次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、図1を参照して、本発明に係る実施形態の骨固定システムの全体構成について説明する。
この実施形態では、図1に示すように、インプラント本体を構成する髄内釘本体1と、この髄内釘本体1の基端部1aの内部に形成された内腔1cに収容される係止構造体を構成するインサート2と、髄内釘本体1の内腔1cにインサート2を配置した状態で、髄内釘本体1の基端部1a寄りの基端側領域に形成された横断孔1d、1e、1f、1g、1hに挿通する固定ピンを構成する骨ねじ3とを備えている。なお、図2(a)に示すように、髄内釘本体1の末端部1b寄りの末端側領域にも、横断孔1i,1jが形成されている。
髄内釘本体1は、基端部1aから末端部1bまで軸線1xに沿って延長された形状を備える。また、基端部1aに開口し、末端部1bに向けて伸びる内腔1cを備えている。内腔1cは、基端部1aから基端側領域内に伸びる形状に形成される。本実施形態では、図2に示すように、内腔1cは末端部1bまで貫通する軸孔として形成されている。また、内腔1cは、基端部1a寄りの基端側領域において大きな内径を備え、末端部1b寄りの末端側領域において小さな内径を備える。
なお、本実施形態では、各部品の基端(部)と末端(部)は、所定の適用部位に対しては、医学的な近位(部)と遠位(部)に対して所定の対応関係を持つ場合があるが、これに限定されるものではなく、種々の適用部位に応じて上記の対応関係は種々に設定される。また、各部品の基端(部)と末端(部)の名称は便宜上のものであり、一方の端(部)と他方の端(部)以上の意義を有しない。
髄内釘本体1には、上記内腔1cを介して軸線1xと交差する方向に骨ねじ3を挿通可能な横断孔1d,1e、1f,1g,1hを上記基端側領域に備えている。これらの横断孔1d,1e、1f,1g,1hは、上記内腔1cを挟んでその両側に相互に対向して配置された一対の孔を壁部に形成することによって構成される。これらの横断孔の軸線1dx,1ex,1fx,1gx,1hxは、軸線1xと交差する方向であれば種々の方向に設定されており、図示例のように、軸線1xと直交する平面内において相互に直交したり平行であったり傾斜したりする軸線1dx,1ex,1fx,1gxを有するものもあり、軸線1hxのように軸線1xに対して傾斜方向に交差するものもあるなど、相互に直交したり、相互に傾斜したりする各種の横断方向を適宜に備えることができる。また、横断孔は、図示例とは異なり、軸線1xからオフセットした位置を貫通するように形成されていてもよい。この横断孔に挿通される骨ねじ(固定ピン)の中心軸線は、髄内釘本体1の軸線1xから外れた位置を通過することとなる。このような横断孔を設けることにより、システムによる種々の骨折態様への対応性の向上を図ることができる。
上記基端側領域の内腔1cには係止構造体であるインサート2が収容される。インサート2は、基端部2aと末端部2bを備え、軸線2xに沿って貫通する軸孔2cを備える。この軸孔2cはガイドワイヤーを挿通するための孔である。また、インサート2は、上記横断孔1d,1e、1f,1g,1hに対応する開口域2d,2e、2f,2g,2hを備えている。そして、これらの開口域2d,2e、2f,2g,2hを髄内釘本体1の上記横断孔1d,1e、1f,1g,1hに整合するように、インサート2の髄内釘本体1の軸線1xの方向の位置を合わせたとき、相互に対応する上記横断孔と上記開口域に後述する骨ねじ3を挿通させることができるように構成されている。上記開口域の軸線2dx,2ex、2fx,2gx,2hxは、上記横断孔の軸線1dx,1ex、1fx,1gx,1hxと対応する軸線1x方向の位置、貫通方位及び相互間隔を備えている。
図2に示すように、インサート2は、内腔1cの上記基端側領域と上記末端側領域の境界位置に形成された内側段部1cdとの間に介挿された弾性部9A(コイルばね)により、軸線1xの方向の基端側へ向けて付勢されている。また、髄内釘本体1の内腔1cの基端部1aの開口に近い位置には環状溝が形成され、この環状溝には中央に開口を備えた保持部(止め輪)9Bが嵌入されている。この保持部9Bは、インサート2の基端部2aを係止し、弾性部9Aによって基端側に向けて付勢されたインサート2を軸線1xの方向の所定範囲内に保持する。さらに、髄内釘本体1の基端部1aの開口に近い内周面には雌ねじ1caが形成され、この雌ねじ1caに螺合可能に構成された雄ねじ9cbを備えた操作部(エンドキャップ)9Cを有する。この操作部9Cが上記雌ねじ1caにねじ込まれると、その駆動面9ctがインサート2の基端部2a(上記保持部9Bの中央の開口によって露出した部分)を末端側へ押し下げるので、インサート2は弾性部9Aの弾性力に抗して、弾性部9Aを押し縮めながら、軸線1xの末端側へ向けて動作(移動)する。上記弾性部9A、保持部9B及び操作部9Cは、髄内釘本体1に対するインサート2の軸線1xの方向の動作位置を設定する位置設定手段9を構成する。
なお、図2(a)は、操作部9Cの駆動力を受けずに、インサート2が弾性部9Aと保持部9Bによって定められる初期位置に配置されている解放状態を示し、図2(b)は、操作部9Cの駆動力により、インサート2が上記初期位置から末端側へ動作(移動)し、所定の動作位置で図示しない骨ねじ3を髄内釘本体1との間で保持した固定状態を示している。本実施形態の位置設定手段9は、インサート2を軸線1xの方向の末端側に向けて動作させるとともに、所定の動作位置で固定する。
インサート2は、軸線2xを軸線1xに沿って配置する姿勢で内腔1cに配置される。このとき、インサート2は、図2及び図3に示すように、複数の係止部材4、5、6、6、7、8が軸線2xに沿って配列された状態により構成される。複数の係止部材4〜8は図3に示す構造を備え、相互に軸線2xの方向に当接した状態で、上記位置設定手段9の上記操作部9Cから受ける駆動力を軸線2xに沿った方向に伝えることができるように構成される。
