特許文献6、7のように鋼材とコンクリートとの一体性を確保するためのせん断力伝達部材として孔あき鋼板を使用することには、孔あき鋼板の面内方向に作用するせん断力に対する抵抗力が増大する利点がある。せん断力伝達部材を取り込むように打設されるコンクリートが鋼板の孔内に入り込むことで、鋼板両面におけるコンクリートとの付着力に加え、孔内に存在する柱状のコンクリートの外周面と孔の内周面との間に作用する支圧力と、孔内のコンクリート両端面におけるせん断抵抗力が鋼板とコンクリートとの間に作用するせん断力に対する抵抗力として付加されることに依る。
しかしながら、鋼材とコンクリートからなる鋼材コンクリート構造部材の単体ではこの孔あき鋼板の利点を有効に生かした例は前記のように存在せず、専ら鋼材が支持する床版との一体化を図ることへの利用に限られ(特許文献6、7)、ウェブとフランジを持つ鋼材の対向するフランジ間にコンクリートを密実に充填した特許文献1のような形式の、鋼材とコンクリートの合成構造の構造部材に孔あき鋼板を有効に活用した例はない。
本発明は上記背景より、鋼材とコンクリートからなる構造部材の単体でありながら、鋼材とコンクリートとの一体性が高く、構造部材としての用途の可能性を拡張し得る構造の鉄骨コンクリート部材を提案するものである。
請求項1に記載の発明の鉄骨コンクリート部材は、ウェブとその高さ方向両側に一体化し、前記ウェブの高さ方向に対向するフランジを有する鋼材と、前記鋼材の少なくとも前記対向するフランジ間に充填されるコンクリート、もしくはモルタルとを備え、前記対向するフランジの対向する面の少なくともいずれか一方に、前記ウェブより小さい高さの、板状の孔あき鋼板が前記鋼材の材軸方向に平行な方向を向いて一体化し、前記コンクリート、もしくはモルタル中に埋設されると共に、前記コンクリート、もしくはモルタルを前記ウェブとの間に挟み込んでいることを構成要件とする。
「ウェブとその高さ方向両側に一体化するフランジを有する鋼材」とは、ウェブの高さ方向両側に下部フランジと上部フランジが接合されたH形断面(H形鋼)、またはH形断面が組み合わせられた形状等、開放形断面の他、箱形断面(角形鋼管)等、閉鎖形断面の鋼材を指す。ウェブは鋼材の幅方向に並列する場合もあり、図18−(b)に示すようにフランジ22、23の幅方向中心部寄りで並列する場合と、(c)に示すようにフランジ22、23の幅方向両端部に位置する場合があり、後者の場合、鋼材2は箱形断面になる。いずれの形態の場合も、鋼材2は原則的に断面上の中心に関して幅方向に対称な形状をする。フランジ22、23には孔あき鋼板4が一体化することから、フランジ22、23は孔あき鋼板4の一体化後、ウェブ21の両端部に主に溶接によって接合される。
「下部フランジと上部フランジ」は鋼材を水平な方向に向けて使用する場合の便宜的な言い方であり、鋼材は材軸を鉛直方向に向けて使用されることもある。孔あき鋼板は対向するフランジの互いに対向する面に、原則として鋼材の幅方向の中心に関して対称位置に対になって突設される。ウェブがフランジの幅方向の中心に位置する鋼材(H形鋼)の場合には、ウェブの中心線の両側に孔あき鋼板が対になって配置され、ウェブがフランジの幅方向両側に位置する鋼材(箱形)の場合には、フランジの幅方向の中心を通る、ウェブに平行な仮想の平面に関して両側に対になって配置される。但し、鋼材の断面形状は必ずしもウェブの中心線に関して線対称形状をする必要はない。結局、孔あき鋼板はウェブの高さ方向に対向するフランジの対向する面のいずれか一方に、もしくは双方に、鋼材の幅方向の中心に関して対になって固定(一体化)される。
孔あき鋼板はその材軸方向(長さ方向)を鋼材の材軸方向(長さ方向)に平行に向けて配置され、鋼材のフランジに溶接等によって固定される。孔あき鋼板は原則的にはウェブに平行な面をなしてフランジに固定されるが、必ずしもその必要はない。「ウェブに平行な面をなす」とは、孔あき鋼板の面内方向(幅方向)がウェブの面内方向に平行な状態にあることを言う。
「対向するフランジ間にコンクリート、もしくはモルタルが充填される」とは、鋼材の幅方向中心を通る、ウェブに平行な面を挟んだ両側において、ウェブの高さ方向に対向するフランジに挟まれた領域に、鋼材の全高に亘ってコンクリート、もしくはモルタル(以下、コンクリート等と言う)が充填されることを言う。「少なくとも対向するフランジ間」とは、図1等に示すようにコンクリート等3が対向するフランジ22、23間にのみ充填される場合と、図18以下に示すようにフランジ22、23を包囲し、挟み込むように充填される場合があることを言う。孔あき鋼板4はコンクリート等3中に埋設されることで、コンクリート等3に厚さ方向両面側から挟み込まれながら、鋼材2の幅方向にはコンクリート等3をウェブ21との間に挟み込む状態になる。コンクリート等3を孔あき鋼板4と共に挟み込むウェブ21は鋼材2の幅方向中心に位置する場合(H形鋼)と幅方向両側に位置する場合(箱形)がある。
コンクリート等は孔あき鋼板をその厚さ方向両面側から挟み込むことで、孔あき鋼板の孔以外の表面において付着力を発生し、孔内において支圧力とせん断抵抗力を発揮するから、孔あき鋼板を厚さ方向両面側から挟み込む状態に対向するフランジ間に充填されればよい。よって鋼材を幅方向に見たときのコンクリート等の側面(表面)の位置はフランジの幅方向の側面(縁)の位置とは直接、関係がなく、孔あき鋼板はコンクリート等中に埋設された状態にあればよい。「コンクリート等中に埋設される」とは、孔あき鋼板の両面がコンクリート等に被覆され、両面側にコンクリート等が存在することを言う。
孔あき鋼板4の両面側にコンクリート等3が存在することは、鋼材2を幅方向に見たときのコンクリート等3の側面の位置が、鋼材2の材軸に関して外側の孔あき鋼板4の表面より外側にあればよいことである。例えば図1に示すように鋼材2がH形鋼の場合に、コンクリート等3の側面の位置がフランジ22、23の幅方向の側面の位置に一致している場合には、フランジ22、23の側面よりウェブ21寄りに孔あき鋼板4が配置されていればよい。孔あき鋼板4の外側の表面がフランジ22、23側面よりウェブ21寄りに位置することで、孔あき鋼板4の両面側にコンクリート等3が存在する状態になり、コンクリート等3は孔あき鋼板4を厚さ方向両面側から挟み込む状態になる。
また鋼材2の材軸に関して孔あき鋼板4の外側の表面の位置とフランジ22、23の側面の位置が一致する場合には、図2に示すようにコンクリート等3の幅が鋼材2の幅より大きく、コンクリート等3が鋼材2の全幅を包含している状態にあれば(請求項5)、コンクリート等3は孔あき鋼板4を厚さ方向両面から挟み込む状態になる。
