JP2013241967A - 車両用油圧制御装置 - Google Patents

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貴文 稲垣
Yu Nagasato
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Abstract

【課題】伝動機構のトルク容量を、伝動機構に掛かるトルクに基づいて設定する場合の動力損失を抑制する。
【解決手段】油圧に応じてトルク容量が変化する伝動機構が動力源の出力側に連結され、前記油圧を前記動力源が出力するトルクに基づいて制御する車両用油圧制御装置において、前記伝動機構に前記動力源側からトルクが入力される駆動状態から前記伝動機構に対してその伝動機構の出力側からトルクが入力される被駆動状態に変化した場合に、前記伝動機構の油圧を、前記動力源が出力するトルクの低下に基づいて低下しないように維持する油圧維持制御を実行するように構成されている。
【選択図】図1

Description

この発明は、各種のアクチュエータに対して給排される油圧を制御する装置に関し、特に車両における油圧を制御する装置に関するものである。
油圧は、その圧力によって動力や制御情報を伝達し、またその量によって位置を制御できるので、各種の輸送機器や産業用機械などで多用されている。その油圧はエンジンやモータなどで駆動されるオイルポンプによって発生させ、レギュレータバルブやリリーフバルブなどによって所定の元圧に調圧している。また、具体的な各種の機能を生じる油圧アクチュエータに対しては、要求される力や速度などを発生するように、上記の元圧を要求に応じて調圧した油圧が供給されるのが通常である。例えば特許文献1に記載された油圧制御装置は、クラッチに供給する油圧を必要最小の圧力に設定し、クラッチの滑りが発生する可能性が判定された場合に、増圧補正するように構成されている。なお、クラッチの滑りの可能性の判定は、実変速値と変速目標値との差によって行うように構成されている。
また、油圧はオイルポンプによって連続して発生させることができるが、高い油圧を常時発生させるとすれば、動力の損失が大きくなり、また耐久性が低下するなどの不都合があり、そこで上記の特許文献1に記載された装置では、クラッチに供給する油圧を必要最小の圧力に設定している。一方、アクチュエータなどに閉じ込めておけば、その圧力を維持させておくことができる。したがって、油圧を必要最小の圧力に設定してその油圧を連続的に供給する替わりに、油圧を閉じ込めれば、油圧を維持できるとともにオイルポンプを停止させるなどのことによって動力の消費を削減でき、またオイルポンプが油圧を発生しない状態であっても油圧を確保できる。例えば特許文献2に記載された装置では、エンジンの自動停止を行う車両において、エンジンが停止されてオイルポンプが油圧を発生しない状態では、油圧を設定値に保持し、その設定値を、エンジン停止後のクランク軸位置がエンジンの再始動に要する時間が短くなる位置ほど高い値に設定している。
なお、特許文献3には、エンジンが停止してエンジンに連結されているオイルポンプが油圧を発生しなくなった状態ではモータによって駆動される補助オイルポンプによって油圧を発生させるように構成された装置が記載されている。この特許文献3に記載された装置では、その補助オイルポンプによって油圧を発生させるとしてもエンジンの停止中に自動変速機の油圧が低下した場合には、自動変速機をニュートラル状態に切り替え、その状態でエンジンを始動してオイルポンプによって油圧を発生させている。また、上述した油圧の閉じ込み制御が可能な変速機が特許文献4に記載されている。
特開平09−269024号公報 特開2001−027138号公報 特開2004−003425号公報 国際公開第2010/021218号
特許文献1に記載されているように、クラッチのトルク容量もしくはそのトルク容量を設定する油圧を必要最小にすれば、動力の不要な消費を抑制してエネルギ効率あるいは燃費を向上させることができる。しかしながら、そのトルク容量もしくは油圧の増圧補正は、実変速値と変速目標値との差が生じた場合に限って行うようになっているので、クラッチに掛かるトルクが急激に増大した場合には、過渡的にトルク容量が不足してしまう可能性がある。
