JP2014088962A - シールリング - Google Patents

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Abstract

【課題】低フリクション特性と低リーク特性を併せもち、自動変速機の駆動損失を改善し自動車の燃費向上に貢献し得るシールリングを提供する。
【解決手段】軸の外周面に形成された軸溝に装着されるシールリングの少なくとも軸溝と接触する側面の内周側に、柱部を介して周方向に離間した複数の凹部を形成する。凹部の周方向両側の端部は、柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成する。また、凹部の軸方向幅の最も大きい最深部の深さhは、シールリングの軸方向幅を100として、2〜17の範囲に設定する。
【選択図】図3

Description

本発明は、シールリングに関し、特に、自動車の自動変速機等の油圧機器に用いられるシールリングに関する。
近年、自動車の燃費向上を図るため、自動変速機の駆動損失の低減が求められている。自動変速機には、油圧シールを目的としてシールリングが装着されるが、シールリングのフリクションロスは自動変速機の駆動損失につながる。そのため、シールリングのフリクションの低減が重要な課題となっている。また、自動変速機のオイルポンプの容量は、駆動損失の中で大きなウエイトを占めるため、シールリングからのオイル漏れ量を低減し、オイルポンプを小容量化することが望まれている。このように、自動変速機の駆動損失を低減し、自動車の燃費を向上させるため、シールリングには低フリクション及び低リーク機能が要求されている。
図1にシールリングを用いた油圧回路の基本構造を示す。シールリング1は、軸2の外周面の油圧通路3の軸方向両側に形成された軸溝(リング溝)4に装着される。油圧通路3から供給される作動油をシールリングの受圧側面11と内周面12で受け、シールリングの外周面13がハウジング5の内面と接触し、シールリングの接触側面14が軸溝4の側面と接触することにより、油圧をシールする。一般的には軸2が回転し、ハウジング5が固定されるが、その逆の組み合わせもある。
シールリングのフリクション(フリクションロス)を低減するためには、通常、摺動主体面となるシールリングの接触側面をリング溝に押し付ける受圧荷重を低減する手法が採用されている。具体的には、シールリングの接触側面とリング溝との間に供給油圧が作用する断面形状を有するシールリングを採用して、キャンセル荷重の作用により受圧荷重を低減させている。
特許文献1には、シールリングの側面を、外周側から内周側に向かって軸方向幅が小さくなるようなテーパ形状とすることにより、シールリング側面とリング溝との間にキャンセル荷重を発生させて、受圧荷重の低減を図る方法が記載されている。側面テーパ形状は、受圧荷重を大幅に低減することができ、現状で最もフリクションが小さいシールリングの形状として知られている。
また、特許文献2には、図2(A)に示すように、少なくとも接触側面の内周側に周方向に離間して形成された凹部(ポケット)6と凹部6間に配置された柱部7を有するシールリングが記載されている。図2(B)及び(C)に示すように、凹部6は、内周方向に向かいシールリングの軸方向幅(厚さ)が薄くなるように設けられた最深傾斜部51と、最深傾斜部51の周方向両側に位置し、隣接する柱部7の最も内周側の点に向かって収束する収束部52からなる。この構成では、シールリングの回転により、凹部6内に満たされた油を収束部52の斜面で絞り込むことにより発生する揚力60と、接触側面の凹部6に油圧が作用し、押し付け荷重を低減させる効果(キャンセル圧61)によりフリクションが低減する。さらに、特許文献2のシールリングでは、図2(D)に示すように、シールリングの側面がリング溝と面で摺接するため、合口隙間の漏れ流路が形成されず、低リーク特性が得られる。
特許文献1のシールリングでは、シールリングの側面とリング溝の摺接が線接触となり、摺動径がシールリングの合口隙間上に位置するため、合口隙間から油の漏れ(リーク)が発生するという問題がある。一方、特許文献2の凹部を採用することにより、フリクションは低減するが、特許文献1のシールリングには及ばず、さらなるフリクションの低減が求められている。
特許第3437312号公報 国際公開WO2004/090390号パンフレット
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、低フリクション特性と低リーク特性を併せもち、自動変速機の駆動損失を低減し、自動車の燃費向上に貢献し得るシールリングを提供することを目的とする。
