本発明は、便器本体の後側に設けられた便器洗浄装置を覆うとともに便器本体の後部上面を覆うカバー体が昇降可能に設けられた構成において、便器本体と便器洗浄装置との間に、便器本体の上面の後端縁から滴り落ちる水を受ける水受け部を設けることにより、便器本体と便器洗浄装置との間において水が床面に滴り落ちることを防止しようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
本発明の実施形態に係る水洗大便器1の構成について、図1〜図7を用いて説明する。本実施形態に係る水洗大便器1は、腰掛式の便器本体2と、便器本体2の後側に設けられ便器本体2に洗浄水を供給するための便器洗浄装置3と、便器洗浄装置3上に設けられる局部洗浄装置4とを備える。なお、水洗大便器1においては、便器本体2に対して便器洗浄装置3が設けられる側を後側とし、その反対側を前側とし、便器本体2が設置される床面側を下側とし、その反対側を上側とし、前側から便器本体2に向かって左側を左側とし、同じく右側を右側とする(図1参照)。
便器本体2は、陶器製であり、上記のとおり腰掛式の便器であって、上側に開口するボウル部5を有する。ボウル部5は、便器本体2の前側の大部分を構成する。便器本体2においては、ボウル部5の外周縁を形成するリム部6により、上面7が形成される。
便器本体2の上面7は、全体的に略水平面に沿う面であって、前後方向を長手方向とする略楕円形状を有するとともに、後部の左右両側において後方に突出する部分を有する。便器本体2の上面7における後部の左右突出部分は、便器本体2のボウル部5を構成する左右両側の外壁部分のうち後側に延出された突出部分2aによって形成される。便器本体2の後部、つまりボウル部5の後側の部分においては、便器本体2に対して便器洗浄装置3の各種構成を搭載するための形状部分や、便器本体2の床面への設置に際して便器本体2を床面に固定するための形状部分等の各種形状部分が設けられている(図7参照)。
便器洗浄装置3は、便器本体2へ洗浄水を供給するための構成である。本実施形態の水洗大便器1では、便器洗浄装置3は、便器本体2への洗浄水の供給に関し、タンクに貯溜した水をポンプ等によって圧送して供給するいわゆるタンク式の給水を行うための構成と、水道水からの水を直接的に供給するいわゆる直圧式の給水を行うための構成とを備える。具体的には次のとおりである。
便器洗浄装置3は、タンク式の給水を行うための構成として、内蔵タンク8、加圧ポンプ9、給水パイプ10等を有する(図1、図6参照)。すなわち、便器洗浄装置3においては、タンク式の給水として、内蔵タンク8に貯溜された水を加圧ポンプ9によって給水パイプ10を通して便器本体2に圧送することが行われる。このように内蔵タンク8から便器本体2に加圧供給される洗浄水は、便器本体2においてボウル部5の下側の部分に供給され、主に汚物の排出に用いられる。
本実施形態では、内蔵タンク8は、便器本体2の後側において、右外側の位置に設けられる。加圧ポンプ9は、内蔵タンク8の左側であって、便器洗浄装置3において左右方向の略中央部に配置される。加圧ポンプ9は、水を加圧するためのインペラ等の回転体と、この回転体を回転駆動させるモータとを有する。給水パイプ10は、加圧ポンプ9の上側から、便器洗浄装置3の左右方向の中央位置に対して左寄りの位置において前側へ延設され、便器本体2に接続される。
便器洗浄装置3が有する内蔵タンク8には、水道水が供給されて貯溜される。その一方で、便器洗浄装置3は、上記のように水道水を直接的に便器本体2に供給する直圧式の給水を行う。このため、便器洗浄装置3は、水道水の供給を受けるバルブユニット11を有し、このバルブユニット11において、水道水の給水経路について、便器本体2への給水経路と内蔵タンク8への給水経路とを切り替える給水路切替弁を有する。このバルブユニット11が有する給水路切替弁により、水道水が、便器本体2または内蔵タンク8に対して選択的に供給される。
したがって、バルブユニット11が有する給水路切替弁の下流側においては、バルブユニット11から便器本体2に水道水を導くための便器用給水パイプ12と、バルブユニット11から内蔵タンク8に水道水を導くためのタンク用給水パイプ13とが設けられている。バルブユニット11が有する給水路切替弁は、その切替動作について電気的に制御される。
本実施形態では、バルブユニット11は、便器洗浄装置3における左右略中央部において、内蔵タンク8よりも上方の位置に設けられる。便器用給水パイプ12は、バルブユニット11から、給水パイプ10の左外側の位置において前側へ延設され、便器本体2に接続される。タンク用給水パイプ13は、バルブユニット11から右側に延設されて下方の内蔵タンク8に接続される。
このような構成を有する便器洗浄装置3においては、直圧式の給水として、バルブユニット11が有する給水路切替弁によって水道水の供給経路が便器本体2側への給水経路に切り替えられることにより、図示せぬ給水パイプからバルブユニット11に供給される水道水をその給水圧力をもって便器用給水パイプ12により便器本体2に供給することが行われる。このように水道から直接的に便器本体2に供給される洗浄水は、ボウル部5においてリム部6に沿うように設けられた吐水口5aから吐水され、主にボウル面の洗浄に用いられる。なお、便器洗浄装置3に対する水道水の給水経路においては、バルブユニット11が有する給水路切替弁の上流側に、給水路切替弁と共にバルブユニット11を構成する定流量弁や電磁開閉弁等が設けられ、さらにバルブユニット11の上流側には、止水栓やストレーナ等が設けられる。
また、便器洗浄装置3においては、バルブユニット11から便器用給水パイプ12へと続く給水路、およびバルブユニット11からタンク用給水パイプ13へと続く給水路に、バキュームブレーカ14が設けられている。バキュームブレーカ14は、バルブユニット11の上側に配置されている。バキュームブレーカ14により、バルブユニット11から便器本体2および内蔵タンク8それぞれに対する給水路における逆流が防止される。また、バキュームブレーカ14の大気開放部から溢れた洗浄水は、内蔵タンク8に接続された戻り管15によって内蔵タンク8に流入する。
また、便器洗浄装置3においては、内蔵タンク8内に貯溜される水に関し、その貯水量を適量に保つため、内蔵タンク8内の水位を検出するフロートスイッチ16が設けられている(図6参照)。フロートスイッチ16としては、例えば、内蔵タンク8内における満水時の水位を検出する上端側スイッチと、内蔵タンク8内における水位低下時の水位を検出する下端側スイッチとが設けられる。フロートスイッチ16は、例えばリードスイッチにより構成され、内蔵タンク8内においてあらかじめ設定された所定の水位位置に対する実際の水位の変動によってオン・オフ動作し、水位を検出する。フロートスイッチ16は、上記のとおり便器本体2の後側の右外側の位置に設けられる内蔵タンク8において、前側の部分に設けられる。
フロートスイッチ16の検出信号は、便器洗浄装置3が有するコントローラ(図示略)に送られる。このため、フロートスイッチ16とコントローラとは、図示せぬ信号線により互いに接続される。コントローラは、フロートスイッチ16からの検出信号に基づき、バルブユニット11や加圧ポンプ9等の動作を制御し、便器本体2に対する給水動作等に応じて、内蔵タンク8内の水位を調整する。したがって、便器洗浄装置3のコントローラに対しては、フロートスイッチ16のほか、バルブユニット11を構成する各種弁や加圧ポンプ9等が所定の配線によって接続される。便器洗浄装置3のコントローラは、水洗大便器1の使用者等によるボタン操作等により、あるいは使用者の動作を検知することにより、バルブユニット11を構成する各種弁を所定の順序で動作させ、上述したようなタンク式の給水および直圧式の給水を所定の順序で行う。
