JP2013253268A - 降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.50〜2.40%、Mn:1.00〜3.00%、Al:0.001〜0.10%、Ti:0.05〜0.30%、P:0.100%以下(0%を含む)、S:0.010%以下(0%を含む)、N:0.006%以下(0%を含む)を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、フェライト(α)を面積率で40〜70%含み、残部が硬さ330〜450Hvの焼戻しマルテンサイトからなる組織であって、前記αは、面積率で、平均結晶粒径5μm以下の未再結晶フェライト:20〜60%、平均結晶粒径3μm以下の冷却α:10〜20%、再結晶α:5%以下(0%を含む)からなり、かつ、α同士連結率が0.25以下である組織を有する冷延鋼板。
【選択図】 図1
Description
質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.10〜0.25%、
Si:0.50〜2.40%、
Mn:1.00〜3.00%、
Al:0.001〜0.10%、
Ti:0.05〜0.30%、
P:0.100%以下(0%を含む)、
S:0.010%以下(0%を含む)、
N:0.006%以下(0%を含む)
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライトを面積率で40〜70%含み、残部が硬さ330〜450Hvの焼戻しマルテンサイトからなる組織であって、
前記フェライトは、面積率で、
平均結晶粒径が5μm以下の未再結晶フェライト:20〜60%、
平均結晶粒径が3μm以下の冷却フェライト:10〜20%、
再結晶フェライト:5%以下(0%を含む)からなり、
かつ、前記フェライトの存在形態を規定する、下記式1で定義されるフェライト同士連結率が、0.25以下である組織を有する、
ことを特徴とする降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板である。
式1:「フェライト同士連結率」=「フェライト粒子同士の界面との交点数」/(「フェライト粒子同士の界面との交点数」+「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」)
ただし、「フェライト粒子同士の界面との交点数」は、面積40000μm2以上の領域において、総長1000μmの線分が、フェライト粒子同士の界面と交差する点の数であり、「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」は、上記総長1000μmの線分が、フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面と交差する点の数である。
前記焼戻しマルテンサイト中に存在する、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子の分散状態が、前記焼戻しマルテンサイト1mm2当たり5個以下である、
請求項1に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、さらに、
Cr:0.01〜3.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含む、
請求項1または2に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板である。
成分組成が、さらに、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上を含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板である。
請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法である。
(1) 熱間圧延条件
粗圧延の後、熱延加熱温度:1200℃以上に加熱し、仕上げ圧延終了温度:Ar3〜[Ar3+100℃]で圧延し、次いで、第1保持温度:Ar3点以上、前記仕上げ圧延終了温度以下の温度で第1保持時間:10〜100s保持し、次いで第1冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で第2保持温度:500〜650℃まで冷却し、その温度で第2保持時間:10〜100s保持し、次いで第2冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で冷却終了温度:500℃未満まで急冷し、巻取温度:350℃以上500℃未満で巻き取る。
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜70%
