図1〜図28は本発明による一実施の形態およびその変形例を説明するための図である。以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本件明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
以下においては、まず、評価対象、設計対象および製造対象となる光拡散フィルムを、表示装置10に適用した用途とともに、説明し、その後に、光拡散フィルムの拡散特性の評価方法、光拡散フィルムの設計方法および光拡散フィルムの製造方法を説明する。
<<光拡散フィルム>>
なお、ここでは、透過光を拡散させる光拡散フィルム30を、液晶表示パネル16として構成された画像形成装置15に適用し、液晶表示装置からなる表示装置10を構成する例を説明する。しかしながら、以下の例に限られず、光拡散フィルム30を、例えば陰極線管(CRT、ブラウン管)やプラズマディスプレイパネル(PDP)として構成された画像表示装置等に適用して表示装置を構成する用途や、透過光を拡散させる部材としての表示装置への適用以外の種々の用途に対して広く適用することができる。まず、光拡散フィルム30が適用され得る表示装置10の全体的な構成について説明する。
まず、図1および図2を主に参照して、光拡散フィルム30を含んでなる表示装置10および画像表示装置15の全体構成について説明する。図1に示された表示装置10は、画像形成装置15としての液晶表示パネル16と、液晶表示パネル16を背面側から照明するバックライト20と、を有している。
液晶表示パネル15は、一対の偏光板11,12と、一対の偏光板11,12間に配置された液晶セル13と、を有している。出光側に配置された偏光板12の出光側には、表面機能シート14が設けられている。表面機能シート14は、特定の機能を発揮することを期待された層であって、画像形成装置15の最出光側面、すなわち表示装置10の表示面を形成している。表面機能シート14は、一例として、反射防止機能を有した反射防止層(AR層)、防眩機能を有した防眩層(AG層)、耐擦傷性を有したハードコート層(HC層)、帯電防止機能を有した帯電防止層(AS層)等の一以上を含むように構成され得る。
偏光板11,12は、入射した光を直交する二つの偏光成分に分解し、一方の方向の偏光成分を透過させ、前記一方の方向に直交する他方の方向の偏光成分を吸収する機能を有した偏光子を有している。図示された例において、出光側に配置された偏光板12は、偏光子18と、偏光子18の出光側に設けられた光拡散フィルム30と、を有している。光拡散フィルム30は、透過光を拡散させる機能を有している。また、光拡散フィルム30は、偏光子18と接合されて偏光板12を形成する本例において、偏光子18を保護する保護シートとしても機能する。ただし、偏光子18に別途の保護シートが設けられ、光拡散フィルム30が、もはや、偏光板12とは別途の部材として設けられていてもよい。この光拡散フィルム30については、後に詳述する。
なお、以下においては、液晶表示パネル16に含まれる一対の偏光板を区別するため、表示装置10の配置状態に関係なく、入光側の偏光板11を下偏光板と呼び、出光側の偏光板12を上偏光板と呼ぶ。
液晶セル13は、一対の支持板と、一対の支持板間に配置された液晶と、を有している。液晶セル13は、一つの画素を形成する領域毎に、電界印加がなされ得るようになっている。そして、電界印加された液晶セル13の液晶の配向は変化するようになる。入光側に配置された下偏光板11を透過した特定方向(透過軸と平行な方向)の偏光成分は、一例として、電界印加されている液晶セル13を通過する際にその偏光方向を90°回転させ、電界印加されていない液晶セル13を通過する際にその偏光方向を維持する。このため、液晶セル13への電界印加の有無によって、下偏光板11を透過した特定方向の偏光成分が、下偏光板11の出光側に配置された上偏光板12をさらに透過するか、あるいは、上偏光板12で吸収されて遮断されるか、を制御することができる。
ところで、液晶セル13は、正面方向fdに進む入射光(光源光)に対する透過または遮断を正確に制御することができる。一方、正面方向fdから大きく傾斜した方向に進む光については、位相のずれが生じてしまうので、透過または遮断を正確に制御することができない。このため、正面方向から大きく傾斜した方向に進む光に対する位相のずれを補償することを目的として、位相差フィルムを設けることもある。ただしこの場合、位相差フィルムを設けることによって、バックライト20からの光の利用効率が低下してしまう。
このような事情から、画像形成装置15の背面側に配置されたバックライト20は、正面方向を中心とした狭い角度範囲内に進行方向が集光された光によって、液晶表示パネル16を背面側から照明できるように構成されている。なお、正面方向fdに集光された光によって画像形成装置15が照明される場合、画像を形成する光も正面方向fdを中心とした狭い角度範囲内にしか進み出ない。図示された形態においては、光拡散フィルム30が、上偏光板12の偏光子18よりも出光側に配置され、画像を形成する光を拡散させて表示装置10に表示される画像の視野角を拡大するようになっている。この光拡散フィルム30については、後に詳述する。
図1に示されたバックライト20は、エッジライト型(サイドライト型)の面光源装置として構成され、液晶表示パネル16を背面側から照明する。このバックライト20は、導光板21と、導光板21の側方に設けられた発光部23aを含んだ光源23と、を有している。導光板21の液晶表示パネル側となる出光側には、集光シート25が設けられている。また、導光板21の集光シート25側とは逆側に、反射シート29が設けられている。
光源23の発光体23aは、例えば、線状の冷陰極管等の蛍光灯、白熱電球、或いは、図示された例のように点状のLED(発光ダイオード)によって構成され得る。発光体23aは、導光板21の入光面をなす側面に対向して配置されており、発光体23aで発光された光は、当該側面を介して導光板21内に入射する。導光板21は、発光体23aからの光を、その入射面に直交する方向(導光方向)に導光する。ただし、導光板21は、その背面に設けられた白色拡散部や内添された拡散剤等からなる光取出要素を有している。このため、導光板21内を進む光は、導光方向に沿った光量分布が略均一となるように、導光方向に沿った導光板21の各位置から出射する。導光板21の背面側に出射した光は、反射シート29で反射されて、出光側に光路を変換される。
図示された例において、導光板21の出光側には、線状に延びる多数の第1単位プリズ21aが設けられている。第1単位プリズム21aは、導光方向に配列され、その配列方向に直交する方向に延びている。そして、導光板21から出光側に出射する光の導光方向に直交する成分は、この第1単位プリズム21aによって、正面方向fdに集光されるようになる。
導光板21から出射した光は、集光シート25bに入射する。集光シート25は、その入光側に突出した多数の第2単位プリズム25aを有している。第2単位プリズム25aは、第1単位プリズム21aの配列方向と直交する方向(すなわち、導光板21の導光方向)に配列されており、その配列方向と直交する方向に延びている。そして、集光シート25に入射する光の導光方向に沿った成分は、この第2単位プリズム25aによって、正面方向fdに集光されるようになる。
集光シート25を透過した光は、バックライト20からの照明光として、液晶表示パネル16を照明するようになる。バックライト20からの照明光は、導光板21の第1単位プリズム21aと集光シート25の第2単位プリズム25aとによって、直交する二方向において集光されている。したがって、バックライト20によって照明される液晶表示パネル16は、正面方向fdを中心とした狭い角度範囲内の方向に進む光を高い利用効率で利用して、画像を形成することができる。
なお、画像を形成する光は、光拡散フィルム30によって拡散されるので、表示装置10の観察者は、種々の方向から画像を観察することができる。とりわけ、後述するように、ここで説明する光拡散フィルム30は種々の拡散特性を発揮し得るので、表示装置10に所望の視野角特性を付与することが可能となる。
表示装置10に求められる水平視野角特性および垂直視野角特性は、通常、異なっている。例えば、家庭用テレビ受像機としての表示装置には、広い水平視野角が求められる一方で、垂直視野角を広くする必要は通常存在しない。また逆に、モバイル機器に組み込まれる表示装置には、覗き見防止の観点から水平方向視野角(横方向視野角)を絞り込むことが求められる一方で、垂直方向視野角(縦方向視野角)を水平方向視野角よりも広く設定することが求められる。このような表示装置の視野角特性に対する要望は、光拡散フィルム30が異方性の拡散特性を発揮することによって、実現され得る。
また、図1に示された表示装置10では、バックライト20からの照明光が異方性を持つ傾向、具体的には、導光方向に沿った成分が導光方向に直交する成分よりも強く集光される傾向が生じるが、光拡散フィルム30が異方性の拡散特性を発揮することにより、表示装置10の視野角特性を等方的にすることも可能である。このような表示装置10は、一例として、把持する方向を変化させて観察されることが想定されるタブレット端末用の表示装置に好適に使用することができる。
なお、以下に説明する光拡散フィルム30は、以上に説明した構成の表示装置10、画像形成装置15、液晶表示パネル16、バックライト(面光源装置)20に限られることなく、公知の装置に対して適用され得る。例えば、バックライト20については、図2に示すような直下型の面光源装置を用いることもできる。
