JP2014120678A - 圧粉成形体、及び圧粉成形体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】透磁率が高く強度に優れる圧粉成形体、及び圧粉成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】ビッカース硬さHV0.1が300以上である軟磁性材料から構成された軟磁性粒子11の表面に平均厚さが10nm以上150nm以下の絶縁層120を具える被覆付き軟磁性粉末を準備する。この被覆付き軟磁性粉末と成形用材料200とを含む粉末複合材300を準備する。この粉末複合材300を加圧・圧縮して、圧縮物400を成形し、圧縮物400に熱処理を施して、焼成体(圧粉成形体)1を得る。成形用材料200は、熱処理後に圧粉成形体1中に介在して保形剤20となる材料(第一の材料)と、圧縮物400中に存在して圧縮物400を保形する第二の材料とを含む。圧粉成形体1中の複数の被覆粒子10に囲まれてつくられる三重点部分に保形剤20が存在することで、透磁率を低下させることなく、強度を向上できる。
【選択図】図1
【解決手段】ビッカース硬さHV0.1が300以上である軟磁性材料から構成された軟磁性粒子11の表面に平均厚さが10nm以上150nm以下の絶縁層120を具える被覆付き軟磁性粉末を準備する。この被覆付き軟磁性粉末と成形用材料200とを含む粉末複合材300を準備する。この粉末複合材300を加圧・圧縮して、圧縮物400を成形し、圧縮物400に熱処理を施して、焼成体(圧粉成形体)1を得る。成形用材料200は、熱処理後に圧粉成形体1中に介在して保形剤20となる材料(第一の材料)と、圧縮物400中に存在して圧縮物400を保形する第二の材料とを含む。圧粉成形体1中の複数の被覆粒子10に囲まれてつくられる三重点部分に保形剤20が存在することで、透磁率を低下させることなく、強度を向上できる。
【選択図】図1
Description
本発明は、リアクトルやインダクタといった回路部品に具える磁心などに利用される圧粉成形体、及び圧粉成形体の製造方法に関するものである。特に、透磁率が高く、強度にも優れる圧粉成形体に関するものである。
スイッチング電源やDC/DCコンバータなどのエネルギーを変換する回路に具える部品として、巻線を巻回してなるコイルと、このコイルが配置され、閉磁路を形成する磁心とを具える磁気部品がある。
上記磁心として、軟磁性材料からなる粉末を用いて製造される圧粉磁心がある。圧粉磁心は、代表的には、軟磁性粒子の表面に絶縁層を具える被覆付き軟磁性粉末を所定の形状に加圧・圧縮して、成形された圧縮物に熱処理(焼成)を施すことで製造される一つ又は複数の圧粉成形体(焼成体)によって構成される。圧粉磁心は、更にギャップを具えることもある。
上述の方法により得られた圧粉成形体は、軟磁性粒子間に絶縁材(上記絶縁層や上記絶縁層の構成材料が熱処理により変性されたもの)が介在される。この絶縁材によって、上記圧粉成形体は、渦電流損失が小さく、かつ成形時に軟磁性粒子に導入された歪が熱処理によって除去されることでヒステリシス損失が小さくなる。従って、鉄損が小さい圧粉磁心を構築できる。
軟磁性材料のうち、特に、センダストに代表されるFe-Si-Al系合金やFe-Si系合金といった鉄基合金は、例えば、純鉄に比較して鉄損を低減し易い。従って、上記鉄基合金から構成される圧粉成形体は、より低損失な磁心を構築できる(例えば、特許文献1)。また、特許文献1に記載されるように、軟磁性粒子間に介在する絶縁層が薄い圧粉成形体は、高い透磁率を有する磁心を構築できる。
透磁率を低下させることなく、熱処理(焼成)後の圧粉成形体(焼成体)の強度を向上することが望まれている。
上述の鉄基合金は、添加元素の固溶硬化などによって純鉄に比較して非常に硬く塑性変形性に劣る。そのため、鉄基合金粒子は、上述の加圧・圧縮によって、実質的に塑性変形せず、粒子同士の噛み合いによる強度の確保が困難である。特に、球形に近い粒子では、上記噛み合いが実質的に生じない。従って、上述の鉄基合金からなる粉末を用いた圧縮物や焼成体では、低損失と高透磁率とを両立できるものの、強度が低下する。
特許文献1に記載されるように、原料の被覆付き軟磁性粉末に、焼成によって無くなる成形用樹脂を添加すると、この成形用樹脂によって焼成前の圧縮物の強度を確保できる。また、軟磁性粒子間に存在する上述の絶縁材によって焼成後の焼成体の強度をある程度確保できる。従って、焼成体の強度を向上するには、絶縁層の原料を増加して、焼成体を構成する軟磁性粒子間に介在される上述の絶縁材を増加する(例えば、絶縁層を厚くする)ことが効果的であるといえる。しかし、絶縁層を厚くして、焼成体を構成する軟磁性粒子間に介在される上述の絶縁材を増加すると、軟磁性粒子間の距離が大きくなり、磁心の重要な特性の一つである透磁率の低下を招く。
そこで、本発明の目的の一つは、透磁率が高く、強度にも優れる圧粉成形体を提供することにある。また、本発明の他の目的は、透磁率が高く、強度にも優れる圧粉成形体を製造可能な圧粉成形体の製造方法を提供することにある。
本発明は、原料に添加する成形用材料を工夫することで、上記目的を達成する。
本発明の圧粉成形体の製造方法は、軟磁性粉末を加圧・圧縮して成形した圧縮物に熱処理を施して圧粉成形体を製造する方法に係るものであり、以下の準備工程、複合工程、成形工程、及び焼成工程を具える。
準備工程 ビッカース硬さHV0.1が300以上である軟磁性材料から構成された軟磁性粒子と、この軟磁性粒子の表面を覆い、平均厚さが10nm以上150nm以下の絶縁層とを具える被覆付き軟磁性粉末を準備する工程。
複合工程 上記被覆付き軟磁性粉末と成形用材料とを含む粉末複合材を準備する工程。
成形工程 上記粉末複合材を加圧・圧縮して、圧縮物を成形する工程。
焼成工程 上記圧縮物に熱処理を施し、圧粉成形体を得る工程。
そして、上記成形用材料は、以下の第一の材料と、第二の材料とを含むものとする。上記第一の材料は、上記熱処理後に上記圧粉成形体中に介在して上記圧粉成形体の保形剤となる材料を含む。上記第二の材料は、上記圧縮物中に存在して上記圧縮物を保形する材料を含む。
準備工程 ビッカース硬さHV0.1が300以上である軟磁性材料から構成された軟磁性粒子と、この軟磁性粒子の表面を覆い、平均厚さが10nm以上150nm以下の絶縁層とを具える被覆付き軟磁性粉末を準備する工程。
複合工程 上記被覆付き軟磁性粉末と成形用材料とを含む粉末複合材を準備する工程。
成形工程 上記粉末複合材を加圧・圧縮して、圧縮物を成形する工程。
焼成工程 上記圧縮物に熱処理を施し、圧粉成形体を得る工程。
そして、上記成形用材料は、以下の第一の材料と、第二の材料とを含むものとする。上記第一の材料は、上記熱処理後に上記圧粉成形体中に介在して上記圧粉成形体の保形剤となる材料を含む。上記第二の材料は、上記圧縮物中に存在して上記圧縮物を保形する材料を含む。
成形用材料を特定の複数の材料によって構成することで、成形用材料の一部(第二の材料)を熱処理前の圧縮物の強度の確保に利用でき、成形用材料の別の一部(第一の材料)を熱処理後の焼成体(圧粉成形体)の強度の確保に利用できる。このように熱処理後に保形剤となる材料(第一の材料)を含む成形用材料を用いる本発明の圧粉成形体の製造方法は、絶縁層が薄い被覆付き軟磁性粉末を原料に用いながらも、単一の材質の成形用樹脂を用いた場合よりも、強度に優れる圧粉成形体を製造できる。
