JP2013212059A - 細胞固定化方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】光架橋反応を利用した細胞固定化方法であって、公知の手法よりも応用の幅が広い新規な方法を提供すること。
【解決手段】波長340nm以上の光で架橋反応を生じる光応答性分子で修飾された支持体表面に細胞を接触させた状態で、細胞を乾燥させずに光照射することを含む、支持体上への細胞の固定化方法を提供した。光応答性分子は、好ましくはベンゾフェノンである。本発明によれば、細胞を乾燥させることなく固定化できるので、細胞へのダメージが少なく、また塩類の析出も回避できるため顕微鏡観察の妨げも生じない。
【選択図】図1

Description

本発明は、光架橋反応を利用した支持体上への細胞の固定化方法に関する。
細胞の形を保ったまま1つ1つを計測しその個々の応答を解析することは、細胞の性質をより詳細に理解することにつながる。従って、現在、細胞の形を保ちながら細胞内の分子のふるまいを調べることはしばしば行われる。たとえば、in situハイブリダイゼーションは特異的なmRNAが存在する部位を、また免疫染色は抗体を使って特異的なタンパク質が存在する部位を示す手法である。また、緑色蛍光タンパク質GFPなどを用いて生細胞の細胞応答をイメージングする方法もある。
これら分析対象である細胞には、接着性のものと浮遊性のものがある。浮遊細胞は、浮遊状態で培養されるものであるが、分析する際、基板上に固定化することで実験操作や観察が容易となる。また接着・浮遊細胞を問わず、多数の細胞の位置を制御し固定化できれば、並列・高スループット分析にも応用できる。そのため分析における基板への細胞固定化は極めて重要である。
従来、浮遊細胞を基板上の決まった位置に固定化する方法として、細胞膜結合性のオレイル基を有する試薬を用いる手法(非特許文献1)が報告されているが、細胞の位置を制御するには試薬を予めパターニングしておく必要がある。よって基板上に多数の細胞の位置を制御する方法が開発できれば、極めて有用と考えられる。
ベンゾフェノン(BP)は光応答性を有する分子である(非特許文献2)。波長365 nmの紫外光を照射すると、BPが三重項励起状態のビラジカルとなる。これが標的分子の炭素原子に結合した水素原子を引き抜いてラジカルとなる。その後、標的分子のラジカルと再結合することで炭素-炭素結合が形成され、BPと標的分子が光架橋される。
BPの光架橋反応を利用した生体分子の固定化例として、ガラスキャピラリー内壁をアミノ基を有するシランカップリング剤とBPで修飾し、DNAの光パターニングとハイブリダイゼーション、タンパク質の光パターニングとイムノアッセイに成功した例がある(非特許文献3)。同様の手順でガラス基板表面にBPを修飾し、フィブロネクチンやリガンドを介して細胞のパターニングに成功した例がある(非特許文献4、5)。また、マイクロ流路内でBP基とカルボキシ基を有するポリエチレングリコールを介してタンパク質(非特許文献6)やDNA(非特許文献7)を固定化した例も報告されている。しかしながら、BPを利用して細胞を共有結合により基板表面に固定化した例は知られていない。
一方、アジド基による光架橋反応を利用してタンパク質等の物質を共有結合により固定化する方法を開示した方法が知られており(特許文献1〜8)、中でも特許文献1、2には細胞(血球)を固定化したことが具体的に開示されている。しかしながら、特許文献1、2では、固定化すべき細胞を光架橋剤や光反応性ポリマー等と混合して基体表面に塗布後、乾燥させてから光照射が行なわれている。従って、細胞を生きたまま固定化できる手法ではない。また、近年ではマイクロ流路を設けたチップが様々な化学分析や化学プロセスに実用化されており、個々の細胞をマイクロ流路内で捕捉する方法が研究されているが(非特許文献8、9等)、特許文献1、2に記載された細胞固定化方法ではマイクロ流路チップへの応用は困難である。
特許第4630865号公報 特開2005-181154号公報 特許第4630817号公報 特開2007-31408号公報 特開2007-139587号公報 特開2006-322709号公報 特許第4505581号公報 特開2006-316010号公報
K. Kato et al., BioTechniques, 2003, 35, 1014-1021. G. Dorman et al., Biochemistry, 1994, 33, 5661-5673. M. Y. Balakirev et al., Anal. Chem., 2005, 77, 5474-5479. J. Fink et al., Lab Chip, 2007, 7, 672-680. T. A. Martin et al., ACS Appl. Mater. Interfaces,2011, 3,3762-3771. K. Shirai et al., Electrophoresis, 2009, 30, 4251-4255. B. Renberg et al., Lab Chip, 2009, 9, 1517-1523. D. D. Carlo et al., Lab Chip, 6, 1445-1449. 2006 J. Wakabayashi, et al., The proceedings of the 14th International Conference on Miniaturized Systems for Chemistry and Life Sciences (μTAS2010), p.764-766
