以下、実施の形態に係る半導体レーザモジュール及び半導体レーザモジュールのレーザビームを出射する方向に関する情報を設定するための設定方法について説明する。なお、同一要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
図1は、半導体レーザモジュールの機能構成を示す図である。
半導体レーザモジュールLMは、半導体レーザ素子10と、記憶装置20(記憶手段)と、駆動回路30(駆動手段)とを具備している。半導体レーザ素子10は、機能的には、複数の仮想的なレーザダイオード10Aを備えている。複数のレーザダイオード10Aは、それぞれ互いに異なる方向にレーザビームを出射する。レーザダイオード10Aのアノードは、それぞれ独立した駆動電極E2である。レーザダイオード10Aのカソードは、電極E1である。全てのレーザダイオード10Aの電極E1は、一つの電極として統合されている。半導体レーザ素子10は、駆動電極E2を選択して、選択された駆動電極E2に駆動電流を供給することにより、選択された駆動電極E2ごとに異なる方向にレーザビームを出射する。駆動電極E2及びレーザダイオード10Aの数は、半導体レーザ素子10が出射するレーザビームの方向の所望の範囲を網羅するための必要最低限の数よりも多くされている。半導体レーザ素子10の詳細な構成については後述する。
記憶装置20は、半導体レーザ素子10がレーザビームを出射する方向に関する情報と、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流が供給される駆動電極E2に関する情報と、を対応付けた対応情報を記憶している。より具体的には、半導体レーザ素子10がレーザビームを出射する方向に関する情報とは、標準的な半導体レーザ素子10において、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報である。記憶装置20に記憶される対応情報は、後述する設定方法により、予め、例えば半導体レーザモジュールLMの出荷検査時に記憶されている。
駆動回路30は、駆動電流供給回路11(駆動電流供給部)、信号処理回路31及び電極選択駆動回路32(選択部)を備えている。駆動回路30は、半導体レーザ素子10及び記憶装置20に接続されている。
駆動電流供給回路11は、駆動電極E2を選択する情報に基づいて、選択された駆動電極E2に駆動電流を供給する。上記の駆動電極E2を選択する信号は、半導体レーザモジュールLMの外部から信号処理回路31を経由して外部信号として入力される信号、又は、電極選択駆動回路32により出力される信号である。ここで、外部信号とは、標準的な半導体レーザ素子10において、所定の角度にレーザビームを出射させるために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報を含む信号である。
信号処理回路31は、半導体レーザモジュールLMの外部から入力された信号である外部信号を、駆動電流供給回路11及び電極選択駆動回路32のいずれかに振り分ける。信号処理回路31は、所定の契機で出荷検査モードと通常モードの2種類の動作のモードを切り替える。出荷検査モードは、半導体レーザモジュールLMの出荷検査時に使用されるモードである。通常モードは、半導体レーザモジュールLMが通常使用される時に使用されるモードである。出荷検査モードでは、信号処理回路31は、信号処理回路31に入力された外部信号を駆動電流供給回路11へ出力する。通常モードでは、信号処理回路31は、信号処理回路31に入力された外部信号を電極選択駆動回路32へ出力する。信号処理回路31が動作のモードをどのように切り替えるかについては、適宜定めることができる。例えば、半導体レーザモジュールLMにハードウェア的なスイッチを設け、このスイッチを操作することにより信号処理回路31が動作のモードを出荷検査モードに切り替えるようにしてもよい。半導体レーザ素子10に対して所定の操作を行うことにより、信号処理回路31が動作のモードを出荷検査モードに切り替えるようにしてもよい。半導体レーザ素子10に、出荷検査モードに切り替えることを指示する信号を入力することにより、信号処理回路31が動作のモードを出荷検査モードに切り替えるようにしてもよい。
電極選択駆動回路32は、記憶装置20に記憶された対応情報に基づいて、複数の駆動電極E2から、レーザビームの出射角度が所望の角度となる駆動電極E2を選択する。電極選択駆動回路32は、どの駆動電極E2を選択するかを示す信号を駆動電流供給回路11に出力する。
次に、端面発光型の半導体レーザ素子10及び半導体レーザ素子10を用いたレーザビーム偏向装置について詳細に説明する。
図2は、半導体レーザ素子の縦断面図であり、図3は、半導体レーザ素子の平面図である。
半導体レーザ素子10は、半導体基板1上に順次形成された下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、フォトニック結晶層4、上部クラッド層5、コンタクト層6を備えている。半導体基板1の裏面側には、電極E1が全面に設けられており、コンタクト層6上には、複数の駆動電極E2が設けられている。同図では、簡略的に5本の駆動電極E2が示されているが、実際には更に多くの駆動電極E2がコンタクト層6上に設けられる。
なお、駆動電極E2の形成領域以外のコンタクト層6上の表面は、絶縁膜SHによって覆われている。絶縁膜SHは、例えば、SiNやSiO2から形成することができる。
これらの化合物半導体層の材料/厚みは以下の通りである。なお、導電型の記載のないものは不純物濃度が1015/cm3以下の真性半導体である。なお、不純物が添加されている場合の濃度は、1017〜1020/cm3である。また、下記は本実施の形態の一例であって、活性層3Bおよびフォトニック結晶層4を含む構成であれば、材料系、膜厚、層の構成には自由度を持つ。上部光ガイド層3Cは、上層及び下層の2つの層からなる。
・コンタクト層6:P型のGaAs/50〜500nm
・上部クラッド層5:P型のAlGaAs(Al0.4Ga0.6As)/1.0〜3.0μm
・フォトニック結晶層4:
基本層4A:GaAs/50〜400nm
埋め込み層(異屈折率部)4B:AlGaAs(Al0.4Ga0.6As)/50〜400nm
・上部光ガイド層3C:
上層:GaAs/10〜200nm
下層:p型または真性のAlGaAs/10〜100nm
・活性層3B(多重量子井戸構造):
AlGaAs/InGaAs MQW/10〜100nm
・下部光ガイド層3A:AlGaAs/0〜300nm
・下部クラッド層2:N型のAlGaAs/1.0〜3.0μm
・半導体基板1:N型のGaAs/80〜350μm
電極E1の材料としては例えばAuGe/Au、電極E2の材料としては例えばCr/AuやTi/Auを用いることができる。
なお、光ガイド層は省略することも可能である。
