JP2013191839A - 圧粉磁心およびそれに用いる磁心用粉末 - Google Patents

圧粉磁心およびそれに用いる磁心用粉末 Download PDF

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Abstract

【課題】比抵抗および磁束密度を高次元で両立させ得る圧粉磁心およびそれに適した磁心用粉末を提供する。
【解決手段】本発明の磁心用粉末は、2価の金属正イオンとなる金属元素(M)と鉄(Fe)と酸素(O)によりMFeで表される化合物であるスピネル型フェライトからなるフェライト被膜で被覆された軟磁性粒子からなる。そして軟磁性粒子の粒度は50〜250μmであり、フェライト被膜の平均膜厚は10〜200nmであり、フェライト被膜中のMは少なくともマンガン(Mn)を含むことを特徴とする。この磁心用粉末を圧縮成形した圧粉磁心を用いると、従来のフェライト被膜で被覆された軟磁性粒子からなる圧粉磁心よりも、比抵抗および磁束密度を高次元で両立させることができる。この圧粉磁心をモータコア等に用いると、小型軽量化を図りつつ、高トルク・高効率なモータを得ることができる。
【選択図】図3

Description

本発明は、体積比抵抗値(以下単に「比抵抗」という。)および磁束密度が大きな圧粉磁心およびそれに用いる磁心用粉末に関する。
変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等、我々の周囲には電磁気を利用した製品が多々ある。これらの製品は交番磁界を利用したものが多く、局所的に大きな交番磁界を効率的に得るために、通常、磁心(軟磁石)をその交番磁界中に設けている。
この磁心には、交番磁界中における高磁気的特性のみならず、交番磁界中で使用したときの高周波損失(以下、磁心の材質に拘らず単に「鉄損」という。)が少ないことが求められる。この鉄損には、渦電流損失、ヒステリシス損失および残留損失があり、中でも交番磁界の周波数の2乗に比例して高くなる渦電流損失の低減が重要である。
このような磁心として、絶縁性膜で被覆された軟磁性粒子(磁心用粉末の各粒子)を加圧成形した圧粉磁心がある。この圧粉磁心は、渦電流損失が小さくて形状自由度が高いため、モータコア等をはじめ種々の電磁機器に利用されている。もっとも、その絶縁性膜を非磁性なシリコン系樹脂やリン酸塩等で形成すると、圧粉磁心の(飽和)磁束密度等が低下し得る。そこで絶縁性膜としてフェライト被膜を用いることが提案されており、例えば下記のような特許文献に関連する記載がある。
WO2003/015109号公報 特開2006−97097号公報 特開2005−64396号公報
特許文献1では、例えば、平均粒径が4μm程度の非常に微細な粒子(カルボニル鉄粉粒子)の表面に、平均厚さ0.5μm(500nm)のNiZnフェライト被膜を設けた粒子からなる粉末およびその成形体を提案している。特許文献2では、例えば、平均粒径が8μm程度の微粒子(センダスト粉粒子)の表面に、マグネタイト(Fe)からなるフェライト被膜を設けた粒子からなる粉末およびその成形体を提案している。
これらの磁心用粒子は、コアとなる軟磁性粒子の粒径が非常に微細である一方、その表面に形成されるフェライト被膜が非常に厚い。このため特許文献1や特許文献2に記載の成形体である圧粉磁心では、比抵抗が高くても、(飽和)磁束密度や透磁率が非常に低くなってしまう。
特許文献3では、例えば、平均粒径が100μm程度の粒子(ガスアトマイズ純鉄粉粒子)の表面に、膜厚50〜150nmのNiZnフェライト被膜またはFeフェライト被膜を設けた粒子およびその粒子からなる成形体を提案している。詳細は後述するが、本発明者が調査研究したところ、特許文献3のようなフェライト被膜を有する圧粉磁心では、比抵抗と磁束密度を高次元で両立させることはできないことがわかった。
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、比抵抗等の電気的特性と磁束密度や透磁率等の磁気的特性とを高次元で両立させた圧粉磁心と、その製造に適した磁心用粉末を提供することを目的とする。
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Mnを含むスピネル型フェライトからなる薄膜で被覆された特定サイズの軟磁性粒子からなる磁心用粉末を用いることにより、一般的には背反関係にある比抵抗と磁束密度を高次元で両立させた圧粉磁心を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
