図1は各実施例に共通して、米を調理してご飯などにする炊飯器の基本的な構成を示している。同図において、1は炊飯器の外郭をなす本体で、これはその上面と上側面を構成する上枠2と、側面を構成するほぼ筒状の外枠3とにより形成され、外枠3の下方にある底部開口を覆う底板4が設けられている。その際、上枠2や底板4は、PP(ポリプロピレン)などの合成樹脂で形成される一方で、外枠3は清掃性や外観品位を向上させるために、例えばステンレスなどの金属部材で形成される。また、上枠2の上面内周部から垂下され、この上枠2と一体化したPPなどの合成樹脂で形成されるほぼ筒状の鍋収容部6と、この鍋収容部6の下面開口を覆って設けられ、PET(ポリエチレンテレフタレート)などの合成樹脂で形成される内枠8とにより、後述する鍋11を収納する有底筒状で非磁性材料からなる鍋収容体9が形成される。
前記鍋収容体9内には、米や水などの被調理物を収容する有底筒状の鍋11が着脱自在に収容される。鍋11は、熱伝導性のよいアルミニウムを主材足る母材41とし、この母材41の外側面下部から外底面部にかけてフェライト系ステンレスなどの磁性金属板からなる発熱体12を接合して構成される。鍋11の側面中央から上部に発熱体12を設けないのは、鍋11の軽量化を図るためである。また、鍋11の上端周囲には、その外周側に延出する円環状のフランジ部13が形成される。なお、鍋収容部6の外周には加熱手段を設けない構成となっている。
前記内枠8の外面の発熱体12に対向する側面下部および底面部には、鍋11を電磁誘導加熱する加熱手段としての加熱コイル14が設けられている。そして、この加熱コイル14に高周波電流を供給すると、加熱コイル14から発生する交番磁界によって鍋11の発熱体が発熱し、炊飯時と保温時に鍋11ひいては鍋11内の被炊飯物を加熱するようになっている。
また、内枠8の底部中央部には、鍋11の底部外面と弾発的に接触するように、温度検出手段としてサーミスタ式の鍋温度センサ15が配置され、この鍋温度センサ15の検出温度に応じて加熱コイル14の加熱量を調節し、鍋11を一定温度に保持する構成になっている。
前記鍋収容体9の上端には、鍋11の側面上部、特にフランジ部13を加熱するためのコードヒータ16が円環状に配置される。このコードヒータ16は電熱式ヒータからなり、熱伝導性に優れた例えばアルミ板からなる固定金具と放熱部とを兼用する金属板(図示せず)に覆われて、フランジヒータを構成している。この金属板は、本体1と後述する蓋体21との隙間に対向して位置する。そして、金属板の上面に鍋11のフランジ部13下面が載置し、これにより鍋11が本体1の上枠2に吊られた状態で、鍋収容体9内に収容されるようになっている。したがって、鍋11とこの鍋11が収容された鍋収容体9の上端との間における隙間がほとんどない構成になる。しかも、鍋11のフランジ部13は、外形がコードヒータ16と同等以上の大きさに形成されており、これにより、コードヒータ16が鍋11のフランジ部13で上から覆われるようになっている。但し、図示していないが、鍋11の持ち手部(フランジ部13)は非接触にし、部分的に隙間を形成することで、鍋11の外面に水が付着した状態で炊飯したときに、当該隙間から蒸気が排出されるようにしてある。
鍋11の上面を覆う蓋体21は、その上面外殻をなす外観部品としての外蓋22と、蓋体21の内面である下面を形成する外蓋カバー23と、外蓋カバー23に設けられ、ステンレスやアルミニウムをアルマイトした金属製の放熱板24とにより構成され、放熱板24の上面には、蓋加熱手段としての蓋ヒータ25が設けられる。蓋ヒータ25は、コードヒータなどの電熱式ヒータや、電磁誘導加熱式による加熱コイルでもよい。
前記上枠2の後方には、蓋体21と連結するヒンジ部26が設けられる。このヒンジ部26には、正面から見て左右方向に一対の孔(図示せず)が設けられていると共に、ねじりコイルバネなどで形成したヒンジバネ30が、その内部に収納される。一方、外蓋カバー23の後方にも、前記ヒンジ部26に設けた孔と対向するようにヒンジ受部としての外蓋カバーヒンジ孔(図示せず)が設けられる。そして、このヒンジ孔とヒンジ部26の孔に共通して、棒状のヒンジシャフト27を挿通することで、本体1と蓋体21がヒンジシャフト27を支点として開閉自在に軸支される。さらに、前記ヒンジバネ30の一端と他端が、外蓋カバー23と外枠2にそれぞれ引掛けられることで、蓋体21は常時開方向に付勢される。蓋体21の前方上面には、蓋開ボタン28が露出状態で配設されており、この蓋開ボタン28を押すと、蓋体21と本体1との係合が解除され、蓋体21が自動的に開く構成となっている。
31は、放熱板24の外側すなわち下側に着脱可能に設けられ、ステンレスやアルミニウムをアルマイトした金属性の内蓋である。この内蓋31は、鍋11の上面開口に対向するように設けられ、鍋11との隙間を塞ぐために、シリコーンゴムやフッ素ゴムなどの弾性部材からなるシール部材としての蓋パッキン32を、その外側全周に備えている。環状に形成された蓋パッキン32は、蓋体21を閉じた時(蓋閉時)に、鍋11のフランジ部13上面に当接して、この鍋11と内蓋31との隙間を塞ぎ、鍋11から発生する蒸気を密閉するようになっている。
その他、前記放熱板24には、蓋体21に装着される内蓋31の温度を検知する蓋温度検知手段として、蓋ヒータ25による内蓋31の温度管理を行なうためのサーミスタ式の蓋温度センサ35(図2参照)が設けられる。また、蓋体21の上面後方寄り部には、蓋体21の上面側から着脱可能な蒸気口ユニット36が設けられ、この蒸気口ユニット36を通して鍋11の内部と炊飯器の外部とを連通させる構成となっている。
81は本体1の内部に設けられた加熱制御手段である。この加熱制御手段81は、加熱手段である加熱コイル14を駆動させるための素子82を基板83に備えて構成される。この加熱コイル14を駆動する素子82は、加熱コイル14の発振と共に加熱されるが、動作状態を保証する使用条件温度を有するので、一定温度以下で使用する必要がある。そのために、加熱コイル14を駆動する素子82は、例えばアルミニウムのような熱伝導性の良好な材料で構成されるフィン状の放熱器84に熱的に接続され、冷却手段である冷却ファン85から発する風を放熱器84に当てて熱を奪うことにより、使用条件温度内で素子82を駆動するようにしている。
