JP2014117401A - 収差測定装置およびその方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 所定の多項式を微分する手法を用いてシャック・ハルトマンセンサー等の収差測定手段により収差を測定する際に、計算速度を速くすること。
【解決手段】 測定光を照射した被検査物からの戻り光の収差を測定する収差測定装置は、前記戻り光を複数の光に分割する分割手段と、前記複数の光それぞれが照射した領域の位置を検出する検出手段と、前記戻り光が前記分割手段に照射した照射領域に対応する計測領域毎に、所定の多項式を微分した式の各項の値を対応付けて記憶する記憶手段と、前記検出された位置における領域に基づいて、前記計測領域を決定する決定手段と、前記検出された位置に基づいて、前記計測領域における前記複数の光それぞれの波面の傾きを取得する取得手段と、を有し、前記決定された計測領域と前記取得された傾きと前記記憶された情報とに基づいて、前記収差が測定される。
【選択図】 図4

Description

本発明は、測定光を照射した被検査物からの戻り光の収差を測定する収差測定装置およびその方法に関する。
眼底を高倍率に撮影する機器として、補償光学(Adaptive Optics、AO)を備えた走査型レーザー検眼鏡(Scanning Laser Ophthalmoscope、SLO)がある。一般に人の眼の光学要素(角膜、水晶体など)は収差を有しており、かつ涙の分泌状態の変化などによって収差が時間的に変動することが知られている。収差を波面センサーで計測し、実時間でその収差を補正するように波面補正デバイスを動作させるのがAOである。AOにおいて、光波面の収差計測及び収差補正が重要な要素である。
AOSLOの収差計測では、干渉を利用する方法に比べ外乱への耐性を有しているシャック・ハルトマンセンサーが広く利用されている。シャック・ハルトマンセンサーは、光波面を細かく分割する2次元のレンズアレイと、そのレンズアレイのレンズの焦点面におかれたCCDカメラなど2次元撮像素子からなる装置である。2次元レンズアレイにより分割された光波面は、個々のレンズによりCCDカメラ上に焦点を結ぶ。もとの光波面が理想的な平面波で、シャック・ハルトマンセンサーに直入射している場合、焦点は対応するレンズの背後中央のCCD面上に来る。もし光波面が収差により局所的な傾きを持つ場合、分割された光の焦点の位置はもはや中央ではなく、その位置からずれる。収差のない理想的な波面での焦点位置と、収差を有した波面が結ぶ焦点位置とを比較することで、光波面の局所的な傾きを測定することができ、傾きの情報から光波面を計算することが可能である。
AOに用いられる波面補正デバイスは、形状可変鏡と液晶型空間位相変調素子に大別される。液晶型空間位相変調素子は、分解能、コスト、サイズにおいて利点があり、かつ独立した画素単位で制御することができるため、扱いやすさの点でも優れている。また、位相折り畳みを採用することで、ストロークの大きな位相変調をかけることが可能である。
ここで、シャック・ハルトマンセンサーおよび空間光位相変調装置を用いた波面補償について、特許文献1に開示されている。この文献では、シャック・ハルトマンセンサーにおける各スポット信号の重心の演算を行った結果を用いて多項式にフィッティングを行い、さらに、平滑な波面になるように補間を行い、空間光位相変調装置の制御量を決定している。このとき、空間光位相変調装置の制御領域の大きさを、光がシャック・ハルトマンセンサーに照射される照射領域の大きさよりも大きく設定することにより、照射領域の位置や大きさの変動に対応している。この場合、光がシャック・ハルトマンセンサーに照射されていない領域も計算することになるため、計算に不要な時間がかかる。
ここで、シャック・ハルトマンセンサーにおける各スポット信号は、光波面の局所的な傾きを表し、すなわち光波面の局所的な微分を表している。このとき、シャック・ハルトマンセンサーにおける各スポット信号から光波面を計算する手法として、光波面の局所的な傾きを積分する手法がある。この手法は、シャック・ハルトマンセンサーにより測定した後に計算する必要がある。一方、別の手法として、シャック・ハルトマンセンサーにおける収差を計測する計測領域を予め一つ設定し、その計測領域内において考えられる光波面それぞれを表す所定の多項式を微分する手法がある。なお、シャック・ハルトマンセンサーにより測定する前に、被検眼からの戻り光がシャック・ハルトマンセンサーに照射した照射領域から計測領域を一つ設定することが一般的である。微分する手法は、測定する前に、計測領域を一つに設定して微分しておくことで、上述した積分する手法に比べて計算速度を速くすることができるため、一般的に用いられている。なお、特許文献1の場合、上述したように、光がシャック・ハルトマンセンサーに照射される照射領域の大きさよりも大きい計測領域を一つ設定している。
