以下に、本発明に係るデジタルオーディオミキサの一実施形態について添付図面を参照して説明する。なお、ミキサ1を操作する者を「ユーザ」と総称し、必要に応じてミキサのオペレータとミキサの管理者との呼称を使い分ける。
図1は、デジタルオーディオミキサ(ミキサ)の電気的ハードウェア構成を示すブロック図である。ミキサ1は、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置)10、フラッシュメモリ11、RAM(Random Access Memory、ランダムアクセスメモリ)12、波形入出力インターフェース(波形I/O)13、信号処理部(DSP(Digital Signal Processing)部)14、操作子15、電動フェーダ16、表示器17、及び、その他I/O18を備え、各構成要素がバス19を介して接続される。
CPU10は、フラッシュメモリ11又はRAM12に記憶された制御プログラムを実行して、ミキサ1の全体動作を制御する。フラッシュメモリ11は、CPU10が実行する各種のプログラムや各種のデータなどを記憶する。フラッシュメモリ11には、音響信号処理を制御する全てのパラメータの値(カレントデータ)を記憶するカレントメモリ50(後述図3)が設けられている。このカレントメモリ50(後述図3)には、後述する入力パッチの割当設定を表す入力パッチデータ、出力パッチの割当設定を表す出力パッチデータ、或いは、後述するシーンデータのリコール処理に関する各種調整機能の設定(オンオフ設定を含む)もを記憶される。RAM12は、CPU10が実行するプログラムのロード領域やワーク領域に使用する。
波形I/O13は、オーディオ信号を入出力するためのインターフェースであり、図中の矢印で示すように、アナログオーディオ信号を入力する複数の入力ポート、アナログオーディオ信号を出力する複数の出力ポート、及び、デジタルオーディオ信号を入出力するデジタル入出力(複数の入力ポート及び複数の出力ポート)を含む。波形I/O13は、さらに、アナログデジタル変換(AD変換)、デジタルアナログ変換(DA変換)、及びデジタル変換(フォーマット変換)を行うための機構を含む。
DSP部14は、CPU10の指示に基づいて各種のマイクロプログラムを実行することにより、カレントメモリ50に記憶されている各種のパラメータのカレントデータに基づいて、波形I/O13経由で入力されたオーディオ信号に対して、オーディオミキシングに関する音響信号処理を行い、処理後のオーディオ信号を波形I/O13経由で出力する。なお、音響信号処理とは、オーディオ信号の音量レベル制御、複数のオーディオ信号のミキシング、オーディオ信号への効果付与等である。
操作子15、電動フェーダ16及び表示器17は、ミキサ1の操作パネル上に設けられたユーザインターフェースである。表示器17は、CPU10からバス19を介して与えられた表示制御信号に基づいて各種画面を表示する。操作子15は、操作パネル上に配置された操作子群である。電動フェーダ16は、フェーダ型の操作子であり、ユーザが操作できるとともに、CPU10から与えられる駆動制御信号に基づいて操作位置が自動制御される。CUP10は、操作子15、電動フェーダ16及び表示器17の操作に応じて、カレントメモリ50に記憶されているカレントデータを調整する。「カレントデータを調整する」とは、カレントメモリ50に記憶されている当該操作に該当するパラメータの値を、当該操作に応じた値に変更し、変更後の値をDSP部14や表示器17へ反映することである。
その他I/O18は、例えばRS−422、USB(universal serial bus)、或いは、Ethernet(登録商標)規格など、周知の1又は複数の汎用インターフェースを含み、図中の矢印で示すように、その他I/O18に接続された「その他の機器」との間で制御信号や各種データの通信を行う。
図2は、図1のミキサ1における音響信号処理の構成を説明するブロック図である。図2に示す各部の動作は、主にCPU10の処理及びDSP部14が実行するマイクロプログラムの処理により実現される。