以上のように、本実施形態の水洗大便器1は、便器洗浄装置3において、便器本体2に対する洗浄水の供給方式としてタンク式の給水および直圧式の給水の両方を行うための構成を備えるが、便器洗浄装置としてはこのような構成のものに限定されない。便器本体2の後側に設けられる便器洗浄装置としては、便器本体2に対する洗浄水の供給方式として、本実施形態のようにタンク式および直圧式の両方を採用する構成のほか、タンク式および直圧式のいずれかのみを採用する構成が適宜採用される。
局部洗浄装置4は、水洗大便器1の使用者の局部を洗浄する局部洗浄機能を有する。局部洗浄装置4は、局部洗浄機能を発揮するための構成として、水洗大便器1の使用者の局部に対して水を噴射する洗浄ノズルや、この洗浄ノズルを進退動作させるためのモータや、洗浄ノズルに洗浄水を導くための配管等を有する。これらの洗浄ノズルやモータや配管等は、ケーシング20に内蔵される。
局部洗浄装置4において、洗浄ノズルは、ケーシング20に収納された状態から、使用時においてケーシング20の前面側から突出するように設けられる。つまり、洗浄ノズルは、便器本体2のボウル部5上において後側から前後方向に進退するように、ケーシング20に対して出没可能に設けられる。洗浄ノズルは、その先端部に設けられた吐水口から水を噴射し、水洗大便器1の便座に座った状態の使用者の局部を洗浄する。
また、局部洗浄装置4のケーシング20の内部には、例えば、便器本体2のボウル部5内の空気を吸い込んでフィルタや触媒などを介して臭気成分を低減させる脱臭機能部や、水洗大便器1の便座に座った状態の使用者の局部などに向けて温風を吹き付ける温風乾燥機能部や、水洗大便器1が設置されるトイレ室内に温風を吹き出してトイレ室を暖める室内暖房機能部などが適宜内蔵される。
このように、本実施形態の水洗大便器1においては、局部洗浄装置4として局部洗浄機能を発揮するための構成等を収納するケーシング20が、便器洗浄装置3を上側から覆うとともに便器本体2の後部上面を覆うカバー体に相当する。
具体的には、局部洗浄装置4のケーシング20は、図5に示すように、底面視で略矩形状の外形を有し、前部において、便器本体2のボウル部5の開口形状に対応して湾曲した形状の凹部20aを有する。凹部20aは、ケーシング20の前端部において左右略中央部に設けられる部分であって、上述したように略楕円形状であるボウル部5の開口を形成するリム部6の後端部の形状に沿って湾曲した凹面部である。この凹部20aにより、ケーシング20は、その底面形状において前部に凹状部を有する。
また、ケーシング20は、図3および図5に示すように、便器本体2の左右幅に対応して便器本体2と略同じ左右幅を規定する左右両側面20bを有する。また、ケーシング20の底面部20cにおいては、局部洗浄装置4が便器本体2および便器洗浄装置3を含む構成に対して取り付けられた際に、便器洗浄装置3の構成部品との干渉を避けて便器洗浄装置3の構成部品のケーシング20内へ一部入ることを許容する開口部20dが、便器洗浄装置3の構成部品の形状や配置等に応じて設けられている。
このような構成の局部洗浄装置4が、便器本体2および便器洗浄装置3を含む構成に対して、便器本体2の後方上側に配置された状態で設けられる(図2参照)。これにより、局部洗浄装置4の外装部分を構成するケーシング20は、便器本体2の後側に設けられた便器洗浄装置3を全面的に上側から覆うとともに、便器本体2の後部上面を上側から覆う。つまり、便器本体2の後部上面は、ケーシング20の前端部分によって覆われる。本実施形態において、便器本体2の後部上面としては、便器本体2の上面7のうちの後側の部分、即ち略楕円形状に沿うリム部6の後端部分の上面7aと、上述したように便器本体2が後部において有する左右両側の突出部分2aの上面7bとが該当する。
また、本実施形態の水洗大便器1は、図3に示すように、便器本体2のリム部6上に置かれた状態で使用される便座21と、便座21の上側から便座21および便器本体2ならびに局部洗浄装置4の大部分を覆う便蓋22とを有する。便座21および便蓋22は、その一端部が左右方向を回動軸方向として回動可能に支持されることで、開閉自在に支持される。
このように局部洗浄装置4のケーシング20上に便座21および便蓋22を有する水洗大便器1においては、図1に示すように、局部洗浄装置4と、局部洗浄装置4上に設けられた便座21および便蓋22とを含む一体的な構成が、便器本体2および便器洗浄装置3を含む構成に対して、上側から覆い被さった状態となるように組み付けられる。そして、便器本体2および便器洗浄装置3を含む構成に対して便座21および便蓋22が支持された局部洗浄装置4が組み付けられることで、上述したように便器本体2の後部上面と便器洗浄装置3とが局部洗浄装置4のケーシング20によって覆われた状態となる(図2参照)。このようにケーシング20によって便器本体2の後部上面と便器洗浄装置3とが覆われた状態は、図3に示すように便座21および便蓋22が開いた状態においても維持される。つまり、ケーシング20によって便器本体2の後部上面と便器洗浄装置3とが覆われた状態は、便座21および便蓋22の開閉にかかわらず維持される。
また、本実施形態の水洗大便器1においては、便器本体2の後側に設けられた便器洗浄装置3は、側面側からカバーパネル23によって覆われている(図3参照)。カバーパネル23は、便器本体2の後部に設けられた突出部分2aの後側に設けられ、便器洗浄装置3の各種構成、および上述したように便器本体2におけるボウル部5の後側の各種形状部分を側方から覆う。カバーパネル23は、便器本体2の側面を形成する部分、局部洗浄装置4のケーシング20、および閉じた状態の便蓋22とともに、水洗大便器1の一体的な外形形状をなす。
以上のように便器本体2の後部上面がカバー体としての局部洗浄装置4のケーシング20により覆われた構成の水洗大便器1においては、便器本体2の掃除を行うに際して便器本体2の後部上面を露出させてその上にスペースを確保するため、便器本体2の後部上面を覆う局部洗浄装置4のケーシング20が便器本体2の後部上面を露出すべく上昇可能に設けられている。つまり、局部洗浄装置4のケーシング20は、便器本体2および便器洗浄装置3を含む構成に対して、便座21および便蓋22と共に昇降可能に設けられている。
局部洗浄装置4のケーシング20を昇降させるための構成について説明する。本実施形態の水洗大便器1においては、ケーシング20は、手動操作によって動作する機械的な構造により昇降させられる。具体的には、本実施形態の水洗大便器1は、局部洗浄装置4のケーシング20を昇降させるための構成として、昇降機構30を備える。
図5に示すように、昇降機構30は、使用者等によって操作される操作部としてのハンドル31と、ハンドル31の操作によって動作する支持部材32と、ハンドル31の動作を支持部材32に伝達するための回動軸部33とを有する。
ハンドル31は、図3および図5に示すように、略矩形板状の外形を有する部材であり、便器本体2の右側の突出部分2aの後側において、便器本体2とケーシング20の下端縁とカバーパネル23の上端縁との間に設けられた凹部34に嵌り込んだ状態で設けられる。ハンドル31は、その略矩形板状の外形における長手方向を前後方向とした向きで、凹部34に嵌り込む。ハンドル31は、ケーシング20を昇降させるに際し、凹部34から引っ張り出され、回動操作される(図4参照)。
