JP2014075566A - 耐食性希土類磁石 - Google Patents
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Abstract
【解決策】 本発明は、希土類磁石の腐食が初期段階で抑止できれば腐食が進行せず、希土類磁石に耐食性をもたらすことができるとの考えに基づき、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子の集まりを、多層構造として希土類磁石の表面に満遍なく磁気吸着させることで、希土類磁石に耐食性をもたらすことに係わる課題を根本的に解決した。
【選択図】図1
Description
例えば、R−T−B系の希土類磁石の一種で主相がNd2Fe14Bからなる所謂ネオジウム磁石では、ネオジウム元素が多く存在するNdリッチ相とホウ素元素が多く存在するBリッチ相とが粒界相として存在し主相を取り囲む。そして、このNdリッチ相の酸化反応や、水蒸気との反応により、酸化物(Nd2O3)や水酸化物(Nd(OH)3)を形成し、これらの酸化物や水酸化物の生成による体積膨張によって、主相が焼結体から剥がれ落ちる粒界破壊が起こる。主相が焼結体から脱落すると、Ndリッチ相の腐食の進行によって、脱落した主相に隣接する主相が新たに脱落し、こうした粒界破壊がどこまでも進行する。これによって、ネオジウム磁石の磁気特性は大幅に低下する。
こうした酸化物や水酸化物の生成は、多くの希土類磁石に共通する腐食の問題であって、熱間加工希土類磁石であるPr2Fe14Bにおいてもネオジウム磁石と同様の腐食現象が起こる。
また、希土類磁石の表面に燐酸塩処理やクロム酸塩処理等の化成処理を施して耐酸化性化成被膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照)や、Zn、Alの蒸着を施す、無電解Niメッキを施す方法(例えば、特許文献2参照)、希土類磁石と防錆を行う添加物とをバインダー樹脂で結合させる方法(例えば、特許文献3参照)も検討されている。
さらには、希土類磁石の表面に二酸化ケイ素保護膜やケイ酸塩保護膜を形成させる方法として、保護膜の上に樹脂の被膜を形成させる技術(例えば、特許文献4参照)や希土類磁石と保護膜とを樹脂バインダーで結合させる技術(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
特許文献1〜3に記載されたような希土類磁石を表面処理する方法では、被膜の欠陥をなくすために、被膜の膜厚を厚くする、あるいは被膜を複数回繰り返して多層状に形成させる必要があった。しかし、被膜内部の構造欠陥を完全に無くすることは難しく、希土類磁石の表面を外界の酸素ガスおよび水蒸気から完全に遮断することは困難であった。
いっぽう、希土類磁石の表面に二酸化ケイ素保護膜やケイ酸塩保護膜を形成させる方法では、希土類磁石は様々な大きさや形状を有し、希土類磁石の表面は平坦でない曲面の場合が多いため、表面に均一、緻密で強固な保護膜を形成することは困難であった。
特に特許文献4に記載された技術では、反応活性なシリルイソシアネートを用いているが、この技術では均一な膜成長をさせることが困難で、凹凸を有する膜が形成される。また、珪酸塩を希土類磁石表面の凹凸に物理吸着させるだけでは保護膜の結合力が弱く、保護膜が剥がれる恐れがある。特許文献5に記載された技術では、エチルシリケートを用いたゾル−ゲル反応またはプラズマ粒子化学蒸着法により、保護膜を形成する技術が開示されているが、均一、緻密で強固な保護膜を形成することはできない。このため、膜によって酸素ガスや水蒸気等を完全に遮断することは難しく、膜自体も剥がれやすいため、結果として希土類磁石は腐食された。
つまり、特許文献6〜特許文献10では、希土類磁石の表面に金属ないしは複数の金属を付着させ、この後、付着した金属をNdリッチ相と反応させ、希土類磁石の表面に合金相を形成させる技術が開示されている。この技術は、希土類磁石の表面に付着させた金属の熱拡散を利用する技術であり、付着させた金属がNdリッチ相に拡散することで、Ndリッチ相と反応した合金相が希土類磁石の表面に形成される。従って、金属の熱拡散現象を利用するため、金属の熱拡散係数が増大する温度まで昇温させなければならない。
いっぽう、希土類磁石は微粉砕した粉末を磁界中で成形し、これを焼結によって焼き固めて密度を増大させ、さらに、焼結で析出した粒界相が主相の周りを取り囲む結晶粒の構造とする時効処理を行い、これによって希土類磁石の保持力を高めている。前記した金属を拡散させる処理温度が時効処理温度より高くなると、希土類磁石の磁気特性に不可逆変化が起こり、磁気特性が永久に低下する問題をもたらす。また、時効処理温度より低くした場合は、金属の拡散係数が低下するため、長時間にわたって金属原子を熱拡散させる処理が必要になる。金属の熱拡散は、不要な酸化物を生成させないためアルゴンガス中で行うが、長時間の不活性ガス中での熱処理は処理費用がかさむ問題をもたらす。
また、希土類磁石は焼結によって体積が70%程度まで収縮するため、時効処理の後に機械加工によって寸法精度を確保している。しかし、このような機械加工による加工面には多くの物理的欠陥層があり、この欠陥層が脱落し易い状態にある。このため、希土類磁石の表面に耐食性をもたせるには、膜を形成させる前に希土類磁石の表面の物理的欠陥層をバレル研磨等により脱落させる必要が生じ、研磨、洗浄、乾燥からなる高価な事前処理を行っている。前記した希土類磁石の表面に合金相を形成させる方法においても、事前に物理的欠陥層を取り除いた後に合金相を形成させる。このため、さらに高価な費用をかけて合金相を形成することになる。