また、焼成体の強度を確保する上記保形剤は、圧粉成形体中を構成する粒子(代表的には、軟磁性粒子の表面が絶縁層で覆われた被覆粒子)によって不可避的に形成される領域、具体的には三重点部分に主として存在する。そのため、上記保形剤の存在によって、圧粉成形体を構成する軟磁性粒子間の距離は、焼成前と同じ大きさ(代表的には、絶縁層の厚さ×2)が実質的に維持されて、大きくならない。特に、原料の被覆付き軟磁性粉末は、絶縁層の平均厚さが150nm以下と薄いため、軟磁性粒子間の距離が小さい。従って、本発明の圧粉成形体の製造方法は、特定の成形用材料を用いたことによる透磁率の低下を実質的に招かず、絶縁層を厚くした被覆付き軟磁性粉末を原料に用いた場合よりも高い透磁率を有する圧粉成形体を製造できる。また、上記保形剤が三重点部分に存在することで、圧粉成形体中の軟磁性材料の含有割合も実質的に低下しない。更に、絶縁層が薄いことからも、圧粉成形体中の軟磁性材料の含有割合を高められる。以上の点から、本発明の圧粉成形体の製造方法は、透磁率が高く、強度にも優れる圧粉成形体を製造できる。
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記第一の材料が上記絶縁層の構成材料と同じ材料を含み、上記絶縁層の構成材料がケイ酸カリウムを含む形態が挙げられる。
ケイ酸カリウムは、硬質で変形し難い絶縁層を構築できる。そのため、この絶縁層は、加圧・圧縮時に硬質な軟磁性粒子間に挟まれても損傷し難く、軟磁性粒子の周囲に損傷が無く健全な状態の絶縁層を具える被覆粒子から構成され得る圧粉成形体の製造に寄与することができる。また、成形用材料の構成材料と絶縁層の構成材料とが共通することで、原料の準備が容易である。従って、上記形態は、絶縁性にも優れて低損失な圧粉成形体を生産性よく製造できる。
本発明の圧粉成形体の製造方法の一形態として、上記第二の材料がアクリル樹脂及びポリビニルアルコールの少なくとも一方の樹脂を含む形態が挙げられる。
アクリル樹脂やポリビニルアルコールは、成形時の変形性に優れる上に、強度に優れる圧縮物の成形に寄与することができる。従って、上記形態は、焼成前の圧縮物の強度にも優れる圧粉成形体を製造できる。
本発明の圧粉成形体として、上記本発明の圧粉成形体の製造方法により得られたものを提案する。
本発明の圧粉成形体は、上述の保形剤が三重点部分に存在することで、強度に優れる上に、この保形剤の存在によって透磁率が実質的に低くならず、高い透磁率を有する。また、本発明の圧粉成形体は、軟磁性粒子間に介在する絶縁層などの絶縁材の厚さが薄い上に、上記保形剤の存在によって軟磁性材料の含有割合が実質的に低くならず、高密度である。
本発明の圧粉成形体として、軟磁性粒子の表面が絶縁層で覆われた複数の被覆粒子が集合してなるものであって、以下の構成を具えるものを提案する。上記軟磁性粒子は、ビッカース硬さHV0.1が300以上である軟磁性材料から構成される。上記絶縁層の平均厚さが10nm以上150nm以下である。そして、複数の上記被覆粒子に囲まれてつくられる三重点部分に上記絶縁層とは独立した保形剤が介在する。
上述の構成を具える本発明の圧粉成形体は、絶縁層とは別の保形剤が三重点部分に存在することで、強度に優れる上に、この保形剤の存在によって透磁率が実質的に低くならず、高い透磁率を有する。また、上記保形剤が三重点部分に存在することで、圧粉成形体中の軟磁性材料の含有割合も実質的に低くならず、高密度である。特に、この圧粉成形体は、絶縁層によって軟磁性粒子間の絶縁性を確保できながら、絶縁層が十分に薄いことからも高い透磁率を有する。
本発明の圧粉成形体の一形態として、上記保形剤の構成材料が上記絶縁層の構成材料と同じ無機物、又は異なる無機物である形態が挙げられる。
例えば、ケイ酸塩や酸化ケイ素といった無機物は、一般に、硬いことから、保形剤がこのような無機物から構成される上記形態は、優れた強度を有する。また、上記無機物は、一般に、絶縁性、耐熱性にも優れることから、絶縁層及び保形剤がこのような無機物である上記形態は、絶縁性、耐熱性にも優れる。
本発明の圧粉成形体は、透磁率が高く、強度にも優れる。本発明の圧粉磁心の製造方法は、透磁率を低下させずに強度に優れる圧粉成形体を製造できる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。まず、圧粉成形体を説明し、次に、圧粉成形体の製造方法を説明する。
[圧粉成形体]
本発明の圧粉成形体は、軟磁性粒子の表面が絶縁層で覆われた複数の被覆粒子の集合体であり、複数の被覆粒子によって囲まれてつくられる三重点部分に保形剤が介在する。このような被覆粒子の集合体は、代表的には、原料に被覆付き軟磁性粉末(詳細は後述)を用いることで製造される。特に、原料(後述する粉末複合材)の合計質量に対する被覆付き軟磁性粉末の質量割合は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。この質量割合が大きくなるほど、圧粉成形体中の軟磁性粒子の割合が多くなるため、透磁率が高い圧粉成形体となる。しかし、多過ぎると強度の低下を招くことから、圧粉成形体の強度を十分に維持するためには、上述の質量割合は、99.9%以下が好ましい。
本発明の圧粉成形体は、軟磁性粒子の表面が絶縁層で覆われた複数の被覆粒子の集合体であり、複数の被覆粒子によって囲まれてつくられる三重点部分に保形剤が介在する。このような被覆粒子の集合体は、代表的には、原料に被覆付き軟磁性粉末(詳細は後述)を用いることで製造される。特に、原料(後述する粉末複合材)の合計質量に対する被覆付き軟磁性粉末の質量割合は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましい。この質量割合が大きくなるほど、圧粉成形体中の軟磁性粒子の割合が多くなるため、透磁率が高い圧粉成形体となる。しかし、多過ぎると強度の低下を招くことから、圧粉成形体の強度を十分に維持するためには、上述の質量割合は、99.9%以下が好ましい。
(被覆粒子)
・軟磁性粒子
軟磁性粒子を構成する軟磁性材料は、ビッカース硬さHV0.1が300以上のものとする。より好ましいビッカース硬さHV0.1は400以上である。このような硬質な軟磁性材料の具体的な組成として、Fe-Si-Al系合金(いわゆるセンダスト)、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金、Fe系アモルファス合金などの鉄基合金が挙げられる。Fe-Si-Al系合金は、例えば、Siを7質量%以上11質量%以下、Alを3質量%以上11質量%以下含有するものが挙げられる。Fe-Si系合金は、Siを4.5質量%以上7質量%以下含有するものが挙げられる。
・軟磁性粒子
