JP2008004907A - 耐食性磁石及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】希土類磁石において、腐食され難い耐食性磁石及びその製造方法を提供する。
【解決手段】希土類磁石の表面に、M−O結合(但し、Mは金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種を示す)による架橋構造を有する被膜1を設けてある。
【選択図】図1

Description

本発明は、希土類磁石の腐食を防止する耐食性磁石及びその製造方法に関する。
希土類磁石は、一般にRe-B-Fe系またはRe-Tm-B系(Reは希土類金属から選ばれた1種であり、Tmは遷移金属から選ばれた1種であることを示す)で表され、従来の合金磁石やフェライト磁石を上回る磁気特性を有することが知られている。
しかし、希土類磁石は活性な金属材料から形成されるため錆びやすく、特に磁気特性を向上させるためには、主相だけでなく粒界相に多くの希土類金属や遷移金属が必要となる。このため希土類磁石において、腐食は避けられない問題となっていた。
例えば、Re-B-Fe系の希土類磁石の1種である主相がNd2Fe14Bからなる所謂ネオジウム磁石では、ネオジウムが多く存在するNd-Feの合金相が粒界相として形成されている。このため、この粒界相が酸素や水蒸気と反応すると、酸化物(Nd2O3)や水酸化物(Nd(OH)3)が形成され、この酸化物や水酸化物の生成によって粒界相の体積が膨張して粒界破壊が起こり、粒界相への酸素や水蒸気の供給が継続することで粒界破壊が継続して起こっていた。また、主相の表面においては、酸素及び水蒸気の存在によりFe2O3・H2Oの水和物が形成され、この主相表面の化学変化によって磁石の磁気特性が低下するという問題があった。このような問題は希土類磁石に共通する問題であり、Re-Tm-B系の熱間加工希土類磁石のPr2Fe14Bにおいてもネオジウム磁石と同様な腐食現象が起こることが知られている。
上記の問題に対しては、希土類磁石の表面に燐酸塩処理やクロム酸塩処理等の化成処理を施して耐酸化性化成被膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、Zn、Alを蒸着させる方法や無電解Niメッキを施す方法(例えば、特許文献2参照)、希土類磁石と防錆を行う添加物とをバインダー樹脂で結合させる方法(例えば、特許文献3参照)等が知られている。
また、希土類磁石の表面に二酸化ケイ素保護膜やケイ酸塩保護膜を形成させる方法として、保護膜の上に樹脂の被膜を形成させる技術(例えば、特許文献4参照)や希土類磁石と保護膜とを樹脂バインダーで結合させる技術(例えば、特許文献5参照)も検討されている。
さらには、希土類磁石の表面に電子線を照射し、希土類磁石の表面を構成する物質を昇華させ、希土類磁石の表面の組成を、希土類磁石を構成する複数種類の元素のうち少なくとも1種類の元素を含むアモルファス相等の不活性相に変え、その表面の物質を改質することで不活化すること(例えば、特許文献6参照)が提案されている。このような希土類磁石は、表面の不活性相により磁石の活性相を外界の酸素や水蒸気等と遮断することができるため、希土類磁石が腐食されることを防止することができる。そして、不活性相は、希土類磁石を構成する複数種類の元素のうち少なくとも1種類を含んでいるため磁石表面と直接反応して合金相を生成し、これによって不活性相と希土類磁石との結合強度が高まり、その結果、不活性相が希土類磁石の表面から剥がれ難くすることができる。
特開昭64−14902号公報 特開昭64−15301号公報 特開平1−147806号公報 特開昭62−152107号公報 特開平8−111306号公報 特開2006−49801号公報
前記従来の特許文献1〜3に記載された希土類磁石を表面処理する方法では、被膜の欠陥をなくすために、被膜の膜厚を厚くしたり、被膜を複数回繰り返して多層状に形成させたりしていた。しかし、被膜の欠陥を完全に無くすることは難しく、希土類磁石の表面を外界の酸素及び水蒸気から完全に遮断することは困難であった。このため、希土類磁石は腐食されていた。
希土類磁石の表面に二酸化ケイ素保護膜やケイ酸塩保護膜を形成させる方法では、希土類磁石は様々な大きさや形状を有し、希土類磁石の表面は平坦でない場合も多いため、表面に均一、緻密で強固な保護膜を形成することは困難であった。
特に特許文献4に記載された技術では、反応活性なシリルイソシアネートを用いているが、この技術では均一な膜成長をさせることが困難であり、凹凸を有する膜が形成され易かった。また、珪酸塩を希土類磁石表面の凹凸に物理吸着させるだけでは結合力が弱く、強固な膜を形成させることができなかった。特許文献5に記載された技術では、エチルシリケートを用いたゾル−ゲル反応またはプラズマ粒子化学蒸着法により、保護膜を形成する技術が開示されているが、均一、緻密で強固な保護膜を形成することはできなかった。
また、希土類磁石とは焼結によって作製されるものであるが、一般に、焼結した磁石は、焼結後の寸法精度が悪いため機械加工が必須となっており、希土類磁石においても機械加工を行っていた。そして、この機械加工によって、希土類磁石の加工面には結晶粒の欠陥が生じ、結晶粒が脱粒し易くなっていた。このため、希土類磁石の表面に耐食性の被膜を形成させる場合には、被膜を形成させる前に、脱粒する可能性がある結晶粒をバレル研磨等により脱落させる必要があり、研磨、洗浄、膜形成という複雑な工程を経ていた。この場合、希土類磁石の表面は、研磨時、研磨後でも腐食される可能性があるため、研磨以降の工程は、腐食しない環境下で処理しなければならなかった。また、希土類磁石に機械加工時の応力が残っている場合があり、このような状態で被膜を形成すると被膜が剥がれ易くなるため、被膜を形成させる前にアニーリング等により残留応力を除去する必要があった。さらに、希土類磁石の表面が腐食している場合には腐食層を除去する工程も必要であった。
したがって、希土類磁石に耐食性の被膜を形成させる場合には、耐食性を付与するために要する加工コストが高くなるという問題があった。
