実際の道路網を想定して交通評価指標を再現する場合、従来の交通シミュレータにあっては、車両の走行速度、加速減速特性及びOD交通量などの入力データは、実際の交通情報と一致するように設定されるべきである。しかし、個々の車両の挙動及びOD交通量などを、例えば、道路網のリンク毎に詳細に計測して実際の交通情報と一致させることは困難であり、両者には差異が存在する。このため、交通シミュレータで交通評価指標を求める場合、シミュレーション時間の経過とともに当該差異が累積する結果、実際の交通評価指標を再現することができないという問題がある。
このため、例えば、交通シミュレータで交通評価指標として渋滞長を求めた場合に、求めた渋滞長が実測値と合わないときには、車両の走行速度や交差点での流出率などのパラメータを調整することで、再現性が得られるようにしていた。しかし、道路網の一部の路線(リンク)で再現性が得られたとしても、車両の走行速度や交差点の流出率などを調整した場合、下流の路線(リンク)への到着車両台数などの交通状況が変化するため、更に下流の調整が必要となる。また、道路網全体では、交差点において車両の右折又は左折があるため、調整による影響は交差点で交差する他の路線にも影響を与える。このため、対象とする道路網全体では、求めた渋滞長が実測値と合わずに再現性に欠けるという課題があった。特に、交通シミュレータによる評価の目的が、現状の交通評価指標(例えば、渋滞長又は旅行時間など)と評価条件設定後の交通評価指標とを比較する場合には、交通シミュレータによる現状の交通評価指標の再現性は、比較対象の元になる重要な要素であるため、交通シミュレータでの再現性を向上させることが要望されていた。
一方で、実際の道路での渋滞長を実測する場合、道路に設置された車両感知器で計測する方法が用いられているが、現実には、車両感知器が設置されていない道路区間も存在し、このような道路区間では渋滞長を実測することができず、渋滞の発生を判断することができない。また車両感知器が設置されている道路区間であっても、車両感知器の設置場所まで車両の渋滞待ち行列が到達しなければ渋滞しているか否かが分からず、結局は渋滞なしと判断せざるを得ない。このため、実際の道路区間の中には、渋滞が発生していないと判断される場合があった。
また、交通シミュレータで交通状況を再現する場合、細街路も含めた全ての道路網をシミュレータ上に設定するのが理想である。しかしながら、細街路まで設定した場合、設定量が多くなるばかりでなく、シミュレーションの計算時間も増加する。このため、シミュレーション対象とする地域の大きさに合わせて、例えば市町村道以上、都道府県道以上など幹線道路を対象路線として限定するのが一般的である。シミュレーションで経路選択処理を行う場合、幹線道路同士を接続する接続道路、あるいはシミュレーション対象外の細街路と接続している接続道路では、右左折回数が多くなる(例えば、右折又は左折の回数が増える都度、所定のコストが加算される)ので、経路として選択されにくくなる。このため、前述の接続道路では、シミュレーション上の交通量が実際の交通量よりも少なくなる傾向があり、シミュレーション上で渋滞が発生しないという事態になる場合がある。
したがって、シミュレーション対象の道路区間で実際の渋滞とシミュレーション上での渋滞の両者が発生していない場合、現状の渋滞長と評価条件設定後の渋滞長とを比較することができず、交通シミュレータによる現状の交通評価指標を再現することができないという問題がある。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、交通状況にかかわらず交通評価指標の再現性を向上させることができる交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法を提供することを目的とする。
第1発明に係る交通評価装置は、複数の模擬車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置において、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、該交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの推定交通量を推定する交通量推定手段と、前記リンクでの実測交通量を取得する実測交通量取得手段と、前記リンクでの実測交通量及び前記推定交通量に基づいて、該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成手段とを備え、前記生成手段で生成した起点交通量又は終点交通量に基づいて交通評価指標を出力するように構成してあることを特徴とする。
第2発明に係る交通評価装置は、第1発明において、前記交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの推定渋滞長を推定する渋滞長推定手段と、前記リンクでの実測渋滞長を取得する実測渋滞長取得手段と、前記リンクでの実測渋滞長及び前記渋滞長推定手段で推定した推定渋滞長が所定の渋滞閾値未満であるか否かを判定する判定手段とを備え、前記生成手段は、前記判定手段で前記実測渋滞長及び推定渋滞長が前記渋滞閾値未満であると判定した場合、前記リンクで起点交通量又は終点交通量を生成するように構成してあることを特徴とする。
第3発明に係る交通評価装置は、第1発明又は第2発明において、前記生成手段は、前記実測交通量が推定交通量より多い場合、起点交通量として、前記実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出するように構成してあることを特徴とする。
第4発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第3発明のいずれか1つにおいて、前記生成手段は、前記実測交通量が推定交通量より少ない場合、終点交通量として、前記推定交通量と実測交通量との差分に応じた台数の車両を回収するように構成してあることを特徴とする。
第5発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第4発明のいずれか1つにおいて、任意のリンクで前記生成手段が起点交通量として放出する車両を識別する識別符号を付与する付与手段を備え、前記生成手段は、前記リンクの下流側で終点交通量として車両を回収する場合、前記識別符号が付与された車両を優先して回収するように構成してあることを特徴とする。
第6発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第5発明のいずれか1つにおいて、任意のリンクで前記生成手段が起点交通量として車両を放出する場合、前記リンクに存在する1又は複数の車両の終点情報毎の割合に応じて、放出する車両に終点情報を割り当てる割当手段を備えることを特徴とする。
第7発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第6発明のいずれか1つにおいて、前記生成手段で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる発生手段を備えることを特徴とする。
第8発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、前記生成手段は、任意のリンクで起点交通量を放出する場合、該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分及び所定の交通量閾値の差に応じた台数の車両を放出するように構成してあることを特徴とする。
第9発明に係る交通評価装置は、第1発明乃至第7発明のいずれか1つにおいて、前記生成手段は、任意のリンクで起点交通量を放出する場合、該リンクでの実測交通量と該リンクでの車両密度、車両速度及び所定時間の乗算値との差分から所定の交通量閾値を減算した値に応じた台数の車両を放出するように構成してあることを特徴とする。
第10発明に係る交通評価装置は、複数の模擬車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置において、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、該交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成手段と、前記リンクで前記生成手段が起点交通量として放出する車両を識別する識別符号を付与する付与手段とを備え、前記生成手段は、前記リンクの下流側で終点交通量として車両を回収する場合、前記識別符号が付与された車両を優先して回収するように構成してあることを特徴とする。
第11発明に係る交通評価装置は、第5発明又は第10発明において、前記識別符号が付与された車両を優先して回収する場合、該車両の再放出を禁止する禁止手段を備えることを特徴とする。
第12発明に係る交通評価装置は、複数の模擬車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置において、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する交通量算出手段と、該交通量算出手段で算出した交通量に基づいて、任意のリンクで起点交通量又は終点交通量を生成する生成手段と、前記リンクで前記生成手段が起点交通量として車両を放出する場合、前記リンクに存在する1又は複数の車両の終点情報毎の割合に応じて、放出する車両に終点情報を割り当てる割当手段とを備えることを特徴とする。
