以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
(1)全体構成
本実施形態において、本発明は、図1に示す自動変速機1に適用されている。この自動変速機1は、例えばフロントエンジンフロントドライブ車等のエンジン横置き式自動車に搭載されており、変速機構2と、変速機構2を収容する変速機ケース3とを有している。変速機構2の入力軸4に、図外のトルクコンバータを介して、エンジンの出力回転が入力される。変速機構2の出力回転は、出力ギヤ5から取り出され、図外の差動装置を介して、駆動輪に伝達される。
変速機構2は、第1プラネタリギヤセット10、第2プラネタリギヤセット20、及び第3プラネタリギヤセット30を備えている。これらは、変速機構2の動力伝達経路を構成し、エンジン側から前記の順に入力軸4の軸芯上に同軸に並んでいる。
変速機構2は、さらに、ロークラッチ40及びハイクラッチ50、L−Rブレーキ(ローリバースブレーキ)60、2−6ブレーキ70、並びにR−3−5ブレーキ80を備えている。これらは、摩擦締結要素であり、エンジン側から前記の順に入力軸4の軸芯上に同軸に並んでいる。
第1プラネタリギヤセット10及び第2プラネタリギヤセット20はシングルピニオン型、第3プラネタリギヤセット30はダブルピニオン型である。各プラネタリギヤセット10,20,30は、それぞれ、サンギヤ11,21,31と、このサンギヤ11,21,31と噛み合うピニオン12,22,32(第3プラネタリギヤセット30にあっては内側のピニオン)と、このピニオン12,22,32を支持するキャリヤ13,23,33と、前記ピニオン12,22,32(第3プラネタリギヤセット30にあっては外側のピニオン)と噛み合うインターナルギヤ14,24,34とを備えている。
第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21とが連結され、さらにロークラッチ40を介して入力軸4に断接自在に連結されている。
第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14と第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23とが連結され、さらにハイクラッチ50を介して入力軸4に断接自在に連結されると共に、L−Rブレーキ60を介して変速機ケース3に断接自在に連結されている。
第2プラネタリギヤセット20のインターナルギヤ24と第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34とが連結され、さらに2−6ブレーキ70を介して変速機ケース3に断接自在に連結されている。
第3プラネタリギヤセット30のキャリヤ33がR−3−5ブレーキ80を介して変速機ケース3に断接自在に連結され、第3プラネタリギヤセット30のサンギヤ31が入力軸4に連結され、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13が出力ギヤ5に連結されている。
本実施形態に係る自動変速機1においては、図2の締結表(○は締結を示す)に示すように、摩擦締結要素40,50,60,70,80が選択的に締結されることにより、プラネタリギヤセット10,20,30の動力伝達経路が切り換わり、前進1〜6速と後退速とが達成される。
発進変速段の1つである前進1速ではロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11に入力される。入力された回転は、第1プラネタリギヤセット10によって大きな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
前進2速ではロークラッチ40と2−6ブレーキ70とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される。入力された回転は、1速よりも小さな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
前進3速ではロークラッチ40とR−3−5ブレーキ80とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34及び第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される。入力された回転は、2速よりもさらに小さな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
前進4速ではロークラッチ40とハイクラッチ50とが締結される。入力軸4の回転は、第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される(減速なし)。入力された回転は、第1プラネタリギヤセット10全体を入力軸4と一体に回転させるので、減速比1の回転が第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
前進5速ではハイクラッチ50とR−3−5ブレーキ80とが締結される。入力軸4の回転は、第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34及び第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21を介して第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される(減速なし)。入力された回転は、増速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