係止部材4は、リング状の平坦面を備える基端部4a(これはインサート2の基端部2aと一致する。)と、基端部4aの軸線2xに沿った反対側にある末端部4bとを有する。この末端部4bは、基端部4aの対向する一対の外縁部分から軸線2xに沿った方向にそれぞれ突出する一対の弾性係合部4c,4cの先端となっている。上記基端部4aの内側には軸線2xに沿って貫通する軸孔4dが形成されている。なお、軸孔4dは、後述する軸孔5d、6d、7d、8dとともにインサート(係止構造体)2の軸孔2cを構成する。弾性係合部4cは、軸線2xの周りに沿った板状の断面を有し、軸線2xに沿った方向に突出している。基端部4aの外周側には、段差部を介して一段低くなったリング状の被保持部4gが設けられ、この被保持部4gは上記内腔1c内において上記保持部9Bの開口に臨む内縁9baに嵌合し、これによってインサート2が保持部9Bの下方に保持された状態とされている。なお、被保持部4gが保持部9Bの開口内(特に、上部開口縁に近い位置)に設けられた上記内縁9baと係合することにより、保持部9B及びインサート2の個々の軸線1xの方向の寸法を或る程度確保して保持部9Bの安定性やインサート2の保持性を確保しつつ、保持部9B及びインサート2の組立体全体の軸線1xの方向の寸法の小型化(省スペース化)を図ることができる。上記基端部4a及び被保持部4gの裏側であって、上記一対の弾性係合部4cが形成されていない一対の角度領域には、弧状帯形の荷重伝達部4eが設けられている。
係止部材5は基端部5aと末端部5bを有し、基端部5aは、上記係止部材4の荷重伝達部4eに当接する一対の平坦面を有する。この基端部5aは、上記一対の弾性係合部4cを拘束しないように余裕を持って受け入れるための収容凹部5jが設けられることによって二つに分断された端面部分である。係止部材5には、一対の弾性係合部5c,5cと、これらの弾性係合部5cの先端に設けられた末端部5bと、軸線2xに沿って貫通する軸孔5dとを有している。また、上記収容凹部5jと直交する方位に開口する開口域2dを有する。この開口域2dは、前述のように、軸線1xと直交する平面上を伸びる軸線2dxを備え、髄内釘本体1の横断孔1dと対応する位置に配置されることにより、骨ねじ3を挿通可能にする。
係止部材4の上記荷重伝達部4eが係止部材5の基端部5aに当接した状態で、係止部材5の収容凹部5jは係止部材4の一対の弾性係合部4c,4cを収容し、かつ、弾性係合部4cが係止部材5により拘束されずに弾性変形できるようにする。このとき、一対の弾性係合部4c,4cの相互に対向する内側面は、上記開口域2dに両側から臨むように配置される。この係止部材5においては、弾性係合部5cは、収容凹部5jに対して、軸線2xに沿って基端部2aの側から末端部2bの側へ見たときに軸線2xを中心として時計回りに角度θ1(例えば、30度)だけ回転した位置に形成されている。このため、係止部材5の一対の上記弾性係合部5c,5cは、上記係止部材4の弾性係合部4cに対して、上記と同じ向きに見たときに、軸線2xを中心とした時計回りに角度θ1だけ回転した位置に形成されることとなる。
係止部材6は、基端部6aと末端部6bを有し、基端部6aは、上記係止部材5の荷重伝達部5eに当接する一対の平坦面を有する。この基端部6aは、上記一対の弾性係合部5cを拘束しないように余裕を持って受け入れるための収容凹部6jが設けられることによって二つに分断された端面部分である。係止部材6には、一対の弾性係合部6c,6cと、これらの弾性係合部6cの先端に設けられた末端部6bと、軸線2xに沿って貫通する軸孔6dとを有している。また、上記収容凹部6jと直交する方位に開口する開口域2eを有する。この開口域2eは、前述のように、軸線1xと直交する平面上を伸びる軸線2exを備え、髄内釘本体1の横断孔1eと対応する位置に配置されることにより、骨ねじ3を挿通可能にする。
なお、係止部材6は、図3に示す姿勢から、上記の係止部材5の上記収容凹部5jと弾性係合部5cとの角度関係により基端側から末端側へ見たときに時計回りに角度θ1だけ回転した姿勢で、上記係止部材5に対して嵌合する。したがって、開口域2eの軸線2exは、上記係止部材5に設けられた開口域2dの軸線2dxに対して、同じ方向に見たときに時計まわりに角度θ1だけ回転した姿勢となる。
係止部材5の上記荷重伝達部5eが係止部材6の基端部6aに当接した状態で、係止部材6の収容凹部6jは係止部材5の一対の弾性係合部5c,5cを収容し、かつ、弾性係合部5cが係止部材6により拘束されずに弾性変形できるようにする。このとき、一対の弾性係合部5c,5cの相互に対向する内側面は、上記開口域2eに両側から臨むように配置される。この係止部材6においては、弾性係合部6cは、収容凹部6jに対して、軸線2xに沿って基端部2aの側から末端部2bの側へ見たときに軸線2xを中心として時計回りに角度θ2(例えば、60度)だけ回転した位置に形成されている。このため、係止部材6の一対の上記弾性係合部6c,6cは、上記係止部材5の弾性係合部5cに対して、上記と同じ向きに見たときに、軸線2xを中心とした時計回りに角度θ2だけ回転した位置に形成されることとなる。
係止部材6は、上記の係止部材6の末端側にもう一つ配置される。この末端側の係止部材6も基端部6aと末端部6bを有し、基端部6aは、上記基端側の係止部材6の荷重伝達部6eに当接する一対の平坦面を有する。この基端部6aは、上記一対の弾性係合部6cを拘束しないように余裕を持って受け入れるための収容凹部6jが設けられることによって二つに分断された端面部分である。係止部材6は、一対の弾性係合部6c,6cと、これらの弾性係合部6cの先端に設けられた末端部6bと、軸線2xに沿って貫通する軸孔6dとを有している。また、上記収容凹部6jと直交する方位に開口する開口域2fを有する。この開口域2fは、前述のように、軸線1xと直交する平面上を伸びる軸線2fxを備え、髄内釘本体1の横断孔1fと対応する位置に配置されることにより、骨ねじ3を挿通可能にする。
基端側の係止部材6の上記荷重伝達部6eが末端側の係止部材6の基端部6aに当接した状態で、末端側の係止部材6の収容凹部6jは基端側の係止部材6の一対の弾性係合部6c,6cを収容し、かつ、この弾性係合部6cが末端側の係止部材6により拘束されずに弾性変形できるようにする。このとき、基端側の係止部材6の一対の弾性係合部6c,6cの相互に対向する内側面は、上記開口域2fに両側から臨むように配置される。
