JP2013216627A - アポトーシス誘導剤及び癌治療薬 - Google Patents

アポトーシス誘導剤及び癌治療薬 Download PDF

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一則 片岡
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Abstract

【課題】より高い治療効果を有するアポトーシス誘導剤及び癌治療薬を提供する。
【解決手段】Yボックス結合タンパク質1遺伝子の所定の部分配列を標的配列とするsiRNAは、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導する。前記siRNAは、血管内皮細胞による管腔形成を阻害する。また、前記siRNAは、血管の新生を阻害し、血管を退縮させる。前記siRNAは、腫瘍部位等における異常な血管の新生を抑制することができる。また、前記siRNAは、過度に形成された新生血管を破壊することができる。このため、前記siRNAは、難治性腫瘍や増殖性血管疾患に対してより高い治療効果を有する。
【選択図】図3

Description

本発明は、アポトーシス誘導剤及び癌治療薬に関する。
現在臨床で使用されているベバシズマブ等の血管新生阻害剤は、病的な血管に対する選択性が乏しい。このため、正常な血管に対する副作用が知られている。さらに、癌治療において単剤での治療効果は得られていない。そこで、病的な血管に対する選択性が高く、かつ癌等の疾患に対してより高い治療効果を発揮する薬剤が望まれている。
特許文献1には、腫瘍細胞の増殖等に寄与する転写因子Yボックス結合タンパク質1(YB‐1)遺伝子のN末端から594番目から25塩基を標的配列とするsiRNAが開示されている。当該siRNAは、YB‐1遺伝子の発現を抑制することによって、血管内皮細胞の増殖を抑制する。YB‐1は、腫瘍血管に特異的に高発現する転写因子である。このため、腫瘍血管に対する選択性が期待できる。
特開2011‐88876号公報
Hannun YA, Apoptosis and the dilemma of cancer chemotherapy, Blood 89, 1845−1853, 1997
しかし、増殖を抑制された細胞では、DNAの修復が行われることによって、増殖抑制に耐性を示すことがある(例えば、非特許文献1参照)。このため、上記特許文献1に開示されたsiRNAでは、増殖抑制に対する耐性に起因する薬剤耐性によって治療効果が限定される可能性がある。また、血管内皮細胞の増殖抑制では、既に形成された腫瘍血管を構成する細胞を排除できない。このため、上記特許文献1に開示されたsiRNAでは、血管内皮細胞の増殖を抑制するのみなので、既に形成された腫瘍血管を破壊する効果は期待できない。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、より高い治療効果を有するアポトーシス誘導剤及び癌治療薬を提供することを目的とする。
本発明者は、YB‐1遺伝子に対する新規のsiRNAを血管内皮細胞に導入することで、血管内皮細胞のアポトーシスが誘導されることを見出した。また、当該siRNAは、血管内皮細胞による管腔形成を抑制した。さらに、当該siRNAが標的とする塩基配列に対して設計したmiRNAを癌モデルマウスに投与すると、癌細胞の増殖が抑制され、癌モデルマウスの生存期間が延長した。また、当該miRNAによって、腫瘍間質の腫瘍血管密度が低下した。以上の結果から本発明を完成した。
すなわち、本発明の第1の観点に係る血管内皮細胞のアポトーシス誘導剤は、
Yボックス結合タンパク質1遺伝子の発現を抑制する物質を含む。
この場合、前記物質は、
配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするsiRNA、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするmiRNA又は配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするアンチセンス核酸を含む、
こととしてもよい。
また、前記物質は、
配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするsiRNAを発現するベクター、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするmiRNAを発現するベクター又は配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするアンチセンス核酸を発現するベクターを含む、
こととしてもよい。
また、前記物質は、
配列番号2で示される塩基配列と配列同一性90%以上の塩基配列であるRNA、及び配列番号3で示される塩基配列と配列同一性90%以上の塩基配列であるRNAを含むsiRNAである、
こととしてもよい。
また、前記物質は、
血管内皮細胞による管腔形成を阻害する、
こととしてもよい。
また、前記物質は、
血管の新生を阻害する、
こととしてもよい。
また、前記物質は、
血管を退縮させる、
こととしてもよい。
本発明の第2の観点に係る癌治療薬は、
上記のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む。
この場合、前記有効成分を高分子ミセルに内包する、
こととしてもよい。
本発明によれば、より高い治療効果を有するアポトーシス誘導剤及び癌治療薬が得られる。
実施例1における血管内皮細胞でのYB‐1遺伝子のmRNAの発現量の相対値を示す図である。 図2(A)は、実施例1におけるHUVECでのYB‐1の定量結果を示す図である。図2(B)は、実施例1におけるHPAECでのYB‐1の定量結果を示す図である。 実施例2におけるHPAECの細胞数の経時変化を示す図である。 実施例2におけるsiRNAの導入72時間後の細胞数を示す図である。 実施例3におけるsiRNA導入48時間後のHUVECの顕微鏡画像を示す図である。図5(A)は、コントロール群の顕微鏡画像を示す図である。図5(B)はYB330群の顕微鏡画像を示す図である。図5(C)は、YB741群の顕微鏡画像を示す図である。 実施例3におけるsiRNA導入後の細胞数の相対値を示す図である。 実施例3における細胞周期解析の結果を示す図である。図7(A)は未処理群の結果を示す図である。図7(B)はコントロール群の結果を示す図である。図7(C)はYB741群の結果を示す図である。 実施例3における細胞分画比率を示す図である。 実施例4における蛍光顕微鏡画像を示す図である。図9(A)は、HUVECの蛍光顕微鏡画像を示す図である。図9(B)は、HPAECの蛍光顕微鏡画像を示す図である。 実施例5における顕微鏡画像を示す図である。 実施例5において定量した管腔領域の大きさを示す図である。 実施例6におけるVEGFR1遺伝子の発現量を示す図である。 実施例6におけるVEGFR2遺伝子の発現量を示す図である。 実施例6におけるTie‐1遺伝子の発現量を示す図である。 実施例6におけるTie‐2遺伝子の発現量を示す図である。 実施例6におけるEGFR遺伝子の発現量を示す図である。 実施例6におけるAngiopoietin‐2遺伝子の発現量を示す図である。 実施例7におけるsiRNA投与前に対する腹膜播種の相対量を示す図である。 実施例7におけるマウスでの腹膜播種の範囲を示す図である。 実施例8におけるin vitroでのプラスミドDNA導入前に対する細胞数の相対値の経時変化を示す図である。 実施例8におけるマウスでの腹膜播種の範囲を示す図である。 実施例8におけるマウスの生存日数を示す図である。 実施例9におけるYB‐1染色及びCD31染色の画像を示す図である。
(実施の形態1)
実施の形態1に係るアポトーシス誘導剤は、YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質を含む。YB‐1遺伝子の発現を抑制するとは、YB‐1遺伝子の転写産物であるmRNAが翻訳されてタンパク質が合成されるのを抑制することである。YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、例えば、YB‐1遺伝子に含まれる所定の塩基配列を標的配列とするsiRNA(small interfering RNA)、miRNA(micro RNA)又はアンチセンス核酸等である。ここで、標的配列とは、siRNA、miRNA及びアンチセンス核酸等の核酸分子がハイブリダイズする塩基配列である。YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質としてのsiRNA、miRNA及びアンチセンス核酸は、例えば、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするのが好ましい。