アナログ入力部(A入力)20及びデジタル入力部(D入力)21は、波形I/O13が実行するオーディオ信号の入力、AD変換、フォーマット変換などのオーディオ信号入力機能に相当する。入力パッチ22は、カレントメモリ50に記憶されている入力パッチデータに基づいて、A入力20とD入力21に複数ずつ設けられている入力ポートそれぞれを、後段の入力ch23のいずれか1つの入力chに割り当てる。なお、本明細書では「チャンネル」を「ch」と表記する。
入力ch23は、64個の入力chを持つ。各入力ch23は、入力パッチ22を介して接続された1つの入力ポートから入力されるオーディオ信号に対して、カレントメモリ50に記憶されている各種パラメータのカレントデータに基づき各種の音響信号処理を行い、処理後のオーディオ信号を任意の1又は複数のMIXバス24へ出力する。
32本あるMIXバス24(MIX1〜32)のそれぞれは、入力ch部23から供給されたオーディオ信号をミキシングし、ミキシング後のオーディオ信号をMIX出力ch25へ出力する。MIX出力ch25は、32本のMIXバス24のそれぞれに対応する32個のMIX出力chを持つ。各MIX出力ch25は、対応するMIXバス24から入力されるオーディオ信号に対して、カレントメモリ50に記憶されている各種パラメータのカレントデータに基づき各種の音響信号処理を行い、処理後のオーディオ信号を出力パッチ26へ出力する。
出力パッチ26は、カレントメモリ50に記憶されている出力パッチデータに基づいて、各MIX出力ch25を、それぞれ、アナログ出力部(A出力)27とデジタル出力部(D出力)28に複数ずつ設けられている出力ポートのうち任意の1又は複数の出力ポートに割り当てる。A出力27及びD出力28は、波形I/O13が実行するオーディオ信号のDA変換、フォーマット変換、出力などのオーディオ信号出力機能に相当する。
上述した構成からなるミキサ1は、カレントメモリ50に記録されている全てのカレントデータを、1つのシーンデータ(1ファイル)にまとめてシーンライブラリに保存(ストア)し、また、シーンライブラリに保存したシーンデータを読み出して(リコール)、読み出したシーンデータが示す設定状態を再現するシーン機能を備えている。シーンライブラリ(シーンメモリ)は、ミキサ1内の適宜のメモリ(例えばフラッシュメモリ11)に形成される。
図3は、ライブラリの構造と、シーン機能に関する動作を説明するブロック図である。符号30,31は、それぞれ、複数個のシーンデータ40,41を保存するシーンライブラリである。図3に示す通り、シーンライブラリは、通常シーンライブラリ30と、特殊シーンライブラリ31との2種類に区別されている。通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31とは、互いのメモリ領域が物理的又は論理的に分かれている。
本明細書では、通常シーンライブラリ30に保存されているシーンデータを「通常シーンデータ」40と、特殊シーンライブラリ31に保存されているシーンデータを「特殊シーンデータ41」と便宜上呼ぶ。通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31とでは、それぞれに記録しているシーンデータの取り扱い方が異なる。具体的には、外部メモリ60(後述図3)との間でのセーブ処理及びロード処理、並びに、シーンデータのリコール処理時に、通常シーンライブラリ30に記録されている通常シーンデータ40を通常的に取り扱い、特殊シーンライブラリ31に記録されている特殊シーンデータ41を特殊的に取り扱うようになっている。
