以下、造影用カテーテルに本発明を適用した場合の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態における造影用カテーテル10の正面図である。
造影用カテーテル10は、造影剤を冠動脈に注入する際に用いられる医療用器具であり、図1に示すように、チューブ状をなすカテーテル本体11と、当該カテーテル本体11の基端部に取り付けられたハブ12と、を備えている。ハブ12はカテーテル本体11の内腔13(図2参照)に連通し且つ軸方向に貫通したハブ通路を内部に有しているとともに、造影剤の注入ポートを有している。
カテーテル本体11は、当該カテーテル本体11の基端部から先端側に向けた所定範囲を構成する基端側シャフト14と、基端側シャフト14よりも先端側に設けられた先端側シャフト15とを備える。基端側シャフト14は、管状に形成されており、その内部に軸線方向全域に亘って連続して延びる内腔(図示略)を有している。基端側シャフト14は、内層及び外層がそれぞれ樹脂材料からなるとともに中間層が金属製の編組体からなる3層構造を有している。一方、先端側シャフト15は、熱可塑性の樹脂材料により管状(円管状)に形成されており、その内部に軸線方向全域に亘って連続して延びる内腔15aを有している。これら各シャフト14,15の内腔によりカテーテル本体11の内腔13が構成されている。なお、先端側シャフト15の先端に同シャフト15よりも柔軟なソフトチップが設けられていてもよい。また、各シャフト14,15の外周面に滑りをよくするための親水性コーティング又は疎水性コーティングを施してもよい。
先端側シャフト15は、基端側シャフト14の先端部に連結されたシャフト基部17と、シャフト基部17よりも先端側に設けられた曲がり部18と、曲がり部18よりも先端側に設けられた先端側領域19とを備える。シャフト基部17は、基端側シャフト14と同一軸線上に並ぶようにして直線状又は略直線状に形成されている。曲がり部18は、シャフト基部17の延びる方向(軸線方向)に対して交差する方向に湾曲形成されている。曲がり部18は、全体として遠位側に向かって凸となる円弧状をなしており、より詳しくは半円形状をなしている。先端側領域19は、直線状又は略直線状に形成されており、その先端が先端側シャフト15の先端となっている。この場合、先端側領域19の先端は近位側を向いている。
上述の構成において、先端側シャフト15の曲がり部18を伸ばすべく、曲がり部18に対して荷重を加えた場合には、曲がり部18において曲がりの内側(コーナ内側)では引張応力が発生し、曲がりの外側(コーナ外側)では圧縮応力が発生する。具体的には、曲がり部18において軸線Eよりも曲がりの内側の領域(以下、曲がり内側領域18aという)では引張応力が生じ、軸線Eよりも曲がりの外側の領域(以下、曲がり外側領域18bという)では圧縮応力が生じる。この場合、曲がり内側領域18aが引張領域に相当し、曲がり外側領域18bが圧縮領域に相当する。そして、曲がり内側領域18aでは軸線方向への伸びが発生して引張ひずみが生じる一方、曲がり外側領域18bでは軸線方向への縮みが発生して圧縮ひずみが生じる。
具体的には、曲がり部18において曲がり内側領域18aと曲がり外側領域18bとの境界面は応力の発生しない中立面となっている。曲がり内側領域18aでは、発生する引張応力と引張ひずみとがそれぞれこの中立面からの距離に比例して大きくなり、曲がり外側領域18bでは、発生する圧縮応力と圧縮ひずみとがそれぞれ中立面からの距離に比例して大きくなる。
ここで一般に、材料に引張ひずみが生じた場合と、圧縮ひずみが生じた場合とでは、引張ひずみが生じた場合の方が塑性変形(降伏)が生じ易い(より詳しくは、引張ひずみと圧縮ひずみとが同じ大きさである条件の下で塑性変形の生じ易さを比較した場合、前者の方が塑性変形(降伏)が生じ易い)。そのため、曲がり部18が伸ばされることで曲がり部18に塑性変形が生じる際には、曲がり部18(曲がり内側領域18a)において最も大きな引張ひずみ(及び引張応力)が生じる最内部すなわち中立面から最も離れた部位にてまず塑性変形が生じ、その後曲がりの外側すなわち中立面側に向かって順次塑性変形が生じていくことが考えられる。
