近年、エンジンは小型化される傾向にあり、点火プラグも小型化される傾向にある。しかし、点火プラグが小型化されると、絶縁碍子の内孔に形成される抵抗体の含有量を減少させる必要があるため、換言すれば、点火プラグ内部で高周波雑音電波を吸収する粗粒ガラス粉末等の含有量(ガラス層)を減少させる必要があるため、このことに起因して、抵抗体は、高周波雑音電波の漏洩を抑制し難くなる。なお、点火プラグの点火時には、高周波雑音電波が発生するが、この高周波雑音電波が多量に漏洩すれば、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
このような事情に鑑み、特許文献3の明細書の段落[0011]〜[0013]には、「本発明のスパークプラグは、軸方向に延びる貫通孔を有し、該貫通孔が第1貫通孔及び該第1貫通孔よりも後端側に当該第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔となる絶縁体と、前記絶縁体の第1貫通孔内に配置される中心電極と、前記絶縁体の第2貫通孔内に配置される端子金具と、を備えるスパークプラグであって、前記第2貫通孔内に、導電性セラミック焼結体で形成されると共に、前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続するセラミック焼結体抵抗器が配置されてなり、前記セラミック焼結体抵抗器の軸方向長さが前記第2貫通孔の軸方向長さの40%以上であることを特徴とする。本発明では、このような抵抗体として予め焼結されたセラミック焼結体抵抗器を絶縁体の第2貫通孔に挿入するものとすることで、従来のような製造上の長さの制約を受けず、セラミック焼結体抵抗器の長さを十分に長くすることができる。これにより、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、雑音防止効果を大きくすることができる。そして、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)を第2貫通孔の長さ(LH)の40%以上とする((LR/LH)×100≧40)ことで、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、十分な雑音防止効果を得ることが可能となる。なお、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)が第2貫通孔の長さ(LH)の40%未満であると、十分な効果を得られにくい。さらに、より好ましいセラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)は、第2貫通孔の長さ(LH)の50%以上である((LR/LH)×100≧50)。」と記載されており、点火プラグの構造を最適化することにより、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させて、高周波雑音電波の発生を防止することが示されている。しかし、このような最適化を行ったとしても、十分には高周波雑音電波の漏洩を抑制することができない。
また、点火プラグが小型化されると、抵抗体の機械的強度が低下、或いは端子電極の圧入時の摩擦抵抗が大きくなることから、端子電極を圧入し難くなり、抵抗体の抵抗値のばらつきやすくなる。加えて、ホットプレス温度の変動に対しても影響を受けやすくなり、さらに抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなると考えられる。なお、点火プラグの製造工程において、ホットプレス温度を厳密に規制することは困難であり、ホットプレス温度は、ある程度の変動幅で管理せざるを得ないのが実情である。
そこで、本発明は、高周波雑音電波を効率良く吸収する抵抗体を形成すべく、高周波雑音電波の吸収能が高く、且つブロック粒子として適正に機能し得る抵抗体形成用ガラス組成物を創案することにより、小型の点火プラグの信頼性を向上させることを技術的課題とする。
本発明者等は、鋭意努力の結果、ガラスの軟化特性を維持しながら、ガラスの誘電率を低下させること、具体的にはガラス組成にCaOを導入しつつ、ガラス組成中のBaOの含有量を所定量以下に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 40〜60%、B2O3 28〜40%、Li2O+Na2O+K2O 1〜20%、CaO 0.1〜20%、BaO 0〜7%を含有することを特徴とする。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成範囲、特にCaOとBaOの含有範囲を上記のように規制している。このようにすれば、ガラスの誘電率を下げることができるため、ガラスの高周波雑音電波の吸収能を顕著に高めることができ、その結果、点火プラグの小型化を容易に図ることができる。また、このようにすれば、ガラスの屈伏点を不当に上昇させずに、ガラスの熱的安定性を向上させつつ、ガラスの熱膨張係数を下げることができる。
第二に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、CaOの含有量が3モル%以上であることを特徴とする。
第三に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、B2O3の含有量が30〜35モル%であることに特徴付けられる。
第四に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、粒度が150〜450μmであることを特徴とする。上記のようにガラス粉末の粒度を規制すれば、ホットプレス工程で導電粉末を取り込まずに変形できるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填しやすくなる。
第五に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、25℃、1MHzにおける誘電率が5.5以下であることに特徴付けられる。このようにすれば、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が顕著に向上し、抵抗体中のガラスの含有量が少なくても、高周波雑音電波を十分に吸収できるため、点火プラグを小型化しやすくなる。ここで、「25℃、1MHzにおける誘電率」は、50×50×3mmのガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmのガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラス基板の表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した値を指す。
本発明者等は、ガラスの誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下させることができる点に着目し、そのためには上記のようにガラス組成範囲を規制すればよいことを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくなり、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果として、高周波雑音電波の吸収能を向上させることができる。
第六に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、25℃、1MHzにおける誘電正接が0.0018より大きいことを特徴とする。ここで、「25℃、1MHzにおける誘電正接」は、50×50×3mmのガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmのガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラス基板の表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した値を指す。