ところで、人の眼は、固視微動があるため、AOSLOによる眼底撮影時にも動く。このため、シャック・ハルトマンセンサーに照射される光の照射領域も、シャック・ハルトマンセンサーに対して動く。また、まつ毛が長く瞳孔の一部を覆う場合や、眼に白内障などの疾患がある場合に、シャック・ハルトマンセンサー上の光波面内に遮蔽された領域が生じることがある。
特許第4531431号
ここで、一般的に、人の眼の光学要素(角膜、水晶体など)は収差を有しており、かつ涙の分泌状態の変化によって収差が時間的に変動することが知られている。このため、AOSLOでは、収差の時間的な変動を実時間で計測するため、シャック・ハルトマンセンサーを高速に動作することが望まれる。
このとき、上述した微分する手法を用いる場合に、更に計算速度を速くすることを考えると、人の眼の動き等の状態に合わせて計測領域の位置や大きさを変更し、計算の度に計測領域を最適化して計算量を可能な限り減らすことが考えられる。ただし、計測領域の位置や大きさが変わる度に上述した所定の多項式を微分し直してしまうと、測定後に計算することになり、上述した積分する手法と同様の計算速度になってしまう可能性がある。
そこで、本発明の目的は、所定の多項式を微分する手法を用いてシャック・ハルトマンセンサー等の収差測定手段により収差を測定する際に、収差測定手段における計測領域の位置及び大きさを、被検眼からの戻り光がシャック・ハルトマンセンサーに照射した照射領域の大きさ及び位置に対応するように変更して、計算速度を速くすることである。
本発明に係る収差測定装置は、
測定光を照射した被検査物からの戻り光の収差を測定する収差測定装置であって、
前記戻り光を複数の光に分割する分割手段と、
前記複数の光それぞれが照射した領域の位置を検出する検出手段と、
前記戻り光が前記分割手段に照射した照射領域に対応する計測領域毎に、所定の多項式を微分した式の各項の値を対応付けて記憶する記憶手段と、
前記検出された位置における領域に基づいて、前記計測領域を決定する決定手段と、
前記検出された位置に基づいて、前記計測領域における前記複数の光それぞれの波面の傾きを取得する取得手段と、を有し、
前記決定された計測領域と前記取得された傾きと前記記憶された情報とに基づいて、前記収差が測定されることを特徴とする。
本発明によれば、シャック・ハルトマンセンサー等の収差測定手段における計測領域毎に、所定の多項式を微分した式の各項の値を対応付けて記憶し、この記憶した情報と決定された計測領域と取得された波面の傾きとから、収差を測定することができる。これにより、所定の多項式を微分する手法を用いて収差測定手段により収差を測定する際に、収差測定手段における計測領域の位置及び大きさを、被検眼からの戻り光がシャック・ハルトマンセンサーに照射した照射領域の大きさ及び位置に対応するように変更して、計算速度を速くすることができる。
本発明の実施例における補償光学系を備えたSLOによる眼底撮像装置の構成例の模式図。 シャック・ハルトマンセンサーの構成を示す模式図。 シャック・ハルトマンセンサーの信号の一例を示す模式図。 シャック・ハルトマンセンサーのレンズアレイ上での瞳と定義円を示す模式図。 本発明の実施例1における眼底撮像装置の動作順序を示すフローチャート。 本発明の実施例2における眼底撮像装置の動作順序を示すフローチャート。
本発明を実施するための形態によれば、シャック・ハルトマンセンサー等の収差測定手段における計測領域毎に、所定の多項式を微分した式の各項の値を対応付けて記憶し、この記憶した情報と決定された計測領域と取得された波面の傾きとから、収差を測定することができる。これにより、所定の多項式を微分する手法を用いて収差測定手段により収差を測定する際に、収差測定手段における計測領域の位置及び大きさを、被検眼からの戻り光がシャック・ハルトマンセンサーに照射した照射領域の大きさ及び位置に対応するように変更して、計算速度を速くすることができる。
なお、計測領域は、収差測定手段における収差を測定する領域のことであり、以下、定義円等とも言う。また、計測領域は、円でも良いし、任意の多角形でも良い。また、所定の多項式は、例えば、ゼルニケ多項式のことであるが、光波面を表すことができる式であれば何でも良い。
