以下に、本発明に係るスクロール圧縮機の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機(以下単に「圧縮機」と称する)100の縦断面図である。また図2は、図1に示されるガス漏れ防止機構80の縦断面図であり、図1に示されるガス漏れ防止機構80を拡大した図である。
圧縮機100は、主たる構成として、内部が高圧空間10aとなる密閉容器10と、密閉容器10に貫設され上流の冷媒回路(図示せず)からの冷媒ガスを吸入する吸入管13と固定スクロール1および揺動スクロール2から成り吸入管13を通じて導入された冷媒ガスを圧縮して密閉容器10内に吐出する圧縮機構14と、密閉容器10内の冷媒ガスを下流の冷媒回路(図示せず)へ放出するための吐出管12と、この下流の冷媒回路から逆流する冷媒ガスを阻止する吐出逆止弁20と、吐出逆止弁20を密閉容器10内方向に付勢するバネ22と、下流の冷媒回路から逆流する冷媒ガスを吐出逆止弁20の背面へ導く冷媒導入路4eが設けられた弁止まり面4gとを有して構成されている。
図1の上側に示される固定スクロール1の外周部は、ガイドフレーム4にボルト(図示せず)によって締結されており、固定スクロール1の台板部1aの一方の面(図1において下面)には板状渦巻歯1bが形成されていると共に、固定スクロール1の外周部には、2個1対のオルダム案内溝1cがほぼ一直線上に形成されている。このオルダム案内溝1cには、オルダム機構9の2個1対の固定側キー9aが往復摺動自在に係合されている。
揺動スクロール2の台板部2aの一方の面(図1において上面)には、固定スクロール1の板状渦巻歯1bと同一形状の板状渦巻歯2bが形成されている。固定スクロール1の板状渦巻歯1bと揺動スクロール2の板状渦巻歯2bとが互いに噛み合うように組み合わされることによって、組み合わされた板状渦巻歯1bと板状渦巻歯2bとによって隔てられた空間には、冷媒ガスを圧縮する複数の圧縮室1fが形成されている。
また、台板部2aにおいて、板状渦巻歯2bが形成された面とは反対側の面(図1において下面)の中心部には、中空円筒状のボス部2dが形成され、そのボス部2dの内側面には、揺動軸受2eが形成されている。また、ボス部2dと同じ側の面の外周部には、コンプライアントフレーム3のスラスト軸受3aと圧接摺動可能なスラスト面2fが形成されている。また、揺動スクロール2の台板部2aの外周部には、固定スクロール1のオルダム案内溝1cとほぼ90度の位相差を持つ2個1対のオルダム案内溝2cがほぼ一直線上に形成されており、このオルダム案内溝2cには、オルダム機構9の2個1対の揺動側キー9bが往復摺動自在に係合されている。さらに、揺動スクロール2の台板部2aには、揺動スクロール2側の面(図1において上面)とコンプライアントフレーム3側の面(図1において下面)とが連通する細い穴の抽気孔2gが形成されている。そして、この抽気孔2gのコンプライアントフレーム3側の面の開口部、すなわち下開口部2hは、通常運転時にはその円軌跡がコンプライアントフレーム3のスラスト軸受3aの内部に常時収まるように配置されている。
コンプライアントフレーム3のスラスト軸受3aの外側には、オルダム機構環状部9cが往復摺動運動する面である往復摺動面3bが形成されている。コンプライアントフレーム3の中心部には、電動機5によって回転駆動される主軸6を半径方向に支持する主軸受3cおよび補助主軸受3dが形成されている。またコンプライアントフレーム3には、揺動スクロール2の下開口部2hと対峙する位置にスラスト軸受3aからフレーム下部空間4bに連通する連通穴3eが形成されている。さらに、コンプライアントフレーム3のオルダム機構環状部9cの往復摺動面3bには、台板外周部空間2kとフレーム上部空間4aを連通する連通穴3fが、オルダム機構環状部9cの内側に連通するように形成されている。また、コンプライアントフレーム3には、ボス部外径空間2nの圧力を調整する中間圧調整弁3gと、中間圧調整弁押さえ3hと、中間圧調整スプリング3kを収納するための中間圧調整弁空間3nが設けられている。そして、中間圧調整スプリング3kは自然長より縮められて収納されている。
図1に示すように、ガイドフレーム4の内側面の固定スクロール1側(図1において上側)には、上嵌合円筒面4cが形成されており、この上嵌合円筒面4cは、コンプライアントフレーム3の外周面に形成された上嵌合面3pと係合されている。一方、ガイドフレーム4の内側面の電動機5側(図1において下側)には、下嵌合円筒面4dが形成されており、この下嵌合円筒面4dは、コンプライアントフレーム3の外周面に形成された下嵌合円筒面3sと係合されている。
ガイドフレーム4の内側面とコンプライアントフレーム3の外側面との間に形成されるフレーム下部空間4bは、その上下が上部リング状シール材7aおよび下部リング状シール材7bで仕切られている。図1の例では、上部リング状シール材7aおよび下部リング状シール材7bを収納するリング状のシール溝がコンプライアントフレーム3の外周面に2ヶ所形成されているが、シール溝の位置は、これに限定されるものではなく、例えば、ガイドフレーム4の内周面に2ヶ所形成するようにしてもよい。また、上下を揺動スクロール2の台板部2aとコンプライアントフレーム3とで囲われたスラスト軸受3aの外周側の空間(すなわち台板外周部空間2k)は、吸入ガス雰囲気(吸入圧)の低圧空間となっている。
さらに、ガイドフレーム4には、図2に示すように吐出連通路4hが設けられ、この吐出連通路4hには、密閉容器10を貫通して圧入された吐出管12が設けられている。そして、その吐出連通路4hへ連通するように、冷媒導入路4eと弁通路4fとが設けられている。また、弁通路4fには、弁通路4fの内側に摺動するように吐出逆止弁20が設けられ、弁通路4fの入口(すなわち吐出逆止弁20の下面側)には、吐出逆止弁押さえ21が設けられている。