前進6速ではハイクラッチ50と2−6ブレーキ70とが締結される。入力軸4の回転は、第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21を介して第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11と、第2プラネタリギヤセット20のキャリヤ23を介して第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14とに入力される(減速なし)。入力された回転は、5速よりも大きな増速比で増速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から出力ギヤ5に取り出される。
発進変速段の1つである後退速ではL−Rブレーキ60とR−3−5ブレーキ80とが締結される。入力軸4の回転は、第3プラネタリギヤセット30のインターナルギヤ34及び第2プラネタリギヤセット20のサンギヤ21を介して第1プラネタリギヤセット10のサンギヤ11に入力される。入力された回転は、第2プラネタリギヤセット20により回転方向が逆転されており、第1プラネタリギヤセット10によって大きな減速比で減速された後、第1プラネタリギヤセット10のキャリヤ13から入力軸4の回転方向と反対方向の回転として出力ギヤ5に取り出される。
図3に示すように、本実施形態においては、オイルポンプから吐出された油圧は、レギュレータバルブ(図示せず)により所定のライン圧(図中「PL」で示す)に調圧された後、専用の油路を介して常に油圧回路200に供給されると共に、Dレンジ又はRレンジが選択されたときに、マニュアルバルブ140を介して前記油圧回路200に供給される。
油圧回路200には、第1リニアソレノイドバルブ(以下、ソレノイドバルブを「SV」と記す)121、第2リニアSV122、オンオフSV123、及びシフトバルブ130が備えられている。第1リニアSV121は、ロークラッチ40の油圧室に油圧を供給するためのものである。第2リニアSV122は、後述するL−Rブレーキ60のA室61(本発明の第2油圧室に相当)に油圧を供給するためのものである。オンオフSV123は、シフトバルブ130のスプールの位置を切り替えるためのものである。シフトバルブ130は、前記第2リニアSV122と前記A室61とを連通又は遮断し、及び所定のライン圧供給油路124と後述するL−Rブレーキ60のB室62(本発明の第1油圧室に相当)とを連通又は遮断するためのものである。シフトバルブ130のスプールは図示しないリターンスプリングにより常に図3に関して左側に付勢されている。
前記オンオフSV123はノーマルオープンタイプである。そのため、前記オンオフSV123は、非通電状態(off)では油圧を出力し、シフトバルブ130のスプールを図3に関して右側に位置させる一方、通電状態(on)では油圧を出力せず、シフトバルブ130のスプールを図3に関して左側に位置させる。
前記第1、第2リニアSV121,122はノーマルクローズタイプである。そのため、前記第1、第2リニアSV121,122は、非通電状態(off)では対応する摩擦締結要素、すなわちロークラッチ40及びL−Rブレーキ60に油圧を供給しない一方、通電状態(on)では通電量に応じた油圧を対応する摩擦締結要素に供給する。
シフトバルブ130と前記A室61との間にA室用油路63が設けられ、シフトバルブ130と前記B室62との間にB室用油路64が設けられ、シフトバルブ130と前記第2リニアSV122との間に第1油路125が設けられている。
前記第2リニアSV122にさらに第2油路126と第3油路129とが接続されている。第2油路126は拡幅部127を経て第4油路128に連通し、第4油路128の端部はドレンポート128a(×)とされている。拡幅部127は作動油の貯留部として機能する。ドレンポート128aは大気に開放している。第3油路129は図示しない所定のライン圧供給元(油圧供給元)に通じている。
前記第2リニアSV122は、第1油路125を第2油路126又は第3油路129に接続するように構成されている。
具体的に、後述する制御コントローラ100(図8参照)がB室62のみに油圧を供給しA室61には油圧を供給しない第1油圧制御(本発明の油圧制御に相当)を行うときは、第2リニアSV122はoff(通電量がゼロ)とされて、第1油路125を第2油路126に接続する。このとき、シフトバルブ130のスプールは図3に関して左側に位置する。したがって、A室61がドレンポート128aと連通する。
ここで、A室用油路63、第1油路125、第2油路126、及び第4油路128は、全体として、第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路である。つまり、第2リニアSV122は、第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路上に備えられており、本発明の油圧供給弁に相当する。
一方、制御コントローラ100がB室62及びA室61に油圧を供給する第2油圧制御(本発明の追加油圧制御に相当)を行うときは、第2リニアSV122はonとされて、第1油路125を第3油路129に接続する。このときも、シフトバルブ130のスプールは図3に関して左側に位置する。したがって、A室61がライン圧供給元と連通する。
ここで、A室用油路63、第1油路125、及び第3油路129は、全体として、第2油圧制御の実行時にA室61に通じる油路である。