また、特許文献2に記載された装置では、エンジンが自動停止させられてオイルポンプが油圧を発生しなくなった場合に、自動変速機の油圧を設定値に維持している。その油圧の維持は、エンジンの再始動に伴ってオイルポンプが油圧を発生するとしても油圧の立ち上がりが遅れるので、その油圧の遅れを補うためのものである。したがって、自動変速機に作用するトルクが単に大小に変化するだけでは油圧は維持されず、一般的な自動変速機であれば、トルクに応じて油圧が高低に制御される。そのため、特許文献2に記載された装置においても、上記の特許文献1に記載されている装置と同様に、自動変速機に掛かるトルクが急激に増大した場合には、過渡的にトルク容量が不足してしまう可能性がある。
なお、油圧が必要以上に低下した場合にエンジンを始動してオイルポンプによって油圧を発生される技術は、特許文献3に記載されているように一般的な制御であり、このような制御では動力を消費することになるので改善の余地がある。また、特許文献4に記載されているように、圧油を閉じ込んで油圧を維持することのできる装置が知られているとしても、この種の装置を更に有効に使用する技術を開発する余地がある。
この発明は上記の技術的背景の下になされたものであり、動力の消費を可及的に抑制でき、しかも過渡的であってもトルクに対して不足のない油圧を確保できる車両用油圧制御装置を提供することを目的とするものである。
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、油圧に応じてトルク容量が変化する伝動機構が動力源の出力側に連結され、前記油圧を前記動力源が出力するトルクに基づいて制御する車両用油圧制御装置において、前記伝動機構に前記動力源側からトルクが入力される駆動状態から前記伝動機構に対してその伝動機構の出力側からトルクが入力される被駆動状態に変化した場合に、前記伝動機構の油圧を、前記動力源が出力するトルクの低下に基づいて低下しないように維持する油圧維持制御を実行するように構成されていることを特徴とするものである。
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記油圧維持制御は、前記駆動状態から被駆動状態に切り替わる際の前記伝動機構の油圧が、前記伝動機構に掛かるトルクに基づいて求まる理論値と所定の安全率とに基づいて決まる油圧以上の場合に実行されるように構成されていることを特徴とする車両用油圧制御装置である。
請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記伝動機構への油圧の供給を制御する供給用バルブと、前記伝動機構からの油圧の排出を制御する排出用バルブとを備え、前記油圧維持制御はこれら供給用バルブと排出用バルブとを閉じて前記伝動機構の油圧の給排を阻止する制御を含むことを特徴とする車両用油圧制御装置である。
請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記油圧維持制御中に、前記伝動機構の油圧が、前記被駆動状態で必要とする油圧以下になることの判定が成立した場合に、前記油圧維持制御を中止して前記伝動機構の油圧の低下を制限する昇圧制御を行うように構成されていることを特徴とする車両用油圧制御装置である。
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記被駆動状態で必要とする油圧は、前記被駆動状態で前記伝動機構に係るトルクに基づいて求まる理論圧力と該理論圧力に所定の安全率に相当する圧力を加えた油圧を含むことを特徴とする車両用油圧制御装置である。
