以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
まず、実施の形態に係る端面発光型の半導体レーザ素子10Aについて説明するが、ここでは、半導体レーザ素子10Aの基本的な構成について説明する。このために、駆動電極の構成を簡略化した図面を用いて、半導体レーザ素子10Aの構成を説明する(図1〜図23)。その後、図24〜図31を用いて、駆動電極の詳細について説明する。
図1は、半導体レーザ素子の縦断面図であり、図2は、半導体レーザ素子の平面図である。
半導体レーザ素子10Aは、半導体基板1上に順次形成された下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、フォトニック結晶層4、上部クラッド層5、コンタクト層6を備えている。半導体基板1の裏面側には、電極E1が全面に設けられており、コンタクト層6上には、複数の駆動電極E2が設けられている。同図では、簡略的に5本の駆動電極E2が示されているが、実際には更に多くの駆動電極E2がコンタクト層6上に設けられる。
なお、駆動電極E2の形成領域以外のコンタクト層6上の表面は、絶縁膜SHによって覆われている。絶縁膜SHは、例えば、SiNやSiO2から形成することができる。
これらの化合物半導体層の材料/厚みは以下の通りである。なお、導電型の記載のないものは不純物濃度が1015/cm3以下の真性半導体である。なお、不純物が添加されている場合の濃度は、1017〜1020/cm3である。また、下記は本実施の形態の一例であって、活性層3Bおよびフォトニック結晶層4を含む構成であれば、材料系、膜厚、層の構成には自由度を持つ。上部光ガイド層3Cは、上層及び下層の2つの層からなる。
・コンタクト層6:P型のGaAs/50〜500nm
・上部クラッド層5:P型のAlGaAs(Al0.4Ga0.6As)/1.0〜3.0μm
・フォトニック結晶層4:
基本層4A:GaAs/50〜400nm
埋め込み層(異屈折率部)4B:AlGaAs(Al0.4Ga0.6As)/50〜400nm
・上部光ガイド層3C:
上層:GaAs/10〜200nm
下層:p型または真性のAlGaAs/10〜100nm
・活性層3B(多重量子井戸構造):
AlGaAs/InGaAs MQW/10〜100nm
・下部光ガイド層3A:AlGaAs/0〜300nm
・下部クラッド層2:N型のAlGaAs/1.0〜3.0μm
・半導体基板1:N型のGaAs/80〜350μm
電極E1の材料としては例えばAuGe/Au、電極E2の材料としては例えばCr/AuやTi/Auを用いることができる。
なお、光ガイド層は省略することも可能である。
この場合の製法において、MOCVD法によるAlGaAsの成長温度は500℃〜850℃であって、実験では550〜700℃を採用し、成長時におけるAl原料としてTMA(トリメチルアルミニム)、ガリウム原料としてTMG(トリメチルガリウム)およびTEG(トリエチルガリウム)、As原料としてはAsH3(アルシン)、N型不純物用の原料としてSi2H6(ジシラン)、P型不純物用の原料としてDEZn(ジエチル亜鉛)を用いることができる。
上下の電極E1,E2間に電流を流すと、いずれかの電極E2の直下の領域Rを電流が流れ、この領域が発光して、レーザビームLBが基板の側方端面から所定の角度で出力される(図2参照)。駆動電極E2のいずれに駆動電流を供給するかにより、いずれのレーザビームLBが出射されるかが決定される。
半導体レーザ素子10Aの平面形状は長方形であり、XYZ三次元直交座標系を設定した場合には、厚み方向をZ軸、幅方向をX軸とし、光出射端面LESに垂直な方向をY軸とする。XY平面内において、各駆動電極E2の延びている長手方向は、Y軸に平行な直線に対して角度φを成している。すなわち、駆動電極E2の長手方向は、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜している。駆動電極E2は、光出射端面LESの位置から逆側の端面に向けて延びているが、半導体レーザ素子10Aを完全に横断することなく、途中で途切れている。
図3は、半導体レーザ素子内部のレーザビームの進行状態を説明するための素子内部の平面図である。
レーザビームは、活性層3B内において発生するが、活性層3Bから染み出した光は、隣接するフォトニック結晶層4の影響を受ける。フォトニック結晶層4内には、周期的屈折率分布構造が形成されている。このフォトニック結晶層により回折を受けた結果、活性層3Bの内部では、波数ベクトルk1〜k4で示されるレーザビームが発生している。波数ベクトルは、向きが波面の法線方向(つまり波の伝播方向)で、大きさが波数となるベクトルのことである。波数ベクトルk1、k2のレーザビームは、光出射端面LESに向かっており、波数ベクトルk4、k3のレーザビームは、これらとは逆の方向に向かっている。
波数ベクトルk1、k2のレーザビームは、XY平面内において、Y軸に平行な直線と角度φを成すB方向に対して、それぞれ±δθの角度を成して進行する。なお、B方向は、駆動電極E2の延びている方向である。A方向は、XY平面内において、B方向に垂直な方向である。なお、XYZ直交座標系をZ軸回りにφだけ回転させた座標系をxyz直交座標系とする。この場合、A方向はx軸正方向に一致し、B方向はy軸負方向に一致する。波数ベクトルk1、k2のレーザビームは、光出射端面LESに対して入射して外部に出射しようとするが、それぞれの入射角をθ1、θ2とする。波数ベクトルk1のレーザビームの屈折角はθ3とする。θ3は、90度よりも小さい。すなわち、波数ベクトルk2のレーザビームの入射角θ2は、全反射臨界角以上であり、光出射端面LESにおいて、全反射が生じ、外部には出力されない。一方、波数ベクトルk1のレーザビームの入射角θ1は、全反射臨界角未満であり、光出射端面LESを透過して、外部に出力される。なお、θ4は、光出射端面LESにおいて全反射したレーザビームの進行方向と、Y軸負方向の成す角度であり、90度以上である。
なお、フォトニック結晶層4は、複数のフォトニック結晶領域4Rが集合して形成されている。
図4は、単一の周期構造を有するフォトニック結晶領域4Rの平面図である。
フォトニック結晶は、屈折率が周期的に変化するナノ構造体であり、周期に応じて特定の波長の光を特定の方向へ強め合わせる、すなわち回折させることが出来る。この回折を光の閉じ込めに用い、共振器として利用することで、レーザを実現することが出来る。本実施形態のフォトニック結晶層4は、基本層4Aと、基本層4A内に周期的に埋め込まれた埋め込み層(異屈折率部)4Bからなる。
本実施形態では、閃亜鉛構造の第1化合物半導体(GaAs)からなる基本層4A内に複数の穴Hを周期的に形成し、穴H内に、閃亜鉛構造であって第2化合物半導体(AlGaAs)からなる埋め込み層4Bを成長させてなるフォトニック結晶層4を備えている。もちろん、フォトニック結晶を構成するため、第1化合物半導体と、第2化合物半導体の屈折率は異なる。なお、本実施形態では、第2化合物半導体の方が、第1化合物半導体よりも屈折率が低いが、逆に第1化合物半導体の方が、第2化合物半導体よりも屈折率が低くてもよい。
埋め込み層である異屈折率部4Bは、A方向及びB方向に沿って整列し、2次元周期構造を構成している。ここでは、A方向の異屈折率部4B間のピッチをa1、B方向の異屈折率部4B間のピッチをb1とする。なお、a1=b1であってもよい。AB平面内における各異屈折率部4Bの平面形状として、同図には長方形が示されているが、異屈折率部4Bの平面形状はこれに限定されるものではない。
図5は、図4とは異なる単一の周期構造を有するフォトニック結晶領域4Rの平面図である。
埋め込み層である異屈折率部4Bは、A方向及びB方向に沿って整列し、2次元周期構造を構成している。ここでは、A方向の異屈折率部4B間のピッチをa2、A方向の異屈折率部4B間のピッチをb2とする。なお、a2>a1の関係を満たしている。AB平面内における各異屈折率部4Bの平面形状として、同図にも長方形が示されているが、異屈折率部4Bの平面形状はこれに限定されるものではない。
図6は、複数の周期構造を有するフォトニック結晶領域4Rの平面図である。
すなわち、このフォトニック結晶領域4Rは、図4に示した周期構造と、図5に示した周期構造とを単一のフォトニック結晶領域4Rが含んでおり、周期a1と周期a2を有している。また、同図には、B方向の周期は共にb2(=b1)とすることとしたものが示されている。
かかる構造の場合、周期a1の逆数(1/a1)と、a2の逆数(1/a2)との差分に応じて、図3におけるδθが決定される。すなわち、周期a1とa2を決定することで、波数ベクトルk1,k2で示されるレーザビームの進行方向を決定することができる。なお、δθ=sin−1(δk/k)、δk=|π{(1/a1)−(1/a2)}|、k=2π/λである。λは半導体レーザ素10子中のレーザ光の波長、kは半導体レーザ素子10A中のレーザ光の波数である。
