次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図1及び図2を参照して本発明に係る髄内固定システムに相当する髄内釘100の実施形態の全体構成について説明する。なお、本明細書においては、髄内釘100の大腿骨への適用時の姿勢により、髄内釘の基端部(側)を近位部(側)とし、先端部(側)又は末端部(側)を遠位部(側)と称することがある。ただし、本発明は本実施形態のような適用態様(姿勢)や適用部位に限定されるものではなく、任意の位置関係で適宜の骨部分(一般的には、大腿骨の他、脛骨、上腕骨、橈骨などの各種の長骨)に適用される髄内釘を含む髄内固定システムを広く包含するものである。
髄内釘100は、軸線100Xに沿って連続する近位部111と遠位部112を備えた延長形状を備えた髄内釘本体110を有する。図示例では、近位部111は遠位部112より太く構成され、また、近位部111と遠位部112の軸線は僅かに屈折している。髄内釘本体110は、軸線100Xに沿って延長方向に貫通する軸穴113を備えている。また、近位部111には、上記軸穴113と交差し、軸線100Xを横切るように形成された第1の横断孔114と第2の横断孔115が設けられている。図示例では横断孔114、115は斜めに軸線100Xを横切るように傾斜した軸線10X、20Xを備えている。これは、髄内釘本体110が大腿骨の近位部の髄腔内に挿入されたとき、大腿骨の骨頭内に向けて第1の軸状部材である骨ねじ10と第2の軸状部材である骨ねじ20を斜め下方より導入するためである。なお、髄内釘本体110の遠位部112にはほぼ水平に貫通する他の横断孔116、117も形成される。
第2の横断孔115は髄内釘本体110の近位側に形成され、第1の横断孔114は第2の横断孔115に対して髄内釘本体110の遠位側に形成される。横断孔114,115はいずれも近位部111に形成されている。軸穴113のうち、近位端に開口する端部開口113aから横断孔114、115に到達する部分までの範囲は他の部分と比べて開口断面積が大きく構成されている。図2に示すように、軸穴113の内部(上記の開口断面積が大きく構成された部分)には第1の係合部材121A及び第2の係合部材121Bが収容されている。なお、端部開口113aの一部に設けられた切り欠き119は、髄内釘本体110を骨内に導入する際に端部開口113aに接続される図示しない接続器具(ターゲットデバイス)の突起(キー)が嵌合する凹部(キー溝)である。
第1の係合部材121Aと髄内釘本体110との間にはコイルばねよりなる弾性部材122Aが配置されている。第1の係合部材121Aにはフランジ状に張り出した基端部121gが設けられ、この基端部121gに形成された近位側の外面段差と、軸穴113の内面に形成された遠位側の内面段差との間に上記弾性部材122Aが保持されている。この弾性部材122Aは第1の係合部材121Aを常に近位側へ付勢している。
図3及び図4に示すように、第1の係合部材121Aは、軸線100Xに沿って貫通する軸穴121aを有する。また、第1の係合部材121は、上記第1の横断孔114内に突出可能に構成された上記第1の係合部に相当する先端係合部121bを備えている。この先端係合部121bは、図示例では骨ねじ10に当接する部分が軸線10Xの方向に延長された形状とされる。図示例では先端係合部121bは軸穴121aの先端側開口部の両側に形成された第1の先端係合部位121baと第2の先端係合部位121bbとを有している。これにより、先端係合部121bは骨ねじ10の外周面に対してその軸線方向のより広い範囲にわたって接触する。このため、手術後に骨ねじ10に上下・前後方向の応力変動が加わっても骨ねじ10の軸線周りの回転や軸線方向の位置ずれを回避することができる。なお、先端係合部121bの形状は、骨ねじ10(後述する骨ねじ10′も同様。)に係合することでその軸線10Xの周りの回転方向と軸線10Xの方向の移動のうち少なくとも一方を規制若しくは抑制できる形状であれば特に限定されない。
第1の係合部材121Aは、上記第2の横断孔115に連通するとともに、骨ねじ20が挿通可能となるように第2の横断孔115に対応する位置に形成された貫通開口部121cを有する。この貫通開口部121cは、第2の横断孔115の軸線方向に沿って貫通するように傾斜した軸線を有する。また、貫通開口部121cは、第1の係合部材121Aが図2に示す初期位置よりも軸線方向先端側(遠位側)に移動したときでも第2の横断孔115に骨ねじ20を挿通させることができるように、軸線方向に延長された開口形状を備えている。なお、第1の係合部材121Aの外側面上には、軸線100Xに沿って伸びるように形成されたガイド溝121dが形成されている。
第1の係合部材121Aの基端部121gに開口する上記軸穴121aの内部には、図5及び図6に示す第2の係合部材121Bが収容される。この第2の係合部材121Bは、平坦な基端部121iに開口する軸穴121jを有する。また、第2の係合部材121Bの先端には上記第2の係合部に相当する先端係合部121kが設けられている。この先端係合部121kは軸線121BXに対して傾斜した縁部形状を有し、髄内釘本体110内に配置されたとき、第2の横断孔115の軸線に沿った係合面を構成するように形成されている。図示例の場合、軸穴121jは第2の係合部材121Bを軸線121BXの方向に貫通し、先端係合部121kは軸穴121jの先端開口の周囲に環状に形成される。先端係合部121kの上記係合面は、第2の横断孔115の内面を軸穴113内へ延長した形状、或いは、第2の横断孔115に挿通される第2の軸状部材に相当する骨ねじ20の軸部の外周面に整合(合致)する形状の、第2の横断孔115の軸線周りに沿って湾曲した凹曲面で構成されている。
第2の係合部材121Bの軸線121BX方向の中央部分には、軸線121BX周りの回転方向に延長されたスリット(長溝)121mが軸線121BXの方向に複数形成されている。個々のスリット121mは、それぞれ軸線121BX周りの角度の一部範囲に非形成領域を残すように設けられている。そして、複数のスリット121mは上記非形成領域をずらすように形成され、全体として軸線121BXの周りにほぼ均一な弾性を実現するようになっている。図示例の場合、複数(4つ)のスリット121mについて、隣接するスリット121m間では非形成領域が互いにずれるように構成される。上記複数のスリット121mは、第2の係合部材121Bにおいて、基端部121iと先端係合部121kとの間で軸線121BXの方向に弾性変形可能な領域(以下、単に「弾性変形領域」という。)を構成している。
