JP5920261B2 - 磁心用粉末およびその製造方法 - Google Patents
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本発明の磁心用粉末の製造方法は、軟磁性粒子と、少なくともマンガン(Mn)を含む2価の陽イオンとなる金属元素(M)と鉄(Fe)と酸素(O)によりMFe2O4で表される化合物であるスピネル型フェライトからなり該軟磁性粒子の表面を被覆するフェライト被膜とからなる磁心用粒子により構成される磁心用粉末の製造方法であって、前記軟磁性粒子からなる原料粉末を100℃以上に加熱する加熱工程と、容器の内周壁面に沿って回転する撹拌状態にある該加熱工程後の原料粉末へ前記金属元素を含む処理液を噴霧する第一処理工程と、該第一処理工程後の原料粉末へpH調整液を噴霧する第二処理工程と、該第二処理工程後の原料粉末を洗浄する洗浄工程と、該洗浄工程後の原料粉末を乾燥させる乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
(1)本発明は上述した製造方法としてのみならず、その製造方法により得られた磁心用粉末としても把握できる。特に次のような磁心用粉末を用いると、高電気的特性で高磁気的特性の圧粉磁心が得られて好ましい。すなわち、軟磁性粒子と、2価の陽イオンとなる金属元素(M)と鉄(Fe)と酸素(O)によりMFe2O4で表される化合物であるスピネル型フェライトからなり該軟磁性粒子の表面を被覆するフェライト被膜と、を有する磁心用粒子からなる磁心用粉末であって、前記軟磁性粒子は、粒度が50〜250μmであり、前記フェライト被膜は、平均膜厚が10〜200nmであると共に前記Mは少なくともマンガン(Mn)を含むことを特徴とする磁心用粉末である。
本発明は、上述した磁心用粉末としてのみならず、それを加圧成形した圧粉磁心としても把握し得る。なお、本発明に係るフェライト被膜は、その加圧成形時に割れたり、軟磁性粒子の表面から剥離等することは殆どない。
特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
(1)加熱工程
加熱工程は、軟磁性粒子からなる原料粉末(適宜「軟磁性粉末」という。)を、次工程以降の反応が促進される温度(「加熱温度」という。)にする工程である。加熱温度は、
第一処理工程、第二処理工程および仕上処理工程(これらをまとめて単に「処理工程」という。)の各工程毎に異なっても、同じでもよい。加熱温度は90〜150℃さらには120〜140℃が好ましい。加熱温度が過小ではフェライト被膜の生成反応を促進できない。加熱温度が過大ではフェライト反応以外に鉄粉が酸化しやすくなり好ましくない。原料粉末の加熱はホットプレート、マントルヒーター、オイルヒーター等を用いて行うことができる。また加熱工程は、その雰囲気を問わないが、原料粉末を大気中(酸化雰囲気中)で90〜150℃に加熱する工程であると好適である。
第一処理工程は、原料粉末へフェライト被膜を構成する金属元素(M)を含む処理液を噴霧する工程である。この処理液は、その種類を問わないが、例えば、Mを含む塩化金属塩、硫酸金属塩等の水溶液である。MがFe、Mn、Ni、Zn、Cu、Mg、Sr等である場合、その金属塩の水溶液はpH3〜7さらにはpH4〜6程度の酸性となることが多い。従って本発明に係る処理液は酸性溶液とも言い得る。なお、処理液は、後述するように、少なくともMnイオン(さらにはNiイオン)を含むと好ましい。
第二処理工程は、処理液を噴霧した原料粉末へpH調整液を噴霧する工程である。このpH調整液は、その種類を問わないが、通常は、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、アンモニア等のアルカリ性水溶液である。従って本発明に係るpH調整液はアルカリ性溶液とも言い得る。pH調整液は、第一処理工程で用いた処理液の濃度、pH等に応じて、好適な濃度やpHが調整される。pH調整液は、通常、pH7〜13であるが、pH調整液自体のpHが必ずしも重要ではなく、処理液を噴霧した後に軟磁性粒子の表面近傍のpHがpH8〜12さらにはpH8〜10程度となることが重要である。このpHが小さいと、フェライト被膜の生成反応が進行せず、pHが大きいと水酸化物等が生成されて均一なフェライト被膜の生成が阻害される。
