まず、図1及び図2を参照して、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の側面図である。図2は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の平面図である。
例えば、介護者は、移乗支援装置1によって、被介護者を移乗元から移乗先に容易に移送して移乗させることができる。移乗元及び移乗先として、例えば、ベッド、車椅子、トイレ、及び診察台等が該当する。
移乗支援装置1は、台車部10、ロボットアーム部20、保持部30、及びハンドル40を有する。台車部10は、移動可能に構成されている。ロボットアーム部20は、一端部が台車部10の上部に連結されており、他端部が保持部30に連結されている。保持部30は、一端部がロボットアーム部20に連結されており、他端部がハンドル40に連結されている。ロボットアーム部20及び保持部30は、台車部10に対して傾動自在なアーム部として機能する。
台車部10は、台車本体11、土台部12、駆動車輪13、及び補助車輪14を有する。台車本体11は、前方に左右一対の駆動車輪13が取り付けられており、その後方に左右一対の補助車輪14が取り付けられている。台車本体11の上部には、土台部12が連結されている。以下、前方向に対して左側の駆動車輪13を「駆動車輪13a」と呼び、前方向に対して右側の駆動車輪13を「駆動車輪13b」と呼ぶ。
ロボットアーム部20は、第1アーム部21及び第2アーム部22を有する。第1アーム部21は、一端部が土台部12と連結されており、他端部が第2アーム部22と連結されている。第2アーム部22は、少なくともピッチ軸回りの回転が可能となるように、第1関節部51を介して第1アーム部21と連結されている。
保持部30は、正面保持具31及び側面保持具32を有する。保持部30は、正面保持具31及び側面保持具32によって、被介護者を保持可能に構成される。正面保持具31は、一端部が第2アーム部22と連結されている。正面保持具31は、少なくともピッチ軸回りの回転が可能となるように、第2関節部52を介して第2アーム部22と連結されている。正面保持具31は、第2アーム部22の他側部に左右一対の側面保持具32が連結されている。側面保持具32は、一端部に正面保持具31が連結されており、他端部にハンドル40が連結されている。
ハンドル40は、介護者からハンドル40に対して加えられる操作力を検出可能となるように、力センサ50を介して側面保持具32に連結されている。以下、前方向に対して左側のハンドル40を「ハンドル40a」と呼び、前方向に対して右側のハンドル40を「ハンドル40b」と呼ぶ。また、前方向に対して左側の力センサ50を「力センサ50a」と呼び、前方向に対して右側の力センサ50を「力センサ50b」と呼ぶ。
ここで、ヨー軸は、鉛直方向(上下垂直方向)の軸となる。また、ピッチ軸は、第2アーム部22及び正面保持具31を上下方向に回転(傾動)させる回転軸であり、移乗支援装置1が直進する方向に対して左右水平方向となる軸である。また、ロール軸は、移乗支援装置1が直進する方向に対して前後水平方向となる軸である。
続いて、図3を参照して、本実施の形態1にかかる移乗支援装置1を制御する制御装置2の構成について説明する。図3は、本実施の形態1にかかる移乗支援装置1を制御する制御装置2の構成を示すブロック図である。
制御装置2は、介護者から移乗支援装置1に対する操作に応じて、移乗支援装置1を統括的に制御する。制御装置2は、台車部1に備えられている。制御装置2は、制御部60、駆動回路70、第1乃至第3アクチュエータ71〜73、及び第1乃至第3角度センサ81〜83を有する。
制御部60は、各種センサ50、81〜83及びハンドルスイッチ41からの出力内容に基づいて、駆動回路70を介して第1乃至第3アクチュエータ71〜73を駆動して移乗支援装置1を制御する。具体的には、制御部60は、力センサ50から出力された力信号に基づいて、前後移動動作(以下、「前後動作」とも呼ぶ)又は旋回動作をさせるように移乗支援装置1を制御する。その際に、制御部60は、第3角度センサ83から出力された角度信号に基づいて、フィードバック制御を行う。また、制御部60は、第1及び第2アクチュエータ71、72を駆動して、ロボットアーム部20及び保持部30を傾動させる際に、第1及び第2角度センサ81、82から出力された角度信号に基づいて、フィードバック制御を行う。
ここで、ハンドルスイッチ41は、移乗支援装置1に左右一対に取り付けられたハンドル40(40a及び40b)のそれぞれに取り付けられている。以下、前方向に対して左側のハンドル40aに取り付けられたハンドルスイッチ41を「ハンドルスイッチ41a」と呼び、前方向に対して右側のハンドル40bに取り付けられたハンドルスイッチ41を「ハンドルスイッチ41b」と呼ぶ。
制御部60は、CPU(Central Processing Unit)61、ROM(Read Only Memory)62、及びRAM(Random Access Memory)63を有する。制御部60は、制御部60として処理を実行するためのプログラムをCPU61によって実行することによって、本実施の形態において説明するように移乗支援装置1を制御する。ROM62は、CPU61によって実行させるプログラムが格納されている。RAM63は、CPU61によってプログラムを実行するためにROM62からプログラムがロードされるとともに、プログラムの実行に際して演算されるデータが一時的に格納される。
駆動回路70は、移乗支援装置1を動作させる際に制御部60から出力される、第1乃至第3アクチュエータ71〜73のそれぞれに対する指令値に基づいて、第1乃至第3アクチュエータ71〜73のそれぞれを駆動するための駆動電流を生成し、第1乃至第4アクチュエータ71〜73のそれぞれに出力する。
ここで、第1アクチュエータ71及び第1角度センサ81は、第1関節部51に備えられており、第2アクチュエータ72及び第2角度センサ82は、第2関節部52に備えられており、第3アクチュエータ73及び第3角度センサ83は、移乗支援装置1に左右一対に取り付けられた駆動車輪13(13a及び13b)のそれぞれに備えられている。以下、前方向に対して左側の駆動車輪13aに取り付けられた第3アクチュエータ73及び第3角度センサ83を「第3アクチュエータ73a」及び「第3角度センサ83a」と呼び、前方向に対して右側の駆動車輪13bに取り付けられた第3アクチュエータ73及び第3角度センサ83を「第3アクチュエータ73b」及び「第3角度センサ83b」と呼ぶ。
第1乃至第3アクチュエータ71〜73のそれぞれは、駆動回路70から出力される駆動電流に基づいて回転駆動する。第1乃至第3アクチュエータ71〜73のそれぞれが回転駆動することによって、移乗支援装置1における各種動作が実現される。