第2の係合部材121Bの基端側の外面には軸線121BXに沿って伸びるガイド溝121nが形成されている。このガイド溝121nは図示例では基端部121iの側に開放された切り欠き状に構成されている。ただし、ガイド溝121nは、内外に貫通した切り欠き状ではなく、外面側にのみ開放された凹溝状に構成されていてもよい。一方、第1の係合部材121Aにはガイドピン121pが取り付けられ、その先端は上記軸穴121aの内部に突出している。このガイドピン121pは第2の係合部材121Bのガイド溝121nに嵌入する。このガイド溝121nとガイドピン121pからなる案内構造は、第2の係合部材121Bを第1の係合部材121Aに対して軸線100Xの周りの回転方向に規制しつつ軸線100Xの方向に移動可能に案内している。第2の係合部材121Bは、基端部121iを含む大径の頭部と、上記弾性変形領域及び先端係合部121kを含む小径の軸部とを有し、上記頭部と上記軸部との間に外面段差121rが設けられている。
第1の係合部材121Aと第2の係合部材121Bとの間には、図7に示す弾性部材122Bが配置される。この弾性部材122Bは、上記弾性部材122Aと同様にコイルばねで構成することもできるが、図示例では貫通した軸穴122aを備えた円筒体の外周壁に複数のスリット122bを形成することによって全体としてコイル状に構成したものを用いている。このようにすると、第1の係合部材121Aと第2の係合部材121Bとの間の狭小な空間にも支障なく効率的に収容できるとともに充分な弾性力を確保することができる。弾性部材122Bは、上記外面段差121rと、第1の係合部材121Aの軸穴121aの内面上に形成された内面段差との間に収容される。弾性部材122Bは、第2の係合部材121Bを第1の係合部材121Aに対して軸線100X方向の基端側(図示上方)へ付勢する。
このとき、ガイド溝121nの先端側の終端(図示下端)がガイドピン121pに当接することで、第2の係合部材121Bは第1の係合部材121Aに対して軸線100Xの方向の初期位置に配置される。したがって、ガイド溝121nとガイドピン121pからなる案内構造は、上記弾性部材122Bとともに、第1の係合部材121Aに対して第2の係合部材121Bを初期位置に位置決めする位置決め手段としても機能する。第2の係合部材121Bは、上記位置決め手段により設定された上記初期位置から軸線100Xの方向の先端側(遠位側)へ移動可能な状態で第1の係合部材121Aに保持される。なお、第1の係合部材121Aが上記弾性部材122Aと後述する保持部材123とによって初期位置に保持されるとともに、第2の係合部材121Bが初期位置にあるとき、図示例では、基端部121iの軸線100Xの方向の位置は第1の係合部材121Aの基端部121gの位置とほぼ一致する。ただし、両位置は相互に一致する必要はなく、特に本実施形態では基端部121iが基端部121gより下方に配置されていてもよい。厳密に言うと、図示例で基端部121iは基端部121gより僅かに下方に配置されている。
軸穴113内において、上記第1の係合部材121A及び第2の係合部材121Bの近位側には保持部材123が配置されている。この保持部材123は、軸線100Xに沿って貫通する軸穴123aと、外周に形成された雄ねじ123bとを備えている。この雄ねじ123bは軸穴113の内面に形成された雌ねじ118に螺合している。軸穴123aの少なくとも近位側の一部には六角穴などといった、ドライバーやレンチなどの回転工具と係合可能な工具係合構造が形成されている。保持部材123は軸穴113の内部に形成された段部113bに当接するまでねじ込まれ、その位置で第1の係合部材121Aに対して基端側から当接することで、弾性部材122Aにより基端側に付勢される第1の係合部材121Aの軸線100Xの方向の位置を規制するとともに、第1の係合部材121Aが軸穴113の端部開口113aから脱出することを防止している。
図2に示すように、第1の係合部材121Aは、弾性部材122Aにより付勢された状態で保持部材123に当接することによって初期位置に保持される。第1の係合部材121Aが上記初期位置にあるときには、第1の係合部材121Aの先端係合部121bは第1の横断孔114の内部に突出しない状態とされる。これにより、骨ねじ10をスムーズに第1の横断孔114内に挿通させることができる。また、このとき、初期位置にある第2の係合部材121Bの先端係合部121kもまた、第2の横断孔115の内部に突出しない状態とされる。これにより、骨ねじ20をスムーズに第2の横断孔及び貫通開口部121cに挿通させることができる。
この状況では、第1の係合部材121Aは、軸線100Xの方向の先端側に並進移動可能な状態で髄内釘本体110に保持されている。このような第1の係合部材121Aの保持態様は、本実施形態の態様に限らず、例えば、第1の係合部材121Aと保持部材123との間に別の弾性部材を介在させることにより、第1の係合部材121Aが上下両側から弾性的に位置決めされる構造でも実現できる。この場合には、第1の係合部材121Aは軸線100Xの方向に沿って先端側だけでなく基端側にも移動可能に構成される。
第1の係合部材121Aの上記ガイド溝121dには髄内釘本体110に固定されたガイドピン124が軸線100Xの方向にスライド可能に嵌合している。このガイドピン124は髄内釘本体110の近位部111の壁面を貫通した状態で当該壁面に固定されている。これにより、第1の係合部材121Aは髄内釘本体110に対して軸線100X周りの回転が規制されるものの、保持部材123に当接する初期位置から遠位側へ向けて軸線100Xに沿った方向には移動自在に構成される。すなわち、上記ガイド溝121dとガイドピン124は、第1の係合部材121Aが軸線100X周りに回転することを規制しつつ、軸線100X方向へ移動することを許容する、第1の係合部材121Aに対する案内構造を構成している。
