JP2014121329A - Blastocystcomplementationを利用した臓器再生法 - Google Patents

Blastocystcomplementationを利用した臓器再生法 Download PDF

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Abstract

【課題】腎臓、すい臓、胸腺及び毛などの複数種の細胞からなる複雑な細胞構成を有する哺乳動物の臓器を、非ヒト動物の生体中で作成する方法の提供。
【解決手段】成体腎臓の大部分へ分化する後腎間葉の機能異常により腎臓、すい臓、胸腺及び毛が欠損するモデルマウスを、胚盤胞補完作用によりレスキューすることにより、新規に腎臓、すい臓、胸腺及び毛などの目的臓器を製造する。該異個体宿主哺乳動物由来の細胞を調製し、該非ヒト宿主哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に該細胞を移殖し、該受精卵を該ヒト宿主哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得て、該産仔個体から該目的臓器を取得する。前記細胞がES細胞又はiPS細胞である。
【選択図】なし

Description

本発明は、製造すべき臓器と同種の哺乳動物由来の細胞を使用して、生体内で当該細胞由来の臓器を作成する方法に関する。
細胞移植あるいは臓器移植といった形での再生医療を論じる上で、多分化能を有する幹細胞への期待は大きい。胚盤胞期受精卵の内部細胞塊より樹立されたES細胞は、多分化能を持ち、種々の細胞分化の研究に用いられ、in vitroでそれを特定の細胞系譜に分化誘導する分化制御法の開発は再生医学研究のトピックである。
ES細胞を用いたin vitro分化研究では胚発生初期に分化してくる血球、血管、心筋、神経系などの中胚葉、外胚葉系へは分化しやすい。しかしながら、胚発生中期以降に細胞間相互作用を通じて複雑な組織形成へと向かう器官への分化は難しいという一般的な傾向が知られている。
たとえば、哺乳類の成体腎臓である後腎は胚発生中期に中間部中胚葉より発生する。具体的には後腎間葉細胞と尿管芽上皮という2つのコンポーネントの相互作用により腎臓発生は始まり、最終的に数十種類という他臓器には見られない程の多種類の機能細胞への分化とそれらによる糸球体・尿細管を中心とした複雑なネフロン構造の構成により、成体腎臓が完成する。腎臓の発生時期とその過程の複雑さから、in vitroでES細胞から腎臓を誘導することが非常に手間のかかる難仕事であることは容易に推察でき、事実上不可能であると考えられている。また、腎臓などの臓器では体性幹細胞の同定はいまだ確定的なものではなく、一時盛んに研究された骨髄細胞の障害腎臓修復過程への寄与もさほど大きいものではないということが判明しつつある。
多分化能を有するES細胞を胚盤胞期受精卵の内腔へ注入すれば産生個体はキメラマウスを形成する。T細胞、B細胞系譜を欠損するRag−2ノックアウトマウスに対して、この技術を応用した胚盤胞補完作用(blastocyst complementation)によるT細胞、B細胞系譜のレスキュー実験が過去に報告されている(非特許文献1)。このキメラマウス・アッセイは、in vitroアッセイ系の存在しないT細胞系譜の分化を確認するin vivoアッセイ系として用いられている。
しかし、いったんある臓器でこのような技術が使用可能であることがわかっても、実際に他の臓器で成功するかどうかは、臓器の生体内における役割、例えば、臓器を欠失させたときの致死性などが異なることから、予測は困難であり、種々の要因が影響を与える。そして、今回選択した臓器欠損モデルの欠損遺伝子も重要な要因であり、欠損する遺伝子の発生過程における機能、特に臓器形成過程における各臓器の幹/前駆細胞などの分化・維持に必須な転写因子を選択することが必要であるからだと思われる。
これが液性因子や分泌因子の欠損が原因で臓器欠損を示すモデルを利用していたとすると、その放出される因子だけがES細胞由来の細胞から放出されることにより補充され、臓器レベルではキメラ状態になってしまうことが予想される。
このことから、本発明において臓器において適切なモデル動物の選択が鍵となる要因であり、他臓器への応用を考えたとき、他の臓器において本発明と同様の表現型を示すモデルを用いるのは困難であると思われる。
Chen J., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol. 90, pp. 4528−4532, 1993 Nishinakamura, R. et al., Development, Vol. 128, p. 3105−3115, 2001 Offield, M.F., et al., Development, Vol.122, p. 983−995, 1996 McMahon, A.P. and Bradley, A., Cell, Vol.62, p. 1073−1085, 1990 Kimura, S., et al., Genes and Development, Vol.10, p. 60−69, 1996 Celli, G., et al., EMBO J., Vol.17 pp.1642−655, 1998 Takasato, M. et al., Mechanisms of Development, Vol.121, p. 547−557, 2004 Mulnard, J.G., C.R.Acad.Sci.Paris.276, 379−381 (1973) Stern, M.S., Nature.243, 472−473 (1973) Tachi, S. &Tachi, C. Dev.Biol.80, 18−27 (1980) Zeilmarker, G., Nature, 242, 115−116 (1973) Fehilly, C.B., et al., Nature, 307, 634−636(1984) Bevis B.J. and Glick B.S., Nature Biotechnology Vol. 20, p. 83−87, 2002 Poueymirou WT, et al., Nature Biotechnol. 2007 Jan;25(1):91−9
本発明は、腎臓、すい臓、毛および胸腺などの複数種の細胞からなる複雑な細胞構成を有する哺乳動物の臓器を、動物、特に非ヒト動物の生体中で作製することを課題とする。
本発明者らは、上述したキメラ動物・アッセイを、固形臓器の新規作製方法に応用した。より具体的には、上述したキメラ動物・アッセイを、具体的には成体腎臓の大部分へ分化する後腎間葉の機能異常により腎臓、すい臓、毛および胸腺が欠損するモデル動物(sall1ノックアウトマウス、ヌードマウスなど、Pdx1遺伝子ローカスにLacZ遺伝子をノックイン(ノックアウトでもある)したマウスなどの動物を、胚盤胞補完作用(blastocyst complementation)によりレスキューすることにより、新規に腎臓、すい臓、毛および胸腺を製造することができることを示した。
今回選択した臓器欠損モデルの欠損遺伝子も重要な要因であり、欠損する遺伝子の発生過程における機能、特に臓器形成過程における各臓器の幹/前駆細胞などの分化・維持に必須な転写因子を選択したことが今回の発明の鍵となった。
ただし、いったんある臓器について、本発明の方法が適用することができることがわかると、その臓器については、成功した事例に基づいて適宜変更を加えて応用することができることが理解される。その理由は以下のとおりである。適切な欠損動物が存在すれば、本明細書に示されるように蛍光標識されたES細胞またはiPS細胞等を用い、同様の解析方法を適用すれば構築された臓器がホスト由来かES細胞またはiPS細胞等由来かは明らかとなり、臓器構築の可否を判定できるためである。
これが液性因子や分泌因子の欠損が原因で臓器欠損を示すモデルを利用していたとすると、その放出される因子だけがES細胞またはiPS細胞等の由来の細胞から放出されることにより補充され、臓器レベルではキメラ状態になってしまうことが予想されていたが、腎臓、すい臓、胸腺および毛では、今回機能する系が見出された。したがって、これらの特定の臓器について言えば、本明細書において提供した情報に基づいて、当業者は適宜設計変更することができる。その設計変更をする際には以下を考慮することができる。
また、臓器を完全に欠損するモデルを選択したことも同様に鍵となっている。遺伝子の発現量、冗長性により一遺伝子を欠損した時、臓器の低形成を示すマウスなどの動物は多く存在するが、それらを利用した場合でもES細胞またはiPS細胞等由来の細胞が元の細胞と協調して発生するため臓器レベルではキメラ状態になってしまうことが予想される。このことから、本発明においてモデル動物の選択が鍵となる要因であり、他臓器への応用を考えた時、他の臓器において本発明と同様の表現型を示すモデルを用いるのは困難であると思われていたが、腎臓、すい臓、胸腺および毛では、今回機能する系が見出された。したがって、少なくともこれらの特定の臓器について言えば、本明細書において提供した情報に基づいて、当業者は適宜設計変更することができる。
この点、非特許文献14は、新規のノックアウトマウス作製法を開発することを記載、レーザーを用いて胚盤胞より前の段階の胚へ注入することでの寄与を上げ一世代目から完全にES細胞またはiPS細胞等由来のマウスを作製しようという試みがなされているため完全な個体が生産されるから、臓器の製造をすることはできない。
具体的には、本発明は、発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の生体内において、該宿主とは異なる個体の異個体宿主哺乳動物由来の該目的臓器を製造する方法であって、
a)該異個体宿主哺乳動物由来の細胞を調製する工程;
b)該非ヒト宿主哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;
c)該受精卵を該非ヒト宿主哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程;および
d)該産仔個体から、該目的臓器を取得する工程
を含む、臓器を製造する方法を提供することにより、上記課題を解決することができることを明らかにした。
本発明においては、製造すべき臓器の動物種に合わせて移植される細胞を調製する。たとえば、ヒトの臓器を製造したい場合には、ヒト由来の細胞を、ヒト以外の哺乳動物の臓器を製造したい場合には、その哺乳動物由来の細胞を、それぞれ調製する。本発明において、移植される細胞は、好ましくは製造する臓器に分化する能力を有する細胞(全能性細胞あるいは多能性細胞)であるがこれに限定されない。全能性細胞あるいは多能性細胞として、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、体性幹細胞、受精卵内部細胞塊細胞、初期胚細胞等を使用することができるが、これらには限定されない。たとえば、ヒトの臓器を製造したい場合、induced pluripotent stem cell、multipotent germline stem cell等を使用することができる。好ましくはES細胞またはそれと同等の能力を有するiPS細胞(Nature. 2007 Jul 19;448(7151):313−7;Cell. 2006 Aug 25;126(4):663−76)を用いることができる。
本発明の方法において製造すべき臓器としては、腎臓、心臓、膵臓、小脳、肺臓、甲状腺、毛および胸腺などの一定の形状を有する固形臓器であればいずれのものでもよいが、好ましくは、腎臓、すい臓、毛および胸腺が挙げられる。このような固形臓器は、全能性細胞あるいは多能性細胞を、レシピエントとなる胚の中で発生させることにより、産仔の体内において製造する。全能性細胞あるいは多能性細胞は、胚の中で発生させることにより、すべての臓器を形成することができることから、使用する全能性細胞あるいは多能性細胞の種類に依存して製造することができる固形臓器が制約を受けることはない。