この発明によれば、動力源から出力されたトルクが伝動機構に作用し、また動力源のトルクが小さい場合に伝動機構の出力側から入力されるトルクが作用することがある。その伝動機構のトルク容量は油圧に応じた容量になり、その油圧は、動力源側から入力されるトルクに応じた油圧に設定される。その伝動機構に対して動力源からトルクが入力されている駆動状態では、前記油圧およびそれに応じたトルク容量は動力源のトルクに応じた値に設定されるが、伝動機構に対してその出力側からトルクが入力される被駆動状態になるほどに動力源のトルクが低下した場合には、前記油圧およびそれに応じたトルク容量は動力源のトルクに応じた値に低下させられずに、それより高い圧力あるいは値に維持される。すなわち、伝動機構に供給されている油圧が、動力源のトルクの低下によって多くは排出されない。その後、動力源が出力するトルクが増大して被駆動状態から駆動状態に変化すると、動力源のトルクに応じた油圧に昇圧することになるが、伝動機構の油圧は前述したように維持されているので、昇圧に要する動力は皆無か、もしくは僅かであり、また伝動機構の油圧もしくはトルク容量が動力源が出力するトルクに対して不足することがない。このようにこの発明の油圧制御装置では、動力源のトルクが低下したとしても伝動機構の油圧を直ちには低下させないから、動力を油圧の排出という形で失うことが防止もしくは抑制され、エネルギ効率もしくは車両の燃費を向上させることができる。
特に請求項2の発明によれば、伝動機構に掛かるトルクを伝達できるトルク容量およびそれに所定の安全率を加えたトルク容量を設定する油圧以上に伝動機構の油圧が維持されるから、伝動機構のトルク容量が不足したり、伝動機構の滑りが生じたりすることをより確実に回避することができる。
また、請求項3の発明によれば、伝動機構の油圧を、伝動機構に連通されている供給用バルブと排出用バルブとを閉じることにより維持することができる。
その供給用バルブと排出用バルブとを閉じて伝動機構に油圧を閉じ込んだ場合、不可避的な漏洩により油圧が低下することがあるが、請求項4の発明では、そのような場合、油圧の維持制御を中止して伝動機構の油圧の低下を制限もしくは抑制するから、伝動機構のトルク容量が不足することをより確実に回避することができる。
その被駆動状態で必要とする油圧を、請求項5に記載されているように、いわゆる理論値と安全率とに基づいて定まる圧力とすることにより、伝動機構のトルク容量が不足して滑りが生じるなどのことをより確実に回避することができる。
この発明に係る油圧制御装置で被駆動状態におけるクラッチ油圧を制御した場合のクラッチ油圧およびスロットル開度ならびにクラッチ伝達トルクの変化を示すタイムチャートである。 被駆動状態における油圧のいわゆる閉じ込み制御を行った場合のクラッチ油圧の低下と閉じ込み制御の解除との状況を説明するためのタイムチャートである。 この発明で対象とすることのできる車両のパワートレーンの一例を示す模式図である。 そのクラッチの構成を説明するための断面図である。 その油圧回路の一例を示す図である。
この発明は車両に搭載されている油圧機器の油圧を制御するための装置に適用することができ、特に動力源で発生されたトルクを伝達するための伝動機構の油圧を制御する装置に適用することができる。その動力源はガソリンエンジンなどの内燃機関やモータであってよく、あるいはこれらを組み合わせたハイブリッドタイプの動力源であってよい。また、伝動機構は、摩擦クラッチや摩擦ブレーキなどの摩擦力を利用してトルクを伝達する機構であり、特に、トルク容量を油圧によって設定できる機構である。この発明に係る油圧制御装置は、その伝動機構のトルク容量が、伝達するべきトルクすなわち動力源のトルクに応じた容量となるように油圧を制御する。例えば摩擦クラッチなどの摩擦板を備えた機構であれば、その摩擦面の数、摩擦係数、その半径および摩擦面の垂直荷重(すなわち圧力)などによってトルク容量が定まるので、このようにして求まる理論値と、それに所定の安全率とを加えたトルク容量を設定するように油圧が制御される。すなわち、基本的には、伝動機構の油圧を、動力源のトルクに基づく最低圧力に制御する。これは、動力の損失を可及的に抑制するためである。そして、この発明に係る油圧制御装置は、動力損失を更に抑制するために、所定の条件が成立することにより、上記の基本的な制御とは反対に、油圧を相対的に高く維持する制御を行うように構成されている。以下、具体的に説明する。