第2油圧制御において、第2リニアSV122は、通電量に応じて、第1油路125を第3油路129に接続する時間と、第1油路125を第2油路126に接続する時間との比率、すなわち、A室61がライン圧供給元と連通する時間とドレンポート128aと連通する時間との比率を変化させる。これにより、第2リニアSV122は、通電状態(on)では通電量に応じた油圧をA室61に供給する。
(2)L−Rブレーキの構造
次に、L−Rブレーキ60の構造を図4〜図7に基き説明する。図4、図6及び図7に関して右側がエンジン側、左側が反エンジン側である。
図4に示すように、本実施形態においては、L−Rブレーキ60は、主たる構成要素として、2つの油圧室(A室61及びB室62)と、2つのピストン(第1ピストン65及び第2ピストン66)と、複数の摩擦板(ドライブプレート69a及びドリブンプレート69c)とを備えている。第1ピストン65と、第2ピストン66とが、入力軸4の軸芯上に同軸に並び、摩擦板69a,69c側からストローク方向に前記の順に直列に配置されている。
第1ピストン65は軸方向Aに見て円環形状であり(図5参照)、図4に示すように、外周部が反エンジン側に膨出し、中間部が径方向に延び、内周部がエンジン側に傾斜している。第2ピストン66も軸方向Aに見て円環形状であり(図5参照)、図4に示すように、外周端部が反エンジン側に突出し、外周部がエンジン側に膨出し、中間部が反エンジン側に膨出し、内周部がエンジン側に傾斜し、内周端部が反エンジン側に突出している。
第1ピストン65は、第2ピストン66に比べて、外径が小さく、内径が大きい。第1ピストン65は、第2ピストン66の反エンジン側の面に嵌入されている。
第1ピストン65の外周端部及び内周端部に第1外周シール部材67a及び第1内周シール部材67bがそれぞれ装着されている。第1外周シール部材67aは第2ピストン66の外周部に当接して第2ピストン66に対して摺動可能である。第1内周シール部材67bは第2ピストン66の内周端部に当接して第2ピストン66に対して摺動可能である。第1外周シール部材67a及び第1内周シール部材67bはそれぞれ第1ピストン65に油密に装着されている。そのため、第1外周シール部材67a及び第1内周シール部材67bは、第1ピストン65と第2ピストン66との間にA室61(より詳しくはA室61のうちのA室作動室61a)を画成する(図7参照)。第1ピストン65は、前記第1シール部材67a,67bにより、第2ピストン66と共に移動可能且つ第2ピストン66に対して相対移動可能に第2ピストン66に嵌入されている。
変速機ケース3に、反エンジン側が開口する凹部3aが設けられている。凹部3aは軸方向Aに見て円環形状であり、径方向の中間部に突出部(以下、「中間突出部」と記す)3bが形成されている。第2ピストン66は、この凹部3aに嵌入されている。
第2ピストン66の外周部、中間部及び内周部に第2外周シール部材68a、第2中間シール部材68b及び第2内周シール部材68cがそれぞれ装着されている。第2外周シール部材68aは凹部3aの外周壁に当接して凹部3aに対して摺動可能である。第2中間シール部材68bは中間突出部3bの周壁に当接して凹部3aに対して摺動可能である。第2内周シール部材68cは凹部3aの内周壁に当接して凹部3aに対して摺動可能である。第2外周シール部材68a、第2中間シール部材68b及び第2内周シール部材68cはそれぞれ第2ピストン66に油密に装着されている。そのため、第2外周シール部材68a及び第2中間シール部材68bは、第2ピストン66の外周部と凹部3aの外周部との間にA室61(より詳しくはA室61のうちのA室非作動室61b)を画成する(図6参照)。また、第2中間シール部材68b及び第2内周シール部材68cは、第2ピストン66の内周部と凹部3aの内周部との間にB室62を画成する(図4参照)。第2ピストン66は、前記第2シール部材68a,68b,68cにより、凹部3aに移動可能に嵌入されている。
図4に示すように、シフトバルブ130から導かれたA室用油路63が変速機ケース3の壁を通って凹部3aの外周部のエンジン側の底壁に開口している。同様に、シフトバルブ130から導かれたB室用油路64が変速機ケース3の壁を通って凹部3aの内周部のエンジン側の底壁に開口している。A室用油路63は、径方向において、第2外周シール部材68aと第2中間シール部材68bとの間、すなわちA室非作動室61bに開口し、B室用油路64は、径方向において、第2中間シール部材68bと第2内周シール部材68cとの間、すなわちB室62に開口している。
第2ピストン66の外周部に、A室作動室61aとA室非作動室61bとを連通する連通孔66aが設けられている。A室用油路63を介してA室非作動室61bに供給された油圧は、前記連通孔66aを通ってA室作動室61aに供給される。第1ピストン65は、このA室作動室61aに供給された油圧を受けて反エンジン側、すなわち摩擦板69a,69cに近接する側にストロークする(図7参照)。つまり、A室61は、第1ピストン65を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給される油圧室であり、第1ピストン65は、摩擦板69a,69cを押圧するためのピストンである。
第2ピストン66は、B室用油路64を介してB室62に供給された油圧を受けて反エンジン側、すなわち摩擦板69a,69cに近接する側にストロークする(図6参照)。つまり、B室62は、第2ピストン66を摩擦板69a,69cに近接する側にストロークさせるための油圧が供給される油圧室であり、第2ピストン66は、第1ピストン65を摩擦板69a,69cに近接する側に移動させるためのピストンである。
