以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、自動車用の多気筒(例えば直列4気筒)ガソリンエンジンに本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンのオイル供給系統−
図1は、本実施形態に係るエンジン(内燃機関)1のオイル供給系統の概略構成を示す図である。この図1に示すように、エンジン1は、エンジン本体を構成するシリンダヘッド11およびシリンダブロック12と、このシリンダブロック12の下端部に取り付けられたオイルパン13と、エンジン1の内部潤滑や内部冷却等のためのエンジンオイル(以下、単に「オイル」という場合もある)をエンジン1内で循環させるオイル供給系統2とを備えている。
前記エンジン1の内部には、ピストン14、クランクシャフト15、カムシャフト16等の複数の被潤滑部材や被冷却部材が収容されている。
前記シリンダブロック12には、4つのシリンダが形成されている。これらシリンダは、気筒配列方向(図中左右方向)に亘って配置されており、その内部に前記ピストン14が図中上下方向に往復移動可能に収容されている。
オイル供給系統2は、オイルパン13に貯留されているオイルが、このオイルパン13から吸い出されて前記各被潤滑部材や被冷却部材へ供給され、これら被潤滑部材や被冷却部材からオイルパン13内に還流し得るように構成されている。
オイルパン13内の底部近傍には、このオイルパン13の内部に貯留されているオイルを吸い込むための吸込口31aを有するオイルストレーナ31が配置されている。このオイルストレーナ31は、シリンダブロック12に設けられたオイルポンプ32に対し、ストレーナ流路31bを介して接続されている。
上記オイルポンプ32は、周知のロータリポンプから構成されており、そのロータ32aは、クランクシャフト15と共に回転するように、このクランクシャフト15と機械的に結合されている。このオイルポンプ32は、シリンダブロック12の外部に設けられたオイルフィルタ33のオイル入口に対し、オイル輸送路34を介して接続されている。また、オイルフィルタ33のオイル出口は、被潤滑部材や被冷却部材に向かうオイル流路として設けられたオイル供給路35と接続されている。なお、オイルポンプ32としては電動オイルポンプであってもよい。
前記オイル供給路35を経てオイルが供給されるオイル供給系統2の具体構成について以下に説明する。
このオイル供給系統2は、オイルパン13からオイルストレーナ31を介して汲み上げたオイルを、オイルポンプ32によって各被潤滑部材に供給して潤滑油として利用したり、ピストン14等の被冷却部材に供給して冷却油として利用したり、油圧作動機器に供給して作動油として利用したりするようになっている。
具体的に、オイルポンプ32から圧送されたオイルは、オイルフィルタ33を経た後、気筒列方向に沿って延びるメインオイルホール(メインギャラリ;メインオイル通路)21に送り出される。このメインオイルホール21の一端側および他端側には、シリンダブロック12からシリンダヘッド11に亘って上方に延びるオイル通路22,23が連通されている。
メインオイルホール21の一端側(図1における左側)に連通されているオイル通路22は、さらに、チェーンテンショナ側通路24と、VVT(Variable Valve Timing)側通路25とに分岐されている。
チェーンテンショナ側通路24に供給されたオイルは、タイミングチェーンの張力を調整するためのチェーンテンショナ41の作動油として利用される。一方、VVT側通路25に供給されたオイルは、OCV(Oil Control Valve)用オイルフィルタ42aを経て、VVT用OCV42bおよび可変バルブタイミング機構42,43の作動油として利用される。
一方、メインオイルホール21の他端側(図1における右側)に連通されているオイル通路23は、ラッシュアジャスタ側通路26とシャワーパイプ側通路27とに分岐されている。
ラッシュアジャスタ側通路26は、吸気側通路26aと排気側通路26bとに更に分岐されている。吸気側通路26aにあっては、各気筒の吸気バルブに対応して配設されたラッシュアジャスタ44,44,…の給油路に連通され、この給油路を経たオイルがラッシュアジャスタ44の作動油として利用されるようになっている。同様に、排気側通路26bにあっては、各気筒の排気バルブに対応して配設されたラッシュアジャスタ45,45,…の給油路に連通され、この給油路を経たオイルがラッシュアジャスタ45の作動油として利用されるようになっている。
なお、このラッシュアジャスタ側通路26は、各カムシャフト16のジャーナル部にもオイルを分岐供給し、この各カムシャフト16とシリンダヘッド11のジャーナル軸受け部との間、および、各カムシャフト16と図示しないカムキャップのジャーナル軸受け部との間の潤滑が行われるようになっている。
シャワーパイプ側通路27も、吸気側通路27aと排気側通路27bとに分岐されている。吸気側通路27aにあっては、吸気カムシャフトのカムロブに対応して図示しないオイル散布孔が形成されており、この吸気側通路27aを流れるオイルがオイル散布孔から吸気カムシャフトのカムロブとロッカアームのローラ部との接触部分に向けて散布されることで、この両者の潤滑に寄与するようになっている。同様に、排気側通路27bにあっても、排気カムシャフトのカムロブに対応して図示しないオイル散布孔が形成されており、この排気側通路27bを流れるオイルがオイル散布孔から排気カムシャフトのカムロブに散布されることで、この両者の潤滑に寄与するようになっている。
−オイルジェット装置−
前記オイル供給系統2には、ピストン14を冷却するためのオイルジェット装置5が備えられている。以下、このオイルジェット装置5について説明する。
図2は、オイルジェット装置5およびその周辺の断面図である。この図2は、後述するオイルジェット切り換えバルブ(開度調整バルブ)8が閉鎖されている状態を示している(オイルジェット切り換えバルブ8が開放されている状態については図3を参照)。なお、便宜上、図2および図3では、OSV7を水平方向(軸線方向を水平方向)に配置させ、油圧センサ105を鉛直方向(軸線方向を鉛直方向)に配置させている。
図2に示すようにオイルジェット装置5は、オイルジェット機構51とオイルジェット切り換え機構52とを備えている。
前記オイルジェット機構51は、各気筒それぞれに対応して配設された複数(本実施形態では4個)のピストンジェットノズル(オイルジェットノズル)6,6,…、および、前記オイルジェット切り換え機構52のオイルジェット切り換えバルブ8が開放状態にある際に、前記メインオイルホール21から流入したオイルをピストンジェットノズル6に向けて供給するオイルジェットギャラリ(給油路)53を備えている。
一方、オイルジェット切り換え機構52は、前記メインオイルホール21に連通するオイルジェット流路54、このオイルジェット流路54に接続されたOSV(Oil Switching Valve;制御バルブ)7、および、オイルジェット切り換えバルブ8を備えている。