(3) 焼鈍条件
500℃〜Ac1の温度域を10℃/s以上の加熱速度で加熱し、焼鈍加熱温度:[0.6Ac1+0.4Ac3]〜[0.2Ac1+0.8Ac3]にて焼鈍保持時間:1800s以下保持した後、該焼鈍加熱温度から500℃までを1〜10℃/sの第3冷却速度で冷却した後、500℃から200℃までを200℃/s以上の第4冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し加熱温度Ttemp:300〜500℃にて、焼戻し保持時間ttemp:600s以下で、かつ、下記式2で定義される焼戻しパラメータξが12000〜16000となる時間保持する。
式2:ξ=(Ttemp+273)・〔log(ttemp/3600)+20〕
上述したとおり、本発明鋼板は、上記特許文献2と同様の、フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織をベースとするものであるが、特に、フェライト中に未再結晶フェライトおよび冷却フェライトを積極的に導入するとともに、フェライトを焼戻しマルテンサイトで取り囲んで孤立分散させるように制御されている点で、上記特許文献2の鋼板とは相違している。
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼では、変形は主として変形能の高いフェライトが受け持つ。そのため、フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼の伸びは主としてフェライトの面積率で決定される。
焼戻しマルテンサイトを一定以上の硬さにすることで引張強度を確保しつつ、一定以下の硬さに制限して該焼戻しマルテンサイトの変形能を高めることで、フェライトと該焼戻しマルテンサイトの界面への応力集中を抑制し、該界面で亀裂が発生し難くすることで伸びフランジ性を向上させる。焼戻しマルテンサイトの硬さは、好ましくは350〜430Hv、さらに好ましくは370〜410Hvである。
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼では、主にフェライトの降伏により降伏強度が決定される。したがって、フェライトを強化することが鋼板の降伏強度向上に有効である。
未再結晶フェライトおよび冷却フェライトの分率が低くなりすぎると、焼戻しマルテンサイトの分率が高くなりすぎて伸びを確保できない。一方、未再結晶フェライトおよび冷却フェライトの分率が高くなりすぎると、焼戻しマルテンサイトの分率が低くなりすぎて引張強度を確保できない。このため、未再結晶フェライトは面積率で20〜60%、冷却フェライトは面積率で10〜20%とする。なお、再結晶フェライトは、上述したように、少量の存在は許容されるが、その上限は面積率で5%とする。
フェライトと焼戻しマルテンサイトからなる二相組織鋼においては、伸びや伸びフランジ性は、フェライトの面積率だけでなく、フェライトの存在形態にも依存する。
ただし、「フェライト粒子同士の界面との交点数」は、面積40000μm2以上の領域において、総長1000μmの線分が、フェライト粒子同士の界面と交差する点の数であり、「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」は、上記総長1000μmの線分が、フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面と交差する点の数である。
上記のようにフェライトを強化してフェライトと焼戻しマルテンサイトの強度差を縮小することでフェライトと焼戻しマルテンサイトの界面に歪が集中することを抑制し、さらにフェライトの連結率を低下させることで焼戻しマルテンサイトを強制的に変形させることができるが、次に破壊の起点になる可能性を有するのは、フェライトと界面を接する焼戻しマルテンサイト中に析出したセメンタイトである。このセメンタイト粒子が粗大になると変形時の応力集中が増加し、該焼戻しマルテンサイト中に亀裂が発生しやすくなるので、伸びフランジ性が低下する。伸びフランジ性を確保するためには、該セメンタイト粒子のサイズと存在密度を制御することが望ましい。
まず、フェライト(全体)の面積率については、各供試鋼板を鏡面研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、概略40μm×30μm領域5視野について倍率2000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察し、点算法で1視野につき100点の測定を行い、コントラストの暗い領域(黒色部)をフェライトとし、残りの領域を焼戻しマルテンサイトとして、各領域の面積比率よりフェライトの面積率を算出した。