《磁心用粉末》
(1)本発明の磁心用粉末は、軟磁性粒子と、2価の陽イオンとなる金属元素(M)と鉄(Fe)と酸素(O)によりMFeで表される化合物であるスピネル型フェライトからなり該軟磁性粒子の表面を被覆するフェライト被膜と、を有する磁心用粒子からなる磁心用粉末であって、
前記軟磁性粒子は、粒度が50〜250μmであり、前記フェライト被膜は、平均膜厚が10〜200nmであると共に前記Mは少なくともマンガン(Mn)を含むことを特徴とする。
(2)本発明の磁心用粉末は、そのコアとなる軟磁性粒子が比較的大きな粒径からなるため、圧粉磁心の高磁束密度化や高透磁率化を図り易い。しかも、その軟磁性粒子の表面は磁性材であるスピネル型フェライトからなる薄膜(フェライト被膜)で被覆されているため、圧粉磁心の磁束密度の低下や軟磁性粒子の表面に生じる反磁場による透磁率の低下等も大幅に抑制される。
勿論、その被膜は酸化鉄(Fe)を主成分とするセラミックスであるため、非常に薄くても優れた絶縁性を発揮する。従って、本発明に係るフェライト被膜で被覆された軟磁性粒子からなる磁心用粉末を用いると、磁束密度や透磁率等の磁気的特性のみならず、比抵抗等の電気的特性にも優れた圧粉磁心を容易に得ることができる。
(3)ここで本発明に係るフェライト被膜を構成するスピネル型フェライトは、MFeで表される立方晶系のソフトフェライトであり、MはFe、Mn、Ni、Zn、Cu、Mg、Sr等の2価の陽イオンとなる金属元素である。
但し、本発明に係るMは少なくともMnを含んでいる。Mnを含むフェライト被膜を有する圧粉磁心は、他の圧粉磁心よりも、比抵抗等の電気的特性と磁束密度等の磁気的特性の両方において優れる。このような特性が発現される詳細なメカニズムは必ずしも定かではない。現状では次のように考えられる。正スピネルと逆スピネルの固溶体の場合、スピネルの結晶構造中のAサイトまたはBサイトへの、M元素の入り易さは、M元素の種類により異なる。これに伴い各結晶構造に生じる磁気モーメントも変化する。ここでMn(さらにはZn)が固溶した結晶構造の場合、他のM元素が固溶した場合よりも大きな磁気モーメントを生じ、飽和磁化も大きい。特にMnFeは、各種の単元フェライト中でも飽和磁化が最大であり、比抵抗も大きい。このような理由により、Mnを含むフェライト被膜を有する圧粉磁心は、上述したような優れた特性を発揮したと考えられる。
《圧粉磁心》
本発明は、上述した磁心用粉末としてのみならず、それを加圧成形した圧粉磁心としても把握し得る。なお、本発明に係るフェライト被膜は、その加圧成形時に割れたり、軟磁性粒子の表面から剥離等することは殆どない。
《その他》
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
磁心用粒子(試料No.A1)の表面を観察したSEM像(写真)である。 その一部(図1Aの□部分)を拡大したSEM像である。 その磁心用粒子の断面を拡大したSEM像である。 その一部(図1Cの□部分)を拡大したTEM像である。 磁心用粒子を被覆するフェライト被膜の膜厚とその磁心用粒子からなる圧粉磁心の比抵抗との関係を示す分散図である。 そのフェライト被膜の膜厚とその圧粉磁心の磁束密度B5kとの関係を示す分散図である。 そのフェライト被膜の膜厚とその圧粉磁心の透磁率との関係を示す分散図である。 圧粉磁心の比抵抗と磁束密度B5kの関係を示す分散図である。
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の磁心用粉末のみならず、それを用いて製作した圧粉磁心にも適宜該当し得る。製造方法に関する内容は、プロダクトバイプロセスとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
《磁心用粉末》
(1)軟磁性粒子(軟磁性粉末)
軟磁性粉末を構成する軟磁性粒子は、8属遷移元素(Fe、Co、Ni等)などの強磁性元素を主成分とすれば足るが、特性、入手性、コスト等から純鉄または鉄合金からなると好ましい。特に純鉄粉は、高い飽和磁束密度が得られ、圧粉磁心の磁気的特性の向上を図る上で好ましい。また鉄合金粉として例えば、Si含有鉄合金(Fe−Si合金)粉を用いると、Siによりその電気抵抗率が高められるため、圧粉磁心の比抵抗の向上ひいては渦電流損失の低減を図れる。