以下、オイルジェット機構51およびオイルジェット切り換え機構52それぞれの具体構成について説明する。
(オイルジェット機構)
前記オイルジェットギャラリ53は、前記シリンダブロック12の内部に形成されており、上流端が前記オイルジェット切り換え機構52を介してメインオイルホール21に連通可能となっている。また、このオイルジェットギャラリ53の下流側は各気筒に対応して分岐しており、この分岐された油路それぞれの下流端近傍には前記ピストンジェットノズル6が配設されている。これにより、前記オイルジェット切り換え機構52のオイルジェット切り換えバルブ8が開放状態にある際(図3を参照)には、前記メインオイルホール21からオイルジェット切り換え機構52を経てオイルジェットギャラリ53に向けてオイルが供給されるようになっている(オイルジェット切り換え機構52におけるオイルジェット切り換えバルブ8の開閉動作については後述する)。
ピストンジェットノズル6は、本体部61と、この本体部61に取り付けられた管状のノズル62とを備えている。
前記本体部61の内部にはチェックボール機構(チェック弁機構)63が収容されている。このチェックボール機構63の構成として具体的には、前記本体部61の内部に、上下方向に貫通する貫通孔61aが形成されている。この貫通孔61aは、その上端開口が前記オイルジェットギャラリ53に連通している。また、この貫通孔61aの内径寸法としては、上側部分が小径(以下、小径部分という)とされ、下側部分が大径(以下、大径部分という)とされている。そして、この小径部分の下端が弁座61bとなっている。
この貫通孔61aの内部には、前記弁座61bに当接可能なチェックボール63aと、このチェックボール63aを弁座61bに向けて押圧する圧縮コイルバネで成るスプリング63bとが収容されている。チェックボール63aの外径寸法は、前記貫通孔61aの小径部分よりも大きく、且つ大径部分よりも小さく設定されている。さらに、本体部61の下端には、前記貫通孔61aの下端開口を閉鎖すると共に、スプリング63bの下端が当接するプラグ63cが装着されている。これにより、スプリング63bは、前記弁座61bとプラグ63cとの間で圧縮されている。
一方、前記ノズル62は、その内部空間が前記本体部61の貫通孔61aの大径部分に連通していると共に、前記本体部61から略水平方向に延びた後、略鉛直上方に延び、その上端部に、前記ピストン14の裏面に向かう噴射孔が形成されている。
この構成により、前記オイルジェットギャラリ53から前記貫通孔61aの上端開口に作用する油圧が所定圧未満である場合には、前記スプリング63bの付勢力によってチェックボール63aが前記弁座61bに当接することで前記貫通孔61aは閉鎖される(チェックボール機構63の閉鎖状態;図2を参照)。この場合、ノズル62の噴射孔からのオイルジェットは実行されない。
一方、前記オイルジェットギャラリ53から前記貫通孔61aの上端開口に作用する油圧が所定圧以上に達すると、前記スプリング63bの付勢力に抗してチェックボール63aが前記弁座61bから離脱して貫通孔61aを開放し(チェックボール機構63の開放状態;図3を参照)、オイルジェットギャラリ53から貫通孔61aに流入したオイルがノズル62に流れ込む。これにより、ノズル62に流れ込んだオイルがピストン14の裏面に向けて噴射されることになる。このオイルジェットによりピストン14が冷却され、例えば筒内温度の過上昇を抑制してノッキングの発生を防止できるようになっている。なお、チェックボール機構63が開放する油圧の値は、前記スプリング63bのバネ定数が適宜設定されることによって調整される。
(オイルジェット切り換え機構)
前記オイルジェット切り換え機構52のオイルジェット流路54は、前記シリンダブロック12の内部に形成されており、上流端が前記メインオイルホール21に連通している。また、このオイルジェット流路54は、下流端がOSV7に繋がるパイロット流路54aと、下流端が前記オイルジェット切り換えバルブ8の先端面に対向するオイルジェット導入油路54bとを有している。
前記オイルジェット切り換えバルブ8は、前記シリンダブロック12の内部に形成された圧力空間(以下、バルブ背圧空間81という)に収容されている。このバルブ背圧空間81は、一端側(図中の上端側)が前記OSV7の内部空間に連通し、他端側(図中の下端側)が前記オイルジェットギャラリ53およびオイルジェット導入油路54bに連通している。
このバルブ背圧空間81に収容されているオイルジェット切り換えバルブ8は、円筒形状の胴部82と、この胴部82の下端に一体形成された円板形状の弁部83とを有した有底円筒形状となっている。胴部82の外径寸法は前記バルブ背圧空間81の内径寸法に略一致している。また、弁部83の外径寸法は前記オイルジェット導入油路54bの内径寸法よりも僅かに大きく設定されており、オイルジェット切り換えバルブ8が前進移動(図中の下側に移動)してオイルジェット導入油路54bの下流端の外縁部に当接した状態では、このオイルジェット導入油路54bの下流端開口を閉鎖するようになっている。また、このオイルジェット切り換えバルブ8は、圧縮コイルバネで成るスプリング84によって前記オイルジェット導入油路54bに向かう方向への付勢力が付与されている。このため、バルブ背圧空間81の内圧とオイルジェット導入油路54bの内圧とが略同一になった場合には、このスプリング84の付勢力によってオイルジェット切り換えバルブ8がオイルジェット導入油路54b側へ移動し、このオイルジェット導入油路54bが閉鎖することになる(オイルジェット切り換えバルブ8の閉鎖状態;図2の状態を参照)。一方、オイルジェット導入油路54bの内圧が、バルブ背圧空間81の内圧とスプリング84の付勢力との和よりも高くなった場合には、このスプリング84の付勢力に抗してオイルジェット切り換えバルブ8がオイルジェット導入油路54bから後退する方向に移動し(バルブ背圧空間81の内部に引き込まれ)、このオイルジェット導入油路54bが開放することになる(オイルジェット切り換えバルブ8の開放状態;図3の状態を参照)。
前記OSV7は、ケーシング71内にプランジャ72が往復移動可能に収容されており、電磁ソレノイド77の通電/非通電に伴うプランジャ72の往復移動によってオイルの流路を切り換えるようになっている。
具体的に、前記ケーシング71には、油圧導入ポート(第1ポート)71a、バルブ圧力ポート(第2ポート)71b、および、ドレンポート71cが形成されている。前記油圧導入ポート71aは、ケーシング71の先端面に設けられ、前記パイロット流路54aに連通している。バルブ圧力ポート71bは、ケーシング71の側面(図2における下面)に設けられ、前記バルブ背圧空間81に連通している。ドレンポート71cは、前記バルブ圧力ポート71bの形成位置よりも基端側(電磁ソレノイド77側)におけるケーシング71の側面に設けられ、図示しないクランクケースに繋がるドレン油路12aに連通している。