軟磁性粒子を構成する軟磁性材料は、ビッカース硬さHV0.1が300以上のものとする。より好ましいビッカース硬さHV0.1は400以上である。このような硬質な軟磁性材料の具体的な組成として、Fe-Si-Al系合金(いわゆるセンダスト)、Fe-Si系合金、Fe-Al系合金、Fe系アモルファス合金などの鉄基合金が挙げられる。Fe-Si-Al系合金は、例えば、Siを7質量%以上11質量%以下、Alを3質量%以上11質量%以下含有するものが挙げられる。Fe-Si系合金は、Siを4.5質量%以上7質量%以下含有するものが挙げられる。
ビッカース硬さHV0.1は、JIS Z 2244(2009)に準じて測定され、HV0.1は、試験時の圧子の荷重(マイクロビッカース硬さ試験の試験力F)が0.1kgf(約0.98N)であることを示す。上述の各合金におけるビッカース硬さHV0.1の具体例は、Fe-9.5%Si-5.5%Alが約500、Fe-4.5%Siが約300、Fe-5.0%Siが約340、Fe系アモルファス合金が約700〜800である(質量%)。これらの高硬度な鉄基合金は、一般に電気抵抗が高く、渦電流損失を低減できる。特に、Fe-Si-Al系合金は、高硬度である上に、鉄損を小さくでき、耐摩耗性にも優れる。圧粉成形体を構成する軟磁性粒子のビッカース硬さHV0.1を測定するには、例えば、圧粉成形体の断面をとり、断面における被覆粒子の軟磁性材料部分に測定用圧子を押し当てることが挙げられる。被覆粒子のビッカース硬さHV0.1を測定するには、例えば、被覆粒子を適宜な樹脂に埋め込み、この埋め込み材の断面をとり、断面における被覆粒子の軟磁性材料部分に測定用圧子を押し当てることが挙げられる。
軟磁性粒子の大きさは、例えば、その平均粒径が10μm以上150μm以下であることが挙げられる。ここで、ビッカース硬さHV0.1が300以上の軟磁性粒子は、硬質であることから、原料に用いた軟磁性粒子の大きさ、形状を実質的に維持する。従って、平均粒径が10μm以上であると、原料の軟磁性粉末が取り扱い易い上に製造性にも優れて、ひいては生産性に優れる圧粉成形体とすることができる。また、平均粒径が10μm以上であると、圧粉成形体を磁心に利用する場合にヒステリシス損失の増大を低減できる。平均粒径は、大き過ぎると渦電流損失が増大するため、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。
軟磁性粒子の形状は、その表面に凹凸を有する異形状であるよりも、真球に近いほど、保形剤の介在領域となる三重点部分を確保し易い。球状の粒子とは、例えば、軟磁性粒子の断面における最大径/円相当径が1.0以上1.3以下を満たすものが挙げられる(最大径/円相当径が1.0の場合、真球)。円相当径は、上記断面における軟磁性粒子の輪郭で囲まれる面積と同一面積を有する円の直径、最大径は、上記輪郭における最大長さとする。なお、異形状の粒子を含んでいてもよい。
・絶縁層
上述の軟磁性粒子の外周を覆う絶縁層は、軟磁性粒子間に介在してこれらの粒子間を絶縁し、渦電流損失の低減に寄与する。また、この絶縁層は、圧粉成形体の強度の維持にもある程度寄与する。
上述の軟磁性粒子の外周を覆う絶縁層は、軟磁性粒子間に介在してこれらの粒子間を絶縁し、渦電流損失の低減に寄与する。また、この絶縁層は、圧粉成形体の強度の維持にもある程度寄与する。
絶縁層の材質は、代表的には、無機物が挙げられる。具体的には、酸化物などのO(酸素)を含むもの、リン酸塩などのリン化合物、ケイ酸塩などのケイ素化合物、ジルコニウム化合物、ホウ酸塩などのホウ素化合物などが挙げられる。
Oを含むものとして、例えば、Si(ケイ素)とOとを含む酸化ケイ素が挙げられる。酸化ケイ素は、代表的にはSiO2が挙げられる。SiO及びSi2O3の少なくとも一方を含むことを許容する。酸化ケイ素からなる絶縁層は、高硬度で、耐熱性に優れる。
Si及びOに加えて金属元素も含むもの、例えば、(1)Si及びOと、アルカリ金属及びMgの少なくとも1種の金属元素とを含むもの、(2)Si及びOと、アルカリ金属及びMgの少なくとも1種の金属元素と、Alとを含有するもの、が挙げられる。具体的には、アルカリ金属のケイ酸塩、例えば、ケイ酸カリウム(K2SiO3)、ケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)、ケイ酸リチウム(Li2SiO3)や、ケイ酸マグネシウム(MgSiO3)などが挙げられる。Alを含有する場合は、ケイ酸アルミニウムやアルミン酸などとして含有する形態が挙げられる。これらのケイ酸塩からなる絶縁層は、高硬度である。そのため、この絶縁層を形成した被覆付き軟磁性粉末を原料に用いると、この絶縁層は、成形時の加圧・圧縮によって破損し難く、圧粉成形体中に健全な状態で存在できる。ケイ酸ナトリウム(水ガラス、ケイ酸ソーダとも呼ばれる)は、更にAlを含有すると、絶縁性に優れる。ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸マグネシウムなどのその他のケイ酸塩は、更にAlを含有すると、耐熱性に優れる絶縁層になる。
上記ケイ酸塩からなる絶縁層中の各元素の含有量はそれぞれ、質量%で、Siが10%以上35%以下、Oが20%以上70%以下、アルカリ金属及びMgの総量が5%以上30%以下、が挙げられる。Alを含有する場合、絶縁層中のAlの含有量は、0超20質量%以下が挙げられる。ケイ酸塩からなる絶縁層を具える形態では、絶縁層は、Si,Al,O、アルカリ金属、及びMg以外の元素を20質量%以下の範囲で含有することを許容する。上記元素として、例えば、Fe,Caなどが挙げられる。
その他のOを含むものとして、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの酸化物が挙げられる。リン化合物は、例えば、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウムなどが挙げられる。
又は、上記絶縁層の材質は、有機物でもよい。具体的には、シリコーン樹脂などの樹脂が挙げられる。シリコーン樹脂からなる絶縁層は、絶縁性、耐熱性に優れる。また、シリコーン樹脂は、上述の無機物に比較して変形性に優れることから、シリコーン樹脂からなる絶縁層は、軟磁性粒子の外周に密着して剥離し難く、密着性にも優れる。上記絶縁層は有機物と上述の無機物との双方を含むこともできる。例えば、酸化ケイ素とシリコーン樹脂とを含む形態、などが挙げられる。
絶縁層は、厚いほど絶縁性が高く、損失を低減できるものの、上述のように透磁率の低下や軟磁性材料の含有割合の低下を招く。従って、絶縁層の平均厚さは、250nm未満とし、150nm以下が好ましく、120nm以下がより好ましい。一方、軟磁性粒子間を十分に絶縁できるように、絶縁層の平均厚さは、10nm以上が好ましい。ここで、圧粉成形体中の絶縁層の厚さは、熱処理によって若干変化することもあるが、成形前の原料の被覆付き軟磁性粉末に具える絶縁層の厚さを実質的に維持する。原料の絶縁層の平均厚さが10nm以上であると、原料の被覆粒子を加圧・圧縮するときに破壊され難く、圧粉成形体中に健全な状態で存在できることから(即ち、圧粉成形体における絶縁層の平均厚さが10nm以上であることから)、絶縁性に優れる圧粉成形体になる。絶縁層の厚さは、例えば、圧粉成形体の断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで測定できる。複数の被覆粒子について絶縁層の厚さを測定し、その平均を絶縁層の平均厚さとする。