本実施形態の場合、上記パラメータθ1、θ2、半導体レーザ素子10A中の光の等価屈折率ndevの満たすべき不等式は、次の通りである。
0≦θ1<sin−1(1/ndev)
θ2≧sin−1(1/ndev)
また、本発明の通りフォトニック結晶全体がφ傾いていることを考慮すると、各パラメータの満たすべき方程式は次の通りとなる。
δθ=φ−sin−1(sinθ3/ndev)
δk=(2π/λ0)sin{φ−sin−1(sinθ3/ndev)}
b1=b2=b0/√(1−sin2δθ)
a1=1/{(δk/2π)+(1/b1)}
a2=1/{(1/b2)−(δk/2π)}
なお、b0はB方向(格子点の整列方向(異屈折率部の配列方向))に対する基準周期であり、例えば290nm程度である。
すなわち、φは光出射端面LESに垂直な方向に対する異屈折率部の配列方向(B方向)の傾き、θ3はレーザビームの出射角、ndevは半導体レーザ素子10A中の光の等価屈折率とし、第1及び第2駆動電極に駆動電流を供給した場合において、第1及び第2駆動電極直下の活性層の第1及び第2領域でそれぞれ発生するレーザビームの共振波長が同一となるように、第1、第2、第3及び第4周期構造(後述)において、基本並進ベクトルに沿った方向のうち一つに関して、その周期b1、b2が、√{1−sin2(φ−sin−1(sinθ3/ndev))}に反比例する。周期の設定を変えることで、出射角θ3を変化させることができる。
波数ベクトルk2のレーザビームの全反射条件を満たす場合の全反射臨界角θcは、θc=sin−1(1/ndev)で与えられ、本例の場合は、φ=18.5°、θ2>θc=17.6°である。
図7は、複数の周期構造を有するフォトニック結晶層領域4Rを、複数有するフォトニック結晶領域群4Gの平面図である。フォトニック結晶層領域4Rは、A方向に沿って整列して配置されている。
一番左のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ1、2番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ2、2番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ3、4番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ4、5番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ5とする。便宜上、Δ1〜Δ5は、上記周期の逆数のパラメータも示すこととする。
領域Δ1内では、A方向に図6に示した周期a1と周期a2を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
同様に、領域Δ2内では、A方向に周期a1と周期a3を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
領域Δ3内では、A方向に周期a1と周期a4を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
領域Δ4内では、A方向に周期a1と周期a5を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
領域Δ5内では、A方向に周期a1と周期a6を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。但し、a1<a2<a3<a4<a5<a6の関係を満たしている。
一般式を用いて説明すると、領域ΔN(Nは自然数)が、A方向にそってNの値が小さい順番に左から右に配列されており、領域ΔN内では、A方向に周期a1と、周期a(N+1)を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列され、aN<a(N+1)を満たしている。
これにより、周期の逆数の差に応じて、異なる方向にレーザビームを出射することができる。
図8は、フォトニック結晶領域群4Gを有するフォトニック結晶層の平面図である。
フォトニック結晶層4内において、各領域Δ1〜Δ5は、順番にA方向に沿って配置されている。各領域Δ1〜Δ5の長手方向はB方向(駆動電極E2の長手方向)に一致している。各駆動電極E2に、選択的に駆動電流を供給する(電極E1と特定の電極E2の間に駆動電圧を印加する)と、光出射端面LESから、それぞれ異なる方向にレーザビームが出射する(図2参照)。
図9は、基準方向(B方向)からの偏向角δθ(各フォトニック結晶領域内の周期の逆数の差に依存)に対するレーザビームの入射角及び出射角を示すグラフである。
周期の逆数の差が大きくなり、角度δθが大きくなると、入射角θ1及びθ2が大きくなり、k1ベクトルで示されるレーザビームの屈折角(出射角)が90°から0°まで減少する。φ=18.5°であり、δθは、0°から18.5°まで変化させた。半導体レーザ素子10A中の光の等価屈折率ndevは3.3とした。角度δθを調整することで、目的とするレーザビームの出射角は広い範囲で調整することができる。一方、k2ベクトルで示されるレーザビームではδθの値に拘らず、θ2は常に全反射臨界角を超えているため、常に全反射を生じ、外部には出力されない。
図10は、様々な形状の異屈折率部(構造体)4Bの平面図である。
上記では、異屈折率部4BのAB平面(XY平面)内における形状として長方形(A)のものを示したが、これは正方形(B)、楕円形又は円形(C)とすることもでき、二等辺や正三角形(D)とすることもできる。また、三角形の向きとして、底辺がA方向に平行なもの(D)の他、底辺がB方向に平行なもの(E)、(D)に示す三角形を180度回転させたもの(F)とすることもできる。なお、いずれの図形も回転や寸法比率の変更を行うことができる。なお、これらの図形の配列周期は、各図形の重心間の距離を用いることができる。
なお、2つの周期構造を重畳させるにあたり、周期が異なることにより孔の個数に差異が生じるため、2つの周期構造による回折強度に差が生じる。これを低減するため、周期a1の構造に対してはA方向の形状長さをa1/b1倍し、周期a2の構造に対してはA方向の形状長さをa2/b2(=b1)倍することが効果的である。
なお、上述の実施形態では、駆動電極E2の数が1つの場合には、単一方向のビームのみを出力可能な半導体レーザ素子10Aを構成する。駆動電極E2の数は、複数であれば、レーザビーム偏向装置を構成することができる。
図11は、上記半導体レーザ素子を用いたレーザビーム偏向装置の構成を示す図である。
また、このレーザビーム偏向装置は、上述の半導体レーザ素子10Aと、第1駆動電極E2(一番左の駆動電極)、第2駆動電極(左から2番目の駆動電極)、第3駆動電極(左から3番目の駆動電極)、第4駆動電極(左から4番目の駆動電極)、第5駆動電極(左から5番目の駆動電極)を含む電極群に、選択的に駆動電流を供給する駆動電流供給回路11を備えている。
駆動電流供給回路11は、各駆動電極E2に、スイッチSW1、SW2、SW3、SW4、SW5を介して、駆動電流を供給する電源回路11Aと、スイッチSW1、SW2、SW3、SW4、SW5のON/OFFを制御する制御回路11Bを備えている。制御回路11Bにより、電源回路11Aから供給される駆動電流を切り替えることで、異なる方向に1方向のレーザビームLBのみを出力することができるが、これはレーザビームLBを擬似的に偏向していることになる。駆動電極の数は、2つでも偏向動作はできるが、これを3以上とすれば、狭いピッチでレーザビームを走査する構造とすることも可能である。
図12及び図13は、半導体レーザ素子の製造方法を説明するための図である。
N型(第1導電型とする)の半導体基板(GaAs)1上に、N型のクラッド層(AlGaAs)2、ガイド層(AlGaAs)3A、多重量子井戸構造(InGaAs/AlGaAs)3B、光ガイド層(GaAs/AlGaAs)又はスペーサ層(AlGaAs)3C、フォトニック結晶層となる基本層(GaAs)4Aを、MOCVD(有機金属気相成長)法を用いて順次、エピタキシャル成長させる(図12(A))。
次に、基本層4A上にレジストR1を塗布し(図12(B))、電子ビーム描画装置で2次元微細パターンを描画し、現像することでレジスト上に2次元微細パターン(異屈折率部の位置に対応)を形成する(図12(C))。
その後、ドライエッチングにより100nm程度の深さを持つ2次元微細パターンを基本層4A上に転写し(図12(D))、レジストを除去する(図12(E))。その後、MOCVD法を用いて再成長を行い、異屈折率部4Bを基本層4B内に形成し、この上にクラッド層5を形成する。
再成長工程では、埋め込み層(AlGaAs)4Bが穴H内に成長し、続いて、P型のクラッド層(AlGaAs)5、P型のコンタクト層(GaAs)6が順次エピタキシャル成長する(図12(F))。