曲がり部18における上記最内部は、例えば曲がり部18が直線状になるまで伸ばされた場合には、その軸線方向の長さD1(初期長さD1)が曲がり部18の軸線Eの長さD2(換言すると、中立面の軸線方向の長さ)と同じとなる。この場合、曲がり部18の最内部は軸線方向においてD2−D1の長さ伸びることとなり、換言すると当該最内部にD2−D1の引張ひずみが生じることとなる。以下、この引張ひずみを、すなわち曲がり部18において生じる最も大きな引張ひずみを最大引張ひずみA(=D2−D1)という。
ところで、本実施形態では、曲がり部18が伸ばされた場合において当該曲がり部18に塑性変形が生じるのを抑制すべく曲がり部18(ひいては先端側シャフト15)に特徴的な構成を有している。以下、かかる曲がり部18の特徴的な構成について図1に加え図2を参照しつつ説明する。なお、図2は、先端側シャフト15の横断面図であり、図1のA−A線断面図に相当する。また、図2では便宜上、先端側シャフト15の横断面にハッチングを付していない(図7、図9〜図11についても同様)。
図1及び図2に示すように、先端側シャフト15は、その軸線Eと直交する方向において並ぶ2つの管形成部材が互いに溶着により接合されて構成されており、これによりシャフト軸線方向に沿って片側半分が第1管部21、もう一方の片側半分が第2管部22となっている。第1管部21と第2管部22とはそれぞれ先端側シャフト15の軸線方向全域に亘って延びるように形成されており、それぞれ半円形状からなる同じ横断面形状を有している。そして、これら各管部21,22は、互いの端面同士を突き合わせた状態で熱溶着により接合されており、これによって円管状の先端側シャフト15が形成されている。なお、第1管部21と第2管部22との接合は必ずしも熱溶着により行う必要はなく、接着剤を用いた接着等他の接合方法を採用してもよい。
先端側シャフト15は、曲がり部18において第1管部21が曲がりの内側(コーナ内側)、第2管部22が曲がりの外側(コーナ外側)に位置するように形成されている。具体的には、曲がり部18において曲がり内側領域18aが第1管部21により構成され、曲がり外側領域18bが第2管部22により構成されている。なお、曲がり部18において第1管部21により構成される部位が「コーナ内側部分」に相当し、第2管部22により構成される部位が「コーナ外側部分」に相当する。
第1管部21と第2管部22とはそれぞれ異なる樹脂材料(合成樹脂材料)により形成されている。第1管部21の材料と第2管部22の材料とは、降伏応力が生じた場合に生じるひずみである降伏ひずみが互いに相違するものとなっている。具体的には、第1管部21の材料の降伏ひずみは第2管部22の材料の降伏ひずみよりも大きくなっており、より詳しくは上述した曲がり部18の最大引張ひずみAよりも大きくなっている。本実施形態では、第1管部21がポリアミドエラストマにより形成されており、第2管部22がポリアミドにより形成されている。
但し、第1管部21の材料と第2管部22の材料とは必ずしもこれに限ることはなく、第1管部21の材料の降伏ひずみが第2管部22の材料の降伏ひずみよりも大きければ各管部21,22の材料は任意としてよい。例えば、合成樹脂材料としては、上述の材料の他にポリイミド、ポリイミドエラストマ、ポリプロピレン、ポリエチレン、シリコンゴム等を用いることができる。また、ポリマーアロイやポリマーブレンド等、複数のポリマを混合させてなる高分子材料を用いてもよい。さらに、合成樹脂材料以外にも、ステンレス鋼等の鋼材や非鉄金属等を用いてもよい。
上述したように、第1管部21の材料は第2管部22の材料よりも降伏ひずみが大きくなっていることから、第1管部21の材料は第2管部22の材料よりも弾性率が小さくなっている。そのため、第1管部21と第2管部22とでその剛性を比較すると、第1管部21の方が第2管部22よりも剛性が低くなっている。この点からすると、第1管部21を低剛性部、第2管部22を高剛性部ということもできる。
次に、先端側シャフト15の製造工程について図3に基づいて説明する。図3は、先端側シャフト15の製造手順を説明するための説明図である。
まず、先端側シャフト15を構成するシャフト本体31を形成するシャフト形成工程を行う。シャフト本体31は、先端側シャフト15において曲がり部18が形成されていない状態のものである。換言すると、このシャフト本体31に対して曲がり部18が形成されることにより先端側シャフト15が形成されることとなる。
