JP2014037594A - 熱延鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱延鋼板の延性および穴広げ性の改善。
【解決手段】C:0.005〜0.3%、Si:0.02〜3.0%、Mn:0.7〜4.0%、P:0.20%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.001〜1.0%、N:0.01%以下を含有する化学組成と、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置で40面積%以上のフェライトと第二相とからなり、D≦7.0および1.0≦D≦8/(100×C×Mn)0.22 (D:フェライトの平均粒径(μm)、CとMnはCとMnの質量%)を満足する鋼組織を有し、かつ板厚中心位置において、I{111}≧1.2およびI{111}−I{100}−I{211}≧−3.2 (I{111}、I{100}、I{211}はそれぞれ{111}、{100}、{211}方位のランダム試料に対する回折X線強度比)を満足するとともに、{211}<011>〜{100}<011>方位群のランダム試料に対する回折X線強度比の値の最大値が8.0以下である集合組織を有する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、熱延鋼板に関する。より詳しくは、本発明は、自動車用、家電用、機械構造用、建築用などの用途に用いられる素材として好適な、加工性に優れた高強度熱延鋼板に関する。
自動車をはじめとする輸送用機械や各種産業機械の構造用部材等の素材として供される鋼板には、強度、伸びや穴広げ性などの加工性、靱性、またそれら特性の均一性、など多様な特性が要求される。
自動車の骨格部材であるメンバ(サブフレーム)やリンフォース(補強部材)に適用される高強度鋼板では、延性のみならず、優れた穴広げ性が要求される。また、プレス成形においては種々の変形モードにおける加工性が要求されるため、機械特性の面内異方性の低減も求められる。
鋼板の機械特性を総合的に高めるには、鋼板の組織を微細化することが有効であることが知られている。組織微細化法としては、TiやNbを添加する方法が良く知られる。しかし、この方法では機械特性の面内異方性が大きくなるという問題がある。下記特許文献1には、Nbを添加してフェライト粒径を微細化するとともに、熱延温度と圧下率を高めて集合組織を弱めることにより面内異方性を向上させる方法が提案されている。しかし、この方法ではMnを0.5%以下に制限しているため、高強度の鋼板を得難いという問題がある。
一方、残留オーステナイトやマルテンサイトを有する複合組織を用いることで加工性に富む高強度熱延鋼板を得ようとする検討も広く行われている。
例えば、下記特許文献2には、フェライト、ベイナイト、残留オーステナイトおよびマルテンサイト組織からなる複合組織鋼板であって、極低P鋼化、ミクロ組織や介在物の最大長さ等の制御、ミクロ組織の硬さ制御等によって、穴拡げ性を向上させる方法が提案されている。
下記特許文献3には、引張強度が780MPa以上で、伸びおよび穴拡げ加工性に優れるとされる高強度熱延鋼板とその製造方法が提案されている。この鋼板は、C:0.05〜0.15%、Si:1.50%以下、Mn:0.5〜2.5%、P:0.035%以下、S:0.01%以下、Al:0.02〜0.15%、Ti:0.05〜0.2%をそれぞれ含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなる化学組成を有し、金属組織が60〜95面積%のベイナイトの他、固溶強化または析出強化したフェライトまたはフェライトとマルテンサイトを含む組織である。
特開2000−119804号公報 特表2004−536965号公報 特開2006−274318号公報
井上博史,稲数直次「反復級数展開法による不完全極点図からの結晶方位分布関数の決定」日本金属学会誌,社団法人日本金属学会,1994年8月,第58巻,第8号,p.892−898
上述したように、従来から、残留オーステナイトやマルテンサイトを含有する複合組織を利用して加工性に富む高強度熱延鋼板を得ようとする検討が行なわれている。
しかし、近年では、高強度熱延鋼板に対して、さらに優れた延性および穴広げ性が求められるようになってきている。
そこで、本発明者らは、フェライトを主体とする微細複合組織を有する熱延鋼板の延性および穴拡げ性に関して、フェライト粒径および集合組織に着目して、その影響を詳細に調査した。
その結果、フェライト粒径を微細化し、板厚中心の集合組織を制御することにより、高い強度を有しながら優れた延性および穴拡げ性を有する熱延鋼板を得ることができることを新たに知見した。
上記新知見に基づく本発明は、
