに起因する大きな応力に対して、はんだ自身が変形することで応力を吸収することが考えられるが、チップの主成分であるSiと基板の主成分であるCuでは熱膨張率に約5倍の開きがあり、極めて大きな応力をはんだで吸収することが必要になる。
そこで、このような応力をできるだけ吸収して応力を緩和し、これによりはんだ接合体の信頼性を高めるには応力緩和に優れた、即ち柔らかいはんだを選定することが好ましく、例えば、その代表例としてIn系はんだを使用することが考えられる。しかし、Inの柔軟な性質を活かすためには、はんだとその接合対象物との間で良好に接合できることが必須条件となる。なぜなら、十分な接合性が得られなければ、当然のことながら接合強度が低くなる上、接合部にボイドが発生して放熱性を低下させ、Inの柔軟な性質を活かした高い信頼性が得られなくなるからである。
しかし、純粋なInだけでは十分な接合性は得られない。これは、Inだけでは金属表面の酸化膜等により接合時にボイドが発生したり、接合界面に十分な合金相を形成できなかったりして、結果的に接合強度が低下し、更に部分的に接合するためチップの傾きが大きくなってしまうからである。さらに悪いことに、Inだけでは柔らかすぎてシート形状に加工しにくいという問題もある。これは、Inを薄いシート状に加工しようとすると圧延ロールに張り付いたり、均一な厚さにならなかったりするためである。
以上述べたように、Inは非常柔らかい元素であり、応力緩和性については最も優れた元素であるため、各種はんだやろう材の原料として使用されているが、上記のような問題も有しているため、Inは他の元素と合金化した状態で使用されている。例えば特許文献1〜4には、このようなIn系合金を用いたはんだやろう材が開示されている。
特許文献1には、Pb、Sn、およびInのうちの何か一つの主要元素に対し、Znを0.001〜10wt%、Sbを0.001〜10wt%添加したことを特徴とする半導体素子用のはんだバンプ形成材料が記載されている。また、特許文献2には、Pb、Sn、およびInの何か一つの主要元素に対し、Cuを0.001〜1wt%、Niを0.001〜1wt%添加したことを特徴とする半導体素子用のはんだバンプ形成材料が記載されている。
特許文献3には、はんだ接合部中及び/又ははんだ接合界面にNiAs型結晶構造を有する金属間化合物を形成し、さらにCuの含有量が0.1〜2重量%、Niの含有量が0.01〜0.1重量%、残部がIn又はInとSnよりなることを特徴とする、In−Cu−Ni及び/又はSn−In−Cu−Niからなる鉛フリーはんだ合金組成及び当該鉛フリーはんだ合金が記載されている。
特許文献4には、Cuの含有率が2.5〜10重量%、Pの含有率が0.5〜2.0重量%、残部がInからなる組成、Agの含有率が35重量%以下、Cuの含有率が2.5〜10重量%、Pの含有率が0.5〜2.0重量%、残部がInからなる組成、Sbの含有率が65〜75重量%およびInの含有率が25〜35重量%からなる組成、そして、Agの含有率が50〜60重量%およびSbの含有率が40〜50重量%からなる組成の4種類の組成をそれぞれ有する金属接合用低温ろう材が記載されている。そして、これらろう材は薄いステンレス鋼からなる二重壁容器の鋼板用等に好適で、低酸化ポテンシャル雰囲気中でフラックスなしでろう付けができるとも記載されている。
特開平5−251451号公報 特開平5−251452号公報 特開2011−5542号公報 特開平7−223089号公報
すでに述べたように、In系はんだは高い応力緩和性を有するが、コンピューターや通信機器などの技術分野では、はんだに対する要求は技術の進歩に伴って高まる一方であり、より優れた応力緩和性が求められている。即ち、より高い信頼性が要求されつつある通信分野でのデバイスなどでは、チップの数を少なくして機能を集約化したり、高機能化に伴ってチップサイズを大きくしたりすることが行われており、そこで使われるIn系はんだには、より優れた信頼性、即ち高い応力緩和性が求められている。