冷却ファン85は、加熱制御手段81に取付けられた放熱器84の下方、若しくは側部に配置されている。また、本体1の底部若しくは側部には、冷却ファン85から発し、加熱制御手段81に取付けられた放熱器84から熱を奪って温かくなった風を、本体1の外部へ排出するための孔86が複数設けられている。加熱制御手段81は製品内部すなわち本体1内に収納されるが、鍋11の外周囲のどの位置に配置してもよい。また孔86も、どの位置に配置してもよい。しかし、近年は製品の小形化設計が求められている背景もあり、加熱制御手段81や冷却ファン85と、温かな風を排出する孔86は、鍋11をはさんで略反対位置に配置するのが好ましい。
蓋体21の上面部には操作パネル91が設けられている。この操作パネル91の内側には、時間や選択した炊飯コースを表示するLCD92や、現在の行程を表示するLED93や、炊飯を開始させたり、炊飯コースを選択させたりする操作スイッチ94(図2参照)などを配置した基板が配設される。操作パネル91には、ボタン名などを表示するための操作部が配置される。この操作部は、電子部品である制御手段にほこりや水が付着することも防止している。なお、操作パネル91を本体1の正面側に設けてもよい。
次に制御系統について、図2を参照しながら説明する。同図において、81は前述の加熱制御手段で、これは鍋温度センサ15および蓋温度センサ35からの各温度情報や、操作スイッチ94からの操作信号などを受け付けて、炊飯時および保温時に鍋11の底部を加熱する加熱コイル14と、鍋11の側部を加熱するコードヒータ16と、蓋体21を加熱する蓋ヒータ25とを各々制御すると共に、前述したポンプ44や、LCD92およびLED93を含む表示手段を各々制御するものである。特に本実施例の加熱制御手段81は、鍋温度センサ15の検出温度に基づいて主に加熱コイル14が制御されて鍋11の底部を温度管理し、蓋温度センサ35の検出温度に基づいて主に蓋ヒータ25が制御されて放熱板24ひいては内蓋31を温度管理するようになっている。加熱制御手段81は、自身の記憶手段(図示せず)に記憶されたプログラムの制御シーケンス上の機能として、炊飯時に前記鍋11内の被調理物を炊飯加熱する炊飯制御手段95と、保温時に鍋11内のご飯を所定の保温温度に保温加熱する保温制御手段96と、操作スイッチ94からの予約炊飯開始の指令を受けて、予め記憶手段に記憶された所定時間に鍋11内の被調理物が炊き上がるように、炊飯制御手段95を制御する予約炊飯コースを実行可能な予約炊飯制御手段97を備えている。
101は、加熱制御手段81からの制御信号を受けて、加熱コイル14に所定の高周波電流を供給する高周波インバータ回路などを内蔵した加熱コイル駆動手段である。またこれとは別に、加熱制御手段81の出力側には、加熱制御手段81からの制御信号を受けて、放熱板24や内蓋31を加熱するように蓋ヒータ25を駆動させる蓋ヒータ駆動手段102と、コードヒータ16をオンにするコードヒータ駆動手段103と、LCD92による表示を駆動させるLCD駆動手段105と、LED93による表示を駆動させる表示駆動手段106が各々設けられる。前記炊飯制御手段95による炊飯時、および保温制御手段96による保温時には、鍋温度センサ15と蓋温度センサ35からの各温度検出により、加熱コイル14による鍋11の底部への加熱と、コードヒータ16による鍋11の側面への加熱と、蓋ヒータ25による蓋体21への加熱が行なわれるように制御する。また、炊飯制御手段95による炊飯が終了し、鍋11内の被調理物がご飯として炊き上がった後は、保温制御手段96による保温に自動的に移行し、鍋温度センサ15の検知温度に基づき、加熱コイル14やコードヒータ16による鍋11への加熱を調節することで、ご飯を所定の保温温度(約70℃〜76℃)に保温するように構成している。
特に前記コードヒータ16による加熱について補足説明すると、炊飯後にご飯の温度が約100℃から約73℃の保温温度に低下するまでと、約73℃の保温安定時に、コードヒータ16を発熱させて、蓋体21と本体1との隙間の空間に金属板20から熱放射して、この隙間からの外気の侵入による冷えを抑制すると共に、鍋11のフランジ部13を加熱する。また、保温時にご飯を再加熱する期間にもコードヒータ16により鍋11のフランジ部13を加熱し、ご飯の加熱により発生する水分が鍋11の内面上部に結露することを防止するように構成している。
上記構成において、鍋11内に被炊飯物である米および水を入れ、操作スイッチ94の例えば炊飯キーを操作すると、炊飯制御手段95による炊飯が開始する。ここで炊飯制御手段95は、実質的な炊飯を開始する前に、鍋11内の米に対する吸水を促進させるために、鍋温度センサ15による鍋11の底部の温度検知に基づいて、加熱コイル14とコードヒータ16で鍋11の底部と側面部をそれぞれ加熱し、鍋11内の水温を約45〜60℃に15〜20分間保持するひたしを行なう。ひたし時には鍋11内は減圧状態が維持されるので、鍋11内において米に水を十分に吸水させることが可能になる。
その後、所定時間のひたしが終了すると、炊飯制御手段95は実質的な炊飯動作を開始し、加熱コイル14により鍋11を強加熱して、被調理物への沸騰加熱を行なう。この沸騰加熱時に鍋11の底部の温度が90℃以上になり、蓋体21の温度が90℃以上で安定したら、鍋11内が沸騰状態になったものとして、それまでよりも加熱量を低減した沸騰継続加熱に移行する。
なお、上述の蓋体21の温度が90℃以上で安定したことは、蓋温度センサ35からの検出温度の温度上昇率により検知される。また、この沸騰検知において、鍋温度センサ15と蓋温度センサ35とにより、鍋11の底部および蓋体21がいずれも90℃以上になったことを確認でき、完全に鍋11内が沸騰したことを精度よく検知できる。