この場合の製法において、MOCVD法によるAlGaAsの成長温度は500℃〜850℃であって、実験では550〜700℃を採用し、成長時におけるAl原料としてTMA(トリメチルアルミニウム)、ガリウム原料としてTMG(トリメチルガリウム)およびTEG(トリエチルガリウム)、As原料としてはAsH3(アルシン)、N型不純物用の原料としてSi2H6(ジシラン)、P型不純物用の原料としてDEZn(ジエチル亜鉛)を用いることができる。
上下の電極E1,E2間に電流を流すと、いずれかの電極E2の直下の領域Rを電流が流れ、この領域が発光して、レーザビームLBが基板の側方端面から所定の角度で出力される(図3参照)。駆動電極E2のいずれに駆動電流を供給するかにより、いずれのレーザビームLBが出射されるかが決定される。
半導体レーザ素子の平面形状は長方形であり、XYZ三次元直交座標系を設定した場合には、厚み方向をZ軸、幅方向をX軸とし、光出射端面LESに垂直な方向をY軸とする。XY平面内において、各駆動電極E2の延びている長手方向は、Y軸に平行な直線に対して角度φを成している。すなわち、駆動電極E2の長手方向は、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子の光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜している。駆動電極E2は、光出射端面LESの位置から逆側の端面に向けて延びているが、半導体レーザ素子を完全に横断することなく、途中で途切れている。
図4は、半導体レーザ素子内部のレーザビームの進行状態を説明するための素子内部の平面図である。
レーザビームは、活性層3B内において発生するが、活性層3Bから染み出した光は、隣接するフォトニック結晶層4の影響を受ける。フォトニック結晶層4内には、周期的屈折率分布構造が形成されている。このフォトニック結晶層により回折を受けた結果、活性層3Bの内部では、波数ベクトルk1〜k4で示されるレーザビームが発生している。波数ベクトルは、向きが波面の法線方向(つまり波の伝播方向)で、大きさが波数となるベクトルのことである。波数ベクトルk1、k2のレーザビームは、光出射端面LESに向かっており、波数ベクトルk4、k3のレーザビームは、これらとは逆の方向に向かっている。
波数ベクトルk1、k2のレーザビームは、XY平面内において、Y軸に平行な直線と角度φを成すB方向に対して、それぞれ±δθの角度を成して進行する。なお、B方向は、駆動電極E2の延びている方向である。A方向は、XY平面内において、B方向に垂直な方向である。なお、XYZ直交座標系をZ軸回りにφだけ回転させた座標系をxyz直交座標系とする。この場合、A方向はx軸正方向に一致し、B方向はy軸負方向に一致する。波数ベクトルk1、k2のレーザビームは、光出射端面LESに対して入射して外部に出射しようとするが、それぞれの入射角をθ1、θ2とする。波数ベクトルk1のレーザビームの屈折角はθ3とする。θ3は、90度よりも小さい。すなわち、波数ベクトルk2のレーザビームの入射角θ2は、全反射臨界角以上であり、光出射端面LESにおいて、全反射が生じ、外部には出力されない。一方、波数ベクトルk1のレーザビームの入射角θ1は、全反射臨界角未満であり、光出射端面LESを透過して、外部に出力される。なお、θ4は、光出射端面LESにおいて全反射したレーザビームの進行方向と、Y軸負方向の成す角度であり、90度以上である。
なお、フォトニック結晶層4は、複数のフォトニック結晶領域4Rが集合して形成されている。
図5は、単一の周期構造を有するフォトニック結晶領域4Rの平面図である。
フォトニック結晶は、屈折率が周期的に変化するナノ構造体であり、周期に応じて特定の波長の光を特定の方向へ強め合わせる、すなわち回折させることが出来る。この回折を光の閉じ込めに用い、共振器として利用することで、レーザを実現することが出来る。本実施形態のフォトニック結晶層4は、基本層4Aと、基本層4A内に周期的に埋め込まれた埋め込み層(異屈折率部)4Bからなる。
本実施形態では、閃亜鉛構造の第1化合物半導体(GaAs)からなる基本層4A内に複数の穴Hを周期的に形成し、穴H内に、閃亜鉛構造であって第2化合物半導体(AlGaAs)からなる埋め込み層4Bを成長させてなるフォトニック結晶層4を備えている。もちろん、フォトニック結晶を構成するため、第1化合物半導体と、第2化合物半導体の屈折率は異なる。なお、本実施形態では、第2化合物半導体の方が、第1化合物半導体よりも屈折率が低いが、逆に第1化合物半導体の方が、第2化合物半導体よりも屈折率が低くてもよい。
埋め込み層である異屈折率部4Bは、A方向及びB方向に沿って整列し、2次元周期構造を構成している。ここでは、A方向の異屈折率部4B間のピッチをa1、B方向の異屈折率部4B間のピッチをb1とする。なお、a1=b1であってもよい。AB平面内における各異屈折率部4Bの平面形状として、同図には長方形が示されているが、異屈折率部4Bの平面形状はこれに限定されるものではない。
図6は、図5とは異なる単一の周期構造を有するフォトニック結晶領域4Rの平面図である。
埋め込み層である異屈折率部4Bは、A方向及びB方向に沿って整列し、2次元周期構造を構成している。ここでは、A方向の異屈折率部4B間のピッチをa2、A方向の異屈折率部4B間のピッチをb2とする。なお、a2>a1の関係を満たしている。AB平面内における各異屈折率部4Bの平面形状として、同図にも長方形が示されているが、異屈折率部4Bの平面形状はこれに限定されるものではない。
図7は、複数の周期構造を有するフォトニック結晶領域4Rの平面図である。
すなわち、このフォトニック結晶領域4Rは、図5に示した周期構造と、図6に示した周期構造とを単一のフォトニック結晶領域4Rが含んでおり、周期a1と周期a2を有している。また、同図には、B方向の周期は共にb2(=b1)とすることとしたものが示されている。
かかる構造の場合、周期a1の逆数(1/a1)と、a2の逆数(1/a2)との差分に応じて、図4におけるδθが決定される。すなわち、周期a1とa2を決定することで、波数ベクトルk1,k2で示されるレーザビームの進行方向を決定することができる。なお、δθ=sin−1(δk/k)、δk=|π{(1/a1)−(1/a2)}|、k=2π/λである。λは半導体レーザ素子中のレーザ光の波長、kは半導体レーザ素子中のレーザ光の波数である。
本実施形態の場合、上記パラメータθ1、θ2、半導体レーザ素子中の光の等価屈折率ndevの満たすべき不等式は、次の通りである。
0≦θ1<sin−1(1/ndev)
θ2≧sin−1(1/ndev)
また、本発明の通りフォトニック結晶全体がφ傾いていることを考慮すると、各パラメータの満たすべき方程式は次の通りとなる。
δθ=φ−sin−1(sinθ3/ndev)
δk=(2π/λ0)sin{φ−sin−1(sinθ3/ndev)}
b1=b2=b0/√(1−sin2δθ)
a1=1/{(δk/2π)+(1/b1)}
a2=1/{(1/b2)−(δk/2π)}
なお、b0はB方向(格子点の整列方向(異屈折率部の配列方向))に対する基準周期であり、例えば290nm程度である。