シャフト形成工程では、まず図3(a)に示すように、先端側シャフト15において第1管部21を構成する第1半割管部32と、第2管部22を構成する第2半割管部33とを形成する半割管部形成工程を行う。この場合、これら各半割管部32,33は例えば押し出し成形により形成される。
次に、図3(b)に示すように、第1半割管部32と第2半割管部33とを接合することによりシャフト本体31を形成する接合工程を行う。この工程では、第1半割管部32と第2半割管部33とを熱溶着により接合する。この場合、各半割管部32,33が半円形状からなる同一の横断面を有していることから接合作業を好適に行うことができる。なお、これら各半割管部32,33の接合は必ずしも熱溶着により行う必要はなく、接着剤を用いた接着等他の接合方法を採用してもよい。
次に、シャフト本体31に対して曲がり部18を形成する曲がり部形成工程を行う。この工程では、図3(c)に示すように、先端側シャフト15(内腔15a)の内径と略同じ外径寸法を有しかつ先端側シャフト15と略同じ曲がり形状を有する金属製の芯材35を用いて曲がり部18を形成する。具体的には、芯材35は、先端側シャフト15におけるシャフト基部17に対応する直線状の基部35aと、曲がり部18に対応する円弧状の曲がり形成部35bと、先端側領域19に対応する直線状の先端部35cとを有する。
本工程ではまず、シャフト本体31を、その内腔に芯材35を挿通させながら芯材35に対して基端側から先端側に引っ張りながら移動させることで、シャフト本体31を芯材35の外周側に配置する。この場合、図3(d)に示すように、シャフト本体31が芯材35において基部35aから先端部35cにまで亘るようにシャフト本体31を配置する。また、この際、シャフト本体31において芯材35の曲がり形成部35bに配置される部位(つまり曲がり部18となる部位)では第1半割管部32が曲がりの内側、第2半割管部33が曲がりの外側に位置するようシャフト本体31の配置を行う。
次に、シャフト本体31を所定の加熱条件で加熱することにより、シャフト本体31に対して曲がり形状を付ける。この場合、例えば100〜300℃の温度条件下で数10秒〜数分の間シャフト本体31を加熱する。これにより、シャフト本体31に曲がり部18が形成され、ひいては先端側シャフト15が形成される。そして、曲がり部18では曲がり内側領域18aに第1管部21が形成され(第1半割管部32が第1管部21となる)、曲がり外側領域18bに第2管部22が形成される(第2半割管部33が第2管部22となる)。
その後、図3(e)に示すように、先端側シャフト15を芯材35に対して基端側に引っ張りながら移動させることにより、同シャフト15を芯材35から取り外す。この場合、先端側シャフト15の曲がり部18が芯材35の基部35aを通過することとなるため、その通過の際、曲がり部18が直線状に、すなわち曲がり部18の曲がり側とは逆側に伸ばされることとなる。そのため、曲がり部18に塑性変形が生じることが懸念される。その点本実施形態では上述したように、曲がり部18が伸ばされた際、曲がり部18において引張応力が生じる曲がり内側領域18a(引張領域)が、降伏ひずみの大きい材料からなる第1管部21により構成されているため、同領域18aに塑性変形が生じるのを抑制でき、ひいては曲がり部18に塑性変形が生じるのを抑制できる。具体的には、第1管部21では、その降伏ひずみが最大引張ひずみAよりも大きい材料が用いられているため、曲がり部18が真っ直ぐに伸ばされた場合でも曲がり部18(曲がり内側領域18a)に塑性変形が生じるのを防止できる。よって、先端側シャフト15を芯材35から取り外した後、曲がり部18を元通りの曲がり形状に復元させることができる。これをもって、先端側シャフト15の製造が完了する。
その後、先端側シャフト15を基端側シャフト14と接合することでカテーテル本体11を製造する工程や、同本体11にハブ12を接続する工程を行うことで、造影用カテーテル10の製造が完了する。
次に、造影用カテーテル10を用いて冠動脈造影検査を行う際の作業について説明する。図4は、かかる作業内容を説明するための説明図である。
まず、予め大腿動脈に穿刺されたカテーテルイントロデューサの内部を通じて造影用カテーテル10を大腿動脈に挿入する。このとき、カテーテル本体11の内腔13には予めガイドワイヤGを挿入しておく。そして、ガイドワイヤGを先行させつつカテーテル本体11を徐々に造影対象部位である左冠動脈Hに向けて進めていく。また、この際、カテーテル本体11の曲がり部18は真っ直ぐに伸ばされた状態(直線状に弾性変形された状態)で血管内に挿入される。
