本発明は、現在の標準的な光部品よりも数桁程度サイズが小さく、ナノフォトニクスと呼ばれる次世代光部品に関する。より詳細には、次世代光部品を他の光波回路や電子回路へ集積し組み込むのを容易にする光共振器構造および穴の位置の調整方法に関する。
ナノフォトニクスは、近接場光とナノ寸法物質との間の局所的電磁相互作用を利用したナノ寸法の加工やナノ寸法の光デバイスを実現する技術として知られている。ナノフォトニクスにより、サブマイクロメートルの寸法の要素からなる光部品、配線および集積回路が実現される。ナノフォトニクスは、次世代の光回路および光機器のプラットフォームとなることが期待されている。とりわけ、ナノフォトニクスによって部品サイズの圧倒的な小型化できるので、(1)機器の小型化、(2)省資源化、(3)低コスト化、および(4)シリコンチップ(電子集積回路)との融合および混載の実現が期待されている。
ナノフォトニクスにおける代表的な要素技術は、フォトニック結晶である。フォトニック結晶は、穴または柱等のサブミクロン要素部材を周期的に配置することによって特有の光学特性を創出し、光の伝搬や分散等を制御できる人工結晶である。その構造の微細さのために、フォトニック結晶の作製には高精度な微細加工技術を必要し、作製が容易とまでは言えない。しかしながら、近年の関連する技術の進歩により、実用的な性能を持ったフォトニック結晶が実現されつつある。
フォトニック結晶を用いた光デバイスとして、特に注目を浴びているものに、ナノ共振器と呼ばれる超小型光共振器がある。ナノ共振器は、非常に高いQ値を有することに特徴がある。光共振器におけるQ値は、光の漏れの少なさを表し、捕獲時間に逆比例する指標である。高いQ値を有する超小型光共振器は、基幹的な光部品であるレーザ、変調器、光メモリ、光受光器などへの応用が期待されている。
フォトニック結晶において、サブミクロン要素部材が周期的に配置される方向、すなわち周期(繰り返し距離)が平面内の独立な2つの方向にのみ存在するものを、2次元フォトニック結晶と呼ぶ。フォトニック結晶の周期は、「格子定数」aとも呼ばれ、穴などの要素部材が繰り返し配置されるときの要素間の繰り返し距離(間隔)を意味する。尚、一般に、格子定数は斜体字のaで表されるが、以後、簡単のため通常文字のaで示す。以下、用語「周期」は、フォトニック結晶の格子定数を意味するものとする。
2次元フォトニック結晶は、立体的な周期構造を要する3次元フォトニック結晶に比べ作製がはるかに容易で高性能の実現や特性制御の点で有利である。また、光を閉じ込めるために必要なフォトニックバンドギャップが平面内の全方向に形成される。このため一つのフォトニック結晶内に、多数の光素子および導波路を集積した面型光集積回路を実現できる。
2次元フォトニック結晶中に実現されるナノ共振器の中で、最も典型的で広く利用されているのが、通称Lx共振器である。ここで、xは1から始まる自然数であって、一般にはx=6までである。Lx共振器におけるxは、点欠陥の数を示している。
2次元フォトニック結晶から任意の1つの要素部材を取り除いたものは、点欠陥と呼ばれる。以後、本発明に関して対象とする2次元フォトニック結晶は、単位格子が正三角形をなす正三角格子を基本とする。単位格子は、正三角形から若干ずれていても構わない。要素部材を三角格子の1つの底辺の延長線上(以下、この方向をΓ−K結晶方位と定義する)に沿って1個から6個連続で取り除いて、一列に点欠陥が並んだ連続点欠陥を形成した共振器は、Lx共振器と呼ばれている。ここで、点欠陥が並んだ軸を、連続点欠陥軸4と呼ぶ。また、三角格子の1つの底辺の延長線方向をΓ−K結晶方位5と定義する。Γ−K結晶方位5に垂直な方向は、Γ−X結晶方位6である。図1において、例えば点欠陥が3個であればL3共振器であり、点欠陥が6個であればL6共振器となる。Lx共振器では、そのQ値が高くなるように連続して並んだ点欠陥に隣接する要素部材に対して調整が行われている。
図1は、Lx共振器の構成を示す図である。簡単のため、以下で対象とする2次元フォトニック結晶は、厚さtを有する半導体薄膜構造の板材と、板材の上下にある十分に厚い空気層と、周期要素部材として板材を貫通する空気円柱とからなるものとする。図1は、半導体薄膜構造の板材の板面に三角格子状に空気円柱が配列された板面を見た上面図である。図1に示すように、点線4上にΓ−K結晶方位5上に沿って空気円柱が存在しない点欠陥があり、点欠陥の数を変えて、異なる構成のLx共振器を構成できる。
図1に示したLx共振器においてQ値を高くする手法は、例えば非特許文献1、2に示されている。非特許文献1、2は、最も代表的な方法として、連続点欠陥軸上の両端の点欠陥に隣接する最近接穴C 1a、1bを、それぞれ共振器中心より外側にずらず手法を開示している。より具体的には、非特許文献2に示される通り、シリコン(Si)基板からなるL3共振器からL5共振器の各構成において、10万から30万の理論Q値が実現されている。また、点欠陥が2つであるL2共振器においても、5万程度のQ値が実現されている。