すなわち、φは光出射端面LESに垂直な方向に対する異屈折率部の配列方向(B方向)の傾き、θ3はレーザビームの出射角、ndevは半導体レーザ素子中の光の等価屈折率とし、第1及び第2駆動電極に駆動電流を供給した場合において、第1及び第2駆動電極直下の活性層の第1及び第2領域でそれぞれ発生するレーザビームの共振波長が同一となるように、第1、第2、第3及び第4周期構造(後述)において、基本並進ベクトルに沿った方向のうち一つに関して、その周期b1、b2が、√{1−sin2(φ−sin−1(sinθ3/ndev))}に反比例する。周期の設定を変えることで、出射角θ3を変化させることができる。
波数ベクトルk2のレーザビームの全反射条件を満たす場合の全反射臨界角θcは、θc=sin−1(1/ndev)で与えられ、本例の場合は、φ=18.5°、θ2>θc=17.6°である。
図8は、複数の周期構造を有するフォトニック結晶層領域4Rを、複数有するフォトニック結晶領域群4Gの平面図である。フォトニック結晶層領域4Rは、A方向に沿って整列して配置されている。
一番左のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ1、2番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ2、2番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ3、4番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ4、5番目のフォトニック結晶層領域4Rを領域Δ5とする。便宜上、Δ1〜Δ5は、上記周期の逆数のパラメータも示すこととする。
領域Δ1内では、A方向に図7に示した周期a1と周期a2を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
同様に、領域Δ2内では、A方向に周期a1と周期a3を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
領域Δ3内では、A方向に周期a1と周期a4を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
領域Δ4内では、A方向に周期a1と周期a5を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。
領域Δ5内では、A方向に周期a1と周期a6を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列されている。但し、a1<a2<a3<a4<a5<a6の関係を満たしている。
一般式を用いて説明すると、領域ΔN(Nは自然数)が、A方向にそってNの値が小さい順番に左から右に配列されており、領域ΔN内では、A方向に周期a1と、周期a(N+1)を満たして異屈折率部4Bが配列され、B方向に周期b2で異屈折率部4Bが配列され、aN<a(N+1)を満たしている。
これにより、周期の逆数の差に応じて、異なる方向にレーザビームを出射することができる。
図9は、フォトニック結晶領域群4Gを有するフォトニック結晶層の平面図である。
フォトニック結晶層4内において、各領域Δ1〜Δ5は、順番にA方向に沿って配置されている。各領域Δ1〜Δ5の長手方向はB方向(駆動電極E2の長手方向)に一致している。各駆動電極E2に、選択的に駆動電流を供給する(電極E1と特定の電極E2の間に駆動電圧を印加する)と、光出射端面LESから、それぞれ異なる方向にレーザビームが出射する(図3参照)。
図10は、基準方向(B方向)からの偏向角δθ(各フォトニック結晶領域内の周期の逆数の差に依存)に対するレーザビームの入射角及び出射角を示すグラフである。
周期の逆数の差が大きくなり、角度δθが大きくなると、入射角θ1及びθ2が大きくなり、k1ベクトルで示されるレーザビームの屈折角(出射角)が90°から0°まで減少する。φ=18.5°であり、δθは、0°から18.5°まで変化させた。半導体レーザ素子中の光の等価屈折率ndevは3.3とした。角度δθを調整することで、目的とするレーザビームの出射角は広い範囲で調整することができる。一方、k2ベクトルで示されるレーザビームではδθの値に拘らず、θ2は常に全反射臨界角を超えているため、常に全反射を生じ、外部には出力されない。
図11は、様々な形状の異屈折率部(構造体)4Bの平面図である。
上記では、異屈折率部4BのAB平面(XY平面)内における形状として長方形(A)のものを示したが、これは正方形(B)、楕円形又は円形(C)とすることもでき、二等辺や正三角形(D)とすることもできる。また、三角形の向きとして、底辺がA方向に平行なもの(D)の他、底辺がB方向に平行なもの(E)、(D)に示す三角形を180度回転させたもの(F)とすることもできる。なお、いずれの図形も回転や寸法比率の変更を行うことができる。なお、これらの図形の配列周期は、各図形の重心間の距離を用いることができる。
なお、2つの周期構造を重畳させるにあたり、周期が異なることにより孔の個数に差異が生じるため、2つの周期構造による回折強度に差が生じる。これを低減するため、周期a1の構造に対してはA方向の形状長さをa1/b1倍し、周期a2の構造に対してはA方向の形状長さをa2/b2(=b1)倍することが効果的である。
なお、上述の実施形態では、駆動電極E2の数が1つの場合には、単一方向のビームのみを出力可能な半導体レーザ素子を構成する。駆動電極E2の数は、複数であれば、レーザビーム偏向装置を構成することができる。
図12は、上記半導体レーザ素子を用いたレーザビーム偏向装置の構成を示す図である。
また、このレーザビーム偏向装置は、上述の半導体レーザ素子10と、第1駆動電極E2(一番左の駆動電極)、第2駆動電極(左から2番目の駆動電極)、第3駆動電極(左から3番目の駆動電極)、第4駆動電極(左から4番目の駆動電極)、第5駆動電極(左から5番目の駆動電極)を含む電極群に、選択的に駆動電流を供給する駆動電流供給回路11を備えている。
駆動電流供給回路11は、各駆動電極E2に、スイッチSW1、SW2、SW3、SW4、SW5を介して、駆動電流を供給する電源回路11Aと、スイッチSW1、SW2、SW3、SW4、SW5のON/OFFを制御する制御回路11Bを備えている。制御回路11Bにより、電源回路11Aから供給される駆動電流を切り替えることで、異なる方向に1方向のレーザビームLBのみを出力することができるが、これはレーザビームLBを擬似的に偏向していることになる。駆動電極の数は、2つでも偏向動作はできるが、これを3以上とすれば、狭いピッチでレーザビームを走査する構造とすることも可能である。
次に、半導体レーザモジュールLMのレーザビームを出射する方向に関する情報を設定するための設定方法について説明する。図13は、半導体レーザモジュールLMの対応情報の設定処理を示すフローチャートである。図14は、半導体レーザモジュールLMの対応情報の設定処理時における信号の流れを示す図である。
