JP2013077940A - 超音波振動子、超音波探触子及び超音波画像診断装置 - Google Patents

超音波振動子、超音波探触子及び超音波画像診断装置 Download PDF

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Abstract

【課題】所望高周波成分の送波時の出力音圧あるいは受波時の出力電圧が1次モードのそれらよりも大きくなるようにする。
【解決手段】圧電層24は、その層間及び両端の圧電体の表面に電極を有し、該電極によって電気信号の入出力を行う。圧電体は、それぞれ厚み方向に残留分極を有し、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、固定端側から4P+1段目となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する4P+2段目及びその上の4P+3段目の圧電体では基準関係とは反対の関係、さらにその上の4P+4段目の圧電体では基準関係と同一の関係となる周期性を持つように配列される。圧電層24から固定端側に伝播する振動を反射させるための、圧電層24よりも音響インピーダンスの大きいデマッチング層23を、圧電層24の固定端側に設ける。
【選択図】図25

Description

本発明は、超音波振動子、超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する。
一般に、超音波振動子(超音波トランスデューサー)には圧電体が用いられる。これは、圧電体が機械エネルギーを電気エネルギーに変換する、またその逆のいわゆる電気系と機械系との結合作用を持つためである。用いられる圧電体は、一対の電極が設けられたシート状、板状あるいは棒状で、一方の電極が背後層に固定され、もう一方の電極が音響レンズや整合層を介して媒質に接する。
そして、圧電超音波振動子の多くは、d33モードやe33モードにより媒質に音波を放射し、あるいは媒質に伝搬する音波を検出する。d33モードは柱状振動子の縦振動、e33モードは板状振動子の厚み振動と一般に言われている。PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)セラミックスやPVDF(ポリフッ化ビニリデン)などの強誘電体や、P(VDCN/VAc)(シアン化ビニリデン酢酸ビニル共重合体)といった高誘電体、ポーラスポリマーエレクトレット圧電体では、ポーリング処理による電気双極子の配向により残留分極を保持し、d33やe33を示す。一方、残留分極を持たない圧電結晶では、ZnO(酸化亜鉛)、LiNbO(ニオブ酸リチウム単結晶)、KNbO(ニオブ酸カリウム単結晶)といった圧電結晶の場合はC軸、水晶の場合はA軸を、それぞれ電極面に対して垂直に配向すれば、d33やe33(水晶ではd11やe11)を示す。圧電コンポジット材料については、用いられる材料に応じる。
ここで、超音波振動子を構成する圧電体において、最も単純な力学境界条件は、一端が固定端でもう一端が自由端の場合である。なお、理論上は、接する物の音響インピーダンスZ(単位はMRayl.)と境界条件には、Z=0が自由端、Z=∞が固定端の関係があるが、本明細書においてはそこまで厳密ではなく、接着層や電極層を除いて、接する物のインピーダンスZに対し、圧電材料のインピーダンスZが、小さいもしくは同等の場合に固定端、大きい場合に自由端とみなすものとする。また、超音波振動子の送波及び受波には、圧電体の縦振動あるいは厚み振動の共振が用いられ、その共振周波数frは、振動子の構造や媒質への押し当てにもよるが、主に圧電体の物性と寸法とで決まる。したがって、本明細書では圧電体の寸法や性質以外で共振周波数を変化させる要因を除外する。
先ず、圧電体のd33モードやe33モードにおける共振周波数frは、圧電体の音速vと高さ(厚み)hとから、下記式(1)となる。
fr=v/4h・・・(1)
これは一般にλ/4共振と言われる。λは圧電体内の波長を意味する。このほかに両端を自由としたλ/2共振がある。その共振周波数は、λ/4共振の1/2となる。
一方、前記圧電体の音速vは、柱状振動子の縦振動では下記式(2)となり、板状の厚み振動子の厚み振動では下記式(3)となる。ここで、sは弾性コンプライアンス、cは弾性スティフネス、ρは密度である。
v=(1/sρ)1/2・・・(2)
v=(c/ρ)1/2・・・(3)
こうして、振動子の送波周波数及び受波周波数は、主に圧電体の高さ(厚み)h、弾性率s及び密度ρによって決定されることが、上記式(1)〜(3)より理解される。
そして、医療分野に用いられる超音波画像診断装置には、より高分解能な画像を得るため振動子の高周波数化や送受波性能の向上が求められている。圧電体を用いた超音波振動子において、送受波性能を向上するには、振動子と電気処理回路との間の電気インピーダンス整合は、電気信号を高S/N比で伝送するための重要な因子である。また、高周波化では、送受波周波数が圧電体の厚みで決まるので、圧電体をより薄くする必要がある。圧電体の薄膜化は、電気インピーダンスを下げる方向に働くので、電気回路とのインピーダンス整合には有利に働くが、下げ幅はせいぜい厚み比の逆数分に過ぎない。また、圧電体の薄膜化は、膜厚制御や取り扱いなど製造プロセスを困難とする。
そこで、従来技術では、高周波信号を得る目的として、従来のλ/4共振振動子の送受波信号における高調波成分が用いられている。しかしながら、高調波成分は基本波成分に比べて感度が弱く、かつ圧電体や周辺材料のダンピングによって減衰し易いので、高S/N比の信号は得られにくいという問題がある。そこで、高調波を使った超音波の送受波の一例として、図1を参照して、e33厚み伸縮モードについて説明する。この図1及び以下の説明は、非特許文献1に示されたものである。この図1の等価回路を構成する素子の定数は、
=p ・・・(4)
L=1/ωp1 ・・・(5)
=(1/n)(8/π),n=2m−1・・・(6)
である。ここで、Cは各素子のキャパシタンス、Lはインダクタンス、kは厚み伸縮モードの電気機械結合係数、ωp1は共振周波数である。
上記式(6)において、p≒1/nと近似すれば、式(4)は、
/C=k /n・・・(7)
となる。式(7)はn次調波における電気機械結合係数の実効値が1/nに減少することを示す。そして、1次モードの場合、n=1なので、式(7)は、
n=1/C=k ・・・(8)
となる。この式は、この1次モードにおけるkと誘電率との関係式
ε/ε=1+k ・・・(9)
において、ε=C+C,ε=Cとおいた式と一致する。εは束縛条件の誘電率、εは自由条件の誘電率、CとCとは電気容量である。d33モードに対しては、上記式(4)を、
=p(k33 /1−k33 )C・・・(10)
に置き換えれば、同様の結果が得られる。
そして、3次調波を送受波するときの電気機械結合係数の実効値は、式(7)より、n=3のときに与えられ、見かけの結合係数をk’とおけば、k’=k/n=k/3となる。この結果は、3次調波を送受波する際に、見かけ結合係数が1/3に減衰することを意味する。
図2は、1MHzに厚み共振の1次モードを示す圧電体の複素誘電率の周波数特性(計算値)を示すグラフである。ただし、kt=0.3,h/2v=2.485×10−7(s),tanδ=0.04である。
1MHzに見られる実部(参照符号α1で示す)の極大・極小と、虚部(参照符号α2で示す)の極大とは、厚み共振の1次モードによるものである。以後、3MHzに3次調波成分、5MHzに5次調波成分が見られる。一方、図3に示すように、図2に示す3次調波成分について、3MHzを1次モードとする圧電体モデルで当てはめたところ、結合係数と圧電体の厚みとを1/3とした場合に一致した。これらの結果は上記の解釈と一致する。図3は、厚み共振を示す圧電体の複素誘電率の周波数特性(計算値)を示すグラフである。ただし、破線は、上述したとおり、kt=0.3,h/2v=2.485×10−7(s),tanδ=0.04である。一方、実線は、kt=0.1,h/2v=8.300×10−7(s),tanδ=0.04である。
以上のように、従来技術の問題点は、高調波を検出する際に、見掛けの電気機械結合係数が1/nにまで減少してしまうこと及び電気インピーダンスが圧電体の寸法により一義的に決まってしまうことにある。
一方、医療用超音波画像診断装置において、高調波信号を用いた組織ハーモニックイメージング(THI)診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから、標準的な診断モダリティとなりつつある。このハーモニックイメージングのように使用する周波数が高くなると、サイドローブレベルが小さくなり、S/Nが良く、コントラスト分解能が良くなり、またビーム幅が細く方位分解能が良くなり、さらに近距離では音圧が小さく、また音圧の変動が少ないので多重反射が起こらない等の多くの利点を有している。
そこで、特許文献1では、超音波振動子の各圧電素子で受信された信号が整相加算回路で加算された後、基本波帯域のフィルターと高調波帯域のフィルターとに共通に入力され、それらの出力に、被検体の診断領域の深さにそれぞれ応じたゲインで重み付けされた後、合成されることで、深い診断領域での高調波成分の減衰を基本波で補間するようにした超音波画像診断装置が提案されている。すなわち、高調波の受信にあたって、前記電気機械結合係数の低下をフィルターとアンプとを用いて補償している。
同様に、特許文献2では、基本波用の圧電素子に高調波用の圧電素子を積層し、基本波用の圧電素子から送信超音波を放射し、該基本波用の圧電素子で受信した基本波の信号成分に、高調波用の圧電素子で受信された複数の高調波成分をそれぞれ帯域通過フィルターを通過させて所望の成分を抽出した後、個別にゲイン調整して加算することで、診断領域の深度に応じた信号を得るようにした超音波画像診断装置が提案されている。
特開2002−11004号公報 特許第4192598号公報
圧電材料学の基礎 石田拓郎著 オーム社
しかしながら、上述の従来技術では、多数の圧電素子からの信号経路にフィルターやアンプを挿入する必要がある。
本発明の目的は、所望高周波成分の送波時の出力音圧あるいは受波時の出力電圧が1次モードのそれらよりも大きくなるようにすることができる超音波振動子、超音波探触子及び超音波画像診断装置を提供することである。
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、相互に厚みの等しい圧電体をn層(nは3以上の整数)積層してなり、該圧電体の厚み伸縮によって共振を行う積層圧電体を備えた超音波振動子であって、
前記積層圧電体は、その層間及び両端の圧電体の表面に電極を有し、該電極によって電気信号の入出力が可能であって、