いっぽう、焼結後の結晶粒径の大きさは平均で5μm程度であり、表面の物理的欠陥層を取り除いた後の希土類磁石の表面は、結晶粒の大きさに近い表面粗さを有する。このため、合金相は表面粗さより充分に厚い厚みとして形成することで、耐食性を有する合金相となる。合金相は非磁性であるため、希土類磁石の表面からの漏れ磁束が大きく低減し、磁気エネルギーの損失が大きくなるという新たな問題をもたらす。
また、希土類磁石表面に形成する連続した物質からなる被膜状部材が非磁性体である場合は、第2の要件を満たすことが難しい。この第2の要件を満たすためには、前記した特許文献6〜特許文献10に開示された技術のように、多くの課題を新たにもたらすことになる。つまり、希土類磁石の表面に強固に磁気吸着する強磁性の物質で被膜状部材を形成させるには、強磁性体は酸化しにくい酸化物で構成することになる。すなわち、酸化物の強磁性体であるフェライトを連続した被膜状部材として希土類磁石の表面に形成させることになる。このため、希土類磁石の表面に付着させたフェライトの原料を焼成させることが必要になり、この焼成温度が希土類磁石の焼結温度を優に超えるため、焼結で形成した希土類磁石の結晶粒の構造と組成とが壊れてしまうため、この手段は現実性がない。
さらに、第3の要件は考えもしなかった。つまり、連続した物質からなる被膜状部材でのみ、希土類磁石の表面を水蒸気や酸素ガスから遮断できると考えたため、希土類磁石表面の物理的欠陥層を事前に脱落させることは、被膜状の部材を形成させるためには必須の事前処理となる。
さらに、希土類磁石の表面に形成する連続した物質からなる被膜状の部材が、第4および第5の要件を満たす場合は、3段落で説明したような方法しか考えられず、これらの方法では4段落で説明したように第1から第3の要件を満たすことができない。
いっぽう、希土類磁石は使用前に巨大な磁界を印加することで着磁され、これによって磁石としての性能が発揮できる。希土類磁石の着磁においては、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子の集まりにも巨大な磁界が同時に印加される。これによって、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子の磁化が著しく増大する。従って、希土類磁石の使用時においては、粒状微粒子は大きな磁気吸引力で希土類磁石表面に磁気吸着する。また、直接希土類磁石に磁気吸着しない粒状微粒子も、大きな磁気吸引力を希土類磁石から受ける。さらに、粒状微粒子同士も互いに強固に磁気吸着する。このため、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子が希土類磁石の表面から脱落することはない。つまり、全ての粒状微粒子は、極めて近い距離に存在する希土類磁石が作る大きな磁場によって吸引される。また、全ての粒状粒子は互いに磁気吸着しているため、吸引力としてのクーロン力が粒状粒子に作用する。このクーロン力は、吸着した強磁性微粒子同士の距離の2乗、正確に言えば磁気双極子同士の距離の2乗に反比例するため、粒状微粒子が微粒子であるがゆえに粒状粒子の磁化が小さくても、大きな磁気吸引力として全ての粒状粒子に作用する。
ここで、希土類磁石の使用時において、互いに磁気吸着した粒状微粒子の隙間に僅かに通気性があり、この通気性の隙間を介して水蒸気や酸素ガスが侵入し、希土類磁石の結晶粒の粒界を形成するNdリッチ相が腐食を起こして体積が膨張し始めたとする。しかし、Ndリッチ相の体積膨張は、Ndリッチ相の近傍に存在する全ての粒状微粒子に作用する希土類磁石からの磁気吸引力と、Ndリッチ相の近傍に存在する全ての粒状微粒子同士の磁気吸着力とによって抑止され、Ndリッチ相の腐食は進行しない。これによって、主相である結晶粒は脱落せず、希土類磁石の磁気特性の低下はない。
つまり、希土類磁石の腐食の問題点は、2段落で説明したように、主相である結晶粒が連続して脱落することにある。いっぽう、多層構造をなす莫大な数からなる強磁性の酸化物からなる粒状微粒子は希土類磁石から大きな磁気吸引力を受け、また、粒状微粒子同士が強固に磁気吸着している。このため、粒状微粒子が希土類磁石から受ける大きな磁気吸引力と、粒状微粒子同士の強固な磁気吸着力とが常時希土類磁石に作用している。従って、Ndリッチ相の腐食が始まり、希土類磁石の表面に僅かな体積変化が現れると、この磁気吸引力と磁気吸着力とからなる磁気力は、Ndリッチ相の僅かな体積膨張を抑止する力として作用する。つまり、粒状微粒子が、希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さいため,Ndリッチ相が粒状微粒子の大きさより小さい極僅かな体積膨張でも、粒状微粒子に作用する磁気吸引力と磁気吸着力とからなる磁気力がNdリッチ相に作用し、Ndリッチ相の体積膨張は初期段階で抑止され、Ndリッチ相の腐食は進行しない。この結果、粒状微粒子の集まりは、水蒸気や酸素ガスを完全に遮断できなくても、Ndリッチ相の腐食を初期段階で抑止し進行させない作用をもたらす。これによって希土類磁石は耐食性を持つ。
また、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子は、希土類磁石からの漏れ磁束を減衰させずに粒状粒子に伝達し、表層の粒状微粒子から空間に磁束を漏らすため、希土類磁石の表面の漏れ磁束は低減しない。さらに、粒状微粒子の全てが希土類磁石から大きな磁気吸引力を受け、また、粒状微粒子同士も強固に磁気吸着する。このため、希土類磁石の表面に物理的欠陥層が存在しても、粒状微粒子に作用する磁気吸引力と磁気吸着力とからなる磁気力で物理的欠陥層を保持する。従って、機械加工後に希土類磁石の表層に存在する物理的欠陥層を、事前に脱落させる必要がない。また、粒状微粒子は酸化物で構成するため、希土類磁石が使用される高温環境下でも水蒸気や酸素ガスなどと反応せず、長期にわたって強磁性の性質を維持する。この結果、多層構造からなる強磁性酸化物の粒状粒子の集まりは、8段落で説明した耐食性希土類磁石に必要な第1から第3の要件を満たす。