本発明者等の詳細な調査により、ガラスの誘電正接を上昇させると、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が高まることを見出した。なお、このメカニズムの詳細は明らかではなく、現在、鋭意調査中であるが、本発明者等は、ガラスの誘電正接が大きいと、点火プラグの点火時に、抵抗体の粗粒ガラスの界面において高周波雑音電波のエネルギーが熱エネルギーに変換されやすく、高周波雑音電波が減衰するものと推定している。
第七に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、分相特性を有することに特徴付けられる。ここで、「分相特性を有する」とは、600〜900℃のいずれかの温度で10分間熱処理を加えた場合にガラスが分相する場合を指し、例えば、TEM(Transmission Electron Microscope)等で観察すれば、ガラスが分相しているか否かを判定することができる。なお、抵抗体形成用ガラス粉末が、熱処理を加える前に、既に分相している場合も「分相特性を有する」と判断する。
一般的に、分相とは、ガラス成分が、SiO2を主成分とする高粘性のシリカリッチ相と、その他の成分からなる低粘性ガラス相とに分離する状態を指し、分相したガラスは、通常、シリカリッチ相が骨格をなし、その間隙に低粘性ガラス相が存在する構造となる。抵抗体形成用ガラス粉末が分相特性を有すると、粗粒ガラス粉末は、ホットプレス工程でカーボンブラック、炭化チタン、窒化チタン、炭化珪素等の導電粉末をガラス中に溶解し難くなる。一方、細粒ガラス粉末は、ホットプレス工程で導電粉末をガラス中に溶解する。その結果、粗粒ガラス粉末の近傍に導電粉末からなる導電パスを形成することができる。なお、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を取り込まない理由は、ガラスの分相性に起因していると考えられるが、詳細なメカニズムは不明であり、現在、鋭意調査中である。また、抵抗体形成用ガラス粉末が分相特性を有すると、粗粒ガラス粉末は、ホットプレス工程で低粘性ガラス相の軟化流動に起因して塑性変形が生じるものの、シリカリッチ相の存在によってその形状を維持することができ、ブロック粒子として機能することができる。
第八に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス転移点が485〜560℃であることに特徴付けられる。ここで、「ガラス転移点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指す。
第九に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、屈伏点が530〜700℃であることに特徴付けられる。ここで、「屈伏点」とは、TMA装置で測定した値を指す。
第十に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、熱膨張係数が40〜60×10−7/℃であることに特徴付けられる。ここで、「熱膨張係数」とは、TMA装置で測定した値を指し、30〜380℃の温度範囲で測定した値を指す。
第十一に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、実質的にPbOを含有しないことに特徴付けられる。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
第十二に、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、点火プラグに用いることに特徴付けられる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を下記に示す。
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は40〜60%、好ましくは45〜58%、より好ましくは48〜54%である。SiO2の含有量が40%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、SiO2の含有量が60%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
B2O3は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの屈伏点を下げる成分であり、更にはガラスを分相させるための成分であり、その含有量は28〜40%、好ましくは30〜37%、より好ましくは31〜35%である。B2O3の含有量が28%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、B2O3の含有量が40%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
Li2O+Na2O+K2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は1〜20%、好ましくは3〜17%、より好ましくは5〜15%、更に好ましくは7〜13%である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
Li2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0.1〜13%、より好ましくは1〜13%、更に好ましくは2.5〜12%、特に好ましくは5〜10%である。Li2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの分相を促進させる観点から、ガラス組成中にLi2Oを必須成分として1%以上含有させることが好ましい。
Na2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜12%であり、より好ましくは0〜3%である。Na2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
K2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜12%であり、より好ましくは0〜3%である。K2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
CaOは、ガラスの誘電率を顕著に低下させる主要成分であるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、その含有量は0.1〜20%、好ましくは1〜15%、より好ましくは3〜12%、更に好ましくは5〜10%である。CaOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、CaOの含有量が0.1%より少ないと、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が低下し、その結果、点火プラグを小型化することが困難になる。また、CaOの含有量が0.1%より少ないと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
BaOは、ガラスの屈伏点を低下させる成分であるとともに、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。BaOの含有量が7%より多いと、ガラスの誘電率が上昇し、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が低下する。また、BaOの含有量が7%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの誘電率を確実に低下させる観点から、ガラス組成として、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にBaOを含有しない」とは、ガラス組成中において、BaOの含有量が3000ppm(質量)以下の場合を指す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、上記成分以外にも、例えば、以下の成分を含有させることができる。
Al2O3は、ガラスの耐水性を向上させる成分とともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%である。Al2O3の含有量が10%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