また、所定の多項式を微分した式の各項の値とは、例えば、所定の多項式を微分した式の各項における係数が1のときの値のことである。このとき、決定された計測領域における所定の多項式を微分した式の各項の値と取得された波面の傾きとに基づいて、所定の多項式の各項の係数を取得する係数取得手段を有することが好ましい。これにより、所定の多項式と取得された係数とに基づいて、波面の形状を取得することができるため、収差を測定することができる。なお、所定の多項式を微分した式の各項の値は、計測領域の大きさ毎や位置毎に異なりまた、シャック・ハルトマンセンサーにおける光を分割する複数のレンズのうち計測領域に対応するレンズの個数毎にも異なる。
ここで、微分する手法を用いる場合、光波面の局所的な傾きを用いて、例えば、所定の多項式を微分した式の各項における係数が1のときの値を要素とする2次元行列を解く必要がある。このとき、上述した2次元行列は、シャック・ハルトマンセンサーのレンズアレイのレンズ個数と、光波面を近似するための基底関数の個数との積で決まる要素数を持つ。AOSLOの場合、レンズ個数と基底関数の個数の典型的な数は、それぞれ1000個と40個である。
このとき、計測領域の位置や大きさが変わる度に、1000×40個程度の2次元行列の各要素を計算し直すと、上述した積分する手法と同様の計算速度になってしまう可能性がある。そこで、本実施形態は、収差測定の前には、計測領域毎に2次元行列を計算しておき、収差測定時において計算し直す必要がないようにすることで、計算速度を速くするものである。
また、従来、計測領域のうち光が照射されていない不要な領域でも計算され、その計算結果が収差測定に用いられていたが、この場合に比べて収差測定精度が向上する。
次に、本発明を実施するための形態を、以下の実施例により説明する。但し、本発明は以下の実施例の構成によって何ら限定されるものではない。
[実施例1]
本発明を適用した眼底撮像装置の構成について図1を用いて説明する。なお、本実施例においては、測定対象である被検査物を眼とし、眼で発生する収差をAOで補正し、眼底を撮像する。
図1において、101は光源であり、波長840nmのSLD光源(Super Luminescent Diode)を用いた。光源101の波長は特に制限されるものではないが、眼底撮像用としては被検者の眩しさの軽減と分解能維持のために、800〜1500nm程度が好適に用いられる。本実施例においてはSLD光源を用いたが、その他にレーザー等も用いられる。本実施例では眼底撮像と波面測定のための光源を共用しているが、それぞれを別光源とし、光路の途中で合波する構成としても良い。
光源101から照射された光は、単一モード光ファイバー102を通って、コリメータ103により、平行光(測定光105)として照射される。
照射された測定光105はビームスプリッターからなる光分割部104を透過し、AOに導光される。AOは、光分割部106、シャック・ハルトマンセンサー115、波面補正デバイス108および、それらに導光するための反射ミラー107−1〜4から構成される。
ここで、反射ミラー107−1〜4は、少なくとも眼111の瞳と波面センサー115、波面補正デバイス108とが光学的に共役関係になるように設置されている。また、光分割部106として、本実施例ではビームスプリッターを用いた。
光分割部106を透過した測定光105は、反射ミラー107−1と107−2で反射されて波面補正デバイス108に入射する。波面補正デバイス108で反射された測定光105は、反射ミラー107−3に出射される。
本実施例では、波面補正デバイス108として液晶空間位相変調器を用いた。波面補正デバイス108の他の例としては、形状可変ミラーがある。形状可変ミラーとは、局所的に光の反射方向を変えることができるものであり、様々な方式のものが実用化されている。
図1において、反射ミラー107−3、4で反射された光は、走査光学系109によって、1次元もしくは2次元に走査される。本実施例では走査光学系109に主走査用(眼底水平方向)と副走査用(眼底垂直方向)として2つのガルバノスキャナーを用いた。より高速な撮像のために、走査光学系109の主走査用に共振スキャナーを用いることもある。走査光学系109内の各スキャナーを光学的に共役な位置に配置するために、各スキャナーの間にミラーやレンズといった光学素子を用いる装置構成の場合もある。