また、前記鍋11の底部,鍋11の側面部または蓋体21のいずれかが120℃以上の通常ではあり得ない検知温度になったら、加熱制御手段81は何らかの異常があると判断して炊飯加熱における加熱量を低減して全ての動作を停止する切状態にするか、後述するむらしに移行するか、保温を行ない、異常加熱を防止する。逆に、前記鍋11の底部または蓋体21のいずれかが90℃以上になって所定時間(例えば5分)経過しているのに、それ以外の鍋11の底部または蓋体21のいずれかが90℃未満で低い状態の場合、この温度の低い状態の鍋温度センサ15または蓋温度センサ35が、何らかの理由(汚れや傾きや接触不良など)で温度検知精度が悪化していると判断し、同様に炊飯加熱における加熱量を低減して全ての動作を停止する切状態にするか、むらしに移行するか、保温を行ない、これに対処する。
沸騰継続に移行すると、炊飯制御手段95は蓋ヒータ25による蓋加熱を開始させる。ここでの蓋加熱は、内蓋31の温度が100〜110℃になるように、蓋温度センサ35の検知温度により管理される。そして、鍋11の底部が所定の温度上昇を生じたら、鍋11内の炊上がりを検知して、炊飯制御手段95による炊飯行程を終了し、保温制御手段96により保温行程に移行して、最初のむらしに移行する。むらし中は蓋温度センサ35の検出温度による温度管理によって蓋ヒータ25を通断電し、内蓋31への露付きを防止すると共に、ご飯が焦げない程度に高温(98〜100℃)が保持されるように、鍋11の底部の温度を管理する。むらしは所定時間(15〜20分)続けられ、むらしが終了したら保温制御手段96による保温に移行する。
保温になると、加熱コイル14にて鍋11の底部と側面下部を加熱すると共に、鍋11内に収容するご飯の温度よりも僅かに高く、蓋ヒータ25により蓋体21の下面を加熱し、さらに鍋11の側面をコードヒータ16でご飯が乾燥せず、かつ露が多量に付着しないように温度管理する。鍋11内のご飯の温度は70〜76℃に温度保持されるが、この保温時においても、鍋温度センサ15や蓋温度センサ35が相互に異常に高かったり、あるいは異常に低かったりした場合には、異常を検知してこの異常加熱を防止する。
次に、本実施例で使用する鍋11の詳細な構成と、それによる作用について、図3〜図6を参照しながら説明する。なお、ここで使用する鍋11は、図1に示すような炊飯器に限らず、各種加熱装置(図示せず)により加熱される調理用容器として用いることも可能である。
調理用容器若しくは炊飯器の内釜としての前記鍋11は、発熱体12を金型(図示せず)にセットし、そこに溶けた母材(主材)41としてのアルミニウムを流し込み、高圧で成形することで一体化される。この製法は溶湯鍛造と呼ばれ、極めて密な組織となり、異種金属としての母材41と発熱体12を密着させることが可能になる。
鍋11は、溶湯鍛造時に下部51,側部52,上部53に向けて縦断面を略丸形にしても良いし、内外面を切削などで加工して、縦断面を略丸形にしても良い。ここでいう鍋11の下部51とは、鍋11の最底部を含む椀状の部位を指し、鍋11の上部53とは、下部51に対向する位置にあって、鍋11の上方に形成した開口部54を含むドーム状の部位を指し、鍋11の側部52とは、下部51と上部53との間に位置する樽状の部位を指す。鍋11を正面から見たときに、鍋11の内径および外径が側部52の中央で最も大きくなるように、鍋11が形成される。
鍋11の上部53を構成する開口部54の外方には、前述した円環状のフランジ部13が形成される。ユーザーは、このフランジ部13を手で掴むことにより、鍋11を持ち運ぶなどの取り扱いが可能になる。前述のように、鍋11は下部51,側部52,上部53に向けて、断面が略丸みを帯びた形状を有することから、鍋11を上面から見たときに、開口部54の内径Raは、鍋11の最大内径Rbよりも小さく形成される(Ra<Rb)。これにより、鍋11の下部51から、側部52の下方,中央,上方にそれぞれ対応する下側部,中央側部,上側部の順に熱を伝えやすくして、その熱を鍋11の中心に位置する中央部55に向かい易くすることが可能になる。
鍋11は、上部53の外側形状が、上部53の内側形状に類似して形成される。この場合、鍋11の上部53の厚みは略均一になり、鍋11の重量を減らすことができる。
また、前述のように開口部54の内径Raが、鍋11の最大内径Rbよりも小さく形成される場合、鍋11の内側から外側に向かうフランジ部13の長さが不十分であると、フランジ部13を手で掴もうとする際に、鍋11の最大内径Rbに対応する最大外径Rcを形成した部位に手が先当たりして、鍋11の使用性が低下する。そこで本実施例のフランジ部13は、その外周端面が鍋11の最大外径Rcより外方に位置するように、鍋11の最大外径Rcより内方から、鍋11の最大外径Rcより外方に向けて、放射方向に延びて形成される。このようにすれば、鍋11の内面は下部51から上部53に向かって略丸みを帯びた形状でありながら、鍋11の最大外径Rcを形成した部位に手が先当たりすることがなく、フランジ部13を持つときの掴み幅が大きくなり、使用性を向上することができる。
鍋11は、上部53の肉厚をt1とし、側部52の肉厚をt2とし、下部51の肉厚をt3としたときにt1<t2<t3の関係を有して形成される。鍋11の断面厚さである肉厚は、下部51→側部52→上部53の順に肉厚を徐々に薄く形成してもよいが、部分的に薄肉化する度合いを変えるなどして形成してもよい。このような偏肉形状の鍋11では、その偏肉部を利用して鍋11の熱の伝わり方を任意に制御でき、それにより鍋11の内部で強い対流を発生させることができる。
また、鍋11は下部51或いは側部52の下方である下側部から加熱されるため、下部51→側部52→上部53の順に肉厚を薄くする形状とすることで、鍋11内における被調理物の熱移動が起こりやすくなる。そのため、鍋11の内部で、鍋11の内面の略丸形状に沿った対流を強く発生させることができ、美味しく炊飯や調理を行なうことができる。
前述の鍋11は、鍋11を加熱する加熱手段としての加熱コイル14と、加熱コイル14を制御する加熱制御手段81と、これらの鍋11,加熱コイル14,および加熱制御手段81を収納する本体1と、鍋11の開口部54を覆う蓋体21とを備えた炊飯器の内釜として適用される。鍋11を炊飯器の内釜とした場合、加熱コイル14で鍋11を加熱したときに、鍋11の下部51から側部52を構成する下側部,中央側部,上側部の順に熱を伝えやすくして、その熱を鍋11の中央部55に向かい易くすることができる。また、鍋11の開口部54の面積を低減できるので、炊飯器としての省エネ性能が向上する。