まず、この発明で対象とする車両のパワートレーンの一例を図3に示す。ここに示す例はベルト式無段変速機1を備えた例であり、動力源(図示せず)の出力側にロックアップクラッチ2を備えたトルクコンバータ3が連結されている。その動力源は例えばガソリンエンジンであり、以下の説明ではエンジンと記す。トルクコンバータ3は従来知られているものと同様の構成であり、エンジンのクランクシャフトに連結されたフロントカバー4と一体のポンプインペラ5に対向してタービンランナ6が配置され、そのタービンランナ6が前後進切替機構7の入力部材に連結されている。ロックアップクラッチ2はフロントカバー4の内面とタービンランナ6との間にタービンランナ6と一体となって回転するように配置され、その正面側と背面側との圧力差でフロントカバー4の内面に押し付けられることによりフロントカバー4とタービンランナ6とを直接連結するように構成されている。また、ポンプインペラ5とタービンランナ6との間に、ステータ8が配置され、ワンウェイクラッチ9を介して固定軸10に連結されている。さらにその固定軸10の外周側に、ポンプインペラ5に連結されたオイルポンプ11が配置され、エンジンの動力によってオイルポンプ11を駆動して油圧を発生させるように構成されている。
前後進切替機構7は、トルクコンバータ3から入力されたトルクをその方向を変えずに無段変速機1に伝達する前進状態と、トルクコンバータ3から入力されたトルクをその方向を反転させて無段変速機1に伝達する後進状態とを切り替えるための機構であって、図3に示す例ではトルクコンバータ3と同一軸線上に配置されたダブルピニオン型の遊星歯車機構によって構成されている。すなわち、前述したタービンランナ6に連結されているサンギヤ12が入力部材となっており、そのサンギヤ12と同心円上に内歯歯車であるリングギヤ13が配置され、これらサンギヤ12とリングギヤ13との間に、サンギヤ12に噛み合っているピニオンギヤと、そのピニオンギヤおよびリングギヤ13に噛み合っている他のピニオンギヤとが配置され、これらのピニオンギヤがキャリヤ14によって自転かつ公転自在に保持されている。
そのサンギヤ12とキャリヤ14とを選択的に連結するクラッチ15と、リングギヤ13の回転を選択的に止めるブレーキ16とが設けられている。これらのクラッチ15およびブレーキ16は、摩擦力によってトルクを伝達する伝動機構であって、油圧によって係合させられ、油圧に応じて係合力すなわちトルク容量が変化するように構成されている。ここでクラッチ15がこの発明における伝動機構に相当しており、その構成を更に具体的に説明すると、図4に示すように、前述したオイルポンプ11のポンプカバー17に隣接して前後進切替機構7が配置されており、そのキャリヤ14にクラッチハブ18が一体に取り付けられるとともにそのクラッチハブ18の外周側を覆うようにクラッチドラム19が設けられている。
そのクラッチドラム19は、断面形状がいわゆる「コ」の字状をなしていて内周端部が前記サンギヤ12に連結され、また前記クラッチハブ18の外周面と対向する部分に摩擦板20がスプライン嵌合させられている。また、その摩擦板20と交互に配列された他の摩擦板21がクラッチハブ18の外周面にスプライン嵌合させられている。さらに、クラッチドラム19はシリンダを兼ねていて、側壁部に対向しかつ前記摩擦板20,21に対して軸線方向に前後動するピストン22がクラッチドラム19の内部に収容されている。このクラッチドラム19は前記ポンプカバー17におけるボス部23の外周部に回転自在に嵌合させられている。そして、クラッチドラム19の内部に油圧を供給する油溝24がボス部23を貫通して形成されており、その油溝24を挟んだ両側に、液密状態を維持するためのシールリング25が配置されている。これらのシールリング25は、ボス部23の外周面に形成された溝部に嵌合させられており、外周面がクラッチドラム19に摺動できるように接触する一方、油溝24の油圧によって溝部の側壁面に押し付けられることにより、液密状態を維持するように構成されている。すなわち、油溝24の油圧が高いほど、シールリング25とその溝部との間の摩擦力が大きくなって摩擦損失が増大する。なお、図4で符号26はリターンスプリングを示し、符号27はリテーナを示す。