以上説明した図2に示す構造に対して、軸穴113には端部開口113aから操作部材(位置調整ねじ)に相当する図8又は図9に示すエンドキャップ125A、125Bがねじ込まれる。これらのエンドキャップ125A、125Bは、軸線方向の基端側に大径の基部125aを有し、この基部125aの外周に上記雌ねじ118に螺合する雄ねじ125bを備えている。また、基部125aの先端側(遠位側)には、先端側に向いた(図示例では環状の)段差面125cの内側から基部125aより小径の先端基部125dが突出している。この先端基部125dは上記保持部材123の軸穴123a内に挿通可能かつ軸穴123a内で回転可能に構成されている。
上記の先端基部125dの先端形状は、エンドキャップ125A、125Bの種類によって異なる。図8に示すエンドキャップ125Aでは、先端基部125dの先端面125eがほぼ平坦に形成されている。一方、図9に示すエンドキャップ125Bでは、先端基部125dのさらに先端側に向いた(図示例では環状の)段差面125fの内側から先端基部125dより小径の先端凸部125gが突出している。また、その先端凸部125gの先端側に向いた(図示例では環状の)段差面125hの内側から先端突起125iがさらに突出している。なお、エンドキャップ125A、125Bの上記基部125aの基端側には上記と同様のドライバーやレンチ等の回転工具が適用可能な工具係合構造125jが形成されている。
エンドキャップ125A、125Bは、上記段差面125cが保持部材123の基端縁に当接する位置(この位置は本実施形態では後述する各係合部材の規制位置に対応する。)で、先端側(遠位側)へのねじ込み量が制限される。一方、先端基部125dは保持部材123の軸穴123a内を通して、第1の係合部材121Aの基端部121g及び第2の係合部材121Bの基端部121iに直接に対面する。このとき、エンドキャップ125A、125Bの段差面125cと先端基部125dの先端縁との距離が保持部材123の軸線100Xの方向の長さよりも大きい場合には、エンドキャップ125A、125Bは第1の係合部材121A又は第2の係合部材121Bに当接しうることになる。
ここで、第1の係合部材121Aの基端部121gは軸線100Xを中心とする半径方向の外周側に配置され、第2の係合部材121Bの基端部121iは上記半径方向の内周側に配置されている。このため、エンドキャップ125A、125Bの先端縁のうち、上記半径方向の外周側にある部分が上記第1の位置決め部位となって、軸線100Xの方向に対向する上記第1の対面部位に相当する、第1の係合部材121Aの基端部121gに当接し得ることになる。また、上記半径方向の内周側にある部分が上記第2の位置決め部位となって、軸線100Xの方向に対向する上記第2の対面部位に相当する、第2の係合部材121Bの基端部121iに当接し得ることになる。
図8に示すエンドキャップ125Aにおいては、先端基部125dの先端面125eが平坦に構成されているため、上記第1の位置決め部位と上記第2の位置決め部位とが共に平坦な先端面125e上にあるため、両部位は軸線100Xの方向に見て同じ位置に設けられていることになる。したがって、当該先端面125eが第1の係合部材121A及び第2の係合部材121Bに当接するとき、第1の係合部材121Aの基端部121gと第2の係合部材121Bの基端部121iとは軸線100Xの方向に見てほぼ同じ位置になるように制御される。本実施形態の場合には、図2に示すように、厳密に言うと、第1の係合部材121Aの基端部121gの初期位置よりも、第2の係合部材121Bの基端部121iの初期位置が僅かに遠位側(図示下方)にあるため、エンドキャップ125Aを用いる場合には、先端面125eは基端部121iには当接せず、上記先端基部125dの突出長さに拘わらず、第1の係合部材121Aと第2の係合部材121Bの軸線100Xの方向の相対的位置関係は変化しない。
一方、図9に示すエンドキャップ125Bでは、先端基部125dの上記半径方向の外周側に上記段差面125fが設けられるとともに、当該段差面125fの内側から上記先端凸部125gが突出し、上記段差面125fの上記半径方向内側に相当する位置に段差面125hが形成されている。また、段差面125hの内側から突出する先端突起125iは第2の係合部材121Bの軸穴121j内に挿入可能に構成される。ここで、先端突起125iが軸穴121j内に挿入されることで、エンドキャップ125Bによって第2の係合部材121Bが軸線100Xと直交する平面上で位置決めされるように構成してもよい。このエンドキャップ125Bを用いる場合には、段差面125fは上記第1の位置決め部位に相当し、第1の係合部材121Aの基端部121gが上記第1の対面部位に相当する。また、段差面125hは上記第2の位置決め部位に相当し、第2の係合部材121Bの基端部121iが上記第2の対面部位に相当する。図示例では、段差面125fと段差面125hとが軸線100Xの方向に見て異なる位置に形成されているため、両段差面125f、125hが共に基端部121g、121iに当接したときには、基端部121gと121iが両段差面の位置関係と同じ位置関係で異なる位置に配置されるように第1の係合部材121Aと第2の係合部材121Bの位置が制御される。
なお、本発明においては、第1の位置決め部位と第2の位置決め部位の双方が常に第1の係合部材121Aと第2の係合部材121Bの双方を位置決めする必要はなく、少なくともいずれか一方の位置決め部位が当該一方の位置決め部位に対応する係合部材を位置決めした状態になれば、両係合部材121A、121B(両先端係合部121b、121k)の相対的な位置関係は制御される。ただし、図示例のように、両係合部材が共に位置決めされるように操作部材に相当するエンドキャップ(例えば125B)を形成し、或いは、操作することにより、両係合部材の位置決め精度がさらに高められ、或いは、制御しうる相対的位置関係の設定範囲を広げることができる。
図1に示すように、第1の軸状部材に相当する骨ねじ10及び第2の軸状部材に相当する骨ねじ20は、骨係合部(骨に螺合させるためのスクリュー)をそれぞれ先端に備えるとともに、ドライバーやレンチなどの回転工具に係合可能な六角穴などの工具係合構造を基端に備えた一般的なねじ形状を備えたものを用いることができる。ただし、本実施形態では、第1の軸状部材として、図12に示すように、相互に軸線10Xの方向にスライド可能に構成された軸状本体10Aとスリーブ体10Bとを有する骨ねじ10を用いる。