本発明は、光架橋反応を利用した細胞固定化方法であって、公知の手法よりも応用の幅が広い新規な方法を提供することを目的とする。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、ベンゾフェノン等の光応答性分子で表面修飾した支持体を用いることで、細胞を乾燥させることなく光照射部位にのみ細胞を固定化できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、波長340nm以上の光で架橋反応を生じる光応答性分子で修飾された支持体表面に細胞を接触させた状態で、細胞を乾燥させずに光照射することを含む、支持体上への細胞の固定化方法を提供する。また、本発明は、上記本発明の方法により細胞が固定化された支持体を提供する。
本発明の方法によれば、微細な領域に自由に細胞を固定化することができる。細胞を乾燥させることなく支持体上に固定化できるので、細胞を生きたまま固定化することも可能になるほか、支持体表面への塩の析出も回避でき、顕微鏡観察の妨げも生じない。公知の方法(特許文献1、2)ではアジドを使用しており、300nm以下の紫外線を照射する必要があるが、この範囲の波長の光は細胞に悪影響を与えるため、細胞を生きたまま固定化することはできない。一方、本発明では、340nm以上の光照射で架橋反応を生じる光応答性分子(例えばベンゾフェノン)を用いることで、生細胞へのダメージを低減でき、生細胞の固定化が可能になる。波長340nm以上とは一般的な蛍光顕微鏡の励起光の波長であり、従って細胞の固定化のために特別な装置を準備する必要がなく、この点も本発明の利点である。さらに、本発明では、特許文献1、2に記載される方法のように、細胞を所望の領域に塗布するステップは必ずしも必要ではないため、マイクロ流路内で捕捉した細胞の固定化にも応用できる。本発明は、並列・高スループット分析系の構築に非常に有用である。
光架橋反応を利用した細胞固定化法の模式図である。光(図中では紫外光)を照射することで光応答性分子(図中ではBP)と細胞膜の間に共有結合を作り、細胞を光照射部位に固定化する。 ガラス基板の表面修飾手順の概略を示した図である。基板上に3-アミノプロピルトリエトキシシランを修飾し、BPのイソチオシアネート体をアミノ基を介して固定化した。 実施例2.3.1でパワー密度を測定した結果を示すグラフである。(a)パターン直径1mm、(b)パターン直径0.2mm。 BPによる表面修飾時間を変えた基板を用いて細胞固定化実験を行ない、光照射の前後で基板上の細胞を観察した光学顕微鏡像である。(a)24時間修飾、照射前。(b)72時間修飾、照射前。(c)24時間修飾、照射後。(d)72時間修飾、照射後。スケールバーはa,bが200μm、c,dが500μm。 未修飾基板、アミノ化基板、及びBP修飾基板を使用して細胞固定化実験を行ない、光照射前後で基板上の細胞を観察した光学顕微鏡像である。(a)未修飾、照射前。(b)アミノ化、照射前。(c)BP修飾、照射前。(d)未修飾、照射後。(e)アミノ化、照射後。(f)BP修飾、照射後。スケールバーはa〜cが200μm、d〜fが500μm。 照射光強度を0.70 mW mm-2とし、光照射時間を変えて細胞固定化実験を行ない、基板上の細胞を観察した光学顕微鏡像である。(a) 0分。(b) 1分。(c) 2分。(d) 3分。(e) 5分。(スケールバー500μm)。 照射光強度を2.54 mW mm-2とし、光照射時間を変えて細胞固定化実験を行ない、基板上の細胞を観察した光学顕微鏡像である。(a) 0分。(b) 1分。(c) 2分。(d) 3分。(e) 5分。(スケールバー500μm)。 照射光強度を12.6 mW mm-2とし、光照射時間を変えて細胞固定化実験を行ない、基板上の細胞を観察した光学顕微鏡像である。(a) 0分。(b) 0.5分。(c) 1分。(d)2分。(e) 3分。(f)5分。(スケールバー500μm)。 細胞固定化密度の照射時間と照射光強度との関係を示したグラフである。横軸は照射時間、縦軸は固定化密度である。点線は洗浄前に基板上に存在していた細胞密度 (個 mm-2)。n≧3。 エネルギー密度と固定化量の関係を示したグラフである。(a)非特許文献7記載の方法によるタンパク質の固定化量。(b)非特許文献8記載の方法によるDNAの固定化量。(c)本発明の方法による細胞固定化量。 マスクパターンのサイズが異なるフォトマスクを用いて光照射を行ない、基板上の細胞を観察した光学顕微鏡像である。(a) 直径1 mmのマスクパターン光学像。(b) (a)のパターンを用いて固定化された細胞の光学像。(c) 直径0.2 mmのマスクパターン光学像。(d) (c)のパターンを用いて固定化された細胞の光学像。スケールバーは500μm。対物レンズ4倍。 ガラス基板に固定化されたK562細胞に対してPadlock/RCA法を行ない、顕微鏡下で観察した結果である。(a) RCA前の明視野像。(b) RCA後の明視野像。(c) RCA後の蛍光像。RCA産物が蛍光プローブにより検出された。スケールバーはa, bが500μm、cが30μm。 BP修飾カバーガラスと貼り合わせたマイクロ流路チップにHeLa細胞を導入後、紫外光照射なしで液を逆流させたときの様子を観察した光学顕微鏡像である。(a)細胞導入後2分後に配置された全体像。(b)クリップで留め、流れを止めた時。(c)逆流2分後。矢印は細胞が固定化されずにトラップからはずれてしまったことの一例である。スケールバーは100μm。 BP修飾カバーガラスと貼り合わせたマイクロ流路チップにHeLa細胞を導入後、紫外光照射してから液を逆流させたときの様子を観察した光学顕微鏡像である。(a)細胞導入後2分後に配置された全体像。(b)クリップで留め、流れを止めた時。(c)逆流2分後。矢印は逆流後も細胞が固定化され、トラップに残っていることの一例である。スケールバーは100μm。 紫外光照射あり、なしのそれぞれについて求めた、マイクロ流路チップへの細胞の固定化率を示すグラフである。n=チップ数。