吐出逆止弁20は、バネ22により閉鎖方向(図2において下側)に付勢されており、吐出逆止弁押さえ21の端面で止まる。吐出逆止弁20と吐出逆止弁押さえ21との間がシールされることによって、冷媒ガスの逆流(弁通路4fから高圧空間10a側へ冷媒ガスが流れること)を防ぐ構造となっている。
また、その弁止まり面4gには、圧縮機100の運転停止直後に、吐出管12の下流側の冷媒回路(吐出管12の左端側に接続される図示しない冷媒回路)から吐出管12を通じて密閉容器10の内部に逆流する冷媒ガスを吐出逆止弁20の背面側端面(図2において吐出逆止弁20の上側面)へ導くための冷媒導入路4eが設けられている。より具体的に説明すると、冷媒導入路4eは、吐出管12の一端12aと弁通路4fとの間に設けられた空間(吐出連通路4h)から、固定スクロール1とガイドフレーム4とが当接する箇所まで貫設された空間である。
この冷媒導入路4eの作用を具体的に説明する。例えば、高圧空間10a内の圧縮ガスが、ガイドフレーム4の外側面に設けられた吐出逆止弁20に作用することにより、吐出逆止弁20は、バネ22の付勢力に打ち勝って弁止まり面4gに突き当たる。その結果、高圧空間10a内の圧縮ガスは、吐出管12を通じて下流側の冷媒回路へ流入する。
ここで、冷媒導入路4eが設けられていない場合について説明する。上述したように、高圧空間10a内の圧縮ガスが吐出逆止弁20に作用しているとき、吐出逆止弁20が弁止まり面4gに突き当たった状態となっている。そのため、吐出管12の下流側の冷媒回路から逆流してきた冷媒ガスが、弁吐出逆止弁20の正面側端面(図2において吐出逆止弁20の下側面)に導かれることとなる。このとき、吐出逆止弁20にはバネ22の付勢力が作用するものの、吐出管12の下流側の冷媒回路から逆流してきた冷媒ガスが弁吐出逆止弁20の正面側端面に通流しているため、この冷媒ガスが吐出逆止弁20の移動に対して抵抗として作用し、吐出逆止弁20の閉じ遅れが生じることとなる。従って、吐出逆止弁20の閉じ遅れによって、冷媒ガスの逆流に伴う逆転音が発生する。
このような吐出逆止弁20の閉じ遅れを抑制するために、実施の形態1に係る圧縮機100は、下流の冷媒回路から逆流する冷媒ガスを吐出逆止弁20の背面へ導く冷媒導入路4eを設けるようにしたので、逆流してきた冷媒ガスが冷媒導入路4eに導かれることによって、弁吐出逆止弁20の正面側端面へ通流する冷媒ガスが減少するため、吐出逆止弁20の移動に対する抵抗が軽減され、吐出逆止弁20が閉じ遅れることなく下側にスムーズに移動し吐出逆止弁押さえ21の端面で止まり、吐出逆止弁20と吐出逆止弁押さえ21との間がシールされる。従って、冷媒ガスの逆流に伴う逆転音の発生が抑制される。
次に、ガス漏れ防止機構80(下流側の冷媒回路からの冷媒ガスが吐出逆止弁20以外の経路を通じて密閉容器10内に流入(ガス漏れ)することを防止する機構)に関して説明する。密閉容器10には、一端60aが密閉容器10内に挿入され他端60bが密閉容器10の外側に突出しているジョイントパイプ60が貫設されている。上述した吐出管12は、このジョイントパイプ60の内周部に挿入され、その一端12aがガイドフレーム4に設けられた吐出連通路4hに密嵌されている。また、ジョイントパイプ60の他端60bと吐出管12の外周面とは、例えば溶接で接合されている。このように接合することによって、吐出管12の下流側と密閉容器10内の空間(高圧空間10a)とが仕切られる。そのため、吐出管12の下流側の冷媒回路から密閉容器10に逆流する冷媒ガスが、吐出逆止弁20を介さずに、例えば密閉容器10とガイドフレーム4との間を通じて密閉容器10内に流入することを防止することができる。なお、上記説明では、ジョイントパイプ60の他端60bと吐出管12の外周面とを溶接で接合しているが、溶接に限定されるものではなく、ジョイントパイプ60の他端60bと吐出管12の外周面とは、溶接以外の手法で接合するようにしても同様の効果を得ることができる。
主軸6の揺動スクロール2側(図1において上側)端部には、揺動スクロール2の揺動軸受2eと回転自在に係合する揺動軸部6aが形成されており、揺動軸部6aの下側には、コンプライアントフレーム3の主軸受3cおよび補助主軸受3dと回転自在に係合する主軸部6bが形成されている。また、主軸6の他端部には、サブフレーム8の副軸受8aと回転自在に係合する副軸部6cが形成され、密閉容器10の底部には、冷凍機油11が貯油されており、主軸6に設けられた給油機構によって主軸6の下端面(すなわち給油口6d)から冷凍機油11を吸い上げられる。
次に、実施の形態1に係る圧縮機100の定常運転時の動作について説明する。圧縮機100の運転によって、冷媒ガスが吸入管13から吸入され、固定スクロール1および揺動スクロール2の板状渦巻歯2bによって形成される圧縮室1fに入る。電動機5によって駆動される揺動スクロール2は、偏心旋回運動に伴って、圧縮室1fの容積を減少させる。この圧縮行程では、吸入冷媒ガスが高圧となり、高圧となった圧縮ガスが固定スクロール1の吐出口1dから密閉容器10内に吐き出される。そのため、密閉容器10内は、高圧雰囲気で満たされる。図1には、この圧縮ガスによって高圧雰囲気で満たされた高圧空間10aが示されている。そして、高圧空間10a内の圧縮ガスが、ガイドフレーム4の外側面に設けられた吐出逆止弁20に作用することにより、吐出逆止弁20は、吐出逆止弁20を閉鎖方向に付勢しているバネ22の付勢力に打ち勝って弁止まり面4gに突き当たる。その結果、高圧空間10a内の圧縮ガスは、吐出管12から圧縮機100外に放出される。