通常シーンライブラリ30に記録された各通常シーンデータ40及び特殊シーンライブラリ31に記録された各特殊シーンデータ41は、いずれも、カレントメモリ50に記憶されている音響信号処理に用いる複数のパラメータの全てのカレントデータを、1つのシーンデータ(1ファイル)にまとめたデータであり、そのフォーマット(1つのシーンデータに含まれるパラメータの種類や数等)は、個々のシーンデータや個々のライブラリ30,31の区別に依存せず、全てのシーンデータで共通である。すなわち、通常シーンデータ40も特殊シーンデータ41も、互いのデータフォーマットは共通しているが、通常シーンライブラリ30、又は、特殊シーンライブラリ31のいずれのライブラリに保存するかに応じて、そのソーンデータの取り扱い方を区別する。したがって、1つのシーンライブラリには同じ種類のシーンデータのみが保存されることになる。通常シーンライブラリ30には通常シーンデータ40のみが保存され、特殊シーンデータ41は存在しない。また、特殊シーンライブラリ31には特殊シーンデータ41のみが保存され、通常シーンデータ31は存在しない。
各シーンデータ40,41は、それぞれ、そのシーンデータが記録されたライブラリ内で固有の識別子45,46を持つ。各シーンデータの識別子45,46は、例えばライブラリ内で独自の、連続する通し番号(「01」から始まるシーン番号「01」、「02」、「03」・・・)である。シーンデータをシーンライブラリ毎に独立して管理・取り扱いするので、異なるライブラリに記録された同じシーン番号のシーンデータ同士を区別できる。また、各シーンデータ40はそれぞれ名称(シーン名)を持つ。シーン番号とシーン名は、後述するストア処理のときにシーンデータ毎に設定される。
通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31の間でシーンデータを移動することは原則的に禁止する。図3において、通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31との間の2つの矢印に×印を付けて、ライブラリ間でのシーンデータの移動が禁止されていることを示す。ミキサ1において、ユーザが通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31との間でのシーンデータのコピー・移動を指示したとき、通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31の間でのシーンデータのコピー・移動を実行しないように制御する。或いは、コピー・移動操作の対象としてシーンデータを選択できないよう、コピー・移動操作の対象の選択肢(コピー元及び/又は移動先)からシーンデータを除外する。或いは、シーンデータのコピー・移動の指示を受け付けない。
図3において、シーンライブラリ30,31以外のライブラリとして、入力パッチライブラリ32と出力パッチライブラリ33とがある。入力パッチライブラリ32は、カレントメモリ50に記録されている入力パッチデータを1つのパッチデータ(1ファイル)42にまとめて保存するライブラリである。出力パッチライブラリ33は、カレントメモリ50に記録されている出力パッチデータを1つのパッチデータ(1ファイル)43にまとめて保存するライブラリである。入力パッチライブラリ32と出力パッチライブラリ33とは、それぞれ、複数個のパッチデータ42,43を保存できる。各パッチデータ42,43は、ライブラリ毎に独立して「01」から始まる連続番号を固有の識別子として持ち、また、パッチデータ42,43毎の名称(パッチ名)を持つ。
カレントメモリ50は、前述の通り、ミキサ1の現在の動作を制御する各種パラメータの現在値、具体的には、音響信号処理に用いる複数のパラメータの全てのカレントデータ、入力パッチ22の割当設定を表す入力パッチデータ、出力パッチ26の割当設定を表す出力パッチデータ、及び、シーンデータのリコール処理に関する各種調整機能の設定(オンオフ設定を含む)等を記憶するメモリである。
外部メモリ60は、例えばその他I/O18を介してミキサ1に接続された可搬型メモリであり、具体的には、USBメモリやSDカードメモリなどである。図3においては、外部メモリ60より下側に描かれたライブラリ30〜33とカレントメモリ50は、外部メモリ60と対比で言えば、ミキサ1の内部に設けられた内部メモリとなる。