質量%で、C:0.005%以上0.3%以下、Si:0.02%以上3.0%以下、Mn:0.7%以上4.0%以下、P:0.20%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.001%以上1.0%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置において、40面積%以上のフェライトと第二相とからなるとともに、下記式(1)および(2)を満足する鋼組織を有し、かつ
板厚中心位置において、下記式(3)および(4)を満足するとともに、{211}<011>〜{100}<011>方位群の回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値の最大値が8.0以下である集合組織を有する、
ことを特徴とする熱延鋼板である:
D≦7.0 (1)
1.0≦D≦8/(100×C×Mn)0.22 (2)
I{111}≧1.2 (3)
I{111}−I{100}−I{211}≧−3.2 (4)
ここで、各記号の意味は次の通りである:
D:前記フェライトの平均粒径(μm)
C:前記化学組成におけるC含有量(質量%)、
Mn:前記化学組成におけるMn含有量(質量%)、
I{111}:{111}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値、
I{100}:{100}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値、
I{211}:{211}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値。
前記化学組成は、前記Feの一部に代えて、下記の群から選択された1種又は2種以上の元素(%はいずれも質量%)をさらに含有しうる:
(1)Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下およびB:0.005%以下からなる群から選択される1種または2種以上;
(2)Cr:2.0質量%以下、
(3)Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上。
本発明により、フェライトを主体とし、硬質の第二相を含む微細な複合組織を有し、かつ板厚中心位置での方位(異方性)が制御された集合組織を有する熱延鋼板が提供される。この熱延鋼板は、高強度を有しながら延性および穴拡げ性にも優れている(すなわち、強度と加工性が両立している)ので、自動車のサブフレームや補強部材の製造に有用である。
本発明の熱延鋼板について以下により詳しく説明する。以下の説明において、鋼の化学組成に関する%はいずれも質量%である。
<化学組成>
C:0.005%以上0.3%以下
Cは、硬質な第二相を生成させて鋼の強度を高める作用を有する。C含有量が0.005%未満では上記作用による効果を十分に得ることが困難である。したがって、C含有量は0.005%以上とする。好ましくは0.007%以上である。一方、C含有量が0.3%超では、熱間圧延後のフェライト変態が著しく遅延し、第二相の面積率が過大となり、穴拡げ性や延性の低下が著しくなる。さらに、溶接性の劣化が顕著となる。したがって、C含有量は0.3%以下とする。好ましくは0.25%以下、さらに好ましくは、0.20%以下である。
Si:0.02%以上3.0%以下
Siは、フェライト変態を促進するとともに、セメンタイト析出を抑制する作用を有するので、熱間圧延後の冷却過程において未変態オーステナイトへのC濃縮を促進し、冷却後の鋼組織における第二相の硬度を高め、鋼の強度を効率的に高めることを可能にする元素である。Si含有量が0.02%未満では、上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、Si含有量は0.02%以上とする。好ましくは0.04%以上である。一方、Si含有量が3.0%超では、熱間圧延工程における表面酸化により表面性状の劣化が著しくなる場合がある。したがって、Si含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下、特に好ましくは1.5%以下である。
Mn:0.7%以上4.0%以下
Mnは、焼入れ性を高める作用を有するので、冷却後の鋼組織における第二相の硬度を高め、鋼の強度を効率的に高めることを可能にする重要な元素である。また、固溶強化により鋼の強度を高める作用も有する。Mn含有量が0.7%未満では、上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、Mn含有量は0.7%以上とする。好ましくは0.9%以上である。一方、Mn含有量が4.0%超では、熱間圧延後の冷却過程におけるフェライト変態が過度に遅延してしまい、第二相の面積率が過大となる場合がある。したがって、Mn含有量は4.0%以下とする。好ましくは、3.5%以下、さらに好ましくは3.0%以下である。
P:0.20%以下
Pは、不純物として含有される元素であり、鋼板の加工性を低下させる作用を有する。このため、P含有量は0.20%以下とする。好ましくは、0.06%以下、さらに好ましくは0.03%以下、特に好ましくは0.015%以下である。