次に、P型コンタクト6上にレジストR2を形成し(図13(G))、レジストR2を光学露光により短冊状のパターンをパターニングして(図13(H))、電極EをレジストR2の上から蒸着し(図13(I))、リフトオフにより電極E2のみを残して、電極材を除去する(図13(J))。そして、コンタクト層6の表面上に、電極E2の形成位置を除いて、絶縁膜SHを形成し(図13(K))、最後に、N型の半導体基板1の裏面を研磨し、N型の電極E1を形成し(図13(L))、半導体レーザ素子10Aが完成する。
なお、穴Hの作製方法として、実施の形態では電子ビーム露光法による作製法を説明したが、ナノインプリント、干渉露光、FIB、ステッパなどのその他の微細加工技術を用いてもよい。
なお、上記では、1つのフォトニック結晶層4を用いた例について説明したが、これは2つのフォトニック結晶4層を用いて構成してもよい。
図14は、半導体レーザ素子の縦断面図である。
図1に示したものとの相違点は、クラッド層2と光ガイド層3A(活性層3B)との間に、第2のフォトニック結晶層4’を備えている点のみである。なお、第2のフォトニック結晶層4’は、第1のフォトニック結晶層4と同じ材料からなる基本層4A’と異屈折率部4B’とを備えている。
図1に示したフォトニック結晶層4を第1のフォトニック結晶層とすると、このフォトニック結晶層4は、図4に示した単一の周期構造を有する屈折率分布構造を有しており、第2のフォトニック結晶層4’は、図5に示した周期a2の単一の周期構造のほか、各領域内の周期がa3〜a4となるものを、A方向に並べた屈折率分布構造を有している。すなわち、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から、これらのフォトニック結晶層4,4’の重なりを見ると、図7に示したものと同様に、領域Δ1〜領域Δ5が、A方向に沿って整列していることになる。かかる構造の場合においても、各パラメータを上記のように設定することにより、図1に示した構造と同様の作用効果を得ることができる。
なお、かかる構造を製造する場合、クラッド層2の形成後に、第1のフォトニック結晶層4と同様の製造方法を行い(但し、異屈折率部4Bが形成された時点で成長を停止する)、しかる後、この上に、光ガイド層3A以降の各層を、上述の製造方法と同様に製造すればよい。
また、2つの屈折率周期構造を含む第1のフォトニック結晶層4と同一の構造の第2のフォトニック結晶層4’を、第1のフォトニック結晶層4に代えて用いた構造であっても、同様の効果を奏する。
以上、説明したように、上述の半導体レーザ素子は、端面発光型の半導体レーザ素子10Aであって、基板1上に形成された下部クラッド層2と、上部クラッド層5と、下部クラッド層2と上部クラッド層5との間に介在する活性層3B(光ガイド層を含んでもよい)と、活性層3Bと上部及び下部クラッド層の少なくともいずれか一方との間に介在するフォトニック結晶層4,4’と、活性層3Bの第1領域R(1つの駆動電極E2の直下領域)に駆動電流を供給するための第1駆動電極E2と、を備え、第1駆動電極E2の長手方向は、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜しており、フォトニック結晶層4,4’の第1領域Rに対応する領域Δ1は、周囲と屈折率が異なる異屈折率部の配列周期が互いに異なる第1及び第2の周期構造を有しており、第1及び第2の周期構造におけるそれぞれの前記配列周期(a1、a2)の逆数の差分に応じて、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、第1駆動電極E2の長手方向(B方向)に対して所定の角度(δθ)を成す2つのレーザビームが半導体レーザ素子内部で生成され、これらのレーザビームの一方のみは、全反射条件を満たすように設定され、他方の屈折角θ3は90度未満となるように設定されることを特徴とする。
すなわち、端面発光型のレーザ素子において、第1駆動電極E2への駆動電流の供給による発光に関して、レーザ素子内部における一方のレーザビームの光出射端面への入射角θを全反射臨界角以上とすることで、当該レーザビームが外部に出力されないようにすることができる。他方のレーザビームの屈折角θ3は、90度未満であるため、当該レーザビームは光出射端面を介して外部に出力することができる。
また、本発明の態様に係る半導体レーザ素子10Aは、活性層3Bの第2領域R(2番目の駆動電極E2の直下の領域)に駆動電流を供給するための第2駆動電極E2を更に備え、第2駆動電極E2の長手方向(B方向)は、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜しており、フォトニック結晶層の前記第2領域に対応する領域Δ2は、周囲と屈折率が異なる異屈折率部の配列周期が互いに第3及び第4の周期構造を有しており、前記第3及び第4の周期構造におけるそれぞれの前記配列周期(a1,a3)の逆数の差分に応じて、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、第2駆動電極E2の長手方向に対して所定の角度δθを成す2つのレーザビームが半導体レーザ素子10A内部で生成され、これらのレーザビームの一方のみは、光出射端面において全反射するように設定され、他方の屈折角θ3は90度未満となるように設定され、第1及び第2の周期構造におけるそれぞれの配列周期(a1,a2)の逆数の差分は、第3及び第4の周期構造におけるそれぞれの配列周期(a1,a3)の逆数の差分とは異なる。
端面発光型のレーザ素子において、第2駆動電極E2への駆動電流の供給による発光に関して、レーザ素子内部における一方のレーザビームの光出射端面への入射角を全反射臨界角以上とすることで、当該レーザビームが外部に出力されないようにすることができる。他方のレーザビームの屈折角は、90度未満であるため、当該レーザビームは光出射端面を介して外部に出力することができる。
なお、左から3番目以降の駆動電極E2に関しても同様の作用効果がある。
ここで、それぞれの駆動電極に対応するフォトニック結晶層4,4’内の領域では、異屈折率部4Bの配列周期の逆数の差(出射方向決定因子)が異なる。この差の値は、レーザビームの出射方向を決定する。したがって、双方の領域において、この差(出射方向決定因子)の値が異なるため、レーザビームの出射方向は、第1駆動電極E2に対応する領域Δ1と、第2駆動電極E2に対応する領域Δ2では異なることとなる。それぞれの領域で発生する一対のレーザビームのうち、一方は全反射臨界角以上で光出射端面に入射するため、外部には出射されない。したがって、各駆動電極への駆動電流の供給を切り替えることにより、異なる方向に1方向のレーザビームのみを出力することができるようになる。
なお、本実施例では周期の異なるフォトニック結晶としてA方向とB方向の周期が(b1,b1)の正方格子をベースとし、第1周期構造として周期が(a1,b1)の長方格子、第2周期構造として周期が(a2,b1)の長方格子の場合について説明したが、もちろん三角格子をベースとしてA方向の周期を互いに異ならせた構造を用いても良い。
図15は、図3に示した平面図の天地を反転させ、出射されるビームの屈折角θ3を若干変更して示した素子内部の平面図である。図3においても同様である。
xyz直交座標系は、XYZ直交座標系をZ軸の周りに角度+φだけ回転させた座標系であり、+x方向は+A方向に一致し、+y方向は−B方向に一致する。フォトニック結晶の孔のパターンの配列は、光出射端面に対して角度φだけ傾斜している。図示のように、波数ベクトルk2の反射方向(波数ベクトルk2’のレーザビーム進行方向)と光出射端面LESの成す角度をθ2’、波数ベクトルk1のレーザビームの反射方向(波数ベクトルk1’のレーザビーム進行方向)と光出射端面LESとの成す角度をθ3’とする。
上述の実施形態では、素子から出射されるレーザビーム数が1本となるように、波数ベクトルk2のレーザビームに関しては、光出射端面LESにおいて全反射されるように、設定した。しかしながら、このレーザビームのパワーを、素子内部において再利用することができれば、電気エネルギーからレーザビームへのエネルギー変換効率が高くなるものと考えられる。そこで、反射したレーザビームY2’を内部で再利用できる条件について、検討する。なお、波数ベクトルk1、k2、k3、k4、k1’、k2’に対応するレーザビーム(主要光波とする)を、それぞれY1、Y2、Y3、Y4、Y1’、Y2’とし、これらは光波のベクトルも示しているものとする。また、X軸と主要光波Y4との成す角度をθt、X軸と主要光波Y3との成す角度をθrとする。
各パラメータθt、θr、θ2’、θ3’は、以下の関係式を満たしている。なお、β0、β1、β2はそれぞれ、B方向における基本逆格子ベクトル、第1周期構造のA方向における基本逆格子ベクトル、第2周期構造のA方向における基本逆格子ベクトルを意味するものとし、β0=2π/b1(=b2)、β1=2π/a1、β2=2π/a2、Δβ=β2−β1、α=β0/Δβとする。