非特許文献1においては、最近接穴C 1a、1bに加えて、端にある点欠陥から最近接穴C 1a、1bの次に近接している第2近接穴D 2a、2bの位置および両第2近接穴D 2a、2bの次に近接している第3近接穴X 3a、3bの位置をさらに調整する。3つの種類の近接穴を調整することによって、L3共振器のQ値を35万程度にできることが開示されている。
2次元フォトニック結晶における他の代表的共振器としては、非特許文献3が開示しているH0共振器、および、非特許文献2が開示しているH1共振器がある。これらの共振器は、Lx共振器よりも小さい実面積および光閉込モード体積(V)を持っているが、光導波路との結合性が悪いため光素子としての応用に問題がある。
また、特許文献1および非特許文献4に開示された線欠陥型共振器は、Lx共振器と比べてはるかに高い実Q値を実現し、光導波路との結合性にも優れている。その反面で、1つの共振器の実面積が比較的大きく、さらに、線欠陥を有限長とすると高次のファブリーペロー共振モードが発生してしまうため、多数の共振器を備えた大規模光集積回路の構成要素としては適していない。上述の各種の共振器の比較からもわかるように、Lx共振器は大規模光集積回路の実現に最適なナノ共振器として特に有望である。共振器モードと量子ドット等の励起子との結合を扱う共振器量子電磁気学(Cavity−QED)の分野では、励起子の位置および量を制限することができて、光閉込モード体積Vが小さく、かつ簡単に比較的高いQ値を実現できるL3共振器は、とりわけ最も成功したプラットフォームとされている。
Lx共振器を光集積回路中の光素子基盤として利用しようとする場合、共振器を集積回路中の光導波路と結合する必要がある。実用的な光回路においては、回路の挿入損失をできる限り小さくしなければならない。挿入損失を抑えるためには、共振器と光導波路とを強く結合させる必要がある。例えばある光共振器素子の挿入損失を3dBから5dB程度に設定すると、導波路への光放出の増大により、Q値は導波路結合が無い状態の1/10程度になる。
フォトニック結晶を利用するナノ共振器は、そのサイズが従来の光共振器より数桁小さい。一方、素子性能はQ値に比例して増強される。このため、従来の光共振器素子に匹敵する素子性能を得るためには、十分高いQ値が必須である。目的とする素子の種類にも依存するが、必要なQ値は1万から数万であることが明らかになっている。Lx共振器は、光導波路結合が無い状態では実際作成されたもので数千〜数万のQ値を有しており、Cavity−QED等の研究用途には十分な性能を達成していた。しかしながら、光集積回路の実現に不可欠な、光導波路と強く結合した状態では、Q値は未だ不十分なものであった。従来技術の、最近接穴Cのみを動かして調整を行うLx共振器のままでは、1万を大きく上回るQ値を実現することは困難であった。
非特許文献1で開示されているように、図1における最近接穴C 1a、1b以外の共振器周囲の穴を調整することでQ値を更に増加させることが試みられてきた。しかし、Q値を増加させるための、汎用的に適応可能な確立された共振器の設計手順は、提供されていなかった。例えば非特許文献1では、図1に示したように、連続点欠陥軸4上にある最近接穴(第1近接穴)C、第2近接穴Dおよび第3近接穴Xの位置を動かすことでQ値を増加させることを報告している。しかし、第2近接穴Dおよび第3近接穴Xの調整によって得られるQ値の増加は、高々2倍程度であった。また、最近接穴C、第2近接穴Dおよび第3近接穴Xのそれぞれのシフト量およびシフト方向は、同文献中で指定された特定の実施例のみに有効なものであって、フォトニック結晶のパラメータや材料が変わった場合にも、普遍的に有効なものではなかった。
例えば、結晶周期、穴サイズ(半径等)、高屈折率の板材(スラブ)の厚さなどが異なると、上述の各穴のシフト量、シフト方向をそのまま適用できなかった。また異なる穴同士のシフト量の相関については、何ら見出されていなかった。
非特許文献1および非特許文献5において述べられているように、最近接穴Cおよび追加の他の共振器周囲の穴を調整する従来の手法として、Step by Step(SBS)法が用いられてきた。SBS法においては、第1段階として、最近接穴CをQ値が最大になるように位置を調整した後で、最近接穴Cのこの調整量を固定し、第2段階として、次の穴の位置の調整を行う。次の穴およびそのシフト量の決定は、候補となる全ての穴を試行錯誤的に動かしながら、結果的にQ値が最高となる穴とそのシフト量が決定される。この調整を逐次的に繰り返しながら、位置調整を行う穴を増やしていくものであった。
