例えば、一般的なシリコン系太陽電池は、p型多結晶半導体であるシリコン基板の上面にn+層を介して反射防止膜および受光面電極が備えられると共に、下面にp+層を介して裏面電極(以下、これらを区別しないときは単に「電極」という。)が備えられた構造を有しており、受光により半導体のpn接合に生じた電力を電極を通して取り出すようになっている。上記反射防止膜は、十分な可視光透過率を保ちつつ表面反射率を低減して受光効率を高めるためのもので、窒化珪素、二酸化チタン、二酸化珪素等の薄膜から成る。
上記の反射防止膜は電気抵抗値が高いことから、半導体のpn接合に生じた電力を効率よく取り出すことの妨げとなる。そこで、太陽電池の受光面電極は、例えば、ファイヤースルーと称される方法で形成される。この電極形成方法では、例えば、前記反射防止膜をn+層上の全面に設けた後、例えばスクリーン印刷法を用いてその反射防止膜上に導電性ペーストすなわちペースト状の電極材料を適宜の形状で塗布し、焼成処理を施す。これにより、電極材料が加熱熔融させられると同時にこれに接触している反射防止膜が熔融させられ、受光面電極と半導体とが接触させられる。上記導電性ペーストは、例えば、銀粉末と、ガラスフリット(ガラス原料を熔融し急冷した後に必要に応じて粉砕したフレーク状または粉末状のガラスのかけら)と、有機質ベヒクルと、有機溶媒とを主成分とするもので、焼成過程において、この導電性ペースト中のガラス成分が反射防止膜を破るので、導電性ペースト中の導体成分とn+層とによってオーミックコンタクトが形成される(例えば、特許文献1を参照。)。この導電性ペーストには、燐、バナジウム、ビスマス、タングステン等の金属或いは化合物等から成る各種微量成分を配合することで導通性を得ることが行われている。上記電極形成方法によれば、反射防止膜を部分的に除去してその除去部分に電極を形成する場合に比較して工程が簡単になり、除去部分と電極形成位置との位置ずれの問題も生じない利点がある。
このような太陽電池の受光面電極形成において、ファイヤースルー性を向上させてオーミックコンタクトを改善し、延いては曲線因子(FF値)やエネルギー変換効率を高める等の目的で、従来から種々の提案が為されている。例えば、導電性ペーストに燐・バナジウム・ビスマスなどの5族元素を添加することによって、ガラスおよび銀の反射防止膜に対する酸化還元作用を促進し、ファイヤースルー性を向上させたものがある(例えば、前記特許文献1を参照。)。また、導電性ペーストに塩化物、臭化物、或いはフッ化物を添加することで、ガラスおよび銀が反射防止膜を破る作用をこれら添加物が補助してオーミックコンタクトを改善するものがある(例えば、特許文献2を参照。)。上記フッ化物としては、フッ化リチウム、フッ化ニッケル、フッ化アルミニウムが示されている。また、上記各添加物に加えて5族元素を添加することも示されている。なお、上記ガラスは例えば硼珪酸ガラスである。
また、Si3N4やSiO2等から成る反射防止膜上に、Ag粉末、有機ビヒクル、ガラスフリット、およびTi,Bi,Co,Zn,Zr,Fe,Crの少なくとも一種とを含む電極材料を焼き付けることにより、安定したオーミックコンタクトおよびハンダ接着強度を得ようとするものがある(例えば、特許文献3を参照。)。Ti,Bi等は、Ag 100重量部に対して0.05〜5重量部が好ましいとされている。上記効果の得られる理由は示されていないが、Ti,Bi等が含まれていると、電極材料の焼成過程においてこれらがガラスに溶け込み、その後、電極材料が反射防止膜に作用するので、Ti,Bi等が含まれない場合に比較して反射防止膜との反応が安定化するものとされている。
また、85〜99(wt%)の銀および1〜15(wt%)のガラスを含む銀含有ペーストにおいて、そのガラスを15〜75(mol%)のPbOおよび5〜50(mol%)のSiO2を含み、B2O3を含まない組成とすることが提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。この銀含有ペーストは、太陽電池の電極形成に用いるものであって、上記組成のガラスを用いることによって、オーミックコンタクトが改善されるものとされている。上記ガラス中には、P2O5を0.1〜8.0(mol%)、或いはSb2O5を0.1〜10.0(mol%)含むことができ、更に、0.1〜15.0(mol%)のアルカリ金属酸化物(Na2O,K2O,Li2O)を含むことができる。
また、Ag粉末と、粒径が7〜100(nm)のZnOと、軟化点が300〜600(℃)の範囲内のガラスフリットとを有機溶媒中に分散した厚膜導電性組成物が提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。この厚膜導電性組成物は太陽電池の受光面電極を形成するためのもので、Znを添加することで導電性とハンダ接着性とが改善される。また、同様な目的で、ZnOに代えてMnO2を用いることも提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。
ところで、上述した太陽電池において、受光面電極は太陽光の入射を遮って太陽電池セルに届くエネルギー量を減じさせる。そのため、受光面電極の線幅(グリッド幅)を可及的に細くして、有効な受光面積を大きくすることが望まれている。例えば、従来は線幅が130(μm)程度であったが、これを110(μm)以下にすることが望まれている。しかしながら、線幅を細くすると、ガラスの侵食が不十分になって接触抵抗が高くなると共に接触面積も小さくなり、電流密度の低下が起こるため、変換効率を高くすることができない問題があった。
また、太陽電池において、受光面側に位置するn層を薄くすることによって表面再結合速度を低下させ、より多くの電流を取り出せるようにすること、すなわちシャローエミッタ化することが試みられている。シャローエミッタ化すると、特に400(nm)付近の短波長側も発電に寄与するようになるため、太陽電池の効率向上の面では理想的な解と考えられている。シャローエミッタは受光面側のn層厚みが70〜100(nm)と、従来のシリコン太陽電池セルの100〜200(nm)に比較して更に薄くされたもので、少数キャリアの再結合速度が高いn層における生成した電子とホールとが再結合して発電に寄与せず熱に変わる現象(すなわちヒートロス)が抑制されるので、短絡電流が増大し、延いては発電効率が高められる利点がある。