コンクリート等3はフランジ22、23の幅方向には鋼材2の全幅が完全にコンクリート等3中に埋設される程度に充填される場合(請求項5)を含め、フランジ22、23の全幅に亘って充填されることもあれば、孔あき鋼板4のフランジ幅方向の固定位置に応じ、ウェブ21からフランジ22、23の幅方向の中間部までの区間にのみ充填されることもある。この他、コンクリート等3は図18等に示すように鋼材2に対する耐火被覆のために鋼材2の全断面を完全に被覆することもある(請求項6)。「完全に」とは、鋼材2が一部でも露出していない状態を言う。
孔あき鋼板4の高さはウェブ21の高さより小さいことで、対向するフランジ22、23の内、一方のフランジ22(23)への孔あき鋼板4の固定状態では、その孔あき鋼板4の対向するフランジ23(22)側の側面(縁)とフランジ23(22)との間に鋼材2の高さ方向に距離が確保され、鋼材2の幅方向外側からのコンクリート等3の充填口が確保される。孔あき鋼板4のフランジ22、23への固定によるコンクリート等3との一体化効果、すなわち鋼材2とコンクリート等3とが分離しようとする力に抵抗し得る効果(能力)は、孔あき鋼板4の孔4aの配列状態から孔あき鋼板4の長さ方向(材軸方向)に生ずるため、フランジ22、23の幅方向の固定位置は問われない。
よって孔あき鋼板4がフランジ22、23の対向する面の双方に固定される場合には、フランジ22、23が対向する方向(ウェブ21の高さ方向)に対になる孔あき鋼板4、4は必ずしも同一面内に位置する必要はない。フランジ22、23が対向する方向に対になる孔あき鋼板4、4がフランジ22、23(鋼材2)の幅方向にずれて配置されても、孔あき鋼板4のフランジ22、23への固定によるコンクリート等3との一体化効果に影響はない。各孔あき鋼板4の高さはウェブ21の高さより小さければよく、フランジ22、23が対向する方向に対になる孔あき鋼板4、4の高さの和がウェブ21の高さ未満である必要もない。
孔あき鋼板4を包囲するコンクリート等3が鋼材2の対向するフランジ22、23間に充填されたときには、孔あき鋼板4はフランジ22、23の長さ方向に沿って固定されることで、コンクリート等3と孔あき鋼板4を孔あき鋼板4の面内方向に分離(ずれ)させようとする力に対しては、前記のように孔あき鋼板4の孔4a以外の両側の表面におけるコンクリート等3との付着力が抵抗力として発生する。加えて孔あき鋼板4の孔4a内に入り込んでいる柱状のコンクリート等3の外周面(表面)と孔4aの内周面との間に支圧力が作用する上、孔4a内の柱状コンクリート等3の、孔あき鋼板4の両表面に連続する2面(断面)にコンクリート等3のせん断抵抗力が発生する。
結局、孔あき鋼板4は付着力と支圧力、及びせん断抵抗力によって孔あき鋼板4の面内方向の力に抵抗する能力を発揮するため、孔あき鋼板4は鋼材2の材軸方向(孔あき鋼板4の面内方向)の力に対する抵抗要素として機能する。従って孔あき鋼板4は鋼材2の材軸方向の抵抗要素になるから、いずれかのフランジ22(23)の対向するフランジ23(22)側の面に、材軸をウェブ21の材軸方向に向けて固定されていれば抵抗要素としての機能を発揮できるため、フランジ22、23の幅方向の固定位置が制約されることはない。
孔あき鋼板4が対向するフランジ22、23の対向する面の双方に固定される場合には、前記したコンクリート等3の充填口確保の面からは、対向するフランジ22、23に固定された両孔あき鋼板4、4の高さ方向の先端(側面)が互いに干渉(衝突)しない関係にあればよく、図6に示すように各フランジ22、23の幅方向に孔あき鋼板4を複数枚、並列させることも可能である。
従って図1に示すように対向するフランジ22、23の幅方向に、鋼材2の断面上の中心からの距離が等しい位置に、対向する孔あき鋼板4、4が固定される場合には、各孔あき鋼板4の高さはそれぞれの先端間に間隔が確保される程度の大きさになる。対向する孔あき鋼板4、4がフランジ22、23の幅方向にずれて配置される場合には、各孔あき鋼板4の先端とそれに対向するフランジ22(23)の内周面との間に間隔が確保される程度の大きさであればよい。
コンクリート等3が少なくとも対向するフランジ22、23に挟まれた領域の全高に亘って充填され、孔あき鋼板4がコンクリート等3中に完全に埋設され、コンクリート等3をウェブ21との間に挟み込むことで、鉄骨コンクリート部材1は基本的には図1、図2に示すようにその成方向(高さ方向)の両面には鋼材2のフランジ22、23が露出し、幅方向にはコンクリート等3が露出した形になる。但し、図18に示すようにコンクリート等3が鋼材2全体を被覆する場合(請求項6)には、フランジ22、23とウェブ21は露出しない。
孔あき鋼板を埋設する材料としてコンクリートと並列的な関係にあるモルタルはコンクリート中に混入される粗骨材が不在であることで、例えば孔あき鋼板の孔を通じてのフランジ間への充填性がよいことから、コンクリートに代わって使用されることがある。またモルタルへの繊維混入等によりコンクリートに劣らない程度の高い圧縮強度を得ることができることからも、コンクリートに代わる材料として使用される。
鉄骨コンクリート部材1が、少なくともフランジ22、23間の全高に亘ってコンクリート等3が充填され、幅方向に孔あき鋼板4がコンクリート等3をウェブ21との間に挟み込む形態をすることで、成方向には鋼材2の対向するフランジ22、23間にコンクリート等3が挟み込まれて拘束された状態になり、幅方向にはフランジ22、23間のコンクリート等3が孔あき鋼板4とウェブ21に挟み込まれて拘束された状態になる。
このため、鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向の力(曲げモーメントとせん断力)に対しては、対向するフランジ22、23がコンクリート等3を拘束すると共に、孔あき鋼板4がコンクリート等3をウェブ21との間に挟み込んで鋼材2の幅方向にも拘束するため、コンクリート等3に支圧力として圧縮力を与え、圧縮力を負担させる状態にすることができる。なお、鋼材2が例えばH形鋼の場合には図1に示すようにウェブ21に関して片側単位で、コンクリート等3が孔あき鋼板4とウェブ21に挟まれるが、図18−(c)に示すように箱形断面の場合にはコンクリート等3は孔あき鋼板4とウェブ21とに挟まれる領域と、隣接する孔あき鋼板4、4に挟まれる領域とがある。