一方、本発明は、レシピエントとなる非ヒト胚由来の産仔個体の体内において、移植される細胞にのみ由来する臓器を形成することを特徴としており、レシピエントとなる非ヒト胚由来の細胞と移植される細胞とのキメラの細胞構成を有することは望ましくない。そのため、レシピエントとなる非ヒト胚としては、発生段階において製造すべき臓器の発生が生じず、出生児において当該臓器を欠損する異常を有する動物由来の胚を使用することが望ましい。このような臓器欠損を発生させる動物であれば、特定の遺伝子が欠損することにより臓器が欠損するノックアウト動物であっても、あるいは特定の遺伝子を組み込むことにより臓器が欠損するトランスジェニック動物であってもよい。
たとえば、臓器として腎臓を製造する場合、レシピエントとなる非ヒト胚として、発生段階において腎臓の発生が生じない異常を有するSall1ノックアウト動物(非特許文献2)の胚等を使用することができる。また、臓器として膵臓を製造する場合、レシピエントとなる非ヒト胚として、発生段階において膵臓の発生が生じない異常を有するpdx−1ノックアウト動物(非特許文献3)の胚、臓器として小脳を製造する場合、レシピエントとなる非ヒト胚として、発生段階において小脳の発生が生じない異常を有するWnt−1(int−1)ノックアウト動物(非特許文献4)の胚、臓器として肺臓、甲状腺を製造する場合、レシピエントとなる非ヒト胚として、発生段階において肺臓と甲状腺の発生が生じない異常を有するT/ebpノックアウト動物(非特許文献5)の胚等を、それぞれ使用することができる。また、腎臓,肺など複数臓器の欠損を引き起こす、線維芽細胞増殖因子(FGF)レセプター(FGFR)の細胞内ドメインの欠損型を過剰発現させるドミナントネガティブ型のトランスジェニック変異体動物モデル(非特許文献6)の胚を使用することもできる。あるいは、ヌードマウスを用いて、毛または胸腺の生産に使用することができる。
本発明においてレシピエントとなる胚の由来としての非ヒト動物という場合、ブタ、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、サル、マーモセット、ボノボ等の、ヒト以外の動物であれば、どのような動物であってもよい。製造すべき臓器の動物種と成体のサイズが似ている非ヒト動物から胚を採取することが好ましい。
一方、製造すべき臓器を形成するためにレシピエントとなる胚盤胞期の受精卵中に移植される細胞の由来となる哺乳動物は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物、たとえばブタ、ラット、マウス、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、サル、マーモセット、ボノボ等の、いずれであってもよい。
レシピエントとなる胚と移植される細胞との関係は、同種の関係であっても異種の関係であってもよい。
以上のようにして調製した移植される細胞を、レシピエントとなる胚盤胞期の受精卵の腔内に移植し、胚盤胞期受精卵の内腔において、胚盤胞由来の内部細胞と移植される細胞とによるキメラの細胞混合物を形成させることができる。
このようにして細胞を移植した胚盤胞期受精卵を、仮親となる胚盤胞期受精卵の由来の種の偽妊娠または妊娠メス動物の子宮内に移植する。この胚盤胞期受精卵を、仮親子宮内で発生させて、産仔を得る。そして、この産仔から目的とする臓器を、哺乳動物細胞由来の目的とする臓器として取得することができる。
本発明はまた、本発明の方法によって、生産された哺乳動物をも意図する。このような動物は、目的の臓器のみが目的のゲノムを有しており、このようなキメラ形の哺乳動物は過去存在していなかったからである。
本発明はまた、発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の、該目的臓器の製造のための使用をも提供する。
本発明はまた、目的臓器を製造するためのセットを提供する。このセットは、A)発生段階において該目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物と、B)該目的臓器と同種の異個体宿主哺乳動物由来の細胞とを備える。
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、以下の詳細な説明を読めば、明白である。
本発明の方法により、発生段階においてある臓器の発生が生じない異常を有するため、ある臓器の欠損を生じる個体の生体内において、哺乳動物細胞由来の当該臓器を形成することができた。特に、腎臓などの複雑な細胞構成を有する臓器においても、本発明の方法を適用することができた。腎臓を形成させた場合、形成された腎臓は尿管芽以外の後腎間葉由来の組織ほとんど全てが、胚盤胞期受精卵の内腔に移植された細胞に由来する、再生腎臓となっていた。また、腎臓以外でも、すい臓、胸腺および毛の場合においても、胚盤胞期受精卵の内腔に移植された細胞に由来する、再生すい臓、再生胸腺および再生毛となっていた。
図1は、正常個体における腎臓発生(図1A)およびsall1ノックアウトマウス(Sall1(−/−))における腎臓発生(図1B)を示す写真である。上段は腹腔内の肉眼的所見であり、下段は腎臓部分の正中断面切片のヘマトキシリンエオジン染色像を示す。 図2は、ホモ接合体ノックアウト個体(Sall1(−/−))、ヘテロ接合体個体(Sall1(+/−))、野生型個体(Sall1(+/+))について、遺伝子型決定を行う手段を示す図である。図2Aは、sall1遺伝子座にノックインされたGFP遺伝子の発現を、蛍光検出により検出した図である;図2Bは、GFPの蛍光に基づいてセルソーターでソートすることによりGFP陽性細胞とGFP陰性細胞とを識別することができることを示す図である;そして図2Cは、Sall1(−/−)細胞、Sall1(+/−)細胞、Sall1(+/+)細胞について、PCR法により遺伝子型決定することができることを示す図である。 図3は、出生後1日目(P1)における、産仔個体の腹腔内のGFP蛍光発色像を示す。 図4は、ヘテロ接合体個体(Sall1(+/−))(図4A);DsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、ホモ接合体ノックアウトキメラ個体(Sall1(−/−))(図4B);DsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、ヘテロ接合体キメラ個体(Sall1(+/−))(図4C);そしてDsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、野生型キメラ個体(Sall1(+/+))(図4D);についての、肉眼所見、GFP蛍光像(GFP)、DsRed蛍光像(DsRed)、そしてGFPとDsRedとの重ね合わせ蛍光像(Merge)をそれぞれ示す。 図5は、ヘテロ接合体個体(Sall1(+/−))(図5A);DsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、ホモ接合体ノックアウトキメラ個体(Sall1(−/−))(図5B);そしてDsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、ヘテロ接合体キメラ個体(Sall1(+/−))(図5C);についての、肉眼所見、そしてGFPとDsRedとの重ね合わせ蛍光像をそれぞれ示す。 図6は、ヘテロ接合体個体(Sall1(+/−))(図6A);DsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、ホモ接合体ノックアウトキメラ個体(Sall1(−/−))(図6B);DsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、ヘテロ接合体キメラ個体(Sall1(+/−))(図6C);そしてDsRed遺伝子を組み込んだ多能性細胞(ES細胞)を胚盤胞期受精卵の内腔に移植した、野生型キメラ個体(Sall1(+/+))(図6D);についての、脳細胞および腎臓細胞のセルソーティングの結果を示す。横軸にGFPの蛍光強度を、縦軸にDsRedの蛍光強度を示す。また、ホモ接合体ノックアウトキメラ個体(Sall1(−/−))(図6B)由来の脳から得られた細胞の遺伝子型決定の結果を示すゲル電気泳動像も合わせて示す。 図7は、ホモ接合体(Sall1(−/−))胚盤胞期受精卵の内腔に多能性細胞(ES細胞)を移植した結果得られた腎臓の組織学的解析を示す。 図8は、Pdx1−Lac−Zノックインによるノックアウトマウスの作成とblastocyst complementationの方法を示す。Pdx1ヘテロ個体同士を交配し得られた胚に上皮増殖因子たんぱく質(EGFPで標識されたES細胞を顕微鏡下で注入する。得られた個体は理論的にはメンデル遺伝に従い1/4の確率でノックアウト個体でありそこにES細胞の寄与が見られれば完全にES細胞由来の膵臓を構築することができる、という概念図である。Development 1996 Mar;122(3):983−95.においても示されるように、wt/Pdx1−LacZでは、すい臓の存在が確認され、Pdx1−LacZ/Pdx1−LacZでは、すい臓が消失していることが知られている。 胚盤胞補完作用によるすい臓の生産実験の結果を示す。左よりそれぞれ注入卵子数、移植胚数、産仔数、そして毛色および蛍光顕微鏡下のEGFP蛍光より判断したキメラ数を表として示す。全体的に世代が進んでいるラインのため通常に比べると発生率の低下が見られたが、得られたマウスのキメラ率は実験を遂行するに十分なものであった。丸数字は、本実験を遂行した順番を示す。 胚盤胞補完作用によって生産したすい臓を持つ本発明のマウスの例を示す。上段は、Pdx1−LacZのノックイン(ノックアウト)マウス(ホモ)であり、すい臓が存在しない。中段はPdx1−LacZのノックイン(ノックアウト)マウス(ヘテロ)の胚盤胞にGPFES細胞を移入したものであり、すい臓は存在し、ごく一部GFP陽性である。下段は、Pdx1−LacZのノックイン(ノックアウト)マウス(ホモ)の胚盤胞にGPFES細胞を移入したものであり、GFP陽性のES細胞由来のすい臓が見られる。 BCによってヌードマウスに毛が生えてくる実例を示す写真である(実施例3)。 図12は、末梢血のFACS分析を示す。野生型マウス末梢血にはCD4陽性、CD8陽性T細胞が存在するがヌードマウスには存在しない(胸腺が存在しないため成熟T細胞が分化誘導されない)。しかしヌードマウスの胚盤胞に緑色蛍光たんぱく質(GFP)マーキングした正常ES細胞を移入する(BC,blastocyst complementation)とGFP陰性T細胞(ホストのヌードマウス造血幹細胞由来)ならびにGFP陽性T細胞(ES細胞由来)の両方が分化誘導されることから、胸腺がES細胞によって構築されていることが機能的にも明らかである。B細胞はヌードマウスでも存在し、特に変化なし。GPF陽性のB細胞はES細胞由来である。上段からヌードマウス、野生型マウス、胚盤胞キメラマウスを示す。左からT細胞、CD8細胞、CD4細胞、B細胞のFACS分析を示した。 図13は、野生型マウス胸腺の写真である。 図14は、野生型マウス胸腺に蛍光をあてたもの(陰性)の写真である。 図15は、ヌードマウス(胸腺がないもの)の写真である。 図16は、図15のマウスに蛍光をあてたものの写真である。 図17は、実施例4において、ヌードマウス胚盤胞をGFPマークES細胞で補完したもの(胸腺がある)もの写真である。 図18は、図17のマウスに蛍光をあてたもの(GFP陽性の胸腺がある)の写真である。 図19は、図17のマウスから胸腺を取り出して蛍光を当てて写真を撮ったものである。 図20は、黄色色素であるKusabira−Orange(huKO)により標識されたiPS細胞での本発明の実施例を示す。iPS細胞としては、京都大学山中伸弥教授から供与されたものを用いた。標識遺伝子として、CAG−huKO−IRES2−Neo−pAという5.0kbのフラグメントを用い、明視野、Nanog GFP(緑色)、CAG−huKO(オレンジ色〜黄色)での標識を調べたものを上から順に示す。SNL細胞での未分化状態を左に、分化5日目の胚様体を真ん中の列に、そして、右側に分化5日目の胚様体にレチノイン酸を加えたものを示す。