しかしながら、上述したシャローエミッタでは、セルを高シート抵抗にする必要があるため表面近傍のドナー元素(例えば燐)濃度が低下し或いはpn接合が浅くなる。表面近傍のドナー元素濃度が低下するとAg-Si間のバリア障壁が増加し、受光面電極のオーミックコンタクトの確保が困難になる。オーミックコンタクトの確保を容易にするためには、導電性ペースト中のガラス成分を増して侵食性を高めることが考えられるが、ガラス成分が多くなるほど受光面電極のライン抵抗が高くなる。
本発明は、以上の事情を背景として為されたもので、その目的は、オーミックコンタクトを容易に確保し且つライン抵抗を低くすることができ、延いては発電効率を向上させ得る太陽電池用導電性ペースト組成物を提供することにある。
斯かる目的を達成するため、本発明の要旨とするところは、導電性粉末と、ガラスフリットと、ベヒクルとを含む太陽電池用導電性ペースト組成物であって、導電性を有するペロブスカイト型酸化物を所定量含むことにある。
このようにすれば、上記の太陽電池用導電性ペースト組成物を用いて受光面電極をファイヤースルー法で形成すると、オーミックコンタクトを容易に確保することができ、しかも、ライン抵抗を低下させることができる。本発明によれば、如何なる作用によるものかは定かではないが、ペロブスカイト型酸化物を添加すると、ガラス成分を多くして侵食性を高めなくともオーミックコンタクトの確保が容易になる。そのため、ガラス成分を減じることができるので、添加するペロブスカイト型酸化物が導電性を有することと相俟って、導電性の高い導体膜を形成することができる。また、オーミックコンタクトが容易に確保できるため接触抵抗が低下することから、ライン抵抗が低下することと相俟って受光面電極のグリッドラインの細線化が容易になるので受光面積を増大させることができ、且つ、高シート抵抗のシャローエミッタにも好適に用い得る。以上により、本発明のペースト組成物を用いれば、オーミックコンタクトを確保しつつライン抵抗を低くできるので、変換効率の高い太陽電池を製造することができる。
なお、太陽電池用導電性ペースト組成物に金属酸化物を添加することは、前記特許文献3にも示されている。この特許文献3は、前述したように、Ti、Bi等の金属を酸化物として添加することにより、ファイヤースルー性を改善するもので、これにより、オーミックコンタクトの確保が容易になり、且つハンダ接着強度が高められる。しかしながら、上記金属酸化物を添加しても、形成される導体膜の固有抵抗は殆ど変化が無いか、或いは高くなるため、受光面電極のライン抵抗を低くすることはできない。本発明で添加されるペロブスカイト型酸化物も金属酸化物の範疇に属するものであり、ペースト中に含まれる導電性粉末よりも固有抵抗が高い材料であるが、特許文献3に示されるような単純な酸化物を添加する場合とは異なり、前述したようにライン抵抗を低下させる作用を有するのである。
ここで、好適には、前記ペロブスカイト型酸化物は、酸素イオン伝導性を有する混合伝導体である。本発明の導電性ペースト組成物に添加されるペロブスカイト型酸化物は、ライン抵抗が低くなるように少なくとも導電性を有することが必要であるが、これに加えて、酸素イオン伝導性を有することが望ましい。このようにすれば、太陽電池の発電効率を一層高めることができる。このような効果が得られる理由は定かではないが、混合伝導性を有するペロブスカイト型酸化物が含まれることで、イオンのパス経路が形成されることが寄与しているものと考えられる。
また、好適には、前記ペロブスカイト型酸化物は、(LaxSr1-x)(CoyFe1-y)O3-δ(但し、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦δ≦0.6)、La(NiwFe1-w)O3-β(但し、0<w<1、0≦β≦0.6)、(LazSr1-z)MnO3-γ(但し、0<z<1、0≦γ≦0.6)の何れかである。これらは、La系ペロブスカイト型酸化物の中でも電子伝導性およびイオン伝導性が共に高い材料であることから特に好ましい。
なお、本発明の導電性ペースト組成物に適用されるペロブスカイト型酸化物は、導電性を有する適宜のものを用いることができるが、例えば、La1-xSrxCoO3-δ、La1-xSrxFeO3-δ、La1-xSrxCrO3-δ、La1-xSrxTiO3-δ等が好ましい。
また、好適には、前記ペロブスカイト型酸化物は、前記導電性粉末および前記ガラスフリット合計100重量部に対して0.01〜0.50重量部の範囲で含まれるものである。ペロブスカイト型酸化物の含有量は発電効率を高くできるように適宜定めれば足りるが、ペロブスカイト型酸化物は、オーミックコンタクトを改善するものであることから、十分な割合で含まれることが好ましい一方、導電性粉末に比較すると導電性が劣ることから、過剰に含まれると却ってライン抵抗を低下させる。好ましい添加量の範囲は、導電性粉末の種類や量、ガラスの組成や量などによっても異なるが、例えば、上記の範囲内の添加量が好ましい。
また、本発明の導電性ペースト組成物を構成するガラスフリットは、特に限定されず、適宜のガラス組成を有するものを用いることができ、鉛ガラス、Li含有鉛ガラス、無鉛ガラス等、何れでもよい。鉛ガラスとしては、例えば、酸化物換算でPbOを46〜57(mol%)、B2O3を1〜7(mol%)、SiO2を38〜53(mol%)の範囲内の割合で含むものが挙げられる。このような組成のガラスがガラスフリットとして含まれる導電性ペースト組成物を用いて受光面電極を形成すると、太陽電池の最適焼成温度範囲が広くなる。例えば、製造ロット毎の最適焼成温度範囲が30〜40(℃)程度に広がる。そのため、適切な焼成温度で焼成することが容易になることから、ファイヤースルー性が向上してオーミックコンタクトが改善されるので、製造ロット当たりの平均出力が向上する。
なお、上記鉛ガラスは、その特性を損なわない範囲で他の種々のガラス構成成分や添加物を含み得る。例えば、Al、Zr、Na、Li、Ca、Zn、Mg、K、Ti、Ba、Sr等が含まれていても差し支えない。これらは酸化物換算で例えば合計10(mol%)以下の範囲で含まれ得る。以下の説明において、ガラスの構成成分は適宜元素名のみを示すが、ガラスの各成分の含有量は、ガラス中に如何なる形態で含まれているかを問わず、何れも酸化物換算した割合で示した。
また、前記Li含有鉛ガラスとしては、例えば、酸化物換算でLi2Oを0.6〜18(mol%)、PbOを20〜65(mol%)、B2O3を1〜18(mol%)、SiO2を20〜65(mol%)の範囲内の割合で含むものが挙げられる。このような組成のガラスがガラスフリットとして含まれる導電性ペースト組成物を用いて受光面電極を形成すると、十分に多い量のLiが含まれていることから、一層優れたファイヤースルー性が得られるため、オーミックコンタクトを確保することが一層容易になって、線幅を一層細くすることが可能になる。また、Liはn層に対するドナー元素であることから、このガラスフリットを含む導電性ペーストはドナー補償作用を有するので、ドナー元素濃度が低く高シート抵抗のシャローエミッタに一層好適である。
