以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
まず、本実施形態に係る半導体レーザ素子10Aの構成について説明する。図1は、半導体レーザ素子の概略斜視図である。図2は、半導体レーザ素子のII−II線に沿った断面構成を示す図である。図3は、半導体レーザ素子のIII−III線に沿った断面構成を示す図である。図4は、半導体レーザ素子の平面図である。
半導体レーザ素子10Aは、端面発光型の半導体レーザ素子である。半導体レーザ素子10Aは、半導体基板1上に順次形成された、下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、フォトニック結晶層4、上部クラッド層5、及びコンタクト層6を備えている。半導体基板1の裏面側には、電極E1が全面に設けられており、コンタクト層6上には、複数の駆動電極E2が設けられている。活性層3Bは、下部クラッド層2と上部クラッド層5との間に介在している。
コンタクト層6上の表面は、その一部が絶縁膜SHによって覆われている。絶縁膜SHは、例えば、SiNやSiO2から形成することができる。絶縁膜SH上には、複数の電極パッドEPが配置されている。
これらの化合物半導体層の材料/厚みは以下の通りである。導電型の記載のないものは不純物濃度が1015/cm3以下の真性半導体である。不純物が添加されている場合の濃度は、1017〜1020/cm3である。下記は本実施の形態の一例であって、活性層3B及びフォトニック結晶層4を含む構成であれば、材料系、膜厚、及び層の構成には自由度を持つ。上部光ガイド層3Cは、上層及び下層の2つの層からなる。
・コンタクト層6:P型のGaAs/50〜500nm
・上部クラッド層5:P型のAlGaAs(Al0.4Ga0.6As)/1.0〜3.0μm
・フォトニック結晶層4:
基本層4A:GaAs/50〜400nm
埋め込み層(異屈折率部)4B:AlGaAs(Al0.4Ga0.6As)/50〜400nm
・上部光ガイド層3C:
上層:GaAs/10〜200nm
下層:p型または真性のAlGaAs/10〜100nm
・活性層3B(多重量子井戸構造):
AlGaAs/InGaAs MQW/10〜100nm
・下部光ガイド層3A:AlGaAs/0〜300nm
・下部クラッド層2:N型のAlGaAs/1.0〜3.0μm
・半導体基板1:N型のGaAs/80〜350μm
電極E1の材料としては例えばAuGe/Au、電極E2の材料としては例えばCr/AuやTi/Auを用いることができる。
光ガイド層3A,3Cは、省略することも可能である。
半導体レーザ素子10Aの平面形状は長方形であり、XYZ三次元直交座標系を設定した場合には、厚み方向をZ軸、幅方向をX軸とし、光出射端面LESに垂直な方向をY軸とする。XY平面内において、各駆動電極E2の延びている長手方向は、Y軸に平行な直線に平行である。
コンタクト層6の上面(絶縁膜SHが形成される面)は、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見て、Y軸方向において、光出射端面LES側から、第一領域6a、第二領域6b、及び第三領域6cに分けられる。第二領域6bは、Y軸方向において、第一領域6aと第三領域6cとの間に位置している。各領域6a,6b,6cは、X軸方向に、それぞれ伸びている。絶縁膜SHは、コンタクト層6の第三領域6c上に配置されている。
複数の駆動電極E2は、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、第二領域6bにおいて、X軸方向に併置されている。各駆動電極E2は、矩形状を呈し、詳細には、各駆動電極E2は、Y軸方向を長辺とする長方形状を呈している。すなわち、複数の駆動電極E2は、駆動電極E2の短辺方向に併置されている。駆動電極E2の長手方向は、半導体レーザ素子10Aの厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESの法線(Y軸)に対して平行である。複数の駆動電極E2は、コンタクト層6上における複数の領域Rに対応する領域6bに配置されている。絶縁膜SHは、コンタクト層6上における複数の駆動電極E2が配置された領域6b以外の領域6cを覆っている。
上下の電極E1,E2間に電流を流すと、いずれかの電極E2の直下の領域Rを電流が流れ、この領域Rが発光する。複数の駆動電極E2は、活性層3Bにおける、光出射端面LESに平行で且つ活性層3Bが延びる方向、すなわちX軸方向に並んで位置する複数の領域Rに駆動電流を供給する。
各電極パッドEPは、図3及び図4に示されているように、対応する駆動電極E2に、絶縁膜SH上に配置された配線W1を通して電気的に接続されている。駆動電極E2の数と電極パッドEPの数とは同じである。本実施形態では、複数の電極パッドEPは、複数列でX軸方向に沿って配置されている。複数の電極パッドEPは、第三領域6cの上方に位置している。本実施形態では、各電極パッドEPは、正方形状を呈している。図1及び図2では、配線W1の図示を省略している。
本実施形態では、フォトニック結晶層4は、第一フォトニック結晶層41と、第二フォトニック結晶層43と、を含んでいる。すなわち、第一フォトニック結晶層41と第二フォトニック結晶層43とは、基本層4Aと、基本層4A内に周期的に埋め込まれた複数の埋め込み層(異屈折率部)4Bと、をそれぞれ有している。第一フォトニック結晶層41と第二フォトニック結晶層43とは、同一層に位置しており、第二フォトニック結晶層43は、第一フォトニック結晶層41よりも光出射端面LES側に位置している。第一フォトニック結晶層41及び第二フォトニック結晶層43は、活性層3Bと上部クラッド層5との間に介在している。
フォトニック結晶は、屈折率が周期的に変化するナノ構造体であり、周期に応じて特定の波長の光を特定の方向へ強め合わせる、すなわち回折させることができる。たとえば、この回折を光の閉じ込めに用い、共振器として利用することにより、レーザが実現される。
本実施形態では、閃亜鉛構造の第1化合物半導体(GaAs)からなる基本層4A内に複数の穴Hを周期的に形成し、穴H内に、閃亜鉛構造であって第2化合物半導体(AlGaAs)からなる埋め込み層4Bを成長させてなるフォトニック結晶層4を備えている。フォトニック結晶を構成するため、第1化合物半導体と、第2化合物半導体の屈折率は異なる。本実施形態では、第2化合物半導体の方が、第1化合物半導体よりも屈折率が低いが、逆に第1化合物半導体の方が、第2化合物半導体よりも屈折率が低くてもよい。
