二次電池は、様々な要因によって劣化することがあり、二次電池の劣化には、摩耗劣化およびハイレート劣化が含まれる。摩耗劣化とは、二次電池を構成する材料が時間の経過とともに摩耗することによって発生する劣化である。ハイレート劣化とは、二次電池の内部における塩濃度の偏りによって発生する劣化である。塩濃度の偏りは、例えば、所定値以上のレートにおいて、二次電池を充電又は放電したときに発生しやすい。
本実施例は、二次電池の摩耗劣化を推定するものである。具体的には、アレニウスの式に基づいて、現在の二次電池における摩耗劣化を推定する。ここで、アレニウスの式を用いるときには、測定(学習)して得られた摩耗劣化を基準として、現在の摩耗劣化を推定する。以下に、現在の摩耗劣化を推定する方法について、具体的に説明する。
まず、現在の摩耗劣化に対応した摩耗劣化係数を算出する。摩耗劣化係数は、初期状態にある二次電池の内部抵抗(Rini)と、劣化後の二次電池の内部抵抗(Rr)との比(Rr/Rini)で表される。摩耗劣化係数を用いることにより、二次電池の劣化状態を評価することができる。ここで、初期状態とは、二次電池が劣化していない状態であり、例えば、二次電池を製造した直後の状態とすることができる。現在の摩耗劣化係数Kcは、下記式(1)を用いて算出することができる。
上記式(1)において、ΔKaは、アレニウスの式から特定される摩耗劣化係数であり、Kbは、摩耗劣化の学習によって特定される摩耗劣化係数である。上記式(1)に示すように、現在の摩耗劣化係数Kcは、摩耗劣化係数ΔKa,Kbの総和となる。また、ΔKa(t0+iΔt)は、時刻変化Δtに対する摩耗劣化係数ΔKaの変化量であり、t0は、摩耗劣化の学習を行ったときのタイミングである。iは、0〜nまでの値であり、nは、上記式(2)によって表される。t1は、摩耗劣化係数Kcを推定するときの現在の時刻である。
摩耗劣化係数ΔKaは、アレニウスの式に基づいて、下記式(3)で表される。また、下記式(3)は、下記式(4)で表すことができる。
上記式(3)に示すように、時刻Δtが経過した後の摩耗劣化係数ΔKa(t+Δt)は、前回の摩耗劣化係数ΔKa(t)と、保存劣化に伴う摩耗劣化係数ΔKaの変化量ΔKa1と、通電劣化に伴う摩耗劣化係数ΔKaの変化量ΔKa2とで表される。保存劣化とは、二次電池を通電せずに放置することに伴う劣化、言い換えれば、時間が経過することに伴う劣化である。通電劣化とは、二次電池に電流が流れることに伴う劣化である。
上記式(4)において、第2項は、保存劣化に対応した式であり、第3項は、通電劣化に対応した式である。ここで、Tは、二次電池の温度であり、Iは、二次電池に流れる電流(通電量)である。A1,λ1は、保存劣化に対応した係数であり、A2,λ2は、通電劣化に対応した係数である。A1,A2,λ1,λ2は、二次電池のSOC(State of Charge)に依存する。SOCは、満充電容量に対する現在の充電容量の割合を示す。
電池温度T、電流IおよびSOCを取得すれば、上記式(4)に基づいて、摩耗劣化係数ΔKa(t+Δt)を算出することができる。ここで、電池温度Tは、温度センサを用いて取得することができ、電流Iは、電流センサを用いて取得することができる。SOCは、二次電池のOCVから特定することができる。SOCおよびOCVは、対応関係を有しているため、この対応関係を予め求めておけば、OCVを特定することにより、SOCを特定することができる。一方、電流Iを積算することによって、SOCを算出することもできる。
また、摩耗劣化係数Kbは、下記式(5)に基づいて算出することができる。
上記式(4)において、Rm(t0)は、時刻t0における二次電池の内部抵抗であり、Rm(ini)は、初期状態にある二次電池の内部抵抗である。
上述した推定方法を用いたときの摩耗劣化係数Kcの挙動について、図1を用いて説明する。図1は、摩耗劣化係数Kcの挙動を示す一例である。
図1に示すように、二次電池が初期状態(時刻ini)にあるとき、摩耗劣化係数Kcは、1である。同様に、二次電池が初期状態(時刻ini)にあるとき、摩耗劣化係数Kbは、1であり、摩耗劣化係数ΔKaは、0である。時刻t0において、摩耗劣化の学習が行われるまでは、摩耗劣化係数Kbは、1のままである。すなわち、時刻t0までは、上記式(1)に示す摩耗劣化係数Kbは、1のままとなり、摩耗劣化係数Kcは、摩耗劣化係数ΔKaが変化することに応じて変化する。言い換えれば、摩耗劣化係数Kcは、上記式(3)又は上記式(4)によって特定される摩耗劣化係数ΔKaに沿って変化することになる。
時刻t0において、摩耗劣化の学習が行われると、摩耗劣化係数Kbが算出される。具体的には、時刻t0において、二次電池の内部抵抗Rrを測定することにより、摩耗劣化係数Kbを算出することができる。時刻t0では、時刻iniから時間が経過しており、二次電池に摩耗劣化が発生している。このため、摩耗劣化の学習によって得られる摩耗劣化係数Kb(t0)は、1よりも大きな値となる。ここで、時刻t0では、摩耗劣化係数Kcは、摩耗劣化係数Kbと等しくなる。
時刻t0以降では、摩耗劣化係数Kb(t0)を基準として、摩耗劣化係数Kcが算出される。具体的には、上記式(1)に示す摩耗劣化係数Kbとして、摩耗劣化係数Kb(t0)が用いられ、摩耗劣化係数Kb(t0)と、推定した摩耗劣化係数ΔKaとを加算することにより、摩耗劣化係数Kcが算出される。
このように、時刻t0を境界として、上記式(1)に示す摩耗劣化係数Kbで用いられる値が、1からKb(t0)に上昇する。ここで、時刻t0の前後において、摩耗劣化係数ΔKaの算出式は変わらないため、時刻t0までの摩耗劣化係数ΔKaの変化率(時間に対する変化率)と、時刻t0以降の摩耗劣化係数ΔKaの変化率(時間に対する変化率)とは、等しくなる。
摩耗劣化を学習したときには、現在の摩耗劣化に対応した摩耗劣化係数Kbを取得することができるが、摩耗劣化を学習していないときには、摩耗劣化係数Kbは、変化しないことになる。ここで、時間の経過とともに、二次電池の摩耗劣化は進行するため、摩耗劣化を学習しない間において、摩耗劣化係数Kbは、現在の二次電池における摩耗劣化係数からずれることになる。特に、時間が経過するほど、摩耗劣化係数Kbは、現在の摩耗劣化係数から離れることになる。
このように摩耗劣化係数Kbを取得するだけでは、現在の摩耗劣化に対応した摩耗劣化係数を推定し難くなり、推定精度が低下してしまう。
一方、上記式(3)、(4)に基づいて、摩耗劣化係数ΔKaを算出するときには、上述したように、電池温度T、電流IおよびSOCを取得する必要がある。ここで、電池温度Tには、温度センサによる検出誤差が含まれ、電流Iには、電流センサによる検出誤差が含まれてしまう。また、SOCには、推定誤差が含まれてしまう。このような誤差によって、上記式(3)、(4)から算出された摩耗劣化係数ΔKaは、現在の摩耗劣化に対応した摩耗劣化係数からずれてしまう。
また、上記式(4)から分かるように、摩耗劣化係数ΔKaを算出するたびに、温度センサや電流センサによる検出誤差が積算されてしまう。このように検出誤差が積算されると、上記式(4)から算出された摩耗劣化係数ΔKaは、現在の摩耗劣化に対応した摩耗劣化係数から離れてしまう。
本実施例によれば、摩耗劣化係数Kbを学習するたびに、この摩耗劣化係数Kbを基準として用い、摩耗劣化係数Kbと、上記式(3)、(4)から算出される摩耗劣化係数ΔKaとを用いて、摩耗劣化係数Kcを算出している。摩耗劣化係数ΔKaだけでは、摩耗劣化係数ΔKaが現在の摩耗劣化係数から離れてしまうが、学習した摩耗劣化係数Kbを基準として用いることにより、摩耗劣化係数Kcを現在の摩耗劣化係数に近づけることができる。すなわち、現在の摩耗劣化係数を推定する精度を向上させることができる。
次に、摩耗劣化を学習する方法について説明する。ハイレート劣化は、塩濃度の偏りによって発生するため、塩濃度の偏りが緩和すれば、ハイレート劣化を解消させることができる。ここで、二次電池を放置することにより、塩濃度の偏りを緩和することができる。二次電池を放置することとは、二次電池に電流を流さずに放置することである。塩濃度の偏りが緩和される時間(例えば、最大値)を実験などによって予め決めておけば、二次電池の放置時間が緩和時間を超えたことを確認することにより、ハイレート劣化が解消されたことを判別することができる。
ハイレート劣化が解消されたことを判別した後に、二次電池の内部抵抗Rrを測定することにより、摩耗劣化係数Kbを算出することができる。図1に示す時刻t0では、ハイレート劣化が解消されており、摩耗劣化係数Kbが算出されている。
図2は、本実施例の電池システムの構成を示す図である。図2に示す電池システムは、車両に搭載することができる。車両としては、HV(Hybrid Vehicle)、PHV(Plug-in Hybrid Vehicle)およびEV(Electric Vehicle)がある。HVは、車両を走行させるための動力源として、後述する組電池に加えて、内燃機関又は燃料電池といった他の動力源を備えている。PHVでは、HVにおいて、外部電源からの電力を用いて組電池を充電できる。EVは、車両の動力源として、組電池だけを備えている。