特許文献1のはんだバンプ形成材料を用いて作製した細い合金ワイヤの先端を加熱すると、酸素との親和力が強いZnおよびSbが夫々ボール表面に濃縮するため、表面側ではZnおよびSbの濃度が高く、内側では主要元素であるPb、Sn、およびInのうちの何か一つの濃度が高い二層構造の疑似Znボールが形成される。そして、この疑似Znボールにより形成されるバンプは、Alとの固溶限が広いZnと、Alとの金属間化合物を形成するSbの特性によりAl電極との接合強度が向上し、更にZnおよびSbに富んだ表面層は、高温・高湿環境下における局部電池反応を小さくさせて、接合強度向上に対して所望の効果が得られる。しかも、ZnおよびSbに富んだ表面層の内側は、上記の主要元素の濃度が高いので、所定の柔らかさを必要とするバンプ特性を低下させるおそれもないと記載されている。
以上のメカニズムにより、とくに高温・高湿状態での信頼性をより確かなものにできるので、高温・高湿環境下での耐久性に優れた半導体装置を製作し得ると記載されている。即ち、特許文献1のはんだバンプ形成材料は、Al固溶体およびAl−Sb金属間化合物の形成によって接合強度を向上させ、さらに高温・高湿環境下における局部電池反応を小さくすることによって耐久性を向上させたものである。
しかし、特許文献1のはんだバンプ形成材料は、母材そのものの柔軟性を向上させたものではないため、高温・高湿環境下という環境下では優れた性能を発揮すると推測されるものの、加熱冷却の繰り返しによって生じる熱応力が頻繁に加わる厳しい環境下では十分耐え得る性能があるか否かについては不明瞭である。つまり、一般的に脆いとされる金属間化合物が接合界面にあり、さらにもともとSbは結晶構造が三方晶で脆い元素であることから、繰り返し加わる熱応力を緩和する機能は乏しく、熱応力が頻繁に加わる厳しい環境下においては高い信頼性は得られづらいと考えられる。
特許文献2には、Pb、Sn、およびInのうちの何か一つを主要元素とするバンプ形成材料に悪影響を及ぼすおそれのない各種添加元素の中から、チップ電極上面に予め形成する下地金属として用いられるCuやNiに着目した結果、これら2つの元素を両方とも添加することにより、その添加量が少量であってもワイヤの細線化に対して所望の効果が得られると共に、これにより得られた形成材料を急冷凝固法により細いワイヤ状に作製することでボール切断位置のばらつき改善に所望の効果が得られることを見出し、特許文献2に記載のはんだバンプ形成材料を提供するに至ったと記載されている。
したがって、このはんだバンプ形成材料はワイヤの細線化、ボール切断位置の改善を目的としており、In系はんだの中では応力緩和性や信頼性について特段高いものではないと推測される。即ち、NiおよびCuはそれぞれInと多くの金属間化合物、例えば、NiとInとであれば、InNi、InNi、InNi13などを生成し、InとCuとであれば、Cu17In、η相、δ相などの相を生成してしまい、NiおよびCuを含有させることで合金が脆化してしまうことが推測される。したがって、そのような合金は特段高い信頼性を有するとは考えづらいのである。
特許文献3には、はんだ接合部及びはんだ接合界面においてNiAs型結晶構造を有する金属間化合物を形成する鉛フリーはんだ合金組成を用い、当該鉛フリーはんだ合金の組成がInを必須組成とし、更にCu及びNiを特定量添加することにより、はんだ接合時の流動性に優れ、はんだ接合部のエージング劣化が少なくなること、また、はんだ接合部に高信頼性及び放熱性等の優れた電気特性を有することが記載されている。
高い信頼性が得られるメカニズムは、Niを添加して生成した(Cu,Ni)Sn組成からなる金属間化合物は、Ni無添加のCuSn組成からなる金属間化合物の構造に比較して、微細化且つ平坦化された構造を有することに起因しており、それにより、当該組成を有する鉛フリーはんだ合金組成を用いたはんだ接合部は、高信頼性及び放熱性等の優れた電気特性を有するとしている。つまり、Niの添加を必須として、はんだの結晶構造を変えることにより高信頼性が得られるとしているのである。