図5は、様々な形状の埋め込み層(異屈折率部)を示す平面図である。
埋め込み層4BのXY平面内における形状は、(a)〜(f)に示されるように、長方形、正方形、楕円形又は円形、若しくは、二等辺三角形又は正三角形であってもよい。三角形として、底辺がX方向に平行な三角形((d)に図示)、底辺がY方向に平行な三角形((e)に図示)、又は、(d)に示される三角形を180度回転させた三角形((f)に図示)を採用することもできる。いずれの図形も回転や寸法比率の変更を行うことができる。これらの図形の配列周期は、各図形の重心間の距離を用いることができる。本実施形態では、埋め込み層(異屈折率部)4Bの形状として、(c)に示された円形(真円形)が採用されている。
図6は、第一フォトニック結晶層の平面図である。
第一フォトニック結晶層41は、複数の駆動電極E2の下方に位置する。第一フォトニック結晶層41では、その厚み方向から見たときに、埋め込み層4Bが、正方格子を構成する格子点(Γ点)にそれぞれ配置されている。すなわち、埋め込み層4Bは、X軸方向及びY軸方向に整列し、2次元周期構造を構成している。これにより、第一フォトニック結晶層41は、複数の領域Rに対応する領域にわたって、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有することとなる。埋め込み層4Bの整列方向での周期P1は、
λ0/n1
に設定されている。λ0は、レーザ光の、真空中での波長である。n1は、第一フォトニック結晶層41における光の等価屈折率である。
レーザビームは、活性層3B内において発生するが、活性層3Bから染み出した光は、隣接する第一フォトニック結晶層41の影響を受ける。第一フォトニック結晶層41内には、図6に示されるような周期的屈折率分布構造が形成されている。第一フォトニック結晶層41により回折を受けた結果、図6内に矢印で示す方向にレーザビームが発生する。第一フォトニック結晶層41が、複数の領域Rに対応する領域にわたって、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有しているので、各領域Rからは、同一の方向にレーザビームが出力される。本実施形態では、Y軸方向、すなわち光出射端面LESに向かうレーザビームが利用される。
第一フォトニック結晶層41における、埋め込み層4Bの配置は、図6に示された配置に限られることなく、図7の(a)〜(c)に示された配置であってもよい。
図7の(a)では、埋め込み層4Bは、正方格子のM点にそれぞれ配置されている。埋め込み層4Bは、X軸方向及びY軸方向に45度傾き且つ互いに直交する2方向において整列している。埋め込み層4Bの整列方向での周期P2は、
2−1/2×λ0/n1
に設定されている。この場合も、主要光波の進行方向は、図中の矢印で示されるように、X軸方向及びY軸方向に沿う方向となる。
図7の(b)では、埋め込み層4Bは、三角格子のΓ点にそれぞれ配置されている。埋め込み層4Bの周期P3は、
λ0/n1
に設定されている。この場合、主要光波の進行方向は、図中の矢印で示される60°間隔の方向となる。図7の(c)では、埋め込み層4Bは、三角格子のJ点にそれぞれ配置されている。埋め込み層4Bの周期P4は、
2×3−1/2×λ0/n1
に設定されている。この場合、主要光波の進行方向は、図中の矢印で示される60°間隔の方向となる。
本実施形態では、下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、第一フォトニック結晶層41、上部クラッド層5、及び複数の駆動電極E2が、発振部を構成する。発振部は、複数のレーザビームを生成し、生成した複数のレーザビームを同一の方向に出力する。
図8は、第二フォトニック結晶層の平面図である。
第二フォトニック結晶層43においても、埋め込み層4Bは、2次元周期構造を構成している。第二フォトニック結晶層43における複数の埋め込み層4Bは、所定の格子構造の格子点位置に配置されている。この所定の格子構造では、二つの基本並進ベクトルがなす角φは、当該所定の格子構造の一方の基本並進ベクトルに直交する方向とレーザビームの出射方向とがなす角をθとして、
φ=tan−1{sinθ/(2cos2(θ/2))}
を満たしている。
第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに沿う方向での格子点の周期P5は、
λ0/(n2×sinθ)
を満たしている。第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに直交する方向での格子点の周期P6は、mを任意の自然数としたときに、
(2m−1)×λ0/(2n2)
を満たしている。n2は、第二フォトニック結晶層43における光の等価屈折率である。
二つの基本並進ベクトルがなす角φ(又は、X軸方向での埋め込み層4Bの間隔)は、X軸方向での位置に応じ、図8に示されるように、連続的に変化している。すなわち、第二フォトニック結晶層43は、複数の領域Rに対応する領域毎に、埋め込み層4Bの配列周期が異なる上述した周期構造を有している。第二フォトニック結晶層43は、上記周期構造により、上記発振部から同一の方向に出力された複数のレーザビームをそれぞれ異なる方向に偏向して光出射端面から出射させる偏向部を構成する。
第二フォトニック結晶層43は、複数の領域Rに対応する領域毎で、上記発振部からのレーザビームの出力方向と同じ方向に透過する光を弱め合う干渉を生じさせると共に、光出射端面LESからのレーザビームの出射方向に回折する光を強め合う干渉を生じさせる。第二フォトニック結晶層43では、その厚み方向から見たときに、埋め込み層4Bは、Y軸方向、すなわち上記発振部からのレーザビームの出力方向と同じ方向に対しては、等間隔(同じ配列周期)で並んでいる。Y軸方向での埋め込み層4Bの周期は、mを任意の自然数としたときに、
(2m−1)×λ0/(2n2)
に設定されている。光出射端面LESに平行なX軸方向での埋め込み層4Bの周期は、
λ0/(n2×sinθ)
に設定されている。