走査光学系109で走査された測定光105は、接眼レンズ110−1および110−2を通して眼111に照射される。眼111に照射された測定光は眼底で反射もしくは散乱される。接眼レンズ110−1および110−2の位置を調整することによって、眼111の視度にあわせて最適な照射を行うことが可能となる。ここでは、接眼部にレンズを用いたが、球面ミラー等で構成しても良い。
眼111の網膜から反射もしくは散乱された反射光は、入射した時の経路を逆向きに進行し、光分割部106によって反射され、一部はシャック・ハルトマンセンサー115に入射する。
図2にシャック・ハルトマンセンサーの模式図を示す。光波面131が測定対象である。受光センサーとしてCCDセンサー133を使用している。図2(a)において、マイクロレンズアレイは、CCDセンサー133に対して、マイクロレンズ135の焦点距離に概略一致するような距離離した位置に設置されている。
図2(a)におけるA−A’で示す位置から見た様子を図2(b)に示す。図2(b)は、マイクロレンズアレイ132が、複数のマイクロレンズ135から構成されている様子を示したものである。図2(c)は図2(a)の一部を拡大した様子を示している。マイクロレンズアレイ132により波面を分割され、それぞれの微小波面136はCCDセンサー133上の焦点面134に集光される。
シャック・ハルトマンセンサー115の信号は、図3に示すように、複数のマイクロレンズ135それぞれからの集光点142が2次元に配列したものとなる。光波面131に収差が存在しない場合、集光点142はそれぞれに対応するマイクロレンズ135の背後中央に来る。この位置を参照位置としてAO制御部116の記憶領域に記憶する。光波面131に収差が存在する場合、集光点142はそれぞれに対応するマイクロレンズ135の背後中央からずれた位置に来る。この位置と参照位置との差を、すべての集光点142について計算する。この値がマイクロレンズ135で分割された微小波面136の傾きを表している。マイクロレンズ135の各レンズに対応する領域毎に、参照位置からのずれを計算することで、微小波面の傾きを計測することができる。
なお、シャック・ハルトマンセンサーは、収差測定手段の一例であり、測定光を照射した被検査物からの戻り光を複数の光に分割する分割手段と、複数の光が照射した領域の位置及び大きさを検出する検出手段とにより構成されるものであれば何でも良い。ここで、分割手段は、レンズアレイ等の複数の光学素子から成る光学部材以外にも、例えば、複数の孔の開いたマスク等でも良い。また、分割手段は、空間分割する部材以外にも、単一のマスク(あるいは単一のレンズ)を検出手段の大きさに対応する範囲で2次元的に移動することにより、時間分割する手段でも良い。
ここで、光波面の収差を計測する代表的な方法として、光波面を分割して個々の微小波面の傾きを計測するシャック・ハルトマンセンサーを用いた手法以外にも、フィゾー干渉計等のように光の干渉性を用いた手法が挙げられる。光の干渉性を利用する方法では、測定対象となる物体に照射され透過あるいは反射した測定光と、理想的な波面を持つ参照光とを同軸の光路で伝搬させ、干渉により生じる干渉縞をCCDカメラなどの2次元記録媒体に記録したのち、干渉縞を解析することで光波面の収差を計算する。この方法では、光学系や干渉縞の解析方法を工夫することで、高精度な光波面の収差計測を実現することができる。また、光波面を細かく分割することがないため、高い空間分解能を有する。これらの特長を有する一方、空気の揺らぎ、音響、振動など外乱の影響により測定精度が制限されやすく、外乱の生じやすい環境では必ずしも良い選択肢ではない。シャック・ハルトマンセンサーを用いた手法では、干渉性を利用しないため外乱の影響が少なく、振動や音響など雑音が存在する環境でも使用に堪えうるというメリットがある。
(所定の多項式を微分した式の係数を導出)
測定された微小波面136の傾きに対して、所定の多項式の一例である基底関数を用いてフィッティングを行い、元の光波面131の収差を表すのに最適な基底関数の係数群を求める。測定された微小波面136の傾きは元の光波面131の収差の1次微分であるため、ある基底関数の係数群を求める場合には、微小波面136の傾きに対して、該基底関数の1次微分を用いてフィッティングを行うのが好ましい。