なお、末端側の係止部材6は、図3に示す姿勢から、上記の基端側の係止部材6の上記収容凹部6jと弾性係合部6cとの角度関係により、基端側から末端側へ見たときに時計回りに角度θ2だけ回転した姿勢で、上記基端側の係止部材6に対して嵌合する。したがって、開口域2fの軸線2fxは、上記基端側の係止部材6に設けられた開口域2eの軸線2exに対して、同じ方向に見たときに時計回りに角度θ2だけ回転した姿勢となる。したがって、軸線2fxは、開口域2dの軸線2dxに対して、同じ方向に見たときに時計回りに角度θ1+θ2(図示例では90度)だけ回転した姿勢となる。
この末端側の係止部材6においては、弾性係合部6cは、収容凹部6jに対して、軸線1xに沿って基端部2aの側から末端部2bの側へ見たときに軸線2xを中心として時計回りに角度θ3(例えば、60度、図示例では角度θ2と同じ。)だけ回転した位置に形成されている。このため、末端側の係止部材6の一対の上記弾性係合部6c,6cは、上記基端側の係止部材6の弾性係合部6cに対して、上記と同じ向きに見たときに、軸線2xを中心とした時計回りに角度θ3だけ回転した位置に形成されることとなる。
係止部材7は、基端部7aと末端部7bを有し、基端部7aは、上記末端側の係止部材6の荷重伝達部6eに当接する一対の平坦面を有する。この基端部7aは、上記一対の弾性係合部6cを拘束しないように余裕を持って受け入れるための収容凹部7jが設けられることによって二つに分断された端面部分である。係止部材7には、一対の弾性係合部7c,7cと、これらの弾性係合部7cの先端に設けられた末端部7bと、軸線2xに沿って貫通する軸孔7dとを有している。また、上記収容凹部7jと直交する方位に開口する開口域2gを有する。この開口域2gは、前述のように、軸線2xと直交する平面上を伸びる軸線2gxを備え、髄内釘本体1の横断孔1gと対応する位置に配置されることにより、骨ねじ3を挿通可能にする。
末端側の係止部材6の上記荷重伝達部6eが係止部材7の基端部7aに当接した状態で、係止部材7の収容凹部7jは末端側の係止部材6の一対の弾性係合部6c,6cを収容し、かつ、この弾性係合部6cが係止部材7により拘束されずに弾性変形できるようにする。このとき、末端側の係止部材6の一対の弾性係合部6c,6cの相互に対向する内側面は、上記開口域2gに両側から臨むように配置される。
なお、この係止部材7は、図3に示す姿勢から、上記の末端側の係止部材6の上記収容凹部6jと弾性係合部6cとの角度関係により、基端側から末端側へ見たときに時計回りに角度θ3だけ回転した姿勢で、上記末端側の係止部材6に対して嵌合する。したがって、開口域2gの軸線2gxは、上記末端側の係止部材6に設けられた開口域2fの軸線2fxに対して、同じ方向に見たときに時計回りに角度θ3だけ回転した姿勢となる。したがって、軸線2gxは、開口域2dの軸線2dxに対して、同じ方向に見たときに時計回りに角度θ1+θ2+θ3(図示例では150度)だけ回転した姿勢となる。
この係止部材7においては、弾性係合部7cは、収容凹部7jに対して、軸線1xに沿って基端部2aの側から末端部2bの側へ見たときに軸線2xを中心として時計回りに角度θ4(例えば、30度)だけ回転した位置に形成されている。このため、係止部材7の一対の上記弾性係合部7c,7cは、上記末端側の係止部材6の弾性係合部6cに対して、上記と同じ向きに見たときに、軸線2xを中心とした時計回りに角度θ4だけ回転した位置に形成されることとなる。
係止部材8は、基端部8aと末端部8bを有し、基端部8aは、上記係止部材7の荷重伝達部7eに当接する一対の平坦面を有する。この基端部8aは、上記一対の弾性係合部7cを拘束しないように余裕を持って受け入れるための収容凹部8jが設けられることによって三つに分断された端面部分である。係止部材8には、軸線2xに沿って貫通する軸孔8dと、上記収容凹部8jと直交する方位に開口する開口域2hとが設けられる。この開口域2hは、前述のように、軸線2xと直交する平面に対して傾斜する軸線2hxを備え、髄内釘本体1の横断孔1gと対応する位置に配置されることにより、骨ねじ3を挿通可能にする。
係止部材7の上記荷重伝達部7eが係止部材8の基端部8aに当接した状態で、係止部材8の収容凹部8jは係止部材7の一対の弾性係合部7c,7cを収容し、かつ、この弾性係合部7cが係止部材8により拘束されずに弾性変形できるようにする。このとき、係止部材7の一対の弾性係合部7c,7cの相互に対向する内側面は、上記開口域2hに両側から臨むように配置される。
なお、この係止部材8は、図3に示す姿勢から、上記の係止部材7の上記収容凹部7jと弾性係合部7cとの角度関係により、基端側から末端側へ見たときに時計回りに角度θ4だけ回転した姿勢で、上記係止部材7に対して嵌合する。このため、開口域2hの軸線2hxは、上記係止部材7に設けられた開口域2gの軸線2gxに対して、同じ方向に見たときに時計回りに角度θ4だけ回転した姿勢となる。したがって、軸線2hxは、開口域2dの軸線2dxに対して、同じ方向に見たときに時計回りに角度θ1+θ2+θ3+θ4(図示例では180度)だけ回転した姿勢となる。
この係止部材8においては、弾性係合部は形成されず、軸線2xに沿って末端側へ突出した他の部分よりも小径の軸部として構成された上記末端部8bが形成され、これが上記末端部2bとなっている。また、係止部材8の上記末端部8b以外の大径部分(基端側部分)の外周には軸線2xに沿って伸びる縦溝8kが形成され、この縦溝8kには髄内釘本体1に固定された係止ピン8p(図2参照)の内端部が嵌合する。これにより、内腔1c内で係止部材8の軸線1x周りの回転が防止されるが、軸線1xに沿った方向にはスライド可能に構成される。さらに、末端部8bとそれ以外の外径部分(基端側部分)の間には環状の段差面が形成され、この段差面が上記弾性部9Aが当接する被支持部8gとなっている。なお、縦溝8kと係止ピン8pによる回転規制は、弾性係合部4c〜7cと収容凹部5j〜8jの嵌合構造により、係止部材4〜7の軸線周りの回転をも規制するので、インサート2全体の軸線1x周りの回転が規制される。