ここで、上述したように、カテーテル本体11の先端側シャフト15は、曲がり部18の塑性変形を抑制すべく降伏ひずみの大きい材料(つまり剛性の低い材料でもある)を用いて形成されているが、当該材料は先端側シャフト15において一部にのみ(具体的には第1管部21にのみ)用いられているため、曲がり部18の復元性を高めつつも先端側シャフト15の剛性低下が抑制されている。そのため、カテーテル本体11を血管内に挿入する際に、先端側シャフト15が屈曲してしまうといった不都合を抑制できる。
造影用カテーテル10の血管内への導入について具体的には、まず図4(a)に示すように、大腿動脈から下行大動脈を経由して上行大動脈Vまでカテーテル本体11の先端側シャフト15を導入する。そして、図4(b)に示すように、先端側シャフト15の先端を左冠動脈Hよりも所定距離(例えば10cm程度)上方に位置させて、その状態でカテーテル本体11からガイドワイヤGを引き抜く。これにより、曲がり部18が自らの復帰弾性力によって元の湾曲形状(自然状態)へと変形する。
その後、図4(c)に示すように、カテーテル本体11を押し進めていき、左冠動脈H側に向いた状態の先端側領域19を左冠動脈Hの入口部分に挿入(エンゲージ)する。この挿入状態では、曲がり部18を自然状態(元の湾曲形状)よりも伸ばした状態としており、それ故先端側領域19が曲がり部18の復帰弾性力によって左冠動脈Hの内壁に押し付けられた状態となる。ここで、本造影用カテーテル10では、上述したように曲がり部18の復元性が高められているため、曲がり部18が伸ばされた状態で血管内を通過した後も、曲がり部18の復帰弾性力が低下することはない。そのため、左冠動脈H入口部分への先端側領域19の挿入、及びその挿入された先端側領域19の左冠動脈H内壁に対する押し付け状態(換言するとバックアップ)を良好なものとすることができる。また、曲がり部18の復元性が高められつつも、先端側シャフト15の剛性低下が抑制されているため、この点からも良好なバックアップが得られるものとなっている。
その後、カテーテル本体11の内腔13を通じて造影剤を左冠動脈Hに注入し、X線照射の下、当該左冠動脈Hにおける血流状態等の確認(検査)を行う。造影剤の注入に際しては、カテーテル本体11の先端側領域19に反力が作用することとなるが、上述したように先端側領域19において良好なバックアップ力が得られているため、同領域19が左冠動脈Hから抜け落ちるのを抑制することができる。
以上、詳述した本実施形態の構成によれば、以下の優れた効果が得られる。
先端側シャフト15の曲がり部18において曲がり内側領域18aに配置された第1管部21を、曲がり外側領域18bに配置された第2管部22よりも降伏ひずみの大きい材料により構成したため、曲がり部18において塑性変形が生じ易い曲がりの最内部を含む曲がり内側領域18aに塑性変形が生じるのを抑制でき、ひいては曲がり部18が塑性変形するのを抑制できる。これにより、曲がり部18の復元性を高めることができる。また、降伏ひずみの大きい材料は一般に剛性が低いが、かかる材料を曲がり部18において一部にのみ用いる構成としているため、かかる材料を曲がり部18全体に用いる場合と比べ、剛性の低下を抑制できる。よって、この場合剛性の低下を抑制しながら、曲がり部18の復元性を高めることができる。
また、曲がり部18において圧縮領域(曲がり外側領域18b)にはみ出さないように第1管部21を配置した。つまり、曲がり部18において塑性変形の生じ易い引張領域(曲がり内側領域18a)にのみ第1管部21を配置した。この場合、剛性の低い材料からなる第1管部21が引張領域にのみ配置されることとなるため、先端側シャフト15の剛性低下をより一層抑制することができる。
第1管部21について、曲がり部18を直線状に変形させた状態でも降伏しない材料により形成した。これにより、造影用カテーテル10の使用時又は先端側シャフト15の製造時に、曲がり部18が直線状に伸ばされたとしても曲がり部18が塑性変形するのを防止できる。そのため、曲がり部18を元通りの形状に復元させることが可能となる。