特許文献6に記載された希土類磁石の表面の組成を、希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素を含む不活性相に変える技術は、結晶粒等の物理的な欠陥を除去することなく物理的な欠陥層を含めて不活性相に変える技術であり、この不活性相によって、希土類磁石が酸素や水蒸気、薬品等により腐食されることを防止することができるため、安価な耐食性磁石として様々な用途に展開することが期待されている。しかし、希土類磁石は、その優れた磁気特性からさらに幅広い用途への適用が期待されており、各用途に応じたより高い耐食性が求められるようになってきた。
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、希土類磁石において、腐食され難い耐食性磁石及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するための本発明に係る耐食性磁石の第1特徴構成は、希土類磁石の表面に、M−O結合(但し、Mは金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種を示す)による架橋構造を有する被膜を設けてある点にある。
つまり、この構成によれば、M−O結合による架橋構造を有する被膜は耐ガス透過性、耐水蒸気透過性、耐薬品性等の耐食性を有するため、このような被膜を希土類磁石の表面に設けることにより、希土類磁石の活性相を酸素や水蒸気等から遮断して希土類磁石を腐食され難くすることができる。
なお、本発明において希土類磁石とは、大きさ、形状を問わず、磁性粉等を含むものである。
本発明に係る耐食性磁石の第2特徴構成は、前記M−O結合は、Si−O結合、Ti−O結合、Fe−O結合から選ばれる少なくとも1種の結合である点にある。
つまり、この構成によれば、Si−O結合、Ti−O結合、Fe−O結合から選ばれる少なくとも1種の結合よる架橋構造を有する被膜は、特に耐食性に優れるため、耐食性がより良好な耐食性磁石とすることができる。
本発明に係る耐食性磁石の第3特徴構成は、前記M−O結合はFe−O結合を含み、前記被膜の表層にマグネタイト相及びマグヘマイト相のうち少なくともいずれか一方の相を備える点にある。
つまり、この構成によれば、被膜の少なくとも表層に化学的により安定なマグネタイト相及びマグヘマイト相のうち少なくともいずれか一方の相を備えているため、耐食性を向上させることができる。
本発明に係る耐食性磁石の第4特徴構成は、前記被膜は複素環基を有する点にある。
つまり、この構成によれば、複素環基を被膜に設けることで、複素環基のヘテロ原子が有する非共有電子対が希土類磁石と配位結合することや、ファンデルワールス力により、被膜と希土類磁石との結合強度が高まり、被膜が希土類磁石の表面から剥がれ難くすることができる。
本発明に係る耐食性磁石の第5特徴構成は、前記複素環基はイミダゾール基である点にある。
つまり、この構成によれば、複素環基としてイミダゾール基を適用することにより、被膜と希土類磁石との結合をより強固にすることができる。
本発明に係る耐食性磁石の第6特徴構成は、前記希土類磁石は、表面に当該希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素を含む不活性相を備える点にある。
つまり、この構成によれば、希土類磁石の表面に不活性相を備えるため、希土類磁石の耐食性を向上させて、より腐食され難くすることができる。
本発明に係る耐食性磁石の製造方法の第1特徴手段は、希土類磁石の表面に、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する溶液を付着させ、前記化合物を互いに架橋させてM−O結合(但し、Mは金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種を示す)による架橋構造を有する被膜を形成させる点にある。
つまり、この手段によれば、希土類磁石の表面に、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する溶液を付着させた後、化合物を互いに架橋させることにより、希土類磁石の表面に容易に被膜を形成することができる。
また、被膜を溶液として希土類磁石の表面に付着させて形成するため、希土類磁石の表面に物理的欠陥層を有する場合でも、その内部にも入り込み被膜を形成することができる。
このように、希土類磁石の活性相を外界の酸素や水蒸気等から遮断することができ、安価で容易に耐食性磁石を作製することができる。
本発明に係る耐食性磁石の製造方法の第2特徴手段は、前記金属化合物は鉄化合物を含み、前記被膜を形成させた後、前記被膜を還元処理または酸化処理して前記被膜の表層をマグネタイト相及びマグヘマイト相のうち少なくともいずれか一方の相に変態させる点にある。
つまり、この手段によれば、希土類磁石の表面に形成させた被膜を変態させることによって化学的により安定なマグネタイト相やマグヘマイト相を形成できるため、容易に耐食性を向上させることができる。
本発明に係る耐食性磁石の製造方法の第3特徴手段は、前記化合物はアルコキシ基及び複素環基を有する点にある。
つまり、この手段によれば、アルコキシ基が加水分解反応、及び縮合反応することにより、容易に架橋構造を有する被膜を作製することができると共に、被膜に複素環基を導入して、複素環基の非共有電子対と希土類磁石とを配位もしくはファンデルワールス力等によって結合させることにより、被膜と希土類磁石との結合強度を高めて被膜が希土類磁石の表面から剥がれ難くすることができる。
本発明に係る耐食性磁石の製造方法の第4特徴手段は、前記溶液を付着させる前に、前記希土類磁石の表面に、電界によって加速された粒子を照射して前記希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素を含む不活性相を形成させる点にある。
つまり、この手段によれば、被膜を設ける前に、希土類磁石の表面に電子線やイオンビーム等の電界によって加速された粒子を照射して不活性相を形成させるため、希土類磁石の耐食性を向上させることができる。
また、たとえ、不活性相の表面にクラックやピンホール等が形成された場合でも、その内部にも入り込み被膜を形成することができる。
本発明に係る耐食性磁石は、例えば、図1に示すように、希土類磁石の表面に、M−O結合(但し、Mは金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種を示す)による架橋構造を有する被膜1を設けてあるものである。これにより、希土類磁石の活性相3を外界の酸素や水蒸気等から遮断して希土類磁石が腐食されるのを防止することができる。