角度θrについて説明すると、図16に示すように、xy座標系において、原点OからP点(βx,βy)に向かうベクトルが、x軸と成す角度θβ=tan−1(βy/βx)で与えられる。ここで、θtはθβにおいて、βx=(1/2)×Δβ、βy=β0として、角度φを加えた場合であるから、(式1)で与えられる。残りのパラメータも同様に計算され、(式2)〜(式4)で与えられる。
θt=tan−1(2α)+φ …(式1)
θr=180°−tan−1(2α)+φ …(式2)
θ2’=tan−1(2α)−φ …(式3)
θ3’=180°−tan−1(2α)−φ …(式4)
何らの付加的な構造が存在しない場合、全反射した主要光波Y2’が、レーザ光共振に寄与するためには、主要光波Y2’の角度θ2’と角度θtが一致する必要がある(θ2’=θt)。この場合、φ=0となる。また、反射した主要光波Y1’の角度θ3’と角度θrが一致する必要がある(θ3’=θr)。この場合、φ=0となる。一方、2つの主要光波Y1,Y2のうち、一方を全反射させるためには、φ≠0である必要がある。したがって、出力されるビーム数を1本となるように全反射を行った場合には、光出射端面にて反射した主要光波をレーザ光共振に有効に寄与させることはできない。
したがって、反射光を利用可能な付加的な構造について検討する。
図17は、xy座標系における主要光波の向きを示すグラフである。xy座標系におけるx軸は、X軸に対して角度φだけ回転している。
反射光としての主要光波Y2’を、共振に供する主要光波Y4に一致させるためには、光波Y2’の向きを角度2φだけ回転させればよい。xy座標系における主要光波Y4を示すベクトルの先端P4の座標は(Δβ/2,β0)であり、主要光波Y2’を示すベクトルの先端P2’の座標は、これを−2φだけ回転した座標である。
一方、XY座標系においては、xy座標系のベクトルY4(先端P4)の座標(Δβ/2,β0)は、これを+φだけ回転した座標(XA,YA)に変換され、ベクトルY2’の座標は、xy座標系のベクトルY4の座標を−φだけ回転した座標(XB,YB)に変換される。
(XA,YA)=(Δβcosφ/2−β0sinφ,Δβsinφ/2+β0cosφ
) …(式5)
(XB,YB)=(Δβcosφ/2+β0sinφ,−Δβsinφ/2+β0cos
φ) …(式6)
ベクトルΔYに等しい逆格子ベクトルが存在すれば、主要光波Y2’が主要光波Y4に結合する。すなわち、ベクトルY2’に、ベクトルΔYを加えれば、ベクトルY4となる。ベクトルΔYは以下のように表され、このベクトルΔYに等しい逆格子ベクトルを有する新たな周期構造を付加的に採用すれば、全反射した光波Y2’を共振に寄与させることができる。
ΔY=(XA−XB,YA−YB)=(−2β0sinφ,Δβsinφ)
なお、この新たな周期構造は、異屈折率部がストライプ状に配置されていることが好ましい。ストライプ状の周期構造は、光結合係数の異方性が高く、共振状態のY1,Y2が受ける影響を小さくすることができる。
図18は、活性層3B内の主要光波について説明する素子内部の平面図である。
XY平面と光出射端面LESとの交線はX軸に一致している。上述のベクトルΔYが存在する場合には、座標P2’に先端がある光波Y2’の波数ベクトルは座標P4に先端がある光波Y4の波数ベクトルに変換される。ベクトルΔYに垂直な直線をLとする。新たな周期構造は、活性層3B内において、光波が直線Lに垂直な方向に進行するように設定すればよい。活性層3B内の光波の進行方向を制御するため、これに光学的に結合している回折格子層のパターンを制御する。上述の図14においては、上下のフォトニック結晶層(回折格子層)4,4’を備えることとした。このような構造の場合において、上述の全反射を達成するフォトニック結晶層を上部の回折格子層4内に作製し、反射光を共振に利用するための上記新たな周期構造を回折格子層4’内に作製することができる(もちろん、これらの周期構造はどちらか一方、或いは両方の層に重畳して作製してもよい)。
図19(A)は、上記ベクトルΔYを与える周期構造を有する回折格子層4’の平面図であり、図19(B)は、そのXZ平面内の断面図である。
回折格子層4’は、XY平面内において、直線Lに沿ってストライプ状に延びた基本層4A’と異屈折率部4B’とを備えており、これらの屈折率は異なっている。異屈折率部4B’は、周期的に基本層4A’内に埋め込まれている。これにより、回折格子層4’内に、ストライプ状の周期的屈折率分布構造が形成され、ΔYの方向に光波は進行させる回折格子層として機能する。直線Lに垂直な方向に沿った基本層4A’の幅がこの周期構造の周期Λに対して占める割合を変化させることにより、本ストライプ状周期的屈折率分布構造による回折の強度を変化させることが出来る。逆格子空間におけるΔYの逆格子ベクトルの長さL2、周期Λ、直線LとX軸との成す角度θは、以下のように与えられる。
L2={(2β0sinφ)2+(Δβsinφ)2}1/2 …(式7)
Λ=2π/L2
=1/{(2sinφ/ay)2+((1/aII−1/aI)sinφ)2}1/2 …(式8)
θ=θt−φ
=tan−1(2α)
=tan−1{(2/ay)/(1/aII−1/aI)} …(式9)
なお、β0=2π/ay、β1=2π/aI、β2=2π/aIIであり、ayはB方向の周期、aIは第1周期構造のA方向の周期、aIIは第2周期構造のA方向の周期を示している。
図20は、レーザビーム出射角(屈折角)θ3と、ストライプの角度θ、周期Λの関係を示すグラフであり、図21は、このグラフに用いられるデータを示す図表である。θ(°)のデータの縦軸はグラフの左側に示し、Λ(nm)のデータの縦軸はグラフの右側に示す。
レーザビームの出射角θ3が大きくなるにつれて、ストライプの角度θは増加し、周期Λは小さくなることが分かる。同グラフでは、角度θ3を0°から70°まで増加させた場合に、角度θは84.27°から89.54°まで増加し、周期Λは486.08nmから463.43nmまで減少しているが、現実的に実施可能な数値範囲内に収まっている。
なお、図14において、全反射用の周期パターンを双方のフォトニック結晶層4,4’内に作製している場合には、これらとは別に、上記ΔYを与える新たな周期構造の回折格子層4”(構造は図19の場合の回折格子層4’と同一)を、上部クラッド層5と回折格子層4との間に作製することができる(図22(A))。或いは、上記ΔYを与える新たな周期構造の回折格子層4”(構造は図19の場合の回折格子層4’と同一)を下部クラッド層2と回折格子層4’との間に形成すればよい(図22(B))。このように、上記例では、全反射臨界角条件を満たすことで、光出射端面によって反射されたレーザビームを、活性層内部で共振するレーザビームに結合させ、共振に寄与させる回折格子構造(図19、図22の回折格子層)を更に備えている。この場合、エネルギー利用効率が高くなる。
図23は、様々な周期構造を有するフォトニック結晶層4の平面図である。いずれのフォトニック結晶層4においても、基本層4A内に周期的に異屈折率部4Bが埋め込まれている。図23(A)には正方格子、図23(B)には長方格子、図23(C)には三角格子、図23(D)には面心長方格子が示されている。上述のように、フォトニック結晶層4においては、周期の異なる2つの周期構造を1つのフォトニック結晶層4内に重畳して含むか、或いは、2つのフォトニック結晶層4,4’内にそれぞれ含ませて平面視において重畳させる構成を採用する。これらの図では、重畳前の各周期構造の例を示しており、2種類の周期構造を、それぞれの基本並進ベクトル(矢印で示す)の向きが一致するように重ねて配置する。
詳細には、図23(A)のフォトニック結晶層4では、正方格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。正方格子は、正方形を隙間無く並べてできる形状であり、1つの格子を構成する正方形の一方の辺の長さaは、他方の辺の長さbに等しい。換言すれば、異屈折率部4Bの横方向の配列周期aは、縦方向の配列周期bに等しい。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
図23(B)のフォトニック結晶層4では、長方格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。縦横の長さの異なる長方格子は、長方形を隙間無く並べてできる形状であり、1つの格子を構成する長方形の一方の辺の長さaは、他方の辺の長さbとは異なる。換言すれば、異屈折率部4Bの横方向の配列周期aは、縦方向の配列周期bとは異なる。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
図23(C)のフォトニック結晶層4では、三角格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。三角格子は、三角形を隙間無く並べてできる形状であり、1つの格子を構成する三角形の底辺の長さをa、高さをbとする。三角形が正三角形である場合には、底辺の長さaは換言すれば、異屈折率部4Bの横方向の配列周期aは、縦方向の配列周期bはaの√2倍となる。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