密閉容器10の底部に貯留している冷凍機油11に高圧空間10a内の圧縮ガスが作用することによって、冷凍機油11は、給油口6dに流入する。給油口6dに流入した冷凍機油11は、主軸6に軸方向に貫通して設けられた高圧油給油穴6eを上方向に向かって流れる。そして、揺動軸部6a上面とボス部2dとの間の揺動軸上面ボス部空間2pに導かれた高圧油である冷凍機油11は、この給油経路の中で最も狭い揺動軸部6aと揺動軸受2eとの間の隙間である揺動軸側面ボス部空間2rで減圧されて、吸入圧より高く、かつ、吐出圧以下の中間圧となり、ボス部外径空間2nに流れる。また、これとは別に、高圧油給油穴6eの冷凍機油11は、主軸6に設けられた横穴から主軸受3cの高圧側端面(図1において下端面)に導かれ、この給油経路の中で最も狭い主軸受3cと主軸部6bとの空間3uにて減圧されて中間圧となり、同じくボス部外径空間2nに流れる。ボス部外径空間2nの中間圧となった冷凍機油11(冷凍機油11に溶解していた冷媒の発砲によって、一般にはガス冷媒と冷凍機油11の2相流になっている)は、中間圧調整弁収納空間3nを通る際に、中間圧調整スプリング3kの付勢力に打ち勝って中間圧調整弁3gを押し上げてフレーム上部空間4aに流れ、その後、連通穴3fを通ってオルダム機構環状部9cの内側に排出される。
また、冷凍機油11は、揺動スクロール2のスラスト面2fとコンプライアントフレーム3のスラスト軸受3aの摺動部とに給油された後に、オルダム機構環状部9cの内側に排出される。そして、これらから排出された冷凍機油11は、オルダム機構環状部9cの摺動面およびキー摺動面に給油した後、台板外周部空間2kに開放される。
以上に説明したように、ボス部外径空間2nの中間圧力Pm1は、中間圧調整スプリング3kのバネ力と中間圧調整弁3gの中間圧露出面積とによってほぼ決定される所定の圧力α、および吸入雰囲気圧力(すなわち低圧)Psによって制御され、Pm1=Ps+αで導かれる。
また、図1において、揺動スクロール2の台板部2aに設けられた抽気孔2gの下開口部2hは、コンプライアントフレーム3に設けられた連通穴3eのスラスト軸受開口部3t(すなわち図1において連通穴3eの上側の開口部)と、常時もしくは間欠的に連通する。このため、固定スクロール1と揺動スクロール2とで形成される圧縮室1fで圧縮途上の冷媒ガス(吸入圧より高く、かつ、吐出圧力以下の中間圧の冷媒ガス)が、揺動スクロール2の抽気孔2gおよびコンプライアントフレーム3の連通穴3eを介してフレーム下部空間4bに導かれる。但し、フレーム下部空間4bに導かれるといっても、フレーム下部空間4bは、上部リング状シール材7aと下部リング状シール材7bとで密閉された閉空間なので、定常運転時には圧縮室の圧力変動に呼応して圧縮室1fとフレーム下部空間4bとは双方向に微少な流れを有する、いわば呼吸している状態となる。
以上に説明したように、フレーム下部空間4bの中間圧Pm2は、連通する圧縮室1fの位置でほぼ決定される所定の倍率β、および吸入雰囲気圧力(すなわち低圧)Psによって制御され、Pm2=Ps+βで導かれる。
前記の構成(すなわち2つの中間圧力Pm1、Pm2)およびコンプライアントフレーム3の下端面3vに作用する高圧空間10aの圧力により、コンプライアントフレーム3は、ガイドフレーム4に案内されて固定スクロール1側(図1でおいて上側)に浮き上がる。そのため、スラスト軸受3aを介してコンプライアントフレーム3に押し付けられている揺動スクロール2も同じく上方に浮き上がり、その結果、揺動スクロール2の歯先と歯底は、固定スクロール1のそれぞれ歯底と歯先に接触し摺動しながら冷媒ガスを圧縮することになるので、冷媒ガスの漏れが少ない高効率な回転圧縮機が得られる。
一方、起動時や液圧縮時などでは、揺動スクロール2に作用するスラスト方向のガス負荷(Fgth)が大きくなるため、揺動スクロール2は、スラスト軸受3aを介してコンプライアントフレーム3を反固定スクロール1側(図1において下側)に押し下げられる。従って、揺動スクロール2の歯先や歯底と固定スクロール1の歯底や歯先との間には、比較的大きな隙間が生じ、圧縮室1f内の異常な圧力上昇が回避されるので、渦巻や軸受の損傷が少ない信頼性の高い回転圧縮機が得られ、圧縮機100の長期使用が可能となる。さらに、実施の形態1に係る圧縮機100は、固定スクロール1の吸入口1e付近に逆止弁を設けないので、流路面積が狭められて吸入の圧力損失が発生することを防止できる。
次に、圧縮機100の運転停止時の動作について説明する。圧縮機100の運転停時には、固定スクロール1および揺動スクロール2で構成されて圧縮機構14の停止とともに、圧縮室1fからフレーム下部空間4bへ冷媒ガスが流入せず、中間圧Pm2が維持できないため、コンプライアントフレーム3が軸方向に下がる。すなわち、コンプライアントフレーム3がガイドフレーム4側に下がった状態となる。同時に、コンプライアントフレーム3と共に押し上げられていた揺動スクロール2も下方に下がり、互いに噛み合うように組み合わされていた板状渦巻歯1bと板状渦巻歯2bとが離れ、歯先に隙間が生じる。すなわち、板状渦巻歯1bと板状渦巻歯2bによって隔てられ形成されていた複数の圧縮室1fが一の空間になる。さらにこの圧縮室1fは、吸入口1eを介して吸入管13と連通するので、上流の冷媒回路(図示せず)の低圧空間と同様に低圧空間となる。なお、フレーム下部空間4bなどの中間圧で満たされていた空間も、圧縮室1fと連通しているので、低圧空間となる。