本発明で用いる光応答性分子は、340nm以上の波長の光照射によって細胞膜上の炭素原子や官能基(アミノ基、カルボキシル基等)と共有結合を形成できる分子であれば特に限定されないが、典型的には、ポリマー構造を含まない低分子量の化学物質である。そのような光応答性分子の好ましい具体例として、下記実施例で用いられているベンゾフェノン(以下、「BP」と呼ぶことがある)を挙げることができる。ベンゾフェノンは、波長365 nmの紫外光を照射すると、三重項励起状態のビラジカルとなる。近傍に細胞が存在すれば、このビラジカルが細胞膜を構成する炭素原子に結合した水素原子を引き抜いてラジカルとなる。その後、細胞膜側のラジカルと再結合することで炭素−炭素共有結合が形成される。BPを支持体上に固定化しておけば、支持体上の光照射部位にBPを介して細胞を固定化することができる(図1)。
支持体の材質は特に限定されない。例えば、ガラス製、樹脂製(ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン等)、カーボン製、シリコン製、金属製等、様々な材質のものを使用できる。
支持体の形状も特に限定されず、プレート状、ビーズ状、繊維状等、様々な形状の支持体を用いることができる。さらに、マイクロ流路チップの流路やマイクロプレートのウェルの内壁を支持体表面として用いることもできる。
所望の化学物質を共有結合により支持体表面に導入するための表面修飾法は様々な手法が公知であり、本発明でも、支持体の材質及び用いる光応答性分子に応じて適した表面修飾方法を選択できる。例えば、ガラス等の各種無機材料の表面修飾に使用できる様々なシランカップリング剤が知られており、本発明においても支持体表面への光応答性分子の導入のために好ましく使用することができる。一般的な手法としては、アミノ基を含むシランカップリング剤を用いて支持体表面をアミノ化し、光応答性分子のチオシアン酸塩を反応させれば、アミノ基とチオシアン基との間で反応が生じ、光応答性分子がシランカップリング剤を介して支持体表面に結合する。
光応答性分子としてベンゾフェノンを用いる場合であれば、例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤で支持体表面を修飾して表面をアミノ化し、次いで、表面に導入されたアミノ基とベンゾフェノンのチオシアン酸塩を反応させることで、容易にBP修飾を実施できる。この場合、支持体表面のアミノ基とベンゾフェノンとの反応は、室温にて30時間以上、好ましくは48時間以上、より好ましくは60時間以上、例えば72時間程度行なう。十分な時間反応を行なうことで、ベンゾフェノンの支持体表面への導入量を増やすことができ、ひいては細胞固定化量も増やすことができる。支持体表面に添加するベンゾフェノンのチオシアン酸塩の濃度は100mM〜500mM程度でよい。
光応答性分子で修飾する支持体上の領域は、支持体の表面全体であってもよいし、支持体上の一部の領域でもよい。プレート状の支持体の場合は、両面又は片面の全体でもよいし、両面又は片面の一部でもよい。また、流路やウェルの内壁を光応答性分子で修飾する場合は、流路やウェルの内壁の全体でもよいし、一部分だけでもよい。「光応答性分子で修飾された支持体表面」とは、必ずしも外界に露出した領域ではなく、例えばチップ内部の流路の内壁もここでいう「支持体表面」に含まれる。
本発明の方法では、光応答性分子で修飾済みの支持体表面と、固定化すべき細胞を接触させた状態で、適当な波長の光を照射する。本発明においては、細胞へのダメージが少ない340nm以上の波長域で光架橋反応を生じる光応答性分子を用いるので、照射光の波長は340nm以上であり、ベンゾフェノンを用いる場合は波長365nmの紫外光を照射すればよい。「細胞を接触させた状態」とは、具体的には、細胞懸濁液を支持体表面の光応答性分子修飾部位に滴下した状態、光応答性分子で表面修飾した支持体を細胞懸濁液中に浸漬した状態等をいう。細胞懸濁液の細胞密度は、特に限定されないが、通常、150〜500個/μL程度である。細胞懸濁液は、細胞以外の成分が光応答分子と結合することを回避するため、タンパク質等の有機物を含まない緩衝液(PBS等)に細胞を懸濁して調製する。光照射は、細胞周辺が液体で満たされた状態(乾燥させない状態)で行なう。
光照射後、PBS等の緩衝液中に支持体を浸漬して数十秒程度洗浄すれば、固定化されなかった細胞が除去される。従って、光照射の際、フォトマスクを利用して光を選択的に照射すれば、任意のパターンで細胞を固定化することができる。
照射する光の強度と照射時間(照射光のエネルギー密度)は、細胞の固定化数及び固定化した細胞の生存率に影響する。ベンゾフェノン修飾した支持体を用いる場合、強度0.50〜5.00 mW/mm2程度の紫外光を数分間程度、又は強度10.0〜15.0 mW/mm2程度の紫外光を数十秒〜1分間程度照射すればよい。エネルギー密度でいうと、0.15〜1.00 J/mm2程度照射すればよい。