また、このケーシング71内における前記油圧導入ポート71aおよびバルブ圧力ポート71bに対応する位置には、チェックボール73が収容されている。このチェックボール73は、その位置によって、前記油圧導入ポート71aとバルブ圧力ポート71bとを連通させ、且つこれら油圧導入ポート71aおよびバルブ圧力ポート71bをドレンポート71cから遮断するバルブ閉位置(図2の状態を参照)と、前記バルブ圧力ポート71bとドレンポート71cとを連通させ、且つこれらバルブ圧力ポート71bおよびドレンポート71cを油圧導入ポート71aから遮断するバルブ開位置(図3の状態を参照)との間で移動可能となっている。
具体的に、チェックボール73の収容位置に対して油圧導入ポート71a側にはストッパ74が固定されている。このストッパ74は、前記油圧導入ポート71aとケーシング71の内部(チェックボール73の収容空間)とを連通する油圧導入孔74aを有している。この油圧導入孔74aの内径寸法は前記チェックボール73の外径寸法よりも小さく設定されている。このため、チェックボール73がストッパ74から後退した位置にある場合には、図2に示すように、前記油圧導入孔74aが開放されることになり、前記油圧導入ポート71aとバルブ圧力ポート71bとが連通することになる。一方、チェックボール73がストッパ74に向けて移動してストッパ74に当接した場合には、図3に示すように、前記油圧導入孔74aが閉鎖されることになり、前記油圧導入ポート71aとバルブ圧力ポート71bとが遮断されることになる。
また、チェックボール73の収容位置に対してドレンポート71c側にはバルブシート75が固定されている。このバルブシート75は、前記ドレンポート71cとケーシング71の内部(チェックボール73の収容空間)とを連通するドレン孔75aを有している。このドレン孔75aの内径寸法は前記チェックボール73の外径寸法よりも小さく設定されている。このため、チェックボール73がバルブシート75から後退した位置にある場合には、図3に示すように、前記ドレン孔75aが開放されることになり、前記バルブ圧力ポート71bとドレンポート71cとが連通することになる。一方、チェックボール73がバルブシート75に向けて移動してバルブシート75に当接した場合には、図2に示すように、前記ドレン孔75aが閉鎖されることになり、前記バルブ圧力ポート71bとドレンポート71cとが遮断されることになる。
また、前記プランジャ72は、圧縮コイルバネで成るスプリング76によって前記チェックボール73側に向かう付勢力が付与されていると共に、電磁ソレノイド77によって駆動するようになっている。つまり、電磁ソレノイド77に電圧が印加されていないときには、図3に示すように、前記スプリング76の付勢力によってプランジャ72がケーシング71内において図中左側に前進移動している。この状態がOSV7のOFF状態である。一方、電磁ソレノイド77に電圧が印加されたときには、図2に示すように、前記スプリング76の付勢力に抗してプランジャ72がケーシング71内において図中右側に後退移動している。この状態がOSV7のON状態である。電磁ソレノイド77への電圧の印加および非印加はECU100によって制御される。
前記OSV7のON状態では、図2に示すように、プランジャ72がチェックボール73を押圧することなく、このチェックボール73が前記パイロット流路54aからの油圧を受けることによりストッパ74から後退してバルブシート75に当接した位置となり、前記油圧導入ポート71aとバルブ圧力ポート71bとが連通する。これにより、オイルジェット切り換えバルブ8のバルブ背圧空間81に前記メインオイルホール21からパイロット流路54aを経た油圧が導入されることになる。この場合、オイルジェット切り換えバルブ8の弁部83の先端面および背面それぞれにメインオイルホール21からの油圧が作用しているため、このオイルジェット切り換えバルブ8は、その背面側に設けられたスプリング84の付勢力によってオイルジェット導入油路54b側に向けて移動する(図中の下側に移動する)。これにより、オイルジェット導入油路54bの下流端はオイルジェット切り換えバルブ8によって閉鎖された状態となり、オイルジェット機構51のオイルジェットギャラリ53にはオイルが供給されず、オイルジェットが停止される。
一方、前記OSV7がOFF状態になると、図3に示すように、前記スプリング76の付勢力を受けてプランジャ72が前進移動してチェックボール73を押圧する。これにより、チェックボール73がバルブシート75から後退してストッパ74に当接した位置となり、前記バルブ圧力ポート71bとドレンポート71cとが連通する。これにより、バルブ背圧空間81のオイルがバルブ圧力ポート71bおよびドレンポート71cからドレン油路12aを経てクランクケース内にドレンされる。これによりバルブ背圧空間81の油圧が急速に下降する。また、オイルジェット切り換えバルブ8の弁部83の先端面にはメインオイルホール21からの油圧が作用しているため、このオイルジェット切り換えバルブ8は、その背面側に設けられたスプリング84の付勢力に抗してバルブ背圧空間81の内部に向けて移動する(図中の上側に移動する)。これにより、オイルジェット導入油路54bの下流端は開放されてオイルジェット機構51のオイルジェットギャラリ53に連通することになり、このオイルジェットギャラリ53にオイルが供給される。そして、エンジン回転数の上昇などに伴って、このオイルジェットギャラリ53に供給されるオイルの油圧が所定値に達すると前記ピストンジェットノズル6のチェックボール機構63が開放し、オイルジェットが実行されてピストン14が冷却されることになる。
このようにオイルジェット切り換え機構52では、OSV7の切り換え動作に連動してバルブ背圧空間81内部の油圧を切り換えてオイルジェット切り換えバルブ8の開閉が行われるため、このOSV7は、給油路の切り換え機能のみを備えておればよく、比較的小型なものとして実現できる。これによりオイルジェット切り換え機構52の小型化が図られている。また、オイルジェット切り換えバルブ8を後退移動させる際に、バルブ背圧空間81の油圧を下降させるようになっているため、OSV7の切り換えと略同時にオイルジェット切り換えバルブ8の後退移動が開始されることになり、制御性が良好になっている。
このピストン14の冷却は、エンジン1の燃焼行程におけるノッキングの発生を防止することを主な目的としている。このため、基本的には、エンジン1の暖機中などにあってはピストン14を冷却する要求は低く、エンジン1の暖機完了後(特に、暖機完了後の高負荷運転域や高回転域)にはピストン14を冷却する要求が高くなる。このため、例えば、エンジン1の冷間始動の初期時には、冷却水温度が比較的低いため、ピストン14を冷却する要求は低く、前記OSV7がON状態となって、オイルジェットは停止される。また、エンジン1の暖機完了後の所定運転域(高負荷運転域や高回転域)においては、前記OSV7がOFF状態となって、オイルジェットギャラリ53にエンジンオイルが供給され、各ピストンジェットノズル6,6,…からピストン14,14,…の裏面側に向けてエンジンオイルが噴射される。