なお、Liは、拡散を促進することから一般に半導体に対しては不純物であって、特性を低下させる傾向があることから半導体用途では避けることが望まれる。特に、通常はPb量が多い場合にLiを含むと浸食性が強くなり過ぎて制御が困難になる傾向がある。しかしながら、太陽電池用途においては、Liを含むガラスを用いても特性低下が認められず、却って0.6〜18(mol%)程度の適量のLi2Oが含まれていることでファイヤースルー性が改善され、特性向上が認められる。
また、上記Li含有鉛ガラスは、その特性を損なわない範囲で他の種々のガラス構成成分や添加物を含み得る。例えば、Al、Zr、Na、Ca、Zn、Mg、K、Ti、Ba、Sr等が含まれていても差し支えない。Alはガラスの安定性を得るために有効な成分であるから、特性には殆ど影響しないが、含まれていることが好ましい。これらは例えば合計30(mol%)以下の範囲で含まれ得る。例えば、AlおよびTiはそれぞれ6(mol%)以下が好ましく、3(mol%)以下が一層好ましい。また、Znは30(mol%)以下が好ましく、15(mol%)以下が一層好ましい。これらAl,Ti,Znを適量含む組成とすることで、並列抵抗Rshが向上し、延いては開放電圧Vocおよび短絡電流Iscが向上するので一層高い電気的特性が得られる。
また、前記無鉛ガラスとしては、例えば、酸化物換算でBi2O3を10〜29(mol%)、ZnOを15〜30(mol%)、B2O3を20〜33(mol%)、SiO2を0〜20(mol%)、Li2O、Na2O、K2Oを合計量で8〜21(mol%)の範囲内の割合で含むものが挙げられる。このような無鉛ガラスから成るガラスフリットを含む導電性ペースト組成物によれば、無鉛でありながら電気的特性に優れた電極が得られる。上記無鉛ガラスは、その特性を損なわない範囲で他の種々のガラス構成成分や添加物を含み得る。例えば、Al2O3、P2O5、アルカリ土類酸化物、その他化合物が含まれていても差し支えない。これらは多量に含まれていると太陽電池の電気的特性を損なうので、例えば合計20(mol%)以下の範囲で含まれ得る。
上記の各ガラスフリット組成において、PbOは、ガラスの軟化点を低下させて低温焼成を可能とするための成分である。前記鉛ガラスにおいては、良好なファイヤースルー性を得るために、PbOが46(mol%)以上且つ57(mol%)以下であることが好ましい。PbO量は、49(mol%)以上が一層好ましく、54(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、49〜54(mol%)の範囲が更に好ましい。また、前記Li含有鉛ガラスにおいては、良好なファイヤースルー性を得るために、PbOが20(mol%)以上且つ65(mol%)以下であることが好ましい。PbO量が20(mol%)未満では軟化点が高くなるので反射防止膜へ浸食し難くなり、延いてはオーミックコンタクトの確保が困難になる。一方、65(mol%)を越えると軟化点が低くなるので浸食性が強くなりpn接合が破壊され易くなる等の問題が生じ得る。PbO量は、22.4(mol%)以上が一層好ましく、50.8(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、22.4〜50.8(mol%)の範囲が更に好ましい。また、30〜40(mol%)程度が特に好ましい。
また、Bi2O3は、ガラスの軟化点を低下させる成分で、鉛ガラスにおいては無用な成分であるが、前記無鉛ガラスにおいて、低温焼成を可能とするために必須である。10(mol%)未満では軟化点が高くなり、29(mol%)を超えると太陽電池の電気的特性の確保が困難になる。可及的に高い電気的特性を得るためには、Bi2O3量が少ない方が好ましく、20(mol%)以下に留めることが一層好ましい。また、軟化点を十分に低くするためには、Bi2O3量が多い方が好ましく、15(mol%)以上が好ましい。すなわち、15〜20(mol%)の範囲が特に好ましい。
また、B2O3は、ガラス形成酸化物(すなわちガラスの骨格を作る成分)であり、ガラスの軟化点を低くするための成分である。前記鉛ガラスにおいては、良好なファイヤースルー性を得るためには、B2O3が1(mol%)以上且つ7(mol%)以下であることが好ましい。B2O3量は、3(mol%)以上が一層好ましく、5(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、3〜5(mol%)の範囲が更に好ましい。また、前記Li含有鉛ガラスにおいては、良好なファイヤースルー性を得るためにはB2O3が1(mol%)以上且つ18(mol%)以下であることが好ましい。B2O3量が1(mol%)未満では軟化点が高くなるので反射防止膜へ浸食し難くなり、延いてはオーミックコンタクトの確保が困難になると共に、耐湿性も低下する。一方、18(mol%)を越えると軟化点が低くなるので浸食性が強くなりpn接合が破壊され易くなる等の問題が生ずる。B2O3量は、2.8(mol%)以上が一層好ましく、12(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、2.8〜12(mol%)の範囲が更に好ましい。また、6〜12(mol%)程度が特に好ましい。また、前記無鉛ガラスにおいては、良好なファイヤースルー性を得るためには、B2O3が20(mol%)以上且つ33(mol%)以下であることが好ましい。軟化点を十分に低くするためには20(mol%)以上が好ましく、電気的特性を得るためには33(mol%)以下が好ましい。B2O3は少なくなるほど軟化点が上昇する一方、多くなるほど電気的特性が低下する(例えば、シリコン系太陽電池においては基板材料であるSiとの反応性が高くなることに起因するものと考えられる)ので、その割合は所望する軟化点と電気的特性とを考慮して定めることが好ましく、例えば30(mol%)以下が好ましい。