半導体レーザモジュールLMの対応情報の設定処理は、例えば、半導体レーザモジュールLMの出荷検査時に行われる。まず、半導体レーザモジュールLMの信号経路を、出荷検査時の信号経路に切り替える(ステップS101)。図14に示されるように、出荷検査時の信号経路においては、外部信号は、信号処理回路31に入力された後、そのまま駆動電流供給回路11に出力され、電極選択駆動回路32には出力されない。外部信号は、半導体レーザ素子10がレーザビームを出射する方向に関する情報を含み、具体的には、半導体レーザ素子10の複数の駆動電極E2のうち、どの駆動電極E2に駆動電流を供給するかを指定する情報を含んでいる。
次に、半導体レーザ素子10の駆動電極E2に駆動電流を供給し、半導体レーザ素子10から出射されるレーザビームの方向を測定する(ステップS103)。ここで、駆動電流を供給する対象となる駆動電極E2の選択は、駆動電極E2を選択する信号を信号処理回路31に入力することによって行われる。駆動電極E2の選択の仕方は、適宜定めることができる。例えば、全ての駆動電極E2を順に1つずつ選択して駆動電流を供給して、それぞれの駆動電極E2に対応するレーザビームの出射方向を順に測定するようにしてもよい。両端の駆動電極E2のみを順に1つずつ選択して駆動電流を供給し、レーザビームの出射方向の両端値を調べるようにしてもよい。
次に、ステップS103で測定されたレーザビームの方向に基づいて、対応情報を作成する(ステップS105)。ここで、対応情報とは、次の2つの情報を対応付ける情報である。第1の情報は、標準的な半導体レーザ素子10において、ある方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報である。第2の情報は、設定処理の対象となっている半導体レーザモジュールLMに設けられた半導体レーザ素子10において、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報と、を対応付ける情報である。
次に、作成した対応情報を、記憶装置20に記憶させる(ステップS107)。
次に、半導体レーザモジュールLMの信号経路を、通常使用時の信号経路に切り替える(ステップS109)。図16に示されるように、通常使用時の信号経路においては、外部信号は、信号処理回路31に入力された後、電極選択駆動回路32に出力され、駆動電流供給回路11には出力されない。
次に、半導体レーザモジュールLMの通常動作時における駆動方法について説明する。図15は、半導体レーザモジュールLMの通常動作時の処理を示すフローチャートである。図16は、半導体レーザモジュールLMの通常動作時における信号の流れを示す図である。
まず、電極選択駆動回路32が、信号処理回路31を介して、入力された外部信号を読み込む(ステップS201)。外部信号とは、半導体レーザモジュールLMにレーザビームを出射させる方向に関する情報を含む信号である。より具体的には、外部信号とは、標準的な半導体レーザ素子10において、ある方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報を含む信号である。
次に、記憶装置20に記憶された外部信号と駆動電極E2との対応情報に基づき、電極選択駆動回路32が、入力された外部信号に対応する駆動電極E2を選択する(ステップS203)。このステップS203では、電極選択駆動回路32が、標準的な半導体レーザ素子10において、ある方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報を、実際に駆動される半導体レーザモジュールLMに設けられた半導体レーザ素子10において、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報に変換する。
次に、電極選択駆動回路32が、選択した駆動電極E2に電流を供給するように、駆動電流供給回路11を制御する(ステップS205)。これにより、駆動電流供給回路11が半導体レーザ素子10に駆動電流を供給し、所望の出射角度のレーザビームが半導体レーザ素子10から出射される。
本実施形態に係る半導体レーザ素子10の駆動方法では、活性層の複数の領域から出射されるレーザビームの出射方向はそれぞれ異なっている。レーザビームを出射させる方向に関する情報と、該方向にレーザビームを出射させるために駆動電流を供給する駆動電極E2に関する情報と、が対応情報により対応付けられている。対応情報に基づいて、複数の駆動電極E2から駆動電極E2が選択される。選択された駆動電極E2に駆動電流が供給される。駆動電極E2を選択する際には、対応情報として、駆動電極E2を選択する信号と、駆動電極E2を選択する信号により選択された駆動電極E2に駆動電流が供給されることにより半導体レーザ素子10から出射されたレーザビームの方向と、の関係に基づいて予め決定された信号が用いられる。ここで、対応情報において、レーザビームを出射する方向と、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給する駆動電極E2との対応は、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との位置ずれの大きさによって異なる。このため、対応情報には、フォトニック結晶層4と駆動電極E2の位置ずれの影響が反映されている。したがって、本実施形態に係る半導体レーザ素子10の駆動方法では、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との位置ずれの影響が反映された対応情報に基づいて、所望のレーザビームの出射方向に対応する駆動電極E2が選択される。このため、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との間に位置ずれが生じた場合にも、所望の出射方向を得ることができる。
駆動電極E2に駆動電流を供給することにより、半導体レーザ素子10内部で2つ以上のレーザビームが生成される。生成されたレーザビームの中で光出射端面LESに向かう1つが光出射端面LESに対して屈折角90度未満となり、光出射端面LESに向かう別の少なくとも1つが光出射端面LESに対して全反射臨界角条件を満たす。このため、同時に出射されるレーザビームの方向を所定の1方向とすることができる。第1及び第2の周期構造におけるそれぞれの配列周期の逆数の差分が、第3及び第4の周期構造におけるそれぞれの配列周期の逆数の差分と異なっている。このため、複数の駆動電極E2のうちどの駆動電極E2に駆動電流を供給するかにより、レーザビームの出射方向を切り替えることができる。
また、本実施形態に係る半導体レーザモジュールLMの設定方法では、複数の駆動電極E2のうち少なくとも一つに駆動電流を供給することによって半導体レーザ素子10からレーザビームを出射させる。出射されたレーザビームの方向が測定される。測定されたレーザビームの出射方向に関する情報と、駆動電流が供給された駆動電極E2に関する情報と、が対応付けられた対応情報が作成される。作成された対応情報が記憶装置20に記憶される。ここで、対応情報において、レーザビームを出射する方向と、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給する駆動電極E2との対応は、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との位置ずれによって異なる。このため、信号と駆動電極E2との対応付けを行う情報には、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との位置ずれの影響が反映されている。このため、半導体レーザモジュールでは、記憶装置20に記憶された情報に基づいて、所望のレーザビームの出射方向に対応する駆動電極E2が選択されるため、所望の出射方向のレーザビームを確実に得ることができる。