曲がり部18において第1管部21と第2管部22との境界面を中立面に設定した。中立面では、曲がり部18が伸ばされた場合に応力が発生しないため、かかる構成とすれば、曲がり部18が伸ばされた場合に、降伏ひずみの異なる材料からなる第1管部21と第2管部22との境界面に大きなせん断力が発生するのを抑制できる。これにより、第1管部21と第2管部22との接合が外れるといった不都合の発生を抑制できる。
本発明は上記実施形態に限らず、例えば次のように実施されてもよい。
(1)上記実施形態では、先端側シャフト15の軸線方向全域を第1管部21と第2管部22とにより、詳しくは降伏ひずみの異なる材料からなる2つの管部21,22により構成したが、先端側シャフト15において曲がり部18を含む軸線方向の一部のみをこれらの管部21,22により構成してもよい。例えば先端側シャフト15において曲がり部18のみを第1管部21と第2管部22とにより構成することが考えられる。この場合、先端側シャフト15において曲がり部18以外の部位、すなわちシャフト基部17及び先端側領域19について高剛性の材料(例えば第2管部22の形成材料)により形成すれば、先端側シャフト15において曲がり部18のみに低剛性の材料が用いられることとなるため、先端側シャフト15の剛性低下をより一層抑制できる。
(2)また、図5に示すように、先端側シャフト15において先端側領域19を除く部分すなわちシャフト基部17及び曲がり部18を第1管部21と第2管部22とにより構成してもよい。ここで図5では、先端側領域19が、軸線Eと直交する方向に並ぶ先端側第1管部41及び先端側第2管部42により構成されている。先端側第1管部41は、先端側領域19において、曲がり部18の曲がり外側領域18bと軸線方向において連続して設けられており、先端側第2管部42は、曲がり部18の曲がり内側領域18aと軸線方向において連続して設けられている。なお、図5では便宜上、先端側第1管部41及び第1管部21にドットを付している。
先端側第1管部41と先端側第2管部42とはそれぞれ異なる樹脂材料により形成されている。具体的には、先端側第1管部41の材料は先端側第2管部42の材料よりも降伏ひずみが大きくなっている。そのため、先端側第1管部41は先端側第2管部42と比べると剛性が低くなっている。なお、先端側第1管部41には、例えば第1管部21の材料と同じ材料(ポリアミドエラストマ)が用いられ、先端側第2管部42には、例えば第2管部22の材料と同じ材料(ポリアミド)が用いられている。
ところで、上述した先端側シャフト15の製造工程において、曲がり部18が形成された先端側シャフト15を芯材35から基端側に引き抜く際には、曲がり部18よりも先端側となる先端側領域19が曲がり形成部35bを通過することとなる。そのため、その通過の際、先端側領域19が曲がり形成部35bに沿って曲げられて塑性変形を起こす懸念がある。詳しくは、先端側領域19において引張応力が生じる部分、つまり同領域19において曲がり部18の曲がり外側領域18bと軸線方向に連続する部分に塑性変形が生じる可能性がある。この点、上述の構成によれば、先端側領域19の当該部分に降伏ひずみの大きい材料からなる先端側第1管部41が配設されているため、当該部分に塑性変形が生じるのを抑制でき、ひいては先端側領域19に塑性変形が生じるのを抑制できる。これにより、先端側領域19について復元性の向上を図ることができる。なおここでは、先端側領域19が非曲がり部に相当するものとなる。
(3)先端側シャフト15において、先端側領域19を先端側第1管部41及び先端側第2管部42により構成することに代えて又は加えて、シャフト基部17を、軸線Eと直交する方向に並ぶ基部側第1管部及び基部側第2管部により構成し、基部側第1管部を曲がり外側領域18bと軸線方向に連続するように、かつ基部側第2管部を曲がり内側領域18aと軸線方向に連続するように配置してもよい。この場合、基部側第1管部の材料の降伏ひずみを基部側第2管部の材料の降伏ひずみよりも大きくすれば、先端側シャフト15を芯材35から先端側に引き抜く場合において、シャフト基部17が曲がり形成部35bを通過して同形成部35bに沿って曲げられたとしても、シャフト基部17に塑性変形が生じるのを抑制できる。