孔あき鋼板4は鋼材2のフランジ22、23の対向する面に一体化することで、鋼材2のフランジ22、23と共に、あるいは鋼材2のフランジ22、23の一部として鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向の曲げモーメントを負担するが、厚さ方向両面側からコンクリート等3に挟み込まれていることで、厚さ方向の変形に対して拘束されるため、成方向の曲げモーメントに対する孔あき鋼板4の「ずれ止め」としての耐力(鋼板面に沿ったせん断破壊耐力、または孔内コンクリートの支圧破壊耐力)が向上する。また鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向のせん断力に対しては、上記のようにコンクリート等3の圧縮力の負担能力が向上し、せん断力の多くを負担することができるため、孔あき鋼板4の曲げモーメントに対する抵抗能力の向上と併せ、結果として鉄骨コンクリート部材1の曲げモーメントとせん断力に対する耐力が向上する。
同じような状況は鉄骨コンクリート部材1に幅方向の力(曲げモーメントとせん断力)が作用したときにも生ずる。鉄骨コンクリート部材1に作用する幅方向の力に対しては、孔あき鋼板4が孔4a以外の部分においてウェブ21との間のコンクリート等3を鋼材2の幅方向に拘束し、コンクリート等3に支圧力として圧縮力を与え、圧縮力を負担させる状態にするため、鉄骨コンクリート部材1のせん断力に対する耐力が向上する。また孔あき鋼板4はウェブ21を挟んで、またはフランジ22、23の幅方向の中心を通る、ウェブ21に平行な平面の両側で対になることで、鉄骨コンクリート部材1に作用する幅方向の曲げモーメントを負担する能力を持つが、両面側からコンクリート等3、3に拘束されていることで、孔あき鋼板4の前記「ずれ止め」としての耐力が向上する。
従って鋼材2のフランジ22、23と孔あき鋼板4は、鋼材2の断面形状に拘わらず、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面を挟んだ両側で、高さ方向に対向するフランジ22、23間に存在することで、鋼材2の幅方向に孔あき鋼板4とウェブ21とで挟まれたコンクリート等3に対し、鉄骨コンクリート部材1に作用する成方向と幅方向の、曲げモーメントとせん断力に対する耐力を向上させる働きをする。孔あき鋼板4はまた、前記のように鋼材2のフランジ22、23間に充填されたコンクリート等3との分離(ずれ)を防止することで、鋼材2との一体性を強化する働きをするため、鉄骨コンクリート部材1の剛性を向上させる働きもすることになる。加えてコンクリート等3に対する拘束効果が高ければ、孔あき鋼板4のコンクリート等3との一体化効果も高まるため、コンクリート等3に対する拘束がない場合との対比では、孔あき鋼板4とコンクリート等3との一体性を確保する上で、孔あき鋼板4自体の孔4aの数を削減できる利点もある。
ここで、鋼材2がH形や箱形等、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面に関して線対称形をしていれば、鉄骨コンクリート部材1は幅方向のいずれの(正負の)向きに作用する荷重に対しても同等の耐力と剛性を持ち、幅方向の断面性能に正負の方向性を持たない。また孔あき鋼板4が対向するフランジ22、23の双方に向き合うように一体化して(接合されて)いる場合には、鉄骨コンクリート部材1は成方向のいずれの(正負の)向きに作用する荷重に対しても同等の耐力と剛性を持ち、成方向の断面性能にも正負の方向性を持たない。鋼材2の成方向は鋼材2の強軸方向でもあり、幅方向は弱軸方向でもある。
鉄骨コンクリート部材1が成方向(強軸方向)にも幅方向(弱軸方向)にも正負の方向性を持たないことで、単体(単独)で構造物の梁や桁等、水平材としての他、柱、杭等、鉛直材としての使用可能性を持ち、構造部材としての用途の幅が広がる。
以上のように鉄骨コンクリート部材1がフランジ22、23間にコンクリート等3が充填され、一部のコンクリート等3が対向するフランジ22、23間に挟まれながら、ウェブ21と孔あき鋼板4との間に挟まれた形態をすることで、成方向と幅方向の力を受けたときに、孔あき鋼板4がない場合との対比ではコンクリート等3の耐力が向上する結果、鉄骨コンクリート部材1としてのせん断耐力と曲げ耐力が向上する。また鋼材2がウェブ21等、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面に関して対称形をしていれば、孔あき鋼板4の配置状態によっては断面性能に正負の方向性がない特性を持ち得る。
このように成方向と幅方向のいずれの方向の力に対してもコンクリート等の耐力を向上させ、正負の方向性をなくせる点で、本発明の鉄骨コンクリート部材1は特許文献6、7の複合桁とは構成上、並びに性能上、相違する。本発明の鉄骨コンクリート部材1は鋼材2とコンクリート等3、及び孔あき鋼板4とで構造部材として完結するため、床版等、他の部材との組み合わせを前提にする必要性がない点においても、特許文献6、7の複合桁とは構成上、あるいは構造上、相違する。
請求項1における「孔あき鋼板が鋼材の材軸方向に平行な方向を向いて一体化する」とは、孔あき鋼板4の材軸方向(長さ方向)が鋼材2の材軸方向(長さ方向)に平行な方向を向いた状態で、孔あき鋼板4の幅方向の端部が鋼材2のフランジ22、23に溶接等によって固定されることを言う。孔あき鋼板4は鋼材2の長さ方向に連続している場合と、図13−(a)に示すように一部で不連続になり、鋼材2の材軸方向に断続的に配置される場合(請求項2)がある。前者の場合、孔あき鋼板4は鋼材2の長さ方向に連続して配置されるか、連続する長さを持ち、後者の場合、鋼材2の長さ方向には複数枚の孔あき鋼板4が間隔を置いて断続的に配列することになる。
孔あき鋼板4が鋼材2の材軸方向に断続的に配置される場合には、隣接する孔あき鋼板4、4間に隙間が存在する(間隔が空く)ため、この隙間に入り込むコンクリート等3が孔あき鋼板4の長さ方向の端面との間で支圧力を発生する。加えて孔あき鋼板4の両面と同一面の2面においてせん断抵抗力を発生するため、鋼材2とコンクリート等3を材軸方向に分離(ずれ)させようとする力に対する抵抗力が連続する場合より大きくなることが期待される。
前記のように鋼材2のフランジ22、23と孔あき鋼板4はコンクリート等3に対し、鋼材2の成方向と幅方向の2方向から拘束効果を発揮する。但し、対向するフランジ22、23間に充填されているコンクリート等3は鋼材2の成方向には鋼材2の対向するフランジ22、23に挟まれ、幅方向にはウェブ21と孔あき鋼板4に挟まれた状態で、フランジ22、23等には接触面の付着力で接着しているだけであるから、鉄骨コンクリート部材1としての変形が進行したときに、コンクリート等3の内部のいずれかの部分に、鋼材2の変形に追従できない領域が発生する可能性が想定される。