・三重点部分
本発明の圧粉成形体は、保形剤(後述)が存在する領域を具える。この領域は、上記軟磁性粒子と上記絶縁層とを具える被覆粒子が3個以上集まり、これら複数の被覆粒子で囲まれる領域とし、この領域を三重点部分と呼ぶ。被覆粒子(軟磁性粒子)が実質的に球形である場合、三重点部分は、理想的には、3個の被覆粒子によって形成される。異形状の被覆粒子(軟磁性粒子)を含む場合、三重点部分は、3個以上の被覆粒子によって形成されることがある。なお、本発明の圧粉成形体は、絶縁層の厚さが十分に薄いことから、被覆粒子の形状は、軟磁性粒子の形状に実質的に等しい。
本発明の圧粉成形体は、保形剤(後述)が存在する領域を具える。この領域は、上記軟磁性粒子と上記絶縁層とを具える被覆粒子が3個以上集まり、これら複数の被覆粒子で囲まれる領域とし、この領域を三重点部分と呼ぶ。被覆粒子(軟磁性粒子)が実質的に球形である場合、三重点部分は、理想的には、3個の被覆粒子によって形成される。異形状の被覆粒子(軟磁性粒子)を含む場合、三重点部分は、3個以上の被覆粒子によって形成されることがある。なお、本発明の圧粉成形体は、絶縁層の厚さが十分に薄いことから、被覆粒子の形状は、軟磁性粒子の形状に実質的に等しい。
(保形剤)
本発明の圧粉成形体は、上記三重点部分に、絶縁層とは独立した材料が存在することを特徴の一つとする。この三重点部分に存在する材料は、主として、圧粉成形体の成形強度を維持する保形剤として機能する。
本発明の圧粉成形体は、上記三重点部分に、絶縁層とは独立した材料が存在することを特徴の一つとする。この三重点部分に存在する材料は、主として、圧粉成形体の成形強度を維持する保形剤として機能する。
上記保形剤の具体的な材質は、絶縁層の材質の項で述べた、無機物、有機物が挙げられる。具体的な無機物は、酸化ケイ素といった酸化物、ケイ酸カリウムなどのアルカリ金属のケイ酸塩、ケイ酸マグネシウムといったマグネシウムのケイ酸塩、更にアルミニウムを含むケイ酸塩などが挙げられる(より具体的な組成は絶縁層の材質の項を参照)。具体的な有機物は、シリコーン樹脂などが挙げられる。上述の無機物は、一般に、高硬度で機械的強度に優れ、保形剤として良好に機能する。従って、保形剤は、無機物が好ましい。
上記保形剤と絶縁層とは、同じ材質、異なる材質のいずれも採り得る。同じ材質の場合、原料の準備が容易であり、異なる材質の場合、原料の選択の自由度を高められる。例えば、保形剤と絶縁層との双方が同一のケイ酸塩で構成された形態、絶縁層がケイ酸塩で構成され、保形剤が酸化ケイ素やシリコーン樹脂で構成された形態などが挙げられる。また、保形剤の材質の一部と絶縁層の材質の一部とが同じ材質(又は異なる材質)である形態とすることもできる。具体的には、複数種の絶縁層を具える被覆粒子が存在し、これらの絶縁層の一種又は多種と同じ材質からなる保形剤を具える形態が挙げられる。保形剤は、代表的には、一様な材質の塊(代表的には上述の三重点部分の形状に沿った塊)として存在するが、粒子の集合として存在することもある。
三重点部分の存在の有無、保形剤の形状、被覆粒子の存在状態などは、圧粉成形体の断面をとり、その断面を例えば、TEMなどで観察すると共に、各領域の構成元素などをマッピングすることで把握できる。
(特性)
本発明の圧粉成形体は、特定の位置に保形剤が存在することで、この保形剤が存在しない圧粉成形体と比較して、後述する試験例に示すように透磁率と強度との双方に優れる。
本発明の圧粉成形体は、特定の位置に保形剤が存在することで、この保形剤が存在しない圧粉成形体と比較して、後述する試験例に示すように透磁率と強度との双方に優れる。
[圧粉成形体の製造方法]
本発明の圧粉成形体は、被覆付き軟磁性粉末を準備する準備工程と、保形剤の原料を含む成形用材料と上記被覆付き軟磁性粉末とを含む粉末複合材を準備する複合工程と、粉末複合材を成形する成形工程と、成形した圧縮物を熱処理する焼成工程とを経て製造される。
本発明の圧粉成形体は、被覆付き軟磁性粉末を準備する準備工程と、保形剤の原料を含む成形用材料と上記被覆付き軟磁性粉末とを含む粉末複合材を準備する複合工程と、粉末複合材を成形する成形工程と、成形した圧縮物を熱処理する焼成工程とを経て製造される。
(準備工程)
この工程では、上述の特定のビッカース硬度を有する軟磁性材料から構成される軟磁性粒子(粉末)の表面に所定の厚さの絶縁層を具える被覆付き軟磁性粉末を用意する。軟磁性粒子は、例えば、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法などのアトマイズ法によって製造されたものが挙げられる。ガスアトマイズ法は、真球状又は球状に近い粒子、つまり、三重点部分を良好に形成可能であり、薄い絶縁層を突き破るような凹凸も少ない粒子を製造し易い。そのため、ガスアトマイズ粉を用いると、保形剤が十分に存在して強度に優れる上に、絶縁層が良好に存在して絶縁性にも優れて低損失な圧粉成形体を製造し易い。水アトマイズ法は、粒子表面に凹凸が多い粒子を製造できる。そのため、水アトマイズ粉を用いると、三重点部分を良好に形成し難いものの、上記凹凸の噛合による強度の向上をある程度期待できる。アトマイズ法で製造された粉末を更に粉砕して、粒度を調整したり、凹凸を除去又は低減して形状を調整したり(球状に近づけたり)してもよい。軟磁性粒子の表面に自然酸化膜を具えることを許容する。
この工程では、上述の特定のビッカース硬度を有する軟磁性材料から構成される軟磁性粒子(粉末)の表面に所定の厚さの絶縁層を具える被覆付き軟磁性粉末を用意する。軟磁性粒子は、例えば、ガスアトマイズ法や水アトマイズ法などのアトマイズ法によって製造されたものが挙げられる。ガスアトマイズ法は、真球状又は球状に近い粒子、つまり、三重点部分を良好に形成可能であり、薄い絶縁層を突き破るような凹凸も少ない粒子を製造し易い。そのため、ガスアトマイズ粉を用いると、保形剤が十分に存在して強度に優れる上に、絶縁層が良好に存在して絶縁性にも優れて低損失な圧粉成形体を製造し易い。水アトマイズ法は、粒子表面に凹凸が多い粒子を製造できる。そのため、水アトマイズ粉を用いると、三重点部分を良好に形成し難いものの、上記凹凸の噛合による強度の向上をある程度期待できる。アトマイズ法で製造された粉末を更に粉砕して、粒度を調整したり、凹凸を除去又は低減して形状を調整したり(球状に近づけたり)してもよい。軟磁性粒子の表面に自然酸化膜を具えることを許容する。
絶縁層の材質に応じた適宜な手法を利用して、上述の軟磁性粒子に絶縁層を形成することで、被覆付き軟磁性粉末を製造できる。代表的には、軟磁性粉末と、絶縁層の原料とを混合・乾燥後、必要に応じて熱処理することが挙げられる。絶縁層の原料の添加量は、所望の(平均)厚さの絶縁層が形成できるように、適宜調整する。混合には、ミキサーや回転可能な容器などを利用できる。絶縁層の形成に公知の手法を利用してもよい。