加熱手段は電熱式ヒータによるものでも構わないが、鍋11の内部で強い対流を発生させ、被炊飯物を効率よく加熱するには、本実施例のような誘導加熱手段としての加熱コイル14が好ましい。この加熱コイル14からの交番磁界により鍋11を加熱するために、鍋11の外底面には磁性体としての発熱体12が設けられる。鍋11の外底面とは、床面などに鍋11が直接触れる面を指し、ここに発熱体12を設けることにより、鍋11の下部51から側部52,上部53の順に発熱体12からの熱を効率よく伝えることができる。また、鍋11の外底面だけでなく、鍋11の側部52の下方外側面に位置する外側下面にも発熱体12を設けることで、鍋11の下部51から側部52,上部53の順に、より一層効率的に熱を伝えることができる。
加熱コイル14は、本体1の鍋11を装着したときに、鍋11の発熱体12に対向する位置に設けられる。こうすることで、加熱コイル14に高周波電流を供給することで発生する加熱コイル14からの交番磁界が、発熱体12に直接的に作用して、発熱体12を効率よく発熱させることができる。また、発熱体12を設けた鍋11の外底面と外側下面に対向して、加熱コイル14をそれぞれ設けることで、鍋11の外底面と外側下面で、それぞれ発熱体12を効率よく発熱させることができる。
図5に詳しく示してあるように、鍋11の内面には、耐熱性や非粘着性を向上させることを目的として、フッ素などのコーティング層63が設けられる。このコーティング層63は、鍋11の内面のみならず、フランジ部13にも形成する。フランジ部13には、蓋体21で鍋11の開口部54を閉じたときに、内釜シール部材となる蓋パッキン32が密着して、鍋11内をシールする構成となっている。
蓋パッキン32は、鍋11に対向して蓋体21の下面に設けられており、蓋体21で鍋11の開口部54を閉じたときに、フランジ部13の上面に当接する舌片状の密着部56を有する。この密着部56は、フランジ部13の上面のコーティング層63を形成した部位に密着する。すなわち、フランジ部13の密着部56が当接する部位の外方で、鍋11の内面から続くコーティング層63を終結させる構成になっている。
コーティング層63を終結させたフランジ部13の外側は、如何なるコーティング層も形成されず、鍋11を構成する母材41としてのアルミニウムが露出する(図6参照)。この場合は、コーティング層63と母材41との色の違いを利用して、フランジ部13を短く視認させ、鍋11を実際よりもコンパクトに見せることができる。代わりに、例えば図5に示すように、コーティング層63を終結させたフランジ部13の外側でクリアコーティングを行なって、同じ材料で色の異なるコーティング層69を形成し、鍋11の腐食性を向上させてもよい。この場合も、コーティング層63とクリアコーティングを通して視認される母材41との色の違いを利用して、フランジ部13を短く視認させ、鍋11を実際よりもコンパクトに見せることができる。なお、クリアコーティングに代わって、着色した別の色のコーティング層69を用いてもよい。
さらに、コーティング層63を第1のコーティング層として、このコーティング層63を終結させたフランジ部13の外側で、別な材料からなる第2のコーティング層としてのコーティング層69を形成してもよい。この場合は、第1のコーティング層と第2のコーティング層の材料の違いによる色の差を利用して、フランジ部13を短く視認させ、鍋11を実際よりもコンパクトに見せることができる。
鍋11からのコーティング層63は、フランジ部13の上面全体にではなく、フランジ部13における蓋パッキン32でシールされる領域、すなわち蓋パッキン32の密着部56が触れる領域に止めて形成する。このようにすれば、高価なコーティング層63の使用量が低減し、コストダウンが図れる。また、鍋11のシールされる領域にはコーティング層63が形成されるので、蓋パッキン32の密着部56が当接する部位で、コーティング層63による滑り性が確保される。そのため、炊飯器としての使い勝手の低下を防止できる。
図6は、本実施例の鍋11を使用した場合に、鍋11内の対流の様子を示したものである。同図において、W1は鍋11内に投入される水の最小水位を示している。加熱コイル14は、鍋11の外底面と外側下面に対向してそれぞれ設けられており、加熱コイル14に所定の高周波電流が与えられ、当該加熱コイルからの交番磁界によって、鍋11の外底面に位置する発熱体12が発熱することで、鍋11の下部51から中央部55に向けて直線的な対流S1が発生する一方で、鍋11の外側下面に位置する発熱体12が発熱することで、鍋11の内面に沿って鍋11の下部51から側部52を周回し、そこから鍋11の中央部55に回り込む曲線的な対流S2が発生する。この2つの対流S1,S2の度合いを各々調整するために、鍋11の外底面に対向して設けた加熱コイル14を第1の誘導加熱手段とし、鍋11の外側下面に対向して設けた加熱コイル14を第2の誘導加熱手段として、2つの誘導加熱手段を別制御で駆動させてもよい。
以上のように本実施例では、有底筒状で、上方開口部である開口部54の外方にフランジ部13を有する調理用容器としての鍋11において、開口部54の内径Raが、鍋11の最大内径Rbよりも小さく形成される。
この場合、鍋11の内面は下部51から上部53に向かって略丸みを帯びた形状になることから、鍋11の下部51から側部52を構成する下側部,中央側部,上側部の順に熱を伝えやすくして、その熱を鍋11の中心にある中央部55に向かい易くすることができる。したがって、鍋11の内部において、下部51から側面部である側部52を通過し、上部53へ移動する熱を中央部55に向かい易くすることが可能な調理用容器としての鍋11を提供できる。
また本実施例では、鍋11の上部51の外側形状が、上部51の内側形状に類似した形状を有する。このようにすると、鍋11の上部51の厚みを略均一にすることで、調理用容器としての鍋11の重量を減らすことができる。
本実施例のフランジ部13は、鍋11の最大外径Rcより内方から、鍋11の最大外径Rcより外方に向けて放射方向に延設される。このようにすると、鍋11の内面は下部51から上部53に向かって略丸みを帯びた形状でありながら、フランジ部13を手で持つときの掴み幅が大きくなり、鍋11としての使用性を向上することができる。