前記圧電体は、それぞれ厚み方向に残留分極を有し、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、固定端側から4P+1段目(Pは0及び正の整数)となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する4P+2段目及びその上の4P+3段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の4P+4段目の圧電体では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように配列され、
前記積層圧電体の固定端側に、前記積層圧電体から固定端側に伝播する振動を反射させるための、前記積層圧電体よりも音響インピーダンスの大きいデマッチング層を設けたことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、相互に厚みの等しい圧電体をn層(nは3以上の整数)積層してなり、該圧電体の厚み伸縮によって共振を行う積層圧電体を備えた超音波振動子であって、
前記積層圧電体は、その層間及び両端の圧電体の表面に電極を有し、該電極によって電気信号の入出力が可能であって、
前記圧電体は、それぞれ厚み方向に残留分極を有し、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、固定端側から8P+1段目(Pは0及び正の整数)となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する8P+2段目の圧電体では前記基準関係と同一の関係、その上の8P+3段目、8P+4段目、8P+5段目及び8P+6段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の8P+7段目及び8P+8段目では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように配列され、
前記積層圧電体の固定端側に、前記積層圧電体から固定端側に伝播する振動を反射させるための、前記積層圧電体よりも音響インピーダンスの大きいデマッチング層を設けたことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の超音波振動子において、
前記積層圧電体は、互いに隣り合う圧電体における離反側の電極を連結することで、前記複数の圧電体が相互に電気的に並列接続されていることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の超音波振動子において、
前記積層圧電体は前記圧電体を3×m層(mは1以上の整数)積層してなることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波振動子において、
前記デマッチング層は、タングステンカーバイドを含んで形成されたことを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、超音波探触子において、
請求項1〜5の何れか一項に記載の超音波振動子を備え、前記電極を介して前記積層圧電体に電気信号を入力することによって超音波を出力することを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、超音波探触子において、
請求項1〜5の何れか一項に記載の超音波振動子を備え、前記積層圧電体によって超音波を受信して電気信号に変換し、前記電極を介して前記電気信号を出力することを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の超音波探触子において、
前記電極を介して前記積層圧電体に電気信号を入力することによって超音波を出力することを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項6〜8の何れか一項に記載の超音波探触子において、
前記圧電体の表面に所定間隔毎に列状に前記電極を形成して複数の前記超音波振動子が列状に形成されてなることを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項6〜9の何れか一項に記載の超音波探触子において、
前記電極と電気的に接続され、所定の配線パターンが形成された回路基板を備え、
前記積層圧電体は、前記回路基板に一体的に取り付けられていることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、超音波画像診断装置において、
請求項7又は8に記載の超音波探触子と、
前記超音波探触子にて変換された電気信号を受信信号として受信する受信部と、
前記受信部によって受信した受信信号に基づいて超音波画像データを生成する画像処理部と、
を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、所望高周波成分の送波時の出力音圧あるいは受波時の出力電圧が1次モードのそれらよりも大きくなるようにすることができる。
圧電体の厚み伸縮モードでの等価回路図である。 1MHzに厚み共振の1次モードを示す圧電体の複素誘電率の周波数特性を示すグラフである。 図2に示す圧電体における3次調波成分と、3MHzに厚み共振の1次モードを示す圧電体との複素誘電率の周波数特性を示すグラフである。 3層圧電体振動子におけるλ/4共振状態の模式的な断面図である。 図4で示す3層圧電体振動子における3λ/4共振状態の模式的な断面図である。 n層圧電体振動子の模式的な断面図である。 図6に示したn層圧電体振動子でn次高調波を励振あるいは検出する際の変位と歪みとを模式的に示す図である。 図7に示すn層圧電体振動子で、n次高調波を検出する際の各々の圧電体の残留分極、あるいは結晶のC軸やA軸の向きと、圧電正効果による電気変位との関係を示す図である。 n次調波を検出するための2n層圧電体振動子の構造を模式的に示す図である。 図8で示す本発明の考え方に従う詳細な実施例の一例であり、2層圧電体振動子の構造を模式的に示す断面図である。 図10で示す2層圧電体振動子における高調波送受波時の変位と歪みとを説明するための図である。 図10及び図11に示す2層圧電体振動子で、3次高調波を検出する際の各々の圧電体の残留分極の向きと、圧電正効果による電気変位との関係を示す図である。 図10に示す2層圧電体振動子及びその比較例による超音波の送受波特性について、実験データ及びシミュレーション結果を示すグラフである。 図8及び図5で示す本発明の考え方に従う詳細な実施例の他の例であり、3層圧電体振動子の構造を模式的に示す断面図である。 図14で示す3層圧電体振動子における高調波送受波時の変位と歪みとを説明するための図である。 図14及び図15に示す3層圧電体振動子で、3次高調波を検出する際の各々の圧電体の残留分極の向きと、圧電正効果による電気変位との関係を示す図である。 図16に示す3層圧電体振動子による超音波の送受波特性について、実験データ及びシミュレーション結果を示すグラフである。 図16に示す3層圧電体振動子の比較例による超音波の送受波特性について、実験データ及びシミュレーション結果を示すグラフである。 図8で示す本発明の考え方に従う詳細な実施例のさらに他の例であり、6層圧電体振動子の構造を模式的に示す断面図である。 図19に示す6層圧電体振動子で、3次高調波を検出する際の各々の圧電体の残留分極の向きと、圧電正効果による電気変位との関係を示す図である。 図20に示す6層圧電体振動子による超音波の送受波特性について、シミュレーション結果を示すグラフである。 図19に示す6層圧電体振動子で、3次高調波を検出する際の各々の圧電体の残留分極の向きと、圧電正効果による電気変位との関係の他の例を示す図である。 本実施の形態に係る超音波画像診断装置の外観構成を示す斜視図である。 診断装置本体の機能的構成を示すブロック図である。 超音波振動子の構造を模式的に示す断面図である。 図25に示す圧電層の具体的構造について説明する断面図である。 音響整合層の構成について説明する図である。 本実施の形態に係る超音波振動子と比較例である超音波探触子の構成について説明する図である。 図28に示す各超音波振動子による超音波の送受波特性について、実験データ及びシミュレーション結果を示すグラフである。 超音波振動子の他の構成の例について説明する断面図である。 超音波振動子の他の構成の例について説明する図である。 超音波振動子の他の構成の例について説明する図である。 電気的に直列接続された2層圧電体振動子による超音波の送受波特性について、実験データ及びシミュレーション結果を示すグラフである。 電気的に並列接続された2層圧電体振動子による超音波の送受波特性について、実験データ及びシミュレーション結果を示すグラフである。
先ず、本発明の医療用超音波画像診断装置に用いられる超音波振動子の考え方を説明する。本発明の超音波振動子は、同じ厚みの圧電体をある決まりに従い積層することによって、3次以上の共振モード成分を効率良く送受波することができるという本願発明者の知見に基づき構成される積層圧電体から成るものである。圧電体を積層する手法はこれまで多く報告されているが、本発明は、前記3次以上の共振モード成分を送受波する際に圧電体内に歪み分布があることに着目したものである。
一例として、最も理解し易いと思われる図4に示す3枚の圧電体A1,A2,A3を積層したλ/4振動子について説明する。この、λ/4振動子のλ/4での励振状態では、前記3枚の圧電体A1,A2,A3が同期して伸縮を行い、全体で最大ΔZの伸縮を行うものとする。そして、固定端、すなわち圧電体の音響インピーダンスよりも充分大きい音響インピーダンスを有するデマッチング層に接する1層目の圧電体A1の裏面の座標をzとすると、前記伸縮に伴うその位置の変位は、z=ΔZsin0°=0である。これに対して、1層目の圧電体A1の表面の座標zの変位は、z=ΔZsin30°=0.5ΔZとなり、2層目の圧電体A2の表面の座標zの変位は、z=ΔZsin60°=0.85ΔZとなり、自由端、すなわち前記の0より大きいものの、充分小さい音響インピーダンスを有する空間と接する3層目の圧電体A3の表面の座標zの変位は、z=ΔZsin90°=1.0ΔZとなる。ここで、圧電体A1,A2,A3の表裏は、該圧電体を厚み方向に加圧して、+の電圧が発生する方を表、−の電圧が発生する方を裏とする。
すなわち、図4の3層の圧電体A1,A2,A3の場合、全体の伸縮ΔZの内、固定端側の圧電体A1は、0.5ΔZの伸縮を受け持ち、2層目の圧電体A2は、0.35ΔZの伸縮を受け持ち、3層目の圧電体A3は、0.15ΔZしか伸縮しないことになる。このように積層型圧電体は、基本波のλ/4共振では、各圧電体A1,A2,A3は同期して(同じ方向に)伸縮を行うものの、各圧電体A1,A2,A3が一様に伸縮するのではなく、不均一な歪み分布を有する。