図15に示すように、軸状本体10Aは、軸線10Xの方向に貫通する軸穴10aを有するとともに、その先端外周部に骨に係合する骨係合部11を有し、骨係合部11の基端側に円筒状の先端側軸部12を備えている。先端側軸部12の基端側には、円筒面とは異なる異形外面を有する異形外面部13が形成されている。なお、先端側軸部12と異形外面部13は軸状本体10Aの軸部を構成する。この異形外面部13の外面形状は図中では省略して示してあるが、角形断面、円の一部に平坦縁を有する断面、凸部や凹部を有する断面などの、円形以外の種々の断面の外縁に沿った形状を採用できる。また、上記軸部の基端部には、上記軸穴10aを拡大した穴形状を備える拡径穴部12bが形成されている。この拡径穴部12bの内面には雌ねじ12cが設けられている。この雌ねじ12cは図示しない手術工具を螺合させたり軸状本体10Aに基端側に向けて引き込むための圧縮ねじを螺合させたりする場合に用いる。さらに、拡径穴部12bの開口縁には、工具係合構造として、一対の矩形状の切り欠き部12dが相互に対向する角度位置に形成されている。この切り欠き部12dは図示しない手術工具を回転方向に係合させるために用いる。
一方、図16及び図17に示すように、スリーブ体10Bは上記軸状本体10Aの軸部(先端側軸部12及び異形外面部13)をその基端側から挿入することができるように構成されている。また、スリーブ体10Bの貫通孔10Baは、挿通された上記軸状本体10Aをその軸線10Xに沿ってスライド可能に構成している。この場合に、貫通孔10Baには、上記先端側軸部12が挿通可能であるが上記異形外面部13が挿通できない縮径部10Bbと、上記異形外面部13と嵌合して軸線10Xの周りに回転しないように規制する回転規制部10Bcとが設けられている。ここで、上記縮径部10Bbは軸状本体10Aのスリーブ体10Bに対する先端側への抜け止め手段となっている。また、スリーブ体10Bの基端側内面には雌ねじ10dが形成される。この雌ねじ10dは骨ねじ10の組立体が何らかの理由で破損したときにスリーブ体10Bを抜去するために図示しない工具の先端に螺合させるものである。
また、スリーブ体10Bの外面には、軸線10Xに沿って伸びる延長形状を備えた係合凹溝17が形成されている。図示例の場合、軸線10Xの周りに複数(図示例では4つ)の係合凹溝17が均等な角度間隔(90度間隔)で形成されている。係合凹溝17の内面は、軸線10Xの周りを回転する方向に沿って湾曲した凹曲面状に構成されている。係合凹溝17の両側縁には、幅方向(軸線10Xと交差(好ましくは直交)する方向)に伸び、軸線10Xに沿った方向に見たときに凹凸状に構成された、複数の切り込み又は突起を備えた係合構造18が設けられている。この係合構造18は、図示例の場合には、係合凹溝17の幅方向両側の縁部において、幅方向に伸びる断面V字状の溝を軸線10Xの方向に複数形成することによって構成される。
骨ねじ10は、図14(a)に示すように、軸状本体10Aの基端側へスリーブ体10Bをスライドさせると縮径部10Bbが先端側軸部12と異形外面部13の間の段差に当接して抜け止めされる構造となっている。また、骨ねじ10は、図14(b)に示すように、軸状本体10Aの先端側へスリーブ体10Bをスライドさせると、骨係合部11と先端側軸部12の間の段差に当接して抜け止めされる構造となっている。なお、図示の骨ねじ10の構造は例示であって特に限定されるものではなく、軸状本体10Aがスリーブ体10Bに挿通された状態で軸線10Xの方向にスライド可能で、軸線10Xの周りの回転が規制されるように構成されていればよい。ただし、図示例のように軸状本体10Aとスリーブ体10Bが抜け止めされることが手術の操作性を向上させる上でさらに好ましい。
図16及び図17に示すスリーブ体10Bの外面に形成された係合凹溝17は、図3及び図4に示す第1の係合部材121Aの先端係合部121bが嵌合可能な形状を有する。この先端係合部121bのうち、上記第1の先端係合部位121baは、係合凹溝17の凹曲面状の内面にほぼ整合した、幅方向に湾曲した凸曲面状の表面を有している。第1の先端係合部位121baが係合凹溝17内に導入されると、スリーブ体10Bは軸線10X周りの回転が規制された状態になる。一方、第2の先端係合部位121bbは幅方向に直線的に伸びる稜線状の(比較的鋭利な)先端縁を有している。この第2の先端係合部位121bbは、図19を参照するとわかるように、上記係合凹溝17の両側縁に形成された係合構造18の凹凸状の表面(例えば、上記のV字状の溝18a)に対して噛み合うように係合し、軸線10Xの方向にスリーブ体10Bを固定する。これにより、スリーブ体10Bの軸線10X方向のスライド動作が規制され、髄内釘本体110に対してスリーブ体10Bは軸線10X方向に固定された状態になる。このようなスリーブ体10Bの軸線10X周りの回転及び軸線10X方向のスライドが共に規制されたスライドロック状態は、図10及び図11に示すように、上記エンドキャップ125A及び125Bをその段差面125cが保持部材123の基端部に当接するまでねじ込むことにより、第1の係合部材121Aが降下して規制位置に配置され、この規制位置に応じた軸線100Xの方向の距離だけ先端面125e又は段差面125fが第1の係合部材121Aの基端部121gを押し下げたときに実現される。
本実施形態では、第1の軸状部材に相当する骨ねじ10が上記軸状本体10Aと上記スリーブ体10Bで構成される。この構成を採用する場合には、上述のようにスリーブ体10Bはスライドロック状態とされ、軸状本体10Aは軸線10X周りにはスリーブ体10Bによる規制で回転が規制されるものの、軸線10X方向にはスライド可能なスライドフリー状態になる。このとき、軸状本体10Aがスリーブ体10Bを介して髄内釘本体110に支持されるとともに、スリーブ体10Bが髄内釘本体110に対してスライドロック状態となることで、軸状本体10Aの基端がスリーブ体10B内の軸線10X方向のいずれの位置にあっても、軸状本体10Aを確実かつ充分に支持することができる。通常、手術が完了した時点では、軸状本体10Aの基端はスリーブ体10Bの基端よりも或る程度先端側に位置するようにスリーブ体10Bの内部に収容された状態とされる。この状態では、手術後に軸状本体10Aが基端側へスライディングしたときに、軸状本体10Aの基端が患者の外側へ突出(バックアウト)して軟部組織を刺激し疼痛を引き起こすといったことを防止できる。