このような場合には、図8に示すようにウェブ21の高さ方向に対向する各フランジ22、23に固定されている孔あき鋼板4の孔4a間に鉄筋(定着鉄筋5)を挿通させることで(請求項3)、コンクリート等3の内部においてコンクリート等3と鉄筋の付着により鋼材2とコンクリート等3との一体性を強化し、コンクリート等3の、鋼材2の変形への追従性を高めることが考えられる。
鋼材2を構成するウェブ21とフランジ22、23、及び孔あき鋼板4の内周面から距離を置いた内部においてコンクリート等3を鉄筋に付着させることで、コンクリート等3の鋼材2の変形への追従能力が向上するため、コンクリート等3の脆性破壊が抑制され、鉄骨コンクリート部材1としての変形能力の向上が期待される。
孔あき鋼板4の孔4aはコンクリート等3にせん断抵抗力を付与する役目を果たす他、鋼材2の成方向を鉛直方向に向けた状態で、孔あき鋼板4の外側からコンクリート等3の充填作業をする場合に、コンクリート等3の排出口としても利用される。例えば図13−(b)、(c)に示すように孔あき鋼板4の孔4aの、孔あき鋼板4が一体化している(上部)フランジ23側の内周面を、そのフランジ23の孔あき鋼板4側の面と面一にすることで(請求項4)、(上部)フランジ23の、孔あき鋼板4が一体化している面(対向する(下部)フランジ22側の面)と孔あき鋼板4の孔4aの内周面を同一面にすることができる。
この場合、図13−(c)に示すようにフランジ23に一体化した孔あき鋼板4のフランジ23側の内周面と、その孔あき鋼板4を挟んだ両側のフランジ23の、孔あき鋼板4側の面(対向するフランジ22側の面)が面一になるため、孔あき鋼板4の、鋼材2の幅方向外側から孔あき鋼板4の内側であるウェブ21との間にコンクリート等3を充填する際に、(上部)フランジ23の下面に固定された孔あき鋼板4と(上部)フランジ23との間の隅角部付近にコンクリート等3を確実に充填させることが可能になる。
図5に示すように対向するフランジ22、23の双方の面に孔あき鋼板4、4を溶接した鋼材2の成方向を鉛直方向に向けた状態で、孔あき鋼板4、4の外側からコンクリート等3の充填作業をするときには、図13−(c)に示すように対向するフランジ22、23に突設された孔あき鋼板4、4間にはコンクリート等3の漏れを防止し、充填領域を区画するための堰板10が配置される。この関係で、堰板10とウェブ21との間に下部フランジ22側から上方へ向けて充填され、上昇するコンクリート等3は上部フランジ23の下面に到達したときに、孔あき鋼板4の孔4aから堰板10側へ排出される。
このとき、上部フランジ23の下面(上部フランジ23の孔あき鋼板4側の面)が、孔あき鋼板4の孔4aの上部フランジ23側の面(孔あき鋼板4が一体化している上部フランジ23側の内周面)と面一であることで、上部フランジ23の下面に到達したコンクリート等3は上部フランジ23の下面を伝うように孔あき鋼板4の孔4aから堰板10側へ排出され、孔あき鋼板4の孔4aの両面側に均等に行き渡る。この結果、コンクリート等3の充填時に孔あき鋼板4の厚さ方向両面側と上部フランジ23との間の隅角部付近に空隙が残されることがなく、コンクリート等3は孔あき鋼板4の両面側と上部フランジ23との間の隅角部を含め、対向するフランジ22、23間に完全(密実)に充填されることになるため、コンクリート等3中への空隙の発生が確実に防止される。
孔あき鋼板4の孔4aをコンクリート等3の排出口として利用する上では、孔あき鋼板4は図13−(b)に示すように鋼材2の長さ方向に断続的に配置されている必要はなく、図13−(d)に示すように連続的に配置されている場合にも、コンクリート等3を孔あき鋼板4の孔4aの両面側に均等に行き渡らせる効果は得られる。
前記のように鋼材2は図18−(a)〜(c)に示すようにコンクリート等3に完全に被覆され、鉄骨コンクリート部材1としての完成時にコンクリート等3中に埋設されることもある(請求項6)。この場合、鋼材2の全断面がコンクリート等3に被覆されることで、鋼材2が耐火被覆処理されるが、鋼材2の外周側のコンクリート等3との一体化を図るために、必要により図19、図20に示すように鋼材1の断面上の中心に関して外周側を向く面であるフランジ22、23の外周面、及び鋼材2が箱形断面である場合のウェブ21の外周面にはスタッドボルト、孔あき鋼板等のせん断力伝達部材12が突設される。
この場合、鋼材2がコンクリート等3に完全に被覆されることで、耐火性能が確保されることに加え、鋼材2の全断面がコンクリート等3に周囲から拘束されることで、鋼材2自体の剛性と耐力が向上するため、鉄骨コンクリート部材1としての剛性と耐力も向上する。
鋼材2がコンクリート等3に被覆される場合、コンクリート等3は図21に示すように鋼材2の断面上の中心に関して相対的に下側の領域と上側の領域とに、または図22に示すように外周側の領域と内周側の領域とに分割されて打設されることもある。コンクリート等3を分割して打設する場合には、工場等において先行して打設され、硬化したコンクリート等3が後から打設されるコンクリート等3の型枠を兼ねるため、現場で鉄骨コンクリート部材1を完成させる場合の、現場での支保工や型枠が簡略化され、節減される利点がある。図23はコンクリート等3を分割して打設する場合に、先行して打設されるコンクリート等3の充填性をよくするために、例えば図21−(c)に示す鋼材2の下部のフランジ23に多数の開口2cを形成した様子を示している。
ウェブとフランジを有する鋼材の、対向するフランジの対向する面の少なくともいずれか一方に孔あき鋼板を一体化させ、対向するフランジ間に充填されるコンクリート等中に埋設するため、孔あき鋼板の長さ方向に孔あき鋼板とコンクリート等との間で付着力と支圧力等のせん断抵抗力を発揮させることができ、鉄骨コンクリート部材として鋼材とコンクリート等との一体化効果を高めることができる。
また鉄骨コンクリート部材が少なくとも対向するフランジ間の全高に亘ってコンクリート等が充填された形態をし、フランジの幅方向中心を通る、ウェブに平行な平面に関して両側に位置する孔あき鋼板が鋼材の幅方向にコンクリート等を鋼材のウェブとの間に挟み込む状態になるため、鉄骨コンクリート部材に作用する成方向の力と幅方向の力に対し、対向するフランジが成方向にコンクリート等を拘束し、孔あき鋼板とウェブが幅方向にコンクリート等を拘束する状態にすることができる。