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、接触側面の内周側に周方向に離間して凹部が形成され、その間に柱部が配置されたシールリングにおいて、凹部の周方向両側の端部を柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成すると、油の絞り込みにより発生する揚力が増加しフリクションが低減することを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明のシールリングは、軸の外周面に形成された軸溝に装着されるシールリングであって、少なくともシールリングの接触側面の内周側に、柱部を介して周方向に離間した複数の凹部が形成され、凹部の周方向両側の端部は、柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成されていることを特徴とする。
本発明では、接触側面の内周側に柱部を介して周方向に離間した凹部を設け、その凹部の周方向両側の端部を柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成する。柱部と凹部が緩やかなR形状で結ばれていることにより、油の絞り効果が向上し、揚力が増加するため、フリクションを効果的に低減することができる。また、本発明のシールリングでは、接触側面とリング溝側面が面で接触するため、油の漏れも抑制できる。このように、本発明のシールリングは、低フリクション及び低リークの両特性を併せもつため、自動変速機の駆動損失を効果的に低減することができる。
シールリングが装着された油圧回路を示す断面図である。 特許文献2に記載のシールリングの構造を示す平面図(A)、斜視図(B)、凹部形状を内周面から見た円周方向の直動展開図(C)、及び特許文献2に記載のシールリングが、リング溝に装着された状態を示す概略図(D)である。 本発明のシールリングの一態様を示す斜視図(A)及び(A)のシールリングの凹部形状を内周面から見た円周方向の直動展開図(B)である。 本発明のシールリングの他の態様を示す斜視図(A),(B)及び(A)のシールリングの接触側面のスキャン画像(C)である。 本発明のシールリングの合口の一態様を示す斜視図である。 フリクション測定装置を示す概略図である。 実施例1〜5(●)及び実施例6〜10(■)のシールリングの最深部深さとフリクションとの関係を示すグラフである。 内壁の長さとフリクションとの関係を示すグラフである。
以下に本発明のシールリングについて図面を参照して詳細に説明する。
図3(A)に本発明のシールリングの斜視図を示し、図3(B)には、(A)のシールリングの内周面から見た円周方向の直動展開図を示す。なお、以下の記載において、上記展開図における直線部を平面又は平坦面といい、曲線部を曲面という。本形態では、図3(B)に示すように、凹部6両端は柱部7に向かって凸状の曲面、すなわち、内周面から見た円周方向の直動展開図(図3(B))において、上に凸状の曲面からなる絞り部20で構成され、柱部7と連結している。このように柱部7と凹部6が緩やかな傾斜曲面で繋がれているため、特許文献2のシールリングの凹部6形状よりさらに絞り効果が向上し、揚力が増加して、フリクションが低減する。また、本形態では、図3(B)に示すように、凹部6の中央に側面に平行な凹部6最深部21が形成され、最深部21の両端から絞り部20に向かい、最深部21に向かって凸状の曲面、すなわち、図3(B)において下に凸状の曲面からなる斜面部22が形成されている。そして、斜面部22と絞り部20との境界も緩やかな曲面で連結されている。斜面部22をこのような構成とすることにより、より優れたフリクション低減効果を得ることができる。しかし、本発明のシールリングの斜面部22は、このような曲面からなる構成に限定されず、平面単独としても、平面と曲面からなる構成としてもよい。
ここで、最深部21の深さh、すなわち最深部21の軸方向幅は、シールリングの軸方向幅を100として、2〜17とするのが好ましく、5〜10とするのがより好ましい。最深部21の深さhを、この範囲に設定することにより、より優れたフリクション低減効果が得られる。
図3では、最深部21は、所定の周方向長さを有し、側面と平行な平坦面で形成されているが、平坦面を設けない構成とすることもできる。すなわち、凹部6の中央は、最深部21を含み、最深部21に向かって凸形状、すなわち、図3(B)において下に凸状の1つの曲面からなる斜面部22で構成され、この斜面部22の両側から柱部7までを、柱部7に向かって凸状、すなわち、図3(B)において上に凸状の曲面からなる絞り部20で連結した凹部6構成とすることもできる。但し、より優れたフリクション低減効果を得るためには、最深部21は、側面と平行な平坦面で構成されるのが好ましい。この場合、最深部の周方向の幅bは、1個の凹部6の周方向幅aを100として2〜20とするのが好ましく、8〜16とするのがより好ましい。