ミキサ1は、原則的には、ミキサ1内のライブイラリ30〜33のうち所望のライブラリのデータを外部メモリ60に書き出すセーブ処理、及び、外部メモリ60からミキサ1内に所望のライブラリのデータを読み込むロード処理ができる。図3において、ライブラリ30〜33から外部メモリ60への上向き矢印によりセーブ処理を示し、外部メモリ60からライブラリ30〜33への下向き矢印によりロード処理を示す。かかるセーブ処理及びロード処理はライブラリ単位で行われる。
複数のライブラリ30〜33のうち、特殊シーンライブラリ31に関しては、例外的に、外部メモリ60への書き出し(セーブ処理)も、外部メモリ60からの読み込み(ロード処理)も禁止する。すなわち、特殊シーンライブラリ31をセーブ処理及びロード処理の対象から除外する。図3において、特殊シーンライブラリ31と外部メモリ60との間の2つの矢印に×印を付けて、特殊シーンライブラリ31に関するセーブ処理及びロード処理が禁止されていることを示す。
図4は、ミキサ1から外部メモリ60へライブラリ30〜33のデータをセーブする処理のフローチャートである。この処理は、ミキサ1のユーザによるセーブ指示に応じて(例えば操作子15に含まれるセーブスイッチが押されたとき)に起動する。
図4の処理を開始する前(セーブスイッチを押す前)に、ミキサ1のユーザは、複数のライブラリ30〜33のうち、セーブ元となる1又は複数のライブラリを選択する。例えば、ミキサ1のCPU10は、ユーザの要求に応じてセーブ元として選択可能なライブラリを一覧表示するライブラリ選択画面を表示器17に表示し、ユーザによるライブラリの選択を受け付ける。別の例として、セーブスイッチが押されたときに、CPU10が自動的に表示器17にライブラリ選択画面を表示して、セーブ元となる1又は複数のライブラリを選択させるよう構成してもよい。
セーブ元となる1又は複数のライブラリをユーザに選択させるとき、CPU10は、図3に示す複数のライブラリ30〜33のうち、通常シーンライブラリ30、入力パッチライブラリ32及び出力パッチライブラリ33のみを選択肢として提示し、特殊シーンライブラリ31を選択できないように選択肢から除外する。具体的には、ライブラリ選択画面において、特殊シーンライブラリ31を選択肢として表示しない、又は、特殊シーンライブラリ31を含む全てのライブラリ30〜33を表示するが特殊シーンライブラリ31だけは選択できないように制御する。
CPU10は、ユーザによって選択された1又は複数のセーブ処理対象のライブラリ(セーブ元のライブラリ)を確認し(ステップS1)、セーブ元として選択された1又は複数のライブラリのデータを1つのライブラリファイルにまとめて、セーブ先の外部メモリ60に記録する(ステップS2)。これにより、セーブ先の外部メモリ60に、セーブ元として選択された1又は複数のライブラリのデータを1つのファイルとして記録する。なお、ミキサ1に複数個の外部メモリ60を接続して、複数の外部メモリ60の1つをセーブ先として選択させるように構成してもよい。
上述したセーブ処理によれば、セーブ元のライブラリの選択肢から特殊シーンライブラリ31を除外しているので、結果的に、特殊シーンライブラリ31がセーブ処理の対象から除外される。したがって、外部メモリ60に特殊シーンライブラリ31を書き込むことを制限(禁止)できる。
図5は、外部メモリ60からミキサ1内へライブラリのデータをロードする処理のフローチャートである。この処理は、ミキサ1のユーザによりロードが指示されたとき(例えば操作子15に含まれるロードスイッチが押されたとき)に起動する。
ステップS3において、CPU10は、外部メモリ60に記録されているライブラリファイルを確認し、1つのライブラリファイルをロード元に指定する。外部メモリ60に複数のライブラリファイルが記録されているときには、例えば複数のライブラリファイルを一覧表示するライブラリファイル選択画面を表示器17に表示して、複数のうちいずれか1つのライブラリファイルをユーザに選択させる。このライブラリファイルの選択は、ロード指示の前に予め行う構成でも良いし、ロード指示の後に行う構成でもよい。