固定化する細胞の種類は限定されず、動物細胞、植物細胞、微生物細胞等のいずれであってもよい。接着性の細胞でも浮遊細胞(非接着性細胞)でもよい。本発明によれば、様々な種類の細胞を生存した状態で共有結合により支持体上に固定化することができる。支持体上で細胞を乾燥させることなく固定化できるので、細胞が生存した状態で固定化することができる上、支持体上に析出した塩が顕微鏡観察の妨げとなることもない。
また、幅広の流路内に多数設けた略凹字型の突起部で細胞を1個ずつトラップするマイクロチップ(非特許文献8)や、マイクロ流路中の一部の領域の深さを細胞のサイズよりも小さくして細胞を捕捉するマイクロ流路チップ(非特許文献9)など、生細胞を用いた分析を行なうためのマイクロチップが知られているが、こうしたチップの流路を光応答性分子修飾した透明支持体でカバーし、流路内に細胞がトラップされた状態で光照射を行えば、トラップ部位に細胞を固定化して確実にトラップすることができる。本発明の方法は、光架橋反応を利用した公知の細胞固定化法よりも応用の幅が広く、細胞を用いた各種の分析系の構築に極めて有用である。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
1. ガラス基板の表面修飾
1.1 はじめに
本章では、ガラス基板の表面修飾手順(図2)を説明する。まず、カバーガラス表面をシランカップリング剤でアミノ化し、アミノ基を介してベンゾフェノン(BP)を修飾できるようにする。アミノ化の評価には、アミノ基と反応可能な蛍光色素であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を用いる。次にアミノ化されたカバーガラスにBPを修飾する。
1.2 カバーガラスの表面修飾
1.2.1 カバーガラス表面のアミノ化
アミノ化は以下の手順で行った。カバーガラス(24 mm×60 mm, 2-176-20, 松浪硝子工業)を4枚用意し、エタノール(関東化学)を含ませたベンコットで拭き、ダスターで余分なエタノールをとばした。プラズマ発生装置(CUTE, FEMTO SCIENCE)で0.5 Torr、10 sccm、100 W、2分処理し基板を洗浄した。2 mLの3% 3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS;TCI)のエタノール溶液を20 mLビーカーに入れた。このビーカーと、プラズマ処理したカバーガラスをポリプロピレン広口ケース(φ106 mm×78 mm, TX-12, AS ONE)に入れた。ポリプロピレン広口ケースを遮光のためにアルミホイルでおおい、ホットプレートに設置し、70℃で2時間反応させた。反応後、PP広口ケースから3-アミノプロピルトリエトキシシランが入っているビーカーを取り出し、再度70℃で1時間加熱した。加熱後、カバーガラスを回収した。表面アミノ化の評価は、FITCを用いて常法により行なった。
1.2.2 ベンゾフェノンによる表面修飾
アミノ化されたカバーガラスの一部分にのみBPを修飾するために、ウェルチップを以下の手順で作製した。ポリジメチルシロキサン(PDMS)の主剤および硬化剤(SILPOT 184,東レ・ダウコーニング)を重量比10:1で秤量、混合し、15分脱気した。スライドガラス(76 mm×26 mm×1.0 mm, 松浪硝子工業)を2 mm厚のアクリル製型枠にセットし、周囲6か所をダブルクリップで留め、レインガード(ライオン)を吹き付けフッ素化し、余分なレインガードをダスターで飛ばした。ここに脱気したPDMSを約3 g注ぎ込み、気泡を除去するため15分脱気した。その後65℃、1時間ベイクし、PDMS基板を新たなスライドガラスに貼り替えた。さらに100℃、1時間ベイクし、このPDMS基板にφ5 mmのハトメでウェルを作製した。アミノ化済みのカバーガラスをウェルを有するPDMS基板と貼り合わせウェルチップとした。カバーガラスの裏面の、ウェルと重なり合う位置に円形シールを貼り、ウェルの位置の目印とした。
アミノ化されたカバーガラスに修飾するBPの溶液を調製した。400 mM ベンゾフェノン-4-イソチオシアネート(BP-NCS; Sigma) のDMF溶液をマイティーバイアル(No.3,マルエム)に100μL入れ、さらに500 mMジイソプロピルエチルアミン(DIEA; Sigma)の脱水ジメチルホルムアミド(DMF; 関東化学) 溶液を20μL、DMFを80μLを加え計200μLとした。
BPの修飾ではまず、シャーレにベンコットを敷きDMFで湿らせた。次に、1つのシャーレにつき1つのウェルチップを置き、ウェルに上記のBP溶液を20μLずつピペットマンで満たした。全体をアルミホイルで遮光し、25℃で反応させた。
反応後のカバーガラスを以下の手順で洗浄した。まずウェル内の溶液をピペットマンで吸い取り、ウェルにDMFを加え3分放置した。DMFを吸い取り再度、新しいDMFを加え3分放置した。DMFを吸い取りPDMSをカバーガラスからはがし、カバーガラス上に残ったDMFをダスターで飛ばした後、新しいウェルを有するPDMS基板をウェルとシールの位置を合わせて貼り付けた。その後シールをはがし、アセトンで軽く拭いた。
2. ガラス基板への細胞固定化
2.1 はじめに
本章では光応答性分子を修飾したガラス基板への細胞固定化について述べる。実験手順の概略は次の通りである。BPを修飾したカバーガラスに浮遊細胞のK562細胞を播種後、紫外光を照射し固定化する。カバーガラスを洗浄したのちに、顕微鏡で観察し、光学像から細胞固定化密度を求める。さらに細胞固定化密度の照射光強度や照射時間に対する依存性を検討する。
2.2 K562細胞の培養