第13発明に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、複数の模擬車両の模擬走行により交通評価指標を出力するステップを実行させるためのコンピュータプログラムにおいて、コンピュータに、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの推定交通量を推定するステップと、前記リンクでの実測交通量及び前記推定交通量に基づいて、該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成するステップとを実行させることを特徴とする。
第14発明に係る交通評価方法は、複数の模擬車両の模擬走行により交通評価指標を出力する交通評価装置による交通評価方法おいて、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出するステップと、算出された交通量に基づいて、任意のリンクでの推定交通量を推定するステップと、前記リンクでの実測交通量を取得するステップと、前記リンクでの実測交通量及び前記推定交通量に基づいて、該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成するステップと、生成された起点交通量又は終点交通量に基づいて交通評価指標を出力するステップとを含むことを特徴とする。
第1発明、第13発明及び第14発明にあっては、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する。車両の走行の起終点情報を用いる場合、起点と終点との間のリンクを任意のリンクとして用いることができる。車両の走行の起終点情報は、例えば、OD交通量であり、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を実測値として求めたものである。任意のリンクで発生する交通量又は消滅する交通量は、OD交通量などを用いて算出することができる。算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定交通量を推定し、当該リンクでの車両の実測交通量及び推定交通量に基づいて、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。すなわち、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、当該リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位で交通量の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、交通量が少ない場合などの交通状況にかかわらず、各リンクで現状を正しく再現することができ、工事又は交通事故等による交通規制などの評価条件の変化による影響を反映した交通状況も正しく評価又は予測することが可能となる。なお、車両の走行の起終点情報に代えて、任意のリンクでの発生交通量及び消滅交通量を設定して用いることもできる。
第2発明にあっては、算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの実測渋滞長及び推定した推定渋滞長が所定の渋滞閾値未満であるか否かを判定する。渋滞閾値は、各リンクに固有の固有値であり、例えば、車両感知器の設置間隔(例えば、200m、250mなど)である。実測渋滞長及び推定渋滞長が渋滞閾値未満であると判定された場合、生成手段は、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、シミュレーション対象のリンクで実際の渋滞とシミュレーション上での渋滞の両者が発生していない場合でも、起点交通量又は終点交通量を生成することにより、シミュレーション対象の全リンクでの交通状況を実際の交通状況に近似させることができる。
第3発明にあっては、生成手段は、実測交通量が推定交通量より多い場合、起点交通量として、実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出する。これにより、当該リンクで、交通量の実測値が推定された交通量より多い場合でも、推定交通量の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
第4発明にあっては、生成手段は、実測交通量が推定交通量より少ない場合、終点交通量として、推定交通量と実測交通量との差分に応じた台数の車両を回収する。これにより、当該リンクで、交通量の実測値が推定された交通量より少ない場合でも、推定交通量の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
第5発明にあっては、起点交通量としてリンクに放出する車両(ダミー車両)を識別する識別符号を付与し、当該リンクの下流側で終点交通量として車両を回収する場合、識別符号が付与された車両を優先して回収する。任意のリンクで起点交通量として車両を放出した場合に、当該リンクの下流側(当該リンク及び当該リンクと異なるリンクを含む)で車両を回収するときに、放出した識別符号が付与された車両を優先的に回収することにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
第6発明にあっては、起点交通量として車両をリンクに放出する場合、当該リンクに存在する1又は複数の車両の終点情報毎の割合に応じて、放出する車両に終点情報を割り当てる。当該リンクに存在(走行)する車両の終点情報の割合が、例えば、終点情報D1の車両がX1台、終点情報D2の車両がX2台、…、終点情報Dnの車両がXn台であるとすると、当該リンクに放出する車両(Y台)のうち、Y×X1/(X1+X2+…+Xn)台の車両に終点情報D1を割り当てる。また、同様に、放出する車両(Y台)のうち、Y×X2/(X1+X2+…+Xn)台の車両に終点情報D2を割り当てる。以下同様である。任意のリンクで起点交通量を生成した場合でも、いずれかのリンクの車両が突出して増加する事態、あるいは減少する事態を防止することができ、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
第7発明にあっては、任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの交通状況が実測に合わない可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
第8発明にあっては、生成手段は、任意のリンクで起点交通量を放出する場合、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分及び所定の交通量閾値の差に応じた台数の車両を放出する。交通量閾値は、例えば、シミュレータの構成に応じて適宜設定することができ、0でもよく、0以外の値でもよい。例えば、所定の交通量閾値を0とする場合に、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分を実測交通量で除算した値が交通量差閾値(例えば、0.2)以上であるときは、実測交通量が推定交通量より大きければ実測交通量と推定交通量との差分に応じた車両を放出する。シミュレータの構成上、起点交通量だけでなく終点交通量も生成させる場合には、交通量差閾値は0.2など小さくすることができ、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出する。また、シミュレータの構成上、起点交通量だけを生成し、終点交通量を生成しない場合には、実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出したときに、車両を回収する処理が行われないので、放出する車両台数が過多となる事態も起こり得るので、この場合には、交通量差閾値を、例えば、0.8程度に大きくして当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出する。
また、所定の交通量閾値を0以外とする場合には、生成手段は、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分から所定の交通量閾値(例えば、実際の交通量の20%程度の値)を減算した値が正であれば、当該値の台数の車両を放出する。シミュレータの構成上、起点交通量だけでなく終点交通量も生成させる場合には、交通量閾値は実際の交通量の20%程度の小さい値とすることができる。また、シミュレータの構成上、起点交通量だけを生成し、終点交通量を生成しない場合には、実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出したときに、車両を回収する処理が行われないので、放出する車両台数が過多となる事態も起こり得るので、この場合には、交通量閾値を、実際の交通量の80%程度のように大きくして、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分及び所定の交通量閾値の差に応じた台数の車両を放出する。リンクでの実測交通量と推定交通量との差分及び所定の交通量閾値の差に応じた台数の車両を放出することにより、実際の交通量とシミュレーション上の交通量(推定交通量)とを一致させることができる。