−OSVの制御系−
図4は、前記OSV7に係る制御系を示すブロック図である。ECU100は、エンジン1の運転制御などを実行する電子制御装置であって、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびバックアップRAMなどを備えている。
ROMには、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPUは、ROMに記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAMはCPUでの演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAMはエンジン1の停止時などにおいて保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
前記OSV7に係る制御系にあっては、ECU100に複数のセンサが接続されている。具体的には、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト15が所定角度だけ回転する度にパルス信号を発信するクランクポジションセンサ101、吸入空気量を検出するエアフロメータ102、アクセルペダルの踏み込み量であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサ103、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサ104、および、前記メインオイルホール21の内部の油圧を検出する油圧センサ105などが接続されており、これらセンサ101〜105からの信号がECU100に入力されるようになっている。前記油圧センサ105は図1および図2にも示すように前記メインオイルホール21に取り付けられ、このメインオイルホール21内部の油圧を検出する。
なお、このECU100は、前記各センサ以外に、周知のセンサとして、油温センサ、スロットル開度センサ、車輪速センサ、シフトポジションセンサ、ブレーキペダルセンサ、吸気温センサ、A/Fセンサ、O2センサ、カムポジションセンサ等(何れも図示省略)が接続されており、これらセンサからの信号も入力されるようになっている。
そして、ECU100は、各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1の各種アクチュエータ(スロットルモータ、インジェクタ、イグナイタ等)の制御のほか、前記OSV7の開閉制御(オイルジェット制御)を行うようになっている。
−オイルジェット噴射特性−
次に、本実施形態の特徴であるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性について説明する。
前述したように、本実施形態におけるオイルジェット装置5は、オイルジェット機構51およびオイルジェット切り換え機構52を備えており、オイルジェット噴射量は、オイルジェット機構51に備えられたチェックボール機構63の開閉動作、および、オイルジェット切り換え機構52に備えられたオイルジェット切り換えバルブ8の開度(上下方向の移動位置により決まる開度)によって決定される。つまり、オイルジェット切り換えバルブ8が開放してもチェックボール機構63が閉鎖しておればオイルジェットは実行されず、オイルジェット噴射量は「0」となる。また、チェックボール機構63が全開であってもオイルジェット切り換えバルブ8の開度によってはオイルジェット噴射量が制限される場合がある。このように、オイルジェット噴射量は、チェックボール機構63が許容するオイル流量、および、オイルジェット切り換えバルブ8が許容するオイル流量のうち少ない側のオイル流量に規制されることになる。
本実施形態では、このチェックボール機構63によって規定されるオイルジェット機構51の油量変化特性(オイルジェットを行うためにオイルジェット機構51を流れるオイルの油量特性)と、オイルジェット切り換えバルブ8によって規定されるオイルジェット切り換え機構52の油量変化特性(オイルジェットを行うためにオイルジェット切り換え機構52を流れるオイルの油量特性)との関係を適切に設定することにより、オイルジェット装置5全体としてのオイルジェット噴射特性を規定するようにしている。具体的には、チェックボール機構63が閉鎖状態から開放状態に切り換わる際には、その開放に伴う油量(オイルジェット噴射量)が、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によって制限される構成としている。
以下、チェックボール機構63の油量変化特性、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性、および、これらの油量変化特性に応じて決定されるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性それぞれについて説明する。
(チェックボール機構の油量変化特性)
図5(a)はチェックボール機構63の油量変化特性であり、油圧の変化量(エンジン回転数の上昇に伴う油圧の上昇量)に対する油量(チェックボール機構63の内部を流れるオイルの最大量;オイルジェット切り換えバルブ8による油量の制限を受けなかったと仮定した場合のオイル流量)の変化を示している。
この図5(a)に示すように、チェックボール機構63は、オイルジェットギャラリ53から貫通孔61aの上端開口に作用する油圧が所定圧P2未満である場合には、スプリング63bの付勢力によってチェックボール63aが前記弁座61bに当接することで貫通孔61aは閉鎖され、油量は「0」となる。つまり、図5(a)における期間t1では、図6(a)に示すようにチェックボール機構63は閉鎖状態となっている。
そして、オイルジェットギャラリ53から貫通孔61aの上端開口に作用する油圧が所定圧P2以上に達すると、スプリング63bの付勢力に抗してチェックボール63aが弁座61bから離脱して貫通孔61aを開放し、オイルジェットギャラリ53から貫通孔61aに流入したオイルがノズル62に流れ込むことになる。チェックボール機構63は小型化が図られているため、チェックボール63aの移動ストロークは短くなっている(例えば数mmとなっている)。このため、オイルジェットギャラリ53から貫通孔61aの上端開口に作用する油圧が所定圧P2以上に達すると、短時間のうちに(瞬時に)チェックボール機構63は全閉状態から全開状態に移行することになる。つまり、図5(a)における期間t2では、図6(b)に示すようにチェックボール機構63は開放状態となっている。また、このチェックボール機構63が全開状態となった場合には、オイルジェットギャラリ53から前記貫通孔61aの上端開口に作用する油圧の上昇に伴って油量が次第に増加していく(実際には、後述するようにオイルジェット切り換えバルブ8による油量の制限を受けるためオイルジェット噴射量も制限されることになる)。
