しかしながら、特許文献2に記載されたトルク伝達用継手では、上記のガタ音を抑制することができても、ゴム材を設けることによって、雄スプライン軸と雌スプライン軸とにおける軸方向の摺動抵抗が増加し、摺動性が悪化するという問題があった。
更に、特許文献2に記載されたトルク伝達用継手では、雌スプライン軸とゴム材との接触面積が大きく、雄スプライン軸を捩じ回した際の初期剛性が高くなる。その結果、電動モータへの通電開始に伴って出力軸からウォーム軸に、急激に大きなトルクが伝達され、ステアリングホイールを操作する運転者に違和感を与えてしまうという問題があった。より具体的には、ステアリングホイールの操作が開始された直後に、突然、ステアリングホイールの操作に要する力が急減し、運転者に違和感を与えてしまうという問題があった。
そこで、本発明は、歯打ち音と呼ばれる不快な異音を抑制しつつ、軸方向の摺動抵抗の低減を可能にするとともに、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を従来よりも低減することによってシャフトに対して急激に大きな動力が伝達されることを抑制し、運転者に与える違和感の軽減を可能とするシャフト用構造体、雄型部材、及び、雌型部材を提供することを目的とする。
(1)本発明のシャフト用構造体は、動力を伝達可能なシャフトに組み付けられ、雄型部材を、軸方向に摺動可能に雌型部材に挿入して構成されるシャフト用構造体であって、複数の雄歯部と複数の雄歯底部とが外周部に形成された雄型部材と、複数の雌歯部と複数の雌歯底部とが内周部に形成され、前記雄型部材が挿入される雌型部材と、前記雄型部材の前記外周部表面を覆うように、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材と、を備え、前記雌型部材に前記雄型部材が挿入された初期状態において、前記繊維部材と、前記雌型部材の内周部のうち前記雌歯部と前記雌歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位と、に囲まれた隙間が形成されることを特徴とする。
上記(1)の構成によれば、雄型部材の外周部表面を覆うように、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材が設けられるので、雄型部材と雌型部材との間から生じる歯打ち音を抑制しつつ、雄型部材と雌型部材とにおける軸方向の摺動抵抗を低減することができる。また、摺動性の向上によって、雄型部材の外周部と雌型部材の内周部との間に潤滑油を供給する必要がなくなり、潤滑油補給等の手間を省くことができる。更に、雄型部材が雌型部材に挿入された初期状態において、繊維部材と、雌型部材の内周部のうち雌歯部と雌歯底部との間において繊維部材と対向する部位とに囲まれた隙間を形成できる。これにより、初期状態において雄型部材を周方向へ捩じ回した際に、繊維部材と雌型部材の内周部との接触面積を徐々に拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を従来よりも低減でき、シャフトに対して急激に大きな動力が伝達されることを抑制できる。これにより、運転者に従来のような違和感を与えてしまうことを防止できる。
(2)本発明のシャフト用構造体は、前記雌型部材の内周部のうち前記雌歯部と前記雌歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位が、前記雄型部材の周方向への捩じ回しを前記初期状態において開始した際に、前記繊維部材に当接される当接部と、前記当接部と前記繊維部材とが当接した後に、前記繊維部材に押圧される押圧部と、を有するものであることを特徴とする。
上記(2)の構成によれば、初期状態において雄型部材の周方向への捩じ回しを開始した際に、雌型部材の内周部と繊維部材とが当接することによって、繊維部材は、緩やかに変形しつつ、周方向への雌型部材の回転を開始させることができる。加えて、当接部と繊維部材とが当接した後に、繊維部材が変形しつつ、雌型部材を周方向に向けて本格的に回転させることができる。これにより、繊維部材と接触する部分との接触面積をより精度良く拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を更に低減することができる。
(3)本発明のシャフト用構造体は、動力を伝達可能なシャフトに組み付けられ、雄型部材を、軸方向に摺動可能に雌型部材に挿入して構成されるシャフト用構造体であって、複数の雄歯部と複数の雄歯底部とが外周部に形成された雄型部材と、複数の雌歯部と複数の雌歯底部とが内周部に形成され、前記雄型部材が挿入される雌型部材と、前記雌型部材の前記内周部表面を覆うように、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材と、を備え、前記雌型部材に前記雄型部材が挿入された初期状態において、前記繊維部材と、前記雄型部材の外周部のうち前記雄歯部と前記雄歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位と、に囲まれた隙間が形成されることを特徴とする。
上記(3)の構成によれば、雌型部材の内周部表面を覆うように、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材が設けられるので、雄型部材と雌型部材との間から生じる歯打ち音を抑制しつつ、雄型部材と雌型部材とにおける軸方向の摺動抵抗を低減することができる。また、摺動性の向上によって、雄型部材の外周部と雌型部材の内周部との間に潤滑油を供給する必要がなくなり、潤滑油補給等の手間を省くことができる。更に、雄型部材が雌型部材に挿入された初期状態において、繊維部材と、雄型部材の外周部のうち雄歯部と雄歯底部との間において繊維部材と対向する部位とに囲まれた隙間が形成される。これにより、該初期状態において雄型部材を周方向へ捩じ回した際に、繊維部材と接触する部分との接触面積を徐々に拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を従来よりも低減でき、シャフトに対して急激に大きな動力が伝達されることを抑制できる。これにより、運転者に従来のような違和感を与えてしまうことを防止できる。
(4)上記(3)のシャフト用構造体においては、前記雄型部材の外周部のうち前記雄歯部と前記雄歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位が、前記雄型部材の周方向への捩じ回しを前記初期状態において開始した際に、前記繊維部材と当接することによって、該繊維部材を変形させつつ前記雌型部材を周方向に回転開始可能な当接部と、前記当接部と前記繊維部材とが当接した後に、対向する前記繊維部材を押圧することによって、該繊維部材を変形させつつ前記雌型部材を周方向に回転可能な押圧部と、有することが好ましい。