(4)先端側シャフト15の先端側領域19を湾曲形状に形成してもよい。例えば、図6に示すように、先端側領域19を、先端側シャフト15の軸線Eを挟んで曲がり部18の曲がり側とは逆側に湾曲形成することが考えられる。この場合、先端側領域19を、曲がり外側領域18bと軸線方向において連続するとともに当該先端側領域19において曲がりの内側に配置される先端側第1管部45と、曲がり内側領域18aと軸線方向において連続すると共に当該先端側領域19において曲がりの外側に配置される先端側第2管部46とにより構成し、先端側第1管部45を先端側第2管部46よりも降伏ひずみの大きい材料により形成することが望ましい。そうすれば、先端側シャフト15に対して曲がり部18及び先端側領域19の形状付けを行った後、同シャフト15を芯材から引き抜く際に、先端側シャフト15全体が直線状に変形されたとしても、曲がり部18及び先端側領域19のそれぞれにおいて曲がりの内側部分に塑性変形が生じるのを抑制できる。なおここでは、曲がり部18が第1曲がり部に相当し、先端側領域19が第2曲がり部に相当する。
(5)上記実施形態では、先端側シャフト15において第1管部21と第2管部22とを軸線Eに直交する方向において当該軸線Eを基準として対称形状としたが、非対称形状としてもよい。例えば図7(a)では、第2管部22が、曲がり部18において曲がり内側領域18aにまで跨るように形成されており、第2管部22の横断面が第1管部21の横断面よりも大きくなっている。また、図7(b)では、第1管部21が、曲がり部18において曲がり外側領域18bにまで跨るように形成されており、第1管部21の横断面が第2管部22の横断面よりも大きくなっている。前者の場合、先端側シャフト15において第1管部21の占める割合を小さくすることができるため、同シャフト15の剛性低下をより一層抑制できる。
(6)上記実施形態では、先端側シャフト15の横断面における第1管部21と第2管部22との分割比率を先端側シャフト15の軸線方向全域において同じとしたが、軸線方向に沿って各管部21,22の分割比率を変化させてもよい。例えば、図8(a)に示すように、先端側シャフト15の横断面全体に占める第1管部21の比率(以下、第1管部比率という)を先端側シャフト15の基端側から先端側に向かって段階的に大きくしていくことが考えられる。この場合、先端側シャフト15において基端側から先端側に向かって剛性が小さくなるため、先端側シャフト15の耐キンク性の向上を図ることができる。また、図8(b)に示すように、第1管部比率を先端側シャフト15の基端側から先端側に向かって連続的に大きくしてもよい。その場合、先端側シャフト15において基端側から先端側に向かって滑らかに剛性を小さくすることができるため、より一層耐キンク性の向上を図ることができる。また、先端側シャフト15において基端側から先端側に向かって剛性を小さくすることで、先端側シャフト15のバックアップを好適なものとすることもできる。
(7)上記実施形態では、先端側シャフト15を、降伏ひずみの異なる材料からなる2つの管部21,22により構成したが、降伏ひずみの異なる材料からなる3つ以上の管部を用いて構成してもよい。例えば図9に示す先端側シャフト50は、軸線Eに対して直交する方向に並ぶ3つの管部51〜53により構成されており、同シャフト50は、第1管部51、第2管部52及び第3管部53が、曲がり部18において曲がりの内側から外側に向かってこの順序で並んでいる。また、第1管部51は曲がり部18の最内部を含んで構成され、第3管部53は曲がり部18の最外部を含んで構成されている。かかる構成においても、例えば各管部51〜53の材料を各々の降伏ひずみが第1管部51>第2管部52>第3管部53の大小関係となるように設定すれば、先端側シャフト15の剛性低下を抑制しつつ曲がり部18の復元性を高めることができる。
また、図8に示す構成において、各管部51〜53の材料を各々の降伏ひずみが第1管部51、第3管部53>第2管部52の大小関係となるように設定してもよい。この場合、先端側シャフト15の曲がり部18が(曲がり部18の曲がり側とは反対側に)伸ばされた場合のみならず、曲がり部18がその曲がり側にさらに曲げられた場合にも当該曲がり部18に塑性変形が生じるのを抑制できる。そのため、造影用カテーテル10の製造時又は使用時に曲がり部18が曲がり方向におけるいずれの側に変形されたとしても復元力を高めることができる。なおここでは、第1管部51において曲がり部18を構成している部位が第1コーナ領域に相当し、第2管部52において曲がり部18を構成している部位が第3コーナ領域に相当し、第3管部53において曲がり部18を構成している部位が第2コーナ領域に相当する。また、第1管部51の材料と第3管部53の材料とは降伏ひずみが同じであってもよいし異なっていてもよい。