MgOは、ガラスの誘電率を顕著に低下させるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、またガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜7%である。MgOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
SrOは、ガラスの誘電率を低下させるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、また、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分である。その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜7%である。SrOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスの分相を促進させるための成分であると同時に、ガラスの誘電率に影響を与える成分である。アルカリ土類金属酸化物のイオン半径が小さい程、ガラスが分相しやすくなり、具体的にはMgO、CaO、SrO、BaOの順で、ガラスが分相しやすくなる。ガラスの分相傾向が高くなると、熱処理温度の小さな変化に対しても、分相状態が大きく変動しやすくなり、その影響により、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合が生じやすくなる。一方、アルカリ土類金属酸化物の分子量が小さい程、ガラスの誘電率が小さくなり、具体的にはMgO、CaO、SrO、BaOの順で、ガラスの誘電率が小さくなる。誘電率、分相、屈伏点等の特性を総合的に考慮すると、本願明細書の段落[0034]および[0035]に記載の通り、ガラス組成中のCaOの含有量を0.1〜20%、好ましくは1〜15%、より好ましくは3〜12%、更に好ましくは5〜10%に規制し、さらにガラス組成中のBaOの含有量を0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%に規制すべきである。このようにすれば、高周波雑音電波の吸収能を飛躍的に高めることができ、更には点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止することができ、結果として、点火プラグの信頼性および生産性を向上させることができる。
また、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、更に種々の成分を10%まで添加することができる。例えば、TiO2、ZrO2、Bi2O3、Cs2O、La2O3、Gd2O3、V2O5、WO3、Sb2O3、SnO2、Nb2O5、Y2O3、CeO2、P2O5等を添加することができる。なお、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、PbOの含有を完全に排除するものではないが、既述の通り、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の粒度は150〜450μm、好ましくは200〜350μmである。ガラス粉末の粒度を150〜450μmにすれば、ブロック粒子として適正に機能することができる。つまり、ガラス粉末の粒度を150〜450μmにすれば、ホットプレス工程で導電粉末を取り込まずに変形できるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填しやすくなる。ガラス粉末の粒度が150μmより小さいと、ホットプレス工程でガラス粉末が導電粉末を溶解し、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の粒度が450μmより大きいと、顆粒に加工し難く、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなることに加えて、ホットプレス工程でガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の平均粒子径D50は150〜450μmが好ましく、200〜350μmがより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50を150〜450μmにすれば、ブロック粒子として適正に機能することができる。つまり、ガラス粉末の平均粒子径D50を150〜450μmにすれば、ホットプレス工程で導電粉末を取り込まずに変形できるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填しやすくなる。ガラス粉末の平均粒子径D50が150μmより小さいと、ホットプレス工程でガラス粉末が導電粉末を溶解し、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の平均粒子径D50が450μmより大きいと、顆粒に加工し難く、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなることに加えて、ホットプレス工程でガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは450μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径Dmaxが450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなり、絶縁碍子の内孔が細径化された場合に、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなる。ここで、「最大粒子径Dmax」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、抵抗体を形成するための細粒ガラス粉末としても使用することができる。その場合、ガラス粉末の平均粒子径D50は150μm未満が好ましく、100μm以下がより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が150μm以上であると、ホットプレス工程でガラス粉末が溶融し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。なお、粗粒ガラス粉末と細粒ガラス粉末を同一のガラス組成とすれば、ホットプレス工程で両者が強固に結合するため、抵抗体の機械的強度を高めることができる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、25℃、1MHzにおける誘電率は、5.5以下が好ましく、5.3以下がより好ましく、5.2以下が更に好ましい。25℃、1MHzにおける誘電率が5.5より大きいと、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が低くなり、点火プラグを小型化した場合、高周波雑音電波を十分に吸収し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、25℃、1MHzにおける誘電正接は、0.018より大きいことが好ましく、0.0020以上がより好ましく、0.0025以上が更に好ましい。25℃、1MHzにおける誘電正接が0.0018より小さいと、ガラスの高周波雑音電波の吸収能を高め難くなり、点火プラグを小型化した場合、高周波雑音電波を十分に吸収し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、密度は、2.55g/cm3未満が好ましく、2.50g/cm3以下がより好ましく、2.45g/cm3以下が更に好ましい。密度が小さい程、ガラスを軽量化することができ、結果として、点火プラグを軽量化することができる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス転移点は485〜590℃が好ましく、490〜550℃がより好ましく、500〜540℃が更に好ましい。