本実施形態では、上記のように第1の係合部材121Aの骨ねじ10に対する係合態様は操作部材であるエンドキャップ125A、125Bによって制御される。このとき、第1の軸状部材に相当する骨ねじ10のスライドフリー状態とスライドロック状態のいずれの状態が実現されるかに拘わらず、これとは独立して、第2の係合部材121Bの骨ねじ20に対する係合態様を選択し、髄内釘本体110に対する骨ねじ20の非拘束状態と拘束状態のいずれかを実現することができる。図10はエンドキャップ125Aを用いた場合の骨ねじ20の非拘束状態を示す図であり、図11はエンドキャップ125Bを用いた場合の骨ねじ20の拘束状態を示す図である。
本実施形態では、エンドキャップ125Aで第1の係合部材121Aを規制位置に設定した場合、先端面125eが半径方向の内外に平坦であることから、第2の係合部材121Bの基端部121iは第1の係合部材121Aの基端部121gとほぼ同じ位置に配置される。このとき、図10に示すように、第2の係合部材121Bの先端係合部121kは骨ねじ20に当接しないか、或いは、当接してもほとんど拘束力を骨ねじ20に与えない係合態様(非拘束態様)とされる。この非拘束態様では、大腿骨骨頭部の位置変化に応じて骨ねじ10がスライド(バックアウト)したとき、骨ねじ20はこれに容易に追随できる非拘束状態となる。
一方、エンドキャップ125Bで第1の係合部材121Aを規制位置に設定した場合には、段差面125fが第1の係合部材121Aの基端部121gに当接するとともに、段差面125hが第2の係合部材121Bの基端部121iを第1の係合部材121Aの基端部121gよりも先端側(図示下方)へ押し下げる。これにより、図11に示すように、先端係合部121kは骨ねじ20の外面に当接し、上記弾性変形領域が弾性変形した状態で骨ねじ20を拘束する。このとき、骨ねじ20に与えられる拘束力は上記弾性変形領域の弾性復元力であるため、第2の係合部材121Bに対する先端係合部121kの規制位置が多少位置ずれを生じても、上記弾性変形領域の弾性変形範囲内であれば拘束力を或る程度の範囲内に維持することができる。この拘束態様において第2の係合部材121Bが骨ねじ20に与える拘束力は、例えば、大腿骨骨頭部から骨ねじ20が抜け落ちることを防止するが、手術時に骨折部分に圧縮力を与える際において、或いは、手術後の骨癒合過程において生ずる骨片間の接近に応じて、軸状本体10Aのスライドとともに骨ねじ20が外側へ移動可能となる程度に設定されることが好ましい。このようにすると、骨ねじ20に荷重が集中して折損を生ずるといった事故を回避できる。
なお、本実施形態の骨ねじ10とは異なり、第1の軸状部材を、図18に示すように、一体化された通常の骨ねじ(ラグスクリュー)10′で構成することもできる。図示例の骨ねじ10′は骨係合部11′及び軸部12′を有し、好ましくは係合凹溝17′(軸部12′の外面上に設けられる。)や、図示しない軸穴(軸線方向に貫通する貫通孔)、軸部12′の基端部に設けられたねじ穴や工具係合構造などを備える。ただし、図示の骨ねじ10′は一体型の軸状部材の一例に過ぎない。このように一体型の骨ねじ10′を用いる場合には、第1の係合部材121Aの先端係合部121bの係合凹溝17′に対する嵌合深さを調整することにより、スライドフリー状態とスライドロック状態とを選択して実現することができる。この場合、上記のように保持部材123の基端部に当接したとき(第1の係合部材121Aが規制位置に設定されたとき)にそれぞれスライドフリー状態になるエンドキャップとスライドロック状態になるエンドキャップとを別々に用意し、これらを選択して用いることもできる。ただし、骨ねじ10を用いる場合と骨ねじ10′を用いる場合のいずれにおいても、単一のエンドキャップを用いることとし、上記規制位置に到達するまでの範囲で手術時におけるエンドキャップの回転操作量を調整することによってスライドフリー状態とスライドロック状態を選択できるようにしてもよい。
また、第1の係合部材121Aの先端係合部121bによる骨ねじ10′に対する係合態様として、係合凹溝17′に浅く嵌入した状態とするスライドフリー態様と、係合凹溝17′の内面に強く当接した状態とするスライドロック態様とを選択することにより、骨ねじ10′のスライドフリー状態とスライドロック状態を選択的に実現することができる。このとき、先端係合部121bの係合凹溝17′に対する嵌入深さを調整して上記スライドフリー態様とスライドロック態様を選択するため、先端係合部121bの形状は全体にわたり上記第1の先端係合部位121baと同じにすることが好ましい。なお、このときには係合凹溝17′に上記係合構造18に相当する係合構造18′を設けなくてもよい。
一方、先端係合部121bに上記と同様に第1の先端係合部位121baと第2の先端係合部位121bbを設ける場合には、骨ねじ10′に上記係合構造18′(詳細は図示せず。)を形成する。図18には係合構造18′を明示していないが、この係合構造18′として、例えば、図16に示す係合凹溝17を基準にした係合構造18の位置、形状、形成範囲と全く同様の係合構造を、図18に示す係合凹溝17′を基準として形成することができる(図19参照)。この場合、スライドフリー状態とスライドロック状態を切り替え可能に構成するために、例えば、第1の先端係合部位121baが係合凹溝17′の内部に入り始める位置と、内部底面に当接する位置との間にあるときに、第2の先端係合部位121bbが係合構造18′に係合するように形成することができる。このとき、先端係合部121bの第1の先端係合部位121baが係合凹溝17′内に浅く嵌入したときには第2の先端係合部位121bbが係合構造18′には係合せず、上記スライドフリー態様が実現される。一方、第1の先端係合部位121baが係合凹溝17′内にさらに深く嵌入すると第2の先端係合部位121bbも係合構造18′に係合するようになるので、上記スライドロック態様が実現される。なお、上記のような構成は、骨ねじ10を用いるときにも同様に採用可能である。図示例においても厳密に言えば上記のようにスライドフリー態様とスライドロック態様とを選択して実現できる。