この結果、コンクリート等が対向するフランジのみに拘束される場合よりコンクリート等に対する拘束効果とコンクリート等と鋼材との一体化効果が向上するため、鉄骨コンクリート部材に作用する成方向と幅方向の曲げモーメントとせん断力に対する耐力を向上させることができる。
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図1はウェブ21とその高さ方向両側に一体化し、ウェブ21の高さ方向に対向するフランジ22、23を有する鋼材2と、鋼材2の少なくとも対向するフランジ22、23間に充填されるコンクリート、もしくはモルタル(以下、コンクリート等)3とを備える鉄骨コンクリート部材1の製作例を示す。以下では材軸を水平に向けて鋼材2を配置した図1の状態に従い、便宜的に下側のフランジを下部フランジ22、上側のフランジを上部フランジ23と言う。鋼材2はH形鋼等、開放形の断面形状である場合と、箱形断面(角形鋼管)等、閉鎖形の断面形状である場合がある。閉鎖形の断面形状は図18−(c)に示すように上下のフランジ22、23の幅方向の端部がウェブ21の上下端部に揃えられている場合と、いずれか一方が他方から突出している形状の場合がある。
鋼材2の下部及び上部フランジ22、23の、両フランジ22、23が対向する面の少なくともいずれか一方に板状の孔あき鋼板4が一体化する。孔あき鋼板4は鋼材2がH形鋼の場合にはウェブ21に関して両側位置に、ウェブ21を挟んで対になる形で配置される。鋼材2が箱形断面の場合には、孔あき鋼板4はフランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面に関して両側位置に対になる形で配置される。コンクリート等3はフランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面の両側において孔あき鋼板4の厚さ方向両側に充填され、孔あき鋼板4はコンクリート等3中に埋設されながら、ウェブ21との間でコンクリート等3を挟み込む。
鋼材2は例えば図1等に示すようにH形断面(H形鋼)、またはH形断面が組み合わせられた形状、または図18−(c)等に示すように箱形の断面形状をし、ウェブ21の高さ方向両側に下部フランジ22と上部フランジ23を持つ断面形状をする。H形断面が組み合わせられた形状とは、図18−(b)に示すようにウェブ21、21が厚さ方向(鋼材2の幅方向)に並列し、その高さ方向両側にフランジ22、23が接合された形状を指す。下部フランジ22と上部フランジ23はウェブ21の高さ方向に対向する。
孔あき鋼板4は鋼材2のウェブ21より小さい高さで、鋼材2の材軸方向(長さ方向)に平行な方向を向いて配置され、溶接等により下部フランジ22と上部フランジ23の少なくともいずれかに一体化する。溶接による場合、孔あき鋼板4はそれが一体化するいずれかのフランジ(上部フランジ23)側の面が平坦であれば、孔あき鋼板4の形状と孔4aの形状は問われない。
鉄骨コンクリート部材1は例えば図4に示すように複数本、集合し、鋼材2の幅方向に間隔を置いて並列した状態で、全体(全鉄骨コンクリート部材1)がコンクリート等3中に埋設されることで、橋梁等の床版その他の平版、もしくは曲面版等の版1Aを構成するための構成要素として使用される。平版等の版1Aは複数本の鉄骨コンクリート部材1、1が幅方向に並列し、全鉄骨コンクリート部材1、1がコンクリート等3中に埋設されることにより工場で製作されるか、現場で構築される。
複数本の鉄骨コンクリート部材1、1とコンクリート等3から製作、もしくは構築され、図4に示す床版を構成する版1Aは例えば図14−(a)に示すように底面側で橋桁に支持された橋梁の床版として、または(b)に示すように橋桁が一体化した床版として利用される。鉄骨コンクリート部材1の単体は図14−(a)に示すような、床版を支持する橋桁として利用可能である。図14−(a)、(b)は橋桁、もしくは床版が隣接する橋脚(橋台)間に架設されている様子を示している。
図15−(a)〜(d)は版1A、もしくは鉄骨コンクリート部材1を地下構造物としてのボックスカルバートの一部に利用した場合の例を示す。(a)は版1Aをボックスカルバートの天井版として、もしくは鉄骨コンクリート部材1を梁として利用した場合、(b)は版1Aをボックスカルバートの壁板として利用した場合、(c)はボックスカルバートの全体に、すなわち底版と壁板、及び天井版として利用した場合である。(d)は版1Aを地下構造物、あるいは開削トンネル等の土留め壁として利用した場合である。
図16は地中構造物としてのシールドトンネルが隣接して構築される場合に、その隣接するシールドトンネルを幅方向に互いに連結するための曲面状(ヴォールト状)の連結版として版1Aを利用した場合の例を示している。
図4に示す床版(版1A)は複数本の鋼材2、2を、隣接する鋼材2、2間に距離を置いた状態で配列させ、全鋼材2、2を含む領域に堰板を組み立て、コンクリート等3を打設することにより製作され、床版(版1A)内に複数本の鉄骨コンクリート部材1、1が埋設される形になる。隣接する鋼材2、2は後述のように貫通鉄筋6で連係されることもある。
図4に示す床版(版1A)においては、鉄骨コンクリート部材1は橋軸方向を向く桁として使用され、床版(版1A)は橋軸直角方向に並列する桁を内蔵した構造になる。鉄骨コンクリート部材1はこの他、自ら成方向と幅方向の曲げモーメントとせん断力に対して高い耐力と剛性を保有するため、単体で建築構造物その他の梁や桁として、あるいは柱等としても利用される。
図1は鋼材2がH形鋼で、ウェブ21の片側に付き、下部フランジ22と上部フランジ23の対向する面のそれぞれに孔あき鋼板4、4を突設した、最も基本的な形態を持つ鉄骨コンクリート部材1の製作例を示す。孔あき鋼板4、4はウェブ21を挟んだ両側で対になるため、図1の例では下部フランジ22と上部フランジ23のそれぞれに、ウェブ21を挟んで2枚の孔あき鋼板4、4が突設されている。
孔あき鋼板4は少なくとも下部フランジ22単位と上部フランジ23単位で、ウェブ21に関して両側で対になって配置され、下部フランジ22の上面、もしくは上部フランジ23の下面に溶接等により固定される。孔あき鋼板4は基本的に平坦なプレートに長さ方向に間隔を置いて孔4aを穿設することにより形成されるが、孔あき鋼板4自体がフランジを有する鋼材(形鋼)で製作されているような場合にはフランジ22、23への接合にボルトが用いられることもある。