ヒト慢性骨髄性白血病由来K562細胞はヒューマンサイエンス研究資源バンクより分譲して頂いた。RPMI 1640 (R8758, SIGMA)500 mLにPenicillin-Streptomycin (GI FALCON)を5 mL開封時に添加した。50 mLファルコンチューブにFetal bovine serum (FBS; GIBCO)を5 mL入れ、標線までRPMIを加え10% FBS RPMI培地を調製した。25 cm2細胞培養フラスコ (FALCON)に温めた培地を5 mL入れ、解凍したK562細胞(2.6×106個/mL)を1 mL加えた。細胞は37℃、5%CO2下のインキュベーター内で培養した。1週間に2回程度、フラスコ内で細胞がいっぱいになった時に継代を行った。あらかじめフラスコに培地を5 mL加えておき、細胞濃度が1.1〜1.6×104個/mLになるように細胞懸濁液を加えインキュベーターで培養した。
2.3 ガラス基板への細胞固定
2.3.1 パワー密度の測定
本研究は光照射によって細胞を固定するため、まず照射光のパワー密度を測定することとした。測定には光パワーメータ(3664, HIOKI)と光センサ(9742-10,HIOKI)を使用した。フィルムマスクはIllustrator CS5 (Adobe)でデザインし、帆風に出力を依頼した。本研究では直径1 mmあるいは0.2 mmの円形パターンを有するマスクを使用した。測定手順を以下に示す。
まず、倒立蛍光顕微鏡(IX71, オリンパス)の中座にマスクを印刷面が上を向くようにテープで貼り付け、マスクにピントを合わせた。水銀ランプ(100W, USH-1030L, OLYMPUS)および4倍の対物レンズ (UPLFLN4XPH, NA0.13)、10倍の対物レンズ (UPLFLN10XPH, NA0.30)、20倍の対物レンズ (LUCPLFLN20XPH, NA0.45)、40倍の対物レンズ (LUCPLFLN40XPH, NA0.60)を使用し、フィルタブロック(U-MWU2, 励起フィルター330-385, 吸収フィルター420, ダイクロイックミラー400)を通して紫外光(波長365 nm)とした。この紫外光をND6フィルター、ND25フィルターおよびNDフィルターを入れていない状態でマスクのパターン越しに光センサに照射し、パワーを計測した。パワーをパターン径の面積で割ったものをパワー密度とした。
結果を図3に示す。横軸は対物レンズ倍率、縦軸は計測値から求めたパワー密度である。直径1 mmのマスクを使用した場合を図3(a)に、直径0.2 mmのマスクを使用した場合を図3(b)に示す。どちらのパターンを使用した場合も、対物レンズの倍率に応じてパワー密度が増加した。またND6フィルターに代えてND25フィルターを使用するとパワー密度は約4倍に、ND25フィルターに代えてNDなしの状態で測定すると約5倍となった。また40倍の対物レンズを使用した場合、20倍の対物レンズを使用した場合よりパワー密度が小さくなった。これは40倍の対物レンズを使用した際のパワー密度が高く、正しく測定できなった可能性がある。よって本研究では直径1 mmのマスクを使用し、10倍の対物レンズにおける、照射光強度0.70 mW mm-2、2.54 mW mm-2、12.6 mW mm-2で以降の実験を行うこととした。
2.3.2 細胞懸濁液の調製
継代から約3日後 (約90×104個/mL)に、K562細胞を培養しているフラスコの内容物全量を15 mLファルコンチューブに移し、遠心分離機(MX-305, TOMY)を用いて1,200 rpmで3分間遠心した。上清を吸い取り、リン酸緩衝液 (PBS)を約1 mL加えよく懸濁した。セルカウンター(HIRSCHMANN EM TECHCOLOR)を用いて細胞数を数え、密度が250個/μLとなるように細胞懸濁液を調製した。この際、培地ではなくPBSで細胞懸濁液を調製した。これは光化学反応の際にBPが細胞ではなく、培地中のタンパク質等と反応してしまう可能性があるためである。
2.3.3 ウェルチップへの導入・固定
フィルムマスクは直径1 mmの円形パターンのものを倒立蛍光顕微鏡の中座に貼りつけて使用した。ウェルの中央にマスクのパターンがくるようにチップを置いた。1つのチップには2つ以上のウェルを有するものを使用した。前項で調製した細胞懸濁液を20μLずつピペットマンで各ウェルに滴下し、5分静置した。その後、ウェルの内の細胞の明視野像を10倍の対物レンズを用いて撮影した。UV照射時のみフィルタブロック(U-MWU2)を用い、ND6あるいはND25フィルターを入れた。画像取り込みにはView Recorderを用い、色空間/圧縮をRGB555(16bit)、出力サイズを640×480にした。チップを遮光し励起光のシャッターを開け、紫外光を照射した。照射後、ウェルチップの裏側にラボマーカーでウェルの位置をマークし、カバーガラスからPDMS基板をはがした。カバーガラスの細胞が存在する面を下にしてPBSを約5 mL含んだシャーレに入れ、固定化されていない細胞を除去するために20秒間洗浄した。洗浄後、カバーガラスに新しいウェル付きPDMS基板をもともとウェルのあった位置に合わせて貼り付け、各ウェルにPBSを20μLずつ加えた。その後、固定化された細胞を観察、撮影した。
はじめにBPの表面修飾時間の影響を検討した。修飾時間を24 時間および72 時間とし、強度0.70 mW mm-2で5分照射し細胞の固定を試みた。それぞれの条件での照射前後の細胞の光学像を図4に示す。24時間修飾の場合、細胞はほとんど固定されていないが(図4(c))、72時間修飾の場合、照射部のみに細胞を固定化できた(図4(d))。そのため、BPの修飾時間は72時間とした。