(配列表の説明)
(SEQ ID NO:1)プライマー1(野生型アリル): agctaaagctgccagagtgc
(SEQ ID NO:2)プライマー2(共通): caacttgcgattgccataaa
(SEQ ID NO:3)プライマー3(変異型アリル): gcgttggctacccgtgata
(SEQ ID NO:4)nested PCRプライマー1(野生型アリル): agaatgtcgcccgaggttg
(SEQ ID NO:5)nested PCRプライマー2(共通): tacagcaagctaggagcac
(SEQ ID NO:6)nested PCRプライマー3(変異型アリル): aagagcttggcggcgaatg
(SEQ ID NO:7)実施例2のフォワードプライマー:CAATGATGGCTCCAGGGTAA
(SEQ ID NO:8)実施例2のリバースプライマー:TGACTTTCTGTGCTCAGAGG
(SEQ ID NO:9)Kusabira−Orange(huKO)の核酸配列
(SEQ ID NO:10)Kusabira−Orange(huKO)のアミノ酸配列
(SEQ ID NO:11)IRES2の核酸配列
(SEQ ID NO:12)Neoの核酸配列
(SEQ ID NO:13)Neoのアミノ酸配列
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当上記分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(分子生物学)
本明細書において「タンパク質」、「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされたものを包含し得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン 酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。
本明細書において「核酸」はまた、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。特定の核酸配列はまた、「スプライス改変体」を包含する。同様に、核酸によりコードされた特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を暗黙に包含する。その名が示唆するように「スプライス改変体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされ得る。スプライス改変体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。あるいは、対立遺伝子変異体もこの範囲内に入る。
本明細書において「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」を含む。「オリゴヌクレオチド誘導体」または「ポリヌクレオチド誘導体」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換されたオリゴヌクレオチド誘導体、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体およびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換されたオリゴヌクレオチド誘導体などが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが企図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1またはそれ以上の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。
本明細書において「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、Smith and Waterman法(Smith and Waterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedleman and Wunsch法(Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびin situハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。本明細書において、本発明において使用される遺伝子(たとえば、Sall1、pdx−1など)には、このような電子的検索、生物学的検索によって同定された対応遺伝子も含まれるべきであることが意図される。
本明細書において、特定の遺伝子配列にハイブリダイズする核酸配列も、機能を有する限り使用することができる。ここで、ハイブリダイゼーションのための「ストリンジェントな条件」とは、標的配列に対して類似性または相同性を有するヌクレオチド鎖の相補鎖が標的配列に優先的にハイブリダイズし、そして類似性または相同性を有さないヌクレオチド鎖の相補鎖が実質的にハイブリダイズしない条件を意味する。ある核酸配列の「相補鎖」とは、核酸の塩基間の水素結合に基づいて対合する核酸配列(例えば、Aに対するT、Gに対するC)をいう。ストリンジェントな条件は配列依存的であり、そして種々の状況で異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。一般に、ストリンジェントな条件は、規定されたイオン強度およびpHでの特定の配列についての熱融解温度(Tm)より約5℃低く選択される。Tは、規定されたイオン強度、pH、および核酸濃度下で、標的配列に相補的なヌクレオチドの50%が平衡状態で標的配列にハイブリダイズする温度である。「ストリンジェントな条件」は配列依存的であり、そして種々の環境パラメーターによって異なる。核酸のハイブリダイゼーションの一般的な指針は、Tijssen(Tijssen(1993)、Laboratory Technniques In Biochemistry And MolecularBiology−Hybridization With Nucleic Acid Probes Part I、第2章 「Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid probeassay」、Elsevier,New York)に見出される。
代表的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が約1.0M Na未満であり、代表的には、pH7.0〜8.3で約0.01〜1.0MのNa濃度(または他の塩)であり、そして温度は、短いヌクレオチド(例えば、10〜50ヌクレオチド)については少なくとも約30℃、そして長いヌクレオチド(例えば、50ヌクレオチドより長い)については少なくとも約60℃である。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によって達成され得る。本明細書におけるストリンジェントな条件として、50%のホルムアミド、1MのNaCl、1%のSDS(37℃)の緩衝溶液中でのハイブリダイゼーション、および0.1×SSCで60℃での洗浄が挙げられる。
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(SallIne−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、90%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9(2004.5.12 発行)を用いて行うことができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
本明細書において、「対応する」遺伝子とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子(例えば、sall1)に対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログであり得る。したがって、ヒトの遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物(マウス、ラット、ブタ、ウサギ、モルモット、ウシ、ヒツジなど)においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子の配列をクエリ配列として用いてその動物(例えば、マウス、ラット、ブタ、ウサギ、モルモット、ウシ、ヒツジなど)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
本明細書において「断片」または「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。本明細書において有用なフラグメントの長さは、そのフラグメントの基準となる全長タンパク質の機能のうち少なくとも1つの機能が保持されているかどうかによって決定され得る。
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。
本明細書中において、機能的に等価なポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
このような核酸は、周知のPCR法により得ることができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変位誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
本明細書において、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドの「置換、付加および/または欠失」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、付け加わること、または取り除かれることをいう。このような置換、付加および/または欠失の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。基準となる核酸分子またはポリペプチドにおけるこれらの変化は、目的とする機能(例えば、腎臓欠損、すい臓欠損など)が保持される限り、この核酸分子の5’末端もしくは3’末端で生じ得るか、またはこのポリペプチドを示すアミノ酸配列のアミノ末端部位もしくはカルボキシ末端部位で生じ得るか、またはそれらの末端部位の間のどこにでも生じ得、基準配列中の残基間で個々に散在する。置換、付加または欠失は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、付加または欠失を有する改変体において目的とする機能(例えば、腎臓欠損、すい臓欠損など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、15%以内、10%以内、5%以内、または150個以下、100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。
本発明の実施の形態を具体的に説明することを目的として、ヒト以外の哺乳動物細胞由来の腎臓をマウスの生体内にて製造する方法を説明する。
(非ヒト動物)
マウスなどの動物の生体内にてヒト以外の哺乳動物細胞由来の腎臓を製造するために、発生段階において腎臓の発生が生じない異常を有するマウスなどの動物を用意する。本発明の1つの実施形態においては、発生段階において腎臓の発生が生じない異常を有するマウスとして、Sall1ノックアウトマウス(非特許文献2)を使用することができる。この動物は、Sall1(−/−)のホモ接合体ノックアウト遺伝子型の場合に、腎臓のみの発生が行われず、産仔個体に腎臓が存在しないという特徴を有する。