ガラス転移点が485℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス転移点が590℃より高いと、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、屈伏点は530〜700℃が好ましく、540〜650℃がより好ましく、550〜600℃が更に好ましい。屈伏点が530℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、屈伏点が700℃より高いと、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、熱膨張係数は40〜60×10−7/℃が好ましく、45〜58×10−7/℃がより好ましく、53〜58×10−7/℃が更に好ましい。熱膨張係数を40×10−7/℃より低くするためには、ガラス組成中のSiO2等の含有量を増加させる必要があるため、このような場合、ガラスの屈伏点が高くなることに起因して、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、熱膨張係数が60×10−7/℃より高いと、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、分相特性を有することが好ましい。好ましい理由は、既述であるため、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、点火プラグに使用することが好ましい。本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス粉末の充填量を減らしても、高周波雑音電波を十分に吸収できるため、点火プラグが小型化された場合に有利である。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1〜5は、本発明の実施例(試料No.1〜28)、比較例(試料No.29)を示している。なお、試料No.29は、従来の抵抗体形成用ガラス粉末である。
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をカーボン製の型に流し出し、板状のガラス試料を得た。また、水冷ローラーにより、溶融ガラスの一部を薄片状に成形した後、ボールミルにて粉砕後、試験篩で分級し、粒度が150〜450μm(平均粒子径D50=300μm)の各ガラス粉末を得た。分級に際し、目開き450μmの試験篩を通過し、目開き150μmの試験篩を通過しないガラス粉末を採取した。
試料No.1〜29につき、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接、体積抵抗率、ブロック粒子としての機能、焼結性、分相性を評価した。
ガラス転移点および屈伏点は、TMA装置で測定した。なお、TMAの測定試料は、ガラス粉末を焼結させたものを使用した。
熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜380℃の温度範囲で測定した。なお、TMAの測定試料は、ガラス粉末を焼結させたものを使用した。
誘電率および誘電正接は、50mm×50mm×3mm厚のガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの、表裏面を光学研磨)を測定試料として用い、ガラス基板の表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した。測定条件は、25℃、1MHzとし、ガラス基板の表裏面を光学研磨した。
体積抵抗率は、ASTM C657−78に準拠した方法で測定した。50mm×50mm×0.7mm厚のガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの、表裏面を光学研磨)を測定試料とした。このガラス基板の表裏面に、蒸着法で金属Al膜を形成し、厚み約2000nmの電極を形成した。主電極は直径29mmの円形、ガード電極は外径44mm、内径31mmの環状、ボトム電極は直径44mmの円形とした。次いで、表中の各温度の体積抵抗率を測定した。
ブロック粒子としての機能は、次のようにして測定した。まずガラスの密度に相当する質量の各ガラス粉末にカーボンブラックを5質量%添加した試料を金型により外径20mmのボタン状にプレスした。続いて、得られたボタン試料をアルミナ基板で挟んだ後、900℃に保持された電気炉に投入し、100kg/cm2のプレス圧力を加えて10分間加熱し、次いで電気炉からボタン試料を取り出し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ガラス粉末が多少変形しているが、完全に溶融しておらず、ガラス中にカーボンブラックが溶解していないものを「○」とし、ガラス粉末が完全に溶融し、或いはガラス中にカーボンブラックが溶解しているものを「×」として評価した。
焼結性は、ガラスの密度に相当する質量のガラス粉末(平均粒子径D50=50μm)を金型により外径20mmのボタン状にプレスし、次に得られたボタン試料をアルミナ基板上に載置した後、電気炉で20℃/分で昇温し、900℃で10分間保持した上で、20℃/分の速度で降温し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ボタン試料が光沢を有しており、ボタン試料の直径が17.8mm以下のものを「○」とし、ボタン試料に光沢がなく、或いはボタン試料の直径が17.8mmより大きいのものを「×」として評価した。
分相性は、上記ボタン試料を所定形状に加工したものを測定試料とし、TEMで観察することで評価した。ガラスが分相しているものを「○」、分相していないものを「×」とした。
表1〜5から明らかなように、試料No.1〜28は、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接、ブロック粒子としての機能、焼結性および分相性の評価が良好であった。特に、試料No.1〜28は、誘電率が低いため、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させることができ、結果として、点火プラグを小型化しても、高周波雑音電波を的確に吸収することができると考えられる。一方、試料No.29は、ガラス組成中にBaOを多量に含有し、且つCaOを含有していないため、誘電率が高く、点火プラグを小型化すると、高周波雑音電波が漏洩してしまうと考えられる。
ガラス粉末の粒度の影響を調査するために、実験を行なった。その実験結果を表6に示す。
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融した。次に、水冷ローラーにより、溶融ガラスの一部を薄片状に成形した後、ボールミルにて各種条件で粉砕後、試験篩で分級し、各ガラス粉末を得た。なお、試料No.32〜35は、分級に際し、目開き450μmの篩を通過し、目開き150μmの篩を通過しないガラス粉末を採取した。
ガラス粉末の平均粒子径D50は、レーザー回折装置で測定した。
ブロック粒子としての機能は、次のようにして測定した。まずガラスの密度に相当する質量の各ガラス粉末にカーボンブラックを5質量%添加した試料を金型により外径20mmのボタン状にプレスした。続いて、得られたボタン試料をアルミナ基板で挟んだ後、900℃に保持された電気炉に投入し、100kg/cm2のプレス圧力を加えて10分間加熱し、次いで電気炉からボタン試料を取り出し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ガラス粉末が多少変形しているが、完全に溶融しておらず、ガラス中にカーボンブラックが溶解していないものを「○」とし、ガラス粉末が完全に溶融し、或いはガラス中にカーボンブラックが溶解しているものを「×」として評価した。
表6から明らかなように、試料No.32〜35は、ガラス粉末の粒度が適正であるため、ブロック粒子として機能すると考えられる。一方、試料No.30、31は、ガラス粉末の粒度が小さいため、細粒ガラス粉末に使用可能であるが、ブロック粒子としては機能し難いと考えられる。