図23(D)のフォトニック結晶層4では、面心長方格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。面心長方格子は、長方格子の各格子内の中央位置に付加的に格子点を備える格子であり、長方格子自体は長方形を隙間無く並べてできている。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
なお、上述のように、A軸はX軸に対して傾斜しており、これらは平行ではない。換言すれば、図1〜図23において説明したフォトニック結晶層4は、いずれにおいても、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、フォトニック結晶層4における異屈折率部4Bは、その格子構造の格子点位置に配置されており、格子構造の基本並進ベクトル(A軸、B軸)の方向は、光出射端面LES(図3参照)に平行な方向(X軸)とは異なっている。この場合、傾きを一定以上にすることで一方のレーザビームが全反射臨界角条件を満たすことができる。
また、フォトニック結晶層の格子構造は、その厚み方向から見た場合、正方格子と長方格子、長方格子と長方格子、三角格子と面心長方格子、面心長方格子と面心長方格子など、正方格子、長方格子、三角格子、又は、面心長方格子の組み合わせにより構成していることができる。つまり、上記に示した1つの格子に対して、ある一方向に関してピッチが異なる格子を組み合わせて構成することが出来る。
上述の正方格子(図23(A))と、長方格子(図23(B))を重畳させる場合、フォトニック結晶層4(或いは4,4’)には正方格子及び長方格子の結晶構造が含まれていることとなり、正孔格子の一方の軸方向の周期をa1、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb1、長方格子の一方の軸方向の周期をa2、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb2とした場合、a1=b1、a1≠a2、b1=b2を満たすことができる。この場合、フォトニック結晶層面内には互いに直交しない斜め光波による定在波状態が形成され、この斜め光波が互いに成す角度がa1とa2の差分に応じて変化するという効果がある。
また、2つの長方格子(図23(B))を重畳させる場合、フォトニック結晶層4(或いは4,4’)には第1及び第2の長方格子の結晶構造が含まれており、第1の長方格子の一方の軸方向の周期をa1、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb1、第2の長方格子の一方の軸方向の周期をa2、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb2とした場合、a1≠a2、b1=b2を満たすことができる。この場合、フォトニック結晶層面内には互いに直交しない斜め光波による定在波状態が形成され、この斜め光波が互いに成す角度がa1とa2の差分に応じて変化するという効果がある。
また、2つの面心長方格子(図23(D))を重畳させる場合、フォトニック結晶層4(或いは4,4’)には、第1及び第2の面心長方格子の結晶構造が含まれており、第1の面心長方格子の一方の軸方向の周期をa1、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb1、第2の面心長方格子の一方の軸方向の周期をa2、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb2とした場合、a1≠a2、b1=b2を満たすことができる。この場合、フォトニック結晶層面内には互いに直交しない斜め光波による定在波状態が形成され、この斜め光波が互いに成す角度がa1とa2の差分に応じて変化するという効果がある。
一方の面心長方格子は、三角格子とすることができる。三角格子は面心長方格子のうち格子を形成する基本並進ベクトルの成す角が60度となる特別な場合である。
また、図1に示したように、半導体レーザ素子10Aは、活性層3Bの駆動電極直下の領域(第1領域、第2領域・・・)Rを備えている。活性層3Bの第1領域Rに対応するフォトニック結晶層の異屈折率部4Bと、活性層3Bの第2領域Rに対応するフォトニック結晶層の異屈折率部4Bとは、第1領域R及び第2領域Rそれぞれから出力されるレーザビームの屈折角が異なり、強度が一致するよう、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合の個々の形状が異なるように設定することができる。換言すれば、複数あるフォトニック結晶の回折強度を同一とするよう、孔(異屈折率部)の大きさを変化させる。強度が同じであるため、レーザプリンタやレーダ等の電子機器等への適用が容易である。
例えば、孔(異屈折率部)は、周期が異なる方の基本並進ベクトルに沿った方向にそった長さを変化させる。具体的には、第1領域R内では、第1周期構造及び第2周期構造における異屈折率部4Bの配列周期が異なる方向(例えばB軸)に沿った異屈折率部4Bの寸法が、当該異なる方向に沿った位置に応じて異なり、第2領域R内では、第3及び第4周期構造における異屈折率部4Bの配列周期が異なる方向(例えばB軸)に沿った異屈折率部4Bの寸法が、当該異なる方向に沿った位置に応じて異なる。これにより、第1周期構造及び第2周期構造における回折強度、或いは第3周期構造及び第4周期構造における回折強度をそれぞれ揃えることが可能となり、発振を安定化させることができる。
また、図11に示したレーザビーム偏向装置は、半導体レーザ素子10Aと、第1駆動電極及び第2駆動電極を含む電極群E2に選択的に駆動電流を供給する駆動電流供給回路11とを備えている。駆動電流の供給を制御することで、レーザビームLBの出射を制御することができる。ここで、駆動電流供給回路11は、電極群の各電極E2に供給する駆動電流の比率を変化させる手段を更に有することができる。すなわち、図11において、符号SW1〜SW5が、スイッチ付きのアンプを示すものとし、電源回路11Aから供給される駆動電流の大きさを当該アンプが制御する構成とすることができる。この場合、制御回路11Bは、各アンプの利得を制御することで、各電極E2に供給される駆動電流の比率を制御することができる。
また、第1領域Rにおける第1周期構造における基本並進ベクトルに沿った周期は、第2領域Rにおける第3周期構造に近づくにしたがって連続的に変化させることもできる。この場合、周期の異なるフォトニック結晶同士の界面において反射が生じることを防止できるという効果がある。
また、図11に示したレーザビーム偏向装置において、各電極E2の直下の活性層から出力されるレーザビームの波長は、同一であることが好ましい。ミラー等でレーザビーム走査が行われた場合は、偏向前後のレーザビームの波長は同一であるからである。そこで、第1及び第2駆動電極E2に駆動電流を供給した場合において、第1及び第2駆動電極E2の直下の活性層の第1領域R及び第2領域Rでそれぞれ発生するレーザビームの共振波長が同一となるように、設定することが好ましい。
すなわち、第1領域Rにおいて重畳された周期構造(第1周期構造、第2周期構造)と、第2領域Rにおいて重畳された周期構造(第3周期構造、第4周期構造)とは、以下の関係を満たしている。
例えば、長方格子と長方格子の組み合わせからなる構造を考えると、以下の関係式となる。
b11=b21=b0/√(1−sin2δθ1)
δθ1=φ−sin−1(sinθ31/ndev)
b12=b22=b0/√(1−sin2δθ2)
δθ2=φ−sin−1(sinθ32/ndev)
但し、第1領域Rにおいて重畳された第1の長方格子のB軸方向の周期をb11、第2の長方格子のB軸方向の周期をb21、第1領域Rのビーム出射角をθ31とし、第2領域Rにおいて重畳された第1の長方格子のB軸方向の周期をb12、第2の長方格子のB軸方向の周期をb22、第2領域Rのビーム出射角をθ32とした。
なお、上記は、長方格子と長方格子の組み合わせについて示したが、他の格子系においても同様である。
また、図11に示すように、レーザビーム偏向装置は、光出射端面LESに近接して配置された単一の集光要素(レンズ)LSを備えることが好ましい。集光要素により、出射光の広がり角を抑制して、遠くまでレーザビームを伝達することができるし、また、焦点位置の調整によって、素子から適当な距離だけ離れた位置に、レーザビームを集光することができる。ここでの集光要素LSは円筒レンズであり、円筒レンズの中心軸Xは活性層の厚み方向(Z軸)に垂直であって且つ光出射端面(XZ面)に平行である。円筒レンズの曲率半径は、YZ平面内のみで規定される。