一方、同様の積層圧電体を3λ/4共振させると、図5で示すようになる。すなわち、1層目の圧電体A1の裏面の座標zは、z=ΔZsin0°=0である。1層目の圧電体A1の表面の座標zの変位は、z=ΔZsin90°=ΔZとなる。2層目の圧電体A2の表面の座標zの変位は、z=ΔZsin180°=0となる。3層目の圧電体A3の表面の座標zの変位は、z=ΔZsin270°=−ΔZとなる。したがって、1層目の圧電体A1はΔZの伸びを行っているのに対して2層目及び3層目の圧電体A2,A3は、ΔZの縮みとなっている。
そこで本願発明者は、このような不均一な歪み分布に着目し、各圧電体の残留分極(PZT,PVDFなどの強誘電体)、あるいは結晶(水晶など)のC軸やA軸の向き(d33,e33,d11,e11の符号を決める軸)を、高調波送受信時の歪み分布における電気変位や電場の符号と一致するように、不一致の箇所(「−」の符号に該当する)の圧電体について、その表裏を反転して積層するようにした。図4及び図5の場合には、その左側の矢印で示すように、2層目及び3層目の圧電体A2,A3を、1層目の圧電体Aとは前記残留分極の向きあるいは結晶軸が逆方向となるように積層する。これによって、基本波λの成分が、0.5・ΔZ+0.35・(−ΔZ)+0.15・(−ΔZ)=0となって除去されると同時に、3次高調波3λの成分は、1・ΔZ+(−1)・(−ΔZ)+(−1)・(−ΔZ)=3ΔZとなって抽出することが可能となる。
一方、図6を用いて、n枚(nは4以上の整数)の圧電体を積層したλ/4振動子において、n次高調波を送受波する場合を説明する。モデルを単純化するため、積層膜の一端をデマッチング層に固定し、もう一端を自由端とした。音響整合層や背後(バッキング)層などの影響や、さらに接着層の厚み等による影響は除くものとする。
図7は、図6に示したn層圧電体振動子で、n次調波を励振あるいは検出する際の変位と歪みとを模式的に示す図である。図7(a)は積層状況、図7(b)はある瞬間での各層の変位、図7(c)は歪みの極性である。上述の図4や図5と同様に、デマッチング層とそれに接する圧電体との境界面を原点zとして、素子の高さ(厚み)方向の座標をz,z,z,・・・,zとする。積層圧電体内で、各圧電体層の変位は、デマッチング層と第1段目の圧電体1の境界とを原点z0とした正弦波を形成する。
一般に、厚み方向にn倍波(n≧1)が励振された場合、高さzにおける変位ξ(z)は、
ξ(z,t)=ξsin(nπ/2・z/h)(cosnωt+θ)・・・(11)
となることが知られている(基礎物理学選書8 振動・波動 有山正孝著 裳華房)。ここで、ωは積層圧電体の共振周波数2πf,θは、電圧あるいは音波を受ける際の応力と変位との位相差である。係数ξsin(nπ/2・z/h)は、高さzにおける変位の振幅を意味する。以下、時間項は省略する。
この場合、座標zでの変位ξ(z)は、
ξ(z)=ξsin(nπ/2・z/h)・・・(12)
である。ここで、変位ξ(z)と歪みSとの関係は、
dS=dξ/dz・・・(13)
なので、第m層の圧電体の歪みSは、
=[ξ(z)−ξ(zm−1)]/(z−zm−1)・・・(14)
と表すことができる。ただし、m=1〜n、z=0である。
したがって、圧電体1の歪みSは、
=Δh/h=ξsin(nπ/2・h/h)/h・・・(15)
となる。ここで、Δhは圧電体1の厚み変化で、ξ(z)−ξ(z=0),hは圧電体1の厚みである。圧電体2についても同様に、歪みSは、
=Δh/h
=ξ{sin(nπ/2・(h+h)/h)
−sin(nπ/2・h/h)}/h・・・(16)
となる。第m層の圧電体の歪みSは、
=Δh/h
=ξ{sin(nπ/2・z/h)
−sin(nπ/2・zm−1/h)}/h・・・(17)
となる。
上記式(17)は、第m層にある圧電体の歪みが、sin(np/2・z/h)−sin(np/2・zm−1/h)で決まり、上述のように一様に伸縮しないことを意味する。したがって、その項の符号が正になる圧電体と負になる圧電体とで、圧電体の表裏を反転させれば、圧電正効果による電気変位あるいは電場の符号を一致させることができ、圧電素子のn次調波の電気信号を効率良く得られることが理解される。
さらに、各圧電体の厚みを等しくすれば、
=(m/n)h,zm−1=(m−1/n)h,h=h/m・・・(18)
と単純化できる。これを式(17)に代入すると、
=mξ{sin(mπ/2)−sin[(m−1)π/2]}/h・・・(19)
となる。
次に、電気系について考える。第m層の圧電体が圧電正効果によって生じる電気変位(単位電極面積当りの電荷)Dは、
=e33又はD=d33=d33sT・・・(20)
である。ここで、sは圧電体の弾性コンプライアンスである。各々の圧電体を電気的に並列に結合すれば、積層圧電体が出力する正味の電気変位DTotalは、
Figure 2013077940
となる。したがって、各圧電体の電気容量をCとすれば、積層圧電体の容量はnCとなり、電気インピーダンスは圧電体1層の1/nに減少する。
本願発明者は、上記式(19),(21)から、単純な並列結合の実現と積層圧電体が出力する正味の電気変位が最大となる残留分極あるいは結晶C軸やA軸の配列の規則性を見出した。また、前記積層数nが4以上で、該積層数nと高調波の次数とを一致させれば、圧電体内を伝搬する弾性波の節と腹とを圧電体の境界面と一致させることができ、このとき各圧電体の歪みが絶対値が変わることなく位相が180度反転し、例えば各圧電体が直列の図7の場合、圧電体1の歪みを+とすれば「+,−,−,+」の周期性を4層おきに見出すことができ、n次調波の検出をより効率良く行うことができることを見出した。このことを理論説明すると以下のようになる。
図8に、本発明における、n層圧電体で、n次調波を検出する際の各々の圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きと、圧電正効果による電気変位D(C/m)との関係の一例を示す。各圧電体の層間及び両端の圧電体の表面には電極が設けられており、互いに隣り合う圧電体における離反側の電極を連絡配線によって連結し、各圧電体を並列接続している。また、残留分極(それを持たない圧電体の場合は結晶のC軸(水晶の場合はA軸))は、z軸方向に配向されている。図中では便宜上、圧電体1の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の方向を+Pと表記している。これは他の圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸が圧電体1のそれと同方向か逆方向かを識別するためであり、圧電体1の分極方向を制限するものではない。
上述の図7(c)に示したように、各圧電体の歪みには、周期性がある(図7(c)の場合、上述のように各圧電体は直列)。そのため、残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを平行とした場合、本発明の目的である高電荷出力あるいは高電位出力を達成するためには、各々の電極を電気的に絶縁し、独立して配線しなければならなく、構造上かつ製造上のリスクは極めて高い。
しかしながら本発明によれば、図8に示す並列接続の場合に、4層毎の圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸に、「+P,+P,−P,−P」の周期性を与えた。すなわちデマッチング層に接する第1段目の圧電体の軸を基準として、それに接する第2段目の圧電体では同方向、さらにその上の第3及び第4段目の圧電体では逆方向とし、それ以後4層の圧電体毎に、同方向、同方向、逆方向、逆方向の周期性を持つように配列する。換言すれば、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層に接する第1段目の圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する第2段目及びその上の第3段目の圧電体では基準関係と反対の関係、さらにその上の第4段目の圧電体では基準関係と同一の関係となり、それ以後4層の圧電体毎に、基準関係と同一の関係、基準関係と反対の関係、基準関係と反対の関係、基準関係と同一の関係の周期性を持つように配列する。これによれば、電気インピーダンスを1層の圧電体の1/nに下げられるだけでなく、容易に両端子間の電荷感度をn倍に増幅することができる。
ここで、圧電体の向きは、上述のように4層毎に同一とするものに限らず、4層を一単位として第1段目となる圧電体の向きを任意な方向としてもよい、この場合、上述のように、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、第1段目の圧電体における関係を基準関係として、これに接する第2段目及びその上の第3段目の圧電体では基準関係と反対の関係、さらにその上の第4段目の圧電体では基準関係と同一の関係となるように圧電体を配列すればよい。すなわち、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層から4P+1段目(Pは0及び正の整数)となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する4P+2段目及びその上の4P+3段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の4P+4段目の圧電体では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように圧電体を配列する。
なお、超音波の送信時には、交流成分に直流成分を重畳させた電圧を圧電体に印加する場合もある。このような場合には、電場の符号として、印加する電圧のうちの交流成分のみによる電場の符号のみを考慮すればよい。
上述ではn次調波を検出する場合を例として挙げたが、逆にn次調波を送波する場合についても、図8において端子間に発振器を接続することで、従来よりも効率が向上する。送波の場合、歪みSと印加電場Eとの関係は、
S=dEあるいはS=(e/c)E・・・(22)
である。図8に示す積層圧電体の両端子間に電圧発生器を繋げ、n次調波に相当する周波数の電圧を印加すれば、図8に示す歪み及び図7(b)に示す変位を生じ、超音波を媒質中に励振させることができる。そして、先に述べた電気インピーダンスの関係から、本願発明の構造では、低電圧高電流駆動となる。
一方、図9は、n次調波を検出するための2n層圧電体振動子の構造を模式的に示す図である。図9(a)は積層状況、図9(b)はある瞬間での各層の変位、図9(c)及び図9(d)はそれぞれ歪み及び電気変位の係数である。0.3及び0.7の前記係数は、歪み及び電気変位それぞれの相対比を表しており、絶対値を示すものではない。なお、1/21/2≒0.7と近似した。各圧電体は層間及び両端面に電極が設けられ、互いに隣り合う圧電体における離反側の電極同士を連絡し、並列結合とした。この場合、先に述べたn層圧電体振動子と比べて、圧電正効果による電気変位は同じであるが、電気容量が2倍となり、電気インピーダンスは半減する。残留分極あるいはC軸やA軸の配列はデマッチング層に接する圧電体を基準として、8層毎に、「+P,−P,−P,+P,−P,+P,+P,−P」の繰り返しとなる。