第1アクチュエータ71が回転駆動することによって、第2アーム部22が、第1アーム部21に対して第1関節部51を中心としてピッチ軸回りに回転動作を行う。第2アクチュエータ72が回転駆動することによって、正面保持具31が、第2アーム部22に対して第2関節部52を中心としてピッチ軸回りに回転動作を行う。
第3アクチュエータ73が回転駆動することによって、駆動車輪13が回転する。より具体的には、第3アクチュエータ73aが回転駆動することによって、駆動車輪13aが回転し、第3アクチュエータ73bが回転駆動することによって、駆動車輪13bが回転する。これによって、移乗支援装置1の前後動作又は旋回動作が実現される。
第1角度センサ81は、第1アクチュエータ71の回転角度を検出し、検出した回転角度を示す角度信号を生成して制御部60に出力する。第2角度センサ82は、第2アクチュエータ72の回転角度を検出し、検出した回転角度を示す角度信号を生成して制御部60に出力する。第3角度センサ83は、第3アクチュエータ73の回転角度を検出し、検出した回転角度を示す角度信号を生成して制御部60に出力する。より具体的には、第3角度センサ83aは、第3アクチュエータ73aの回転角度を検出し、第3角度センサ83bは、第3アクチュエータ73bの回転角度を検出する。
ハンドルスイッチ41は、押下することでオン/オフ状態を切り替え可能なスイッチである。ハンドルスイッチ41は、例えば、介護者が移乗支援装置1を操作するためにハンドル40を把持したときに押下される位置に配置される。ハンドルスイッチ41は、介護者から押下されて、オン状態に切り替えられている場合、オン状態であることを通知する状態通知信号を制御部60に継続的に出力する。ハンドルスイッチ41は、介護者から押下されておらず、オフ状態に切り替えられている場合、オフ状態であることを通知する状態通知信号を制御部60に継続的に出力する。この動作は、ハンドルスイッチ41a及びハンドルスイッチ41bともに同様である。
力センサ50は、介護者からハンドル40に対する3軸の操作力(並進力)を検出する。力センサ50は、検出した操作力を示す力信号を生成し、制御部60に出力する。例えば、力センサ50の3軸のそれぞれは、ハンドル40が定位置に下げられている状態で、前後水平方向に対する操作力と、鉛直方向に対する操作力と、左右水平方向に対する操作力とを検出可能となるように設けてもよい。
続いて、図4及び図5を参照して、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の制御方法について説明する。図4は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の片手操作時における制御方法を示す図である。図5は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の両手操作時における制御方法を示す図である。
まず、図4を参照して、移乗支援装置1の片手操作時における制御方法について説明する。片手操作時には、制御部60は、ハンドル40に対する前後水平方向の操作力を、前後移動を指示する操作力(以下、「前後操作力」とも呼ぶ)として検出し、左右水平方向の操作力を、旋回を指示する操作力(以下、「旋回操作力」とも呼ぶ)として検出する。
そして、制御部60は、ハンドル40に対する前後水平方向の操作力が力センサ50によって検出されると、移乗支援装置1を前後動作させるように制御し、ハンドル40に対する左右水平方向の操作力が力センサ50によって検出されると、移乗支援装置1を旋回動作させるように制御する。具体的には、制御部60は、水平前方向の操作力が検出されると、移乗支援装置1が前方に移動するように第3のアクチュエータ73を駆動し、水平後方向の操作力が検出されると、移乗支援装置1が後方に移動するように第3のアクチュエータ73を駆動する。また、制御部60は、水平左方向の操作力が検出されると、移乗支援装置1が台車旋回中心軸を中心として右回りに旋回するように第3のアクチュエータ73を駆動し、水平右方向の操作力が検出されると、移乗支援装置1が台車旋回中心軸を中心として左回りに旋回するように第3のアクチュエータ73を駆動する。
このときに、本実施の形態1では、ハンドル40の姿勢に関わらず、ハンドル40に対する前後水平方向の操作力を検出可能とするために、力センサ50の各軸に対する操作力から前後水平方向成分の力を抽出して前後操作力とする。すなわち、制御部60は、第1及び第2角度センサ81、82のそれぞれから出力された角度信号が示す角度に基づいて、力センサ50の各軸の傾き角を算出し、算出した傾き角を考慮することで前後水平方向の操作力を抽出する。
例えば、上述した例のように、ハンドル40が定位置に下げられている状態で、力センサ50の3軸のそれぞれが、前後水平方向に対する操作力と、鉛直方向に対する操作力と、左右水平方向に対する操作力とが検出可能となるように設けられているものと仮定する。この場合、制御部60は、定位置において前後水平方向だった軸で検出された操作力と、定位置において鉛直方向だった軸で検出された操作力のそれぞれから、前後水平方向成分の操作力を抽出し、抽出した操作力のそれぞれを合成した力を前後操作力とする。また、移乗支援装置1は、前後方向に傾動するが、左右方向には傾動しないため、定位置において左右水平方向だった軸で検出された操作力は、そのまま旋回操作力として抽出される。
この本実施の形態1にかかる片手操作における制御方法によれば、ハンドルがどのような姿勢となっていても、移乗支援装置1に対する操作方向と、それに応じた移乗支援装置1の動作方向とが一致するため、直観的な操作感を実現することができる。
続いて、図5を参照して、移乗支援装置1の両手操作における制御方法について説明する。両手操作時には、制御部60は、ハンドル40に対する操作力を、台車旋回中心に加わる力に換算し、その台車旋回中心の力における前後水平方向成分の力(並進力)を、前後操作力として抽出し、その台車旋回中心の力における台車旋回中心軸(鉛直軸)回りの力(モーメント)を旋回操作力として抽出する。すなわち、制御部60は、ハンドル40に対する操作力が力センサ50によって検出されると、その操作力から台車旋回中心の力を算出する。そして、制御部60は、算出した台車旋回中心の力において、前後水平方向成分の力が存在する場合、移乗支援装置1を前後動作させるように制御し、台車旋回中心軸回りのモーメントが存在する場合、移乗支援装置1を旋回動作させるように制御する。ここで、台車旋回中心とは、例えば、駆動車輪13a、13bの軸を結ぶ線分における、駆動車輪13a、13bのそれぞれからの中点となる。