この状態にて、吐出管12の下流側に配設された冷媒回路の高圧空間と、吸入管13の上流側に配設された冷媒回路の低圧空間とが均圧しようとしたときに、冷媒ガスおよび冷凍機油11が、吐出口1dまたは高圧油給油穴6eを通じて、吸入管13の上流側に配設された冷媒回路の低圧空間に排出され、給油不足や揺動スクロール2の逆転が発生する。
実施の形態1に係る圧縮機100は、図2に示すように、弁止まり面4gに冷媒導入路4eを設けることによって、吐出管12の下流側の冷媒回路から密閉容器10に逆流してきた冷媒ガスが吐出逆止弁20の背面側端面に導かれ、吐出逆止弁20がバネ22の付勢力によって閉じ遅れることなく閉鎖方向(図2において下側)へスムーズに移動し、吐出逆止弁20と吐出逆止弁押さえ21との間がシールされる。従って、吐出逆止弁20の閉じ遅れによる高圧ガスの逆流が防止され、逆転音の発生が抑制される。さらに、冷凍機油11が密閉容器10外に持ち出されることを防止できる。その結果、給油不足による軸受信頼性の低下を防止できる。
また、吐出管12の一端12aは、一端60aが密閉容器10内に挿入され他端60bが密閉容器10の外側に突出するジョイントパイプ60の内周部に挿入されて、ガイドフレーム4に設けられた吐出連通路4hに密嵌されている。また、この吐出管12の外周面とジョイントパイプ60の他端60bとは、例えば溶接で接合されているため、吐出管12の下流側と密閉容器10内の空間(高圧空間10a)とが仕切られる。従って、実施の形態1に係る圧縮機100によれば、吐出管12の下流側の冷媒回路から密閉容器10に逆流する冷媒ガスが、吐出逆止弁20を介さずに、例えば密閉容器10とガイドフレーム4との間を通じて密閉容器10内に流入することを防止することができる。
また、実施の形態1に係る圧縮機100は、従来の吸入逆止弁付高圧シェル型の圧縮機に対して、吸入管13の出口に従来の吸入逆止弁23およびこの逆止弁を付勢するバネ24を設けていないので、運転状態において逆止弁の開度が十分に得られず逆止弁が吸入管13の吸入口の流路面積を狭められるということがないため、吸入の圧力損失が発生することを防止できるという効果を有する。
次に、本発明の実施の形態1に係る圧縮機100の効果を従来のスクロール圧縮機と対比して説明する。以下、図1に示される圧縮機100と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
図3は、従来の高圧シェル型のスクロール圧縮機110の縦断面図である。図3に示されるスクロール圧縮機100では、弁通路内に配置された吸入逆止弁23が、バネ24により閉じ方向に付勢され、冷媒の吸入状態においては圧力差によってバネ24の付勢力に抗して下方に押し下げられる。一方、運転停止時である非吸入状態においては、吸入逆止弁23は、バネ24によって上方に押し上げられ、吸入管13の下端面が、吸入逆止弁23のシート面となって冷媒ガスの逆流を防ぐ構造となっている。
図3に示されるスクロール圧縮機110の運転時には、図示しない上流の冷媒回路の低圧空間の冷媒ガスが吸入管13を通じて吸入されたとき、吸入逆止弁23が、この冷媒ガスの吸入圧力によってバネ力に抗して冷媒ガスを十分吸入するのに足る位置まで押し下げられ、全開状態となる。そして、吸入された冷媒ガスは、固定スクロール1と揺動スクロール2とにより形成される圧縮室1f内へ流入する。揺動スクロール2は、偏心した主軸6によって、揺動軸受2eを介して揺動運動し、圧縮室1fを中心方向へ順次移送し、吸入した冷媒ガスを圧縮して、吐出口1dから吐出室へ吐出する。吐出室へ吐出された高圧ガスは、フレーム36の外周から電動機5側へ流れ、電動機5を冷却した後、図示しない配管を通って機外へ吐出される。一方、図3に示されるスクロール圧縮機110の運転の停止時には、吸入逆止弁23がバネ力によって押し上げられ吸入管13の下端面に当接して閉じられる。これにより、差圧によって冷凍機油が吸入側へ逆流することもなく、また揺動スクロール2の逆転もないので、逆転音による騒音の発生もない。
ただし、図3に示されるスクロール圧縮機110は、冷媒流量が小さい運転状態においては、冷媒ガスのバネ24の付勢力に抗して吸入逆止弁23を開放方向へ移動させる力が弱いため、吸入逆止弁23の開度が十分に得られず、吸入逆止弁23が圧縮機構14の吸入口の流路面積を狭めることにより圧力損失が発生することとなる。
このような従来のスクロール圧縮機110に対して、本発明の実施の形態1に係る圧縮機100は、固定スクロール1の吸入口1e付近に逆止弁を設けないので、流路面積が狭められて吸入の圧力損失が発生することを防止できる。
図4は、従来の低圧シェル型のスクロール圧縮機120の縦断面図である。図4(a)は、低圧シェル型のスクロール圧縮機120の要部を中心とする縦断面図であり、図4(b)は、図4(a)に示される吐出逆止弁装置42の縦断面図である。
図4(a)に示されるスクロール圧縮機120の密閉容器10内は、圧縮機構14およびフレーム36によって、吐出逆止弁装置42が設けられた上部の吐出マフラー43内の高圧空間と吸入管13や電動機5が配置された下部の低圧空間とに仕切られている。固定スクロール1は、その中心に吐出経路45を有し、この吐出経路45を通して高圧ガスが吐出マフラー43内へと放出される。密閉容器10内の吐出口には、下流の冷媒回路に対し高圧ガスを供給するように、ディスク型の吐出逆止弁装置42が嵌合して設けられている。また、密閉容器10には、冷媒を上流の冷媒回路から吸入するために、吸入管13が設けられている。