被膜1は、希土類磁石の表面に形成された膜であり、希土類磁石の表面に物理的欠陥層を有する場合でも、被膜1の一部が物理的欠陥層に入り込んで、希土類磁石の表面全体を被覆することができる。このため、被膜1を形成する前に物理的欠陥層を脱落させるための研磨等の工程を省略することができる。なお、物理的欠陥層の厚みは通常5μm程度であるため、被膜1の厚みを10μm程度にすれば、物理的欠陥層ごと被覆することができる。
また、被膜1は希土類磁石と水素結合、ファンデルワールス力等によって結合しているため剥離し難い。希土類磁石の表面に物理的欠陥層を有する場合には、被膜1の一部が物理的欠陥層に入り込むことによって、アンカー効果が生じるため、被膜1は希土類磁石の表面からより剥がれ難くなる。
被膜1は、例えば、図2に示すように、表面に希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素を含む不活性相2を備える希土類磁石に設けることもできる。例えば、不活性相2にクラックやピンホール等が生じた場合でも、希土類磁石の不活性相2の表面に被膜1を設けるより、クラックやピンホール等を塞ぎ、活性相3に酸素や水蒸気等が到達することを防ぐことができる。
不活性相2は、例えば、アモルファス相であり、この不活性相2が希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類を含んでいるため、不活性相2と希土類磁石の表面とが直接反応して合金相を生成する。これによって、不活性相2は希土類磁石との結合強度が高まるため、不活性相2は希土類磁石から剥がれ難くなる。希土類磁石は、一般にはRe-B-Fe系またはRe-Tm-B系(但し、Reは希土類金属から選ばれた1種、Tmは遷移金属から選ばれた1種を示す)で表されるように、Re、B、Fe等もしくはRe、Tm、B等の複数種類の元素によって構成されているものである。不活性相2は、このような希土類磁石を構成する複数種類の元素のうち少なくとも1種類の元素を含んでいればよい。
不活性相2は、希土類磁石の表面を励起させ、希土類磁石の表面の活性相3を化学変化させて形成することができる。例えば、希土類磁石の表面の励起手段として、希土類磁石の表面をその表面を構成する複数種類の元素の最高沸点以上の温度にすることにより、図3(a)に示すように活性相3が露出している希土類磁石の表面を構成する物質を昇華させると共に化学変化、すなわち熱分解させることができる。そして、昇華したガスは冷却されて希土類磁石の表面に沈降し、励起状態にある希土類磁石の表面で凝固して不活性相2を形成する。この不活性相2は、図3(b)に示すように希土類磁石の活性相3を被覆して表面を不活化すると共に、希土類磁石の活性相3を外界の酸素や水蒸気等から遮断することができる。そして、希土類磁石の表面を構成する物質の一部または全部が、励起された希土類磁石の表面上で連続的に凝固するため、不活性相2は表面の励起の状態を制御することにより任意の厚みで希土類磁石の表面に形成することができる。
また、希土類磁石は活性相3を有するため、大気によって既に酸化物や水酸化物が形成されている場合がある。しかし、このような場合であっても、表面を構成する物質を昇華させることにより、酸化物や水酸化物を取り除きつつ、不活性相2を形成させることができる。さらに焼結磁石における機械加工面の構造上の物理的な欠陥を有する場合であっても欠陥部分を含んだ表面層ごと昇華させて、不活性相2を形成させることができるため、構造欠陥を修復しつつ腐食を防止する不活性相2に改質することができる。なお、この場合、上述の通り希土類磁石の物理的欠陥層の厚みは5μm程度であるため、不活性相2は5μm程度の厚みとし、不活性相2に設ける被膜1は、1μm程度の厚みとすればよい。
被膜1が有する架橋構造を形成するM−O結合は、Mが金属元素または半金属元素であれば特に限定されず、Ti−O結合、Fe−O結合、Al−O結合、Sn−O結合、Si−O結合、B−O結合、P−O結合等が例示され、いずれの場合でも耐食性を有する被膜1を形成することができるが、Si−O結合、Ti−O結合、Fe−O結合から選ばれる少なくとも1種の結合であることが特に好ましい。
例えば、水の分子は2つの水素原子が104.5°の角度で酸素原子と結合された構造であり、2つの水素原子の距離は1.51Åであり、水素原子と酸素原子との距離は0.95Åである。これに対し、Si−O結合による架橋構造からなる網目構造を有する被膜1では、ケイ素原子と酸素原子との距離は1.6Å程度であり、水分子の水素原子間距離に近い距離である。このため、Si−O結合による架橋構造は気体である水蒸気が透過することを防ぐことができる。また、ケイ素原子と酸素原子との結合解離エネルギーは452kJ/molであり、ダイヤモンドにおける炭素原子同士の平均結合解離エネルギーである354.2kJ/molより大きい。このようにSi−O結合は、大きな結合エネルギーで共有結合しているため、Si−O結合による架橋構造を有する被膜1は、耐熱性、耐食性に優れている。
Ti−O結合による架橋構造からなる酸化チタンの無規則網目構造は、正方晶系のアナターゼ型と称される結晶構造であって、a軸の格子定数が3.785Å、c軸の格子定数が9.514Åであり、TiO6の八面体が4つの稜を共有して三次元構造を形成する。隣り合うチタン原子と酸素原子との距離は1.946Åであり、水分子の水素原子間距離に近い距離である。このため、TiO6の八面体によって形成されるTi−O結合による架橋構造は、気体である水蒸気が透過することを防ぐことができる。また、アナターゼ型の酸化チタンにおけるチタン原子と酸素原子との結合解離エネルギー668kJ/molと大きく、700℃近辺でルチル型の酸化チタンに転移するものであり、Ti−O結合による架橋構造を有する被膜1は、耐熱性、耐食性に優れている。
Fe−O結合による架橋構造からなる酸化鉄の無規則網目構造は、ヘマタイト(α‐Fe23)と称される三方晶系のコランダム型の結晶構造であって、a軸の格子定数が5.036Å、c軸の格子定数が13.747Åである単位格子からなり、2つの酸素八面体が面を共有する。隣り合う鉄原子と酸素原子との距離は1.929Åであり、水分子の水素原子間距離に近い距離である。このため、Fe−O結合による架橋構造は、気体である水蒸気が透過することを防ぐことができる。また、ヘマタイトにおける鉄原子と酸素原子とは共有結合しており、その結合力は大きく、融点は1350℃〜1360℃と高い。このため、Fe−O結合による架橋構造を有する被膜1は、耐熱性、耐食性に優れている。