組電池100は、直列に接続された複数の二次電池10を有する。二次電池10の数は、組電池100の要求出力などに基づいて、適宜設定することができる。監視ユニット21は、組電池100の端子間電圧を検出したり、二次電池10の電圧Vbを検出したりする。監視ユニット21の検出結果は、コントローラ30に出力される。
電流センサ22は、組電池100に流れる電流Ibを検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。ここで、充電電流Ibを正の値とし、放電電流Ibを負の値としている。温度センサ23は、組電池100の温度Tbを検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。
コントローラ30は、メモリ30aを有しており、メモリ30aは、コントローラ30が所定処理(例えば、本実施例で説明する処理)を行うための各種の情報を記憶している。本実施例では、メモリ30aが、コントローラ30に内蔵されているが、コントローラ30の外部にメモリ30aを設けることもできる。
組電池100の正極端子には、システムメインリレーSMR−Bが接続されている。システムメインリレーSMR−Bは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。組電池100の負極端子には、システムメインリレーSMR−Gが接続されている。システムメインリレーSMR−Gは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。
システムメインリレーSMR−Gには、システムメインリレーSMR−Pおよび電流制限抵抗24が並列に接続されている。システムメインリレーSMR−Pおよび電流制限抵抗24は、直列に接続されている。システムメインリレーSMR−Pは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。電流制限抵抗24は、組電池100を負荷(具体的には、インバータ31)と接続するときに、突入電流が流れるのを抑制するために用いられる。
組電池100をインバータ31と接続するとき、コントローラ30は、まず、システムメインリレーSMR−Bをオフからオンに切り替えるとともに、システムメインリレーSMR−Pをオフからオンに切り替える。これにより、電流制限抵抗24に電流が流れることになる。
次に、コントローラ30は、システムメインリレーSMR−Gをオフからオンに切り替えた後に、システムメインリレーSMR−Pをオンからオフに切り替える。これにより、組電池100およびインバータ31の接続が完了し、電池システムは、起動状態(Ready-On)となる。コントローラ30には、イグニッションスイッチのオン/オフに関する情報が入力され、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わることに応じて、電池システムを起動する。
一方、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わったとき、コントローラ30は、システムメインリレーSMR−B,SMR−Gをオンからオフに切り替える。これにより、組電池100およびインバータ31の接続が遮断され、電池システムは、停止状態(Ready-Off)となる。
インバータ31は、組電池100からの直流電力を交流電力に変換し、交流電力をモータ・ジェネレータ32に出力する。モータ・ジェネレータ32としては、例えば、三相交流モータを用いることができる。モータ・ジェネレータ32は、インバータ31からの交流電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータ32によって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。
車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータ32は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。インバータ31は、モータ・ジェネレータ32が生成した交流電力を直流電力に変換し、直流電力を組電池100に出力する。これにより、組電池100は、回生電力を蓄えることができる。
本実施例では、組電池100をインバータ31に接続しているが、これに限るものではない。具体的には、組電池100を昇圧回路に接続し、昇圧回路をインバータ31に接続することができる。昇圧回路を用いることにより、組電池100の出力電圧を昇圧することができる。また、昇圧回路は、インバータ31から組電池100への出力電圧を降圧することができる。
図3は、摩耗劣化係数ΔKaを算出する処理を示すフローチャートである。図3に示す処理は、コントローラ30によって実行される。
ステップS101において、コントローラ30は、タイマを用いて、二次電池10を放置しているときの時間t1を計測する。時間t1は、二次電池10に電流が流れている時間である。また、コントローラ30は、温度センサ23の出力に基づいて、二次電池10の温度Tb1を取得する。二次電池10の温度Tbは、時間の経過とともに変化することもあり、温度Tbが変化するときには、温度Tb1として、平均値を用いることができる。さらに、ステップS101において、コントローラ30は、二次電池10のSOCを算出する。
ステップS102において、コントローラ30は、ステップS101で取得した計測時間t1が所定時間Δt_th1以上であるか否かを判別する。計測時間t1が所定時間Δt_th1以上であるとき、コントローラ30は、ステップS103の処理を行う。一方、計測時間t1が所定時間Δt_th1よりも短いとき、コントローラ30は、ステップS101の処理を継続する。
ステップS103において、コントローラ30は、上記式(3)に示す係数ΔKa1を算出する。係数ΔKa1は、温度およびSOCに依存するため、ステップS101の処理で取得した電池温度Tb1およびSOCから、係数ΔKa1を算出することができる。
ここで、上記式(4)に示す係数A1,λ1は、SOCに依存するため、係数A1,λ1およびSOCの対応関係を実験などによって予め特定しておけば、SOCから係数A1,λ1を特定することができる。係数A1,λ1およびSOCの対応関係を示す情報は、メモリ30aに記憶しておくことができる。上記式(4)に示す第2項に、係数A1,λ1、電池温度Tb1および時間Δt(=Δt_th1)を代入すれば、係数ΔKa1を算出することができる。
ステップS104において、コントローラ30は、計測時間t1をクリア(ゼロ)にする。図3に示す処理を次回に行うとき、ステップS101の処理では、クリアにされた状態から時間t1を計測することになる。
ステップS105において、コントローラ30は、組電池100(二次電池10)に電流が流れているか否かを判別する。具体的には、コントローラ30は、電流センサ22の出力に基づいて、二次電池10に電流が流れているか否かを判別することができる。二次電池10に電流が流れているとき、コントローラ30は、ステップS106の処理を行う。一方、二次電池10に電流が流れていないとき、コントローラ30は、ステップS110の処理を行う。
ステップS106において、コントローラ30は、タイマを用いて、二次電池10に電流が流れているときの時間t2を計測する。また、コントローラ30は、温度センサ23の出力に基づいて、二次電池10の温度Tb2を取得する。二次電池10の温度Tbは、時間の経過とともに変化することもあり、温度Tbが変化するときには、温度Tb2として、平均値を用いることができる。
さらに、ステップS106において、コントローラ30は、二次電池10のSOCを算出する。また、コントローラ30は、二次電池10に電流が流れているときの通電量ΔAhを算出する。通電量ΔAhは、電流センサ22によって検出された電流Ibを積算することによって算出することができる。
ステップS107において、コントローラ30は、ステップS106の処理で取得した計測時間t2が所定時間Δt_th2以上であるか否かを判別する。ここで、所定時間Δt_th2は、ステップS102の処理で用いられる所定時間Δt_th1と同じであってもよいし、異なっていてもよい。計測時間t2が所定時間Δt_th2以上であるとき、コントローラ30は、ステップS108の処理を行う。一方、計測時間t2が所定時間Δt_th2よりも短いとき、コントローラ30は、ステップS106の処理を継続する。
ステップS108において、コントローラ30は、上記式(3)に示す係数ΔKa2を算出する。係数ΔKa2は、温度、SOCおよび電流(通電量)に依存するため、ステップS106の処理で取得した電池温度Tb2、SOCおよび通電量ΔAhから、係数ΔKa2を算出することができる。
ここで、上記式(4)に示す係数A2,λ2は、SOCに依存するため、係数A2,λ2およびSOCの対応関係を実験などによって予め特定しておけば、SOCから係数A2,λ2を特定することができる。係数A2,λ2およびSOCの対応関係を示す情報は、メモリ30aに記憶しておくことができる。上記式(4)に示す第3項に、係数A2,λ2、電池温度Tb2、電流I(=通電量ΔAh)および時間Δt(=Δt_th2)を代入すれば、係数ΔKa2を算出することができる。