また、SiO2は、ガラス形成酸化物であり、ガラスの耐化学性を高くするための成分である。前記鉛ガラスにおいては、良好なファイヤースルー性を得るためには、SiO2が38(mol%)以上且つ53(mol%)以下であることが好ましい。SiO2量は、43(mol%)以上が一層好ましく、48(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、43〜48(mol%)の範囲が更に好ましい。また、前記Li含有鉛ガラスにおいては、良好なファイヤースルー性を得るためにはSiO2が20(mol%)以上且つ65(mol%)以下であることが好ましい。SiO2量が20(mol%)未満では耐化学性が低くなると共にガラス形成が困難になり、一方、65(mol%)を越えると軟化点が高くなり反射防止膜へ浸食し難くなり、延いてはオーミックコンタクトの確保が困難になる。SiO2量は、27.0(mol%)以上が一層好ましく、48.5(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、27.0〜48.5(mol%)の範囲が更に好ましい。また、30〜35(mol%)程度が特に好ましい。また、前記無鉛ガラスにおいては、ガラスの安定性を向上させる効果があるので、必須成分ではないが含まれることが好ましい。但し、多くなるほど軟化点が上昇するので、20(mol%)以下に留めることが好ましい。十分な安定性を得るためには、4(mol%)以上が一層好ましく、軟化点を十分に低い値に留めるためには11(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、4〜11(mol%)が特に好ましい。
また、アルカリ成分Li2O、Na2O、K2Oは、ガラスの軟化点を低下させる成分である。前記鉛ガラスにおいては、何れも任意の成分であり、軟化点調整の目的で適宜の量を含むものとすることができる。また、前記Li含有鉛ガラスにおいては、Liのみ必須で他のアルカリ成分は任意の成分であるが、良好なファイヤースルー性を得るためには、Li2Oが0.6(mol%)以上且つ18(mol%)以下であることが好ましい。Li2Oが0.6(mol%)未満では軟化点が高くなり延いては反射防止膜への浸食性の確保が困難になる。一方、18(mol%)を越えると浸食性が強くなるので却って電気的特性が低下する傾向がある。Li2O量は、6(mol%)以上が一層好ましく、12(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、6〜12(mol%)の範囲が更に好ましい。また、6(mol%)程度が特に好ましい。また、前記無鉛ガラスにおいては、アルカリ成分の合計量が8(mol%)以上且つ21(mol%)以下であることが好ましい。8(mol%)未満では軟化点が高くなり、21(mol%)を超えると太陽電池の電気的特性の確保が困難になる。アルカリ成分量が少なくなるほど軟化点が上昇する一方、多くなるほど電気的特性が低下するので、10(mol%)以上が一層好ましく、20(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、10〜20(mol%)の範囲が特に好ましい。
また、ZnOは、前記無鉛ガラスにおいて、ガラスの軟化点を低下させると共に耐久性(すなわち長期信頼性)を高める成分である。15(mol%)未満では軟化点が高くなると共に耐久性も低くなる。一方、30(mol%)を超えると、他の成分とのバランスも影響するがガラスが結晶化し易くなる。ZnO量が少なくなるほど軟化点が上昇すると共に耐久性も低下する一方、多くなるほど結晶化しやすくなるので、20(mol%)以上が一層好ましく、30(mol%)以下が一層好ましい。すなわち、20〜30(mol%)の範囲が特に好ましい。
また、前記ガラスフリットは平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内である。このようにすれば、オーミックコンタクトの確保が一層容易になる。ガラスフリットの平均粒径が小さすぎると電極の焼成時に融解が早すぎるため電気的特性が低下すると共に、凝集が生じ易くなる。適度な融解性を得て電気的特性を一層高めると共に、ペースト調製時の良好な分散性を得るためには、0.3(μm)以上であることが好ましい。また、ガラスフリットの平均粒径が大きすぎると、粉末全体の分散性が低下すると共に、ガラスが融解性が低下する。特に、ガラスフリットの平均粒径が導電性粉末の平均粒径よりも著しく大きくなると、分散性の低下が顕著になる。良好な分散性を得ると共に、適度な融解性を得るためには、3.0(μm)以下であることが好ましい。
なお、上記ガラスフリットの平均粒径は空気透過法による値である。空気透過法は、粉体層に対する流体(例えば空気)の透過性から粉体の比表面積を測定する方法をいう。この測定方法の基礎となるのは、粉体層を構成する全粒子の濡れ表面積とそこを通過する流体の流速および圧力降下の関係を示すコゼニー・カーマン(Kozeny-Carmann)の式であり、装置によって定められた条件で充填された粉体層に対する流速と圧力降下を測定して試料の比表面積を求める。この方法は充填された粉体粒子の間隙を細孔と見立てて、空気の流れに抵抗となる粒子群の濡れ表面積を求めるもので、通常はガス吸着法で求めた比表面積よりも小さな値を示す。求められた上記比表面積および粒子密度から粉体粒子を仮定した平均粒径を算出できる。
また、好適には、前記導電性粉末は平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内の銀粉末である。導電性粉末としては銅粉末やニッケル粉末等も用い得るが、銀粉末が高い導電性を得るために最も好ましい。また、銀粉末の平均粒径が3.0(μm)以下であれば一層良好な分散性が得られるので一層高い導電性が得られる。また、0.3(μm)以上であれば凝集が抑制されて一層良好な分散性が得られる。なお、0.3(μm)未満の銀粉末は著しく高価であるため、製造コストの面からも0.3(μm)以上が好ましい。また、導電性粉末、ガラスフリット共に平均粒径が3.0(μm)以下であれば、細線パターンで電極を印刷形成する場合にも目詰まりが生じ難い利点がある。
なお、前記銀粉末は特に限定されず、球状や鱗片状等、どのような形状の粉末が用いられる場合にも導電性を保ったまま細線化が可能である。但し、球状粉を用いた場合が印刷性に優れると共に、塗布膜における銀粉末の充填率が高くなるため、導電性の高い銀が用いられることと相俟って、鱗片状等の他の形状の銀粉末が用いられる場合に比較して、その塗布膜から生成される電極の導電率が高くなる。そのため、必要な導電性を確保したまま線幅を一層細くすることが可能となることから、特に好ましい。