また、被膜1がFe−O結合による架橋構造を有する場合には、被膜1の少なくとも表層を変態させて、マグネタイト(Fe34)相及びマグヘマイト(γ‐Fe23)相のうち少なくともいずれか一方の相を設けることが好ましい。ヘマタイトより化学的に安定なマグネタイトの相、またはマグネタイトよりさらに化学的に安定な不動態であるマグヘマイトの相を設けることにより、耐食性を向上させることができる。このように、特にM−O結合がFe−O結合を含む場合には、被膜1の少なくとも表層の相を変えることにより、用途に応じた耐食性を希土類磁石に備えさせることができる。
また、被膜1は複素環基を有することが好ましい。複素環基としては特に限定されず、例えば、ピロール基、フラン基、チオフェン基、イミダゾール基、オキサゾール基、チアゾール基、ピリジン基、ピリミジン基、ピラジン基、ピペラジン基等、任意に選択可能である。このような複素環基を被膜1に設けることで、図4に示すように、複素環基のヘテロ原子が有する非共有電子対の希土類磁石と配位結合やファンデルワールス力等により、被膜1と希土類磁石の表面との結合強度が高まる。この結果、被膜1と希土類磁石との結合は、アンカー効果に基づく物理的な結合力に、これらの結合力が加えられるため、より強固な結合力となって被膜1が希土類磁石の表面から剥がれ難くなる。
このような耐食性磁石は、希土類磁石の表面に、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する溶液を付着させ、前記化合物を互いに架橋させてM−O結合(但し、Mは金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種を示す)による架橋構造を有する被膜1を形成させることにより作製することができる。
希土類磁石の表面に希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素を含む不活性相2を形成させる場合には、希土類磁石の表面に電子線やイオンビーム等の電界によって加速された粒子を照射することにより設けることができる。
不活性相2は、例えば、電子線を照射することにより、加速された電子線を磁石表面に衝突させ、希土類磁石を構成する物質を昇華させて形成することができる。そして、この手段によれば、電子線の照射密度、電子線の加速度、照射時間等を変えることによって希土類磁石の表面の励起の状態を制御でき、昇華させる表面層の厚みを任意に決めることができる。例えば、希土類磁石が有する物理的な欠陥層が厚く、必要となる改質の厚みが厚い場合には、電子線のエネルギー密度を高める、電子線の加速度を増大させる、照射時間を長くする等により磁石表面に与える総エネルギー量を大きくすればよい。希土類磁石は活性相3を有し、酸化物や水酸化物等を形成し易いため、電子線の照射は酸素や水蒸気が遮断された環境下で行うことが好ましく、例えば、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、窒素や炭化水素等の雰囲気下で行うと、熱分解した原子または分子を窒化もしくは炭化させた不活性相2を形成させることもできる。なお、電子線に代えてイオンビームを照射する場合でも同様の方法により行うことができる。
本発明に係る耐食性磁石の製造方法に使用する金属化合物及び半金属化合物は、特に限定されず、また1種類でも複数種類を組み合わせても使用できるが、作製する被膜1の架橋構造に応じて選択する。また、金属化合物及び半金属化合物は、互いに架橋可能な官能基を有することが好ましく、例えば、加水分解反応、及び縮合反応により、容易に互いに架橋させることができるアルコキシ基を有することが特に好ましい。
例えば、Si−O結合による架橋構造を有する被膜1を形成させる場合には、半金属化合物として、テトラエトキシシラン(正珪酸四エチルSi(OC254)やテトラメトキシシラン(正珪酸四メチルSi(OCH34)のアルコキシシラン、アルコキシポリシロキサン等の有機シラン化合物、アルコキシ基を有するシラン系カップリング剤、シリコーンアルコキシオリゴマー等のシラン化合物を用いることができる。例えば、アルコキシポリシロキサンは、化1〜化3に示すように、アルコシ基の一般的な加水分解反応、及び縮合反応によりSi−O結合による架橋構造を形成することができる。
Figure 2008004907
Figure 2008004907
Figure 2008004907
以下に、シラン化合物としてエトキシポリシロキサンSinn-1(OC252(n+1)を用いて、不活性相2を備える希土類磁石の表面にSi−O結合による架橋構造を有する被膜1を形成させる具体例を示す。
エトキシポリシロキサンをエタノールと水に溶解する。そして、このエトキシポリシロキサンの溶液に、表面に不活性相2を形成した希土類磁石を浸漬する。この際、酸性触媒として、極微量の塩酸を添加し、エトキシポリシロキサンを加水分解する。エトキシポリシロキサンを加水分解させるために水を混入させるが、エトキシポリシロキサン100gに対し、反応式での理論量である14.5gの5〜10倍の水を添加する。次に、希土類磁石を浸漬したエトキシポリシロキサンの溶液を容器ごと30分程度真空引きにより3Torr程度まで減圧する。これにより、希土類磁石にクラックやピンホールが生じている場合には、エトキシポリシロキサン溶液を希土類磁石のクラックやピンホールにまで充填することができる。エトキシポリシロキサンの加水分解反応によって、シラノールとエチルアルコールが生成されるが、エチルアルコールは真空引きにより、溶液内から取り除かれる。また、この際、生成したシラノール基やエトキシポリシロキサンのアルコキシシリル基は、不活性相2の表面と水素結合する。