次に未修飾のガラス基板と、上記1.の方法でアミノ化されたガラス基板を用い、固定化を試みた。強度0.70 mW mm-2および2.54 mW mm-2においては5分照射し、強度12.6 mW mm-2においては1分照射した。未修飾、アミノ化、BP修飾されたガラス基板を使用した場合の、照射前後での細胞の光学像を図5に示す。照射前は基板の種類に問わず、ウェル全体に細胞が存在していた(図5(a)〜(c))。照射・洗浄後では、未修飾基板の場合は、細胞は基板上に固定化されていなかった(図5(d))。アミノ化基板を使用した場合は、細胞はあまり固定化されていなかった(図5(e))。なお図5(e)で見られる基板上の細胞は、非特異的に吸着しているものと考えられる。BP修飾された基板を使用した場合、照射・洗浄後も細胞が基板上に固定化されていた(図5(f))。よって、BP修飾した基板を用い、ガラス基板上の光照射部のみに細胞を固定化でき、本法の原理を実証できた。
2.4固定化密度の検討
前項までで本法の原理が実証できたため、次に光照射時間と照射光強度が固定化密度に与える影響を調べた。照射光強度0.70 mW mm-2、2.54 mW mm-2、12.6 mW mm-2における細胞固定化の照射時間依存性を検討した。強度0.70 mW mm-2および2.54 mW mm-2では、照射時間は0分、1分、2分、3分、5分とした。強度12.6 mW mm-2では、照射時間は0分、0.5分、1分、2分、3分、5分とした。
結果を図6から図8に示す。強度0.70 mW mm-2、2.54 mW mm-2 (図6, 図8)においては、固定化数は照射時間と共に増加した。強度12.6 mW mm-2においては、照射時間1分(図8(c))まで増加し、これを境に基板上に固定される細胞の数は減った(図8(d)〜(f))。また、細胞の固定化数は照射光強度が強いほど多かった(図6(b)、7(b)、8(c))。なお、どの照射光強度においても、照射部以外にもわずかに細胞が固定化されており、これらは図5(e)に見られるように、非特異的に吸着しているものと考えられる。
各強度で各照射時間において3回以上固定化を行い、固定化された細胞の光学像から細胞の固定化密度を求めた。細胞固定化密度の照射時間と照射光強度との関係を図9に示す。横軸は照射時間、縦軸は固定化密度である。強度0.70mWmm-2、2.54mWmm-2では固定化密度は照射時間と共に増加し、一定値に近づく傾向が見られた。強度12.6 mW mm-2では照射時間1分まで増加したのちに減少した。点線は強度12.6 mW mm-2で1分照射した場合における、洗浄前に基板上に存在していた細胞密度を示している。強度12.6 mW mm-2で1分照射した場合に固定化密度が874個mm-2と最大となり、点線で示した洗浄前に基板上に存在していた細胞密度に対する比は97%であり、基板上の細胞をほぼすべて固定化できた。
2.5 エネルギー密度と固定化数の検討
本研究の光照射条件を先行研究と比較した。光パワー密度と照射時間の積としてエネルギー密度を求め、これを既報(非特許文献7、8)と比較した。既報のエネルギー密度(J/cm2)と固定化量の関係を図10(a)、(b)に示す。まず、先行研究の結果を述べる。タンパク質は0.18 J mm-2で固定化でき、DNAは0.72 J mm-2で固定化できる。
また、本研究のエネルギー密度と固定化量の関係を図10(c)に示す。本研究において強度0.7 mW mm-2で5分照射した場合0.21 J mm-2であり、強度2.54 mW mm-2で5分照射した場合0.76 J mm-2であり、先行研究と同等、あるいはそれ以上のエネルギー密度である。
また図10(c)より、照射光強度0.7 mW mm-2と2.54 mW mm-2では、エネルギー密度が等しければ、ほぼ同数の細胞が固定化されていた。そのため固定化数はエネルギー密度により決定されることが示唆される。一方、強度12.6 mW mm-2では照射時間1分を境に固定化数の減少が見られた。エネルギー密度が強すぎたため、BPと細胞膜の共有結合が切れてしまい固定化数が減少した可能性がある。
2.6 パターンサイズの検討
マスクパターンのサイズが固定化に与える影響を検討した。直径1 mmおよび直径0.2 mmのマスクパターンを用いて細胞を固定化した。結果を図11に示す。両サイズ共にマスクパターン通りに(図11(a), (c))、照射部のみに細胞を固定化できた(図11(b), (d))。直径1 mmの結果(図11(b))と比較すると、直径0.2 mmの方(図11(d)) は照射部周辺に固定化されている細胞数が多い。0.2 mmのマスクはパターンの周りにもわずかに光が通っている可能性がある。
3. 細胞内DNA分析への応用
3.1 はじめに
本章では、本研究で開発した細胞固定化法の、細胞内DNA分析への応用について述べる。ガラス基板に固定化されたK562細胞を試料として用い、細胞内Padlock/RCA法によるミトコンドリアDNAの検出に取り組んだ。
3.2 Padlock/RCA法の原理