次に、焼戻しマルテンサイトの硬さについては、JIS Z 2244の試験方法に従って各供試鋼板表面のビッカース硬さ(98.07N)Hvを測定し、下記式3を用いてマルテンサイトの硬さHvMに換算を行った。なお、下記式3は、マルテンサイトおよび残留オーステナイトの硬さは焼戻しマルテンサイトの硬さに等しいと仮定して導出したものである。
ただし、HvF=102+209[%P]+27[%Si]+10[%Mn]+4[%Mo]−10[%Cr]+12[%Cu](藤田利夫ら訳:「鉄鋼材料の設計と理論」(丸善株式会社)、昭和56年9月30日発行、p.10の図2.1から、低Cフェライト鋼の降伏応力の変化に及ぼす各合金元素量の影響の度合い(直線の傾き)を読み取って定式化を行った。なお、Al、Nなどその他の元素はフェライトの硬さに影響しないとした。)
ここに、HvF:フェライトの硬さ、VF:フェライトの面積率(%)、[%X]:成分元素Xの含有量(質量%)である。
圧延方向から組織観察できるように各供試鋼板を圧延方向に垂直に切断して試料を切り出し、これを鏡面に研磨し、3%ナイタール液で腐食して金属組織を顕出させた後、走査型電子顕微鏡(SEM)にて2000倍で組織観察を行う。そして、図1に例示するように、板厚方向(ND)が上下、圧延方向に直角な方向(TD)が左右になるように撮影し、この組織写真中に5μm間隔でTD方向に平行な線分を総長で1000μm以上になるように引き、これらの線分と、フェライト粒子同士の界面との交点(□(白抜き)で囲んだ点)およびフェライトと焼戻しマルテンサイトの界面との交点(○で囲んだ点)の数をそれぞれ求める。そして、上記式1にて「フェライト同士連結率」を算出する。「フェライト同士連結率」の値が小さいということは、フェライト粒子とフェライト粒子が連続している領域が少ないこと、つまり、フェライト粒子が連続せず、焼戻しマルテンサイトに囲まれ、孤立分散していることを示している。同図において(a)はフェライト同士連結率が0.25を超える例であり、(b)はフェライト同士連結率が0.25以下の例である。
セメンタイト粒子のサイズおよびその存在密度については、各供試鋼板の抽出レプリカサンプルを作成し、2.4μm×1.6μmの領域3視野について倍率50000倍の透過型電子顕微鏡(TEM)像を観察し、画像のコントラストから白い部分をセメンタイト粒子と判別してマーキングし、画像解析ソフトにて、前記マーキングした各セメンタイト粒子の面積Aから円相当直径D(D=2×(A/π)1/2)を算出するとともに、単位面積あたりに存在する所定のサイズのセメンタイト粒子の個数を求めた。なお、複数個のセメンタイト粒子が重なり合う部分は観察対象から除外した。
C:0.10〜0.25%
Cは、焼戻しマルテンサイトの面積率および該焼戻しマルテンサイト中に析出するセメンタイト量に影響し、強度、伸びおよび伸びフランジ性に影響する重要な元素である。0.10%未満では強度が確保できなくなる。一方、0.25%超では焼戻しマルテンサイトの強度と焼戻し中におけるセメンタイトの粗大化防止が両立できなくなる。C含有量の範囲は、好ましくは0.12〜0.23%、さらに好ましくは0.14〜0.21%である。
固溶強化により伸びと伸びフランジ性を低下させずに引張強度を高められる有用な元素である。0.50%未満では固溶強化量が減少し、フェライトの強度が低下する。一方、2.40%超ではフェライトが強化されすぎて延性が低下する。Si含有量の範囲は、好ましくは0.70〜2.20%、さらに好ましくは0.90〜2.10%である。
Mnは、固溶強化によって鋼板の引張強度を高くするとともに、鋼板の焼入れ性を向上させ、低温変態相の生成を促進する効果を有し、マルテンサイト面積率を確保するために有用な元素である。1.00%未満では固溶強化量が不足するとともに、焼入れ性が低下し適切な組織分率のフェライト−焼戻しマルテンサイト組織を確保できなくなる。一方、3.00%超とすると逆変態温度(Ac1点およびAc3点)を低下させるため、二相域加熱後の冷却時に冷却フェライトが生成しにくくなり、伸びが低下する。Mn含有量の範囲は、好ましくは1.20〜2.80%、さらに好ましくは1.40〜2.60%である。
Alは脱酸材として用いられるものであるが、0.001%未満では鋼の清浄作用が十分に得られず、一方、0.10%を超えると鋼の清浄度を悪化させる。Al含有量の範囲は、好ましくは0.005〜0.080%、さらに好ましくは0.015〜0.060%である。