例えば、酸化ケイ素からなる絶縁層の形成には、絶縁層の原料にシリコーン樹脂を用い、軟磁性粉末とシリコーン樹脂とを混合後、シリコーン樹脂を分解してガラス化するための熱処理(酸化ケイ素に無機変性して硬度を高めるための熱処理)を施すことが挙げられる。この熱処理の加熱温度は、400℃以上1000℃以下程度、特に600℃以上900℃以下程度、保持時間は30分以上2時間以下程度が挙げられる。
例えば、ケイ酸塩からなる絶縁層の形成には、水ガラスなどのケイ酸塩の水溶液や含水ケイ酸マグネシウムのコロイド溶液などの溶液を用意し、軟磁性粉末とこの溶液とを混合後、乾燥することが挙げられる。アルカリ金属のケイ酸塩は、水に可溶であり、Mgの含水ケイ酸塩はコロイドとして水に容易に分散する。そのため、絶縁層をケイ酸塩で構成する場合、簡便な湿式処理でも軟磁性粒子の表面に均質な絶縁層を容易に形成できる。
上記溶液の濃度は、5質量%以上50質量%以下程度、軟磁性粒子(粉末)の質量に対する溶液中の固形分の質量割合は、0.1質量%以上1.0質量%以下程度が挙げられる。上記固形分の質量割合は、絶縁層の厚さに概略換算できる。例えば、軟磁性粒子の平均粒径が50μmであり、上記固形分の質量割合が0.1質量%の場合、平均厚さが約25nmの絶縁層を形成できる。混合条件は、例えば、ミキサー又は回転容器の回転数が50r.p.m.以上500r.p.m.以下程度、温度が30℃以上100℃以下程度、時間が10分以上60分以下程度、が挙げられる。又は、上記溶液を上記温度でスプレーにて噴霧することが挙げられる。噴霧された溶液は、軟磁性粒子の表面に付着した後、速やかに乾燥して、緻密な絶縁層を容易に形成できる。ケイ酸塩からなる絶縁層や後述するリン酸塩からなる絶縁層などは、絶縁層を高硬度化するための熱処理や重合などするための熱処理が不要であり、被覆付き軟磁性粉末の製造性に優れる。
酸化ケイ素などの酸化物や、上述のアルカリ金属又はMgのケイ酸塩などの無機物からなる絶縁層は、シリコーン樹脂などの有機物と比較して、高硬度である上に耐熱性に優れる。そのため、上記絶縁層を具える被覆付き軟磁性粉末を加圧・圧縮した際、この絶縁層は、硬質な軟磁性粒子間に挟まれても破損し難い上に、焼成後にも健全な状態を維持できる。また、上記無機物からなる絶縁層は、成形後の熱処理(焼成)を施しても、熱分解し難く、焼成後にも健全な状態を維持できる。従って、これらの無機物の絶縁層を具える被覆付き軟磁性粉末を原料に用いると、代表的には、熱処理後も実質的に同じ材質、即ち無機物からなる絶縁層が存在するため、軟磁性粒子同士を良好に絶縁でき、低損失な圧粉成形体を製造できる。
例えば、リン酸塩からなる絶縁層の形成には、化成処理、溶剤の吹付、ゾルゲル処理などを利用できる。
例えば、シリコーン樹脂からなる絶縁層の形成には、軟磁性粉末とシリコーン樹脂とを混合後、乾燥したり、混合・乾燥後、加水分解・縮重合反応を行ったりすることが挙げられる。
特にミキサーを用いて絶縁層を形成した場合、一部の軟磁性粒子同士が絶縁層を介して接合されていることがあるため、混合後、軽くふるいにかけるなどして、この接合を分離すること(ほぐすこと)が好ましい。
(複合工程)
この工程では、成形用材料を用意する。成形用材料は、材質が異なる複数の材料を含むことを特徴の一つとする。具体的には、成形用材料は、熱処理後に焼成体(圧粉成形体)中に存在して、焼成体の強度を維持する保形剤となる第一の材料と、成形後の圧縮物中に存在して圧縮物の強度を維持する第二の材料とを少なくとも含む。
この工程では、成形用材料を用意する。成形用材料は、材質が異なる複数の材料を含むことを特徴の一つとする。具体的には、成形用材料は、熱処理後に焼成体(圧粉成形体)中に存在して、焼成体の強度を維持する保形剤となる第一の材料と、成形後の圧縮物中に存在して圧縮物の強度を維持する第二の材料とを少なくとも含む。
上記第一の材料は、熱処理後の圧粉成形体中に固形成分が実質的にそのまま存在して、又は熱処理によって変性などして、圧粉成形体の保形剤となる材料を含む。具体的には、上述の絶縁層の原料の項で述べたアルカリ金属又はMgのケイ酸塩を含む溶液(熱処理後の圧粉成形体中では、ケイ酸塩が得られる材料)、シリコーン樹脂(熱処理後の圧粉成形体中では、酸化ケイ素が得られる材料)などが挙げられる。即ち、第一の材料は、熱処理後の圧粉成形体中に無機物として存在するものが好ましい。第一の材料は、一種とすることもできるし、複数種のものを組み合わせて用いることもできる。
原料の被覆付き軟磁性粉末の質量に対する上記第一の材料(固形分)の添加量(複数種の場合、合計量)は、0.1質量%以上3質量%以下程度が挙げられる。0.1質量%以上とすることで、熱処理後の圧粉成形体において保形剤かつ絶縁材として機能することができる。上記の第一の材料の添加量は、多いほど保形剤の存在量を多くできるが、圧粉成形体の透磁率の低下、圧粉成形体中の軟磁性材料の含有割合の低下、即ち密度の低下を招くことから、3質量%以下が好ましい。上記の第一の材料の添加量は、0.2質量%以上1質量%以下がより好ましい。
上記第二の材料は、熱処理前の圧縮物の保形に機能すると共に、硬質な軟磁性粒子を主体とする被覆付き軟磁性粉末の成形性を高めるものが好ましい。また、成形後の熱処理によって無くなるもの(揮発、気化するもの)が好ましい。具体的には、従来、成形用材料に利用している樹脂などの有機高分子材料が挙げられる。より具体的には、アクリル樹脂やポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)などの熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂、パラフィンや脂肪酸アミド、脂肪酸エステルなどのワックス類などが挙げられる。特に、アクリル樹脂やポリビニルアルコールは、成形時の変形性と、圧縮物の機械的強度との両立の観点から好ましい。また、アクリル樹脂やポリビニルアルコールなどの熱可塑性樹脂やパラフィンやワックス類などは、比較的低温の熱処理によって揮発、気化させることができ、圧粉成形体中に残存し難い。これら有機高分子材料は、水溶液や有機溶媒による溶液といった液体の状態で利用する。第二の材料も、一種とすることもできるし、複数種のものを組み合わせて用いることもできる。
第一の材料と第二の材料とが同じ材質のものを含み、一部の材質が共通することができる。また、絶縁層の構成材料と、第一の材料及び第二の材料の少なくとも一方とが同じ材質のものを含むこともできる。例えば、絶縁層の構成材料をシリコーン樹脂とし、成形用材料の一部にシリコーン樹脂を含む形態が挙げられる。この形態では、焼成後の圧粉成形体中に、絶縁層を構成する酸化ケイ素と、保形剤となる酸化ケイ素とが存在する。また、この形態では、絶縁層を構成する酸化ケイ素は、ある程度膜状に存在して境界を形成することで、この境界近傍では、三重点部分に存在する保形剤となる酸化ケイ素と区別できる。
なお、絶縁層や成形用材料にシリコーン樹脂を用いた場合、熱処理後、シリコーン樹脂の一部がシリコーン樹脂のままで圧粉成形体中に残存することを許容する。
原料の被覆付き軟磁性粉末の質量に対する上記第二の材料(固形分)の添加量(複数種の場合、合計量)は、0.5質量%以上3.0質量%以下程度が挙げられる。0.5質量%以上とすることで、成形時に変形性に優れると共に、強度に優れる圧縮物を製造できる。3.0質量%以下とすることで、第二の材料が圧縮物中に過度に存在することによる軟磁性材料の含有割合の低下を抑制できる。