Padlock/RCA(Rolling Circle Amplification)法はDNA増幅法の1つである(C.Larsson et al., Nature Methods, 2004,1, 227-232.)。この方法の特徴は、目的とするDNA配列の一塩基の違いを見分ける精度を持つこと、また増幅産物をカウントすることでDNAの定量ができることである。原理を説明する。この方法では、5'末端側と3'末端側の領域が標的DNAと相補的な配列となっている一本鎖のPadlock probe (合成DNA)を用いる。まずPadlock probeを、一本鎖にした標的DNAに結合させる。この時、Padlock probeは環状になる。Padlock probeの5'末端を予めリン酸化しておけば、ここに3'-ヒドロキシ基と5'-リン酸基をつなぐ酵素を作用させることでPadlock probeの両端が結合し(ライゲーション)、環状の一本鎖DNAが形成される。ここに相補的なプライマーを加え、ポリメラーゼで伸長反応を行う。すると、環状の一本鎖DNAを鋳型として、これに相補的な配列が直列にいくつも繋がった、長い一本鎖DNAが合成される(RCA)。最後に、この長い一本鎖DNAの配列と相補的な配列をもつ蛍光プローブDNAを結合させる(ハイブリダイゼーション)。長い一本鎖DNAは自発的に折りたたみ構造をとるため、蛍光プローブDNAを結合させた状態で蛍光顕微鏡を使って観察すると、1μm程度の輝点として産物を観察できる。なお、上掲のNature Methods, 2004,1, 227-232.に記載されるtarget primed法では、環状一本鎖DNAの形成後にプライマーを加える必要はなく、標的DNAが直接プライマーとなり伸長する。
3.3 実験方法
ウェル内に前章の手順で固定化したK562細胞を70%エタノールに20分浸漬した。その後、溶液をPBSに置換し、RCAを行うまで冷蔵庫に保管した。次にRCAに使用する4種の試薬(1)〜(4)を調製した。各試薬20μLあたりの組成を表1〜4に示す。
まず、前処理として、0.01%ペプシン-HCl溶液をウェルに20μL滴下し、37℃で90秒反応させた。アスピレーターに繋いだパスツールピペットで液を吸引した後、PBSで2回洗浄した。次に制限酵素を含む試薬(1)を20μL滴下し、37℃で40分間反応させた。試薬(1)を吸引後50 mM Tris-HCl、1 M NaCl (以下洗浄バッファーとする)で2回洗浄した。吸引後、リガーゼとPadlockプローブを含む試薬(2)を20μL滴下し37℃で30分間反応させた。配列は上掲のNature Methods, 2004,1, 227-232.記載のppMSCsと同じものを使用した(ミトコンドリアDNAに対するプローブ、配列番号1)。試薬(2)を吸引後、再度洗浄バッファーで2回洗浄し、ポリメラーゼを含む試薬(3)を20μL滴下し、30℃で90分間反応させた。洗浄バッファーで1回置換し洗浄した後に、蛍光プローブ(Nature Methods, 2004,1, 227-232.記載のLin33をAlexa555標識に変えたもの、配列番号2)を含む試薬(4)を20μL滴下し、37℃で20分間反応させた。試薬(4)を吸引後、洗浄バッファーで洗浄し、Dapi Fluoromount G (Southern Biotech)を20μL滴下し、細胞核を染色した。
RCA前後の細胞の位相差像は前章と同様に撮影した。RCA後の蛍光観察には倒立蛍光顕微鏡(IX71, OLYMPUS)、高感度デジタル冷却CCDカメラ(Cascade 512F, Photometrics)、キセノンランプ(UXL-S158-0, 150W, ウシオ電機)、60倍の対物レンズ(PlanAPON,NA1.42,OLYMPUS)を使用した。蛍光フィルタは、細胞核観察時は蛍光フィルタ(U-MNUA2, OLYMPUS)を用い、RCA産物観察時はBFP/GFP/DsRed用セット(86009, Chroma Technology)でDsRed用のものを用いた。撮影にはMetaMorphを使用し、露光時間は100 ms、ビニングは1とした。
3.4 結果および考察
ガラス基板に固定化されたK562細胞のRCA前後の光学像を図12に示す。RCA前(図12(a))は光照射部に細胞が多く固定されており、RCA後(図12(b))も同様だった。しかし、照射部および非照射部とも、細胞数の減少が見られた。照射部の細胞数が減少したのは、RCAで繰り返し行う溶液交換により、ピペットチップの先端部が細胞に触れ、細胞がはがれてしまったためと考えられる。また、非照射部の細胞数が減少したのは、基板上に非特異的に結合していた細胞が、溶液交換により洗浄されたためと考えられる。
RCA後の細胞を蛍光観察したところ、ミトコンドリアDNAのRCA産物に由来する赤色の輝点を観察でき、細胞内DNA分析に成功した(図12(c))。
これまで、浮遊細胞の細胞内DNA分析をする場合、塗抹標本を作り、空気中で乾燥させることで、基板に固定化した。この場合、細胞懸濁液に含まれている塩類が乾燥により析出し、これに光をあてると散乱するために、顕微鏡観察の妨害となった。今回開発したBPを用いた細胞固定化法は、乾燥させずに固定化できるため、塩類の析出がなく、優れた方法であるといえる。
4. 流路内でのHeLa細胞の細胞配置への応用
4-1. はじめに
マイクロ流路内で細胞をトラップしてアレイ化する手法が知られている(非特許文献8、9等)。非特許文献8記載のマイクロチップは、幅広の流路内に多数設けた略凹字型の突起部で細胞を1個ずつトラップするというものであるが(図13、14参照)、このチップを用いた研究において、溶液交換等のために流れを止めると、トラップに捕獲した細胞が動いてしまった。これは流れを止める際に流路内の溶液が動いてしまったためと考えられる。また、このトラップは一方向に溶液を流すことで細胞をトラップに保持できる設計となっているため、溶液が逆流するとトラップから細胞が離れてしまう。そのため、溶液交換等で流れを止めたり、溶液が逆流したりしても、細胞の位置が変わらないアレイ化法が必要である。そこで本研究では、上記の方法でBP修飾したカバーガラスを、流路内に99個のトラップが設計された細胞アレイチップに貼り合わせた。HeLa細胞の配置後に紫外光を照射し、トラップに捕獲されている細胞を光架橋反応で流路壁面に固定することで、細胞の位置の維持を試みた。