YB‐1遺伝子の発現を抑制するsiRNAは、例えば、YB‐1をコードするmRNAの塩基配列又はその塩基配列に含まれる連続する18塩基以上の標的配列に相補的な塩基配列のRNAとその相補鎖とからなる2本鎖のRNAである。
siRNAは、RNA干渉によって遺伝子の発現を抑制する。RNA干渉では、siRNAの2本のRNAがその塩基配列に相補的な塩基配列を有する標的のmRNAにハイブリダイズすることによって、標的のmRNAが分解される。RNA干渉による遺伝子発現の抑制は、配列特異性が非常に高く、標的の遺伝子の発現を選択的に抑制することができる。
標的配列とsiRNAにおける標的配列に相補的な塩基配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、siRNAの塩基配列においては、標的配列と完全に相補的でなくても、完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の配列同一性が維持される塩基の変異、付加、欠損が許容される。特に、siRNAの中央から外れた位置の塩基の変異、付加、欠損であれば、RNA干渉による標的のmRNAの分解活性が完全に消失せずに分解活性が残る。一方、siRNAの中央又は中央付近に位置する塩基の変異の場合、その影響が大きく、RNA干渉による標的のmRNAの分解活性が極度に低下する。
例えば、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするsiRNAは、5’末端から3’末端に向かってUAGUAAGGUGGGAACCUUCGC(配列番号2)の塩基配列のRNA及び5’末端から3’末端に向かってGCGAAGGUUCCCACCUUACUA(配列番号3)の塩基配列のRNAを含む。
また、上記のようにsiRNAの塩基配列においては、標的配列と完全に相補的でなくても、完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の配列同一性が維持されば、RNA干渉による標的のmRNAの分解活性が得られる。よって、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするsiRNAは、配列番号2で示される塩基配列と配列同一性90%以上の塩基配列であるRNA、及び配列番号3で示される塩基配列と配列同一性90%以上の塩基配列であるRNAを含むとしてもよい。
また、RNA干渉による標的のmRNAに対するより高い分解活性を得るために、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするsiRNAは、配列番号2で示される塩基配列と配列同一性95%以上の塩基配列であるRNA、及び配列番号3で示される塩基配列と配列同一性95%以上の塩基配列であるRNAを含むとしてもよい。
siRNAの標的配列の長さは、YB‐1遺伝子の発現を抑制する限り、特に限定されない。標的配列の長さは、好ましくは18塩基以上、より好ましくは19塩基以上、さらに好ましくは21塩基以上の長さである。ただし、siRNAの長さが23〜26塩基以上の場合には、siRNAが細胞内のプロセッシングによって分解されることがある。さらに、siRNAの合成の容易さ、抗原性の問題、生体内組織への輸送を考慮すると、siRNAの標的配列の長さは、例えば、50塩基以下、好ましくは25塩基以下がよく、好ましくは19塩基以上25塩基未満、より好ましくは21塩基以上23塩基未満である。
siRNAは、塩基対を形成しない付加的な塩基を、5’末端及び3’末端に有してもよい。付加的な塩基の長さは、siRNAがYB‐1遺伝子の発現を抑制する限り特に限定されないが、5塩基以下、例えば2塩基以上4塩基以下である。付加的な塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的な塩基の配列としては、例えばug‐3’、uu‐3’、tg‐3’、tt‐3’、ggg‐3’、guuu‐3’、gttt‐3’、ttttt‐3’、uuuuu‐3’等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、YB‐1をコードするmRNAの塩基配列又はその塩基配列に含まれる連続する18塩基以上の標的配列に相補的な塩基配列のRNAとその相補鎖とがヘアピンループ部分を介して連結された1本鎖のRNAであるshRNA(small hairpin RNA)であってもよい。shRNAは、ヘアピンループ構造をとることにより2本鎖構造を形成する。ヘアピンループ部分の長さは、shRNAがYB‐1遺伝子の発現を抑制する限り特に限定されないが、例えば5塩基以上25塩基以下である。
YB‐1遺伝子の発現を抑制するmiRNAは、例えば、YB‐1をコードするmRNAの塩基配列又はその塩基配列に含まれる連続する20塩基以上の標的配列に相補的な塩基配列を有する1本鎖RNAである。
miRNAは、siRNAと同様に、標的配列を有するYB‐1遺伝子の発現を抑制する。より詳細には、miRNAは、複数のタンパク質と複合体を形成し、YB‐1遺伝子が転写されたmRNAに相互作用して、遺伝子の発現を抑制する。
標的配列とmiRNAにおける標的配列に相補的な塩基配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、miRNAの塩基配列においては、標的配列と完全に相補的でなくても、完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の配列同一性があればよい。
miRNAの標的配列の長さは、YB‐1遺伝子の発現を抑制する限り、特に限定されない。標的配列の長さは、好ましくは18塩基以上、より好ましくは20塩基以上の長さである。miRNAの標的配列の長さは、例えば、50塩基以下、好ましくは30塩基以下がよく、好ましくは20塩基以上25塩基未満である。
YB‐1遺伝子の発現を抑制するアンチセンス核酸は、例えば、YB‐1をコードするmRNAの塩基配列又はその塩基配列に含まれる連続する20塩基以上の標的配列に相補的な塩基配列を有する核酸である。アンチセンス核酸は、YB‐1をコードするmRNAの標的配列にハイブリダイズし、その発現を抑制する。
標的配列とアンチセンス核酸における標的配列に相補的な塩基配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、アンチセンス核酸の塩基配列においては、標的配列と完全に相補的でなくても、完全に相補的な塩基配列と少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の配列同一性があればよい。
なお、アンチセンス核酸を構成する核酸は、DNAであってもRNAであっても、これらのハイブリッドであってもよい。
siRNA、miRNA及びアンチセンス核酸は、既知の方法で合成することができる。siRNA、miRNA及びアンチセンス核酸は、例えば、固相ホスホルアミダイト法等の任意の核酸合成法により化学的に合成される。また、siRNA、miRNA及びアンチセンス核酸は、トリエステル法でも合成できる。また、種々の自動核酸合成装置が市販されており、オリゴヌクレオチドは、当該自動核酸合成装置で合成することもできる。また、マルチヌクレオチド合成法も適宜使用することができる。
YB‐1遺伝子の発現を抑制するsiRNA、miRNA及びアンチセンス核酸は、YB‐1遺伝子の塩基配列に基づいて標的配列を決定し、これに相補的な塩基配列の核酸を合成することにより調製できる。例えば、siRNAは、標的配列に相補的な塩基配列のRNAとその相補鎖とを自動核酸合成装置でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分間程度保持することで変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。