上記インサート2は、前述のように係止部材4,5,6,6,7,8が相互に積層されることによって構成される。このとき、最も基端側の係止部材4の基端部4aと荷重伝達部4eとの間、係止部材5の基端部5aと荷重伝達部5eとの間、係止部材6の基端部6aと荷重伝達部6eとの間、係止部材7の基端部7aと荷重伝達部7eとの間、最も末端側の係止部材8の基端部8aと被支持部8gとの間には、それぞれ、各係止部材において軸線2xに沿った方向に連続して伸びる支柱構造部4f,5f,6f,7f,8fが設けられている。なお、上記の支柱構造部が連続して伸びるとは、開口域や収容凹部などの空隙を介在させずに延長されるという意味である。これらの支柱構造部4f,5f,6f,7f,8fにより、上述のように、収容凹部5j,6j,7j,8jや開口域2d,2e,2f,2g,2hが設けられていても、操作部9Cの駆動力を減衰させずに確実にインサート2の全体に伝達することができ、その結果、各弾性係合部4c、5c、6c、7cを確実に骨ねじ3に係合させることができる。
インサート2に設けられた複数の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、それぞれ、インサート2の上記開口域2d,2e,2f,2g,2hにおいて、それぞれ対応する位置において同じ形状(構造)となるように設けられている。これは、いずれの弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cも、髄内釘本体1の上記横断孔1d,1e,1f,1g,1h、及び、これに対応する上記開口域2d,2e,2f,2g,2hに挿通される骨ねじ3の軸部3bに係合することにより、骨ねじ3を髄内釘本体1に対して同時に同じ態様で固定することができるようにするためである。
図2に示すように、操作部9Cが雌ねじ1caにねじ込まれると、その駆動面9ctが保持部9Bの開口内に露出する係止部材4の基端部4aに当接し、インサート2を軸線方向の末端側へ向けて押し下げる。すると、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、軸線1xの方向の末端側へ向けて動作することにより、図1(c)、(d)及び(e)に示すように、髄内釘本体1の上記横断孔1d,1e,1f,1g,1h、及び、これに対応する上記開口域2d,2e,2f,2g,2hに挿通される骨ねじ3の軸部3bに係合し、その突出方向に沿った形状が曲折する態様で弾性変形する。これによって、骨ねじ3は、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cから、軸線1xの方向の末端側に向けた押圧力を受けるとともに、軸部3bの半径方向の内側に向けた弾性復元力(挟圧力)を受ける。一方、骨ねじ3は、髄内釘本体1の上記横断孔1d〜1hに挿通されているため、横断孔1d〜1hの開口縁によって軸線1xの方向の末端側から支持される。したがって、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cと、横断孔1d〜1hの開口縁との間に挟持されることにより、骨ねじ3は、髄内釘本体1に対して固定される。
弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、位置設定手段9によりインサート2が所定の向き(軸線1xの方向の末端側)に動作(移動)するとともに所定の動作位置に設定されると、骨ねじ3に対して上述のように係合し、骨ねじ3を髄内釘本体1に固定するように構成されていればよい。したがって、弾性係合部としては、図示例のように軸線2xに沿って伸びるものに限らず、これと直交する方向や傾斜する方向に伸びるように形成されたものでもよい。また、図示例のように軸線2xの方向の末端側に向けて伸びるものに限らず、逆に基端側に向けて伸びるものであってもよい。さらに、図示例のように突出した先に拘束されない先端部を有するものに限らず、例えば、或る箇所から延在して他の箇所に接続するブリッジ状の構造を備え、その中間部位が骨ねじ3に当接するものであっても構わない。
弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、図示例のように自由端である先端部を備えたものである場合においても、直線的に突出するだけでなく、複数の方向(枝分かれ状)に伸びたり、湾曲したり、屈折したりするものであってもよい。すなわち、突出方向は一つに限らず、一定方向でなくてもよい。いずれにしても、インサート2の周囲部分から分離して突出し、自由端である先端部を備える形状(構造)により、弾性変形が容易化され、骨ねじ3に多用な態様で係合させることが可能になるため、骨ねじ3を髄内釘本体1との間において種々の態様で固定することができる。なお、この場合でも、固定ピン(骨ねじ3)に対する当接箇所は、図示例のように弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの先端部である必要はなく、先端部以外の中途部分であってもよい。
弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、骨ねじ3に係合したときに、その少なくとも一部が弾性変形する。例えば、本実施形態の場合には、図1(d)及び(e)に示すように、インサート2が軸線1xの末端側(図示下側)へ移動することにより、一対の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの先端部(末端部4b,5b,6b,6b,7b)が骨ねじ3の中心軸線3xから両側へずれた位置にそれぞれ当接してから、インサート2がさらに同じ向きに動作すると、それぞれが骨ねじ3の軸部3bの半径方向外側へ、すなわち、図示の左右両側へ、突出方向に沿った形状が曲折する態様で弾性変形する。すなわち、本実施形態では、インサート2が所定の向き(軸線1xの方向の末端側)に動作すると、骨ねじ3に係合したときに弾性係合部が上記の突出方向に沿った形状が曲折する態様で弾性変形するため、上記所定の向きの弾性変形量は僅かであり、上記所定の向き以外の他の向き(骨ねじ3の半径方向外側)において主体的に弾性変形する。もっとも、本発明では、これとは逆に、上記所定の向きの弾性変形が主体的であり、それ以外の向きの弾性変形量が少なくても構わない。