S:0.010%以下
Sは、不純物として含有される元素であり、鋼板の加工性を低下させる作用を有する。このため、S含有量は0.010%以下とする。好ましくは、0.005%以下、さらに好ましくは0.003%以下、特に好ましくは0.001%以下である。
sol.Al:0.001%以上1.0%以下
Alは、脱酸により鋼を健全化する作用を有する。sol.Al含有量が0.001%未満では、上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.01%以上、さらに好ましくは0.02%以上である。一方、sol.Al含有量を1.0%超としても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらにコスト上昇を招く。したがって、sol.Al含有量は1.0%以下とする、好ましくは0.8%以下、さらに好ましくは0.6%以下である。
N:0.01%以下
Nは、不純物として含有される元素であり、鋼板の加工性を低下させる作用を有する。このため、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
以下の元素は、本発明の熱延鋼板に必要に応じて含有させることができる任意元素である。
Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下およびB:0.005%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Ti、Nb、V、MoおよびBは、炭化物または窒化物として鋼中に析出して鋼の強度を高める作用を有する。同時に、フェライトの粗大化を抑制して鋼組織を微細化する作用も有する。TiおよびNbについては、さらに、オーステナイトの粗大化を抑制して鋼組織をより一層微細化する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、過剰に含有させると、粗大な炭化物または窒化物により加工性が劣化する。TiおよびNbについては、さらに、再結晶温度の過度な高温化を招き、目的とする集合組織を得ることが困難となる。したがって、TiおよびNbの含有量はそれぞれ0.1%以下とする。それぞれ好ましくは0.06%以下、さらに好ましくは0.03%以下、特に好ましくは0.02%以下、最も好ましくは0.01%以下である。また、VおよびMoの含有量はそれぞれ0.5%以下とする。それぞれ好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.1%以下、特に好ましくは0.05%以下、最も好ましくは0.01%以下である。また、Bの含有量は0.005%以下とする。好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.001%以下、特に好ましくは0.0005%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Ti:0.001%以上、Nb:0.001%以上、V:0.01%以上、Mo:0.001%以上、およびB:0.0001%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
Cr:2.0%以下
Crは、焼入性を高めることによりマルテンサイトを含有する第二相の生成を促進する作用を有する。したがって、Crを含有させてもよい。しかし、過剰に含有させると、熱間圧延後の冷却過程におけるフェライト変態が過度に遅延してしまい、第二相の面積率が過大となる場合がある。したがって、Cr含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.5%以下、さらに好ましくは1.0%以下、特に好ましくは0.5%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Cr含有量を0.02%以上とすることが好ましい。
Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Ca、MgおよびREMは、溶鋼が凝固する過程において生成する酸化物や窒化物を微細化してスラブの健全性を保つ作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、過剰に含有させても上記作用による効果は飽和してしまい、これらの元素が高価であることからいたずらにコストの増加を招く。したがって、これらの元素の含有量はそれぞれ0.01%以下とする。これら元素の含有量は合計で0.005%以下とすることが好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、いずれかの元素を0.0002%以上含有させることが好ましい。