上述のSBS法による調整過程において、前の段階で調整を行った穴(例えば、最近接穴C)は、調整完了時にその位置が固定されてしまい、以降の段階での調整の際に再調整されることはなかった。このような調整方法では、異なる位置にある穴のそれぞれの調整のQ値への寄与は、互いに独立であることを前提にしていた。
非特許文献5には、3次元有限差分時間領域法(FDTD法)による数値シミュレーションにおいて、フーリエ変換の適用により結晶のどの部分から光が漏れているのかを特定しながらSBS法を実施する方法が述べられている。本手法は、構造調整が必要な共振器内の箇所を特定することによって、試行錯誤的に動かす候補となる穴を絞り込めるため、従来よりも効率的に構造調整を進めることが可能である。実際に、シリコンL3共振器で従来とくらべて10倍程度高いQ値が得られる具体的な事例も報告されている。しかしながら、非特許文献5の手法により高いQ値が報告されているのは、同文献中のL3共振器の一例のみであり、L3共振器以外の一般的なLx共振器でも10倍以上の高いQ値が得られるかどうかは明らかでなかった。さらに、この一例においても、第2段階以降において調整する穴およびそのシフト量を具体的にどのような手法で決定するかについては明示されておらず、従来どおりの試行錯誤的な調整方法を改善するものではなかった。
SBS法においては、調整穴の数を増やすほど、試行錯誤的な数値シミュレーションの必要量が増加するため、計算量が膨大となる問題があった。さらに、穴調整を求める試行錯誤手順をシミュレーションではなく、実験的に行うことは、最近接穴Cのみならともかく、調整穴の数が多い場合には困難であった。
SBS法による追加の穴調整によって、最近接穴Cのみを調整した共振器に対してQ値が2倍以上になる事例は、非特許文献1および非特許文献5の特定の材料および結晶パラメータの組み合わせにおいて報告されているだけである。一般に、任意のLx共振器において、最近接穴Cのみの調整と比べて、確実に数倍以上のQ値の増大が得られる手法は報告されておらず、膨大な試行錯誤作業に見合った調整効果は保証されていなかった。
以上述べてきたように、試行錯誤的な穴調整手順を一切必要とせずに、単純な幾何学的な穴調整の汎用的な規則によって、Lx共振器において常にQ値を一桁程度高めるような設計手法が実用上求められている。本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、フォトニック結晶のパラメータや構成材料に関係なく汎用的に適用可能な、フォトニック結晶の周期要素(穴)の位置調整の規則を提供するところにある。
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、三角格子状に配置された要素部材から構成されるフォトニック結晶において、前記三角格子のΓ−K結晶方位に沿って、前記要素部材が存在しない点欠陥がx個(x=1〜6)連続することよって形成される光共振器において、前記x個の点欠陥で規定される連続点欠陥軸上であって、前記連続するx個の点欠陥のうちの両端にある点欠陥に最も近接する要素部材の対を第1近接部材、前記第1近接部材の次に近接する要素部材の対を第2近接部材、前記第2近接部材の次に近接する要素部材の対を第3近接部材、前記第3近接部材の次に近接する要素部材の対を第4近接部材とし、前記連続点欠陥軸に対して、Γ−X結晶方位に隣接する要素部材の列で規定される、前記連続点欠陥軸に平行な軸の対を第1隣接軸、前記第1隣接軸上の前記要素部材の列に隣接する要素部材の第2の列で規定される、前記連続点欠陥軸に平行な軸の対を第2隣接軸、前記第2隣接軸上の前記要素部材の第2の列に隣接する要素部材の第3の列で規定される、前記連続点欠陥軸に平行な軸の対を第3隣接軸とするとき、前記第1隣接軸上であって、Γ−K結晶方位上で前記第2近接部材および前記第3近接部材の間に位置する第1の要素部材の組を、前記第1近接部材に対して、Γ−K結晶方位に沿って前記光共振器の中心部に向かってシフトさせたことを特徴とする光共振器である。
第1近接部材は、実施例の2つの穴Cに対応する。また、第2近接部材は、実施例の2つの穴Dに対応する。第4近接部材は、実施例の2つの穴Eに対応する。第1の要素部材の組は、実施例における4つの穴Aに対応する。上述の光共振器は、Lx共振器であり、x=1〜6である。
請求項2に記載の発明は、請求項1の光共振器であって、前記第1近接部材および前記第2近接部材を、前記第2近接部材のシフト量が前記第1近接部材のシフト量の半分になるように、それぞれ、前記Γ−K結晶方位に沿って前記光共振器の外部に向かってシフトさせたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1または2の光共振器であって、前記第1の要素部材の組の前記光共振器の中心部に向かってのシフト量は、前記フォトニック結晶の格子定数の0.3倍以上であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3いずれかの光共振器であって、前記第3隣接軸上であって、Γ−K結晶方位上で前記第2近接部材および前記第3近接部材の間に位置する第2の要素部材の組を、前記第1の要素部材の組の前記シフトの半分のシフト量となるように、Γ−K結晶方位に沿って前記光共振器の中心部に向かってシフトさせることを特徴とする。第2の要素部材の組は、実施例における4つの穴Bに対応する。