以上の説明では、対応情報において、半導体レーザ素子10がレーザビームを出射する方向に関する情報とは、標準的な半導体レーザ素子10において、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報であるものとした。これに代えて、半導体レーザ素子10がレーザビームを出射する方向に関する情報を、レーザビームを出射する方向そのもの、例えばレーザビームと光出射端面LESとの間の角度としてもよい。
なお、上記では、1つのフォトニック結晶層4を用いた例について説明したが、これは2つのフォトニック結晶層4を用いて構成してもよい。
図17は、半導体レーザ素子の縦断面図である。
図2に示したものとの相違点は、クラッド層2と光ガイド層3A(活性層3B)との間に、第2のフォトニック結晶層4’を備えている点のみである。なお、第2のフォトニック結晶層4’は、第1のフォトニック結晶層4と同じ材料からなる基本層4A’と異屈折率部4B’とを備えている。
図2に示したフォトニック結晶層4を第1のフォトニック結晶層とすると、このフォトニック結晶層4は、図5に示した単一の周期構造を有する屈折率分布構造を有しており、第2のフォトニック結晶層4’は、図6に示した周期a2の単一の周期構造のほか、各領域内の周期がa3〜a4となるものを、A方向に並べた屈折率分布構造を有している。すなわち、半導体レーザ素子の厚み方向から、これらのフォトニック結晶層4,4’の重なりを見ると、図8に示したものと同様に、領域Δ1〜領域Δ5が、A方向に沿って整列していることになる。かかる構造の場合においても、各パラメータを上記のように設定することにより、図2に示した構造と同様の作用効果を得ることができる。
なお、かかる構造を製造する場合、クラッド層2の形成後に、第1のフォトニック結晶層4と同様の製造方法を行い(但し、異屈折率部4Bが形成された時点で成長を停止する)、しかる後、この上に、光ガイド層3A以降の各層を、上述の製造方法と同様に製造すればよい。
また、2つの屈折率周期構造を含む第1のフォトニック結晶層4と同一の構造の第2のフォトニック結晶層4’を、第1のフォトニック結晶層4に代えて用いた構造であっても、同様の効果を奏する。
以上、説明したように、上述の半導体レーザ素子は、端面発光型の半導体レーザ素子であって、基板1上に形成された下部クラッド層2と、上部クラッド層5と、下部クラッド層2と上部クラッド層5との間に介在する活性層3B(光ガイド層を含んでもよい)と、活性層3Bと上部及び下部クラッド層の少なくともいずれか一方との間に介在するフォトニック結晶層4,4’と、活性層3Bの第1領域R(1つの駆動電極E2の直下領域)に駆動電流を供給するための第1駆動電極E2と、を備え、第1駆動電極E2の長手方向は、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子の光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜しており、フォトニック結晶層4,4’の第1領域Rに対応する領域Δ1は、周囲と屈折率が異なる異屈折率部の配列周期が互いに異なる第1及び第2の周期構造を有しており、第1及び第2の周期構造におけるそれぞれの前記配列周期(a1、a2)の逆数の差分に応じて、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合、第1駆動電極E2の長手方向(B方向)に対して所定の角度(δθ)を成す2つのレーザビームが半導体レーザ素子内部で生成され、これらのレーザビームの一方のみは、全反射条件を満たすように設定され、他方の屈折角θ3は90度未満となるように設定されることを特徴とする。
すなわち、端面発光型のレーザ素子において、第1駆動電極E2への駆動電流の供給による発光に関して、レーザ素子内部における一方のレーザビームの光出射端面への入射角θを全反射臨界角以上とすることで、当該レーザビームが外部に出力されないようにすることができる。他方のレーザビームの屈折角θ3は、90度未満であるため、当該レーザビームは光出射端面を介して外部に出力することができる。
また、本発明の態様に係る半導体レーザ素子は、活性層3Bの第2領域R(2番目の駆動電極E2の直下の領域)に駆動電流を供給するための第2駆動電極E2を更に備え、第2駆動電極E2の長手方向(B方向)は、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子の光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜しており、フォトニック結晶層の前記第2領域に対応する領域Δ2は、周囲と屈折率が異なる異屈折率部の配列周期が互いに第3及び第4の周期構造を有しており、前記第3及び第4の周期構造におけるそれぞれの前記配列周期(a1,a3)の逆数の差分に応じて、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合、第2駆動電極E2の長手方向に対して所定の角度δθを成す2つのレーザビームが半導体レーザ素子内部で生成され、これらのレーザビームの一方のみは、光出射端面において全反射するように設定され、他方の屈折角θ3は90度未満となるように設定され、第1及び第2の周期構造におけるそれぞれの配列周期(a1,a2)の逆数の差分は、第3及び第4の周期構造におけるそれぞれの配列周期(a1,a3)の逆数の差分とは異なる。
端面発光型のレーザ素子において、第2駆動電極E2への駆動電流の供給による発光に関して、レーザ素子内部における一方のレーザビームの光出射端面への入射角を全反射臨界角以上とすることで、当該レーザビームが外部に出力されないようにすることができる。他方のレーザビームの屈折角は、90度未満であるため、当該レーザビームは光出射端面を介して外部に出力することができる。
なお、左から3番目以降の駆動電極E2に関しても同様の作用効果がある。
ここで、それぞれの駆動電極に対応するフォトニック結晶層4,4’内の領域では、異屈折率部4Bの配列周期の逆数の差(出射方向決定因子)が異なる。この差の値は、レーザビームの出射方向を決定する。したがって、双方の領域において、この差(出射方向決定因子)の値が異なるため、レーザビームの出射方向は、第1駆動電極E2に対応する領域Δ1と、第2駆動電極E2に対応する領域Δ2では異なることとなる。それぞれの領域で発生する一対のレーザビームのうち、一方は全反射臨界角以上で光出射端面に入射するため、外部には出射されない。したがって、各駆動電極への駆動電流の供給を切り替えることにより、異なる方向に1方向のレーザビームのみを出力することができるようになる。