図2に示された、直下型のバックライト20は、発光体23aを有した光源23と、光源23の背面側に配置された反射シート29と、光源23に対向して配置された拡散板22と、拡散板22の出光側に配置された第1および第2の集光シート26,27と、を有している。第1および第2の集光シート26,27は、それぞれ、その出光側に突出する第1および第2の単位プリズム26a,27aを有している。第1および第2の単位プリズム26a,27aは、互い直交する方向に配列されており、各配列方向に直交する方向に延びている。各単位プリズム26a,27aがその配列方向に直交する光の成分を集光することにより、図2に示されたバックライト20からの光が、正面方向を中心とした狭い角度範囲内の方向に沿って進み、液晶表示パネル16を照明するようになる。
なお、図2に示す例において、図1に示された形態と同様に構成され得る部分には、同一の符号を付している。
他の公知の表示装置、画像形成装置、液晶表示パネルおよびバックライトについての詳細については、種々の公知文献(例えば、「フラットパネルディスプレイ大辞典(内田龍男、内池平樹監修)」2001年工業調査会発行)に記載されており、ここではこれ以上の詳細な説明を省略する。
なお、本明細書において、「フィルム」、「シート」、「板」等の用語は、呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。したがって、例えば、「光拡散フィルム」は光拡散シートや光拡散板とも呼ばれ得るような部材も含む概念である。
また、本明細書において「フィルム面(シート面、板面)」とは、対象となるフィルム状の部材を全体的かつ大局的に見た場合において対象となるフィルム状部材の平面方向と一致する面のことを指す。そして、本実施の形態においては、光拡散フィルム30のフィルム面、上偏光板12の板面、液晶表示パネル16のパネル面、表示装置10の表示面は、互いに平行となっている。さらに、本明細書において「正面方向」とは、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向であり、本実施の形態においては、上偏光板12の板面への法線方向、液晶表示パネル16のパネル面への法線方向、表示装置10の表示面への法線方向等にも一致する。
さらに、本明細書において、「出光側」とは、対象となる部材において、観察者へ向かう予定された光路における下流側(図1及び図2においては紙面の上側)、すなわち観察者側のことであり、「入光側」とは、この予定された光路における上流側のことである。また「背面側」とは、正面方向fdにおける「出光側」とは反対の側のことである。
さらに、本明細書において、「単位プリズム」とは、入射光に対して種々の光学的作用(例えば、反射や屈折)を及ぼし得る形状を有した要素(光学要素)を意味するものであり、光学要素として、単位光学要素、単位形状要素、単位レンズ等と呼称の違いのみに基づいて、互いから区別されるものではない。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、「平行」や「直交」等の用語については、厳密な意味に縛られることなく、同様の光学的機能を期待し得る程度の誤差を含めて解釈することとする。
次に、主として図3〜図16を参照しながら、光拡散フィルム30について説明する。
光拡散フィルム30は、少なくとも光拡散フィルムのフィルム面への法線方向(すなわち、正面方向)fdに進む特定波長の光を回折し、これにより、正面方向fdに進む光を拡散させる回折格子素子40を含んでいる。光拡散フィルム30に含まれる回折格子素子40とは、周期的な構造を有する格子パターン41、または、連続的に変化する格子パターン41を含む光学素子である。回折格子素子40は、格子パターン41に起因して透過光に対して回折現象を引き起こす。
回折格子素子40は、格子パターン41に応じたパターンで透過光に対して振幅変調を生じさせる振幅変調型の回折格子として構成されていてもよいし、或いは、格子パターン41に応じたパターンで透過光に対して位相変調を生じさせる位相変調型の回折格子として構成されていてもよい。さらには、回折格子素子40は、振幅変調および位相変調の両方を生じさせる複素振幅型の回折格子として構成されていてもよい。
回折現象を引き起こす回折格子素子40は、少なくとも第1変調領域42aおよび第2変調領域42bを有し、この第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって格子パターン41が画成される。振幅変調型の回折格子では、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの間で、拡散対象となる光の透過率が異なるようにすればよい。典型的な例として、可視光を拡散対象の光とする場合には、第1変調領域42aを透明に構成するとともに、第2変調領域42bを顔料等によって黒色の領域として構成すればよい。
位相変調型の回折格子素子40は、格子パターン41に対応したパターンで形成された凹凸面35からなる屈折率界面を含むようにすればよい。格子パターン41を画成する屈折率界面は、空気層との界面、すなわち凹凸面としての表面であってもよい。或いは、図3に示すように、屈折率界面が、異なる屈折率を有する二つの層31,32の間に形成された凹凸面35からなり、光拡散フィルム30が、実質的に平行な一対の主面を有する、すなわち、厚みが一定のフィルム材として形成されていてもよい。このような光拡散フィルム30によれば、図1および図2に示す形態のように、光拡散フィルム30の両側に、例えば接着剤(本明細書では、粘着剤を含む概念)を介して、他のシート状部材を積層したとしても、この接着によって凹凸面35が埋められることもなく、光拡散フィルム30が期待された拡散機能を発揮し続けることができる。
なお、光拡散フィルム30が回折機能を有効に発揮し得る観点から、二つの層31,32の間の屈折率差は、0.1以上であることが好ましい。また、屈折率界面をなす凹凸面35よりも出光側に位置する第2層32が、光を拡散する拡散成分を含むようにしてもよい。第2層32が光拡散機能を有する場合には、凹凸面35に起因して生じ得る波長分散(色分散)を目立たなくさせることができる。
図3は、正面方向fdに沿った光拡散フィルム30の断面の一例を示している。図3に示す例において、光拡散フィルム30は、凹凸面35を有した第1層31と、凹凸面35に沿うようにして第1層31の凹凸面35上に積層された第2層32と、を有している。第1層31および第2層32は、異なる屈折率を有した材料から構成されている。この結果、凹凸面35をなす凸部(第1層31を基準とした凹凸面の凸部であって、第2層32を基準とした凹凸面の凹部)36に対応する第1変調領域42aを透過する光に対して光拡散フィルム30から及ぼされる位相変調量と、凹凸面35をなす凹部(第1層31を基準とした凹凸面の凹部であって、第2層32を基準とした凹凸面の凸部)に対応する第2変調領域42bを透過する光に対して光拡散フィルム30から及ぼされる位相変調量と、が異なるようになり、結果として、光拡散フィルム30を透過する光は回折することになる。
回折格子素子40によって光拡散機能が発現される光拡散フィルム30を表示装置10に適用した場合には、広く利用に供されている光拡散剤を用いた従来の光拡散フィルムにおいて生じていた、外光の後方散乱を効果的に防止することができる。これにより、後方散乱に起因した表示画像のコントラスト低下を効果的に防止することができ、画像の鮮明度が低下する像ぼけを効果的に回避することも可能となる。
とりわけ、ここで説明する光拡散フィルム30は、異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40を含んでいる。異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40は、光拡散フィルム30のフィルム面に沿ってずらして配列されている。このため、互いに異なる格子パターン41を有する複数の回折格子素子40を組み合わせることにより、所望の拡散特性を実現することができ、表示装置10に所望の視野角特性を付与することが可能となる。
図4〜図10には、光拡散フィルム30に含まれ得る複数の回折格子素子40,40a,40b,40c,40d,40e,40f,40g,40h,40i,40jの格子パターン41,41a,41b,41c,41d,41e,41f,41g,41h,41i,41jの組み合わせが例示されている。図4〜図10に示す例では、各回折格子素子40,40a〜40jが、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bからなる二種類の変調領域によって構成され、且つ、屈折率界面をなす凹凸面35によって、格子パターン41,41a〜41jが画成されている例を示している。図4〜図10にも示されているように、一つの光拡散フィルム30に含まれる二以上の回折格子素子40,40a〜40jの間で、凹凸面35のピッチp、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の幅wの比(w/p)、凹凸面35をなす凸部36の配列方向、凹凸面35をなす凸部36の高さh、及び、凹凸面35の断面形状、のうちの一以上が異なっている。