このスクロール圧縮機120の運転時には、吐出マフラー43内の圧力が吐出逆止弁装置42の下流側の圧力よりも高いため、高圧ガスが開口72、74、76を通ることによって、流れ弁70が開放位置に移動する。そのため、高圧ガスが開口72、74、76を通じて下流の冷媒回路に流れる。一方、このスクロール圧縮機120の停止時には、吐出マフラー43内の圧力が吐出逆止弁装置42の下流側の圧力よりも低い値へと減少するため、吐出逆止弁装置42の開口72、74の前後の圧力差によって流れ弁70が開口72、74と重なる閉鎖位置へと動かされて、吐出マフラー43内への高圧ガスの逆流が防止される。
ただし、スクロール圧縮機120の停止時には、吐出マフラー43内の圧力が吐出逆止弁装置42の下流側の圧力よりも低い値へと減少するため、圧力差が生じて流れ弁70が閉鎖位置に移動することとなる。一般的に高圧シェル型の圧縮機では、圧縮機構14で圧縮され高圧となった圧縮ガスが密閉容器を高圧雰囲気で満たし、圧縮ガスはやがて吐出管から圧縮機外に放出される。そして、圧縮機が停止すると、密閉容器内の圧力と圧縮機構14内の圧力は徐々に均圧するが、圧縮機構14内の容積よりも密閉容器内の容積の方が大きく、密閉容器内の圧力と吐出管の下流側の圧力とはわずかな圧力差しか生じない。従って、図4(b)に示される吐出逆止弁装置42を高圧シェル型の圧縮機に適用した場合、この圧縮機には、流れ弁70が閉じ遅れることに伴い逆転が生じることとなる。
このような従来のスクロール圧縮機120に対して、本発明の実施の形態1に係る圧縮機100は、弁止まり面4gに冷媒導入路4eが設けられているため、吐出管12の下流側の冷媒回路から密閉容器10に逆流してきた冷媒ガスが吐出逆止弁20の背面側端面に導かれ、吐出逆止弁20がバネ22の付勢力によって閉じ遅れることなく閉鎖方向(図2において下側)へスムーズに移動するため、吐出逆止弁20の閉じ遅れによる高圧ガスの逆流が防止され、逆転音の発生が抑制される。
以上に説明したように、本発明の実施の形態1に係る圧縮機100は、固定スクロール1および揺動スクロール2から成り、密閉容器10に貫設された吸入管13を通じて密閉容器10の外部から導入された冷媒ガスを圧縮して密閉容器10の内部に吐出する圧縮機構14と、固定スクロール1に固定され揺動スクロール2を駆動する回転軸(主軸)6を支持するフレーム(ガイドフレーム)4と、密閉容器10およびガイドフレーム4に貫設され圧縮機構14で圧縮された冷媒ガスを密閉容器10の外部に吐出する吐出管12と、吐出管12を通じて密閉容器10の内部から密閉容器10の外部へ向かう冷媒ガスの流れを開とし、この逆方向の流れを閉とする逆止弁(吐出逆止弁)20と、吐出逆止弁20を閉じる方向に付勢する第1のバネ(バネ)22と、を備え、ガイドフレーム4には、吐出逆止弁20を擦動自在に収納する弁通路4fと、吐出管12と弁通路4fとの間に設けられ密閉容器10の内部と吐出管12とを連通させる連通路(吐出連通路)4hと、バネ22を保持し、かつ、圧縮機構14で圧縮された冷媒ガスが密閉容器10の外部に吐出する際の吐出圧力によりバネ22の付勢力に打ち勝って押し付けられる吐出逆止弁20を止める弁止まり面4gと、吐出連通路4hと吐出逆止弁20の弁止まり面4g側空間とが連通するように設けられ、弁止まり面4gに吐出逆止弁20が擦動している状態のときに密閉容器10の外部から吐出連通路4hへ逆流した冷媒ガスを導入する冷媒導入路4eと、が設けられているで、吐出管12の下流側の冷媒回路から密閉容器10に逆流してきた冷媒ガスが吐出逆止弁20の背面側端面(冷媒導入路4e)に導かれ、吐出逆止弁20がバネ22の付勢力によって閉じ遅れることなく閉鎖方向へスムーズに移動し、吐出逆止弁20と吐出逆止弁押さえ21との間がシールされる。従って、吐出逆止弁20の閉じ遅れによる高圧ガスの逆流が防止されると共に、冷凍機油11が密閉容器10外に持ち出されることを防止できる。その結果、逆転音の発生を抑制することができるとともに、給油不足による軸受信頼性の低下を防止することができる。また、吐出管12の下流側と密閉容器10内の空間とが仕切られるため、吐出管12の下流側の冷媒回路から密閉容器10に逆流する冷媒ガスが、吐出逆止弁20を介さずに、例えば密閉容器10とガイドフレーム4との間を通じて密閉容器10内に流入することを防止することができる。
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機100の縦断面図である。実施の形態1と異なる点は、吐出弁機構を構成する吐出弁押さえ31および吐出弁30を備えている点である。以下、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
吐出弁機構は、吐出弁30と吐出弁押さえ31にて構成されている。吐出弁30は、固定スクロール1の背面側の中央に設けられると共に圧縮室1f内と密閉容器10とを連通させる吐出口1dを塞ぐ(覆う)形で、固定スクロール1に設けられている。吐出弁30の上方に設けられた吐出弁押さえ31は、吐出弁30の移動量を規制するためのものである。吐出弁30と吐出弁押さえ31とは、ボルト32にて固定スクロール1の背面に固定されている。
次に動作を説明する。スクロール圧縮機100の定常運転時では、揺動スクロール2の揺動運動に伴って圧縮室1fが吸入口1e付近の外周部から内周部に移動することによって、圧縮室1f内部の冷媒ガスが圧縮される。最終段階で圧縮室1fが吐出口1dにつながった際、圧縮室1f内の圧力が密閉容器10内の圧力より高い場合には、吐出口1dを介して圧縮室1fから密閉容器10内に冷媒ガスが吐出される。
一方、吐出管12の下流側の圧力と吸入管13の上流側の圧力との比が高い運転状態において、圧縮室1fが吐出口1dにつがった際、圧縮室1f内の圧力が密閉容器10内の圧力より低い場合には、密閉容器10内空間から圧縮室1f内へ冷媒ガスが逆流し(すなわち圧縮室1fに再吸入され)、再び圧縮室1fがこの冷媒ガスを再圧縮することにより損失となる。