加水分解反応が終了すると、シラノールの脱水縮合反応が進行する。この際、脱水反応で生成されたすべての水蒸気は真空引きにより、容器内から取り除かれる。この後、真空引きを停止し、塩基性触媒としてアミンを添加して溶液のpHを弱アルカリ性に調整する。これにより脱水縮合反応が加速される。次に、希土類磁石を溶液から引き上げ、希土類磁石を真空引きし、1時間程度減圧状態にする。このシラノールの脱水縮合反応によって、希土類磁石の表面に形成される物質は、ゾル状態からゲル状態に変わる。脱水反応による水分が除かれることで脱水縮合反応が継続的に進行し、シロキサンは二酸化ケイ素の重合体であるシリカゲルになり、気化物がほとんどない固相に近いSi−O結合による架橋構造からなる網目構造が形成される。そして、希土類磁石を真空装置から取り出し、常温から1時間程度の時間をかけて徐々に150℃程度に昇温して、すべての気化物質を気化させると共に、縮合反応を完了させて、シリカゲルを固体のアモルファスシリカに変える。このようにして希土類磁石の不活性相2の表面は、Si−O結合による架橋構造を有する内部に構造欠陥のない無規則網目構造で覆われると共に、不活性相2の表面にクラックやピンホールが生じている場合にはそれらもSi−O結合による架橋構造からなる網目構造で充填される。なお、脱水縮合反応は減圧下で真空引きしながら行うため、脱水反応で生成した水はシリカゲルの内部から継続的に吸引され、脱水縮合反応が不可逆的に継続して進行する。このため、希土類磁石の用途によっては昇温過程を除いてもよい。また、気化物質を効率よく取り除くために、減圧下で加熱することもできる。
なお、ここでは、シラン化合物としてエトキシポリシロキサンを用いた場合を例として不活性相2の表面にSi−O結合による架橋構造を有する被膜1を形成させる場合を示したが、シラン化合物として、例えば、アルコキシ基を有するシラン系カップリング剤や、分子末端にアルコキシシリル基を有するシリコーンアルコキシオリゴマー等を用いる場合でも同様の方法で被膜1を形成することができる。例えば、シラン系カップリング剤として、テトラメトキシシランやテトラエトキシシランを用いる場合には、水に溶解させ、酸触媒として酢酸を添加してpHを3〜5に調整した溶液を用いて、同様の方法により作製することができる。
シリコーンアルコキシオリゴマーとしては、例えば、信越化学工業製のKR−500、X40−9225、X40−9246、KR−400等のメトキシシリル基を有するシリコーンアルコキシオリゴマーを用いることができる。このようなシリコーンアルコキシオリゴマーを用いる場合には、水に溶解させた溶液を用いて、同様の方法により作製することができる。なお、この場合、脱水縮合反応の際には、触媒として信越化学工業製のD−20等の有機チタン系化合物を2〜5wt%の割合で添加するとよい。
Ti−O結合による架橋構造を有する被膜1を形成させる場合には、金属化合物としてチタン化合物を用いればよく、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、テトラオクチルチタネート等のテトラアルキルチタネートを用い、同様の方法により化4〜化7に示す反応を進行させて作製することができる。
Figure 2008004907
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Fe−O結合による架橋構造を有する被膜1を形成させる場合には、金属化合物として鉄化合物を用いればよく、例えば、鉄(II)メトキシド、鉄(III)メトキシド、鉄(II)エトキシド、鉄(III)エトキシド、鉄(II)イソプロポキシド、鉄(III)イソプロポキシド、鉄(II)2-エチルヘキソキシド、鉄(III)2-エチルヘキソキシド、鉄(II)フェノキシド、鉄(III)フェノキシド、鉄(II)ノニルフェノキシド、鉄(III)ノニルフェノキシド、鉄(II)ナフトキシド、鉄(III)ナフトキシド等を用い、同様の加水分解反応、及び縮合反応を進行させることによりFe−O結合による架橋構造を容易に形成することができる。
以下に、鉄化合物として鉄(III)トリイソプロポキシドを用いて、物理的欠陥層を有する希土類磁石の表面にFe−O結合による架橋構造を有する被膜1を形成させる具体例を示す。
鉄(III)トリイソプロポキシドをエタノールと水に溶解する。そして、この鉄(III)トリイソプロポキシドの溶液に、希土類磁石を浸漬する。鉄(III)トリイソプロポキシドを加水分解させるために水を混入させるが、鉄(III)トリイソプロポキシド100gに対し、反応式での理論量である24gの5倍程度の水を添加する。次に、希土類磁石を浸漬した鉄(III)トリイソプロポキシドの溶液を容器ごと30分程度真空引きにより3Torr程度まで減圧する。これにより、希土類磁石表面の物理的欠陥層の内部にまで鉄(III)トリイソプロポキシド溶液を充填することができる。鉄(III)トリイソプロポキシドの加水分解反応によって、水酸化第二鉄とイソプロピルアルコールが生成されるが、イソプロピルアルコールは真空引きにより、溶液内から取り除かれる。また、この際、生成した水酸基や鉄(III)トリイソプロポキシドのアルコキシシリル基は、希土類磁石の表面及び物理的欠陥層と水素結合する。
加水分解反応が終了すると、上述のシラノールの脱水縮合反応と同様の方法により、脱水縮合反応を完了させて、物理的欠陥層を有する希土類磁石の表面全体は、Fe−O結合による架橋構造を有する内部に構造欠陥のない無規則網目構造で覆われると共に、希土類磁石の物理的欠陥層の内部もFe−O結合による架橋構造からなる網目構造で充填される。
このように表面に被膜1を設けた耐食性磁石は、水素と水蒸気との分圧比が1.5以上の雰囲気下において200℃で約1時間処理した後、120℃で約30分間乾燥することにより、被膜1の2μm程度の表層の酸化鉄(α-Fe23)をマグネタイト(Fe34)に還元することができる。なお、酸化鉄(α-Fe23)からマグネタイト(Fe34)への還元は、上記方法に代えて、85℃のアルカリ水溶液中に浸漬させることによってもできる。
また、酸化鉄(α-Fe23)の被膜1の表層をマグネタイト(Fe34)に還元させた後、154〜478℃の大気雰囲気に晒すと(例えば、160℃で1時間処理すると)、マグネタイトをマグヘマイト(γ‐Fe23)に変態させることができる。