具体的には、制御部60は、台車旋回中心の力における前後方向成分の力が前方向である場合、移乗支援装置1が前方に移動するように第3のアクチュエータ73を駆動し、後方向である場合、移乗支援装置1が後方に移動するように第3のアクチュエータ73を駆動する。また、制御部60は、台車旋回中心の力における台車旋回中心軸回りのモーメントが右回りである場合、移乗支援装置1が台車旋回中心軸を中心として右回りに旋回するように第3のアクチュエータ73を駆動し、台車旋回中心の力における台車旋回中心軸回りのモーメントが左回りである場合、移乗支援装置1が台車旋回中心軸を中心として左回りに旋回するように第3のアクチュエータ73を駆動する。
この本実施の形態1にかかる両手操作における制御方法によれば、ハンドルがどのような姿勢となっていても、移乗支援装置1に対する操作方向と、それに応じた移乗支援装置1の動作方向との関係が、一般的な手押し台車におけるものと一致するため、直観的な操作感を実現することができる。
以上に説明したように、本実施の形態1にかかる制御方法によれば、ハンドル40が下がっている場合であっても、ハンドル40が上がっている場合であっても、介護者に対して直観的に操作し易い操作系を実現することができる。
また、本実施の形態1では、上述したように、片手操作と両手操作とで制御方法を切り替えることで、介護者にとって操作し易い操作系を実現している。例えば、片手操作時にも、上記の両手操作と同様の制御方法で移乗支援装置1を制御してしまうと、介護者が移乗支援装置1を前後に移動させようとして、ハンドル40に対して前後方向に力を加えた場合、片方のハンドル40(40a又は40b)のみに操作力が与えられるため、台車旋回中心軸回りにモーメントが発生してしまう。そのため、介護者が前後方向だけに操作力を与えた場合であっても、移乗支援装置1の動作は前後動作及び旋回動作が混在した動作となってしまう。すなわち、直観的な操作が行い難くなってしまう。
それに対して、本実施の形態1では、片手操作と両手操作とで制御方法を切り替えることで、両手操作では手押し台車と同様の感覚での操作を実現しつつ、片手操作では操作方向と動作方向とを一致させた操作を実現することを可能としている。したがって、この点においても、より直観的な操作感を実現することを可能としている。
続いて、図6を参照して、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の操作モード判定処理について説明する。図6は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の操作モード判定処理を示すフローチャートである。
制御部60は、左右のハンドルスイッチ41(41a及び41b)から出力される状態通知信号に基づいて、介護者から片手操作をされているか、介護者から両手操作をされているかを判定する。
制御部60は、右のハンドルスイッチ41bから出力されている状態通知信号がオン状態を示しており(S1:ON)、かつ、左のハンドルスイッチ41aから出力されている状態通知信号がオン状態を示している(S2:ON)場合には、介護者から両手操作をされていると判定する(S3)。この場合、制御部60は、移乗支援装置1を両手操作モードに切り替える。
また、制御部60は、右のハンドルスイッチ41bから出力されている状態通知信号がオン状態を示しており(S1:ON)、かつ、左のハンドルスイッチ41aから出力されている状態通知信号がオフ状態を示している(S2:OFF)場合には、介護者から右手によって片手操作をされていると判定する(S4)。この場合、制御部60は、移乗支援装置1を片手操作モードに切り替える。
また、制御部60は、右のハンドルスイッチ41bから出力されている状態通知信号がオフ状態を示しており(S1:OFF)、かつ、左のハンドルスイッチ41aから出力されている状態通知信号がオン状態を示している(S5:ON)場合には、介護者から左手によって片手操作をされていると判定する(S6)。この場合、制御部60は、移乗支援装置1を片手操作モードに切り替える。
また、制御部60は、右のハンドルスイッチ41bから出力されている状態通知信号がオフ状態を示しており(S1:OFF)、かつ、左のハンドルスイッチ41aから出力されている状態通知信号がオフ状態を示している(S5:OFF)場合には、介護者から操作が行われていないと判定する。
なお、図6に示す処理では、先に、右のハンドルスイッチ41bから出力されている状態通知信号に基づいて右のハンドルスイッチ41bがオン状態かオフ状態かを判定するようにしているが、先に、左のハンドルスイッチ41bから出力されている状態通知信号に基づいて左のハンドルスイッチ41bがオン状態かオフ状態かを判定するようにしてもよい。
続いて、図7を参照して、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の片手操作モード時における動作制御処理について説明する。図7は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の片手操作モード時における動作制御処理を示すフローチャートである。
片手操作モード時には、制御部60は、オン状態とされているハンドルスイッチ41側の力センサ50から出力された力信号を、介護者からハンドル40に対する操作力を示す力情報として取得する(S11)。制御部60は、取得した力信号が示す3軸方向の操作力から、前後操作力と旋回操作力とを抽出する(S12)。
このときに、制御部60は、上述したように、ハンドル40の姿勢を考慮して、前後水平方向成分の力を、前後操作力として抽出する。具体的には、制御部60は、力センサ50の各軸のそれぞれにおける操作力のうち、左右水平方向の軸を除いた2軸の操作力のそれぞれを、前後水平方向成分の力と、上下垂直方向成分の力とに分離する。そして、制御部60は、その2軸の操作力のそれぞれにおける前後水平方向成分の力を合成した力を、前後操作力として抽出する。なお、制御部60は、左右水平方向の軸における操作力を、そのまま旋回操作力とする。
制御部60は、抽出した前後操作力及び旋回操作力のそれぞれについて、不感帯処理を実行する(S13)。具体的には、制御部60は、前後操作力及旋回操作力のそれぞれの大きさ(絶対値)が、所定の閾値以下であるか否かを判定する。そして、制御部60は、閾値以下の操作力については、その操作力を0とみなす。また、制御部60は、閾値よりも大きい操作力については、その操作力の大きさを、その操作力から閾値に相当する力を小さくした力とみなす。このように、閾値以下となる小さい操作力については、その操作力が与えられていないものとみなすことで、介護者が意図せずに与えてしまっている微小な操作力によって、介護者が意図していない方向に移乗支援装置1が動作してしまうことを防止することができる。