(オイルジェット切り換えバルブの油量変化特性)
図5(b)はオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性であり、油圧の変化量(エンジン回転数の上昇に伴う油圧の上昇量)に対する油量(オイルジェット導入油路54b内部を流れるオイルの最大量;チェックボール機構63による油量の制限を受けなかったと仮定した場合のオイル流量)の変化を示している。
前記バルブ背圧空間81に収容されているスプリング84のバネ定数は比較的大きく設定されており、前記OSV7がOFF状態(オイルジェット切り換えバルブ8を開放させる状態)となった後に前記オイルジェット導入油路54bに導入される油圧が上昇する際、その油圧の上昇量に対するオイルジェット切り換えバルブ8の移動量(開放側への移動量;図2における上側への移動量)は比較的少なく設定されている。つまり、油圧が上昇していくに従ってオイルジェット切り換えバルブ8が徐々に開放していく構成となっている。具体的には、油圧の変化量に対する油量の変化量(油量変化割合)は、前記チェックボール機構63における油量変化割合よりも小さく設定されている。また、オイルジェット切り換えバルブ8の移動ストロークが前記チェックボール機構63のチェックボール63aの移動ストロークよりも長くなっていることによっても、油量変化割合は小さく設定されることになる。なお、前記スプリング84のバネ定数およびオイルジェット切り換えバルブ8の移動ストロークは、この油量変化特性が得られるように実験またはシミュレーションに基づいて設定されている。
また、この油圧の上昇に伴う油量の変化としては、前記オイルジェットギャラリ53の開口断面が円形であることから、オイルジェット切り換えバルブ8の開放初期時にあっては、このオイルジェット切り換えバルブ8の移動量に対するオイルジェットギャラリ53の開口面積の増加量が少ないため、油量変化割合としては比較的低くなっている。これに対し、オイルジェット切り換えバルブ8の開放が進むに従って(バルブ開度が50%に達するまでは)、オイルジェット切り換えバルブ8の移動量に対するオイルジェットギャラリ53の開口面積の増加量が多くなっていくため、油量変化割合は次第に高くなっていく。そして、さらに、オイルジェット切り換えバルブ8の開放が進むと(バルブ開度が50%を越えると)、再び、オイルジェット切り換えバルブ8の移動量に対するオイルジェットギャラリ53の開口面積の増加量が少なくなるので、油量変化割合は低くなっていく。つまり、油圧の上昇に伴う油量の変化は、図5(b)に示すように3次曲線を描くようになる。
そして、図5(b)に示すように、前記オイルジェット導入油路54bに導入される油圧が所定値P1(<P2)に達するまでは(油圧が所定値P1となるエンジン回転数となるまでは)OSV7がON状態とされ、オイルジェット切り換えバルブ8は閉鎖されている。つまり、図5(b)における期間t3では、図7(a)に示すようにオイルジェット切り換えバルブ8は閉鎖(全閉)状態となっている。
そして、オイルジェット導入油路54bに導入される油圧が所定値P1に達すると(または、この油圧が所定値P1に達するエンジン回転数に達すると)、OSV7がOFF状態とされ、オイルジェット切り換えバルブ8は開放される。このように開放されたオイルジェット切り換えバルブ8の開度はオイルジェット導入油路54bに導入される油圧(前記弁部83の先端面に作用する油圧)に応じて変化する。つまり、この油圧が上昇していくに従ってオイルジェット切り換えバルブ8の開度が徐々に大きくなっていく。この場合、前述した如くバルブ背圧空間81に収容されているスプリング84のバネ定数は比較的大きく設定されているため、油圧の上昇量に対するオイルジェット切り換えバルブ8の移動量は比較的少なくなっており、油圧の上昇量に対する油量の増加量も比較的少なくなっている。この状態は、オイルジェット切り換えバルブ8が全開となるまで継続される。図5(b)ではオイルジェット導入油路54bに導入される油圧が所定値P4に達すると、オイルジェット切り換えバルブ8が全開となるようになっている。つまり、図5(b)における期間t4では、図7(b)に示すようにオイルジェット切り換えバルブ8は油圧の上昇に伴って開度が次第に大きくなっていく。なお、このオイルジェット切り換えバルブ8の全開状態での油量は、前記チェックボール機構63の全開状態での油量よりも多く設定されている。
このように、本実施形態では、OSV7をONからOFFに切り換えてオイルジェット切り換えバルブ8を開放するタイミングを、前記チェックボール機構63が開放される油圧値P2(エンジン回転数に基づいて規定される油圧値)よりも低い油圧値P1に設定している。つまり、このオイルジェット切り換えバルブ8は、チェックボール機構63が開弁される前に開動作が開始され、その後、油圧の上昇に伴って開度が徐々に増加していく構成となっている。
そして、オイルジェット導入油路54bに導入される油圧が所定値P4に達すると、オイルジェット切り換えバルブ8が全開となり(図7(c)に示す状態となり)、オイルジェット切り換えバルブ8の開度が変化することなく、油圧の上昇に伴って油量が多くなっていく(図5(b)における期間t5;実際には、後述するようにチェックボール機構63による油量の制限を受けるためオイルジェット噴射量も制限されることになる)。
(オイルジェット装置のオイルジェット噴射特性)
次に、以上のようにチェックボール機構63の油量変化特性およびオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によって決定されるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性について説明する。
図5(c)の一点鎖線は前述したチェックボール機構63の油量変化特性(図5(a)で示した油量変化特性)であり、二点鎖線は前述したオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性(図5(b)で示した油量変化特性)であり、実線はこれらチェックボール機構63の油量変化特性およびオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性から決定されるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性である。このように、オイルジェット噴射量は、チェックボール機構63が許容するオイル流量、および、オイルジェット切り換えバルブ8が許容するオイル流量のうち少ない側のオイル流量に規制される。以下、このオイル流量について具体的に説明する。