ステップS4において、CPU10は、外部メモリ60からロード元のライブラリファイルのデータを読み出して、読み出したライブラリファイルのデータに含まれる個々のライブラリのデータを、ミキサ1内の対応するライブラリのデータに上書きする。ここで、前述したセーブ処理によればセーブ元のライブラリとしてそもそも特殊シーンライブラリ31が除外されているので、外部メモリ60に保存されているライブラリファイルに含まれるライブラリは、特殊シーンライブラリ31以外のライブラリ(通常シーンライブラリ30、入力パッチライブラリ32及び/又は出力パッチライブラリ33)である。
上記の通り、外部メモリ60に保存されているライブラリファイルに特殊シーンライブラリ31が含まれないため、図5のロード処理では、結果的に、特殊シーンライブラリ31をロード処理対象から除外し、特殊シーンライブラリ31以外の通常シーンライブラリ30等のみをロード処理対象とすることになる。したがって、ミキサ1内の特殊シーンライブラリ31だけを、外部メモリ60から持ち込まれたデータによって書き換えることなく、保護することができる。
次に、シーンデータのストア処理とシーンデータのリコール処理について説明する。図3において、カレントメモリ50からライブラリ30〜33への上向き矢印によりストア処理を示し、また、ライブラリ30〜33からカレントメモリ50への下向き矢印によりリコール処理を示す。
図6はシーンデータのストア処理のフローチャートである。この処理は、ミキサ1のユーザによりストアが指示されたとき(例えば操作子15に含まれるストアスイッチが押されたとき)に起動する。
図6の処理を開始する前(ストアスイッチを押す前)に、ミキサ1のユーザは、ストア先となるライブラリとシーン番号(及びシーン名)とを指定する。例えば、ミキサ1のCPU10は、ユーザの要求に応じてストア先として、全てのシーンライブラリを一覧表示するストア先指定画面を表示器17に表示して、ストア先となるライブラリと、今回ストアするシーンデータに与えるシーン番号(及びシーン名)とを、ユーザに指定させる。すなわち、ストア先として表示する選択肢は全てのシーンライブラリであり、通常シーンライブラリ30とともに特殊シーンライブラリ31も選択肢として提示する。なお、ストアスイッチが押されたときに、CPU10が自動的に表示器17にストア先指定画面を表示して、所望のライブラリとシーン番号(及びシーン名)とを指定させるよう構成してもよい。
具体的には、カレントメモリ50に記録されているカレントデータを「特殊的」に取り扱う特殊シーンデータ41として保存したいときには、ユーザは、ストア先として特殊シーンライブラリ31を指定する。また、今回ストアするシーンデータを「特殊的」に取り扱う必要がないとき(「通常的」に取り扱うとき)は、ユーザは、ストア先として通常シーンライブラリ30を指定する。
CPU10は、ユーザによって指定されたストア先を確認し(ステップS5)、カレントメモリ50から音響信号処理に関する全てのカレントデータを読み出し(ステップS6)、該読み出したカレントデータを1ファイル分のシーンデータとして、ストア先の通常シーンライブラリ30又は特殊シーンライブラリ31に書き込む(ステップS7)。このとき、ストア先として指定されたシーン番号がストア先のライブラリ内で既に使われている場合には、その番号のデータに、新たなデータを上書きする。一方、ストア先として指定されたシーン番号がストア先のライブラリ内で未使用の場合には、指定されたシーン番号を持つデータを、ストア先のライブラリに新たに追加する。
なお、入力パッチ23又は出力パッチ26に関する全てのカレントデータをストアしたいときには、ユーザは、入力パッチライブラリ32又は出力パッチライブラリ33を、ストア先のライブラリとして指定して、ストア指示を行えばよい。その場合、CPU10は、入力パッチ23又は出力パッチ26に関する全てのカレントデータをカレントメモリから読み出して(前記ステップS6)、読み出したカレントデータを、1ファイル分のパッチデータとして、ストア先の入力パッチライブラリ32又は出力パッチライブラリ33に書き込む(前記ステップS7)。