ステップS109において、コントローラ30は、計測時間t2および通電量ΔAhをクリア(ゼロ)にする。図3に示す処理を次回に行うとき、ステップS106の処理では、クリアにされた状態において、時間t2を計測したり、通電量ΔAhを算出したりする。
ステップS110において、コントローラ30は、ステップS103の処理で算出した係数ΔKa1と、ステップS108の処理で算出した係数ΔKa2とを上記式(3)に代入することにより、摩耗劣化係数ΔKaを算出する。上記式(3)、(4)に示すΔKa(t)としては、1が用いられる。ここで、二次電池10に電流が流れているときには、係数ΔKa1,ΔKa2に基づいて、摩耗劣化係数ΔKaが算出される。一方、二次電池10に電流が流れていないときには、係数ΔKa1だけに基づいて、摩耗劣化係数ΔKaが算出される。すなわち、ΔKa2は0となる。
図4は、摩耗劣化係数Kcを算出する処理を示すフローチャートである。図4に示す処理は、コントローラ30によって実行される。
ステップS201において、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオフであるか否かを判別する。イグニッションスイッチがオフであれば、コントローラ30は、ステップS202の処理を行う。一方、イグニッションスイッチがオンであれば、コントローラ30は、ステップS207の処理を行う。
ステップS202において、コントローラ30は、タイマを用いて時間t3の計測を行う。時間t3は、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わったタイミングから、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わるタイミングまでの時間である。すなわち、時間t3は、二次電池10を放置している時間となる。
ステップS203において、コントローラ30は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わったか否かを判別する。イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わっていなければ、ステップS202の処理を継続して行う。イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わると、コントローラ30は、ステップS204の処理を行う。
ステップS204において、コントローラ30は、ステップS202の処理で得られた計測時間t3が放置時間trestを超えているか否かを判別する。放置時間trestとは、上述したように、ハイレート劣化が解消されるまでの時間であり、実験などにより、予め定めておくことができる。放置時間trestに関する情報は、メモリ30aに記憶することができる。計測時間t3が放置時間trestよりも短いとき、コントローラ30は、ステップS207の処理を行う。
一方、計測時間t3が放置時間trestよりも長いとき、コントローラ30は、ステップS205において、ハイレート劣化が解消されていると判別する。ステップS206において、コントローラ30は、図1で説明したように摩耗劣化係数Kbを学習し、摩耗劣化係数Kcの算出に用いられる摩耗劣化係数Kbを学習後の値に更新する。更新される摩耗劣化係数Kbに関する情報は、メモリ30aに記憶することができる。
ステップS207において、コントローラ30は、上記式(1)に基づいて、摩耗劣化係数Kcを算出する。すなわち、摩耗劣化係数Kbの学習が次に行われるまでは、今回更新された摩耗劣化係数Kbを基準とし、上記式(1)に基づいて、摩耗劣化係数Kcが算出される。ここで、ステップS201又はステップS204の処理からステップS207の処理に進むときには、ステップS206の処理(摩耗劣化係数Kbの学習)が行われていないため、摩耗劣化係数Kcを算出するときには、更新されていない摩耗劣化係数Kbが用いられる。
例えば、図1において、時刻t0までは、摩耗劣化係数Kbの学習が行われないため、摩耗劣化係数Kcを算出するときには、摩耗劣化係数Kbとして、1が用いられる。時刻t0において、摩耗劣化係数Kbの学習が行われると、摩耗劣化係数Kbが更新され、時刻t0以降では、最新の摩耗劣化係数Kbを用いて、摩耗劣化係数Kcが算出される。
本実施例によれば、学習値としての摩耗劣化係数Kbと、アレニウスの式に基づいて特定される摩耗劣化係数ΔKaとを用いて摩耗劣化係数Kcを算出することにより、摩耗劣化係数Kcを実際の摩耗劣化に対応した摩耗劣化係数に近づけることができ、摩耗劣化係数の推定精度を向上させることができる。摩耗劣化係数ΔKaが実際の摩耗劣化係数から離れても、摩耗劣化係数Kbの学習を行ったときには、摩耗劣化係数Kbを基準として摩耗劣化係数ΔKaが算出されるため、摩耗劣化係数Kcを実際の摩耗劣化係数に近づけることができる。
本発明の実施例2について説明する。本実施例では、実施例1で推定した摩耗劣化係数Kcに基づいて、ハイレート劣化を推定するものである。二次電池10の劣化には、摩耗劣化およびハイレート劣化が含まれることがあり、摩耗劣化を精度良く推定できれば、ハイレート劣化も精度良く推定することができる。
まず、本実施例で用いられる電池モデルについて説明する。
図5は、二次電池10の構成を示す概略図である。ここでは、二次電池10の一例として、リチウムイオン二次電池を用いている。二次電池10は、負極(電極ともいう)12と、セパレータ14と、正極(電極ともいう)15とを有する。セパレータ14は、負極12および正極15の間に位置しており、電解液を含んでいる。図5に示す座標軸xは、電極の厚み方向における位置を示す。
負極12および正極15のそれぞれは、球状の活物質18の集合体で構成されている。二次電池10を放電するとき、負極12の活物質18の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を放出する化学反応が行われる。また、正極15の活物質18の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を吸収する化学反応が行われる。
負極12は、銅などで構成された集電板13を有しており、集電板13は、二次電池10の負極端子11nと電気的に接続されている。正極15は、アルミニウムなどで構成された集電板16を有しており、集電板16は、二次電池10の正極端子11pと電気的に接続されている。負極12および正極15の間でのリチウムイオンLi+の授受によって、二次電池10の充放電が行われ、充電電流Ib(<0)または放電電流Ib(>0)が生じる。
二次電池10の放電時において、負極12から放出されたリチウムイオンは、拡散および泳動によって正極15に移動して、正極15に吸収される。このとき、電解液内におけるリチウムイオンの拡散に遅れが生じると、負極12内の電解液では、リチウムイオン濃度(すなわち電解液の塩濃度)が増加する。一方、正極15内の電解液では、リチウムイオン濃度が減少する。この様子を図6に示す。図6に示した平均塩濃度とは、二次電池10の全体において、電解液の塩濃度が均一になったときの値である。例えば、二次電池10の長時間の放置によって、電解液の塩濃度を均一にすることができる。
図7は、電解液塩濃度および反応抵抗の関係を示す。反応抵抗は、活物質18の界面において反応電流が発生したときに、等価的に電気抵抗として作用する抵抗であり、言い換えれば、電極表面におけるリチウムイオンの出入りに関する抵抗成分である。反応抵抗は、電荷移動抵抗とも呼ばれる。
図7に示す特性によれば、反応抵抗は、電解液塩濃度の関数であることが分かる。特に、電解液塩濃度が閾値cthよりも高い領域では、電解液塩濃度の変化に対して反応抵抗の変化は緩やかである。また、電解液塩濃度が閾値cthよりも低い領域では、電解液塩濃度の変化に対して反応抵抗の変化が急である。すなわち、電解液塩濃度が閾値cthよりも低い領域では、電解液塩濃度が閾値cthよりも高い領域と比較して、電解液塩濃度に対する反応抵抗の変化率が大きい。
図6および図7を考慮すると、放電時に正極15内での電解液塩濃度が減少した場合であっても、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも高いときには、反応抵抗の低下はほとんど生じないことが分かる。一方、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも低いときには、正極15内での電解液塩濃度の低下は、反応抵抗の増加を招くことが分かる。
このような反応抵抗の増加の要因として、例えば、図8Aに示すように、電解液の平均塩濃度が低下することによって、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも低くなることが考えられる。また、例えば、図8Bに示すように、放電が繰り返されて累積的に正極15内の電解液塩濃度が低下することによって、正極15内の電解液塩濃度が閾値cthよりも低くなることが考えられる。