第9発明にあっては、生成手段は、任意のリンクで起点交通量を放出する場合、当該リンクでの実測交通量と当該リンクでの車両密度、車両速度及び所定時間の乗算値との差分から所定の交通量閾値を減算した値に応じた台数の車両を放出する。すなわち、推定交通量の代わりに車両密度、車両速度及び所定時間の乗算値を用いる。車両密度は、当該リンクで渋滞区間が存在する場合、渋滞区間を除いた区間での車両密度である。また、車両密度は、任意の時点での値でもよく、任意の周期毎に起点交通量を放出する場合には、複数周期分の平均値でもよく、あるいは前回周期での車両密度と今回周期の車両密度との重み付け平均でもよい。所定時間は、例えば、起点交通量を生成(放出)する処理の周期(補正周期)である。すなわち、所定時間の間の車両密度と車両速度との乗算により交通量を推定することができる。これにより、経路探索時に経路として選択されにくくなるリンクが存在する結果、当該リンクでの交通量が減少又は0になった場合でも、実際の交通量とシミュレーション上の交通量(推定交通量)とを一致させることができる。
第10発明にあっては、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する。車両の走行の起終点情報を用いる場合、起点と終点との間のリンクを任意のリンクとして用いることができる。車両の走行の起終点情報は、例えば、OD交通量であり、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を実測値として求めたものである。任意のリンクで発生する交通量又は消滅する交通量は、OD交通量などを用いて算出することができる。算出した交通量に基づいて、任意で起点交通量又は終点交通量を生成する。起点交通量及び終点交通量は、算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの車両の実測渋滞長及び推定渋滞長に基づいて求めることができる。例えば、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合には、実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた起点交通量(車両の放出)を算出し、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合には、推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた終点交通量(車両の回収)を算出することができる。
そして、起点交通量としてリンクに放出する車両(ダミー車両)を識別する識別符号を付与し、当該リンクの下流側で終点交通量として車両を回収する場合、識別符号が付与された車両を優先して回収する。任意のリンクで起点交通量として車両を放出した場合に、当該リンクの下流側(当該リンク及び当該リンクと異なるリンクを含む)で車両を回収するときに、放出した識別符号が付与された車両を優先的に回収することにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
第11発明にあっては、識別符号が付与された車両(ダミー車両)を優先して回収する場合、当該ダミー車両の再放出を禁止する。すなわち、ダミー車両を優先して回収した場合、回収したダミー車両は消滅させたままとする。ダミー車両は、実測とシミュレータでの推定とを合致させるために回収した便宜上の車両であるので、回収してそのまま消滅させたとしても問題がなく、不要な処理を省略することができる。
第12発明にあっては、任意のリンクで発生及び消滅する交通量を算出する。車両の走行の起終点情報を用いる場合、起点と終点との間のリンクを任意のリンクとして用いることができる。車両の走行の起終点情報は、例えば、OD交通量であり、車両の起点(出発地)と終点(目的地)の間の交通量を実測値として求めたものである。任意のリンクで発生する交通量又は消滅する交通量は、OD交通量などを用いて算出することができる。算出した交通量に基づいて、任意で起点交通量又は終点交通量を生成する。起点交通量及び終点交通量は、算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの車両の実測渋滞長及び推定渋滞長に基づいて求めることができる。例えば、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合には、実測渋滞長と推定渋滞長との差分に応じた起点交通量(車両の放出)を算出し、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合には、推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた終点交通量(車両の回収)を算出することができる。
そして、起点交通量として車両をリンクに放出する場合、当該リンクに存在する1又は複数の車両の終点情報毎の割合に応じて、放出する車両に終点情報を割り当てる。当該リンクに存在(走行)する車両の終点情報の割合が、例えば、終点情報D1の車両がX1台、終点情報D2の車両がX2台、…、終点情報Dnの車両がXn台であるとすると、当該リンクに放出する車両(Y台)のうち、Y×X1/(X1+X2+…+Xn)台の車両に終点情報D1を割り当てる。また、同様に、放出する車両(Y台)のうち、Y×X2/(X1+X2+…+Xn)台の車両に終点情報D2を割り当てる。以下同様である。任意のリンクで起点交通量を生成した場合でも、いずれかのリンクの車両が突出して増加する事態、あるいは減少する事態を防止することができ、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
本発明によれば、交通状況にかかわらず交通評価指標の再現性を向上させることができる。
以下、本発明に係る交通評価装置、該交通評価装置を実現するためのコンピュータプログラム及び前記交通評価装置による交通評価方法の実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本実施の形態に係る交通評価装置の一例である交通シミュレータにおける車両挙動の例を示す模式図である。交通シミュレータは、複数の模擬車両の模擬走行により交通評価指標を出力する。交通シミュレータは、入力データとして、例えば、車両の走行の起終点情報を含む交通量(例えば、OD交通量、OはOrigin、DはDestinationの意味である)、車両の走行速度、加速減速特性などの交通情報が所与として取り扱われている。OD交通量は、車両の起点(出発地)と終点(目的地)との間の交通量を求めたもので、例えば、市や町などの行政区域の単位毎に発生交通量と消滅交通量とを含む。OD交通量は、国又は自治体が定期的に実施する統計調査の結果得られた調査統計データなどが用いられる。
交通シミュレータは、予め車両の移動モデル、すなわち、車両の挙動を模した計算式を内包しており、上述の入力データを当該計算式に当てはめることにより、複数の車両を模擬的に走行させることにより、単独交差点、路線及び市街地などの道路網における渋滞長、旅行時間などの交通評価指標を出力する。この場合、道路網は、複数のリンク(例えば、交差点と交差点とを繋ぐ道路で上り及び下りの2つの方向を有する)とリンク同士が交差する点であるノード(例えば、交差点)などで構成される。図1では、道路網の一部として3つのノードと2つのリンクとを例示している。
図2は車両の起終点情報の一例を示す模式図である。交通シミュレータで交通評価指標を再現する場合、単独交差点または路線のように比較的単純な道路網では、車両の走行の起終点情報は、道路の両端点に設定される。しかし、市街地などの複数の路線が交差する比較的複雑な道路網では、シミュレーション区域Sの内外を出発地(起点)とする交通、目的地(終点)とする交通を再現するために、個々の車両に走行の起点(出発地)と終点(目的地)の情報を与える。
図2に示すように、道路網は、交差点に相当する複数のノードと、交差点同士を繋ぐ道路をリンクとして構成される。図2の例では、道路網の一部又は全部にシミュレーション区域Sを設定する。シミュレーション区域Sの外側には、起点終点A1、A2、…A12がある。また、シミュレーション区域Sの内側には、起点終点B1、B2、B3がある。なお、起点終点は一例であって、図2の例に限定されるものではない。図2に示すように、一例として、起点をA5とし終点をA6とする外々交通、起点をA5とし終点をB1とする外内交通、起点をB2とし終点をB3とする内々交通、起点をB2とし終点をA8とする内外交通などがある。OD交通量などに基づいて、個々の車両は、それぞれの起点と終点が与えられ、車両の移動モデルに従って、起点から終点までの走行経路等の車両の挙動を求めることができる。