制御部60は、不感帯処理後の前後操作力及び旋回操作力のそれぞれについて、飽和処理を実行する(S14)。具体的には、制御部60は、前後操作力及旋回操作力のそれぞれが、所定の最大値よりも大きいか否かを判定する。そして、制御部60は、所定の最大値よりも大きい操作力については、その操作力を最大値に丸める。このようにすることで、後述の処理において、操作力に応じた加速度又は速度を算出するときに、操作力に基づいて算出される加速度又は速度が、移乗支援装置1が出力可能な許容値を超えないように抑制することができる。
制御部60は、所定のインピーダンスモデルに基づいて、飽和処理後の前後操作力及び旋回操作力に基づいて、移乗支援装置1の速度の目標値を算出する(S15)。このインピーダンスモデルとして、前後操作力を入力として、移乗支援装置1の前後方向速度の目標値を出力とする計算式と、旋回操作力を入力として、移乗支援装置1の旋回速度の目標値を出力とする計算式とを予め用意する。すなわち、このインピーダンスモデルは、制御部60が、前後操作力又は旋回操作力を入力することで、上述したような操作力に応じた移乗支援装置1の動作が実現される前後方向速度又は旋回速度が算出されるように、任意に予め定めるようにすればよい。例えば、式(1)に示す仮想インピーダンスモデルに基づいて、速度の目標値を算出する。
式(1)に示す仮想インピーダンスモデルは、前後操作力と旋回操作力のそれぞれに対して用意される。すなわち、前後操作力Fiに対して仮想慣性J及び仮想粘性Dが定められた仮想インピーダンスモデルと、旋回操作力Fiに対して仮想慣性J及び仮想粘性Dが定められた仮想インピーダンスモデルとが用意される。以下、移乗支援装置1の加速度xi(ツードット)は、「ai」と呼び、移乗支援装置1の速度xi(ドット)は、「vi」と呼んで説明する。
まず、制御部60は、式(1)を変形した式(2)によって加速度aiを算出する。具体的には、操作力(前後操作力又は旋回操作力)Fiから、仮想粘性Dと前回に算出した速度の目標値(前後方向速度又は旋回速度の目標値)vi−1とを乗算した値を減算し、その減算結果の値から仮想慣性Jを除算した値を加速度の目標値aiとして算出する。
そして、制御部60は、式(2)によって算出した加速度の目標値aiに基づいて、式(3)によって速度の目標値viを算出する。具体的には、前回に算出した速度の目標値vi−1に、算出した加速度の目標値aiと微小時間dtとを乗算した値を加算することで、速度の目標値viを算出する。
ここで、インピーダンスモデルとして、操作力Fiと速度viとを1対1で対応付けた単純な計算式を用いるようにしてもよい。例えば、操作力Fiに所定の係数を乗算することで、速度の目標値viが算出されるようにしてもよい。しかしながら、好ましくは、上述した式(1)のように、加速度aiも考慮した仮想インピーダンスモデルとするとよい。そのように、操作力Fiと速度viとが1対1に対応するのではなく、過渡的には加速度aiにも影響するような仮想インピーダンスモデルを用いることで、より直観的な操作感を実現することができる。
例えば、操作力Fiと速度viとを1対1で対応付けたインピーダンスモデルを用いた場合には、その操作力のみが直接的に効いてくるように速度の目標値viが算出されてしまうため、移乗支援装置1に操作力を加えた瞬間から、目標の速度viに向けて急加速又は急減速するように移乗支援装置1が制御されてしまう。それに対して、上述したように、加速度aiも考慮した仮想インピーダンスモデルを用いることで、徐々に加速又は減速するように速度の目標値viが決定されることになる。したがって、介護者の操作に応じて、手押し台車と同様の感覚で移乗支援装置1を滑らかに動作させることが可能となり、より直観的な操作感が実現される。
また、仮想慣性Jと仮想粘性Dは、その値が予め固定的に定められているようにしてもよく、移乗支援装置1の速度等に応じて可変としてもよい。例えば、移乗支援装置1の速度viが大きくなるに従って、仮想粘性Dを下げていくよう変更してもよい。そのようにすることで、例えば、介護者が移乗支援装置1に対して操作力を加えて、ある程度大きな速度まで移乗支援装置1を加速させた後に、軽い操作力を移乗支援装置1に加え続けることで、移乗支援装置1をそのままの速度で進めることができるようになる。すなわち、介護者が、手押し台車と同様の感覚で移乗支援装置1を操作することが可能となり、より直観的な操作感が実現される。
制御部60は、算出した移乗支援装置1の速度(前後方向速度及び旋回速度)から、車輪速度(角速度)の目標値を算出する(S16)。具体的には、制御部60は、移乗支援装置1の前後方向速度及び旋回速度から、その前後方向速度及び旋回速度となる駆動車輪13(13a及び13b)の車輪速度(角速度)を算出する。これは、例えば、移乗支援装置1の前後方向速度及び旋回速度を入力することで、台車旋回中心と駆動車輪13との距離と、駆動車輪13の径とに基づいて、その前後方向速度及び旋回速度となる車輪速度が、目標値として算出される計算式を予め定め、制御部60がその計算式を利用して算出するようにすればよい。
制御部60は、算出された車輪速度に基づいて速度制御を行う(S17)。具体的には、制御部60は、第3角度センサ83a、83bから出力される角度信号が示す第3アクチュエータ73a、73bの回転角度を微分して、現在の第3アクチュエータ73a、73bの角速度(駆動車輪13a、13bの車輪速度)を算出する。制御部60は、現在の駆動車輪13a、13bの車輪速度と車輪速度の目標値との差に基づいて、駆動車輪13(13a及び13b)の車輪速度が、車輪速度の目標値となるように指令する指令値を生成し、駆動回路70に出力する。駆動回路70は、制御部60から出力された指令値に応じて駆動電流を生成し、第3のアクチュエータ73(73a及び73b)のそれぞれに出力する。第3のアクチュエータ73(73a及び73b)のそれぞれは、駆動回路70から出力された駆動電流に基づいて回転駆動する。これによって、駆動車輪13(13a及び13b)のそれぞれが、目標値として算出された車輪速度で回転駆動する。
続いて、図8を参照して、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の両手操作モード時における動作制御処理について説明する。図8は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の両手操作モード時における動作制御処理を示すフローチャートである。
両手操作モード時には、制御部60は、左右両方の力センサ50(50a及び50b)から出力された力信号のそれぞれを、介護者からハンドル40(40a及び40b)のそれぞれに対する操作力を示す力情報として取得する(S21)。