また、好適には、前記太陽電池用導電性ペースト組成物は、25(℃)−20(rpm)における粘度が150〜250(Pa・s)の範囲内、粘度比(すなわち、[10(rpm)における粘度]/[100(rpm)における粘度])が3〜8である。このような粘度特性を有するペーストを用いることにより、スキージングの際に好適に低粘度化してスクリーンメッシュを透過し、その透過後には高粘度に戻って印刷幅の広がりが抑制されるので、スクリーンを容易に透過して目詰まりを生じないなど印刷性を保ったまま細線パターンが容易に得られる。ペースト組成物の粘度は、160〜240(Pa・s)の範囲が一層好ましく、粘度比は3.2〜6.5の範囲が一層好ましい。また、設計線幅が100(μm)以下の細線化には粘度比4〜6が望ましい。
なお、線幅を細くしても断面積が保たれるように膜厚を厚くすることは、例えば、印刷製版の乳剤厚みを厚くすること、テンションを高くすること、線径を細くして開口径を広げること等でも可能である。しかしながら、乳剤厚みを厚くすると版離れが悪くなるので印刷パターン形状の安定性が得られなくなる。また、テンションを高くし或いは線径を細くすると、スクリーンメッシュが伸び易くなるので寸法・形状精度を保つことが困難になると共に印刷製版の耐久性が低下する問題がある。しかも、太幅で設けられることから膜厚を厚くすることが無用なバスバーも厚くなるため、材料の無駄が多くなる問題もある。
また、好適には、前記太陽電池用導電性ペースト組成物は、前記導電性粉末を64〜90重量部、前記ベヒクルを3〜20重量部の範囲内の割合で含むものである。このようにすれば、印刷性が良好で線幅の細く導電性の高い電極を容易に形成できるペースト組成物が得られる。
また、好適には、前記導電性ペースト組成物は、前記ガラスフリットを前記導電性粉末100重量部に対して1〜10重量部の範囲で含むものである。1重量部以上含まれていれば十分な浸食性(ファイヤスルー性)が得られるので、良好なオーミックコンタクトが得られる。また、10重量部以下に留められていれば絶縁層が形成され難いので十分な導電性が得られる。導電性粉末100重量部に対するガラス量は、1〜8重量部が一層好ましく、1〜7重量部が更に好ましい。
また、本願発明の導電性組成物は、前述したようにファイヤースルーによる電極形成に際して良好な侵食性を実現させてオーミックコンタクトを容易に確保できるものであるから、受光面電極に好適に用い得る。
また、前記ガラスフリットは、前記組成範囲でガラス化可能な種々の原料から合成することができ、例えば、酸化物、炭酸塩、硝酸塩等が挙げられるが、例えば、Si源としては二酸化珪素SiO2を、B源としては硼酸H3BO3または酸化硼素B2O3を、Pb源としては鉛丹Pb3O4を、Bi源としては酸化ビスマスBi2O3を、Li源としては炭酸リチウムLi2CO3を、Zn源としては酸化亜鉛ZnOを、Al源としては酸化アルミニウムAl2O3を、P源としてはリン酸二水素アンモニウムNH4H2PO4を、それぞれ用い得る。
また、上述した各成分の他に追加される成分についても、それらの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩等を用いればよい。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例の導電性組成物が適用されたシリコン系太陽電池10を備えた太陽電池モジュール12の断面構造を模式的に示す図である。図1において、太陽電池モジュール12は、上記太陽電池10と、これを封止する封止材14と、受光面側において封止材14上に設けられた表面ガラス16と、裏面側から太陽電池10および封止材14を保護するために設けられた保護フィルム(すなわちバックシート)18とを備えている。上記封止材14は、例えば、EVAから成るもので、十分な耐候性を有するように、架橋剤、紫外線吸収剤、接着保護剤等が適宜配合されている。また、上記保護フィルム18は、例えば弗素樹脂やポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、或いはPETやEVA等から成る樹脂フィルムを複数枚貼り合わせたもの等から成るもので、高い耐候性や水蒸気バリア性等を備えている。
また、上記の太陽電池10は、例えばp型多結晶半導体であるシリコン基板20と、その上下面にそれぞれ形成されたn層22およびp+層24と、そのn層22上に形成された反射防止膜26および受光面電極28と、そのp+層24上に形成された裏面電極30とを備えている。上記シリコン基板20の厚さ寸法は例えば100〜200(μm)程度である。
上記のn層22およびp+層24は、シリコン基板20の上下面に不純物濃度の高い層を形成することで設けられたもので、その高濃度層の厚さ寸法はn層22が例えば70〜100(nm)程度、p+層24が例えば500(nm)程度である。n層22は、一般的なシリコン系太陽電池では100〜200(nm)程度であるが、本実施例ではそれよりも薄くなっており、シャローエミッタと称される構造を成している。なお、n層22に含まれる不純物は、n型のドーパント、例えば燐(P)で、p+層24に含まれる不純物は、p型のドーパント、例えばアルミニウム(Al)や硼素(B)である。
また、前記の反射防止膜26は、例えば、窒化珪素 Si3N4等から成る薄膜で、例えば可視光波長の1/4程度の光学的厚さ、例えば80(nm)程度で設けられることによって10(%)以下、例えば2(%)程度の極めて低い反射率に構成されている。
また、前記の受光面電極28は、例えば一様な厚さ寸法の厚膜導体から成るもので、図2に示されるように、受光面32の略全面に、多数本の細線部を有する櫛状を成す平面形状で設けられている。
上記の厚膜導体は、導電性成分としてAgを、添加物としてペロブスカイト型酸化物粉末を、それぞれ含むものである。この厚膜導体は、Ag 100重量部に対してガラスを1〜10重量部の範囲(例えば6.0重量部)で含み、上記ペロブスカイト型酸化物粉末は、それらAgおよびガラスの合計100重量部に対して0.01〜0.50重量部の範囲で含まれている。上記ガラスは、例えば、酸化物換算した値で、PbOを20〜65(mol%)の範囲内、例えば22.4(mol%)、B2O3を1〜18(mol%)の範囲内、例えば9.0(mol%)、SiO2を20〜65(mol%)の範囲内、例えば35.6(mol%)、Li2Oを0.6〜18(mol%)の範囲内、例えば12.0(mol%)、これら主要成分の他に、Al2O3を6.0(mol%)以下、例えば3.0(mol%)、TiO2を6.0(mol%)以下、例えば3.0(mol%)、ZnOを30.0(mol%)以下、例えば15.0(mol%)の割合でそれぞれ含むLi含有鉛ガラスである。