以上に説明したように、本発明に至る主要な考えは、従来における連続した物質からなる被膜状の部材では、8段落で説明した耐食性希土類磁石に必要な要件を満たすことは困難であると考えた。つまり、従来の考えは、希土類磁石の表面を水蒸気や酸素ガスを完全に遮断する考えに基づくもので、この考えでは理想的な耐食性希土類磁石の実現が困難になる。そこで、希土類磁石の腐食現象を改めて見直した。この結果、希土類磁石の表面を水蒸気や酸素ガスから完全に遮断できなくても、希土類磁石の腐食が初期段階で抑止できれば腐食が進行せず、希土類磁石は耐食性を持つ。これによって、8段落で説明した要件を満たす耐食性希土類磁石が実現できれば、理想的な耐食性希土類磁石になると考えた。この全く新たらしい考えに基づき、材質が強磁性の酸化物からなり、大きさが希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さく、形状が粒状である微粒子の集まりを、希土類磁石の表面に満遍なく磁気吸着させ多層構造を形成させる耐食性希土類磁石の構成を導いた。
さらに、微粒子の大きさが希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さく、かつ、粒状の微粒子によって多層構造を形成するため、磁気吸着した粒状微粒子が形成する隙間には、液体は表面張力によって侵入することはできない。また、粒状微粒子が安定した酸化物で構成されるため、酸性やアルカリ性の液体と反応して変質すこともない。このため、従来では考えられなかった煮沸水や煮沸した酸性あるいはアルカリ性の液体中でも長期にわたって使用できる新たな用途に希土類磁石を用いることができる。
なおマグヘマイトは、大気中の450℃以上の温度で酸化鉄(III)のα相であるヘマタイトα−Fe2O3に相転移する。ヘマタイトはフェリ磁性ではなく弱強磁性であるため、ヘマタイト微粒子同士の磁気吸着力と希土類磁石からの磁気吸引力とが低減し、希土類磁石の稼動時に表面からヘマタイト微粒子が脱落する可能性がある。しかし、ヘマタイトに相転移する温度が、ネオジウム磁石の磁気キュリー点より充分に高いため、ネオジウム磁石の使用する温度範囲でマグヘマイトがヘマタイトに相転移することはない。
すなわち、熱分解によって酸化鉄(II)FeOを生成する有機鉄化合物を溶媒に分散させ、この分散液に希土類磁石を浸漬し、この後溶媒を気化させると、希土類磁石の表面に有機鉄化合物が吸着する。この希土類磁石を大気雰囲気で熱処理する。熱処理温度が有機鉄化合物を構成する有機物の沸点を超えると、有機物と酸化鉄(II)FeOとに熱分解する。さらに熱処理温度を上げると、有機物は気化熱を奪って気化する。いっぽう酸化鉄(II)FeOは、2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応が温度上昇に伴って進む。この2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応において、酸化鉄(II)FeOを構成する2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になるためマグネタイトになる。つまり、酸化鉄(II)FeOを構成する2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になってFe2O3になり、組成式がFeO・Fe2O3のマグネタイトFe3O4になる。こうした2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応が希土類磁石の表面で進行するため、マグネタイトFe3O4は希土類磁石の表面に、大きさが希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さく、形状が粒状である微粒子として磁気吸着する。つまり、熱分解によって酸化鉄(II)FeOを生成する有機鉄化合物は、溶媒に対する分散度が低く、また、酸化鉄(II)FeOがマグネタイトに酸化する温度が低い。このため、マグネタイト微粒子は、希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さく、粒径が10nm以上で100nm未満の粒状の微粒子として析出する。なお、希土類磁石の結晶粒の平均粒径は約5μmで、大きさは1μmから10μmに及ぶ。
さらに昇温すると、マグネタイトFeO・Fe2O3を構成するFeOにおける2価の鉄イオンFe2+の全てが3価の鉄イオンFe3+になって酸化鉄(III)Fe2O3を形成する。この酸化鉄(III)Fe2O3は、マグネタイトFe3O4と同様の立方晶系の結晶構造をとるため、酸化鉄(III)Fe2O3はγ相のマグヘマイトγ−Fe2O3になる。こうしたマグネタイトFeO・Fe2O3における2価の鉄イオンFe2+が3価の鉄イオンFe3+になる酸化反応が完了すると、希土類磁石の表面にマグヘマイトγ−Fe2O3が、大きさが希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さく、形状が粒状である微粒子として磁気吸着する。