なお、集光要素LSとして、凸レンズを採用することもできる。凸レンズの曲率中心を通る1つの軸(X軸)は活性層の厚み方向(Z軸)に垂直であって且つ光出射端面(XZ面)に平行であり、この軸(X軸)周りの曲率半径は、これに垂直な軸(Y軸、Z軸)周りの曲率半径(無限大に近似できる)よりも小さい。言うなれば、円筒レンズの直線的な部分が多少膨らんだ凸レンズを採用することが可能である。
なお、上述のレーザビーム偏向装置は、素子自体が偏向機能を有するため、小型化が可能であり、高信頼性、高速化も期待することができる。小型であるため、携帯機器に組み込み、また、医療用カプセル内視鏡に組み込んだレーザメスや光線力学的治療(PDT:Photo Dynamic Therapy)用光源とすることも期待される。もちろん、大型のレーザ走査によるディスプレイへの応用も考えられる。レーザビームの迷光は外部に出力されないので、信頼性の向上も期待される。
続いて、図24を参照して、駆動電極E2の詳細構成について説明する。図24は、半導体レーザ素子の平面図である。
図24に示すように、複数の駆動電極E2は、それぞれ、第一電極部分E21と第二電極部分E22とを有し、互いに隣り合っている。複数の駆動電極E2の第一電極部分E21は、隣り合う方向と交差する方向を長手方向として延びている。半導体レーザ素子10Aの厚み方向をZ軸、軸方向をX軸、光出射端面LESに垂直な方向をY軸とした場合に、XY平面内において、各駆動電極E2の第一電極部分E21の延びている長手方向は、Y軸に平行な直線に対して角度φを成している。すなわち、第一電極部分E21の長手方向は、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜している。第一電極部分E21は、光出射端面LESの位置から逆側の側面に向けて一方向に延びているが、半導体レーザ素子10Aを完全に横断することなく、途中で途切れている。
第二電極部分E22は、第一電極部分E21から、隣り合う駆動電極に向かって、第一電極部分E21の短手方向に突出した部分である。第一電極部分E21は各駆動電極E2の全てが有しているのに対し、第二電極部分E22は、各駆動電極E2のうち、少なくとも1つの駆動電極E2が有していればよい。駆動電流の供給により、第一電極部分E21及び第二電極部分E22の双方に駆動電流が流れる。
図25〜図27は、駆動電極の変形例を示す図である。
図25(A)〜(C)に示す複数の駆動電極E2には、隣り合う第一駆動電極E201と第二駆動電極E202とが含まれている。第一駆動電極E201は、第一駆動電極E201の第一電極部分E21から、第二駆動電極E202に向かって突出した第二電極部分E22を有する。同様に、第二駆動電極E202は、第二駆動電極E202の第一電極部分E21から、第二駆動電極E201に向かって突出した第二電極部分E22を有する。
第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向(第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向と交差する方向)から見た場合に、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22とは、重なり合う部分を有していない。図25(A)〜(C)に示す駆動電極E2では、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と第二駆動電極E202の第二電極部分E22とは、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向から見た場合に、互い違いになっている。
図25(A)に示す駆動電極E2は、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向から見た場合、及び、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合のいずれの場合にも、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22とが重なり合う部分を有さない。第二電極部分E22の形状は、長方形である。
図25(B)及び図25(C)に示す駆動電極E2は、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向から見た場合には、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22とは重なり合う部分を有さない。一方で、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合には、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22とは重なり合う部分を有する。図25(B)に示す駆動電極E2は、第二電極部分E22の形状が長方形であり、図25(C)に示す駆動電極E2は、第二電極部分E22の形状が台形である。
図26(A)〜(C)に示す複数の駆動電極E2には、隣り合う第一駆動電極E201と第二駆動電極E202とが含まれている。第一駆動電極E201は、第一駆動電極E201の第一電極部分E21から、第二駆動電極E202に向かって突出した第二電極部分E22を有する。同様に、第二駆動電極E202は、第二駆動電極E202の第一電極部分E21から、第二駆動電極E201に向かって突出した第二電極部分E22を有する。
第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向から見た場合に、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22とは、重なり合う部分を有している。第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合に、それぞれの駆動電極の第二電極部分E22の間隔は、所定間隔よりも大きい。
図26(A)及び図26(B)に示す駆動電極E2は、第一駆動電極E201と第二駆動電極E202は、三角形形状の第二電極部分E22を有しており、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向から見た場合に、それぞれの駆動電極の第二電極部分E22は、重なり合う部分を有している。第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合に、それぞれの駆動電極の第二電極部分E22の間隔は、所定間隔よりも大きい。駆動電極間の第二電極部分E22の所定の間隔は、第一駆動電極E201の第二電極部分E22のうち大きく突出した部分(の、第一電極部分E21の長手方向における位置)に対応した、第二駆動電極E202の第二電極部分E22は小さく突出させ、第一駆動電極E201の第二電極部分E22のうち小さく突出した部分(の、第一電極部分E21の長手方向における位置)に対応した、第二駆動電極E202の第二電極部分E22は大きく突出させることで保たれている。
図26(C)に示す駆動電極E2は、第一駆動電極E201と第二駆動電極E202の双方が、円形形状の第二電極部分E22を有している。上述した図26(A)及び図26(B)に示す駆動電極E2と同様、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合に、それぞれの駆動電極の第二電極部分E22の間隔は、所定間隔よりも大きい。
図27(A)に示す駆動電極E2は、各駆動電極が有する第二電極部分E22が、すべて同一の方向に向かって突出している。第二電極部分E22の形状は、長方形である。また、図27(B)に示す駆動電極E2は、第二駆動電極E202は、第一駆動電極E201の両隣りに位置しており、第一駆動電極E201は、第一駆動電極E201の第一電極部分E21から、第二駆動電極E202に向かって突出した第二電極部分E22を有している。第二電極部分E22の形状は、長方形である。一方で、第二駆動電極E202は、第二電極部分E22を有していない。
図28は、半導体レーザ素子が実装されるヒートシンクの電極構造を説明するための図である。
駆動電極E2は、第一電極部分E21と第二電極部分E22とからなる駆動電極であるが、半導体レーザ素子10Aの実装組立時には、第一電極部分E21のみ(第二電極部分E22を有さない)の駆動電極を用いて実装組立を行う場合と同様に、ヒートシンク101として、電極/ハンダ構造は、図28に示すような通常の短冊状のものを用いる。
以上、説明したように、半導体レーザ素子10Aの第一駆動電極E201は、第一電極部分E21から第二駆動電極E202に向かって突出した、第二電極部分E22を有する。
上記構成により、活性層3Bの、第一駆動電極E201の第一電極部分E21と第二駆動電極E202の第一電極部分E21との間に位置する領域にも、上記第二電極部分E22を通して、十分な駆動電流が供給される。これにより、活性層3Bの、第一駆動電極E201の第一電極部分E21と第二駆動電極E202の第一電極部分E21との間に位置する領域で得られるゲインが大きくなり、当該領域から十分な出力を有するレーザビームを得ることができる(図29参照)。得られるこのレーザビームの出射角は、第一駆動電極E201に対応するレーザビームの出射角と第二駆動電極E202に対応するレーザビームの出射角との間の出射角とされるため、レーザビームの細かな出射角制御が確実に実現される。