上述した第一処理工程および第二処理工程は、所望するフェライト被膜の膜厚等に応じて繰り返して行ってもよい。つまり、本発明の製造方法では、第二処理工程後で洗浄工程前に、原料粉末に対して処理液の噴霧とpH調整液の噴霧を繰り返し行う仕上処理工程をさらに備えてもよい。なお、先に行う第一処理工程および第二処理工程と仕上処理工程とで、処理液やpH調整液の濃度、噴霧時間等が異なってもよい。
洗浄工程は、第二処理工程後または仕上処理工程後の原料粉末から不要物を除去する工程である。具体的にいうと、洗浄工程は、水洗後にエタノール洗いする工程であると好ましい。なお、洗浄工程は、例えば、回転容器から取り出した原料粉末を、洗浄液(水、エタノール等)が入った洗浄容器内へ投入してなされる。不要物は、処理液やpH調整液に含まれていた塩素やナトリウムなどである。
(1)軟磁性粒子(軟磁性粉末)
軟磁性粒子は、8属遷移元素(Fe、Co、Ni等)などの強磁性元素を主成分とすれば足るが、特性、入手性、コスト等から純鉄または鉄合金からなると好ましい。特に純鉄粉は、高い飽和磁束密度が得られ、圧粉磁心の磁気的特性の向上を図る上で好ましい。また鉄合金粉として例えば、Si含有鉄合金(Fe−Si合金)粉を用いると、Siによりその電気抵抗率が高められるため、圧粉磁心の比抵抗の向上ひいては渦電流損失の低減を図れる。
フェライト被膜は、スピネル型フェライト(MFe2O4)からなり、MとしてMnを含むと好ましい。Mは、Mn以外の2価の陽イオンとなる金属元素を一種または二種以上含んでもよい。また、フェライト被膜は、スピネル型フェライトを構成する元素以外に、改質元素または不可避不純物を含み得る。
(1)磁気的特性
本発明の磁心用粉末を用いた圧粉磁心は、飽和磁束密度が高く、例えば、5kA/mの磁界中で生じる磁束密度(B5k)が1.4T以上、1.5T以上さらには1.55T以上という高磁束密度を発揮し得る。また、20kA/mの磁界中で生じる磁束密度(B20k)は、1.8T以上、1.9T以上さらには1.93T以上ともなり得る。また、この圧粉磁心は、例えば、透磁率が300以上、400以上さらには600以上という高透磁率ともなり得る。
その圧粉磁心は、例えば、50μΩm以上、100μΩm以上さらには300μΩm以上という高比抵抗となり得るため、高周波の交番磁界中で使用しても渦電流損等を大幅に低減できる。
圧粉磁心は、例えば、軟磁性粒子の真密度(ρ0)に対する、圧粉磁心の嵩密度(ρ)の比である密度比(ρ/ρ0)が94%以上、95%以上さらに98%以上であると、磁気的特性が向上して好ましい。
このような圧粉磁心は、例えば、モータ、アクチュエータ、トランス、誘導加熱器(IH)、スピーカ、リアクトル等の電磁機器に利用され得る。特に電動機または発電機の電機子(回転子または固定子)を構成する鉄心に用いられると好ましい。中でも、低損失で高出力(高磁束密度)が要求される駆動用モータ用の鉄心として、本発明に係る圧粉磁心は好適である。具体的には、電気自動車やハイブリッド自動車の駆動用モータ用鉄心としてその圧粉磁心は好適である。
〈試料A1〜C3の製造/噴霧反応法〉
(1)原料粉末
先ず、原料粉末となる軟磁性粉末として、純鉄からなるガス水アトマイズ粉を用意した。用いた各粉末の粒度は、上限値〜下限値→粒度の順で記載すると、212〜106μm→159μmである。なお、この粒度は、前述した通り、電磁式ふるい振とう器(レッチェ製)により分級(篩い分け)したときに用いたメッシュサイズの上限値と下限値の中央値である。この軟磁性粉末に30μm未満の軟磁性粒子が含まれていないことは、SEMより確認している。なお、圧粉磁心の要求特性によって粉末粒度をさらに調整してもよい。