以上のように、本実施形態では、第一フォトニック結晶層41が、複数の領域Rに対応する領域にわたり、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有しているので、発振部からは、複数の駆動電極E2毎に同一の方向にレーザビームが出力される。第二フォトニック結晶層43が、複数の領域Rに対応する領域毎に、埋め込み層4Bの配列周期が異なる周期構造を有しているので、偏向部からは、発振部から同一の方向に出力された各レーザビームがそれぞれ異なる方向に偏向されて、光出射端面LESから出射される。
本実施形態では、半導体レーザ素子10Aにおいて、発振部と偏向部とが分かれていると共に、第一フォトニック結晶層41が、複数の領域Rに対応する領域にわたり、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有している。このため、発振閾値がレーザビーム毎で一定であり、安定した動作を実現することができる。
第二フォトニック結晶層43は、複数の領域Rに対応する領域毎で、発振部からのレーザビームの出力方向と同じ方向に透過する光を弱め合う干渉を生じさせると共に、光出射端面LESからのレーザビームの出射方向に回折する光を強め合う干渉を生じさせている。これにより、偏向部は、確実に、発振部から同一方向に出力された各レーザビームを異なる方向に偏向して光出射端面から出射させることができる。
複数の駆動電極E2は、コンタクト層6上における複数の領域Rに対応する領域6bに配置され、複数の電極パッドEPが配置される絶縁膜SHは、コンタクト層6上における複数の駆動電極E2が配置された領域6b以外の領域6cを覆っている。これにより、駆動電極E2の位置にかかわらず、電気的な接続を確立しやすい位置に電極パッドEPを配置することができる。このため、半導体レーザ素子10Aを駆動するための駆動回路と、駆動電極E2と、の電気的な接続を容易に確立することができる。
駆動電極E2の数が多く、駆動電極E2が配置されるピッチが狭い場合、駆動回路と駆動電極E2とを直接接続することは困難である。半導体レーザ素子10Aでは、電極パッドEPと駆動回路とが接続されることにより、駆動回路から、電極パッドEP及び配線W1を通して電流(駆動電流)が供給される。したがって、駆動電極E2が配置されるピッチが狭い場合でも、駆動回路と駆動電極E2との電気的な接続を確実に実現できる。
次に、本実施形態の変形例に係る半導体レーザ素子10Bの構成について説明する。図9は、半導体レーザ素子の概略斜視図である。図10は、半導体レーザ素子の断面構成を示す図である。図11は、半導体レーザ素子の平面図である。
本変形例に係る半導体レーザ素子10Bも、図9〜図11に示されるように、半導体基板1、下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、フォトニック結晶層4(第一及び第二フォトニック結晶層41,43)、上部クラッド層5、コンタクト層6、電極E1、複数の駆動電極E2、及び、複数の電極パッドEPを備えている。
図9及び図11に示されるように、XY平面内において、各駆動電極E2の延びている長手方向は、Y軸に平行な直線に対して角度γを成している。すなわち、駆動電極E2の長手方向は、半導体レーザ素子の厚み方向から見た場合、この半導体レーザ素子の光出射端面LESの法線(Y軸)に対して、傾斜している。
図12は、第一フォトニック結晶層の平面図である。
第一フォトニック結晶層41において、埋め込み層4Bは、x軸方向及びy軸方向に整列し、2次元周期構造を構成している。xyz直交座標系は、XYZ直交座標系をZ軸回りに角度γだけ回転させた座標系である。すなわち、埋め込み層4Bは、xyz直交座標系において、正方格子を構成する格子点(Γ点)にそれぞれ配置されている。活性層3B内において発生した光は、第一フォトニック結晶層41により回折を受けた結果、図12内に矢印で示す方向に向かうレーザビームとして出力される。光出射端面LESに向かうレーザビームは、y軸方向、すなわちY軸方向から角度γだけ傾いた方向に出力される。
図13は、第二フォトニック結晶層の平面図である。
第二フォトニック結晶層43においては、xyz直交座標系において、二つの基本並進ベクトルがなす角φが、
φ=tan−1{sinθ/(2cos2(θ/2))}
を満たし、第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに沿う方向での格子点の周期が、
λ0/(n2×sinθ)
を満たし、第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに直交する方向での格子点の周期が、mを任意の自然数としたときに、
(2m−1)×λ0/(2n2)
を満たしている。
したがって、本変形例においても、第一フォトニック結晶層41が、複数の領域Rに対応する領域にわたり、埋め込み層4Bの配列周期が同じとされた周期構造を有しているので、発振部からは、複数の駆動電極E2毎に同一の方向(上述した実施形態におけるレーザビームの出力方向からZ軸回りに角度γだけ回転した方向)にレーザビームが出力される。第二フォトニック結晶層43が、複数の領域Rに対応する領域毎に、埋め込み層4Bの配列周期が異なる周期構造を有しているので、偏向部からは、発振部から同一の方向に出力された各レーザビームがそれぞれ異なる方向に偏向されて、光出射端面LESから出射される。本変形例では、光出射端面LESに直交する方向にも、レーザビームが出射される。
本変形例でも、半導体レーザ素子10Bにおいて、発振閾値がレーザビーム毎で一定であり、安定した動作を実現することができる。また、偏向部は、確実に、発振部から同一方向に出力された各レーザビームを異なる方向に偏向して光出射端面から出射させることができる。
次に、本実施形態に係る半導体レーザモジュールLM1の構成について説明する。図14は、本実施形態に係る半導体レーザモジュール及び焦点面の平面図である。
半導体レーザモジュールLM1は、半導体レーザ素子10Aと、平板集光要素20と、を備えている。半導体レーザ素子10Aは、光出射端面LESから所定の1方向にレーザビームLBを出射する。平板集光要素20は、半導体レーザ素子10Aにより出射されたレーザビームLBを焦点面Fに集光する。半導体レーザモジュールLM1は、半導体レーザ素子10Aの代わりに、半導体レーザ素子10Bを備えていてもよい。