Inの結晶粒は数mmと目視でも分かるほど大きいため、Ni添加等で結晶粒が微細化することは十分に起こり得ることである。しかし、この結晶微細化によって伸び率がさらに向上するなどしてしまうと弾性変形、塑性変形し易くなってしまい、もともと柔らかくて加工しにくいInがより一層加工しづらくなってしまい、現実には工業的に製造できなくなってしまう。
特許文献4のろう材はInにCuを含有させることにより300〜550℃でろう付けできるようになることが示されている。このろう材はステンレス鋼板のろう付けを目的としているため、敢えて接合温度を上げており、Inの融点の低さ(Inの融点:156.6℃)を活かしておらず、Siチップなどの半導体素子接合用には適していない。つまり、接合温度が高いと設備費が高価になり、電気代もかかってしまう。さらに接合温度が400℃を超えてくると各部品の耐熱性にも考慮しなければならなくなってくる。
以上述べたように、近年の技術の進歩によりますます厳しい条件下で使用されることが想定されているはんだ合金に対して、加工性、濡れ性、および応力緩和性について従来以上に高い要求に応えうるIn系はんだ合金は未だ見つかっていないのが実情である。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、加工性、接合性、および応力緩和性の全てに優れており、よって高い信頼性を有するPbフリーIn系はんだ合金、および該はんだ合金を用いて接合した電子部品実装基板と該基板を搭載した装置を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明が提供するPbフリーIn系はんだ合金は、Mg、Mn、NiおよびSbのうちの1種以上を含有し、Mgを含有する場合は0.01質量%以上1.10質量%以下含有し、Mnを含有する場合は0.01質量%以上1.00質量%以下含有し、Niを含有する場合は0.01質量%以上2.00質量%以下含有し、Sbを含有する場合は0.01質量%以上19.00質量%以下含有し、残部が製造上、不可避的に含まれる元素を除いてInから成ることを特徴としている。
上記本発明のPbフリーIn系はんだ合金は、Pを0.001質量%以上0.500質量%以下さらに含有してもよい。また、本発明が提供する電子部品実装基板は、上記PbフリーIn系はんだ合金によって接合されたものであることを特徴としている。更に、本発明が提供する装置は、上記した電子部品実装基板を搭載していることを特徴としている。
本発明によれば、加工性、接合性、および応力緩和性の全てに優れたIn系はんだ合金を提供することができ、該はんだ合金を用いて電子部品等を基板に接合することによって、大きな熱応力が繰り返しかかるような厳しい環境下であってもはんだ接合部に不具合が生じにくい信頼性の高い装置を提供することができる。
本発明によるIn系はんだ合金は、Pbを含まず、Mg、Mn、NiおよびSbのうち1種以上を含有し、残部が製造上、不可避的に含まれる元素を除きInからなる。本発明によるIn系はんだ合金は、さらにPを含有してよい。本発明のIn系はんだ合金の主成分であるInは非常に柔らかい元素であり、応力緩和性に非常に優れている。
しかし、Inだけでは柔らかすぎてはんだ付けに使用する際の形状に加工することが困難である。例えば、シート状に圧延加工しようとすると、圧延ロールにInが張り付いたり、厚さが均一にならなかったりしてしまう。そこで本発明では、十分な応力緩和性を有しながらはんだ付け使用時の形状に加工でき、さらには接合性にも優れるIn系はんだ合金とすべく、主成分としてのInに各種元素を添加している。以下、本発明のPbフリーはんだ合金に含まれる必須元素、および必要に応じて添加される元素について、その作用および効果を含めて詳細に説明する。
<In>