図3はOD交通量の一例を示す説明図である。図3の例は、図2の起点終点A1、A5、A6、A10、A12とした場合の交通量が所与としている。なお、起点終点の例は一例であり、これに限定されるものではない。図3の例では、例えば、起点をA1とし終点をA5とする交通量が所定時間内に40台あることを示す。また、起点をA10とし終点をA5とする交通量が150台あることを示す。他も同様である。なお、図3に示す車両の台数は、単に模式的に示したものであり、値は例示であって限定されるものではない。
図4は所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の一例を示す模式図である。図4の例では、2つのリンク1、リンク2を例示している。交通シミュレータは、所与のOD交通量に基づいて、シミュレーション区域S内の各リンクでの発生交通量と消滅交通量とを算出する。図4に示すように、リンク1の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1の途中で交通量の発生または消滅があってもよい。同様に、リンク2の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。なお、リンク1とリンク2とが交わる点(交差点)では、他のリンク(不図示)からの流入交通や流出交通が存在する。
そして、各リンクで算出された発生交通量及び消滅交通量を用いて交通評価指標としての推定渋滞長を算出(推定)する。本実施の形態に係る交通シミュレータ(交通評価装置)は、一例として推定渋滞長と実測渋滞長との差分に応じた車両の台数をリンク単位で補正(放出又は回収)することにより、交通評価指標の再現性を向上させるものである。
図5は所与のOD交通量に基づいた発生交通量及び消滅交通量の他の例を示す模式図である。図5の例も図4の例と同様に、交通シミュレータは、所与のOD交通量に基づいて、シミュレーション区域S内の各リンクでの発生交通量と消滅交通量とを算出する。図5に示すように、リンク1の上流で発生交通量が存在し、リンク1の下流で消滅交通量が存在する。
そして、各リンクで算出された発生交通量及び消滅交通量を用いて交通評価指標としての推定交通量を算出(推定)する。本実施の形態に係る交通シミュレータ(交通評価装置)は、他の例として推定交通量と実測交通量との差分に応じた車両の台数をリンク単位で補正(放出又は回収)することにより、交通評価指標の再現性を向上させるものである。なお、本実施の形態の交通シミュレータは、シミュレーション対象のリンクの交通状況に応じて、交通評価指標として、渋滞長又は交通量を使い分ける。以下、本実施の形態の交通シミュレータについて説明する。なお、交通評価指標は、渋滞長又は交通量に限定されるものではなく、旅行時間又は待ち行列台数(待ち行列長)などでもよい。
図6は本実施の形態に係る交通評価装置の一例としての交通シミュレータ10の構成例を示すブロック図である。交通シミュレータ10は、車両の移動モデルを表す計算式に基づいて演算を行うシミュレータエンジン部11、所与のOD交通量に基づいて発生交通量及び消滅交通量を算出する交通量算出部12、交通量算出部12で算出された交通量に基づいて各リンクでの推定渋滞長を算出(推定)する推定渋滞長算出部13、交通量算出部12で算出された交通量に基づいて各リンクでの推定交通量を算出(推定)する推定交通量算出部14、各リンクでの渋滞の有無を判定する渋滞判定部15、各リンクで起点交通量及び終点交通量を生成する起点終点生成部16、車両の補正台数(放出台数又は回収台数)を算出する補正台数算出部17、リンク下流の交差点で青信号の間に流出する流出台数を算出する流出台数算出部18、起点終点生成部16で生成した終点交通量又は起点交通量に対応させて当該リンクの下流側で交通量を発生又は消滅させる発生消滅部19、所定の情報を記憶する記憶部20、起点交通量としてリンクに放出する車両に識別符号を付与する識別符号付与部21、起点交通量としてリンクに放出する車両に終点情報を割り当てる終点情報割当部22などを備える。
交通シミュレータ10には、入力データとして、例えば、車両の走行速度、加速減速特性、車両の走行の起点終点情報、交通量、実測渋滞長、実測交通量などのデータが与えられる。なお、図5には例示していないが、リンクが交差する各交差点の信号灯器の信号制御情報も入力データとして交通シミュレータ10に提供される。
交通シミュレータ10は、入力データを用いて、交通評価指標である各リンクの渋滞長(推定渋滞長)、車両の旅行時間、交通量、待ち行列台数などを出力する。なお、交通評価指標は、道路網を表す地図上で表示される。なお、交通評価指標に環境汚染物質(二酸化炭素など)の排出量(例えば、環境指標)を含めることもできる。渋滞長又は交通量を再現性よく求めることができる場合、旅行時間や環境汚染物質の排出量も渋滞長に比例するので再現性よく求めることが可能となる。
交通量算出部12は、OD交通量(車両の走行の起終点情報を含む交通量)を用いて起点と終点との間の任意のリンクで発生する発生交通量及び任意のリンクで消滅する消滅交通量を算出する。
推定渋滞長算出部13は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を算出(推定)する。なお、推定渋滞長を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部20に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。
推定交通量算出部14は、交通量算出部12で算出した交通量に基づいて、任意のリンクでの推定交通量を算出(推定)する。なお、推定交通量を求める場合、車両の走行速度、加速減速特性、当該リンク両端の交差点での信号現示、リンク長などのパラメータを記憶部20に記憶しておき、当該パラメータを使用することができる。
渋滞判定部15は、各リンクでの実測渋滞長及び推定渋滞長算出部13で推定した推定渋滞長が所定の渋滞閾値未満であるか否かを判定する判定手段としての機能を有する。すなわち、渋滞判定部15は、各リンクでの実測渋滞長及び推定した推定渋滞長が所定の渋滞閾値未満であるか否かを判定する。渋滞閾値は、各リンクに固有の固有値であり、例えば、車両感知器の設置間隔(例えば、200m、250mなど)である。
起点終点生成部16は、交通量算出部12で算出した各リンクでの発生交通量及び消滅交通量(ダミー車両でない車両に相当する)とは別に、交通評価指標を実測値に近づけるために各リンクで起点交通量又は終点交通量(ダミー車両とダミー車両でない車両とが混在する)を生成する。起点終点生成部16で生成する起点交通量はリンクに放出する車両の台数(補正台数)に相当し、終点交通量はリンクから回収する車両の台数(補正台数)に相当する。以下、補正台数を補正項とも称し、推定渋滞長を実測渋滞長に一致させるための補正項を渋滞長補正項(渋滞長補正)と称し、推定交通量を実測交通量に一致させるための補正項を交通量補正項(交通量補正)と称する。なお、本実施の形態で、ダミー車両とは、実測と交通シミュレータ10の推定とを合致させるために放出又は回収する便宜上の車両である。
図7は交通状況と補正項との関係を示す説明図である。図7に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、渋滞判定部15により、任意のリンクで推定渋滞及び実測渋滞の両者がないと判定された場合、当該リンクにおいて交通量補正を行う。また、交通シミュレータ10は、渋滞判定部15により、任意のリンクで推定渋滞及び実測渋滞のいずれか一方又は両者があると判定された場合、当該リンクにおいて渋滞長補正を行う。
以下、渋滞長補正及び交通量補正について説明する。まず、渋滞長補正について説明する。上述のとおり、渋滞長補正では、対象とするリンクで実測上、あるいはシミュレーション上のいずれか又は両方で渋滞ありと判定された場合に、当該リンクでの車両の実測渋滞長と推定渋滞長算出部13で算出した推定渋滞長との差分である推定誤差がゼロ又は最小になる(推定誤差が後述のリンクの固有値に略一致する)ように起点交通量又は終点交通量を生成する。
図8は本実施の形態の交通シミュレータ10による渋滞長補正の一例を示す模式図である。図8に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、5分など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミー車両を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)として正規の車両を回収することにより、推定渋滞長が実測渋滞長と一致するように推定渋滞長を補正する。
図8の例では、リンク1では実測渋滞長が推定渋滞長より長いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、正規の車両に加えてダミー車両を走行させて渋滞長を長くする。
また、リンク2では実測渋滞長が推定渋滞長より短いので、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、正規の車両の一部をシミュレーション対象外の抜け道を走行させることにより渋滞長を短くする。なお、補正台数の算出方法は後述する。