図1ではまた、下部フランジ22と上部フランジ23の幅方向側面(縁)よりウェブ21寄りの位置に、孔あき鋼板4、4を鋼材2の高さ方向に対向させて固定し、両孔あき鋼板4、4を同一面内に配置している。但し、各孔あき鋼板4のフランジ22、23への幅方向の固定位置は任意であり、ウェブ21の片側においてウェブ21(鋼材2)の高さ方向に対向する孔あき鋼板4、4をフランジ22、23の幅方向にずらして配置することもある。
図2はコンクリート等3の幅が鋼材2の幅より大きく、コンクリート等3が鋼材2の全幅を包含する幅を持つ場合の鉄骨コンクリート部材1の製作例を示す。この例では鋼材2のフランジ22、23の幅方向の側面より、鋼材2の中心に関して外側にまでコンクリート等3が充填(打設)されているため、孔あき鋼板4の、鋼材2に関して外側の面がフランジ22、23の幅方向側面に一致して、または孔あき鋼板4のウェブ21側の面がフランジ22、23の幅方向側面に当接した状態で固定されても、フランジ22、23の幅方向側面が完全にコンクリート等3中に埋設される。この例ではコンクリート等3の打設領域を区画する堰板はフランジ22、23の幅方向の側面より外側に配置される。図4に示す床版(版1A)の例は図2に示す鉄骨コンクリート部材1を幅方向に複数本、組み合わせて一体化させた形に相当する。
図3は図2の下部フランジ22における孔あき鋼板4、4を不在にし、上部フランジ23にのみ孔あき鋼板4、4を固定した場合の例を示す。孔あき鋼板4、4はウェブ21を挟んだ両側で対になればよいため、下部フランジ22にのみ孔あき鋼板4、4を固定することもある。
図5は鋼材2の上部フランジ23に、コンクリート等3充填時の空気の排出を促す空気抜き用の排気孔2aを形成した場合の例を示す。図5に示すように鋼材2の材軸を水平に向けた状態で、下部フランジ22に固定された孔あき鋼板4と上部フランジ23に固定された孔あき鋼板4間から上下のフランジ22、23間にコンクリート等3を充填するときには、矢印で示すようにコンクリート等3は下部フランジ22上から上部フランジ23側へ充填されていく。そこで、図5に上部フランジ23に排気孔2aを形成することで、コンクリート等3が上部フランジ23に至るまで、下部フランジ22と上部フランジ23との間に存在している空気が常に排出され続けるため、コンクリート等3の充填性が良好になり、空隙の発生が防止され易くなる。
図6は鋼材2のウェブ21の片側に付き、上部フランジ23、もしくは下部フランジ22に複数枚の孔あき鋼板4、4を鋼材2の幅方向に並列させて固定した様子を示す。この例ではウェブ21の片側に付き、上下のフランジ22、23間のコンクリート等3中に複数枚の孔あき鋼板4、4が配置されることで、コンクリート等3のせん断抵抗力が増大し、またコンクリート等3が鋼材2の幅方向に複数の領域に区分され、区分された単位で鋼材2の幅方向に隣接する孔あき鋼板4、4に挟まれるため、コンクリート等3の拘束効果が向上する利点がある。
図7は孔あき鋼板4をその厚さ方向両側に交互に湾曲、もしくは屈曲させることで、孔あき鋼板4とコンクリート等3との間に作用する付着力と支圧力、及びせん断抵抗力を鋼材2の長さ方向と幅方向に生じさせる場合の孔あき鋼板4の形成例を示す。
この場合、孔あき鋼板4が全体的に鋼材2の長さ方向に沿って固定されるとすれば、孔あき鋼板4を幅方向(高さ方向)に見たときに、孔あき鋼板4の中心線が鋼材2の長さ方向と幅方向に対して交差した二方向を向く。よって孔あき鋼板4の中心線方向に作用する付着力等の抵抗力は鋼材2の長さ方向と幅方向に分解されるため、孔あき鋼板4とコンクリート等3との間に作用する抵抗力が鋼材2の長さ方向と幅方向に作用することになり、孔あき鋼板4とコンクリート等3は鋼材2の長さ方向と幅方向のいずれの方向にもせん断力に対する抵抗力を発揮することになる。
図8はウェブ21の片側に付き、対向する下部フランジ22と上部フランジ23のそれぞれに固定された孔あき鋼板4、4の各孔4a、4a間に、両端部が孔あき鋼板4とウェブ21との間に存在するコンクリート等3中に定着される、連続する定着鉄筋5を挿通させ、ウェブ21の片側単位で両孔あき鋼板4、4を連係させた場合の様子を示す。
この例ではコンクリート等3の内部において定着鉄筋5の周辺のコンクリート等3が定着鉄筋5に付着することによりコンクリート等3の孔あき鋼板4への一体化効果が増すため、鋼材2が成方向と幅方向のいずれかの方向に変形するときに、コンクリート等3の、鋼材3の変形に追従する能力が高まる結果、コンクリート等3の破壊に対する安全性が向上することになる。
図9は鋼材2を幅方向に見たときに、ウェブ21の、孔あき鋼板4の孔4aに重なる位置に挿通孔2bを形成し、ウェブ21の挿通孔2bと孔あき鋼板4の孔4aに、鋼材2の幅方向に貫通鉄筋6を挿通させ、ウェブ21を挟んだ両側のコンクリート等3、3を互いに連係させた場合の例を示す。ここでは孔あき鋼板4を下部フランジ22に突設した様子を示しているが、いずれかのフランジ22、23に突設するかは任意であり、両フランジ22、23に突設することもある。(a)は下部フランジ22に突設した孔あき鋼板4がウェブ21の片側に付き、1枚の場合、(b)は2枚の場合であるが、3枚以上の場合もある。
図9の例では貫通鉄筋6が鋼材2のウェブ21と孔あき鋼板4を同時に貫通することで、図8の例と同様に、貫通鉄筋6の周辺のコンクリート等3が貫通鉄筋6に付着することにより、コンクリート等3の内部においてコンクリート等3の孔あき鋼板4への一体性が増す。加えて、ウェブ21を挟んだ両側のコンクリート等3、3を貫通鉄筋6が同時に挿通することで、両側のコンクリート等3、3の一体性、あるいは両側のコンクリート等3、3のウェブ21との一体性が強まる。結果として、鋼材2が成方向と幅方向のいずれの方向に変形するときにも、コンクリート等3の、鋼材3の変形に追従する能力が高まり、コンクリート等3の破壊に対する安全性が向上する。
図10はウェブ21の片側に付き、下部フランジ22、または上部フランジ23の幅方向に複数枚の孔あき鋼板4、4を並列させて固定した図6、もしくは図9に示す例において、図9に示す貫通鉄筋6、6をフランジ22(23)の幅方向に並列する複数枚の孔あき鋼板4、4の孔4a、4a間に、鋼材2の幅方向とそれに交差する方向の二方向に互いに交差させて挿通させた場合の例を示す。
この例では複数枚の孔あき鋼板4を同時に貫通する、もしくはウェブ21と孔あき鋼板4を同時に貫通する貫通鉄筋6、6が二方向に配筋されることで、鋼材2とコンクリート等3との一体性が一層、強まるため、コンクリート等3の鋼材3の変形への追従能力と、破壊に対する安全性も更に高まることになる。図面では貫通鉄筋6、6が複数枚の孔あき鋼板4を同時に貫通する様子を示しているが、貫通鉄筋6、6は図9に示すようにウェブ21を貫通することもある。