Inは本発明のIn系はんだ合金において、主成分として含まれる元素である。Inに着目した理由は、その柔らかさに起因して優れた応力緩和性が得られるからである。Inは実用的に使用できる元素のうちで最も柔らかく、熱応力等を十分に吸収できるので、これを主成分とするはんだ合金でチップを基板にはんだ付けすることで得られるチップ接合体の信頼性を格段に向上させることができる。さらに融点が156℃と比較的低い温度で溶融することもはんだ付けにおいて有利となる。つまり、低い温度でチップをはんだ接合できるため、設備費や電気代等を低く抑えることができる。
しかし、Inは実用的な観点からすれば柔らかすぎるため、そのままでははんだ付け時に使用する形状、例えばシート状に加工できなかったり、ボイドが多発するなどして接合性が必ずしも十分でなかったりする問題がある。そのため、本発明のはんだ合金は、十分な応力緩和性を保持したまま、加工性を上げると共に接合性を改善するために下記に示す各種元素が添加されている。
<Mg>
Mgは、本発明のIn系はんだ合金において、Mg、Mn、NiおよびSbからなる元素群のうち1種以上の添加が必須であるという要件の下で添加される当該元素群のうちの一つである。Mgを含有させることにより、優れた応力緩和性を得ることができ、接合性も使用環境下で十分に耐え得るものになるのであるが、そのメカニズムは以下のとおりである。
Mgは少量であればIn中に固溶する。このようにIn固溶体になることによって柔らか過ぎるInに適度な硬度を与え、加工性を向上させるのである。さらにMgが存在することにより、はんだ溶融時、Inより優先的に酸化し易いMgが酸化することによって、表面酸化を抑制し、ボイドの発生を防ぐなどの効果を示す。その結果、接合性を向上させ、優れた接合強度等が得られることになる。
Mgを本発明のIn系はんだ合金に含有させるときの含有量は圧延時の加工性などを考慮に入れて調整すればよいが、その範囲は0.01質量%以上1.10質量%以下である。0.01質量%未満では含有量が少なすぎて、Mgを含有させた効果が現われない。一方、1.10質量%を超えてしまうと金属間化合物が生成され、硬く、かつ脆くなってしまう。さらに好ましくは0.20質量%以上0.70質量%以下である。この範囲であれば、In固溶体が適度な硬度を持ち、かつ、Mgの還元性も発揮され、応力緩和性、加工性、および接合性の全てに優れたはんだ合金を得ることができる。
<Mn>
MnもMgと同様に本発明のIn系はんだ合金において、Mg、Mn、NiおよびSbからなる元素群のうち1種以上の添加が必須であるという要件の下で添加される当該元素群のうちの一つである。MnはInMn金属間化合物を生成し、硬度を向上させることができる。ただし、金属間化合物が多量に生成されると脆くなるため、Mnの含有量は微量であることが必要となる。Mnの含有量を微量にする必要はもう一つある。即ち、Mnは少量の添加であっても液相線温度が著しく上昇するため、微量添加としなければならないのである。
上記の理由により、Mnを本発明のIn系はんだ合金に含有させるときの含有量は、0.01質量%以上1.00質量%以下である。0.01質量%未満では含有量が少なすぎてMnを含有させた効果が現われない。一方、1.00質量%を超えるとInMn金属間化合物の割合が多く脆くなったり、液相線温度が400℃を超えてしまい良好な接合ができなくなる。
<Ni>
NiもMgと同様に本発明のIn系はんだ合金において、Mg、Mn、NiおよびSbからなる元素群のうち1種以上の添加が必須であるという要件の下で添加される当該元素群のうちの一つである。NiはIn中にごく僅かしか固溶せず、その固溶限を超えるとInNiという金属間化合物を生成する。この金属間化合物ははんだ合金に適度な強度を与え、柔らかすぎるInを加工し易くする。当然、金属間化合物が多くなると脆くなってしまうのでNiの含有量には注意を要する。
Niを本発明のIn系はんだ合金に含有させるときの含有量は、0.01質量%以上2.00質量%以下である。0.01質量%未満ではNiの含有量が少なすぎて効果が現われない。一方、上限値を2.00質量%とする理由は以下のとおりである。まず第一の理由としては、脆い金属間化合物であるInNiの割合が多くなりすぎてしまい、硬くて脆くなりすぎるからであり、例えば、圧延加工時にクラックが入ったり、欠けたりしてしまうのである。