なお、音響信号処理に関する全てのカレントデータを1ファイル分のシーンデータとしてストアするときに、そのシーンデータにリンクして、入力パッチ23及び出力パッチ26に関する全てのカレントデータを、入力パッチライブラリ32及び出力パッチライブラリ33にストアするように処理してもよい。
なお、ストア処理では、特殊シーンライブラリ31に対して特別な対応(ストア禁止など)をとらず、他の全てのライブラリと同じように取り扱う。したがって、ユーザは、音響信号処理に関するパラメータの所望の設定状態を、自身の意図(特殊な取り扱いをするか、又は、しないか)に応じて、特殊シーンデータ41として特殊シーンライブラリ31に保存することもできるし、通常シーンデータ40として通常シーンライブラリ30に保存することもできる。
図7は、シーンデータのリコール処理のフローチャートである。この処理は、ミキサ1のユーザによりリコールが指示されたとき(例えば操作子15に含まれるリコールスイッチが押されたとき)に起動する。
図7の処理を開始する前(リコールスイッチを押す前)に、ミキサ1のユーザは、リコール元となるライブラリとシーン番号(及びシーン名)とを指定する。例えば、ミキサ1のCPU10は、ユーザの指示に応じて、全てのシーンライブラリを一覧表示するリコール元指定画面を表示器17に表示して、リコール元となるライブラリと、リコールしたいシーンデータのシーン番号(及びシーン名)とを、ユーザに指定させる。すなわち、リコール元として表示する選択肢は全てのシーンライブラリであり、通常シーンライブラリ30とともに特殊シーンライブラリ31も選択肢として提示する。なお、リコールスイッチが押されたときに、CPU10が自動的に表示器17にリコール元指定画面を表示して所望のライブラリとシーン番号(及びシーン名)とを指定させるよう構成してもよい。
CPU10は、ユーザによって指定されたリコール元を確認し(ステップS8)、リコール元のシーンライブラリが通常シーンライブラリ30又は特殊シーンライブラリ31のいずれであるかにより、今回リコールするシーンデータが通常シーンデータ又は特殊シーンデータのいずれであるかを判断する(ステップS9)。今回リコールするシーンデータが通常シーンデータ又は特殊シーンデータのいずれであるかに応じて、「リコールに関する各種の調整機能」に関する取り扱いが異なる。具体的には、通常シーンデータの場合は、カレントメモリに記憶されている設定に従ってリコールに関する各種の調整機能を実行し、特殊シーンデータの場合は、カレントメモリに記憶されている設定に関わらず、リコールに関する各種の調整機能を実行しない。
「リコールに関する各種の調整機能」には、例えば「リコールセーフ機能」と、「フォーカスリコール機能」と、「トラッキングリコール機能」とがある。「リコールセーフ機能」は、シーンデータに含まれるパラメータのうち、ユーザが予め選択したパラメータについてはリコールから除外する(そのパラメータの値をカレントメモリへ書き込まず、既存の値を保持する)機能である。「フォーカスリコール機能」は、シーンデータに含まれるパラメータのうち、ユーザが予め選択したパラメータのみをリコールし、選択されていないパラメータをリコールから除外する(そのパラメータの値をカレントメモリへ書き込まず、既存の値を保持する)機能である。また、「トラッキングリコール機能」は、ユーザがパラメータごとに予め設定しているオフセット値を、シーンデータの値に加味し、加味後の値をリコールする機能である。
今回リコールするのが通常シーンデータ40である場合(ステップS9のYES)、CPU10は、「リコールセーフ機能」、「フォーカスリコール機能」及び「トラッキングリコール機能」を、カレントメモリに記憶されている設定に従って実行(適用)するように制御する(ステップS10,S11及びS12)。そして、ステップS13において、CPU10は、「リコールセーフ機能」、「フォーカスリコール機能」及び「トラッキングリコール機能」を適用してシーンデータのリコールを実行する。すなわち、カレントメモリ50に記憶されている調整機能のオンオフ設定がオフの場合は、その調整機能を実行せずに、リコール元の通常シーンライブラリ30から読み出した当該通常シーンデータ40の各値に基づいてカレントメモリのカレントデータを更新する。また、カレントメモリ50に記憶されている調整機能のオンオフ設定がオンの場合は、その調整機能を実行することにより、リコール元の通常シーンライブラリ30から読み出した当該通常シーンデータ40の各値と当該調整機能とに基づいてカレントメモリ50のカレントデータを更新したり、或いは、カレントメモリ50のカレントデータを更新せずに保持したりする。