このマウスは、Sall1遺伝子の欠損がホモの状態(Sall1(−/−))では、腎臓が形成されず、生存することができないため、Sall1遺伝子の欠損がヘテロの状態(Sall1(+/−))で維持されている。このようなヘテロ状態のマウスどうしを交配し(Sall1(+/−)×Sall1(+/−))、受精卵を子宮内から採取する。受精卵は、確率的にSall1(+/+):Sall1(+/−):Sall1(−/−)が1:2:1の確率で生じる。本発明においては、25%の確率で生じるSall1(−/−)の胚を使用する。しかしながら、初期胚の段階で遺伝子型を決定することは困難であり、出産された後に産仔の遺伝子型を決定し、目的とするSall1(−/−)の遺伝子型を有する個体のみをその後の工程で使用することが現実的である。
このノックアウトマウスは、作成段階でSall1遺伝子をノックアウトすると共に、Sall1遺伝子領域に発現可能な状態で検出用の蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子をノックインしていてもよい(非特許文献7)。このような蛍光タンパク質をノックインすることにより、この遺伝子の調節領域が活性化されると、Sall1の代わりにGFPの発現が生じ、Sall1遺伝子の欠損状態を蛍光検出により決定することができる。
また、本発明においてはレシピエントとなる胚と移植される細胞との関係は、同種の関係であっても異種の関係であってもよい。このような異種間でのキメラ動物作成は、従来より当該技術分野において多数の報告がなされており、例えばラット−マウス間のキメラ作出(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)、ヒツジ−ヤギ間のキメラ作出(非特許文献12)など、近縁の動物種間での胚胞キメラ動物が実際に報告されている。したがって、本発明において、例えばヒト以外の哺乳動物細胞由来の腎臓をマウスの生体内で作成する場合には、これらの従来から知られているキメラ作出方法(例えば、移植する細胞を、レシピエントとなる胚盤胞中に挿入する方法(非特許文献12))に基づいて、異種のある臓器をレシピエントとなる胚中で作成することができる。
(移植される細胞)
次に、腎臓を例に移植される細胞を説明すると、ヒト以外の哺乳動物細胞由来の腎臓を製造するための、移植される細胞としてマウスES細胞またはマウスiPS細胞(Okita K et.al. Generation of germline−competent induced pluripotent stem cells. Nature 448(7151) 313−7 (2007)などを参照)などを用意する。この細胞は、Sall1遺伝子に関して野生型の遺伝子型(Sall1(+/+))を有し、腎臓の全ての細胞に発生する能力を有している。
この細胞は、移植する前に、特異的に検出するための蛍光タンパク質を発現可能な状態で組み込んでもよい。たとえば、その様な検出用の蛍光タンパク質として、DsRedの遺伝子変異体、DsRed.T4(非特許文献13)を、CAGプロモーター(サイトメガロウイルスエンハンサーとニワトリアクチン遺伝子プロモーター)の制御によりほぼ全身臓器に発現するように配列設計し、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)によりES細胞に組み込むことができる。この様な移植用の細胞に対する蛍光による標識を行うことにより、製造された臓器が移植された細胞のみから構成されているか否かを容易に検出することができる。
このマウスES細胞等を、前述したSall1(−/−)の遺伝子型を有する胚盤胞期受精卵の内腔に移植してキメラの内部細胞塊を有する胚盤胞期受精卵を作成し、仮親の子宮内でキメラの内部細胞塊を有するこの胚盤胞期受精卵を発生させ、産仔を得る。使用する細胞種としては、本発明は、ES細胞のみならず、iPSおよびMultipotent Germ Stem cellなどの多能性細胞であっても、上記手順を踏むことができる細胞であれば、実施することができることが理解される。iPS細胞およびMultipotent生殖幹細胞を使用することができる。たとえば、iPS細胞を作製するには、Okita K et.al. Ibid.を参照することができる。この文献に基づいて作製されたNanog−iPSと呼ばれるiPS細胞株の場合は、マーキングがなされていないため、キメラ作製に用いた場合ホストの胚側と区別する術がなく、臓器の補充がなされたか識別できない。したがって、これを解決するために、このNanog−iPS細胞株に蛍光色素の導入をすることにより、上記ES細胞の場合と同様のプロトコールで実験をすることができる。そして、以上のような細胞を用いれば、ES細胞を用いた場合と同様のプロトコールで臓器を作り、その由来を明らかにすることが可能となる。
(腎臓の形成)
腎臓の形成については、肉眼的所見、染色後の顕微鏡観察、あるいは蛍光を利用した観察などの方法を用いた、マクロまたはミクロの形態学的解析、遺伝子発現解析などを行うことにより調べることができる。
たとえば、肉眼的所見を行うことにより、実際に臓器が存在するか否か、臓器の外観などの特徴を調べることができる。この様なマクロの形態学的解析とあわせて、ヘマトキシリン−エオジン染色などの一般的組織染色後の組織を顕微鏡によりミクロ的に観察することもできる。このようなミクロ的な観察により、具体的な腎臓内部の様々な細胞の構成まで含めて調べることができる。
さらに、条件に応じて蛍光を発する様に蛍光を使用した遺伝子発現解析を行うことも可能である。たとえば、上述したSall1遺伝子ノックアウトマウスの場合、Sall1遺伝子の欠損がホモの状態(Sall1(−/−))の場合、GFPの蛍光が両アリルから発生するため、片方のアリルのみから蛍光が発生するSall1遺伝子の欠損がヘテロの状態(Sall1(+/−))の蛍光よりも、蛍光量が少なくなるという特徴を有する。このような特質を利用して、目的とする臓器または臓器を構成する細胞が、Sall1遺伝子に関してどのような遺伝子型であるかを簡便に調べることができる。iPS細胞およびMultipotent Germ Stem cellを使用する場合は、たとえば、Nanog−iPSと呼ばれるiPS細胞株の場合は、マーキングがなされていないため、キメラ作製に用いた場合ホストの胚側と区別する術がなく、臓器の補充がなされたか識別できない。したがって、これを解決するために、このNanog−iPS細胞株に蛍光色素の導入をすることにより、ES細胞を用いた場合と同様のプロトコールで臓器を作り、その由来を明らかにすることが可能となる。
(すい臓の形成)
すい臓の形成については、肉眼的所見、染色後の顕微鏡観察、あるいは蛍光を利用した観察などの方法を用いた、マクロまたはミクロの形態学的解析、遺伝子発現解析などを行うことにより調べることができる。
たとえば、肉眼的所見を行うことにより、実際に臓器が存在するか否か、臓器の外観などの特徴を調べることができる。この様なマクロの形態学的解析とあわせて、ヘマトキシリン−エオジン染色などの一般的組織染色後の組織を顕微鏡によりミクロ的に観察することもできる。このようなミクロ的な観察により、具体的なすい臓内部の様々な細胞の構成まで含めて調べることができる。
さらに、条件に応じて蛍光を発する様に蛍光を使用した遺伝子発現解析を行うことも可能である。たとえば、上述したPdx1−Lac−Zノックインによるノックアウトマウスの場合、野生型 (+/+) あるいはヘテロ(+/−)の個体では蛍光標識されたES細胞を使用した場合その寄与が見られたとしてもまだらのキメラ状態の蛍光を示すが、ホモ (−/−) 個体では膵臓が完全にES細胞由来の細胞により構築されるため、まんべんなく一様の蛍光を呈するという特徴を有する。このような特質を利用して、目的とする臓器または臓器を構成する細胞が、Pdx1遺伝子に関してどのような遺伝子型であるかを簡便に調べることができる。iPS細胞およびMultipotent生殖幹細胞を使用することができる。たとえば、iPS細胞を作製するには、Okita K et.al. Ibid.を参照することができる。この文献に基づいて作製されたNanog-iPSと呼ばれるiPS細胞株の場合は、マーキングがなされていないため、キメラ作製に用いた場合ホストの胚側と区別する術がなく、臓器の補充がなされたか識別できない。したがって、これを解決するために、このNanog-iPS細胞株に蛍光色素の導入をすることにより、上記ES細胞の場合と同様のプロトコールで実験をすることができる。そして、以上のような細胞を用いれば、ES細胞を用いた場合と同様のプロトコールで臓器を作り、その由来を明らかにすることが可能となる。
(毛の形成)
毛の形成については、肉眼的所見、あるいは蛍光を利用した観察などの方法を用いた、マクロまたはミクロの形態学的解析、遺伝子発現解析などを行うことにより調べることができる。
たとえば、肉眼的所見を行うことにより、実際に毛が存在するか否か、毛の外観などの特徴を調べることができる。この様なマクロの形態学的解析とあわせて、ヘマトキシリン−エオジン染色などの一般的組織染色後の組織を顕微鏡によりミクロ的に観察することもできる。このようなミクロ的な観察により、具体的な毛内部の様々な細胞の構成まで含めて調べることができる。
さらに、条件に応じて蛍光を発する様に蛍光を使用した遺伝子発現解析を行うことも可能である。たとえば、上述したヌードマウスの場合、毛の場合自家蛍光が強いため生じた毛がヌードマウス由来かES細胞由来かを蛍光顕微鏡下での肉眼的に判断するのが非常に困難であるが、蛍光を適切に観察する手段によって観察することも可能である。このような特質を利用して、目的とする臓器または臓器を構成する細胞が、どのような遺伝子型であるかを簡便に調べることができる。iPS細胞およびMultipotent生殖幹細胞を使用することができる。たとえば、iPS細胞を作製するには、Okita K et.al. Ibid.を参照することができる。この文献に基づいて作製されたNanog−iPSと呼ばれるiPS細胞株の場合は、マーキングがなされていないため、キメラ作製に用いた場合ホストの胚側と区別する術がなく、臓器の補充がなされたか識別できない。したがって、これを解決するために、このNanog−iPS細胞株に蛍光色素の導入をすることにより、上記ES細胞の場合と同様のプロトコールで実験をすることができる。そして、以上のような細胞を用いれば、ES細胞を用いた場合と同様のプロトコールで臓器を作り、その由来を明らかにすることが可能となる。
(胸腺の形成)
胸腺の形成については、肉眼的所見、顕微鏡写真、FACSあるいは蛍光を利用した観察などの方法を用いた、マクロまたはミクロの形態学的解析、遺伝子発現解析などを行うことにより調べることができる。
たとえば、肉眼的所見を行うことにより、実際に臓器が存在するか否か、臓器の外観などの特徴を調べることができる。この様なマクロの形態学的解析とあわせて、ヘマトキシリン−エオジン染色などの一般的組織染色後の組織を顕微鏡によりミクロ的に観察することもできる。このようなミクロ的な観察により、具体的な胸腺内部の様々な細胞の構成まで含めて調べることができる。
さらに、条件に応じて蛍光を発する様に蛍光を使用した遺伝子発現解析を行うことも可能である。たとえば、上述したヌードマウスの場合従来胸腺を持たないが、生存には影響しないため欠損した状態で自然に生まれ生存する。これに blastocyst complementation により蛍光標識されたES細胞を注入するとES細胞の寄与が認められる個体の多くが蛍光を呈する胸腺を持つという特徴を有する。このような特質を利用して、目的とする臓器または臓器を構成する細胞が、どのような遺伝子型であるかを簡便に調べることができる。