各圧電体の歪みSmnωは、次式(23)で与えられる。
Smnω=2nξ nω{sin[m(π/4)]−sin[(m−1)(π/4)]}/h,m=1,2,…,2n・・・(23)
以下に、上述の考え方に従う詳細な実施例を説明する。先ず第1の実施例として、図10に示す2層圧電体振動子による3λ/4高調波の検出について述べる。2層圧電体振動子は積層圧電体の中でも最もシンプルな構造である。この場合、送受波に用いる高調波の次数と積層枚数とは一致しない。しかしながら、本発明を以下のように適用することにより、送受波の効率を上げることができる。
すなわち、図10の圧電体1及び圧電体2の歪みS,Sは、
=Δh/h=ξsin(nπ/2・h/h)/h・・・(24)
=Δh/h
=ξ{sin(nπ/2)−sin(nπ/2・h/h)}/h・・・(25)
となる。ここでhは積層圧電体の高さ、hとhとは各圧電体の高さで、h=h=h/2である。
3λ/4共振倍波に対する応答は、n=3で与えられる。その場合の歪みS 3ω,S 3ωは、
3ω=2ξ 3ωsin(3π/4)/h
=2(ξ 3ω/21/2)/h・・・(26)
3ω=2ξ 3ω{sin(3π/2)−sin(3π/4)}/h
=−2ξ 3ω(1+1/21/2)/h・・・(27)
となる。添字3ωは、3倍波における変位を示す。ここで、1/21/2≒0.7と近似すると、これらの式は、3倍波では圧電体2の歪みと圧電体1の歪みとでは振幅比が−1.7:+0.7となることを示す。
そのような各圧電体の変位と歪みの符号とを図11に示す。図11(a)は変位であり、図11(b)は歪みである。圧電体1と圧電体2との歪み比は、図11(b)に示すとおりである。各圧電体の歪みの絶対値が一致しないのは、上述のように各圧電体の境界と変位の節と腹とが一致しないためである。
そこで図12に示すように互いに隣り合う圧電体の離反面の電極同士を連絡して並列結合とすれば、積層圧電体の電気インピーダンスは1つの圧電体のインピーダンスの1/2となり、さらに圧電正効果による電気変位D1,−1 3ωは、圧電体1の残留分極の向きあるいは結晶のC軸やA軸の向きと圧電体2のそれらの向きを同方向とすれば、並列接続で一方の極性が反転して足し合わされ、下記式(28)に示されるようになる。
1,−1 3ω=2(1+21/2)eξ 3ω/h・・・(28)
一方、基本波に対する応答は、式(24)及び(25)でn=1の場合に理解できる。すなわち歪みS ωとS ωとは、
ω=2ξ ωsin(π/4)/h=2(ξ ω/21/2)/h・・・(29)
ω=2ξ ω{sin(π/2)−sin(π/4)}/h
=2ξ ω{1−1/21/2}/h・・・(30)
となる。
ここで図12に示すような並列結合を行い、残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを同方向とした場合、電気変位D1,1 ωは、
1,1 ω=2eξ ω(21/2−1)/h・・・(31)
となる。ここで、添え字の1は、各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きに対応し、左から圧電体1、圧電体2の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを示している。
以上の結果から、各圧電体の歪みを考慮し、並列接続の場合、残留分極あるいは結晶のC軸やA軸方向を同方向とすることで、3λ/4波に対しては2.4倍感度を増幅することができ、同時にλ/4波に対しては0.4倍に感度を落とすことができる。したがって、2層圧電体から成る超音波振動子へ本発明を適用すれば、3λ/4共振による信号を高S/N比で送受波することが可能となる。
図13は、P(VDF/TrFE)(ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体)を用いた2層圧電体からなる超音波振動子の送受波感度特性の実験結果ならびにシミュレーション結果である。実線は実験結果、鎖線はシミュレーション結果である。いずれも互いに隣り合う圧電体の離反面、すなわち外側の表面に形成された電極面を連絡し、並列結合としており、しかもλ/4共振周波数は7MHz、3λ/4共振周波数はおよそ20MHzである。図13(a)は本発明に基づき分極方向を同方向とした場合、(b)は参考に逆方向とした場合の結果である。図13(a)に示すように、本発明に基づく分極方向と配線手法とを組み合わせると、20MHzに見られる3λ/4共振ピークが、7MHzにみられるλ/4共振ピークよりも大きく、図13(b)に示す結果と比較すると、3λ/4共振ピークは20dB増加している。このように2層圧電体に対しても本発明の手法に基づき、分極方向と配線手法とを組み合わせることで、3次高調波成分を増加させると同時に、基本波成分を減衰させることができる。
続いて、3層圧電体振動子による3次調波の検出について述べる。図14に模式構造図を示す。この振動子も、積層圧電体の一端をデマッチング層に固定し、もう一端を自由端としたλ/4振動子としている。
先ず、本発明に基づく設計プロセスを述べる。上述と同様にデマッチング層と圧電体1との境界を原点として、素子の高さ(厚み)方向の座標をzとする。次に、各々の圧電体が生じる歪みSについて考える。基盤側から順に圧電体1、圧電体2、圧電体3とする。座標zは、基盤と圧電体1との境界ではz=0、圧電体1と圧電体2との境界ではz、圧電体2と圧電体3との境界ではz、圧電体3の端部をzとする。また、圧電体1の厚みをh、圧電体2の厚みをh、圧電体3の厚みをhとし、積層圧電体の高さをhとする。
すると、座標zにおける変位ξ(z)は、
ξ(z)=ξsin(nπ/2・z/h)・・・(32)
なので、圧電体1の歪みSは、下記式(33)となる。
=Δh/h=ξsin(nπ/2・h/h)/h・・・(33)
同様に、圧電体2及び3については、下記式(34),(35)となる。
=Δh/h
=ξ{sin(nπ/2・(h+h)/h)−sin(nπ/2・h/h)}/h・・・(34)
=Δh/h
=ξ{sin(nπ/2)−sin(nπ/2・(h+h)/h)}/h・・・(35)
そして、3λ/4共振時の各圧電体の歪みは、上記式(33)〜(35)においてn=3で与えられる。各圧電体の厚みが等しく、すなわち上記式でh=h=h=h/3の場合、各圧電体の歪みS 3ω,S 3ω,S 3ωは、
3ω=Δh 3ω/h=3ξ 3ωsin(π/2)/h)
=3ξ 3ω/h・・・(36)
3ω=Δh 3ω/h
=3ξ 3ω{sin(π)−sin(π/2)}/h
=−3ξ 3ω/h・・・(37)
3ω=Δh 3ω/h
=3ξ 3ω{sin(3π/2)−sin(π)}/h
=−3ξ 3ω/h・・・(38)
となる。ここで、添え字3ωは3次調波における応答を意味する。これらの式から3λ/4共振では圧電体2及び圧電体3の歪みと、圧電体1の歪みとが逆位相であることを示す。
各圧電体の変位と歪みの符号とを図15に示す。図15(a)は変位であり、図15(b)は歪みである。本実施例は、3次調波の送受で、圧電体が3枚積層であるので、図15(a)及び上述の図5で示すように、変位の節と腹とは、各圧電体の境界と一致する。このとき各圧電体の歪みは、圧電体1の歪みを+とすると、図15(b)及び上述の図5で示すように、圧電体2及び3の歪みを−として符号化することができる。
以上の力学系の振る舞いに基づき、電気系の最適構造を導く。図16に示すように、互いに隣り合う圧電体の離反側の面の電極同士を連絡し、そこから配線を引き出し結合すれば、容易に各圧電体を電気的に並列結合することができる。このとき、積層圧電体の電気インピーダンスは1枚の圧電体の1/3に減少する。また、圧電体1の残留分極の向きあるいは結晶のC軸やA軸の向きを基準(+P)として、圧電体2の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを同方向(+P)とし、圧電体3で逆方向(−P)とする。すなわち、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層に接する第1段目の圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する第2段目及びその上の第3段目の圧電体では基準関係と反対の関係となるように、圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを設定する。このようにすると、配線に誘起される電荷は、圧電正効果により生じた電荷の総和となる。このとき両端子間に誘起される電気変位D1,1,−1 3ωは下記式(39)となる。
1,1,−1 3ω=eS−e(S+S)=9eξ 3ω/h・・・(39)
ここで、添え字の1及び−1は、各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きに対応し、左から圧電体1、圧電体2そして圧電体3の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを示している。
そして、λ/4共振に対する応答は、n=1で与えられ、各圧電体の歪みS,S,Sは、
=Δh/h=3ξsin(π/6)/h・・・(40)
=Δh/h
=3ξ{sin(π/3)−sin(π/6)}/h・・・(41)
=Δh/h
=3ξ{sin(π/2)−sin(π/3)}/h・・・(42)
すなわち、
=S+S・・・(43)
となる。
一方、図16に示す並列接続で、λ/4共振に対する電気変位D1,1,−1 ωは、
1,1,−1 ω=e(S+S+S)=0・・・(44)
であり、本実施例の3層圧電体から成る振動子では、λ/4共振に基づく感度が打ち消されることを示す。
比較として、単に残留分極あるいは結晶のC軸やA軸を平行とした3層圧電体による3次調波の送受波について述べる。3λ/4共振において積層圧電体が圧電正効果により生じる電気変位D1,1,1 3ωは、
1,1,1 3ω=e(S+S+S)=−3eξ 3ω/h・・・(45)
となる。したがって、本実施例では、上記式(45)に示すとおり、並列接続において端子間の電気変位を、3倍(約10dB)向上できることが理解される。
以下、図16に示した3層圧電体振動子による超音波の送受波特性について、実験データ及びシミュレーション結果を図17に示す。実験ではP(VDF/TrFE)を用いた。超音波振動子の構造模式図を図17の右図に示す。本発明に基づき3層圧電体を電気的に並列結合し、さらに分極の向きを図16に示したものと同じとした。3層圧電体の高さはおよそ120μmで、λ/4共振周波数は4.5MHzである。左図の実線は実験結果、鎖線はシミュレーション結果である。