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量は、これらの元素の合計含有量を指す。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
<鋼組織>
本発明に係る熱延鋼板は、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置において、40面積%以上のフェライトと第二相とからなるとともに、下記式(1)および(2)を満足する鋼組織を有する。
D≦7.0 (1)
1.0≦D≦8/(100×C×Mn)0.22 (2)
ここで、各記号の意味は次の通りである:
D:前記フェライトの平均粒径(μm)、
C:前記化学組成におけるC含有量(質量%)
Mn:前記化学組成におけるMn含有量(質量%)
上記フェライトは、ポリゴナルフェライトの他に、ベイニティックフェライト、アシキュラーフェライト、グラニュラーベイニティックフェライトおよび擬ポリゴナルフェライトを含み、パーライト組織やベイナイト組織を構成しているフェライトは含まない。
また、第二相とは、主相を構成する上記フェライト以外の相および組織を意味し、セメンタイト、ベイナイト、マルテンサイトおよび残留オーステナイトなどからなる群から選択される1種からなるものでも、これらの2種以上を含有する混合組織であってもよい。
ここで、鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置の鋼組織を規定するのは、当該位置における鋼組織が鋼板の鋼組織を代表するからである。
・フェライト面積率:40%以上
フェライト相は良好な延性を得るために必要である。したがって、フェライト相の面積率は40%以上とする。好ましくは45%以上、さらに好ましくは50%以上である。一方、フェライト単相組織の場合には加工硬化率が低下する場合がある。したがって、フェライト相の面積率は97%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは95%以下である。
・上記式(1)および(2)を満足すること
本発明においてフェライト粒の微細化は重要である。これにより、き裂の発生、進展および連結を抑制して、局部変形能を向上させる。さらに、第二相を微細分散させることにより、加工時の変形を一様化し、加工硬化率を向上させ、延性および穴拡げ性を向上させる。一方、過度の微細化は加工硬化率を低下させて延性を低下させる場合がある。このため、上記式(1)および(2)を満足するものとする。上記式(1)または(2)を満足しないと、良好な延性と穴拡げ性とを得ることが困難となる。なお、下記式(2−1)を満足することがさらに好ましい:
1.0≦D≦7/(100×C×Mn)0.22 (2−1)
<集合組織>
本発明に係る熱延鋼板の鋼組織は、板厚中心位置において、下記式(3)および(4)を満足するとともに、{211}<011>〜{100}<011>方位群の回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値の最大値が8.0以下である集合組織を有する。
I{111}≧1.2 (3)
I{111}−I{100}−I{211}≧−3.2 (4)
ここで、各記号の意味は次の通りである:
I{111}:{111}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値、
I{100}:{100}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値、
I{211}:{211}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値。
・{211}<011>〜{100}<011>方位群の回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値の最大値:8.0以下
板厚中心位置において{211}<011>〜{100}<011>方位の集合組織が発達すると、特に穴広げ性を低下させる。このため、これらの方位を低減させることにより、穴広げ性を向上させることができる。したがって、これらの方位のX線ランダム強度比の最大値を8.0以下とする。好ましくは7.5以下、さらに好ましくは7.0以下である。低ければ低いほど良いので下限は設けない。
なお、{hkl}は圧延面に平行な結晶面、<uvw>は圧延方向に平行な結晶方向を表す。すなわち、{hkl}<uvw>とは板面法線方向に{hkl}、圧延方向に<uvw>が向いている結晶を示す。
{211}<011>〜{100}<011>方位群の回折X線強度とは、X線回折により(110)、(200)、(211)不完全極点図を求めたのち、前掲非特許文献1に記載された反復級数展開法によりODF解析を行ない、Bunge法におけるφ1=0°、φ2=45°、Φ=0〜35°の回折X線強度である。その中でランダム試料に対する強度比で最も高い値が8.0以下であればよい。なお、不完全極点図とは、反射法のみで得られる極点図のことである。また、ランダム試料とは、結晶方位の配向を持たずに不規則な分布を有する試料のことである。
