JP2013116939A - ポリチオフェン誘導体複合物及びその製造方法、並びにその用途 - Google Patents

ポリチオフェン誘導体複合物及びその製造方法、並びにその用途 Download PDF

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靖 原
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康弘 小田
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Abstract

【課題】 簡便な手法を用いて、低コストで、高導電性膜形成用のポリチオフェン誘導体複合物及びその複合物を含む水分散体を提供する。
【解決手段】 疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を過硫酸塩と第二鉄塩で重合して、ポリチオフェン誘導体複合物を得る。
【選択図】 なし

Description

本発明は、疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を重合してなるポリチオフェン誘導体複合物、その複合物を水に分散して得られる水分散体、それを含んでなるコーティング用組成物、及びそのコーティング用組成物を基材表面に塗布後、乾燥して得られる導電性被覆物に関するものである。
導電性高分子分散体は、帯電防止剤、電解コンデンサ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどに用いられている。
従来、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンの複合体との水分散体からなる高導電性の被覆物を得るために、ジヒドロキシ基、ポリヒドロキシ基、アミド基、ラクタム基を含む有機化合物を混合し、アニーリングする方法が報告されている(例えば、特許文献1参照)。また、ポリチオフェンとポリ陰イオン化合物及びε≧15の誘電率を有する非プロトン性化合物を含有する水溶性組成物を乾燥し、高温のアニーリングを要せずポリマー性導電層を形成する方法も報告されている(例えば、特許文献2参照)。
さらに、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリ陰イオンから低いpHでの化学的酸化重合により得られた複合体と、アミド化合物とを含むコーティング用組成物が報告されている(例えば、特許文献3参照)。他に、アミド化合物と同様にイミド化合物の添加例も報告されている(例えば、特許文献4参照)。
また、ポリ(3,4−ジアルコキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸(以降、PEDOT/PSSと表す)の複合体分散液へジメチルスルホキシド(DMSO)を添加すると、電気伝導度が二桁上昇するとの報告もある(例えば、非特許文献1参照)。
ところで、一般的に、導電性高分子の導電率を向上させる添加剤の効果は、ポリマー分子の解凝集での説明がなされており、特にポリアニリンでは、ポリアニリン分子へのクレゾール類、フェノール類といった酸性化合物、または塩類、界面活性剤の添加による解凝集効果が報告されている(例えば、特許文献5、非特許文献2参照)。また、PEDOT/PSSに関しても、ジエチレングリコールを添加した系での構造変化に関する詳細な検討が行われ、ジエチレングリコール添加での解凝集と再配列が推定され、過剰なPSSが除かれてPEDOTが多く配列した部位の増加に関する報告がなされている(例えば、非特許文献3参照)。
一方、3,4−エチレンジオキシチオフェンを化学的酸化重合する際に、芳香族スルホン酸のアミン塩、4級アンモニウム塩、及びアルミニウム塩から選ばれる1種を用いることにより、重合用酸化剤の粘度を低減できた例が報告されている(例えば、特許文献6参照)。
また、ノルボルネン系の樹脂フィルム上に、ポリチオフェン、ポリスチレンスルホン酸またはその塩と、(メタ)アクリロイル基を有するアミン化合物等の重合性基を有するアミン化合物とを混合して、光重合開始剤及びジメチルスルホキシドを加えた膜形成用組成物の光重合により、光学特性、環境耐久性及び導電性に優れる透明導電性積層フィルムを得た例が報告されている(例えば、特許文献7参照)。
以上のように、ポリチオフェン複合体からなる高導電性高分子を得るため、ポリチオフェン並びにポリチオフェン複合体に対して種々の添加剤を用いた検討が行われてきた。しかし、最近、導電性高分子は1,000S/cm付近の高い導電率が求められており(例えば、特許文献8、非特許文献4参照)、ポリチオフェン並びにポリチオフェン複合体についてもさらに改善が必要とされている。