siRNA、miRNA及びアンチセンス核酸は、天然型の核酸から合成できるが、天然型の核酸では、細胞中の核酸分解酵素によってリン酸ジエステル結合が分解されることがある。このため、siRNA、miRNA及びアンチセンス核酸は、分解酵素に対して安定なチオリン酸型や2'‐O‐メチル型等の修飾核酸を用いて合成してもよい。
YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、YB‐1遺伝子の所定の塩基配列を標的配列とするsiRNAを発現するベクター、YB‐1遺伝子の所定の塩基配列を標的配列とするmiRNAを発現するベクター又はYB‐1遺伝子の所定の塩基配列を標的配列とするアンチセンス核酸を発現するベクターを含むとしてもよい。この場合の標的配列は、例えば、配列番号1で示される塩基配列である。
ベクターでは、上記のsiRNA、miRNA又はアンチセンス核酸が、血管内皮細胞等の哺乳動物等の細胞内でプロモータ活性を発揮するプロモータに連結される。使用されるプロモータは、細胞内で機能し得るものであれば特に限定されない。プロモータは、例えば、pol1系プロモータ、pol2系プロモータ、pol3系プロモータ等である。より具体的には、プロモータは、SV40由来の初期プロモータ、サイトメガロウイルスLTR等のウィルスプロモータ、β‐アクチン遺伝子プロモータ等の哺乳動物の構成タンパク質遺伝子プロモータ及びtRNAプロモータ等のRNAプロモータ等である。
siRNAを発現させる場合、プロモータとして、pol3系プロモータが好ましい。pol3系プロモータは、例えば、U6プロモータ、H1プロモータ、tRNAプロモータ等である。
また、ヒト等の哺乳動物への投与を考慮すると、ベクターとして、レトロウィルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、センダイウィルス、ヘルペスウィルス等のウィルスベクターが好適である。アデノウィルスは、遺伝子導入の効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入できる等の利点を有する。アデノウィルスは、導入した遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、導入した遺伝子の発現は一過性で、通常数週間程度しか持続しない。これに対し、持続性を考慮すれば、遺伝子導入の効率が比較的高く、非分裂細胞にも導入でき、かつ逆位末端繰り返し配列を介して染色体に組み込まれるアデノ随伴ウィルスもベクターとして好ましい。
上記ベクターは、好ましくは上記のsiRNA、miRNA又はアンチセンス核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネータ領域を含有する。さらに、上記ベクターは、形質転換された細胞を選択するためのマーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含んでもよい。
YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、後述の実施例4に示すように、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導する。YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質が血管内皮細胞のアポトーシスを誘導するか否かを確認するには、例えば、下記の実施例4のように、当該物質に暴露した血管内皮細胞又は当該物質を導入した血管内皮細胞におけるアポトーシスのマーカー、例えばAnnexin‐Vの発現の有無を調べればよい。この他、当該物質に暴露した血管内皮細胞又は当該物質を導入した血管内皮細胞を電子顕微鏡下で観察し、アポトーシス小体等のアポトーシスに固有の形態的特徴の有無を調べればよい。
また、YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、後述の実施例5に示すように、血管内皮細胞による管腔形成を阻害する。管腔とは、血管等の管状構造体の内腔である。YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質が血管内皮細胞による管腔形成を阻害するか否かを確認するには、例えば、当該物質に暴露した血管内皮細胞又は当該物質を導入した血管内皮細胞を電子顕微鏡下で観察し、管腔の有無を調べればよい。
上記のようにYB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導するため、血管を退縮させる。また、YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、新生血管の形成を抑制するため、血管の新生を阻害する。当該物質が血管の新生を阻害するか否か、又は当該物質が血管を退縮させるか否かは、当該物質を投与した坦癌マウス等の組織切片等を電子顕微鏡等で観察することによって確認できる。この際、免疫学的組織染色等を用いることで血管の新生を阻害又は血管を退縮させるか否かをより明確に確認できる。
YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質は、血管内皮細胞の異常な増殖の抑制、新生血管の形成の抑制及び既に形成された腫瘍血管等の破壊が可能である。このため、当該物質によって治療効果が期待できる疾患は、病的な血管が認められる疾患、例えば、癌、黄班変性症、緑内障、翼状片症、変形関節炎、関節リウマチ、血管異常、血管腫、リンパ管腫及び乾癬等である。癌は、固形癌である限り特に限定されない。例えば、癌は、膵臓癌、膠芽腫、食道癌、胃癌、結腸癌、肺癌、腎癌、甲状腺癌、耳下腺癌、頭頚部癌、骨・軟部肉腫、尿管癌、膀胱癌、子宮癌、肝癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、卵管癌等である。ここで列挙した疾患は、例示であり、これらの他、YB‐1遺伝子の発現が高く、病的な血管が形成される各種疾患に対して治療効果が期待できる。
アポトーシス誘導剤は、YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質と薬理的に許容される担体とが配合された合剤であってもよい。合剤の剤形は、例えば、注射剤、点滴剤、直腸坐剤、膣坐剤、経鼻吸収剤、経皮吸収剤、経肺吸収剤、口腔内吸収剤及び経口投与剤等が好ましい。YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質が上記siRNA又はmiRNAである場合は、水溶性及び細胞膜透過性を高めるために、リポソームやマイクロスフィア等を担体として使用してもよい。
アポトーシス誘導剤が合剤の場合、YB‐1遺伝子の発現を抑制する物質が合剤の全組成物の重量に対して、0.01〜10重量%、好ましくは、0.1〜1重量%含有されていればよい。
薬理的に許容される担体は、製剤素材として用いられる各種の有機担体物質又は無機担体物質である。薬理的に許容される担体は、液状製剤においては例えば、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、薬理的に許容される担体は、固形製剤においては例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
アポトーシス誘導剤の投与量は、患者の性別、年齢、体重、症状等によって適宜決定される。静脈注射の場合、投与量は、成人一日あたり0.0001mg/kg乃至100mg/kgである。この場合、アポトーシス誘導剤は、1回、あるいは複数回に分けて投与されてもよく、複数回の投与においては、連続して投与されてもよい。また、経口投与の場合、投与量は、成人一日あたり0.001mg/kg乃至1000mg/kgである。この場合、アポトーシス誘導剤は、1回、あるいは複数回に分けて投与されてもよい。なお、必要に応じて、上記の範囲外の量を用いることもできる。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るアポトーシス誘導剤は、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導する。このため、血管内皮細胞の単なる増殖抑制とは異なり、新生血管の形成の抑制及び既に形成された血管の破壊等により、血管の形成に異常を認める疾患に対してより高い治療効果が得られる。また、上記アポトーシス誘導剤は、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導するため、増殖抑制に対してみられるDNAの修復による耐性の影響を受けない。このため、上記アポトーシス誘導剤は、増殖抑制に対する耐性に起因する薬剤耐性による治療効果の低下を防ぐことができる。