また、上記のガラスに代えて、例えば、Liを含まない鉛ガラスを用いることもできる。その場合のガラス組成は、例えば、PbOを46〜57(mol%)の範囲内、B2O3を1〜7(mol%)の範囲内、SiO2を38〜53(mol%)の範囲内の割合でそれぞれ含むものが好適である。
また、上記のガラスに代えて、無鉛ガラスを用いることもできる。その場合のガラス組成は、例えば、Bi2O3を10〜29(mol%)の範囲内、ZnOを15〜30(mol%)の範囲内、B2O3を20〜33(mol%)の範囲内、SiO2を0〜20(mol%)の範囲内、アルカリ金属成分Li2O、Na2O、K2Oを合計で8〜21(mol%)の範囲内の割合でそれぞれ含むものが好適である。
また、前記ペロブスカイト型酸化物は、例えば、(La,Sr)(Co,Fe)O3、La(Ni,Fe)O3、(La,Sr)MnO3等の混合伝導性を有するLa系材料から成るものである。これらの材料系の中でも、特に、(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3(以下、LSCFという)、La(Ni0.6Fe0.4)O3(以下、LNFという)、(La0.5Sr0.5)MnO3(以下、LSMという)が好適に用いられる。
また、前記の受光面電極28を構成する導体層の厚さ寸法は例えば20〜30(μm)の範囲内、例えば25(μm)程度で、細線部の各々の幅寸法は例えば80〜130(μm)の範囲内、例えば100(μm)程度で、十分に高い導電性を備えている。この受光面電極28のライン抵抗は、例示した上記厚さ寸法および幅寸法で、例えば、0.580〜0.626(mΩ)程度である。ペロブスカイト型酸化物を含まない従来のペースト組成物を用いた導体のライン抵抗は、例えば0.646(mΩ)程度であるので、本実施例によれば、0.02(mΩ)以上のライン抵抗の低下が認められる。
また、前記の裏面電極30は、p+層24上にアルミニウムを導体成分とする厚膜材料を略全面に塗布して形成された全面電極34と、その全面電極34上に帯状に塗布して形成された厚膜銀から成る帯状電極36とから構成されている。この帯状電極36は、裏面電極30に半田リボン38や導線等を半田付け可能にするために設けられたものである。前記受光面電極28にも裏面側と同様に半田リボン38が溶着されている。
以上のように構成された太陽電池10は、前述したように受光面電極28が0.01〜0.50重量部のペロブスカイト型酸化物を含むことから、受光面電極28とn層22とのオーミックコンタクトが確保され、且つライン抵抗が0.626(mΩ)以下と低いので、FF値が0.777〜0.785程度と十分に大きく、また、発電性能すなわち公称効率Effが16.7〜16.9(%)と、16.5(%)程度に留まっていた従来に比較して向上している。本実施例の受光面電極28は、導電性を有するペロブスカイト型酸化物が添加されているので、ガラス成分を減じることができることから、従来に比較して高い導電性を有するものとなっている。これが発電性能が向上している一因と考えられる。
上記のような受光面電極28は、例えば、導体粉末と、ガラスフリットと、ペロブスカイト型酸化物粉末と、ベヒクルと、溶剤とから成る電極用ペーストを用いて良く知られたファイヤースルー法によって形成されたものである。その受光面電極形成を含む太陽電池10の製造方法の一例を以下に説明する。
まず、上記ガラスフリットを作製する。ガラスフリットの原料としては、Li源として炭酸リチウム Li2CO3を、Al源として酸化アルミニウム Al2O3を、Si源として二酸化珪素 SiO2を、B源として硼酸H3BO3を、Pb源として鉛丹 Pb3O4を、Bi源として酸化ビスマス Bi2O3を、Ti源として酸化チタン TiO2を、Zn源として酸化亜鉛 ZnO等を、それぞれ用いることができる。これらのガラスフリット原料を用意し、前述した範囲内の適宜の組成となるように秤量して調合する。これを坩堝に投入して組成に応じた900〜1200(℃)の範囲内の温度で、30分〜1時間程度溶融し、急冷することでガラス化させる。このガラスを遊星ミルやボールミル等の適宜の粉砕装置を用いて粉砕する。粉砕後の平均粒径(D50)は例えば0.3〜3.0(μm)程度である。なお、上記ガラス粉末の平均粒径は空気透過法を用いて算出したものである。
一方、導体粉末として、例えば、平均粒径(D50)が0.3〜3.0(μm)の範囲内、例えば平均粒径が1.6(μm)程度の市販の球状の銀粉末を用意する。このような平均粒径が十分に小さい銀粉末を用いることにより、塗布膜における銀粉末の充填率を高め延いては導体の導電率を高めることができる。また、前記ベヒクルは、有機溶剤に有機結合剤を溶解させて調製したもので、有機溶剤としては、例えばブチルカルビトールアセテートが、有機結合剤としては、例えばエチルセルロースが用いられる。ベヒクル中のエチルセルロースの割合は例えば15(wt%)程度である。また、ベヒクルとは別に添加する溶剤は、例えばブチルカルビトールアセテートである。すなわち、これに限定されるものではないが、ベヒクルに用いたものと同じ溶剤でよい。この溶剤は、ペーストの粘度調整の目的で添加される。
また、本実施例においては、上記ガラスフリットおよび導体粉末に加えて、平均粒径が0.7(μm)程度のペロブスカイト型酸化物 La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ(すなわちLSCF)粉末を添加物として用意する。このLSCF粉末は、市販品を用いても、適宜の出発原料から合成したものを粉砕して用いてもよい。
以上のペースト原料をそれぞれ用意して、例えば導体粉末を77〜88(wt%)の範囲内、ガラスフリットを1〜10(wt%)の範囲内、LSCF粉末を導体粉末100重量部に対して0.01〜0.50重量部の範囲内、ベヒクルを4〜14(wt%)の範囲内、溶剤を2〜8(wt%)の範囲内の割合で秤量し、攪拌機等を用いて混合した後、例えば三本ロールミルで分散処理を行う。これにより、前記電極用ペーストが得られる。
上記のようにして電極用ペーストを調製する一方、適宜のシリコン基板に例えば、熱拡散法やイオンプランテーション等の良く知られた方法で不純物を拡散し或いは注入して前記n層22およびp+層24を形成することにより、前記シリコン基板20を作製する。次いで、これに例えばPE−CVD(プラズマCVD)等の適宜の方法で窒化珪素薄膜を形成し、前記反射防止膜26を設ける。