本実施例では、マイクロレンズ135で分割された微小波面136の傾きの値を用いて元の光波面131の収差を計算するための基底関数として、眼科領域で広く用いられているゼルニケ多項式をx方向、y方向に沿って1次微分したもの(以下、ゼルニケ微分式と呼ぶ)を用いる。なお、用いられる基底関数はゼルニケ多項式に限らず、他の関数群を用いてもよい。例えば、ザイデル収差を表す単項式(ゼルニケ多項式のうち、コマ収差や球面収差などの多項式から最高次の項を取り出したものに相当)でも良い。また、ゼルニケ多項式をx方向、y方向に沿って1次微分したものではなく、他の任意の直交する2方向で微分したものを用いてもよい。
定義円は半径1に規格化される。定義円内において、単位入力に対するゼルニケ微分式の値を、マイクロレンズ135それぞれの位置で求める。単位入力とは、ゼルニケ微分式の係数の大きさを1とすることである。ゼルニケ微分式の値は、元の光波面131の収差を表すために用いる項について計算する。
マイクロレンズ135それぞれの位置で、単位入力に対するゼルニケ微分式の値を求めたものを並べ、2次元行列を作る。この2次元行列をAと表す。前記マイクロレンズ135で分割された微小波面136の傾きを、2次元行列Aの各要素に対応するように並べたベクトルを傾きベクトルDと表す。また、元の光波面131の収差を表すゼルニケ多項式の係数群の要素を、2次元行列Aの各要素に対応するように並べたベクトルをZ
と表すと、次式の関係が成り立つ
D=AZ ・・・式(1)
ベクトルZが、元の光波面131の収差を表すために求めるべきゼルニケ多項式の係数群の要素からなるベクトルである。
(式1)をベクトルZについて解くためには、2次元行列Aに対し、左から作用させることで単位行列Iになる行列をかければよい。このような行列は逆行列と呼ばれる。しかし、本実施例における2次元行列Aは、行数m、列数nとすると、m>nであり、正方行列(m=n)を前提とした逆行列は存在しない。そこで、非正方行列である2次元行列Aに対し、左から作用させることで単位行列となる一般化された逆行列である擬似逆行列A+を計算する。疑似逆行列の計算には、特異値分解が用いられる。(式1)に対し、擬似逆行列A+を左から作用させ、擬似逆行列の性質A+A=Iを用いることで、ゼルニケ多項式の係数群のベクトルZは次のように求められる。
Z=A+D ・・・式(2)
シャック・ハルトマンセンサー115はAO制御部116に接続され、受光した信号をAO制御部116に伝える。波面補正デバイス108もAO制御部116に接続されており、AO制御部116から指示された変調を行う。AO制御部116はシャック・ハルトマンセンサー115の測定結果により取得された波面をもとに、収差のない波面へと補正するような位相変調量を計算し、波面補正デバイス108にそのように変調するように指令する。波面の測定と波面補正デバイスへの指示は繰り返し処理され、常に最適な波面となるようにフィードバック制御が行われる。
ここで、AOSLOを用いて人眼を撮影する場合、視線や体の動き、縮瞳やまつ毛による光の遮蔽部位などの状況に応じて人眼の瞳の位置や見かけの大きさが時間的に変動する。AOにより人眼の収差を精度よく補正するには、人眼の瞳の位置や大きさの変動に伴ってシャック・ハルトマンセンサー115のマイクロレンズアレイ132上の定義円を最適な位置と大きさに設定しなおす必要がある。
本実施例では、前記手続きのうちシャック・ハルトマンセンサー115による収差計測において、瞳152の位置や径を動的に変化させ、かつ高速な動作を実現するために、以下の方法を行う。
図4(a)がシャック・ハルトマンセンサー115のマイクロレンズアレイ135上における人眼の瞳152の位置を模式的に示したものである。定義円153は瞳152内に定義され、定義円153に含まれるマイクロレンズ157の位置においてゼルニケ微分式の値による2次元行列Aが計算される。本実施例において、マイクロレンズ135が定義円に含まれるとみなす基準は、マイクロレンズ135により集光される集光点142が十分な信号強度を持つことである。
人眼の動きに伴い、図4(b)のように瞳152の大きさは変化せず、瞳152の位置が変化した状況を考える。図4(b)において、瞳152の位置の変化に伴い、定義円153の位置が変化する。このとき、瞳152の変動に伴い定義円153から外れたマイクロレンズ158は式1における2次元行列Aの計算対象外となり、瞳152の変動に伴い定義円153内に加わったマイクロレンズ159は式1における2次元行列Aの計算対象となる。