上記の軟磁性粉末をマントルヒーターにより、大気中で、表1に示す処理温度(例えば130℃)に加熱した。加熱時間は10分間とした。
加熱撹拌状態にある軟磁性粉末へ、表1に示す金属イオンを含む各種の処理液(塩化水溶液または硫化水溶液)を噴霧した。処理液は、MFe2O4となるフェライト酸化物が形成されるように、各Feイオンと他の金属塩イオンとの割合(モル比)を決めた。より均一なフェライト被膜を得るために、純水に対する金属塩の濃度が20質量%である原液を、純水で10倍に希釈した処理液を用いた。
第一処理工程後の加熱撹拌状態にある軟磁性粉末へ、pH調整液を噴霧した。このpH調整液には、0.25質量%のNaOH水溶液を用いた。なお、NaOH水溶液の濃度は、処理液の濃度に応じて0.1〜1質量%の範囲で調整すると好ましい。いずれにしても第一処理工程後の軟磁性粉末の雰囲気がpH8〜10となるようにすると好ましい。
第一処理工程および第二処理工程を行った後、加熱撹拌状態にある軟磁性粉末へ、再度、第一処理工程と同様な処理液5ccの噴霧と第二処理工程と同様なNaOH水溶液1.5ccの噴霧を交互に繰り返し行った。この繰り返し数は、表1に示す処理時間内で試料毎に変えた。表1に示した処理時間は、第一処理工程から仕上処理工程の終了までの時間である。表1に示す試料では、その処理時間が3〜30分間となるようにした。
仕上処理工程後の軟磁性粉末を、水洗後、エタノール洗いをして、濾過した(洗浄工程)。これにより処理後の粒子表面に残存していたNaCl等や残渣等を除去した。この軟磁性粉末をマントルヒーターを用いて80℃で加熱乾燥させた(乾燥工程)。
乾燥工程後の粉末を篩い(メッシュサイズ:−30μm)へ通して選別した。この選別工程により、洗浄後も粒子に付着していた微細な粒子(軟磁性粒子の被覆に寄与せずに生成されたフェライト微粒子等)を除去した。こうしてフェライト被覆処理した軟磁性粒子(適宜「被覆粒子」という。)からなる磁心用粉末を得た。
上述した噴霧反応法で製造した試料以外に、次のような水溶液反応法により別の試料も製造した。
上記の各磁心用粉末を用いて金型潤滑温間高圧成形法により、リング状(外径:φ39mm×内径φ30mm×厚さ5mm)の試験片(成形体)を製作した。この成形に際して、内部潤滑剤や樹脂バインダー等は一切使用しなかった。金型潤滑温間高圧成形法は、日本特許公報特許3309970号公報、日本特許4024705号公報などに詳細が記載されているが、具体的には次のようにして行った。
(1)噴霧反応法で製造した表1に示す試料A3の粉末粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した様子を図4Aおよび図4Bに示した。図4Aおよび図4Bは粒子表面のSEM像である。
上記の各試験片を用いて下記に示す種々の測定を行った。得られた測定結果を表1に併せて示した。
電気的特性の一つである比抵抗は、デジタルマルチメータ(メーカ:(株)エーディーシー、型番:R6581)を用いて4端子法(JIS K7194)により測定した。
磁気的特性の一つである磁束密度B5k、B20kを直流自記磁束計(メーカ:東英工業、型番:MODEL−TRF)により測定した。なお、磁束密度B5k、B20kは、磁界の強さを5kA/m、20kA/mとしたときに試験片に生じる磁束密度である。
各試験片の嵩密度は、その質量と採寸により求まる体積に基づいて求めた。表1には、軟磁性粒子(純鉄粒子)の真密度(7.87g/cm3)に対する嵩密度の割合(嵩密度/真密度)である相対密度(%)を示した。
(1)処理温度(反応温度)