図4に示すように、A室61にA室用エア抜き機構165が設けられ、B室62にB室用エア抜き機構166が設けられている。A室用エア抜き機構165は、A室61に混入したエアをA室61から変速機ケース3の外部に排出するためのものである。B室用エア抜き機構166は、B室62に混入したエアをB室62から変速機ケース3の外部に排出するためのものである。
A室用エア抜き機構165は、A室61の最上部を臨むように変速機ケース3に形成されたA室用エア抜き通路3cを含み、この通路3cにラバーボール162とA室用エア抜きプラグ163とが挿入されている。ラバーボール162は、A室61に負圧が発生したとき、A室用エア抜き通路3cのテーパ面に線接触で当接してA室61を閉塞する。一方、ラバーボール162は、A室61に油圧が供給されたとき、前記テーパ面から離れてA室61に混入したエアを通過させる。通過したエアはA室用エア抜きプラグ163とA室用エア抜き通路3cとの間の間隙を通って変速機ケース3の外部に排出される。つまり、A室用エア抜き機構165は、前記ラバーボール162の存在により、A室61の内から外へはエアを通すが外から内へはエアを通さない逆止弁構造とされている。
B室用エア抜き機構166は、B室62の最上部を臨むように変速機ケース3に形成されたB室用エア抜き通路3dを含み、この通路3dにB室用エア抜きプラグ164が挿入されている。B室62に油圧が供給されたとき、B室62に混入したエアはB室用エア抜きプラグ164とB室用エア抜き通路3dとの間の間隙を通って変速機ケース3の外部に排出される。
なお、A室用エア抜き通路3c及びB室用エア抜き通路3dがA室61及びB室62の最上部を臨むように設けられているのは、A室61及びB室62に混入したエアがA室61及びB室62内の作動油の中を上方に上昇し、A室61及びB室62の上部に溜まるからである。
ドライブプレート69aは、第1プラネタリギヤセット10のインターナルギヤ14(図1参照)の外周面にスプライン係合されている。ドライブプレート69aの両面にフェーシング69bが貼着されている。ドリブンプレート69cは、変速機ケース3の内面スプライン部3eにスプライン係合されている。前記内面スプライン部3eには、さらにリテーニングプレート69dがスプライン係合されている。リテーニングプレート69dは、スナップリング69eにより反エンジン側への移動が規制されている。
このL−Rブレーキ60は多板ブレーキであって、複数のドライブプレート69aと複数のドリブンプレート69cとが交互に配置されている。そして、これらの摩擦板69a,69cは、前記リテーニングプレート69dと、前記第1ピストン65の反エンジン側に膨出する外周部(以下、「押圧部」と記すことがある)との間に挟まれて配置されている。摩擦板69a,69cは、リテーニングプレート69dにより反エンジン側への移動が規制されている。
リテーニングプレート69dと第2ピストン66の外周端部との間にリターンスプリング161が介設されている。図5に示すように、リターンスプリング161は複数設けられ、第2ピストン66の周方向に等間隔に配置されている。このリターンスプリング161は、第1ピストン65に作用せず、第2ピストン66のみに作用して、第2ピストン66と、第2ピストン66に嵌入された第1ピストン65とを摩擦板69a,69cから離間する側に付勢する。
前記内面スプライン部3eには、第2ピストン66の外周端部の近傍において、スナップリングでなるストッパ部材160が設けられている。第2ピストン66は、反エンジン側に突出する外周端部とエンジン側に膨出する外周部との間の径方向に延びる部分が前記ストッパ部材160に当接することにより、反エンジン側、すなわち摩擦板69a,69cに近接する側への移動が規制されている(図6参照)。
(3)L−Rブレーキの動作
次に、L−Rブレーキ60の動作を説明する。
(i)解放状態
L−Rブレーキ60は、解放状態にあっては、A室61及びB室62に油圧が供給されない。これにより、図4に示すように、リターンスプリング161の付勢力で第1ピストン65及び第2ピストン66が共に摩擦板69a,69cから離間する側に移動される。
第2ピストン66は、反エンジン側に膨出する中間部が凹部3aの中間突出部3bに当接して停止している。第1ピストン65は、径方向に延びる中間部が第2ピストン66の中間部に当接して停止している。すなわち、この解放状態のときの第1ピストン65の位置及び第2ピストン66の位置がそれぞれ第1ピストン65の初期位置及び第2ピストン66の初期位置である。
なお、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置は、後述するゼロクリアランス位置に応じて様々に変化するので、第2ピストン66の初期位置は構造的に一定であるが、第1ピストン65の初期位置は一定ではない。ただし、ここでは、第1ピストン65の初期位置が構造的に摩擦板69a,69cから最も離間した位置にある場合(第1ピストン65の中間部が第2ピストン66の中間部に当接している場合)について説明する。
この解放状態において、第2ピストン66がストッパ部材160により摩擦板69a,69cに近接する側への移動が規制されるまでに移動できる距離、すなわち第2ピストン66のストローク量をWとし、摩擦板69a,69cのクリアランス(L−Rブレーキ60のクラッチクリアランス)をVとすると、W≦V、好ましくはW=VとなるようにL−Rブレーキ60の各部の寸法が設定されている。