まず、図4〜図8に示された光拡散フィルム30は、第1回折格子素子〜第6回折格子素子40a,40b,40c,40d,40e,40fのうちの二以上を有している。なお、図4〜8では、第1回折格子〜第6回折格子素子40a〜40fの格子パターン41a〜41fの相違のみを示しており、各回折格子素子40a〜40fの面積は同一に図示されている。しかしながら、図4〜8に示された例において、第1回折格子〜第6回折格子素子40a〜40fの面積比を適宜変更してもよい。
図4に示された例では、光拡散フィルム30は、第1方向(図面における横方向)d1に配列されるとともに第1方向d1と交差する方向に延びる第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって画成された第1格子パターン41aを有する第1回折格子素子40aと、第1方向d1と交差する第2方向(図面における縦方向)d2に配列されるとともに第2方向d2と交差する方向に延びる第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって画成された第2格子パターン41bを有する第2回折格子素子40bと、を有している。
図4に示された光拡散フィルム30によれば、第1回折格子素子40aによって第1方向d1に光を効果的に拡散させることができ、第2回折格子素子40bによって第2方向d2に光を効果的に拡散させることができる。なお、図示された例において、第1方向d1および第2方向d2は直交している。そして、第1格子パターン41aをなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、第2方向d2に直線状に延び、第2格子パターン41bをなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、第1方向d1に直線状に延びている。
図5に示された光拡散フィルム30は、上述した第1回折格子素子40aおよび第2回折格子素子40bに加え、第1方向(図面における横方向)d1に配列されるとともに第1方向d1と交差する方向に延びる第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって画成された第3格子パターン41cを有する第3回折格子素子40cを、さらに有している。図示された例において、第3回折格子素子40cの第3格子パターン41cをなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、第2方向d2に直線状に延びている。第3回折格子素子40cの第3格子パターン41cは、第1回折格子素子40aの第1格子パターン41aと、第1方向d1に沿った、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bのピッチpおよび幅wが異なっている。
図5に示された光拡散フィルム30によれば、第1回折格子素子40aに加えて第3回折格子素子40cによっても、光を第1方向d1に効果的に拡散することができる。ただし、第1方向d1への拡散特性は、第1回折格子素子40aおよび第3回折格子素子40cの間で、異なる。したがって、図5に示された光拡散フィルム30によれば、図4に示された光拡散フィルム30と比較して、第1方向d1に沿ってより均一に光を拡散させることができ、第1方向d1に沿った面内での出射光強度の角度分布をよりなだらかに変化させることが可能となる。また、図8に示された光拡散フィルム30についての説明で述べるように、同一方向d1に異なるピッチpで配列された第1格子パターン41aおよび第3格子パターン41cによれば、第1方向d1への色分散を効果的に目立たなくさせることができる。
図6に示された光拡散フィルム30は、上述した第1回折格子素子40aおよび第2回折格子素子40bに加え、第1方向d1および第2方向d2のいずれとも交差する第3方向(図面における右斜め上に延びる方向)d3に配列されるとともに第3方向d3と交差する方向に延びる第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって画成された第4格子パターン41dを有する第4回折格子素子40dと、第1方向d1〜第3方向d3のいずれとも交差する第4方向(図面における右斜め下に延びる方向)d4に配列されるとともに第4方向d4と交差する方向に延びる第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって画成された第5格子パターン41eを有する第5回折格子素子40eと、をさらに有している。図示された例において、第3方向d3は、第1方向d1および第2方向の両方から45°傾斜し、且つ、第4方向d4と直交している。そして、第4格子パターン41dをなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、第4方向d4に直線状に延び、第5格子パターン41eをなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、第3方向d3に直線状に延びている。
図6に示された光拡散フィルム30によれば、第4回折格子素子40dによって第3方向d3に光を効果的に拡散させることができ、第5回折格子素子40eによって第4方向d4に光を効果的に拡散させることができる。したがって、図6に示された光拡散フィルム30によれば、正面方向fdに沿った任意の面内での出射光強度の角度分布を調節することができる。
図7に示された光拡散フィルム30は、上述した第1〜第5の回折格子素子40a,40b,40c,40d,40eを有している。したがって、図7に示された光拡散フィルム30によれば、正面方向fdに沿った任意の面内での出射光強度の角度分布を調節することができ、とりわけ、第1方向d1に沿った面内での出射光強度の角度分布をよりなだらかに変化させることが可能となる。また、図8に示された光拡散フィルム30についての説明で述べるように、同一方向d1に異なるピッチpで配列された第1格子パターン41aおよび第3格子パターン41cによって、第1方向d1への色分散を効果的に目立たなくさせることができる。
図8に示された光拡散フィルム30は、上述した第1回折格子素子40aおよび第3回折格子素子40cに加え、第1方向(図面における横方向)d1に配列されるとともに第1方向d1と交差する方向に延びる第1変調領域42aおよび第2変調領域42bによって画成された第6格子パターン41fを有する第6回折格子素子40fを、さらに有している。図示された例において、第6回折格子素子40fの第6格子パターン41fをなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、第2方向d2に直線状に延びている。第6回折格子素子40fの第6格子パターン41fを画成する第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの第1方向d1へのピッチpおよび幅wは、第1回折格子素子40aの第1格子パターン41aを画成する第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの第1方向d1へのピッチpおよび幅wよりも大きく、第3回折格子素子40cの第3格子パターン41cを画成する第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの第1方向d1へのピッチpおよび幅wよりも小さくなっている。図8に示された光拡散フィルム30によれば、第1方向d1に沿った面内での出射光強度の角度分布を非常になだらかに変化させることが可能となる。
ところで、回折格子素子40は、一般的に波長選択性を有していない。したがって、回折格子素子40への入射光が白色光である場合、同一次数の回折光は虹色に色分散することになる。一方、回折格子素子40を含んだ光拡散フィルム30を表示装置10に適用する場合、回折格子素子40によって波長分散現象が生じてしまうと、表示される画像の色味が変化し、著しく画質が劣化することになる。
一方、図8に示された光拡散フィルム30によれば、格子パターン40の第1方向d1に沿ってピッチpが互いに異なる三種類の回折格子素子40a,40c,40fを含んでいる。したがって、各波長域の光の回折方向を互いに重ね合わせることができ、これにより、色分散を目立たなくさせることができる。とりわけ、三種類の回折格子素子40a,40c,40fが、同一方向から入射してくる赤色波長域の光、緑色波長域の光および青色波長域の光を、それぞれ、同一の方向に回折し得るようになっていれば、極めて効果的に色分散を目立たなくさせることができる。
なお、第1方向d1に沿った面内の種々の方向から観察した場合に生じ得る色分散を目立たなくさせる機能は、第1方向d1に沿った格子パターン41a,41cのピッチpが互いに異なる第1回折格子素子40a及び第3回折格子素子40cを含む図5および図7に示された光拡散フィルム30でも発揮される。また第1方向d1に限られることなく、所望の方向に沿った面内での色分散を目立たなくさせるには、当該方向に沿った格子パターン41のピッチpが互いに異なる二以上の回折格子素子40を、光拡散フィルム30に組み込めば良い。
以上のように、図4〜図8に示された光拡散フィルム30では、当該光拡散フィルム30に含まれた複数の回折格子素子40の間で、凹凸面35のピッチpや凹凸面35をなす凸部36の配列方向を変化するようにした。これらの例に加え、光拡散フィルム30の拡散特性を調節する上では、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の幅wの比(w/p)、凹凸面35をなす凸部36の高さh、凹凸面35の断面形状等を変化させることも有効である。