放電時に正極15内の電解液塩濃度が低下することによって、反応抵抗が上昇する場合を例示したが、充電時にも、負極12内の電解液塩濃度が低下することによって、反応抵抗が上昇する。
反応抵抗と、電極12,15での電子e-の移動に対する純電気的な抵抗(純抵抗)とを併せたものが、二次電池10をマクロに見た場合の電池抵抗(内部抵抗)における直流抵抗成分に相当する。
本実施例に用いられる基礎的な電池モデル式は、以下の式(6)〜(16)からなる基礎方程式で表される。図9は、電池モデル式で用いられる変数および定数の一覧表を示す。
以下に説明するモデル式中の変数および定数に関して、添字eは電解液中の値であることを示し、sは活物質中の値であることを示す。添字jは、正極および負極を区別するものであり、jが1であるときには正極における値を示し、jが2であるときには負極における値を示す。正極および負極における変数又は定数を包括的に表記する場合には、添字jを省略する。また、時間の関数であることを示す(t)の表記、電池温度の依存性を示す(T)の表記、あるいは、局所SOCθの依存性を示す(θ)等について、明細書中では表記を省略することもある。変数又は定数に付された記号♯は、平均値を表わす。
上記式(6),(7)は、電極(活物質)における電気化学反応を示す式であり、バトラー・ボルマーの式と呼ばれる。
電解液中のリチウムイオン濃度保存則に関する式として、下記式(8)が成立する。活物質内のリチウム濃度保存則に関する式として、下記式(9)の拡散方程式と、下記式(10),(11)に示す境界条件式が適用される。下記式(10)は、活物質の中心部における境界条件を示し、下記式(11)は、活物質の電解液との界面(以下、単に「界面」ともいう)における境界条件を示す。
活物質界面における局所的なリチウム濃度分布である局所SOCθjは、下記式(12)で定義される。下記式(12)中のcsejは、下記式(13)に示されるように、正極および負極の活物質界面におけるリチウム濃度を示している。csj,maxは、活物質内での限界リチウム濃度を示している。
電解液中の電荷保存則に関する式として、下記式(14)が成立し、活物質中の電荷保存則に関する式として、下記式(15)が成立する。活物質界面での電気化学反応式として、電流密度I(t)と、反応電流密度jj Liとの関係を示す下記式(16)が成立する。
上記式(6)〜(16)の基礎方程式で表される電池モデル式は、以下に説明するように、簡易化することができる。電池モデル式の簡易化により、演算負荷を低減したり、演算時間を短縮したりすることができる。
負極12および正極15のそれぞれにおける電気化学反応を一様なものと仮定する。すなわち、各電極12,15において、x方向における反応が均一に生じるものと仮定する。また、各電極12,15に含まれる複数の活物質18での反応が均一と仮定するので、各電極12,15の活物質18を、1個の活物質モデルとして取り扱う。これにより、図5に示す二次電池の構造は、図10に示す構造にモデリングすることができる。
図10に示す電池モデルでは、活物質モデル18p(j=1)および活物質モデル18n(j=2)の表面における電極反応をモデリングすることができる。また、図10に示す電池モデルでは、活物質モデル18p,18nの内部におけるリチウムの拡散(径方向)と、電解液中のリチウムイオンの拡散(濃度分布)とをモデリングすることができる。さらに、図10に示す電池モデルの各部位において、電位分布や温度分布をモデリングすることができる。
図11に示すように、各活物質モデル18p,18nの内部におけるリチウム濃度csは、活物質モデル18p,18nの半径方向の座標r(r:各点の中心からの距離、rs:活物質の半径)上での関数として表すことができる。ここで、活物質モデル18p,18nの周方向における位置依存性は、無いものと仮定している。図11に示す活物質モデル18p,18nは、界面での電気化学反応に伴う、活物質の内部におけるリチウム拡散現象を推定するために用いられる。活物質モデル18p,18nの径方向にN分割(N:2以上の自然数)された各領域(k=1〜N)について、リチウム濃度cs,k(t)が、後述する拡散方程式に従って推定される。
図10に示す電池モデルによれば、基礎方程式(6)〜(11),(13)は、下記式(6’)〜(11’),(13’)で表すことができる。
上記式(8’)では、電解液の濃度を時間に対して不変と仮定することによって、cej(t)が一定値であると仮定する。また、活物質モデル18n,18pに対しては、拡散方程式(9)〜(11)が極座標方向の分布のみを考慮して、拡散方程式(9’)〜(11’)に変形される。上記式(13’)において、活物質の界面におけるリチウム濃度csejは、図11に示したN分割領域のうちの最外周の領域におけるリチウム濃度csi(t)に対応する。
電界液中の電荷保存則に関する上記式(14)は、上記式(8’)を用いて、下記式(17)に簡易化される。すなわち、電解液の電位φejは、xの二次関数として近似される。過電圧ηj♯の算出に用いる電解液中の平均電位φej♯は、下記式(17)を電極厚さLjで積分した下記式(18)によって求められる。
負極12については、下記式(17)に基づいて、下記式(19)が成立する。このため、電解液平均電位φe2♯と、負極12およびセパレータ14の境界における電解液電位との電位差は、下記式(20)で表される。正極15については、電解液平均電位φe1♯と、正極15およびセパレータ14の境界における電解液電位との電位差は、下記式(21)で表される。
活物質中の電荷保存則に関する上記式(15)についても、下記式(22)に簡易化することができる。すなわち、活物質の電位φsjについても、xの二次関数として近似される。過電圧ηj♯の算出に用いる活物質中の平均電位φsj♯は、下記式(22)を電極厚さLjで積分した下記式(23)によって求められる。このため、正極15に関して、活物質平均電位φs1♯と、活物質モデル18pおよび集電板16の境界における活物質電位との電位差は、下記式(24)で示される。同様に、負極12については、下記式(25)が成立する。
図12は、二次電池10の端子電圧V(t)と、上述したように求めた各平均電位との関係を示す。図12において、セパレータ14では、反応電流密度jj Liが0であるため、セパレータ14での電圧降下は、電流密度I(t)に比例し、Ls/κs eff・I(t)となる。
また、各電極中における電気化学反応を一様と仮定したことにより、極板の単位面積当たりの電流密度I(t)と反応電流密度(リチウム生成量)jj Liとの間には、下記式(26)が成立する。
図12に示す電位関係および上記式(26)に基づいて、電池電圧V(t)については、下記式(27)が成立する。下記式(27)は、図12に示す式(28)の電位関係式を前提とする。
次に、平均過電圧η♯(t)を算出する。jj Liを一定にするとともに、バトラー・ボルマーの関係式において、充放電効率を同一として、αajおよびαcjを0.5とすると、下記式(29)が成立する。下記式(29)を逆変換することにより、平均過電圧η♯(t)は、下記式(30)により求められる。
図12を用いて平均電位φs1、φs2を求め、求めた値を上記式(27)に代入する。また、上記式(30)から求めた平均過電圧η1♯(t)、η2♯(t)を上記式(28)に代入する。この結果、上記式(6’)、(26)および上記式(7’)に基づいて、電気化学反応モデル式に従った電圧−電流関係モデル式(M1a)が導出される。
リチウム濃度保存則(拡散方程式)である上記式(9’)および境界条件式(10’),(11’)によって、活物質モデル18p,18nについての活物質拡散モデル式(M2a)が求められる。
モデル式(M1a)の右辺第1項は、活物質表面での反応物質(リチウム)濃度により決定される開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を示し、右辺第2項は、過電圧(η1♯−η2♯)を示し、右辺第3項は、二次電池に電流が流れることによる電圧降下を示す。すなわち、二次電池10の直流純抵抗が,式(M2a)中のRd(T)で表わされる。
式(M2a)において、反応物質であるリチウムの拡散速度を規定するパラメータとして用いられる拡散係数Ds1、Ds2は温度依存性を有する。したがって、拡散係数Ds1、Ds2は、例えば、図13に示すマップを用いて設定することができる。図13に示すマップは、予め取得しておくことができる。図13において、横軸の電池温度Tは、温度センサ23を用いて取得された温度である。図13に示すように、拡散係数Ds1、Ds2は、電池温度の低下に応じて低下する。言い換えれば、拡散係数Ds1、Ds2は、電池温度の上昇に応じて上昇する。
拡散係数Ds1、Ds2について、温度の依存性だけでなく、局所SOCθの依存性を考慮してもよい。この場合、電池温度T、局所SOCθおよび拡散係数Ds1、Ds2の関係を示すマップを予め用意しておけばよい。
式(M1a)に含まれる開放電圧U1は、図14Aに示すように、局所SOCθの上昇に応じて低下する。また、開放電圧U2は、図14Bに示すように、局所SOCθの上昇に応じて上昇する。図14Aおよび図14Bに示すマップを予め用意しておけば、局所SOCθに対応した開放電圧U1、U2を特定することができる。