このとき、上記弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、固定ピンである骨ねじ3に対して、所定の向き(弾性係合部の移動方向、本実施形態では軸線方向であり、かつ、弾性係合部の突出方向と一致する。)と、当該所定の向き及び骨ねじ3の中心軸線3xの双方に直交する方向とに、それぞれ成分を有する係合力を及ぼす。この係合力は、固定ピンである骨ねじ3をインプラント本体である髄内釘本体1に固定する固定力となる。図示例では、上記弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cが固定ピンである骨ねじ3の側部に当接する箇所(当接面)の中心軸線3xの周りの角度範囲は比較的狭いが、この角度範囲を或る程度広くし、固定ピンに対する係合力を分散させて与えるようにしてもよい。例えば、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの当接面形状を、固定ピンである骨ねじ3の上記角度範囲の外周面に沿った面形状(例えば凹面状)とすることにより、固定ピンである骨ねじ3の外周面上において係合力を受ける箇所が分散される。上記角度範囲は30度以上であることが好ましく、60度以上であることが望ましい。90度程度であってもよい。このような態様は、特に、後述するスリーブ構造に好適である。
弾性係合部4c〜7cが骨ねじ3の中心軸線3xからいずれか一方の側方へ外れた位置に当接し、上述のように弾性変形するときの態様としては、図示例のように、弾性係合部4c〜7cが軸線1xに対して側方へ外れた位置に形成されている(オフセットしている)場合だけでなく、横断孔1d〜1hの軸線1dx〜1hx及び横断孔1d〜1hにそれぞれ挿通された骨ねじ3の中心軸線3xが軸線1xに対して側方へ外れた位置に配置される(オフセットしている)場合もある。さらに、軸線1xに対する位置関係においては、弾性係合部4c〜7cと骨ねじ3の少なくとも一方が軸線1xに対して側方へずれて(オフセットして)いればよい。ここで、弾性係合部4c〜7cと骨ねじ3が軸線1xに対して同じ側にずれて(オフセットして)いるときもあり、弾性係合部4c〜7cと骨ねじ3が逆側にずれて(オフセットして)いる場合もあり得る。本発明では、弾性係合部4c〜7cと骨ねじ3とが相対的に軸線3xの側方へずれた(オフセットした)位置に配置されていれば、上述のいかなる態様であってもよい。
弾性係合部4c〜7cは、本実施形態の場合、骨ねじ3の半径方向外側へ弾性変形するため、必要があれば、髄内釘本体1の内腔1cに臨む内面に、弾性係合部4c〜7cの側方への変形余裕を確保するための溝や凹部を設けてもよい。また、本実施形態では、インサート2の一部に、上記収容凹部5j〜8jを設けることで、弾性係合部4c〜7cの側方への変形余裕を確保している。一方、上記の変形余裕を確保するために、弾性係合部4c〜7cの外面4ca〜7caにおいて、図示例のように、少なくとも外側への変形量の大きい側の一部(図示例では先端部)に、当該変形量の大きい側に向けて半径方向内側へ傾斜する面(テーパ面)を設けるようにしてもよい。
本実施形態では、インサート2に設けられた開口域2d〜2hの個々の開口範囲を画定する開口縁自体とは異なる部位に弾性係合部4c〜7cを設けている。これは、或る開口域の開口縁自体を弾性係合部として作用するように構成すると、当該弾性係合部が固定ピンに係合して弾性変形したときにインサート2(係止部材4〜8)の基本骨格が変形し、別の開口域に対応する弾性係合部の位置や係合態様に影響を与え易くなり、その結果、各弾性係合部による固定ピンの固定作用の独立性が低下する場合があるからである。ただし、結果として上記開口縁自体に弾性係合部を形成しても、例えば、開口縁に沿って切り込みやスリットを入れた構造や、開口縁に沿った延長形状の突起を形成するなど、基本骨格を変形させない構造も考えられ、これらの構造は本発明に包含される。特に、上記開口縁から弾性係合部が突出するように構成される場合(開口内において突起状やブリッジ状に突き出るように形成される場合)には、基本骨格に影響を与えずに弾性係合部のみが部分的に弾性変形するように構成することが可能である。
一般に、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cが骨ねじ3に対して係合するときには、弾性係合部と骨ねじ3との間のインサート2の動作方向(上記所定の向き、すなわち、本実施形態では軸線1xに沿った方向)の相対的な位置関係に応じて、弾性係合部のインサート2の動作方向の弾性変形量が変化するか、或いは、弾性係合部の骨ねじ3に対する相対的な係合位置がインサート2の動作方向に変化する。このため、各部の寸法誤差に起因する複数(対)の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの間の各骨ねじ3に対する係合態様のばらつきを、相互に独立して生ずる弾性係合部の弾性変形量や係合位置の変化量によって容易かつ確実に吸収することができる。したがって、複数の開口域2d、2e、2f、2g、2hにそれぞれ対応する複数(対)の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cをそれぞれ対応する骨ねじ3に確実に係合させ、骨ねじ3を適切な固定力で固定することができる。なお、本発明では、固定ピンとの係合により係止構造体の動作方向に生じた弾性係合部の弾性変形量と、固定ピンとの係合による弾性係合部の弾性変形に基づいて、係止構造体の動作方向に生じた弾性係合部と固定ピンの間の相対的な係合位置の変化量のうちの、少なくとも一方が存在することで、十分な効果が得られる。
本実施形態では、一対の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの間隔が骨ねじ3の軸部3bの外径よりやや小さくなるように設定される。そして、この弾性係合部が軸部3bに当接すると、図1(d)及び(e)に示すように、当該軸部3bが一対の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの間にくさび状に入り込み、その弾性復元力によって挟持される態様で、軸線1xの方向の末端側に押し込まれるように固定される。なお、弾性係合部7cと、開口域2hに挿通される骨ねじ3との間の係合態様においては、開口域2hの軸線2hxが軸線1xに対して傾斜しているため、弾性係合部7cの幅方向の一方の端部近傍が骨ねじ3に係合することにより、当該端部近傍が弾性係合部7c全体をねじりながら骨ねじ3の半径方向外側に弾性変形する。