シャック・ハルトマンセンサーのマイクロレンズアレイは一般に対称性良く作製され、例えば図2におけるマイクロレンズアレイ132は2次元格子状に配置される。他に好適に用いられるマイクロレンズアレイの配置形状としては、正六角形のマイクロレンズを最密に配置したものでも良いし、任意の形状のマイクロレンズを、対称性を持たせて配置させてもよい。
図4(c)および図4(d)が、まつ毛などの遮蔽物154により定義円153の大きさが制限されている例を模式的に示したものである。図4(c)において、遮蔽物154は瞳152から外れた位置にあるため、図4(a)と同様に瞳152に対して大きな割合を占めるように定義円153を定義することができる。一方、図4(d)において、遮蔽物154は瞳152の一部を覆い隠している。遮蔽されている領域では正しく微小波面136の傾きが測定できないため、遮蔽されている領域を避けるように定義円153を定義する必要がある。まつ毛などの遮蔽物154が瞳152に対して動いた場合、定義円153は遮蔽物154による光波面131の遮蔽部位を避けるように実時間で定義しなおす必要がある。
大規模な2次元行列Aに対する擬似逆行列A+の計算は反復計算が必要になることもあり、実行速度低下の要因となる。実時間で計算する必要性を回避するため、シャック・ハルトマンセンサーの2つの性質を利用する。
まず第1に、マイクロレンズアレイ132が2次元格子状の場合、併進対称性のため、図4に示されるx方向またはy方向に沿って定義円153をマイクロレンズ135の大きさ1個分移動すると、定義円153の中に含まれるマイクロレンズ135の数は同じになる。ここで、定義円153に含まれているかどうかの基準は、マイクロレンズ135全体が定義円153に含まれていることとする。同様に、定義円153をマイクロレンズ135の大きさの整数倍の距離x方向またはy方向に沿って移動しても、定義円153の中に一部でも含まれるマイクロレンズの数は同じになる。2次元格子以外のマイクロレンズアレイ132の配置形状でも同様に併進対称性を考えることが可能である。
第2に、定義円153の半径を連続的に大きくすると、定義円153に含まれるマイクロレンズ135の個数は離散的に増加する。ここで、定義円153に含まれているかどうかの基準は、マイクロレンズ135全体が定義円153に含まれていることとする。
先述の併進対称性、および定義円153に含まれるマイクロレンズ135の個数の離散的な変化により、定義円153内のマイクロレンズ135それぞれの位置での基底関数の値からなる2次元行列Aは取りうる値の組み合わせが無限ではなく、制約があることが分かる。
そこで、本実施例では、定義円153内のマイクロレンズ135それぞれの位置での基底関数の値からなる2次元行列Aを様々な条件のもとで有限の個数あらかじめ計算し、それぞれの2次元行列に対して擬似逆行列A+を計算し、その結果得られる擬似逆行列A+をAO制御部116の記憶領域に記憶し、人眼の瞳の位置や見かけの大きさの変動に対して、最適な擬似逆行列A+を選択し、擬似逆行列と光波面131の微小波面136の傾きを用いて計算を行う。
図5を用いて、前記のとおり、あらかじめ計算した擬似逆行列A+により光波面131の収差を測定する手順を説明する。
ステップS101で制御を開始する。まず、ステップS102で、光波面131の収差を計算するのに必要な十分な数の擬似逆行列が得られているかどうかを判断する。定義円153の大きさと位置に関してあらゆる条件を網羅するように擬似逆行列A+が得られているかを判断の基準とするのが望ましい。光波面131の収差を計算するのに必要な十分な数の擬似逆行列A+が得られていなければ、ステップS103で、定義円153の大きさと位置を決定し、ステップS104で、定義円153内のマイクロレンズ135それぞれの位置での基底関数の値からなる2次元行列を求め、ステップS105で、該2次元行列の擬似逆行列を計算する。得られた擬似逆行列A+をAO制御部116の記憶領域に記憶し、ステップS102に移動する。ステップS102で、光波面131の収差を計算するのに必要な十分な数の擬似逆行列が得られている場合、ステップS107に移動する。ステップS107において、シャック・ハルトマンセンサーの信号141を取得する。次に、ステップS108で、シャック・ハルトマンセンサーの信号141の強度分布の測定を行う。
次に、ステップS109で得られたシャック・ハルトマンセンサーの信号141の強度分布から、光波面131の収差を計算するのに最も適した擬似逆行列A+を選択する。擬似逆行列A+を選択する基準として、瞳152内で信号強度がしきい値よりも低い集光点143を含まない最大の定義円153となるようにするのが望ましい。