なお、図4には、便宜上、全摩擦板69a,69cが非押圧状態(フェーシング69bが変形していない状態)で隣接し、最もエンジン側にある摩擦板69cが第1ピストンの反エンジン側に膨出する外周部(すなわち押圧部)に接触したときの、リテーニングプレート69dのエンジン側の面と、最も反エンジン側にある摩擦板69aの反エンジン側の面に貼着されたフェーシング69bの反エンジン側の面との間の距離をクラッチクリアランスVとして示している。
(ii)締結時−待機位置まで
解放状態のL−Rブレーキ60が締結されるときは、まず、第1ピストン65及び第2ピストン66がそれぞれ初期位置に位置した状態で、B室62に油圧が供給される。つまり、B室62のみに油圧が供給され、A室61には油圧が供給されない第1油圧制御が実行される。これにより、図6に示すように、B室62に供給された油圧により、第2ピストン66と、2ピストン66に嵌入された第1ピストン65とが、共に摩擦板69a,69cに近接する側にストロークされる。
なお、このとき、第2ピストン66は、リターンスプリング161を縮めつつ、つまりリターンスプリング161の付勢力に抗してストロークする。
また、このとき、第2ピストン66のストロークに伴ってA室61の容積が増大する。そのため、A室61に負圧が発生する。
第2ピストン66は、反エンジン側に突出する外周端部とエンジン側に膨出する外周部との間の径方向に延びる部分がストッパ部材160に当接して停止する。第1ピストン65は、径方向に延びる中間部が第2ピストン66の中間部に当接した状態を保持したまま停止する。すなわち、この第2ピストン66のストロークが終了したときの第1ピストン65の位置及び第2ピストン66の位置がそれぞれ第1ピストン65の待機位置及び第2ピストン66の待機位置である。
なお、前述したように、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置はゼロクリアランス位置に応じて様々に変化するので、第2ピストン66の待機位置は構造的に一定であるが、第1ピストン65の待機位置は一定ではない。ただし、ここでは、第1ピストン65の中間部が第2ピストン66の中間部に当接している場合について説明する。
この待機状態において、(第2ピストン66のストローク量W)≦(クラッチクリアランスV)、好ましくは(第2ピストン66のストローク量W)=(クラッチクリアランスV)であったから、第2ピストン66のストローク量Wがゼロになっても、第1ピストン65は摩擦板69a,69cを押圧しない(すなわちL−Rブレーキ60の締結はまだ開始しない)。具体的に、W<Vのときは、クラッチクリアランスが狭められ(すなわち締結応答性がよくなり)、W=Vのときは、クラッチクリアランスがゼロになる(すなわち締結応答性が最もよくなる)。
(iii)締結時−押圧完了位置まで
次いで、第1ピストン65及び第2ピストン66がそれぞれ待機位置に位置した状態で、A室61に油圧が供給される。つまり、B室62及びA室61に油圧が供給される第2油圧制御が実行される。これにより、図7に示すように、A室61に供給された油圧により、第1ピストン65のみが摩擦板69a,69cに近接する側にストロークされる。
なお、このとき、第1ピストン65は、リターンスプリング161の影響を受けることなくストロークする。
第1ピストン65は、押圧部で摩擦板69a,69cを押圧し、摩擦板69a,69cの押圧を完了して、つまりドライブプレート69aの回転を停止させて移動を停止する。すなわち、この第1ピストン65のストロークが終了したときの第1ピストン65の位置が第1ピストン65の押圧完了位置である。このとき、ドライブプレート69a、フェーシング69b、ドリブンプレート69c、リテーニングプレート69d及びスナップリング69e等は、第1ピストン65の押圧力を受けて弾性変形する(特にフェーシング69bの厚みが薄くなる)。これにより、L−Rブレーキ60は締結状態となる。
(iv)解放時−ゼロクリアランス位置まで
締結状態のL−Rブレーキ60が解放されるときは、まず、第1ピストン65が押圧完了位置に位置し、第2ピストン66が待機位置に位置した状態で、A室61の油圧が排出される。これにより、第1ピストン65の押圧力が除去されるから、図6に示すように、それまで押圧されていた摩擦板(ドライブプレート69a、フェーシング69b、ドリブンプレート69c、リテーニングプレート69d及びスナップリング69e等を含めていう)の弾性復元力により、第1ピストン65のみが摩擦板69a,69cから離間する側に移動される。
第1ピストン65は、前記弾性復元力で押し戻されて、摩擦板69a,69cの押圧を解除して停止する。このときの第1ピストン65の位置は、動力の伝達が行われないクラッチクリアランスのうち最もクラッチクリアランスが小さい位置(つまりクラッチクリアランスがゼロの位置)である。すなわち、このときの第1ピストン65の位置が第1ピストン65のゼロクリアランス位置である。
このゼロクリアランス位置は、摩擦板(ドライブプレート69a、フェーシング69b、ドリブンプレート69c、リテーニングプレート69d及びスナップリング69e等を含めていう)の構造的状況(例えば厚み等の寸法)によって決まる位置であり、しかも現在の構造的状況(摩耗による厚みの減少等)を反映している。例えば、摩擦板69a,69cが新しいと、摩耗による厚みの減少等が少ないため、第1ピストン65が押し戻される距離が長くなって、ゼロクリアランス位置はエンジン側に変位し、摩擦板69a,69cが古いと、摩耗による厚みの減少等が多いため、第1ピストン65が押し戻される距離が短くなって、ゼロクリアランス位置は反エンジン側に変位する。