金属化合物または半金属化合物としては、複素環基を有する化合物を用いることが好ましい。このような化合物を架橋させることにより、被膜1に複素環基を導入することができる。また、複素環基は縮合反応に対する触媒機能を有するため、複素環基を有する化合物を用いることにより縮合反応を促進することができる。複素環基を有する化合物は単独で用いて被膜1を形成してもよく、また複素環基を有しない金属化合物または半金属化合物と共に用いることもできる。複素環基を有する化合物としては、化8、化9に示すように、イミダゾール基とアルコキシシリル基とをメチレン鎖、酸素原子、窒素原子等で結合したイミダゾールシラン化合物が例示され、このようなイミダゾールシラン化合物を混合して用いる場合には、上記方法において、溶質に対して0.5〜1wt.%混合すればよい。なお、イミダゾールシラン化合物を用いる場合には、化9に示すように水酸基を有するイミダゾールシラン化合物が、水やアルコールに対する溶解性が高く、水酸基による希土類磁石の表面との水素結合によって、架橋構造がより強固に希土類磁石と結合するため特に好ましい。イミダゾールシラン化合物は、化8、化9においてRはメチル、エチル、プロピル等のアルキル鎖を示しているが、化8、化9の構造に限定されるものでない。例えば、ケイ素原子と結合している複数のアルコキシ基は同一種である必要はなく、アルコキシ基である必要もない。また、イミダゾール基には、従来公知の官能基が結合されていてもよい。
Figure 2008004907
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以下、希土類磁石として、希土類元素にネオジウムを含むネオジウム磁石を用いた実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
シラン化合物としてエトキシポリシロキサンを用い、上記の方法によりネオジウム磁石の不活性相2の表面にSi−O結合による架橋構造を有する被膜1を設けた耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例2)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例1と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例3)
エトキシポリシロキサンに化9に示すイミダゾールシラン化合物を混合し、実施例1と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例4)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例3と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例5)
チタン化合物としてテトライソプロピルチタネートを用い、上記の方法によりネオジウム磁石の不活性相2の表面にTi−O結合による架橋構造を有する被膜1を設けた耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例6)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例5と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例7)
テトライソプロピルチタネートに化9に示すイミダゾールシラン化合物を混合し、実施例5と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例8)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例7と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例9)
シラン化合物としてテトラメトキシシランを用い、上述の方法によりネオジウム磁石の不活性相2の表面にSi−O結合による架橋構造を有する被膜1を設けた耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例10)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例9と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例11)
テトラメトキシシランに化9に示すイミダゾールシラン化合物を混合し、実施例9と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例12)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例11と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例13)
シラン化合物としてシリコーンアルコキシオリゴマー(X40−9225)を用い、上述の方法によりネオジウム磁石の不活性相2の表面にSi−O結合による架橋構造を有する被膜1を設けた耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例14)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例13と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例15)
シリコーンアルコキシオリゴマー(X40−9225)に化9に示すイミダゾールシラン化合物を混合し、実施例13と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例16)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例15と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例17)
鉄化合物として鉄(III)トリイソプロポキシドを用い、上述の方法によりネオジウム磁石の表面にFe−O結合による架橋構造を有する被膜1を設けた耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例18)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例17と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例19)
鉄(III)トリイソプロポキシドに化9に示すイミダゾールシラン化合物を混合し、実施例17と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例20)
ネオジウム磁石を真空装置から取り出した後に150℃に昇温せず、室温に晒したこと以外は、実施例19と同様の方法により耐食性磁石を作製し、表1に示す実験を行った。