近年、エンジンは小型化される傾向にあり、点火プラグも小型化される傾向にある。しかし、点火プラグが小型化されると、絶縁碍子の内孔に形成される抵抗体の含有量を減少させる必要があるため、換言すれば、点火プラグ内部で高周波雑音電波を吸収する粗粒ガラス粉末等の含有量(ガラス層)を減少させる必要があるため、このことに起因して、抵抗体は、高周波雑音電波の漏洩を抑制し難くなる。なお、点火プラグの点火時には、高周波雑音電波が発生するが、この高周波雑音電波が多量に漏洩すれば、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
このような事情に鑑み、特許文献3の明細書の段落[0011]〜[0013]には、「本発明のスパークプラグは、軸方向に延びる貫通孔を有し、該貫通孔が第1貫通孔及び該第1貫通孔よりも後端側に当該第1貫通孔よりも孔径が大きい第2貫通孔となる絶縁体と、前記絶縁体の第1貫通孔内に配置される中心電極と、前記絶縁体の第2貫通孔内に配置される端子金具と、を備えるスパークプラグであって、前記第2貫通孔内に、導電性セラミック焼結体で形成されると共に、前記中心電極と前記端子金具とを電気的に接続するセラミック焼結体抵抗器が配置されてなり、前記セラミック焼結体抵抗器の軸方向長さが前記第2貫通孔の軸方向長さの40%以上であることを特徴とする。本発明では、このような抵抗体として予め焼結されたセラミック焼結体抵抗器を絶縁体の第2貫通孔に挿入するものとすることで、従来のような製造上の長さの制約を受けず、セラミック焼結体抵抗器の長さを十分に長くすることができる。これにより、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、雑音防止効果を大きくすることができる。そして、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)を第2貫通孔の長さ(LH)の40%以上とする((LR/LH)×100≧40)ことで、中心電極と端子電極との間の実効誘電率を小さくし、点火時に発生する容量放電電流を小さくし、十分な雑音防止効果を得ることが可能となる。なお、セラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)が第2貫通孔の長さ(LH)の40%未満であると、十分な効果を得られにくい。さらに、より好ましいセラミック焼結体抵抗器の長さ(LR)は、第2貫通孔の長さ(LH)の50%以上である((LR/LH)×100≧50)。」と記載されており、点火プラグの構造を最適化することにより、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させて、高周波雑音電波の発生を防止することが示されている。しかし、このような最適化を行ったとしても、十分には高周波雑音電波の漏洩を抑制することができない。
また、点火プラグが小型化されると、抵抗体の機械的強度が低下、或いは端子電極の圧入時の摩擦抵抗が大きくなることから、端子電極を圧入し難くなり、抵抗体の抵抗値のばらつきやすくなる。加えて、ホットプレス温度の変動に対しても影響を受けやすくなり、さらに抵抗体の抵抗値がばらつきやすくなると考えられる。なお、点火プラグの製造工程において、ホットプレス温度を厳密に規制することは困難であり、ホットプレス温度は、ある程度の変動幅で管理せざるを得ないのが実情である。
そこで、本発明は、高周波雑音電波を効率良く吸収する抵抗体を形成すべく、高周波雑音電波の吸収能が高く、且つブロック粒子として適正に機能し得る抵抗体形成用ガラス組成物を創案することにより、小型の点火プラグの信頼性を向上させることを技術的課題とする。
本発明者等は、鋭意努力の結果、ガラスの軟化特性を維持しながら、ガラスの誘電率を低下させること、具体的にはガラス組成にCaOを導入しつつ、ガラス組成中のBaOの含有量を所定量以下に規制することにより、上記技術的課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、モル%で、SiO2 40〜60%、B2O3 28〜40%、Li2O+Na2O+K2O 1〜20%、CaO 3〜20%、BaO 0〜7%を含有し、熱膨張係数が49×10 −7 /℃以上64×10 −7 /℃以下であり、且つ粒度が150〜450μmであることを特徴とする。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成範囲、特にCaOとBaOの含有範囲を上記のように規制している。このようにすれば、ガラスの誘電率を下げることができるため、ガラスの高周波雑音電波の吸収能を顕著に高めることができ、その結果、点火プラグの小型化を容易に図ることができる。また、このようにすれば、ガラスの屈伏点を不当に上昇させずに、ガラスの熱的安定性を向上させつつ、ガラスの熱膨張係数を下げることができる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、CaOの含有量が5モル%以上であることが好ましい。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、B2O3の含有量が30〜35モル%であることが好ましい。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、粒度が150〜450μmである。上記のようにガラス粉末の粒度を規制すれば、ホットプレス工程で導電粉末を取り込まずに変形できるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、25℃、1MHzにおける誘電率が5.5以下であることが好ましい。このようにすれば、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が顕著に向上し、抵抗体中のガラスの含有量が少なくても、高周波雑音電波を十分に吸収できるため、点火プラグを小型化しやすくなる。ここで、「25℃、1MHzにおける誘電率」は、50×50×3mmのガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmのガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラス基板の表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した値を指す。
本発明者等は、ガラスの誘電率を低下させると、抵抗体の誘電率を低下させることができる点に着目し、そのためには上記のようにガラス組成範囲を規制すればよいことを見出した。これにより、中心電極―端子電極間の実行誘電率が小さくなり、点火プラグの点火時に発生する容量放電電流を小さくすることができ、結果として、高周波雑音電波の吸収能を向上させることができる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、25℃、1MHzにおける誘電正接が0.0018より大きいことが好ましい。ここで、「25℃、1MHzにおける誘電正接」は、50×50×3mmのガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの)、或いは50×50×3mmのガラスインゴットを測定試料として用い、光学研磨されたガラス基板の表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した値を指す。
本発明者等の詳細な調査により、ガラスの誘電正接を上昇させると、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が高まることを見出した。なお、このメカニズムの詳細は明らかではなく、現在、鋭意調査中であるが、本発明者等は、ガラスの誘電正接が大きいと、点火プラグの点火時に、抵抗体の粗粒ガラスの界面において高周波雑音電波のエネルギーが熱エネルギーに変換されやすく、高周波雑音電波が減衰するものと推定している。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、分相特性を有することが好ましい。ここで、「分相特性を有する」とは、600〜900℃のいずれかの温度で10分間熱処理を加えた場合にガラスが分相する場合を指し、例えば、TEM(Transmission Electron Microscope)等で観察すれば、ガラスが分相しているか否かを判定することができる。なお、抵抗体形成用ガラス粉末が、熱処理を加える前に、既に分相している場合も「分相特性を有する」と判断する。