以上に説明したように、希土類磁石を有機鉄化合物の分散液に浸漬し、この後、大気中で熱処理するだけでマグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状微粒子が、大きさが希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さく、形状が粒状である微粒子として希土類磁石の表面に磁気吸着する。このため、これらの処理において希土類磁石には機械的応力がかからない。従って、希土類磁石の表面に物理的欠陥層があったとしても、前記の処理において物理的欠陥層が脱落することはなく、マグネタイトないしはマグヘマイトからなる粒状の微粒子が希土類磁石の表面に磁気吸着して物理的欠陥層を保持する。これによって、従来に比べると格段に安価な手段で、希土類磁石の表面に耐食性を持たせることができる。
なお、有機鉄化合物の熱分解で生成されるマグネタイトないしはマグヘマイトは、酸化鉄(II)の酸化によって生成されるため、針状粒子ではなく粒状粒子として析出する。いっぽう、従来技術においては、マグネタイトないしはマグヘマイトは針状粒子として生成される。つまり、硫酸第一鉄ないしは硫酸第二鉄のアルカリ性の水溶液に大気を送って反応させると、針状粒子であるゲータイトと呼ばれる水酸化鉄(III)α−FeOOHが析出する。このゲータイトを、水素ガスの雰囲気で一度脱水させてヘマタイトα−Fe2O3とし、さらに、還元して針状のマグネタイトFe3O4粒子を生成する。この後、針状のマグネタイト粒子を大気中でゆっくりと加熱酸化させると、針状のマグヘマイト粒子が生成される。針状のマグネタイト粒子ないしはマグヘマイト粒子は、粒子の幅に対する長さの比率であるアスペクト比が大きいため、多層構造からなる針状微粒子が形成する隙間は、通気性を持ちやすくなる。このため、希土類磁石の表面に耐食性を持たせる用途に対しては、針状微粒子は粒状微粒子より劣る。更に針状微粒子を析出する製造工程は、有機鉄化合物の熱処理だけで粒状微粒子を析出する製造工程に比べ、より多くの複雑な製造工程が必要になるため製造費用が高くなる。
前記したカルボン酸鉄ないしはアセチルアセトン鉄は、汎用的なカルボン酸ないしは汎用的な有機物と鉄との化合物であるため、合成が簡単で安価な工業用薬品である。安価な工業用薬品を表層に物理的欠陥層を有する希土類磁石に吸着させ、この希土類磁石を大気中で熱処理するだけで、希土類磁石に耐食性を持たせることができるため、従来に比べて格段に安価な製造費用で新たな耐食性希土類磁石が製造できる。
すなわち、第1の製造工程は、有機鉄化合物を容器に充填し、これに有機溶媒を加えて撹拌するだけの工程である。これによって、有機鉄化合物が有機溶媒に分散された分散液が作成できる。第2の製造工程は、容器に希土類磁石の集まりを浸漬するだけの工程である。これによって、希土類磁石に有機鉄化合物の分散液が接触する。第3の製造工程は、容器の温度を有機溶媒の沸点まで昇温するだけの工程である。これによって、全ての希土類磁石の表面に有機鉄化合物が吸着する。第4の製造工程は、大気雰囲気において、容器の温度を、有機鉄化合物の熱分解で生成された酸化鉄(II)が強磁性の酸化物に酸化される温度まで昇温するだけの工程である。これによって、容器内にある全ての希土類磁石の表面に強磁性の酸化物からなる粒状微粒子が多層構造として満遍なく磁気吸着する。
なお、耐食性希土類磁石の製造にあたっては、時効処理の後に機械加工を行った希土類磁石を用いる。第2工程から第4工程に至るまで、希土類磁石に機械的な応力は一切かからないため、希土類磁石の表面に形成された物理的欠陥層が脱落することはない。また、熱処理後の希土類磁石の表面には、多層構造からなる強磁性の酸化物からなる粒状微粒子が磁気吸着して物理的欠陥層を磁気吸引力で支持するため、熱処理後の希土類磁石の取り扱いが容易になる。さらに、希土類磁石が使用される前に、希土類磁石に巨大な磁界を印加させて着磁させるが、この際、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子にも巨大な磁界が印加される。これによって、粒状微粒子の磁化が著しく増大する。このため、粒状微粒子は強力な磁気吸引力を希土類磁石から受け、また、粒状微粒子同士が強固に磁気吸着するため、この磁気吸引力と磁気吸着力とによって物理的欠陥層が支持される。このため、希土類磁石が高速で回転する際にも物理的欠陥層は脱落しない。また、希土類磁石の回転時には、粒状微粒子は回転の接線方向に慣性力を受ける。しかし、希土類磁石からの磁気吸引力と粒状微粒子同士の磁気吸着力とは、回転する希土類磁石の慣性力に比べて大きいため、希土類磁石が高速で回転しても、粒状微粒子が希土類磁石から脱落することはない。
次に、図1に示した熱処理を連続して行う。最初に、容器は120℃に設定された低温焼成室Aに一定時間入り、n−ブタノールが気化し、気化したn−ブタノールは回収機Cで回収する。これによって、有機鉄化合物が希土類磁石の表面に吸着する。さらに、容器は高温焼成室Bに入る。高温焼成室Bは、相対的に低い温度に設定される低温焼成部B1と、相対的に高い温度に設定される高温焼成部B2とからなる。低温焼成部B1は、有機鉄化合物を構成する有機物の沸点より若干高い温度まで昇温され、この後一定時間この温度に保持される。容器が低温焼成部B1に入ると、希土類磁石の表面に吸着した有機鉄化合物が有機物と酸化鉄(II)とに熱分解する。これによって、希土類磁石の表面に酸化鉄(II)が析出する。熱分解で生成された有機物は気化し、有機物回収機Dによって回収される。高温焼成部B2は、酸化鉄(II)が強磁性の酸化物に酸化される温度まで昇温され、この後一定時間この温度に保持される。高温焼成部B2に容器が入ると、酸化鉄(II)が強磁性の酸化物に酸化され、これによって、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子が希土類磁石の表面に満遍なく磁気吸着する。最後に、フックから希土類磁石の集まりを外す。