本実施形態では、上述のように、軸線1xに沿った方向に突出する弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cが骨ねじ3の軸部3bの側部に当接し、半径方向外側へ弾性変形しながら、骨ねじ3を固定する。したがって、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cと骨ねじ3との間の係合箇所における軸線1xに沿った方向の構造的余裕(自由度)が大きくなるため、構造精度に影響されずに複数の骨ねじ3を確実に固定できる。このことにより、複数の骨ねじ3の固定力を均一にすることが可能であるし、髄内釘本体1に挿通される骨ねじ3の本数が増減したときの固定力の変動を低減することも可能である。
また、本実施形態では、一対の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cが骨ねじ3の軸部3bを両側から弾性復元力により挟持する態様で保持するため、骨ねじ3の回転を規制した状態で髄内釘本体1に固定することができる。したがって、髄内釘本体1などのインプラント本体の横断孔の縁部とインサート2などの係止構造体の開口縁との間で骨ねじ3などの固定ピンを挟持する場合に比べて、固定ピンの緩み防止効果を高めることができる。
また、本実施形態の弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、前述のようにインサート2の周囲部分から分離して突出し、自由端である先端部(末端部4b,5b,6b,6b,7b)を備えているため、インサート2の他の部分(弾性係合部が分離する元の周囲部分)に影響をほとんど与えずに、骨ねじ3に係合した部分において局所的に弾性変形しつつ確実に固定することが可能になっている。このように限定された弾性変形領域をもつ構造とするだけであれば、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの突出方向は特に限定されない。例えば、図示例とは異なり、弾性係合部を軸線1xと直交する平面に沿って突出した構造、或いは、軸線1xに対して傾斜する方向に突出した構造としてもよい。ただし、図示例のように軸線1xに沿った方向の末端側に向けて突出した構造、すなわち、インサート2の動作の向きに突出した構造とすることで、髄内釘本体1との間で骨ねじ3を固定する際に、骨ねじ3の所定の固定力を得るために必要な剛性を容易に確保することができ、そのために弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの小型化を図ることができる。
特に、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cは、骨ねじ3の中心軸線3xに沿った幅よりも、軸部3bの半径方向に沿った厚みが薄い断面形状(板状)に構成されるため、軸線1xに沿った方向の剛性を確保しつつ、軸部3bの半径方向には、曲折する態様で弾性変形しやすく構成されている。なお、要求される骨ねじ3の固定力に応じて、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cの軸部3bの半径方向の弾性変形特性を調整するために、中心軸線3xに沿った方向の溝や切り込みを弾性係合部の表面(板面)上に形成して弾性変形の容易化を図ったり、中心軸線3xと直交する方向の凸条(リブ)を弾性係合部の表面(板面)上に形成して弾性変形量の低減を図ったりしてもよい。
インサート2において、軸線1xの方向に隣接する係止部材4と5、5と6、6と6、6と7、7と8は以下の関係を有する。すなわち、係止部材4と5を例として示すと、係止部材4と5が軸線2xに沿った方向に当接(嵌合)した状態で、係止部材4に設けられた弾性係合部4cは、係止部材5に設けられた収容凹部5jに収容されることで、係止部材5に拘束されることなく、係止部材5に設けられた開口域2dに臨むように配置される。
また、係止部材5、6、7においては、いずれも、収容凹部5j、6j、7jの凹部の開口方位、若しくは、これと直交する開口域2d、2e、2f、2gの開口方位と、一対の弾性係合部5c,6c,7cの形成位置の方位とが角度θ1、θ2、θ3、θ4だけ異なる。これは、基端側の横断孔1dと末端側の横断孔1eの間の横断方位のずれ(図示例では基端側から末端側に見たときの時計回りに30度の角度ずれ)、基端側の横断孔1eと末端側の横断孔1fの間の横断方位のずれ(図示例では基端側から末端側に見たときの時計回りに60度の角度ずれ)、基端側の横断孔1fと末端側の横断孔1gの間の横断方位のずれ(図示例では基端側から末端側に見たときの時計回りに60度の角度ずれ)、基端側の横断孔1gと末端側の横断孔1hの間の横断方向のずれ(図示例では基端側から末端側に見たときの時計回りに30度の角度ずれ)にそれぞれ対応させた角度とするためである。
したがって、係止部材5〜7の順番や種類を適宜に選択し、置換し、或いは、異なる上記角度を備えた別の係止部材を製作することにより、髄内釘本体1の横断孔1d〜1hの種々の角度に合わせたインサート2を構成することが可能になる。なお、図示例では、係止部材6を二つ用いているが、このように、同じ係止部材を二か所以上の場所に用いることも可能である。