一方、界面活性剤を使用して得られる導電性高分子膜として、ポリチオフェンとポリ陰イオンとからなる導電性高分子に、フッ素系界面活性剤と水と相溶性のある溶媒からなる濡れ剤を含有させた水系塗料を塗布することにより、膜均一性が向上し、面内の表面抵抗のバラツキが実用的なレベルに抑制された導電性フィルムを得られることが報告されている(例えば、特許文献9参照)。
また、導電性高分子/ドーパント錯体に、ラジカル重合性基を含有するアミド系化合物とアミン類、ノニオン性界面活性剤を含有させると、導電性が良好で、透明性に優れた導電性塗膜を得られることが報告されている(例えば、特許文献10参照)。
また、無機酸イオンとアニオン系界面活性剤の有機酸イオンをドーパントとして、水媒体中で特定の高沸点溶媒共存下で化学的酸化重合を行い、得られた導電性高分子を濾別精製することにより、導電性の向上及び腐食性の改良された導電性高分子を得られることが報告されている(例えば、特許文献11参照)。
また、チオフェン誘導体などの導電性モノマーを、そのモノマーと相溶性の良好な溶媒や界面活性剤とポリスチレンスルホン酸またはその塩などのポリ陰イオンの存在下に化学的酸化重合を行い、得られた導電性高分子を精製することにより、導電性が良好で低ESRの導電性膜を得られることが報告されている(例えば、特許文献12参照)。
これら種々の検討から、ポリチオフェン類とポリ陰イオンとからなる導電性高分子の配列が、導電性と関連のあることが示唆された。しかし、この配列に影響を与えるポリ陰イオンであるポリスチレンスルホン酸またはその塩を、酸化重合前に疎水性溶媒と界面活性剤で処理し、導電性を向上させた例はまだ報告されていない。
特開平8−48858号公報 特開2000−153229公報 特開2004−59666公報 特開2006−328276公報 特開平8−231862号公報 特開2010−53302公報 特開2010−103106公報 特開2010−212212公報 特開2008−66064公報 特開2008−222850公報 特開2011−157535公報 特開2011−111521公報
J.Y.Kimら、Synthetic Metals、2002年、第126巻、311−316頁 A.G.MacDiarmidら、Synthetic Metals、1994年、第65巻、103−116頁 X.Crispinら、Chemical Materials、2006年、第18巻、4354−4360頁 L.Kwangheeら、Nature、2006年、第441巻、65−68頁
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は上述のように、疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を重合してなるポリチオフェン誘導体複合物、その複合物を水に分散して得られる水分散体、それを含んでなるコーティング用組成物、及びそのコーティング用組成物を基材表面に塗布後、乾燥して得られる導電性被覆物を提供することにある。
本発明者らは、疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を重合してなるポリチオフェン誘導体複合物について検討を行った。その結果、驚くべきことに、特殊な共重合や架橋重合、置換基導入、または修飾を行うことなく、疎水性溶媒と界面活性剤の存在下、ポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液を混合処理することにより、簡便かつ効果的に、高導電性膜形成用の複合物及び複合物を含む水分散体が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を重合してなるポリチオフェン誘導体複合物、その複合物を水に分散して得られる水分散体、それを含んでなるコーティング用組成物、及びそのコーティング用組成物を基材表面に塗布後、乾燥して得られる導電性被覆物に関する。
[1]疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を重合してなるポリチオフェン誘導体複合物。
[2]チオフェン誘導体が、3,4−エチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする[1]に記載のポリチオフェン誘導体複合物。
[3]疎水性溶媒が、芳香族炭化水素であることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリチオフェン誘導体複合物。
[4]界面活性剤が、カチオン性界面活性剤であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のポリチオフェン誘導体複合物。
[5]以下の工程からなることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のポリチオフェン誘導体複合物の製造方法。