本発明で得られる目的臓器は、完全に前記異個体宿主哺乳動物由来のものであることが特徴である。従来の方法では、キメラのものが再生されていた。理論に束縛されることは望まないが、欠損する遺伝子の発生過程における機能、特に臓器形成過程における各臓器の幹/前駆細胞の分化・維持に必須な転写因子であったことが原因であると考えられる。iPS細胞およびMultipotent生殖幹細胞を使用することができる。たとえば、iPS細胞を作製するには、Okita K et.al. Ibid.を参照することができる。この文献に基づいて作製されたNanog-iPSと呼ばれるiPS細胞株の場合は、マーキングがなされていないため、キメラ作製に用いた場合ホストの胚側と区別する術がなく、臓器の補充がなされたか識別できない。したがって、これを解決するために、このNanog-iPS細胞株に蛍光色素の導入をすることにより、上記ES細胞の場合と同様のプロトコールで実験をすることができる。そして、以上のような細胞を用いれば、ES細胞を用いた場合と同様のプロトコールで臓器を作り、その由来を明らかにすることが可能となる。
本発明はまた、本発明の方法によって生産された哺乳動物を提供する。このような目的臓器を有する動物は、従来生産することができなかったことから、動物自体にも発明としての価値があると考えられる。理論に束縛されることは望まないが、このような動物がこれまで作製することができなかったのは、遺伝子欠損により示される欠損臓器が生存に必須であり、それらを救済する方法が存在しなかったことが原因であると考えられる。
本発明はさらに、発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の、目的臓器の製造のための使用も提供する。このような用途で宿主細胞を使用することは従来十分に想定されていなかった。したがって、このような宿主動物自体にも発明としての価値があると考えられる。理論に束縛されることは望まないが、このような動物がこれまで作製することができなかったのは、遺伝子欠損により示される欠損臓器が生存に必須であり、性成熟に達する週齢まで目的個体の維持が不可能であったことが原因であると考えられる。
本発明はまた、目的臓器を製造するためのセットを提供する。このセットは、A)発生段階において該目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物と、B)該目的臓器と同種の異個体宿主哺乳動物由来の細胞とを備える。このような動物と細胞のセットは従来目的動物の製造のためには使用されておらず、したがって、このような宿主動物と細胞とのセット自体にも発明としての価値があると考えられる。理論に束縛されることは望まないが、このような動物と細胞とのセットがこれまで使用することが想定できなかったのは、遺伝子欠損により示される欠損臓器が生存に必須であり、性成熟に達し交配が可能な目的個体を雌雄ペアで維持することが不可能であったことが原因であると考えられる。
(他の幹細胞の場合)
ES細胞以外の幹細胞として、たとえばiPS細胞およびMultipotent生殖幹細胞などを使用することができる。たとえば、iPS細胞を作製するには、Okita K et.al. Ibid.を参照することができる。この文献に基づいて作製されたNanog−iPSと呼ばれるiPS細胞株の場合は、マーキングがなされていないため、キメラ作製に用いた場合ホストの胚側と区別する術がなく、臓器の補充がなされたか識別できない。したがって、これを解決するために、このNanog−iPS細胞株に蛍光色素の導入をすることにより、上記ES細胞の場合と同様のプロトコールで実験をすることができる。そして、以上のような細胞を用いれば、ES細胞を用いた場合と同様のプロトコールで臓器を作り、その由来を明らかにすることが可能となる。
(種々の動物を使用する場合の留意点)
マウス以外の動物を使用する場合は、以下の点に留意することで、本明細書の実施例に記載した手法を応用して実施することができる。たとえば、他種の動物におけるキメラ作製に関して、マウス以外の種ではキメラ形成能をもつような多能性幹細胞樹立の報告よりは、胚もしくは胚の中でもES細胞の起源となる内部細胞塊を注入したキメラの報告(ラット:(Mayer,J.R.Jr.&Fretz,H.I.The culture of preimplantation rat embryos and the prosuction of allophenic rats.J.Reprod.Fertil.39,1−10(1974));ウシ:(Brem,G.et al.Production of cattle chimerae through embryo microsurgery.Theriogenology.23,182(1985));ブタ:(Kashiwazaki N et.al Production of chimeric pigs by the blastocyst injection method Vet. Rec. 130,186−187 (1992)))が多いが、内部細胞塊を注入したキメラを用いても、本明細書に記載した方法を応用することができる。これらのように内部細胞塊を用いることで欠損動物の失われた臓器を補うことは事実上可能である。すなわち、たとえば、上記細胞をいずれも胚盤胞までin vitro で培養し、得られた胚盤胞から内部細胞塊を物理的に一部剥離し、それを胚盤胞へインジェクションすることができる。途中の 8細胞期あるいは桑実胚同士を凝集させキメラ胚を作製することができる。
ES細胞のような多能性幹細胞の代わりに内部細胞塊を注入したキメラを用いた場合、本明細書に記載した実施例において、以下の点を変更ないし修正して使用する必要があることに留意すべきであるが、これらは当該分野における周知技術の範囲内の技術であることが理解される。
ES細胞のような多能性幹細胞の代わりに内部細胞塊を注入したキメラを用いる場合は、ES細胞と異なり細胞株ではないので別途胚を作製する過程(自然交配後の採卵、あるいは人工授精)が必要となる。そのようなプロトコールは、上記各文献(ラット:(Mayer,J.R.Jr.&Fretz,H.I.The culture of preimplantation rat embryos and the prosuction of allophenic rats.J.Reprod.Fertil.39,1−10(1974));ウシ:(Brem,G.et al.Production of cattle chimerae through embryo microsurgery.Theriogenology.23,182(1985));ブタ:(Kashiwazaki N et.al Production of chimeric pigs by the blastocyst injection method Vet. Rec. 130,186−187 (1992))に記載されており、必要に応じてこれらの文献を参考として援用する。
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.et
al.(1989).Molecular Cloning: A Laboratory Manual,Cold Spring Harborおよびその3rd Ed.(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.et al.(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wiley,and annual updates;Sninsky,J.J.et al.(1999).PCR Applications: Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
(実施例1:腎臓欠損マウス系統における腎臓発生)
本実施例においては、腎臓欠損を特徴とするノックアウトマウス中に、多能性細胞としてマウスES細胞を移植して、腎臓発生が生じるか否かを検討した。
腎臓欠損を特徴とするノックアウトマウスとして、Sall1ノックアウトマウス(熊本大学発生医学研究センター、西中村隆一先生より供与)を使用した。Sall1遺伝子は、ショウジョウバエ(Drosophila)の前後方部位特異的ホメオティック遺伝子spalt(sal)のマウスホモローグであり、アフリカツメガエルの前腎管誘導実験から、腎発生に重要であることが示唆された、1323アミノ酸残基のタンパク質をコードする3969 bpの遺伝子である(非特許文献2、東大浅島研究室)。このSall1遺伝子は、マウスにおいて、腎臓のほか、中枢神経、耳胞、心臓、肢芽、肛門において発現局在していることが報告された(非特許文献2)。
このSall1遺伝子のノックアウトマウス(C57BL/6系統にバッククロス(戻し交配)し解析)は、Sall1遺伝子のエキソン2以降を欠損することにより、分子内に存在していた10個全てのzinc−フィンガードメインを欠損しており、その欠損の結果、後腎間葉への尿管芽の間入が起こらず、腎臓形成初期の異常が生じていると考えられている(図1A:正常個体、図1B:Sall1ノックアウトマウス)。
実験で使用したsall1ノックアウトマウスには、sall1遺伝子座にマーカーとしてGFPがノックインされており、この検出系を用いて、sall1遺伝子の発現をモニターした。その結果、sall1ノックアウトマウス(Sall1(−/−))では、胎生期にのみ、中枢神経、腎臓、四肢、心臓、中腎傍管など限定された臓器でGFPの発現が確認された。そして、中枢神経系ではsall1遺伝子が発現しているものの、遺伝子欠損による解剖学的な影響は認められておらず、胎生15.5日のマウス胎児の脳を、GFPの蛍光発色について検出したところ、ホモ接合体ノックアウト個体(Sall1(−/−))、ヘテロ接合体個体(Sall1(+/−))、野生型個体(Sall1(+/+))の順に、GFPの蛍光を強く発生することが明らかになった(図2A)。そして、この中枢神経系のGFP陽性細胞をセルソーターでソートすることにより、GFP陽性細胞とGFP陰性細胞とを明確に識別することができることが明らかになった(図2B)。
さらにソーティングにより分取した細胞の全ゲノムを鋳型として、
プライマー1(野生型アリル): agctaaagctgccagagtgc(SEQ ID NO:1)、
プライマー2(共通): caacttgcgattgccataaa(SEQ ID NO:2)、
プライマー3(変異型アリル): gcgttggctacccgtgata(SEQ ID NO:3)、
nested PCRプライマー1(野生型アリル): agaatgtcgcccgaggttg(SEQ ID NO:4)、
nested PCRプライマー2(共通): tacagcaagctaggagcac(SEQ ID NO:5)、
nested PCRプライマー3(変異型アリル): aagagcttggcggcgaatg(SEQ ID NO:6)、
を使用したPCRを行って遺伝子型決定を行った。
プライマー1は、Sall1遺伝子座のうち、変異型アリルにおける遺伝子欠損部に対応するヌクレオチド配列に対してハイブリダイズするように作製されているため、野生型アリルにのみハイブリダイズする。プライマー2は、Sall1遺伝子座のうち野生型アリルと変異型アリルの両方ともに共通して存在するヌクレオチド配列にハイブリダイズするように作製されているため、野生型アリルおよび変異型アリルの両方ともにハイブリダイズする。プライマー3はSall1遺伝子座に挿入されたGFP遺伝子内のヌクレオチド配列にハイブリダイズするように作製されているため、変異型アリルにのみハイブリダイズする。
したがって、プライマー1とプライマー2の組合せにより増幅される配列は、野生型Sall1遺伝子座のゲノムヌクレオチド配列の一部であり、そしてプライマー2とプライマー3の組合せにより増幅される配列は、変異型のSall1遺伝子座のヌクレオチド配列の一部である。その結果、プライマー1とプライマー2の組合せにより増幅されるPCR産物は、野生型アリル由来の288 bpのサイズのヌクレオチド配列として認識され、そしてプライマー2とプライマー3の組合せにより増幅されるPCR産物は、変異型アリル由来の350 bpのサイズのヌクレオチド配列として認識される。