上記第一の材料と上記第二の材料との配合は、例えば、上記第二の材料(固形分の質量)に対する上記第一の材料(固形分の質量)の割合、つまり第一の材料/第二の材料(以下、配合割合と呼ぶ)が10%以上80%以下となるようにすることが挙げられる。配合割合を10%以上とすると、焼成後に保形剤となる第一の材料を十分に含有でき、焼成体の強度の向上効果が得られる。配合割合は、大きいほど焼成体の強度の向上効果が得られるが、大き過ぎると、第二の材料が不足して、成形性の低下や圧縮物の強度の低下を招くことから、80%以下が好ましい。配合割合は、35%以上65%以下がより好ましい。
用意した上記第一の材料と上記第二の材料とを十分に混合して、成形用材料とする。そして、例えば、この成形用材料と原料の被覆付き軟磁性粉末とを混合した後、適宜乾燥して、粉末複合材を得る。混合には、ミキサーや回転可能な容器などを利用できる。混合条件は、例えば、ミキサー又は回転容器の回転数が50r.p.m.以上500r.p.m.以下程度、温度が30℃以上100℃以下程度、時間が10分以上90分以下程度、が挙げられる。上記混合に乾燥パン型造粒機などを適宜利用して、粉末複合材を造粒粉とすることもできる。造粒粉とすると、被覆粒子の相互の凝集を抑制でき、原料の被覆付き軟磁性粉末の流動性を良好にでき、かつ粉末複合材を取り扱い易いため、成形用金型に精度よく充填し易い。成形用金型に偏りなく充填された造粒粉を加圧・圧縮することで、圧縮物中の被覆粒子や焼成体中の被覆粒子が均一的に存在し、高密度な圧縮物や焼成体を製造できる。
又は、成形用材料を上述の温度で原料の被覆付き軟磁性粉末にスプレー噴霧することでも、被覆付き軟磁性粉末の表面に成形用材料の固形分を付着でき、被覆付き軟磁性粉末と成形用材料とを含む粉末複合材を得ることができる。
その他、粉末複合材には、成形時の潤滑性を高めるために、潤滑剤を混合させることもできる。
(成形工程)
この工程では、作製した粉末複合材を成形用金型に充填した後、加圧・圧縮して、所定の形状の圧縮物を成形する。加圧圧力は、500MPa以上1500MPa以下が挙げられる。加圧圧力を500MPa以上とすると、高密度な成形体(緻密な圧縮物)を成形でき、1500MPa以下とすることで、絶縁層の破損を抑制できる。
この工程では、作製した粉末複合材を成形用金型に充填した後、加圧・圧縮して、所定の形状の圧縮物を成形する。加圧圧力は、500MPa以上1500MPa以下が挙げられる。加圧圧力を500MPa以上とすると、高密度な成形体(緻密な圧縮物)を成形でき、1500MPa以下とすることで、絶縁層の破損を抑制できる。
(焼成工程)
この工程では、上記圧縮物に熱処理を施して焼成体(圧粉成形体)を得る。この熱処理は、主として、成形用材料中の第二の材料を除去すると共に、上記成形工程で軟磁性粒子に導入された歪みを除去することを目的とする。絶縁層の材質や第一の材料の材質によっては、この熱処理によって、無機変性することができる。この熱処理の加熱温度は、400℃以上1000℃以下程度、加熱時間は、10分以上180分以下程度が挙げられる。この熱処理の雰囲気は、軟磁性粒子や絶縁層、成形用材料の材質、圧粉成形体の用途などに応じて適宜選択することができる。
この工程では、上記圧縮物に熱処理を施して焼成体(圧粉成形体)を得る。この熱処理は、主として、成形用材料中の第二の材料を除去すると共に、上記成形工程で軟磁性粒子に導入された歪みを除去することを目的とする。絶縁層の材質や第一の材料の材質によっては、この熱処理によって、無機変性することができる。この熱処理の加熱温度は、400℃以上1000℃以下程度、加熱時間は、10分以上180分以下程度が挙げられる。この熱処理の雰囲気は、軟磁性粒子や絶縁層、成形用材料の材質、圧粉成形体の用途などに応じて適宜選択することができる。
上記熱処理を多段階に分けることができる。例えば、上記熱処理は、上記第二の材料を除去する第一の熱処理と、歪を除去する第二の熱処理とを具えることができる。この場合、第二の材料をより確実に除去でき、高透磁率で低損失な圧粉成形体を得易い。第一の熱処理は、第二の材料の除去に必要な温度(例えば、500℃以下)とし、第二の材料の炭化を防止するために、大気雰囲気といった酸素を含む雰囲気とすることが好ましい。第二の熱処理は、歪の除去に必要な温度(例えば、550℃以上)とし、酸化相の生成を抑制するために、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気などの非酸化性雰囲気とすることが好ましい。また、比較的低温である第一の熱処理を先に行った後、第二の熱処理を行うことが好ましい。
焼成工程を経て得られた焼成体(圧粉成形体)1は、図1(A)に示すように、軟磁性粒子11の表面が絶縁層12で覆われた複数の被覆粒子10が集まって構成され、複数の被覆粒子10に囲まれてできる領域(三重点部分)に保形剤20が存在する。この保形剤20は、上述の第一の材料によって構成される、又は第一の材料が焼成によって変性された材料によって構成される。また、上述の第二の材料は、代表的には焼成体1中に実質的に存在しない。
[試験例1]
鉄基合金からなる軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を作製し、得られた圧粉成形体の磁気特性、及び機械的特性を調べた。
鉄基合金からなる軟磁性粉末を用いて圧粉成形体を作製し、得られた圧粉成形体の磁気特性、及び機械的特性を調べた。
(圧粉成形体の作製)
この試験ではいずれの試料も、同じ材質の軟磁性粉末を用意し、この軟磁性粉末を構成する各軟磁性粒子の表面に同じ材質の絶縁層を形成して、被覆付き軟磁性粉末を作製した。以下、図1を適宜参照して、圧粉成形体の製造工程を説明する。
この試験ではいずれの試料も、同じ材質の軟磁性粉末を用意し、この軟磁性粉末を構成する各軟磁性粒子の表面に同じ材質の絶縁層を形成して、被覆付き軟磁性粉末を作製した。以下、図1を適宜参照して、圧粉成形体の製造工程を説明する。
原料の軟磁性粉末は、質量%で、Fe-9.5%Si-5.5%Alからなるセンダスト粉末である。この鉄基合金(センダスト)のビッカース硬さHV0.1は約500(≧300)である。このセンダスト粉末の粒径は1μm〜106μm、平均粒径は60μm、ほぼ球状のガスアトマイズ粉末である。最小粒径、最大粒径及び平均粒径は、レーザ回折式粒度分布装置によって測定し、積算重量が50%となる粒径(50%粒径)を平均粒径とした。
次に、絶縁層を形成する。ここでは、ミキサーを用いて、上記軟磁性粉末を回転数300r.p.m.で撹拌しながら、ケイ酸カリウム水溶液を添加して混合する。この水溶液の濃度は30質量%とした。試料No.1,No.1Cでは、軟磁性粉末の質量に対する上記水溶液中の固形分の質量割合が0.4質量%となるように、上記水溶液を添加した。試料No.1Bでは、上記固形分の質量割合が0.8質量%となるように上記水溶液を添加した。混合時の温度は40℃、混合時間は上記固形分の質量割合に応じて調整した。固形分の質量割合が小さい試料No.1では24分、上記質量割合が大きい試料No.1Bでは48分とした。混合後、適宜乾燥することで、いずれの試料も、軟磁性粒子11の表面に、実質的にケイ酸カリウムから構成される絶縁層を具える被覆粒子が得られる。絶縁層を構成する各元素の含有量はそれぞれ、Si:24質量%、O:45質量%、K:17質量%である。酸素の含有量はガスクロマトグラフ質量分析、他の元素の含有量は高周波プラズマ発光分光分析(ICP)によって測定した。