第二の理由としては、2.00質量%を超えてしまうと金属組織が共析組織となるからであり、はんだ付けのように急冷する場合、大きな残留応力を持つはんだ接合となってしまい、信頼性等が低下してしまうのである。以上の理由により、Niの含有量は0.01質量%以上2.00質量%以下であるが、さらに0.05質量%以上1.2質量%以下の範囲であれば、上記効果が顕著に現われるので、より好ましい。
<Sb>
SbもMgと同様に本発明のIn系はんだ合金において、Mg、Mn、NiおよびSbからなる元素群のうち1種以上の添加が必須であるという要件の下で添加される当該元素群のうちの一つである。SbもNiと同様にIn中にごく僅かしか固溶しない。そして、その固溶限を超えると金属間化合物(InSb)を生成する。InとSbは、In固溶体とInSbの共晶合金を生成し比較的柔らかいため、Sbの含有量は他の含有元素よりも多くまで許容される。
具体的には、Sbを本発明のIn系はんだ合金に含有させるときの含有量は、0.01質量%以上19.00質量%以下である。この上限値は加工性からくる制約ではなく、融点からくるものである。即ち、Sb含有量が19.00質量%を超えてしまうと液相線温度が400℃を超えてしまい、接合温度が高くなりすぎて好ましい接合ができない。一方、0.01質量%未満では含有量が少なすぎて効果が現われない。
なお、Sbの含有量がある程度の量、例えば2質量%を超えてくると濡れ性向上効果が顕著に現われてくる。即ち、SbはInより酸化しづらいため、ある程度の量が含有されると溶融したはんだの表面付近に存在し、主成分であるInの酸化を防ぐのである。このようにSbには濡れ性を向上させて、その結果、接合強度等を含めた接合性を向上させることができるのである。
<P>
Pは本発明のIn系はんだ合金において必要に応じて添加される元素であり、かかるPの添加により、濡れ性を向上させることができる。Pが濡れ性を向上させるメカニズムは以下のとおりである。Pは還元性が強く、自ら酸化することによりはんだ合金表面の酸化を抑制する。
また、Pの含有により接合時にボイドの発生を低減させる効果も得られる。即ち、すでに述べているように、Pは自らが酸化しやすいため、接合時にはんだ合金の主成分であるInよりも優先的に酸化が進む。その結果、はんだ母相の酸化を防ぎ、電子部品等の接合面を還元して濡れ性を確保することができる。そしてこの接合の際、はんだや接合面表面の酸化物がなくなるため、酸化膜によって形成される隙間(ボイド)が発生しにくくなり、接合性や信頼性等を向上させるのである。
なお、Pははんだ合金や基板を還元して酸化物になると気化し雰囲気ガスに流されるため、はんだや基板等に残らない。従って、Pの残渣が信頼性等に悪影響を及ぼすおそれはなく、この点からも優れた元素と言える。
Pの含有する場合の量は、0.001質量%以上0.500質量%以下である。Pは非常に還元性が強いため、極めて微量でも含有させれば濡れ性向上の効果が得られる。ただし、0.001質量%未満では含有量が少なすぎて、Pを含有させた効果が現われない。一方、0.500質量%を超えて含有しても、濡れ性向上の効果はあまり変わらず、過剰な含有によってPやP酸化物の気体が多量に発生してボイド率を上げてしまったり、Pが脆弱な相を形成して偏析し、はんだ接合部を脆化して信頼性を低下させたりするおそれがある。特にワイヤなどを加工する場合に、断線の原因になりやすいことが確認されている。
以上説明したように、本発明のPbフリーIn系はんだ合金は加工性に優れており、また該In系はんだ合金を用いることによって、はんだ接合部での接合性や応力緩和性に優れた電子部品実装基板を実現することができる。よって、この電子部品実装基板を、極めて高い信頼性が求められるコンピューターや通信機器、サイリスタやインバータなどのパワー半導体装置、過酷な条件下で使用される自動車や太陽電池などの各種制御装置などに搭載することによって、それら装置の信頼性をより一層高めることができる。