図17から、20MHz以下では、それぞれ共振周波数に対応する4.5MHz付近にピークを示さず、λ/4共振ピークが消失している。したがって、本実施例の振動子における第1のピークは、それの3λ/4共振である13.5MHzとなっていることが理解される。
比較例として、図18に圧電体2と3の残留分極の向きを図17とは反対にした積層圧電体の特性を示す。左図に示すように、この3層圧電体振動子は、λ/4共振である4.5MHzと、その3次高調波成分である13.5MHzとに共にピークを示し、しかも3次高調波成分の感度は、−50〜−60dB程度であり、図17に示した本実施例の結果に比べて、10〜20dB程度小さいことが理解される。これらの実験結果からも、本発明の手法に基づき分極方向を工夫することで、3次高調波成分を増加させると同時に基本波成分を減衰させることが可能であることが理解される。
以上のように、第2の実施例では、3層圧電体振動子を用いて3次調波を送受波する手法を述べたが、ここでは積層圧電体の高調波の次数と積層枚数とを一致させることにより、(i)圧電体の境界面を圧電体の弾性波の節と腹とに一致させて各圧電体の振動様式を符号化して理解でき、その符号と配線手法とに基づき、(ii)各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを適宜同方向又は逆方向とすることで、各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを単純に同方向にした場合と比べ、3λ/4波の送受波時に感度を3倍(約10dB)以上増加することができるだけでなく、λ/4波を打ち消すフィルターとしての機能も有することができる。また、電気的に並列結合とするので、電気インピーダンスを1/3に減少させることができる。以上のように3λ/4波を選択的にかつ高S/N比で送受波する場合、本発明は極めて有効である。これによって、受波の場合には帯域分離フィルターやアンプを削減することができる。あるいは、削減まで至らなくても、フィルターの場合は次数を削減して損失を抑え、アンプの場合はゲインを小さくすることができる。
第3の実施例は、同じ厚さの圧電体を6層積層した振動子による3次調波の送受である。本実施例は、第2の実施例で示した3層圧電体振動子において各圧電体を2つの圧電体に分割したもので、並列結合とした場合に電気インピーダンスがさらに半分になるだけでなく、上端電極と下端電極とが連絡されるので、積層圧電体全体を電気的にシールドすることができる。
図19は、その6層圧電体振動子の構造を示し、3次調波を送受波する際の変位及び歪みを模式的に示す断面図である。図9と同様に、図19(a)は積層状況、図19(b)はある瞬間での各層の変位、図19(c)は歪みの係数である。
各圧電体の歪みS,S,S,S,S,Sは、
=6ξsin(π/4)/h=6ξ(1/21/2)/h・・・(46)
=6ξ{sin(π/2)−sin(π/4)}/h
=6ξ(1−1/21/2)/h・・・(47)
=6ξ{sin(3π/4)−sin(π/2)}/h
=6ξ(1/21/2−1)/h・・・(48)
=6ξ{sin(π)−sin(3π/4)}/h
=6ξ(−1/21/2)/h・・・(49)
=6ξ{sin(5π/4)−sin(π)}/h
=6ξ(−1/21/2)/h・・・(50)
=6ξ{sin(3π/2)−sin(5π/4)}/h
=6ξ(1/21/2−1)/h・・・(51)
となる。1/21/2≒0.7に近似すると、各圧電体の歪みの比は、図20の模式図に示すとおりとなる。
そして、互いに隣り合う圧電体における離反側の電極を連絡し、電気的並列結合をした場合の残留分極あるいは結晶のC軸又はA軸の好ましい配列を、図20に示す。すなわち、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層に接する第1段目の圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する第2段目では基準関係と同一の関係、その上の第3段目〜第6段目の圧電体では基準関係と反対の関係となるように、圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを設定する。換言すれば、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層に接する8P+1段目(Pは0及び正の整数)となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する8P+2段目の圧電体では前記基準関係と同一の関係、その上の8P+3段目、8P+4段目、8P+5段目及び8P+6段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の8P+7段目及び8P+8段目では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを設定する。このように構成することで、総電荷量は、図16で示す3枚積層時と変わらないけれども、電気インピーダンスはそれの1/2に下げることができる。
図21は、図20に示すように分極配列と配線とを組み合わせた6層圧電体振動子における感度の周波数特性をシミュレーションした結果である。この6層圧電体振動子のλ/4共振周波数は5MHzである。しかしながら、右図にあるように、本発明に基づく分極配列ならびに配線を組み合わせることで、左図に示すようにλ/4共振による感度は減衰し、3λ/4共振による感度が最大となる。
第4の実施例は、同じ厚さの圧電体を6層積層した振動子による3次調波の送受である。本実施例は、第3の実施例で示した6層圧電体振動子と同様であるが、電気的並列結合をした場合の残留分極あるいは結晶のC軸又はA軸の配列を、図22に示すようにしている点で異なっている。すなわち、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層に接する第1段目の圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する第2段目及び第3段目の圧電体では基準関係と反対の関係、その上の第4段目及び第5段目の圧電体では基準関係と同一の関係、その上の第6段目の圧電体では基準関係と反対の関係となるように、圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを設定する。換言すれば、電気的並列結合された積層圧電体において、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層から4P+1から4P+1段目(Pは0及び正の整数)となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する4P+2段目及びその上の4P+3段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の4P+4段目の圧電体では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを設定する。さらに換言すれば、デマッチング層に接する第1段目の圧電体の軸を基準として、それに接する第2段目の圧電体では同方向、さらにその上の第3及び第4段目の圧電体では逆方向とし、それ以後4層の圧電体毎に、同方向、同方向、逆方向、逆方向の周期性を持つように配列する。このように構成することによれば、第3の実施例よりも、λ/4共振による感度がより減衰され、3λ/4共振による感度がより増幅される結果が得られた。
なお、第4の実施例における圧電体の残留分極の向きについては、6層積層振動子に限らず、2層以上積層された振動子であれば何れの積層数であっても適用可能であるが、3層の整数倍(3×m層(mは1以上の整数))が好適である。
上述のように構成される積層圧電体を超音波探触子の超音波振動子に用いて、本発明の実施の形態に係る超音波画像診断装置が構成される。図23に示すように、この超音波画像診断装置1は、超音波探触子2と診断装置本体4とを備えており、これらはケーブル3を介して接続されている。超音波探触子2は、図示しない生体等の被検体に対して超音波(送信超音波)を送信するとともに、その被検体において反射した超音波(反射超音波)を受信する。本実施の形態では、超音波探触子2は、複数の超音波振動子21を1次元アレイ状に配列して構成されている。診断装置本体4は、ケーブル3を介して電気信号の送信信号を送信することによって超音波探触子2に超音波を送信させるとともに、超音波探触子2で受信した超音波から変換された受信信号に基づいて、被検体内の内部状態を断層画像として画像化する。
診断装置本体4は、上部に操作入力部11及び表示部16を備えている。操作入力部11は、各種設定操作等を行うためのスイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボード等を備え、診断開始を指示するコマンドや被検体の個人情報等のデータの入力などが可能である。表示部16は、操作入力部11による操作のための支援画像や、受信信号に基づき作成された超音波画像などが表示される。また、操作入力部11や診断装置本体4の適所には、超音波探触子2を、その不使用時に保持するホルダ7が設けられている。
図24は、診断装置本体4の機能的構成を示すブロック図である。診断装置本体4は、上述した操作入力部11及び表示部16のほか、例えば、送信部12、受信部13、信号処理部14、画像処理部15、制御部17及び電圧制御部18を備えている。
送信部12は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2に送信信号としての送信パルスを生成する回路である。送信部12は、制御部17を介して送信パルスを電圧制御部18に出力する。送信パルスは、電圧制御部18において振幅が増幅されて、超音波探触子2に送信される。超音波探触子2は、受信した送信パルスに応じた送信超音波を出力する。このとき、送信部12は、各超音波振動子21からの送信超音波が所定の焦点位置に収束するように送信ビームを形成させる。なお、上述の送信超音波を時間軸方向に伸張した複数の符号化されたパルスで構成してもよい。
受信部13は、制御部17の制御に従って、超音波探触子2からケーブル3を介して電気信号の受信信号を受信する回路であり、この受信信号を信号処理部14に出力する。
信号処理部14は、受信部13の出力から反射超音波を検出する。なお、3次以上の高調波成分のみを抽出するフィルターを備えてもよい。
画像処理部15は、制御部17の制御に従って、信号処理部14で処理された受信信号に基づいて、被検体の内部状態の画像のデータ(超音波画像データ)を生成する回路である。