この他、軟磁性粉末は、Fe−49Co−2V(パーメンジュール)粉、センダスト(Fe−9Si−6Al)粉等でも良い。また軟磁性粉末は、二種以上の粉末を混合したものでもよく、例えば、純鉄粉とFe−Si合金粉の混合粉末などでもよい。
軟磁性粒子の粒径は、圧粉磁心の仕様に応じて変化させ得るが、本発明に係る軟磁性粉末の粒度は50〜250μmさらには106〜212μmであると好適である。粒度が過大では圧粉磁心の高密度化や渦電流損失の低減化が図り難く、粒度が過小では圧粉磁心の磁束密度の向上やヒステリシス損失の低減が図り難い。
なお、本明細書でいう「粒度」とは、軟磁性粒子の直径を指標する値であり、篩い分けにより特定される。具体的には、篩い分けに用いたメッシュサイズの上限値(d1)と下限値(d2)の中央値[(d1+d2)/2]を、粒度(D)とした。なお、μm単位で表示して、小数点以下は四捨五入して表示する。
軟磁性粉末の製造方法は問わず、例えば、アトマイズ法、機械的粉砕法、還元法等がある。アトマイズ粉を用いると、軟磁性粒子の形状が略球状で粒子相互間の攻撃性が低いため、圧粉磁心の成形時にフェライト被膜の破壊等が抑制されて、圧粉磁心の高比抵抗が安定し易い。アトマイズ粉は、水アトマイズ粉、ガスアトマイズ粉、ガス水アトマイズ粉のいずれでもよい。
(2)フェライト被膜
本発明に係るフェライト被膜は、スピネル型フェライト(MFe)からなり、その金属元素(M)としてMnを含む。このMは、Mnが含まれる限り、それ以外の2価の陽イオンとなる金属元素を一種または二種以上含んでもよい。また、フェライト被膜は、スピネル型フェライトを構成する元素以外に、改質元素または不可避不純物を含み得る。
既述したようにスピネル型フェライトを構成するMとして、Mn以外にFeやCu等もあるが、本発明者が鋭意研究したところ、MはMnに加えて、NiまたはZnの少なくとも一方を含むと好ましい。特にフェライト被膜は、MがMnとNiであるNiMnフェライトまたはMがMnとZnであるMnZnフェライトからなると好ましい。このようなスピネル型フェライト被膜で被覆された軟磁性粒子からなる圧粉磁心は、高比抵抗であると共に高磁束密度となり、背反関係にある比抵抗等の電気的特性と磁束密度等の磁気的特性が非常に高次元で両立され得る。さらにMは、Mn(任意でNi、Zn)に加えて、MgまたはSrの少なくとも一方を含むと好ましい。特にフェライト被膜は、MがMnとMgであるMnMgフェライトまたはMがMnとSrであるMnSrフェライトからなると好ましい。このようなスピネル型フェライト被膜で被覆された軟磁性粒子からなる圧粉磁心も、高比抵抗であると共に高磁束密度で、電気的特性と磁気的特性を高次元で両立し得る。これに加えて、Mn、Ni、Znよりもイオン化傾向が大きい、MgまたはSrの少なくとも一方を含むスピネル型フェライト被膜は、生成に必要な反応時間が短縮され、磁心用粉末をより効率的に製造され得る。
本発明に係るフェライト被膜は、非常に薄くても、従来のフェライト被膜以上に圧粉磁心の比抵抗を十分に確保でき、その磁束密度の向上も図れる。具体的にいうと本発明に係るフェライト被膜は、平均膜厚が10〜200nmさらには30〜100nmでも、安定した高比抵抗を発揮する。この範囲内であれば、フェライト被膜が圧粉磁心の磁束密度や密度等へ及ぼす影響も非常に少ない。
なお、本明細書でいう「平均膜厚」は、軟磁性粒子の表面に生成されたフェライト被膜の厚さを指標する値であり、次のようにして求めた。先ず、フェライトが酸化物であることを利用して、オージェ電子分光分析法(AES)により、被覆された粒子表面の酸素量の分布を測定する。そして、その酸素量の最大値と最小値を確定し、その中央値となる位置における深さを、その測定位置におけるフェライト被膜の膜厚とする。この測定を、1つの粒子につき、任意に抽出した2つの測定位置(90°回転した位置)で行う。次に、同様の操作を、粉末中から任意に抽出した合計3つの粒子についても行う。こうして得られた合計6つの膜厚の相加平均値を求め、これを本明細書でいう「平均膜厚」とした。
《圧粉磁心》
本発明の圧粉磁心は、上述した磁心用粉末を加圧成形した成形体からなり、適宜、ヒステリシスの要因となる加工歪み等を除去する熱処理(焼鈍等)が施される。
(1)磁気的特性
こうして得られた本発明の圧粉磁心は飽和磁束密度が高く、例えば、5kA/mの磁界中で生じる磁束密度(B5k)が1.5T以上、1.55T以上さらには1.58T以上という高磁束密度を発揮し得る。また、20kA/mの磁界中で生じる磁束密度(B20k)は、1.9T以上、1.93T以上さらには1.96T以上ともなり得る。