上記(4)の構成によれば、初期状態において雄型部材の周方向への捩じ回しを開始した際に、雄型部材の外周部のうち雄歯部と雄歯底部との間において繊維部材と対向する部位が、繊維部材と当接することによって、対向する繊維部材を緩やかに変形させつつ、周方向への雌型部材の回転を開始させることができる。加えて、当接部と繊維部材とが当接した後に、対向する繊維部材を押圧することによって、該繊維部材を変形させつつ雌型部材を周方向に向けて本格的に回転させることができる。これにより、繊維部材と接触する部分との接触面積をより精度良く拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を更に低減することができる。
(5)本発明の雄型部材は、動力を伝達可能なシャフトに組み付けられ、複数の雌歯部と複数の雌歯底部とが内周部に形成された雌型部材に摺動可能に挿入して構成されるシャフト用構造体に用いられる雄型部材であって、外周部に形成された複数の雄歯部と、外周部に形成された複数の雄歯底部と、前記複数の雄歯部及び前記複数の雄歯底部の外周部表面を覆うように、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材と、を備え、前記雌型部材に挿入された初期状態において、前記繊維部材と、前記雌型部材の内周部のうち前記雌歯部と前記雌歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位と、に囲まれた隙間が形成されることを特徴とする。
上記(5)の構成によれば、雌型部材に挿入された際に、雌型部材との間にゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材が設けられるので、雄型部材と雌型部材との間から生じる歯打ち音を抑制しつつ、雄型部材と雌型部材とにおける軸方向の摺動抵抗を低減することができる。また、摺動性の向上によって、雄型部材の外周部と雌型部材の内周部との間に潤滑油を供給する必要がなくなり、潤滑油補給等の手間を省くことができる。更に、雌型部材に挿入された初期状態において、繊維部材と、雌型部材の内周部のうち雌歯部と雌歯底部との間において繊維部材と対向する部位と、に囲まれた隙間が形成される。これにより、該初期状態において雄型部材を周方向へ捩じ回した際に、繊維部材と接触する部分との接触面積を徐々に拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を従来よりも低減でき、シャフトに対して急激に大きな動力が伝達されることを抑制できる。これにより、運転者に従来のような違和感を与えてしまうことを防止できる。
(6)上記(5)の雄型部材は、前記雌型部材の内周部のうち前記雌歯部と前記雌歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位が、前記雄型部材の周方向への捩じ回しを前記初期状態において開始した際に、対向する前記繊維部材に当接される当接部と、前記当接部と前記繊維部材とが当接した後に、対向する前記繊維部材に押圧される押圧部と、を有する雌型部材に挿入して構成されるシャフト用構造体に用いられるものであることが好ましい。
上記(6)の構成によれば、初期状態において雄型部材の周方向への捩じ回しを開始した際に、雌型部材の内周部のうち雌歯部と雌歯底部との間において繊維部材と対向する部位とが繊維部材と当接することによって、繊維部材が緩やかに変形しつつ、周方向への雌型部材の回転を開始させることができる。加えて、当接部と繊維部材とが当接した後に、繊維部材が変形しつつ、雌型部材を周方向に向けて本格的に回転させることができる。これにより、繊維部材と接触部分との接触面積をより精度良く拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を更に低減することができる。
(7)本発明の雌型部材は、動力を伝達可能なシャフトに組み付けられ、複数の雄歯部と、複数の雄歯底部とが外周部に形成された雄型部材が摺動可能に挿入されて構成されるシャフト用構造体に用いられる雌型部材であって、内周部に形成された複数の雌歯部と、内周部に形成された複数の雌歯底部と、前記複数の雌歯部及び前記複数の雌歯底部の内周部表面を覆うように、ゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材と、を備え、前記雄型部材が挿入された初期状態において、前記繊維部材と、前記雄型部材の外周部のうち前記雄歯部と前記雄歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位と、に囲まれた隙間が形成されることを特徴とする。
上記(7)の構成によれば、雄型部材が挿入された際に、雄型部材との間にゴム又は樹脂を含浸させた繊維部材が設けられるので、雌型部材と雄型部材との間から生じる歯打ち音を抑制しつつ、雌型部材と雄型部材とにおける軸方向の摺動抵抗を低減することができる。また、摺動性の向上によって、雌型部材の内周部と雄型部材の外周部との間に潤滑油を供給する必要がなくなり、潤滑油補給等の手間を省くことができる。更に、雄型部材が挿入された初期状態において、繊維部材と、雄型部材の外周部のうち雄歯部と雄歯底部との間において繊維部材と対向する部位とに囲まれた隙間が形成される。これにより、該初期状態において雄型部材を周方向へ捩じ回した際に、繊維部材と接触部分との接触面積を徐々に拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を従来よりも低減でき、シャフトに対して急激に大きな動力が伝達されることを抑制できる。これにより、運転者に従来のような違和感を与えてしまうことを防止できる。
(8)上記(7)の雌型部材は、前記雄型部材の外周部のうち前記雄歯部と前記雄歯底部との間において前記繊維部材と対向する部位が、前記雄型部材の周方向への捩じ回しを前記初期状態において開始した際に、前記繊維部材と当接することによって、該繊維部材を変形させつつ前記雌型部材を周方向に回転開始可能な当接部と、前記当接部と前記繊維部材とが当接した後に、対向する前記繊維部材を押圧することによって、該繊維部材を変形させつつ前記雌型部材を周方向に回転可能な押圧部と、有する雄型部材が挿入されて構成されるシャフト用構造体に用いられるものであることが好ましい。
上記(8)の構成によれば、初期状態において雄型部材の周方向への捩じ回しを開始した際に、雄型部材の外周部のうち雄歯部と雄歯底部との間において繊維部材と対向する部材が繊維部材と当接することによって、対向する繊維部材を緩やかに変形させつつ、雄型部材の周方向への雌型部材の回転を開始させることができる。加えて、当接部と繊維部材とが当接した後に、繊維部材を変形させつつ、雌型部材を周方向に向けて本格的に回転させることができる。これにより、繊維部材と接触部分との接触面積をより精度良く拡大させることができる。その結果、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性を更に低減することができる。
[第1の実施形態]
以下、図1〜図7を参照しつつ、本発明の第1の実施形態に係るシャフト用構造体(スプライン)、このシャフト用構造体を構成する雄型部材(雄スプライン軸)及び雌型部材(雌スプライン軸)について説明する。
(電動パワーステアリング装置の全体構成)