L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の待機位置と締結後のゼロクリアランス位置とは一致するとは限らない。つまりゼロクリアランス位置はL−Rブレーキ60を締結する度に摩擦板の現在の構造的状況によって更新され、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置はゼロクリアランス位置に応じて様々に変化する。そのため、L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の待機位置と締結後のゼロクリアランス位置とは多くの場合一致しない。
(v)解放時−初期位置まで
次いで、第1ピストン65がゼロクリアランス位置に位置し、第2ピストン66が待機位置に位置した状態で、B室62の油圧が排出される。これにより、図4に示すように、リターンスプリング161の付勢力で第1ピストン65及び第2ピストン66が共に摩擦板69a,69cから離間する側に移動され、それぞれ初期位置に位置する。これにより、L−Rブレーキ60は解放状態となる。
このとき、リターンスプリング161は第2ピストン66のみに作用し、第1ピストン65には作用しないから、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置は乱されず保持される。つまり、ゼロクリアランス位置が記録されたまま第1ピストン65及び第2ピストン66は初期位置に戻る。
L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の初期位置と締結後の第1ピストン65の初期位置とは一致するとは限らない。つまりゼロクリアランス位置はL−Rブレーキ60を締結する度に摩擦板の現在の構造的状況によって更新され、第2ピストン66に対する第1ピストン65の相対位置はゼロクリアランス位置に応じて様々に変化する。そのため、L−Rブレーキ60の締結前の第1ピストン65の初期位置と締結後の第1ピストン65の初期位置とは多くの場合一致しない。
(4)制御コントローラの制御動作
本実施形態に係る自動変速機1においては、図8に示すように、制御コントローラ100が備えられている。この制御コントローラ100は、ロークラッチ40の油圧室に対する油圧の供給及び排出と、L−Rブレーキ60のA室61及びB室62に対する油圧の供給及び排出とを制御する。制御コントローラ100は、周知の通り、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサであり、本発明の油圧制御手段に相当する。具体的に、制御コントローラ100は、選択されたレンジを検出するレンジセンサ101からの信号と、ブレーキペダルの踏込量を反映するブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ102からの信号と、入力軸4の回転数を検出するタービン回転数センサ103からの信号とを入力し、これらの信号に基き、前記油圧回路200に備えられた第1リニアSV121、第2リニアSV122、及びオンオフSV123に制御信号を出力し、これによりN−D制御を行う。N−D制御とは、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが解放されて変速機構30の動力伝達経路が遮断された状態から、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結されて発進変速段である前進1速が達成された状態へ移行する制御である。
次に、前記制御コントローラ100が行うN−D制御を図9に示すフローチャート及び図10に示すタイムチャートに基き説明する。
まず、N−D制御がスタートするまで(時刻t1まで)は、Nレンジが選択されている。Nレンジでは、第1リニアSV121の通電量がゼロとされ、ロークラッチ圧(ロークラッチ40の油圧室の油圧)が図3に示す第1リニアSV121のドレンポート(×)からドレンされて、ロークラッチ40は解放されている。また、オンオフSV123がoffとされ、シフトバルブ130のスプールは図3に関して右側に位置している。そのため、L−Rブレーキ60のA室油圧(A室61の油圧)及びB室油圧(B室62の油圧)がそれぞれ図3に示すシフトバルブ130のドレンポート(×)からドレンされて、L−Rブレーキ60は解放されている。この結果、第1ピストン65及び第2ピストン66は初期位置にあり、クラッチクリアランスは大きい状態である。ブレーキ液圧は高く、運転者はまだ発進要求をしていない。また、第2リニアSV122の通電量がゼロとされている。
制御コントローラ100は、レンジセンサ101からの信号により、NレンジからDレンジへの切替えがあったと判定すると、N−D制御をスタートする(時刻t1)。
すなわち、制御コントローラ100は、ステップS1で、第1リニアSV121の通電量をゼロから最大値(Max)まで増大する。この結果、ロークラッチ圧がライン圧(PL)まで増大し、ロークラッチ40が締結される。
また、制御コントローラ100は、ステップS1で、オンオフSV123をoffからonに切り替える。この結果、シフトバルブ130のスプールが図3に関して左側に位置し、L−Rブレーキ60のB室62とライン圧供給油路124とが連通して、B室油圧がライン圧(PL)まで増大する。これにより、第1ピストン65及び第2ピストン66が待機位置にストロークし、クラッチクリアランスがゼロとなる(時刻t2)。このとき、第2ピストン66のストロークに伴ってA室61の容積が増大し、A室61に負圧が発生する。また、このとき、タービン回転数がN1に若干低下する。