表示部16は、制御部17の制御に従って、画像処理部15で生成された超音波画像データに基づいて被検体の超音波画像を表示する装置である。表示部16は、CRT(Cathode-Ray Tube)ディスプレイ、LCD(Liquid Crystal Display)、有機EL(Electronic Luminescence)ディスプレイ及びプラズマディスプレイ等の表示装置や、プリンタ等の印刷装置等で実現される。
制御部17は、マイクロプロセッサー、記憶素子及びその周辺回路等を備えて構成され、これら操作入力部11、送信部12、電圧制御部18、受信部13、信号処理部14、画像処理部15及び表示部16を当該機能に応じてそれぞれ制御することによって超音波画像診断装置1の全体制御を行う回路である。
超音波振動子21は、図25に示すように、例えば、図上正面視下方から、バッキング(背後)層22、デマッチング層23、圧電層24及び音響整合層25を積層して構成されている。なお、必要に応じて、音響整合層25の上方に音響レンズを積層してもよい。
バッキング層22は、圧電層24を支持し、不要な超音波を吸収し得る超音波吸収体である。すなわち、バッキング層22は、圧電層24に対し被検体に超音波を送受信する方向とは反対側に設けられ、被検体の方向の反対側から発生し、バッキング層22に到達した超音波を吸収する。なお、本実施の形態において、バッキング層22を備えない構成としてもよい。
バッキング層22を構成するバッキング材としては、塩化ビニル、ポリビニルブチラール(PVB)、ABS樹脂、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVAL)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PETP)、フッ素樹脂(PTFE)、ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート−ポリエチレングリコール共重合体などの熱可塑性樹脂、天然ゴム、フェライトゴム、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂に酸化タングステンや酸化チタン、フェライト等の粉末を入れてプレス成形した複合材料、さらには複合材料を粉砕したのち、上述した熱可塑性樹脂やエポキシ樹脂等と混合し、硬化させた材料を用いることができる。音響インピーダンスを調整するために、マコールガラス等の無機材料や空隙を有する多孔質材料を用いることもできる。
好ましいバッキング材としては、ゴム系複合材料、及び/又は、エポキシ樹脂複合材からなるものであり、その形状は圧電層24やこれを含む超音波探触子2の形状に応じて、適宜選択することができる。
デマッチング層23は、音響インピーダンスが圧電層24よりも大きい材料により形成されており、圧電層24に対し被検体の方向とは反対側に出力される超音波を反射する。デマッチング層23に適用される材料としては、タングステンやタンタル等、圧電層24とデマッチング層23との音響インピーダンスの差が大きい材料であれば何れのものも適用可能であるが、タングステンカーバイドが好適である。また、タングステンカーバイドと他の材料とを混合してなるものであってもよい。本実施の形態では、デマッチング層23を備えることにより、圧電層24における超音波の送受波に対する感度をさらに向上させることができる。
圧電層24は、図8、図9、図12、図16、図20及び図22を参照して上述した積層圧電体が適用される。
積層圧電体の材料としては、従来から用いられている水晶、圧電セラミックスPZT、PZLTや、圧電単結晶PZN−PT、PMN−PT、LiNbO、LiTaO、KNbO、ZnO、AlNなどの薄膜などの無機圧電材料に加え、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化ビニリデン系共重合体、ポリシアン化ビニリデンやシアン化ビニリデン系共重合体、ナイロン9やナイロン11などの奇数ナイロン、芳香族ナイロン、脂環族ナイロン、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレートなどのポリヒドロキシカルボン酸、セルロース系誘導体、あるいはポリウレアなどの有機圧電材料が挙げられる。さらに無機圧電材料と有機圧電材料、無機圧電材料と有機高分子材料を併用したコンポジット材料も挙げられる。
当該積層圧電体の1層の層厚は、設定する中心周波数(波長λ)にもよるが、加工性を考え、5〜200μmの範囲内にあることが好ましい。そして、各層の圧電体の厚さが相互に等しいことで、各圧電体の製造が容易となるので、超音波振動子21の生産性を向上させることができる。
有機圧電材料から成る圧電層の形成方法には、塗布によって膜を形成する方法や、蒸着(蒸着重合)によって膜を形成する方法が好ましい。前記の塗布方法としては、たとえばスピンコート法、ソルベントキャスト法、メルトキャスト法、メルトプレス法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、バーコート法等が挙げられる。また、蒸着(蒸着重合)方法としては、数百Pa以下程度の真空度で、単一、または複数の蒸発源よりモノマーを蒸発させ、基板上に付着、反応させることで膜を得ることができる。必要に応じて、適宜基板の温度調整が行われる。
上述のようにして作成された有機圧電体膜への電極層の形成は、先ずチタン(Ti)やクロム(Cr)などの下地金属をスパッタ法により0.02〜1.0μmの厚さに形成し、続いて金属元素を主体とする金属材料またはそれらの合金から成る金属材料に、必要に応じて一部絶縁材料を併せて、スパッタ法等の適当な方法で1〜10μmの厚さに形成することで行われる。その後、前記の圧電層(圧電体膜)の分極処理が行われる。前記の金属材料には、金(Au)、白金(Pt)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)などが用いられる。電極形成は、上記のスパッタ法以外に、微粉末の金属粉末と低融点ガラスとを混合した導電ペーストを、スクリーン印刷やディッピング法、溶射法等で、塗布することで行うこともできる。
バッキング層22とデマッチング層23との間にはFPC(Flexible Printed Circuits)27が挟持されており、このFPC27によって電圧制御部18からの送信信号が圧電層24に与えられる。また、圧電層24で生成された受信信号は、FPC27によって受信部13に与えられる。
ここで、図26を参照して圧電層24の一例について説明する。なお、図26に示される例では、図22に示される6層圧電体を適用している。
圧電層24は、圧電体24A〜24Fを積層して構成されている。各圧電体24A〜24Fの厚み方向両面にはそれぞれ電極が設けられている。具体的には、圧電体24A,24C,24Eの下面及び圧電体24B,24D,24Fの上面には、図上正面視左端部から右端部にかけて、右端部から一定長さを除いて電極が設けられている。一方、圧電体24B,24D,24Fの下面及び圧電体24A,24C,24Eの上面には、図上正面視右端部から左端部にかけて、左端部から一定長さを除いて電極が設けられている。
そして、各圧電体24A〜24Fは、上述のようにして積層されているため、互いに隣り合う圧電体間の対向する面の電極が接触される。
また、圧電層24の左右両端近傍には、上端から下端にかけてそれぞれ導電部24G,24Hが設けられている。導電部24Gは、圧電層24の右端部近傍にのみ配せられた電極を導通させる。導電部24Hは、圧電層24の左端部近傍にのみ配せられた電極を導通させる。
本実施の形態におけるデマッチング層23は、導電性の材料にて形成されており、図上正面視右側端部近傍にスリット23aが上端から下端にかけて設けられている。すなわち、デマッチング層23は、スリット23aを挟んで左側部分と右側部分とで絶縁されている。なお、以下の説明において、右側部分をシグナル部分、左側部分をグランド部分ということがある。
FPC27は、絶縁部27aを挟んでシグナル線27Sとグランド線27Gとが形成されている。絶縁部27aは、デマッチング層23のスリット23aに対応する位置に配置されている。このため、FPC27のシグナル線27Sがデマッチング層23のシグナル部分と導通し、FPC27のグランド線27Gがデマッチング層23のグランド部分と導通する。
超音波振動子21は、上述したように構成されているため、圧電体24A〜24Fが相互に電気的に並列接続される構成となっている。
音響整合層25は、圧電層24と被検体との間の音響インピーダンスを整合させ、境界面での反射を抑制するものである。音響整合層25は、圧電層24の、超音波の送受波が行われる方向である被検体側に配置される。音響整合層25は、圧電層24と被検体との概ね中間の音響インピーダンスを有する。
音響整合層25に用いられる材料としては、アルミ、アルミ合金(例えばAL−Mg合金)、マグネシウム合金、マコールガラス、ガラス、溶融石英、コッパーグラファイト、PE(ポリエチレン)やPP(ポリプロピレン)、PC(ポリカーボネート)、ABC樹脂、ABS樹脂、AAS樹脂、AES樹脂、ナイロン(PA6、PA6−6)、PPO(ポリフェニレンオキシド)、PPS(ポリフェニレンスルフィド:ガラス繊維入りも可)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PAI(ポリアミドイミド)、PETP(ポリエチレンテレフタレート)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。好ましくはエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂に、充填剤として、亜鉛華、酸化チタン、シリカやアルミナ、ベンガラ、フェライト、酸化タングステン、酸化イットリビウム、硫酸バリウム、タングステン、モリブデン等を入れて成形したものが適用できる。
音響整合層25は、単層でもよいし複数層から構成されてもよいが、好ましくは2層以上、より好ましくは4層以上である。音響整合層25の層厚は、超音波の波長をλとすると、λ/4となるように定めるのが好ましい。このような音響整合層の厚さとしては、通常、概ね20〜500μmの範囲のものが用いられる。
本実施の形態では、例えば、図27に示されるようにして構成された音響整合層25が用いられる。すなわち、音響整合層25は、厚み方向に重層塗布によって5層形成され、以下に説明するように、各層でそれぞれ材料構成を異ならせて厚み方向に音響インピーダンスの重みづけを行うことにより、音響インピーダンスを整合させている。
音響整合層25の最上層には、厚みを10μmとし、母材としてモメンティブ社製のYE5822を使用し、フィラーとして酸化亜鉛を40wt%含有させて、音速が900m/s、比重が1.45g/cm、音響インピーダンスが1.3MRayl.であるものとした。