(8)上記実施形態では、第1管部21の材料として、降伏ひずみが曲がり部18の最大引張ひずみAよりも大きい材料を用いたが、これを変更して、最大引張ひずみAよりも小さい材料を用いてもよい。その場合であっても、第1管部21の材料の降伏ひずみを第2管部22の材料の降伏ひずみよりも大きく設定すれば、先端側シャフト15の剛性低下を抑制しつつ曲がり部18の復元力向上を図ることができる。
(9)シャフト本体31を形成するシャフト形成工程は必ずしも上記実施形態の手順で行う必要はない。例えば、第1半割管部32と第2半割管部33とからなるシャフト本体31を押し出し成形により一挙に形成してもよい。この場合、第1半割管部32を形成する材料と、第2半割管部33を形成する材料とを同時に押し出しながらシャフト本体31を成形することとなる。これにより、第1半割管部32と第2半割管部33との溶着作業を不要とできる等の利点が得られる。
(10)シャフト本体31に対して曲がり部18を形成する方法は必ずしも上記実施形態の方法に限定されない。例えば、シャフト本体31の内腔に直線状の芯材を挿通させた状態でシャフト本体31を曲がり部18と同じ曲率の曲面を有する曲げ型を用いて芯材ごと曲げ、その後かかる曲げ状態でシャフト本体31を加熱することにより曲がり部18を形成する方法が考えられる。そして、かかる方法を採用した場合には、曲がり部18の形状付けを行った後、曲がり部18を芯材ごと真っ直ぐに伸ばし、その状態で芯材をシャフト本体31から引き抜くことが考えられる。この場合であっても、芯材を引き抜いた後、曲がり部18を元の曲がり形状に復元させることができる。
(11)第1管部21と第2管部22とをそれぞれ同一種類の樹脂材料により形成してもよい。かかる場合においても、例えば第1管部21の材料と第2管部22の材料とに異なる熱履歴を加えることにより、第1管部21の材料と第2管部22の材料とを互いに降伏ひずみの異なる材料とすることが可能である。一般に、樹脂材料を融点を越える温度まで加熱し溶融状態とした後冷却すると樹脂材料の結晶化が始まる。ここで、樹脂材料の結晶状態は、溶融状態の樹脂材料をその温度が結晶化温度になるまで冷却するのに要した時間(すなわち冷却速度)によって相違する。具体的には、溶融状態の樹脂材料をゆっくり時間をかけて冷却するほど結晶化が進行する。そして、樹脂材料は、結晶化の進行度合い(結晶化度)によってその剛性が相違する性質を有しており、具体的には結晶化が進行した(結晶化度が高い)樹脂材料ほど剛性が高くなる。換言すれば、結晶化が進行した樹脂材料ほど降伏ひずみが小さくなる。
そこで、かかる樹脂材料の結晶化特性に鑑みて、例えば第1管部21の材料と第2管部22の材料とを共に溶融状態とし、その後、それぞれの材料を異なる冷却速度で、詳しくは第2管部22の材料を第1管部21の材料よりも時間をかけてゆっくり冷却することが考えられる。この場合、第1管部21の材料と第2管部22の材料とを同一の樹脂材料(例えばポリアミド)としても、第1管部21の材料の降伏ひずみを第2管部22の材料の降伏ひずみよりも大きくすることができる。
(12)第1管部21の材料(樹脂材料)及び第2管部22の材料(樹脂材料)のうちいずれか一方に造影剤としてタングステン等の金属粉末や、酸化ビスマス、硫酸バリウム等のセラミックス粉末を混ぜ合わせてもよい。樹脂材料に造影剤を粉末として混ぜ合わせると、樹脂材料の弾性率が増大し降伏ひずみの小さい材料を得ることができる。そのため、かかる方法によっても第1管部21の材料と第2管部22の材料とを降伏ひずみの異なる材料とすることが可能である。また、第1管部21の材料と第2管部22の材料とにそれぞれ異なる量の粉末を混ぜ合わせることにより、それら各管部21,22の材料の降伏ひずみを異ならせてもよい。
また、樹脂材料に炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を混ぜ合わせることによっても、樹脂材料の弾性率を増大させることができ、降伏ひずみの小さい材料を得ることができる。したがって、第1管部21の材料と第2管部22の材料とを降伏ひずみの異なる材料とするために、上述した造影剤に代えて、強化繊維を用いてもよい。