4-2 実験方法
1 mLのマイクロチューブにHeLa細胞懸濁液とPBSを加え2×105個/mLの濃度に調製した。調製した細胞懸濁液は使用するまで氷冷しておいた。また別のマイクロチューブにPBSを1000μL加え氷冷しておいた。細胞懸濁液は調製してから30分以内に流路に導入した。
実験に使用するマイクロチップは、流路の溶液導入・排出部にシリコンチューブ(0.5×1.0 mm, AS ONE)を配管したものを用いた。マイクロチップをアルミホイルで遮光して30分脱気したのち、倒立顕微鏡(IX71, OLYMPUS)のステージにセットした。溶液導入側のシリコンチューブにはチューブカット(23 G×15 mm)を差し込み、ここに長さ約20 cmのシリコンチューブをつなげ、そのもう一端をPBSの入ったマイクロチューブに入れた。溶液排出側のシリコンチューブには導入側と同様にチューブカットとシリコンチューブを接続し、さらにシリンジ針(23 G×1 1/4,11G201, NIPRO)と1 mLのシリンジ(TERUMO)をつなげ、シリンジポンプ(KDS210, KD Scientific)にセットした。
細胞配置は以下の手順で行った。始めに流量20μL/minで流路にPBSを吸引導入した。CCDカメラ(Watec, WAT-250D2)を用いて流路を観察し、PBSの導入を確認した。次に溶液導入部のシリコンチューブ、排出部のシリコンチューブの順にクリップで留め、流れを止めた。続いてPBSの入ったマイクロチューブに入っているシリコンチューブを、細胞懸濁液の入っているマイクロチューブにさしかえた。チューブを留めているクリップをはずし、流量20μL/minで細胞を導入した。2分後、流路の光学像を撮影し、チューブをクリップで留めて再度撮影した。その後、光路に蛍光フィルタ(U-MWU2, OLYMPUS)を入れ、チップを遮光し、励起光のシャッターを開けて1分照射した。光源には水銀ランプを用い、ND6フィルターを2枚入れて減光して照射した。1分後、蛍光フィルターを元に戻し、両端のシリコンチューブをクリップで留めた。その後、シリンジポンプを止め、チューブを留めていたクリップをはずし、流量5μL/minで逆流させた。2分後、細胞を撮影した。
固定化率の評価は以下の様に行った。撮影した光学像より、トラップに捕獲された細胞数を数えた。細胞懸濁液を流して2分後にトラップに捕獲されていた細胞数を「捕獲した細胞数」とした。そして紫外光照射(或いは非照射)の後、溶液を逆流させて2分後に捕獲されていた細胞数を「固定化された細胞数」とした。固定化率はこれらの比として求めた。
4-3 結果
はじめに、紫外光照射を行わない時の結果を図13に示す。細胞導入2分後(図13(a))、はHeLa細胞がトラップに一細胞ずつ配置されているが、クリップ留め後(図13(b))は液が動いてしまい、大部分の細胞の位置や数が変わっている事が分かる。さらに溶液を逆流させると(図13(c))、大部分の細胞はトラップから離れてしまった。図中の矢印は細胞がトラップからはずれてしまった例を示している。
次に紫外光を照射した場合の結果を図14に示す。捕獲されていた細胞(図14(a))は、クリップで挟んだ後(図14(b))も、逆流後(図14(c))もトラップに捕獲され続けていたものが多かった。図中の矢印は細胞がトラップに固定化されていた例を示している。
紫外光照射あり、なしのそれぞれについて固定化率を求め比較した(図15)。紫外光を照射した場合の平均固定化率は50%であり、紫外光を照射しなかった場合は1%であった。よって、BP修飾をしたカバーガラスを使用し紫外光を照射することで、トラップに捕獲された細胞の位置を制御できることが示された。

Claims (8)

  1. 波長340nm以上の光で架橋反応を生じる光応答性分子で修飾された支持体表面に細胞を接触させた状態で、細胞を乾燥させずに光照射することを含む、支持体上への細胞の固定化方法。
  2. 前記光応答性分子がベンゾフェノンである請求項1記載の方法。
  3. 前記支持体表面は、アミノ基で表面修飾した後に該アミノ基とベンゾフェノンのチオシアン酸塩を反応させることによって調製された、ベンゾフェノン修飾された支持体表面である請求項2記載の方法。
  4. アミノ基とベンゾフェノンのチオシアン酸塩との反応が36時間以上行なわれる請求項3記載の方法。
  5. 照射する光のエネルギー密度が0.15〜1.00 J/mm2である請求項2ないし4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記支持体がガラス製である請求項1ないし5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 光を選択的に照射して細胞固定化領域をパターニングすることを含む請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法により細胞が固定化された支持体。
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