以下の説明では、光出射端面LESに平行で且つ半導体レーザ素子10Aの活性層3Bが延びる方向を第一方向と称する。第一方向に平行な座標軸をX軸とし、光出射端面LESに垂直な方向をY軸とし、活性層が延びる方向に垂直な方向をZ軸とする。レーザビームLBの出射方向を表すために、レーザビームLBが光出射端面LESの法線Nに対してなす角度θoutを用いる。θout=0の場合の平板集光要素20のX軸方向の焦点距離をf0とする。
図15を参照して、平板集光要素20の構成について説明する。図15の(a)は、半導体レーザ素子10A及び平板集光要素20をXY平面に平行な面で切断して示す断面図である。図15の(b)は、図15の(a)内に点線で示す楕円XVb内を拡大して示す図である。図15の(c)は、図15の(a)内に点線で示す楕円XVc内を拡大して示す図である。半導体レーザ素子10A及び平板集光要素20は、X座標が正の領域にも延びているが、その形状は、X座標が負の領域における形状と同様である。このため、図15では、半導体レーザ素子10A及び平板集光要素20のうち、X座標が正の領域に位置する部分を省略して示している。
平板集光要素20は、Z軸方向に延びる平板状のフレネルレンズである。平板集光要素20の屈折率は、X軸方向に沿って変化する。平板集光要素20の一方の面は対物面21であり、他方の面は平面22である。半導体レーザモジュールLM1において、平板集光要素20は、半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESに対向して配置される。平面22は、光出射端面LESに対向する。平面22は、光出射端面LESと接触していてもよいし、平面22と光出射端面LESとが離れていてもよい。図15では、平面22と光出射端面LESとが離れた状態で示されている。
対物面21は、光出射端面LESに対向する側と反対側に位置する。対物面21は、複数(ここではN枚)の曲面21a1、21a2、・・・、21aX、・・・、21aN(以下、曲面21aと総称する)を含む。対物面は、隣り合う曲面21a同士を接続する面21bを含む。図15では面21bがY軸と平行な場合について示したが、面21bはY軸と平行でなくともよい。複数の曲面21aは、光出射端面LESに直交するY軸方向から見て、X軸方向(第一方向)に並んで位置する。N枚の曲面21aは、それぞれ半導体レーザ素子10Aにおける複数の領域R(当該領域Rに対応するフォトニック結晶領域)の1つに対応するように設けられる。半導体レーザ素子10Aに含まれる駆動電極E2の数と曲面21aの枚数Nは一致する。
図15の(b)及び(c)に示されるように、曲面21aの各々は、半導体レーザ素子10Aから当該曲面21aに入射するレーザビームLBに垂直な平面fに接している。曲面21aの各々に入射するレーザビームLBの進行方向は、曲面21aごとに異なっており、レーザビームLBに垂直な平面fがXZ平面に対してなす角度も、曲面21aごとに異なっている。図15の(b)は、X座標が0の位置に配置された曲面21a1を拡大して示している。曲面21a1には、半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESから出射されて平板集光要素20内を進行してきたレーザビームLBが入射する。このレーザビームLBの進行方向は、Y軸に平行である。したがって、曲面21a1は、レーザビームLBに垂直な平面f、すなわちXZ平面に平行な平面に接する。
図15の(c)には、X座標がXの位置に配置された曲面21aXが拡大されて示されている。曲面21aXには、半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESから出射されて平板集光要素20内を進行してきたレーザビームLBが入射する。このレーザビームLBの進行方向は、XY平面に平行であり、Y軸に対して角度θout(X)をなしている。したがって、曲面21aXは、レーザビームLBに垂直な平面f、すなわちXZ平面に対して角θout(X)をなし、Z軸に平行な平面に接する。
X軸に沿った位置Xにおける、活性層3Bが延びる方向に平行なXY平面内における複数の曲面21aの各々の曲率半径r(X)は、次の式(1)である。
r(X)=f0・{n(X)−1}/cos(θout(X) ・・・ (1)
式(1)において、n(X)は、位置Xにおける平板集光要素20の屈折率である。θout(X)は、位置Xにおいて対物面21から出射されるレーザビームLBが光出射端面LESの法線Nに対してなす角度である。f0は、θout(X)=0の場合の平板集光要素のX軸方向の焦点距離である。
上記の式(1)の導出過程について説明する。一方の面が曲率半径r(X)を有する球面であり、他方の面が平面であり、屈折率がn(X)であり、焦点距離がf(X)のレンズについて、以下の式(2)が成立することが知られている。
r(X)=f(X)・{n(X)−1} ・・・ (2)
図14を参照すると、レーザビームLBの出射角度θout(X)によらず、対物面22から距離f0だけ離れた焦点面FにレーザビームLBを集光させるためには、次の式(3)が成立する必要がある。
f(X)≒f0/cos(θout(X)) ・・・ (3)
式(3)を式(2)に代入すると、上記の式(1)が得られる。
曲面21aの各々は、Z軸方向の曲率を有していない。すなわち、Z軸に平行な平面と曲面21aとの交線は、直線となる。このため、平板集光要素20をXY平面に平行な平面で切断した場合、切断面の位置に関わらず、平板集光要素20の断面形状は同一である。
複数の曲面21aは、X軸の負の側に配置されているものほど、光出射端面LESとの距離が短い。すなわち、半導体レーザ素子10Aから入射するレーザビームLBが光出射端面LESの法線、すなわちY軸方向に対してなす角度が大きい曲面21aほど、光出射端面LESとの距離が短い。
本実施形態に係る半導体レーザモジュールLM1によれば、光出射端面LESに平行で且つ活性層3Bが延びるX軸方向に並んで活性層3Bに位置する複数の領域から出射されるレーザビームLBの光出射端面LESに対する出射方向がそれぞれ異なっている。半導体レーザモジュールLM1が、半導体レーザ素子10Aの光出射端面LESに対向して配置される平板集光要素20を備えており、平板集光要素20が、光出射端面LESに対向する側と反対側に対物面21を有している。この対物面21が複数の曲面21aを含んで形成されており、複数の曲面21aの各々の曲率半径r(X)が上記の式(1)に基づいて決定されている。このため、活性層3Bの複数の領域から光出射端面LESの法線に対して角度θout(X)をなして出射されるレーザビームLBに対して、平板集光要素20の焦点距離はf0/cos(θout(X))となる。レーザビームLBは光出射端面LESから距離f0の平面Fに集光される。したがって、レーザビームLBの出射方向によらずレーザビームLBの拡がり角を一定とすることができる。