また本発明の圧粉磁心は、例えば、透磁率が500以上、600以上さらには700以上という高透磁率でもある。
(2)電気的特性
本発明の圧粉磁心は、例えば、50μΩm以上、100μΩm以上さらには300μΩm以上という高比抵抗であり、高周波の交番磁界中で使用しても渦電流損等を大幅に低減できる。
(3)密度
本発明の圧粉磁心は、例えば、軟磁性粒子の真密度(ρ0)に対する、圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ0)が96%以上、98%以上さらに99%以上であると、磁気的特性が向上して好ましい。
(4)用途
本発明の圧粉磁心は、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等の電磁機器に利用され得る。特に電動機または発電機の電機子(回転子または固定子)を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心として本発明の圧粉磁心は好適である。具体的には、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータ用鉄心として本発明の圧粉磁心は好適である。
本発明の圧粉磁心は、いずれの電磁機器中で使用されるにしても、100〜30000Hzさらには200〜20000Hz程度の交番磁界中で使用されると好ましい。本発明に係るフェライト被膜により、圧粉磁心の透磁率が向上し、同じ磁束密度を発現するために必要となる駆動電流が少なくなり、銅損の低減に有利だからである。
実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
《試料の製造》
(磁心用粉末の製造)
(1)軟磁性粒子
先ず軟磁性粉末として、純鉄からなるガス水アトマイズ粉を用意した。用いた各粉末の粒度は表1に示した。なお、表1に示した粒度は、前述した通り、電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)により分級(篩い分け)したときに用いたメッシュサイズの上限値と下限値の中央値である。具体的には、上限値〜下限値→粒度の順で記載すると、250〜150μm→200μm、212〜106μm→159μm、150〜53μm→102μm、106〜20μm→63μm、75〜20μm→48μm、45〜20μm→33μmとした。いずれの粉末にも、30μm未満の軟磁性粒子が含まれていなかったことはSEMより確認している。
(2)前処理
次に、上記の軟磁性粒子をイオン交換水に投入した。このイオン交換水中へ、表1に示す金属イオンを含む塩化水溶液(または硫化水溶液)を加えて、軟磁性粒子と接触させる処理液を調製した。この際、処理液をpH3〜6に調整し、それを80〜90℃にして撹拌した(前処理工程)。この前処理により、軟磁性粒子の表面へ後述する金属イオンが均一に付着し易くなり、ひいては均一な被膜の形成が可能となる。
(3)本処理
前処理工程後の処理液へアンモニア(NH3)または水酸化ナトリウム(NaOH)を加え、この処理液をpH8〜10に調整し、それを80〜90℃で撹拌した(本処理工程)。これを1時間行った。
(4)後処理
さらに、被覆工程後に濾別した粉末を水洗した後、さらにエタノールで洗い、Cl等や残渣等を除去した(洗浄工程)。洗浄した粉末を大気雰囲気中で80〜200℃に加熱して乾燥させた(乾燥工程)。この乾燥工程により、粒子表面に付着・結合していた水酸基(−OH)が除去される。
乾燥工程後の粉末を篩い(メッシュサイズ:−30μm)へ通して選別した(選別工程)。この選別工程により、洗浄後も粒子に付着していた微細な粒子(本処理工程で、軟磁性粒子の被覆に寄与せずに生成されたフェライト微粒子等)を除去した。こうして被覆処理した軟磁性粒子(適宜「被覆粒子」という。)からなる磁心用粉末を得た。
(圧粉磁心の製造)
上記の各磁心用粉末を用いて金型潤滑温間高圧成形法により、リング状(外径:φ39mm×内径φ30mm×厚さ5mm)の成形体を製作した。この成形に際して、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。金型潤滑温間高圧成形法は、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報などに詳細が記載されているが、具体的には次のようにして行った。