式(M1a)に含まれる交換電流密度i01、i02は、局所SOCθおよび電池温度Tの依存性を有する。したがって、交換電流密度i01、i02、局所SOCθおよび電池温度Tの関係を示すマップを予め用意しておけば、局所SOCθおよび電池温度Tから、交換電流密度i01、i02を特定することができる。
直流純抵抗Rdは、温度の依存性を有する。したがって、直流純抵抗Rdおよび電池温度Tの関係を示すマップを予め用意しておけば、電池温度Tから直流純抵抗Rdを特定することができる。なお、上述したマップについては、二次電池10に関する周知の交流インピーダンス測定等の実験結果に基づいて作成することができる。
図10に示す電池モデルは、さらに簡略化することができる。具体的には、電極12,15の活物質として、共通の活物質モデルを用いることができる。図10に示す活物質モデル18n,18pを、1つの活物質モデルとして扱うことにより、下記式(31)に示すような式の置き換えができる。下記式(31)では、正極15および負極12の区別を示す添字jが省略される。
モデル式(M1a)、(M2a)は、下記式(M1b)、(M2b)で表すことができる。また、1つの活物質モデルを用いた電池モデルでは、電流密度I(t)および反応電流密度jj Liの関係式として、上記式(26)の代わりに、下記式(26’)が適用される。
上記式(M1a)中のarcsinh項を一次近似(線形近似)することにより、下記式(M1c)が得られる。このように線形近似することにより、演算負荷を低減したり、演算時間を短縮したりすることができる。
上記式(M1c)では、線形近似の結果、右辺第2項も、電流密度I(t)および反応抵抗Rrの積で示される。反応抵抗Rrは、上記式(32)に示されるように、局所SOCθおよび電池温度Tに依存する交換電流密度i01,i02から算出される。したがって、上記式(M1c)を用いるときには、局所SOCθ、電池温度Tおよび交換電流密度i01,i02の関係を示すマップを予め用意しておけばよい。上記式(M1c)および上記式(32)によれば、上記式(33)が得られる。
上記式(M1b)における右辺第2項のarcsinh項を線形近似すれば、下記式(M1d)が得られる。
上記式(M1b)は、下記式(M1e)として表すことができる。
上記式(M1e)に含まれる抵抗変化率grは、下記式(34)で示される。
上記式(34)において、Ranは、初期状態における二次電池10の抵抗であり、Raは、使用後(充放電後)における二次電池10の抵抗である。ここで、抵抗Ranは、初期状態における二次電池10の抵抗に限るものではない。抵抗Ranは、抵抗Raの変化に対して基準となる値(固定値)であればよい。例えば、二次電池10を製造した直後における抵抗と、二次電池10の劣化が最大であるときの抵抗(推定値)との間の値(任意)を、抵抗Ranとして設定することができる。
抵抗は、二次電池10の使用に伴う経年的な劣化に応じて変化するため、抵抗Raは、抵抗Ranよりも高くなる。したがって、抵抗変化率grは、1よりも大きな値となる。
上記式(M1e)は、一次近似(線形近似)することにより、下記式(M1f)で表される。
図15は、コントローラ30の内部構成を示す概略図である。電池状態推定部300は、拡散推定部301と、開放電圧推定部302と、電流推定部303と、パラメータ設定部304と、境界条件設定部305とを含む。図15に示す構成において、電池状態推定部300は、上記式(M1f)および上記式(M2b)を用いることにより、電流密度I(t)を算出する。
本実施例では、上記式(M1f)を用いて電流密度I(t)を算出しているが、これに限るものではない。具体的には、上記式(M1a)〜上記式(M1e)のいずれかと、上記式(M2a)又は上記式(M2b)との任意の組み合わせに基づいて、電流密度I(t)を算出することができる。本実施例では、抵抗変化率grを用いているため、上記式(M1a)〜上記式(M1d)を用いるときには、これらの式のうち、arcsinh項又は、arcsinh項を一次近似(直線近似)した項において、電流密度I(t)に抵抗変化率grを乗算するものとする。
拡散推定部301は、上記式(M2b)を用い、境界条件設定部305で設定された境界条件に基づいて、活物質内部でのリチウム濃度分布を算出する。境界条件は、上記式(10’)又は上記式(11’)に基づいて設定される。拡散推定部301は、上記式(12)を用い、算出したリチウム濃度分布に基づいて局所SOCθを算出する。拡散推定部301は、局所SOCθに関する情報を開放電圧推定部302に出力する。
開放電圧推定部302は、拡散推定部301が算出した局所SOCθに基づいて、各電極12,15の開放電圧U1,U2を特定する。具体的には、開放電圧推定部302は、図14Aおよび図14Bに示すマップを用いることにより、開放電圧U1,U2を特定することができる。開放電圧推定部302は、開放電圧U1,U2に基づいて、二次電池10の開放電圧を算出することができる。二次電池10の開放電圧は、開放電圧U1から開放電圧U2を減算することによって得られる。
パラメータ設定部304は、電池温度Tbおよび局所SOCθに応じて、電池モデル式で用いられるパラメータを設定する。電池温度Tbとしては、温度センサ23による検出温度Tbを用いる。局所SOCθは、拡散推定部301から取得される。パラメータ設定部304で設定されるパラメータとしては、上記式(M2b)中の拡散定数Ds、上記式(M1f)中の電流密度i0および直流抵抗Rdがある。
電流推定部303は、下記式(M3a)を用いて、電流密度I(t)を算出(推定)する。下記式(M3a)は、上記式(M1f)を変形した式である。下記式(M3a)において、開放電圧U(θ,t)は、開放電圧推定部302で推定された開放電圧U(θ)である。電圧V(t)は、監視ユニット21を用いて取得した電池電圧Vbである。Rd(t)およびi0(θ,T,t)は、パラメータ設定部304で設定された値である。下記式(M3a)中のgrは、抵抗変化率算出部306が算出した抵抗変化率grである。
なお、上記式(M1a)〜上記式(M1e)のいずれかの式を用いる場合であっても、上述した式(M3a)と同様の方法によって、電流密度I(t)を算出することができる。
境界条件設定部305は、上記式(26)又は上記式(26’)を用いて、電流推定部303によって算出された電流密度I(t)から反応電流密度(リチウム生成量)jj Liを算出する。そして、境界条件設定部305は、上記式(11’)を用いて、上記式(M2b)における境界条件を更新する。抵抗変化率算出部306は、上記式(34)で表される抵抗変化率grを算出する。
抵抗Raは、局所SOCθおよび電池温度Tbの変化に応じて変化する。したがって、初期状態にある二次電池10を用いた実験を行うことにより、抵抗Ra、局所SOCθおよび電池温度Tbの関係を示すマップを予め取得しておくことができる。このマップは、メモリ30aに記憶することができる。抵抗Raは、局所SOCθや電池温度Tbの変化だけでなく、二次電池10の使用(充放電)に伴う経年劣化によっても変化する。
抵抗変化率算出部306は、下記式(35)を用いて、抵抗変化率grを算出する。抵抗変化率算出部306は、算出した抵抗変化率grに関する情報を、電流推定部303、判別部307および抵抗上昇量推定部310に出力する。
上記式(35)において、開放電圧U(θ)は、開放電圧推定部302によって推定された値であり、V(t)は、監視ユニット21から得られた電池電圧Vbである。Ranは、電池温度Tbおよび局所SOCθを特定することにより、電池温度Tb、局所SOCθおよび抵抗Raの関係を示すマップから特定される値である。電流密度I(t)は、電流センサ22による測定電流Ibを単位極板面積で除算した値である。
判別部307は、タイマ307aを備えており、ハイレート劣化が解消されたか否かを判別する。判別部307は、二次電池10を放置している間の計測時間が、予め定められた放置時間trestを超えているか否かを判別し、計測時間が放置時間trestを超えているときには、ハイレート劣化が解消されていると判別する。判別部307には、イグニッションスイッチのオン/オフに関する情報が入力され、イグニッションスイッチがオンからオフに切り替わったときに、判別部307は、二次電池10が放置されていると判別する。
記憶部308は、ハイレート劣化が解消されているときの抵抗変化率gr(以下、gr(t0)という)を記憶する。ここで、t0は、実施例1(図1)で説明した時刻t0に対応している。抵抗変化率gr(t0)は、抵抗変化率算出部306によって算出された値である。摩耗劣化推定部309は、記憶部308に記憶された抵抗変化率gr(t0)と、摩耗劣化係数ΔKaとを用いて、抵抗変化率gr(t0)’を算出する。抵抗変化率gr(t0)’を算出する方法について、以下に説明する。ここで、摩耗劣化係数ΔKaは、実施例1で説明した方法によって算出され、摩耗劣化係数ΔKaに関する情報は、摩耗劣化推定部309に入力される。
まず、抵抗変化率gr(t0)を摩耗劣化係数Kbに変換する。ここで、抵抗変化率gr(t0)および摩耗劣化係数Kbは、ハイレート劣化が解消された状態で得られる値であり、相関関係がある。実施例1で説明した上記式(5)から分かるように、摩耗劣化係数Kbは、内部抵抗Rm(t0)および内部抵抗Rm(ini)の比として表される。