a)ポリスチレンスルホン酸またはその塩を、疎水性溶媒及び界面活性剤で混合処理する工程
b)疎水性溶媒を除去する工程
c)チオフェン誘導体を重合する工程
[6]b)疎水性溶媒を除去する工程後の疎水性溶媒残存量が、ポリスチレンスルホン酸またはその塩に対し10重量%以下であることを特徴とする請求項5に記載のポリチオフェン誘導体複合物の製造方法。
[7][1]〜[4]のいずれかに記載のポリチオフェン誘導体複合物を水に分散してなることを特徴とする水分散体。
[8]ポリチオフェン誘導体複合物が、ポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液中で、ジメチルスルホキシドの存在下、チオフェン誘導体を重合してなるものであることを特徴とする[7]に記載の水分散体。
[9][7]に記載の水分散体と水溶性高沸点溶媒からなることを特徴とするコーティング用組成物。
[10]水溶性高沸点溶媒が、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする[9]に記載のコーティング用組成物。
[11][9]または[10]に記載のコーティング用組成物を基材表面に塗布後、乾燥することを特徴とする導電性被覆物。
本発明に従い、疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を重合してなるポリチオフェン誘導体複合物、その複合物を水に分散して得られる水分散体を用いると、低コストで、高導電性の被覆膜を形成することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の複合物におけるポリスチレンスルホン酸またはその塩としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩、ポリスチレンスルホン酸カリウム塩、ポリスチレンスルホン酸リチウム塩、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸メチルアミン塩、ポリスチレンスルホン酸ジメチルアミン塩、ポリスチレンスルホン酸トリメチルアミン塩、ポリスチレンスルホン酸エチルアミン塩、ポリスチレンスルホン酸ジエチルアミン塩、ポリスチレンスルホン酸トリエチルアミン塩などが挙げられる。
ここで、ポリスチレンスルホン酸またはその塩は、スチレンスルホン酸またはその塩を重合したものであり、用いるスチレンスルホン酸またはその塩としては、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム塩、スチレンスルホン酸カリウム塩、スチレンスルホン酸リチウム塩、スチレンスルホン酸アンモニウム塩、スチレンスルホン酸メチルアミン塩、スチレンスルホン酸ジメチルアミン塩、スチレンスルホン酸トリメチルアミン塩、スチレンスルホン酸エチルアミン塩、スチレンスルホン酸ジエチルアミン塩、スチレンスルホン酸トリエチルアミン塩などが挙げられる。
また、本発明の複合物におけるチオフェン誘導体としては、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェンなどの3−アルキルチオフェン類、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−プロポキシチオフェン、3−ブトキシチオフェンなどの3−アルコキシチオフェン類、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−エチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェンなどの3−アルキル−4−アルコキシチオフェン類、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジエチルチオフェン、3,4−ジプロピルチオフェンなどの3,4−ジアルキルチオフェン類、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェンなどの3,4−ジアルコキシチオフェン類、3,4−メチレンジオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェンなどの3,4−アルキレンジオキシチオフェン類などが挙げられるが、3,4−エチレンジオキシチオフェンが好ましい。
<ポリスチレンスルホン酸またはその塩の製造方法>