上述のように、実測値として得られたOD交通量から求めた任意のリンクでの発生交通量又は消滅交通量とは別に、リンク単位で起点交通量又は終点交通量を生成することにより、各リンク単位で渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。また、それぞれのリンクでの再現性を高めることができるので、道路網全体での再現性も向上させることができる。
また、算出した発生交通量及び消滅交通量に基づいて、任意のリンクでの車両の推定渋滞長を推定し、当該リンクでの車両の実測渋滞長及び推定渋滞長に基づいて、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成する。これにより、各リンク単位で交通評価指標の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、各リンクで渋滞長などの交通評価指標の再現性を向上させることができる。
具体的には、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)に応じた車両台数の起点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より短い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
また、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、推定渋滞長と実測渋滞長との差分(推定誤差)に応じた車両台数の終点交通量を生成する。これにより、当該リンクで、算出された交通量により求めた渋滞長が実測値より長い場合でも、推定渋滞長の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
発生消滅部19は、起点終点生成部16で任意のリンクで起点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させる。任意のリンクで起点交通量を生成した場合、すなわち、当該放出点から車両を放出した場合、当該リンクでの交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで起点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を消滅(再回収)させることにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
また、発生消滅部19は、起点終点生成部16で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させる。任意のリンクで終点交通量を生成した場合、すなわち、当該回収点で車両を回収した場合、当該リンクでの交通量が減少するので下流への流入交通量が減少し、下流リンクでの推定渋滞長と実測渋滞長との差異を生じる可能性がある。任意のリンクで終点交通量を生成した場合に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させることにより、任意のリンクで終点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。また、任意のリンクで終点交通量を生成した場合(車両を回収した場合)に、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)するときには、回収時に回収した車両の終点(本来の消滅地点)を記憶しておき、再放出の際に各車両に記憶しておいた終点を与えることもできる。なお、他の方法で終点を与えてもよい。
図9はリンクの下流側の交通状況に影響を与えないための渋滞長補正時の再放出及び再回収の一例を示す模式図である。交通シミュレータ10では、渋滞長又は旅行時間などの交通評価指標を実測値と合わせるために、推定渋滞長などを補正した場合、そのままでは、その影響が下流のリンクに及ぶために、下流の渋滞長及び旅行時間などが変化する。例えば、上流リンクで推定渋滞長を実測渋滞長に合わせるため、起点交通量として車両が放出された場合、当該リンクからの流出交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、これが下流リンクの推定渋滞長に差異を生じさせる可能性がある。
上述の図6の例において、発生消滅部19は、必須の構成ではない。すなわち、交通量(車両)の再回収及び再放出は、必須ではなく省略することができる。再回収及び再放出を省略した場合には、放出または回収する補正台数による下流リンクへの影響は、下流リンクでの補正処理に委ねることができる。
そこで、本実施の形態では、図9に示すように、各リンクでの補正項(起点交通量又は終点交通量の生成)を下流リンクに伝えないように、リンクに放出された車両はリンク下流の交差点出口で再回収し、また、リンク上で回収された車両はリンク下流の交差点出口で再放出する。これにより、補正による影響を下流リンクに与えることはない。
次に、補正台数の算出方法について説明する。補正台数算出部17は、実測渋滞長と推定渋滞長との差分(推定誤差)の絶対値に渋滞内の車両密度を乗算し、乗算値に当該リンクに固有の渋滞長閾値を加算又は減算して車両の補正台数を算出する。例えば、推定誤差が正である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より長い場合、リンクの渋滞長閾値を乗算値から減算し、推定誤差が負である場合、すなわち、実測渋滞長が推定渋滞長より短い場合、リンクの渋滞長閾値を乗算値に加算する。
推定渋滞長と実測渋滞長との差分の絶対値に渋滞内の車両密度を乗算することにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を求めることができる。リンクの固有値は、例えば、リンク(道路)上の許容範囲に相当する車両台数である。許容範囲は、例えば、車両感知器の設置密度(例えば、車両感知器の設置間隔が250mであれば、許容範囲は250m)であり、この場合、リンクの固有値は、車両感知器の設置密度に車両の走行密度を乗算した値とすることができる。すなわち、リンクの固有値は、当該リンクで車両を感知することができる範囲に相当する車両台数である。なお、固有値はゼロであってもよい。起点交通量として補正台数の車両を起点で放出し、又は終点交通量として補正台数の車両を終点で回収する。これにより、推定渋滞長と実測渋滞長との差分である推定誤差に相当する車両の台数を、各リンクで放出又は回収させることができる。
起点交通量として起点から車両を放出する場合、あるいは、終点交通量として終点で車両を回収する場合、放出及び回収する地点は、当該リンクの最上流、渋滞末尾地点、あるいはリンクの任意の点とすることができる。
また、車両の放出及び回収は、例えば、補正台数を10台とした場合、(1)補正台数10台を、補正周期(例えば、5分)の最後に一度で行う方法、(2)補正台数10台を補正周期(例えば、5分)の間を等間隔(例えば、30秒間隔)で一様に行う方法、(3)リンク下流の信号表示に同期させて(例えば、赤信号の時間帯)行う方法などがある。また、車両の放出の方法に限れば、(4)リンク上を走行する車両の挙動を妨げないように走行する車両の間隔が、例えば4秒以上ある場合に行う方法などがある。
交通シミュレータ10の構成によっては、上述の(1)の方式を採用することにより、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
また、交通シミュレータ10の構成によっては、上述の(3)の方法を採用すれば、すなわち、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点での信号現示に同期して車両を放出するようにすれば、補正台数の車両がリンクに渋滞として留まらないという事態を防止し、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。
また、上述の(2)及び(4)の方法を採用して車両を任意のリンクで放出した場合、当該リンクの下流交差点において青信号で流れ出し、補正台数が渋滞として溜まらず推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることができない場合がある。以下、青信号で流出する台数を算出し、流出台数を予め放出する台数に加算する方法について説明する。
流出台数算出部16は、補正台数の車両を放出する場合、車両の放出点を含むリンクの下流交差点の青信号で流出する流出台数を算出する。より具体的には、流出台数算出部16は、起点交通量又は終点交通量の生成周期である補正周期(例えば、5分)の間のリンクの下流交差点の青信号時間と、交通流率(例えば、飽和交通流率)との積算値及び放出する車両台数に基づいて流出台数を算出する。例えば、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出する。