また、本実施例の鍋11は偏肉の形状を有してもよい。この場合は、容器11の厚みにばらつきを持たせることで、熱の伝わり方を制御でき、鍋11の内部で強い対流を発生させることができる。
鍋11の形状について、鍋11の下部51から側部52を経て上部53に向かうに従い、その肉厚を薄く形成するのが好ましい。
この場合、鍋11は下部51や側部52の下方に位置する下側部から加熱されるので、下部51,側部52、上部53の順に肉厚を薄く形成することで、鍋11の内部での熱移動が起こりやすくなり、鍋11の内面の略丸形状に沿った対流を強く発生させることができる。
また本実施例は、上記鍋11を炊飯器の内釜として用い、鍋11の内面からフランジ部13にかけてコーティング層63を形成し、フランジ部13の外側にはコーティング層を形成しない構成としている。
こうすると、調理用容器を炊飯器の鍋11として用いた場合、フランジ部13に形成するコーティング層63の有無により色の違いを出すことで、フランジ部63を短く視認させて、鍋11をコンパクトに見せることが可能になる。
また別な第1例として、鍋11の内面からフランジ部13にかけてコーティング層63を形成し、フランジ部13の外側にはコーティング層63の色を変えたコーティング層69を形成してもよい。
さらに第2例として、鍋11の内面からフランジ部13にかけて第1のコーティング層をとしてのコーティング層63を形成し、フランジ部13の所定位置でコーティング層63を終結させ、フランジ部13の所定位置よりも外側で、鍋11にコーティング層63とは異なる第2のコーティング層となるコーティング層69を形成してもよい。
これらの例では、調理用容器を炊飯器の鍋11として用いた場合、フランジ部13に形成するコーティング層63により色の違いを出すことで、フランジ部63を短く視認させて、鍋11をコンパクトに見せることが可能になる。
本実施例の炊飯器は、鍋11を加熱する加熱手段としての加熱コイル14と、加熱コイル14を制御する制御手段としての加熱制御手段81と、これらの鍋11,加熱コイル14,および加熱制御手段81を収納する本体1と、鍋11の開口部54をシールするシール部材としての蓋パッキン32と、鍋11の開口部54を覆う蓋体21とを備えており、鍋11は蓋パッキン32でシールされる領域の外方で、コーティング層63を形成しない構成としている。
また前記第1例では、鍋11は、蓋パッキン32でシールされる領域の外方で、コーティング層63の色を変えるようにして構成される。
さらに第2の例では、鍋11は、蓋パッキン32でシールされる領域の外方で、第2のコーティング層であるコーティング層69を形成して構成される。
何れの場合も、鍋11の内面からのコーティング層63を、フランジ部13における蓋パッキン32でシールされる領域に止めることで、高価なコーティング層63の使用量を低減させて、コストダウンを図ることができる。また、鍋11のシールされる領域はコーティング層63が形成されていて、当該コーティング層63による滑り性が確保されており、使い勝手の低下を防止できる。
本実施例の炊飯器は、上述した内釜としての鍋11の他に、鍋11を加熱する加熱手段としての加熱コイル14と、加熱コイル14を制御する制御手段としての加熱制御手段81と、これらの鍋11,加熱コイル14,および加熱制御手段81を収納する本体1と、鍋11の開口部54を覆う蓋体21とを備えている。
この場合は特に炊飯器の鍋11として、その内面が下部51から上部53に向かって略丸みを帯びた形状になり、加熱コイル14で鍋11を加熱したときに、鍋11の下部51から側部52を構成する下側部,中央側部,上側部の順に熱を伝えやすくして、その熱を鍋11の中心にある中央部55に向かい易くすることができる。また、鍋11の開口部54の面積を低減できるので、炊飯器としての省エネ性能を向上できる。
また、本実施例における加熱手段は、特に鍋11を電磁誘導加熱する誘導加熱手段としての加熱コイル14であり、鍋11の外底面には磁性体としての発熱体12が設けられている。このようにすると、誘導加熱手段である加熱コイル14により鍋11を電磁誘導加熱することができ、鍋11内の被炊飯物を効率よく加熱できる。
また、発熱体12は鍋11の外底面の他に、鍋11の外側下面にも設けられる。このように、鍋11の外底面のみならず、外側下面にも磁性体としての発熱体12を設けることで、鍋11内の被炊飯物をさらに効率よく加熱できる。
また本実施例では、発熱体12に対向する位置に、誘導加熱手段としての加熱コイル14を設けている。このようにすると、加熱コイル14からの交番磁界によって発熱体12を効率よく発熱させることができる。
また、本実施例における加熱コイル14は、特に鍋11の外底面と外側下面にそれぞれ対向して設けられる。このようにすることで、鍋11の外底面と外側下面で、それぞれ発熱体12を効率よく発熱させることができる。
次に、本発明の第2実施例における鍋11の詳細な構成と、それによる作用について、図7〜図10を参照しながら説明する。
これらの各図において、鍋11は、アルミニウム,アルミニウムとステンレスによるクラッド材(IH加熱用),アルミニウムの外面下方に、磁性体であるフェライト系SUSを接合した複合材(IH加熱用)などで形成される。以下の説明では、IH加熱用の鍋11として、上記複合材を例にして説明する。
鍋11は、アルミニウム材を母材41にして、その母材41の外面下方に磁性体であるフェライト系SUSの発熱体12を接合してある。
鍋11の外側面には、母材41を外方へ突出させた環状の段部61が形成される。この段部61の下方に、発熱体12の上端を位置させることで、発熱体12の上端部を直接露出させない構成になっている。
本実施例においても、鍋11は有底筒状で、その上方には開口部54が形成され、開口部54の外周囲には、外側に延出させたフランジ部13が取手として形成される。フランジ部13の上面には環状の段部62が形成され、この段部62を境界として、鍋11の内側に向かう開口部側が低く、鍋11の外側に向かうフランジ外側が高い面に形成される。
鍋11の内面には、第1実施例でも説明したPFA樹脂などのフッ素コーティング層63が施されている。このコーティング層63は、フランジ部13の上面に形成した段部62の境界まで形成される。