重合方法としては特に限定されるものではなく、例えば、本発明で使用されるポリスチレンスルホン酸またはその塩は、スチレンスルホン酸モノマー、またはスチレンスルホン酸塩モノマーの水溶液に、過硫酸塩やアゾ系化合物などのラジカル重合開始剤を添加し、重合させることにより得ることができる。この重合反応の温度は、通常のポリスチレンスルホン酸またはその塩を製造することが可能な反応温度であれば特に限定されるものではなく、0〜100℃が好ましく、さらに好ましくは10〜90℃であり、特に好ましくは60〜90℃の範囲である。得られたポリスチレンスルホン酸またはその塩は、精製して目的の分子量を有するポリ陰イオンとした。その重量平均分子量は5,000〜1,000,000の範囲であり、好ましくは10,000〜500,000の範囲であり、特に好ましくは30,000〜300,000の範囲である。重量平均分子量が5,000未満になると薄膜形成性及び導電性の低下が起こり、重量平均分子量が1,000,000を超えると粘性が高くなり、取り扱い等の操作性に問題が生じる。
本発明に使用されるポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液の濃度は特に限定されるものではなく、好ましくは0.1〜30重量%であり、さらに好ましくは1〜10重量%である。
<疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液の製造方法>
a)ポリスチレンスルホン酸またはその塩を、疎水性溶媒及び界面活性剤で混合処理する工程:
本発明のポリスチレンスルホン酸またはその塩を、疎水性溶媒及び界面活性剤で混合処理する方法は、特に限定されるものではなく、ポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液と疎水性溶媒及び界面活性剤とを、通常の攪拌方法で攪拌混合すればよい。
上記の混合処理における処理温度は、通常、水溶液を取り扱うことが可能な反応温度であれば特に限定されるものではなく、0〜100℃が好ましく、さらに好ましくは0〜50℃、特に好ましくは10〜40℃の範囲である。また、処理時間は乳化状態が保持できれば特に限定されるものではなく、1時間以上が好ましく、さらに好ましくは24時間以上である。
本発明に使用される疎水性溶媒としては、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル類等が挙げられるが、芳香族炭化水素が好ましく、さらに好ましくはトルエンである。
また、疎水性溶媒の使用量としては、特に限定されるものではなく、原料であるポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液に対し、0.001〜1,000重量倍の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.01〜100重量倍の範囲、特に好ましくは0.1〜10重量倍の範囲である。なお、用いた疎水性溶媒は、本発明の重合の際にチオフェン誘導体を溶解させ、重合の進行及びドーピングの障害となるため、混合処理後に除去する必要がある。除去後の残存量としては、ポリスチレンスルホン酸またはその塩に対し10重量%以下であることが必要である。
本発明に使用される界面活性剤としては、一般的なイオン性、非イオン性、両性の界面活性剤が挙げられ、カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、脂肪酸塩、モノアルキル硫酸塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸塩などが挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アミドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインなどが挙げられるが、カチオン性界面活性剤が好ましく、さらに好ましくはジアルキルジメチルアンモニウム塩である。
また、界面活性剤の使用量としては、特に限定されるものではなく、原料のポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液に対し、0.0001〜0.01重量倍の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.01重量倍の範囲である。
b)疎水性溶媒を除去する工程:
本発明のポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中の疎水性溶媒は、チオフェン誘導体の重合の際に原料チオフェン誘導体を溶解させ、重合の進行とドーピングの障害となるため、混合処理後に除去する必要がある。除去する方法は特に限定されるものではないが、本混合処理では界面活性剤の影響で処理液は乳化状態となっており、蒸留による除去が好ましい。疎水性溶媒を蒸留除去した処理液中の残存疎水性溶媒は、ポリスチレンスルホン酸またはその塩に対して10重量%以下であることが重要である。このようにして得られたポリスチレンスルホン酸またはその塩が、次工程であるチオフェン誘導体の重合に供される。