次いで、上記の反射防止膜26上に前記図2に示すパターンで前記電極用ペーストをスクリーン印刷する。これを例えば150(℃)で乾燥し、更に、近赤外炉において700〜900(℃)の範囲内の温度で焼成処理を施す。これにより、その焼成過程で電極用ペースト中のガラス成分が反射防止膜26を溶かし、その電極用ペーストが反射防止膜26を破るので、電極用ペースト中の導体成分すなわち銀とn層22との電気的接続が得られ、前記図1に示されるようにシリコン基板20と受光面電極28とのオーミックコンタクトが得られる。受光面電極28は、このようにして形成される。
なお、前記裏面電極30は、上記工程の後に形成してもよいが、受光面電極28と同時に焼成して形成することもできる。裏面電極30を形成するに際しては、上記シリコン基板20の裏面全面に、例えばアルミニウムペーストをスクリーン印刷法等で塗布し、焼成処理を施すことによってアルミニウム厚膜から成る前記全面電極34を形成する。更に、その全面電極34の表面に前記電極用ペーストをスクリーン印刷法等を用いて帯状に塗布して焼成処理を施すことによって、前記帯状電極36を形成する。これにより、裏面全面を覆う全面電極34と、その表面の一部に帯状に設けられた帯状電極36とから成る裏面電極30が形成され、前記の太陽電池10が得られる。上記工程において、同時焼成で製造する場合には、受光面電極28の焼成前に印刷処理を施すことになる。
以下、電極ペーストに添加するペロブスカイト型酸化物の種類と添加量を種々変更して、上記の製造工程に従って太陽電池10を製造して評価した結果を、添加物として他の材料を用いた比較例と併せて説明する。添加物としては、前記LSCFの他に、実施例としてLa(Ni0.6Fe0.4)O3-δ(すなわちLNF)および(La0.5Sr0.5)MnO3-δ(すなわちLSM)を用い、比較例としてFe2O3、CoO、MnO、NiOを用いた。また、太陽電池特性については、受光面電極28のライン抵抗を測定すると共に、市販のソーラーシミュレータを用いてその出力を測定して曲線因子FFおよび発電性能を求めた。
なお、評価に際しては、各試料は平均粒径1.6(μm)の球状のAg粉と平均粒径1.5(μm)のガラスフリットとを用いて作製した。調合割合はAg粉 83(wt%)、ガラスフリット 4(wt%)、ベヒクル 8(wt%)、溶剤 5(wt%)を基本とし、印刷性を同等とするために、25(℃)−20(rpm)における粘度が160〜180(Pa・s)になるようにベヒクル量および溶剤量を適宜調整した。また、受光面電極28を形成する際の印刷製版は、線径23(μm)のSUS325製スクリーンメッシュに20(μm)厚の乳剤を設けたものとした。また、グリッドラインの焼成後幅寸法が100(μm)となるように印刷条件を設定した。また、基板のシート抵抗は90±10(Ω/□)を用いて評価を行った。
下記の表1に本実施例で適用可能なガラスフリットの組成例を示す。No.1、3、4は、Li含有鉛ガラス、No.2は鉛ガラス、No.5は無鉛ガラスである。このように鉛ガラス、無鉛ガラス等、種々のガラスを用い得るが、以下の表2〜8に示す評価では、全てNo.1のLi含有鉛ガラスを用いた結果を示す。
LSCFを添加した評価Aの評価結果を表2に示す。表2において、「LSCF添加量」は、ペースト中のAg粉100(wt%)に対するLSCF粉の添加量であり、この評価Aでは、添加量を0〜2.00(wt%)の範囲で評価した。「比0、比A1〜比A3」は比較例0、A1〜A3、「実A1〜実A4」は実施例A1〜A4をそれぞれ意味する。下記の表2において、LSCFを添加しない比較例0では、ライン抵抗が0.646(mΩ)、FF値が0.780、発電性能が16.5(%)であったのに対し、0.01〜0.50(wt%)の範囲で添加した実施例A1〜A4では、ライン抵抗が0.580〜0.623(mΩ)に低下し、発電性能は16.7〜16.9(%)に向上した。なお、実施例A4では、FF値が無添加の比較例0の値よりも低い0.777に留まったが、FF値はオーミックコンタクトが確保できているか否かの目安となるものであり、高い方がよいとはされるものの概ね0.750以上であれば問題はない。
これに対して、比較例A1は、LSCFを0.005(wt%)添加したものであるが、ライン抵抗の若干の改善は認められるものの発電性能は無添加の場合と同等に留まった。また、比較例A2、A3は、LSCFを1.00(wt%)以上添加したものであるが、ライン抵抗は却って高くなり、FF値、発電性能共に却って低下する結果となった。
上記の結果によれば、評価したペースト調合組成の範囲では、LSCFの添加量が0.005(wt%)では添加量が不足するため、添加効果が認められず、0.01(wt%)以上の添加が望ましいと言える。一方、LSCFの添加量が1.00(wt%)以上では、添加量が過剰になることから、却って特性低下が認められるため、0.50(wt%)以下の添加が望ましいと言える。なお、上記「ペースト調合組成の範囲」には、ガラス組成や添加物の種類、粒径等も含めて考えるものとする。以下の各評価においても同様である。
また、上記表2において、添加量が0.02(wt%)までの範囲では、LSCFの添加量が増大するに従ってライン抵抗が低下すると共にFF値および発電性能が向上し、これを越えると、添加量が増大するに従ってライン抵抗が上昇すると共にFF値および発電性能が低下する傾向が認められる。添加量が0.02(wt%)では、ライン抵抗が0.580(mΩ)、FF値が0.785、発電性能が16.9(%)と、極めて高い特性が得られた。したがって、LSCFの添加量は発電性能の最高値を含む0.01〜0.10(wt%)程度が一層好ましく、0.02(wt%)程度が特に好ましいと考えられる。
下記の表3は、LSCFに代えてLNFを添加した評価Bの評価結果を纏めたものである。この評価においても、LNFの添加量をAg 100(wt%)に対して0〜2.00(wt%)の範囲とした。なお、表3において、「比0」は、前記表2に示した「比0」を再掲したもので、以下の各表においても同様である。
上記の表3においても、LNFを0.01〜0.50(wt%)の範囲で添加した実施例B1〜B4では、ライン抵抗が0.590〜0.628(mΩ)に低下し、発電性能は16.7〜16.8(%)に向上した。また、この評価でも、実施例B4では、FF値が無添加の比較例0の値よりも低い0.778に留まった。
これに対して、比較例B1は、LNFを0.005(wt%)添加したものであるが、ライン抵抗の若干の改善は認められるものの発電性能は無添加の場合と同等に留まった。また、比較例B2、B3は、LNFを1.00(wt%)以上添加したものであるが、ライン抵抗は却って高くなり、FF値、発電性能共に却って低下する結果となった。