また、本実施の形態に係るアポトーシス誘導剤は、血管内皮細胞による管腔形成を阻害するため、生体内における新生血管の異常な形成を阻害できる。また、in vitroにおいて、血管内皮細胞による管腔形成の阻害を確かめることができるので、スクリーニングにおいて候補物質の生体内での効果を予想しやすいという利点もある。
また、本実施の形態に係るアポトーシス誘導剤は、血管の新生を阻害する作用及び血管を退縮させる作用を有する。このため、生体内における新生血管の異常な形成を阻害することができ、既に形成された血管を破壊できる。これにより、病態が進行して血管が過剰に形成された難治性疾患に対してもより高い治療効果が得られる。
(実施の形態2)
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2に係る癌治療薬は、上記実施の形態1におけるアポトーシス誘導剤を有効成分として含む。上記癌治療薬は、薬理的に許容される担体と配合された合剤であってもよい。合剤の剤形は、例えば、注射剤、点滴剤、直腸坐剤、膣坐剤、経鼻吸収剤、経皮吸収剤、経肺吸収剤、口腔内吸収剤及び経口投与剤等が好ましい。有効成分として含むアポトーシス誘導剤が上記siRNA又はmiRNAである場合は、水溶性及び細胞膜透過性を高めるために、リポソームやマイクロスフィア等を担体として使用してもよい。
当該癌治療薬は、有効成分として上記実施の形態1におけるアポトーシス誘導剤を高分子ミセルに内包してもよい。高分子ミセルは、例えば、疎水性ポリマーで形成される内核と親水性ポリマーで形成される外殻との二層構造を有している。疎水性ポリマーは、例えば、ポリアミノ酸誘導体等である。親水性ポリマーは、例えば、ポリエチレングリコール等である。内核は、アポトーシス誘導剤等の薬剤を物理的あるいは化学的に封入する。外殻は、その物理化学的な性質によって、内核に封入された薬剤を所定の生体組織に分布させる。より詳細には、高分子ミセルは、脂質二重膜からなる細胞膜の表面に結合し、エンドサイトーシスによって細胞膜ごと細胞内に入り込むことができる。高分子ミセルには、例えば、block‐polymer等を利用することもできる。
アポトーシス誘導剤を高分子ミセルに内包することによって、腫瘍血管の血管内皮細胞に選択的にアポトーシス誘導剤を輸送できる。これは、いわゆるEPR効果によるものである。腫瘍では血管新生が速いため、血管壁に、正常組織の血管にはない隙間が形成されている。高分子ミセルは、正常組織の血管では血管壁から組織に移行せず、腫瘍血管の血管壁から腫瘍に移行する。このため、腫瘍部位特異的にアポトーシス誘導剤の濃度を上げることができる。さらに、腫瘍部位はリンパ管が未発達なため、アポトーシス誘導剤を効率よく排出できず、アポトーシス誘導剤を腫瘍部位に長時間残存させることができる。
癌治療薬が合剤の場合、アポトーシス誘導剤が合剤の全組成物の重量に対して、0.01〜10重量%、好ましくは、0.1〜1重量%含有されていればよい。
薬理的に許容される担体は、製剤素材として用いられる各種の有機担体物質又は無機担体物質である。薬理的に許容される担体は、上記実施の形態1と同様に液状製剤において、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等、固形製剤において、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
癌治療薬の投与量は、患者の性別、年齢、体重、症状等によって適宜決定される。経口投与、静脈注射及び経鼻投与等において、投与量、投与回数等は、上記実施の形態1と同様に決定される。
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る癌治療薬は、上記実施の形態1のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む。このため、血管内皮細胞の単なる増殖抑制とは異なり、腫瘍における新生血管の形成の抑制及び既に形成された腫瘍血管の破壊等の作用により、癌に対してより高い治療効果が得られる。
また、本実施の形態に係る癌治療薬は、血管内皮細胞による管腔形成を阻害するアポトーシス誘導剤を有効成分として含む。このため、生体内の腫瘍部位等における新生血管の異常な形成を阻害できる。また、in vitroにおいて、血管内皮細胞による管腔形成の阻害を確かめることができるので、スクリーニングにおいて候補物質の生体内での薬効を予想しやすいという利点もある。
また、本実施の形態に係る癌治療薬は、血管の新生を阻害する作用及び血管を退縮させる作用を有するアポトーシス誘導剤を有効成分として含む。このため、生体内の腫瘍組織等における新生血管の異常な形成を阻害することができ、既に形成された腫瘍血管等を破壊できる。これにより、ステージが進んだ癌や難治性癌に対してもより高い治療効果が得られる。
また、本実施の形態では、癌治療薬は、アポトーシス誘導剤を高分子ミセルに内包してもよいこととした。このため、高分子ミセルを利用したドラッグデリバリシステムによって、患者に対して適切な吸収、分布、代謝、排泄のプロファイルを得ることができる。また、適切な吸収、分布、代謝、排泄のプロファイルによって、さらに高い治療効果が得られ、毒性を回避できる。
なお、上記実施の形態1におけるアポトーシス誘導剤及び上記実施の形態2における癌治療薬を合剤とする場合に配合される担体として次のものが挙げられる。溶剤においては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール等である。溶解補助剤においては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等である。懸濁化剤においては、界面活性剤、親水性高分子等であって、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等である。
また、等張化剤においては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D‐マンニトール等である。緩衝剤においては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩の緩衝液等である。無痛化剤においては、例えば、ベンジルアルコール等である。
また、賦形剤においては、例えば、乳糖、白糖、D‐マンニトール、デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等である。滑沢剤においては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等である。結合剤においては、例えば、結晶セルロース、白糖、D‐マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等である。崩壊剤においては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム等である。
なお、防腐剤においては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等である。抗酸化剤においては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸等である。
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
(実施例1:血管内皮細胞におけるYB‐1遺伝子の発現抑制)
配列番号1に表される塩基配列を標的とするsiRNAを血管内皮細胞に導入して、YB‐1遺伝子の発現抑制を評価した。
配列番号1に表される塩基配列を標的配列とするsiRNA(以下、「YB741」とする)として、塩基配列が5’末端から3’末端に向かってUAGUAAGGUGGGAACCUUCGC(配列番号2)及び5’末端から3’末端に向かってGCGAAGGUUCCCACCUUACUA(配列番号3)の2本鎖RNAを合成した。また、既に報告(van Roeyen CR, et al. Y−box protein 1 mediates PDGF−B effects in mesangioproliferative glomerular disease, J Am Soc Nephrol., 16, 2985−2996 2005)されているYB‐1遺伝子に対するsiRNA(以下、「YB330」とする)として塩基配列が5’末端から3’末端に向かってAAAACCUUCGUUGCGAUGACC(配列番号4)及び5’末端から3’末端に向かってGGUCAUCGCAACGAAGGUUUU(配列番号5)の2本鎖RNAを対照用に合成した。また、他の遺伝子の塩基配列に一致せず、遺伝子発現を抑制しないコントロール用siRNA(以下、「コントロール」とする)を合成して用いた。