第2層目には、厚みを10μmとし、母材としてEVA(エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)を使用し、音速が2000m/s、比重が0.9g/cm、音響インピーダンスが1.8MRayl.であるものとした。
第3層目には、厚みを10μmとし、母材としてセメダイン社製のEP007を使用し、音速が2300m/s、比重が1.1g/cm、音響インピーダンスが2.5MRayl.であるものとした。
第4層目には、厚みを10μmとし、母材としてテスク社製のC−1001A/Bを使用し、音速が2500m/s、比重が1.2g/cm、音響インピーダンスが3.0MRayl.であるものとした。
最下層には、厚みを10μmとし、母材としてテスク社製のC−1001A/Bを使用し、フィラーとして三酸化タングステンを15wt%含有させて、音速が2300m/s、比重が1.5g/cm、音響インピーダンスが3.5MRayl.であるものとした。
なお、音響整合層25における音響インピーダンスの重みづけ方向については、厚み方向に限らず、水平方向であってもよい。
本実施の形態では、上述した圧電層24が適用された超音波振動子21を構成しているので、送受信における超音波の波長をλとするとき、圧電層24は3λ/4共振を行い、波長λの3次調波成分を高利得で抽出し、基本波を低減することができる。これによって、受信部13におけるフィルターやアンプを不要にすることができ、あるいはそれらのフィルターやアンプを用いる場合にも、フィルターの次数を低くしたり、アンプのゲインを小さくしたりすることができる。
なお、本実施の形態において、無機圧電材料によって形成された無機圧電層をさらに積層し、この無機圧電層にて超音波の送波を行わせるようにしてもよい。このとき、超音波の受信用に上述した有機圧電材料によって形成された圧電層24を適用してもよい。
以下に、上述した3λ/4共振を行う圧電層24を備えた超音波探触子2の具体的な作成方法及び材料について詳述する。なお、以下の説明では、図22を示して上述した圧電層24の作製方法を含む。
先ず、固定板、バッキング層及びパターニングされたFPCを下層から順に積層し、3M社製のエポキシ系接着剤DP−460で、30kgf/cmの圧力下、50℃にて、4時間の積層接着を行った。
次に、組成比をVDF:TrFE=3:1としたP(VDF−TrFE)を、溶媒にMEK(メチルエチルケトン)を用いたキャスト法によって20μmの膜を作製した。このとき、作製した膜に対し、接着性を向上させるために、プラズマ処理や湿式処理などを行うようにしてもよい。湿式処理には、例えば、テトラエッチ(登録商標)を用いることができる。上述したようにして作製した膜に対し、135℃にて、1時間のアニール処理を行った後、酸素プラズマ処理を施し、0.1μmの下地Cr、次いで、0.2μmのAuとした電極パターニングを行った。次に、電極パターンニングが行われた膜に対して分極処理を行うことによって、電気機械結合係数(kt)が0.25である圧電体を作製した。
続いて、上述のようにして作製された圧電体を6層積層した。このとき、図28(a)に示すように、6つの圧電体のうち、第2層から最上層までの分極方向が、最下層の圧電体の分極方向と同方向、逆方向、逆方向、同方向、同方向となるように、6つの圧電体を積層し、3M社製のエポキシ系接着剤DP−460にて接着した。
その後、積層した圧電体の幅方向両端近傍に、穴径0.15mmのスルーホールを、幅方向とは垂直の方向(方位方向)に0.2mm間隔で開設した。そして、開設されたスルーホールに対してメッキ処理を行い、上述した導通部を形成した。
次に、上述したようにして形成された積層圧電体を、デマッチング層としての厚さ50μmの板状に形成されたタングステンカーバイド上に接着した後、これを42.5mm×5.6mmのサイズに切り出した。そして、タングステンカーバイドに対し、シグナル部分(右側部分)とグランド部分(左側部分)とで絶縁させるため、スリットを設けた。
そして、図27を参照して上述したようにして積層圧電体の上面に音響整合層を形成した後、上述したようにしてFPCが接着されたバッキング層と、音響整合層が上面に形成された積層圧電体とを積層接着し、方位方向に0.2mm間隔でダイシングを行って素子化することにより、複数の超音波振動子21を形成した。なお、素子化については、ダイシングに限らず、例えば、レーザー加工により実現してもよい。
以上のようにして形成された超音波振動子を適用して超音波探触子を作成し、これを実施例5とした。
続いて、上述したようにして作成した実施例5の超音波探触子から、図28(b)に示されるように、デマッチング層を除いたものを作成し、これを比較例1とした。
さらに、比較例1の超音波探触子の圧電層における各圧電体の分極の向きを、図28(c)に示すように、6つの圧電体のうち、第2層から最上層までの分極方向が、最下層の圧電体の分極方向と逆方向、同方向、逆方向、同方向、逆方向となるように、6つの圧電体を積層したものを作成し、これを比較例2とした。
上述したようにして作成した実施例5、比較例1及び比較例2の超音波探触子について、それぞれ、パルサーレシーバー(PANAMETRICS−NDT MODEL 5900PR、オリンパス社製、入力インピーダンス5000Ω)とオシロスコオープ(TPS5032、Tektronix社製)を接続し、脱気した水の中に入れ、超音波放射面側に金属製の反射板を配置した。受信した超音波は、電気信号に変換され、オシロスコープでその電圧波形を確認した。超音波探触子と反射板とのアライメントは、電圧波形の実効値が最大となる座標で決定した。アライメントの後、超音波の送受信を行い、送受信感度を測定した。その結果を図29に示す。
図29に示すように、実施例5の超音波探触子では、比較例1の超音波探触子と比べ、ピーク時の感度が6dB向上し、また、比較例2の超音波探触子と比べ、ピーク時の感度が25dB向上していることがわかった。また、実施例5の超音波探触子では、λ/4共振周波数である6MHz付近ではピークを示さず、λ/4共振ピークが抑圧されており、3λ/4共振周波数である18MHz付近において、比較例1及び比較例2の超音波探触子と比べて感度が大幅に向上していることがわかった。
以上説明したように、本発明の実施の形態によれば、圧電層24は、その層間及び両端の圧電体24A〜24Fの表面に電極を有し、該電極によって電気信号の入出力を行う。圧電体24A〜24Fは、それぞれ厚み方向に残留分極を有し、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、固定端側から4P+1段目となる圧電体24A,24Eにおける関係を基準関係としたとき、これに接する4P+2段目及びその上の4P+3段目の圧電体24B,24C,24Fでは基準関係とは反対の関係、さらにその上の4P+4段目の圧電体24Dでは基準関係と同一の関係となる周期性を持つように配列される。圧電層24から固定端側に伝播する振動を反射させるための、圧電層24よりも音響インピーダンスの大きいデマッチング層23を、圧電層24の固定端側に設ける。その結果、所望高周波成分の送波時の出力音圧あるいは受波時の出力電圧を1次モードのそれらよりも大きくすることができ、高感度な検出が可能となる。また、デマッチング層により、より一層の高感度な検出が可能となる。
また、本実施の形態によれば、圧電層24は、その層間及び両端の圧電体の表面に電極を有し、該電極によって電気信号の入出力を行う。圧電体は、それぞれ厚み方向に残留分極を有し、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、固定端側から8P+1段目となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する8P+2段目の圧電体では基準関係と同一の関係、その上の8P+3段目、8P+4段目、8P+5段目及び8P+6段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の8P+7段目及び8P+8段目では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように配列される。圧電層24から固定端側に伝播する振動を反射させるための、圧電層24よりも音響インピーダンスの大きいデマッチング層23を、圧電層24の固定端側に設ける。その結果、所望高周波成分の送波時の出力音圧あるいは受波時の出力電圧を1次モードのそれらよりも大きくすることができ、高感度な検出が可能となる。また、デマッチング層により、より一層の高感度な検出が可能となる。
また、本発明の実施の形態によれば、圧電層24は、互いに隣り合う圧電体24A〜24Fにおける離反側の電極を連結して、複数の圧電体24A〜24Fを相互に電気的に並列接続したので、圧電層のキャパシタンスを大きくして電気インピーダンスを低下させることができ、後段に電気回路を接続した場合のインピーダンス整合が良化する。
また、本発明の実施の形態によれば、圧電体を3×m層(mは1以上の整数)積層して圧電層24を形成している。その結果、圧電体の弾性波の節及び腹が積層された圧電体の境界面に一致し、各圧電体の振動様式を符号化して理解することができる。これにより、各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを適宜設定することで、高周波成分における感度が増加するとともに、基本波成分を抑圧することができる。
また、本発明の実施の形態によれば、タングステンカーバイドを含んでデマッチング層を形成したので、反射効率を高めることができ、圧電層の感度をより一層高めることができる。
なお、本発明の実施の形態における記述は、本発明に係る超音波振動子、超音波探触子及び超音波画像診断装置の一例であり、これに限定されるものではない。超音波振動子、超音波探触子及び超音波診断装置を構成する各機能部の細部構成及び細部動作に関しても適宜変更可能である。
また、本実施の形態では、バッキング層22とデマッチング層23との間にFPC27を設けて、圧電層24への電気信号の入出力を行うようにしたが、例えば、図30に示すように、FPC27に代えて、基板26を備え、この基板26から圧電層24への電気信号の入出力を行うようにしてもよい。より具体的には、図30に示すように、バッキング層22の左右両側端部近傍には、上端から下端にかけてそれぞれ導電部22a,22bが設けられている。また、バッキング層22の下面には配線パターンが形成された基板26が所定の接着剤により貼着されている。基板26には、配線パターンに形成されたシグナル線に接続される端子26aと、グランド線に接続される端子26bとを有している。基板26は、例えば、Si(シリコーン)基板やガラス・エポキシ基板等が適用可能である。そして、バッキング層22の導電部22aは、一端がデマッチング層のシグナル部分に接触されるとともに、他端が基板26の端子26aに接触される。また、導電部22bは、一端がデマッチング層のグランド部分に接触されるとともに、他端が基板26の端子26bに接触される。