支持部材32は、ケーシング20の底面部20cの前側であって底面部20cの左右略中央部の位置に設けられる。支持部材32は、棒状ないしは柱状の部材であって、通常はケーシング20の底面部20cに沿って寝た状態(倒れた状態)にある。支持部材32は、ケーシング20を昇降させるに際し、回動することでケーシング20の底面部20cに対して起き上がるように動作し、底面部20cに対して立った状態、つまり底面部20cから下側に向けて突出した態様となる。このような支持部材32の起立動作が、ハンドル31の操作と連動して行われる。
支持部材32は、ケーシング20の底面部20cに対して立った状態で、便器本体2のボウル部5の後側に設けられたガイドプレート35により支持される。つまり、支持部材32は、底面部20cからの突出側の先端部をガイドプレート35の上面に当接させた状態で、便器本体2に対してケーシング20を支持する。
ガイドプレート35は、全体として略板状の部材であり、便器本体2のボウル部5の後側において左右中央部に設けられる。つまり、ガイドプレート35は、便器本体2がその後部において有する左右の突出部分2aの間において、板面が略水平面に沿うようにかつ便器本体2の上面7と略同じ高さ位置となるように設けられる。
ガイドプレート35は、便器本体2のボウル部5の後面部(リム部6の後端部)において後方に向けて突出する支持突部2b上に載置された状態で支持突部2bに対して固定される(図7参照)。本実施形態では、ガイドプレート35は、ガイドプレート35および支持突部2bのそれぞれにおいて左右方向に所定の間隔を隔てて設けられた固定用の孔部が用いられ、ボルト等の締結具により、支持突部2bに固定される。なお、本実施形態では、ガイドプレート35は便器本体2とは別体の部材であるが、ガイドプレート35に相当する構成が陶器製の便器本体2の一部分として設けられてもよい。ガイドプレート35は、後述するように、昇降するケーシング20に対して位置決め部として作用する。
回動軸部33は、ハンドル31と支持部材32とを互いに連結させ、ハンドル31と支持部材32とを連動させる。回動軸部33は、軸状ないしは棒状の部分であって、ケーシング20の底面部20cの下側において左右方向に沿って配される。回動軸部33の右側の部分は、ケーシング20の右側の縁部まで延設され、回動軸部33の右側の端部が、ハンドル31の一端部に固定される。また、回動軸部33の左側の部分は、ケーシング20の左右中央位置よりも左側まで延設され、回動軸部33の左側の部分の中途部に、支持部材32が固定される。
回動軸部33は、ケーシング20の底面部20cに設けられる支持ユニット36により、軸方向(長手方向)を回動軸方向として回転可能に支持される。支持ユニット36は、底面部20cにおいて左右略中央部に設けられ、回動軸部33の回動にともなう支持部材32の動作を許容するとともに、回動軸部33を部分的に覆った状態で回動軸部33を底面部20cに対して回動可能に支持する。また、回動軸部33は、支持ユニット36により、上述したように凹部34に嵌り込んだ状態のハンドル31を回動操作可能な位置まで引っ張り出すことができるように、軸方向(左右方向)について所定の範囲で移動可能に支持される。
このように回動可能かつ軸方向に移動可能に設けられる回動軸部33により、ハンドル31が凹部34から引き出し可能かつ引き出された状態で回動可能に支持される。そして、回動軸部33にハンドル31および支持部材32が固定されていることから、ハンドル31が回動することにともなって回動軸部33もハンドル31と一体的に軸回動し、この回動軸部33の回動とともに支持部材32も回動軸部33と一体的に回動する。
以上のような構成を備える昇降機構30によって昇降させられるケーシング20は、その後端部が便器洗浄装置3の後部に対して支持されることで、後端部の支持部分を中心として前側から上昇するように回動可能に設けられる。
具体的には、ケーシング20は、底面部20cの後部の左右両角部において下方に突出するように設けられた支持固定具37(図5参照)が便器洗浄装置3の後部に設けられた支持孔部38(図6参照)に固定されることで、便器洗浄装置3に対して前側から上昇するように回動可能に取り付けられる。このように回動可能に支持されるケーシング20は、便器本体2の後部上面を覆った状態から、回動動作によって上昇することで、便器本体2の後部上面に対して前側から離間して前上がりの斜めの状態となり、便器本体2の後部上面を露出させてその上にスペースを生じさせる。
このように前側から上昇するように回動動作するケーシング20に対しては、上述したように便器本体2のボウル部5の後側に設けられるガイドプレート35が、位置決め部として作用する。
具体的には、ガイドプレート35上には、上方に向けて突出する嵌合凸部35aが設けられている(図6参照)。本実施形態では、嵌合凸部35aは、左右方向に所定の間隔を隔てた2箇所に設けられている。この嵌合凸部35aに対して、ケーシング20の底面部20cには、嵌合凸部35aが嵌り込む嵌合凹部36aが設けられる。本実施形態では、嵌合凹部36aは、上述したように昇降機構30の回動軸部33を支持する支持ユニット36において、嵌合凸部35aに対応する位置に設けられる。
このようにガイドプレート35側に設けられた嵌合凸部35aとケーシング20側に設けられた嵌合凹部36aとの嵌合作用により、後端部の支持部分を回動中心とするケーシング20の回動動作がガイドされる。これにより、ケーシング20が上昇した状態から元の状態に戻った際におけるケーシング20の位置ずれが防止される。
また、上述したように昇降するケーシング20の底面部20cには、パッキン39が設けられている(図5参照)。パッキン39は、底面部20cの前端縁の形状に沿う突条部分として設けられる。したがって、パッキン39は、ケーシング20の凹部20aの形状に沿う湾曲部と、この湾曲部の左右両側に設けられ底面部20cの前側の辺部に沿う直線部とを有する。パッキン39は、例えばゴム等の弾性を有する材料により形成されている。
パッキン39は、ケーシング20の前部によって覆われる便器本体2の後部上面に対応する位置に設けられる。つまり、ケーシング20が便器本体2の後部上面を覆った通常の位置(上昇してない位置)にある状態においては、パッキン39は、ケーシング20の底面部20cと便器本体2の後部上面との間に挟まれ、圧縮変形した状態となる。これにより、ケーシング20が通常の位置にある状態において、パッキン39によってケーシング20と便器本体2との間の密閉性が得られ、便器本体2側から便器洗浄装置3側への水等の浸入が防止される。
以上のように局部洗浄装置4のケーシング20が昇降可能に設けられた構成におけるケーシング20の昇降操作について説明する。図3および図5(a)に、ケーシング20が通常の位置にある状態を示す。また、図4および図5(b)に、ケーシング20が上昇した状態を示す。なお、以下の説明では、水洗大便器1において、ケーシング20が通常の位置にある状態を「通常状態」とする。
図3および図5(a)に示すように、通常状態においては、ケーシング20は、便器本体2の後部上面および便器洗浄装置3を上側から覆った状態にあり、ケーシング20の底面部20cに設けられたパッキン39は底面部20cと便器本体2の後部上面との間で圧縮変形した状態となる。また、通常状態においては、昇降機構30を構成するハンドル31は、水洗大便器1において右側の側面に設けられる凹部34に嵌り込んだ状態にあり、同じく昇降機構30を構成する支持部材32は、ケーシング20の底面部20cに沿って倒れた状態にある。