鍋11の内面にコーティング層63を形成した状態で、かつ発熱体12の外面に、鍋11の側部52に形成した段部61をガイドとしてマスキングを施して、鍋11に無電解ニッケルめっきを施す。このとき、鍋11の内面はコーティング層63によりめっき層65が形成されず、また鍋11の段部61から下方の外面には、マスキングによりめっき層65が形成されない。これにより、鍋11の段部61から上方の外面より、フランジ部13の上面の段部62にかけて、母材41の被めっき部にめっき層65が形成され、鍋11はアルミニウムによる母材41と、ニッケルのめっき層65とによる複合金属体として形成される。鍋11にめっき層65を部分的に設けるのは、デザイン的に外観を向上させるためである。なお、本実施例ではフランジ部13の上面にめっき層65の端部を設けることになるが、この端部は、フランジ部13の外周端部や、フランジ部13の下面や、鍋11の外側面などであっても良い。図7や図14には、鍋11の内外面の部分的外面として、母材41の被めっき部に対応しためっき層65の形成範囲Mが図示されている。
めっき層65は、5〜10μm、好ましくは6〜9μmの膜厚に形成される。めっき層65を形成した後に、その表面を研磨して光沢を上げる場合には、予め研磨で削れるめっき層65の厚さを考慮し、例えば1〜3μm程度厚くめっき層65を形成する。
めっき層65を形成した後に、発熱体12の外面にはシリコーン系の着色塗料によるコーティング層66を形成する。このコーティング層66は、発熱体12の耐食保護膜として鍋11に設けられるものである。
その後、鍋11の外面に部分的に形成したニッケルのめっき層65の外面に、前記コーティング層66と同種類のシリコーン系の透明塗料によるコーティング層67を形成する。このコーティング層67は、めっき層65の保護膜として鍋11に設けられるものである。透明なコーティング層67は、例えばシリコーンやフッ素などの耐熱性が炊飯時の加熱温度に耐える120℃以上、好ましくは150℃以上の樹脂を選択する。
本実施例におけるめっき層65は、電解ニッケルめっき(電気ニッケルめっき)ではなく、無電解ニッケルめっきにより、母材41とは異なる金属で、被めっき部となる母材41の表面に形成される。無電解ニッケルめっきは、電解めっきとはとなり、通電による電子ではなく、メッキ液に含まれる還元剤の酸化によって放出される電子により、液に含浸することで、被めっき部にニッケル皮膜を析出させる無電解めっきの一種である。このめっき方法は、カニゼン(登録商標)めっきとも呼ばれる。電気めっきのように通電を必要としないため、プラスチックやセラミックスなどの不導体にもめっき可能であり、また被めっき部の素材形状や種類に拘わらず、均一な厚みの皮膜が得られる。
一方、電解ニッケルめっきは、電気を用いたニッケルめっきで、無光沢から光沢までの様々な外観を得ることができる他、無電解ニッケルめっきよりもめっき速度が速く、皮膜の厚さは流す電流量や時間に比例する。電解めっきは、皮膜が比較的薄い膜厚でも緻密な析出層となるので、多彩な金属質感が得られ、耐食性に優れる。しかし、皮膜厚さの均一性に欠け、被めっき部の形状によっては、めっきが付着しにくい箇所が発生するなどの欠点がある。とりわけ、電流量によって膜厚が左右されることから、被めっき部に角部や端面部があると、そこで急速にめっき膜が成長し、他の平坦部がめっき膜で覆われるまでに、角部や端面部のめっきが成長してバリとなり、めっき端部が露出する現象が発生しやすい。
本実施例では、鍋11にめっき層65を形成するに際し、こうした無電解メッキと電解めっきの特性を考慮した上で、被めっき部の外面に凹凸や、角部や、段差や、端面部がある鍋11の形状に適した無電解を選択した点に特徴がある。鍋11には、被めっき部の外面に段差を形成する段部61,62が設けられ、その段部61,62を境界としてめっき層65の端部が形成されるが、当該めっき層65を無電解めっきで形成することにより、凹凸や、角部や、段差や、端面部の過めっきによるバリの発生を防止して安全性を確保し、バリ端部からのめっき剥離の恐れや、バリ仕上げを必要とする場合に、仕上げ時にメッキが欠けるなどの不具合を防止できる。
前記母材41は炊飯時に熱伝導に優れたアルミニウムを用い、この母材41の外面にニッケルのめっき層65を施して、アルミニウムよりも低熱伝導の皮膜を形成した複合材料化の鍋11を得る。また、ニッケルのめっき層65を光沢仕上げすることで、鍋11の外面への熱放射を抑制して、鍋11の保温性を高め、鍋11の外面にめっき層65の端部があっても、めっき層65を無電解めっきで形成することで、めっき層65の端部におけるバリの発生を抑制できる。
また、めっき層65の端部に位置して、鍋11の外方に突出する段部61,62を設けることで、めっき層65を形成しためっき部位と、めっき層65を形成していない非めっき部位との境界が明確となり、部分的に被めっき部位にめっき層65がはみ出し、そのはみ出した部分が剥がれてバリが発生するなどの恐れを防止できる。
また段部61を利用して、無電解めっき時に、その段部61を境界にして非めっき部位へのマスキングを施す時のマスキングガイドとすることができ、マスキング作業を容易にし、且つ非めっき部位へのめっき層65のはみ出しをマスキングで防止することができる。
段部61,62を含めためっき層65の外面には、120℃以上、好ましくは150℃以上に耐える透明なコーティング層67が、鍋11の最外層の一部として具備される。この場合、炊飯時に鍋11が100℃以上の高温になっても、炊飯温度以上の耐熱性を有する透明膜としてのコーティング層67によって、ニッケルのめっき層65の酸化が抑制される。また、高光沢のニッケルめっき層65の場合は、そのままでは指紋や油汚れが付着しやすく、除去しにくい欠点があるが、透明膜によってそうした指紋や油汚れが付着しにくくなる。
ニッケルを製錬して、空気(大気)中に放置すると、空気中の酸素や水分により、一酸化ニッケル(NiO),水酸化ニッケル(Ni(OH)2)の酸化膜が、ミクロン単位の厚さで形成され、表面の光沢が鏡のような状態から、次第に灰白色の光沢を失った状態になる。特に炊飯用の鍋11では、鍋11の外面に水分が付着した状態で炊飯器の本体1に装着すると、炊飯時の熱により水分が蒸発して、鍋と本体との間の鍋収容空間の湿気が高くなり、ニッケルめっき層65の酸化が促進する恐れがあるが、前述のコーティング層67によって、そうした湿気をプロテクトし、酸化を抑制することが可能になる。