レーザビームの出射角は、各駆動電極毎に決まるが、ある任意の駆動電極に係るレーザビームの出射角と、該任意の駆動電極と隣り合う駆動電極に係るレーザビームの出射角との中間の出射角のレーザビームを得たい場合には、図30(A)に示すように、任意の駆動電極E2と、任意の駆動電極E2と隣り合う駆動電極E2の双方に駆動電流を供給する。そして、より細かい出射角のレーザビームを得たい場合には、図30(B)に示すように、幅の細かい駆動電極を多数配置し、それらの間隔(電極ピッチ間隔)を狭くすればよい。
しかしながら、このような電極ピッチ間隔が狭い半導体レーザ素子を組み立てる場合には、半導体レーザ素子の実装組立工程(駆動電極E2をヒートシンク101に固定する工程)において、図31(A)に示すジャンクションアップ組立、または、図31(B)に示すジャンクションダウン組立のいずれを行う場合にも、ヒートシンク101と半導体レーザ素子とを接着するために用いるハンダ材102のはみ出しによる、隣り合う駆動電極同士の短絡が問題となっていた。この点、本発明に係る半導体レーザ素子10Aは、レーザビームの細かな出射角制御を行う上で、電極ピッチ間隔を狭くせずに第二電極部分E22を利用して駆動電流によるゲインが得られる。よって、狭い電極ピッチ間隔は必要とされず、上述したような実装組立時における駆動電極の短絡が問題とならない。
例えば図25(A)〜(C)に示す半導体レーザ素子10Aは、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202は第二電極部分E22を有し、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向から見た場合に、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22とは、重なり合う部分を有さない。この場合、半導体レーザ素子10Aを実装組立する際に、第一駆動電極E201と第二駆動電極E202との短絡が生じるのを抑制することができる。
例えば図25(A)に示す半導体レーザ素子10Aは、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合に、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と第二駆動電極E202の第二電極部分E22とが重なり合う部分を有さない。この場合、半導体レーザ素子10Aを実装組立する際に、第一駆動電極E201と第二駆動電極E202との短絡が生じるのをより一層抑制することができる。
例えば図25(B)及び図25(C)に示す半導体レーザ素子10Aは、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合に、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と第二駆動電極E202の第二電極部分E22とが重なり合う部分を有する。この場合、活性層3Bの、第一駆動電極E201の第一電極部分E21と第二駆動電極E202の第一電極部分E21との間に位置する領域に、より一層十分な駆動電流が供給される。この結果、活性層3Bの、第一駆動電極E201の第一電極部分E21と第二駆動電極E202の第一電極部分E21との間に位置する領域で得られるゲインが更に大きくなり、当該領域から出力されるレーザビームの出力を増大させることができる。
例えば図26(A)〜(C)に示す半導体レーザ素子10Aは、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202は第二電極部分E22を有し、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の短手方向から見た場合に、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22とは、重なり合う部分を有し、第一駆動電極E201及び第二駆動電極E202の長手方向から見た場合に、第一駆動電極E201の第二電極部分E22と、第二駆動電極E202の第二電極部分E22との間隔は、所定の間隔より大きい。この場合、活性層3Bの、第一駆動電極E201の第一電極部分E21と第二駆動電極E202の第一電極部分E21との間に位置する領域から出力されるレーザビームの出力を増大させることができると共に、半導体レーザ素子10Aを実装組立する際に、第一駆動電極E201と第二駆動電極E202との短絡が生じるのを抑制することができる。
例えば図27(A)に示す半導体レーザ素子10Aは、第二電極部分E22は、すべて同一の方向に向かって突出している。この場合、半導体レーザ素子10Aを実装組立する際に、第一駆動電極E201と第二駆動電極E202との短絡が生じるのを抑制することができる。
例えば図27(B)に示す半導体レーザ素子10Aは、第二駆動電極E202は、第一駆動電極E201の両隣りに位置しており、第一駆動電極E201は、第一駆動電極E201の第一電極部分E21から、第二駆動電極E202に向かって突出した第二電極部分E22を有し、第二駆動電極E202は、第二電極部分E22を有さない、態様とすることで、第一駆動電極E201の数を少なくしながら、レーザビームの細かな出射角制御を確実に実現することができる。
つぎに、フォトニック結晶層4として、第一フォトニック結晶層41と、第二フォトニック結晶層43と、を含んでいる半導体レーザ素子10Bについて説明する。なお、上述した、半導体レーザ素子10Aと重複する説明は省略する。
まず、本実施形態に係る半導体レーザ素子10Bの構成について説明する。図32は、半導体レーザ素子の概略斜視図である。図33は、半導体レーザ素子のXXXIII−XXXIII線に沿った断面構成を示す図である。図34は、半導体レーザ素子のXXXIV−XXXIV線に沿った断面構成を示す図である。
半導体レーザ素子10Bは、端面発光型の半導体レーザ素子である。半導体レーザ素子10Bは、半導体基板1上に順次形成された、下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、フォトニック結晶層4、上部クラッド層5、及びコンタクト層6を備えている。半導体基板1の裏面側には、電極E1が全面に設けられており、コンタクト層6上には、複数の駆動電極E2が設けられている。
コンタクト層6上の表面は、その一部が絶縁膜SHによって覆われている。絶縁膜SHは、例えば、SiNやSiO2から形成することができる。絶縁膜SH上には、複数の電極パッドEPが配置されている。
半導体レーザ素子10Bの平面形状は長方形であり、XYZ三次元直交座標系を設定した場合には、厚み方向をZ軸、幅方向をX軸とし、光出射端面LESに垂直な方向をY軸とする。XY平面内において、各駆動電極E2の延びている長手方向は、Y軸に平行な直線に平行である。
コンタクト層6の上面(絶縁膜SHが形成される面)は、半導体レーザ素子10Bの厚み方向から見て、Y軸方向において、光出射端面LES側から、第一領域6a、第二領域6b、及び第三領域6cに分けられる。第二領域6bは、Y軸方向において、第一領域6aと第三領域6cとの間に位置している。各領域6a6b,6cは、X軸方向に、それぞれ伸びている。絶縁膜SHは、コンタクト層6の第三領域6c上に配置されている。
複数の駆動電極E2は、半導体レーザ素子10Bの厚み方向から見た場合、第二領域6bにおいて、X軸方向に併置されている。各駆動電極E2は、駆動電極E2の短辺方向に併置されている。駆動電極E2の長手方向は、半導体レーザ素子10Bの厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子10Bの光出射端面LESの法線(Y軸)に対して平行である。
複数の駆動電極E2は、図24に示された駆動電極E2と同じく第一電極部分E21と第二電極部分E22とを有し、互いに隣り合っている。駆動電極E2の形状は図25〜図27に示された形状であってもよい。
上下の電極E1,E2間に電流を流すと、いずれかの電極E2の直下の領域Rを電流が流れ、この領域Rが発光する。複数の駆動電極E2は、活性層3Bにおける、光出射端面LESに平行で且つ活性層3Bが延びる方向、すなわちX軸方向に並んで位置する複数の領域Rに駆動電流を供給する。
各電極パッドEPは、図34に示されているように、対応する駆動電極E2に、絶縁膜SH上に配置された配線W1を通して電気的に接続されている。駆動電極E2の数と電極パッドEPの数とは同じである。本実施形態では、複数の電極パッドEPは、複数列でX軸方向に沿って配置されている。複数の電極パッドEPは、第三領域6cの上方に位置している。本実施形態では、各電極パッドEPは、正方形状を呈している。図32及び図33では、配線W1の図示を省略している。