スクロール圧縮機100は、固定スクロール1に吐出弁30を設ているため、圧縮室1f内の圧力が密閉容器10内の圧力より低いときには吐出弁30が閉鎖される(吐出弁30が吐出口1dを塞ぐ)ものの、圧縮室1d内の圧力が密閉容器10内の圧力より高くなったときには吐出弁30が開放される(吐出弁30が吐出口1dから離反する)。そのため、吐出口1dを介して圧縮室1fから密閉容器10内へ冷媒ガスが吐出される。このように、吐出弁30を設けることにより、圧縮機100の運転時において、一度吐出口1dから吐出された高圧冷媒ガスが吐出口1dを介して再び圧縮室1f内へ再吸入されることを防止することができる。その結果、再圧縮することによる損失を防止することができる。
以上に説明したように、本発明の実施の形態2に係る圧縮機100によれば、固定スクロール1には、圧縮機構14の内部と密閉容器10とを連通させ、圧縮機構14で圧縮された冷媒ガスを密閉容器10の内部に吐出する吐出口1dと、板状を成し一端31aが固定スクロール1の外側に固定され、他端31bが固定スクロール1の外側から吐出口1dを覆い、圧縮機構14の内部から密閉容器10に向かう冷媒ガスの流れを開とし、この逆方向の流れを閉とする吐出弁30と、吐出弁30と固定スクロール1とが対向する面とは反対側の面にて吐出弁30に重設され、吐出弁30の最大開度を規制する吐出弁押さえ31と、が設けられているので、一度吐出口1dから吐出された高圧冷媒ガスが吐出口1dを介して再び圧縮室1f内へ再吸入されることを防止することができ、その結果、再圧縮することによる損失を防止することができる。
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3に係る吐出弁30および吐出口1dの構成を説明するための図である。実施の形態2と異なる点は、吐出弁30に開口部30aが形成され、または、吐出口1dに開口部1jが形成されている点である。以下、実施の形態2と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
図6(a)に示される吐出弁30には、吐出口1dの開口面積より小さく形成され、かつ、吐出口1dと密閉容器10の内部とを連通させる開口部30aが設けられている。開口部30aの位置は、特に限定されるものではなく、吐出弁30が吐出口1dを覆った状態のときに吐出口1dと密閉容器10の内部とを連通させることが可能な位置に設けられていればよい。
また、図6(b)に示されるように、固定スクロール1には、吐出口1dの内周縁1kに切り欠き状に設けられ吐出弁30の外周縁30bよりも外側の位置にて吐出口1dと密閉容器10の内部とを連通させる開口部1jが設けられている。
開口部30aおよび開口部1jの開口面積は、圧縮機100の運転時において、吐出口1dから吐出された高圧の冷媒ガスが、吐出口1dを介して再び圧縮室1f内へ再吸入されることに伴う損失を最小限度にすることができる大きさであればよい。
次に動作を説明する。圧縮機100の停止時に、冷媒回路の高圧空間と低圧空間が均圧化しようとするものの、吐出弁30が、密閉容器10内の高圧ガスが吐出口1dを通じて圧縮室1f側に逆流することを妨げている。そのため、高圧冷媒ガスが主軸6の給油機構の高圧油給油穴6eを通って均圧することになり、高圧ガスとともに冷凍機油11も主軸6の高圧油給油穴6eを上昇し、吸入口1eに排出され、吸入管13を介してさらに圧縮機100外の冷媒回路に流出しようとする。密閉容器10底部に貯油された冷凍機油11の油面が、主軸6の給油口6dより下がり、吸い上げられなくなった場合、次回の圧縮機100の起動時に、摺動部への給油ができないため摺動部が破損する可能性がある。
実施の形態3に係る吐出弁30には、吐出口1dと密閉容器10内とをつなぐ開口部30aが設けられているので、吐出弁30の開口部30aから高圧冷媒ガスを流入させて均圧流路を設けることにより、冷凍機油11が高圧油給油穴6eを通って外部の冷媒回路に排出される量を減少させることができる。また、実施の形態3に係る固定スクロール1には、吐出口1dと密閉容器10内とをつなぐ開口部1jが設けられているので、上述同様に、均圧流路が設けるため、冷凍機油11が高圧油給油穴6eを通って外部の冷媒回路に排出される量を減少させることができる。なお、開口部30aと開口部1jは、何れかのみ設けるようにしてもよいし、両方設けてもよい。
なお、均圧される冷媒回路の高圧空間と低圧空間の体積が大きいために、冷媒流量が大きい運転状態や高低圧差が大きい運転状態で運転した場合には、圧縮機100の停止時に、高圧空間から低圧空間へ逆流する冷媒流量が大きいため、開口部30aまたは開口部1jを設けても、冷凍機油11が高圧油給油穴6eを通って外部の冷媒回路に大量に排出されてしまうようにも思われる。しかしながら、図1に示される吐出逆止弁20が閉じることにより、吐出管12から密閉容器10内への冷媒の逆流が防止され、冷凍機油11が圧縮機100外に持ち出されることを防止することができる。従って、給油不足による軸受信頼性の低下を防止できる。
以上に説明したように、本発明の実施の形態3に係る圧縮機100によれば、吐出弁30には、吐出口1dの開口面積より小さく形成され吐出口1dと密閉容器10の内部とを連通させる開口部30aが形成され、または、固定スクロール1には、吐出口1dの内周縁1kに切り欠き状に設けられ吐出弁30の外周縁30bよりも外側の位置にて吐出口1dと密閉容器10の内部とを連通させる開口部1jが形成されているので、冷凍機油11が給油経路6eを通って外部の冷媒回路に排出される量を減少させることができる。
実施の形態4.