上記式(M1f)から、二次電池10の内部抵抗Rmは、下記式(36)で表される。下記式(36)において、Rdは、直流抵抗を示し、Rcは、反応抵抗を示す。
上記式(36)によれば、摩耗劣化係数Kbは、下記式(37)で表される。
上記式(37)によれば、記憶部308に記憶された抵抗変化率gr(t0)を用いることにより、摩耗劣化係数Kb(t0)を算出することができる。ここで、時刻iniにおける抵抗変化率grとしては、予め定められた値が用いられる。具体的には、時刻t0,iniにおける電池温度Tから、直流抵抗Rdを特定することができる。また、時刻t0,iniにおける電池温度、抵抗変化率grおよび局所SOCθから、反応抵抗Rcを特定することができる。時刻t0,iniにおける直流抵抗Rdおよび反応抵抗Rcを特定することにより、摩耗劣化係数Kb(t0)を算出することができる。
実施例1で説明したように、摩耗劣化係数Kbおよび摩耗劣化係数ΔKaを加算することにより、現在の摩耗劣化係数Kcを算出することができる。摩耗劣化推定部309は、上述したように、抵抗変化率gr(t0)から摩耗劣化係数Kbを算出するとともに、算出した摩耗劣化係数Kbを、入力された摩耗劣化係数ΔKaに加算することにより、摩耗劣化係数Kcを算出する。
また、摩耗劣化推定部309は、下記式(38)を用いることにより、摩耗劣化係数Kcから抵抗変化率gr(t0)’を算出する。
上記式(38)から分かるように、抵抗変化率gr(t0)’は、摩耗劣化係数ΔKa,Kbを考慮した値となる。すなわち、抵抗変化率gr(t0)’は、実施例1(図1)で説明した摩耗劣化係数Kcに対応した値となる。摩耗劣化推定部309は、算出した抵抗変化率gr(t0)’を抵抗上昇量推定部310に出力する。
抵抗上昇量推定部310は、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出(推定)する。ハイレート抵抗上昇量ΔRhとは、ハイレート劣化に伴う内部抵抗の上昇量である。電流推定部303で推定された電流密度(推定電流密度という)I(t)と、電流センサ22の測定電流Ibから得られる電流密度(測定電流密度という)I(t)との間に誤差が発生したときに、ハイレート劣化を観測できる。推定電流密度I(t)および測定電流密度I(t)は、同一のタイミングで得られる電流密度である。ハイレート劣化の観測方法に関して、以下に説明する。
上述した電池モデルでは、すべての電流が活物質18を流れて電気化学反応に関与するとの前提で導出されている。しかしながら、実際には、特に低温時等において、電解液および活物質の界面に電気二重層キャパシタが生じることにより、電池電流が、電気化学反応に関与する電気化学反応電流成分と、キャパシタを流れるキャパシタ電流成分とに分流されることがある。この場合には、キャパシタ電流成分を電気化学反応電流成分と分離するように、電池モデル式を構成するのが好ましい。
上述した基礎的な電池モデルでは、電極12,15の表面におけるリチウムイオンの反応、電極12,15の活物質18におけるリチウムイオンの拡散、および電解液でのリチウムイオンの拡散がモデル化されている。これに対し、電池状態推定部300に適用される簡易化された電池モデルは、基礎的な電池モデルにおいて、電極厚さ方向の反応は一様であるとする仮定と、電極12,15でのリチウムイオンの濃度は一定であるとする仮定の下で構成されている。
電解液中のリチウムイオンの濃度、すなわち電解液の塩濃度が十分に高い場合には、簡易化された電池モデルでの上記仮定を満足することはできる。電解液の塩濃度が十分に高い場合には、充放電によって電極内の電解液の塩濃度が変化したとしても、この塩濃度の変化が反応抵抗に及ぼす影響が小さい。したがって、電流密度I(t)を精度良く推定することができる。
一方、簡易化された電池モデルでの上記仮定は、電極内の電解液の塩濃度が低い場合に生じる反応抵抗の上昇が考慮されていない。この反応抵抗の上昇を、ハイレート抵抗上昇という。このため、簡易化された電池モデルによって推定された電流密度I(t)と、電流センサ22による検出電流Ibに対応する電流密度との間には、誤差が生じる。
この点を考慮すると、電流密度の誤差に基づいて、ハイレート劣化(指標)を推定することができる。例えば、電解液の塩濃度(リチウムイオン濃度)の拡散方程式を簡易化することにより、電極内の電解液における塩濃度変化は、下記式(39),(40)によって推定することができる。
上記式(39),(40)において、Δceは、負極内における電解液の塩濃度と、正極内における電解液の塩濃度との差である(図6参照)。Deffは、電解液の有効拡散係数であり、εeは、電解液の体積分率であり、t+ 0はリチウムイオンの輸率であり、Fはファラデー定数である。Δtは、電流密度の推定処理を行う時間間隔(時間刻み)であり、Δxは拡散距離(図6参照)である。Tは電池温度であり、I(t)は電流密度である。
例えば、二次電池10を放電するとき、塩濃度差Δceは、図6に示すように、負極での塩濃度の増加量と、正極での塩濃度の減少量との合計となる。塩濃度の増加量および減少量は、平均塩濃度に対する変化量である。
上記式(39)、(40)によって推定された電極間での電解液の塩濃度差Δceと、電流推定誤差(Im−Ir)(Imは推定電流密度、Irは測定電流密度)との相関を図16に示す。図16によれば、塩濃度差Δceが大きくなるときに、電流推定誤差が大きくなる傾向がある。
したがって、塩濃度差Δceが大きいときの電流推定誤差(Im−Ir)の値を、ハイレート劣化として利用することができる。ここで、塩濃度差Δceが大きいという条件としては、例えば、塩濃度差Δceの値が、予め設定された所定値以上であるという条件、または、塩濃度差Δceの値が、予め設定された所定範囲内に存在するという条件がある。本実施例では、推定電流密度Imおよび測定電流密度Irの差分を用いているが、これに限るものではなく、推定電流密度Imおよび測定電流密度Irの比を用いることもできる。
塩濃度差Δceが大きい領域において電流推定誤差(Im−Ir)が発生するのは、電極内での電解液の塩濃度が低下することによって発生する電池抵抗の上昇分が、実際の二次電池10と電池モデルとで異なるからであると考えられる。一方、電池抵抗の上昇を含む電圧変化量ΔVは、実際の二次電池10と電池モデルとで等しい。実際に発現する電池抵抗をRrとし、電池モデルにおける電池抵抗をRmとすると、下記式(41)が成り立つ。
本実施例では、上記式(41)に関連して、下記式(42)を定義する。
ΔV(t1)は、二次電池10の電圧降下量を示す。Ir(t1)は、電流センサ22による検出電流Ibから得られた電流密度であり、Rr(t1)は、検出電流Ibが得られたときの電池抵抗である。Im(t1)は、電流推定部303によって推定された電流密度I(t)であり、Rm(t1)は、電流推定部303によって推定された電流密度I(t)に対応する電池抵抗である。Im(t0)は、二次電池10を放置することによってハイレート劣化が解消したときの電流密度であり、Rm(t0)は、電流密度Im(t0)に対応する電池抵抗である。ここで、t1は、図1に示す時刻t1に対応し、t0は、図1に示す時刻t0に対応する。
上記式(42)において、下記式(43)の関係が成り立つ。
上記式(42)において、電池抵抗Rm(t1)には、ハイレート抵抗上昇量が含まれる可能性があり、電池抵抗Rm(t1)は、ハイレート劣化が発生していないときの電池抵抗Rm(t0)よりも高くなる。
上記式(M1f)によれば、上記式(42)は、下記式(44)で表すことができる。
上記式(44)において、ハイレート劣化に影響を与えない成分に関する値(I×Rd)は省略する。また、温度T(t0)を温度T(t1)と仮定する。このように仮定すると、上記式(44)は、下記式(45)で表される。
上記式(45)は、下記式(46)に変形することができる。
上記式(46)によれば、抵抗変化率gr(t1),gr(t0)を算出しておき、電流推定部303によって電流密度I(t1)を推定すれば、ハイレート劣化が発生していないときの電流密度I(t0)を推定することができる。
ハイレート劣化に伴う抵抗上昇量ΔRhは、下記式(47)で示すように、ハイレート劣化による電池抵抗Rrと、摩耗劣化による電池抵抗Rr0との差分に相当する。
上記式(47)の両辺に電池電流Irを掛ければ、下記式(48)に示すように、ハイレート劣化による電圧降下量ΔVhrを算出することができる。
推定電流密度Imから算出される推定抵抗Rmについて、ハイレート劣化の影響が小さく、無視できるものと仮定すると、抵抗Rr0は、推定抵抗Rmと見なすことができる。このため、上記式(47),(48)は、下記式(49),(50)で表される。
一方、ハイレート劣化は、推定電流Imおよび測定電流Irの誤差として観察できるため、ハイレート劣化に伴う電圧降下量ΔVhmは、下記式(51)で表される。
上記式(51)において、ΔIは、電流推定誤差である。
測定値としての電圧降下量ΔVhrと、推定値としての電圧降下量ΔVhmとが等しいと仮定すると、上記式(49)〜(51)から下記式(52)が得られる。