また、絞り部20のR曲面のダレ長さc、すなわち、凹部6先端から絞り部20と斜面部22との境界までの周方向幅は、凹部6片側の傾斜部の周方向幅、すなわち、絞り部20と斜面部22の周方向の幅の和(c+d)を100として、5〜20とするのが好ましい。また、絞り部20の深さe、すなわち、絞り部20と斜面部22との境界点の軸方向の減退量は、凹部6の最深部の深さh(軸方向の減退量)を100として、0を超え20%以下とするのが好ましい。
凹部6の数(1本のシールリングの片側の側面に形成される凹部の数)は、シールリングのサイズによるが、外径(呼び径)が20〜70mm程度のシールリングでは、4個〜16個が好ましく、6個〜10個がより好ましい。凹部6の周方向幅は、フリクション低減効果に大きな影響を及ぼす因子であり、周方向幅の小さい凹部6を多数形成するより、周方向幅の大きい凹部6を形成する方が顕著なフリクション低減効果が認められる。凹部6の1個あたりの周方向幅aは、シールリングの外周長さを100として、3〜25であるのが好ましく、5〜15であるのがより好ましい。また、凹部6の1個あたりの周方向幅aは、柱部7の1個あたりの周方向幅fの5〜20倍とするのが好ましい。
本発明の効果は、凹部6をシールリングの接触側面に形成することにより得られる。しかし、本形態の凹部6形状は、周方向中央に対して両側が対称形状であるため、作業性を考慮すると、シールリングの接触側面及び受圧側面の両方に凹部6を設け、両側面とも対称で方向性のない構成とするのが好ましい。
図4(A)及び(B)には、凹部6の内周端に内壁8を設けた本発明のシールリングの別の形態を示す。図4(A)の形態では、内壁8は、内周端部に沿って、凹部6の周方向の両端から凹部6の中央に向かって延び、凹部6の中央には内周面12に向かって開口する油導入孔10が備えられている。凹部6の内周側(端部)に内壁8を設けることにより、絞り込まれた油の楔斜面(絞り部)から内周面12への流れが抑制され、楔断面の深さと円周方向の三次元での絞り効果により、さらに大きな揚力が作用する。このため、柱部に油膜が形成され、柱部が浮き上がると同時に、凹部6の外周側に位置する環状のシール面への油の介在が促進され、摩擦係数が低減する。また、接触側面の凹部6に油圧が作用し、押し付け荷重が低減する。これらの相乗効果により、フリクションがさらに低減する。本発明のシールリングでは、柱部7と凹部6が緩やかな傾斜となるR形状で結ばれているため、内壁8を設けることにより絞り効果が著しく向上し、揚力が増加して、フリクションがさらに低減する。本形態のように内壁8を凹部6の両端、すなわち油導入孔(油導入口)10の両側に形成する場合には、一方の内壁8の周方向長さは、1個の凹部6の周方向長さを100として、20〜45とするのが好ましく、両側の内壁8を合わせた長さは、凹部6全体の周方向長さを100として、40〜90とするのが好ましい。この範囲では、より優れた楔形状効果が得られ、フリクションがさらに低減する。
本発明の効果は、凹部6をシールリングの接触側面に形成することにより得られる。しかし、本形態の凹部6形状は、周方向中央に対して両側が対称形状であるため、作業性を考慮すると、シールリングの接触側面及び受圧側面の両方に凹部6を設け、両側面とも対称で方向性のない構成とするのが好ましい。
図4(A)では、内壁8を凹部6の両端に設けているが、図4(B)に示すように回転方向反対側の傾斜面(絞り部20)の端部にのみ内壁8を設けることもできる。本構成では、シールリングが右回転することにより、回転方向反対側(左側)の絞り部20先端に油が絞り込まれ、揚力が発生する(楔形状効果)。このように楔形状効果は回転方向反対側の絞り部20で発生し、一方、回転方向側では、斜面の油膜が形成されにくく、潤滑状態が阻害される傾向にあるため、回転方向反対側にのみ内壁8を設けた本形態では、フリクションがさらに低減する。
ここで、回転方向反対側のみに内壁を設けた場合、内壁8の周方向長さは、凹部全体の周方向長さを100として、5〜95とするのが好ましく、50〜95とするのがより好ましい。この範囲では、より優れた楔形状効果が得られ、フリクションがさらに低減する。