請求項5に記載の発明は、請求項4の光共振器であって、前記第4近接部材、ならびに、前記第2隣接軸上であって、Γ−K結晶方位上で前記第4近接部材の位置にある第3の要素部材の組を、前記第3の要素部材の組のシフト量が前記第4近接部材のシフト量の半分になるように、それぞれ、前記Γ−K結晶方位に沿って前記光共振器の外部に向かってシフトさせることを特徴とする。第3の要素部材の組は、実施例における4つの穴Fに対応する。
請求項6に記載の発明は、1乃至5いずれかの光共振器であって、前記要素部材は、前記フォトニック結晶を厚さ方向に貫通する空洞の円柱もしくは多角柱状の穴または前記フォトニック結晶と異なる屈折率を有する媒質が充填された円柱もしくは多角柱であることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、1乃至6いずれかの光共振器であって、前記連続する点欠陥の中心部分に埋め込みヘテロ構造を有することを特徴とする。
本発明により、Lx共振器のQ値が適用前より10倍程度高くなり、Lx共振器を使った光素子の性能を実用的なものとすることができる。特に光導波路との結合が高い状態において共振器Q値を数万にすることが可能となる。
本発明は、Lx共振器において、Q値を増加させるための幾何学的な穴の調整規則を明示する。フォトニック結晶のパラメータに関係なく汎用的に適用できる幾何学的な穴の調整規則によって、従来のLx共振器設計よりも10倍程度Q値の高い共振器設計を得ることを著しく容易にする。どの穴をどの向きに位置調整すべきかに関する試行錯誤は、全く不要になる。また、光共振器のどの場所において光漏れが最も大きいかについても考慮する必要もない。
以下の説明において提示する幾何学的な穴の調整規則において、「穴」とはフォトニック結晶における周期的に配置される要素部材のことを言う。したがって、もっとも簡単な構成の場合は、板材を貫通する円柱などの空洞の穴であり得る。しかし円柱内に何らかの材料が充填されていても良い。また、円柱形状である必要はなく、多角柱のような形状でも良い。以下では、簡単のために、フォトニック結晶における周期的に配置される要素部材を穴と呼ぶ。
発明者らはLx共振器に関する深い考察を行い、異なる穴を同時に位置調整した場合に、各位置調整のQ値への寄与は、従来技術においてSBS法がその前提としていたような独立なものではなく、対象とする穴同士の相対位置関係に依存するものであることを見出した。
図2は、本発明のLx共振器における穴の調整方法を説明する図である。図1と同様に、以下の説明における2次元フォトニック結晶は、一例として、厚さtを有する半導体薄膜構造の板材と、板材の上下にある十分に厚い空気層と、周期要素部材として板材を貫通する空気円柱とからなるものとする。図2は、半導体薄膜構造の板材の板面に三角格子に配列された空気円柱が配列された板面を見た上面図である。図2に示すように、連続点欠陥軸4上にΓ−K結晶方位5に沿って空気円柱が存在しない点欠陥があり、点欠陥の数を変えて、異なる構成のLx共振器を構成できる。例えば、点欠陥が2つならL2共振器であり、3つであればL3共振器となる。
本発明では、Lx共振器を対象とするので、要素部材すなわち穴は三角格子状に配置されているものとする。また、本発明のLx共振器では、光共振器を中心として、Γ−K結晶方向について対称な構成であるため、対となる2つの穴が対称位置となるようにシフトされるものとする。
例えば、図2において、第1近接穴C 1aに対して、もう1つの第1近接穴C 1bが存在する。また、穴A21に対して、もう1つの穴A31が存在する。第1近接穴Cを共振器の中心部に向かってシフトするときは、第1近接穴C 1aを、図2に向かって右側へ、第1近接穴C 1bを、図2に向かって左側へ、それぞれシフトするものとする。逆に、第1近接穴Cを共振器の外部に向かってシフトするときは、第1近接穴C 1aを、図2に向かって左側へ、第1近接穴C 1bを、図2に向かって右側へ、それぞれシフトするものとする。シフト方向は、Γ−K結晶方位に沿ったいずれかの方向のみ(図2において、右方向または左方向のみ)である。
第1近接穴C 1a、1bのみを最適に調整していた従来技術のLx共振器において、第1近接穴Cの光共振器の中心部から外側へ向かってのシフト量は、結晶周期aの0.2倍程度になる。第1近接穴Cは、連続点欠陥軸上にあって、Lx共振器における連続する点欠陥の両端の点欠陥に隣接する穴を意味する。ここで、従来技術と同様に、第1近接穴Cの位置の調整量を固定した上で、例えば、連続点欠陥軸4に平行な隣接する軸28上にある穴Aを共振器の内側方向にシフトさせてもQ値の顕著な増大はなかった。