実験に用いた細胞は、正常ヒト臍帯静脈内皮細胞(Normal Human Umbilical Vein Endothelial Cells:HUVEC)及び正常ヒト肺動脈内皮細胞(Normal Human Pulmonary Artery Endothelial Cells:HPAEC)の2種類である。いずれの細胞も血管内皮用培地ブレットキットEGM−2(三光準薬社)で維持した。
siRNAを加えない未処理群、コントロールで処理するコントロール群、YB330で処理するYB330群及びYB741で処理するYB741群の各群について、6ウェルプレートに1×10細胞/ウェルの濃度で細胞を播いた。各群につき3ウェルを調製した。
細胞培養装置を用いて細胞を播いたプレートを37℃で一晩維持し、30〜50%のコンフルエントを確認した。続いて、細胞の培地を、抗生物質を含まない培地に交換して、Lipofectamine(登録商標) RNAiMax(インビトロジェン社)を用いて、最終濃度が20nMになるようにsiRNAを細胞に導入した。
siRNAの導入後、4時間、24時間及び48時間で培地を交換した。siRNAの導入から48時間後にコントロール群における蛍光色素による導入効率を確認して、PBSで細胞を洗浄した後に細胞をプレートから剥がし、mRNAの定量用に細胞を回収した。また、siRNAの導入から72時間後にPBS(Phosphate buffered saline)で細胞を洗浄した後に細胞をプレートから剥がし、タンパク質の定量用に細胞を回収した。
回収した細胞からのRNAの抽出には、High Pure RNA Isolation Kit(ロシュ社)を用いた。Transcriptor First Strand cDNA synthesis Kit(ロシュ社)を用いて、1μgの抽出したRNAから20μlのcDNA溶液を合成した。96ウェルプレートの各ウェルに、脱イオン蒸留水:7μl、ハウスキーピングプライマー:0.4μl、ハウスキーピングプローブ:0.4μl、ターゲットプライマー Rt(20μM):0.4μl、ターゲットプライマー Lt(20μM):0.4μl、ターゲットプローブ:0.4μl、マスターミックス:0.4μlの用量で分注し、LightCyclerR 480を用いて、qRT‐PCRを行った。qRT‐PCRは、95℃で10分間のステップと、95℃で10秒間、60℃で30秒間、72℃で1秒間を1サイクルとして45サイクル繰り返すステップと、40℃で30秒間のステップで行った。mRNAの定量は、ハイブリダイゼーション法で行った。データ解析は、相対的定量法であるEfficiency (E)‐Methodで行った。
タンパク質としてのYB‐1の定量はウェスタンブロッティング法で行った。前処理として、タンパク質は、製造者の推奨するプロトコールに従ってプロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を添加したM‐PER mammalian cell protein extraction試薬(サーモサイエンティック社)を用いて細胞から抽出した。各群について抽出したタンパク質をサンプル緩衝液に加えて、タンパク質の濃度が25μgとなるようにサンプルを調製した。NuPAGE(登録商標)の4〜12% Bis‐Tris Gel(インビトロジェン社)を用いて、得られたサンプルについて200Vの電圧で25分間の電気泳動を行った。タンパク質がゲル内を移動したことを確認し、タンク式の転写装置にセットして、30Vの電圧で60分間かけてPVDF膜にタンパク質を転写した。ウェスタンブロッティングでは、一次抗体には、1500倍に希釈した抗YB‐1抗体(GEヘルスケア社)を用いた。一次抗体の反応時間は60分間であった。標識二次抗体には、20000倍に希釈した抗ウサギHRP conjugate(GEヘルスケア社)を用いた。標識二次抗体の反応時間は60分間であった。発光は、ECL Plus System(GEヘルスケア社)を用いて5分間行った。発光バンドの検出には、Light‐Capture2(アトー社)を使用した。
(結果)
図1は、ハウスキーピング遺伝子βマイクログロブリン2のmRNAの発現量を基準とするYB‐1遺伝子のmRNAの発現量のCp値処理による相対値を示す。HUVEC及びHPAECにおいて、YB741群は、未処理群及びコントロール群に対してmRNAの発現を抑制した。このことから、YB741は、YB‐1遺伝子の転写産物であるmRNAの発現を抑制することが示された。
図2(A)は、HUVECにおけるYB‐1のタンパク質の量の相対値及びウェスタンブロッティングの発光バンドを示す。相対値は、未処理群におけるβアクチンのタンパク質の量に対するYB‐1のタンパク質の量を1としたときの値である。発光バンドは、左から未処理群、コントロール群、YB741群、YB330群である。上段の発光バンドはYB‐1に対応し、下段の発光バンドはβアクチンに対応する。YB‐1のタンパク質の量は、βアクチンのタンパク質の量で補正した。図2(A)中のYB741群は、未処理群及びコントロール群と比較してYB‐1の量が少なかった。また、YB741群では、YB330群よりもYB‐1の量が約50%少なかった。図2(B)は、HPAECにおけるYB‐1のタンパク質の量の相対値及びウェスタンブロッティングの発光バンドを示す。発光バンドは、図2(A)と同様に上段の発光バンドがYB‐1に対応し、下段の発光バンドがβアクチンに対応する。YB741群は、未処理群及びコントロール群と比較してYB‐1の量が少なかった。また、YB741群では、YB330群と比較してYB‐1の量が約75%であった。このことから、YB741は、血管内皮細胞においてYB‐1の発現をタンパク質レベルで抑制することが示された。さらに、YB741は、YB330よりもYB‐1の発現をタンパク質レベルでの発現をより強く抑制することが示された。
(実施例2:血管内皮細胞におけるYB‐1遺伝子の発現抑制)
YB741を血管内皮細胞に導入して、血管内皮細胞の増殖能への影響を評価した。
YB330に加え、引用文献1に記載された、塩基配列が5’末端から3’末端に向かってUGGAUAGCGUCUAUAAUGGUUACGG(配列番号6)及び5’末端から3’末端に向かってCCGUAACCAUUAUAGACGCUAUCCA(配列番号7)の2本鎖RNAを対照のsiRNA(以下、「YB594」とする)として合成した。
実験に用いた細胞は、HPAECである。YB594で処理するYB594群に加え、上記未処理群、コントロール群、YB330群及びYB741群の各群について、24ウェルプレートに4×10細胞/ウェルの濃度で細胞を播いた。各群につき3ウェルを調製した。
細胞培養装置を用いて細胞を播いたプレートを37℃で一晩維持し、30〜50%のコンフルエントを確認した。続いて、細胞の培地を、抗生物質を含まない培地に交換して、Lipofectamine(登録商標) RNAiMax(インビトロジェン社)を用いて、最終濃度が20nMになるようにsiRNAを細胞に導入した。
siRNAの導入後、4時間、24時間及び48時間で培地を交換した。siRNAの導入から48時間後にコントロール群における蛍光色素で導入効率を確認して、PBSで細胞を洗浄した後にTrypsin/EDTAを用いて細胞をプレートから剥がし、回収した。次に、細胞を含むTrypsin/EDTAを培地で2倍希釈して、Invitrogen社のCountess(登録商標)を用いて細胞数を計測した。
(結果)
図3は、各群におけるHPAECの細胞数の経時変化を示す。YB741群では、0時間から72時間後まで通してHPAECの細胞数が未処理群及びコントロール群よりも少なかった。また、YB741群では、YB330群及びYB594群よりも0時間から72時間後まで通してHPAECの細胞数が少なかった。特に、YB741は24時間後の時点で未処理群及びコントロール群よりも細胞数が大きく低下していた点で、24時間後の時点での細胞数が未処理群及びコントロール群と同程度であったYB330群及びYB594群と異なる。