他方、今回リコールするのが特殊シーンデータ41である場合(ステップS9のNO)、CPU10は、「リコールセーフ機能」、「フォーカスリコール機能」及び「トラッキングリコール機能」を禁止するよう制御する(ステップS14、S15及びS16)。そして、CPU10は、ステップS17において、カレントメモリ50に記憶されている各種調整機能のオンオフ設定に関わらず。リコールに関する各種調整機能を何れも実行せずに、リコール元の特殊シーンライブラリ31から読み出した当該特殊シーンデータ41の各値に基づいてカレントメモリ50のカレントデータを更新する。したがって、特殊シーンデータ41をリコールするときには、ミキサ1のユーザは、「各種の調整機能」に関するオンオフ設定等を手動で調整する手間をかけることなく、自動的に何れの機能も停止させて、特殊シーンデータ41の内容を全てそのままリコールできる。
なお、リコールすべきシーンデータが入力パッチライブラリ32及び出力パッチライブラリ33内のパッチデータにリンクされているときは、そのシーンデータのリコール時に、リンクされているパッチデータの値によりカレントメモリ50のパッチデータを更新する。パッチデータにリンクされていないシーンデータをリコールする時には、パッチデータはリコールせずに、カレントメモリ50に記録されているパッチデータを保持する。もちろん、シーンデータのリコールとは独立して、リコール元として入力パッチライブラリ32又は出力パッチライブラリ33のパッチデータを指定して、指定したパッチデータをリコールすることも可能である。
以上説明したミキサ1によれば、シーンデータを保存するシーンライブラリを通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31とに区別し、通常シーンライブラリ30に保存したシーンデータを通常シーンデータ40として通常的に取り扱い、特殊シーンライブラリ31に保存したシーンデータを特殊シーンデータ41として特殊的に取り扱うこと、具体的には、通常シーンライブラリ30のみをセーブ処理及びロード処理の対象とする一方、特殊シーンライブラリ31をセーブ処理及びロード処理の対象から除外することにより、ミキサのオペレータや管理者は、格別の注意を払うこと、手間をかけることなく簡単、正確、且つ、安全に、特殊シーンデータを通常シーンデータとは区別して取り扱うことができる。よって、ミキサのオペレータとミキサの管理者の双方が使いやすいシーンライブラリを提供できるという優れた効果を奏する。
例えば、その施設に常設されたミキサ1の管理者は、ミキサ1を所定の初期状態に初期化するために用いる初期化用シーンデータを特殊シーンデータ41として特殊シーンライブラリ31に保存しておく。一方、その施設で開催されるイベントで一時的にミキサ1を使用するオペレータは、予め、例えば自分の所有するミキサを使ってそのイベントに用いるシーンデータ(持込シーンデータ)を作成し、その持込シーンデータを通常シーンライブラリ31に通常シーンデータ40として保存して、外部メモリ60(例えば外付けUSBメモリ)にセーブしておく。その外部メモリ60から常設のミキサ1にライブラリのデータをロードするときには、外部メモリ60から読み出したライブラリファイルのデータによりミキサ1の通常シーンライブラリ30のみが上書きされ、特殊シーンライブラリ31内の初期化用シーンデータを保持される。したがって、オペレータと管理者の双方とも特別な注意を払ったり手間をかけたりすることなしに、自動的に、特殊シーンライブラリ31内の初期化用シーンデータを保持しつつ、外部から持込シーンデータをロードすることができる。