上記式(52)から下記式(53)が得られる。
また、上記式(42)を用いれば、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を、下記式(54)で表すことができる。
上記式(54)に含まれる補正係数ξは、下記式(55)で表される。
上記式(55)によれば、抵抗変化率gr(t1), gr(t0)と、電流推定部330によって推定された電流密度Im(t1)とに基づいて、ハイレート劣化が発生していないときの電流密度Im(t0)を算出することができる。ここで、抵抗変化率gr(t0)としては、摩耗劣化推定部309によって算出された抵抗変化率gr(t0)’が用いられる。
電流密度Im(t0)を算出すれば、上記式(42)に基づいて、電池抵抗Rm(t0)を算出(推定)することができる。すなわち、電圧降下量ΔV(t1)を電流密度Im(t0)で除算すれば、電池抵抗Rm(t0)を算出することができる。電流密度Im(t0)および電池抵抗Rm(t0)を算出できれば、上記式(54)を用いて、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を算出することができる。
一方、下記式(56)に示すように、ハイレート抵抗上昇率γを定義することができる。ハイレート抵抗上昇率γは、ハイレート劣化を評価するために用いることができる。
ハイレート抵抗上昇率γを用いてハイレート劣化を評価する方法としては、例えば、許容値γlimを設定しておき、ハイレート抵抗上昇率γが許容値γlimを超えているときに、ハイレート劣化が発生していると判定することができる。許容値γlimは、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)と、ハイレート劣化が発生していないときの電池抵抗Rm(t0)とに基づいて設定される。電池抵抗Rm(t0)は、摩耗劣化による抵抗に相当する。ここで、二次電池10の寿命を考慮して、摩耗劣化による抵抗と、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)とを予め決めておけば、許容値γlimを設定することができる。
また、ハイレート抵抗上昇率γが許容値γlimを超えているときには、ハイレート劣化が発生していると判定することができる。ハイレート劣化が発生しているときには、二次電池10の入出力を制限することができる。二次電池10の入出力を制限する場合としては、電圧、電流および電力のうち、少なくとも1つの制御パラメータを制限することができる。入出力を制限する方法については、周知であるため、詳細な説明は省略する。
一方、解消値γaを設定しておくことにより、ハイレート劣化が解消されているか否かを判別することもできる。解消値γaは、許容値γlimよりも低い値であり、予め定めておくことができる。
上記式(56)に示すように、ハイレート抵抗上昇率γを定義することにより、電流密度Im(t1),Ir(t1)を取得するだけで、ハイレート抵抗上昇率γを算出することができ、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出する場合と比べて、演算負荷を低減することができる。
次に、電池状態推定部300の処理について、図17に示すフローチャートを用いて説明する。図17に示す処理は、所定の周期で実行される。
電池状態量推定部300は、ステップS301において、監視ユニット21の出力に基づいて電池電圧Vbを取得し、ステップS302において、温度センサ23の出力に基づいて電池温度Tbを取得する。
ステップS303において、電池状態推定部300(拡散推定部301)は、上記式(M2b)を用いた前回の演算時におけるリチウム濃度分布に基づき、局所SOCθを算出する。ステップS304において、電池状態推定部300(開放電圧推定部302)は、ステップS303で得られた局所SOCθから、開放電圧U(θ)を算出する。
ステップS305において、電池状態推定部300(電流推定部303)は、上記式(M1f)を用いて、電流密度Im(t)を算出(推定)する。推定電流密度Im(t)は、電池電圧Vbと、ステップS303で得られた開放電圧U(θ)と、パラメータ設定部304で設定されたパラメータ値とを、上記式(M3a)に代入することによって得られる。
推定電流密度Im(t)(Im(t1)と同じ)が得られれば、上記式(42)を用いて、推定抵抗Rm(t1)を算出することができる。ここで、抵抗変化率算出部306は、上記式(35)を用いることにより、抵抗変化率grを算出する。
具体的には、上記式(35)において、開放電圧U(θ)として、開放電圧推定部302が推定した値を用い、電圧V(t)として、監視ユニット21から取得した電池電圧Vbを用いることができる。また、電池温度Tb、局所SOCθおよび抵抗Ranの関係を示すマップを用いることにより、電池温度Tbおよび局所SOCθから抵抗Ranを特定することができる。電流密度I(t)としては、電流センサ22による検出電流Ibから特定される電流密度I(t)を用いることができる。
ステップS306において、電池状態推定部300(境界条件設定部305)は、ステップS305で得られた推定電流密度I(t)から反応電流密度(リチウム生成量)jj Liを算出する。また、電池状態推定部300(境界条件設定部305)は、算出した反応電流密度を用いて、上記式(M2b)の活物質界面における境界条件(活物質界面)を設定する。
ステップS307において、電池状態推定部300(拡散推定部301)は、上記式(M2b)を用いて、活物質モデルの内部におけるリチウムイオン濃度分布を算出し、各領域におけるリチウムイオン濃度の推定値を更新する。ここで、最外周の分割領域におけるリチウムイオン濃度(更新値)は、図17に示す処理を次回行うときに、ステップS303における局所SOCθの算出に用いられる。
図18は、抵抗変化率grの学習処理を説明するフローチャートである。図18に示す処理は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わったときに、判別部307によって行われる。図18に示す処理は、実施例1で説明したように、ハイレート劣化が解消されたことを確認した後に行われる。
ステップS401において、判別部307は、イグニッションスイッチがオフからオンに切り替わったタイミングから、タイマ307aを用いた時間t4の計測を行う。ステップS402において、判別部307は、ステップS401で取得した計測時間t4が許容時間taを超えていないか否かを判別する。
許容時間taとは、ハイレート劣化の影響を無視できる時間であり、予め設定することができる。イグニッションスイッチがオンになった直後の時間帯では、ハイレート劣化が発生しにくい状況にあるため、この時間帯を許容時間taとして設定する。許容時間taに関する情報は、予めメモリ30aに記憶しておくことができ、判別部307は、許容時間taに関する情報をメモリ30aから読み出すことができる。
計測時間t4が許容時間taよりも短いとき、判別部307は、ステップS403において、抵抗変化率算出部306によって算出された抵抗変化率gr(t0)を記憶部308に記憶する。判別部307は、抵抗変化率算出部306から抵抗変化率grを取得しており、計測時間t4が許容時間taよりも短いときには、抵抗変化率算出部306から取得した抵抗変化率grを記憶部308に記憶する。
計測時間t4が許容時間taよりも長いとき、判別部307は、抵抗変化率grを記憶部308には記憶させずに、本処理を終了する。計測時間t4が許容時間taよりも長いとき、抵抗変化率算出部306によって算出された抵抗変化率gr(t1)は、抵抗上昇量推定部310に出力される。
次に、現在のハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出する処理について、図19に示すフローチャートを用いて説明する。ここでは、図1に示す時刻t1におけるハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出(推定)する処理について説明する。
ステップS501において、摩耗劣化推定部309は、記憶部308に記憶された抵抗変化率gr(t0)を取得し、抵抗変化率gr(t0)から摩耗劣化係数Kbを算出する。摩耗劣化係数Kbは、上記式(37)を用いて算出することができる。
ステップS502において、摩耗劣化推定部309は、摩耗劣化係数ΔKaを取得するとともに、摩耗劣化係数ΔKaと、ステップS501で算出した摩耗劣化係数Kbとを加算することにより、摩耗劣化係数Kcを算出する。摩耗劣化係数ΔKaは、実施例1で説明した方法によって算出される。
ステップS503において、摩耗劣化推定部309は、ステップS502で算出された摩耗劣化係数Kcに基づいて、抵抗変化率gr(t0)’を算出する。抵抗変化率gr(t0)’は、上記式(38)を用いて算出することができる。ステップS504において、抵抗上昇量推定部310は、抵抗変化率算出部306から取得した抵抗変化率gr(t1)と、摩耗劣化推定部309から取得した抵抗変化率gr(t0)’とを用いて、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出する。