発明者らは複数の異なる穴の調整における相互作用の存在を念頭に、本発明に特有の調整規則を見出した。最初に、穴の位置を特定するために、三角格子における軸を定義する。連続する点欠陥が並ぶΓ−K結晶方位の軸は、連続点欠陥軸4である。また、連続点欠陥軸4に対して、Γ−X結晶方位に隣接する要素部材の列で規定される、連続点欠陥軸に平行な軸を第1隣接軸28とする。すなわち、第1隣接軸28は、要素部材を結んで構成され、連続点欠陥軸4に平行で、連続点欠陥軸4に最も隣接している軸である。
さらに、第1隣接軸28の次に、連続点欠陥軸4に隣接している軸を第2隣接軸29とする。すなわち、第2隣接軸29は、第1隣接軸28上の要素部材の列に隣接する要素部材の第2の列で規定される、前記連続点欠陥軸に平行な軸である。同様に、さらに第3隣接軸30が定義される。ここで、第1隣接軸28、第2隣接軸29、第3隣接軸30は、連続点欠陥軸4に対して、それぞれ対称な位置にも存在することに留意されたい。例えば、図2では、連続点欠陥軸4に対して、上方および下方の対称な位置に、それぞれ対となる第1隣接軸がある。第2隣接軸、第3隣接軸についても同様である。
したがって、連続点欠陥軸4上の穴以外の穴については、共振器の中心に関して、Γ−K結晶方位に対称位置にある穴に対して、同様なシフトが加えられる。但し、シフトの方向は、Γ−K結晶方位に沿ったいずれかの方向であって、共振器の中心に関して対称となる方向に与えられる。以下の説明における各穴は、連続点欠陥軸4上のものを除いて、4つの穴がセットとして取り扱われる。例えば、第1隣接軸上にある穴Aについては、4つのセットとなる穴A21、22、31、32がある。また、第3隣接軸上にある穴Bについては、4つのセットとなる穴B23、24、33、34がある。以下の説明で、第1隣接軸、第2隣接軸、第3隣接軸などにある穴におけるシフトとは、4つの穴が同時に調整されることを意味する。
先にも述べたように、連続点欠陥軸4上にあって、両端の点欠陥に最も近接する穴はそれぞれ第1近接穴であり、第1近接穴の次に近接する穴は第2近接穴とする。以下同様に、順次、第3近接穴、第4近接穴とする。連続点欠陥軸4上にある穴おけるシフトとは、ペアとなる2つの穴が同時に調整されることを意味する。
本発明のLx共振器では、まず、連続点欠陥軸4に平行な、第1隣接軸上であって、かつ、Γ−K結晶方位について第2近接穴と第3近接穴との間に位置する穴A21、22、31、32(第1の要素部材の組)に、共振器の中心部に向かって大きな内側方向のシフト(格子定数aの0.3倍以上)を与える。次に、第1近接穴Cおよび第2近接穴Dを、第2近接穴Dのシフト量を第1近接穴Cの1/2に保ちながら、共振器の中心から外側に向かってシフトさせると、Q値の著しい増大が得られることを見出した(第1規則)。
穴のシフトによるQ値の変化は、第1隣接軸上にある穴A、第1近接穴Cおよび第2近接穴Dの相対位置関係に依存する。例えば、第1近接穴CのみをQ値が最大になるように調整した後、その位置を固定して第2近接穴Dおよび第1隣接軸上の穴Aを調整しても、本発明によって定まるQ値最大となる構造とは一致せず、Q値もむしろ低下する。これは、本発明にしたがった穴Aの調整をした後は、上述のように固定をしてしまった最近接穴Cの位置はもはや最適ではなく、位置の再調整が必要となるためである。
本発明により与えられるLx共振器においては、第1近接穴Cのシフト量は、x=2〜4で、格子定数aの0.3倍近傍となり、従来技術におけるシフト量の0.2倍近傍と比べて5割程度大きなシフト量が最適となる。一方、従来技術において、第1近接穴Cのシフト量を格子定数aの0.3倍に設定した場合、0.2倍とするよりもQ値が低下するため、最近接穴CによってQ値を最大化する従来技術の調整手法に従う限り、本発明のように0.3倍に設定することはあり得ない。したがって、従来技術の調整方法では、本発明の第1近接穴Cの調整位置には到達することはできない。このように、Lx共振器の構造調整において、調整の対象とする穴の間の相対位置関係がQ値に影響を与えることを見いだしたことが、本発明の重要な特徴である。
本発明のLx共振器は、従来技術における調整手順とは異なり、第1隣接軸28上であって、かつ、Γ−K結晶方位について第2近接穴と第3近接穴との間に位置している穴Aの位置調整から出発し、第1隣接軸にある穴Aに加え、第1近接穴Cおよび第2近接穴Dなどの連続点欠陥軸上にある穴の位置の調整を、同時に二次元的に進めることを特徴とする。