このオンオフSV123をoffからonに切り替える制御は、B室62のみに油圧が供給され、A室61には油圧が供給されない第1油圧制御である。前述したように、この第1油圧制御では、第2リニアSV122は通電量がゼロとされて第1油路125を第2油路126に接続する。そのため、A室61がドレンポート128aと連通する。その結果、A室61に発生した負圧により、ドレンポート128aからエアの吸い込みが起こる。
本実施形態では、制御コントローラ100による第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路(すなわち、A室用油路63、第1油路125、第2油路126、及び第4油路128の全体)のドレンポート128aからA室61までの油路の容積が、第1油圧制御の実行時に第2ピストン66のストロークに伴って増大するA室61の容積の増大量よりも大きい値に設定されている。
次いで、制御コントローラ100は、ステップS2で、ブレーキ液圧センサ102からの信号により、ブレーキ液圧が所定圧未満になった(運転者が発進要求をした)と判定すると、第2リニアSV122の通電量をゼロから徐々に増大する(時刻t3)。これにより、L−Rブレーキ60のA室61に油圧が供給され、A室油圧が徐々に増大する。この結果、第1ピストン65が押圧完了位置にストロークし、タービン回転数がさらに低下する。
このオンオフSV123をonにした状態で第2リニアSV122の通電量を増大する制御は、B室62及びA室61に油圧が供給される第2油圧制御である。すなわち、制御コントローラ100は、A室61に油圧を供給しない第1油圧制御を行った後、A室61にも油圧を供給する第2油圧制御を行う。前述したように、この第2油圧制御では、第2リニアSV122は第1油路125を第3油路129に接続する。そのため、A室61がライン圧供給元と連通する。また、第2リニアSV122は、通電量に応じて、第1油路125を第3油路129に接続する時間と、第1油路125を第2油路126に接続する時間との比率を変化させる。そのため、通電量に応じた油圧がA室61に供給される。
本実施形態では、制御コントローラ100による第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路(すなわち、A室用油路63、第1油路125、第2油路126、及び第4油路128の全体)のドレンポート128aから前記第2リニアSV122までの油路の容積が、第1油圧制御の実行時に第2ピストン66のストロークに伴って増大するA室61の容積の増大量よりも大きい値に設定されている。
そして、制御コントローラ100は、ステップS3で、タービン回転数センサ103からの信号により、タービン回転数が目標値N2になった(摩擦板69a,69cの押圧が完了した、つまりドライブプレート69aの回転が停止した)と判定すると、第2リニアSV122の通電量を最大値(Max)まで増大する(時刻t4)。この結果、A室油圧がライン圧(PL)まで増大し、L−Rブレーキ60が締結される。以上により、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結された前進1速が達成される。
なお、従来は、L−Rブレーキ60に代えて、ワンウエイクラッチを用いて前進1速を達成していた。ワンウエイクラッチを用いると、ロークラッチを締結するだけで、ワンウエイクラッチが自然にロックして前進1速の動力伝達経路が形成されるという利点がある。そのため、摩擦締結要素の締結タイミングがずれることに起因する変速ショック等を良好に抑制することができる。
しかし、ワンウエイクラッチは、自動変速機のコスト、重量、サイズの増大を招くだけでなく、走行時間の大半は空転するので、引き摺り抵抗が発生し、燃費の低下を招くという問題がある。
そこで、本実施形態では、ワンウエイクラッチを廃止して、前進1速ではロークラッチ40とL−Rブレーキ60とを締結するようにした。
ただし、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60のうち、後で締結する摩擦締結要素の締結タイミングがずれると不快な変速ショックが発生する。特に前進1速等の発進変速段は、減速比が大きく、トルクが大きいので、発生する変速ショックがより大きくなる。
そこで、本実施形態では、クラッチ要素は油圧室に遠心油圧が発生し、ブレーキ要素は油圧室に遠心油圧が発生しないことに着目して、遠心油圧の影響を受けるロークラッチ40を先に締結し、遠心油圧の影響を受けないL−Rブレーキ60を後で締結するようにした。こうすれば、L−Rブレーキ60は遠心油圧の影響を受けないから、後で締結するL−Rブレーキ60を精度よく適正なタイミングで締結することができる。
さらに、本実施形態では、L−Rブレーキ60を2段ピストン構造・2段ストローク構造とし、L−Rブレーキ60を締結する可能性が生じた段階(時刻t1)で、第1ピストン65を待機位置にストロークさせて、クラッチクリアランスを狭めておき、そして、L−Rブレーキ60を締結する必要が生じた段階(時刻t3)で、第1ピストン65を待機位置から押圧完了位置までストロークさせるので、L−Rブレーキ60を応答性よく締結することができ、L−Rブレーキ60を精度よく適正なタイミングで締結することができ、L−Rブレーキ60の締結タイミングがずれることに起因する変速ショック等をより一層良好に抑制することができるのである。
(5)作用等
以上のように、本実施形態に係る自動変速機1は、第2ピストン66に2つの油圧室(A室61及びB室62)が設けられたL−Rブレーキ60と、2つの油圧室のうちB室62のみに油圧を供給しA室61に油圧を供給しない第1油圧制御を行う制御コントローラ100とを備えたものであって、次のような特徴的構成を具備している。