c)チオフェン誘導体を重合する工程:
本発明のポリチオフェン誘導体複合物は、ポリ陰イオンであるポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液中で、ジメチルスルホキシドの存在下、チオフェン誘導体を重合させることにより製造することができる。
本発明で用いるポリ陰イオンがポリスチレンスルホン酸の場合は、そのまま重合反応に使用することができる。また、ポリスチレンスルホン酸の塩の場合は、塩のまま使用するか、必要に応じてイオン交換を行い酸型のポリスチレンスルホン酸として使用することができる。
本発明の重合反応で使用されるポリスチレンスルホン酸またはその塩の使用量は、上記チオフェン誘導体100重量部に対して50〜2,000重量部の範囲が好ましく、より好ましくは100〜500重量部であり、特に好ましくは150〜300重量部の範囲である。
本発明の重合反応に用いる触媒としては、過硫酸塩または第二鉄塩などの一般的なものを用いることができる。過硫酸塩としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどが挙げられ、また、第二鉄塩としては、例えば、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、トルエンスルホン酸第二鉄などが挙げられるが、過硫酸アンモニウムと硫酸第二鉄が好ましい。
重合触媒の使用量は、上記チオフェン誘導体に対して1.0〜5.0倍モルの範囲が好ましく、1.0〜1.5倍モルの範囲が特に好ましい。
上記の重合反応に用いられる溶剤は、水系溶媒であり、特に好ましくは水である。他に、補助溶媒を用いることも可能であり、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどが挙げられ、単一または混合して使用してもよい。これらのうちでは、特にジメチルスルホキシドが好ましい。
なお、補助溶媒の使用量としては特に限定されるものではなく、原料のスチレンスルホン酸モノマーまたはポリマーに含有される繰り返し単位中のスチレンスルホン酸(ポリスチレン換算での数平均分子量Mnから推定)に対し、0.2〜100倍モルの範囲が好ましく、さらに好ましくは0.5〜2.0倍モルの範囲である。
重合反応における反応温度は、水系溶媒を取り扱うことが可能な反応温度であれば特に限定されるものではないが、0〜100℃が好ましく、濃度変化を起こさせずに反応を進行させるため、さらに好ましくは0〜50℃、特に好ましくは0〜30℃の範囲である。
<水分散体の製造方法>
本発明の製造方法で得られたポリチオフェン誘導体複合物を水に分散することにより水分散体を製造することができる。
<コーティング用組成物>
本発明の製造方法で得られた水分散体に、水溶性高沸点溶媒を添加し、コーティング用組成物とすることができる。水溶性高沸点溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられ、単一または混合して使用することができる。これらのうちでは、特にジメチルスルホキシドが好ましい。
<導電性被覆物>
以上に記載の方法で得られたコーティング用組成物を用いれば、基材表面に塗布及び乾燥させることにより、導電性に優れる被覆物を得ることができる。
用いる基材としては特に限定されるものではなく、例えば、プラスチックシート、プラスチックフィルム、不織布、ガラス板等が挙げられる。
また、塗布方法は特に限定されるものではなく、例えば、スピンコート、ワイヤーコート、バーコート、ロールコート、プレートコート、カーテンコート、スクリーン印刷などを使用することができる。
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。なお、本実施例における物性値の測定は、下記の機器を用いて実施した。
分子量測定には、水−アセトニトリル系GPC(東ソー製、HLC−8200)を使用し、導電率の測定には、低抵抗率計(三菱化学社製、ロレスターGP、MCP−T600)を使用した。
製造例1
(ポリスチレンスルホン酸の製造例)
冷却管、温度計、撹拌翼を装着した200mlの四つ口フラスコに、25℃下、スチレンスルホン酸ナトリウム10.0g(東ソー株式会社製スピノマーNaSS、純度87%)と水40.0gを仕込んで溶解させ、90℃に加熱して過硫酸アンモニウム0.05gを添加し、2時間重合させた。得られた反応液に水50.0gを加え、陽イオン交換樹脂(オルガノ社製アンバーライトIR120B)50mlを充填したカラムを用いて1ml/分で通液処理した後、同カラムに洗浄水50mlを1ml/分で通液処理した。さらに、その全処理液を陰イオン交換樹脂(オルガノ社製アンバーライトIRA96SB)50mlを充填したカラムを用いて1ml/分で通液処理した後、同カラムに洗浄水50mlを1ml/分で通液処理し、ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。得られたポリスチレンスルホン酸水溶液をGPCで分析した結果、低分子のスチレンスルホン酸は検出されなかった。また、標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウムを基準とした重量平均分子量は340,000であった。さらに、塩素、臭素、ナトリウムの含有量は、イオンクロマトグラフィー及び誘導結合プラズマ発光分光分析の測定結果から、全て、ポリスチレンスルホン酸に対して50ppm以下であった。