また、特殊シーンライブラリ31に保存した初期化用シーンデータをリコールするときには、各種調整機能を実行せずにリコールを行う(前記ステップS14〜S17)ので、ミキサ1の管理者は、リコール処理に対する調整機能のオンオフ設定を確認・変更する手間をかけることなし、簡単に、特殊シーンライブラリ31に保存した初期化用シーンデータに基づいてミキサ1の設定状態を初期化できる。
また、通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31とで独自にシーン番号を付けることができるので、持込シーンデータを作成するときに、オペレータにとっては、初期化用シーンデータのシーン番号を避けるよう注意を払うという手間が不要である。また、管理者にとっては初期化用シーンデータのシーン番号をオペレータに予め通知するという手間が不要である。
なお、外部メモリ60は、少なくともミキサ1の通常シーンライブイラリ30をミキサ1の外部の何らか記憶媒体にセーブでき、また、ミキサ1に通常シーンライブイラリ30に外部から持ち込まれたデータをロードできる形態でさえあれば、可搬型メモリに限らずどのような形態であってもよい。例えば、外部メモリ60は、ミキサ1と、該ミキサ1とネットワーク接続されたコンピュータや外部機器との間でシーンデータをダウンロード/アップロードする形態で構成されてもよい。また、その他I/O18を介してミキサ1に外部接続されたパーソナルコンピュータやハードディスク装置等のように可搬性の少ない装置により、外部メモリ60を構成してもよい。
また、前記図4では、特殊シーンライブラリ31をセーブ元の選択肢から除外することでセーブ処理の対象から除外する処理構成を説明したが、これに限らず特殊シーンライブラリ31のシーンがセーブ元とならないよう制御する方法、或いは、外部メモリ60へセーブされないよう制御する方法でさえあればよい。例えば、セーブ元の選択肢を提示する段階では特殊シーンライブラリ31を除外せずに含めておき、セーブ処理において、セーブ元に特殊シーンライブラリ31が含まれているか否かを判断し、特殊シーンライブラリ31が含まれているときは、特殊シーンライブラリ31を除外して、通常シーンライブラリ30だけを外部メモリ60にセーブする構成でもよい。
また、前記図5では、外部メモリ60には特殊シーンライブラリ31が含まれていないことを前提にする処理構成を説明したが、これに限らず、特殊シーンライブラリ31へシーンデータがロードされないように制御する方法でさえあればよい。例えば、ロード元のライブラリファイルに特殊シーンライブラリ31が含まれているか否かを判断し、特殊シーンライブラリ31が含まれているときは、そのライブラリファイルのロードを禁止する構成、或いは、そのライブラリファイルから特殊シーンライブラリ31のデータだけを除外して、ロードする構成でもよい。或いは、別の構成例として、ロード元のライブラリファイルに記録されているシーンデータの種類に関係なく、全てのデータを通常シーンライブラリ30にロードすることにより、特殊シーンライブラリ31にデータをロードしないよう制御する構成でもよい。
なお、通常シーンライブラリ30と特殊シーンライブラリ31以外に、更に別の種類のシーンライブラリを設ける構成であっても本願発明を適用できる。その場合も、特殊シーンライブラリ31の特殊シーンデータを、それ以外のシーンライブラリとは区別して特殊的に取り扱うように制御すれば、本願発明を実施できる。この場合、前記更に別の種類のシーンライブラリ内のシーンデータは、例えば、通常シーンライブラリと同様に通常的に取り扱えばよい。
なお、セーブ処理、ロード処理、ストア処理及びリコール処理におけるシーンライブラリ及び/又はシーン番号の選択方法は、上述した選択画面から選択する方法に限らず、例えば、ライブラリ名とシーン番号を文字入力等により個別に指定して選択する方法など、とにかく1つのライブラリ及び/又はシーンデータを特定して選択できる方法であれば、どのような方法でもよい。