コーティング層67は、前記段部61,62に対応する部位で、めっき層65の端部を覆うように形成される。この場合、めっき層65の端部に指や手などが触れても、その端部に透明なコーティング層67が設けられているので、端部が保護される。
本実施例における透明なコーティング層67は、例えばシリコーンやフッ素(例えば、PTFEやPFA)などの、高温で黄変などを起こさず、ニッケルのめっき層65の光沢を外観に引き出すような透明性の樹脂から選定される。この透明なコーティング層67と同種の着色した塗料で、めっき後の非めっき部位にコーティング層66を形成し、その後、めっき層65を形成した部位に透明なコーティング層67を施すことで、着色したコーティング層66と透明なコーティング層67との親和性が良くなり、着色したコーティング層66の外面での透明なコーティング層67との密着性が高まり、透明なコーティング層67の端面が容易に剥離することがない。また、段部61,62においても、透明なコーティング層67が剥離せず、めっき層65の保護が確保できる。
めっき層65の膜厚に関し、実験の結果では、膜厚が10μmを超えると、めっき層65の端部の角がエッジとなる好ましくない。またこの場合は、炊飯器としての実用ヒートサイクル(150℃に加熱した後に水没の繰り返し)で、めっき層65の端部が剥離することが考えられる。めっき後の研磨を考慮して、最初のめっき層65の膜厚を12〜13μmにすれば、無電解めっき時に、めっき層65の端部はバリが発生し難くなる。しかし、15μmを超える膜厚の場合は、無電解めっきであっても、めっき層65の端部は角がバリ状になり好ましくない。
また、めっき層65の膜厚を5μm未満に薄くすると、めっき層65が薄過ぎて、母材41の隠蔽性がなくなり、色むらが生じたり、母材を覆う異種金属膜が薄くなって、複合体としての保温性が低下したりするなどの不具合の要因となる。以上のことから、めっき層65は5〜10μm、好ましくは6〜9μmの膜厚に形成される。
鍋11の上面に着目すると、鍋11の母材41は、めっき層65の端部が位置する部位から、鍋11の内側に向けて、めっき層65を形成していないフランジ部13の上面を、下方に傾斜させた傾斜面68として形成している。これに対して、鍋11に対向して蓋体21の下面に設けられる蓋パッキン32は、蓋体21が鍋11の開口部54を閉じたときに、前記傾斜面68に当接する第1弾性片72と、開口部54の内側に対向する第2弾性片73とを、放熱板24の外周部に装着される環状の取付部74からそれぞれ延設して構成される。
めっき層65の端部は、めっき層65の膜厚分だけ母材41の表面と段差が生じ、そこに水が付着した場合に水が滞留しやすい。そこで本実施例では、めっき層65の端部からめっき層65を形成していないフランジ部の上面を、鍋11の内側に向けて下方に傾斜させた傾斜面68とすることで、フランジ部13の上面に形成しためっき層65の端部に水が付着しても、鍋11内に水が流れ落ちやすく、炊飯器としての清掃性を向上させている。また傾斜面68によって、めっき層65の端部の段差に長期間水が滞留することによる母材41の腐食要因も一掃できる。
また、めっき層65の端部は、めっき層65の膜厚分だけ母材41の表面と段差が生じ、そこに蓋パッキン32を当接させると、段差から空気,水,蒸気が漏れる恐れがある。また、蓋パッキン32に付着した水がめっき層65の端部に付着した場合には、そこに水が滞留しやすくなる。そこで本実施例では、めっき層65の端部から、めっき層65を形成していないフランジ部13の上面を、鍋11の内側に向けて下方に傾斜させ、その傾斜面68に蓋パッキン32を当てることで、めっき層65の端部の段差が蓋パッキン32に位置しなくなって、蓋パッキン32による鍋11の密閉性を十分に確保するようにしている。また、めっき層65の端部の段差に、蓋パッキン32から水が付着しにくくなり、段差に長期間水が滞留することによる母材41の腐食要因も一掃できる。
本実施例では、段部62を境界として、フランジ部13の上面の外側と、鍋11の内側面との間にめっき層65の端部を配置しており、蓋体21で鍋11の開口部54を閉じたときに、めっき層65の端部から内側で当接するように、蓋パッキン32の当接部である第1弾性片72を設けている。この場合、めっき層65の端部の段差に蓋パッキン32が接触しないので、蓋パッキン32が傷つく恐れを防止できる。特に蓋パッキン32は、シリコーンゴムが多用されるが、シリコーンゴムはエッジで傷がついて裂け易いので、本実施例のような構造を採用することで、蓋パッキン32がめっき層65の端部の段差で切れたり裂けたりするのを防止でき、蓋パッキン32による鍋11の密閉性が十分に確保できる。
なお、フランジ部13の上面にめっき層65の端部を設けることで、鍋11として異種金属複合体化による保温性能の向上が、鍋11のフランジ部13にまで効果的に作用し、フランジ部13の保温性を高める効果も得られる。また、炊飯器の本体1内に鍋11を装着し、蓋体21を開けた状態で、本体1の上面にフランジ部13が露出するが、ニッケルのめっき層65は光で目立ち易いので、このめっき層65をフランジ部13の上面にまで形成することで、鍋11が本体1に装着されているか否かを、離れた場所からも容易に見分けることが可能になる。
以上のように本実施例では、母材41の外面に、この母材41とは異なる金属のめっき層65を形成した鍋11を備えた炊飯器において、めっき層65は、鍋11の内面または外面の部分的な表面に端部が存在する構成とし、無電解めっきにより母材41の被めっき部に形成している。
この場合、鍋11の母材41表面にめっき層65の端部があっても、このめっき層65は無電解めっきにより母材41の形状や種類に拘らず均一な厚みに形成されるため、めっき層65の端部におけるバリの発生を抑制できる。
また、ここでの母材41の材質は好ましくはアルミニウムであり、めっき層65の材質は好ましくはニッケルである。