図11−(a)〜(c)は鉄骨コンクリート部材1、1を幅方向に並列させて使用した図4に示す例において、幅方向に隣接する鋼材2、2に一体化している孔あき鋼板4、4の孔4a、4a間に連結鉄筋7を挿通させ、連結鉄筋7の両端部をコンクリート等3中に定着させた場合の、鋼材2、2(鉄骨コンクリート部材1、1)の連結例を示す。ここでも孔あき鋼板4を下部フランジ22に突設した様子を示しているが、いずれかのフランジ22、23に突設するかは任意である。この例では鉄骨コンクリート部材1、1が幅方向に並列する場合に、隣接する鉄骨コンクリート部材1、1同士の連係を強め、いずれかの鉄骨コンクリート部材1への荷重を隣接する鉄骨コンクリート部材1に分散させ、いずれかの鉄骨コンクリート部材1への荷重の集中を回避することが可能になる。
図11−(a)は各鋼材2の孔あき鋼板4をそれぞれ貫通する連結鉄筋7、7の、隣接する鋼材2側の一方の端部をカプラー8に連結(接続)することにより連結鉄筋7、7を互いに連結し、各連結鉄筋7の他方の端部を屈曲させて上部フランジ23寄りのコンクリート等3中に定着させた場合である。(b)は各鋼材2の孔あき鋼板4を貫通する連結鉄筋7、7の一方の端部をカプラー8により互いに連結し、各連結鉄筋7の他方の端部に接続されたアンカー(定着体)9を孔あき鋼板4とウェブ21との間のコンクリート等3中に定着させた場合である。
図11−(c)は(b)においてカプラー8で連結されている2本の連結鉄筋7、7を一本化させ、カプラー8を不在にした場合の鋼材2、2の連結例を示す。(b)では各連結鉄筋7の一方の端部に予め一体化しているアンカー9が孔あき鋼板4の孔4aを挿通できない断面形状であるか、断面積を持つ場合を想定し、両連結鉄筋7、7をカプラー8で連結しているが、(c)に示すように孔あき鋼板4の孔4aが、アンカー9が挿通できる断面形状か断面積を持つ場合には、カプラー8での連結の必要がないため、(c)では両端部にアンカー9、9が接続された1本の連結鉄筋7を用いて隣接する鋼材2、2を連結している。
図12−(a)は図11における各鋼材2単位で配筋され、カプラー8で互いに連結される2本連結鉄筋7、7を1本化させた上で、その1本化した連結鉄筋7の両端部を各鋼材2のウェブ21の挿通孔2bを挿通させ、ウェブ21を挟んだ反対側のコンクリート等3中に定着させた場合の例を示す。この例では連結鉄筋7が隣接する鋼材2、2(鉄骨コンクリート部材1、1)の各孔あき鋼板4とウェブ21を挿通することで、隣接する鋼材2、2(鉄骨コンクリート部材1、1)の連係(一体性)が強まり、荷重の分散効果が増すことになる。
図12−(b)は鉄骨コンクリート部材1の単体で使用される図8における定着鉄筋5を、隣接して配列した鋼材2(鉄骨コンクリート部材1)を互いに連係させるために利用した場合の鋼材2(鉄骨コンクリート部材1)の組み合わせ例を示す。ここでは幅方向に隣接する各鋼材2、2の対向するフランジ22、23に固定されている孔あき鋼板4、4間を挿通している定着鉄筋5、5の中間部を互いに交差させ、その交差部分の2箇所に鋼材2の材軸方向に平行に主筋11を配筋することにより隣接する鋼材2、2を互いに連係させている。隣接する鋼材2、2の各定着鉄筋5、5は鋼材2の高さ方向の2箇所で主筋11、11に係合するため、隣接する鋼材2、2が幅方向に分離しようとする力に対して抵抗力を発揮する。
図13−(a)、(b)は孔あき鋼板4を鋼材2の長さ方向に断続的に配列させて上部フランジ23、もしくは下部フランジ22に固定した場合の鉄骨コンクリート部材1の構成例を示す。ここでは特に孔あき鋼板4を上部フランジ23の下面に断続的に配置することで、孔あき鋼板4の孔4aを、下部フランジ22上に上部フランジ23付近にまで充填され、上昇したコンクリート等3を孔あき鋼板4の、鋼材2の幅方向外側にまで回り込ませるために利用している。
図13−(a)、(b)に示すように鋼材2の長さ方向に、鋼材2の一部の区間分程度の長さしか持たない孔あき鋼板4を鋼材2の長さ方向に断続的に配置する場合、鋼材2の長さ方向に隣接する孔あき鋼板4、4間に、孔あき鋼板4が不在の空間が形成される(間隔が確保される)。この空間にコンクリート等3が入り込むことで、コンクリート等3とその鋼材2長さ方向両側の孔あき鋼板4、4との間に支圧力が作用し、孔あき鋼板4の両面と同一の2面にコンクリート等3のせん断抵抗力が発生するため、孔あき鋼板4が鋼材2の長さ方向に連続する場合よりコンクリート等3が発生する抵抗力が大きくなる利点がある。
また図13−(b)は孔あき鋼板4の孔4aの、その孔あき鋼板4が一体化している上部フランジ23側の内周面を、孔あき鋼板4を挟んだ両側の上部フランジ23の孔あき鋼板4側の面と面一にした場合の例を示している。この例では図13−(b)のx−x線の断面図である(c)に示すように上部フランジ23の下面(上部フランジ23の孔あき鋼板4側の面)が、孔あき鋼板4の孔4aの上部フランジ23側の面(孔あき鋼板4が一体化している上部フランジ23側の内周面)と面一であるため、上部フランジ23の下面に到達したコンクリート等3が上部フランジ23の下面を伝うように孔あき鋼板4の孔4aから、鋼材2の幅方向外側へ排出されることになる。
孔あき鋼板4の、鋼材2の幅方向外側には、図13−(c)に示すように孔あき鋼板4をその厚さ方向両面側から挟み込むコンクリート等3の充填領域を区画する堰板10が配置されるから、図13−(b)の例ではコンクリート等3は堰板10に堰き止められることで、孔あき鋼板4の孔4aの両面側に均等に、且つ密実に充填されるため、コンクリート等3中への空隙の発生が防止される利点がある。
図13−(d)は図13−(b)に示す孔あき鋼板4をその長さ方向に連続した形状に形成した場合の鋼材2への接合例を示す。図13−(b)、(c)に示す例による、孔あき鋼板4の孔4aの両面側にコンクリート等3を行き渡らせる効果は孔あき鋼板4が長さ方向に断続的であるか否かは関係ないため、図13−(d)に示す形状に孔あき鋼板4を形成した場合にも、孔あき鋼板4の孔4aの両面側にコンクリート等3を行き渡らせることができる。