試料No.1,No.1Cは、絶縁層120が比較的薄い被覆粒子100であり(平均厚さ20nm)、上述の水溶液中の固形分が多いものを用いた試料No.1Bは、上記絶縁層120Bが比較的厚い被覆粒子100Bである(平均厚さ110nm)。被覆粒子100,100Bの絶縁層120,120Bの平均厚さは、軟磁性粒子11の表面積と、水溶液中の固形分の比重及び体積とを用いて算出することができる。
各被覆粒子から構成される被覆付き軟磁性粉末をそれぞれ、ふるいにかけて被覆粒子同士の接合をほぐした後、成形用材料を混合して粉末複合材を作製する。試料No.1では、材質が異なる複数の材料を用いて成形用材料を作製した。具体的には、第一の材料として、濃度が30質量%であるケイ酸カリウム水溶液を用意し、第二の材料として、濃度が40質量%であるアクリル樹脂の水溶液を用意した。上記ケイ酸カリウム水溶液は、被覆付き軟磁性粉末の質量に対する水溶液中の固形分(ここではケイ酸カリウム)の添加量が0.4質量%となるように、水溶液の添加量を調整した。上記アクリル樹脂の水溶液は、被覆付き軟磁性粉末の質量に対する水溶液中の固形分(ここではアクリル樹脂)の添加量が1.0質量%となるように、水溶液の添加量を調整した。添加量を調整したこれらの水溶液を十分に混合して成形用材料(ここでは、混合水溶液)を得る。上述の配合割合(=第一の材料/第二の材料)は、(0.4/1.0)×100=40%である。
そして、試料No.1では、用意した成形用材料(上記混合水溶液)と上述の被覆付き軟磁性粉末とを混合する。ここでは、ミキサーを用いて、上記被覆付き軟磁性粉末を回転数300r.p.m.で撹拌しながら、成形用材料(上記混合水溶液)を添加して混合する。混合時の温度は40℃、混合時間は84分とした。混合後、適宜乾燥することで、薄い絶縁層120を具える被覆粒子100と成形用材料(固形分)200とを含む粉末複合材300が得られる(図1(A))。ここでは、粉末複合材300の合計質量に対する被覆付き軟磁性粉末100の質量割合は、95質量%以上である(98.6質量%)。
一方、試料No.1B,No.1Cではいずれも、単一の材質の樹脂を成形用材料に用いた比較例である。具体的には、濃度が40質量%であるアクリル樹脂の水溶液を用意し、被覆付き軟磁性粉末の質量に対する水溶液中の固形分(ここではアクリル樹脂)の添加量が1.0質量%となるように、水溶液の添加量を調整した。そして、試料No.1B,No.1Cでは、用意したアクリル樹脂の水溶液と上述の被覆付き軟磁性粉末とを混合する。ここでは、ミキサーを用いて、上記被覆付き軟磁性粉末を回転数300r.p.m.で撹拌しながら、上記水溶液を添加して混合する。混合時の温度は40℃、混合時間はNo.1Bが60分、試料No.1Cが77分とした。混合後、適宜乾燥することで、試料No.1Bでは、厚い絶縁層120Bを具える被覆粒子100Bと、成形用材料(固形分)210であるアクリル樹脂とを含む粉末複合材300Bが得られる(図1(B))。試料No.1Cでは、薄い絶縁層120を具える被覆粒子100と、成形用材料(固形分)210であるアクリル樹脂とを含む粉末複合材300Cが得られる(図1(C))。なお、ここでは、試料No.1,No.1B,No.1Cにおける絶縁層の形成のための混合時間と粉末複合材の形成のための混合時間との合計が等しくなるように、上述の混合時間を調整したが、各混合時間は、上述のように溶液中の固形分の割合などに応じて選択するとよい。
各粉末複合材300,300B,300Cをそれぞれ、成形金型に供給した後、加圧・圧縮して、圧縮物400,400B,400Cを成形する。加圧圧力(面圧)は980MPaである。この面圧では、成形時、センダストからなる軟磁性粒子11は実質的に変形せず、成形前と同様の形状、大きさを維持する。
得られた各圧縮物400,400B,400Cにそれぞれ、窒素雰囲気下で800℃×1時間の熱処理を施し、焼成体(圧粉成形体)1,1B,1Cを作製した。各焼成体は、断面矩形状のリング状体であり、外径が34mm、内径が20mm、厚さが5mmである。試料No.1,No.1Cの焼成体1,1Cはいずれも、軟磁性粒子11の表面に薄い絶縁層12を具える複数の被覆粒子10の集合体である。試料No.1Bの焼成体1Bは、軟磁性粒子11の表面に厚い絶縁層12Bを具える複数の被覆粒子10Bの集合体である。いずれの絶縁層も、実質的にケイ酸カリウムで構成されており、薄い絶縁層12は平均厚さが20nm、厚い絶縁層12Bは平均厚さが110nmである。絶縁層の平均厚さは、焼成体の断面をTEMで観察し、n≧5点の厚さを測定し、その平均とする。この結果から、いずれの試料の焼成体に具える絶縁層も、原料の被覆付き軟磁性粉末に形成した絶縁層を実質的に維持しているといえる。
(磁気特性)
上述のようにして作製した各試料の焼成体(圧粉成形体)について、磁気特性を測定した。ここでは、初透磁率、最大透磁率、及び鉄損を測定し、いずれも室温(25℃程度)で測定した。測定結果を表1に示す。
上述のようにして作製した各試料の焼成体(圧粉成形体)について、磁気特性を測定した。ここでは、初透磁率、最大透磁率、及び鉄損を測定し、いずれも室温(25℃程度)で測定した。測定結果を表1に示す。
透磁率の測定にあたり、リング状の焼成体(圧粉成形体)に、1次巻線を300ターン、2次巻線を20ターンとして巻線処理を施し、測定用部材(コイルと磁心とを具える磁気部品)を作製した。そして、市販の直流BHアナライザを用いて、作製した測定用部品について、初透磁率、及び最大透磁率を測定した。
鉄損の測定にあたり、リング状の焼成体(圧粉成形体)に、1次巻線を30ターン、2次巻線を15ターンとして巻線処理を施して、測定用部材を作製した。そして、市販の交流BHアナライザを用いて、作製した測定用部材について、励起磁束密度Bmを1kG(=0.1T)、測定周波数を100kHzとしたときの鉄損W1/100k(kW/m3)を測定した。
なお、鉄損は、周波数曲線を下記の3つの式で最小二乗法によりフィッティングして、ヒステリシス損失と渦電流損失とを算出し、ヒステリシス損失と渦電流損失との和として求めた。
(鉄損)=(ヒステリシス損失)+(渦電流損失)
(ヒステリシス損失)=(ヒステリシス損係数)×(周波数)
(渦電流損失)=(渦電流損係数)×(周波数)2
(鉄損)=(ヒステリシス損失)+(渦電流損失)
(ヒステリシス損失)=(ヒステリシス損係数)×(周波数)
(渦電流損失)=(渦電流損係数)×(周波数)2
(強度)