所望形状に応じたキャビティを有する超硬製の金型を用意した。この金型をバンドヒータで予め130℃に加熱しておいた。また、この金型の内周面には、予めTiNコート処理を施し、その表面粗さを0.4Zとした。
加熱した金型の内周面に、水溶液に分散させたステアリン酸リチウム(1%)をスプレーガンにて10cm/分程度の割合で均一に塗布した。ここで用いた水溶液は、水に界面活性剤と消泡剤とを添加したものである。界面活性剤には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(EO)6、(EO)10及びホウ酸エステルエマルボンT−80を用い、それぞれを水溶液全体(100体積%)に対して1体積%ずつ添加した。また、消泡剤には、FSアンチフォーム80を用い、水溶液全体(100体積%)に対して0.2体積%添加した。また、ステアリン酸リチウムには、融点が約225℃で、粒径が20μmのものを用いた。その分散量は、上記水溶液100cmに対して25gとした。そして、これをさらにボールミル式粉砕装置で微細化処理(テフロン(登録商標)コート鋼球:100時間)し、得られた原液を20倍に希釈して最終濃度1%の水溶液として、上記塗布工程に供した。
ステアリン酸リチウムが内面に塗布された金型へ、各磁心用粉末を充填した(充填工程)。
金型を130℃に保持したまま、基本的に1568MPaの成形圧力で、その金型内に充填された磁心用粉末を温間加圧成形した(成形工程)。なお、この温間高圧成形に際して、いずれの磁心用粉末も金型とかじり等を生じることがなく低い抜圧で成形体をその金型から取出すことができた。
《観察》
(1)表1に示した試料No.A1の粉末粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した様子を図1A〜図1Dに示した。図1Aおよび図1Bは粒子表面のSEM像であり、図1Cはその粒子断面のSEM像であり、図1Dは粒子表面を被覆する膜のTEM像である。
(2)先ず図1A〜図1Cより、略球状の軟磁性粒子(純鉄粒子)の表面に、膜厚がほぼ均一で、比較的平滑な被膜が形成されていることが確認された。特に図1Cから、その膜厚(t)は100nm程度であり、軟磁性粒子の粒径(d)に対して非常に薄い(例えばt/d=100〜1000)ことがわかる。
(3)次に図1Dからわかるように、軟磁性粒子の表面に形成されている被膜は結晶質であることが確認された。この被膜をX線回折法(XRD)、AESまたはX線光電子分光法(XPS)により分析したところ、その組成はMn:13〜15原子%、Fe:30原子%、O:55〜57原子%であった。この組成はほぼMFe(M=Mn、Zn)と表されるため、軟磁性粒子の表面に形成されていた被膜がスピネル型フェライトからなるフェライト被膜であることが確認された。
《測定》
上記の各試験片を用いて下記に示す種々の測定を行った。得られた測定結果を表1に併せて示した。
(1)電気的特性(比抵抗)
電気的特性の一つである比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法(JIS K7194)により測定した。
(2)磁気的特性
磁気的特性の一つである磁束密度B5k、B20kを直流自記磁束計(メーカ:東英工業、型番:MODEL−TRF)により測定した。なお、磁束密度B5k、B20kは、磁界の強さを5kA/m、20kA/mとしたときに試験片に生じる磁束密度である。
また表中に示した透磁率μは、上記の直流自記磁束計で求めた磁化曲線から最大となる透磁率(μmax)を読み取って求めた値である。
(3)密度
各試験片の嵩密度は、その質量と採寸により求まる体積に基づいて求めた。表1には、軟磁性粒子(純鉄粒子)の真密度(7.87g/cm)に対する嵩密度の割合(嵩密度/真密度)である相対密度(%)を示した。
(4)平均膜厚
圧縮成形前の磁心用粒子の表面に形成されたフェライト被膜の膜厚は、前述したように、オージェ電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製 PHI700)を用いてその表面を分析することにより求めた。こうして得られた膜厚に基づき、前述した方法で平均膜厚を算出した。その結果を表1に示した。
《評価》
(1)膜厚の影響