原料として、それぞれ純度99.9質量%以上のIn、Mg、Mn、Ni、Sb及びPを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解後の合金においてサンプリング場所による組成のバラツキがなく、均一になるように留意しながら、切断及び粉砕などにより3mm以下の大きさに細かくした。次に、これら原料から所定量を秤量して、高周波溶解炉用のグラファイト製坩堝に入れた。
上記各原料の入った坩堝を高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたら混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに坩堝を取り出し、坩堝内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型は、はんだ母合金の製造の際に一般的に使用している形状と同様のものを使用した。
このようにして、上記各原料の混合比率を変えることにより、試料1〜18のIn系はんだ母合金を作製した。得られた試料1〜18の組成をICP発光分光分析器(SHIMAZU S−8100)を用いて組成分析した。得られた組成分析結果を下記表1に示す。
Figure 2014136236
次に、上記試料1〜18の各はんだ母合金について、下記のごとく圧延機でシート状に加工し、Pbフリーはんだ合金の加工性を評価した。また、シート状に加工した各はんだ合金について、下記の方法により濡れ性(接合性)の評価及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。なお、はんだの濡れ性ないし接合性等の評価は、はんだ形状に依存しないためワイヤ、ボール、ペーストなどの形状で評価してもよいが、本実施例においてはシートの形状で評価した
<加工性の評価>
表1に示す試料1〜18の各はんだ母合金(厚さ7mmの板状インゴット)を、圧延機を用いて厚さ100μmまで圧延した。In系はんだは非常に柔らかいため、圧延には注意を要する。まず、試料がロールに張り付かないように必要に応じてオイルを適量かけながら圧延していった。このようにしてシートの間に油膜を作ることによってシート同士が張り付くことを抑えることができるのである。
そして、試料の送り速度にも十分な配慮が必要であり、送り速度が速すぎるとシート同士が張り付きやすくなったり、張力がかかりすぎて切れてしまったりする。逆に送り速度が遅すぎると撓みが発生し巻きずれを起こしたり、均一な厚みのシートが得られなかったりしてしまう。このため、試料の柔らかさに応じて、送り速度、張力等を調整しながら圧延していった。圧延したシートはアルコールでオイル洗浄し、その後、スリッター加工により25mmの幅に裁断した。
加工性の評価1として、得られたシート状のIn系はんだ合金を観察し、傷やクラックが全くなかった場合を「○」、シート長さ10m当たり割れやクラックが1〜3箇所ある場合を「△」、シート長さ10m当たり割れやクラックが4箇所以上ある場合、シート加工中にシートが切れてしまった場合、またはシートが圧延ロールに張り付いてシートに加工できなかった場合を「×」とした。
さらに加工性の評価2として、シート長さ10mにおいて1mおきにシート厚さをマイクロメーターで測定を行い、全ての測定点で100±3μmの範囲に入っていた場合を「○」、1〜3点外れた場合を「△」、4点以上が外れた場合を「×」と評価した。
<濡れ性(接合性)の評価>
上記のごとくシート状に加工した各はんだ合金を、濡れ性試験機(装置名:雰囲気制御式濡れ性試験機)を用いて評価した。即ち、濡れ性試験機のヒーター部に2重のカバーをして、ヒーター部の周囲4箇所から窒素を12リットル/分の流量で流しながら、ヒーター設定温度を各試料の融点より約30℃高い温度に設定して加熱した。設定したヒーター温度が安定した後、Cu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。