以上に説明したように、強磁性の酸化物からなる粒状微粒子が多層構造として表面に磁気吸着した希土類磁石の集まりを製造する製造方法は、有機鉄化合物のn−ブタノール分散液に希土類磁石の集まりを浸漬させる工程と、この希土類磁石の集まりを大気雰囲気で熱処理する工程とを連続して行う。また、熱処理する工程は3つの連続した熱処理工程からなる。こうした簡単な連続処理で耐食性希土類磁石を製造するため、従来の製造方法に比べて極めて安価な製造費用で耐食性希土類磁石が製造できる。
図2に、希土類磁石の表面に、マグネタイトの粒状微粒子が多層構造として磁気吸着した希土類磁石の集まりを製造する製造工程を示す。最初に、ナフテン酸鉄(II)と希土類磁石の集まりを用意する(S10工程)。なお、希土類磁石は主相がNd2Fe14Bからなるネオジウム磁石を用いる。ネオジウム磁石には、ネオジウム磁石を引っ掛ける貫通孔を一箇所予め設ける。次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し10重量%の割合になるように秤量し、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成し、この分散液を容器に充填する(S11工程)。さらに、ネオジウム磁石をフックに引っ掛け、このフックを分散液に浸漬させる。なお、ネオジウム磁石を一度容器の底と接触させ、フックとネオジウム磁石との接触を解除した後に、再度ネオジウム磁石をフックに引っ掛けて分散液に浸漬させる。これによって、ネオジウム磁石とフックとの接触部にもナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液が接触する(S12工程)。次に、分散液が入った容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れる。最初に容器は120℃の低温焼成室Aに5分間入り、n−ブタノールが気化し、気化したn−ブタノールを回収機Cで回収する(S13工程)。これによって、全てのネオジウム磁石の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に容器は高温焼成室Bに入り、2段階の焼成が行われる。低温焼成部B1は10℃/min.の昇温速度で300℃まで昇温され、300℃に10分間保持される。低温焼成室B1に入ったネオジウム磁石は、表面に吸着したナフテン酸鉄(II)がナフテン酸と酸化鉄(II)に熱分解し、酸化鉄(II)が希土類磁石の表面に析出する。熱分解によって生成されたナフテン酸は完全に気化し、気化したナフテン酸は回収機Dで回収される(S14工程)。この後、容器は高温焼成部B2に入る。高温焼成部B2は300℃から1℃/min.の昇温速度で350℃まで昇温され、350℃に30分間保持される。高温焼成部B2に入ったネオジウム磁石は、表面に析出した酸化鉄(II)FeOがマグネタイトFe3O4に酸化され、生成されたマグネタイトFe3O4の粒状微粒子は、ネオジウム磁石の表面に多層構造として磁気吸着する(S15工程)。こうして全てのネオジウム磁石の表面は、マグネタイトの粒状微粒子によって満遍なく覆われる。最後に、フックからネオジウム磁石の集まりを外し、ネオジウム磁石を取り出す(S16工程)。
最初に、ナフテン酸鉄(II)とネオジウム磁石の集まりを用意する(S10工程に相当)。次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し10重量%の割合になるように秤量し、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成し、この分散液を非磁性の容器に充填する(S11工程に相当)。さらに、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液に、ネオジウム磁石の集まりを互いに離間させて浸漬する(S12工程に相当)。なお、ネオジウム磁石は実施形態2と同様に、ネオジウム磁石に設けた貫通孔をフックに引っ掛け、このフックを分散液に浸漬することで、ネオジウム磁石の集まりを互いに離間させて浸漬させる。次に、分散液が入った容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れる。最初に容器は120℃の低温焼成室Aに5分間入り、n−ブタノールが気化し、気化したn−ブタノールを回収機Cで回収する(S13工程に相当)。これによって、全てのネオジウム磁石の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に容器は高温焼成室Bに入る。低温焼成部B1は10℃/min.の昇温速度で300℃まで昇温され、300℃に10分間保持される。低温焼成室B1に入ったネオジウム磁石は、表面に吸着したナフテン酸鉄(II)がナフテン酸と酸化鉄(II)に熱分解し、生成された酸化鉄(II)が表面に析出する。熱分解によって生成されたナフテン酸は完全に気化し、気化したナフテン酸は回収機Dで回収される(S14工程に相当)。この後、容器は高温焼成部B2に入る。高温焼成部B2は300℃から1℃/min.の昇温速度で400℃まで昇温され、400℃に30分間保持される。高温焼成部B2に入ったネオジウム磁石は、表面に析出した酸化鉄(II)FeOがマグヘマイトγ−Fe2O3に酸化され、マグヘマイトγ−Fe2O3からなる粒状微粒子が、ネオジウム磁石の表面に多層構造として磁気吸着する(S15工程に相当)。こうして全てのネオジウム磁石の表面は、マグヘマイトの粒状微粒子によって満遍なく覆われる。最後に、フックからネオジウム磁石を取り出す(S16工程に相当)。