より確実な結果を得るため、それぞれのPCR産物の内側にnested PCRプライマーを設計し、nested PCRを行った。nested PCRプライマー1は、Sall1遺伝子座のうち、変異型アリルにおける遺伝子欠損部に対応するヌクレオチド配列であって、野生型アリルのうち、プライマー1結合部位よりもプライマー2結合部位側のヌクレオチド配列に対してのみハイブリダイズする。nested PCRプライマー2は、Sall1遺伝子座の野生型アリルと変異型アリルの両方ともに共通して存在するヌクレオチド配列であって、プライマー2結合部位よりもプライマー1結合部位側またはプライマー3結合部位側のヌクレオチド配列に対してハイブリダイズする。nested PCRプライマー3はSall1遺伝子座に挿入されたGFP遺伝子内のヌクレオチド配列であって、変異型アリルにのうち、プライマー3結合部位よりもプライマー2結合部位側のヌクレオチド配列に対してのみハイブリダイズする。
したがって、nested PCRプライマー1とnested PCRプライマー2の組合せにより増幅される配列は、プライマー1とプライマー2の組合せにより増幅された野生型のSall1遺伝子座のゲノムヌクレオチド配列の一部のさらに一部であり、nested PCRプライマー2とnested PCRプライマー3の組合せにより増幅される配列は、プライマー2とプライマー3の組合せにより増幅された変異型のSall1遺伝子座のヌクレオチド配列の一部のさらに一部である。その結果、nested PCRプライマー1とnested PCRプライマー2の組合せにより増幅されるPCR産物は、野生型アリル由来の237 bpのサイズのヌクレオチド配列として認識され、nested PCRプライマー2とnested PCRプライマー3の組合せにより増幅されるPCR産物は、変異型アリル由来の302 bpのサイズのヌクレオチド配列として認識される。
このような遺伝子型決定を行うことにより、キメラ個体での遺伝子型決定が可能であることが確認された(図2C)。
上記遺伝子型決定にてホモ接合体(Sall1(−/−))またはヘテロ接合体(Sall1(+/−))の出生後1日のマウス産仔個体の腎臓形成について、GFP発現に基づいて調べたところ、ヘテロ接合体(Sall1(+/−))においては腎臓が形成されていたが、ホモ接合体(Sall1(−/−))においては、腎臓が全く形成されていないことが示された(図3)。
目的とするsall1遺伝子座にマーカーとして緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子をノックインしたsall1遺伝子ノックアウトマウスのヘテロ接合体個体(Sall1−GFP(+/−))のオスとメスとを交配し、胚盤胞期受精卵を子宮還流法により採取した。このようにして得られた胚盤胞期受精卵の遺伝子型は、ホモ接合体(Sall1(−/−)):ヘテロ接合体(Sall1(+/−)):野生型(Sall1(+/+))=1:2:1の比率で出現することが予想される。
採取した胚盤胞期受精卵に、DsRed.T4(非特許文献8)にてマーキングされたマウスES細胞(129/Olaマウス由来DsRed−EB3細胞、理化学研究所、発生・再生科学総合研究センター(神戸)丹羽仁史先生より供与)を、1胚盤胞あたり15細胞、マイクロインジェクションにより注入し、仮親(ICRマウス、日本エスエルシー株式会社より購入)の子宮に戻した。
上記遺伝子型決定にてホモ接合体(Sall1(−/−))であることが確認できた新生仔のキメラ個体には、2個の正常大の腎臓が後腹膜領域に存在していた。これらの形成された腎臓は、蛍光実体顕微鏡下で観察すると、DsRed強陽性であり(図4B、DsRed)、GFP陽性所見はほとんど確認できなかった(図4B、GFPおよび図5B)。これは、ホモ接合体(Sall1(−/−))では、腎臓が胚盤胞期受精卵の内腔に移植したマウスES細胞のみに由来していることを示す。一方、ヘテロ接合体(Sall1(+/−))の個体では、腎臓がヘテロ接合体(Sall1(+/−))の個体由来の細胞と移植したES細胞由来の細胞のキメラにより構成されているため、GFPの蛍光並びに抗DsRed抗体を用いた免疫組織化学由来の蛍光の両方ともに陽性の細胞像が得られた(図4Cおよび図5C)。
このようにして得られたホモ接合体(Sall1(−/−))個体の脳および腎臓の細胞をGFP陽性に基づいてセルソーターでソートしたところ、脳の細胞においては、Sall1(−/−)細胞(ノックアウトマウス由来の細胞)とSall1(+/+)細胞(ES細胞由来の細胞)がキメラを構成していたのに対して、腎臓においては、Sall1(+/+)細胞(ES細胞由来の細胞)のみから構成されていることが裏付けられた(図6B)。
ホモ接合体(Sall1(−/−))胚盤胞期受精卵にES細胞を移植した結果得られた腎臓の組織学的解析では、係蹄腔内に赤血球を含む成熟機能糸球体、成熟尿細管構造が観察でき(図7、HE染色)、抗DsRed抗体を用いた免疫組織化学解析でそれら成熟細胞のほとんどがDsRed陽性であることを確認された(図7、DsRed染色)。
これらの結果から、上述した方法により作出されたキメラsall1ノックアウトマウス(Sall1(−/−))において、産仔個体中で形成された腎臓が、sall1ノックアウトマウス(Sall1(−/−))胚盤胞期受精卵の内腔に移植されたES細胞から形成されたものであることが確認された。
(実施例2:すい臓欠損マウス系統におけるすい臓発生)
本実施例においては、すい臓欠損を特徴とするノックアウトマウス中に、多能性細胞としてマウスES細胞を移植して、すい臓発生が生じるか否かを検討した。
(使用したマウス)
すい臓欠損を特徴とするトランスジェニックマウスとして、Pdx1遺伝子ローカスにLacZ遺伝子をノックイン(ノックアウトでもある)したマウス(Pdx1−LacZ ノックインマウス)由来胚盤胞を使用した。
(Pdx1−LacZ ノックインマウス)
コンストラクト作製に関しては詳しくは既報の論文(Development 122, 983−995(1996))に基づいて作製することができる。簡単には、以下のとおりである:。相同領域のアームはPdx1領域を含むλクローンよりクローニングしたものを使用することができる。本実施例では、京都大学大学院医学研究科腫瘍外科学研究室 川口義弥先生より供与されたものを使用した。
(トランスジェニック・ノックインの手法:Pdx1−LacZノックインマウス)
上記のコンストラクトをES細胞にエレクトロポレーションで導入しポジティブ/ネガティブ選択後、サザンブロティングによりスクリーニングし、得られたクローンを胚盤胞注入しキメラマウスを作製した。その後生殖系列にのったラインを確立し、遺伝的な背景を C57BL/6系統にバッククロスさせて作製することができる。本実施例では、筑波大学須磨崎亮先生より供与されたものを使用したが、上記に記載のプロトコルにしたがって作製することもできる。
その手順のスキームを、図8に示す。
(交配)
次に、本実施例では、こうして樹立されたマウスのヘテロマウス同士を交配し、使用した(図8)。上述したノックインマウス両者ともに膵臓が欠損するため、その空きを利用してES細胞由来の膵臓を作ろうというコンセプトで本実施例を実施した。
上記ノックインマウスに関してはホモでの維持ができない(出生後 1週間程度で死んでしまう)ことが判明したことから、ヘテロマウス同士を交配し胚を回収することとした。いずれも、本発明を実施するうえで障害となる欠点ではないことがわかったことから、本発明の汎用性の証明となる。
(マウスの維持手順および確認)
胚盤胞にES細胞をマイクロマニピュレーターを用いて顕微鏡下で注入した。この際のES細胞にはEGFPでマーキングされたG4.2という株を使用した(RIKEN CDB,丹羽仁史先生より供与)。これと同等のマーキングされたES細胞等を用いてもよい。注入後の胚は仮親の子宮へ移植し、産仔を得た。
産仔はトランスジェニックであればトランスジーンが次世代に伝わる確率は1/2、ノックインマウスであればとホモになる。確率が1/4となるため目的の“膵臓欠損+ES細胞由来の膵臓”というマウスがどれかを判定することが必要となる。そのため、両者とも血液および組織の細胞を採取し、フローサイトメーターによりEGFP陰性を示す細胞 (ES細胞由来ではなく、注入された胚由来の細胞)を分取し、ゲノムDNAを抽出、PCR法により遺伝子型を検出することで当たりのマウスを判定した。
使用したPCRプライマーは以下のとおりである。
フォワード:CAATGATGGCTCCAGGGTAA(SEQ ID NO:7)
リバース:TGACTTTCTGTGCTCAGAGG(SEQ ID NO:8)
PCRについては、実施例1と同様に行った。使用したフォワードプライマーはPdx1プロモーター領域に対応するヌクレオチド配列に対してはハイブリダイズするように作製されており、リバースプライマーはHes1 cDNA(アクセッション No.が NM_008235のmRNA)ヌクレオチド配列に対してハイブリダイズするように作製されている。このようなPdx1プロモーターとHes1 cDNAが近傍に存在することは野生型マウスでは起こり得ないため、これらのプライマー用いたPCRにより、トランスジーンを効率的に検出することが可能である。
図9に、すい臓が発生したかどうかを示す結果を記す。図9ではPdx1ノックアウトの結果が示される。どれくらいの効率で産仔およびキメラ個体が得られたかが示されている。
図10には、胚盤胞補完作用によって生産したすい臓を持つ本発明のマウスの例を示す。上段は、Pdx1−LacZのノックイン(ノックアウト)マウス(ホモ)であり、すい臓が存在しない。中段はPdx1−LacZのノックイン(ノックアウト)マウス(ヘテロ)の胚盤胞にGFPES細胞を移入したものであり、すい臓は存在し、ごく一部GFP陽性である。下段は、Pdx1−LacZのノックイン(ノックアウト)マウス(ホモ)の胚盤胞にGPFES細胞を移入したものであり、GFP陽性のES細胞由来のすい臓が見られる。
以上から、本発明の方法によって、すい臓を生産することができることが実証された。
(実施例3:毛欠損マウス系統における毛発生)
毛に関してはヌードマウス由来の胚盤胞を使用して、多能性幹細胞としてマウスES細胞を移植して、毛発生が生じるか否かを検討した。
(使用したマウス)
使用したマウスは、ヌードマウスであり、日本SLC株式会社より入手した。使用したヌードマウスは近交系DDD/1系統マウスにBALB/cヌードのnu遺伝子を導入した際に作られた繁殖効率良かつ丈夫なヌードマウスである。
胚盤胞にES細胞をマイクロマニピュレーターを用いて顕微鏡下で注入した。この際のES細胞には上皮増殖因子たんぱく質(EGFP)でマーキングされたG4.2という株を使用した(RIKEN CDB,丹羽仁史先生より供与)。これと同等のマーキングされたES細胞等を用いてもよい。注入後の胚は仮親の子宮へ移植し、産仔を得た。
ヌードマウスは自然発症モデルであり、胸腺、毛の欠損が見られるものの生存・繁殖には何ら支障をきたさないことから、ヌードマウスどうしでの交配が可能となる。したがって、産仔もすべてヌードマウスとなるため遺伝子型の判定の必要はない。よって実施例2のようなPCRでの検出による確認も不要である。
図11に、毛が発生したかどうかを示す結果を記す。図11は、本発明の方法によってヌードマウスに毛が生えてくる実例である。この結果から、生えてきたものは、GFP陽性の毛であり、毛が再生することができることがわかった。
この場合の発現は、弱かったことから、B6(RIKEN BRCより購入することができる)由来ES細胞で同じ実験をしたところ、これにより、黒い毛が生えてくることを確認することができる。図11において示されるように、左のヌードマウスと比較して右のblastocyst complementationを施したマウスでは発毛が見られた。
(まとめ)
以上から、本発明の方法を用いて、毛を再生することができることが示された。
(実施例4:胸腺欠損マウス系統における胸腺発生)
胸腺に関してはヌードマウス由来の胚盤胞を使用して、多能性細胞としてマウスES細胞を移植して、胸腺発生が生じるか否かを検討した。