制御部60は、取得した力信号のそれぞれが示す、左右のハンドル40(40a及び40b)に対する操作力のそれぞれについて、不感帯処理を実行する(S22)。具体的には、制御部60は、操作力における前後水平方向の軸(X軸とする)、左右水平方向の軸(Y軸とする)、及び上下垂直方向の軸(Z軸とする)の成分のそれぞれについて、式(4)に示すように、不感帯処理を実行する。
具体的には、制御部60は、力センサ50の各軸のそれぞれにおける操作力から、前後水平(X軸)方向成分の力Fx、左右水平(Y軸)方向成分の力Fy、及び上下垂直(Z軸)方向の力Fzを抽出する。制御部60は、算出した各軸(X軸、Y軸、Z軸)の力(Fx、Fy、Fz)のそれぞれの大きさ(絶対値)が、所定の閾値Fdead以下であるか否かを判定する。そして、制御部60は、閾値Fdead以下の力については、その力を0とみなす。また、制御部60は、閾値Fdeadよりも大きい力については、その力の大きさを、その力から閾値Fdeadに相当する力を小さくした力とみなす。例えば、制御部60における演算で、前後水平(X軸)方向成分の力Fxとして、水平前方向の力がプラスで表され、水平後方向の力がマイナスで表される場合、力Fxが閾値Fdeadよりも大きいときには、力Fxを、力Fxから閾値Fdeadを減算した値に変更し、力Fxが閾値Fdeadのマイナス値よりも小さいときには、力Fxを、力Fxに閾値Fdeadを加算した値に変更する。
このように、所定の閾値以下となる小さい力については、その力が与えられていないものとみなすことで、介護者が意図せずに与えてしまっている微小な操作力によって、介護者が意図していない方向に移乗支援装置1が動作してしまうことを防止することができる。
制御部60は、左右の操作力それぞれについて、不感帯処理後の各軸(X軸、Y軸、Z軸)の操作力を、台車旋回中心周りの力に変換する(S23)。具体的には、制御部60は、所定の数式モデルに基づいて、ハンドル40に対する各軸方向の操作力から、それらの操作力による台車旋回中心周りの力を算出する。この数式モデルは、各軸の操作力を入力として、台車旋回中心の力(力及びモーメント)を出力とする計算式である。この数式モデルは、移乗支援装置1の機構に基づいて、各軸の操作力を入力することで、上述したように、それらの操作力に応じた台車旋回中心の力が算出されるように、任意に予め定めるようにすればよい。
この数式モデルは、例えば、図9に示すような移乗支援装置1の座標系モデルに基づいて導き出される。式(5)として、この数式モデルの一例を示す。senFsenは、力センサ50の座標(図9の「ΣsenR」及び「ΣsenL」、以下総じて「Σsen」とも呼ぶ)における各軸(X軸、Y軸、Z軸)方向の力を示す。senMsenは、力センサ50の座標における各軸周りのモーメントを示す。rFrは、台車旋回中心の座標(図9の「Σr」)における各軸方向の力(並進力)を示す。rMrは、台車旋回中心の座標における各軸周りのモーメントを示す。Jsen・r Tは、力センサ50の座標における力(力及びモーメント)と、台車旋回中心の座標における力(力及びモーメント)とを関係付ける行列式である。ここでは、力センサ50の座標における各軸周りのモーメントsenMsenは、使用されないため、0として計算が行われる。
ここで、Jsen・r Tは、次式(6)によって表される。ここで、式(6)における、rRsenは、式(7)より導き出される3行3列の行列であり、[rPsen・r×]は、式(8)によって表される。rTsenは、台車旋回中心の座標Σrと、力センサ50の座標Σsenとの相対関係を示す4行4列の同時変換行列である。rPsenは、各軸における、台車旋回中心の座標Σrと、力センサ50の座標Σsenとの相対位置を示す3行1列の行列である。rPsenは、各軸における相対位置を、px、py、pzとして示している。なお、これらの式(5)〜(8)は、図9に示すような移乗支援装置1の座標系モデルに基づいて、一般的な手法によって導き出すことができるため、詳細な導出方法については説明を省略する。
制御部60は、左右の操作力のそれぞれから算出した台車旋回中心の力のそれぞれについて、前後操作力と旋回操作力とを抽出する(S24)。具体的には、制御部60は、前後操作力として、台車旋回中心の力から、前後水平(X軸)方向成分の力Fxを抽出する。また、制御部60は、旋回操作力として、台車旋回中心の力から、上下垂直(Z軸)方向の軸周りのモーメントMzを抽出する。
制御部60は、抽出した前後操作力及び旋回操作力のそれぞれについて、左右のそれぞれの操作力を合成する(S25)。すなわち、制御部60は、左の操作力から算出された前後操作力と、右の操作力から算出された前後操作力とを加算した力を、前後操作力として算出する。また、制御部60は、左の操作力から算出された旋回操作力と、右の操作力から算出された前後操作力とを加算した力を、旋回操作力として算出する。
制御部60は、算出した前後操作力及び旋回操作力のそれぞれについて、飽和処理を実行する(S26)。具体的には、制御部60は、前後操作力及び旋回操作力のそれぞれが、それぞれの力に対して予め用意された所定の最大値よりも大きいか否かを判定する。そして、制御部60は、所定の最大値よりも大きい力については、その力を最大値に丸める。このようにすることで、後述の処理において、操作力に応じた加速度又は速度を算出するときに、操作力に基づいて算出される加速度又は速度が、移乗支援装置1が出力可能な許容値を超えないように抑制することができる。
制御部60は、所定のインピーダンスモデルに基づいて、飽和処理後の前後操作力及び旋回操作力から、移乗支援装置1の速度の目標値を算出する(S27)。ここでの両手操作モードにおける速度の目標値の算出は、力センサ50の座標における前後水平方向成分の力及び左右水平方向成分の力ではなく、台車旋回中心の座標における前後水平方向成分の力及び上下垂直方向軸周りのモーメントを用いること以外は、片手操作モードにおける処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。すなわち、ここで利用されるインピーダンスモデルとして、台車旋回中心における前後水平方向成分の力である前後操作力を入力として、移乗支援装置1の前後方向速度の目標値を出力とする計算式と、台車旋回中心における上下垂直方向軸周りのモーメントである旋回操作力を入力として、移乗支援装置1の旋回速度を出力とする計算式とを予め用意するようにすればよい。
例えば、片手操作モードと同様に、前後操作力と旋回操作力のそれぞれに対して、式(1)に示す仮想インピーダンスモデルを用意して計算するようにすればよい。すなわち、この場合、インピーダンスモデルとして、片手操作モードにおける前後操作力Fiに対して仮想慣性J及び仮想粘性Dが定められた仮想インピーダンスモデルと、片手操作モードにおける旋回操作力Fiに対して仮想慣性J及び仮想粘性Dが定められた仮想インピーダンスモデルと、両手操作モードにおける前後操作力Fiに対して仮想慣性J及び仮想粘性Dが定められた仮想インピーダンスモデルと、両手操作モードにおける旋回操作力Fiに対して仮想慣性J及び仮想粘性Dが定められた仮想インピーダンスモデルの4つが用意されることになる。