図4は、siRNA導入72時間後の細胞数を比較した図である。YB741群では、コントロール群と比較してp=0.00015の有意差、YB330群と比較してp=0.023の有意差、YB594群と比較してp=0.017の有意差をもって細胞数が少なかった。このことから、YB741は、血管内皮細胞の増殖を抑制することが示された。また、YB741は、既知のYB330及びYB594よりも血管内皮細胞の増殖をさらに強く抑制することが示された。
(実施例3:YB‐1遺伝子の発現抑制による血管内皮細胞の細胞周期への影響)
YB741を血管内皮細胞に導入して、血管内皮細胞の細胞周期を評価した。
6ウェルプレートにHUVECを2×10細胞/ウェルの濃度で播いた。細胞培養装置を用いて細胞を播いたプレートを37℃で一晩維持し、30〜50%のコンフルエントを確認した。続いて、細胞の培地を、抗生物質を含まない培地に交換して、Lipofectamine(登録商標) RNAiMax(インビトロジェン社)を用いて、最終濃度が20nMになるようにsiRNAを細胞に導入した。
siRNAの導入48時間後、細胞をPBSで洗浄し、Trypsin/EDTAを用いて細胞をプレートから剥がし、回収した。回収した細胞を含む溶液を1200rpmで5分間遠心分離し、細胞をPBSで洗浄した。続いて、70%エタノールを加え、4℃で2時間固定した。細胞をPBSで洗浄後、RNA 溶液を100μl添加し、37℃で30分間反応させた。次に、PI(ヨウ化プロピジウム)溶液を400μl添加し、37℃で30分間反応させた。細胞をPBSで洗浄後、Facs Canto(登録商標)2を用いて、PerCP‐Cy5.5領域を検出した。なお、検出では、ダブレットを形成した細胞を除去した。
(結果)
図5(A)、(B)、(C)は、それぞれコントロール群、YB330群、YB741群における48時間後の顕微鏡画像を示す。YB741は、コントロール群と比較して細胞数が少なく、各細胞が小さい傾向が視認された。図6は、siRNA導入後における、各群の導入時を基準とする細胞数の相対値の経時変化を示す。コントロール群、YB330群は、細胞数が増加しているのに対し、YB741群は、細胞数がやや減少している。
図7(A)、(B)、(C)は、それぞれ未処理群、コントロール群、YB741群における細胞周期解析の結果を示す。未処理群及びコントロール群に比較して、YB741群では、より多くの細胞がG1期に分布していた。図8は、細胞周期ごとの細胞分画比率を示す。未処理群及びコントロール群に比較して、YB741群では、G1期の細胞分画比率が有意に高かった。
これらのことから、YB741によるYB‐1遺伝子の発現抑制は、血管内皮細胞のG1期での静止を誘導することが示された。
(実施例4:YB‐1遺伝子の発現抑制による血管内皮細胞のアポトーシス誘導)
YB741を血管内皮細胞に導入して、血管内皮細胞におけるアポトーシス及びネクローシスの誘導を検討した。
24ウェルプレートにHUVEC又はHPAECを4×10細胞/ウェルの濃度で播いた。細胞培養装置を用いて細胞を播いたプレートを37℃で一晩維持し、30〜50%のコンフルエントを確認した。続いて、細胞の培地を、抗生物質を含まない培地に交換して、Lipofectamine(登録商標) RNAiMax(インビトロジェン社)を用いて、最終濃度が20nMになるようにsiRNAを細胞に導入した。
siRNAの導入16〜20時間後、細胞をPBSで洗浄した。インキュベーション緩衝液100μlに蛍光標識したAnnexin‐Vを2μl及びPIを2μl加えた溶液を調製し、この溶液をウェルに添加して室温で15分静置した。PBSで洗浄後、インキュベーション緩衝液100μlを添加した。蛍光顕微鏡を用いて、FITC領域でAnnexin‐Vの有無を観察した。また、Cy3領域でPIの有無を観察した。
(結果)
図9は、コントロール群及びYB741群における蛍光顕微鏡画像を示す。図9(A)は、HUVECの蛍光顕微鏡画像を示し、図9(B)は、HPAECの蛍光顕微鏡画像を示す。図9(A)、(B)それぞれにおいて、上段がコントロール群の蛍光顕微鏡画像、下段がYB741群の蛍光顕微鏡画像である。YB741は、HUVEC及びHPAECにおいてAnnexin‐Vの発色が検出された。Annexin‐Vは、アポトーシスの初期に現れる、構造が変化した細胞膜に結合するため、Annexin‐Vの発色が検出されたことは、YB741群においてHUVEC及びHPAECのアポトーシスが誘導されたことを示す。一方、PIの発色は検出されなかった。PIは、生細胞内やアポトーシス初期の細胞膜を透過できないがネクローシスにおいて細胞膜が不安定化することで細胞内に移行する。すなわち、PIの発色が検出されなかったことは、HUVEC及びHPAECのネクローシスはみられなかったということである。以上のことから、YB741によるYB‐1遺伝子の発現抑制は、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することが示された。なお、画像を示してないが、YB330群、YB594群ではアポトーシスの誘導を認めなかった。すなわち、YB741は、既知のYB330及びYB594では得られない、血管内皮細胞のアポトーシス誘導能を有することがわかった。
(実施例5:YB‐1遺伝子の発現抑制による血管内皮細胞の管腔形成能)
YB741を血管内皮細胞に導入して、血管内皮細胞の管腔形成能を評価した。
未処理群、コントロール群、YB330群、YB741群の各群について、6ウェルプレートにHUVECを2×10細胞/ウェルの濃度で播いた。各群につき6ウェルを調製した。
細胞培養装置を用いて細胞を播いたプレートを37℃で一晩維持し、30〜50%のコンフルエントを確認した。続いて、細胞の培地を、抗生物質を含まない培地に交換して、Lipofectamine(登録商標) RNAiMax(インビトロジェン社)を用いて、最終濃度が20nMになるようにsiRNAを細胞に導入した。
siRNAの導入4時間後、抗生物質を含む培地に交換した。siRNAの導入24時間後にコントロール群における蛍光色素で導入効率を確認して、Trypsin/EDTAを用いて細胞をプレートから剥がし、回収した。
一方、4℃に保温しておいたMatrigel(登録商標、Growth Factor Reduced、BDバイオサイエンス社)を均一になるように氷上で混合し、氷上に静置した48ウェルプレートに150μl/ウェルで分注した。プレートを37℃で30分間静置してウェル内の溶液をゲル化させた。
溶液のゲル化を確認後、回収したHUVECを4×10細胞/500μlとなるようにゲル上に播いた。この際、培地としてEBM‐2に0.5% FBS(ロンザ社)を添加したものを用いた。また、この時点で、各群について2系列調製し、一方の系列に20ng/mlの組み換えVEGF(Vascular Endothelial Growth Factor、R&Dシステム社)を添加した。そして、プレートを37℃に維持し、細胞を培養した。
培養開始から7時間後にコントロール群における管腔構造を確認した上で細胞を、5分間の2.5%グルタルアルデヒド処理で固定し、顕微鏡下での撮影を行った。続いて、Adobe Photoshop(登録商標)を用いて、撮影した画像を解析した。撮影画像における3視野で管腔領域を特定し、特定された領域に対応するピクセル数を合計することで形成された管腔を定量した。
(結果)
図10は、組み換えVEGFを添加したコントロール群、YB330群及びYB741群における顕微鏡画像を示す。顕微鏡画像の観察所見では、YB330群では、形成された管腔の大きさ、数ともにコントロール群と同程度であった。一方、YB741群では、コントロール群と比べて管腔が乏しく、管腔の形成が抑制されていた。図11は、定量した管腔領域の大きさを示している。YB741群では、組み換えVEGFの有無に関わらず、コントロール群と比較して、形成された管腔の領域の大きさが有意に低下した。また、YB741群では、組み換えVEGFの有無に関わらず、YB330群と比較しても形成された管腔の領域の大きさが低下した。このことから、YB741によるYB‐1遺伝子の発現抑制は、血管内皮細胞の管腔形成能を低下させることが示された。また、YB741によるYB‐1遺伝子の発現抑制は、YB330によるYB‐1遺伝子の発現抑制と比較して、血管内皮細胞の管腔形成能をさらに低下させることが示された。
(実施例6:YB‐1遺伝子の発現抑制による血管内皮細胞における血管新生関連因子の遺伝子発現)
YB741を血管内皮細胞に導入して、血管内皮細胞における血管新生関連因子の遺伝子発現を評価した。