半導体レーザ素子10Aから入射するレーザビームLBが光出射端面LESの法線に対してなす角度が大きい曲面21aほど、光出射端面LESとの距離が短い。このため、当該曲面21aを通過するレーザビームLBと、他の曲面21aを通過するレーザビームLBと、の干渉を防ぐことができる。
複数の曲面21aの各々は、式(1)により決定される曲率半径に基づく曲率に対して、収差補正のために非球面化処理されていてもよい。この場合には、平板集光要素20において発生する収差を補正することができる。
複数の曲面21aの各々は、活性層3Bが延びる方向に垂直な方向の曲率を有するようにしてもよい。この場合には、曲面21aが活性層3Bの延びる方向に垂直な方向の曲率を有する。このため、活性層3Bが延びる方向に垂直な方向のレーザビームLBの拡がり角を調整することができる。
曲面21aの数Nは、半導体レーザ素子10Aにおける複数の領域R(駆動電極E2)の数と一致しなくてもよい。たとえば、曲面21aの数Nが、領域R(駆動電極E2)の数より多くてもよい。隣接する2つの駆動電極E2,E2に同時に電流を供給することによって、一方の駆動電極E2に電流を供給した場合のレーザビームLBの出射方向と、他方の駆動電極E2に電流を供給した場合のレーザビームLBの出射方向との中間の方向にレーザビームLBが出射された場合にも、平板集光要素20がレーザビームLBを好適に集光することができる。
平板集光要素20の屈折率n(X)は、X軸方向に沿って変化するものとしたが、屈折率n(X)がX座標に応じて連続的に変化するようにしてもよいし、特定のX座標の位置において不連続に変化するようにしてもよい。平板集光要素20全体を、一定の屈折率nを有する単一の材料により構成し、屈折率n(X)がX座標によらず一定となるようにしてもよい。
次に、本実施形態に係る半導体レーザモジュールLM2の構成について説明する。図16は、本実施形態に係る半導体レーザモジュールの構成を説明するための図である。図17は、駆動電流供給回路の構成を説明するための図である。図17では、半導体レーザ素子10Aにおいて、電極パッドEP及び配線W1などの図示を省略している。
半導体レーザモジュールLM2は、半導体レーザ素子10Aと、記憶装置50(記憶手段)と、半導体レーザ素子10Aを駆動するための駆動回路60(駆動手段)と、を備えている。半導体レーザモジュールLM2も、半導体レーザ素子10Aの代わりに、半導体レーザ素子10Bを備えていてもよい。
半導体レーザ素子10Aでは、上述したように、選択された少なくとも一つの駆動電極E2に駆動電流を供給することにより、選択された駆動電極E2に対応する領域Rからレーザビームが出力され、出力されたレーザビームが偏向部により偏向されて出射される。本実施形態では、駆動電極E2(領域R)の数は、半導体レーザ素子10Aが出射するレーザビームの方向の所望の範囲を網羅するための必要最低限の数よりも多くされている。
記憶装置50は、半導体レーザ素子10Aがレーザビームを出射する方向に関する情報と、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流が供給される駆動電極E2に関する情報と、を対応付けた対応情報を記憶している。より具体的には、半導体レーザ素子10Aがレーザビームを出射する方向に関する情報とは、標準的な半導体レーザ素子10Aにおいて、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報である。記憶装置50に記憶される対応情報は、後述する設定方法により、予め、例えば半導体レーザモジュールLM2の出荷検査時に記憶されている。
駆動回路60は、駆動電流供給回路61(駆動電流供給部)、信号処理回路63、及び電極選択駆動回路65(選択部)を備えている。駆動回路60は、半導体レーザ素子10A及び記憶装置50に接続されている。
駆動電流供給回路61は、駆動電極E2を選択する情報に基づいて、選択された駆動電極E2に駆動電流を供給する。上記の駆動電極E2を選択する信号は、半導体レーザモジュールLM2の外部から信号処理回路63を経由して外部信号として入力される信号、又は、電極選択駆動回路65により出力される信号である。ここで、外部信号とは、標準的な半導体レーザ素子10Aにおいて、所定の角度にレーザビームを出射させるために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報を含む信号である。
駆動電流供給回路61は、図17に示されるように、対応する駆動電極E2毎に、スイッチSWを介して、駆動電流を供給する電源回路61Aと、各スイッチSWのON/OFFを制御する制御回路61Bを備えている。制御回路61Bにより、電源回路61Aから供給される駆動電流を切り替えることで、所定の異なる方向にレーザビームを出力することができる。駆動電極の数は、2つでも偏向動作はできるが、これを3以上とすれば、狭いピッチでレーザビームを走査する構造とすることも可能である。
信号処理回路63は、半導体レーザモジュールLM2の外部から入力された信号である外部信号を、駆動電流供給回路61及び電極選択駆動回路65のいずれかに振り分ける。信号処理回路63は、所定の契機で出荷検査モードと通常モードの2種類の動作のモードを切り替える。出荷検査モードは、半導体レーザモジュールLM2の出荷検査時に使用されるモードである。通常モードは、半導体レーザモジュールLM2が通常使用される時に使用されるモードである。
出荷検査モードでは、信号処理回路63は、信号処理回路63に入力された外部信号を駆動電流供給回路61へ出力する。通常モードでは、信号処理回路63は、信号処理回路63に入力された外部信号を電極選択駆動回路65へ出力する。信号処理回路63が動作のモードをどのように切り替えるかについては、適宜定めることができる。たとえば、半導体レーザモジュールLM2にハードウェア的なスイッチを設け、このスイッチを操作することにより信号処理回路63が動作のモードを出荷検査モードに切り替えるようにしてもよい。半導体レーザモジュールLM2に対して所定の操作を行うことにより、信号処理回路63が動作のモードを出荷検査モードに切り替えるようにしてもよい。半導体レーザモジュールLM2に、出荷検査モードに切り替えることを指示する信号を入力することにより、信号処理回路63が動作のモードを出荷検査モードに切り替えるようにしてもよい。