図9に示された光拡散フィルム30では、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の幅wの比(w/p)、すなわちduty比を変化させた例が示されている。具体的には、図9に示された光拡散フィルム30は、第7回折格子素子40gおよび第8回折格子素子40hを含んでおり、第7回折格子素子40gの第7格子パターン41gのduty比は、第8回折格子素子40hの第8格子パターン41hのduty比よりも大きくなっている。本件発明者らが、鋭意研究を重ねたところ、ピッチp、高さhおよび幅w等に応じてduty比を調節することにより、回折効率を向上させることができることが知見された。したがって、図9に示された光拡散フィルム30によれば、各回折格子素子40の回折効率を変化させて、拡散特性を調節することも可能となる。
また、図10には、複数の回折格子素子40i,40jの間で、断面形状を変化させた例が示されている。図10に示された光拡散フィルム30は、第9回折格子素子40iおよび第10回折格子素子40jを有しており、第9回折格子素子40iの第9格子パターン41iと第10回折格子素子40jの第10格子パターン41jとの間で、各回折格子素子40をなす凹凸面35の凸部36の形状が異なっている。より具体手的には、第9格子パターン41iと第10格子パターン41jとの間で、各回折格子素子40をなす凹凸面35の凸部36の形状は相補的となっている。つまり、第9格子パターン41iの凸部36の断面形状の輪郭は、第10格子パターン41jの凸部36間に形成された凹部の断面形状の輪郭と同一となっており、逆に、第10格子パターン41jの凸部36の断面形状の輪郭は、第9格子パターン41iの凸部36間に形成された凹部の断面形状の輪郭と同一となっている。
後述する例のように、型を用いて樹脂を硬化させることによって回折格子素子40を作製することができる。この際、最初に作製された第1の型を用いて第2の型を作製し、この第2の型を用いて樹脂を硬化させて、回折格子素子40を作製することもできる。さらに、第2の型を用いて第3の型を作製し、この第3の型を用いて樹脂を硬化させて、回折格子素子40を作製することもできる。またさらに、このようにしてn番目(n:自然数)に作製されていく第nの型を用いて、樹脂を硬化させて、回折格子素子40を作製することもできる。
ただし、最終的に得られる回折格子素子40の間で、予定されたピッチp、高さhおよび幅w等は概ね同一であるが、実際には、凹凸面35をなす凸部36は、異なる断面形状(異なる輪郭)を有するようになる。そして、第1の型を作製する際の精度に依存して、第2k−1(k:自然数)の型で作製された回折格子素子40の格子パターン41をなす凹凸面35の凸部36と、第2k(k:自然数)の型で作製された回折格子素子40の格子パターン41をなす凹凸面35の凸部36とは、相補的な形状となる。すなわち、図10に示された光拡散フィルム30は、第2k−1(k:自然数)の型で作製された第9回折格子素子40iと、第2k(k:自然数)の型で作製された第10回折格子素子40jと、を含むように構成されている。また、第n(n:自然数)の型を用いて回折格子素子40を作製する場合、nの数が大きくなると、作製された回折格子素子40の格子パターン41をなす凹凸面35の凸部36の形状に生じるだれの程度が、次第に顕著となっていく。
そして、本件発明者らが鋭意研究を重ねたところ、予定されたピッチp、高さhおよび幅w等が同一であったとしても、製造条件等に起因して格子パターン41をなす凹凸面35の断面形状が異なれば、回折効率が変化することが知見された。したがって、図10に示された光拡散フィルム30のように、格子パターン41をなす凹凸面35の断面形状が異なる複数の回折格子素子40を有する光拡散フィルム30によれば、各回折格子素子40の回折効率を変化させて、拡散特性を調節することが可能となる。
さらに、図示された例においては、光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40が同一面積となっているが、光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40の面積比を変化させてもよい。複数の回折格子素子40の組み合わせが同一であったとしても、複数の回折格子素子40の面積比を変化させることにより、光拡散フィルム30の拡散特性を調節することができる。
なお、上述してきた回折格子素子40の各例において、格子パターン41をなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bが、その配列方向に直交する方向に直線状に延びる例、言い換えるとストライプ状に配列した例を示した。ただし、光拡散フィルム30に含まれる回折格子素子40の格子パターン41をなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、図11および図12に示すように、曲線状に構成されていてもよい。図11に示された回折格子素子40において、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、円弧状に延びる縞状に形成されている。図12に示された回折格子素子40において、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bは、楕円弧状に延びる縞状に形成されている。
また、上述してきた回折格子素子40の各例において、格子パターン41が周期的なパターンとして構成されている例、例えば、格子パターン41をなす第1変調領域42aおよび第2変調領域42bが、一定の幅w且つ一定のピッチpで配列されている例を示した。しかしながら、図13に示すように、格子パターン41が、連続的に変化していくパターンとして構成されていてもよい。図13に示された回折格子素子40において、第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの幅wおよびピッチpは、その配列方向に沿って、しだいに大きく(または小さく)なっていくように連続的に変化している。
例えば、図13に示された回折格子素子40の第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの最小幅および最小ピッチが、図8に示された光拡散フィルム30の第1回折格子素子40aの第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの幅wおよびピッチpと同一であり、図13に示された回折格子素子40の第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの最大幅および最大ピッチが、図8に示された光拡散フィルム30の第3回折格子素子40cの第1変調領域42aおよび第2変調領域42bの幅wおよびピッチpと同一であるようにしてもよい。この場合、図13に示された回折格子素子40によれば、図8に示された第1、第3および第6回折格子素子40a,40c,40fの三つを含んでなる光拡散フィルム30よりも、格子パターン41の配列方向に沿った面内での出射光強度の角度分布をよりなだらかに変化させることが可能となる。
さらに、上述してきた回折格子素子40の各例において、回折格子素子40の格子パターン41が、第1変調領域42a及び第2変調領域42bからなる二つの変調領域のみによって画成されている例を示した。これに限られず、回折格子素子40の格子パターン41が、三以上の変調領域から画成されるようにしてもよい。例えば、回折格子素子40の格子パターン41が、図3に示すように、屈折率界面をなす凹凸面35によって構成されている場合には、高さの異なる複数種類の凸部が形成されるようにしてもよい。すなわち、凹凸面35が、二段の凹凸面としてではなく、三段以上の凹凸面として構成されていてもよい。
ところで、上述したように、光拡散フィルム30は、格子パターン41の異なる複数の回折格子素子40を含んでいる。そして、光拡散フィルム30の拡散特性を、光拡散フィルム30のフィルム面に沿った各位置において変化させておいた方が良い場合には、光拡散フィルム30に含まれる各回折格子素子40の拡散特性を考慮して、各回折格子素子40の配置および面積比を決定すればよい。
その一方で、光拡散フィルム30のフィルム面に沿った各位置において、透過光に対して同様の拡散特性を発揮し得るようにする観点からは、図14に示すように、格子パターン41の異なる複数の回折格子素子40が単位拡散要素45を構成し、光拡散フィルム30が、光拡散フィルム30のフィルム面に沿って並べられた二以上の単位拡散要素45を有するようにしてもよい。例えば、図4〜図10に示されている複数の回折格子素子40の組み合わせによって、単位拡散要素45を形成することができる。