一般的に、分相とは、ガラス成分が、SiO2を主成分とする高粘性のシリカリッチ相と、その他の成分からなる低粘性ガラス相とに分離する状態を指し、分相したガラスは、通常、シリカリッチ相が骨格をなし、その間隙に低粘性ガラス相が存在する構造となる。抵抗体形成用ガラス粉末が分相特性を有すると、粗粒ガラス粉末は、ホットプレス工程でカーボンブラック、炭化チタン、窒化チタン、炭化珪素等の導電粉末をガラス中に溶解し難くなる。一方、細粒ガラス粉末は、ホットプレス工程で導電粉末をガラス中に溶解する。その結果、粗粒ガラス粉末の近傍に導電粉末からなる導電パスを形成することができる。なお、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を取り込まない理由は、ガラスの分相性に起因していると考えられるが、詳細なメカニズムは不明であり、現在、鋭意調査中である。また、抵抗体形成用ガラス粉末が分相特性を有すると、粗粒ガラス粉末は、ホットプレス工程で低粘性ガラス相の軟化流動に起因して塑性変形が生じるものの、シリカリッチ相の存在によってその形状を維持することができ、ブロック粒子として機能することができる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス転移点が485〜560℃であることが好ましい。ここで、「ガラス転移点」とは、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定した値を指す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、屈伏点が530〜700℃であることが好ましい。ここで、「屈伏点」とは、TMA装置で測定した値を指す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、熱膨張係数が49〜64×10−7/℃である。ここで、「熱膨張係数」とは、TMA装置で測定した値を指し、30〜380℃の温度範囲で測定した値を指す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。このようにすれば、近年の環境的要請を満たすことができる。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm(質量)以下の場合を指す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、点火プラグに用いることが好ましい。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由を下記に示す。
SiO2は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は40〜60%、好ましくは45〜58%、より好ましくは48〜54%である。SiO2の含有量が40%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、SiO2の含有量が60%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
B2O3は、ガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスを熱的に安定化させるとともに、ガラスの屈伏点を下げる成分であり、更にはガラスを分相させるための成分であり、その含有量は28〜40%、好ましくは30〜37%、より好ましくは31〜35%である。B2O3の含有量が28%より少ないと、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定生産し難くなることに加えて、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、B2O3の含有量が40%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
Li2O+Na2O+K2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は1〜20%、好ましくは3〜17%、より好ましくは5〜15%、更に好ましくは7〜13%である。Li2O+Na2O+K2Oの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
Li2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0.1〜13%、より好ましくは1〜13%、更に好ましくは2.5〜12%、特に好ましくは5〜10%である。Li2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの分相を促進させる観点から、ガラス組成中にLi2Oを必須成分として1%以上含有させることが好ましい。
Na2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜12%であり、より好ましくは0〜3%である。Na2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
K2Oは、ガラスの屈伏点を低下させるとともに、ガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜15%、好ましくは0〜12%であり、より好ましくは0〜3%である。K2Oの含有量が15%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
CaOは、ガラスの誘電率を顕著に低下させる主要成分であるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、その含有量は3〜20%、好ましくは3〜15%、より好ましくは3〜12%、更に好ましくは5〜10%である。CaOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。一方、CaOの含有量が0.1%より少ないと、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が低下し、その結果、点火プラグを小型化することが困難になる。また、CaOの含有量が0.1%より少ないと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
BaOは、ガラスの屈伏点を低下させる成分であるとともに、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分であり、その含有量は0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。BaOの含有量が7%より多いと、ガラスの誘電率が上昇し、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が低下する。また、BaOの含有量が7%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。なお、ガラスの誘電率を確実に低下させる観点から、ガラス組成として、BaOを実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にBaOを含有しない」とは、ガラス組成中において、BaOの含有量が3000ppm(質量)以下の場合を指す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、上記成分以外にも、例えば、以下の成分を含有させることができる。
Al2O3は、ガラスの耐水性を向上させる成分とともに、ガラスの熱膨張係数を下げる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%である。Al2O3の含有量が10%より多いと、ガラスの屈伏点が不当に上昇し、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