最初に、原料となるナフテン酸鉄(II)と溶媒のn−ブタノールとネオジウム磁石を用意する。ナフテン酸鉄(II)は、金属石鹸として市販されているナフテン酸鉄(II)(例えば、東栄化工株式会社の製品)を用いた。n−ブタノールは試薬一級品を用いた。ネオジウム磁石は信越化学工業株式会社の製品を用い、成形時の圧縮方向と時効処理時の磁界の印加方向が直角となる直角磁場プレスタイプで、最大エネルギー積が50MGOeの特性を持ち、形状が角状タイプのN52を用いた。このネオジウム磁石の表面の無電解Niメッキを研磨によって剥がした後に、10mm×10mmの大きさに切り出し、加工後の表層の物理的欠陥層を残存したものを試料として用いた。
次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し10重量%の割合になるように秤量し、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を非磁性の容器に充填し、ネオジウム磁石からなる前記の試料を分散液に浸漬した。
さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れて熱処理を行なった。最初に容器を120℃に5分間放置してn−ブタノールを気化させた。n−ブタノールが気化した後は、ネオジウム磁石の試料の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に、10℃/min.の昇温速度で120℃から300℃まで昇温し、さらに300℃に10分間放置して、ナフテン酸鉄(II)をナフテン酸と酸化鉄(II)FeOに熱分解した。この後、300℃から1℃/min.の昇温速度で350℃まで昇温し、さらに350℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOを酸化させた。最後に、ネオジウム磁石の試料を容器から取り出した。
次に、前記した条件で製作した試料について観察と分析を行ない、目的とするマグネタイト微粒子が確実にネオジウム磁石の表面に満遍なく磁気吸着されているかを電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社の極低加速電圧SEMを用いた。この装置は100Vからの極低加速電圧による表面観察が可能で、さらに導電性の被膜を形成せずに直接試料の表面が観察できる特徴を有する装置である。反射電子線の900V〜1kVの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面と側面の凹凸を観察した。40nm〜60nmの大きさからなる粒状の微粒子が、試料の表面全体に10層前後の層状構造なして満遍なく吸着していることが確認できた。次に、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、試料表面に吸着した粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。鉄原子、酸素原子の双方が表面に均一に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかったため、酸化鉄からなる粒状微粒子が吸着していることが確認できた。さらに極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、酸化鉄の結晶構造の解析を行なった。この結果から、試料の表面全体に吸着した粒状微粒子がマグネタイトFe3O4であることが確認できた。なおEBSP解析機能とは、試料に電子線を照射したとき、反射電子が試料中の原子面によって回折されることによってバンド状のパターンを形成し、このバンドの対称性が結晶系に対応し、バンドの間隔が原子面間隔に対応しているため、このパターンを解析することで、結晶方位や結晶系を解析する機能をいう。
次に、前記した条件で製作した試料について、磁気特性を測定した。測定装置は、東英工業株式会社のパルス励磁型磁気特性測定装置を用い、B−H減磁曲線から最大エネルギー積を求めた。最大エネルギー積は、マグネタイトからなる粒状微粒子を磁気吸着させる前とほぼ同様の50MGOeの値を持った。この結果から、ネオジウム磁石の表面に磁気吸着したマグネタイトからなる多層構造が、ネオジウム磁石の表面からの漏れ磁束を低減させないことが確認できた。
さらに、試料について表1に示す各種試験を行い、マグネタイトからなる粒状微粒子の多層構造の耐食性に係わる性能を評価した。いずれの試験においても、試験後の試料の表面に変色が認められなかった。また、各々の試験後における試料の表面を洗浄して乾燥した後に磁気特性を測定した。B−H減磁曲線から求めた最大エネルギー積は、試験前とほぼ同様の50MGOeの値を持った。これらの結果から、ナフテン酸鉄(II)の熱分解で生成したマグネタイトからなる粒状微粒子の多層構造は、ネオジウム磁石に対して耐食性をもたらすことが確認できた。
温湿度サイクル試験は、結露状態で希土類磁石を使用される場合を想定した試験で、試料を湿度85%R.H.Hの条件下で、25℃から85℃に0.25時間で昇温し、85℃に6時間保持した後、−30℃まで0.5時間で冷却して、−30℃に3時間保持し、さらに25℃まで0.25時間で昇温して、25℃で2時間保持するという温湿度サイクルの環境下に晒す試験で、強磁性の粒状微粒子からなる多層構造に係わる結露水の遮断性能を評価するものである。