また、本実施形態とは異なり、第2の係合部材121Bに上記弾性変形領域を設けないようにしてもよい。この場合には、図10に示す非拘束態様と図11に示す拘束態様との選択とは異なり、第2の係合部材121Bにより与えられる拘束力が上記のような弾性復元力によるものではなくなるため、骨ねじ20が受ける拘束力は第2の係合部材121Bの先端係合部121kの規制位置に応じて大きく変化する。本発明においては特に限定されるものではないが、このような構成は上記のように一体型の骨ねじ10′を用いる場合に特に有用である。この場合には、骨ねじ10′をスライドフリー状態にしたときに骨ねじ20の拘束力を弱い状態とするために第2の係合部材121Bの係合態様を拘束態様とし、骨ねじ10′をスライドロック状態にしたときに骨ねじ20を拘束力の強い規制態様とすることが望ましい。
第1の軸状部材である骨ねじ10、10′はラグスクリューと呼ばれることがあり、骨折部を保持固定するに必要な保持力を得るための主体骨ねじを構成し、大腿骨の骨頭部のほぼ中心にねじ込まれる。本実施形態の骨ねじ10の場合には、図示のように相互に軸線10Xの方向にスライド可能に構成された軸状本体10Aとスリーブ体10Bとを設けるが、さらに圧縮スクリューを備えたものとすることもできる。もちろん、上述のように一体の骨ねじ10′を用いることもできる。ただし、本発明の第1の軸状部材は、上記の各種の骨ねじに限らず、骨内に打ち込まれて導入される釘状のもの、骨内に導入された後に先端の骨係合部が拡張して骨に係合するものなどであってもよい。
一方、骨ねじ20は、髄内釘本体110の第2の横断孔115及び第1の係合部材121Aの貫通開口部121cに挿通される。骨ねじ20はエクストラスクリューと呼ばれることがあり、上記骨頭部の内部に上記骨ねじ10と或る程度の間隔を有して平行にねじ込まれる。この場合には、骨ねじ20は骨頭部が上記骨ねじ10を中心に回旋することを防止する回旋防止用骨ねじとして機能する。骨ねじ20の軸部の断面の外縁形状は図示例では円弧状(円形状)に構成されるが、当該軸部は角断面を有するものであってもよく、或いは、第2の係合部材121Bの先端係合部121kを凹溝に係合する形状とした上で骨ねじ10、10′と同様に係合凹溝を備えたものとしてもよい。ただし、本実施形態では、第2の横断孔115に挿通された骨ねじ20の外周面に対して髄内釘本体110の軸穴113内から第2の係合部材121Bの先端係合部121kを当接させて拘束するようにし、特に弾性復元力によって押さえ付けることで拘束力を与えているため、係合時の接触面積を十分に確保して安定した拘束力を得る観点から見ると、骨ねじ20の外面は平滑な円筒面であることが好ましい。
以上説明した本実施形態では、以下の作用効果を奏する。まず、本実施形態では、第1の係合部材121Aと第2の係合部材121Bが軸穴113内において軸線100Xの方向に移動可能に保持される。そして、操作部材であるエンドキャップ125A、125Bが軸穴113内の雌ねじ118に螺合することによって、エンドキャップ125A、125Bが回転操作を受けたときに軸線100Xの方向に移動するように構成できる。そして、エンドキャップ125A、125Bに形成される第1の位置決め部位(図示例では先端面125eの外周側部分や段差面125f)が第1の対面部位(図示例では基端部121g)に当接して位置決めすることで、第1の係合部材121Aの軸線100Xの方向の位置を制御し得る(初期位置から規制位置に移動させ得る)。これにより、第1の係合部(図示例では先端係合部121b)による骨ねじ10のスリーブ体10Bに対する所望の係合態様(図示例ではスライドロック態様)が実現され、スリーブ体10Bを所望の状態(図示例ではスライドロック状態)とすることができる。
一方、操作部材に相当するエンドキャップ125A、125Bの第2の位置決め部位(図示例では先端面125eの上記外周側部分の内側に隣接する内周側部分や段差面125h)が第2の対面部位(図示例では基端部121i)に当接して位置決めすることで、第2の係合部材121Bの軸線100Xの方向の位置を制御し得る(初期位置から規制位置に移動させ得る)。これにより、第2の係合部(図示例では先端係合部121k)による骨ねじ20に対する所望の係合態様(図示例では非拘束態様又は拘束態様)が選択的に実現され、骨ねじ20を所望の状態(図示例では非拘束状態又は拘束状態)とすることができる。
したがって、第1の位置決め部位と第2の位置決め部位が適宜の位置関係にある操作部材(エンドキャップ125A、125B)を選定して用いることによって、第1の位置決め部位により定められる第1の係合部材121Aの位置と第2の位置決め部位によって定められる第2の係合部材121Bの位置とを独立して制御することができる。このため、二つの係合部材にそれぞれ対応する軸状部材に対する係合態様を相互に独立して設定することが可能になる。また、一つの操作部材(エンドキャップ)を用いるだけで二つの係合部材を制御してそれぞれに対応する軸状部材に相当する骨ねじ10、20に対する係合態様を容易に実現できるため、手術時の操作性を犠牲にすることもない。
なお、上記の作用効果は一体型の軸状部材に相当する骨ねじ10′を用いる場合でも同様であり、図示例では、制御部材に相当するエンドキャップを操作することで、第1の係合部材121Aの骨ねじ10′に対する係合態様をスライドフリー態様とするかスライドロック態様とするかを選択することができ、その結果、骨ねじ10′のスライドフリー状態とスライドロック状態を選択して実現することができる。また、同操作によって、第2の係合部材121Bの骨ねじ20に対する係合態様を拘束態様とするか規制態様とするかを選択することができ、その結果、骨ねじ20の拘束状態と規制状態とを選択して実現することができる。
次に、上記スリーブ体10Bと第1の係合部材121Aとの係合構造に関しては、以下のような課題があり、本実施形態では同課題を解決することで以下のような効果が得られる。まず、従来の構造では、スリーブの外面に軸線の周りを取り巻く環状溝や螺旋溝を軸線の方向に複数形成し、これらの環状溝や螺旋溝に係合部材の先端係合部を押し付けることで、スリーブを軸線周りの回転方向と軸線方向のスライド方向に固定する場合があった。しかし、この場合には、係合部材の先端係合部をスリーブに対して強く押し付けないと確実なスライドロック状態(特に回転方向の規制力)を得ることができない。このため、スリーブが係合部材から受ける押し付け力によって変形し、スリーブに対して軸状本体(ラグスクリュー)が軸線方向にスムーズにスライドしなくなる虞がある。一方、このようなことを回避するためにスリーブを肉厚に構成すると、軸状本体(ラグスクリュー)を小径に構成するか、或いは、髄内釘本体の第1の横断孔を大径に形成する必要があるため、軸状本体の折損、髄内釘本体の折損、髄内釘の大径化による手術時における患者の負担増大などを招く虞がある。