つぎにベルト式無段変速機1について説明すると、前記キャリヤ14に連結されたプライマリプーリ28と、セカンダリプーリ29とを備え、これらのプーリ28,29にベルト30が巻き掛けられている。各プーリ28,29は、互いに対向する面がテーパ状をなす固定シーブと可動シーブとによって構成され、可動シーブを油圧によって固定シーブ側に押圧することによりベルト30を挟み付け、ベルト30とプーリ28,29との間で生じる摩擦力によってトルクを伝達するように構成されている。また各シーブの対向面がテーパ状をなしていることにより、固定シーブと可動シーブとの間隔に応じてベルト30の巻き掛け半径が大小に変化し、その巻き掛け半径に応じた変速比を設定するようになっている。図に示す例では、プライマリプーリ28における固定シーブと可動シーブとの間隔を変化させることによりベルト巻き掛け溝の幅を変化させて変速を実行し、またセカンダリプーリ29に、アクセル開度などの駆動要求量に応じた油圧を作用させて所定のベルト挟圧力すなわちトルク容量を設定するように構成されている。そして、セカンダリプーリ29から図示しない駆動輪に対して動力を出力するように構成されている。
上述したようにクラッチ15およびブレーキ16ならびに無段変速機1は油圧に応じたトルク容量となるように構成されており、その油圧を制御する装置は、図5に示すように構成されている。ここに示す例は、前述したオイルポンプ11とアキュムレータ31とを油圧源とするように構成されており、オイルポンプ11が吐出した油圧をアクセル開度などで表される駆動要求量に応じたライン圧に調圧するプライマリレギュレータバルブ32が設けられており、そのライン圧油路33に逆止弁34を介してアキュムレータ31が連通されている。プライマリレギュレータバルブ32は、調圧を行うことに伴ってドレイン油圧を生じる従来知られている構成のバルブであって、そのドレイン油圧を前述したトルクコンバータ3や各部の潤滑箇所35に供給するように構成されている。これらトルクコンバータ3や潤滑箇所35などに対する油圧の供給あるいは排出の制御を行う低圧回路36が設けられている。この低圧回路36は電気的に制御される開閉弁や切替弁などを含む公知の構成のものであってよい。
前述したプライマリプーリ28およびセカンダリプーリ29ならびにクラッチ15およびブレーキ16には、オイルポンプ11あるいはアキュムレータ31から油圧を供給し、またオイルパンなどの所定のドレイン箇所に油圧を排出するように構成されている。すなわち、アキュムレータ31とプライマリプーリ28の油圧室とが供給用バルブSLPAを介して連通されており、またアキュムレータ31とセカンダリプーリ29の油圧室とが供給用バルブSLSAを介して連通されている。これらの供給用バルブSLPA,SLSAは電気的に制御されて油路を開閉するバルブであって、非通電状態では油圧の漏洩が可及的に少ない状態で閉弁するいわゆるポペットタイプのバルブによって構成されている。また、プライマリプーリ28の油圧室には排出用バルブSLPRが連通され、またセカンダリプーリ29の油圧室には排出用バルブSLSRが連通されている。これらの排出用バルブSLPR,SLSRは、電気的に制御されて開閉し、通電されて開弁することによりそれぞれの油圧室をドレイン箇所に連通させて油圧を排出するように構成され、また非通電状態では油圧の漏洩が可及的に少ない状態で閉弁するように構成されている。したがってこれらの排出用バルブSLPR,SLSRはいわゆるポペットタイプのバルブによって構成することができる。
さらに、前述したクラッチ15は手動操作によって油路が切り替えられるマニュアルバルブ37を経由して油圧を供給し、また排出するように構成されている。このマニュアルバルブ37は、パーキング(停車)、リバース(後進)、ニュートラル(中立)、ドライブ(前進)などの各状態を選択して設定するための公知のバルブであり、このマニュアルバルブ37の入力ポートと前記アキュムレータ31とが供給用バルブSLCAを介して連通され、またその入力ポートに排出用バルブSLCRが連通されている。供給用バルブSLCAは、各プーリ28,29についての供給用バルブSLPA,SLSAと同様に、電気的に制御されて油路を開閉するバルブであって、非通電状態では油圧の漏洩が可及的に少ない状態で閉弁するいわゆるポペットタイプのバルブによって構成されている。また、排出用バルブSLCRは、各プーリ28,29についての排出用SLPR,SLSRと同様に、電気的に制御されて開閉し、通電されて開弁することによりマニュアルバルブ37の入力ポートをドレイン箇所に連通させて油圧を排出するように構成され、また非通電状態では油圧の漏洩が可及的に少ない状態で閉弁するように構成されている。したがってこれらの排出用バルブSLCRはいわゆるポペットタイプのバルブによって構成することができる。