ここでは、電動パワーステアリング装置の動作説明を兼ねて、各部の構成を説明する。図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1は、操舵部材としてのステアリングホイール2に連結しているステアリングシャフト(シャフト)3と、ステアリングシャフト3の先端部に設けられたピニオンギヤ4及びこのピニオンギヤ4に噛み合うラックギヤ5を有して車両の左右方向に延びる操舵軸としてのラック軸6とを有している。
ラック軸6の両端部にはそれぞれタイロッド7が結合されており、各タイロッド7は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する車輪8に連結されている。ステアリングホイール2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、この回転がピニオンギヤ4およびラックギヤ5によって、車両の左右方向に沿ってのラック軸6の直線運動に変換される。これにより、車輪8の転舵が達成される。
ステアリングシャフト3は、ステアリングホイール2に連なる入力軸9と、ピニオンギヤ4に連なる出力軸10とに分割されており、これら入、出力軸9,10はトーションバー11を介して同一の軸線上で互いに連結されている。また、トーションバー11を介する入、出力軸9,10間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ12が設けられており、このトルクセンサ12のトルク検出結果は制御部13に与えられる。制御部13では、トルク検出結果及び車速検出結果等に基づいて、ドライバ14を介して操舵補助用の電動モータ15への印加電圧を制御する。そして、電動モータ15の回転軸(図示せず)の回転が、減速機構17を介して減速される。減速機構17の出力回転は変換機構18を介してラック軸6の軸方向移動に変換され、操舵が補助される。本電動パワーステアリング装置1はいわゆるラックアシストタイプである。
(シャフト用構造体の構成)
本実施形態に係るシャフト用構造体20は、例えば、上記のステアリングシャフト3に適用されている。なお、以下において、ステアリングシャフト3を単にシャフト3と略記することがある。
本発明に係るシャフト用構造体20は、動力を伝達可能なシャフト3に組み付けられ、該動力を伝達可能な雄型部材及び雌型部材を軸方向に摺動可能に挿入して構成されるものであって、図2に示すように、金属製の雄型部材21、金属製の雌型部材22、及び、ゴム等で含浸処理されて雄型部材21の外周部21c表面を覆うように設けられた繊維部材23を有する。
雄型部材21は、図4(a)に示すように、略円柱状の基軸部21aと、該基軸部21aの一端部から凸状に延びる凸状部21bとを有する。この凸状部21bの外周部21cには、凸状部21bの周方向に沿って所定の隙間を隔てて隣り合う例えば6つの雄歯部21dと、各雄歯部21dの間に形成された例えば6つの雄歯底部21eと、が形成されている。
雌型部材22は、図4(b)に示すように、略円筒状に形成されており、繊維部材23(図4(c)参照)が外周部21cに覆われた雄型部材21を挿入可能な内周部22aを有する。雌型部材22の内周部22aには、雄型部材21の凸状部21bに形成されている雄歯部21dと同数(本実施形態では6つ)の雌歯部22bが、雌型部材22の周方向に所定の隙間を隔てて形成されている。更に、雌型部材22の内周部22aには、隣り合う各雌歯部22bの間において、雄歯底部21eと同数(本実施形態では6つ)の雌歯底部22cが形成されている。なお、この雌歯底部22cは、軸方向断面が略U字形状となるように形成されている。
繊維部材23は、アラミド繊維、ナイロン、ウレタン、木綿、絹、麻、アセテート、レーヨン、フッ素を含む繊維、及び、ポリエステル等によって形成可能であって、ゴム又は樹脂で含浸処理されている。繊維の形状は、例えば短繊維形状又は長繊維形状であってもよく、またシート状の布であってもよい。
ゴム又は樹脂により繊維を含浸処理することで、繊維の間にゴム材又は樹脂材が入り込み、繊維同士を接着させてまとめあげ、繊維部材23のように部材(シート体)として機能させることが可能となる。また、繊維にゴム等が含浸することにより、繊維同士の擦れによる摩耗が低減されると共に、さらには繊維部材23と雌型部材22との間で発生する繊維部材23表面の摩耗性のアップを図ることが可能となる。
なお、ゴムは、繊維を含浸処理できるものであればよい。このゴムとしては、例えば、ウレタンゴム、ニトリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、塩素化ポリエチレンゴム、エピクロヒドリンゴム、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、天然ゴム等を単独で、又はこれらのゴムを各種変性処理したものを使用することができる。これらのゴムは、単独で使用することができるほか、複数種のゴムをブレンドして用いることもできる。また、ゴムには、加硫剤のほか、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤、可塑剤、充填剤、及び、着色剤等の従来からゴムの配合剤として使用していたものを適量配合することができる。これら以外に、繊維部材23の潤滑性を向上させるために、グラファイト、シリコンオイル、フッ素パウダー、又は二硫化モリブデン等の固体潤滑剤がゴムに含まれていてもよい。さらに、上記ゴムの代わりに、又は上記ゴムとともに、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PET樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂、又は熱硬化樹脂を用いることもできる。
上記のゴム又は樹脂による繊維への含浸処理は、ゴム又は樹脂を溶剤等で溶解し液状とした後、所定の繊維(短繊維、長繊維又は布)をディッピング処理する方法が好適に使用される。実際の使用に際しては、繊維をシート状に形成した布を使用することができる。この布のゴム又は樹脂の含浸処理の方法も上記と同様な方法で行われる。
布を構成するものとしては、繊維を不規則にからめた不織布、規則的に成形した織布、及び、編布(ニット)等が挙げられる。これらの布は、繊維(短繊維又は長繊維)のみから構成されたものと比べ、シート状であることから、ゴム等による含浸処理を行い易く(ハンドリングが容易)、さらに後述するシャフト用構造体の表面にも接着し易いといった特徴を有する。なお、上記織布の織り方については、平織、朱子織、及び綾織等が用いられる。
また、上記の布には、ある程度の伸縮性があるものがよい。布を雄歯部21d及び雄歯底部21eの形状に沿った形へ成型する場合、又は雄型部材21の外周部21c表面に接着する場合、いずれも表面が凹凸形状になっていることから、布に伸縮性があることで、布表面が凹凸形状に追従して馴染みやすく、出来上がった繊維部材23の表面にシワ等が発生しにくく、表面が均一に仕上がるといった利点がある。その結果、雄型部材21の雌型部材22への挿入を滑らかなものとすることができる。さらに、雌型部材22と繊維部材23との間で発生する摺動抵抗を低減することができる。特に、布の伸縮性を示す方向は、少なくとも円筒状の繊維部材23の周方向と一致するように繊維部材23を製造することで、上記のシワ等の発生をより一層抑えることが可能となる。