本実施形態では、第1の軸状部材に相当する骨ねじ10において、スリーブ体10Bの外面には、第1の係合部材121Aの先端係合部121bに対して軸線10Xの周りを回転する方向に係合可能な係合凹溝17とともに軸線10Xに沿った方向に係合可能な係合構造18が設けられる。これにより、先端係合部121bでスリーブ体10Bを軸線10Xの周りを回転する方向と軸線10Xに沿った方向の双方に確実に固定することができる。したがって、従来のようにスリーブ体10Bに過剰な押圧力を加えなくても規制状態を実現できるため、スリーブ体10Bが第1の係合部材121Aの先端係合部121bにより強く押圧されて変形し、これによって軸状本体10Aのスライド動作が妨げられたり、或いは、上記変形を回避するためにスリーブ体10Bを厚く形成することで、軸状部材のコンパクト化が妨げられ、器具の破損や患者に与える手術負担の増大を招いたりすることを回避できる。特に、係合凹溝17の底はスリーブ10Bの他の部分よりも薄肉に構成され変形しやすいので、上記構成は効果的である。
また、係合構造18は、係合凹溝17の底ではなく、より厚肉に構成される係合凹溝17の両側部に設けられているため、スリーブ10Bの変形抑制効果はより高くなる。ここで、図示例では係合構造18が係合凹溝17の内外にわたって(特に係合凹溝17の幅方向の縁部に)形成されているが、このようにすると、係合構造18の凹所における肉厚の低下を抑制しつつ、係合構造18の凹凸の高低差を十分に確保し、より確実な係合状態が得られるように構成できる。特に、図示例のように係合構造18を係合凹溝17の両側縁部に形成された幅方向の溝(図示例ではV溝だが、U溝、凹溝であってもよい。)で形成すると、係合構造18を設けるために周囲よりも外径が大きくなる突出部分が不要となるため、上記変形抑制効果を確保しつつ、スリーブ10Bの外径寸法の低減をさらに図ることができる。また、図示例の係合構造18は単なる溝加工だけで形成できるため、製造コストも低減できる。さらに、本実施形態では、第1の係合部材121Aの先端係合部121bに上記係合凹溝17に係合可能な第1の先端係合部位121baと、上記係合構造18に係合可能な第2の先端係合部位121bbを別々に設けることにより、それぞれに対応する係合方向の係合態様を確実に実現することができる。
また、本実施形態において、第1の先端係合部位121baが係合凹溝17に対して軸線10Xの周りを回転する方向に係合するために必要な第1の係合部材121Aの軸線100Xの方向の位置範囲を、第2の先端係合部位121bbが係合構造18に対して軸線10Xの方向に係合するために必要な第1の係合部材121Aの軸線100Xの方向の位置範囲よりも、近位側(図示上方)に広く確保することが好ましい。このようにすると、第1の先端係合部位121baだけが係合凹溝17に係合して第1の軸状部材の回転を規制するがスライドは可能とするスライドフリー態様と、第1の先端係合部位121baが係合凹溝17に係合するとともに第2の先端係合部位121bbが係合構造18に係合して第1の軸状部材の回転とともにスライドも規制するスライドロック態様とを選択的に実現することが可能になる。この構成は、上記第1の軸状部材として、骨ねじ10(スリーブ体10B)を用いる場合に限らず、一体の骨ねじ10′を用いる場合にも適用できる。
図18に示す骨ねじ10′に係合凹溝17′とともに係合構造18′を形成する場合にも、従来の一体型ラグスクリューに対して有利な効果を得ることができる。例えば、係合凹溝17′のみが形成されているラグスクリューの場合には、係合部材を係合凹溝の内部底面に強く押し当てることでスライドロック状態にすることは可能であるが、手術後にも確実にスライドロック状態を維持するには手術時において過剰な押圧力を与えておく必要がある。この過剰な押圧力が実際の手術現場で充分に実現されていることを確認するのは極めて困難であり、その結果、係合部材の押圧力が不足することにより手術後にラグスクリューがスライドしたときにセットスクリュー(係合部材)やエンドキャップに働いていたねじの軸力が解放され、セットスクリューやエンドキャップが緩んで浮く、或いは、脱落してしまうといった事態が発生しやすい。しかも、このようになるとラグスクリューの軸線方向の規制力は先端側と基端側のいずれの向きについても完全に失われる。しかしながら、本実施形態のように骨ねじ10′に係合凹溝17′とともに係合構造18′を形成した場合には、第2の先端係合部位121bbが係合構造18′に係合することで、過剰な押圧力に頼らずにスライドロック状態を確実に実現でき、手術後のスライドも生じない。特に、本実施形態の場合には、骨ねじ10′を軸線方向の先端側と基端側の双方に確実に固定できる。
また、特開平10−66698号公報に記載されているような一体型ラグスクリューにおいては、軸線方向に延長された係合凹溝の内部底面が軸線方向の先端側(大腿骨の骨頭部側)へ向けて半径方向内側(下方)へ傾斜した構造を備えている。これに類似した構造として特開2009−148318号公報に記載されているように係合凹溝の溝幅を軸線方向の先端側へ向けて広げた構造も知られている。これらのタイプの従来の係合凹溝の場合には、セットスクリュー(係合部材)の先端係合部を係合凹溝の内部底面や内部側面に押し当てることで、ラグスクリューが先端側へは移動せず、基端側へはスライド可能な状態にすることができる。しかし、この構成でセットスクリューを強くラグスクリューに押し当てると、ラグスクリューには基端側へスライドする力が働くので、ラグスクリューをスライドロック状態にすることは本来的に不可能である。また、一旦、ラグスクリューが基端側へスライドしてしまうと、ラグスクリューの軸線方向の規制力は失われ、ラグスクリューの先端側へのスライドも発生しうる状態になる。これに対して、本実施形態では、上述のようにスライドロック状態を容易かつ確実に実現できる。また、仮に骨ねじ10′に基端側へのスライドが生じても、係合構造18′は軸線方向に連続して形成されているため、骨ねじ10′の軸線方向の規制力が失われることはない。