なお、アキュムレータ31の油圧、プライマリプーリ28の油圧、セカンダリプーリ29の油圧、クラッチ15の油圧を検出して信号を出力するセンサ38,39,40,41が設けられている。上述した各バルブSLPA,SLPR,SLSA,SLSR,SLCA,SLCRの開閉、プライマリレギュレータバルブ32の調圧レベル、低圧回路による油圧の給排や調圧などの制御、およびエンジンの出力やロックアップクラッチ2の係合・解放などの制御は電気的に行うように構成されており、その制御のための電子制御装置が設けられている。その電子制御装置には、上記の各センサ38,39,40,41からの検出信号やアクセル開度、スロットル開度、車速などの信号が入力されており、それらの入力信号や予め記憶しているデータおよびプログラムによって電子制御装置で演算が行われ、その演算結果が制御指令信号として出力されるようになっている。
この発明に係る油圧制御装置は、その電子制御装置を利用してライン圧や前記クラッチ15の油圧、あるいはセカンダリプーリ29の油圧(すなわちベルト挟圧力)などを制御するように構成されている。その油圧制御の一例としてクラッチ15の油圧の制御について説明すると、クラッチ15は車両が前進走行する場合に係合させられて、エンジンが出力したトルクを無段変速機1側(出力側)に伝達するものであるから、その油圧あるいはトルク容量は、クラッチ15に掛かるトルクに応じて設定される。具体的には、車両のアクセル開度もしくはエンジンのスロットル開度に基づくエンジントルクや、トルクコンバータ3でのトルク比、さらには前後進切替機構7を構成している遊星歯車機構のギヤ比などに基づいてクラッチ15に掛かるトルクが算出される。このようにして求まるトルクもしくはトルク容量に対応する油圧が理論クラッチ圧であり、一般的にはその理論クラッチ圧に所定の安全率を加えた油圧もしくはその油圧で生じるトルク容量が、クラッチ15に掛かるトルクに応じた油圧もしくはトルク容量である。したがって、基本的な制御によるクラッチ油圧は、アクセル開度やスロットル開度などで表される駆動要求量に応じて高低に変化する。これに対して、走行中に車両もしくはエンジンが被駆動状態になるなどの所定の条件が成立した場合には、駆動要求量の低下に拘わらずにクラッチ15の油圧が維持される。
その制御の一例を図1に示すタイムチャートに基づいて説明すると、アクセルペダルが踏み込まれて所定のスロットル開度になっている駆動状態(正駆動状態)では、クラッチ15の油圧は、いわゆる基本制御により、エンジン出力もしくはスロットル開度に応じた理論クラッチ圧に所定の安全率に相当する圧力を加えた油圧に制御される。したがって、図1に示すようにスロットル開度が変化すると、それに応じてクラッチ油圧が高低に変化し、またそのクラッチ油圧に応じたトルク容量が設定され、これはクラッチ15が伝達するべきトルク(クラッチ伝達トルク)に相当する。この正駆動状態で走行しているt1 時点にアクセルペダルが戻されるとスロットル開度がほぼゼロに減少する。すなわち車両もしくはエンジンは正駆動状態から被駆動状態に切り替わり、クラッチ15には従前とは反対方向のトルク(負トルク)が作用する。この発明に係る油圧制御装置では、このようにして被駆動状態に切り替わると、クラッチ15についての供給用バルブSLCAおよび排出用バルブSLCRが共に閉じられる。すなわち、クラッチ15の油圧室に供給されている油圧を閉じ込んで、その油圧を維持する油圧維持制御が実行される。したがって、不可避的な油圧の漏洩を無視するとすれば、被駆動状態に切り替わった時点のクラッチ油圧あるいは伝達トルク容量が維持され、高い圧力の圧油が排出されることはない。