制御コントローラ100による第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路(すなわち、A室用油路63、第1油路125、第2油路126、及び第4油路128の全体)のドレンポート128aからA室61までの油路の容積が、第1油圧制御の実行時に第2ピストン66のストロークに伴って増大するA室61の容積の増大量よりも大きい値に設定されている。
そのため、第1油圧制御の実行時に、たとえドレンポート128aからエアの吸い込みが起こっても、A室61には前記油路63,125,126,128内に残留している作動油のみが入り、ドレンポート128aから吸い込まれたエアがA室61に混入することが回避される。そのため、A室61に混入したエアの影響で油圧の立ち上がりが遅れ、動力の伝達が遅れるという不具合が回避される。
本実施形態では、制御コントローラ100は、A室61に油圧を供給しない第1油圧制御を行った後、A室61にも油圧を供給する第2油圧制御を行う。第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路63,125,126,128上に、A室61に油圧を供給するための第2リニアSV122が備えられている。第2リニアSV122は、第1油圧制御の実行時はA室61とドレンポート128aとを連通させ、第2油圧制御の実行時はA室61と所定のライン圧供給元とを連通させるように構成されている。
そして、制御コントローラ100による第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路63,125,126,128のドレンポート128aから第2リニアSV122までの油路の容積が、第1油圧制御の実行時に第2ピストン66のストロークに伴って増大するA室61の容積の増大量よりも大きい値に設定されている。
この構成によれば、たとえ第1油圧制御の実行時にドレンポート128aからエアの吸い込みが起こっても、吸い込まれたエアは第2リニアSV122を超えてA室61側の油路(A室用油路63及び第1油路125)に入ることがない。そのため、第2油圧制御は、第2油圧制御の実行時にA室61に通じる油路(すなわち、A室用油路63、第1油路125、及び第3油路129の全体)内にエアが存在せず作動油が充満した状態で開始される。これにより、第2油圧制御の実行時もエアがA室61に混入することが回避される。
本実施形態では、A室61に、A室61に混入したエアをA室61から排出するためのエア抜き機構165が設けられている。
この構成によれば、仮にA室61にエアが混入しても、前記エア抜き機構165により、混入したエアをA室61から排出することができる。そのため、A室61に混入したエアの影響で油圧の立ち上がりが遅れ、動力の伝達が遅れるという不具合が低減される。
その場合に、第2ピストン66のストロークに伴ってA室61の容積が増大した際に、前記エア抜き機構165を通ってA室61にエアが混入する可能性がある。そこで、本実施形態では、前記エア抜き機構165を、A室61の内から外へはエアを通すが外から内へはエアを通さない逆止弁構造としている。これにより、エア抜き機構165の機能を保ちつつ、エア抜き機構165を介してのA室61へのエアの混入が回避される。
本実施形態では、第1油圧制御の実行時にA室61に通じる油路63,125,126,128上に拡幅部(作動油貯留部)127を設けたから(図3参照)、ドレンポート128aからA室61までの油路の容積を第2ピストン66のストロークに伴って増大するA室61の容積の増大量よりも大きい値に設定することが容易になる。なお、拡幅部(作動油貯留部)127は必要に応じて設ければよい。
なお、前記実施形態では、ロークラッチ40に、通常の油圧室の他に、遠心油圧を相殺するためのバランス室を設けなかったが、状況に応じて設けてもよい。
また、前記実施形態では、L−Rブレーキ60は油圧室を2つ備えていたが、本発明は、摩擦締結要素が油圧室を3つ以上備える場合にも適用可能である。
また、シフトバルブ130及びオンオフSV123を廃止して、A室61と第2リニアSV122とをA室用油路63で直接接続してもよい。その場合、ライン圧供給油路124を廃止して、B室用油路64に第2リニアSV122と同様のリニアSVを接続し、B室62にはそのリニアSVから油圧が供給されるようにすればよい。
また、図9、図10の制御動作は一例であり、これに限定されない。例えば、ロークラッチ圧の時間変化、A室油圧の時間変化、及びB室油圧の時間変化は、図10に示したものと異なっていてもよい。また、第2リニアSV122は、最初から通電量をゼロから最大値(Max)まで増大してもよい。
また、N−D制御において、L−Rブレーキ60を先に締結し、ロークラッチ40を後で締結してもよい。
また、車両が停車している状態から発進変速段の1つである前進1速が達成されるN−D制御に限らず、車両が停車している状態から発進変速段の他の1つである後退速が達成されるN−R制御、つまりL−Rブレーキ60とR−3−5ブレーキ80とが解放されて変速機構30の動力伝達経路が遮断された状態から、L−Rブレーキ60とR−3−5ブレーキ80とが締結されて発進変速段である後退速が達成された状態へ移行する制御を行ってもよい。
また、例えば、車両が走行中の2−1変速制御、つまりロークラッチ40と2−6ブレーキ70とが締結されて前進2速が達成された状態から、ロークラッチ40とL−Rブレーキ60とが締結されて前進1速が達成された状態へ移行する制御を行ってもよい。
また、本発明に係る摩擦締結要素をL−Rブレーキ60以外の他の摩擦締結要素、例えば2−6ブレーキ70やR−3−5ブレーキ80等に適用することもできる。