すなわち、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40の間で、凹凸面35のピッチp、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の幅wの比、凹凸面35をなす凸部36の配列方向、凹凸面35をなす凸部36の高さ、及び、凹凸面35の断面形状、のうちの一以上が異なっているようにしてもよい(例えば、図4〜図10参照)。また、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40のうちの二以上の回折格子素子40の間で、格子パターン41のピッチpが異なるようにしてもよい(例えば、図8参照)。さらに、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40のうちの二以上の回折格子素子40の間で、面積が異なるようにしてもよいし、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40が同一の面積を有するようにしてもよい。さらに、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40のうちの少なくとも一つの回折格子素子40が、ピッチpが変化する(ピッチpが一定でない)、さらにはピッチpが連続的に変化する格子パターン41を有していてもよい(例えば、図13参照)。
二以上の単位拡散要素45が、同一の組み合わせで複数の回折格子素子40を含んでいるとすると、各単位拡散要素45に同配向の光が入射した場合に、各単位拡散要素45からの出射光の強度の角度分布は同様となる。これにより、複数種類の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30のフィルム面に沿った各位置における拡散特性を均一化することができる。とりわけ、各単位拡散要素45が、異なる格子パターン41を有する複数の回折格子素子40を含んでいるため、各回折格子素子40の回折特性を調節することにより、高い設計の自由度を確保しながら、単位拡散要素45に所望の拡散特性を付与することができる。
また、小面積の単位拡散要素45の拡散特性を評価することによって、大面積の光拡散フィルム30の拡散特性を評価することができる。したがって、後述するようにシミュレーション等によって、光拡散フィルム30の拡散特性を評価する際には、不規則な干渉縞を含むホログラム光学素子からなる光拡散フィルムと比較して、計算機での計算時間を大幅に短縮すること、シミュレーションの精度を大幅に向上させることが可能となる。
なお、図14に示された光拡散フィルム30では、単位拡散要素45が、光拡散フィルム30のフィルム面上を延びる直交する二方向のそれぞれに沿って、隙間無く並べて配列されている。しかしながら、単位拡散要素45は、隙間をあけて配列されてもよい。また、図14に示された正方配列とは異なり、隣り合う列の単位拡散要素45が半ピッチ又は一ピッチずれて配列される千鳥配列にて、単位拡散要素45が配列されていてもよい。また、図14に示された例とは異なり、単位拡散要素45の平面形状が、正方形以外の四角形形状であってもよいし、四角形形状以外の多角形形状であってもよいし、多角形形状以外の円形や楕円形等であってもよい。
<<拡散特性の評価方法>>
次に、互いに異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法について説明する。
光拡散フィルム30が設計および作製されると、実際に種々の装置等に適用する前に、通常、得られた光拡散フィルム30の拡散特性を評価することになる。とりわけ、光拡散剤を内添してなる従来の光拡散フィルムについては、製造が容易であることから、実際に製造して得られた現物を適用対象物に組み込んで、拡散特性を評価すればよい。一方、上述した複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30や、特許文献1(WO2005−0708483)および特許文献2(JP2001−356673A)に開示されているような計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムを製造するには、一般的に、超精密構造を有した型を製造する必要が生じる。このため、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムでは、高価な型を用意する前に、シミュレーションにより拡散特性が評価されることも多い。
しかしながら、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムを透過した出射光束について光強度の角度分布を計算する場合、ホログラムの干渉縞が不規則であって周期性を持たないことから、光拡散フィルムを比較的に大きな面積に区切って干渉縞のパターンをモデル化することになる。ホログラムが薄い(立体構造を無視してよい)場合には、ホログラムを厚みのない光変調面と考え、キルヒホッフ回折もしくはフレネル回折を用いること、又は、ホログラムパターンを周期構造にしてフーリエ変換を用いることができる。しかしながら、ホログラムが厚い(立体構造が無視できない)場合には、ホログラムの立体構造を考慮して、波動光学的に或いは電磁場解析光学的に計算を行った後に、キルヒホッフ回折もしくはフレネル回折やフーリエ変換により計算することになる。
このようにして、計算機合成ホログラムからの出射光束の強度に関する角度分布を求めることもできるが、数本〜数百本程度の干渉縞からなる非常に大きな面積の干渉縞のパターンも計算対象とすることになり、計算量が膨大となる。また、回折効率と回折方向とを分離して計算することができず、設計・評価の見通しが悪い。したがって、計算機合成ホログラムを用いた光拡散フィルムの拡散特性の計算は、極めて複雑で長時間化してしまう。
加えて、ホログラム干渉縞のパターンを或る程度の面積のモデルに置き換えることは、本来無限に広がる干渉縞のパターンを有限で計算することになる。したがって、計算結果は、必然的に誤差を含むことになる。さらに、干渉縞のパターンを有限で計算する場合には、パターンの端を適切に処置する必要もあり、このことが更なる誤差を引き起こしてしまう。
その一方で、上述した光拡散フィルム30では、不規則的な干渉縞を有した計算機合成ホログラムとは異なり、格子パターン41を形成する回折格子素子40を用いて光拡散機能を発現するようになっている。このため、個々の回折格子素子40の拡散特性は、計算機合成ホログラムの拡散特性と比較して、短時間で精度良く計算され得る。加えて、以下に説明する評価方法では、複数の回折格子素子40の面積比を用いることにより、異なる格子パターン41を有する複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30の拡散特性を、短時間で精度良く算出することができる。以下、図15〜図26を参照しながら、光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法について説明する。
図15に示すように、ここで説明する光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法は、
・光拡散フィルム30に含まれる回折格子素子40のそれぞれについて、対応する構成を有した回折格子素子モデルを設定する、モデル設定工程と、
・選択された複数の回折格子素子モデルのそれぞれについて、回折効率を計算する、第1計算工程と、
・入射光の強度の角度分布、各回折格子素子モデルでの回折方向、各回折格子素子モデルについて計算された回折効率、および、光拡散フィルム30内における各回折格子素子モデルの面積比を考慮して、出射光の強度の角度分布を計算する、第2計算工程と、
を含んでいる。
モデル設定工程は、評価対象となる光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40を、回折格子素子モデルとして特定する。図3に示された例のように、対象となる光拡散フィルム30の回折格子素子40の格子パターン41が、屈折率界面をなす凹凸面35によって画成されているとすると、上述したように、選択された複数の回折格子素子モデルの間において、凹凸面35のピッチp、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の幅wの比(w/p)、凹凸面35をなす凸部36の配列方向、凹凸面35をなす凸部36の高さh、凹凸面35の断面形状、他の回折格子素子モデルに対する面積比、及び、凹凸面36の両側における屈折率差、のうちの一以上が異なっているようにする。
なお、光拡散フィルム30が、同一に構成された多数の単位拡散要素45からなる場合には、一つの単位拡散要素45に含まれる複数の回折格子素子40のみに着目すればよい。この際、小面積の単位拡散要素45の拡散特性を評価することによって、大面積の光拡散フィルム30の拡散特性を評価することができる。したがって、不規則な干渉縞を含むホログラム光学素子からなる光拡散フィルムと比較して、計算機での計算時間を大幅に短縮すること及び評価の精度を大幅に向上させることが可能となる。
一具体例として、図4に示された光拡散フィルム30に含まれる第1回折格子素子40aおよび第2回折格子素子40bを、図16に示された第1回折格子素子モデル55aおよび第2回折格子素子モデル55bとして評価した。この評価では、理解の便宜を図り、第1回折格子素子モデル55aおよび第2回折格子素子モデル55bを次のように設定した。第1回折格子素子モデル55aおよび第2回折格子素子モデル55bは、図3に示された光拡散フィルム30のように、入光側の第1層31および出光側の第2層32とからなり、第1層31と第2層32との間に、屈折率界面をなす凹凸面35が形成されていることにした。また、第1層31をなす材料の屈折率を1.588とし、第2層32をなす屈折率を1.410とした。第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bは、格子パターンの配列方向が異なる点において異なり、他の凹凸面35の構成は同一とした。すなわち、第1回折格子素子モデル55aを90°回すと、第2回折格子素子モデル55bと同一になるように特定した。また、第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bの面積比は、1:1とした。