なお、本実施例では周期の異なるフォトニック結晶としてA方向とB方向の周期が(b1,b1)の正方格子をベースとし、第1周期構造として周期が(a1,b1)の長方格子、第2周期構造として周期が(a2,b1)の長方格子の場合について説明したが、もちろん三角格子をベースとしてA方向の周期を互いに異ならせた構造を用いても良い。
図18は、図4に示した平面図の天地を反転させ、出射されるビームの屈折角θ3を若干変更して示した素子内部の平面図である。図4においても同様である。
xyz直交座標系は、XYZ直交座標系をZ軸の周りに角度+φだけ回転させた座標系であり、+x方向は+A方向に一致し、+y方向は−B方向に一致する。フォトニック結晶の孔のパターンの配列は、光出射端面に対して角度φだけ傾斜している。図示のように、波数ベクトルk2の反射方向(波数ベクトルk2’のレーザビーム進行方向)と光出射端面LESの成す角度をθ2’、波数ベクトルk1のレーザビームの反射方向(波数ベクトルk1’のレーザビーム進行方向)と光出射端面LESとの成す角度をθ3’とする。
上述の実施形態では、素子から出射されるレーザビーム数が1本となるように、波数ベクトルk2のレーザビームに関しては、光出射端面LESにおいて全反射されるように、設定した。しかしながら、このレーザビームのパワーを、素子内部において再利用することができれば、電気エネルギーからレーザビームへのエネルギー変換効率が高くなるものと考えられる。そこで、反射したレーザビームY2’を内部で再利用できる条件について、検討する。なお、波数ベクトルk1、k2、k3、k4、k1’、k2’に対応するレーザビーム(主要光波とする)を、それぞれY1、Y2、Y3、Y4、Y1’、Y2’とし、これらは光波のベクトルも示しているものとする。また、X軸と主要光波Y4との成す角度をθt、X軸と主要光波Y3との成す角度をθrとする。
各パラメータθt、θr、θ2’、θ3’は、以下の関係式を満たしている。なお、β0、β1、β2はそれぞれ、B方向における基本逆格子ベクトル、第1周期構造のA方向における基本逆格子ベクトル、第2周期構造のA方向における基本逆格子ベクトルを意味するものとし、β0=2π/b1(=b2)、β1=2π/a1、β2=2π/a2、Δβ=β2−β1、α=β0/Δβとする。
角度θrについて説明すると、図19に示すように、xy座標系において、原点OからP点(βx,βy)に向かうベクトルが、x軸と成す角度θβ=tan−1(βy/βx)で与えられる。ここで、θtはθβにおいて、βx=(1/2)×Δβ、βy=β0として、角度φを加えた場合であるから、(式1)で与えられる。残りのパラメータも同様に計算され、(式2)〜(式4)で与えられる。
θt=tan−1(2α)+φ …(式1)
θr=180°−tan−1(2α)+φ …(式2)
θ2’=tan−1(2α)−φ …(式3)
θ3’=180°−tan−1(2α)−φ …(式4)
何らの付加的な構造が存在しない場合、全反射した主要光波Y2’が、レーザ光共振に寄与するためには、主要光波Y2’の角度θ2’と角度θtが一致する必要がある(θ2’=θt)。この場合、φ=0となる。また、反射した主要光波Y1’の角度θ3’と角度θrが一致する必要がある(θ3’=θr)。この場合、φ=0となる。一方、2つの主要光波Y1,Y2のうち、一方を全反射させるためには、φ≠0である必要がある。したがって、出力されるビーム数を1本となるように全反射を行った場合には、光出射端面にて反射した主要光波をレーザ光共振に有効に寄与させることはできない。
したがって、反射光を利用可能な付加的な構造について検討する。
図20は、xy座標系における主要光波の向きを示すグラフである。xy座標系におけるx軸は、X軸に対して角度φだけ回転している。
反射光としての主要光波Y2’を、共振に供する主要光波Y4に一致させるためには、光波Y2’の向きを角度2φだけ回転させればよい。xy座標系における主要光波Y4を示すベクトルの先端P4の座標は(Δβ/2,β0)であり、主要光波Y2’を示すベクトルの先端P2’の座標は、これを−2φだけ回転した座標である。
一方、XY座標系においては、xy座標系のベクトルY4(先端P4)の座標(Δβ/2,β0)は、これを+φだけ回転した座標(XA,YA)に変換され、ベクトルY2’の座標は、xy座標系のベクトルY4の座標を−φだけ回転した座標(XB,YB)に変換される。
(XA,YA)=(Δβcosφ/2−β0sinφ,Δβsinφ/2+β0cosφ) …(式5)
(XB,YB)=(Δβcosφ/2+β0sinφ,−Δβsinφ/2+β0cosφ) …(式6)
ベクトルΔYに等しい逆格子ベクトルが存在すれば、主要光波Y2’が主要光波Y4に結合する。すなわち、ベクトルY2’に、ベクトルΔYを加えれば、ベクトルY4となる。ベクトルΔYは以下のように表され、このベクトルΔYに等しい逆格子ベクトルを有する新たな周期構造を付加的に採用すれば、全反射した光波Y2’を共振に寄与させることができる。
ΔY=(XA−XB,YA−YB)=(−2β0sinφ,Δβsinφ)
なお、この新たな周期構造は、異屈折率部がストライプ状に配置されていることが好ましい。ストライプ状の周期構造は、光結合係数の異方性が高く、共振状態のY1,Y2が受ける影響を小さくすることができる。
図21は、活性層3B内の主要光波について説明する素子内部の平面図である。
XY平面と光出射端面LESとの交線はX軸に一致している。上述のベクトルΔYが存在する場合には、座標P2’に先端がある光波Y2’の波数ベクトルは座標P4に先端がある光波Y4の波数ベクトルに変換される。ベクトルΔYに垂直な直線をLとする。新たな周期構造は、活性層3B内において、光波が直線Lに垂直な方向に進行するように設定すればよい。活性層3B内の光波の進行方向を制御するため、これに光学的に結合している回折格子層のパターンを制御する。上述の図17においては、上下のフォトニック結晶層(回折格子層)4,4’を備えることとした。このような構造の場合において、上述の全反射を達成するフォトニック結晶層を上部の回折格子層4内に作製し、反射光を共振に利用するための上記新たな周期構造を回折格子層4’内に作製することができる(もちろん、これらの周期構造はどちらか一方、或いは両方の層に重畳して作製してもよい)。
図22(A)は、上記ベクトルΔYを与える周期構造を有する回折格子層4’の平面図であり、図22(B)は、そのXZ平面内の断面図である。
回折格子層4’は、XY平面内において、直線Lに沿ってストライプ状に延びた基本層4A’と異屈折率部4B’とを備えており、これらの屈折率は異なっている。異屈折率部4B’は、周期的に基本層4A’内に埋め込まれている。これにより、回折格子層4’内に、ストライプ状の周期的屈折率分布構造が形成され、ΔYの方向に光波は進行させる回折格子層として機能する。直線Lに垂直な方向に沿った基本層4A’の幅がこの周期構造の周期Λに対して占める割合を変化させることにより、本ストライプ状周期的屈折率分布構造による回折の強度を変化させることが出来る。逆格子空間におけるΔYの逆格子ベクトルの長さL2、周期Λ、直線LとX軸との成す角度θは、以下のように与えられる。