半導体レーザ素子10Bにおいては、フォトニック結晶層4は、第一フォトニック結晶層41と、第二フォトニック結晶層43と、を含んでいる。すなわち、第一フォトニック結晶層41と第二フォトニック結晶層43とは、基本層4Aと、基本層4A内に周期的に埋め込まれた複数の埋め込み層(異屈折率部)4Bと、をそれぞれ有している。第一フォトニック結晶層41と第二フォトニック結晶層43とは、同一層に位置しており、第二フォトニック結晶層43は、第一フォトニック結晶層41よりも光出射端面LES側に位置している。
フォトニック結晶は、屈折率が周期的に変化するナノ構造体であり、周期に応じて特定の波長の光を特定の方向へ強め合わせる、すなわち回折させることができる。たとえば、この回折を光の閉じ込めに用い、共振器として利用することにより、レーザが実現される。
本実施形態では、閃亜鉛構造の第1化合物半導体(GaAs)からなる基本層4A内に複数の穴Hを周期的に形成し、穴H内に、閃亜鉛構造であって第2化合物半導体(AlGaAs)からなる埋め込み層4Bを成長させてなるフォトニック結晶層4を備えている。フォトニック結晶を構成するため、第1化合物半導体と、第2化合物半導体の屈折率は異なる。本実施形態では、第2化合物半導体の方が、第1化合物半導体よりも屈折率が低いが、逆に第1化合物半導体の方が、第2化合物半導体よりも屈折率が低くてもよい。
埋め込み層4BのXY平面内における形状は、図10の(A)〜(F)に示されるように、長方形、正方形、楕円形又は円形、若しくは、二等辺三角形又は正三角形であってもよい。三角形として、底辺がX方向に平行な三角形((D)に図示)、底辺がY方向に平行な三角形((E)に図示)、又は、(D)に示される三角形を180度回転させた三角形((F)に図示)を採用することもできる。いずれの図形も回転や寸法比率の変更を行うことができる。これらの図形の配列周期は、各図形の重心間の距離を用いることができる。本実施形態では、埋め込み層(異屈折率部)4Bの形状として、(C)に示された円形(真円形)が採用されている。
図35は、第一フォトニック結晶層の平面図である。
第一フォトニック結晶層41は、複数の駆動電極E2の下方に位置する。第一フォトニック結晶層41では、その厚み方向から見たときに、埋め込み層4Bが、正方格子を構成する格子点(Γ点)にそれぞれ配置されている。すなわち、埋め込み層4Bは、X軸方向及びY軸方向に整列し、2次元周期構造を構成している。これにより、第一フォトニック結晶層41は、複数の領域Rに対応する領域にわたって、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有することとなる。埋め込み層4Bの整列方向での周期P1は、
λ0/n1
に設定されている。λ0は、レーザ光の、真空中での波長である。n1は、第一フォトニック結晶層41における光の実行屈折率である。
レーザビームは、活性層3B内において発生するが、活性層3Bから染み出した光は、隣接する第一フォトニック結晶層41の影響を受ける。第一フォトニック結晶層41内には、図35に示されるような周期的屈折率分布構造が形成されている。第一フォトニック結晶層41により回折を受けた結果、図35内に矢印で示す方向にレーザビームが発生する。第一フォトニック結晶層41が、複数の領域Rに対応する領域にわたって、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有しているので、各領域Rからは、同一の方向にレーザビームが出力される。本実施形態では、Y軸方向、すなわち光出射端面LESに向かうレーザビームが利用される。
第一フォトニック結晶層41における、埋め込み層4Bの配置は、図35に示された配置に限られることなく、図36の(A)〜(C)に示された配置であってもよい。
図36の(A)では、埋め込み層4Bは、正方格子のM点にそれぞれ配置されている。埋め込み層4Bは、X軸方向及びY軸方向に45度傾き且つ互いに直交する2方向において整列している。埋め込み層4Bの整列方向での周期P2は、
2−1/2×λ0/n1
に設定されている。この場合も、主要光波の進行方向は、図中の矢印で示されるように、X軸方向及びY軸方向に沿う方向となる。
図36の(B)では、埋め込み層4Bは、三角格子のΓ点にそれぞれ配置されている。埋め込み層4Bの周期P3は、
λ0/n1
に設定されている。この場合、主要光波の進行方向は、図中の矢印で示される60°間隔の方向となる。図36の(C)では、埋め込み層4Bは、三角格子のJ点にそれぞれ配置されている。埋め込み層4Bの周期P4は、
2×3−1/2×λ0/n1
に設定されている。この場合、主要光波の進行方向は、図中の矢印で示される60°間隔の方向となる。
半導体レーザ素子10Bでは、下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、第一フォトニック結晶層41、上部クラッド層5、及び複数の駆動電極E2が、発振部を構成する。発振部は、複数のレーザビームを生成し、生成した複数のレーザビームを同一の方向に出力する。
図37は、第二フォトニック結晶層の平面図である。
第二フォトニック結晶層43においても、埋め込み層4Bは、2次元周期構造を構成している。第二フォトニック結晶層43における複数の埋め込み層4Bは、所定の格子構造の格子点位置に配置されている。この所定の格子構造では、二つの基本並進ベクトルがなす角φは、当該所定の格子構造の一方の基本並進ベクトルに直交する方向とレーザビームの出射方向とがなす角をθとして、
φ=tan−1{sinθ/(2cos2(θ/2))}
を満たしている。
第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに沿う方向での格子点の周期P5は、
λ0/(n2×sinθ)
を満たしている。第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに直交する方向での格子点の周期P6は、mを任意の自然数としたときに、
(2m-1)×λ0/(2n2)
を満たしている。n2は、第二フォトニック結晶層43における光の実行屈折率である。
二つの基本並進ベクトルがなす角φ(又は、X軸方向での埋め込み層4Bの間隔)は、X軸方向での位置に応じ、図37に示されるように、連続的に変化している。すなわち、第二フォトニック結晶層43は、複数の領域Rに対応する領域毎に、埋め込み層4Bの配列周期が異なる上述した周期構造を有している。第二フォトニック結晶層43は、上記周期構造により、上記発振部から同一の方向に出力された複数のレーザビームをそれぞれ異なる方向に偏向して光出射端面から出射させる偏向部を構成する。
第二フォトニック結晶層43は、複数の領域Rに対応する領域毎で、上記発振部からのレーザビームの出力方向と同じ方向に透過する光を弱め合う干渉を生じさせると共に、光出射端面LESからのレーザビームの出射方向に回折する光を強め合う干渉を生じさせる。第二フォトニック結晶層43では、その厚み方向から見たときに、埋め込み層4Bは、Y軸方向、すなわち上記発振部からのレーザビームの出力方向と同じ方向に対しては、等間隔(同じ配列周期)で並んでいる。Y軸方向での埋め込み層4Bの周期は、mを任意の自然数としたときに、
(2m-1)×λ0/(2n2)
に設定されている。光出射端面LESに平行なX軸方向での埋め込み層4Bの周期は、
λ0/(n2×sinθ)
に設定されている。
以上のように、半導体レーザ素子10Bでは、第一フォトニック結晶層41が、複数の領域Rに対応する領域にわたり、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有しているので、発振部からは、複数の駆動電極E2毎に同一の方向にレーザビームが出力される。第二フォトニック結晶層43が、複数の領域Rに対応する領域毎に、埋め込み層4Bの配列周期が異なる周期構造を有しているので、偏向部からは、発振部から同一の方向に出力された各レーザビームがそれぞれ異なる方向に偏向されて、光出射端面LESから出射される。
半導体レーザ素子10Bでは、発振部と偏向部とが分かれていると共に、第一フォトニック結晶層41が、複数の領域Rに対応する領域にわたり、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有している。このため、発振閾値がレーザビーム毎で一定であり、安定した動作を実現することができる。
第二フォトニック結晶層43は、複数の領域Rに対応する領域毎で、発振部からのレーザビームの出力方向と同じ方向に透過する光を弱め合う干渉を生じさせると共に、光出射端面LESからのレーザビームの出射方向に回折する光を強め合う干渉を生じさせている。これにより、偏向部は、確実に、発振部から同一方向に出力された各レーザビームを異なる方向に偏向して光出射端面から出射させることができる。