このような通常状態から、ケーシング20を上昇させるに際しては、まず、ハンドル31が凹部34から引き出される。つまり、ハンドル31が、凹部34に嵌り込んだ状態から、右方向に引き出される(図3、矢印A1参照)。ハンドル31が凹部34から引き出されることにともない、回動軸部33および支持部材32もハンドル31と一体的に右側に移動する。
凹部34から引き出されたハンドル31は、回動軸部33の軸方向を回動軸方向として回動操作される。具体的には、引き出された状態で長手方向を前後方向とするハンドル31が、右側面視で右回りに略90°回動させられる(図4、矢印A2参照)。これにより、ハンドル31は、その長手方向が上下方向に沿った状態となる。
このようなハンドル31の回動操作によってハンドル31が回動することで、回動軸部33および支持部材32がハンドル31と一体的に回動し、支持部材32がケーシング20の底面部20cに対して立った状態となる。ここで、支持部材32は、倒れた状態から立った状態となる過程において、先端部をガイドプレート35の表面に当接させた状態で摺動する。こうした支持部材32の回動にともなうガイドプレート35に対する摺動については、良好な動作性(摺動性)が得られるように、支持部材32およびガイドプレート35の材料が樹脂等とされたり、支持部材32の先端部の形状が曲面形状とされたりする。
このようなハンドル31の回動にともなう支持部材32の回動動作により、図4および図5(b)に示すように、便器本体2の後部上面を覆った状態のケーシング20がその後部を回動支点とする回動動作によって上昇する。つまり、ケーシング20が、便器本体2の後部上面に対して前側から離間して前上がりの斜めの状態となる(図4、矢印A3参照)。これにより、通常状態においてケーシング20により覆われる便器本体2の後部上面が露出した状態となり、便器本体2の後部上面の上にスペースが生じる。
このように、本実施形態の水洗大便器1が備える昇降機構30によれば、ハンドル31の操作によって支持部材32がその先端部をガイドプレート35の上面に当接させた状態となることで、ケーシング20が上昇した状態で支持される。つまり、ケーシング20が上昇した状態においては、昇降機構30の支持部材32が支え棒として機能し、ケーシング20がガイドプレート35を介して便器本体2に対して支持された状態となる。
以上のように局部洗浄装置4のケーシング20が上昇可能に設けられた構成によれば、通常は便器本体2の後部上面を覆った状態のケーシング20をハンドル31の操作によって上昇させることで、便器本体2の後部上面とケーシング20との間に生じたスペースにより、便器本体2の後部上面を水や洗剤等を用いて掃除することができる。なお、上昇した状態のケーシング20を元の状態に戻す際は、ハンドル31を、ケーシング20を上昇させる際とは反対方向に回動させ、凹部34に押し込む操作が行われる。
以上のように、本実施形態の水洗大便器1は、手動操作される昇降機構30によって局部洗浄装置4のケーシング20が昇降する構成を有する。そして、ケーシング20の上昇の態様は、ケーシング20がその後部を回動支点とする回動動作によって前上がりの斜めの状態となるというものである。
なお、ケーシング20を上昇させるための構成およびケーシング20の上昇の態様は、ケーシング20が便器本体2の後部上面を露出すべく上昇可能に設けられた構成であれば、特に本実施形態に限定されるものではない。したがって、ケーシング20を上昇させるための構成としては、例えば、モータ等の駆動源によってケーシング20を自動的に昇降させる構成であってもよい。また、ケーシング20の上昇の態様としては、例えば、ケーシング20が通常状態における姿勢を保ったまま、つまり水平状態を維持しながら上昇するというものであってもよい。
以上のような構成を備える本実施形態の水洗大便器1においては、ケーシング20を上昇させて便器本体2の掃除を行う際、飛散した水が、上昇した状態のケーシング20と便器本体2の後部上面との間に生じたスペース(以下「便器後部上スペース」という。)40から便器本体2の後側の便器洗浄装置3側へと浸入するという現象が生じる。便器後部上スペース40から浸入した水は、便器洗浄装置3を構成する各種部品に付着した場合、部品の劣化や腐食、あるいは電気部品についてはショート等の電気的な不具合の原因となり得る。
そこで、本実施形態の水洗大便器1は、便器洗浄装置3の一部を覆うカバー部材としての表面カバー50を備える。つまり、図1および図6に示すように、水洗大便器1においては、便器洗浄装置3において便器後部上スペース40から浸入した水がかかりやすい前側の部分に対して、当該部分を覆う表面カバー50が設けられている。以下の説明では、便器洗浄装置3において表面カバー50によって覆われる部分を「カバー被覆部分」という。
図8〜図10に示すように、本実施形態に係る表面カバー50は、基本的には便器洗浄装置3が有する各種構成部品の形状および配置に対応してカバー被覆部分の形状に倣った凹凸形状を有する。表面カバー50は、主に、カバー被覆部分を上側から覆う板状の部分である上側カバー部と、カバー被覆部分を前側から覆う板状の部分である前側カバー部とを有する。表面カバー50は、便器洗浄装置3に対して上側から装着されることで(図6、矢印B1参照)、カバー被覆部分を覆った状態となる(図1参照)。
表面カバー50は、便器洗浄装置3の一部を覆った状態で、ケーシング20の上昇動作に連動しないように設けられる。つまり、表面カバー50は、ケーシング20が上昇した際、ケーシング20とともに上昇することなく便器洗浄装置3の一部を覆った状態を維持するように設けられる。本実施形態では、表面カバー50は、便器洗浄装置3に対して固定され所定の位置に位置決めされた状態で設けられることで、ケーシング20の上昇動作に連動しないように設けられる。表面カバー50の固定には、例えば、接着テープ等が用いられる。また、表面カバー50の位置決めには、表面カバー50の弾性変形によるカバー被覆部分に対する係止作用や、表面カバー50が有するカバー被覆部分の形状に倣った凹凸形状によるカバー被覆部分に対する嵌合作用等が用いられる。このように、表面カバー50は、上述したようなケーシング20の昇降動作に連動することなく、便器洗浄装置3の一部を覆うとともに便器洗浄装置3に対して固定された状態で設けられる。
表面カバー50は、例えば樹脂やゴム等の比較的弾性変形しやすい材料により形成される。また、表面カバー50の材料としては、表面カバー50において透明性が得られる材料が用いられる。表面カバー50は、例えば真空成形等の手法が用いられることで、一体の部材として形成される。表面カバー50の材料としては、洗剤等に対する耐薬品性やコストの面から、例えばポリプロピレンが好適に用いられる。
表面カバー50は、便器本体2と便器洗浄装置3との間において、便器本体2の後部に設けられたガイドプレート35を、平面視で、ガイドプレート35の前側以外、つまりガイドプレート35の左右両側から後側にかけて囲むような位置および態様で設けられる(図1参照)。すなわち、表面カバー50は、平面視において、便器本体2のリム部6の後端部とともにガイドプレート35の周囲を囲むような態様で設けられる。したがって、表面カバー50は、概略的には平面視で前側が凹んだ凹状の外形を有し、この凹状の平面視形状における凹み部分に、ガイドプレート35を位置させる。