すなわち、本実施の形態によれば、基板26は、電極と電気的に接続され、所定の配線パターンが形成されている。圧電層24は、基板26と一体的に取り付けられている。その結果、配線容量の増大を抑制して電荷のロスを抑制することができるので、感度の向上を図ることができる。
また、本実施の形態では、各圧電体を電気的に並列結合させたものに限らず、直列結合させたものであってもよい。例えば、図31に示すように、圧電層の層間及び両端の圧電体の表面に電極を備え、圧電層の両端の圧電体表面の電極に端子を接続して圧電体を相互に直列接続する。そして、図31に示すように、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と関係する残留分極の向きあるいは結晶軸を、デマッチング層が設けられた固定端側の第1段目の圧電体の軸を基準として、それに接する第2段目の圧電体及びさらにその上の第3段目の圧電体では逆方向、さらにその上の圧電体では同方向となる周期性を持つように配列する。すなわち、電気的直列結合された積層圧電体において、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、デマッチング層が設けられた固定端側から4P+1段目となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する4P+2段目及び4P+3段目の圧電体では基準関係と反対の関係、その上の4P+4段目の圧電体では基準関係と同一の関係となる周期性を持つように圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きを設定する。圧電層をこのように構成しても、λ/4共振による感度が減衰され、3λ/4共振による感度を増幅させることができる。
また、本実施の形態では、複数の圧電体を積層した後、ダイシング等により素子化を行うようにしたが、例えば、図32に示すように、所定間隔で列状に電極Eが形成されるように圧電体Pに電極のパターニング及び分極処理を行い、これを所定の向きで複数積層し、ダイシング等による圧電体の切断を行わずに超音波探触子を作製するようにしてもよい。
すなわち、本実施の形態によれば、圧電体Pの表面に所定間隔毎に列状に電極Eを形成して複数の超音波振動子が列状に形成される。その結果、切断による素子化を不要とすることができ、圧電体の切断時に生じる熱や振動による滅極を防止することができる。
また、本実施の形態では、圧電体24A〜24Fが6層積層された圧電層24の固定端側にデマッチング層を設けた例について説明したが、圧電体が2層積層された圧電層の固定端側にデマッチング層を設けた態様としても、以下に説明するように、高い感度が得られることが理解できる。
図33(a)の左図に示すように、圧電体を2層積層し、電気的に直列結合させてなる圧電層の各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きについて、互いに逆方向となるように設定し、超音波の送受波を実施すると、図33(a)の右図に示すような結果が得られた。また、比較例として、図33(b)の左図に示すように、圧電層の各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きについて、互いに同方向となるように設定し、超音波の送受波を実施した。その結果を、図33(b)の右図に示す。ここで、これらの圧電層のλ/4共振周波数は6.5MHzである。また、図33中、実線は実験結果を示し、鎖線はシミュレーション結果を示している。
図33(a)に示すように、電気的に直列結合させてなる圧電層の各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きについて、互いに逆方向となるように設定した場合には、共振周波数に対応する6.5MHz付近にピークを示さず、λ/4共振ピークが消失している。そして、図33(b)に示された結果と比較すると、3λ/4共振である19.5MHz付近において、感度が約10dB以上向上していることがわかった。
また、図34(a)の左図に示すように、圧電体を2層積層し、電気的に並列結合させてなる圧電層の各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きについて、互いに同方向となるように設定し、超音波の送受波を実施すると、図34(a)の右図に示すような結果が得られた。また、比較例として、図34(b)の左図に示すように、圧電層の各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きについて、互いに逆方向となるように設定し、超音波の送受波を実施した。その結果を、図34(b)の右図に示す。ここで、これらの圧電層のλ/4共振周波数は6.5MHzである。また、図33中、実線は実験結果を示し、鎖線はシミュレーション結果を示している。
図34(a)に示すように、電気的に並列結合させてなる圧電層の各圧電体の残留分極あるいは結晶のC軸やA軸の向きについて、互いに同方向となるように設定した場合には、共振周波数に対応する6.5MHz付近にピークを示さず、λ/4共振ピークが消失している。そして、図34(b)に示された結果と比較すると、3λ/4共振である19.5MHz付近において、感度が約20dB以上向上していることがわかった。
また、本実施の形態では、3λ/4共振周波数における感度を向上させる例について説明したが、これに限らず、5λ/4等、共振周波数がλ/4の奇数倍(3倍以上)のときに感度が向上するように構成することもできる。
また、本実施の形態における圧電層の構造は、いわゆるモノリシック構造の他、コンポジット構造であってもよく、さらには、水平方向に重みづけを行うために、厚みを異ならせるハナフィー構造であってもよい。
1 超音波画像診断装置
2 超音波探触子
13 受信部
15 画像処理部
21 超音波振動子
23 デマッチング層
24 圧電層(積層圧電体)
24A〜24F 圧電体
22 基板(回路基板)

Claims (11)

  1. 相互に厚みの等しい圧電体をn層(nは3以上の整数)積層してなり、該圧電体の厚み伸縮によって共振を行う積層圧電体を備えた超音波振動子であって、
    前記積層圧電体は、その層間及び両端の圧電体の表面に電極を有し、該電極によって電気信号の入出力が可能であって、
    前記圧電体は、それぞれ厚み方向に残留分極を有し、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、固定端側から4P+1段目(Pは0及び正の整数)となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する4P+2段目及びその上の4P+3段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の4P+4段目の圧電体では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように配列され、
    前記積層圧電体の固定端側に、前記積層圧電体から固定端側に伝播する振動を反射させるための、前記積層圧電体よりも音響インピーダンスの大きいデマッチング層を設けたことを特徴とする超音波振動子。
  2. 相互に厚みの等しい圧電体をn層(nは3以上の整数)積層してなり、該圧電体の厚み伸縮によって共振を行う積層圧電体を備えた超音波振動子であって、
    前記積層圧電体は、その層間及び両端の圧電体の表面に電極を有し、該電極によって電気信号の入出力が可能であって、
    前記圧電体は、それぞれ厚み方向に残留分極を有し、圧電正効果による電気変位又は電場の符号と残留分極の向きあるいは結晶軸との関係について、固定端側から8P+1段目(Pは0及び正の整数)となる圧電体における関係を基準関係としたとき、これに接する8P+2段目の圧電体では前記基準関係と同一の関係、その上の8P+3段目、8P+4段目、8P+5段目及び8P+6段目の圧電体では前記基準関係とは反対の関係、さらにその上の8P+7段目及び8P+8段目では前記基準関係と同一の関係となる周期性を持つように配列され、
    前記積層圧電体の固定端側に、前記積層圧電体から固定端側に伝播する振動を反射させるための、前記積層圧電体よりも音響インピーダンスの大きいデマッチング層を設けたことを特徴とする超音波振動子。
  3. 前記積層圧電体は、互いに隣り合う圧電体における離反側の電極を連結することで、前記複数の圧電体が相互に電気的に並列接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波振動子。
  4. 前記積層圧電体は前記圧電体を3×m層(mは1以上の整数)積層してなることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の超音波振動子。
  5. 前記デマッチング層は、タングステンカーバイドを含んで形成されたことを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の超音波振動子。
  6. 請求項1〜5の何れか一項に記載の超音波振動子を備え、前記電極を介して前記積層圧電体に電気信号を入力することによって超音波を出力することを特徴とする超音波探触子。
  7. 請求項1〜5の何れか一項に記載の超音波振動子を備え、前記積層圧電体によって超音波を受信して電気信号に変換し、前記電極を介して前記電気信号を出力することを特徴とする超音波探触子。
  8. 前記電極を介して前記積層圧電体に電気信号を入力することによって超音波を出力することを特徴とする請求項7に記載の超音波探触子。
  9. 前記圧電体の表面に所定間隔毎に列状に前記電極を形成して複数の前記超音波振動子が列状に形成されてなることを特徴とする請求項6〜8の何れか一項に記載の超音波探触子。
  10. 前記電極と電気的に接続され、所定の配線パターンが形成された回路基板を備え、
    前記積層圧電体は、前記回路基板に一体的に取り付けられていることを特徴とする請求項6〜9の何れか一項に記載の超音波探触子。
  11. 請求項7又は8に記載の超音波探触子と、
    前記超音波探触子にて変換された電気信号を受信信号として受信する受信部と、
    前記受信部によって受信した受信信号に基づいて超音波画像データを生成する画像処理部と、
    を備えたことを特徴とする超音波画像診断装置。
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