図19に示すように、本実施形態では、スリーブ体10B又は骨ねじ10′の外面上に形成された溝18a又は18a′に第2の先端係合部位121bbが係合することにより、スリーブ体10B又は骨ねじ10′はその軸線方向に規制された状態となる。図示例では、係合構造18又は18′の各溝18a又は18a′において軸線方向両側に形成された斜面は軸線に対して等角度に構成される。また、第2の先端係合部位121bbの先端縁の両側の傾斜角度も上記軸線に対して等角度に構成される。このため、第2の先端係合部位121bbが溝18a又は18a′に嵌合したとき、スリーブ体10B又は骨ねじ10′の軸線方向両側へのスライドに対する規制力は基本的に相互に等しい。
しかし、溝18a又は18a′の軸線方向両側の斜面の角度を異なる角度に設定することにより、或いは、第2の先端係合部位121bbの先端縁の両側の傾斜角度を異なる角度に設定することにより、さらには、両者における相対的な角度関係を両側で異なる関係にすることにより、スリーブ体10B又は骨ねじ10′の軸線方向両側へのスライドに対する規制力に差を付けることも可能である。例えば、溝18a又は18a′の軸線方向先端側の斜面の角度を軸線方向基端側の斜面の角度よりも小さくすることにより、或いは、第2の先端係合部位121bbの先端縁の骨ねじ先端側の傾斜角度を骨ねじ基端側の傾斜角度よりも小さくすることにより、骨ねじ10′の軸線方向先端側へのスライド抵抗は強く、軸線方向基端側へのスライド抵抗は弱くすること、或いは、骨ねじ10′の先端側へのスライドを規制しつつ基端側へのスライドを可能にするといったことも可能になる。このとき、複数の溝18a又は18a′が軸線方向に連続して形成されていることで、骨ねじ10′が基端側へスライドした後でも、そのスライド位置において先端側へ復帰する方向のスライド動作を規制することができ、また、骨ねじ10′の軸線方向への規制力が失われることもないという点で、上記従来技術よりも有利な効果を奏する。
以上説明した実施形態では、軸穴113内に予め収容した第1の係合部材121A及び第2の係合部材121Bに対して操作部材(エンドキャップ125A又は125B)を後から挿入し、ねじ込むようにしているため、操作部材の選択使用や手術中の交換が可能になる。しかし、操作部材を予め軸穴113内に収容しておくとともに、当該操作部材を第1の係合部材121A及び第2の係合部材121Bと予め対面させておくことも可能である。この場合には、当初は、第1の係合部材121A及び第2の係合部材121Bは当該操作部材の作用を受けずに、(例えば弾性部材122Aと保持部材123により)それぞれ初期位置に配置される。なお、保持部材123を省略して第1の係合部材121Aを操作部材と弾性部材122Aによって初期位置に位置決めしてもよい。また、予め軸穴113内に収容される上記操作部材は、第1の係合部材121Aと第2の係合部材121Bのうちいずれか一方の係合部材に対して予め連結されたものとなっていてもよい。ただし、このときには、操作部材と上記一方の係合部材を一体として選択使用し、或いは、交換する必要がある。
なお、本発明の髄内固定システムは、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、第1の係合部材121Aにおいて孔形状を有する貫通開口部121cを形成しているが、この貫通開口部121cを形成する代わりに、第1の係合部材121Aの先端側を二股状に構成して、その二股間に、先端側が開放された形状の貫通開口部を形成してもよい。また、実施形態では第1の係合部材121Aの内部に第2の係合部材121Bを収容しているが、これとは逆に、第2の係合部材121Bの内部に第1の係合部材121Aを収容してもよい。さらに、上記実施形態では、操作部材に相当する各エンドキャップ125A、125Bを一体部品で構成し、第1の位置決め部位と第2の位置決め部位の位置、形状、構造等の関係を一定としているが、操作部材をねじ等による組立体で構成することによって上記関係を変更、調整できる構造としてもよい。なお、エンドキャップとは別に軸穴113内に操作部材を予め収容しておき、この操作部材を工具などによって外部より操作できるように構成し、その操作後に、必要に応じて上記の別のエンドキャップを髄内釘本体110に装着するようにしてもよい。
また、上記の骨ねじ10において、軸状本体10Aとスリーブ体10Bの挿通構造は特に限定されるものではなく、相互にスライド可能に構成されるものであれば如何なる構造であってもよい。例えば、上記実施形態では、軸状本体10Aとスリーブ体10Bの貫通孔10Baとがスライド範囲の全体にわたって相互に回転規制される構造となっているが、スライド範囲の一部では相互に回転が可能となるように構成され、スライド範囲の他の部分で相互に回転が規制される構造となっていてもよい。本実施形態においては、スリーブ体10Bの外面形態のうち、本質的形態として係合凹溝17と係合構造18に係る部分のみが重要であり、他の外面形状は、スリーブ体10Bが髄内釘本体110の第1の横断孔14に挿通可能であるものであれば、任意である。また、第1の係合部材121Aの先端係合部121bの形状については、図示例のように係合凹溝17、17′に係合する第1の先端係合部位121baと、係合構造18、18′に係合する第2の先端係合部位121bbとが別々に設けられているが、係合凹溝17、17′と係合構造18、18′の双方に係合する共通の先端係合部121bを形成してもよい。例えば、図示例の第1の先端係合部位121baの幅方向両側に、図示例の第2の先端係合部位121bbのような幅方向に伸びる稜線状の係合部を一体に形成することも可能である。また、先端係合部の形状を、第1の先端係合部位121baのような幅方向に沿った輪郭形状を有すると同時に、第2の先端係合部位121bbのように幅方向に沿って伸びる稜線状の先端縁を有するものとすることも可能である。さらに、第1の係合部材の先端係合部位において、上記第2の先端係合部位121bbのような単なる突起ではなく、第1の軸状部材の軸線方向に配列された凹凸形状を備えた係合構造を設けてもよい。