従来技術においてQ値を最大化する穴の位置構成と比べれば、構造的に比較的大きな差異があるにもかかわらず、従来のLx共振器と比べて共振器波長の変化は無視できる程度であって、共振器モード体積Vもほぼ維持される。このことは、本発明のLx共振器と従来技術のLx共振器の共振器モードが基本的に同一であり、Q値の観点からは本発明のLx共振器の設計の方が従来技術よりもより最適に近いことを示唆する。本発明のLx共振器は、理論上のQ値と実験で得られるQ値との間の差異が比較的小さい傾向を示す。これは、デバイスの作製誤差などによる構造上の揺らぎによる性能低下が起きにくいことを示唆している。
本発明のLx共振器により、図2の第1隣接軸28上の穴A、第1近接穴Cおよび第2近接穴Dの各位置を最適化することで、従来技術のように第1近接穴Cのみの調整を行ったLx共振器に対し、数倍から10倍超のQ値が得られる。
本発明のLx共振器では、さらに、周期要素の位置調整の異なる規則(第2規則)を見いだした。第1隣接軸28上の穴Aの調整に加えて、第3隣接軸30上であって、かつ、Γ−K結晶方位について第2近接穴と第3近接穴との間に位置する穴B23、24、33、34(第2の要素部材の組)に対し、穴Aのシフト量の1/2のシフト量を与え、穴Aと同方向にシフトさせることによって、最大5割程度のQ値の増大が得られる。
さらに、周期要素の位置のもう1つの異なる規則(第3規則)として、図2において、第4近接穴Eならびに、第2隣接軸上であって、かつ、Γ−K結晶方位について第4近接穴の位置にある穴F26、27、36、37(第3の要素部材の組)を、穴Fのシフト量が穴Eのシフト量の1/2になるように共振器外側方向にシフトさせることによっても、最大5割程度のQ値の増大が得られる。これらの異なる規則(第2規則および第3規則)を適用することによるQ値の増大は付加的なものであって、本発明のLx共振器におけるQ値の大きな増大を決定的にもたらすのは、最初に述べた第1隣接軸28上の穴A、第1近接穴Cおよび第2近接穴Dの各位置の最適化(第1規則)にある。
一般に、Lx共振器は、基底共振モードに加えて短波長側に高次モードを有する。本発明のLx共振器は、高次モードの波長および光閉込モード体積Vを維持したままで、Q値にも改善を与えるが有用な値までには至らない。本発明のLx共振器は、基底モードのみに著しく有用な高いQ値を提供する。
本発明のLx共振器は、実面積および光閉込モード体積Vが小さく、構造が比較的単純であるというLx共振器本来の長所を維持したままで、Q値のみを10倍程度高めるものである。光素子や集積光回路への応用においては当然のこと、様々な学術的用途においても極めて有用である。
例えば、フォトニック結晶の穴の寸法または材料屈折率が設計値に対して製造上の誤差が大きい場合や、フォトニック結晶の寸法または屈折率の正確な測定が困難な場合がある。また、成膜法により形成した化合物材料等においては、構成材料の屈折率が公知の物性定数表に載っている値から外れかつその誤差量が一定でない場合もある。これらのような場合においては、計算シミュレーションによる最適な穴調整量と、実際に製造した共振器における最適な穴調整量との間にずれが生じる。
上述の制御できない誤差があるような場合、先に述べた非特許文献1〜5に開示された各手法によって数値的に光漏れの低減を進めても、上記誤差のため性能の向上は制約されてしまう。結果として、数値計算で最適化した共振器構造を精密に再現しようとしても、実験的には数値計算が示すほどの高い性能が得られないことになる。
これに対し、本発明においては調整規則によって各穴の汎用的に適用可能な調整を行うことで、その最適構造の範囲が概ね絞られている。また、穴位置に関する変数は第1規則および第2規則までを適用する場合は2つであり、第3規則まで適用しても3つしかない。このため、上述の変数を微調整することによって、構造誤差を補正しながら実験においてQ値を最高にすることが容易に可能である。さらに、数値計算を全く行うことなく実験だけで共振器構造を最適化できる。これは、調整の対象となる穴およびそのシフトの向きが予め定まっており、試行錯誤となる対象が上述の変数の絶対値のみとなるため、試行錯誤が簡単に行えるからである。これは、事実上数値シミュレーションだけに依存している非特許文献5に記載された手法とは対照的な、本発明のLx共振器の有利な点である。以下、具体的な実施例について説明する。
図3は、本発明の実施例1のLx共振器(x=1〜5)の構成例を示す図である。本実施例では、最も代表的なLx共振器適用例として、Siを板材としその上下が空気層であって、三角格子に配列された空気円柱の穴で構成される2次元フォトニック結晶における構成例を示す。図3は、Si板材の上面から点欠陥を含む共振器の中心近傍を見た図である。(a)は点欠陥が1つであるL1共振器を、(b)は点欠陥が2つであるL2共振器を、(c)は点欠陥が3つ並んでいるL3共振器を、(d)は点欠陥が4つ並んでいるL4共振器を(e)は点欠陥が5つ並んでいるL5共振器をそれぞれ示す。