このような表面カバー50は、概略的には、ガイドプレート35の右側に位置する右カバー部51と、ガイドプレート35の左側に位置する左カバー部52と、右カバー部51と左カバー部52とを繋ぐ部分であってガイドプレート35の後側に位置する中間カバー部53とを有する。これらの右カバー部51、左カバー部52、および中間カバー部53は、各配置位置において便器洗浄装置3の構成部品を覆う。本実施形態の水洗大便器1において、各カバー部による被覆の態様は、具体的には次のとおりである。
右カバー部51は、便器本体2の後側において右外側の位置に設けられる内蔵タンク8の前側の部分を覆う。右カバー部51により覆われる部分には、例えば、上述したように内蔵タンク8において前側の部分に設けられるフロートスイッチ16が位置する(図6参照)。また、左カバー部52は、加圧ポンプ9の上側から便器洗浄装置3の左寄りの位置において前側へ延設されて便器本体2に接続される給水パイプ10の前側の部分を覆う。また、中間カバー部53は、内蔵タンク8の左側であって便器洗浄装置3における左右方向の略中央部に配置される加圧ポンプ9が位置する部分を覆う。また、表面カバー50において右カバー部51から中間カバー部53にわたる部分の下方の位置には、フロートスイッチ16からコントローラへの信号線が配されている。
このような態様で、右カバー部51、左カバー部52、および中間カバー部53を有する表面カバー50により、カバー被覆部分における各カバー部が対応する範囲が被覆される。なお、カバー被覆部分には、上述したように表面カバー50の各カバー部により被覆される構成として例示した構成のほか、便器洗浄装置3を構成する配管や電気部品等の各種部品が含まれる。また、表面カバー50においては、右カバー部51および左カバー部52の前端部分は、リム部6の後端部や左右両側の突出部分2a等が存在する便器本体2の後側の形状に沿うような形状を有する。
以上のように、本実施形態の水洗大便器1においては、便器洗浄装置3の一部を覆う表面カバー50を備えることで、ケーシング20の上昇時において便器本体2の掃除を行った際に飛散した水が便器後部上スペースから便器洗浄装置3の構成部品にかかることが防止される。したがって、便器後部上スペースから便器洗浄装置3側に浸入した水により、便器洗浄装置3の構成部品の劣化や腐食、あるいは電気部品についてのショート等の電気的な不具合が防止される。
なお、表面カバー50の構成は、本実施形態で示した構成に限定されるものではなく、例えば次に示すような構成が適宜採用される。本実施形態の表面カバー50は、便器洗浄装置3の前側の一部を覆う構成であるが、表面カバー50としては、便器洗浄装置3を全体的に覆う構成のものであってもよい。つまり、表面カバー50は、便器洗浄装置3の少なくとも一部を覆うものであればよい。
また、本実施形態の表面カバー50は、一体の部材であるが、表面カバー50としては、複数の部材に分割された構成のものであってもよい。ただし、表面カバー50についての組立て作業性や部品管理等の観点からは、表面カバー50は一体の部材である構成が好ましい。
また、本実施形態の表面カバー50は、ポリプロピレン等を材料として透明性を有するが、表面カバー50としては透明性を有しない部材であってもよい。ただし、表面カバー50に透明性を持たせることにより、水洗大便器1の出荷時の便器洗浄装置3における漏水検査等の各種検査において、表面カバー50により覆われた部分についての目視確認を容易に行うことができるといったメリットが得られる。また、表面カバー50の材料としては、上記のとおり耐薬品性やコストの面からポリプロピレンが好ましいものの、その材料は特に限定されるものではない。
以上のように表面カバー50を備える構成によれば、ケーシング20の上昇時に便器後部上スペースから浸入した水が便器洗浄装置3の構成部品に付着することを防止することができるが、その一方で、便器後部上スペースから便器洗浄装置3側へと水が浸入することにより、便器本体2の上面7の後端縁から水が滴り落ちるといった問題がある。このように便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水は、仮に床面に落下した場合、その落下位置が便器本体2と便器洗浄装置3との間の位置という使用者が気付き難い位置であることから、床面に落下した状態で放置されやすく、場合によっては床を腐らせたり臭いの原因となったりする。
そこで、本実施形態の水洗大便器1においては、便器本体2と便器洗浄装置3との間に、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を受ける水受け部60が設けられている。本実施形態では、水受け部60は、一体成形品である表面カバー50の一部として、表面カバー50の前端部に設けられている。
図8〜図13に示すように、水受け部60は、便器本体2の上面7を形成する部分の後端の形状に沿うように設けられる樋状の構成である。水受け部60は、便器本体2の上面7の後端縁の下方の位置であって床面よりも上方の位置に設けられ、便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に浸入する水のうち主に便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を、床面よりも上方の位置で受け止めて捕獲する。すなわち、水受け部60は、便器本体2の上面7の後端縁から便器本体2の後側の壁面を伝って落ちる水が床面に達するまでの経路上における所定の位置に設けられ、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を床面に達する前にキャッチする。
水受け部60は、表面カバー50において前端の下端部に設けられる。また、水受け部60は、表面カバー50において、右カバー部51および左カバー部52それぞれの前端部に設けられる。すなわち、水受け部60は、表面カバー50において、リム部6の後端部や左右両側の突出部分2a等が存在する便器本体2の後側の形状に沿うような形状を有する右カバー部51および左カバー部52の前端部分に設けられる。
水受け部60は、略水平方向に沿う底面部61と、この底面部61の端部から立設した状態で設けられる壁部62とを有する。水受け部60においては、底面部61により水が受け止められ、その受け止められた水の落下が壁部62により規制される。水受け部60は、具体的には、本実施形態の場合、便器本体2の後側に設けられるガイドプレート35の左右両側において、便器本体2のリム部6の後端部の形状に沿う部分(図9、符号60a参照)と、かかる部分の左右外側に設けられ、便器本体2の左右の突出部分2aの形状に沿う部分(同図、符号60b参照)とを有する。
以上のように便器本体2と便器洗浄装置3との間に水受け部60を備える本実施形態の水洗大便器1によれば、腰掛式の便器本体2の後部上面を覆うケーシング20を上昇可能に設けた構成において、便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に浸入した水が床面に滴り落ちることを防止することができる。すなわち、ケーシング20を上昇させて便器本体2の上面7を掃除した際に、便器本体2と便器洗浄装置3との間において便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水が水受け部60によって受け止められることにより、便器本体2と便器洗浄装置3との間において床面を濡らすことを防止することができる。これにより、使用者が気付き難い位置である便器本体2と便器洗浄装置3との間の床面を濡らす水によって床面が腐食したり臭いが生じたりするといった不具合を防止することができる。