含浸処理された繊維部材23は、図4(c)に示すように、雄型部材21の外周部21c(図4(a)参照)と略同形状の内周部23aと、雌型部材22の内周部22a(図4(b)参照)に挿入可能な外周部23bとを有している。本実施形態では、図5に示すように、雄型部材21の外周部21cに、含浸処理された繊維部材23が接着されている。ここで使用される接着剤は、アクリル樹脂系接着剤、オレフィン系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エチレン−酢酸ビニル樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、塩化ビニル樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、シリコン系接着剤、スチレン−ブタジエンゴム系接着剤、ニトリルゴム系接着剤、ホットメルト接着剤、フェノール樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、及びレゾルシノール系接着剤等があり、接着剤を加熱融解した状態にして流動性を付与した上で塗布し冷却することにより硬化・接着する方法、及び、接着剤を加熱することで硬化・接着させる方法等がある。
本実施形態において、含浸処理された繊維部材23は、雄型部材21の外周部21cの全周にわたって覆われており、例えば図2(a)に示すように、繊維部材23が接着された雄型部材21は、雌型部材22の端部から軸方向に突き出た先端部分を有している。雄型部材21の先端部分には、シャフト用構造体20の使用状況に応じて適宜加工が施される。
図2(b)は、図2(a)に示すA−A線の矢視断面を拡大した図である。本実施形態のシャフト用構造体20は、図2(b)に示すように、含浸処理された繊維部材23が外周部21cに接着された雄型部材21を雌型部材22に挿入した場合に、繊維部材23の外周部23bと、雌型部材22の内周部22aに形成された接触部分P1とで囲まれた閉曲線状の隙間S1を形成可能に構成されている。接触部分P1とは、対向する繊維部材23の外周部23bと接触可能な部位である。
図3は、図2(b)中の太線で取り囲んだ部分の拡大図である。図3に示すように、接触部分P1(同図中の曲線P1)は、点A1、A2を結んだ線分である。点A1は、繊維部材23の外周部23bと雌歯部22bの根元部分とが接触する点である。点A2は、繊維部材23の外周部23bと雌歯部22bの歯先部分とが接触する点である。接触部分P1(曲線P1)には、点A1から点A2に向かって、点A3,A4が存在している。なお、点A3,A4の位置は、シャフト用構造体20の使用状況に応じて適宜変更できる。接触部分P1(曲線P1)は、当接部P11及び押圧部P12を含んで構成されている。本実施形態では、点A1と点A3とを結ぶ線分によって当接部P11が構成されている。この当接部P11は、雄型部材21の周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)への捩じ回しを、初期状態(第1の実施形態では図2(b)に示される状態)において開始した際に、対向する繊維部材23の外周部23bと当接する部位である。この当接部P11と、繊維部材23の外周部23bとの当接によって、該繊維部材23を変形させつつ、雌型部材22を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に回転させることができる。また、点A3と点A4とを結ぶ線分によって押圧部P12が構成されている。この押圧部P12は、雄型部材21の周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)への捩じ回しによって当接部P11と繊維部材23とが当接した後に、対向する繊維部材23の外周部23bに押圧される部位である。そしてさらに、雄型部材21が周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に捩じ回されると、押圧部P12が、繊維部材23の外周部23bに押圧されることによって、該繊維部材23は変形されながらも、雌型部材22を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に回転させることができる。
上記隙間S1は、雌型部材22の軸方向に沿って全長に亘って形成されている。これにより、雄型部材21を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に捩じ回すと、隙間S1が吸収されるように繊維部材23の断面形状が変形し、当接部P11及び押圧部P12における繊維部材23との接触面積が拡大するようになっている。そして、その後に、雄型部材21に追従して雌型部材22が回転し、ピニオンギヤ(図1参照)が回転することとなる。
ここで、シャフト用構造体20の製法の一例としては、金属材料(図示せず)から図4(a),(b)にそれぞれ示された形状を有する雄型部材21及び雌型部材22を切り出す工程、繊維部材23をゴム等で含浸処理する工程、雄型部材21の外周部21cに含浸処理された繊維部材23を設ける工程、を順次行うことによる製法を挙げることができる。
また、繊維部材23の製法としては、以下のような製法を適宜選択することができる。例えば、図4(c)の繊維部材23を成型する場合、まず内周部23a及び外周部23bをそれぞれ成型することができる内型及び外型を用意する。当然のことながら、内型の外周面及び外型の内周面には、それぞれ、内周部23a及び外周部23bに沿った凹凸形状を備えている。そして、この2つの型の間にゴム又は樹脂で含浸処理された繊維(短繊維又は長繊維、又は布(シート状))を充填したのち、内型及び外型から充填された繊維に圧力及び温度を与え、その後、型から繊維を取り外し、内周部23a及び外周部23bが成型された繊維部材23を得ることができる。
また、繊維部材23の製法としては、内型と外型との間に充填する布を、内型の外形に沿う様な円筒形に仕上げ、その布を内型の外形に沿わせた状態で内型に被せ、その後、上記と同様に圧力及び温度を与え、繊維部材23を成型する方法もある。この場合、布が伸縮性を保有することで、一層、内型及び外型の凹凸形状に沿って繊維部材23の成型が可能となる。その結果、繊維部材23の内周部23a又は外周部23bにシワ等が発生することなく、表面均一な状態の成型品を製造することができる。このような表面均一な繊維部材23が雄型部材21の外周部21cに設けられることで、軸方向の摺動抵抗を一層低減することが可能となる。尚、布の伸縮性を示す方向が、少なくとも円筒状の繊維部材23の周方向と一致するように布を円筒形に仕上げることで、より一層上記のシワ等の発生を抑えることができる。