沸騰試験は、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に浸漬されて使用されるような場合を想定した試験で、強磁性の粒状微粒子からなる多層構造に係わる水蒸気の遮断性能を評価するものである。また、プレッシャークッカー試験は、強磁性の粒状微粒子からなる多層構造に係わる高圧水蒸気の遮断性能を評価するものであり、高温高湿状態における水蒸気の遮断性能を加速して試験を行うものである。
塩水浸漬試験は、強磁性の粒状微粒子からなる多層構造に係わる塩水の遮断性能と耐腐食性を評価するものである。加圧酸素LLC溶液浸漬試験は、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に浸漬されて使用され、冷却水中の不凍液(LLC溶液)が酸化されている場合を想定した試験である。LLC溶液に2気圧の酸素ガスを強制的に送り込み、100℃以上で一定時間処理することにより、強制的にLLC溶液を酸化させたLLC溶液に対する強磁性微粒子からなる多層構造に係わる遮断性能と腐食性を評価するものである。
最初に、前記した実施例1と同様に、原料となるナフテン酸鉄(II)と溶媒のn−ブタノールとネオジウム磁石からなる試料を用意する。
次に、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに対し10重量%の割合になるように秤量し、ナフテン酸鉄(II)をn−ブタノールに混合して撹拌し、ナフテン酸鉄(II)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を非磁性の容器に充填し、試料を分散液に浸漬した。
さらに、容器を120℃に5分間放置してn−ブタノールを気化させた。n−ブタノールが気化した後は、試料の表面にナフテン酸鉄(II)が吸着する。次に、10℃/min.の昇温速度で120℃から300℃まで昇温し、さらに300℃に10分間放置して、ナフテン酸鉄(II)をナフテン酸と酸化鉄(II)FeOに熱分解した。この後、300℃から1℃/min.の昇温速度で400℃まで昇温し、さらに400℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOを酸化させた。この後、試料を取り出した。
次に、前記した条件で製作した試料について実施例1と同様の観察と分析とを行ない、目的とするマグヘマイト微粒子が確実に試料の表面に満遍なく磁気吸着されているかを確認した。電子顕微鏡の反射電子線の900V〜1kVの間にある2次電子線を取り出して画像処理を行い、試料の表面と側面の凹凸を観察した。40nm〜60nmの大きさからなる粒状の微粒子が、試料の表面全体に10層前後の層状構造なして満遍なく吸着していることが確認できた。次に、特性X線のエネルギーとその強度を画像処理し、試料表面に吸着した粒状微粒子を構成する元素の種類とその分布状態を分析した。鉄原子、酸素原子の双方が表面に均一に存在し、特段に偏在する箇所が見られなかったため、酸化鉄からなる粒状微粒子が吸着していることが確認できた。さらに極低加速電圧SEMの機能にEBSP解析機能を付加し、結晶方位と結晶構造の解析を行なった。この結果から、試料の表面全体に吸着した粒状微粒子がマグヘマイトγ−Fe2O3であることが確認できた。
次に、前記した条件で製作した試料について、実施例1と同様に磁気特性を測定した。B−H減磁曲線から求めた最大エネルギー積は、マグヘマイトを磁気吸着させる前とほぼ同様の50MGOeの値を持った。この結果から、ネオジウム磁石の表面に磁気吸着したマグヘマイトが、ネオジウム磁石の表面からの漏れ磁束を低減させないことが確認できた。
さらに、前記した試料について、実施例1と同様に表1に示す各種の試験を行い、マグヘマイトからなる粒状微粒子の多層構造が有する耐食性に係わる性能を評価した。いずれの試験においても、試験後の試料の表面には変色が認められなかった。また、試験後における試料のB−H減磁曲線から求めた最大エネルギー積は、試験前とほぼ同様の50MGOeの値を持った。これらの結果から、ナフテン酸鉄(II)の熱分解で生成したマグヘマイトからなる多層構造は、ネオジウム磁石に対して耐食性をもたらすことが確認できた。
次に、アセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに対し10重量%の割合になるように秤量し、このアセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに混合して撹拌し、アセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を非磁性の容器に充填し、この容器にネオジウム磁石の試料を浸漬させた。
さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れて熱処理を行なった。最初に容器を120℃に5分間放置してn−ブタノールを気化させ、試料の表面にアセチルアセトン鉄(III)を吸着させた。次に、10℃/min.の昇温速度で120℃から330℃まで昇温し、330℃に10分間放置して、アセチルアセトン鉄(III)をアセチルアセトンと酸化鉄(II)FeOに熱分解した。この後330℃から1℃/min.の昇温速度で350℃まで昇温し、350℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOを酸化させた。この後、試料を取り出した。