上記の結果によれば、評価したペースト調合組成の範囲では、LNFの添加量が0.005(wt%)では添加量が不足するため、添加効果が認められず、0.01(wt%)以上の添加が望ましいと言える。一方、LNFの添加量が1.00(wt%)以上では、添加量が過剰になることから、却って特性低下が認められるため、0.50(wt%)以下の添加が望ましいと言える。
なお、上記表3において、添加量が0.02(wt%)までの範囲では、LNFの添加量が増大するに従ってライン抵抗が低下すると共にFF値および発電性能が向上し、これを越えると、添加量が増大するに従ってライン抵抗が上昇すると共にFF値および発電性能が低下する傾向が認められる。但し、実施例B2と実施例B3とは、ライン抵抗値は顕著に相違するもののFF値および発電性能は、何れもそれぞれ0.783、16.8(%)の同等の結果が得られている。すなわち、LNF添加の場合には、LSCF添加の場合ほどには、ライン抵抗の増大がFF値や発電性能に影響が現れていない。したがって、LNFの添加量は0.02〜0.10(wt%)程度が一層好ましいと考えられる。
下記の表4は、添加物をLSMとした評価Cの評価結果を纏めたものである。この評価においても、LSMの添加量をAg 100(wt%)に対して0〜2.00(wt%)の範囲とした。
上記の表4においても、LSMを0.01〜0.50(wt%)の範囲で添加した実施例C1〜C4では、ライン抵抗が0.594〜0.625(mΩ)に低下し、発電性能は16.7〜16.8(%)に向上した。また、この評価でも、実施例C4では、FF値が無添加の比較例0の値よりも低い0.777に留まった。
これに対して、比較例C1は、LSMを0.005(wt%)添加したものであるが、ライン抵抗の若干の改善は認められるもののFF値および発電性能は無添加の場合と同等に留まった。また、比較例C2、C3は、LSMを1.00(wt%)以上添加したものであるが、ライン抵抗は却って高くなり、FF値、発電性能共に却って低下する結果となった。
上記の結果によれば、評価したペースト調合組成の範囲では、LSMの添加量が0.005(wt%)では添加量が不足するため、添加効果が認められず、0.01(wt%)以上の添加が望ましいと言える。一方、LSMの添加量が1.00(wt%)以上では、添加量が過剰になることから、却って特性低下が認められるため、0.50(wt%)以下の添加が望ましいと言える。
なお、上記表4において、添加量が0.02(wt%)までの範囲では、LSMの添加量が増大するに従ってライン抵抗が低下すると共にFF値および発電性能が向上し、これを越えると、添加量が増大するに従ってライン抵抗が上昇すると共にFF値および発電性能が低下する傾向が認められる。添加量が0.02(wt%)では、ライン抵抗が0.594(mΩ)、FF値が0.784、発電性能が16.8(%)と、極めて高い特性が得られた。したがって、LSMの添加量は発電性能の最高値を含む0.01〜0.10(wt%)程度が一層好ましく、0.02(wt%)程度が特に好ましいと考えられる。
上述した3種のペロブスカイト型酸化物LSCF、LNF、LSMの評価結果に示されるように、本実施例においては、何れの添加物を用いた場合にも、添加物の種類に拘わらず、Ag 100(wt%)に対して0.01〜0.50(wt%)の添加量の範囲で、ライン抵抗が低下すると共に、FF値および発電性能が向上する。Aサイト元素およびBサイト元素の置換割合が異なる添加物を選択した場合には、好適な添加量の範囲や効果の程度に若干の相違が生ずる可能性もあるものの、上述した評価結果(評価A〜C)によれば、概ね同様な結果を期待しても良いと思われる。
すなわち、上記添加物は、何れもLa系ペロブスカイト型酸化物であり、導電性、特に、混合伝導性を有するものであるから、少なくとも導電性を有するペロブスカイト型酸化物を、好ましくは混合伝導性を有するペロブスカイト型酸化物を、一層好ましくは混合伝導性を有するLa系ペロブスカイト型酸化物を、添加物として選択し、添加量を適切なものとすれば、ライン抵抗を低下させると共にFF値および発電性能を向上させることができるものと考えられる。
下記の表5〜8は、ペロブスカイト型酸化物とは異なる種々の酸化物を添加して特性改善の有無を確認した比較例の評価結果を纏めたものである。表5は添加物をFe2O3とした評価Dの評価結果、表6は添加物をCoOとした評価Eの評価結果、表7は添加物をMnOとした評価Fの評価結果、表8は添加物をNiOとした評価Gの評価結果である。これらの評価においても、各添加物の添加量をAg 100(wt%)に対して0〜2.00(wt%)の範囲とした。
上記の表5〜表8において、Fe2O3、CoO、MnO、NiOの何れを添加した場合にも、添加量が微量であればライン抵抗が若干ではあるが低下し、FF値および発電性能も僅かに向上している。すなわち、発電性能は、無添加の場合の16.5(%)から16.6(%)に、僅か0.1(%)であるが向上する。
これに対して、前述した実施例で示した通り、導電性を有するペロブスカイト型酸化物を添加すると、添加量次第であるが、16.7〜16.9(%)の発電性能を得ることができる。すなわち、導電性を有する酸化物を添加することでライン抵抗を低下させ、延いてはFF値および発電性能を向上させ得ることは、従来から知られる通りであるが、本実施例によれば、特に、その酸化物としてペロブスカイト型酸化物を選択することにより、従来に比較して更に0.1〜0.3(%)効率を向上させ得るのである。
要するに、導電性を有するペロブスカイト型酸化物を含む本実施例の導電性ペーストを用いて、受光面電極28をファイヤースルー法で形成すると、ガラス成分を多くして侵食性を高めなくともオーミックコンタクトを容易に確保することができ、そのため、ガラス成分を減じることができるので、添加するペロブスカイト型酸化物が導電性を有することと相俟って、導電性の高い(すなわち、ライン抵抗の低い)導体膜すなわち受光面電極28を形成することができる。また、オーミックコンタクトが容易に確保できるため接触抵抗が低下することから、ライン抵抗が低下することと相俟って受光面電極28のグリッドラインの細線化が容易になるので受光面積を増大させることができる。以上により、本実施例のペースト組成物を用いれば、オーミックコンタクトを確保しつつライン抵抗を低くできるので、変換効率の高い太陽電池10を製造することができる。
なお、上述した実施例および比較例においては、何れも前記表1に示すNo.1のLi含有鉛ガラスをガラスフリットとして用いたが、その表1に示す他のガラスはもちろん、その他の組成を有するガラスを用いても、実施例と同様な発電性能向上効果を得ることができる。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。