また、本実施形態の水洗大便器1のように、水受け部60が表面カバー50の一部として設けられる構成によれば、水受け部60を設けるために別途部品を用いる必要がなく、また、表面カバー50を便器洗浄装置3に組み付けることによって水受け部60が自動的に設けられることになる。このため、本実施形態の水洗大便器1によれば、水受け部60を設けない場合の構成に対して部品点数や製造工程の工程数を増加させることなく、水受け部60を設けることができる。
また、本実施形態の水洗大便器1においては、上述したように表面カバー50がケーシング20の昇降動作にかかわらず便器洗浄装置3に対して固定された状態で設けられる構成であることから、ケーシング20が上昇させられることによっても、表面カバー50の一部として設けられる水受け部60を所定の配置位置に保持することができる。つまり、表面カバー50がケーシング20の上昇動作に連動しないように設けられることから、表面カバー50の一部として設けられる水受け部60がケーシング20の上昇時に上昇しないという作用が得られる。これにより、水受け部60の配置位置が、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を受け止める所定の配置位置からずれることがなく、便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に浸入した水が床面に滴り落ちることをより確実に防止することができる。
なお、水受け部60は、本実施形態のように表面カバー50の一部としてではなく、他の部品の一部として設けられたり、水受け部60専用の部品によって構成されたりしてもよい。
以下では、本実施形態の水洗大便器1が備える水受け部60の詳細な構造について、図8〜図13を用いて説明する。なお、図11は、図6におけるA−A位置の一部拡大矢視断面図であり、図12は、図6におけるB−B位置の一部拡大矢視断面図である。
本実施形態の水受け部60は、便器本体2の後部における所定の部分の形状との関係により規定される形状部分を有する。具体的には、便器本体2は、便器本体2の後部において水受け部60の形状を規定する所定の部分として、後方に向けて庇状に突出した後方突出部70を有する(図7参照)。
後方突出部70は、便器本体2の後部上面を形成する部分である。本実施形態では、便器本体2は、後方突出部70として、略楕円形状に沿うリム部6の後端部分の上面7aを形成する中央後方突出部71と、中央後方突出部71の左右両側に設けられ、便器本体2の後部の左右両側の突出部分2aの上面7bを形成する左右後方突出部72とを有する。
中央後方突出部71は、リム部6の後端部分の形状に沿って平面視で略円弧形状に沿う態様で庇状に突出した形状を有する。左右後方突出部72は、それぞれ突出部分2aの形状に沿って平面視で後側にかけて左右方向の外側に向かう態様で庇状に突出した形状を有する。なお、上述したように便器本体2においてガイドプレート35が固定される支持突部2bは、後方突出部70としての中央後方突出部71の後端面から後方に向けて突出するように設けられる(図7参照)。
このように便器本体2がその後部において有する後方突出部70は、便器本体2の後側の上端部において、便器本体2の上面7の後端部分を形成するとともに庇状に突出した部分であり、便器本体2における後方突出部70直下の壁面(壁面2c)に対して段差を形成する部分である。したがって、後方突出部70は、便器本体2の上面7の後端部分と、上面7の後端(外周端)から下方に連続する面であって後方突出部70の突出側の端面となる後端面73と、後端面73の下端から前側に連続する下面74とを有する。後方突出部70の後端面73は、下側が後側(図13において右側)に向かう傾斜を有する。また、後方突出部70の下面74は、便器本体2の後側の壁面のうち後方突出部70の下側の部分の壁面2cと後端面73との間に段差を形成する面であって、略水平面として形成される面である。
ここで、後方突出部70の上面となる便器本体2の上面7の後端部分は、中央後方突出部71の場合はリム部6の後端部分の上面7aであり、左右後方突出部72の場合は突出部分2aの上面7bである。また、後方突出部70の下面74については、中央後方突出部71においてはリム部6の後端部分の上面7aの反対側を向く面となり、左右後方突出部72については突出部分2aの上面7bの反対側を向く面となる。
このように、便器本体2は、便器本体2の後部上面を形成する部分として、後方に向けて庇状に突出した後方突出部70(中央後方突出部71および左右後方突出部72)を有する。そして、この便器本体2が有する後方突出部70の形状に対応して、水受け部60が設けられる。
具体的には、図11〜図13に示すように、水受け部60は、後方突出部70の直下に位置するように設けられる。つまり、水受け部60は、水洗大便器1を鉛直上方から見た場合に後方突出部70に隠れる位置に設けられる。したがって、水受け部60は、その底面部61を、後方突出部70の下面74に対向させた状態となる。また、水受け部60においては、底面部61に対して、庇状の後方突出部70の下方において奥側(壁面2c側、図13において左側)の縁部、および手前側(表面カバー50の本体側、図13において右側)の縁部に、壁部62が設けられる。
本実施形態のように表面カバー50の一部として表面カバー50の前端部において水受け部60が設けられる構成において、表面カバー50は、水受け部60を構成する部分として、便器洗浄装置3を前側から覆う前壁部54と、この前壁部54の下端部にて前壁部54と共に樋状の凹部65を形成する樋形成部55とを有する。そして、表面カバー50は、樋状の凹部65が後方突出部70の下方に位置するように設けられている。
前壁部54は、上記のとおり表面カバー50においてカバー被覆部分を前側から覆う前側カバー部のうち、水受け部60が設けられる右カバー部51および左カバー部52が有する前側カバー部を構成する部分である。したがって、本実施形態の表面カバー50においては、前壁部54として、便器本体2の中央後方突出部71の形状に沿う部分と、左右後方突出部72の形状に沿う部分とが存在する。
詳細には、図8〜図10に示すように、右カバー部51における前壁部54(54A)は、中央後方突出部71の形状に沿って左前側を向く壁部分と、左右後方突出部72に沿って右前側を向く壁部分とを有する。また、左カバー部52における前壁部54(54B)は、中央後方突出部71の形状に沿って右前側を向く壁部分と、左右後方突出部72に沿って左前側を向く壁部分とを有する。このように、前壁部54について、便器洗浄装置3を前側から覆うことは、右前側や左前側を向く壁面によって便器洗浄装置3を覆うことを含む。また、前壁部54は、下側が前側(表面カバー50において外周側、図13において左側)に向かう傾斜を有する。つまり、前壁部54の前面54aは、下側が前側に向かう斜面として形成される。
樋形成部55は、略水平面に沿うように形成される底板部55aと、底板部55aの奥側(図13において左側)の縁部に沿って設けられる縁壁部55bとを有する。樋形成部55は、底板部55aおよび縁壁部55bによって断面視で略L字状をなす部分であり、前壁部54と共に、断面視で略鉤状となる樋状の凹部65を形成する。つまり、樋形成部55の縁壁部55bは、その内壁面55cを、前壁部54の前面54aに対向させ、前壁部54と、前壁部54の下端から前側に延設される底板部55aとともに、樋状の凹部65を形成する。