また、図5に示すように、雄型部材21の外周部21cに、含浸処理された繊維部材23が接着されている場合の製造方法は、上記製造方法の内型をそのまま雄型部材21に置き換え、さらに雄型部材21の金属表面に接着剤を塗ったあと、この雄型部材21と外型との間にゴム又は樹脂で含浸処理された繊維(短繊維又は長繊維、又は布(シート状))を充填したのち、外型から圧力及び温度を与え、その後、外型を取り外し、雄型部材21の外周部21cに繊維部材23が接着された図5の部材を得る。また、上記製造方法と同様に布を雄型部材21の外形に沿う様な円筒形に仕上げ、その布を雄型部材21の外径に沿わせた状態で被せてから、圧力を与え、図5の部材を得てもよい。この場合、布が伸縮性を有することで、雄型部材21の外周部21cに接着された繊維部材23の表面にシワ等が発生しづらく、表面均一な状態の雄型部材21を製造することができることから、シャフト用構造体20の雄型部材21と雌型部材22との軸方向の摺動抵抗を一層低減することが可能となる。尚、布の伸縮性を示す方向が、少なくとも雄型部材21の周方向と一致するように布を円筒形に仕上げることで、より一層上記のシワ等の発生が抑えられることは上述した通りである。
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。ここでは、ねじり剛性試験によって本実施形態に係るシャフト用構造体20(図2参照)の有用性を検討した結果について説明する。なお、本発明は、本実施例に限定されるものではない。より具体的に、本発明者は、上記シャフト用構造体20(図2参照)と、本実施形態の繊維部材23を備えずに雄型部材と雌型部材とが当接したときに金属面同士が当接することとなる従来のシャフト用構造体との比較により、ねじり剛性試験を行った。
図6は、ねじり剛性試験に使用したねじり剛性試験機を示している。なお、図6中のスプラインは、実際には本実施形態に係るシャフト用構造体20(図2参照)と同じものであるが、便宜上、模式的な概略図で示している。よって、繊維部材23の図示は省略している。図6において、雄型部材21の一端側が挿入された雌型部材22の一端は、板状の固定ベースに固定されている。雄型部材21の他端は、略直方体状のアームの一端側の表面に捩じ回し可能な状態で支持されている。アームの他端側の側面には、荷重を付与可能な荷重点が設けられている。この荷重点に所定の荷重が付与されると、雄型部材21に所定のトルクが負荷され、雄型部材21は、その中心軸を中心として周方向に捩じ回されることとなる。その際、ねじり剛性試験の条件は、次のように与えられる。ねじり剛性試験機としてはサーボ試験機を使用し、加振周波数[Hz]を0.01[Hz]とし、荷重[N]を±400[N]として試験を行った。また、本実施例では、距離D[mm]が20[mm]に設計されている。ここでの距離D[mm]とは、直線L1、L2の間の距離である。直線L1とは、雄型部材21の中心軸と略直交する平面であって、上記荷重が付与される荷重方向を含む仮想平面上に存在するとともに、雄型部材21の中心軸と略直交しており、且つ、上記荷重方向と平行な線である。直線L2とは、上記荷重点において上記荷重方向と合致している線である。なお、従来のシャフト用構造体についても同じ試験条件下でねじり剛性試験を行った。
図7は、上記ねじり剛性試験の結果であって、(a)は、ねじり剛性試験機を用いて測定したシャフト用構造体20の各トルク特性を示しており、(b)は、同じく上記サーボ試験機を用いて測定した従来のシャフト用構造体の各トルク特性を示している。ここで、図7(a),(b)の横軸は、本実施形態のシャフト用構造体20及び従来の金属単体のシャフト用構造体の各雄型部材に負荷されたトルク[N・m]を示し、縦軸は、各雄型部材を捩じ回した際のねじれ角度[deg]を示している。なお、本実施形態のシャフト用構造体20は、図2に示される第1の実施形態に係るシャフト用構造体20、すなわち、ゴム又は樹脂を含浸処理した繊維部材23が外周部21cに接着された雄型部材21を、雌型部材22に内挿したものである。また、従来の金属単体のシャフト用構造体は、金属面同士が当接するもの、すなわち、雄型部材と雌型部材との間に繊維部材のような弾力性を有する部材が存在せずに、外周部が金属面の雄型部材を、内周部が金属面の雌型部材に内挿したものである。
図7(a)を見ると、雄型部材21の外周部21c表面を覆うように繊維部材23を設けた本実施形態に係るシャフト用構造体20では、雄型部材21を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に捩じ回すことに伴って、繊維部材23と接触部分P1(図3参照)との接触面積が大きくなる程、つまり、点A1、A3を結んだ曲線P11(図3参照)、点A3、A4を結んだ曲線P12(図3参照)が順次、対向する繊維部材23の外周部23b(図3参照)と接触するに連れて、雄型部材21を捩じ回した際の初期剛性が少しずつ上がり、点A4、A2を結んだ線分(図3参照)が対向する繊維部材23の外周部23b(図3参照)と接触して、隙間S1(図3参照)が無くなった瞬間から本格的に剛性が上がっていく。
一方、図7(b)を見ると、金属面同士が当接する従来の金属単体のシャフト用構造体では、雄型部材を捩じ回した際の初期剛性が、本実施形態に係るシャフト用構造体20よりも急激に上昇しており、本実施形態のように少しずつ緩やかに上がっていくものではない。なお、図7(b)において、ねじれ角度[deg]が0[deg]付近で小さな値となっているのは、従来の金属単体のシャフト用構造体のガタツキによるものである。
(本発明の第1の実施形態に係るシャフト用構造体の特徴)
上記構成によれば、雄型部材21の外周部21cに、ゴム等を含浸させた繊維部材23を設けることで、雄型部材21の外周部21cと雌型部材22の内周部22aとの間から発生する歯打ち音といった不快音の抑制、及び、雄型部材21と雌型部材22とにおける軸方向の摺動抵抗の低減といった、互いにトレードオフの関係にある両課題を同時に解決することができる。また、雄型部材21と雌型部材22とにおける軸方向の摺動性が向上することによって、雄型部材21の外周部21cと雌型部材22の内周部22aとの間に潤滑油を供給する必要がなくなり、潤滑油補給等の手間を省くことができる。さらに、繊維部材23をゴム又は樹脂で含浸処理したことで、繊維部材23と雌型部材22の内周部22aとの間で発生する繊維部材23表面の摩耗性を向上させることができる。
また、上記構成に示すように、雄型部材21が雌型部材22に挿入された初期状態において、繊維部材23と、雌型部材22の内周部22aにおける接触部分P1とに囲まれた隙間S1を形成できる。これにより、初期状態において雄型部材21を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)へ捩じ回した際に、繊維部材23と接触部分P1との接触面積を徐々に拡大させることができる。その結果、雄型部材21を捩じ回した際の初期剛性を従来よりも低減でき、シャフト3に対して急激に大きな動力が伝達されることを抑制できる。これにより、運転者に従来のような違和感(ステアリングホイール2の操作が開始された直後に、突然、ステアリングホイール2の操作に要する力が急減するという違和感)を与えてしまうことを防止できる。