電極選択駆動回路65は、記憶装置50に記憶された対応情報に基づいて、複数の駆動電極E2から、レーザビームの出射角度が所望の角度となる駆動電極E2を選択し、決定する。電極選択駆動回路65は、選択する駆動電極E2を示す信号を駆動電流供給回路61に出力する。
次に、図18及び図19を参照して、半導体レーザモジュールLM2の、レーザビームを出射する方向に関する情報を設定するための設定方法について説明する。図18は、半導体レーザモジュールにおける、対応情報の設定処理を示すフローチャートである。図19は、半導体レーザモジュールにおける、対応情報の設定処理が実行される際の信号の流れを説明するための図である。
半導体レーザモジュールLM2における対応情報の設定処理は、たとえば、半導体レーザモジュールLM2の出荷検査の際に行われる。まず、半導体レーザモジュールLM2の信号経路を、出荷検査時の信号経路に切り替える(S101)。図19に示されるように、出荷検査時の信号経路においては、外部信号は、信号処理回路63に入力された後、そのまま駆動電流供給回路61に出力され、電極選択駆動回路65には出力されない。外部信号は、半導体レーザ素子10Aがレーザビームを出射する方向に関する情報を含み、具体的には、半導体レーザ素子10Aの複数の駆動電極E2のうち、どの駆動電極E2に駆動電流を供給するかを指定する情報を含んでいる。
次に、半導体レーザ素子10Aの対応する駆動電極E2に駆動電流を供給し、半導体レーザ素子10Aから出射されるレーザビームの方向を測定する(S103)。ここで、駆動電流を供給する対象となる駆動電極E2の選択は、駆動電極E2を選択する信号を信号処理回路63に入力することによって行われる。駆動電極E2の選択の仕方は、適宜定めることができる。たとえば、全ての駆動電極E2を1つずつ順に選択して駆動電流を供給して、それぞれの駆動電極E2に対応するレーザビームの出射方向を順に測定するようにしてもよい。両端に位置する駆動電極E2のみを1つずつ順に選択して駆動電流を供給し、レーザビームの出射方向の両端値を調べるようにしてもよい。
次に、測定されたレーザビームの方向に基づいて、対応情報を作成する(S105)。ここで、対応情報とは、次の2つの情報を対応付ける情報である。第1の情報は、基準とする半導体レーザ素子において、所望の方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報である。第2の情報は、設定処理の対象となっている半導体レーザモジュールLM2が備える半導体レーザ素子10Aにおいて、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報と、を対応付ける情報である。
次に、作成した対応情報を、記憶装置50に記憶させる(S107)。
次に、半導体レーザモジュールLM2の信号経路を、通常使用時の信号経路に切り替える(S109)。後述する図21に示されるように、通常使用時の信号経路においては、外部信号は、信号処理回路63に入力された後、電極選択駆動回路65に出力され、駆動電流供給回路61には出力されない。
次に、図20及び図21を参照して、半導体レーザモジュールLM2の通常時での駆動方法について説明する。図20は、半導体レーザモジュールにおける、通常時での駆動処理を示すフローチャートである。図21は、半導体レーザモジュールにおける、駆動処理が実行される際の信号の流れを説明するための図である。
まず、電極選択駆動回路65が、信号処理回路63を介して、入力された外部信号を読み込む(S201)。外部信号とは、半導体レーザモジュールLM2にレーザビームを出射させる方向に関する情報を含む信号である。より具体的には、外部信号とは、基準とする半導体レーザ素子において、所望の方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報を含む信号である。
次に、記憶装置50に記憶された外部信号と駆動電極E2との対応情報に基づき、電極選択駆動回路65が、入力された外部信号に対応する駆動電極E2を選択する(S203)。ここでは、電極選択駆動回路65が、基準とする半導体レーザ素子において、所望の方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報を、実際に駆動される半導体レーザモジュールLM2に設けられた半導体レーザ素子10Aにおいて、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報に変換する。
次に、電極選択駆動回路65が、選択した駆動電極E2に電流を供給するように、駆動電流供給回路61を制御する(S205)。これにより、駆動電流供給回路61が半導体レーザ素子10Aに駆動電流を供給し、所望の出射角度のレーザビームが半導体レーザ素子10Aから出射される。
以上のように、本実施形態では、記憶装置50において、レーザビームを出射させる方向に関する情報と、該方向にレーザビームを出射させるために駆動電流を供給する駆動電極E2に関する情報と、が対応情報により対応付けられ、記憶されている。電極選択駆動回路65は、対応情報に基づいて、複数の駆動電極E2のうち、実際に駆動する駆動電極E2を選択する。駆動電流供給回路61は、選択された駆動電極E2に駆動電流を供給する。
上記対応情報は、駆動電極E2を選択する信号と、駆動電極E2を選択する信号により選択された駆動電極E2に駆動電流が供給されることにより半導体レーザ素子10Aから出射されたレーザビームの方向と、の関係に基づいて予め決定された信号が用いられる。上記対応情報において、レーザビームを出射する方向と、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給する駆動電極E2との対応は、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との位置ずれの大きさによって異なる。このため、対応情報には、フォトニック結晶層4と駆動電極E2の位置ずれの影響が反映されている。したがって、本実施形態では、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との位置ずれの影響が反映された対応情報に基づいて、所望のレーザビームの出射方向に対応する駆動電極E2が選択される。このため、フォトニック結晶層4と駆動電極E2との間に位置ずれが生じた場合にも、所望の出射方向を得ることができる。