(実施例21)
実施例19と同様の方法により耐食性磁石を作製した後、被膜1の表層をマグネタイトに還元し、表1に示す実験を行った。
(実施例22)
実施例21と同様の方法により耐食性磁石を作製した後、被膜1の表層のマグネタイトをマグヘマイトに変態させ、表1に示す実験を行った。
(実施例23)
実施例20と同様の方法により耐食性磁石を作製した後、被膜1の表層をマグネタイトに還元し、表1に示す実験を行った。
(実施例24)
実施例23と同様の方法により耐食性磁石を作製した後、被膜1の表層のマグネタイトをマグヘマイトに変態させ、表1に示す実験を行った。
表面強度の試験は、希土類磁石の取り扱い易さを示す指標になるものである。落下衝撃試験後の評価は、目視確認の後、表1に示す過飽和水蒸気試験1により、落下衝撃の損傷度合いを調べる。
緻密性の試験は、希土類磁石を使用する環境下での腐食の要因となるガス及び液体の遮断性能を示す指標になるものである。温湿度サイクル試験では、結露状態で希土類磁石を使用する場合を想定し、希土類磁石を、湿度85%R.H.の条件下で、図5に示す温度条件で試験を行うもので、温度の変化によって希土類磁石が熱膨張・熱収縮を伴う環境において、希土類磁石に付着した結露の遮断性能を評価するものである。煮沸試験では、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に浸漬されて使用される場合を想定し、水蒸気の遮断性能を評価する試験である。また、過飽和水蒸気試験は、高圧水蒸気の透過性から、気体の遮断性能を評価する試験である。水素ガス透過試験では、燃料電池に用いられるモータを想定した試験で、高圧の水素ガスの遮断性能を評価する試験である。なお、水素ガスは、各種のガスの中で最も小さい分子であるため、各種ガスの遮断性能を水素ガスの遮断性能で代表させることができる。
反応性を評価する試験は、希土類磁石の表面が化学反応によって変質することを評価する試験で、希土類磁石の耐食性に変化があるかないかを調べる試験である。塩水浸漬試験では、腐食性液体に浸漬して使用される場合を身近な塩水で代表して行う試験である。加圧酸素LLC溶液浸漬試験は、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に長期にわたって浸漬して使用される場合を想定した試験で、酸化された冷却水によって希土類磁石の表面が変化するか否かを調べる試験である。酸化された冷却水は、密閉容器に冷却水を入れて、この容器に2気圧の酸素ガスを送り、さらに100℃以上の温度に一定時間放置させて作り、この液体に対する希土類磁石の反応の有無を調べる。イオン性液体浸漬試験は、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に長期にわたって浸漬して使用されることを想定したもう一つの試験であり、ラジエータ自体が腐食して、冷却水中に金属イオンや酸性のイオンが混在することを想定した試験で、金属イオンとしてCu2+を用い、酸性イオンとしてCl-とSO4 2-を用い、これらのイオンを所定の濃度で冷却水に溶解させてイオン性液体を作り、このイオン性液体に対する反応性の有無を調べる試験である。
Figure 2008004907
その結果、表2、表3に示す通りであった。表中の◎は、表面強度の試験の場合、磁石に損傷がないことを示し、緻密性、反応性の試験の場合には、試験における負荷を加えても希土類磁石の表面は変化がなく、耐食性を有することを示す。○は、表面強度の試験の場合、磁石に損傷があっても実用に供するレベルであることを示し、緻密性、反応性の試験の場合には、試料の一部に変色部位が認められたが、変色部位には膨張等の変形は認められず、実用に供するレベルの腐食であることを示す。△は、表面強度の試験の場合、磁石に過飽和水蒸気を容易に透過させる損傷があり実用に供さないレベルであることを示し、緻密性、反応性の試験の場合には、試料の多くの部分に変色が認められ、かつ変色部位において変形が認められ、希土類磁石の腐食が進行した結果であり、実用には供さない腐食レベルであることを示す。
(実施例1〜16)
落下衝撃試験では、1mの高さからの落下衝撃(落下衝撃1)の場合は、すべての実施例について損傷が認められたが、50cmの高さからの落下衝撃(落下衝撃2)では差が認められた。すなわち、各種の被膜1を作製する最終工程で昇温を行わない場合(実施例2,4,6,8,10,12,14,16)は、50cmの高さから落下させても磁石は損傷を受けなかった。また、30cmの高さからの落下衝撃(落下衝撃3)では、すべての実施例について損傷はなかった。なお、1mからの落下衝撃によっても耐食性磁石の耐食性が変わらなければ、耐食性磁石は乱雑に扱っても実用に供することができるが、30cm程度の耐落下衝撃性があれば、充分に実用に供する。特に、耐食性磁石をモータやセンサ等の構成部品に用いる場合には、モータやセンサに耐食性磁石が内蔵され、耐食性磁石がむき出しで用いられることはないため、耐食性磁石に直接機械的な衝撃力が加わることはない。
緻密性を評価する温湿度サイクル試験では、いずれの実施例においても耐食性磁石は腐食しなかった。短時間の煮沸試験(煮沸試験1)では、シリコーンアルコキシオリゴマーを用いた場合(実施例13)のみが、耐食性磁石の表面に一部に変色が認められた。長時間の煮沸試験(煮沸試験2)では、イミダゾールシラン化合物を混合した場合と混合しない場合とで耐食性に大きな差が認められ、イミダゾールシラン化合物を混合した場合(実施例3,4,7,8,11,12,15,16)には良好な耐食性を有していた。また、イミダゾールシラン化合物を用いない場合は、被膜1を作製する最終工程で昇温をした方(実施例1,5,9)が、耐食性に優れた結果になった。
過飽和水蒸気試験の結果は、短時間の過飽和水蒸気試験(過飽和水蒸気試験1)では、いずれの実施例も良好な耐食性を有したが、長時間の過飽和水蒸気試験(過飽和水蒸気試験2)では、実施例の間に耐食性に優位差が認められた。すなわち、被膜1を作製する最終工程で昇温をした場合(実施例1,3,5,7,9,11,15)は、耐食性に優れた結果になった。但し、シリコーンアルコキシオリゴマーを用いた場合(実施例13)は、他の化合物を用いた場合に比べて相対的に耐食性に劣る結果になった。水素ガスの透過試験および塩水浸漬試験の結果は、いずれの実施例についても良好な耐食性を有していた。