また、上記構成に示すように、初期状態において雄型部材21の周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)への捩じ回しを開始した際に、接触部分P1の当接部P11が、繊維部材23の外周部23bのうち当接部P11に対向する部分と当接することによって、当接部P11に対向する繊維部材23を緩やかに変形させつつ、周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)への雌型部材22の回転を開始させることができる。加えて、接触部分P1の押圧部P12は、当接部P11と、繊維部材23の外周部23bのうち当接部P11に対向する部分とが当接した後に、繊維部材23の外周部23bのうち押圧部P12に対向する部分を押圧することによって、押圧部P12に対向する繊維部材23を変形させつつ、雌型部材22を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に向けて本格的に回転させることができる。これにより、繊維部材23と接触部分P1との接触面積をより精度良く拡大させることができる。その結果、雄型部材21を捩じ回した際の初期剛性を更に低減できる。
なお、本実施形態における初期剛性とは、雄型部材21を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に捩じ回した際に、点A1、A2を結んだ線分(図3中の曲線P1)が、対向する繊維部材23の外周部23b(図3参照)と、隙間S1(図3参照)が無くなる瞬間まで接触する際の剛性を意味するものでもよく、点A1、A3、A4を結んだ線分(図3中の曲線P11,P12)が、対向する繊維部材23の外周部23b(図3参照)と接触する瞬間までの剛性を意味するものであってもよい。
また、図2(a)で見られるように、雄型部材21の外周部21c表面を覆うように繊維部材23を設けた本実施形態に係るシャフト用構造体20では、雄型部材21を周方向(図2(b)中の白抜きで示す矢印右方向)に捩じ回すことに伴って、繊維部材23と接触部分P1(図3参照)との接触面積が大きくなる程、つまり、点A1、A3を結んだ曲線P11(図3参照)、点A3、A4を結んだ曲線P12(図3参照)が順次、対向する繊維部材23の外周部23b(図3参照)と接触するに連れて、雄型部材21を捩じ回した際の初期剛性が少しずつ上がり、点A4、A2を結んだ線分(図3参照)が対向する繊維部材23の外周部23b(図3参照)と接触して、隙間S1(図3参照)が無くなった瞬間から本格的に剛性が上がっていく。その結果、繊維部材23を金属とした構造を有する従来のシャフト用構造体よりも、少しずつ緩やかに初期剛性を上げていくことができる。つまり、A1を起点としてA3に向けて繊維部材23との接触面積が徐々に広がっていき、その後、A3からA4に向けて繊維部材23との接触面積が徐々に広がっていくといったように、接触部分P1の各構成部分を順序よく、繊維部材23の外周部23bと徐々に接触させていくことで、繊維部材23と接触部分P1との接触面積をより精度良く拡大させることができ、少しずつ緩やかに初期剛性を上げていくことができるのである。
[第2の実施の形態]
次に、図8〜図12を参照しつつ、本発明の第2の実施形態に係るシャフト用構造体(スプライン)、このシャフト用構造体を構成する雄型部材(雄スプライン軸)及び雌型部材(雌スプライン軸)について説明する。なお、第1実施の形態の部位1〜15,17,18と、本実施の形態の部位101〜115,117,118とは、順に同様のものであるので、詳細な説明を省略することがある。
(電動パワーステアリング装置の全体構成)
図8に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)101は、操舵部材としてのステアリングホイール102に連結しているステアリングシャフト(シャフト)103と、ステアリングシャフト103の先端部に設けられたピニオンギヤ104及びこのピニオンギヤ104に噛み合うラックギヤ105を有して車両の左右方向に延びる操舵軸としてのラック軸106とを有している。
(シャフト用構造体の構成)
本実施形態に係るシャフト用構造体は、例えば、上記のステアリングシャフト103に適用されている。なお、以下において、ステアリングシャフト103を単にシャフト103と略記することがある。
本発明に係るシャフト用構造体120は、動力を伝達可能なシャフト103に組み付けられ、該動力を伝達可能な雄型部材及び雌型部材を軸方向に摺動可能に挿入して構成されるものであって、図9に示すように、金属製の雄型部材121、金属製の雌型部材122、及び、ゴム等で含浸処理されて雌型部材122の内周部122a表面を覆うように設けられた繊維部材123を有する。
雄型部材121は、図11(a)に示すように、略円柱状の基軸部121aと、該基軸部121aの一端部から凸状に延びる凸状部121bとを有する。この凸状部121bの外周部121cには、凸状部121bの周方向に沿って所定の隙間を隔てて隣り合う例えば6つの雄歯部121dと、各雄歯部121dの間に形成された例えば6つの雄歯底部121eと、が形成されている。凸状部121bの外周部121cは、繊維部材123(図11(c)参照)で内周部122aが覆われた雌型部材122へ挿入可能に構成されている。
雌型部材122は、図11(b)に示すように、略円筒状に形成されている。雌型部材122の内周部122aには、雄型部材121の凸状部121bに形成されている雄歯部121dと同数(本実施形態では6つ)の雌歯部122bが、雌型部材122の周方向に所定の隙間を隔てて形成されている。更に、雌型部材122の内周部122aには、隣り合う各雌歯部122bの間において、雄歯底部121eと同数(本実施形態では6つ)の雌歯底部122cが形成されている。なお、この雌歯底部122cは、軸方向断面が略U字形状となるように形成されている。
繊維部材123は、第1の実施形態の繊維部材23と同様の材料を用いて形成可能であって、ゴム又は樹脂で含浸処理されている。繊維の形状は、例えば短繊維形状又は長繊維形状であってもよく、またシート状の布であってもよい。
ゴム又は樹脂により繊維を含浸処理することで、繊維の間にゴム材又は樹脂材が入り込み、繊維同士を接着させてまとめあげ、繊維部材123のように部材(シート体)として機能させることが可能となる。また、繊維にゴム等が含浸することにより、繊維同士の擦れによる摩耗が低減されると共に、さらには繊維部材123と雄型部材121との間で発生する繊維部材123表面の摩耗性のアップを図ることが可能となる。
なお、ゴムは、繊維を含浸処理できるものであればよく、第1の実施形態で例示したものを使用することができる。これらのゴムは、第1の実施形態と同様に、単独で使用することができるほか、複数種のゴムをブレンドして用いることもできる。また、ゴムには、第1の実施形態で例示した配合剤を適量配合することができる。これら以外に、繊維部材123の潤滑性を向上させるために、グラファイト、シリコンオイル、フッ素パウダー、又は二硫化モリブデン等の固体潤滑剤がゴムに含まれていてもよい。さらに、上記ゴムの代わりに、又は上記ゴムとともに、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン、ポリカーボネート、PET樹脂、フッ素樹脂、ポリエチレン、AS樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ナイロン、アルキド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂等の熱可塑性樹脂、又は熱硬化樹脂を用いることもできる。