図7は、本発明の実施の形態4に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。実施の形態1と異なる点は、吸入管13に吸入逆止弁40、バネ41、弁通路1g、弁止まり面1hが設けられている点である。以下、実施の形態1と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
図7において、弁通路1gは、固定スクロール1の板状渦巻歯1bに対して直交または直交する方向から吸入室に連通するように設けられている。その内側には、吸入逆止弁40が摺動可能に設けられ、また吸入管13が密閉容器10を貫通して圧入されている。吸入逆止弁40は、バネ41によって、吸入管13の閉鎖方向に付勢されており、吸入管13の端面に突き当たり、シールされ、冷媒の逆流を防ぐ。
次に、実施の形態4に係る圧縮機100の定常運転時の動作について説明する。運転によって、冷媒が吸入管13から吸入され、吸入圧力によって、吸入逆止弁40がバネ力に打ち勝って弁止まり面1hに突き当たる。このとき、吸入冷媒は、固定スクロール1および揺動スクロール2の板状渦巻歯2bによって形成される圧縮室1fに流入する。揺動スクロール2の揺動運動に伴って圧縮室1fが吸入口1e付近の外周部から内周部に移動することによって、圧縮室1f内部の冷媒ガスが圧縮される。このことにより、吸入冷媒は、高圧となり、固定スクロール1の吐出口1dから密閉容器10内に吐き出される。
冷媒流量が大きい運転状態や高低圧差が大きい運転状態で運転した場合、圧縮機100の運転停止時には、吸入逆止弁20が閉じることにより吐出管12の下流側の冷媒ガスの逆流を防止されるが、密閉容器10内には大量の高圧ガスが存在するため、この高圧ガスが吐出口1dを介して吸入管13の上流側の低圧空間へ逆流しようとする。しかしながら、吸入逆止弁40が閉じることにより、冷媒ガスの逆流が防止される。従って、逆転音の発生を防止することができると共に、冷凍機油11が圧縮機100外に持ち出されることも防止することができ、給油不足による軸受信頼性の低下を防止できる。
以上に説明したように、本発明の実施の形態4に係る圧縮機100によれば、吸入管13を通じて密閉容器10の外部から圧縮機構14に向かう冷媒ガスの流れを開とし、この逆方向の流れを閉とする弁(吸入逆止弁)40と、この吸入逆止弁40を閉じる方向に付勢する第2のバネ(バネ)41と、を備え、固定スクロール1には、吸入逆止弁40を擦動自在に収納する弁通路1gと、バネ41を保持し、かつ、吸入管13から導入された冷媒ガスを圧縮機構14に導入する際の圧力によりバネ41の付勢力に打ち勝って押し付けられる吸入逆止弁40を止める弁止まり面1hと、が設けられているので、逆転音の発生を防止することができると共に、冷凍機油11が圧縮機100外に持ち出されることも防止することができ、給油不足による軸受信頼性の低下を防止できる。
実施の形態5.
図8は、本発明の実施の形態5に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。実施の形態1〜4と異なる点は、圧縮機構14と電動機5の間に高圧リリーフバルブ50が設けられている点である。以下、実施の形態1〜4と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
図8(a)には、高圧リリーフバルブ50が設けられたガイドフレーム4と低圧空間10bと高圧空間10aとの関係が示されている。また、図8(b)には、高圧リリーフバルブ50の詳細構成が示されている。図8に示される高圧リリーフバルブ50は、高圧空間10aと低圧空間10bとを連通する連通穴51と、連通穴51に形成された着座面52に着座する鋼球53と、鋼球53を連通穴51の着座面52に対して所定の荷重Fsにて押圧付勢するバネ54と、所定の荷重Fsを得るためにバネ54を変形させるバネ押さえ55とにより構成されている。
実施の形態5にかかる圧縮機100を冷凍空調装置(冷蔵庫やエアコンなど)に適用して運転した際、コンデンサファン(図示せず)の停止や冷凍回路の閉塞等によって冷媒回路内の高圧や密閉容器10内の圧力が異常上昇した場合には、高圧空間10aと低圧空間10bの圧力差による荷重Fpが、高圧リリーフバルブ50のバネ54による所定の荷重Fsよりも大きくなる。この時、高圧リリーフバルブ50の鋼球53が、連通穴51に形成された着座面52から離間して、高圧空間10aの圧力が低圧空間10b側に開放される。
この動作により、高圧空間10aの圧力に依存しているコンプライアントフレーム3の揺動スクロール2への押し付け力が、過度に大きくなることが回避されるので、コンプライアントフレーム3に形成されたスラスト軸受3aにおいても十分な油膜が形成され、より信頼性の高い回転圧縮機を得ることが可能となる。
また、スラスト軸受3aを介してコンプライアントフレーム3の揺動スクロール2への押し付け力を支持する揺動スクロール2の歯先や固定スクロール1の歯先においても、高圧リリーフバルブ50により高圧空間10aの異常な圧力上昇が回避されるので、押し付け力増大による歯先の異常摩耗、もしくは焼き付き等が発生する可能性が極めて低くなる。
以上に説明したように、本発明の実施の形態5に係る圧縮機100によれば、フレーム4には、吸入管13と圧縮機構14との間に設けられ所定圧力(上述した吸入雰囲気圧力)で満たされる第1の空間(低圧空間)10bと圧縮機構14で圧縮された冷媒ガスによって前記所定圧力より高い高圧雰囲気で満たされた第2の空間(高圧空間)10aとを連通させる連通穴51と、連通穴51内の高圧空間10a側に設けられ、連通穴51を通じて高圧空間10aから低圧空間10bに向かう冷媒ガスの流れを開とし、この逆方向の流れを閉とする球状の弁(鋼球)53と、弁53を閉じる方向に付勢する第3のバネ(バネ)54と、連通穴51内の低圧空間10b側に配設され、高圧空間10aから低圧空間10bに向かう冷媒ガスの流れを阻止しない大きさに形成され、バネ54を押さえるバネ押さえ55と、が設けられているので、コンプライアントフレーム3の揺動スクロール2への押し付け力が過度に大きくなることが回避され、スラスト軸受3a、揺動スクロール2の歯先、固定スクロール1の歯先などの異常摩耗、もしくは焼き付き等が抑制され、信頼性の高い回転圧縮機を得ることが可能となる。
実施の形態6.