図3に示した各光共振器は、屈折率3.4、厚さ215nmのSi薄膜に半径100nmの空気円柱が、周期aが408nmにて配列されている。これらの各Lx共振器に対して、3次元有限差分時間領域法(FDTD)による電磁界シミュレーションを行い、共振器Q値を求めた。共振器のQ値は、従来技術の第1近接穴のみを調整した場合、上述の本発明における第1規則のみを適用した場合と、さらに第2規則を適用した場合、第2規則および第3規則を適用した場合について、それぞれ求められた。
図4は、各調整法に対して計算されたQ値の点欠陥の数xに対する依存性のグラフを示した図である。(a)は、リニアスケールの縦軸にQ値をプロットしたものである。横軸には、点欠陥の数xを取っている。(b)は、同じQ値を対数スケールの縦軸でプロットしたものである。
図5は、本発明のLx共振器に規則1〜3を適用したときの各穴のシフト量をまとめた表を示す図である。シフト量は、格子定数aに対する比の値である。表において、調整穴がACDと表記された欄の数値は、規則1を適用した場合のシフト量を示す。すなわち、第1隣接軸上であって、かつ、Γ−K結晶方位について第2近接穴と第3近接穴との間に位置する穴A(4つ)を共振器の中心側に向かってシフトし、第1近接穴Cおよび第2近接穴を、第2近接穴Dのシフト量が第1近接穴Cのシフト量の半部になるように、共振器の外側に向かってシフトする場合を示す。
また、調整穴がABCDと表記された欄の数値は、上述の規則1による、穴A、穴C、穴Dのシフト加えて、規則2を適用した場合のシフト量を示す。すなわち、規則1に加え、第3隣接軸30上であって、かつ、Γ−K結晶方位について第2近接穴と第3近接穴との間に位置する穴B(4つ)に対し、穴Aの半分のシフト量となるように、穴Aと同方向(共振器の中心側に向かって)にシフトさせる場合を示す。
さらに、調整穴がABCDEFと表記された欄の数値は、上述の規則1および規則2による、穴A、穴C、穴D、穴Bに加えて、規則3を適用した場合のシフト量を示す。すなわち、規則1および規則2に加え、第4近接穴Eならびに、第2隣接軸上であって、かつ、Γ−K結晶方位について第4近接穴の位置にある穴F(4つ)を、穴Fのシフト量が第4近接穴Eの半分のシフト量となるように、共振器外側方向にシフトさせる場合を示す。
調整穴がCと表記された欄の数値は、従来技術の調整方法であって、第1近接穴Cのみを共振器の外側に向かってシフトする場合を示している。
L1共振器からL5共振器において、それぞれ、1525nm、1554nm、1562nm、1565nm、1567nmの波長に共振器基底モードが発生した。穴A、穴Cおよび穴Dの調整のみ(規則1)でも、L2共振器で約100万、L3共振器で約200万のQ値が得られた。さらに、穴D、穴Eおよび穴F(規則2および規則3)の調整を加えると、L2共振器で160万、L3共振器で260万のQ値が得られた。穴Cのみの調整を行った従来技術によるL2共振器、L3共振器と比較すると、10倍をはるかに超えてQ値が増加している。
L1共振器、L4共振器、L5共振器においても、それぞれ従来技術の調整と比べて、ほぼ10倍程度の増大している。L1共振器については、非特許文献2などに報告されているH1共振器のほうがより高い100万以上のQ値を得ている。しかしながら、本発明のLx共振器では、L1共振器からL5共振器までのいずれの共振器においても、共通の幾何学的な穴調整規則を適用することで、従来技術に比べて10倍程度のQ値増大が得られることに意義がある。
図4の各グラフから分かるように、Q値は点欠陥数xに対し単調増加で変化し、L5共振器では600万に達する。さらにxを増やせばさらにQ値を高くすることもできるが、6以上にxが増えると応用に適さない共振器高次モードの数が増える。また共振器基底モードと共振器高次モードとの間隔が狭くなるため、光素子への利用には適さなくなる。もちろん、本発明はxが7以上の光共振器の場合であっても有効なものである。
本実施例において、シリコンの板厚、結晶周期a、穴径を変えた場合、各穴のシフト量や共振器波長をそれに応じて変化させる必要があるが、調整を行うべき穴の種類とシフト方向、異なる穴の間のシフト量の比は、規則1〜規則3をそのまま利用することが可能であり、ほぼ同程度の高いQ値が維持されることを確認している。実際に微細加工により作製したシリコンL2共振器、L3共振器のQ値を求めたところ、Q値はそれぞれ50万、100万となり、従来技術と比べておよそ10倍のQ値が得られている。
本発明のLx共振器におけるは、幾何学的な穴調整規則は、点欠陥部分内に埋め込みヘテロ構造を含むフォトニック結晶に対しても同様に適用が可能である。