次に、第1計算工程では、選択された複数の回折格子素子モデルのそれぞれについて、回折効率を計算する。各回折格子素子モデルについて、0次の回折効率、1次の回折効率、さらに必要に応じて2次以上の回折効率について計算する。例えば、厳密結合波理論(Rigorous Coupled Wave Analysis)または時間領域差分法(FDTD Finite Difference Time Domain method)を用いて、各回折格子素子モデルについて、各次数の回折効率を計算することができる。厳密結合波理論や時間領域差分法を用いる場合には、入射光の入射角度、入射光の波長、回折格子素子モデルの構成(断面形状や凹凸面35での屈折率差)を特定して、各次の回折効率を計算することができる。したがって、評価対象となる光拡散フィルム30に複数波長域の光が入射することが想定されている場合、第1計算工程および次に説明する第2計算工程において、複数の波長域の光のそれぞれについて計算を実施すればよい。また、評価対象となる光拡散フィルム30に角度幅を持って光が入射することが想定される場合には、複数の入射角度に対して、回折効率を計算しておく。
ここで、図16に示された第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bについて、凹凸面35のピッチを0.9μmおよび凹凸面35をなす凸部36の高さhを1.3μmに設定し、各次の回折効率を計算した結果を表1に示す。なお、表1の回折効率は、入射光が、第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bに正面方向fdから入射した場合の計算結果である。
最後に、第2計算工程では、入射光の強度の角度分布、各回折格子素子モデルでの回折方向、各回折格子素子モデルについて計算された回折効率、および、光拡散フィルム30内における各回折格子素子モデルの面積比を考慮して、出射光の強度の角度分布を計算する。出射光の強度の角度分布は、次の式を用いて計算することができる。
となっている。m番目の回折格子のn次の回折光分布を示すD
m,n(X, Y, x, y, λ)の式では、デルタ関数δを用いており、デルタ関数中の(d
x, d
y)は格子ベクトルである。したがって、D
m,n(X, Y, x, y, λ)の式は、入射光が回折格子素子モデルにより回折されて伝播方向が変わることを表している。また、O(X, Y, λ)は、基本的に光線追跡法で求められる。すなわち、まず、入射光束を多数の光線で表し、一本ごとの光線の回折格子素子モデルでの回折現象を計算する。その後、回折された光を集め、出射光束の強度の角度分布を得ている。計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムでは、このような方法により、O(X, Y, λ)を求めることは不可能である。
図17には、入射光束の強度の角度分布の一例を表すグラフが示されている。図17のグラフにおいて、実線が、正面方向fdおよび第1方向d1の両方に沿った面内での入射光束の強度の角度分布を示しており、破線が、正面方向fdおよび第2方向d2の両方に沿った面内での入射光束の強度の角度分布を示している。図17に示された配向を有する入射光束が、図16に示された第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bに入射した場合における、第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bを透過した出射光束の強度の角度分布を、図18のグラフとして示している。なお、図17に示された入射光束は、図1に示したエッジライト型のバックライト20からの光を想定しており、さらに、導光板21での導光方向が第1方向d1と平行になることを想定している。
図18のグラフでは、正面方向fdおよび第1方向d1の両方に沿った面内での出射光束の強度の角度分布が示されている。この強度の角度分布の評価は、すなわち、図18の結果が得られた評価では、400nmの光、500nmの光、600nmの光および700nmの光が同一の光量で入射光束に含まれているとの条件を採用した。また、図18の結果が得られた評価では、図16に示された第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bの凹凸面35のピッチを0.9μm、凹凸面35をなす凸部36の高さhを1.3μm、凹凸面35をなす凸部36の幅wを0.45μmに設定した。さらに、入射光束は、第1方向d1に沿って振動する直線偏光とした。
また、第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bの凹凸面35のピッチpと、第1回折格子素子モデル55a及び第2回折格子素子モデル55bの凹凸面35をなす凸部36の高さhと、を種々の値に設定して、第1回折格子素子モデル55aおよび第2回折格子素子モデル55bの拡散特性を評価して計算した。凹凸面35のピッチpについては、0.9μmから2.1μmまで0.2μmずつ変化させた。凹凸面35をなす凸部36の高さhについては、1.3μm、1.5μmおよび1.7μmに設定した。
各条件について求められた、正面方向輝度の比、正面方向fdおよび第1方向d1の両方向に沿った面内での出射光強度の角度分布における半値角、色分散係数を、それぞれ、表2、表3および表4に示す。なお、色分散係数とは、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに沿った各波長の出射光の強度に関する最大値、最小値、平均値を特定し、最大値と最小値との間の差x(図18参照)の平均値yに対する比の値(x/y)のことである。色分散係数の値が大きい程、色が分散していることになる。表2〜4に示すように、凹凸面35のピッチpおよび凹凸面35をなす凸部36の高さhを変化させることにより、光拡散フィルム30の拡散特性を大きく変化させ得ることが確認された。
また、本件発明者らは、図4〜図7に示された光拡散フィルム30についても、それぞれサンプル1〜4として、拡散特性を評価した。入射光の条件については、図18に結果が示された評価で用いた条件と同様の条件とした。上述したように、図4〜図7に示された光拡散フィルム30は、第1回折格子素子40a〜第5回折格子素子40eのうちの二以上を含んでいる。そして、各光拡散フィルム30に含まれる第1回折格子素子40a〜第5回折格子素子40eの面積比は、表5に示す通りとした。各第1回折格子素子40a〜第5回折格子素子40eをなす格子パターン41は、図3に示された例のように、屈折率界面をなす凹凸面35によって画成されていると仮定した。各第1回折格子素子40a〜第5回折格子素子40eにおいて、凹凸面35のピッチpは表5に示すとおりに設定した。各第1回折格子素子40a〜第5回折格子素子40eにおいて、凹凸面35をなす凸部36の高さhは1.5μmとした。
図19〜図22には、出射光束の強度の角度分布を示している。図19〜図22においては、基準となる強度に対して80%以上の強度が確保された角度域を第1角度域Zaとして表し、基準となる強度に対して80%未満60%以上の強度が確保された角度域を第2角度域Zbとして表し、基準となる強度に対して60%未満40%以上の強度が確保された角度域を第3角度域Zcとして表し、基準となる強度に対して40%未満20%以上の強度が確保された角度域を第4角度域Zdとして表し、基準となる強度に対して20%未満の強度が確保された角度域を第5角度域Zdとして表している。なお、基準となる強度は、図19〜図22において共通としている。また、図23〜図26のグラフには、それぞれ、サンプル1〜4について、正面方向fdおよび第1方向d1の両方に沿った面内での出射光束の強度の角度分布が示されている。図23〜図26のグラフの縦軸は、サンプル1〜4の間で共通する基準に対する強度比として示されている。
第1方向へのピッチpが互いに異なる二種類の回折格子素子40を含んだサンプル2では、サンプル1と比較して、色分散係数を大幅に低下させることができた。第1方向d1および第2方向d2には配列された回折格子素子40だけでなく、斜め方向(第3方向d3および第4方向d4)に配列された回折格子素子40も含むサンプル3および4では、視野角特性を等方的に補正することができた。
以上のような光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法によれば、光拡散フィルム30に含まれる回折格子素子40が周期的な格子パターン41を有するとともに、異なる格子パターン41を有した二以上の回折格子素子40の面積比を利用しているので、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムのように、パターンの端部の形状を考慮する必要がなく、また、パターンの計算面積を検討する必要もない。これにより、誤差が少なく評価結果の精度が大幅に向上し、且つ、計算時間も短縮する。とりわけ、同一に構成された多数の単位拡散要素45からなる光拡散フィルム30では、そのごく一部分のみを計算対象とすればよく、大面積を計算する必要があった計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムと比較して、計算時間を大幅に短縮することができる。