図17は図1に示す2本のH形断面の鋼材2、2をその幅方向に並列させ、一体化させることにより両鋼材2、2の上部フランジ23、23を連続させた形に形成した鋼材2の、あるいは鉄骨コンクリート部材1の形成例を示す。ここに示す鋼材2(鉄骨コンクリート部材1)は例えば図1に示す2本の鋼材2、2(鉄骨コンクリート部材1、1)を間隔を置いて並列させ、両鋼材2、2の上部フランジ23、23間にその上部フランジ23と同一厚さのプレートを跨設し、その側面を両フランジ23の側面に溶接することにより製作される。
図17に示す鉄骨コンクリート部材1は1枚板となっている上部フランジ23の幅方向両側にH形断面部分が配置された形になっているが、H形断面部分は1枚板となっている上部フランジ23の幅方向片側と中間部に配置されることもある。またH形断面部分のウェブ21の両面側にのみコンクリート等3が充填された形になっているが、例えばコンクリート等3が鋼材2の全体を覆うように鋼材2に一体化することもある。
図18〜図22はコンクリート等3が鋼材2の全断面を完全に被覆する状態に鋼材2の周囲に打設された形態の鉄骨コンクリート部材1の製作例を示す。図18−(a)は鋼材2がH形鋼の場合、(b)は鋼材2がウェブ21、21が鋼材2の幅方向に並列した形を有する変則形のH形鋼の場合、(c)は鋼材2が4枚等、複数枚のプレートから箱形断面形状に組み立てられた場合の例を示す。図18−(c)の例は鋼材2の高さ方向を向くプレートがウェブ21になり、幅方向を向くプレートが上部と下部のフランジ22、23になる。図18−(a)〜(c)はいずれも、対向するフランジ22、23の対向する面に、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面の両側で対になるように、すなわちウェブ21に平行な平面に関して均等に孔あき鋼板4を突設した場合を示している。
図19は鋼材2の下部フランジ22の下面側と上部フランジ23の上面側に、鋼材2と鋼材2周囲のコンクリート等3との一体性を確保するためのせん断力伝達部材12として孔あき鋼板を突設した場合の例を示す。この場合、せん断力伝達部材12は孔あき鋼板であるから、材軸が鋼材2の材軸方向を向いて突設される。ここでも鉄骨コンクリート部材1が成方向と幅方向の外力を負担したときの断面性能に方向性が生じないよう、フランジ22、23の幅方向中心を通る、ウェブ21に平行な平面の両側で対になるようにせん断力伝達部材12を配置している。(a)は鋼材2自体がH形鋼の場合、(b)は箱形断面の場合である。
図20は鋼材2の下部フランジ22の下面と上部フランジ23の上面に、せん断力伝達部材12として多数のスタッドボルトを突設した場合の例を示す。この場合、せん断力伝達部材12はスタッドボルトであるから、鋼材2の幅方向に分散し、材軸方向にも間隔を置いて複数、突設される。(a)は鋼材2自体がH形鋼の場合、(b)は箱形断面の場合である。
図21はコンクリート等3が鋼材2の全断面を完全に被覆する場合に、コンクリート等3の打設領域を相対的に下側と上側とに2分割した場合の鉄骨コンクリート部材1の構成例を示す。(a)〜(c)はいずれも鋼材2が箱形断面の場合であり、(a)、(b)は下部フランジ22の下面に、下側のコンクリート等3中に埋設され、そのコンクリート等3との一体性を確保するせん断力伝達部材12を突設した場合である。(a)はせん断力伝達部材12がスタッドボルトの場合、(b)は孔あき鋼板の場合である。(c)は下部フランジ22がコンクリート等3中に完全に埋設される位置で下側のコンクリート等3の打設領域と上側の打設領域を区画することで、下部フランジ22と孔あき鋼板4を、下側のコンクリート等3との一体性を確保するせん断力伝達部材12の役目を持たせた場合である。
図22はコンクリート等3が鋼材2の全断面を完全に被覆する場合に、コンクリート等3の打設領域を相対的に外周側と内周側とに2分割した場合の鉄骨コンクリート部材1の構成例を示す。(a)、(b)は下部フランジ22と幅方向両側のウェブ21、21が外周側のコンクリート等3中に完全に埋設される位置で外周側と内周側の打設領域を区画した場合、(c)、(d)は下部フランジ22の下面と幅方向両側のウェブ21、21の外周側の面が境界面になるように外周側と内周側の打設領域を区画した場合である。
図22−(a)、(b)の例では下部フランジ22と幅方向両側のウェブ21、21が外周側のコンクリート等3中に埋設される位置で外周側のコンクリート等3の打設領域と内周側の打設領域が区画されることで、下部フランジ22とウェブ21、21が外周側のコンクリート等3との一体性を確保するせん断力伝達部材12の役目を持つ。このため、下部フランジ22の下面とウェブ21の外周面にせん断力伝達部材12を突設することは必ずしも必要ではない。図22−(c)、(d)では下部フランジ22の下面とウェブ21、21の外周側の面が打設領域の境界面になるため、下部フランジ22の下面とウェブ21、21の外周側の面には孔あき鋼板やスタッドボルト等のせん断力伝達部材12が突設される。
図22−(a)、(c)、(d)はまた、鋼材2の上部フランジ23を幅方向両側の、ウェブ21、21に予め溶接等により一体化する端部と、この両側の端部間にコンクリート等3の打設(充填)後等に載置される中間部とに分割した場合の例を示している。この場合の中間部は内周側のコンクリート等3の打設(充填)前に両側の端部に溶接等によって一体化させられる場合と、コンクリート等3の打設前等、コンクリート等3の硬化前に端部上に載置され、そのままコンクリート等3の硬化に伴い、内周側のコンクリート等3中に埋設されることにより端部との一体性が確保される場合がある。
図23はコンクリート等3を下側と上側、または外周側と内周側とで分割して打設する場合に、下部フランジ22、または上部フランジ23の配置状態でコンクリート等3を打設したときに、コンクリート等3がフランジ22、23を上面側から下面側へ、またはその反対側へ通過して充填されるよう、フランジ22、23に多数の開口2cを形成した様子を示している。図23はフランジ22、23に開口2cを形成した場合の例を示しているが、コンクリート等3がウェブ21の片側の面から他方側の面へ通過し得るよう、同様の開口をウェブ21に形成することもある。
図22はコンクリート等3が鋼材2の全断面を完全に被覆する場合に、コンクリート等3の打設領域を相対的に外周側と内周側とに2分割した場合の鉄骨コンクリート部材1の構成例を示す。(a)、(d)は下部フランジ22と幅方向両側のウェブ21、21が外周側のコンクリート等3中に完全に埋設される位置で外周側と内周側の打設領域を区画した場合、(b)、(c)は下部フランジ22の下面と幅方向両側のウェブ21、21の外周側の面が境界面になるように外周側と内周側の打設領域を区画した場合である。