(13)上記実施形態では、本発明を造影用カテーテル10に適用した場合について説明したが、本発明をガイディングカテーテル等その他のカテーテルに適用してもよい。図10に示すガイディングカテーテル70では、先端側シャフト71が3層構造をなしている。具体的には、先端側シャフト71は、内層72及び外層73がそれぞれ樹脂材料からなり、中間層74が金属製の線材がメッシュ状に編み込まれてなる編組体からなる。先端側シャフト71の各層72〜74のうち外層73は軸線Eと直交する方向に並ぶ2つの外層用管部75,76が熱溶着により接合されてなる。これら各外層用管部75,76のうち外層用第1管部75は曲がり部18において曲がり内側領域18aの一部を形成し、外層用第2管部76は曲がり外側領域18bの一部を形成している。各外層用管部75,76の材料は互いに降伏ひずみが異なるものとなっており、具体的には外層用第1管部75の材料の降伏ひずみが外層用第2管部76の材料の降伏ひずみよりも大きくなっている。
かかる構成によれば、曲がり部18を直線状に変形させた場合に塑性変形の生じ易い曲がりの最内部が、降伏ひずみの大きい材料からなる外層用第1管部75により構成されているため、曲がり部18の塑性変形を好適に抑制することができ、曲がり部18の復元性向上を図ることができる。このため、上記実施形態の造影用カテーテル10の場合と同様に、ガイディングカテーテル70の使用に際し、同カテーテル70を真っ直ぐに伸ばした状態で血管内に挿入し先端側シャフト71を左冠動脈Hに導入した場合には良好なバックアップ力を得ることができる。したがって、かかる導入状態において、バルーンカテーテル等の各種デバイスをガイディングカテーテル70の内腔を通じて左冠動脈Hに導入する際には、その導入に際し先端側シャフト71に生じる反力により同シャフト71が左冠動脈Hから脱落するのを抑制できる。また、外層73の一部にのみ降伏ひずみの大きい材料(換言すると剛性の低い材料)が用いられているため、かかる材料が外層73全体に用いられている場合と比べ、外層73ひいては先端側シャフト71の剛性低下を抑制できる。そのため、ガイディングカテーテル70を血管内に導入するに際し、先端側シャフト71が屈曲するといった不都合が生じるのを抑制できる。
なお、上述の構成において、さらに内層72についても軸線Eと直交する方向に並ぶ2つの内層用管部により構成してもよい。そして、曲がり部18では各内層用管部のうち一方を曲がり内側領域18aに、他方を曲がり外側領域18bに配置し、一方の内層用管部の材料を他方の内層用管部の材料よりも降伏ひずみの大きい材料とする。
(14)上記実施形態では、円管状(中空状)に形成された先端側シャフト15に対して本発明を適用したが、これを変更して、中実状に形成されたシャフトに対して本発明を適用してもよい。例えば、上述したガイドワイヤに対して本発明を適用することが考えられる。かかるガイドワイヤについても、先端側に曲がり部を有する形状のものがあり、かかる形状を有するガイドワイヤについて本発明を適用することができる。具体的には、図11に示すように、ガイドワイヤ60を軸線Eに対して直交する方向に並ぶ二つのワイヤ部61,62により構成することが考えられる。図11(a)に示すガイドワイヤ60では、各ワイヤ部61,62が軸線E(中立面)を基準として対称形状とされており、各ワイヤ部61,62の横断面がそれぞれ半円形状となっている。また、各ワイヤ部61,62を、軸線Eを基準として非対称形状としてもよく、例えば図11(b)では第2ワイヤ部62の横断面が第1ワイヤ部61の横断面よりも大きくなっており、逆に図11(c)では第1ワイヤ部61の横断面が第2ワイヤ部62の横断面よりも大きくなっている。また、各ワイヤ部61,62の横断面形状は任意としてよく、例えば図11(d)及び(e)では各ワイヤ部61,62の横断面が扇形形状をなしている。
なお、ガイドワイヤ60等の中実状シャフトに曲がり形状を付ける方法としては、例えば所定の曲がり形状を有する管状治具にシャフトを挿入した状態で、同シャフトに所定の熱処理を施すことにより形状付けする方法が考えられる。この場合、曲がり部の形状付けが終了した後、管状治具からシャフトが抜き取られることとなるが、抜き取りに際し曲がり部において塑性変形が生じるのを抑制することができる。
(15)本発明を適用するシャフトはその横断面形状が必ずしも円形状である必要はなく、四角形状や六角形状といった多角形状や台形形状等その他の横断面形状を有するものでもよい。