・上記式(3)および(4)を満足すること
板面方向の{111}が発達すると穴拡げ性が向上し、{100}および{211}が発達すると穴拡げ性が低下する。このため、{111}の発達を促進させ、{100}および{211}の発達を抑制することにより、穴拡げ性を向上させることができる。したがって、上記式(3)および(4)を満足するものとする。上記式(3)に関しては、下記式(3−1)を満足することが好ましく、下記式(3−2)を満足することがさらに好ましい。なお、I{111}は高ければ高いほど好ましいので、I{111}の上限は特に規定しない。また、上記式(4)に関しては、下記式(4−1)を満足することが好ましく、下記式(4−2)を満足することがさらに好ましく、下記式(4−3)を満足することが特に好ましい。なお、「I{111}−I{100}−I{211}」の値は高ければ高いほど好ましいので、「I{111}−I{100}−I{211}」の値の上限は特に規定しない。
I{111}≧1.4 (3−1)
I{111}≧1.6 (3−2)
I{111}−I{100}−I{211}≧−3.0 (4−1)
I{111}−I{100}−I{211}≧−2.8 (4−2)
I{111}−I{100}−I{211}≧−2.6 (4−3)
従来の制御冷却制御圧延法やTi、Nbなどを添加して組織の微細化を図る方法では、{100}や{211}が発達してしまい、一方で{111}の発達は抑制されていた。
本発明では、後述する製造方法を採用することにより、組織微細化とともに{111}を発達させ、同時に{100}および{211}の発達を抑制することにより、優れた延性および穴拡げ性を有する熱延鋼板を得ることができる。
<機械的性質>
本発明の熱延鋼板は、鋼組織および集合組織の制御により、優れた延性と穴広げ性を有する。しかし、鋼板の引張強度が小さいと、車体軽量化や剛性向上などの効果が小さい。そのため、鋼板の引張強度(TS)は370MPa以上であることが好ましい。TSはさらに好ましくは490MPa以上、特に好ましくは540MPaである。
本発明の熱延鋼板の延性および穴広げ性については、それらと強度とのバランスの指標となる、それぞれTS×EL(EL:全伸び)およびTS1.7×HER(HER:日本鉄鋼連盟規格JFS−T1001−1996に規定の穴拡げ率)により評価することが適切である。延性はTS×ELの値が14000MPa・%以上であることが好ましく、15000MPa・%以上であることがより好ましく、16000MPa・%以上であることが特に好ましい。穴広げ性はTS1.7×HERの値が4.0×106 MPa1.7・%以上であることが好ましく、4.5×106 MPa1.7・%以上であることがより好ましく、5.0×106 MPa1.7・%以上であることが特に好ましい。
<製造方法>
上記鋼組織および上記集合組織を有する熱延鋼板の製造方法は特に規定しない。例えば、次に説明する方法を採用することができるが、上述した鋼組織および集合組織を有する熱延鋼板を製造できれば、他の方法により製造してもよい。
まず、上記化学組成を有する熱間圧延用鋼材を用意する。熱間圧延に供する鋼材は、連続鋳造や鋳造・分塊圧延により得たスラブでよいが、それらに熱間加工または冷間加工を加えたものであってもよい。また、熱間圧延に供する鋼材は再加熱したものであってもよいし、連続鋳造後や分塊圧延後の高温状態にあるものをそのまま用いてもよい。後述する熱間圧延完了温度を確保できれば特に制限はない。熱間圧延に供する鋼材の温度は一般的に900〜1350℃である。熱間圧延はレバースミルまたはタンデムミルを用いて多パスで行う。工業的生産性の観点からは、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いることが好ましい。
上記鋼材の熱間圧延において、最終圧延パスの1つ前の圧延パスと2つ前の圧延パスではいずれも圧下率を30%以上、圧延温度をAr3点以上かつ850℃以上とし、最終圧延パスでは圧下率を25%以上、圧延温度をAr3点以上かつ850℃以上とし、さらに下記式(5)を満足する多パス熱間圧延を施し、熱間圧延完了後1.0秒間以内に600℃以上750℃以下の温度域まで冷却し、上記温度域で2秒間以上保持し、さらに、600℃以下の温度域まで冷却することにより熱延鋼板とすることが好ましい。
0.002/exp(−6080/(T+273))≦t≦2.0 (5)
ここで、各記号の意味は次の通りである:
t:最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までのパス間時間(秒)、
T:最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了温度(℃)
上記製造方法を採用することにより、上記鋼組織および上記集合組織を有する熱延鋼板を製造することが容易になる。