抵抗上昇量推定部310は、抵抗変化率gr(t0)’および抵抗変化率gr(t1)を上記式(55)に代入することにより、補正係数ξを算出する。また、抵抗上昇量推定部310は、上記式(55)を用いて、補正係数ξおよび推定電流密度Im(t1)から推定電流密度Im(t0)を算出する。推定電流密度Im(t0)を算出すれば、上記式(42)から、推定抵抗Rm(t0)を算出することができる。
抵抗上昇量推定部310は、上記式(54)を用いて、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を算出する。具体的には、上記式(54)に対して、測定電流密度Ir(t1)、推定電流密度Im(t1)、補正係数ξおよび推定抵抗Rm(t0)を代入することにより、ハイレート抵抗上昇量ΔRh(t1)を算出することができる。
本実施例によれば、上記式(54)を用いることにより、二次電池10の抵抗上昇量Rrに含まれるハイレート抵抗上昇量ΔRhを特定することができる。ここで、上記式(49)又は上記式(54)によれば、ハイレート劣化が発生していないときの電池抵抗Rmを用いているが、電池抵抗Rmにハイレート抵抗上昇量が含まれているおそれもある。
そこで、本実施例では、補正係数ξを用いることにより、ハイレート劣化が発生していないときの電流密度Im(t0)や抵抗Rm(t0)を特定することができ、ハイレート抵抗上昇量ΔRhの推定精度を向上させることができる。具体的には、ハイレート劣化が発生していないときの抵抗変化率gr(t0)’と、ハイレート劣化が発生しているときの抵抗変化率gr(t1)との比率(補正係数ξ)を用いることにより、電流密度Im(t1)や電池抵抗Rm(t1)を、ハイレート劣化が発生していないときの電流密度Im(t0)や電池抵抗Rm(t0)に変換することができる。
ここで、ハイレート劣化が発生していないときの抵抗変化率としては、摩耗劣化推定部309によって算出された抵抗変化率gr(t0)’を用いている。記憶部308に記憶された抵抗変化率gr(t0)も、ハイレート劣化が発生していないときの抵抗変化率であるが、これは、摩耗劣化係数Kbだけに対応している。実施例1で説明したように、二次電池10の摩耗劣化係数(Kc)は、摩耗劣化係数ΔKa,Kbの総和として表されるため、ハイレート劣化が発生していないときの抵抗変化率、言い換えれば、摩耗劣化だけに対応した抵抗変化率についても、摩耗劣化係数ΔKa,Kbの総和を考慮する必要がある。
抵抗変化率gr(t0)’は、摩耗劣化係数Kc(摩耗劣化係数ΔKa,Kbの合計)に対応した値であり、実施例1で説明したように、摩耗劣化係数Kcを用いることにより、摩耗劣化の推定精度を向上させることができる。このため、抵抗変化率gr(t0)’を用いて、ハイレート抵抗上昇量ΔRhを算出することにより、ハイレート抵抗上昇量ΔRhの推定精度も向上させることができる。
本実施例では、Imを推定電流密度とし、Irを測定電流密度としたが、これに限るものではない。推定された電流密度に電極表面積を乗算して得られる電流をImとし、測定電流をIrとすることもできる。
本実施例では、抵抗変化率gr(t1)、gr(t0)を用いて補正係数ξを算出しているが、これに限るものではない。下記式(57)に示すように、抵抗変化率grおよび容量維持率kを用いて補正係数ξを算出することもできる。
容量維持率kは、劣化状態にある単極の容量を、初期状態にある単極の容量で除算した値である。二次電池10が劣化したとき、単極の容量は、初期状態の容量よりも減少する。
正極の容量維持率k1は、下記式(58)で表される。
ここで、Q1_iniは、二次電池10が初期状態にあるときの正極15の容量であり、実験などによって予め特定しておくことができる。ΔQ1は、正極15の容量が劣化に伴って減少する量である。容量維持率k1は、劣化後の満充電容量を、初期状態の満充電容量と比較することによって算出することができる。
負極の容量維持率k2は、下記式(59)で表される。
ここで、Q2_iniは、二次電池10が初期状態にあるときの負極12の容量であり、実験などによって予め特定しておくことができる。ΔQ2は、負極12の容量が劣化に伴って減少する量である。容量維持率k2は、劣化後の満充電容量を、初期状態の満充電容量と比較することによって算出することができる。
上記式(57)に示す容量維持率kについては、正極15および負極12の少なくとも一方における容量維持率を考慮することができる。
本実施例では、計測時間t1が放置時間trestよりも長いときに、ハイレート劣化が解消していると判定しているが、これに限るものではない。例えば、ハイレート抵抗上昇量ΔRhやリチウム塩濃度の偏り量に基づいて、ハイレート劣化が解消しているか否かを判別することができる。ここで、ハイレート劣化の解消を判別するときには、計測時間t1、ハイレート抵抗上昇量ΔRhおよびリチウム塩濃度の偏り量のうち、少なくとも1つのパラメータを用いることができる。
ハイレート抵抗上昇量ΔRhを用いるときには、ハイレート抵抗上昇量ΔRhが、予め定められた解消値よりも小さいときに、ハイレート劣化が解消されていると判別することができる。一方、リチウム塩濃度の偏り量は、上記式(39)に示す塩濃度差Δceによって特定することができる。ここで、塩濃度差Δceが、予め定めた解消値よりも小さいとき、ハイレート劣化が解消されていると判別することができる。
上述した基礎的な電池モデルは、電極12,15の厚さ方向における反応が一様であるとする仮定と、電極12,15におけるリチウムイオンの濃度が一定であるとする仮定の下で構成されている。基礎的な電池モデルの代わりに、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差による過電圧Δφe(t)を考慮した電池モデルを用いることもできる。
上記式(14)において、直流抵抗による電圧降下と、リチウムイオン濃度の差による過電圧とが独立していると仮定する。この場合には、下記式(60)に示すように、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差による過電圧Δφej(x、t)と、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差ΔCej(x、t)との関係が得られる。
上記式(60)から、過電圧Δφe(t)を求めると、下記式(61)となる。
上記式(61)において、Ce,iniは、二次電池10が初期状態にあるときのリチウムイオンの濃度を示す。
上記式(61)を一次近似(線形近似)すると、下記式(62)が得られる。
上記式(62)に示す濃度差は、上記式(39)、(40)から求めることができ、下記式(39’a)、(40’)で表すことができる。
上記式(39’a)は、電極12,15の間におけるリチウムイオン濃度の差に関する式であるため、上記式(40’)に示すように、上記式(40)に示す係数α、βとは異なる係数αe、βeを定義する。
時間変化Δtがn回進むと、上記式(39’a)は、下記式(39’b)で表すことができる。
上記式(62)に、上記式(39’b)に示す濃度差ΔCeを代入すれば、過電圧Δφe(t)を求めることができる。
一方、上記式(M1b)において、過電圧Δφe(t)を考慮すると、下記式(M1g)で表すことができる。
同様に、上記式(M1e)において、過電圧Δφe(t)を考慮すると、下記式(M1h)で表すことができる。
上記式(M1h)を一次近似(線形近似)すると、下記式(M1i)が得られる。
過電圧Δφe(t)を考慮した電池モデルでは、上記式(M1i)を用いて電流密度I(t)を算出することができる。すなわち、上記式(M1f)を用いて電流密度I(t)を算出する過程において、上記式(62)および上記式(39’b)から算出される過電圧Δφe(t)を考慮すればよい。
また、過電圧Δφe(t)を考慮した電池モデルでは、補正係数ξを以下のように求めることができる。
上記式(M1i)を用いて、時間t0,t1における電圧降下量ΔV(t0),ΔV(t1)をそれぞれ求めると、下記式(63)、(64)で表される。時間t0は、ハイレート劣化が解消したときの時間であり、時間t1は、電流などを検出したときの時間である。
上記式(63)、(64)および上記式(55)を用いれば、補正係数ξは、下記式(65)で表すことができる。
また、抵抗変化率grおよび容量維持率kを用いれば、補正係数ξは、下記式(66)で表すことができる。
上記式(65)、(66)は、下記式(67)に示す関係を有する。
補正係数ξは、上記式(65)、(66)に基づいて算出することができるが、上記式(65)、(66)に示す一部のパラメータを、仮定した値として設定すれば、補正係数ξの算出を簡素化することができる。例えば、温度T(t0)が温度T(t1)と等しいと仮定したり、直流純抵抗Rd(T,t0)が直流純抵抗Rd(T,t1)と等しいと仮定したりすることができる。また、交換電流密度i0(θ,T,t0)が交換電流密度i0(θ,T,t1)と等しいと仮定したり、過電圧Δφe(t0)が過電圧Δφe(t1)と等しいと仮定したりすることができる。