本実施形態では、複数の駆動電極E2のうち少なくとも一つに駆動電流を供給することによって半導体レーザ素子10Aからレーザビームを出射させる。出射されたレーザビームの方向が測定される。測定されたレーザビームの出射方向に関する情報と、駆動電流が供給された駆動電極E2に関する情報と、が対応付けられた対応情報が作成される。作成された対応情報が記憶装置50に記憶される。したがって、半導体レーザモジュールLM2では、上述したように、記憶装置50に記憶された情報に基づいて、所望のレーザビームの出射方向に対応する駆動電極E2が選択されるため、所望の出射方向のレーザビームを確実に得ることができる。
以上の説明では、対応情報において、半導体レーザ素子10Aがレーザビームを出射する方向に関する情報とは、基準とする半導体レーザ素子において、当該方向にレーザビームを出射するために駆動電流を供給すべき駆動電極E2を示す情報であるものとした。これに代えて、半導体レーザ素子10Aがレーザビームを出射する方向に関する情報を、レーザビームを出射する方向そのもの、例えばレーザビームと光出射端面LESとの間の角度としてもよい。
次に、図22を参照して、本実施形態に係る半導体レーザモジュールLM3の構成について説明する。図22は、本実施形態に係る半導体レーザモジュールの構成を説明するための図である。
半導体レーザモジュールLM3は、半導体レーザ素子10Aと、平板集光要素20と、モジュール基板MSと、を備えている。モジュール基板MSは、たとえばシリコン(Si)からなる基板である。モジュール基板MSには、記憶装置50と、駆動回路60と、複数の基板側電極パッドEPMSと、が配置されている。半導体レーザモジュールLM3も、半導体レーザ素子10Aの代わりに、半導体レーザ素子10Bを備えていてもよい。
半導体レーザ素子10A及び平板集光要素20は、モジュール基板MSに固定されている。半導体レーザ素子10A及び平板集光要素20のモジュール基板MSへの固定は、たとえば、はんだ又は接着剤などを用いた固定により実現できる。半導体レーザ素子10Aは、電極E1が配置された面(駆動電極E2が配置された面の裏面)が、モジュール基板MSにおける基板側電極パッドEPMSが配置された面と対向するように実装される。
複数の基板側電極パッドEPMSは、モジュール基板MSに形成された配線を通して、駆動回路60と電気的に接続されている。複数の基板側電極パッドEPMSは、対応する電極パッドEPMSとワイヤボンディングにより接続されている。駆動回路60は、モジュール基板MSに形成された配線、基板側電極パッドEPMS、ボンディングワイヤ、電極パッドEP、及び配線W1を通して、選択した駆動電極E2に電流(駆動電流)を供給する。
半導体レーザモジュールLM3では、半導体レーザ素子10Aと、平板集光要素20と、記憶装置50と、駆動回路60と、がモジュール基板MSに配置されて、モジュール化されている。これにより、半導体レーザ素子10Aの取り扱いが容易となる。
次に、図23〜図26を参照して、半導体レーザ素子10Aの変形例に構成について説明する。図23は、本実施形態の変形例に係る半導体レーザ素子の概略斜視図である。図24は、半導体レーザ素子のXXIV−XXIV線に沿った断面構成を示す図である。図25は、半導体レーザ素子のXXV−XXV線に沿った断面構成を示す図である。図26は、半導体レーザ素子の平面図である。
本変形例に係る半導体レーザ素子10Aは、半導体基板1、下部クラッド層2、下部光ガイド層3A、活性層3B、上部光ガイド層3C、フォトニック結晶層4(第一及び第二フォトニック結晶層41,43)、上部クラッド層5、コンタクト層6、電極E1、複数の駆動電極E2、及び、複数の電極パッドEPを備えている。
本変形例に係る半導体レーザ素子10Aは、絶縁膜SHと、絶縁膜SH1と、を備えている。複数の駆動電極E2は、上述したように、コンタクト層6上における複数の領域Rに対応する領域6bに配置されている。絶縁膜SHは、コンタクト層6上における複数の駆動電極E2が配置された領域6b以外の領域6cを覆っている。絶縁膜SH1は、複数の電極パッドEPが配置された領域を除く領域、すなわち、コンタクト層6の第一及び第二領域6a,6b並びに第三領域6cにおける複数の電極パッドEPが配置されていない部分の上に位置するように形成されている。これにより、複数の駆動電極E2及び各配線W1が、絶縁膜SH1により覆われる。絶縁膜SH1は、絶縁膜SHと同様に、例えば、SiNやSiO2から形成することができる。
本変形例では、絶縁膜SH1が、複数の駆動電極E2及び各配線W1を覆っている。これにより、半導体レーザ素子10Aを駆動するための駆動回路(たとえば、上記駆動回路60など)と電極パッドEPとの電気的な接続を実現する際に、駆動電極E2又は配線W1に短絡が生じることがない。したがって、半導体レーザ素子10Aと駆動回路との電気的な接続を容易に且つ確実に実現することができる。
本変形例では、半導体レーザ素子10Aが絶縁膜SH1を備えている例を説明したが、これに限られない。半導体レーザ素子10Bが、絶縁膜SH1を備えていてもよい。この場合でも、駆動回路と電極パッドEPとの電気的な接続を実現する際に、駆動電極E2又は配線W1に短絡が生じることがなく、半導体レーザ素子10Bと駆動回路との電気的な接続を容易に且つ確実に実現することができる。
次に、図27を参照して、本実施形態に係る半導体レーザモジュールLM4の構成について説明する。図27は、本実施形態に係る半導体レーザモジュールの構成を説明するための図である。
半導体レーザモジュールLM4は、図23〜図26に示された、絶縁膜SH1を有する半導体レーザ素子10Aと、平板集光要素20と、モジュール基板MSと、を備えている。モジュール基板MSには、記憶装置50と、駆動回路60と、複数の基板側電極パッドEPMSと、が配置されている。半導体レーザモジュールLM4も、半導体レーザ素子10Aの代わりに、絶縁膜SH1を有する半導体レーザ素子10Bを備えていてもよい。