次に、前記した条件で製作した試料について、26段落で説明した観察と分析とを同様に行ない、試料の表面に40nm〜60nmの大きさからなるマグネタイトからなる粒状微粒子が10層前後を形成して磁気吸着している事実を確認した。この結果から、前記で説明した条件でアセチルアセトン鉄(III)を大気中で熱処理することで、試料の表面にマグネタイトの粒状微粒子が多層構造をなして満遍なく磁気吸着することが確認できた。
さらに、前記した条件で製作した試料について、26段落で説明した表1に示す各種試験を行った。いずれの試験においても、試験後の試料の表面に変色は認められず、試験前後の磁気特性に変化が認められなかった。これらの試験結果から、アセチルアセトン鉄(III)の熱分解で生成したマグネタイトの粒状微粒子からなる多層構造は、ネオジウム磁石に対して耐食性をもたらすことが確認できた。
次に、アセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに対し10重量%の割合になるように秤量し、このアセチルアセトン鉄(III)をn−ブタノールに混合して撹拌し、アセチルアセトン鉄(III)のn−ブタノール分散液を作成した。この分散液を非磁性の容器に充填し、この容器に試料を浸漬させた。
さらに、容器を大気雰囲気の熱処理炉に入れて熱処理を行なった。最初に容器を120℃に5分間放置してn−ブタノールを気化させ、試料の表面にアセチルアセトン鉄(III)を吸着させた。次に、10℃/min.の昇温速度で120℃から330℃まで昇温し、330℃に10分間放置して、アセチルアセトン鉄(III)をアセチルアセトンと酸化鉄(II)FeOに熱分解した。この後、330℃から1℃/min.の昇温速度で430℃まで昇温し、430℃に30分間放置して、熱分解で生成された酸化鉄(II)FeOを酸化させた。この後、試料を取り出した。
次に、前記した条件で製作した試料について、29段落と同様の観察と分析とを行ない、試料の表面に40nm〜60nmの大きさからなるマグヘマイトの粒状微粒子が10層前後を形成して磁気吸着している事実を確認した。これらの結果から、前記した条件でアセチルアセトン鉄(III)を大気中で熱処理することで、試料の表面にマグヘマイトからなる粒状微粒子が多層構造をなして磁気吸着することが確認できた。
さらに、前記した条件で製作した試料について、29段落で説明した表1に示す各種試験を行った。いずれの試験においても、試験後の試料の表面に変色は認められず、試験前後の磁気特性に変化が認められなかった。これらの試験結果から、アセチルアセトン鉄(III)の熱分解で生成したマグヘマイトの粒状微粒子からなる多層構造は、ネオジウム磁石に対して耐食性をもたらすことが確認できた。
Claims (6)
- 腐食を防ぐ部材を希土類磁石の表面に形成することで該希土類磁石に耐食性をもたらす耐食性希土類磁石について、材質が強磁性の性質を持つ酸化物で、大きさが希土類磁石の結晶粒の大きさより2桁小さく、形状が粒状である微粒子から構成される該微粒子の集まりを、前記希土類磁石の表面に満遍なく磁気吸着させ、前記微粒子の集まりが前記希土類磁石の表面に多層構造を形成することによって、前記微粒子の集まりが前記希土類磁石に耐食性をもたらすことを特徴とする耐食性希土類磁石。
- 請求項1における微粒子は、マグネタイトないしはマグヘマイトのいずれかの材質で構成することを特徴とする請求項1に記載した耐食性希土類磁石。
- 熱分解によって酸化鉄(II)を生成する有機鉄化合物を希土類磁石に吸着させ、該希土類磁石を大気中で熱処理し、前記有機鉄化合物の熱分解によって酸化鉄(II)を前記希土類磁石の表面に析出させ、さらに昇温して、前記酸化鉄(II)をマグネタイトないしはマグヘマイトに酸化させ、前記希土類磁石に前記マグネタイトないしは前記マグヘマイトのいずれかを磁気吸着させ、これによって、請求項2におけるマグネタイトないしはマグヘマイトのいずれかの材質からなる微粒子を、大きさが希土類磁石の結晶粒の大きさより2裄小さく、形状が粒状である微粒子で構成することを特徴とする請求項2に記載した耐食性希土類磁石。
- 請求項3における熱分解によって酸化鉄(II)を生成する有機鉄化合物は、鉄イオンが酸素イオンと配位結合する有機鉄化合物で構成することを特徴とする請求項3に記載した耐食性希土類磁石。
- 請求項4における鉄イオンが酸素イオンと配位結合する有機鉄化合物は、酢酸鉄、安息香酸鉄、カプリル酸鉄、ナフテン酸鉄のうちのいずれかのカルボン酸鉄ないしはアセチルアセトン鉄からなる有機鉄化合物で構成することを特徴とする請求項4に記載した耐食性希土類磁石。
- 請求項1から請求項4のいずれの請求項に係わる強磁性の酸化物からなる粒状微粒子を多層構造として希土類磁石の表面に満遍なく磁気吸着させる製造方法は、有機鉄化合物を有機溶媒に分散させて分散液を作成する第1の製造工程と、前記有機鉄化合物の分散液に希土類磁石の集まりを浸漬して該希土類磁石の表面に前記有機鉄化合物の分散液を接触させる第2の製造工程と、前記分散液を昇温して前記有機溶媒を気化させて前記有機鉄化合物を前記希土類磁石に吸着させる第3の製造工程と、前記希土類磁石の集まりを大気中で熱処理する第4の製造工程とからなる4つの製造工程によって、強磁性の酸化物からなる微粒子を多層構造として前記希土類磁石の集まりからなる希土類磁石の表面に満遍なく磁気吸着させる製造方法であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれの請求項に係わる強磁性の酸化物からなる粒状微粒子を多層構造として希土類磁石の表面に満遍なく磁気吸着させる製造方法。
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