なお、以上の説明においては、入射光が特定の偏光成分である例を示したが、入射光が二集類の偏光成分を含む場合にも、上述してきた評価方法を用いることができる。この例では、まず、第1計算工程において、TM(例えば第1方向d1に振動する偏光成分)およびTE(例えば、第2方向d2に振動する偏光成分)の二種類の偏光成分について回折効率をそれぞれ計算する。次に、第2計算工程において、入射光を偏光成分毎に、当該偏光成分に対して第1計算工程で計算された回折効率を考慮して、出射光強度の角度分布を計算することになる。
<<設計方法>>
次に、光拡散フィルム30の設計方法について説明する。
以上で説明したように、互いに異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルム30の拡散特性は、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムの拡散特性と比較して、短時間で高精度に評価することができる。そして、本件発明者らは、この点を利用することにより、所望の拡散機能を発揮し得る光拡散フィルム30を、計算機を用いて短時間で高精度に設計し得ることを見いだした。以下、本件発明者らの知見に基づいた光拡散フィルム30の設計方法について説明する。
図27に示すように、ここで説明する光拡散フィルム30の設計方法は、
・光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40のそれぞれについて、特定の構成を付与された回折格子素子モデルを選択する、モデル設定工程と、
・選択された複数の回折格子素子モデルのそれぞれについて、回折効率を計算する、第1計算工程と、
・入射光の強度の角度分布、各回折格子素子モデルでの回折方向、各回折格子素子モデルについて計算された回折効率、および、光拡散フィルム内における各回折格子素子モデルの面積比を考慮して、出射光の強度の角度分布を計算する、第2計算工程と、
前記計算された出射光の強度の角度分布に基づき、予め設定された条件が満たされるか否かを確認する、確認工程と、
を含んでいる。
まず、モデル設計工程では、互いに異なる格子パターンを有する複数の回折格子素子モデルが選択される。一例として、モデル設定工程で設定される各回折格子素子モデルが凹凸面としてモデル化されている場合には、複数の回折格子素子モデル間において、凹凸面35のピッチp、凹凸面35のピッチpに対する凹凸面35をなす凸部36の幅wの比(w/p)、凹凸面35をなす凸部36の配列方向、凹凸面35をなす凸部36の高さh、凹凸面35の断面形状、他の回折格子素子モデルに対する面積比、及び、凹凸面35の両側における屈折率差、のうちの一以上が異なるように、複数の回折格子素子モデルが選択され得る。
なお、モデル設定工程では、予め設定された条件が満たされることを考慮して、複数の回折格子素子モデルが選択されることが好ましい。この際、事前に得られている結果等に基づき、例えば、表2〜表4等の情報を事前に調査および獲得しておくとともに、この情報を所望の出射光の配向と対比して、複数の回折格子素子モデルを選択することが好ましい。
次に実施される第1計算工程および第2計算工程は、既に説明した光拡散フィルム30の拡散特性の評価方法における第1計算工程および第2計算工程と同様に行われる。第2計算工程を経ることにより、仮設計された光拡散フィルム30の拡散特性に関する情報、一例として、図18〜図26に示されているような情報が得られる。
確認工程では、得られた拡散特性に関する情報に基づき、モデル設定工程で仮設計された光拡散フィルム30が、想定される配向の入射光束に対して有効な光拡散機能を発揮し、これにより、出射光束の強度の角度分布に関する所定の条件が満たされるか否かを検討する。ここで確認される所定の条件とは、設計対象となる光拡散フィルム30に予定された用途等に応じて定められる条件である。
一例として、確認工程において、特定の方向に沿った面内での出射光の強度の角度分布の半値角が、予め設定された角度以上となっているか(または予め設定された角度を超えているか)否かや、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに進む出射光の強度が、予め設定された値以上となっているか(または予め設定された値を超えているか)否か、或いは、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに進む出射光の強度が、予め設定された値未満となっているか(または予め設定された値以下となっているか)否か等が、判断され得る。
第1計算工程および第2計算工程において、複数の波長の光について計算が行われる場合には、確認工程において、各波長の光について計算された出射光の強度の角度分布に基づき、予め設定された条件が満たされるか否かが確認されるようにしてもよい。例えば、計算されたすべての波長の光に関する強度の角度分布が、所定の条件を満たすか否かが判断されてもよい。また、確認工程において、色度の角度変化が予め定められた条件として、確認されてもよい。具体例として、光拡散フィルム30のフィルム面への法線方向fdに沿った各波長の出射光の強度に関する最大値、最小値、平均値を特定し、最大値と前記最小値との間の差の平均値に対する比の値、すなわち上述した色分散係数が、予め設定された値以下となっているか(または予め設定された値未満となっているか)否かが、確認工程で判断されてもよい。
図27に示すように、確認工程で予め設定された条件が満たされていることが確認された場合には、計算対象となっていた回折格子素子モデルの構成が、対応する回折格子素子の構成として決定され、光拡散フィルムの設計が終了する。一方、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、モデル設定工程まで戻って、光拡散フィルム30に含まれる複数の回折格子素子40のそれぞれについて特定の構成を付与された回折格子素子モデルを選択し直して、第1計算工程、第2計算工程および確認工程を再度行う。このとき二回目の確認工程で予め設定された条件が満たされていることが確認されれば、二回目に計算対象となっていた回折格子素子モデルの構成が、回折格子素子の構成として決定され、光拡散フィルムの設計が終了する。逆に、二回目の確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、その後に実施される確認工程で、予め設定された条件が満たされていることが確認されるまで、第1計算工程、第2計算工程および確認工程が繰り返し実施される。
一例として、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、引き続き行われるモデル工程で複数の回折格子素子モデルを選択し直す際に、回折格子素子モデルの面積比のみが変更される、すなわち、各回折格子素子モデルの面積比以外の構成は維持されるようにしてもよい。このような手法を用いる場合には、最初のモデル設定工程において、選択される複数の回折格子素子モデルのうちの二以上の回折格子素子モデルの間で、格子パターン41の方向が互いに異なっていることが好ましい。このような手法によれば、再度の第2計算工程を行う際に、一回目の第2計算工程で得られた計算結果の一部を利用することが可能となり、さらに、一回目の第1計算工程で得られた計算結果をそのまま利用することにより、再度の第1計算工程を実際に実施する必要がなくなる。
なお、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、引き続き行われるモデル設定工程で複数の回折格子素子モデルを選択し直す必要がある。次のモデルの条件値を決定する方法としては、評価値(条件が満たされた程度を表す値)が向上する方向にモデルの条件値を変化させる方法と、モデルの条件値を変えてみて評価値が向上するならその変化を採用して次に進む方法が例示され得る。前者には減衰最小自乗法(damped least−squares method:DLM)等が例示され、後者には遺伝的アルゴリズム(genetic algorithm:GA)やシミュレーテッドアニーリング(Simulated Annealing:SA)等が例示される。
以上のようにして、想定される入射光に対して有効な光拡散特性を発揮して出射光の配向を制御し得る光拡散フィルム30を、設計することができる。
なお、上述した実施の形態においては、確認工程において、計算された出射光の強度の角度分布に基づき、予め設定された条件が満たされるか否かを確認し、確認工程で予め設定された条件が満たされていないことが確認された場合には、モデル設定工程まで戻って、光拡散フィルムに含まれる複数の回折格子素子のそれぞれについて特定の構成を付与された回折格子素子モデルを選択し直し、第1計算工程、第2計算工程および確認工程を再度行う例を示した。しかしながら、これに限られない。
光拡散フィルムの設計方法が、上述したモデル設定工程、第1計算工程および第2計算工程を含むとともに、その後の確認工程において、第2計算工程で計算された出射光の強度の角度分布を評価するようにしてもよい。例えば、一度だけ、モデルの設定、回折効率の計算および出射光強度の角度分布の計算を行い、得られた出射光強度の角度分布を考慮して計算対象となっていた回折格子素子モデルの構成を修正し、修正した回折格子素子モデルの構成を対応する回折格子素子の構成として決定してもよい。この例によれば、蓄積されたデータや経験則、さらには製造による制限等を参酌して、回折格子素子モデルの構成の修正を行うことにより、再度の第1計算工程や再度の第2計算工程を省略しながら、或る程度の精度で所望の拡散特性を示す光拡散フィルムを設計することができる。したがって、想定される入射光に対して有効な光拡散特性を発揮して出射光の配向を制御し得る光拡散フィルム30の設計をさらに簡略化することができる。