この場合、炊飯時に熱伝導性に優れたアルミニウムで母材41を形成すると共に、母材41の外面にニッケルめっき層65を施し、アルミニウムよりも低熱伝導性の皮膜を形成して、炊飯に適した複合材料化の鍋11を得ることができる。また、ニッケルめっき層65を光沢仕上げすることにより、鍋11外面への熱放射を抑制して鍋11の保温性を高めることができる。
また、母材41の被めっき部には、めっき層65の端部に位置して、めっき層65を形成していない母材41の非めっき部位よりも外方へ突出させた段部61,62が形成される。
この場合、めっき層65の端部において、鍋11の外側に突出させて母材41に段部61,62を設けることで、めっき層65を設けた部位と、めっき層65を設けていない非めっき部位との境界が明確になる。そのため、部分的に非めっき部位にめっき層65がはみ出し、そのはみ出した部分がはがれてバリが発生するなどの恐れを防止できる。また、無電解めっき時に、段部61は当該段部61を境界にして、非めっき部にマスキングを施すときのマスキングガイドとなり、マスキングを容易にすると共に、めっき層65の非めっき部位へのはみ出しを防止できる。
本実施例における母材41の被めっき部には、めっき層65の端部に位置して、非めっき部位よりも外方へ突出させた段部61,62を形成しており、その段部61,62を含めためっき層65の外面に、120℃以上に耐える透明コーティング層としてのコーティング層67を備えている。
この場合、段部61,62を含めためっき層65の外面に、120℃以上に耐える透明なコーティング層67を備えることで、炊飯時に鍋11が100℃以上の高温になっても、炊飯温度以上の耐熱性を有するコーティング層67によって、ニッケルめっき層65の酸化が抑制される。また、透明なコーティング層67によって、指紋や油汚れがニッケルめっき層65に付着しにくくなる効果も得られる。
ニッケルを製錬して、空気中に放置すると、表面の光沢が鏡のような状態から、次第に灰白色の光沢を失った状態になる。特に炊飯用の鍋11では、鍋11の外面に水分が付着した状態で炊飯器の本体1に装着されると、炊飯時の熱により水分が蒸発して、鍋11と本体1との間の鍋収容空間の湿気が高くなり、ニッケルめっき層65の酸化が促進する恐れがあるが、前述の透明なコーティング層67によって、そうした湿気をプロテクトし、酸化を抑制することが可能になる。
さらに、めっき層65の端部に指や手が触れても、その端部に透明なコーティング層67が設けられているので、端部を保護する利点も得られる。
本実施例では、母材41の非めっき部位の外面に、透明なコーティング層67と同類材質の着色コーティング層として、コーティング層66を設けている。
この場合、シリコーンやフッ素などの、高温で黄変などを起こさず、ニッケルめっき層65の光沢を外観に引き出すような透明性の樹脂を、透明なコーティング層67として選定した場合、その透明なコーティング層67と同種の着色した塗料で、めっき後の非めっき部位をコーティング層66でコーティングし、その後、めっき層65を形成した部位に透明なコーティング層67を施すことで、着色したコーティング層66と透明なコーティング層67との親和性が良くなり、着色したコーティング層66の外面での透明なコーティング層67との密着性が高まる。そのため、透明なコーティング層67の端面が容易に剥離することがない。また、段部61,62においても透明なコーティング層67が剥離せず、めっき層65の保護が確保できる。
また、本実施例におけるめっき層65は、鍋11の上部周縁に形成したフランジ部13の上面を含んで、鍋11の内面或いは外面の部分的な表面に端部が存在する構成とし、その膜厚を5〜10μmに形成している。
この場合、めっき層65の膜厚を5〜10μmにすることで、めっき層65が厚過ぎて、めっき層65の特に端部が剥離したり、無電解めっき時に、めっき層65の端部にバリが発生したりする問題を防止できる。逆に、めっき層65が薄過ぎて、母材41の隠蔽性がなくなり、色むらが生じたり、母材41を覆う異種金属膜が薄くなって、複合材料としての保温性が低下したりするなどの不具合も防止できる。
また、本実施例におけるめっき層65は、フランジ部13の上面に端部を配置する構成とし、その端部から鍋11の内側に向かって、めっき層65を形成していないフランジ部13の上面を、下方に傾斜する傾斜面68として形成している。
この場合、めっき層65の端部からめっき層65を形成していないフランジ部13の上面を、鍋11の内側に向けて下方に傾斜させることで、フランジ部13の上面に形成しためっき層の端部に水が付着しても、鍋内に水が流れ落ちやすく清掃性が向上する。また、めっき層の端部の段差に長期間水が滞留することによる母材の腐食要因も一掃できる。
また、本実施例ではさらに、蓋体21と、蓋体21に備えたパッキンとしての蓋パッキン32とを有し、傾斜面68に蓋パッキン32を当接して蓋体21と鍋11とを密閉する構成としている。
この場合、めっき層65の端部から、めっき層65を形成していないフランジ部13の上面を、鍋11の内側に向けて下方に傾斜させ、その傾斜面68に蓋パッキン32を当てることで、めっき層65の端部の段差が蓋パッキン32に位置しなくなって、蓋パッキン32による鍋11の密閉性を十分に確保できる。
また、本実施例ではさらに、蓋体21と、蓋体21に備えたパッキンとしての蓋パッキン32とを有し、蓋パッキン32を鍋11の上部周縁に形成したフランジ部13に当接させる構成にし、フランジ部13の上面外側と鍋11の内側面との間にめっき層65の端部を配置し、その端部の内側に蓋パッキン32の当接部である第1弾性片72を設けている。
この場合、めっき層65の端部から、めっき層65を形成していないフランジ部13の上面において、鍋11の内側に蓋パッキン32を当てることで、めっき層65の端部の段差が蓋パッキン32に位置しなくなって、蓋パッキン32による鍋11の密閉性が十分に確保できる。また、めっき層65の端部の段差に、蓋パッキン32から水が付着しにくくなり、段差に長期間水が滞留することによる母材41の腐食要因も一掃できる。
なお、本発明は、上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。例えば各実施例における鍋11の構造を組み合わせたものとしてもよい。