製造例2
(ポリスチレンスルホン酸の疎水性溶媒と界面活性剤による混合処理液の製造例1)
冷却管、温度計、撹拌翼を装着した200mlの四つ口フラスコに、25℃下、製造例1で得られたポリスチレンスルホン酸の3重量%水溶液31.0gとトルエン3.1gとジメチルジステアリルアンモニウムクロライド0.03gを加え、室温で24時間撹拌混合処理した。その後、この処理液に水60gを加え、トルエンを共沸蒸留により水と共に除去し、ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。この処理液中の残存トルエンをガスクロマトグラフィー(GC)で分析した結果、ポリスチレンスルホン酸に対して0.9重量%であった。
製造例3
(ポリスチレンスルホン酸の疎水性溶媒と界面活性剤による混合処理液の製造例2)
冷却管、温度計、撹拌翼を装着した200mlの四つ口フラスコに、25℃下、製造例1で得られたポリスチレンスルホン酸の3重量%水溶液31.0gとトルエン31.0gとジメチルジステアリルアンモニウムクロライド0.03gを加え、室温で24時間撹拌混合処理した。その後、この処理液に水60gを加え、トルエンを共沸蒸留により水と共に除去し、ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。この処理液中の残存トルエンをGCで分析した結果、ポリスチレンスルホン酸に対して20.5重量%であった。
製造例4
(ポリスチレンスルホン酸の疎水性溶媒と界面活性剤による混合処理液の製造例3)
冷却管、温度計、撹拌翼を装着した200mlの四つ口フラスコに、25℃下、製造例1で得られたポリスチレンスルホン酸の3重量%水溶液31.0gとトルエン31.0gとジメチルジステアリルアンモニウムクロライド0.03gを加え、室温で24時間撹拌混合処理した。その後、この処理液に水60gを加え、トルエンを共沸蒸留により水と共に除去した。この共沸蒸留除去操作を3回繰り返し、ポリスチレンスルホン酸水溶液を得た。この処理液中の残存トルエンをGCで分析した結果、ポリスチレンスルホン酸に対して0.5重量%であった。
実施例1
(PEDOT−PSSの製造例)
冷却管、温度計、撹拌翼を装着した200mlの四つ口フラスコに、25℃下、製造例2で得られたポリスチレンスルホン酸の5重量%水溶液18.6g、ジメチルスルホキシド0.26g、過硫酸アンモニウム0.77g、硫酸第二鉄0.02gを仕込み、水を加えて全量を100gとして撹拌溶解させた。続いて強撹拌下で3,4−エチレンジオキシチオフェン0.47gを添加し、室温で24時間重合させた。得られた重合液を、超音波ホモジナイザー(日本精機社製UT−300T)で20分間分散処理した後、陽イオン交換樹脂(オルガノ社製アンバーライトIR120B)10gと陰イオン交換樹脂(オルガノ社製アンバーライトIRA96SB)10gを加え、1時間撹拌した。その後、この分散液をろ紙(東洋濾紙社製No.2)でろ過して、イオン交換樹脂を陽イオン、陰イオンと共に除去した。次に、このろ液に水400mlを加え、限外ろ過装置(アドバンテック東洋社製撹拌型ウルトラフィルター、分画分子量1万)を用いて、約400mlの水溶液を除去した。この操作を3回繰り返し、遊離の低分子成分を除去した。さらに、この処理液をメンブランフィルター(孔径0.45μm)に通し、導電性高分子分散液を得た。以上の操作で得られた分散液にジメチルスルホキシドを5重量%添加し、ガラス板上に流延塗布し、室温で5時間乾燥後、さらに130℃で30分間乾燥して導電性の膜を作製した。この膜の導電率を低抵抗率計(三菱化学社製ロレススターGP、MCP−T600)で測定したところ、909S/cmと高い導電率を示した。また、結果を表1にまとめて示した。
実施例2
(PEDOT−PSSの製造例)
製造例4で得られたポリスチレンスルホン酸を用いた以外は、実施例1と同一の方法で導電性高分子分散液を得た。この分散液を用い、実施例1と同一の方法で膜を作製した。この膜の導電率を実施例1と同一の方法で測定した結果、837S/cmと高い導電率を示した。また、結果を表1にまとめて示した。
比較例1