MgOは、ガラスの誘電率を顕著に低下させるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、またガラスの分相を促進させるための成分であり、その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜7%である。MgOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
SrOは、ガラスの誘電率を低下させるとともに、ガラスの屈伏点を低下させる成分であり、また、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止する成分である。その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜7%である。SrOの含有量が20%より多いと、ガラスの熱膨張係数が上昇し過ぎて、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスの分相を促進させるための成分であると同時に、ガラスの誘電率に影響を与える成分である。アルカリ土類金属酸化物のイオン半径が小さい程、ガラスが分相しやすくなり、具体的にはMgO、CaO、SrO、BaOの順で、ガラスが分相しやすくなる。ガラスの分相傾向が高くなると、熱処理温度の小さな変化に対しても、分相状態が大きく変動しやすくなり、その影響により、ホットプレス温度が変動すると、点火プラグの抵抗値がばらつく不具合が生じやすくなる。一方、アルカリ土類金属酸化物の分子量が小さい程、ガラスの誘電率が小さくなり、具体的にはMgO、CaO、SrO、BaOの順で、ガラスの誘電率が小さくなる。誘電率、分相、屈伏点等の特性を総合的に考慮すると、本願明細書の段落[0034]および[0035]に記載の通り、ガラス組成中のCaOの含有量を3〜20%、好ましくは3〜15%、より好ましくは3〜12%、更に好ましくは5〜10%に規制し、さらにガラス組成中のBaOの含有量を0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜3%に規制すべきである。このようにすれば、高周波雑音電波の吸収能を飛躍的に高めることができ、更には点火プラグの抵抗値がばらつく不具合を防止することができ、結果として、点火プラグの信頼性および生産性を向上させることができる。
また、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス組成として、更に種々の成分を10%まで添加することができる。例えば、TiO2、ZrO2、Bi2O3、Cs2O、La2O3、Gd2O3、V2O5、WO3、Sb2O3、SnO2、Nb2O5、Y2O3、CeO2、P2O5等を添加することができる。なお、本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、PbOの含有を完全に排除するものではないが、既述の通り、環境的観点から実質的にPbOを含有しないことが好ましい。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の粒度は150〜450μm、好ましくは200〜350μmである。ガラス粉末の粒度を150〜450μmにすれば、ブロック粒子として適正に機能することができる。つまり、ガラス粉末の粒度を150〜450μmにすれば、ホットプレス工程で導電粉末を取り込まずに変形できるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填しやすくなる。ガラス粉末の粒度が150μmより小さいと、ホットプレス工程でガラス粉末が導電粉末を溶解し、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の粒度が450μmより大きいと、顆粒に加工し難く、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなることに加えて、ホットプレス工程でガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の平均粒子径D50は150〜450μmが好ましく、200〜350μmがより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50を150〜450μmにすれば、ブロック粒子として適正に機能することができる。つまり、ガラス粉末の平均粒子径D50を150〜450μmにすれば、ホットプレス工程で導電粉末を取り込まずに変形できるとともに、顆粒に加工すれば、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填しやすくなる。ガラス粉末の平均粒子径D50が150μmより小さいと、ホットプレス工程でガラス粉末が導電粉末を溶解し、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス粉末の平均粒子径D50が450μmより大きいと、顆粒に加工し難く、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなることに加えて、ホットプレス工程でガラス粉末が変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。ここで、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して50%である粒子径を表す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス粉末の最大粒子径Dmaxは450μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径Dmaxが450μmより大きいと、顆粒に加工し難くなり、絶縁碍子の内孔が細径化された場合に、絶縁碍子の内孔にガラス粉末を充填し難くなる。ここで、「最大粒子径Dmax」は、レーザー回折法で測定した値を指し、レーザー回折法により測定した際の体積基準の累積粒度分布曲線において、その積算量が粒子の小さい方から累積して99%である粒子径を表す。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、抵抗体を形成するための細粒ガラス粉末としても使用することができる。その場合、ガラス粉末の平均粒子径D50は150μm未満が好ましく、100μm以下がより好ましい。ガラス粉末の平均粒子径D50が150μm以上であると、ホットプレス工程でガラス粉末が溶融し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。なお、粗粒ガラス粉末と細粒ガラス粉末を同一のガラス組成とすれば、ホットプレス工程で両者が強固に結合するため、抵抗体の機械的強度を高めることができる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、25℃、1MHzにおける誘電率は、5.5以下が好ましく、5.3以下がより好ましく、5.2以下が更に好ましい。25℃、1MHzにおける誘電率が5.5より大きいと、ガラスの高周波雑音電波の吸収能が低くなり、点火プラグを小型化した場合、高周波雑音電波を十分に吸収し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、25℃、1MHzにおける誘電正接は、0.018より大きいことが好ましく、0.0020以上がより好ましく、0.0025以上が更に好ましい。25℃、1MHzにおける誘電正接が0.0018より小さいと、ガラスの高周波雑音電波の吸収能を高め難くなり、点火プラグを小型化した場合、高周波雑音電波を十分に吸収し難くなり、車載用のTV、ラジオ、無線等を妨害するおそれがある。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、密度は、2.55g/cm3未満が好ましく、2.50g/cm3以下がより好ましく、2.45g/cm3以下が更に好ましい。