(使用したマウス)
使用したマウスは、ヌードマウスであり、日本SLC株式会社より入手した。使用したヌードマウスは近交系DDD/1系統マウスにBALB/cヌードマウスのnu遺伝子を導入した際に作られた繁殖効率良かつ丈夫なヌードマウスである。
(マウスの維持手順および確認)
胚盤胞にES細胞をマイクロマニピュレーターを用いて顕微鏡下で注入した。この際のES細胞にはEGFPでマーキングされたG4.2という株を使用した(RIKEN CDB,丹羽仁史先生より供与)。これと同等のマーキングされたES細胞等を用いてもよい。注入後の胚は仮親の子宮へ移植し、産仔を得た。本実施例では、実施例3において記載したように、ヌードマウスを使用したので、PCRによる確認は不要であった。
図12に、胸腺が発生したかどうかを示す結果を記す。野生型マウス末梢血にはCD4陽性、CD8陽性T細胞が存在するがヌードマウスには存在しなかった(胸腺が存在しないため成熟T細胞が分化誘導されない)。しかしヌードマウスの胚盤胞にGFPマーキングした正常ES細胞を移入する(BC,blastocyst complementation)とGFP陰性T細胞(ホストのヌードマウス造血幹細胞由来)ならびにGFP陽性T細胞(ES細胞由来)の両方が分化誘導されることから、胸腺がES細胞によって構築されていることが機能的にも明らかである。B細胞はヌードマウスでも存在し、特に変化なかった。GPF陽性のB細胞はES細胞由来である。図12の結果から、新たに構築された胸腺が機能することで、従来から存在していた未成熟なT細胞が教育を受け、CD4、CD8陽性の成熟したT細胞となり末梢血にて検出できるようになった。そのため、T細胞に関してはB細胞同様にES細胞の寄与の割合に応じたキメラ率を示すことが理解される。
さらに、ヌードマウス、野生型マウス、およびキメラの本発明のマウスにおける胸腺の発達を示す写真を図13〜19に示す。図13および14は、野生型マウスの胸腺の通常の写真および蛍光を当てたときの写真である(陰性)。図15および16は、ヌードマウスの胸腺の通常の写真および蛍光を当てたときの写真である(胸腺なし)。図17および18は、上記のように高配して生産したキメラのマウスの胸腺の通常の写真および蛍光を当てたときの写真である(陽性)。図19には、このキメラマウスから取り出した胸腺に蛍光を当てた写真を示す。示されるように胸腺が蛍光を示し、ES細胞に由来する組織であることが証明された。
(まとめ)
以上から、本発明の方法を用いて、胸腺を再生することができることが示された。
(実施例5 iPS細胞を使用する例)
実施例1〜4の実施例で用いたES細胞の代わりに、他の多能性幹細胞が使用可能であるかどうかを確認する実験を行う。iPS細胞として知られる誘導型多能性幹細胞は、京大再生研の山中伸弥教授が世界に先駆けて開発に成功した細胞であり、その汎用性が注目される。本実施例では、Okita K et.al. Ibid.で作製されたNanog−iPSと呼ばれるiPS細胞株を用いて、キメラによる臓器生産が可能であるかどうかを確認する。iPS細胞は京大再生研の山中伸弥先生より供与されたものを使用した。
Nanog−iPS細胞株はマーキングがなされていないため、キメラ作製に用いた場合ホストの胚側と区別する術がなく、臓器の補充がなされたか識別できない。したがって、本実施例では、これを解決するために、このNanog−iPS細胞株に蛍光色素の導入を行った。
具体的には CAG promoter(オリエンタル酵母工業株式会社などから入手可能)下にKusabira−Orange (以下、huKO) の蛍光タンパク質の DNA を繋いだコンストラクト(Efficient selection for high−expression transfectants with a novel eukaryotic vector. Gene. 1991 Dec 15;108(2):193−9. Niwa H, Yamamura K, Miyazaki J.)を作製した。(huKO(SEQ ID NO:9;アミノ酸配列(SEQ ID NO:10))、IRES2(SEQ ID NO:11)、Neo(SEQ ID NO:12;アミノ酸配列(SEQ ID NO:13)。なお、本実施例では、大阪大学大学院医学系研究科 G6 病態制御医学専攻 分子治療学講座 幹細胞制御学分野 宮崎純一教授より供与されたCAGpromoter含有ベクターを使用した。huKO、制御配列であるIRES2、ネオマイシン抵抗性付与遺伝子であるNeoをエレクトロポレーション法により導入(なお、pAは上記プロモーターに付随のものである。)後、G418(SIGMA)により選別し、均一にhuKOを発現するクローンを選びました。選んだクローンは未分化状態だけでなく分化した状態でもhuKOが均一に発現していなければ本目的には適さないため、LIFを除き浮遊状態で自発的な分化を促すEB(Embryoid Body:胚様体)の形成し、あるいは接着状態での分化を促すレチノイン酸の添加により、iPS細胞を分化させ、その状態でもhuKOが均一に発現していることも確認した(図20)。
図20は、黄色色素であるKusabira−Orange(huKO)により標識されたiPS細胞での本発明の実施例を示す。iPS細胞としては、京都大学山中伸弥教授から供与されたものを用いた。標識遺伝子として、上部に模式的に記載されたCAG−huKO−IRES2−Neo−pAという5.0kbのフラグメントを用い、明視野、Nanog GFP、CAG−huKOでの標識を調べた。SNL細胞での未分化状態を左に、分化5日目の胚様体を真ん中に、そして、右側に分化5日目の胚様体にレチノイン酸を加えたものを示す。
以上のような細胞を用いれば、ES細胞を用いた場合に使用した実施例1〜4に記載されるものと同様のプロトコールで臓器を作り、その由来を明らかにすることが可能となる。
たとえば、実施例2に記載したようなすい臓の場合は以下のように実施することができる。
(腎臓の生産)
以上のように生産したiPS細胞を多能性細胞として使用し、実施例1で使用した腎臓欠損を特徴とするノックアウトマウス中に移植して、腎臓発生が生じるか否かを検討する。
腎臓欠損を特徴とするノックアウトマウスとして、実施例1に記載されるSall1ノックアウトマウスを使用する。
実験で使用されるsall1ノックアウトマウスには、sall1遺伝子座にマーカーとしてGFPがノックインされており、この検出系を用いて、sall1遺伝子の発現をモニターする。その結果、sall1ノックアウトマウス(Sall1(−/−))では、胎生期にのみ、中枢神経、腎臓、四肢、心臓、中腎傍管など限定された臓器でhuKOの発現を確認することができる。GFPの蛍光発色について検出したところ、ホモ接合体ノックアウト個体(Sall1(−/−))、ヘテロ接合体個体(Sall1(+/−))、野生型個体(Sall1(+/+))の順に、GFPの蛍光を強く発生することを確認することができる。そして、この中枢神経系のGFP陽性細胞をセルソーターでソートすることにより、GFP陽性細胞とGFP陰性細胞とを明確に識別することができることを確認することができる。
さらにソーティングにより分取した細胞の全ゲノムを鋳型として、実施例1で使用されるSEQ ID NO:1〜6のプライマーを用いたPCRを行って遺伝子型決定を行うことができる。
より確実な結果を得るため、それぞれのPCR産物の内側にnested PCRプライマーを設計し、実施例1に記載されるようにnested PCRを行うこともできる。このような遺伝子型決定を行うことにより、キメラ個体での遺伝子型決定が可能であることが確認することができる。
上記遺伝子型決定にてホモ接合体(Sall1(−/−))またはヘテロ接合体(Sall1(+/−))の出生後1日のマウス産仔個体の腎臓形成について、GFP発現に基づいて調べ、ヘテロ接合体(Sall1(+/−))においては腎臓が形成され、ホモ接合体(Sall1(−/−))においては、腎臓が全く形成されていないことを確認することができる。
目的とするsall1遺伝子座にマーカーとして緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子をノックインしたsall1遺伝子ノックアウトマウスのヘテロ接合体個体(Sall1−GFP(+/−))のオスとメスとを交配し、胚盤胞期受精卵を子宮還流法により採取した。このようにして得られた胚盤胞期受精卵の遺伝子型は、ホモ接合体(Sall1(−/−)):ヘテロ接合体(Sall1(+/−)):野生型(Sall1(+/+))=1:2:1の比率で出現することが予想される。
採取した胚盤胞期受精卵に、以上のように生産したhuKOマーキングiPS細胞を、1胚盤胞あたり15細胞、マイクロインジェクションにより注入し、仮親(ICRマウス、日本エスエルシー株式会社より購入)の子宮に戻す。
上記遺伝子型決定にてホモ接合体(Sall1(−/−))であることが確認できた新生仔のキメラ個体には、2個の正常大の腎臓が後腹膜領域に存在していることを確認することができる。これらの形成された腎臓は、蛍光実体顕微鏡下で観察すると、huKO強陽性であり、GFP陽性所見はほとんど確認できないことを確認することができる。これは、ホモ接合体(Sall1(−/−))では、腎臓が胚盤胞期受精卵の内腔に移植したマウスiPS細胞のみに由来していることを示す。一方、ヘテロ接合体(Sall1(+/−))の個体では、腎臓がヘテロ接合体(Sall1(+/−))の個体由来の細胞と移植したiPS細胞由来の細胞のキメラにより構成されているため、GFPの蛍光並びに抗huKO抗体を用いた免疫組織化学由来の蛍光の両方ともに陽性の細胞像が得ることができる。
このようにして得られたホモ接合体(Sall1(−/−))個体の脳および腎臓の細胞をGFP陽性に基づいてセルソーターでソートしたところ、脳の細胞においては、Sall1(−/−)細胞(ノックアウトマウス由来の細胞)とSall1(+/+)細胞(ES細胞由来の細胞)がキメラを構成していたのに対して、腎臓においては、Sall1(+/+)細胞(iPS細胞由来の細胞)のみから構成されていることを裏付けうる。
ホモ接合体(Sall1(−/−))胚盤胞期受精卵にiPS細胞を移植した結果得られた腎臓の組織学的解析では、係蹄腔内に赤血球を含む成熟機能糸球体、成熟尿細管構造が観察でき(HE染色)、抗huKO抗体を用いた免疫組織化学解析でそれら成熟細胞のほとんどがhuKO陽性であることを確認することができる(huKO染色)。
これらの結果から、上述した方法により作出されたキメラsall1ノックアウトマウス(Sall1(−/−))において、産仔個体中で形成された腎臓が、sall1ノックアウトマウス(Sall1(−/−))胚盤胞期受精卵の内腔に移植されたES細胞から形成されたものであることを確認することができる。
(すい臓の生産)
(トランスジェニック・ノックインの手法:Pdx1−LacZノックインマウス)
上記のコンストラクトを上記標識iPS細胞にエレクトロポレーションで導入しポジティブ/ネガティブ選択後、サザンブロティングによりスクリーニングし、得られたクローンを胚盤胞注入しキメラマウスを作製した。その後生殖系列にのったラインを確立し、遺伝的な背景をC57BL/6系統にバッククロスさせて作製することができる。
その手順は、図8に記載したものに準じて実施することができる。
(交配)
次に、本実施例では、こうして樹立されたマウスのヘテロマウス同士を交配し、使用することができる。上述したノックインマウス両者ともに膵臓が欠損するため、その空きを利用して標識iPS細胞由来の膵臓を作ろうというコンセプトで本実施例を実施することになる。
上記ノックインマウスに関してはホモでの維持ができない(出生後1週間程度で死んでしまう)ことが判明したことから、ヘテロマウス同士を交配し胚を回収することとした。いずれも、本発明を実施するうえで障害となる欠点ではないことがわかったことから、本発明の汎用性の証明となる。
(マウスの維持手順および確認)