未処理群、コントロール群、YB330群、YB741群の各群について、上記実施例1と同様にqRT‐PCRを用いて血管新生関連因子の各種遺伝子の発現量を定量した。定量した遺伝子は、VEGFR(Vascular Endothelial Growth Factor Receptor)1、VEGFR2、Tie‐1、Tie‐2、EGFR(Epidermal Growth Factor Receptor)、及びAngiopoietin‐2である。
(結果)
図12は、VEGFR1遺伝子の発現量の未処理群に対する相対値を示す。HUVEC及びHPAECにおいて、YB741群は、コントロール群に比較してVEGFR1遺伝子の発現を抑制した。また、YB741群は、VEGFR1遺伝子の発現をYB330群よりも強く抑制した。図13、図14、図15、図16及び図17は、それぞれVEGFR2遺伝子、Tie‐1遺伝子、Tie‐2遺伝子、EGFR遺伝子及びAngiopoietin‐2遺伝子の未処理群に対する発現量を示す。VEGFR1遺伝子と同様に、HUVEC及びHPAECにおいて、YB741群は、コントロール群に比較して各遺伝子の発現を抑制した。また、YB741群は、各遺伝子の発現をYB330群よりも強く抑制した。
VEGFR1、VEGFR2は、血管内皮細胞の増殖、遊走等の促進に関与している。EGFRは、血管内皮細胞の分化、増殖に関与している。Tie‐1及びTie‐2は、血管内皮細胞の統合性に寄与することが示唆されている因子である。Angiopoietin‐2は、血管内皮細胞と壁細胞の接着を促進することで新生された血管の安定化に寄与する因子である。YB741は、これら血管新生に重要な因子の発現を抑制することによって、血管内皮細胞による管腔形成を阻害していることが示唆された。
(実施例7:膵臓癌モデルマウスにおけるYB‐1遺伝子の発現抑制による腹膜播種の抑制)
YB‐1遺伝子の発現を抑制するmiRNAを膵臓癌モデルマウスの腹腔内に発現させ、腹膜播種の抑制を評価した。
癌細胞としてSuit2‐lucを用いた。Suit2‐lucは、ヒト膵臓癌細胞であるSuit2を遺伝子改変してルシフェラーゼを安定して発現する細胞である。マウスはBALB/Cヌードマウス(6週齢)を各群3匹ずつ用いた。群構成は、生理食塩水を投与した群(Saline)、YB330と同じ塩基配列を標的配列とするmiRNA(以下、「miYB330」とする)を導入したmiYB330群及び配列番号1に示される塩基配列を標的配列とするmiRNA(以下、「miYB741」とする)を導入したmiYB741群である。miYB330の導入では、トップ鎖として塩基配列が5’末端から3’末端に向かってTGCTGAAAACCTTCGTTGCGATGACCGTTTGGCCACTGACTGACGGTCATCGATCGACGAAGGTTTT(配列番号8)と、ボトム鎖として塩基配列が5’末端から3’末端に向かってCCTGAAAACCTTCGTCGATGACCGTCAGTCAGTGGCCAAAACGGTCATCGCAACGAAGGTTTTC(配列番号9)の合成オリゴを用いた。また、miYB741の導入では、トップ鎖として塩基配列が5’末端から3’末端に向かってTGCTGTAGTAAGGTGGGAACCTTCGCGTTTTGGCCACTGACTGACGCGAAGGTCCACCTTACTA(配列番号10)と、ボトム鎖として塩基配列が5’末端から3’末端に向かってCCTGTAGTAAGGTGGACCTTCGCGTCAGTCAGTGGCCAAAACGCGAAGGTTCCCACCTTACTAC(配列番号11)の合成オリゴを用いた。miYB330及びmiYB741は、YB‐1遺伝子の発現を抑制する機能を有する。
マウスの腹腔内にSuit2‐lucを2×10細胞/匹で播種した。1週間後に腹膜播種をIVISイメージングで確認後、miYB330又はmiYB741を発現するプラスミドDNA(50μg;N/P比=10)を内包させたblock‐polymerからなる高分子ミセルを腹腔内に投与した。投与後、経時的にIVISイメージングにて腹膜播種の量を定量した。
(結果)
図18は、投与前(0日)の腹膜播種の量に対する各群における腹膜播種の相対量の経時変化を示す。miYB741群は、Saline群と比較して、腹膜播種を抑制した。また、miYB741群は、miYB330群と比較して、投与後28日間で腹膜播種の増加量を約1/10に抑制した。
図19は、IVISイメージングによるマウスの画像を示す。投与前(0日)のmiYB330群の2匹のマウスにおけるシグナル強度は、4.6×10及び7.8×10であったのに対し、28日後のmiYB330群の2匹のマウスにおけるシグナル強度は、7.5×1010及び3.8×1010であった。一方、投与前(0日)のmiYB741群の2匹のマウスにおけるシグナル強度は、4.3×10及び2.2×10であったのに対し、28日後のmiYB741群の2匹のマウスにおけるシグナル強度は、2.8×10及び1.4×10であった。画像においても投与後28日目におけるmiYB741群における腹膜播種の範囲は、miYB330群における腹膜播種の範囲よりも小さいことを確認した。これらのことから、miYB741は、in vivoで膵臓癌の腹膜播種を抑制することが示された。また、その抑制効果は、YB330よりも優れていた。
(実施例8:in vitro耐性膵臓癌におけるYB‐1遺伝子の発現抑制による腹膜播種の抑制)
in vitroにおいてmiYB741による増殖抑制効果を認めない膵臓癌細胞に対して、in vivoでのmiYB741による腹膜播種の抑制を評価した。
in vitroでは、膵臓癌細胞であるMiaPaCa2を用いた。6ウェルプレートにMiaPaCa2を2×10細胞/ウェルで播き、一晩37℃で培養後、miYB741群にmiYB741を発現するプラスミドDNAを、コントロール群にGFPコントロールプラスミドを導入した。プラスミドDNAの導入には、X‐fectを用いた。プラスミドDNAの導入後、細胞数を経時的に計測した。
in vivoでは、膵臓癌細胞であるMiaPaCa2を遺伝子改変してルシフェラーゼを安定して発現するMiaPaCa2‐lucを用いた。マウスはBALB/Cヌードマウス(6週齢)を各群6匹ずつ用いた。マウスの腹腔内にMiaPaCa2‐lucを2×10細胞/匹で播種した。1週間後に腹膜播種をIVISイメージングで確認後、miYB741を発現するプラスミドDNA(50μg;N/P比=10)を内包させたblock‐polymerからなる高分子ミセルを腹腔内に投与した。投与後、経時的にIVISイメージングにて腹膜播種を定量した。
(結果)
図20は、in vitroにおいて、プラスミドDNA導入前の細胞数に対する各群における細胞数の相対値の経時変化を示す。miYB741群は、コントロール群と同様に細胞数が経時的に増加した。このことから、miYB741には、in vitroにおいてMiaPaCa2に対する増殖抑制効果が認められなかった。
図21は、IVISイメージングによるマウスの画像を示す。投与後21日後において、miYB741群における腹膜播種の範囲は、コントロール群における腹膜播種の範囲よりも小さいことが確認できた。これらのことから、miYB741は、in vitroにおいて耐性である膵臓癌細胞の腹膜播種をin vivoで抑制することが示された。
図22は、マウスの生存曲線を示す。コントロール群は、全てのマウスが40日後までに死亡したのに対し、miYB741群のマウスは、半数が60日後まで生存し、1割が100日以上生存した。このため、miYB741は、in vitroにおいて耐性であった膵臓癌細胞で作製された膵臓癌モデルマウスの生存を延長することが示された。in vitroで耐性であったMiaPaCa2の腹膜播種をin vivoで抑制したのは、上記実施例4に示されたYB741による血管内皮細胞のアポトーシス誘導と、上記実施例5で示されたYB741による血管内皮細胞における管腔形成の強い抑制によって、生体組織における血管新生が抑制され、播種の拡がりが抑制されているからであると考えられる。
(実施例9:皮下腫瘍モデルマウスにおけるYB‐1遺伝子の発現抑制の腫瘍間質に対する影響)
皮下腫瘍モデルマウスにmiYB741を発現するプラスミドDNAを局所投与した場合の免疫学的組織染色を検討した。