L2={(2β0sinφ)2+(Δβsinφ)2}1/2 …(式7)
Λ=2π/L2
=1/{(2sinφ/ay)2+((1/aII−1/aI)sinφ)2}1/2 …(式8)
θ=θt−φ
=tan−1(2α)
=tan−1{(2/ay)/(1/aII−1/aI)} …(式9)
なお、β0=2π/ay、β1=2π/aI、β2=2π/aIIであり、ayはB方向の周期、aIは第1周期構造のA方向の周期、aIIは第2周期構造のA方向の周期を示している。
図23は、レーザビーム出射角(屈折角)θ3と、ストライプの角度θ、周期Λの関係を示すグラフであり、図24は、このグラフに用いられるデータを示す図表である。θ(°)のデータの縦軸はグラフの左側に示し、Λ(nm)のデータの縦軸はグラフの右側に示す。
レーザビームの出射角θ3が大きくなるにつれて、ストライプの角度θは増加し、周期Λは小さくなることが分かる。同グラフでは、角度θ3を0°から70°まで増加させた場合に、角度θは84.27°から89.54°まで増加し、周期Λは486.08nmから463.43nmまで減少しているが、現実的に実施可能な数値範囲内に収まっている。
なお、図17において、全反射用の周期パターンを双方のフォトニック結晶層4,4’内に作製している場合には、これらとは別に、上記ΔYを与える新たな周期構造の回折格子層4”(構造は図22の場合の回折格子層4’と同一)を、上部クラッド層5と回折格子層4との間に作製することができる(図25(A))。或いは、上記ΔYを与える新たな周期構造の回折格子層4”(構造は図22の場合の回折格子層4’と同一)を下部クラッド層2と回折格子層4’との間に形成すればよい(図25(B))。このように、上記例では、全反射臨界角条件を満たすことで、光出射端面によって反射されたレーザビームを、活性層内部で共振するレーザビームに結合させ、共振に寄与させる回折格子構造(図22、図25の回折格子層)を更に備えている。この場合、エネルギー利用効率が高くなる。
図26は、様々な周期構造を有するフォトニック結晶層4の平面図である。いずれのフォトニック結晶層4においても、基本層4A内に周期的に異屈折率部4Bが埋め込まれている。図26(A)には正方格子、図26(B)には長方格子、図26(C)には三角格子、図26(D)には面心長方格子が示されている。上述のように、フォトニック結晶層4においては、周期の異なる2つの周期構造を1つのフォトニック結晶層4内に重畳して含むか、或いは、2つのフォトニック結晶層4,4’内にそれぞれ含ませて平面視において重畳させる構成を採用する。これらの図では、重畳前の各周期構造の例を示しており、2種類の周期構造を、それぞれの基本並進ベクトル(矢印で示す)の向きが一致するように重ねて配置する。
詳細には、図26(A)のフォトニック結晶層4では、正方格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。正方格子は、正方形を隙間無く並べてできる形状であり、1つの格子を構成する正方形の一方の辺の長さaは、他方の辺の長さbに等しい。換言すれば、異屈折率部4Bの横方向の配列周期aは、縦方向の配列周期bに等しい。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
図26(B)のフォトニック結晶層4では、長方格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。縦横の長さの異なる長方格子は、長方形を隙間無く並べてできる形状であり、1つの格子を構成する長方形の一方の辺の長さaは、他方の辺の長さbとは異なる。換言すれば、異屈折率部4Bの横方向の配列周期aは、縦方向の配列周期bとは異なる。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
図26(C)のフォトニック結晶層4では、三角格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。三角格子は、三角形を隙間無く並べてできる形状であり、1つの格子を構成する三角形の底辺の長さをa、高さをbとする。三角形が正三角形である場合には、底辺の長さaは換言すれば、異屈折率部4Bの横方向の配列周期aは、縦方向の配列周期bはaの√2倍となる。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
図26(D)のフォトニック結晶層4では、面心長方格子の格子点位置に、異屈折率部4Bが配置されている。面心長方格子は、長方格子の各格子内の中央位置に付加的に格子点を備える格子であり、長方格子自体は長方形を隙間無く並べてできている。ここで、図中矢印は格子の基本並進ベクトルを表している。これら基本並進ベクトルの整数倍の線形和だけパターンを平行移動させても、元のパターンと重なる。すなわち、この格子系ではこの基本並進ベクトルで規定される並進対称性を有している。
なお、上述のように、A軸はX軸に対して傾斜しており、これらは平行ではない。換言すれば、図2〜図12及び図17〜図26において説明したフォトニック結晶層4は、いずれにおいても、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合、フォトニック結晶層4における異屈折率部4Bは、その格子構造の格子点位置に配置されており、格子構造の基本並進ベクトル(A軸、B軸)の方向は、光出射端面LES(図4参照)に平行な方向(X軸)とは異なっている。この場合、傾きを一定以上にすることで一方のレーザビームが全反射臨界角条件を満たすことができる。
また、フォトニック結晶層の格子構造は、その厚み方向から見た場合、正方格子と長方格子、長方格子と長方格子、三角格子と面心長方格子、面心長方格子と面心長方格子など、正方格子、長方格子、三角格子、又は、面心長方格子の組み合わせにより構成していることができる。つまり、上記に示した1つの格子に対して、ある一方向に関してピッチが異なる格子を組み合わせて構成することが出来る。
上述の正方格子(図26(A))と、長方格子(図26(B))を重畳させる場合、フォトニック結晶層4(或いは4,4’)には正方格子及び長方格子の結晶構造が含まれていることとなり、正孔格子の一方の軸方向の周期をa1、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb1、長方格子の一方の軸方向の周期をa2、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb2とした場合、a1=b1、a1≠a2、b1=b2を満たすことができる。この場合、フォトニック結晶層面内には互いに直交しない斜め光波による定在波状態が形成され、この斜め光波が互いに成す角度がa1とa2の差分に応じて変化するという効果がある。