加圧酸素LLC溶液浸漬試験の結果は、シリコーンアルコキシオリゴマーを用いた場合(実施例13,14)は、他の化合物を用いた場合に比べて相対的に耐食性が劣る結果になった。また、イミダゾールシラン化合物を混合した場合(実施例3,4,7,8,11,12,15,16)は、耐食性が向上することが認められ、さらに、被膜1を製作する最終工程で昇温した方(実施例3,7,11,15)が耐食性に優れた結果になった。また、イオン性液体浸漬試験の結果も、加圧酸素LLC溶液浸漬試験の結果と同様の結果になった。
Figure 2008004907
(実施例17〜24)
落下衝撃試験では、1mの高さからの落下衝撃(落下衝撃1)の場合は、すべての実施例について損傷が認められたが、50cmの高さからの落下衝撃(落下衝撃2)では差が認められた。すなわち、各種の被膜1を作製する最終工程で昇温を行わない場合(実施例18,20)は、50cmの高さから落下させても磁石は損傷を受けなかった。また、30cmの高さからの落下衝撃(落下衝撃3)では、すべての実施例について損傷はなかった。
緻密性を評価する温湿度サイクル試験では、実施例17,18で作製した耐食性磁石の表面の一部に変色が認められた。短時間の煮沸試験(煮沸試験1)では、実施例17,18,20で作製した耐食性磁石の表面に一部に変色が認められた。長時間の煮沸試験(煮沸試験2)では、被膜1の表層をマグヘマイトに変態させた場合(実施例22,24)に、特に良好な耐食性を有していた。
過飽和水蒸気試験の結果は、短時間の過飽和水蒸気試験(過飽和水蒸気試験1)では、実施例17,18で作製した耐食性磁石の表面の一部に変色が認められた。長時間の過飽和水蒸気試験(過飽和水蒸気試験2)では、長時間の煮沸試験(煮沸試験2)と同様に、被膜1の表層をマグヘマイトに変態させた場合(実施例22,24)に良好な耐食性を有していた。短時間の水素ガス透過試験(水素ガス透過性試験1)では、実施例18,20で作製したネオジウム磁石の表面の一部に変色が認められた。長時間の水素ガス透過試験(水素ガス透過性試験2)では、被膜1の表層をマグネタイトまたはマグヘマイトに変態させた場合(実施例21〜24)に良好な耐食性を有していた。短時間の塩水浸漬試験(塩水浸漬試験1)では、実施例17,18で作製したネオジウム磁石の表面の一部に変色が認められた。長時間の塩水浸漬試験(塩水浸漬試験2)では、被膜1の表層をマグヘマイトに変態させた場合(実施例22,24)に良好な耐食性を有していた。
短時間の加圧酸素LLC溶液浸漬試験(加圧酸素LLC溶液浸漬試験1)の結果は、実施例18で作製した耐食性磁石の内部に腐食が進行したことが認められた。長時間の加圧酸素LLC溶液浸漬試験(加圧酸素LLC溶液浸漬試験2)の結果は、実施例22で作製した耐食性磁石が良好な耐食性を有していた。また、イオン性液体浸漬試験の結果も、加圧酸素LLC溶液浸漬試験の結果と同様の結果になった。
Figure 2008004907
このように、希土類磁石の表面に被膜1を設けることにより、いずれの場合も耐食性が向上していることが分かった。そして、本発明に係る耐食性磁石のうち、いずれの耐食性磁石を使用するかは、用途に応じて適宜選択することができる。自動車のラジエータの冷却水中に浸漬されて10年以上の長期にわたって使用される場合は、煮沸試験に対する耐性、耐加圧酸素LLC溶液性、耐イオン性液体性が必要になるが、このような耐食性が求められない場合は、実施例1,2,5,6,9,10,13,14,17,18,20により作製した耐食性磁石等を用いることができる。
本発明に係る耐食性磁石は、優れた耐食性を有するため、従来の希土類磁石が用いられる用途だけでなく、これまで腐食し易いため適用できなかった用途等、様々な用途に適用できる。
耐食性磁石の断面の模式図 耐食性磁石の断面の模式図 希土類磁石の断面の模式図 希土類磁石に対するイミダゾール基の作用を説明する図 本実施例に係る温度サイクル試験の条件を示すグラフ
符号の説明
1 被膜
2 不活性相
3 活性相

Claims (10)

  1. 希土類磁石の表面に、M−O結合(但し、Mは金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種を示す)による架橋構造を有する被膜を設けてある耐食性磁石。
  2. 前記M−O結合は、Si−O結合、Ti−O結合、Fe−O結合から選ばれる少なくとも1種の結合である請求項1に記載の耐食性磁石。
  3. 前記M−O結合はFe−O結合を含み、前記被膜の表層にマグネタイト相及びマグヘマイト相のうち少なくともいずれか一方の相を備える請求項1または2に記載の耐食性磁石。
  4. 前記被膜は複素環基を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐食性磁石。
  5. 前記複素環基はイミダゾール基である請求項4に記載の耐食性磁石。
  6. 前記希土類磁石は、表面に当該希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素を含む不活性相を備える請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐食性磁石。
  7. 希土類磁石の表面に、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する溶液を付着させ、前記化合物を互いに架橋させてM−O結合(但し、Mは金属元素、半金属元素から選ばれる少なくとも1種を示す)による架橋構造を有する被膜を形成させる耐食性磁石の製造方法。
  8. 前記金属化合物は鉄化合物を含み、前記被膜を形成させた後、前記被膜を還元処理または酸化処理して前記被膜の表層をマグネタイト相及びマグヘマイト相のうち少なくともいずれか一方の相に変態させる請求項7に記載の耐食性磁石の製造方法。
  9. 前記化合物はアルコキシ基及び複素環基を有する請求項7に記載の耐食性磁石の製造方法。
  10. 前記溶液を付着させる前に、前記希土類磁石の表面に、電界によって加速された粒子を照射して前記希土類磁石を構成する元素のうち少なくとも1種類の元素を含む不活性相を形成させる請求項7〜9のいずれか1項に記載の耐食性磁石の製造方法。
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