図4(C)には、図4(A)のシールリングの接触側面のスキャン画像を示す。ここで、内壁8は、凹部6端部から約4mmの個所から凹部先端に向かって径方向幅が大きくなるように、すなわち、凹部の径方向幅が小さくなるように傾斜角度4°で傾斜している。また、凹部6の外周側のシール面は、凹部6の先端部に向かって、径方向幅が大きくなるように、すなわち、凹部6の径方向幅が小さくなるように傾斜角度3°で傾斜している。このように先端部に向かって径方向幅が小さくなり、さらに軸方向幅が小さく(深さが浅く)なる先細り形状の凹部6を有する本形態のシールリングでは、三次元の絞り効果がさらに向上する。このため、揚力が増加し、フリクションがさらに低減する。なお、本形態では、凹部6の先端は曲面で形成されている。
図4(A)及び(B)では、内壁8の軸方向の高さは、側面の高さとほぼ等しく設定され、すなわち、内壁8の先端面と、凹部6が形成されていない側面とが同一平面となるように設定されている。そして、内壁8を周方向に不連続に配置することにより、図4(A)では、内壁8、8間に、図4(B)では、内壁8と柱部7との間に、内周面12に向かって開口する油導入孔10が形成されている。しかし、油導入孔10の構成は、これに限定されず、例えば、凹部6の周方向全域にわたって内壁8を形成し、内壁8の軸方向の高さを部分的にシールリング側面より低くなるように設計することにより、油導入孔10を形成することもできる。
本発明のシールリングは、装着性を考慮して合口を設けるが、合口形状は特に限定されず、直角(ストレート)合口、斜め(アングル)合口、段付き(ステップ)合口の他、ダブルアングル合口、ダブルカット合口、及び図5に示すトリプルステップ合口等を採用することができる。合口隙間部への油の流通を遮断し、シール性を向上させるためには、ダブルアングル合口、ダブルカット合口、及びトリプルステップ合口が好ましい。
本発明のシールリングの材料は、特に限定されず、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリイミド(PI)等の他、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、変性ポリテトラフルオロエチレン、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)等のフッ素系樹脂等が用いられる。一般に、これらの樹脂にカーボン粉末やカーボン繊維等の添加剤を充填した材料が用いられる。
本発明のシールリングの製造方法は、特に限定されないが、シールリング材料として、PEEK、PPS、PI等の熱可塑性樹脂を用いる場合は、射出成形で製造するのが好ましい。射出成形用金型を用いることにより、複雑な構造を有するシールリングも容易に製造できる。また、フッ素樹脂を用いる場合には、圧縮成型後、機械加工することにより製造することができる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
(実施例1)
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図3(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、絞り部の曲率をR40として、最深部の深さ0.22mm、周方向幅24mmの凹部を接触側面及び受圧側面それぞれに8個形成した。シールリングの外径(呼び径)は67mm、厚み(径方向幅)は2.3mm、幅(軸方向幅)は2.32mmとし、合口は図5に示すトリプルステップ合口とした。なお、最深部の深さは、シールリングの軸方向幅を100として9.5で、最深部の周方向の幅は、1個の凹部の周方向長さを100として16.9であり、絞り部のR曲面のダレ長さは、絞り部と斜面部の周方向幅の和を100として13.9で、絞り部の深さは、凹部の最深部の深さを100として15.0であった。
(比較例1)
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図2(B)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、凹部の斜面角度θは16°、最深傾斜部52の深さhは、0.42mmとし、接触側面及び受圧側面それぞれに8個の凹部を形成した。なお、シールリングの外径(呼び径)は67mm、厚み(径方向幅)は2.3mm、幅(軸方向幅)は2.32mmとし、合口は、図5に示すトリプルステップ合口とした。
(比較例2)
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、外周側から内周側に向かい軸方向幅が小さくなるように両側面を傾斜角度5度で傾斜させた断面台形のシールリングを作製した。なお、シールリングの外径(呼び径)は67mm、厚み(径方向幅)は2.3mm、幅(軸方向幅)は2.32mmとし、合口は図5に示すトリプルステップ合口とした。
(フリクション、及び油漏れ量の測定)