図5(c)において、先ず、オイルジェット導入油路54bの油圧が図中のP1に達するまでは前記OSV7がON状態とされ、オイルジェット切り換えバルブ8は閉鎖状態となっている(図2および図7(a)に示す状態)。この場合、オイルジェットギャラリ53には油圧が導入されず、チェックボール機構63も閉鎖状態となっている(図2および図6(a)に示す状態)。このため、前記期間t3ではオイルジェット噴射量は「0」となる。
そして、オイルジェット導入油路54bの油圧が図中のP1に達すると(エンジン回転数がこの油圧P1を発生する所定回転数に達すると)、前記OSV7がOFF状態とされ、オイルジェット切り換えバルブ8は開放動作を開始する(図7(b)に示す状態を参照)。このオイルジェット切り換えバルブ8の開放動作が開始されると、前記オイルジェット導入油路54bの油圧がオイルジェットギャラリ53に導入され、このオイルジェットギャラリ53内の油圧が徐々に上昇していく。しかし、このオイルジェットギャラリ53内の油圧が図中P2に達するまではチェックボール機構63の閉鎖状態は維持されるため、オイルジェットは実行されない(図5(c)における期間t6)。
その後、オイルジェットギャラリ53内の油圧が図中P2(チェックボール機構63が開放する圧力)に達すると、チェックボール機構63の開放動作が開始される(図6(b)に示す状態を参照)。前述したように前記チェックボール63aの移動ストロークは短いため、短時間のうちに(瞬時に)チェックボール機構63は全閉状態から全開状態に移行することになる。しかしながら、このチェックボール機構63に流れ込む油量は前記オイルジェット切り換えバルブ8の開度による制約を受けているため、このオイルジェット切り換えバルブ8の開度が比較的小さい期間にあっては、オイルジェット噴射量も少量に抑えられている。つまり、図5(a)で示したチェックボール機構63の油量変化特性により規定される油量よりも少ない油量がオイルジェット噴射量として設定されることになる(図5(c)における期間t7)。具体的に、図5(c)ではチェックボール機構63が開放したタイミングでの油量(オイルジェット噴射量)は図中のO1となっている。また、この図5(c)では、この減量された油量部分に破線の斜線を付している。
そして、このオイルジェット噴射量は、油圧の上昇に伴うオイルジェット切り換えバルブ8の開度の増大によって徐々に増加していく。この際のオイルジェットの噴射特性(油圧がP3に達するまでの噴射特性)としては、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性に依存する。
そして、このオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によって決定されている油量が、前記チェックボール機構63の油量変化特性によって決定されている油量に達すると(オイルジェット導入油路54bの油圧が図中のP3に達すると(エンジン回転数が、この油圧P3を発生する所定回転数に達すると))、オイルジェット切り換えバルブ8の開度がそれ以上大きくなっても、オイルジェット噴射量は、チェックボール機構63の油量変化特性の制約を受け、このチェックボール機構63の油量変化特性に従ってオイルジェットの噴射量が決定されることになる(図5(c)における期間t8)。
このように、オイルジェットの噴射開始時点は、チェックボール機構63の開放タイミングによって決定され、油圧が比較的低いエンジン運転領域(期間t7)では、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によってオイルジェット噴射量が決定され、油圧が比較的高いエンジン運転領域(期間t8)では、チェックボール機構63の油量変化特性によってオイルジェット噴射量が決定されるようになっている。
図5(d)は、前述した油量変化に伴うピストン温度の推移を示している。この図5(d)に示すように、エンジン回転数が上昇していき、それに伴って油圧も上昇していく際、油圧が図中P2に達した時点でオイルジェットが開始されることになるため、この時点でピストン温度の上昇速度は低下し始める。その後、前記オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によってオイルジェット噴射量が決定されることになるので、オイルジェット噴射量は徐々に増量されていくことになり、ピストン温度の上昇速度も徐々に低下していく。そして、油圧が図中P3に達した時点でオイルジェット噴射量が最大となり、ピストン冷却効果も最大限に発揮されることになるので、この時点でピストン温度の上昇は略停止され、適正温度が維持されることになる。
本実施形態では以下の効果を奏することができる。前述した如くチェックボール機構63の全閉から全開への切り換わりは短時間のうちに行われ、チェックボール機構63の全開時におけるその油量変化特性としては比較的油量を多くする状態となるが、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性は、チェックボール機構63の油量変化特性に対して、油圧の上昇に伴う油量の増加割合が小さく設定されているため、このオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によって油量が制限されることになり、オイルジェット噴射量も少量に抑えられることになる。このため、チェックボール機構63の開放時にオイルジェット噴射量が過剰になるといったことが回避され、オイル上がりが促進されてしまうことがなくなり、オイル飛散量が少なくなってクランクシャフト15によるオイル攪拌抵抗の低減が図れて燃料消費率を改善できる。
また、チェックボール機構63が開放するタイミングにあっては、既にオイルジェット切り換えバルブ8の開度がある程度大きくなっており、チェックボール機構63が開放された時点では、適切な油圧でのオイルジェットが可能になる。つまり、チェックボール機構63の開放と同時に、ピストン14の裏面に到達可能な圧力でオイルジェットが開始されることになり、ピストン14の冷却開始時期を適切に設定することができる。
−変形例1−
次に、変形例1について説明する。この変形例1は、チェックボール機構63の油量変化特性およびオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性それぞれが前記実施形態のものと異なっている。これにより、オイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性も異なっている。以下、チェックボール機構63の油量変化特性、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性、および、これらの油量変化特性に応じて決定されるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性それぞれについて説明する。
(チェックボール機構の油量変化特性)