上記のゴム又は樹脂による繊維への含浸処理は、第1の実施形態と同様に、ゴム又は樹脂を溶剤等で溶解し液状とした後、所定の繊維(短繊維、長繊維又は布)をディッピング処理する方法が好適に使用される。実際の使用に際しては、繊維をシート状に形成した布を使用することができる。この布のゴム又は樹脂の含浸処理の方法も上記と同様な方法で行われる。
また、上記の布には、第1の実施形態と同様に、ある程度の伸縮性があるものがよい。布を雌歯部122b及び雌歯底部122cの形状に沿った形へ成型する場合、又は雌型部材122の内周部122a表面に接着する場合、いずれも表面が凹凸形状になっていることから、布に伸縮性があることで、布表面が凹凸形状に追従して馴染みやすく、出来上がった繊維部材123の表面にシワ等が発生しにくく、表面が均一に仕上がるといった利点がある。その結果、雄型部材121の雌型部材122への挿入を滑らかなものとすることができる。さらに、雄型部材121と繊維部材123との間で発生する摺動抵抗を低減することができる。特に、布の伸縮性を示す方向は、少なくとも円筒状の繊維部材123の周方向と一致するように繊維部材123を製造することで、上記のシワ等の発生をより一層抑えることが可能となる。
含浸処理された繊維部材123は、図11(c)に示すように、雄型部材121の外周部121c(図11(a)参照)を挿入可能な内周部123aと、雌型部材122の内周部122a(図11(b)参照)と略同形状の外周部123bとを有している。本実施形態では、図12に示すように、雌型部材122の内周部122aに、含浸処理された繊維部材123が接着されている。ここで使用される接着剤は、第1の実施形態で例示したものを使用することができる。
本実施形態において、含浸処理された繊維部材123は、雌型部材122の内周部122aの全周にわたって覆われており、例えば図9(a)に示すように、雄型部材121は、雌型部材122の端部から軸方向に突き出た先端部分を有している。雄型部材121の先端部分には、シャフト用構造体120の使用状況に応じて適宜加工が施される。
図9(b)は、図9(a)に示すB−B線の矢視断面を拡大した図である。本実施形態のシャフト用構造体120は、図9(b)に示すように、含浸処理された繊維部材123が内周部122aに接着された雌型部材122に雄型部材121が挿入された初期状態の場合に、繊維部材123の内周部123aと、雄型部材121の外周部121cに形成された接触部分P2とで囲まれた閉曲線状の隙間S2を形成可能に構成されている。接触部分P2とは、対向する繊維部材123の内周部123aと接触可能な部位である。
図10は、図9(b)中の太線で取り囲んだ部分の拡大図である。図10に示すように、接触部分P2(同図中の曲線P2)は、点A11、A12を結んだ線分である。点A11は、繊維部材123の内周部123aと雄歯部121dの根元部分とが接触する点である。点A12は、繊維部材123の内周部123aと雄歯部121dの歯先部分とが接触する点である。接触部分P2(曲線P2)には、点A11から点A12に向かって、点A13,A14が存在している。なお、点A13,A14の位置は、シャフト用構造体120の使用状況に応じて適宜変更できる。接触部分P2(曲線P2)は、当接部P21及び押圧部P22を含んで構成されている。本実施形態では、点A11と点A13とを結ぶ線分によって当接部P21が構成されている。この当接部P21は、雄型部材121の周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)への捩じ回しを、初期状態(第2の実施形態では図9(b)に示される状態)において開始した際に、対向する繊維部材123の内周部123aと当接することによって、該繊維部材123を変形させつつ雌型部材122を周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)に回転開始可能な部位である。また、点A13と点A14とを結ぶ線分によって押圧部P22が構成されている。この押圧部P22は、雄型部材121の周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)への捩じ回しによって当接部P21と繊維部材123とが当接した後に、対向する繊維部材123の内周部123aを押圧する部位である。そしてさらに、雄型部材21が周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)に捩じ回されると、雄圧部P22が、繊維部材123の内周部を押圧することによって、該繊維部材123を変形させつつ雌型部材122を周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)に回転させることができる。
上記隙間S2は、雄型部材121の軸方向に沿って全長に亘って形成されている。これにより、雄型部材121を周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)に捩じ回すと、隙間S2が吸収されるように繊維部材123の断面形状が変形し、当接部P21及び押圧部P22における繊維部材123との接触面積が拡大するようになっている。そして、その後に、雄型部材121に追従して雌型部材122が回転し、ピニオンギヤ104(図8参照)が回転することとなる。
ここで、シャフト用構造体120の製法の一例としては、金属材料(図示せず)から図11(a),(b)にそれぞれ示された形状を有する雄型部材121及び雌型部材122を切り出す工程、繊維部材123をゴム等で含浸処理する工程、雌型部材122の内周部122aに含浸処理された繊維部材123を設ける工程、を順次行うことによる製法を挙げることができる。
また、繊維部材123の製法としては、以下のような製法を適宜選択することができる。例えば、図11(c)の繊維部材123を成型する場合、まず内周部123a及び外周部123bをそれぞれ成型することができる内型及び外型を用意する。当然のことながら、内型の外周面及び外型の内周面には、それぞれ、内周部123a及び外周部123bに沿った凹凸形状を備えている。そして、この2つの型の間にゴム又は樹脂で含浸処理された繊維(短繊維又は長繊維、又は布(シート状))を充填したのち、内型及び外型から充填された繊維に圧力及び温度を与え、その後、型から繊維を取り外し、内周部123a及び外周部123bが成型された繊維部材123を得ることができる。
また、繊維部材123の製法としては、内型と外型との間に充填する布を、内型の外形に沿う様な円筒形に仕上げ、その布を内型の外形に沿わせた状態で内型に被せ、その後、上記と同様に圧力及び温度を与え、繊維部材123を成型する方法もある。この場合、布が伸縮性を保有することで、一層、内型及び外型の凹凸形状に沿って繊維部材123の成型が可能となる。その結果、繊維部材123の内周部123a又は外周部123bにシワ等が発生することなく、表面均一な状態の成型品を製造することができる。このような表面均一な繊維部材123が雌型部材122の内周部122aに設けられることで、軸方向の摺動抵抗を一層低減することが可能となる。尚、布の伸縮性を示す方向が、少なくとも円筒状の繊維部材123の周方向と一致するように布を円筒形に仕上げることで、より一層上記のシワ等の発生を抑えることができる。