実施例1及び比較例1、2のシールリングを、図6に示すように、油圧回路を設けた固定軸(S45C製)の外周面に形成された軸溝に装着し、試験装置に設置した。次に、ハウジング(S45C製)を装着し、回転数2000rpmで回転させ、試験装置に取付けたトルク検出器から回転トルク・ロスを検出した。また同時に油の漏れ量を測定した。なお、ここで、油はオートマチックトランスミッションフルード(ATF)を用い、油温80℃、油圧0.8MPaとした。
実施例1のシールリングは、比較例1のシールリングに比べ、フリクションが10%以上低減した。これは、実施例1のシールリングでは、凹部の周方向の両側の端部を柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成したため、油の絞り込みにより発生する揚力が増加したためと考えられる。また、実施例1のシールリングの油漏れ量は、比較例1と同様、比較例2の油漏れ量の2/3程度に低減しており、本発明のシールリングは、優れたリーク特性も有することが確認された。
(実施例2〜5)
実施例1と同様に、カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図3(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。ここで、絞り部の曲率を変えて、最深部の深さhが、それぞれ0.03mm(実施例2)、0.08mm(実施例3)、0.12mm(実施例4)、及び0.41mmm(実施例5)となるようにした。なお、シールリングの外径(呼び径)は67mm、厚み(径方向幅)は2.3mm、幅(軸方向幅)は2.32mmとし、合口は、図5に示すトリプルステップ合口とした。それぞれの実施例の最深部の深さは、シールリングの軸方向幅を100として1.3(実施例2)、3.4(実施例3)、5.2(実施例4)、及び17.7(実施例5)であった。得られたシールリングのフリクション及び油漏れ量を実施例1と同様に測定した。
実施例1〜5のシールリングの最深部の深さhとフリクションとの関係をプロットした結果を図7に示す(●)。ここで、縦軸は、比較例1のシールリングのフリクションを100として相対値で表した。また、横軸は、シールリングの最深部の深さhをシールリングの軸方向幅を100として相対値で表した。
凹部の周方向両側の端部を柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成した本発明の実施例では、従来の凹部形状に比べ、フリクションが低減することが確認された。特に、シールリングの軸方向幅を100として、最深部の深さhが2〜17の範囲でフリクションが低減し、5〜10の範囲でさらに低減した。
一方、実施例1〜5のシールリングの油漏れ量は、フリクションの低減と反比例して僅かに増加する傾向が認められたが、比較例1と同様、比較例2の油漏れ量の2/3程度であり、本発明のシールリングは優れたシール特性も有することがわかった。
(実施例6〜10)
カーボン繊維を添加したPEEK材を用いて、射出成形により、図4(A)に示す構造の凹部形状を有するシールリングを作製した。それぞれの凹部の両端から中央に向かって内周端に沿って、幅0.3mm、周方向長さが片側10mmの内壁を設け、中央に周方向長さ4mmの油導入孔を形成した。ここで、絞り部の曲率を変えて、最深部の深さhが、それぞれ0.03mm(実施例6)、0.08mm(実施例7)、0.12mm(実施例8)、0.22mm(実施例9)及び0.41mmm(実施例10)のシールリングを作製した。なお、シールリングの外径(呼び径)67mm、厚み(径方向幅)は、2.3mm、幅(軸方向幅)は、2.32mmとし、合口は、図5に示すトリプルステップ合口とした。それぞれのシールリングのフリクション及び油漏れ量を実施例1と同様に測定した。
実施例6〜10のシールリングのフリクションを測定した結果を図7に示す(■)。ここで、縦軸は、比較例1のシールリングのフリクションを100として相対値で表した。また、横軸は、それぞれシールリングの最深部の深さhをシールリングの軸方向幅を100として相対値で表した。図7より、本発明のシールリングに内壁を設けることにより、フリクションがさらに低減することがわかった。これは、凹部の端部が柱部に向かって凸状の曲面で構成され、柱部と凹部が緩やかな傾斜角度で連結されている本発明のシールリングでは、内壁を設けることにより、油がより効果的に凹部の先端に絞り込まれ、揚力が増加し、柱部に油膜が形成されやすくなり、シール面が潤滑化され、摩擦係数が低減したためと考えられる。
(実施例11〜14)