胚盤胞に上記標識iPS細胞をマイクロマニピュレーターを用いて顕微鏡下で注入する。この際の上記標識iPS細胞には上記huKOでマーキングされた株を使用する。これと同等のマーキングされたiPS細胞等を用いてもよい。注入後の胚は仮親の子宮へ移植し、産仔を得る。
産仔はトランスジェニックであればトランスジーンが次世代に伝わる確率は1/2、ノックインマウスであればとホモになる。確率が1/4となるため目的の“膵臓欠損+iPS細胞由来の膵臓”というマウスがどれかを判定することが必要となる。そのため、両者とも血液および組織の細胞を採取し、フローサイトメーターによりEGFP陰性を示す細胞(上記標識iPS細胞由来ではなく、注入された胚由来の細胞)を分取し、ゲノムDNAを抽出、PCR法により遺伝子型を検出することで当たりのマウスを判定することができる。
使用したPCRプライマーは以下のとおりである。
フォワード:CAATGATGGCTCCAGGGTAA(SEQ ID NO:7)
リバース:TGACTTTCTGTGCTCAGAGG(SEQ ID NO:8)
PCRについては、実施例1と同様に行うことができる。使用したフォワードプライマーはPdx1プロモーター領域に対応するヌクレオチド配列に対してはハイブリダイズするように作製されており、リバースプライマーはHes1 cDNA (アクセッション No. が NM_008235のmRNA)ヌクレオチド配列に対してハイブリダイズするように作製されている。このようなPdx1プロモーターとHes1 cDNA が近傍に存在することは野生型マウスでは起こり得ないため、これらのプライマー用いたPCRにより、トランスジーンを効率的に検出することが可能である。
そして、すい臓が発生したかどうかについては、肉眼でその生成を確認することができる。
(実施例6:毛または胸腺欠損マウス系統における毛または胸腺の発生)
iPS細胞を用いた再生毛または胸腺に関してはヌードマウス由来の胚盤胞を使用して、多能性幹細胞として実施例5で作製したiPS細胞を移植して、毛または胸腺発生が生じるか否かを検討することができる。
(使用したマウス)
使用したマウスは、ヌードマウスであり、日本SLC株式会社より入手した。使用したヌードマウスは近交系DDD/1系統マウスにBALB/c ヌードの nu遺伝子を導入した際に作られた繁殖効率良かつ丈夫なヌードマウスである。
胚盤胞にiPS細胞をマイクロマニピュレーターを用いて顕微鏡下で注入する。このiPS細胞は、実施例5に示すようにマーキングされている。これと同等のマーキングされたiPS細胞等を用いてもよい。注入後の胚は仮親の子宮へ移植し、産仔を得ることができる。
ヌードマウスは自然発症モデルであり、胸腺、毛の欠損が見られるものの生存・繁殖には何ら支障をきたさないことから、ヌードマウスどうしでの交配が可能となる。したがって、産仔もすべてヌードマウスとなるため遺伝子型の判定の必要はない。よって実施例2のようなPCRでの検出による確認も不要である。
毛または胸腺が発生したかどうかは肉眼での確認などをすることができる。この結果から、生えてきたものが、huKO陽性の毛または胸腺であり、毛または胸腺が再生することを確認することができる。
(実施例7:マウス以外の動物を使用する例)
本実施例では、マウス以外の動物を使用する場合でも、臓器を製造することができることを実証する。マウス以外の種ではキメラ形成能をもつような多能性幹細胞樹立の報告よりも、胚もしくは胚の中でもES細胞の起源となる内部細胞塊を注入したキメラの報告が多く、この情報を用いて、臓器製造を行うことができる。ラットの場合は、Mayer,J.R.Jr.&Fretz,H.I.The culture of preimplantation rat embryos and the prosuction of allophenic rats.J.Reprod.Fertil.39,1−10(1974)に記載される情報を用いて、同様の実験を行うことができる。ウシについては、Brem,G.et al.Production of cattle chimerae through embryo microsurgery.Theriogenology.23,182(1985)に記載される情報を用いて、同様の実験を行うことができる。ブタについては、Kashiwazaki N et.al Production of chimeric pigs by the blastocyst injection method Vet. Rec. 130,186−187 (1992)に記載される情報を用いて、同様の実験を行うことができる。
たとえば、本実施例では、ヌードラット(たとえば、日本クレアから入手可能。)を用いて、毛または胸腺の製造をすることができる。
ラットを用いた場合でも、実施例3および4に準じて同様の実験を行うことができる。ただし、ES細胞が入手困難であることから、このラットを胚盤胞までin vitro で培養し、得られた胚盤胞から内部細胞塊を物理的に一部剥離し、それを胚盤胞へインジェクションすることができる。途中の8細胞期あるいは桑実胚同士を凝集させキメラ胚を作製することができる。
このようにして得られたキメラ胚を用いて実施例3または4と同様の実験を行うことができる。
そして、ヌードラットは自然発症モデルであり、胸腺、毛の欠損が見られるものの生存・繁殖には何ら支障をきたさないことから、ヌードマウスどうしでの交配が可能となる。したがって、産仔もすべてヌードマウスとなるため遺伝子型の判定の必要はない。よって実施例2のようなPCRでの検出による確認も不要である。
毛または胸腺が発生したかどうかは肉眼での確認などをすることができる。この結果から、生えてきたものが、huKO陽性の毛または胸腺であり、毛または胸腺が再生することを確認することができる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
本発明の方法により、発生段階においてある臓器の発生が生じない異常を有するため、ある臓器の欠損を生じる個体の生体内において、哺乳動物細胞由来の当該臓器を形成することができる。特に、腎臓、すい臓、毛及び胸腺などの複雑な細胞構成を有する臓器においても、本発明の方法を適用することができる。
具体的には、本発明は、発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の生体内において、該宿主とは異なる個体の異個体宿主哺乳動物由来の該目的臓器を製造する方法であって、
a)該異個体宿主哺乳動物由来の細胞を調製する工程;
b)該非ヒト宿主哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;
c)該受精卵を該非ヒト宿主哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程;および
d)該産仔個体から、該目的臓器を取得する工程
を含む、臓器を製造する方法を提供することにより、上記課題を解決することができることを明らかにした。
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の生体内において、該ヒト宿主哺乳動物とは異なる個体の異個体宿主哺乳動物由来の該目的臓器を製造する方法であって、
a)該異個体宿主哺乳動物由来の細胞を調製する工程;
b)該非ヒト宿主哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;
c)該受精卵を該非ヒト宿主哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程;および
d)該産仔個体から、該目的臓器を取得する工程
を含む、目的臓器を製造する方法。
(2)前記細胞が胚性幹細胞(ES細胞)または誘導型多能性幹細胞(iPS細胞)である、上記(1)に記載の方法。
(3)前記細胞がマウス由来である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記製造すべき臓器が腎臓、すい臓、胸腺および毛から選択される、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記宿主がマウスである、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記マウスがSall1ノックアウトマウス、pdx−1ノックアウトマウスまたはヌードマウスである、上記(5)に記載の方法。
(7)前記目的臓器が、完全に前記異個体宿主哺乳動物由来のものである、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物であって、
a)該ヒト宿主哺乳動物とは異なる個体の異個体宿主哺乳動物由来の細胞を調製する工程;
b)該非ヒト宿主哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;および
c)該受精卵を該非ヒト宿主哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程
を含む方法によって生産された哺乳動物。
(9)発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の、該目的臓器の製造のための使用。
(10)目的臓器を製造するためのセットであって、該セットは、
A)発生段階において該目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物と、
B)該目的臓器と同種の異個体宿主哺乳動物由来の細胞とを備える、セット。

Claims (10)

  1. 発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の生体内において、該ヒト宿主哺乳動物とは異なる個体の異個体宿主哺乳動物由来の該目的臓器を製造する方法であって、
    a)該異個体宿主哺乳動物由来の細胞を調製する工程;
    b)該非ヒト宿主哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;
    c)該受精卵を該非ヒト宿主哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程;および
    d)該産仔個体から、該目的臓器を取得する工程
    を含む、目的臓器を製造する方法。
  2. 前記細胞が胚性幹細胞(ES細胞)または誘導型多能性幹細胞(iPS細胞)である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記細胞がマウス由来である、請求項1に記載の方法。
  4. 前記製造すべき臓器が腎臓、すい臓、胸腺および毛から選択される、請求項1に記載の方法。
  5. 前記宿主がマウスである、請求項1に記載の方法。
  6. 前記マウスがSall1ノックアウトマウス、pdx−1ノックアウトマウスまたはヌードマウスである、請求項1に記載の方法。
  7. 前記目的臓器が、完全に前記異個体宿主哺乳動物由来のものである、請求項1に記載の方法。
  8. 発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物であって、
    a)該ヒト宿主哺乳動物とは異なる個体の異個体宿主哺乳動物由来の細胞を調製する工程;
    b)該非ヒト宿主哺乳動物の胚盤胞期の受精卵中に、該細胞を移植する工程;および
    c)該受精卵を該非ヒト宿主哺乳動物の母胎中で発生させて、産仔を得る工程
    を含む方法によって生産された哺乳動物。
  9. 発生段階において目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物の、該目的臓器の製造のための使用。
  10. 目的臓器を製造するためのセットであって、該セットは、
    A)発生段階において該目的臓器の発生が生じない異常を有する非ヒト宿主哺乳動物と、
    B)該目的臓器と同種の異個体宿主哺乳動物由来の細胞とを備える、セット。
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