また、別の光拡散フィルムの設計方法として、モデル設定工程において、互いに異なる構成を有する複数の光拡散フィルムモデルであって、各々が複数の回折格子素子モデルを含んでいる複数の光拡散フィルムモデルが設定され、第1計算工程、第2計算工程および確認工程が、各光拡散フィルムモデルに対して実施されるようにしてもよい。すなわち、モデル設定工程において、出射光強度の角度分布の調査対象となる光拡散フィルムのモデルとなり得る範囲を予め決定しておき、決定された範囲内の光拡散フィルムのモデルのすべて或いはいくつかに対して、第1計算工程、第2計算工程および確認工程を実施する。
そして、予め設定された条件に照らして、最も適した出射光強度の角度分布を示す光拡散フィルムモデルが選択され、当該選択された光拡散フィルムモデルに含まれた回折格子素子モデルの構成が、対応する回折格子素子の構成として決定され、光拡散フィルムの設計が終了するようにしてもよい。つまり、各光拡散フィルムのモデルについて得られた出射光強度の角度分布を比較して、予め設定された条件に照らして、最適な出射光強度の角度分布を呈した光拡散フィルムモデルの回折格子素子モデルの構成を、光拡散フィルムの対応する回折格子素子の構成とすることができる。
ここで予め設定された条件とは、上述した条件と同様とすることができる。例えば、予め設定された条件が、特定の方向に沿った面内での出射光の強度の角度分布の半値角であれば、最も大きな半値角を呈したモデルを、最適な出射光強度の角度分布を呈した光拡散フィルムモデルとすることができる。さらにこの際、第2の条件を色分散係数に設定しておき、所定の色分散係数を呈するモデルの中で最も大きな半値角を示したモデルを、最適な出射光強度の角度分布を呈した光拡散フィルムモデルとすることができる。予め設定された条件が、複数種類の条件であってもよい。
ところで、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムを設計する場合には、所望の出射光分布および想定される入射光分布を考慮に入れて、所定の回折特性を発揮し得る干渉縞(パターン)が計算されている。ただし、計算機での計算量の制約等から、一般に、計算機合成ホログラムの干渉縞の設計では、入射光を特定の入射角度からの平行光束であって且つ単色の光と仮定して、計算が行われている。このため、想定される入射光が、非平行光や複数波長域の光である場合には、入射角度および波長に応じて回折方向および回折効率が変化するので、設計時にはこの点を考慮しなければならなくなる。また、想定される入射光が、実際に、単色の平行光である場合であっても、回折効率は干渉縞の構造にも依存するため、やはらに何らかの補足的な計算が必要となる。とりわけ、干渉縞が立体構造となる場合には、回折効率の計算には非解析的な方法を用いることが必要となる。このようなことから、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムの設計には、莫大な計算時間を費やすこととなり、また結果として、設計において適した解に到達することも困難であった。
一方、ここで説明した光拡散フィルムの設計方法によれば、計算機合成ホログラムを用いた従来の光拡散フィルムの設計における問題を解消することができ、且つ、比較的に短時間で行うことが可能な計算に基づき、所望の拡散特性を呈する光拡散フィルム30を精度良く設計することができる。
<<製造方法>>
次に、互いに異なる格子パターン41で形成された複数の回折格子素子40を含む光拡散フィルムの製造方法について説明する。ここで説明する光拡散フィルムの製造方法は、光拡散フィルム30を設計する工程と、設計された光拡散フィルム30を作製する工程と、を含む。光拡散フィルムを設計する工程は、上述した通りである。一方、設計された光拡散フィルム30の作製は、一般には、型を用いて樹脂を硬化させることにより、作製される。したがって、まず、所望の光拡散フィルム30を作製するための型を作製する方法の一例について説明する。
まず、合成石英等の基板上に表面低反射クロム薄膜を積層したフォトマスクブランク板のクロム薄膜上に、ドライエッチング耐性のあるレジスト層を薄膜状に形成する。ドライエッチング用レジストとしては、一例として、日本ゼオン株式会社製のZEP7000等を使用することができ、レジストの積層は、スピンナー等を用いた回転塗付によって行うことができる。このレジスト層に対し、パターン露光を行なうが、パターン露光は、板状のパターン、レーザー描画装置によるレーザービームの走査、又は、電子線描画装置による電子線の走査により行うことができる。この露光によりレジスト樹脂が硬化した易溶化部分と、未露光部分と、が形成されるので、現像液を噴霧して行なうスプレー現像等によって、溶剤現像して易溶化部分を除去し、レジストパターンを形成する。
形成されたレジストパターンを利用して、ドライエッチングにより、レジストで被覆されていない部分のクロム薄膜を除去し、除去した部分において、下層の石英基板を露出させる。次いで、露出した石英基板に対して、同様にドライエッチングを施して、石英基板をエッチングし、エッチングの進行により生じた凹部と、クロム薄膜およびレジスト薄膜とが下から順に被覆している石英基板の元の部分からなる凸部とを形成する。この後、レジスト薄膜を溶解等により除去し、石英基板がエッチングされて生じた凹部と、頂部にクロム薄膜が積層した部分からなる凸部とを有する石英基板を得る。
以上の方法のみでは、凸部と凹部の、二値的(高低の二段、深さとしては、元の石英基板の表面に加えて、もうひとつのレベルの面が生じる。) のものしか得られないが、上記で得られたものに対し、さらにレジストの形成→パターン露光→レジストの現像→クロム薄膜のドライエッチング→石英基板のドライエッチング→ レジスト除去からなる、フオトエッチングの工程を繰り返すことにより、1 回目のフォトエッチングにより生じた凹部および凸部に対してさらにフォトエッチングを施すことができる。これを複数回繰り返すことにより、複数の高低差を有する凹凸を精度よく得ることが可能である。このようにして、所定の段数を得た後、クロム薄膜をウェットエッチングにより除去し、石英基板表面に所定の段数の深さの凹凸が形成された光拡散フィルム30の型を得ることができる。
次に、作製した光拡散フィルム30用の型を用いて光拡散フィルム30を作製する方法について説明する。まず、当該型を使用して光拡散フィルム30の第1層31を作製するが、第1層31の作製は、例えば当該型を、加熱により軟化する樹脂層に押し付ける方法、インジェクション法、又は、キャスティング法等を利用することできる。これら方法に使用する樹脂としては、熱可塑性および熱硬化性のいずれも使用することができる。
工業的に好ましいのは、紫外線硬化性樹脂を含む未硬化樹脂組成物を型の凹凸が形成された面に接触させ、樹脂組成物の反対側に第1層31の基材層となるフィルムをラミネートして、樹脂組成物を型とプラスチックフィルム(基材フィルム)との間に挾んだ状態とする。かかる状態から、紫外線を照射する等して樹脂組成物を硬化させ、しかる後に該フィルムと、硬化して且つ格子パターン41をなす凹凸面35が賦形された該紫外線硬化性樹脂組成物層と、を型から離型すると、第1層31が形成される。すなわち、透光性を有する基材層の一方の面上に凹凸面35を有する樹脂層が積層することによって、第1層31が形成される。
第1層31を形成するための具体的な装置として、図28に示された成型装置60を用いることができる。図28に示された装置60は、略円柱状の外輪郭を有した成型用型70を有している。成型用型70の円柱の外周面(側面)に該当する部分に円筒状の型面(凹凸面)72が形成されている。円柱状からなる成型用型70は、円柱の外周面の中心を通過する中心軸線CA、言い換えると、円柱の横断面の中心を通過する中心軸線CAを有している。すなわち、成型用型70は、中心軸線CAを回転軸線として回転しながら、成型品としての光拡散フィルム30の第1層31を成型するロール型として構成されている。
図28に示すように、成型装置60は、帯状に延びる基材フィルム50と成型用型70の型面72との間に流動性を有した樹脂組成物53を供給する材料供給装置64と、基材フィルム50と成型用型70の凹凸面72との間の樹脂組成物53を硬化させる硬化装置66と、をさらに有している。硬化装置66は、硬化対象となる樹脂組成物53の硬化特性に応じて適宜構成され得る。また、成型装置60は、樹脂組成物53を塗布された基材フィルム50を成型用型70上に保持するための一対のローラ68を有している。このような成型装置60を用いることにより、第1層31を連続的に製造することができる。
次に、第1層31上に第2層32を積層する。第2層32は、硬化する前の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は、紫外線硬化樹脂等をスキージを用いて第1層31上に塗工し、その後に、樹脂を当該樹脂に対応した硬化方法により硬化させることによって、形成され得る。また、第2層32として接着剤(粘着剤を含む概念)を用いることもできる。この場合、第1層31上に接着剤を塗布する方法を用いることができる。