次に、各試料のはんだ合金をCu基板の上に載せ、25秒加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を確認した。各試料のはんだ合金とCu基板との接合部分を目視で確認し、接合できなかった場合を「×」、接合できたが濡れ広がりが悪い場合(はんだが広がらなかった場合)を「△」、接合でき且つ濡れ広がりが良い場合(はんだが薄く濡れ広がった状態)を「○」、そしてCu基板に接触した瞬間に広がった場合を「◎」と評価した。
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記した濡れ性の評価においてはんだ合金がCu基板に接合できた試料(濡れ性の評価が○又は△の試料)を各々2個ずつ用いて行った。即ち、各試料のはんだ合金が接合されたCu基板2個のうちの1個に対しては、−55℃の冷却と+125℃の加熱を1サイクルとするヒートサイクル試験を途中確認のため500サイクルまで繰り返し、残る1個に対しては同様のヒートサイクル試験を1000サイクルまで繰り返した。
その後、500サイクル及び1000サイクルのヒートサイクル試験を実施した各試料について、はんだ合金が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(装置名:HITACHI S−4800)により接合面の観察を行った。この観察の結果、接合面に剥がれが生じるか又ははんだにクラックが入った場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。これらの評価結果を下記の表2に示す。
Figure 2014136236
上記の表2から分かるように、本発明の範囲内にある試料1〜11の各はんだ合金は、全ての評価項目において良好な特性を示している。即ち、シート状に加工しても傷やクラックの発生が無く、シート厚さの均一に加工でき、濡れ性及び信頼性も良好であった。特に試料9〜10における良好な濡れ性は、Pの添加によりはんだ表面の酸化が抑制された結果、はんだ合金がCu基板に接触した瞬間に基板上に濡れ広がったと考えられる。
更に、ヒートサイクル試験においても、サイクル数1000回という厳しい条件にも関わらず割れなど一つも発生せずに良好な接合性と信頼性を示し、これはInの柔軟な性質が十分に発揮されたものと考えられる。このような厳しい条件でも十分に機能する本発明のはんだ合金は、熱応力が頻繁に加わり、より一層高い信頼性が要求される用途においても十分に耐え得ると言える。
一方、試料12〜18の各はんだ合金は、Mg、Mn、Ni、Sb、Pの含有量のいずれかが適切でなかったため、いずれか2つ以上の評価で好ましくない結果となった。具体的には、加工性の評価において全ての試料12〜18で傷やクラックが発生したり、圧延ロールにシートが張り付いてシート状に加工できなかったりした。濡れ性も7個の試料中5個が接合できず、好ましくない結果となった。特にヒートサイクル試験では接合できなかった試料12〜15、18を除いて全ての試料で500回までに不良が発生した。

Claims (4)

  1. Mg、Mn、NiおよびSbのうちの1種以上を含有し、Mgを含有する場合は0.01質量%以上1.10質量%以下含有し、Mnを含有する場合は0.01質量%以上1.00質量%以下含有し、Niを含有する場合は0.01質量%以上2.00質量%以下含有し、Sbを含有する場合は0.01質量%以上19.00質量%以下含有し、残部が製造上、不可避的に含まれる元素を除いてInからなることを特徴とするPbフリーIn系はんだ合金。
  2. Pを0.001質量%以上0.500質量%以下さらに含有することを特徴とする、請求項1に記載のPbフリーIn系はんだ合金。
  3. 請求項1又は2に記載のPbフリーIn系はんだ合金によって接合された電子部品実装基板。
  4. 請求項3に記載の電子部品実装基板を搭載した装置。
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