正駆動状態の後の被駆動状態では、クラッチ15の油圧が理論クラッチ圧に安全率を加えた圧力以上であれば、被駆動状態に切り替わった時点のクラッチ油圧を維持するように上記の閉じ込み制御(油圧維持制御)が実行される。閉じ込み制御の実行時におけるクラッチ15の油圧をこのように規定したのは、クラッチ15のトルク容量が不足したり、滑りが生じたりすることを防止するためである。したがって被駆動状態では、クラッチ15に掛かる負トルクに対してクラッチ油圧が相対的に高くなり、例えば前述したシールリング25での摩擦損失が大きくなる。しかしながら、これは被駆動状態で生じるものであって、アクセルペダルを戻すことによって現れている運転者の減速意志に適合する挙動であるから、特に問題となることはない。むしろ、油圧の形になっているエネルギを排出せずに保持するので、エネルギ損失の抑制およびそれに伴う燃費の向上の効果が大きくなる。
図1には被駆動状態での理論クラッチ圧、およびこれに安全率(に相当する油圧)を加えた目標圧を併記してある。前述したように理論クラッチ圧はアクセル開度あるいはスロットル開度などの駆動要求量に応じた圧力であるから、被駆動状態では図1に一点鎖線で示すように低い圧力になり、また図1に破線で示すように、これに安全率を加えた目標圧も低い圧力になる。このような低い圧力は、クラッチ15の油圧室から圧油を排出させることにより設定するので、排出される油圧によってエネルギが失われ、動力損失の要因になる。
アクセルペダルが踏み込まれてスロットル開度が増大すると(t2 時点)、クラッチ15に掛かるトルクすなわちクラッチ伝達トルクが正の方向に増大する。それに伴って理論クラッチ圧やこれに安全率を加えた目標圧が増大する。その場合、スロットル開度が先の正駆動状態でのスロットル開度より大きいと、目標圧が前述した閉じ込み制御により保持されているクラッチ油圧より高くなる。その目標圧を達成するために、供給用バルブSLCAが開かれてオイルポンプ11もしくはアキュムレータ31からクラッチ15に油圧が供給される。しかしながら、保持されているクラッチ油圧は閉じ込み制御によってある程度高くなっているので、再度の正駆動状態での目標圧との圧力差が小さく、その目標圧を達成するのに要する圧油の量あるいは動力は少ない。また、クラッチ15の油圧が閉じ込み制御によって維持されていることにより、クラッチ伝達トルクが増大する過渡時にクラッチ15のトルク容量が不足したり、クラッチ15に滑りが生じたりすることが防止もしくは抑制される。これに対して、上述した閉じ込み制御を行わずにスロットル開度に応じてクラッチ油圧を制御するとすれば、目標圧の変化幅がスロットル開度の変化幅と同程度に大きくなってしまう。そのため、被駆動状態から正駆動状態に切り替わった場合に、高い圧力の圧油を多量に供給する必要があり、動力の消費量が多くなる。また、油圧の供給に遅れが生じると、クラッチの滑りが生じる可能性が高くなる。
このように、この発明に係る油圧制御装置によれば、駆動状態から被駆動状態に切り替わってクラッチ15に掛かるトルクが低下してもクラッチ15のトルク容量を設定している油圧を排出しないので、動力の損失を抑制することができる。また、クラッチ油圧を保持している被駆動状態から駆動状態に切り替わり、それに伴ってクラッチ油圧の目標圧が高くなっても、クラッチ油圧が従前の正駆動状態における圧力もしくはそれに近い圧力に保持されているので、クラッチ油圧の昇圧に要する圧油の量あるいは動力を少なくすることができる。その結果、この発明に係る油圧制御装置によれば、総じて、動力損失や動力消費量を少なくすることができ、ひいては車両の燃費を向上させることができる。
ところで、油圧回路には不可避的な漏洩があるのが一般的であり、したがって上述した油圧制御装置においても、クラッチ15に対していわゆる油圧の閉じ込み制御を行ったとしても、時間の経過によってクラッチ油圧が次第に低下することがある。この発明においては、そのような場合、以下に説明する制御を行う。図2はその制御例を説明するためのタイムチャートであって、正駆動状態から被駆動状態に切り替わると(t11時点)、クラッチ15についての供給用および排出用の各バルブSLCA,SLCRが閉じられ、油圧のいわゆる閉じ込み制御が実行される。この状態におけるクラッチ15の油圧室の油圧は、当然、周囲より高いので、不可避的な漏れにより、クラッチ油圧が僅かずつ低下する。一方、被駆動状態であってもクラッチ15には負トルクが掛かっているので、そのトルクに基づく理論クラッチ圧に所定の安全率を加えた目標圧が定まる。クラッチ15の実際の圧力(例えば前記センサ41で得られる油圧)は、上述したように次第に低下するので、被駆動状態での目標圧に近づくことになり、そして実クラッチ圧が被駆動状態で必要とする圧力(例えば上記の目標圧)以下になることの判定が成立すると、クラッチ15に対する油圧の閉じ込み制御が解除される(t12時点)。