密度が小さい程、ガラスを軽量化することができ、結果として、点火プラグを軽量化することができる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、ガラス転移点は485〜590℃が好ましく、490〜550℃がより好ましく、500〜540℃が更に好ましい。ガラス転移点が485℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、ガラス転移点が590℃より高いと、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、屈伏点は530〜700℃が好ましく、540〜650℃がより好ましく、550〜600℃が更に好ましい。屈伏点が530℃より低いと、ホットプレス工程で粗粒ガラス粉末が導電粉末を溶解しやすくなるため、粗粒ガラス粉末が導電路を迂回させるブロック粒子として機能し難くなり、抵抗体の高周波雑音電波の吸収能が低下しやすくなる。一方、屈伏点が700℃より高いと、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末において、熱膨張係数は40〜64×10 −7 /℃であり、40〜60×10−7/℃が好ましく、45〜58×10−7/℃がより好ましく、53〜58×10−7/℃が更に好ましい。熱膨張係数を40×10−7/℃より低くするためには、ガラス組成中のSiO2等の含有量を増加させる必要があるため、このような場合、ガラスの屈伏点が高くなることに起因して、ホットプレス工程でガラスが変形し難くなり、端子浮き等の不具合が発生しやすくなる。一方、熱膨張係数が60×10−7/℃より高いと、抵抗体と導電ガラス体または絶縁碍子の界面で剥離またはクラックが発生しやすくなる。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、分相特性を有することが好ましい。好ましい理由は、既述であるため、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、点火プラグに使用することが好ましい。本発明の抵抗体形成用ガラス粉末は、ガラス粉末の充填量を減らしても、高周波雑音電波を十分に吸収できるため、点火プラグが小型化された場合に有利である。
以下、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1〜5は、試料No.1〜29を示している。なお、試料No.29は、従来の抵抗体形成用ガラス粉末である。
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をカーボン製の型に流し出し、板状のガラス試料を得た。また、水冷ローラーにより、溶融ガラスの一部を薄片状に成形した後、ボールミルにて粉砕後、試験篩で分級し、粒度が150〜450μm(平均粒子径D50=300μm)の各ガラス粉末を得た。分級に際し、目開き450μmの試験篩を通過し、目開き150μmの試験篩を通過しないガラス粉末を採取した。
試料No.1〜29につき、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接、体積抵抗率、ブロック粒子としての機能、焼結性、分相性を評価した。
ガラス転移点および屈伏点は、TMA装置で測定した。なお、TMAの測定試料は、ガラス粉末を焼結させたものを使用した。
熱膨張係数は、TMA装置を用いて、30〜380℃の温度範囲で測定した。なお、TMAの測定試料は、ガラス粉末を焼結させたものを使用した。
誘電率および誘電正接は、50mm×50mm×3mm厚のガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの、表裏面を光学研磨)を測定試料として用い、ガラス基板の表裏面に30mmφの電極を貼り付け、電極間に電圧を印加して測定した。測定条件は、25℃、1MHzとし、ガラス基板の表裏面を光学研磨した。
体積抵抗率は、ASTM C657−78に準拠した方法で測定した。50mm×50mm×0.7mm厚のガラス基板(ガラス粉末を緻密に焼結させたもの、表裏面を光学研磨)を測定試料とした。このガラス基板の表裏面に、蒸着法で金属Al膜を形成し、厚み約2000nmの電極を形成した。主電極は直径29mmの円形、ガード電極は外径44mm、内径31mmの環状、ボトム電極は直径44mmの円形とした。次いで、表中の各温度の体積抵抗率を測定した。
ブロック粒子としての機能は、次のようにして測定した。まずガラスの密度に相当する質量の各ガラス粉末にカーボンブラックを5質量%添加した試料を金型により外径20mmのボタン状にプレスした。続いて、得られたボタン試料をアルミナ基板で挟んだ後、900℃に保持された電気炉に投入し、100kg/cm2のプレス圧力を加えて10分間加熱し、次いで電気炉からボタン試料を取り出し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ガラス粉末が多少変形しているが、完全に溶融しておらず、ガラス中にカーボンブラックが溶解していないものを「○」とし、ガラス粉末が完全に溶融し、或いはガラス中にカーボンブラックが溶解しているものを「×」として評価した。
焼結性は、ガラスの密度に相当する質量のガラス粉末(平均粒子径D50=50μm)を金型により外径20mmのボタン状にプレスし、次に得られたボタン試料をアルミナ基板上に載置した後、電気炉で20℃/分で昇温し、900℃で10分間保持した上で、20℃/分の速度で降温し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ボタン試料が光沢を有しており、ボタン試料の直径が17.8mm以下のものを「○」とし、ボタン試料に光沢がなく、或いはボタン試料の直径が17.8mmより大きいものを「×」として評価した。
分相性は、上記ボタン試料を所定形状に加工したものを測定試料とし、TEMで観察することで評価した。ガラスが分相しているものを「○」、分相していないものを「×」とした。
表1〜5から明らかなように、試料No.1〜28は、ガラス転移点、屈伏点、熱膨張係数、誘電率、誘電正接、ブロック粒子としての機能、焼結性および分相性の評価が良好であった。特に、試料No.1〜28は、誘電率が低いため、端子電極と中心電極間の実効誘電率を低下させることができ、結果として、点火プラグを小型化しても、高周波雑音電波を的確に吸収することができると考えられる。一方、試料No.29は、ガラス組成中にBaOを多量に含有し、且つCaOを含有していないため、誘電率が高く、点火プラグを小型化すると、高周波雑音電波が漏洩してしまうと考えられる。
ガラス粉末の粒度の影響を調査するために、実験を行なった。その実験結果を表6に示す。
まず、表中のガラス組成となるように、各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて1300℃で2時間溶融した。次に、水冷ローラーにより、溶融ガラスの一部を薄片状に成形した後、ボールミルにて各種条件で粉砕後、試験篩で分級し、各ガラス粉末を得た。なお、試料No.32〜35は、分級に際し、目開き450μmの篩を通過し、目開き150μmの篩を通過しないガラス粉末を採取した。
ガラス粉末の平均粒子径D50は、レーザー回折装置で測定した。
ブロック粒子としての機能は、次のようにして測定した。まずガラスの密度に相当する質量の各ガラス粉末にカーボンブラックを5質量%添加した試料を金型により外径20mmのボタン状にプレスした。続いて、得られたボタン試料をアルミナ基板で挟んだ後、900℃に保持された電気炉に投入し、100kg/cm2のプレス圧力を加えて10分間加熱し、次いで電気炉からボタン試料を取り出し、得られたボタン試料の外観を観察することで評価した。ガラス粉末が多少変形しているが、完全に溶融しておらず、ガラス中にカーボンブラックが溶解していないものを「○」とし、ガラス粉末が完全に溶融し、或いはガラス中にカーボンブラックが溶解しているものを「×」として評価した。
表6から明らかなように、試料No.32〜35は、ガラス粉末の粒度が適正であるため、ブロック粒子として機能すると考えられる。一方、試料No.30、31は、ガラス粉末の粒度が小さいため、細粒ガラス粉末に使用可能であるが、ブロック粒子としては機能し難いと考えられる。