ここで、仮想インピーダンスモデル数は、これに限られない。例えば、片手操作モードにおける前後操作力Fiに対する仮想インピーダンスモデルと、両手操作モードにおける前後操作力Fiに対する仮想インピーダンスモデルとで、同一の仮想インピーダンスモデルを用いるようにしてもよい。すなわち、この場合、用意されるインピーダンスモデルの数は、3つとなる。
以降、ステップS28及びS29については、ステップS16及びS17と同様となるため、説明を省略する。
以上に説明したように、本実施の形態1によれば、角度センサ81、82が検出した関節部51、52における角度に基づいて、力センサ50が検出したハンドル40に対する操作力の水平方向成分の力を、移乗支援装置1の移動を指示する操作力として抽出するようにしている。これによれば、ハンドル40がどのような姿勢となっていても、移乗支援装置1に対する操作方向と、それに応じた移乗支援装置1の動作方向とを一致させることができるため、直観的な操作感を実現することができる。
<発明の実施の形態2>
上述した実施の形態1では、片手操作か両手操作かの切り分けに、ハンドルスイッチ41を用いる場合について説明したが、これに限られない。片手操作か両手操作かの切り分けには、介護者からハンドル40に対する操作力を用いて行うようにしてもよい。以下、本実施の形態2では、その方法について説明する。
なお、発明の実施の形態2における移乗支援装置1及び制御装置2の各構成要素の配置については、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。ただし、本実施の形態2では、上述したように、制御部60が、力センサ50によって検出されたハンドル40に対する操作力に基づいて、操作モードを判定する点が、実施の形態1と異なる。その他の実施の形態1と同様の構成要素に動作については、その説明は省略する。よって、本実施の形態2では、ハンドル40がハンドルスイッチ41を有さないような構成としてもよい。
続いて、図10を参照して、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の操作モード判定処理について説明する。図10は、本発明の実施の形態1にかかる移乗支援装置1の操作モード判定処理を示すフローチャートである。
制御部60は、左右の力センサ50(50a及び50b)から出力される力信号に基づいて、介護者から片手操作をされているか、介護者から両手操作をされているかを判定する。
制御部60は、右の力センサ50aから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値よりも大きく(S7:Yes)、かつ、左の力センサ50bから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値よりも大きい(S8:Yes)場合には、介護者から両手操作をされていると判定する(S3)。この場合、制御部60は、移乗支援装置1を両手操作モードに切り替える。
また、制御部60は、右の力センサ50aから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値よりも大きく(S7:Yes)、かつ、左の力センサ50bから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値以下である(S8:No)場合には、介護者から右手によって片手操作をされていると判定する(S4)。この場合、制御部60は、移乗支援装置1を片手操作モードに切り替える。
また、制御部60は、右の力センサ50aから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値以下であり(S7:No)、かつ、左の力センサ50bから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値よりも大きい(S8:Yes)場合には、介護者から左手によって片手操作をされていると判定する(S6)。この場合、制御部60は、移乗支援装置1を片手操作モードに切り替える。
また、制御部60は、右の力センサ50aから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値以下であり(S7:No)、かつ、左の力センサ50bから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値以下である(S8:No)場合には、介護者から操作が行われていないと判定する。
なお、図10に示す処理では、先に、右の力センサ50aから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値よりも大きいか否かを判定するようにしているが、先に、左の力センサ50bから出力されている力信号が示す操作力が所定の閾値よりも大きいか否かを判定するようにしてもよい。また、右の力センサ50aから出力されている力信号が示す操作力に対する閾値と、左の力センサ50bから出力されている力信号が示す操作力に対する閾値とは、異なる閾値を用いるようにしてもよい。
以上に説明した本実施の形態2のように、介護者から、片手操作をされているか、両手操作をされているかの判定を、力センサ50に対して入力される操作力の大きさに基づいて、判定するようにしてもよい。これによれば、ハンドルスイッチ41が不要となるため、その分のコストを低減することが可能となる。
<発明の実施の形態3>
上述した実施の形態1では、両手操作モードにおいて、並進3軸の力センサ50によって検出された操作力に基づいて、台車旋回中心にかかる力を検出して移乗支援装置1を動作させる場合について説明したが、これに限られない。6軸の力センサ50によって検出された操作力に基づいて、台車旋回中心にかかる力を検出して移乗支援装置1を動作させるようにしてもよい。以下、本実施の形態3では、その方法について説明する。
なお、発明の実施の形態3における移乗支援装置1及び制御装置2の各構成要素の配置については、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。ただし、本実施の形態3では、上述したように、力センサ50が、3軸の並進力とその3軸周りのモーメントとを検出する6軸の力センサである点と、制御部60が、力センサ50によって検出された6軸の操作力に基づいて、台車旋回中心にかかる力を検出して移乗支援装置1を動作させる点が、実施の形態1と異なる。その他の実施の形態1と同様の構成要素に動作については、その説明は省略する。