複数の基板側電極パッドEPMSは、対応する電極パッドEPMSとフリップチップボンディングにより接続されている。駆動回路60は、モジュール基板MSに形成された配線、基板側電極パッドEPMS、電極パッドEP、及び配線W1を通して、選択した駆動電極E2に電流(駆動電流)を供給する。半導体レーザ素子10Aは、駆動電極E2が配置された面(電極E1が配置された面の裏面)が、モジュール基板MSにおける基板側電極パッドEPMSが配置された面と対向するように実装される。
半導体レーザモジュールLM4でも、半導体レーザ素子10Aと、平板集光要素20と、記憶装置50と、駆動回路60と、がモジュール基板MSに配置されて、モジュール化されている。これにより、半導体レーザ素子10Aの取り扱いが容易となる。
絶縁膜SH1が、駆動電極E2及び配線W1を覆っているので、フリップチップボンディングにより対応する電極パッドEP,EPMS同士を接続する際に、駆動電極E2又は配線W1に短絡が生じることはない。
次に、上述した半導体レーザ素子10Bの変形例の構成について説明する。
本変形例に係る半導体レーザ素子10Bも、図9〜図11に示された半導体レーザ素子10Bと同様に、半導体基板、下部クラッド層、下部光ガイド層、活性層、上部光ガイド層、フォトニック結晶層(第一及び第二フォトニック結晶層)、上部クラッド層、コンタクト層、電極、複数の駆動電極、及び、複数の電極パッドを備えている。第二フォトニック結晶層を除く、半導体基板、下部クラッド層、下部光ガイド層、活性層、上部光ガイド層、フォトニック結晶層(第一フォトニック結晶層)、上部クラッド層、コンタクト層、電極、複数の駆動電極、及び、複数の電極パッドの構成は、図9〜図11に示された半導体レーザ素子10Bと同じであるため、その説明及び図示を省略する。
以下、図28を参照して、相違点である第二フォトニック結晶層43の構成について説明する。図28は、図9〜図11に示された半導体レーザ素子10Bの変形例における、第二フォトニック結晶層の平面図である。図28では、レーザビームの方向を図示するため、第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの図示を一部(特に、光出射端面LES近傍に位置する埋め込み層4B)省略している。
第二フォトニック結晶層43においては、光出射端面LESから出射されるレーザビームは、半導体レーザ素子10Bの外部においてY軸方向から角度θoutだけ傾いた方向に出力される。第二フォトニック結晶層43から光出射端面LESに至るレーザビームとY軸方向とが成す角をθinとすると、スネルの法則より、
θin=sin−1(sinθout/n2)
を満たす。このとき、第二フォトニック結晶層43から光出射端面LESに至るレーザビームとy軸方向とが成す角をθdifとすると、
θdif=γ−θin
を満たす。
xyz直交座標系において、二つの基本並進ベクトルがなす角φは、
φ=tan−1{sinθdif/(2cos2(θdif/2))}
を満たしている。第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに沿う方向での格子点の周期P5は、
λ0/(n2×sinθdif)
を満たしている。第二フォトニック結晶層43における埋め込み層4Bの格子構造の一方の基本並進ベクトルに直交する方向での格子点の周期P6が、mを任意の自然数としたときに、
(2m−1)×λ0/(2n2)
を満たしている。
本変形例においても、発振部からは、複数の駆動電極E2毎に同一の方向(上述した実施形態におけるレーザビームの出力方向からZ軸回りに角度γだけ回転した方向)にレーザビームが出力される。第二フォトニック結晶層43が、複数の領域Rに対応する領域毎に、埋め込み層4Bの配列周期が異なる周期構造を有しているので、偏向部からは、発振部から同一の方向に出力された各レーザビームがそれぞれ異なる方向に偏向されて、光出射端面LESから出射される。本変形例でも、図28に示されるように、光出射端面LESに直交する方向にも、レーザビームが出射される。このとき、
θdif=γ
θin=0
θout=0
を満たす。
角度θdif、角度θin、及び角度θoutと、角度φ、格子点の周期P5,P6と、の関係の一例を、図29に示す。図29に示された例では、
γ=45°
n2=3.36
λ0=970nm
に設定されている。
本変形例でも、半導体レーザ素子10Bにおいて、発振閾値がレーザビーム毎で一定であり、安定した動作を実現することができる。また、偏向部は、確実に、発振部から同一方向に出力された各レーザビームを異なる方向に偏向して光出射端面から出射させることができる。
本変形例においては、角度γを45°程度に大きく設定した場合、角度φが13.98°〜22.50°と比較的大きな値に設定され、格子点の周期P5と周期P6とを比較的近い値に設定できる。したがって、埋め込み層4B同士の接触が回避され、偏向部(第二フォトニック結晶層43)において、レーザビームの偏向を効果的に行うことができる。
本変形例においては、角度γが45°程度と全反射臨界角以上に設定されると、発振部から入射したレーザビームのうち、偏向部(第二フォトニック結晶層43)で偏向されなかった直進成分は、光出射端面LESで全反射する。これにより、ノイズ光の発生を確実に抑制することができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
第一フォトニック結晶層41及び第二フォトニック結晶層43は、活性層3Bと下部クラッド層2との間に介在していてもよい。第一フォトニック結晶層41と第二フォトニック結晶層43とは、同一層に位置していなくてもよい。たとえば、第一フォトニック結晶層41が活性層3Bと上部クラッド層5との間に介在し、第二フォトニック結晶層43が
活性層3Bと下部クラッド層2との間に介在していてもよい。
半導体レーザ素子10A,10Bでは、複数の駆動電極E2が並ぶ方向で隣り合う二つの駆動電極E2に駆動電極を供給し、半導体レーザ素子10A,10Bの厚み方向から見て、活性層3Bにおける、二つの駆動電極E2の間に位置する領域にてレーザビームを生じさせてもよい。
半導体レーザモジュールLM3では、半導体レーザ素子10Aが、図23〜図26に示された、絶縁膜SH1を有する半導体レーザ素子10A,10Bであってもよい。この場合でも、ボンディングワイヤの接触などにより生じる、駆動電極E2又は配線W1の短絡を防ぐことができる。