すなわち、最終圧延パスの1つ前および2つ前の圧延パスの圧下率を上記のように高めることによって、主に再結晶オーステナイト粒の微細化を図られ、さらに、最終圧延パスの圧下率を上記のように高めることによって、後述する熱間圧延後の冷却条件と相俟って、導入される歪みを変態駆動力および変態核生成サイトとして効果的に活用することが可能となり、上述した微細な鋼組織および集合組織を得ることが容易になる。
したがって、最終圧延パスの1つ前および2つ前の圧延パスの圧下率を30%以上とすることが好ましい。また、最終圧延パスの圧下率は25%以上とすることが好ましい。最終圧延パスの圧下率は30%以上とすることがさらに好ましい。
一方、鋼板について良好な平坦性を確保し、好ましくない集合組織の発達を抑制する観点からは、最終圧延パスの1つ前および2つ前の圧延パスならびに最終圧延パスの圧下率は60%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは50%以下、特に好ましくは45%以下である。
また、圧延温度を上記のようにすることによって、圧延中におけるフェライト変態が防止されるとともに、圧延のパス間においてはオーステナイトの再結晶を適度に促して主に再結晶オーステナイト粒の微細化が図られ、熱間圧延後においては、後述する熱間圧延後の冷却条件と相俟って、導入される歪みを変態駆動力および変態核生成サイトとして効果的に活用することが可能となり、上述した微細な鋼組織および集合組織を得ることが容易になる。
したがって、最終圧延パスの1つ前および2つ前の圧延パスならびに最終圧延パスの圧延温度は、Ar3点以上かつ850℃以上とすることが好ましい。870℃以上とすることがさらに好ましい。一方、オーステナイトの粒成長を抑制して、目的とする微細な鋼組織を得ることを容易にする観点からは、1100℃以下とすることが好ましい。1050℃以下とすることがさらに好ましい。なお、これらの温度は鋼材の表面温度であり、放射温度計等により測定することができる。
また、上記式(5)を満足させることにより、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までのパス間において、オーステナイトの再結晶が促進されるとともに、オーステナイトの粒成長が抑制されるため、圧延中の再結晶オーステナイト粒の微細化が図られ、これにより、上述した微細な鋼組織および集合組織を得ることが容易になる。
熱間圧延完了後は、オーステナイトに導入された加工歪の解放を抑制しつつ、オーステナイトからフェライトへの変態が活発となる温度域まで冷却し、当該温度域において一旦保持することにより、上記加工歪を駆動力としてオーステナイトからフェライトへ一気に変態させる。これにより、フェライト変態の核生成の密度が飛躍的に高まり、微細な鋼組織を得ることが容易になる。
このため、熱間圧延完了後1.0秒間以内に600℃以上750℃以下の温度域まで冷却し、上記温度域で2秒間以上保持することが好ましい。熱間圧延完了後1.0秒間以内に600℃以上750℃以下の温度域まで冷却することにより、オーステナイトからフェライトへの変態が活発となる温度域まで冷却する過程において、オーステナイトに導入された加工歪の解放を効果的に抑制できる。熱間圧延完了後600℃以上750℃以下の温度域まで冷却時間は0.8秒間以内とすることがさらに好ましい。熱間圧延完了後600℃以上750℃以下の温度域まで冷却は、水冷を用いるのが望ましく、その冷却速度は、空冷期間を除外した強制冷却を行っている期間の平均冷却速度で400℃/秒以上とすることが好ましい。
また、600℃以上750℃以下の温度域に達すると、オーステナイトからフェライトへの変態が活発となるので、上記温度域で2秒間以上保持することにより、加工歪を駆動力としたオーステナイトからフェライトへの変態が一気に進行し、これにより、フェライト変態の核生成の密度が飛躍的に高まり、微細な鋼組織を得ることが容易になる。上記温度域における保持時間の上限は特に規定する必要はないが、生産性の観点から20秒間以内とすることが好ましい。
上記温度域に保持した後は、未変態オーステナイトをパーライト、ベイナイト、マルテンサイトなどの硬質な第二相とするために、600℃以下の温度域まで冷却する。この際の平均冷却速度は30℃/秒以上とすることが好ましい。
600℃以下の温度域に冷却した後は、一般には巻取りを行う。
こうして製造されうる本発明に係る熱延鋼板は、めっきを施してめっき鋼板としてもよい。めっきは電気めっきおよび溶融めっきのいずれでもよく、めっき種も特に制限はないが、一般的には亜鉛めっきと亜鉛合金めっきとを含む亜鉛系めっきである。めっき鋼板の例としては、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板などが例示される。めっき付着量は一般的な量でよい。