本例におけるピストンジェットノズル6のチェックボール機構63は、図8に示すように、内部に2つのスプリング63d,63eが収容されている。これらスプリングは大径スプリング63dと小径スプリング63eで成っている。大径スプリング63dは、前記弁座61bとプラグ63cとの間で圧縮されており、チェックボール63aに対して弁座61bに向かう付勢力を常時付与している。一方、チェックボール63aが弁座61bに当接している状態では、小径スプリング63eはチェックボール63aに当接しておらず、この状態ではチェックボール63aに対する付勢力を付与していない。そして、前記油圧の上昇に伴ってチェックボール63aが弁座61bから離脱して所定量だけ下方に移動した時点でチェックボール63aが当接することにより小径スプリング63eが圧縮され、これにより小径スプリング63eからチェックボール73に対する付勢力(大径スプリング63dの付勢力と同方向の付勢力)が生じる構成となっている。
なお、小径スプリング63eがチェックボール63aに対して付勢力を常時付与し、大径スプリング63dが、チェックボール63aが所定量だけ下方に移動した時点でチェックボール63aに付勢力を付与する構成としてもよい。また、各スプリング63d,63eのバネ定数は同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。
図10(a)は本変形例に係るチェックボール機構63の油量変化特性である。この図10(a)に示すように、チェックボール機構63は、オイルジェットギャラリ53から前記貫通孔61aの上端開口に作用する油圧が所定圧P2未満である場合には、前記大径スプリング63dの付勢力によってチェックボール63aが弁座61bに当接することで貫通孔61aは閉鎖され、油量は「0」となる。つまり、図10(a)における期間t1ではチェックボール機構63は閉鎖状態となっている。
そして、前記オイルジェットギャラリ53から貫通孔61aの上端開口に作用する油圧が所定圧P2に達すると、前記大径スプリング63dの付勢力に抗してチェックボール63aが前記弁座61bから離脱して貫通孔61aを開放し、オイルジェットギャラリ53から貫通孔61aに流入したオイルがノズル62に流れ込むことになる。
その後、油圧が所定圧P5に達するまでは、大径スプリング63dの付勢力のみに抗して油圧の上昇に伴って油量が増量されていく(図10(a)における期間t9)。そして、チェックボール63aが所定量だけ下方に移動した時点で小径スプリング63eが当接することにより前記大径スプリング63dおよび小径スプリング63eそれぞれの付勢力がチェックボール63aに作用することになるので、この時点から、油圧の上昇量に対する油量の増加量は少なくなっていく(図10(a)における期間t10)。その他の油量変化特性は前記実施形態のものと同一である。
(オイルジェット切り換えバルブの油量変化特性)
本例におけるオイルジェット切り換えバルブ8は、図9に示すように、先端部に切り欠き(給油許容部)85が設けられており、このオイルジェット切り換えバルブ8の弁部83がオイルジェット導入油路54bの下流端の外縁部に当接した状態であっても、この切り欠き85により形成される流路から比較的少量のオイルがオイルジェットギャラリ53に流れ込むようになっている。
また、本変形例におけるオイルジェット切り換えバルブ8の開放動作が開始されるタイミング(前記OSV7がONからOFFに切り換えられるタイミング)は、前記チェックボール機構63が開放される油圧値よりも高い油圧値に設定されている。つまり、このオイルジェット切り換えバルブ8は、閉鎖状態であっても油量が確保され、チェックボール機構63が開弁された後に開動作が開始され、その後、油圧の上昇に伴って開度が徐々に増加していく構成となっている。
図10(b)はオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性である。この図10(b)に示すように、本実施形態に係るオイルジェット切り換えバルブ8は、前記切り欠き85が形成されていることにより、OSV7がONからOFFに切り換えられるタイミング以前から油圧の上昇に応じて油量が増加していく(図10(b)における期間t3)。また、オイルジェット導入油路54bに導入される油圧が所定値P1に達すると(または、この油圧が所定値P1に達するエンジン回転数に達すると)、OSV7がOFF状態とされ、オイルジェット切り換えバルブ8は開放される。このように開放されたオイルジェット切り換えバルブ8の開度はオイルジェット導入油路54bに導入される油圧に応じて変化する。つまり、この油圧が上昇していくに従ってオイルジェット切り換えバルブ8の開度が徐々に大きくなっていく。この場合、前記実施形態の場合と同様にバルブ背圧空間81に収容されているスプリング84のバネ定数は比較的大きく設定されているため、油圧の上昇量に対するオイルジェット切り換えバルブ8の移動量は比較的少なくなっており、油圧の上昇量に対する油量の増加量も比較的少なくなっている(図10(b)における期間t4)。その他の油量変化特性は前記実施形態のものと同様である。
(オイルジェット装置のオイルジェット噴射特性)
次に、以上のようにチェックボール機構63の油量変化特性およびオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によって決定されるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性について説明する。
図10(c)の一点鎖線は前述したチェックボール機構63の油量変化特性(図10(a)で示した油量変化特性)であり、二点鎖線は前述したオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性(図10(b)で示した油量変化特性)であり、実線はこれらチェックボール機構63の油量変化特性およびオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性から決定されるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性である。このように、オイルジェット噴射量は、チェックボール機構63が許容するオイル流量、および、オイルジェット切り換えバルブ8が許容するオイル流量のうち少ない側のオイル流量に規制される。以下、このオイル流量について具体的に説明する。
先ず、オイルジェット導入油路54bの油圧が図中のP2に達するまでは前記チェックボール機構63が閉鎖されている。このため、前記切り欠き85により形成されている流路からオイルジェットギャラリ53にオイルが流れ込む状況であってもオイルジェット噴射量は「0」となっている(図10における期間t1)。