その判定は、予め判断基準値を設けておき、センサ41で検出した圧力がその判断基準値にまで低下したことによって行ってもよく、あるいは実クラッチ油圧の低下勾配を求め、実クラッチ油圧が前述した目標圧以下になる時点を予測することにより行ってもよい。また、いわゆる閉じ込み制御の解除によるクラッチ油圧の制御は、センサ41で検出される実クラッチ油圧と上記の目標圧との偏差に基づいて、その偏差が小さくなるように、供給用バルブSLCAあるいは排出用バルブSLCRを適宜に開閉することにより行うことができる。
このように被駆動状態においては、いわゆる油圧の閉じ込み制御を行うだけでなく、保持している油圧の低下の状況に応じてはクラッチ油圧が低下しないように制御するので、不必要な動力の消費を抑制できるとともに、クラッチなどの係合機構の油圧もしくはトルク容量の不足や係合機構での過度な滑りを防止もしくは抑制することができる。
なお、上述した具体例はクラッチ15を例に採ったものであるが、この発明は上記の具体例に限定されないのであって、前述したブレーキ16やセカンダリプーリ29などの摩擦力によってトルク伝達を行う他の係合機構の油圧を制御するように構成されていてもよい。
1…ベルト式無段変速機、 15…クラッチ、 16…ブレーキ、 28…プライマリプーリ、 29…セカンダリプーリ、 SLPA,SLSA,SLCA…供給用バルブ、 SLPR,SLSR,SLCR…排出用バルブ。

Claims (5)

  1. 油圧に応じてトルク容量が変化する伝動機構が動力源の出力側に連結され、前記油圧を前記動力源が出力するトルクに基づいて制御する車両用油圧制御装置において、
    前記伝動機構に前記動力源側からトルクが入力される駆動状態から前記伝動機構に対してその伝動機構の出力側からトルクが入力される被駆動状態に変化した場合に、前記伝動機構の油圧を、前記動力源が出力するトルクの低下に基づいて低下しないように維持する油圧維持制御を実行するように構成されていることを特徴とする車両用油圧制御装置。
  2. 前記油圧維持制御は、前記駆動状態から被駆動状態に切り替わる際の前記伝動機構の油圧が、前記伝動機構に掛かるトルクに基づいて求まる理論値と所定の安全率とに基づいて決まる油圧以上の場合に実行されるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用油圧制御装置。
  3. 前記伝動機構への油圧の供給を制御する供給用バルブと、前記伝動機構からの油圧の排出を制御する排出用バルブとを備え、
    前記油圧維持制御はこれら供給用バルブと排出用バルブとを閉じて前記伝動機構の油圧の給排を阻止する制御を含む
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の車両用油圧制御装置。
  4. 前記油圧維持制御中に、前記伝動機構の油圧が、前記被駆動状態で必要とする油圧以下になることの判定が成立した場合に、前記油圧維持制御を中止して前記伝動機構の油圧の低下を制限する昇圧制御を行うように構成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の車両用油圧制御装置。
  5. 前記被駆動状態で必要とする油圧は、前記被駆動状態で前記伝動機構に係るトルクに基づいて求まる理論圧力と該理論圧力に所定の安全率に相当する圧力を加えた油圧を含むことを特徴とする請求項4に記載の車両用油圧制御装置。
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