製造例1で得られたポリスチレンスルホン酸を用いた以外は、実施例1と同一の方法で導電性高分子分散液を得た。この分散液を用い、実施例1と同一の方法で膜を作製した。この膜の導電率を実施例1と同一の方法で測定した結果、493S/cmと低い導電率を示した。また、結果を表1にまとめて示した。
比較例2
製造例3で得られたポリスチレンスルホン酸を用いた以外は、実施例1と同一の方法で導電性高分子分散液を得た。この分散液を用い、実施例1と同一の方法で膜を作製した。この膜の導電率を実施例1と同一の方法で測定した結果、231S/cmと低い導電率を示した。また、結果を表1にまとめて示した。
比較例3
実施例1の方法において、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド0.03gを加えた以外は実施例1と同一の原料、仕込み量、条件で重合を行い、得られた重合液を実施例1と同一の方法で処理を行い、導電性高分子分散液を得た。この分散液を用い、実施例1と同一の方法で膜を作製した。この膜の導電率を実施例1と同一の方法で測定した結果、490S/cmと低い導電率を示した。また、結果を表1にまとめて示した。
比較例4
実施例1の方法において、ジメチルスルホキシドを添加せずに、実施例1と同一の原料、仕込み量、条件で重合を行い、得られた重合液を実施例1と同一の方法で処理を行い、導電性高分子分散液を得た。この分散液を用い、実施例1と同一の方法で膜を作製した。この膜の導電率を実施例1と同一の方法で測定した結果、395S/cmと低い導電率を示した。また、結果を表1にまとめて示した。
以上の結果から、疎水性溶媒と界面活性剤の存在下に混合処理して得られたポリスチレンスルホン酸またはその塩をポリ陰イオンとして用いれば、同等の分子量を有する無処理のポリスチレンスルホン酸またはその塩をポリ陰イオンとして用いた場合に比較して、明らかに高い導電率を示す導電性膜が得られることがわかる。
本発明の方法に従い、疎水性溶媒と界面活性剤の存在下に混合処理したポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液をポリ陰イオンとして用いれば、ポリチオフェン誘導体複合物から簡便な手法により、低コストで高導電性膜形成用の組成物を得ることができる。
この新規なコーティング用組成物を用いれば、基材表面に塗布及び乾燥させることにより、導電性に優れる被覆物を得ることができ、帯電防止剤、電解コンデンサ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどへの利用が期待される。
Figure 2013116939

Claims (11)

  1. 疎水性溶媒と界面活性剤を含むポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶性懸濁液中で、チオフェン誘導体を重合してなるポリチオフェン誘導体複合物。
  2. チオフェン誘導体が、3,4−エチレンジオキシチオフェンであることを特徴とする請求項1に記載のポリチオフェン誘導体複合物。
  3. 疎水性溶媒が、芳香族炭化水素であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリチオフェン誘導体複合物。
  4. 界面活性剤が、カチオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリチオフェン誘導体複合物。
  5. 以下の工程からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリチオフェン誘導体複合物の製造方法。
    a)ポリスチレンスルホン酸またはその塩を、疎水性溶媒及び界面活性剤で混合処理する工程
    b)疎水性溶媒を除去する工程
    c)チオフェン誘導体を重合する工程
  6. b)疎水性溶媒を除去する工程後の疎水性溶媒残存量が、ポリスチレンスルホン酸またはその塩に対し10重量%以下であることを特徴とする請求項5に記載のポリチオフェン誘導体複合物の製造方法。
  7. 請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリチオフェン誘導体複合物を水に分散してなることを特徴とする水分散体。
  8. ポリチオフェン誘導体複合物が、ポリスチレンスルホン酸またはその塩の水溶液中で、ジメチルスルホキシドの存在下、チオフェン誘導体を重合してなるものであることを特徴とする請求項7に記載の水分散体。
  9. 請求項7に記載の水分散体と水溶性高沸点溶媒からなることを特徴とするコーティング用組成物。
  10. 水溶性高沸点溶媒が、ジメチルスルホキシドであることを特徴とする請求項9に記載のコーティング用組成物。
  11. 請求項9または10に記載のコーティング用組成物を基材表面に塗布後、乾燥することを特徴とする導電性被覆物。
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