次に、ステップS110で、シャック・ハルトマンセンサーの信号141から微小波面136の傾きの計算および傾きベクトルDの生成を行う。ステップS111で、式2で表される傾きベクトルDと擬似逆行列A+の演算を行い、ゼルニケ多項式の係数群のベクトル
Zを求める。
ステップS112で、ゼルニケ多項式の係数群のベクトルZで表される収差量と基準1を比較し、ステップS112の条件を満たされなければ、ステップS113に移動する。ステップS113において、ゼルニケ多項式の係数群のベクトルZで表される収差量から光波面131の収差を補正する量を計算し、ステップS114において光波面131の収差を補正するように波面補正デバイス108を駆動する。ステップS107に移動し、ステップS112の条件が満たされるまで、ステップS107からステップS114が繰り返される。
ステップS112で、ゼルニケ多項式の係数群のベクトルZで表される収差量と基準1を比較し、ステップS112の条件を満たされた場合、ステップS115に移動し、眼底撮影を行う。ステップS116で、撮影を終了するかどうかの判断を行い、終了する場合にはステップS117に移動し、終了しない場合にはステップS107に移動する。
なお、本実施例では、ステップS101で制御を開始したのち、擬似逆行列A+の計算を行い、AO制御部116の記憶領域に記憶したが、ステップS101で制御を開始する前に擬似逆行列の計算を行い、別の記憶装置に記憶しておいたものを、AO制御部116の記憶領域に読み込むようにしてもよい。
このように本実施例によれば、人眼の瞳の位置や見かけの大きさの変動が生じるごとに大規模な行列計算を行う必要がなくなり、実行速度を損なうことなくシャック・ハルトマンセンサー131の定義円153の位置や大きさを変更することが可能となる。
[実施例2]
実施例2として、図6のフローチャートを用いて、本発明を適用した実施例1とは異なる形態の眼底撮像装置の制御方法の例について説明する。本実施例において、基本的な装置構成は実施例1と同様である。
本実施例は、基底関数の計算に必要な擬似逆行列A+を必要に応じて計算し、記憶領域に記憶することを特徴とする。
ステップS101で制御を開始する。まず、ステップS202で、光波面131の収差を計算するのに必要な十分な数の擬似逆行列A+が得られているかどうかを判断する。実施例1とは異なり、定義円153の大きさと位置に関してあらゆる条件を網羅するように擬似逆行列A+が得られているかを判断の基準とはしない。好適な判断の基準の例として、定義円153の大きさと位置がとりうると予測される範囲において、擬似逆行列A+が網羅されるようにすればよい。例えば、人の眼の収差測定であれば、定義円153の大きさについて、2ミリメートルから7ミリメートルの間の値に限定するのが好ましい。
ステップS103からステップS108までは図5と同様であり、説明を省略する。
ステップS218において、シャック・ハルトマンセンサーの信号141に適した擬似逆行列A+が、AO制御部116の記憶領域に記憶されたすでにある擬似逆行列A+から選択できるかどうかを判断する。擬似逆行列A+を選択する基準として、瞳152内で信号強度がしきい値よりも低い集光点143を含まない最大の定義円153となるようにするのが望ましい。AO制御部116の記憶領域に記憶されたすでにある擬似逆行列A+から選択できなければ、ステップS219で、定義円153内のマイクロレンズ135それぞれの位置での基底関数の値からなる2次元行列Aを求め、ステップS220で、該2次元行列の擬似逆行列を計算し、ステップS221で、該擬似逆行列をAO制御部116の記憶領域に記憶する。
ステップS218において、シャック・ハルトマンセンサーの信号141に適した擬似逆行列A+が、AO制御部116の記憶領域に記憶されたすでにある擬似逆行列A+から選択できるか、またはステップS221を終了したのち、ステップS109に移る。
ステップS109からステップS117までは、図5と同様であるため、説明を省略する。
本実施例によれば、制御開始直後のステップS202からS106までの繰り返し計算において、あらかじめ計算され、AO制御部116の記憶領域に記憶される擬似逆行列A+の定義円153の位置または半径から除外された条件が、S218の判断で判明した時、定義円153を定義しなおし、定義円153内のマイクロレンズ135それぞれの位置での基底関数の値からなる2次元行列Aを計算し、擬似逆行列A+を計算し、AO制御部116の記憶領域に記憶する。それ以降、該当する条件が発生した時には、すでにAO制御部116に記憶された擬似逆行列A+を用いることができる。