具体的には、本実施の形態3では、ステップS23において、制御部60は、台車旋回中心の力を算出する際に、式(5)において、力センサ50の座標における3軸周りのモーメントsenMsenに検出したモーメントを設定して、台車旋回中心の力を算出する。その他の処理については、実施の形態1と同様となるため、説明を省略する。
以上に説明した本実施の形態3のように、移乗支援装置1に6軸の力センサ50を備えるようにし、介護者からハンドル40に対する6軸の操作力に基づいて、移乗支援装置1を前後動作又は旋回動作させるようにしてもよい。
<発明の実施の形態4>
上述した実施の形態1では、両手モードにおいて、介護者からの操作力F=[Fx Fy Fz]TのX軸、Y軸、及びZ軸のそれぞれの成分の力に対して不感帯処理を施すことで、不感帯処理後の力F´=[Fx´ Fy´ Fz´]Tを算出するようにしているが、これに限られない。操作力のノルム|F|に対して不感帯処理を施すことで、不感帯処理後の力F´を算出するようにしてもよい。以下、本実施の形態4では、その方法について説明する。
なお、発明の実施の形態4における移乗支援装置1及び制御装置2の各構成要素の配置については、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。ただし、本実施の形態4では、上述したように、制御部60が、操作力のノルムに対して不感帯処理を行う点が、実施の形態1と異なる。その他の実施の形態1と同様の構成要素に動作については、その説明は省略する。
具体的には、本実施の形態4では、ステップS22において、操作力における各軸(X軸、Y軸、Z軸)の成分のそれぞれではなく、式(9)に示すように、ノルムに対して不感帯処理を実行する。
制御部60は、操作力のノルム|F|が、所定の閾値Fdead以下であるか否かを判定する。そして、制御部60は、操作力のノルム|F|が閾値Fdead以下である場合には、その力を0とみなす(各軸の成分の力を0とみなす)。また、制御部60は、操作力のノルム|F|が閾値Fdeadよりも大きい場合には、操作力を、ノルム|F|から所定の閾値Fdeadに相当する力を減算した力をノルム|F|で割った割合を、ベクトルFに乗算した力とみなす。その他の処理については、実施の形態1と同様となるため、説明を省略する。
以上に説明した本実施の形態4のように、操作力のノルムに対して不感帯処理を行うようにしてもよい。これによれば、操作力における各軸(X軸、Y軸、Z軸)の成分のそれぞれに対して不感帯処理を施す場合と比較して、滑らかな動作を実現することが可能となる。すなわち、操作力における各軸成分のそれぞれに対して不感帯処理を施す場合には、式(4)に示すように、各軸成分の力の大きさに限らず、各軸成分の力の大きさを一律の力を小さくすることになってしまうが、本実施の形態4によれば、各軸成分の力の大きさに応じて小さくすることになる。そのため、本来与えられた操作力における各軸成分の力の比率を崩すことがないため、その力に基づいて滑らかな動作となる指令値が生成されることになる。
<発明の実施の形態5>
上述した実施の形態1では、介護者からの操作力に基づいた前後操作力及び旋回操作力から駆動車輪13(13a及び13b)の車輪速度の目標値を算出して第3のアクチュエータ73(73a及び73b)を速度制御する場合について説明したが、これに限られない。介護者からの操作力に基づいた前後操作力及び旋回操作力から駆動車輪13(13a及び13b)のアシストトルクを算出して第3のアクチュエータ73(73a及び73b)をトルク制御するようにしてもよい。以下、本実施の形態5では、その方法について説明する。
なお、発明の実施の形態5における移乗支援装置1及び制御装置2の各構成要素の配置については、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。ただし、本実施の形態5では、上述したように、制御部60が、介護者からの操作力に基づいた前後操作力及び旋回操作力に基づいてアシストトルク(トルクの目標値)を算出して、算出されたアシストトルクに基づいてトルク制御を行う点と、駆動回路70が、制御部60からアシストトルクの指令に基づいて第3のアクチュエータ73を回転駆動する点が、実施の形態1と異なる。その他の実施の形態1と同様の構成要素に動作については、その説明は省略する。
続いて、図11を参照して、本発明の実施の形態5にかかる移乗支援装置1の片手操作モード時における動作制御処理について説明する。図11は、本発明の実施の形態5にかかる移乗支援装置1の片手操作モード時における動作制御処理を示すフローチャートである。なお、実施の形態1と同様の処理ステップについては、同一の符号を付し、その説明を省略する。
本実施の形態5では、制御部60は、飽和処理(S14)後に、飽和処理後の前後操作力及び旋回操作力に基づいて、駆動車輪13に与えるトルクの目標値を算出する(S18)。具体的には、制御部60は、飽和処理後の前後操作力及び旋回操作力から、その前後操作力及び旋回操作力に応じた移乗支援装置1の動作が実現される駆動車輪13(13a及び13b)のトルクの目標値を算出する。これは、例えば、前後操作力及び旋回操作力を入力することで、上述したような操作力に応じた移乗支援装置1の動作が実現されるトルクが、目標値として算出される計算式を予め定め、制御部60がその計算式を利用して算出するようにすればよい。
制御部60は、算出されたトルクに基づいてトルク制御を行う(S18)。具体的には駆動車輪13に与えるトルクは、第3アクチュエータ73における駆動電流の大きさに応じた大きさとなる。そのため、制御部60は、現在の第3アクチュエータ73a、73bにおける駆動電流に基づいて、現在、駆動車輪13a、13bに与えられているトルクを算出する。制御部60は、現在、駆動車輪13a、13bに与えられているトルクとトルクの目標値との差に基づいて、駆動車輪13a、13bに与えられるトルクが、トルクの目標値となるように指令する指令値を生成し、駆動回路70に出力する。駆動回路70は、制御部60から出力された指令値に応じて駆動電流を生成し、第3のアクチュエータ73(73a及び73b)のそれぞれに出力する。第3のアクチュエータ73(73a及び73b)のそれぞれは、駆動回路70から出力された駆動電流に基づいて回転駆動する。これによって、第3のアクチュエータ73(73a及び73b)のそれぞれが、目標値として算出されたトルクを駆動車輪13(13a及び13b)に付与するように回転駆動する。