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製して鋳造した後、熱間鍛造によって30mm厚さの鋼片とした。得られた鋼片を1250℃に加熱し、試験用小型タンデムミルにて表2に示す条件で熱間圧延を施して、2mmの板厚に仕上げた。
表2において、熱間圧延最終3パス圧延条件のパス1、2、3はそれぞれ最終パスの2つ前、同1つ前、最終パスを意味する。最終圧延パス間時間は、最終圧延パスの1つ前の圧延パスの圧延完了から最終圧延パスの圧延開始までのパス間時間のことである。
Figure 2014037594
Figure 2014037594
得られた熱延鋼板について、走査型電子顕微鏡を用いて鋼板板厚の断面を観察し、第二相の組織を調査するとともに、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置におけるフェライトの平均粒径Dを切片法で求め、その面積率を点算法で測定した。
また、X線回折試験により、板厚中心位置における(200)、(110)、(211)のランダム試料に対する回折X線強度比を測定し、さらに(200)、(110)、(211)不完全極点図を求めて、先に説明したようにODF解析を行なって、各方位の回折X線強度を求めた。
熱延鋼板の機械特性を評価するため、JIS5号引張試験片にて引張試験を行って、引張強度TS、全伸びELを求めた。また、日本鉄鋼連盟規格JFS−T1001−1996に準拠して穴拡げ試験を行い、HER(穴拡げ率)を測定した。全伸びELおよび穴拡げ率HERについては、強度とのバランスを示すTS×ElおよびTS1.7×HERの値を求めた。
表3に鋼組織、集合組織および機械特性の調査結果を示す。第二相の種類の欄において、Mはマルテンサイト、Bはベイナイト、Pはパーライト、θは粒界セメンタイトをそれぞれ意味する。
Figure 2014037594
表3に示すように、本発明に従った発明例では、優れたTS−ELバランスおよびTS−HERバランスを有する、延性と穴広げ性に優れた高強度熱延鋼板が得られている。
これに対し、化学組成、フェライト平均粒径、フェライト面積率または集合組織が本発明の範囲外である比較例は、TS−ELバランスおよび/またはTS−HERバランスに劣っている。

Claims (4)

  1. 質量%で、C:0.005%以上0.3%以下、Si:0.02%以上3.0%以下、Mn:0.7%以上4.0%以下、P:0.20%以下、S:0.010%以下、sol.Al:0.001%以上1.0%以下、N:0.01%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    鋼板表面から板厚の1/4の深さ位置において、40面積%以上のフェライトと第二相とからなるとともに、下記式(1)および(2)を満足する鋼組織を有し、かつ
    板厚中心位置において、下記式(3)および(4)を満足するとともに、{211}<011>〜{100}<011>方位群の回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値の最大値が8.0以下である集合組織を有する、
    ことを特徴とする熱延鋼板。
    D≦7.0 (1)
    1.0≦D≦8/(100×C×Mn)0.22 (2)
    I{111}≧1.2 (3)
    I{111}−I{100}−I{211}≧−3.2 (4)
    ここで、各記号の意味は次の通りである:
    D:前記フェライトの平均粒径(μm)
    C:前記化学組成におけるC含有量(質量%)、
    Mn:前記化学組成におけるMn含有量(質量%)、
    I{111}:{111}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値、
    I{100}:{100}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値、
    I{211}:{211}回折X線強度のランダム試料の回折X線強度に対する比の値。
  2. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.1%以下、Nb:0.1%以下、V:0.5%以下、Mo:0.5%以下およびB:0.005%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の熱延鋼板。
  3. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Cr:2.0質量%以下を含有する、請求項1または請求項2に記載の熱延鋼板。
  4. 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下およびREM:0.01%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の熱延鋼板。
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