Tiは本発明鋼板において重要な元素である。熱間圧延工程における仕上げ圧延で導入された転位上にTiCとして多量に微細析出することで、続くフェライト変態においてピン止め粒子として作用し、フェライトの微細化および孤立分散化(連結率低下)に寄与する。また、該TiCは焼鈍工程における500〜Ac1の温度域におけるフェライトの再結晶を抑制し、未再結晶フェライトの確保に寄与する。さらに該TiCは焼鈍加熱温度から500℃までの冷却過程でオーステナイトから生成する冷却フェライトをピン止めし、該冷却フェライトの微細化および孤立分散化(連結率低下)にも寄与する。Ti含有量が0.05%未満になると、微細かつ低連結率の、未再結晶フェライトおよび冷却フェライトの確保が困難になる。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、TiCの粗大化が促進されることでピン止め効果が低下し、やはり、微細かつ低連結率の、未再結晶フェライトおよび冷却フェライトの確保が困難になる。Ti含有量の範囲は、好ましくは0.08〜0.30%、さらに好ましくは0.10〜0.30%である。
Pは不純物元素として不可避的に存在し、固溶強化により強度の上昇に寄与するが、旧オーステナイト粒界に偏析し、粒界を脆化させることで伸びフランジ性を劣化させるので、0.100%以下とする。好ましくは0.080%以下、さらに好ましくは0.060%以下である。
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS介在物を形成し、穴拡げ時に亀裂の起点となることで伸びフランジ性を低下させるので、0.010%以下とする。好ましくは0.080%以下、さらに好ましくは0.060%以下である。
Nも不純物元素として不可避的に存在し、歪時効により伸びと伸びフランジ性を低下させるうえ、Tiと結合し粗大TiNとして析出するため、TiCのピン止め効果を低下させ、フェライトの微細化および孤立分散化(連結率低下)を阻害する。したがって、Nの含有量は低い方が好ましく、0.006%以下とする。
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%の1種または2種以上
これらの元素は、鋼の強化元素として有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、各元素とも0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)添加することが推奨される。ただし、各元素ともその上限値を超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはCr:2.0%以下、Mo:0.8%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下である。
Mg :0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上
これらの元素は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられるREM(希土類元素)としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、CaおよびMgはそれぞれ0.0005%以上(より好ましくは0.001%以上)、REMは0.0001%以上(より好ましくは0.0002%以上)添加することが推奨される。ただし、これらの元素はそれぞれ0.01%を超えて添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはCaおよびMgは0.003%以下、REMは0.006%以下である。
上記のような冷延鋼板を製造するには、まず、上記成分組成を有する鋼を溶製し、造塊または連続鋳造によりスラブ(鋼材)としてから、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延(以下、「熱延」ともいう。)した後、冷間圧延(以下、「冷延」ともいう。)し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しする。
粗圧延の後、熱延加熱温度:1200℃以上に加熱し、仕上げ圧延終了温度:Ar3〜[Ar3+100℃]で圧延し、次いで、第1保持温度:Ar3点以上、前記仕上げ圧延終了温度以下の温度で第1保持時間:10〜100s保持し、次いで第1冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で第2保持温度:500〜650℃まで冷却し、その温度で第2保持時間:10〜100s保持し、次いで第2冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で冷却終了温度:500℃未満まで急冷し、巻取温度:350℃以上、500℃未満で巻き取る。
Tiをオーステナイト中に十分に固溶させるためである。より好ましくは1240℃以上である。ただし、高くしすぎると加熱が困難になるため、上限は1300℃とする。
オーステナイトが再結晶しない比較的低温域で仕上げ圧延することで、オーステナイトに転位を導入するためである。Ar3点未満ではフェライト変態が開始し、意図する熱延組織が得られない。一方、Ar3+100℃を超えるとオーステナイトが再結晶し、転位を含んだオーステナイトが得られない。