インサート2を複数の係止部材4〜8の組立体として構成したことの利点としては、上述の点に加えて、インサート2の製造が容易になるという点が挙げられる。特に、インサート2には複数の弾性係合部4c〜7cを設ける必要があるところ、図示例の弾性係合部4c〜7cは、駆動力を受け止める基端部4a〜8a、骨ねじ3を挿通させる開口域2d〜2h、支柱構造部4f〜8fなどとは別に設ける必要があり、しかも、軸線方向に突出させる態様で、ここに挿通される各骨ねじ3に当接可能な位置にそれぞれ設ける必要があるため、インサート2の構造を大幅に複雑化させる原因となる。したがって、インサート2を小型化しつつ、インサート2の製造を容易化するためには、上述のように複数の係止部材4〜8の組立体とすることが好都合である。特に、係止部材4〜7の弾性係合部4c〜7cはいずれも末端部4b〜7bに形成されているため、弾性係合部4c〜7cの加工が容易になり、加工精度も向上する。
インサート2における複数の係止部材4〜8の組立構造は、基本的に図示例のように各係止部材を軸線2xの方向に当接させて配置しただけであるため、組立作業が煩雑になることはない。また、弾性係合部4c,5c,6c,6c,7cと、収容凹部5j、6j、6j、7j、8jとが嵌合する構造を採用したことにより、各係止部材間の軸線2xの周りの回転を規制することができるとともに、相互の姿勢(方位)を容易に定めることができる。
図4は、本実施形態の骨固定システムを上腕骨に適用した様子を示す斜視図である。上腕骨10の近位端である上腕骨頭11から、上記インサート2を解放状態で内蔵した髄内釘本体1を挿入し、近位側では、横断孔1d〜1hに対応する穿孔作業を実施し、横断孔1d〜1hに骨ねじ3−1〜3−5を挿通させてねじ込む。同様に、遠位側では、横断孔1i、1jに対応する穿孔作業と、骨ねじ13のねじ込み作業とを実施する。近位側では、骨ねじ3−1〜3−5をねじ込んだ後に、エンドキャップでもある操作部9Cをさらにねじ込み、インサート2を軸線方向に移動させることによって固定状態に移行させる。これによって骨ねじ3−1〜3−5は髄内釘本体1に対して固定される。
図4には、骨ねじ3−1〜3−5とともに用いることのできるピン係合部材としてのワッシャー(或いは、プレート)15の斜視図を示す。ワッシャー15は、骨ねじを係合させるための被係合部に相当する貫通孔15aを備えている。貫通孔15aは、骨ねじ3−1〜3−5の軸部3bを挿通可能な大きさを有し、その開口縁が骨ねじ3−1〜3−5の頭部3aに係合することで骨ねじに固定されるように構成される。ここで、髄内釘本体1の横断孔1d〜1hに挿通される骨ねじに係合する貫通孔15aは図示のように中央に形成されることが好ましい。ワッシャー15は、縫合糸を挿通させるための縫い付け用の補助挿通孔15bを備えている。この補助挿通孔15bは、図示例の場合には縫合糸によって上腕骨近位部の回旋筋腱板(ローテーターカフ)などの各部に縫い付ける際の挿通孔であり、貫通孔15aの両端部近傍に一つずつ合計二つが形成されている。なお、補助挿通孔15bは髄内釘本体1に挿通される骨ねじ3以外の別の骨ねじやピンを挿通するために用いてもよい。また、ワッシャー15の裏面(骨に接触する側の表面)には、骨の表面に係合可能な突起(スパイク)15cが形成される。図示例では、一対の突起15cが貫通孔15aの傍らの両側縁部から突出している。この突起15cは、ワッシャー15を骨表面に食い込ませ、髄内釘本体1に固定された骨ねじ3に係合したワッシャー15によって、骨、或いは、骨片をしっかりと保持するのに役立つ。
なお、本発明の骨固定システムは、上記実施形態に記載の構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づく種々の異なる態様を含む。たとえば、インプラント本体は上記髄内釘本体1に限らず、骨プレート、CHSのプレート部、スライディングスクリューのフランジ部などであっても構わない。
また、係止構造体は上記インサート2に限らず、髄内釘本体1の外側に装嵌されるスリーブ構造や複数のリング構造(上記の係止部材に対応するもの)を備えるものであってもよく、骨プレート上にスライド可能に装着されて骨ねじや骨ピンを拘束するスライド型係止体であってもよい。係止構造体に設けられる開口域は、孔形状である必要はなく、インプラント本体に設けられた横断孔に対応する位置において固定ピンが挿通可能に構成される空隙を提供するものであればよい。したがって、個々の開口域は切り欠き状や長円状であってもよく、また、複数の開口域が一体化された開口部や孔のそれぞれ一部によって構成されるようにしてもよい。さらに、上記横断孔も、軸線周りの全周に亘って取り囲まれた孔形状である必要はなく、特にインプラントの軸線に対してオフセットした孔の中心軸線を有する場合などにおいて、一部が開口した切り欠き状の孔形状を備えていてもよい。なお、本発明は、インプラントの複数の横断孔及び開口域並びにこれらに挿通された固定ピンにそれぞれ対応する複数の弾性係合部を有するものの、インプラントにおいて、いずれの弾性係合部にも対応しない、横断孔及び開口域並びにこれらに挿通された固定ピン(すなわち、弾性係合部によっては固定されない固定ピン、或いは、他の固定手段によっても固定されていない、インプラント本体に挿通されているだけの固定ピン)をさらに有していても構わない。
さらに、上記位置設定手段は、弾性部9A、保持部9B及び操作部9Cからなる位置設定手段9に限らず、係止構造体をインプラント本体に対して所定の向きに動作させることが可能なものであればよい。例えば、髄内釘本体1の雌ねじ1caに螺合するとともにインサート2に対して回転自在に連結された操作部材で構成されるものでもよく、また、髄内釘本体1の開口縁や段差部に当接するとともにインサート2に設けられたねじに螺合する操作部材であってもよい。さらに、各種工具の操作によって係止構造体の位置を調整可能となるように構成された、板ばね等を備えたラッチ機構、ウォームとラックの歯合構造などの各種の位置設定手段を用いることができる。
また、係止構造体の動作の向き(上記所定の向き)は、上記のような軸線1xの方向の末端側に向かう向きに限らず、これとは逆の、基端側に向かう向きであってもよい。さらに、係止構造体をインプラント(髄内釘本体1)の軸線方向ではなく、軸線周りに回転する向きに動作させてもよい。これらの場合には、係止構造体の動作の向きに応じた機能を有するように、上記位置設定手段を、係止構造体を基端部1a側に引き寄せる構造、或いは、係止構造体を軸線1xの周りに回動させる構造に容易に設計変更することができる。