図10は青信号で流出する流出台数の算出例を示す模式図である。実測渋滞長と推定渋滞長との差分である推定誤差が正である場合(すなわち、起点交通量として車両を放出する場合)に、補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値が放出台数より大きいときは、青信号での流出台数を、(補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値−放出台数)により算出する。ここで、放出台数は、前回の補正周期のタイミングから今回の補正周期のタイミングまでの間に当該リンクから放出した車両の台数である。
補正周期の間の青時間と飽和交通流率との積算値が放出台数より小さいときは、青信号での流出台数をゼロとする。また、推定誤差が負である場合(すなわち、終点交通量として車両を回収する場合)には、青信号での流出台数をゼロとする。
青信号で流出する流出台数を放出台数に加算しておくことで、放出した車両がリンクの下流交差点の青信号で流出して補正台数の車両の一部又は全部が青信号で交差点に流出し、リンクに渋滞として留まらないために、推定渋滞長が実測渋滞長に合わなくなるという事態が生じたとしても、流出分の台数を補正台数に加味するので、車両の放出方法に拘わらず、確実に推定渋滞長を実測渋滞長に合わせることが可能となる。また、積算値が放出台数より大きい場合、積算値と放出台数との差を流出台数として算出することにより、青信号の時間帯に交差点から流出する台数を予め補正台数に加算しておくことができる。
次に、交通量補正について説明する。上述のとおり、交通量補正では、対象とするリンクで実測上、あるいはシミュレーション上の両方で渋滞なしと判定された場合に、当該リンクでの車両の実測交通量と推定交通量算出部14で算出した推定交通量との差がゼロ又は最小になるように起点交通量又は終点交通量を生成する。まず、渋滞長補正に代えて交通量補正を行う必要がある理由について説明する。
図11はリンクで実測される実測渋滞長の一例を示す模式図である。図11の例では、1つのリンクを例示している。図11Aは、リンクに対応する道路区間に車両感知器が設置されていない場合を示す。また、図11B及び図11Cは、リンクに対応する道路区間の地点Sに車両感知器が設置されている場合を示す。
図11Aのように、リンクに車両感知器が設置されていない場合には、当該リンクでの渋滞長の実測値を計測することができないため、渋滞の有無を判定することができない。従って、図11Aに示す場合では、結局は当該リンクに渋滞が発生していないと判定せざるを得ない。
図11Bのように、リンクの地点Sに車両感知器が設置されている場合であっても、車両の待ち行列の最後尾が地点Sよりも下流側にあるときには、車両感知器で渋滞を検出することができないので、渋滞の有無を判定することができない。従って、図11Bに示す場合では、結局は当該リンクに渋滞が発生していないと判定せざるを得ない。
一方、図11Cのように、車両の待ち行列の最後尾が地点Sを超えて上流側にあるときには、車両感知器で渋滞を検出することができるので、渋滞ありと判定することができ、渋滞長は、リンク下流の交差点から地点Sまでの距離に相当する値又は当該値を基にした補正値として実測することができる。すなわち、図11A、図11Bに示すように、実際の道路区間の中には、渋滞ありとは判断することができないので、渋滞なしと判断される場合があった。なお、上述の補正値とは、複数の車両感知器を設置している場合、隣接する車両感知器での車両検出結果に基づいて、隣接する車両感知器の間のどの位置まで渋滞しているかを求めることである。
図12はシミュレーションでの経路探索の一例を示す模式図である。図12に示すように、幹線道路R1は、幹線道路R2、R3と交差点C1、C5で交差している。また、幹線道路R4は、幹線道路R2、R3と交差点C2、C6で交差している。また、幹線道路R1とR4とを接続する接続道路R5が、交差点C3、C4で交差している。シミュレーション対象外の細街路R101は、幹線道路R2、接続道路R5、幹線道路R3とそれぞれ交差点C7、C8、C9で交差している。シミュレーション対象外の細街路R102は、幹線道路R2、接続道路R5とそれぞれ交差点C13、C10で交差している。また、シミュレーション対象外の細街路R103は、接続道路R5、幹線道路R3とそれぞれ交差点C11、C12で交差している。シミュレーション対象外の細街路R104は、幹線道路R4と交差点C4で交差している。
シミュレーションで経路選択処理を行う場合、幹線道路同士を接続する接続道路、あるいはシミュレーション対象外の細街路と交差する接続道路では、右左折回数が多くなる(例えば、右折又は左折の回数が増える都度、所定のコストが加算される)ので、経路として選択されにくくなる。
このため、図12において、実線で示す経路、すなわち、接続道路R5を経由する経路では、交差点C3又はC4での左折又は右折回数が加算され、コスト(旅行時間)が増加するため選択されず、代わりに図12の破線で示す経路が選択される。このため、接続道路R5では、シミュレーション上の交通量が実際の交通量よりも少なくなる傾向があり、シミュレーション上で渋滞が発生しないことになる。
上述の図11及び図12で説明したような場合、すなわちシミュレーション対象の道路区間で実際の渋滞とシミュレーション上での渋滞の両者が発生していない場合、現状の渋滞長と評価条件設定後の渋滞長とを比較することができず、交通シミュレータによる現状の交通評価指標を再現することができない。そこで、本実施の形態の交通シミュレータ10では、実際の渋滞とシミュレーション上での渋滞の両者が発生していない場合には、渋滞長補正に代えて交通量補正を行う。なお、評価条件は、例えば、工事、事故又は災害などによる交通規制、道路の新設、交差点の改良などの交通環境変化、交通情報の提供、交通信号制御の調整などの交通対策を含む。
図13は本実施の形態の交通シミュレータ10による交通量補正の一例を示す模式図である。図13に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、5分など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミー車両を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)として正規の車両を回収することにより、推定交通量が実測交通量と一致するように推定交通量を補正する。
図13の例では、リンク1では実測交通量が推定交通量より多いので、実測交通量と推定交通量との差に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、正規の車両に加えてダミー車両を走行させて交通量を多くする。
また、リンク2では実測交通量が推定交通量より少ないので、実測交通量と推定交通量との差に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、正規の車両の一部をシミュレーション対象外の抜け道を走行させることにより交通量を少なくする。
図14はリンクの下流側の交通状況に影響を与えないための交通量補正時の再放出及び再回収の一例を示す模式図である。交通シミュレータ10では、推定交通量を実測値と合わせるために、推定交通量を補正した場合、そのままでは、その影響が下流のリンクに及ぶために、下流の交通量が変化する。例えば、上流リンクで推定交通量を実測交通量に合わせるため、起点交通量として車両が放出された場合、当該リンクからの流出交通量が増加するので下流への流入交通量が増加し、これが下流リンクの推定交通量に差異を生じさせる可能性がある。
そこで、本実施の形態では、図14に示すように、各リンクでの補正項(起点交通量又は終点交通量の生成)を下流リンクに伝えないように、リンクに放出された車両はリンク下流の交差点出口で再回収し、また、リンク上で回収された車両はリンク下流の交差点出口で再放出する。これにより、補正による影響を下流リンクに与えることはない。
上述のように、各リンク単位で交通量の実測値と推定値を合わせるように、起点交通量又は終点交通量を生成するので、交通量が少ない場合などの交通状況にかかわらず、各リンクで現状を正しく再現することができ、工事又は交通事故等による交通規制などの評価条件の変化による影響を反映した交通状況も正しく評価又は予測することが可能となる。
また、シミュレーション対象のリンクで実測渋滞長及び推定渋滞長が渋滞閾値未満であると判定された場合、当該リンクで起点交通量又は終点交通量を生成することにより、シミュレーション対象のリンクで実際の渋滞とシミュレーション上での渋滞の両者が発生していない場合でも、起点交通量又は終点交通量を生成することにより、シミュレーション対象の全リンクでの交通状況を実際の交通状況に近似させることができる。
また、実測交通量が推定交通量より多い場合、起点交通量として、実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出することにより、当該リンクで、交通量の実測値が推定された交通量より多い場合でも、推定交通量の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