オーステナイト中の転位上でTiCを微細に析出させるためである。保持温度がAr3点未満ではフェライト変態が開始し、意図する熱延組織が得られない。保持時間が10s未満ではTiCが十分に析出せず、一方100sを超えるとTiCが粗大化する。
TiCによるピン止め作用および低温域変態で、微細かつ低連結率のフェライトを得るためである。冷却速度が20℃/s未満では冷却中に高温域でフェライトが粗大化し連結する。保持温度が500℃未満ではフェライトが析出せず、一方650℃を超えるとフェライトが粗大化し連結する。保持時間が10s未満ではフェライトの生成量が十分でなく、一方100sを超えるとフェライトが粗大化し連結する。
冷却中に生成したフェライトが粗大化し連結するのを防止するため、500℃未満へ急冷する。冷却速度が20℃/s未満、冷却終了温度が500℃以上では、フェライトが粗大化し連結する。一方、巻取り温度が350℃未満では、冷間圧延工程においてフェライトに十分な量の転位を導入できる冷延率の確保が困難になる。
冷却中に生成したフェライトが巻取り中に粗大化し連結するのを防止するため、500℃未満で巻き取る。ただし、巻取り温度が低すぎると、冷間圧延工程においてフェライトに十分な量の転位を導入できる冷延率の確保が困難になるので、巻取り温度の下限は350℃とする。
上記熱間圧延終了後は酸洗してから冷間圧延を行うが、冷間圧延率(以下、「冷延率」ともいう。)は20〜70%とする。
微細かつ孤立分散したフェライトに転位を導入して強化するためである。冷延率が20%未満ではフェライトの転位強化が不十分であり、高強度が達成できなくなる。一方、冷延率が70%を超えると生産率が低下することに加えて、フェライトの再結晶が促進され、未再結晶フェライトを確保できなくなる。冷延率の範囲は、より好ましくは30〜60%である。
500℃〜Ac1の温度域を10℃/s以上の加熱速度で加熱し、焼鈍加熱温度:[0.6Ac1+0.4Ac3]〜[0.2Ac1+0.8Ac3]にて焼鈍保持時間:1800s以下保持した後、該焼鈍加熱温度から500℃までを1〜10℃/sの第3冷却速度で冷却した後、500℃から200℃までを200℃/s以上の第4冷却速度で急冷する。
冷延されたフェライトの再結晶を抑制し、未再結晶フェライトを確保するためである。加熱速度が10℃/s未満では再結晶フェライトが生じて降伏強度が低下する。より好ましくは20℃/s以上、特に好ましくは30℃/s以上である。なお、Ac1点を超える温度に到達するとフェライトの再結晶は停止しオーステナイトの生成が開始するので、Ac1点までの加熱速度を管理すればよい。
焼鈍工程における加熱時にオーステナイトを所定量生成させることで、最終組織中に焼戻しマルテンサイトの適正な分率を確保するためである。また、該温度でフェライトとオーステナイトの混合組織にすることで、微細かつ低連結率の未再結晶フェライトが保持される。焼鈍加熱温度が[0.6Ac1+0.4Ac3]未満では最終組織中の焼戻しマルテンサイトの分率が不足し引張強度が低下してしまう。一方、[0.2Ac1+0.8Ac3]を超えると未再結晶フェライトの分率が不足して降伏強度が低下する。
微細かつ孤立分散した冷却フェライトを適正量生成させるためである。第3冷却速度が1℃/s未満では冷却フェライトの分率が過大になり降伏強度が低下する。一方、第3冷却速度が10℃/sを超えると冷却フェライトの分率が不足し伸びが低下する。
ベイナイトの生成を抑制するためである。第4冷却速度が200℃/s未満ではベイナイトが生成しやすくなり、ベイナイトが生成すると、セメンタイトおよびMA(martensite austenite constituent)の影響で伸びおよび伸びフランジ性が低下する。
焼戻し加熱温度Ttemp:300〜500℃にて、焼戻し保持時間ttemp:600s以下で、かつ、下記式2で定義される焼戻しパラメータξが12000〜16000となる時間保持する。
式2:ξ=(Ttemp+273)・〔log(ttemp/3600)+20〕
焼戻しマルテンサイトの硬さを適切に制御するとともに、該焼戻しマルテンサイト中に形成されるセメンタイトを微細化し、さらに伸びフランジ性を改善するためである。焼戻し加熱温度Ttempが低すぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが高くなり延性が十分に得られない。一方、焼戻し加熱温度Ttempが高すぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが低下し強度が低下する。また、焼戻し保持時間ttempが長すぎると、セメンタイトが粗大化しすぎて伸びフランジ性が低下する。また、焼戻しパラメータξが小さすぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが高くなりすぎて、伸びフランジ性が低下する。一方、焼戻しパラメータξが大きすぎると、焼戻しマルテンサイトの硬さが低下しすぎて、強度が確保できなくなる。