このように前壁部54と樋形成部55とによって形成される樋状の凹部65においては、樋形成部55の底板部55aが、水受け部60の底面部61を形成する部分となり、樋形成部55の縁壁部55bが、底面部61に対して奥側(図13において左側)に設けられる壁部62を形成する部分となる。また、前壁部54が、底面部61に対して手前側(図13において右側)に設けられる壁部62を形成する部分となる。水受け部60において奥側の壁部62をなす縁壁部55bは、手前側の壁部62をなす前壁部54に対して高さが低い壁部である。
このように前壁部54と樋形成部55とによって形成される樋状の凹部65を有する表面カバー50は、前壁部54を後方突出部70の後端面73に対向させるとともに、樋状の凹部65の部分を後方突出部70の下側に潜り込ませた状態で設けられる。これにより、水受け部60を構成する樋状の凹部65の部分が、後方突出部70の鉛直方向の下方に位置することになる。詳しくは、本実施形態では、樋状の凹部65は、後方突出部70により形成される便器本体2の上面7の後端縁の下方に位置する(図13参照)。
以上のような表面カバー50および水受け部60の構成によれば、便器本体2の後側において庇状に突出する後方突出部70に対して鉛直方向の下方に、水受け部60の樋状の凹部65が配置されることから、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を確実に樋状の凹部65で受けることができる。このため、便器本体2と便器洗浄装置3との間において便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水が床面を濡らすことを確実に防止することができる。
また、表面カバー50の一部として水受け部60を設ける構成を採用する本実施形態の水洗大便器1は、表面カバー50の装着状態に関し、便器本体2の後方突出部70との関係において表面カバー50の弾性を利用した次のような構成を備える。すなわち、表面カバー50は、凹部65を構成する前壁部54が便器本体2の後方突出部70に対して後側から押し付けられることで弾性変形した状態で設けられている。かかる構成について、図13を用いて具体的に説明する。
上述したように樋状の凹部65を便器本体2の後方突出部70の下方に潜り込ませる態様で設けられる表面カバー50において、樋状の凹部65の一部を構成する前壁部54は、下側が前側(図13において左側)に向かう傾斜を有する。このように傾斜した前壁部54が、その前面54aに後方突出部70の下端部を当接させた状態で、後方突出部70に押し付けられる。言い換えると、後方突出部70は、その下端部において、傾斜面である前面54aを有する前壁部54の接触を受ける。ここで、前壁部54が接触する後方突出部70の下端部は、後方突出部70において後端面73と下面74との間に形成される稜線部分である。
本実施形態では、前壁部54の前面54aに対向する後方突出部70の後端面73も、前面54aの傾斜に応じるように、下側が後側(図13において右側)に向かう傾斜を有する。したがって、後方突出部70の下端部に前壁部54が接触した状態においては、後方突出部70の後端面73と前壁部54の前面54aとは、下側にかけて徐々に互いの間の距離を縮め、断面視で略V字状をなした状態で互いに接触する。
以上のような態様で表面カバー50の前壁部54が後方突出部70に対して後側から押し付けられた状態が、表面カバー50の弾性を利用することで得られる。すなわち、前壁部54を後方突出部70の下端部に当接させた状態の表面カバー50は、その自然状態での形態に対して、前壁部54の部分が後側(表面カバー50において内側、図13において右側)に押し込まれるように弾性変形した状態(撓んだ状態)となっている。このように弾性変形した状態の表面カバー50において生じる弾性による復元力により、前壁部54が後方突出部70に押し付けられる。
したがって、表面カバー50は、その前壁部54が後方突出部70に押し付けられることによる弾性変形が解放された自然状態では、例えば図13において2点鎖線で示すように、前壁部54の部分を後方突出部70に接触する位置よりも前側に位置させることになる。このように、表面カバー50は、その弾性により、自然状態の形態に対して、前側から後方突出部70に押されることで前壁部54の部分を屈曲ないしは湾曲させた形態に変形し、便器本体2の後方突出部70に対して後側から押し付けられた状態で設けられる。
以上のように表面カバー50の弾性によって樋状の凹部65の一部を構成する前壁部54の部分を後方突出部70に押し付ける構成によれば、表面カバー50が本来有する弾性によって得られる力により、樋状の凹部65を構成する前壁部54を後方突出部70に確実に当接させることができる。また、表面カバー50の弾性変形をともなって前壁部54を後方突出部70に対して押し付けた状態で当接させることで、陶器製の便器本体2の一部である後方突出部70について製造時の形状誤差に起因して生じる後方突出部70と前壁部54との間の隙間を減殺することができる。
このように前壁部54を後方突出部70に確実に当接させることができることにより、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を後方突出部70と前壁部54との当接部分で受け、この当接部分を通過してさらに落ちる水を、樋状の凹部65へと導くことができる。結果として、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水が意図せぬ場所に落下することを防ぐことができ、確実に水受け部60で水を受けることができる。なお、前壁部54に対する後方突出部70の当接部分は、全体的に密着した状態ではなく、後方突出部70および前壁部54が有する形状誤差により生じる互いの間の隙間等により水が通過することを許容する。
また、図8〜図10に示すように、本実施形態の表面カバー50は、左右両側の端部に、排水溝57を有する。排水溝57は、表面カバー50の左右両端部において、樋状の凹部65を左右方向の外側に向けて延設させて開口させる部分であり、左右方向外側に樋状に突出する部分である。表面カバー50の右側の端部に設けられる排水溝57は、右カバー部51の前端部に設けられた樋状の凹部65の右側の端部から、右方向に向けて突出するように設けられる。また、表面カバー50の左側の端部に設けられる排水溝57は、左カバー部52の前端部に設けられた樋状の凹部65の左側の端部から、左方向に向けて突出するように設けられる。
排水溝57は、樋状の凹部65を構成する底板部55aに連続する底板部57aと、樋状の凹部65を構成する縁壁部55bに連続する前側壁部57bと、前側壁部57bの後側において前側壁部57bに略平行に対向するように設けられる後側壁部57cとを有し、その突出側の端部が開口された形状を有する。また、排水溝57を構成する前側壁部57bと後側壁部57cとは、互いに略同じ高さを有する。したがって、排水溝57は、側面視で略U字状となる樋状の形状を有する。
このように表面カバー50の左右両側の端部に設けられる排水溝57は、表面カバー50が便器洗浄装置3に装着された状態において、便器本体2の後側と便器洗浄装置3との間のスペースに位置する。また、排水溝57は、その先端が便器本体2の左右両側の端部近傍に達する程度の長さを有する。