また、2つの長方格子(図26(B))を重畳させる場合、フォトニック結晶層4(或いは4,4’)には第1及び第2の長方格子の結晶構造が含まれており、第1の長方格子の一方の軸方向の周期をa1、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb1、第2の長方格子の一方の軸方向の周期をa2、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb2とした場合、a1≠a2、b1=b2を満たすことができる。この場合、フォトニック結晶層面内には互いに直交しない斜め光波による定在波状態が形成され、この斜め光波が互いに成す角度がa1とa2の差分に応じて変化するという効果がある。
また、2つの面心長方格子(図26(D))を重畳させる場合、フォトニック結晶層4(或いは4,4’)には、第1及び第2の面心長方格子の結晶構造が含まれており、第1の面心長方格子の一方の軸方向の周期をa1、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb1、第2の面心長方格子の一方の軸方向の周期をa2、この一方の軸に直交する軸方向の周期をb2とした場合、a1≠a2、b1=b2を満たすことができる。この場合、フォトニック結晶層面内には互いに直交しない斜め光波による定在波状態が形成され、この斜め光波が互いに成す角度がa1とa2の差分に応じて変化するという効果がある。
一方の面心長方格子は、三角格子とすることができる。三角格子は面心長方格子のうち格子を形成する基本並進ベクトルの成す角が60度となる特別な場合である。
また、図2に示したように、半導体レーザ素子10は、活性層3Bの駆動電極直下の領域(第1領域、第2領域・・・)Rを備えている。活性層3Bの第1領域Rに対応するフォトニック結晶層の異屈折率部4Bと、活性層3Bの第2領域Rに対応するフォトニック結晶層の異屈折率部4Bとは、第1領域R及び第2領域Rそれぞれから出力されるレーザビームの屈折角が異なり、強度が一致するよう、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合の個々の形状が異なるように設定することができる。換言すれば、複数あるフォトニック結晶の回折強度を同一とするよう、孔(異屈折率部)の大きさを変化させる。強度が同じであるため、レーザプリンタやレーダ等の電子機器等への適用が容易である。
例えば、孔(異屈折率部)は、周期が異なる方の基本並進ベクトルに沿った方向にそった長さを変化させる。具体的には、第1領域R内では、第1周期構造及び第2周期構造における異屈折率部4Bの配列周期が異なる方向(例えばB軸)に沿った異屈折率部4Bの寸法が、当該異なる方向に沿った位置に応じて異なり、第2領域R内では、第3及び第4周期構造における異屈折率部4Bの配列周期が異なる方向(例えばB軸)に沿った異屈折率部4Bの寸法が、当該異なる方向に沿った位置に応じて異なる。これにより、第1周期構造及び第2周期構造における回折強度、或いは第3周期構造及び第4周期構造における回折強度をそれぞれ揃えることが可能となり、発振を安定化させることができる。
また、図12に示したレーザビーム偏向装置は、半導体レーザ素子10と、第1駆動電極及び第2駆動電極を含む電極群E2に選択的に駆動電流を供給する駆動電流供給回路11とを備えている。駆動電流の供給を制御することで、レーザビームLBの出射を制御することができる。ここで、駆動電流供給回路11は、電極群の各電極E2に供給する駆動電流の比率を変化させる手段を更に有することができる。すなわち、図12において、符号SW1〜SW5が、スイッチ付きのアンプを示すものとし、電源回路11Aから供給される駆動電流の大きさを当該アンプが制御する構成とすることができる。この場合、制御回路11Bは、各アンプの利得を制御することで、各電極E2に供給される駆動電流の比率を制御することができる。
また、第1領域Rにおける第1周期構造における基本並進ベクトルに沿った周期は、第2領域Rにおける第3周期構造に近づくにしたがって連続的に変化させることもできる。この場合、周期の異なるフォトニック結晶同士の界面において反射が生じることを防止できるという効果がある。
また、図12に示したレーザビーム偏向装置において、各電極E2の直下の活性層から出力されるレーザビームの波長は、同一であることが好ましい。ミラー等でレーザビーム走査が行われた場合は、偏向前後のレーザビームの波長は同一であるからである。そこで、第1及び第2駆動電極E2に駆動電流を供給した場合において、第1及び第2駆動電極E2の直下の活性層の第1領域R及び第2領域Rでそれぞれ発生するレーザビームの共振波長が同一となるように、設定することが好ましい。
すなわち、第1領域Rにおいて重畳された周期構造(第1周期構造、第2周期構造)と、第2領域Rにおいて重畳された周期構造(第3周期構造、第4周期構造)とは、以下の関係を満たしている。
例えば、長方格子と長方格子の組み合わせからなる構造を考えると、以下の関係式となる。
b11=b21=b0/√(1−sin2δθ1)
δθ1=φ−sin−1(sinθ31/ndev)
b12=b22=b0/√(1−sin2δθ2)
δθ2=φ−sin−1(sinθ32/ndev)
但し、第1領域Rにおいて重畳された第1の長方格子のB軸方向の周期をb11、第2の長方格子のB軸方向の周期をb21、第1領域Rのビーム出射角をθ31とし、第2領域Rにおいて重畳された第1の長方格子のB軸方向の周期をb12、第2の長方格子のB軸方向の周期をb22、第2領域Rのビーム出射角をθ32とした。
なお、上記は、長方格子と長方格子の組み合わせについて示したが、他の格子系においても同様である。
また、図12に示すように、レーザビーム偏向装置は、光出射端面LESに近接して配置された単一の集光要素(レンズ)LSを備えることが好ましい。集光要素により、出射光の広がり角を抑制して、遠くまでレーザビームを伝達することができるし、また、焦点位置の調整によって、素子から適当な距離だけ離れた位置に、レーザビームを集光することができる。ここでの集光要素LSは円筒レンズであり、円筒レンズの中心軸Xは活性層の厚み方向(Z軸)に垂直であって且つ光出射端面(XZ面)に平行である。円筒レンズの曲率半径は、YZ平面内のみで規定される。
なお、集光要素LSとして、凸レンズを採用することもできる。凸レンズの曲率中心を通る1つの軸(X軸)は活性層の厚み方向(Z軸)に垂直であって且つ光出射端面(XZ面)に平行であり、この軸(X軸)周りの曲率半径は、これに垂直な軸(Y軸、Z軸)周りの曲率半径(無限大に近似できる)よりも小さい。言うなれば、円筒レンズの直線的な部分が多少膨らんだ凸レンズを採用することが可能である。
なお、上述のレーザビーム偏向装置は、素子自体が偏向機能を有するため、小型化が可能であり、高信頼性、高速化も期待することができる。小型であるため、携帯機器に組み込み、また、医療用カプセル内視鏡に組み込んだレーザメスや光線力学的治療(PDT:Photo Dynamic Therapy)用光源とすることも期待される。もちろん、大型のレーザ走査によるディスプレイへの応用も考えられる。レーザビームの迷光は外部に出力されないので、信頼性の向上も期待される。