Claims (5)
- 質量%で(以下、化学成分について同じ。)、
C:0.10〜0.25%、
Si:0.50〜2.40%、
Mn:1.00〜3.00%、
Al:0.001〜0.10%、
Ti:0.05〜0.30%、
P:0.100%以下(0%を含む)、
S:0.010%以下(0%を含む)、
N:0.006%以下(0%を含む)
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライトを面積率で40〜70%含み、残部が硬さ330〜450Hvの焼戻しマルテンサイトからなる組織であって、
前記フェライトは、面積率で、
平均結晶粒径が5μm以下の未再結晶フェライト:20〜60%、
平均結晶粒径が3μm以下の冷却フェライト:10〜20%、
再結晶フェライト:5%以下(0%を含む)からなり、
かつ、前記フェライトの存在形態を規定する、下記式1で定義されるフェライト同士連結率が、0.25以下である組織を有する、
ことを特徴とする降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。
式1:「フェライト同士連結率」=「フェライト粒子同士の界面との交点数」/(「フェライト粒子同士の界面との交点数」+「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」)
ただし、「フェライト粒子同士の界面との交点数」は、面積40000μm2以上の領域において、総長1000μmの線分が、フェライト粒子同士の界面と交差する点の数であり、「フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面との交点数」は、上記総長1000μmの線分が、フェライト粒子と焼戻しマルテンサイト粒子の界面と交差する点の数である。 - 前記焼戻しマルテンサイト中に存在する、円相当直径0.1μm以上のセメンタイト粒子の分散状態が、前記焼戻しマルテンサイト1mm2当たり5個以下である、
請求項1に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、さらに、
Cr:0.01〜3.0%、
Mo:0.01〜1.0%、
Cu:0.01〜2.0%、
Ni:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含む、
請求項1または2に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。 - 成分組成が、さらに、
Ca:0.0005〜0.01%、
Mg:0.0005〜0.01%、
REM:0.0001〜0.01%の1種または2種以上を含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜4のいずれか1項に示す成分組成を有する鋼材を、下記(1)〜(4)に示す各条件で、熱間圧延した後、冷間圧延し、その後、焼鈍し、さらに焼戻しすることを特徴とする降伏強度と成形性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(1) 熱間圧延条件
粗圧延の後、熱延加熱温度:1200℃以上に加熱し、仕上げ圧延終了温度:Ar3〜[Ar3+100℃]で圧延し、次いで、第1保持温度:Ar3点以上、前記仕上げ圧延終了温度以下の温度で第1保持時間:10〜100s保持し、次いで第1冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で第2保持温度:500〜650℃まで冷却し、その温度で第2保持時間:10〜100s保持し、次いで第2冷却速度:20℃/s以上の冷却速度で冷却終了温度:500℃未満まで急冷し、巻取温度:350℃以上500℃未満で巻き取る。
(2) 冷間圧延条件
冷間圧延率:20〜70%
(3) 焼鈍条件
500℃〜Ac1の温度域を10℃/s以上の加熱速度で加熱し、焼鈍加熱温度:[0.6Ac1+0.4Ac3]〜[0.2Ac1+0.8Ac3]にて焼鈍保持時間:1800s以下保持した後、該焼鈍加熱温度から500℃までを1〜10℃/sの第3冷却速度で冷却した後、500℃から200℃までを200℃/s以上の第4冷却速度で急冷する。
(4) 焼戻し条件
焼戻し加熱温度Ttemp:300〜500℃にて、焼戻し保持時間ttemp:600s以下で、かつ、下記式2で定義される焼戻しパラメータξが12000〜16000となる時間保持する。
式2:ξ=(Ttemp+273)・〔log(ttemp/3600)+20〕
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