なお、制御装置2において、第3アクチュエータ73a、73bのそれぞれに対応するように、第3アクチュエータ73における駆動電流を検出する電流センサを有するようにして、電流センサが検出した駆動電流を通知する信号を制御部60に送信するようにすることで、制御部60が現在の第3アクチュエータ73a、73bにおける駆動電流を認識可能とすればよい。
続いて、図12を参照して、本発明の実施の形態5にかかる移乗支援装置1の両手操作モード時における動作制御処理について説明する。図12は、本発明の実施の形態5にかかる移乗支援装置1の両手操作モード時における動作制御処理を示すフローチャートである。
本実施の形態5では、制御部60は、飽和処理(S26)後に、飽和処理後の前後操作力及び旋回操作力に基づいて、車輪に与えるトルクの目標値を算出する(S30)。ここでの両手操作モードにおけるトルクの目標値の算出は、力センサ50の座標における前後水平方向成分の力及び左右水平方向成分の力ではなく、台車旋回中心の座標における前後水平方向成分の力及び上下垂直方向軸周りのモーメントを用いること以外は、片手操作モードにおける処理と同様であるため、詳細な説明は省略する。すなわち、ここで利用される計算式として、台車旋回中心における前後水平方向成分の力を前後操作力として入力し、かつ、台車旋回中心における上下垂直方向軸周りのモーメントを旋回操作力として入力し、トルクを出力とする計算式とを予め用意するようにすればよい。
以上に説明した本実施の形態5のように、トルク制御によって、移乗支援装置1の動作を制御するようにしてもよい。
<発明の実施の形態6>
上述した実施の形態1では、両手操作モードにおいて、ハンドル40と台車旋回中心との距離が小さい場合には、モーメントアームが小さくなってしまうため、距離が大きい場合と比較して、同じ大きさの力をハンドル40に対して入力しても旋回操作力が小さくなってしまう。そのため、より大きな力を入力しなければ、移乗支援装置1が旋回動作しなくなり、操作感が悪くなってしまう。
そこで、本実施の形態6では、両手操作モード時には、旋回操作力に対して、ハンドル40と台車旋回中心との距離に応じたゲインをかけて旋回操作力を増幅することで、ハンドル40の位置が変わっても操作感を損なうことがない操作系を実現する。
なお、発明の実施の形態6における移乗支援装置1及び制御装置2の各構成要素の配置については、実施の形態1と同様であるため、その説明を省略する。ただし、本実施の形態6では、上述したように、制御部60が、さらに、ハンドル40と台車旋回中心の距離に応じて旋回操作力を増幅する点が、実施の形態1と異なる。その他の実施の形態1と同様の構成要素に動作については、その説明は省略する。
続いて、図13を参照して、本発明の実施の形態6にかかる移乗支援装置1の両手操作モード時における動作制御処理について説明する。図13は、本発明の実施の形態6にかかる移乗支援装置1の両手操作モード時における動作制御処理を示すフローチャートである。
本実施の形態6では、制御部60は、操作力の合成(S25)後に、旋回操作力をハンドル40と台車旋回中心の距離とに応じて増幅する(S32)。具体的には、制御部60は、式(10)及び(11)に示すように、旋回操作力を増幅する。
このように、制御部60は、旋回操作力M旋回に対して、ハンドル40と台車旋回中心の距離とに応じたゲインKratioを乗算することで、増幅した旋回操作力M´旋回を算出する。ここで、Lmaxは、力センサ50の座標と台車旋回中心の座標との水平距離の最大値であり、力センサ50の座標と台車旋回中心の座標との水平距離である。また、αは、任意の正整数である。すなわち、ゲインKratioは、力センサ50の座標と台車旋回中心の座標との水平距離の最大値Lmaxから、力センサ50の座標と台車旋回中心の座標との水平距離Lを除算したものをα乗した値として算出される。これによって、ハンドル40と台車旋回中心の距離が小さくなるに従って、より大きくなるように、旋回操作力が増幅される。以降、この旋回操作力M´旋回を旋回操作力とみなして計算を行う。
以上に説明した本実施の形態6のように、ハンドル40と台車旋回中心との距離が小さくなるに従って、より大きくなるように決定されるゲインで旋回操作力を増幅し、増幅後の旋回操作力に基づいて、移乗支援装置1を前後動作又は旋回動作させるようにしてもよい。これによれば、ハンドル40と台車旋回中心との距離が小さくなった際における操作感の悪化を抑制して、操作性を向上させることができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、上述した実施の形態2乃至6は、いずれか2つ以上を組み合わせて実施するようにしてもよい。
また、上記実施の形態では、台車部10からハンドル40までの間のアーム部(ロボットアーム部20及び保持部30)が、2つの関節部及び3つのアーム(第1アーム部、第2アーム部、保持部30)を有する場合について例示したが、関節部及びアームの数は、これに限られない。
また、上記実施の形態では、アーム部が前後方向のみに傾動する場合について例示したが、これに限られない。アーム部が左右方向のみに傾動する、又は、アーム部が前後左右方向に傾動するようにしてもよい。この場合、関節部における角度センサによってピッチ軸回りのみでなく、ロール軸回り、又は、ロール軸及びピッチ軸の2軸回りの関節部の角度を検出し、検出した角度に基づいて、上記実施の形態と同様にして、前後水平方向の前後操作力と左右水平方向の旋回操作力を抽出するようにすればよい。
また、上記実施の形態では、第1及び第2角度センサ81、82のそれぞれから出力された角度信号が示す、第1及び第2アクチュエータ71、72(第1関節部51及び第2関節部52)の回転角度に基づいて、ハンドル40の姿勢(力センサ50の各軸の傾き角)を算出するようにしているが、ハンドル40の姿勢の算出方法は、これに限られない。他の種類のセンサの検出結果に基づいて、ハンドル40の姿勢を算出するようにしてもよい。例えば、移乗支援装置1を構成する部材間の距離を距離センサによって検出して、検出した距離と、それらの部材の長さとに基づいて関節部(アクチュエータ)の回転角度を算出することで、ハンドル40の姿勢を算出するようにしてもよい。具体的には、例えば、第2アーム部22の所定点に距離センサを有するようにし、その所定点から、正面保持部31の所定点までの距離を距離センサによって検出する。そして、予め分かっている第2アーム部22の所定点から第2関節部52までの距離及び正面保持部31の所定点から第2関節部52までの距離と、検出した第2アーム部22の所定点から正面保持部31の所定点までの距離に基づいて、第2関節部52(第2アクチュエータ72)の回転角度を算出するようにしてもよい。他の関節部における回転角度の算出についても同様にして行えばよい。このようにして算出した第1関節部51及び第2関節部52の回転角度に基づいて、ハンドル40の姿勢を算出するようにしてもよい。