また、実測交通量が推定交通量より少ない場合、終点交通量として、推定交通量と実測交通量との差分に応じた台数の車両を回収することにより、当該リンクで、交通量の実測値が推定された交通量より少ない場合でも、推定交通量の再現性を確保することができ、道路網の各リンクで同様の処理を行うことで、道路網の各リンクのみならず道路網全体としての交通評価指標の再現性を向上させることができる。
識別符号付与部21は、起点終点生成部16で起点交通量としてリンクに車両(ダミー車両)を放出する場合、当該車両を識別する識別符号を付与する。発生消滅部19は、当該リンクの下流側で終点交通量として車両(ダミー車両)を回収する場合、識別符号が付与された車両を優先して回収する。任意のリンクで起点交通量として車両を放出した場合に、当該リンクの下流側(当該リンク及び当該リンクと異なるリンクを含む)で車両を回収するときに、放出した識別符号が付与された車両を優先的に回収することにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
発生消滅部19は、上述のように、起点終点生成部16で任意のリンクで終点交通量を生成した場合、当該リンクの下流側で同等の交通量を発生(再放出)させる代わりに、次のように交通量を発生(再放出)させてもよい。発生消滅部19は、識別符号が付与された車両(ダミー車両)を優先して回収する場合、当該ダミー車両の再放出を禁止する禁止手段としての機能を有する。すなわち、ダミー車両を優先して回収した場合、回収したダミー車両は消滅させたままとする。ダミー車両は、実測とシミュレータでの推定とを合致させるために回収した便宜上の車両であるので、回収してそのまま消滅させたとしても問題がなく、不要な処理を省略することができる。なお、必ずしもダミー車両の識別符号を付与する必要はなく、仮に識別符号を付与しない場合でもダミー車両を回収した場合、当該ダミー車両の再放出を禁止することができる。また、ダミー車両でない車両を回収した場合には、再放出を禁止することなく、下流側で同等の交通量を発生させる。ダミー車両でない車両については、回収してそのまま消滅させた場合、本来の目的地へ到達する交通量が減少し、実際と合わなくなる可能性があるからである。
終点情報割当部22は、起点終点生成部16で起点交通量として車両(ダミー車両)をリンクに放出する場合、当該リンクに存在する1又は複数の車両の終点情報毎の割合に応じて、放出する車両に終点情報を割り当てる。終点情報の割り当ては、例えば、任意のリンクで起点交通量を生成した場合(車両をリンクに放出した場合)に、当該リンクの下流交差点出口で交通量(車両)を再回収しないときに行う。当該リンクに存在(走行)する車両の終点情報の割合が、例えば、終点情報D1の車両がX1台、終点情報D2の車両がX2台、…、終点情報Dnの車両がXn台であるとすると、当該リンクに放出する車両(Y台)のうち、Y×X1/(X1+X2+…+Xn)台の車両に終点情報D1を割り当てる。また、同様に、放出する車両(Y台)のうち、Y×X2/(X1+X2+…+Xn)台の車両に終点情報D2を割り当てる。以下同様である。任意のリンクで起点交通量を生成した場合でも、いずれかのリンクの車両が突出して増加する事態、あるいは減少する事態を防止することができ、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。
なお、当該リンクに存在(走行)する車両の終点情報の割合を求める場合、車両をリンクに放出する時点で当該リンクに存在する車両の終点情報を用いてもよく、あるいは車両をリンクに放出する時点から直近の所定時間(例えば、5分など)の間に当該リンクに存在する車両の終点情報を用いてもよい。
補正周期毎の推定交通量が推定することができる場合には、起点終点生成部16は、任意のリンクで起点交通量を放出する場合、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分及び所定の交通量閾値の差に応じた台数の車両を放出する。交通量閾値は、例えば、シミュレータの構成に応じて適宜設定することができ、0でもよく、0以外の値でもよい。例えば、所定の交通量閾値を0とする場合に、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分を実測交通量で除算した値が交通量差閾値(例えば、0.2)以上であるときは、実測交通量が推定交通量より大きければ実測交通量と推定交通量との差分に応じた車両を放出する。シミュレータの構成上、起点交通量だけでなく終点交通量も生成させる場合には、交通量差閾値は0.2など小さくすることができ、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出する。また、シミュレータの構成上、起点交通量だけを生成し、終点交通量を生成しない場合には、実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出したときに、車両を回収する処理が行われないので、放出する車両台数が過多となる事態も起こり得るので、この場合には、交通量差閾値を、例えば、0.8程度に大きくして当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出する。
また、所定の交通量閾値を0以外とする場合には、起点終点生成部16は、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分から所定の交通量閾値(例えば、実際の交通量の20%程度の値)を減算した値が正であれば、当該値の台数の車両を放出する。シミュレータの構成上、起点交通量だけでなく終点交通量も生成させる場合には、交通量閾値は実際の交通量の20%程度の小さい値とすることができる。また、シミュレータの構成上、起点交通量だけを生成し、終点交通量を生成しない場合には、実測交通量と推定交通量との差分に応じた台数の車両を放出したときに、車両を回収する処理が行われないので、放出する車両台数が過多となる事態も起こり得るので、この場合には、交通量閾値を、実際の交通量の80%程度のように大きくして、当該リンクでの実測交通量と推定交通量との差分及び所定の交通量閾値の差に応じた台数の車両を放出する。リンクでの実測交通量と推定交通量との差分及び所定の交通量閾値の差に応じた台数の車両を放出することにより、実際の交通量とシミュレーション上の交通量(推定交通量)とを一致させることができる。
一方、補正周期毎の推定交通量が推定することができない場合には、起点終点生成部16は、任意のリンクで起点交通量を放出する場合、当該リンクでの実測交通量と当該リンクでの車両密度、車両速度及び所定時間の乗算値との差分から所定の交通量閾値を減算した値に応じた台数の車両を放出する。すなわち、推定交通量の代わりに車両密度、車両速度及び所定時間の乗算値を用いる。
車両密度は、当該リンクで渋滞区間が存在する場合、渋滞区間を除いた区間での車両密度である。また、車両密度は、任意の時点での値でもよく、任意の周期毎に起点交通量を放出する場合には、複数周期分の平均値でもよく、あるいは前回周期での車両密度と今回周期の車両密度との重み付け平均でもよい。
重み付け平均した車両密度は、例えば、{前回の車両密度×前回の非渋滞区間長×(1−k)+今回の非渋滞区間に存在する車両台数×k}/{前回の非渋滞区間長×(1−k)+今回の非渋滞区間長×k}により求めることができる。ここで、kは重み係数であり、例えば、0.2などである。
所定時間は、例えば、起点交通量を生成(放出)する処理の周期(補正周期)である。すなわち、所定時間の間の車両密度と車両速度との乗算により交通量を推定することができる。これにより、経路探索時に経路として選択されにくくなるリンクが存在する結果、当該リンクでの交通量が減少又は0になった場合でも、実際の交通量とシミュレーション上の交通量(推定交通量)とを一致させることができる。
次に、本実施の形態の交通シミュレータ10の動作について説明する。図15、図16、図17及び図18は本実施の形態の交通シミュレータ10の処理手順を示すフローチャートである。交通シミュレータ10は、補正周期(例えば、5分)が経過したか否かを判定し(S11)、補正周期を経過した場合(ステップS11でYES)、すなわち、前回の補正のタイミングから5分経過した場合、対象リンクの実測渋滞長を取得し(S12)、推定渋滞長を算出する(S13)。
交通シミュレータ10は、実測渋滞長が渋滞閾値未満であり、かつ推定渋滞長が渋滞閾値未満であるか否かを判定する(S14)。なお、交通シミュレータ10は、実測渋滞長を取得することができない場合には、実測渋滞長が渋滞閾値未満であると判定する。
実測渋滞長が渋滞閾値未満であり、かつ推定渋滞長が渋滞閾値未満である場合(S14でYES)、交通シミュレータ10は、交通量補正を行うべく、当該リンクの実測交通量を取得し(S15)、推定交通量を算出する(S16)。
交通シミュレータ10は、実測交通量から推定交通量を減算することにより、補正台数を算出し(S17)、補正台数の絶対値を実測交通量で除算した値が交通量閾値以上であるか否かを判定する(S18)。補正台数の絶対値を実測交通量で除算した値が交通量閾値(例えば、0.2)以上である場合(S18でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数が0を超えるか(正であるか)否かを判定する(S19)。