また、図12に示すように、雌型部材122の内周部122aに、含浸処理された繊維部材123が接着されている場合の製造方法は、上記製造方法の内型をそのまま雌型部材122に置き換え、さらに雌型部材122の金属表面に接着剤を塗ったあと、この雌型部材122と外型との間にゴム又は樹脂で含浸処理された繊維(短繊維又は長繊維、又は布(シート状))を充填したのち、外型から圧力及び温度を与え、その後、外型を取り外し、雌型部材122の内周部122aに繊維部材123が接着された図12の部材を得る。また、上記製造方法と同様に布を雌型部材122の内形に沿う様な円筒形に仕上げ、その布を雄型部材21の内径に沿わせた状態で被せてから、圧力を与え、図12の部材を得てもよい。この場合、布が伸縮性を有することで、雌型部材122の内周部122aに接着された繊維部材123の表面にシワ等が発生しづらく、表面均一な状態の雌型部材122を製造することができることから、シャフト用構造体120の雄型部材121と雌型部材122との軸方向の摺動抵抗を一層低減することが可能となる。尚、布の伸縮性を示す方向が、少なくとも雌型部材122の周方向と一致するように布を円筒形に仕上げることで、より一層上記のシワ等の発生が抑えられることは上述した通りである。
(本発明の第2の実施形態に係るシャフト用構造体の特徴)
上記構成によれば、雌型部材122の内周部122aに、ゴム等を含浸させた繊維部材123を設けることで、雄型部材121の外周部21cと雌型部材122の内周部122aとの間から発生する歯打ち音といった不快音の抑制、及び、雄型部材121と雌型部材122とにおける軸方向の摺動抵抗の低減といった、互いにトレードオフの関係にある両課題を同時に解決することができる。また、雄型部材121と雌型部材122とにおける軸方向の摺動性が向上することによって、雄型部材121の外周部121cと雌型部材122の内周部122aとの間に潤滑油を供給する必要がなくなり、潤滑油補給等の手間を省くことができる。さらに、繊維部材123をゴム又は樹脂で含浸処理したことで、繊維部材123と雄型部材121の外周部121cとの間で発生する繊維部材123表面の摩耗性を向上させることができる。
また、上記構成に示すように、雄型部材121が雌型部材122に挿入された初期状態において、繊維部材123と、雄型部材121の外周部121cにおける接触部分P2とに囲まれた隙間S2を形成できる。これにより、初期状態において雄型部材121を周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)へ捩じ回した際に、繊維部材123と接触部分P2との接触面積を徐々に拡大させることができる。その結果、雄型部材121を捩じ回した際の初期剛性を従来よりも低減でき、シャフト103に対して急激に大きな動力が伝達されることを抑制できる。これにより、運転者に従来のような違和感(ステアリングホイール102の操作が開始された直後に、突然、ステアリングホイール102の操作に要する力が急減するという違和感)を与えてしまうことを防止できる。
また、上記構成に示すように、初期状態において雄型部材121の周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)への捩じ回しを開始した際に、接触部分P2の当接部P21が、繊維部材123の内周部123aのうち当接部P21に対向する部分と当接することによって、当接部P21に対向する繊維部材123を緩やかに変形させつつ、周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)への雌型部材122の回転を開始させることができる。加えて、接触部分P2の押圧部P22は、当接部P21と、繊維部材123の内周部123aのうち当接部P21に対向する部分とが当接した後に、繊維部材123の内周部123aのうち押圧部P22に対向する部分を押圧することによって、押圧部P22に対向する繊維部材123を変形させつつ、雌型部材122を周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)に向けて本格的に回転させることができる。つまり、A12を起点としてA14に向けて繊維部材123との接触が徐々に広がっていき、その後、A14からA13に向けて繊維部材123との接触が徐々に広がっていくといったように、接触部分P2の各構成部分を順序よく、繊維部材123の内周部123aと徐々に接触させていくことで、繊維部材123と接触部分P2との接触面積をより精度良く拡大させることができ、その結果、雄型部材121を捩じ回した際の初期剛性を更に低減できる。
なお、本実施形態における初期剛性とは、雄型部材121を周方向(図9(b)中の白抜きで示す矢印左方向)に捩じ回した際に、点A11、A12を結んだ線分(図10中の曲線P2)が、対向する繊維部材123の内周部123a(図10参照)と、隙間S2(図10参照)が無くなる瞬間まで接触する際の剛性を意味するものでもよく、点A11、A13、A14を結んだ線分(図10中の曲線P21,P22)が、対向する繊維部材123の内周部123a(図10参照)と接触する瞬間までの剛性を意味するものであってもよい。
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
例えば、上記各実施形態では、本実施形態に係るシャフト用構造体を車両用のステアリングシャフト3,103に適用する例について述べたが、本発明はこれに限定されず、各種産業機械で用いられるシャフトに適用できる。
また、上記各実施形態では、繊維部材23,123をゴム等で含浸処理する例について述べたが、本発明はこれに限定されず、ゴム等で含浸処理することができるとともに金属面との間での摺動抵抗が低い繊維であれば良く、また繊維をシート状に形成した布でもよい。例えば、ゴム等で含浸処理された帆布、ベルベット、デニム、織布、編布を採用することができる。また、縦横一方に伸縮する、又は縦横両方に伸縮する繊維を採用してもよい。
また、ゴムを含浸させた繊維部材23,123を、雄型部材21の外周部21c及び雌型部材122の内周部122aに接着させる手法としては、例えば、ゴムを含浸させた繊維部材23,123の裏面(雄型部材21の外周部21c及び雌型部材122の内周部122aに接着される側の面)に繊維部材23,123と一体化されたゴム層を設け、このゴム層と金属面(雄型部材21の外周部21cの面及び雌型部材122の内周部122aの面)とを接着剤によって接着させるようにしてもよい。これにより、金属面と繊維部材23,123との接着強度を向上することができる。
また、上記各実施形態では、隙間S1,S2を、雌型部材22及び雄型部材121の軸方向に沿って全長に亘って形成する例について述べた。しかし、本発明の作用効果を奏することができる範囲内であれば、隙間S1,S2を、雌型部材22及び雄型部材121の軸方向に沿って必ずしも全長に亘って形成しなくとも、雌型部材22及び雄型部材121の軸方向の沿う一部分に形成するものであってもよい。
また、上記各実施形態では、接触部分P1,P2(当接部P11,21及び押圧部P12,22)が曲線を描く例について述べた。しかし、本発明の作用効果を奏することができる範囲内であれば、接触部分P1,P2(当接部P11,21及び押圧部P12,22)が必ずしも曲線を描く必要はなく、例えば直線を描くものであってもよい。