癌細胞は、ヒト胆嚢癌細胞であるGBd15を用いた。マウスはBALB/Cヌードマウス(6週齢)を各群2匹ずつ用いた。miYB741を発現するプラスミドDNAは、高分子ミセル用基材と混合して高分子ミセルとした。マウスの両側大腿付着部にGbd15を5×10細胞/匹で注射した。注射してから1週間後、マウスの右大腿付着部に形成された皮下腫瘍に高分子ミセルを、DNAの投与量が1匹あたり50μgとなるように注射した。高分子ミセルの注射から3日後に、皮下腫瘍を摘出した。摘出した腫瘍を、適当な大きさの腫瘍片に切り分けて、PBSで洗浄した。病理検査用キットであるTissue‐Tek(登録商標、サクラファインテックジャパン社)に含まれるクリオモルド3号のO.C.T Compund内に腫瘍片を沈め、アセトンで腫瘍片を急速冷却固定した。固定した腫瘍片を−80℃で保存し、下記のように免疫組織学的染色を行った。
腫瘍片をPBSで洗浄し、0.3%Hを含むメタノールと室温で30分間反応させて内因性ペルオキシダーゼを除去した。腫瘍片をPBSで洗浄後、3%BSA(bovine serum albumin)を含むPBSで10分間ブロッキングした。1000倍希釈の抗YB‐1抗体と50倍希釈の抗CD31抗体(日本ベクトン・ディッキンソン社)を腫瘍片に添加し、4℃で一次抗体反応を行った。PBSで洗浄後、400倍希釈のビオチン標識された抗ウサギIgG抗体(ベクター社)及び250倍希釈のビオチン標識された抗ラットIgG抗体(ベクター社)を腫瘍片に添加し、室温で30分間、二次抗体反応を行った。PBSで洗浄後、VECTASTAIN Elite ABC Standardキットに含まれるストレプトアビジン‐HRP複合体を腫瘍片に添加し、室温で5分間反応させた。続いて、PBSで洗浄し、ペルオキシダーゼを用いてジアミノベンジジンと反応させるDAB反応を室温で10分間行った。PBSで洗浄後、ヘマトキシリン染色を15秒間行い、1分間ほど流水で洗浄した。続いて、70%、80%、90%アルコールの順に腫瘍片を数回暴露し、無水アルコールに1分間浸けて脱水した。次に、腫瘍片をキシレンに5分間暴露することを3回繰り返し、ソフトマウント(和光純薬工業社)を用いて腫瘍片を封入し、光学顕微鏡で観察した。
(結果)
図23は、上段にYB‐1染色の画像、下段にCD31染色の画像を示す。GBd15を注射しなかったノーマル群は、YB‐1の発現及び腫瘍血管のマーカーであるCD31の発現を認めなかった。GBd15を注射し、miYB741を発現するプラスミドDNAを投与しなかったコントロール群は、ノーマル群と比較して、YB‐1の発現上昇及びCD31の発現を認めた。これに対し、GBd15を注射し、miYB741を発現するプラスミドDNAを局所投与したmiYB741群は、コントロール群と比較して、YB‐1の発現を抑制した。また、miYB741群は、コントロール群と比較して、CD31の発現も抑制した。このことから、YB‐1遺伝子の発現抑制によって、腫瘍間質における腫瘍血管の密度が低下することが示された。
以上の各実施例により、配列番号1に表される塩基配列を標的配列とするsiRNAであるYB741によるYB‐1遺伝子の発現抑制は、既知のYB‐1遺伝子に対するsiRNA等よりもYB‐1遺伝子の発現を強く抑制した。また、YB741によるYB‐1遺伝子の発現抑制は、血管内皮細胞の増殖を抑制すること、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導すること、血管内皮細胞による管腔形成能を大きく低下させることが示された。さらに、YB741によるYB‐1遺伝子の発現抑制は、血管新生関連因子の発現を抑制し、in vivoにおける強力な抗腫瘍活性を示した。この抗腫瘍活性は、生体組織における血管新生の抑制によるものと考えられ、腫瘍間質の血管密度が低下することによって優れた抗腫瘍活性が得られたと考えられる。これにより、本発明に係るアポトーシス誘導剤及び癌治療薬は、難治性腫瘍や増殖性血管疾患に対してより高い治療効果を有すると考えられる。
siRNAによるYB‐1遺伝子の発現抑制により、癌細胞のアポトーシスが誘導されることが知られている(例えば、Cathy Lee, et al. Targeting YB‐1 in HER‐2 Overexpressing Breast Cancer Cells Induces Apoptosis via the mTOR/STAT3 Pathway and Suppresses Tumor Growth in Mice, Cancer Res., 68, 8661‐8666, 2008参照)。癌細胞では、細胞周期制御因子であるp53やp16−cycD1−Cdk4−pRbに関連する経路に異常が多くみられ、アポトーシスの誘導に密接に関与する細胞周期が血管内皮細胞等の通常の細胞と大きく異なる。このため、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、癌細胞におけるYB‐1遺伝子の発現抑制によるアポトーシス誘導とは異なる作用機序で血管内皮細胞のアポトーシスを誘導していると考えられる。また、血管内皮細胞等の接着性細胞では、他の細胞や細胞外基質と接着できないとアポトーシスが誘導されるアノイキスという現象が知られている。細胞の接着性に関連する因子であるアクチンやチュブリンは、YB−1との関連が示唆されている。このため、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、YB‐1遺伝子の発現抑制に起因するアクチンやチュブリンの異常、機能低下によるアノイキスによって、血管内皮細胞のアポトーシスを誘導する可能性が考えられる。一方、癌細胞は、種々の分子機構によりアノイキスに対する抵抗性を獲得している。この点においても、本発明に係るアポトーシス誘導剤は、癌細胞におけるYB‐1遺伝子の発現抑制によるアポトーシスの誘導とは異なる機序で血管内皮細胞にアポトーシスを誘導すると考えられる。
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
本発明は、アポトーシス誘導剤、血管新生阻害剤及び癌治療薬に好適である。

Claims (9)

  1. Yボックス結合タンパク質1遺伝子の発現を抑制する物質を含む、
    血管内皮細胞のアポトーシス誘導剤。
  2. 前記物質は、
    配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするsiRNA、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするmiRNA又は配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするアンチセンス核酸を含む、
    ことを特徴とする請求項1に記載のアポトーシス誘導剤。
  3. 前記物質は、
    配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするsiRNAを発現するベクター、配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするmiRNAを発現するベクター又は配列番号1で示される塩基配列を標的配列とするアンチセンス核酸を発現するベクターを含む、
    ことを特徴とする請求項1に記載のアポトーシス誘導剤。
  4. 前記物質は、
    配列番号2で示される塩基配列と配列同一性90%以上の塩基配列であるRNA、及び配列番号3で示される塩基配列と配列同一性90%以上の塩基配列であるRNAを含むsiRNAである、
    ことを特徴とする請求項1に記載のアポトーシス誘導剤。
  5. 前記物質は、
    血管内皮細胞による管腔形成を阻害する、
    ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のアポトーシス誘導剤。
  6. 前記物質は、
    血管の新生を阻害する、
    ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のアポトーシス誘導剤。
  7. 前記物質は、
    血管を退縮させる、
    ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のアポトーシス誘導剤。
  8. 請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む、
    癌治療薬。
  9. 前記有効成分を高分子ミセルに内包する、
    ことを特徴とする請求項8に記載の癌治療薬。
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