さらに、固定ピンは、図示の骨ねじ3に限らず、インプラント本体の横断孔に挿通されるものであればよく、骨の適用部位と好適に作用するために必要な各種の骨接合構造を備えたピン、ペグ、ネイル、スパイク、ファスナーなどの各種のものを用いることが可能である。また、固定ピンとして、骨ねじやピン、ペグなどの軸体と、この軸体に対し軸線方向にスライド可能に装着されたスリーブとを備えたものを用い、このスリーブが上記弾性係合部によって保持、固定されるようにしてもよい。この場合には、構造上厚みに制約を受けやすい上記スリーブに対して上記弾性係合部によって強い係合力を加えると、スリーブが変形してスライド動作に支障が出るなどの問題が生ずることがある。しかし、上記実施形態のように、前記弾性係合部を、前記固定ピン(スリーブ)に係合したときに、前記弾性係合部の突出方向に沿った形状が曲折する態様で弾性変形可能に構成するか、或いは、固定ピンの中心軸線に対して側方へずれた箇所に向けて移動し、当該箇所において前記固定ピン(スリーブ)に係合するように構成すると、前述のように相互に直交する二方向に成分を有する係合力を生じさせることができる。このため、前記固定ピン(スリーブ)の外周面の前記中心軸線の周りの所定の角度範囲(例えば30度以上が好ましく、60度以上がさらに望ましい。)に亘って接触する当接面形状(上記外周面に沿った当接面形状)とすることが好ましい。これにより、固定ピンの外周面の所定の角度範囲に分散させて固定力を与えることができるため、固定力を確保すると同時に、スリーブの変形を抑制し、上記問題を回避できる。これは、特に、固定ピンに対する弾性係合部の中心軸線に沿った係合範囲に制約がある場合に好適である。
また、固定ピンに係合させて用いられる本発明のピン係合部材は、上記貫通孔15aのみを有するもの、貫通孔15aと補助挿通孔15bのみを有するもの、貫通孔15aと突起15cのみを有するもの、円形状、矩形状、角形状などの種々の平面形状を有するもの、などであってもよい。また、ピン係合部材は、上記ワッシャー15のような板状部材(プレート)に限らず、髄内釘本体1に固定された骨ねじ3に係合した状態で骨や骨片を保持、固定することができるものであれば、いかなる形状のものであっても構わない。このピン係合部材は、骨固定システムの骨ねじ3によって固定される骨や骨片の範囲を拡大したり、その固定力を増強したりする。例えば、骨粗鬆症などに起因する骨ねじ3の頭部3aの骨内への埋没を防止することができる。特に、上腕骨近位部の大結節が粉砕しているような多骨片型の骨折では、骨片間に骨ねじ3の挿入により生ずる軸力がかかりすぎると整復位がくずれたり、これを恐れるために骨ねじ3に十分な軸力を与えないと骨ねじ3の骨又は骨片に対する係合状態が弛緩したりすることで、骨癒合不全をもたらすことがある。本発明の骨固定システムでは、骨ねじ3が髄内釘本体1に固定されるため、ピン係合部材を介して大きな軸力(圧迫力)を骨や骨片の間に安定的に与え続けることができるから、骨癒合不全を従来よりも確実に防止できる。
なお、上記ピン係合部材を固定ピンと一体に構成し、骨又は骨片を保持するピン係合部を一体に備えた構造の固定ピンを用いてもよい。このような固定ピンとしては、例えば、上記の骨ねじ3の場合には、頭部3aを周囲に張り出した板状に構成したものが挙げられる。ここで、この頭部3aの一体形状は、上記固定ピンとは別体のピン係合部材の場合と同様に、骨又は骨片の適用領域を包み込む湾曲形状とすることができる。また、上記ピン係合部材を、被係合部である上記貫通孔15aを内部ねじ山付きの孔とすることによりロッキングプレートとして構成し、上記固定ピンを、頭部に貫通孔15aの内部ねじ山に螺合する雄ねじを形成したロッキングピンとして構成してもよい。例えば、骨ねじ3の頭部3aの外周に貫通孔15aの内部ねじ山に螺合可能な雄ねじを形成し、ピン係合部材に対するロッキングねじとして構成することにより、骨ねじ3がピン係合部材に対して既定の角度で固定されるように構成する。これにより、インプラント本体と固定ピンの配置に対してピン係合部材が骨又は骨片を保持する向きを既定の角度に固定することができる。
また、上記ピン係合部材は、インプラント本体に挿通される複数の固定ピンが係合する複数の貫通孔15aを備えていてもよい。この場合において、ピン係合部材が或る固定ピン(の頭部)と一体に構成された上で、他の固定ピンと係合する貫通孔15aを備えるものでもよい。また、複数の貫通孔15aがいずれも内部ねじ山を備えた貫通孔であってもよく、いずれも内部ねじ山を備えない貫通孔(この場合には、固定ピンに対する係合態様が所定の角度範囲内であれば変化し得る。)であってもよい。さらに、一部の貫通孔15aが内部ねじ山を備えた貫通孔で、他の貫通孔15aが内部ねじ山を備えない貫通孔であってもよい。また、複数の固定ピンも、上記内部ねじ山に螺合可能な頭部を有するものであってもよく、上記内部ねじ山に螺合せずに、所定の角度範囲内であれば角度自在に係合可能な頭部を有するものであってもよい。なお、これらの各場合において、インプラント本体に挿通されない別の固定ピンに対する上記補助挿通孔をさらに備えていてもよいことはもちろんである。このとき、当該補助挿通孔は上述の貫通孔15aと同等の形態であってもよく、例えば、内部ねじ山を備えていても、内部ねじ山を備えていなくてもよい。
上記の固定ピンと一体若しくは別体のピン係合部材は、本発明における弾性係合部によって各々固定される複数の固定ピンに対して適用される場合には、インプラント本体に対して十分な固定力で固定される複数の固定ピンとの相乗効果により、骨又は骨片を強力かつ確実に保持、固定することができるという顕著な効果をもたらす。ただし、上記の固定ピンと一体若しくは別体のピン係合部材は、本発明の構成に限らず、複雑な骨折態様や骨粗鬆症に対処する場合に特に効果的な他の発明として、インプラントに挿通される一又は複数の固定ピンによる骨又は骨片の固定機能を従来よりも増強するという課題を解決するために、本来的に、一又は複数の固定ピンが挿通される任意のインプラント(典型的には、髄内固定システム)にも適用することができるものである。このとき、任意のインプラントに挿通される固定ピンの一部若しくは全部は、弾性係合部によっては固定されていない固定ピンであってもよく、他の手段によっても固定されず、単に挿通されているだけの固定ピンであってもよい。