このように本実施例によれば、擬似逆行列A+をあらかじめ計算を行い記憶領域に記憶するか、まだ計算していない定義円153の条件が発生した時に計算を行い記憶領域に記憶することで、人眼の瞳の位置や見かけの大きさの変動が生じた際、大規模な2次元行列Aの計算を繰り返し行う必要がなくなり、実行速度を損なうことなくシャック・ハルトマンセンサー131の定義円153の位置や大きさを変更し、人眼の瞳の位置や見かけの大きさに対して最適な定義円153で光波面131の収差を計測することが可能となる。
(その他の実施例)
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

Claims (9)

  1. 測定光を照射した被検査物からの戻り光の収差を測定する収差測定装置であって、
    前記戻り光を複数の光に分割する分割手段と、
    前記複数の光それぞれが照射した領域の位置を検出する検出手段と、
    前記戻り光が前記分割手段に照射した照射領域に対応する計測領域毎に、所定の多項式を微分した式の各項の値を対応付けて記憶する記憶手段と、
    前記検出された位置における領域に基づいて、前記計測領域を決定する決定手段と、
    前記検出された位置に基づいて、前記計測領域における前記複数の光それぞれの波面の傾きを取得する取得手段と、を有し、
    前記決定された計測領域と前記取得された傾きと前記記憶された情報とに基づいて、前記収差が測定されることを特徴とする収差測定装置。
  2. 前記決定された計測領域における前記所定の多項式を微分した式の各項の値と前記取得された傾きとに基づいて、前記所定の多項式の各項の係数を取得する係数取得手段を有し、
    前記所定の多項式と前記取得された係数とに基づいて、前記波面の形状が取得されることにより、前記収差が測定されることを特徴とする請求項1に記載の収差測定装置。
  3. 前記所定の多項式を微分した式の各項の値は、前記計測領域の大きさ毎に異なることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の収差測定装置。
  4. 前記所定の多項式を微分した式の各項の値は、前記検出手段における前記計測領域の位置毎に異なることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の収差測定装置。
  5. 前記分割手段が、複数のレンズから成るレンズアレイであり、
    前記所定の多項式を微分した式の各項の値は、前記計測領域における前記複数のレンズの個数毎に異なることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の収差測定装置。
  6. 前記検出手段が、前記レンズアレイそれぞれにより照射された光を受光するCCDセンサーであり、
    シャック・ハルトマンセンサーであることを特徴とする請求項5に記載の収差測定装置。
  7. 前記記憶手段は、前記計測領域毎に前記所定の多項式を微分した式の各項の値を各要素とする2次元行列を記憶し、
    前記決定された計測領域と前記取得された傾きと前記記憶された2次元行列とに基づいて、前記収差が測定されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の収差測定装置。
  8. 測定光を照射した被検査物からの戻り光の収差を測定する収差測定装置の制御方法であって、
    前記戻り光を分割した複数の光それぞれが照射した領域の位置を検出する工程と、
    前記検出された位置における領域に基づいて、前記計測領域を決定する工程と、
    前記検出された位置に基づいて、前記計測領域における前記複数の光それぞれの波面の傾きを取得する工程と、を有し、
    前記戻り光が前記分割手段に照射した照射領域に対応する計測領域毎に所定の多項式を微分した式の各項の値を対応付けて記憶された情報と、前記決定された計測領域と、前記取得された傾きとに基づいて、前記収差が測定されることを特徴とする収差測定装置の制御方法。
  9. 請求項8に記載の収差測定装置の制御方法の各工程をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
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