噴霧反応法により製造した表1に示す試料A1〜A4に係る試験片について、処理温度(第一処理工程から仕上処理工程までの反応温度)と、比抵抗または磁束密度B5Kとの関係をそれぞれ図1Aと図1Bに示した。これらから、処理温度が低いと比抵抗が大きく磁束密度が小さくなる傾向となり、逆に処理温度が高いと比抵抗が小さく磁束密度が大きくなる傾向となることがわかった。そして、処理温度を80〜160℃さらには90〜140℃とすることにより、高比抵抗と高磁束密度の両立を図れることがわかる。
噴霧反応法により製造した表1に示す試料B1〜B4に係る試験片について、処理時間(第一処理工程開始から仕上処理工程終了までの時間)と、比抵抗または磁束密度B5Kとの関係をそれぞれ図2Aと図2Bに示した。これらから、処理時間が短いと比抵抗が小さく磁束密度が大きくなる傾向となり、逆に処理時間が長いと比抵抗が大きく磁束密度が小さくなる傾向となることがわかった。そして、処理時間が0.05〜0.3時間(3〜18分間)さらには0.1〜0.2時間(6〜12分間)であると、高比抵抗と高磁束密度の両立を図れることがわかる。
噴霧反応法により製造した表1に示す試料C1〜C3に係る試験片について、処理中の軟磁性粉末の撹拌速度(第一処理工程から仕上処理工程における軟磁性粉末の回転速度)と、比抵抗または磁束密度B5Kとの関係をそれぞれ図3Aと図3Bに示した。これらから、撹拌速度が遅いと比抵抗も磁束密度も小さく、逆に撹拌速度が速いと比抵抗も磁束密度が大きくなる傾向にあることがわかった。もっとも撹拌速度が周速で0.8m/s以上のとき、撹拌速度が比抵抗と磁束密度に及ぼす影響はあまり大きくないこともわかった。
Claims (9)
- 軟磁性粒子と、少なくともマンガン(Mn)を含む2価の陽イオンとなる金属元素(M)と鉄(Fe)と酸素(O)によりMFe2O4で表される化合物であるスピネル型フェライトからなり該軟磁性粒子の表面を被覆するフェライト被膜とからなる磁心用粒子により構成される磁心用粉末の製造方法であって、
前記軟磁性粒子からなる原料粉末を100℃以上に加熱する加熱工程と、
容器の内周壁面に沿って回転する撹拌状態にある該加熱工程後の原料粉末へ前記金属元素を含む処理液を噴霧する第一処理工程と、
該第一処理工程後の原料粉末へpH調整液を噴霧する第二処理工程と、
該第二処理工程後の原料粉末を洗浄する洗浄工程と、
該洗浄工程後の原料粉末を乾燥させる乾燥工程と、
を備えることを特徴とする磁心用粉末の製造方法。 - 前記加熱工程は、前記原料粉末を大気中で120〜150℃に加熱する工程である請求項1に記載の磁心用粉末の製造方法。
- 前記処理液は、酸性溶液である請求項1または2に記載の磁心用粉末の製造方法。
- 前記金属元素は、さらに亜鉛(Zn)を含む請求項1〜3のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
- 前記pH調整液は、アルカリ性溶液である請求項1〜4のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
- 前記第二処理工程は、容器の内周壁面に沿って回転する加熱撹拌状態にある原料粉末へ前記pH調整液を噴霧する工程である請求項1〜5のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
- さらに、前記第二処理工程後で前記洗浄工程前に、前記原料粉末に対して前記処理液の噴霧と前記pH調整液の噴霧を繰り返し行う仕上処理工程を備える請求項1〜6のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
- 前記洗浄工程は、水洗後にエタノール洗いを行う工程である請求項1〜7のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
- 前記乾燥工程は、加熱乾燥を行う工程である請求項1〜8のいずれかに記載の磁心用粉末の製造方法。
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