図4(B)に示すように回転方向反対側にのみ周方向長さがそれぞれ、14.4mm(実施例11)、10mm(実施例12)、6.6mm(実施例13)、3.3mm(実施例14)の内壁を設けた以外、実施例1と同様の構成のシールリングを作製した。なお、ここで凹部の周方向長さは、24mmであるので、実施例11、12、13及び14の内壁の周方向長さは、それぞれ凹部の周方向長さの60%、42%、28%及び14%に相当する。それぞれのシールリングのフリクション及び油漏れ量を実施例1と同様に測定した。
実施例11〜14のシールリングの内壁の長さとフリクションの関係をプロットした結果を図8に示す。ここで、内壁の長さは凹部の周方向長さを100として、それぞれの内壁の長さを相対値で表し、フリクションは内壁のない実施例1のフリクションを100として、それぞれのフリクションを相対値で表した。また、凹部の両側に内壁を設けた実施例9の値も同様に図8に示す(■)。内壁のない実施例1に比べ、両側に内壁を設けた実施例9及び片側(回転方向反対側)にのみ内壁を設けた実施例11〜14のいずれにおいてもフリクション低減効果が認められた。ここで、凹部の両側に内壁を設けた実施例9に比べ、回転方向反対側にのみ内壁を設けた実施例11〜14では、さらにフリクションが低減することが確認された。
これは、楔形状により作用する揚力が大きい回転方向反対側にのみ内壁を設け、楔形状により作用する揚力が小さく、斜面の油膜が形成されにくく、潤滑状態を阻害する傾向にある回転方向側に内壁を設けないことにより、シール面が潤滑化されたためと考えられる。内壁を回転方向反対側にのみ設けた場合、凹部の周方向長さを100として、内壁の周方向長さを、5〜95、好ましくは、50〜95とすることにより、より優れたフリクション低減効果が得られることがわかった。
通常は、キャンセル面積が大きいほど、すなわち、油圧の作用する面積が大きいほど、反圧として押し返す力が大きくなるため、受圧荷重が低減されフリクションは低減する。しかし、本発明のシールリングでは、内壁を長くする、すなわち、キャンセル面積を小さくすることにより、より優れたフリクション低減効果が認められた。これは、内壁を設置したことにより、内周面への油の流出が抑えられ、油が絞り部の傾斜面に効率的に導かれることに起因すると考えられる。そのため、シールリングが回転すると、より大きな揚力が作用し、柱部に油膜が形成されやすくなる。この柱部の油膜形成により、シールリングの内周側が浮き上がり、凹部の外周側に位置する環状のシール面への油の介在も促進され、摺動面が流体潤滑に移行しやすくなり、摩擦係数が減少し、大きなフリクション低減効果が得られたと考えられる。すなわち、本発明のシールリングのフリクション低減効果は、押し付け荷重の低減より、摺動面の潤滑化による摩擦係数の低減に大きく依存していると考えられる。このように、より小さいキャンセル面積でフリクションを低減できる本発明のシールリングでは、キャンセル面積に大きく依存した従来のシールリングより、限界特性を向上させたり、摩耗量を低減させることが可能となる。
1…シールリング、2…軸(シャフト)、3…油圧通路、4…軸溝、5…ハウジング、6…凹部(ポケット)、7…柱部、8…内壁、10…油導入孔、11…受圧側面、12…内周面、14…接触側面、20…絞り部、21…最深部、22…斜面部、51…最深傾斜部、52…収束部、60…揚力、61…キャンセル圧。

Claims (5)

  1. 軸の外周面に形成された軸溝に装着されるシールリングであって、少なくとも前記シールリングの接触側面の内周側に、柱部を介して周方向に離間した複数の凹部が形成され、前記凹部の周方向両側の端部は、柱部に向かって凸状の曲面からなる絞り部で構成されていることを特徴とするシールリング。
  2. 前記凹部の軸方向幅の最も大きい最深部の深さhが、シールリングの軸方向幅を100として、2〜17であることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。
  3. 前記凹部1個の周方向幅が、シールリングの外周長さを100として、3〜25であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシールリング。
  4. 前記シールリングの軸溝と接触する側面に形成される凹部の数が、4〜16個であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシールリング。
  5. 前記凹部の回転方向反対側の内周側に内壁を設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシールリング。
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