表1に示した試料No.A1〜A3、A7、B3、B4、C2およびC3に係る試験片について、フェライト被膜の平均膜厚(単に「膜厚」という。)と比抵抗(ρ)の関係を図2Aに、その膜厚(t)と磁束密度(B5k)の関係を図2Bに、その膜厚と透磁率(μ)の関係を図2Cにそれぞれ示した。
先ず図2Aからわかるように、フェライト被膜の膜厚が大きくなると圧粉磁心の比抵抗も概して大きくなる傾向にあるが、その傾向は比例的ではない。つまり膜厚が10〜250nmのとき、圧粉磁心の比抵抗は100μΩm以上で安定していた。従って本発明に係るフェライト被膜によれば、その膜厚が数十nm程度と非常に薄くなっても、十分な比抵抗が得られることがわかった。
次に図2Bからわかるように、フェライト被膜の膜厚が大きくなると圧粉磁心の磁束密度は概して小さくなる傾向にあるが、その傾向も比例的ではない。つまり膜厚が10〜250nmのとき、圧粉磁心の磁束密度(B5k)は1.5〜1.6Tで安定していた。従って本発明に係るフェライト被膜によれば、その膜厚が200nm程度と多少厚くなっても、膜厚が数十nm程度の場合と同様に、十分な磁束密度が得られることがわかった。
さらに図2Cからわかるように、フェライト被膜の膜厚が10〜250nmのとき、透磁率はいずれも600以上あり、高透磁率が安定して得られることもわかった。
(2)比抵抗と磁束密度の関係
表1に示した全試料に係る試験片について、比抵抗と磁束密度(B5k)の関係を図3に示した。この図3からわかるように、概して比抵抗と磁束密度はトレードオフの関係にある。しかし、金属元素(M)がMnを含まない(M=Ni、Zn)スピネル型フェライト被膜を有する圧粉磁心の場合、いずれも比抵抗が100μΩm未満であり、磁束密度が低下しているにも拘わらず、比抵抗も低いままであった。
これに対してMがMnを含むフェライト被膜を有する圧粉磁心の場合、いずれも、比抵抗と磁束密度の間に前述した相関関係がほぼ成立していた。しかも、MがMnを含む場合、MがMnを含まない場合よりも、比抵抗および磁束密度が全体的に高くなる方向(図3の右上方向)へ大きくシフトすることが明らかとなった。つまりMがMnを含むスピネル型フェライト被膜を有する圧粉磁心の場合、比抵抗および磁束密度がより高次元で両立することがわかった。
以上から、本発明に係るフェライト被膜で被覆された軟磁性粒子からなる磁心用粉末を用いると、比抵抗および磁束密度を従来よりも一層高次元で両立させた圧粉磁心が得られることがわかった。このような本発明の圧粉磁心を、例えば自動車用モータのコアまたはヨーク等に用いると、小体格化、軽量化等を図りつつ、高トルク・高効率なモータを得ることができる。

Claims (8)

  1. 軟磁性粒子と、2価の陽イオンとなる金属元素(M)と鉄(Fe)と酸素(O)によりMFeで表される化合物であるスピネル型フェライトからなり該軟磁性粒子の表面を被覆するフェライト被膜と、を有する磁心用粒子からなる磁心用粉末であって、
    前記軟磁性粒子は、粒度が50〜250μmであり、
    前記フェライト被膜は、平均膜厚が10〜200nmであると共に前記Mは少なくともマンガン(Mn)を含むことを特徴とする磁心用粉末。
  2. 前記Mは、さらに、ニッケル(Ni)と亜鉛(Zn)の少なくとも一方を含む請求項1に記載の磁心用粉末。
  3. 前記スピネル型フェライトは、前記MがNiおよびMnであるNiMnフェライトまたは該MがMnおよびZnであるMnZnフェライトである請求項2に記載の磁心用粉末。
  4. 前記Mは、さらに、マグネシウム(Mg)とストロンチウム(Sr)の少なくとも一方を含む請求項1または2に記載の磁心用粉末。
  5. 前記スピネル型フェライトは、前記MがMnおよびMgであるMnMgフェライトまたは該MがMnおよびSrであるMnSrフェライトである請求項4に記載の磁心用粉末。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載した磁心用粉末を加圧成形してなることを特徴とする圧粉磁心。
  7. 100〜30000Hzの交番磁界中で使用される請求項6に記載の圧粉磁心。
  8. 5kA/mの磁界中で生じる磁束密度(B5k)が1.5T以上であり、
    体積比抵抗値(ρ)が100μΩm以上であり、
    かつ透磁率(μ)が500以上である請求項6または7に記載の圧粉磁心。
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