補正台数が0を超える(正である)場合(S19でYES)、すなわち実測交通量が推定交通量よりも多い場合、交通シミュレータ10は、補正台数の車両を当該リンクに放出し(S20)、補正台数を時刻(補正周期)とともに記録する(S22)。補正台数が0を超えない(負である)場合(S19でNO)、すなわち実測交通量が推定交通量よりも少ない場合、交通シミュレータ10は、補正台数の車両を当該リンクから回収し(S21)、ステップS22の処理を行う。
交通シミュレータ10は、リンクに放出した車両を当該リンク下流交差点で再回収し(S23)、リンクから回収した車両を当該リンク下流交差点で再放出する(S24)。交通シミュレータ10は、起点(出発地)から車両を発生し、終点(目的地)で車両を回収し(S25)、信号灯器の信号灯色を、例えば、0.1秒進め、車両の移動モデルに従って車両を走行させ(S26)、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)を終了する。
交通シミュレータ10は、補正台数の絶対値を実測交通量で除算した値が交通量閾値以上でない場合(S18でNO)、交通量補正を行わずにステップS23以降の処理を行う。また、補正周期を経過していない場合(ステップS11でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS23以降の処理を行う。
実測渋滞長が渋滞閾値未満であり、かつ推定渋滞長が渋滞閾値未満でない場合(S14でNO)、すなわち、実測渋滞長が渋滞閾値以上であるか、あるいは推定渋滞長が渋滞閾値以上であるかのいずれかの条件を満たす場合、あるいは両者の条件を満たす場合、交通シミュレータ10は、推定誤差(実測渋滞長と推定渋滞長との差分)を算出(推定)する(S27)。
交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより大きいか否かを判定し(S28)、推定誤差がゼロより大きい場合(S28でYES)、(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きいか否かを判定する(S29)。
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きい場合(S29でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S30)、算出した補正台数の車両(ダミー車両)を起点交通量としてリンクに放出する(S31)。
交通シミュレータ10は、補正台数を時刻(補正周期)とともに記録し(S32)、ステップS23以降の処理を行う。
(推定誤差−リンクの固有値)がゼロより大きくない場合(S29でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS23以降の処理を行う。推定誤差がゼロより大きくない場合(S28でNO)、交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロより小さいか否かを判定し(S33)、推定誤差がゼロより小さい場合(S33でYES)、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さいか否かを判定する(S34)。
(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さい場合(S34でYES)、交通シミュレータ10は、補正台数を算出し(S35)、算出した補正台数の車両(正規の車両)を終点交通量としてリンクから回収し(S36)、ステップS24以降の処理を行う。
推定誤差がゼロより小さくない場合(S33でNO)、交通シミュレータ10は、推定誤差がゼロであるとして、補正を行わずにステップS24以降の処理を行う。また、(推定誤差+リンクの固有値)がゼロより小さくない場合(S34でNO)、交通シミュレータ10は、補正を行わずにステップS24以降の処理を行う。
本実施の形態の交通シミュレータ10の1つの目的が、シミュレーション上の交通量が実際の交通量よりも少なくなる傾向を是正することにあるので、起点交通量だけを生成し、例えば、上述の図15乃至図18で例示した処理において、ステップS21の「リンクからの車両の回収」(終点交通量の生成)処理を省略することもできる。シミュレーションの補正周期によっては、リンクに存在する交通量が変動することで予想以上に増える場合もあり得るため、ステップS21の処理を省略する場合には、ステップS18における交通量閾値の値を若干大きめの値(例えば、0.8など)に設定することにより、推定交通量が少なくなり過ぎることを抑制することができる。なお、ステップS21の処理を省略する場合には、ステップS24の処理も省略する。
上述の図15乃至図18で例示した処理は、シミュレーション周期(例えば、0.1秒)経過の都度繰り返し行われる。また、ステップS23、S24の処理を行わずに省略することもできる。この場合は、当該リンクの下流リンクで車両の放出又は回収を行う補正で調整する。当該リンクでの補正は、下流リンクに影響を与えるが、下流リンクでも補正処理が行なわれるので、推定渋滞長と実測渋滞長の差異、あるいは推定交通量と実測交通量の差異を小さくすることができる。
上述の交通シミュレータ10は、CPU、RAMなどを備えた汎用コンピュータを用いて実現することもできる。すなわち、図15乃至図18に示すような、各処理手順を定めたプログラムコードをコンピュータに備えられたRAMにロードし、プログラムコードをCPUで実行することにより、コンピュータ上で交通シミュレータ10を実現することができる。
交通シミュレータ10を用いる評価では、一般的に現状の交通評価指標と評価条件設定後の交通評価指標との相対比較が行なわれるが、図15乃至図18に例示した処理手順で得られた回収の補正値及び放出の補正値は、評価条件設定後の評価においても全く同様に回収の補正値及び放出の補正値として使うことができる。
上述のとおり、本実施の形態の交通シミュレータ10は、対象とする道路網の任意のリンク(道路)のみならず、道路網全体としても、交通評価指標の再現性を向上させることができる。また、交通評価指標の再現性が高まることにより、評価条件設定後の交通評価指標を正しく評価することが可能となる。
上述の実施の形態では、車両の走行の起終点情報を用いる構成であったが、これに限定されるもではない。例えば、任意のリンクでの発生交通量と消滅交通量を予め設定しておいて、設定した発生交通量と消滅交通量を用いることもできる。
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
図8は本実施の形態の交通シミュレータ10による渋滞長補正の一例を示す模式図である。図8に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、5分など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミー車両又はダミー車両でない車両(正規の車両)を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)としてダミー車両又は正規の車両を回収することにより、推定渋滞長が実測渋滞長と一致するように推定渋滞長を補正する。
図13は本実施の形態の交通シミュレータ10による交通量補正の一例を示す模式図である。図13に示すように、本実施の形態の交通シミュレータ10は、リンク単位であって所定の補正周期(例えば、5分など)の経過の都度、起点交通量(交通量の起点)としてダミー車両又はダミー車両でない車両(正規の車両)を放出し、又は終点交通量(交通量の終点)としてダミー車両又は正規の車両を回収することにより、推定交通量が実測交通量と一致するように推定交通量を補正する。
図13の例では、リンク1では実測交通量が推定交通量より多いので、実測交通量と推定交通量との差に相当する台数(補正台数)の車両をリンク1で放出する。すなわち、正規の車両に加えてダミー車両(正規の車両又はダミー車両)を走行させて交通量を多くする。
また、リンク2では実測交通量が推定交通量より少ないので、実測交通量と推定交通量との差に相当する台数(補正台数)の車両をリンク2で回収する。すなわち、正規の車両又はダミー車両の一部をシミュレーション対象外の抜け道を走行させることにより交通量を少なくする。
識別符号付与部21は、起点終点生成部16で起点交通量としてリンクに車両(ダミー車両)を放出する場合、当該車両を識別する識別符号を付与する。発生消滅部19は、当該リンクの下流側で終点交通量としてダミー車両又はダミー車両でない車両(正規の車両)を回収する場合、識別符号が付与された車両を優先して回収する。任意のリンクで起点交通量として車両を放出した場合に、当該リンクの下流側(当該リンク及び当該リンクと異なるリンクを含む)で車両を回収するときに、放出した識別符号が付与された車両を優先的に回収することにより、任意のリンクで起点交通量を生成したことにより生じる影響を当該リンクの下流側に与えることを防止することができる。