図9は、本発明の実施の形態6に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。実施の形態1〜4と異なる点は、固定スクロール1に高圧リリーフバルブ50が設けられている点である。以下、実施の形態1〜4と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
図9(a)には、高圧リリーフバルブ50が設けられた固定スクロール1と低圧空間10bと高圧空間10aとの関係が示されている。また、図9(b)には、高圧リリーフバルブ50の詳細構成が示されている。図9に示される高圧リリーフバルブ50は、高圧空間10aと低圧空間10bとを連通する連通穴51と、連通穴51に形成された着座面52に着座する鋼球53と、鋼球53を連通穴51の着座面52に対して所定の荷重Fsにて押圧付勢するバネ54と、所定の荷重Fsを得るためにバネ54を変形させるバネ押さえ55とにより構成されている。
実施の形態6にかかる圧縮機100を冷凍空調装置に適用して運転した際、コンデンサファン(図示せず)の停止や冷凍回路の閉塞等によって冷媒回路内の高圧や密閉容器10内の圧力が異常上昇した場合には、高圧空間10aと低圧空間10bの圧力差による荷重Fpが、高圧リリーフバルブ50のバネ54による所定の荷重Fsよりも大きくなる。この時、高圧リリーフバルブ50の鋼球53が、連通穴51に形成された着座面52から離間して、高圧空間10aの圧力が低圧空間10b側に開放される。
この動作により、高圧空間10aの圧力に依存しているコンプライアントフレーム3の揺動スクロール2への押し付け力が、過度に大きくなることが回避されるので、コンプライアントフレーム3に形成されたスラスト軸受3aにおいても十分な油膜が形成され、より信頼性の高い回転圧縮機を得ることが可能となる。
また、スラスト軸受3aを介してコンプライアントフレーム3の揺動スクロール2への押し付け力を支持する揺動スクロール2の歯先や固定スクロール1の歯先においても、高圧リリーフバルブ50により高圧空間10aの異常な圧力上昇が回避されるので、押し付け力増大による歯先の異常摩耗、もしくは焼き付き等が発生する可能性が極めて低くなる。
以上に説明したように、本発明の実施の形態6に係る圧縮機100によれば、固定スクロール1には、吸入管13と圧縮機構14との間に設けられ所定圧力(上述した吸入雰囲気圧力)で満たされる第1の空間(低圧空間)10bと圧縮機構14で圧縮された冷媒ガスによって前記所定圧力より高い高圧雰囲気で満たされた第2の空間(高圧空間)10aとを連通させる連通穴51と、連通穴51内の高圧空間10a側に設けられ、連通穴51を通じて高圧空間10aから低圧空間10bに向かう冷媒ガスの流れを開とし、この逆方向の流れを閉とする球状の弁(鋼球)53と、弁53を閉じる方向に付勢する第3のバネ(バネ)54と、連通穴51内の低圧空間10b側に配設され、高圧空間10aから低圧空間10bに向かう冷媒ガスの流れを阻止しない大きさに形成され、バネ54を押さえるバネ押さえ55と、が設けられているので、コンプライアントフレーム3の揺動スクロール2への押し付け力が過度に大きくなることが回避され、スラスト軸受3a、揺動スクロール2の歯先、固定スクロール1の歯先などの異常摩耗、もしくは焼き付き等が抑制され、信頼性の高い回転圧縮機を得ることが可能となる。
実施の形態7.
図10は、本発明の実施の形態7に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。実施の形態1〜6と異なる点は、電動機5のコイルエンド5cに電動機保護装置56が設けられている点である。以下、実施の形態1〜6と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
図10に示されるように、圧縮機構14と、電動機5の固定子5bに巻回されたコイルエンド5cとの間には、温度検出方式の電動機保護装置56が装着されている。
コンデンサファン(図示せず)の停止や冷凍回路の閉塞等によって冷媒回路内の高圧や密閉容器10内の圧力が異常上昇し、高圧リリーフバルブ50が作動した場合、高圧空間10aから低圧空間10bに流入する高圧高温の冷媒ガスが、圧縮機構14により再び圧縮されて、冷媒の吐出ガス温度が急上昇する。このとき、冷媒ガスを一旦放出した高圧空間10aに配置された電動機5の温度も、この吐出ガスの温度の急上昇にほぼ同期して上昇する。ただし、電動機5のコイルエンド5cに装着された電動機保護装置56が、コイルエンド5cの温度を直接検知するため、電動機5の急激な温度上昇を即座に検知して圧縮機100を停止させるので、電動機5の絶縁材の劣化や焼損、冷凍機油11の劣化などが防止され、高い信頼性を得ることができる。
以上に説明したように、本発明の実施の形態7に係る圧縮機100によれば、主軸6を回転駆動する電動機5の固定子5bに巻回されたコイルエンド5cには、密閉容器10の内部温度の上昇を検出し、検出された温度の値が、電動機5が故障状態に至る手前の所定値(例えば電動機5が故障に至る温度限界値より数℃〜数十℃程度低い値)に達したときに電動機5を停止させる電動機保護装置56が配設されているので、電動機5の急激な温度上昇を即座に検知して圧縮機100を停止させることが可能である。その結果、電動機5の絶縁材の劣化や焼損、冷凍機油11の劣化などが防止され、高い信頼性を得ることができる。
実施の形態8.
図11は、本発明の実施の形態8に係るスクロール圧縮機の縦断面図である。実施の形態1〜6と異なる点は、密閉容器10の上部に電動機保護装置57が設けられている点である。以下、実施の形態1〜6と同一部分には、同一符号を付してその説明を省略し、ここでは異なる部分についてのみ述べる。
図11に示されるように、密閉容器10の上部には、温度検出方式のスイッチまたはセンサーである電動機保護装置57が装着されている。
コンデンサファン(図示せず)の停止や冷凍回路の閉塞等によって冷媒回路内の高圧や密閉容器10内の圧力が異常上昇し、高圧リリーフバルブ50が作動した場合、高圧空間10aから低圧空間10bに流入する高圧高温の冷媒ガスが、圧縮機構14により再び圧縮されて、冷媒の吐出ガス温度が急上昇する。このとき、冷媒ガスを一旦放出した高圧空間10aに配置された電動機5の温度も、この吐出ガスの温度の急上昇にほぼ同期して上昇する。ただし、吐出口1dの近傍、かつ、密閉容器10の上部に装着された電動機保護装置57によって、吐出口1dから吐出された冷媒ガスの温度を素早く検知することができるため、密閉容器10内の温度上昇に伴う電動機5の温度上昇を予測して、圧縮機100を停止させることができる。その結果、電動機5の絶縁材の劣化や焼損、冷凍機油11の劣化などが防止され、高い信頼性を得ることができる。この電動機保護装置57は、既存の圧縮機100に後付けすることができるため、既存の圧縮機100の信頼性を高めることも可能である。
以上に説明したように、本発明の実施の形態8に係る圧縮機100によれば、固定スクロール1の上部側に覆われる密閉容器10の外周面には、密閉容器10の内部温度の上昇を検出し、検出された温度の値が、電動機5が故障状態に至る手前の所定値(例えば電動機5が故障に至る温度限界値より数℃〜数十℃程度低い値)に達したとき電動機5を停止させる電動機保護装置57が配設されているので、電動機5の絶縁材の劣化や焼損、冷凍機油11の劣化などが防止され、高い信頼性を得ることができる。
なお、本発明の実施の形態に示したスクロール圧縮機は、本発明の内容の一例を示すものであり、更なる別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは無論である。