上述のようにして作製した各試料の焼成体(圧粉成形体)について、焼成体の強度を測定した。ここでは、JIS Z 2507(2000)に基づいて、リング状の焼成体に対して、その径方向に対向するように二つのプレートを配置し、これらのプレートで上記焼成体を挟持して、一方のプレートに荷重を加える。そして、上記焼結体が破壊するときの最大荷重を求め、この最大荷重(n=3の平均)を強度として評価した。その結果を表1に示す。
上述のようにして作製した各試料の焼成体(圧粉成形体)について、焼成体の強度を測定した。ここでは、JIS Z 2507(2000)に基づいて、リング状の焼成体に対して、その径方向に対向するように二つのプレートを配置し、これらのプレートで上記焼成体を挟持して、一方のプレートに荷重を加える。そして、上記焼結体が破壊するときの最大荷重を求め、この最大荷重(n=3の平均)を強度として評価した。その結果を表1に示す。
(密度)
上述のようにして作製した各試料の焼成体(圧粉成形体)について、密度を測定した。密度は、各焼結体の質量と、各焼結体の寸法(内径、外径、厚さ)から算出される体積とを利用して求めた寸法密度とした。その結果を表1に示す。
上述のようにして作製した各試料の焼成体(圧粉成形体)について、密度を測定した。密度は、各焼結体の質量と、各焼結体の寸法(内径、外径、厚さ)から算出される体積とを利用して求めた寸法密度とした。その結果を表1に示す。
表1に示すように、成形用材料として、材質の異なる複数の材料を含むものを用いた試料No.1の焼成体(圧粉成形体)と、単一の材料を用いた試料No.1Cの焼成体とを比較すると、試料No.1は、透磁率を実質的に低下させることなく、高い透磁率を有しながら、強度が向上していることが分かる。この理由は、試料No.1の焼成体は、複数の被覆粒子10に囲まれてつくられる三重点部分に保形剤20が介在することで、透磁率に影響せずに強度を向上できたためと考えられる。実際、試料No.1の焼成体の成分をX線回折、及びEDXによる元素検出によって調べたところ、被覆粒子10が存在しない個所にケイ酸カリウムが検出された。このケイ酸カリウムは、成形用材料の一部(第一の材料)に起因すると考えられる。そして、この成形用材料の一部(ここでは第一の材料のケイ酸カリウム)は、成形時に被覆粒子100間に留まらず、被覆粒子100がつくる三重点部分に移動することで、焼成後、被覆粒子10がつくる三重点部分に存在できたと考えられる。
加えて、試料No.1と試料No.1Cとは実質的に密度が同じであることが分かる。この理由は、試料No.1の焼成体は、保形剤20を有していながらも、保形剤20が三重点部分に存在することで、焼成体の主体となる軟磁性材料の含有割合の低下を抑制できたため(ここでは実質的に低下していないため)と考えらえる。
一方、成形用材料として単一の材料を用いたものの、厚い絶縁層12Bを具える試料No.1Bの焼成体は、保形剤20を具える試料No.1の焼成体(圧粉成形体)と同程度の強度を有するものの、透磁率が低いことが分かる。この理由は、図1(B)に示すように、隣り合う軟磁性粒子11間に厚い絶縁層12Bが介在して、軟磁性粒子11間の距離が試料No.1の焼成体よりも大きくなったため、と考えられる。逆に、試料No.1の焼成体は、強度の向上のために絶縁層12の厚さ(膜厚)を厚くしておらず、隣り合う軟磁性粒子11間に介在する絶縁層12が薄いことから、軟磁性粒子11間の距離が小さく、透磁率が高い。
更に、厚い絶縁層12Bを具える試料No.1Bは、試料No.1よりも、密度が小さくなっている。この理由は、絶縁層12Bが厚いことで、焼成体の主体となる軟磁性材料の含有割合が低下したためと考えらえる。また、厚い絶縁層12Bを具えることで試料No.1Bは、被覆粒子10B間に空隙が形成され易くなったことも一因と考えられる。なお、この試験では、試料No.1、No.1B,No.1Cのいずれも、鉄損は概ね同程度であった。
以上の試験例によって、材質が異なる複数の材料を含む成形用材料を用いる本発明の圧粉成形体の製造方法は、透磁率を低下させることなく高い透磁率を有しながら、絶縁層が薄くても、強度にも優れる圧粉成形体(焼成体)を得られることが示された。また、以上の試験例によって、三重点部分に保形剤が介在する本発明の圧粉成形体は、透磁率が高く、強度にも優れることが示された。
本発明は、上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、成形用材料の材質・配合割合、軟磁性粒子の組成・大きさ、絶縁層の材質・厚さなどを適宜変更することができる。また、絶縁層の材質と保形剤の材質とを異ならせることもできる。
本発明の圧粉成形体は、高周波チョークコイル、高周波同調用コイル、バーアンテナコイル、電源用チョークコイル、電源トランス、スイッチング電源用トランス、リアクトルなどの回路部品に具える磁心に好適に利用することができる。本発明の圧粉成形体の製造方法は、上記磁心に利用される圧粉成形体の製造に好適に利用することができる。
1,1B,1C 焼成体(圧粉成形体) 10,10B,100,100B 被覆粒子
11 軟磁性粒子 12,12B,120,120B 絶縁層 20 保形剤
200,210 成形用材料 300,300B,300C 粉末複合材 400,400B,400C 圧縮物
11 軟磁性粒子 12,12B,120,120B 絶縁層 20 保形剤
200,210 成形用材料 300,300B,300C 粉末複合材 400,400B,400C 圧縮物
Claims (6)
- ビッカース硬さHV0.1が300以上である軟磁性材料から構成された軟磁性粒子と、前記軟磁性粒子の表面を覆い、平均厚さが10nm以上150nm以下の絶縁層とを具える被覆付き軟磁性粉末を準備する準備工程と、
前記被覆付き軟磁性粉末と成形用材料とを含む粉末複合材を準備する複合工程と、
前記粉末複合材を加圧・圧縮して、圧縮物を成形する成形工程と、
前記圧縮物に熱処理を施して、圧粉成形体を得る焼成工程とを具え、
前記成形用材料は、第一の材料と、第二の材料とを含み、
前記第一の材料は、前記熱処理後に前記圧粉成形体中に介在して前記圧粉成形体の保形剤となる材料を含み、
前記第二の材料は、前記圧縮物中に存在して前記圧縮物を保形する材料を含む圧粉成形体の製造方法。 - 前記第一の材料は、前記絶縁層の構成材料と同じ材料を含み、
前記絶縁層の構成材料は、ケイ酸カリウムを含む請求項1に記載の圧粉成形体の製造方法。 - 前記第二の材料は、アクリル樹脂及びポリビニルアルコールの少なくとも一方の樹脂を含む請求項1又は2に記載の圧粉成形体の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧粉成形体の製造方法により得られた圧粉成形体。
- 軟磁性粒子の表面が絶縁層で覆われた複数の被覆粒子が集合してなる圧粉成形体であって、
前記軟磁性粒子は、ビッカース硬さHV0.1が300以上である軟磁性材料から構成され、
前記絶縁層の平均厚さが10nm以上150nm以下であり、
複数の前記被覆粒子に囲まれてつくられる三重点部分に、前記絶縁層とは独立した保形剤が介在する圧粉成形体。 - 前記保形剤の構成材料は、前記絶縁層の構成材料と同じ無機物、又は異なる無機物である請求項4又は5に記載の圧粉成形体。
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