そして、オイルジェット導入油路54bの油圧が図中のP2に達するとチェックボール機構63が開放される。前述したように前記チェックボール63aの移動ストロークは短いため、短時間のうちにチェックボール機構63は全閉状態から全開状態に移行することになる。しかしながら、このチェックボール機構63に流れ込む油量は前記オイルジェット切り換えバルブ8による制約(切り欠き85により形成されている流路による制約)を受けているため、オイルジェット噴射量も少量に抑えられている。つまり、図10(a)で示したチェックボール機構63の油量変化特性により規定される油量よりも少ない油量がオイルジェット噴射量として設定されることになる(図10(c)における期間t11)。図10(c)では、この減量された油量部分に破線の斜線を付している。
その後、オイルジェットギャラリ53内の油圧が図中P1に達すると(エンジン回転数がこの油圧P1を発生する所定回転数に達すると)、前記OSV7がOFF状態とされ、オイルジェット切り換えバルブ8は開放動作を開始する。このオイルジェット切り換えバルブ8の開放動作が開始されると、前記オイルジェット導入油路54bの油圧がオイルジェットギャラリ53に導入されることになる。この際のオイルジェット噴射量は、油圧の上昇に伴うオイルジェット切り換えバルブ8の開度の増大によって徐々に増加していく。つまり、この際のオイルジェットの噴射特性としては、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性に依存する(図10(c)における期間t12)。
そして、このオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によって決定されている油量が、前記チェックボール機構63の油量変化特性によって決定されている油量に達すると(オイルジェット導入油路54bの油圧が図中のP3に達すると(エンジン回転数が、この油圧P3を発生する所定回転数に達すると))、オイルジェット切り換えバルブ8の開度がそれ以上大きくなっても、オイルジェット噴射量は、チェックボール機構63の油量変化特性の制約を受け、このチェックボール機構63の油量変化特性に従ってオイルジェットの噴射量が決定されることになる。
このように、本変形例においても、オイルジェットの噴射開始時点は、チェックボール機構63の開放タイミングによって決定され、油圧が比較的低いエンジン運転領域(期間t11,t12)では、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によってオイルジェット噴射量が決定され、油圧が比較的高いエンジン運転領域(期間t8)では、チェックボール機構63の油量変化特性によってオイルジェット噴射量が決定されるようになっている。
図10(d)は、前述した油量変化に伴うピストン温度の推移を示している。この図10(d)に示すように、エンジン回転数が上昇していき、それに伴って油圧も上昇していく際、油圧が図中P2に達した時点でオイルジェットが開始されることになるため、この時点でピストン温度の上昇速度は低下し始める。その後、前記オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によってオイルジェット噴射量が決定されることになるので、オイルジェット噴射量は徐々に増量されていくことになり、ピストン温度の上昇速度も徐々に低下していく。そして、油圧が図中P3に達した時点でオイルジェット噴射量が略最大となり、ピストン冷却効果も最大限に発揮されることになるので、この時点でピストン温度の上昇は略停止され、適正温度が維持されることになる。
本変形例においても前記実施形態の場合と同様の効果を奏することができる。つまり、チェックボール機構63の開放時にオイルジェット噴射量が過剰になるといったことが回避され、オイル上がりが促進されてしまうことがなくなり、オイル飛散量が少なくなってクランクシャフト15によるオイル攪拌抵抗の低減が図れて燃料消費率を改善できる。
−変形例2−
次に、変形例2について説明する。この変形例2は、前記OSV7に代えて、開度を電気的に制御可能なOCVを適用したものである。つまり、このOCVへの印加電圧のDuty比を調整することによってOCVの開度を調整するものである。
図11は、チェックボール機構63の油量変化特性、OCVの制御によるオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性によって決定されるオイルジェット装置5全体としての油量変化特性を示している。図中の一点鎖線はチェックボール機構63の油量変化特性であって、前記実施形態のものと同様である。また、図中の二点鎖線はオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性であって、OCVのDuty制御によって設定されたものである。図中の期間t13ではDuty比が50%とされ、期間t14ではDuty比が100%とされている。これらDuty比はこれに限定されるものではなく適宜設定可能である。そして、図中の実線は、これらチェックボール機構63の油量変化特性およびオイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性から決定されるオイルジェット装置5のオイルジェット噴射特性である。
この図11からも明らかなように、本変形例にあっても、前記実施形態および変形例のものと同様の効果を奏することができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態および各変形例では直列4気筒ガソリンエンジンに本発明を適用した場合について説明したが、本発明は、気筒数やエンジンの形式(V型や水平対向型等)は特に限定されるものではない。また、ディーゼルエンジンに対しても本発明は適用が可能である。
また、前記実施形態および各変形例ではコンベンショナル車両(駆動力源としてエンジン1のみを搭載した車両)に本発明を適用した場合について説明したが、ハイブリッド車両(駆動力源としてエンジンおよび電動モータを搭載した車両)に対しても本発明は適用可能である。
また、前記実施形態および各変形例では、オイルジェット導入油路54bの下流端をオイルジェット切り換えバルブ8の先端面に対向させ、この先端面に対して垂直方向に油圧を作用させるものとしていた。本発明はこれに限らず、オイルジェット切り換えバルブ8の側面に傾斜面を設け、このオイルジェット切り換えバルブ8の側方から油圧を作用させることで、前記傾斜面に作用する油圧の分力によりオイルジェット切り換えバルブ8を開放させるようにしたものに対しても適用が可能である。
また、前記実施形態および各変形例では、オイルジェット切り換えバルブ8の油量変化特性として、油圧の上昇量に対する油量の変化量を比較的少なくすることを実現するためにスプリング84のバネ定数を適宜設定するようにしていた。本発明は、これに限らず、例えばオイルジェット切り換えバルブ8の移動ストロークを長く確保することで前記油量変化特性を実現するようにしてもよい。
また、前記実施形態および各変形例では、ピストン14を冷却するためのオイルジェット装置5に本発明を適用した場合について説明したが、シリンダ内壁面を冷却するためのオイルジェット装置に対しても本発明は適用が可能である。