具体的には、本実施形態では、排水溝57は、便器洗浄装置3の側面を覆うカバーパネル23の内側において、便器本体2の左右両側の突出部分2aの後側に位置する。例えば、右側の排水溝57は、便器本体2の右側の突出部分2aと便器洗浄装置3の内蔵タンク8との間に位置し、先端部を右側方に臨ませる(図6参照)。
以上のように表面カバー50が排水溝57を有する構成によれば、水受け部60により捕獲する水に関し、その水量によっては排水溝57から水を排出することが可能となる。水受け部60においては、捕獲した水の量が比較的少ない状態では、捕獲した水はその捕獲された場所に留まり、そのまま放置されることによって蒸発する。これに対し、水受け部60により捕獲される水の量が比較的多い場合、捕獲した水は樋状の凹部65に溜まり、樋状の凹部65から溢れる水は排水溝57から排出される。
このように、排水溝57を有する表面カバー50によれば、便器本体2と便器洗浄装置3との間の部分については、水受け部60によって便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を捕獲して床面を濡らすことを防止することができるとともに、便器後部上スペース40から大量の水が浸入した場合等においては、排水溝57から水を排水することができる。排水溝57から排出される水は、水洗大便器1において左右両外側部分に落ちることになるので、排水溝57から排出される水によって濡れる床面の位置は、使用者等が気付きやすい位置となる。
したがって、排水溝57から排水される水により、便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に水が浸入し、その水の量がある程度まとまった量であることを使用者等に報知させることができる。また、樋状の凹部65にある程度の量の水が溜まると、排水溝57から排水されることになるので、樋状の凹部65に水が溜まった状態を回避することができる。ここで、排水溝57から排水される水は、使用者等が気付きやすい位置に落ちるため、使用者等によってすぐに拭き取られ、床面に落ちた状態で放置され難い。
また、水受け部60により捕獲した水を水洗大便器1の左右両外側に導く観点からは、水受け部60の底面部61、つまり樋状の凹部65の底板部55aは、表面カバー50の左右両外側に向けて下るように傾斜させてもよい。本実施形態においてこのような構成を採用した場合、右カバー部51に設けられる樋状の凹部65の底板部55aは、右側にかけて下るような斜面部として形成され、左カバー部52に設けられる樋状の凹部65の底板部55aは、左側にかけて下るような斜面部として形成される。
このように水受け部60の底面部61が傾斜した構成は、例えば、樋状の凹部65の底板部55aが縁壁部55bとともに表面カバー50の左右両外側に向けて下るように傾斜した部分として設けられることにより実現される。この場合、表面カバー50は、図10に示すような正面視において、右カバー部51が有する樋状の凹部65と、左カバー部52が有する樋状の凹部65とが略ハ字状をなす態様となる。
このように水受け部60の底面部61が左右方向に傾斜した構成を採用することにより、水受け部60によって捕獲される、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水が樋状の凹部65から溢れる場合、その溢れる位置を優先的に便器本体2の左右外側の位置にさせることができる。特に、本実施形態のように表面カバー50が左右両端部に排水溝57を有する構成においては、底面部61を傾斜させることで、排水溝57からの排水を促すことができる。これにより、便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に水が浸入しておりその水の量がある程度まとまった量であることを使用者等に確実に報知させることができる。また、樋状の凹部65に水が溜まった状態を確実に回避することができる。
以上のように水受け部60を備える本実施形態の水洗大便器1においては、便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に浸入した水は、例えば次のような経路をたどり、水受け部60により捕獲される。
便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に浸入した水は、便器本体2の後部上面、つまり便器本体2の後方突出部70(中央後方突出部71、左右後方突出部72)の上面7a、7bから、後方突出部70の後端面73を伝って落ちる(図11、矢印C1、図13、矢印C2参照)。後方突出部70の後端面73を伝って落ちる水は、後方突出部70の下端部、つまり後端面73と下面74との間の稜線部分を経て、表面カバー50の前壁部54により受けられる。ここで、後方突出部70の下端部は前壁部54に当接していることから、後方突出部70の下端部に達した水は、後方突出部70の下端部の前壁部54に対する当接部分を介して確実に前壁部54によって受けられる。前壁部54により受けられた水は、前壁部54の前面54aを伝って、樋状の凹部65に導かれる。このようにして、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水が水受け部60によって捕獲される。そして、樋状の凹部65に入った水は、その水量がある程度多い場合等、表面カバー50の左右両側に設けられた排水溝57から排出されることになる。
以上のように、本実施形態の水洗大便器1によれば、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を水受け部60によって捕獲することができ、便器本体2と便器洗浄装置3との間において床面に水が落ちることを防止することができる。
そして、水受け部60を、便器洗浄装置3の一部を覆う表面カバー50に設けた構成を採用することにより、便器後部上スペース40から便器洗浄装置3側に浸入する水が便器洗浄装置3の構成部品にかかることを防止することができるとともに、その水が便器本体2と便器洗浄装置3との間において床面に滴り落ちることを防止することができる。また、部品点数や製造工程の工程数を増加させることなく、水受け部60を設けることができる。
また、水受け部60が設けられた表面カバー50に関し、前壁部54と樋形成部55とにより構成される樋状の凹部65が便器本体2の後方突出部70の下方に位置するように表面カバー50を設けることにより、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を確実に樋状の凹部65で受けることができ、水が床面を濡らすことを確実に防止することができる。
さらに、水受け部60が設けられた表面カバー50に関し、表面カバー50の弾性を利用して前壁部54を便器本体2の後方突出部70に押し付ける構成を採用することにより、便器本体2の上面7の後端縁から滴り落ちる水を後方突出部70と前壁部54との当接部分で受け、確実に水受け部60に導くことができる。
以上説明した本実施形態の水洗大便器1は、便器洗浄装置3を上側から覆うとともに便器本体2の後部上面を覆うカバー体として、局部洗浄装置4において局部洗浄機能を発揮するための構成等を収納するケーシング20を備えるものであるが、本発明に係る水洗大便器は、局部洗浄装置を備えたものに限定されない。すなわち、本発明に係るカバー体は、腰掛式の便器本体の後側に設けられた便器洗浄装置を上側から覆うとともに便器本体の後部上面を覆うものであって、便器本体の後部上面を露出すべく上昇可能に設けられた構成であればよく、例えば、所定の構成を収納するケーシングの類以外の構造体等も含む概念である。