図6は、本発明の第2の実施例の埋め込みヘテロ構造を含むLx共振器(x=2〜3)の構成例を示す図である。図6の(a)は、共振器の中心付近における板材の断面図を示す。(b)は、L2共振器の上面図を示し、(c)はL3共振器の上面図を示す。本実施例のLx共振器では、InPの板材41中にInGaAsP光吸収層43とInGaAs量子井戸層44を含んだ埋め込みヘテロ構造45(BH:Buried Hetero-structure)を有する2次元フォトニック結晶に構成される。BH45は、Lx共振器の中心点欠陥の中に配置してある。
InGaAsP光吸収層43は、InPに格子整合し波長1.3μmの光を吸収できるよう材料バンドギャップ波長1.35μmに対応する4元組成に設定する。InGaAs量子井戸層44は、半導体レーザとしての利得を与える活性層の役割を果たす。このようなBH構造は、非特許文献4に報告されているように、1.55μm付近の通信波長帯でレーザ発振するように作製可能である。
本実施例において、InPの板厚を245nm、結晶周期を420nm、量子井戸層の厚さを5.4nm、BH構造全体の厚さを145nm、穴42の直径を110nmに設定した。従来技術による第1近接穴Cのみを調整したL2共振器およびL3共振器設計においては、それぞれ、2.5万および6万の理論Q値が上限であった。しかしながら、前述の本発明のLx共振器における幾何学的な穴調整規則を適用することによって、実施例1と同様に大幅にQ値を増加させることができた。
図7は、実施例2のL2共振器およびL3共振器の数値シミュレーション結果を示す図である。(a)は、L2共振器について、屈折率分布(XZ面)と、規則1〜規則3を適用した場合の磁界分布(XZ面)および電界分布(YZ面)を示している。(b)は、L3共振器について、屈折率分布(XZ面)と、規則1〜規則3を適用した場合の磁界分布(XZ面)および電界分布(YZ面)を示している。屈折率分布は、板材を上方から見たもので、左側面の中央付近にBH45がある。磁界分布は、屈折率分布と同じ面について見たものである。電界分布は、BH45を含む連続点欠陥軸上で板材の厚さ方向に切断して見た断面図である。
図8は、実施例2におけるL2共振器およびL3共振器の各穴のシフト量をまとめた表を示す図である。規則1を適用して穴A、穴Cおよび穴Dのみのシフト量調整でも、L2共振器で20万、L3共振器で50万のQ値が得られ。従来技術による調整した2.5万および6万の理論Q値と比べて、Q値は一桁近い増加を示す。さらに規則2および規則3を追加して適用して、穴B、穴Eおよび穴Fの調整を加えるとQ値はさらに増大し、L2共振器およびL3共振器でそれぞれ33万、100万に達した。実施例1と比べてQ値の絶対値が低いこと、および、穴B、穴E、穴Fの付加的な調整の効果がより大きいことは、屈折率が異なるBH構造の存在を反映しているものと考えられる。本発明のLx共振器における幾何学的な穴調整規則が、Siと異なる材料のフォトニック結晶、さらには複雑なヘテロ構造を共振器の中心部に含む構造においても有用なことは実施例2の結果により明らかである。
以上に説明してきたように、本発明のLx共振器では、幾何学的な穴調整規則を適用することによって、Q値を適用前より10倍程度増加させることができる。Lx共振器を使った光素子の性能を、十分に実用的なものとすることが可能となる。特に、光導波路との結合が高い状態においても、共振器のQ値を数万程度に維持することが可能となる。
本発明のLx共振器におけるもう1つの重要な意義は、フォトニック結晶において位置を調整すべき周期要素部材(穴)の種類、シフト方向・シフト量について、汎用的に適用可能な幾何学的調整規則を明示しているところにある。本発明において提示された幾何学的な穴調整規則は、少なくともx=1から6までのLx共振器において、Lx共振器が構成できる様々な構成材料の任意の2次元フォトニック結晶において有効である。特に、L2共振器、L3共振器、L4共振器、L5共振器におけるQ値の向上は著しい。さらに、従来は全く注目されていなかったL2共振器に実用的な性能を与えることを初めて可能とした。
上述の実施例に示したように、穴調整規則は、フォトニック結晶材料、結晶周期、穴サイズ(半径等)、高屈折率の板材の厚さが異なっても汎用的に適応可能である。フォトニック結晶の周期要素は、円柱だけでなく多角柱にもできる。パラメータが変更されても、規則1〜規則3における対象となる穴、各穴のシフト方向およびシフト量の関係は汎用的に適用される。わずかな最適化を、試行錯誤のシミュレーションではなく、実験のみでも行うことができる。
さらに、屈折率が周囲と異なる材料からなる埋込ヘテロ構造(BH)が共振器中心に配置されていても有効である。活性層として量子井戸や量子ドットを含んだ構造においても、それらが共振器構造の対称性および面内方向の屈折率分布を乱さない形で配置されている限りにおいて、本発明の穴調整規則によるQ値の増大効果が十分に発揮される。なお、構成部材の光吸収損失によるQ値の低下については本発明の効果により抑制できるものではない。