図1は、本発明の実施例に係る油圧ショベルを示す側面図である。油圧ショベルは、クローラ式の下部走行体1の上に、旋回機構2を介して、上部旋回体3を旋回自在に搭載する。
上部旋回体3は、前方中央部に、ブーム4、アーム5、及びバケット6と、それらのそれぞれを駆動するブームシリンダ7、アームシリンダ8、及びバケットシリンダ9とから構成される掘削アタッチメントを搭載する。また、上部旋回体3は、操作者が乗り込むためのキャビン10を前部に搭載し、駆動源としてのエンジン(図示せず。)を後部に搭載する。なお、以下では、ブームシリンダ7、アームシリンダ8、バケットシリンダ9、走行用油圧モータ(図示せず。)、旋回用油圧モータ(図示せず。)等を集合的に「油圧アクチュエータ」と称する。
図2は、図1の油圧ショベルに搭載される油圧回路の構成例を示す概略図である。なお、図2は、高圧油路、パイロット油路、及び電気駆動・制御系をそれぞれ実線、破線、及び点線で示すものとする。
実施例において、油圧回路は、エンジンによって駆動される二つのメインポンプ12L、12Rから、センターバイパス油路40L、40Rのそれぞれを経て油タンクまで圧油を循環させる。
メインポンプ12L、12Rは、高圧油路を介して圧油を制御弁150、及び流量制御弁151〜159のそれぞれに供給するための装置であり、例えば、斜板式可変容量型油圧ポンプである。なお、本実施例において、メインポンプ12L、12Rのポンプ制御方式には、ネガティブコントロール制御が採用されているが、ポジティブコントロール制御、ロードセンシング制御等の他の制御方式が採用されてもよい。
レギュレータ13L、13Rは、メインポンプ12L、12Rの吐出量を制御するための装置であり、例えば、メインポンプ12L、12Rの斜板傾転角を調節することによって、メインポンプ12L、12Rの単位時間当たりの吐出量を制御する。
センターバイパス油路40Lは、流量制御弁151、153、155、157及び158を連通する高圧油路であり、最も下流にある流量制御弁158と圧油タンクとの間にネガティブコントロール絞り20Lを備える。
センターバイパス油路40Rは、制御弁150、流量制御弁152、154、156、及び159を連通する高圧油路であり、最も下流にある流量制御弁159と圧油タンクとの間にネガティブコントロール絞り20Rを備える。
メインポンプ12L、12Rが吐出した圧油の流れは、ネガティブコントロール絞り20L、20Rで制限される。そのため、ネガティブコントロール絞り20L、20Rは、レギュレータ13L、13Rを制御するための制御圧(以下、「ネガコン圧」とする。)を発生させる。
ネガコン圧油路41L、41Rは、ネガティブコントロール絞り20L、20Rの上流で発生させたネガコン圧をレギュレータ13L、13Rに伝達するためのパイロット油路である。
レギュレータ13L、13Rは、ネガコン圧に応じてメインポンプ12L、12Rの斜板傾転角を調節することによって、メインポンプ12L、12Rの吐出量を制御する。また、レギュレータ13L、13Rは、導入されるネガコン圧が大きいほどメインポンプ12L、12Rの吐出量を減少させ、導入されるネガコン圧が小さいほどメインポンプ12L、12Rの吐出量を増大させるようにする。
具体的には、油圧ショベルにおける油圧アクチュエータが何れも操作されていない場合(以下、「待機モード」とする。)、メインポンプ12L、12Rが吐出する圧油は、センターバイパス油路40L、40Rを通ってネガティブコントロール絞り20L、20Rに至る。そして、メインポンプ12L、12Rが吐出する圧油の流れは、ネガティブコントロール絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧を増大させる。その結果、レギュレータ13L、13Rは、メインポンプ12L、12Rの吐出量を許容最小吐出量まで減少させ、吐出した圧油がセンターバイパス油路40L、40Rを通過する際の圧力損失(ポンピングロス)を抑制するようにする。
一方、油圧ショベルにおける何れかの油圧アクチュエータが操作された場合、メインポンプ12L、12Rが吐出する圧油は、操作対象の油圧アクチュエータに対応する流量制御弁を介して、操作対象の油圧アクチュエータに流れ込む。そして、メインポンプ12L、12Rが吐出する圧油の流れは、ネガティブコントロール絞り20L、20Rに至る量を減少或いは消滅させ、ネガティブコントロール絞り20L、20Rの上流で発生するネガコン圧を低下させる。その結果、低下したネガコン圧を受けるレギュレータ13L、13Rは、メインポンプ12L、12Rの吐出量を増大させ、操作対象の油圧アクチュエータに十分な圧油を循環させ、操作対象の油圧アクチュエータの駆動を確かなものとする。
上述のような構成により、図2の油圧システムは、待機モードにおいては、メインポンプ12L、12Rにおける無駄なエネルギ消費(メインポンプ12L、12Rが吐出する圧油がセンターバイパス油路40L、40Rで発生させるポンピングロス)を抑制することができる。
また、図2の油圧システムは、油圧アクチュエータを駆動する場合には、メインポンプ12L、12Rから必要十分な圧油を駆動対象の油圧アクチュエータに確実に供給できるようにする。
制御弁150は、走行直進弁であり、下部走行体2を駆動する左右の走行用油圧モータ(図示せず。)とそれ以外の他の油圧アクチュエータとが同時に操作された場合に作動するスプール弁である。具体的には、制御弁150は、下部走行体2の直進性を高めるべくメインポンプ12Lのみから流量制御弁151及び流量制御弁152のそれぞれに圧油を循環させるために圧油の流れを切り替えることができる。
流量制御弁151は、メインポンプ12Lが吐出する圧油を左側走行用油圧モータ(図示せず。)で循環させるために圧油の流れを切り替えるスプール弁であり、流量制御弁152は、メインポンプ12L又は12Rが吐出する圧油を右側走行用油圧モータ(図示せず。)で循環させるために圧油の流れを切り替えるスプール弁である。
流量制御弁153は、メインポンプ12L又は12Rが吐出する圧油を旋回用油圧モータ(図示せず。)で循環させるために圧油の流れを切り替えるスプール弁である。
流量制御弁154は、メインポンプ12Rが吐出する圧油をバケットシリンダ9へ供給し、且つ、バケットシリンダ9内の圧油を油タンクへ排出するためのスプール弁である。
流量制御弁155は、油圧モータ又は油圧シリンダを駆動するために利用可能な予備のスプール弁である。
流量制御弁156、157は、メインポンプ12L、12Rが吐出する圧油をブームシリンダ7へ供給し、且つ、ブームシリンダ7内の圧油を油タンクへ排出するために圧油の流れを切り替えるスプール弁である。なお、流量制御弁156は、ブーム操作レバー16Bが操作された場合に常に作動するスプール弁(以下、「第一ブーム流量制御弁」とする。)である。また、流量制御弁157は、ブーム操作レバー16Bが所定のレバー操作量以上で上げ方向に操作された場合にのみ作動するスプール弁(以下、「第二ブーム流量制御弁」とする。)である。
流量制御弁158、159は、メインポンプ12L、12Rが吐出する圧油をアームシリンダ8へ供給し、且つ、アームシリンダ8内の圧油を油タンクへ排出するために圧油の流れを切り替えるスプール弁である。なお、流量制御弁158は、アーム操作レバー16Aが操作された場合に常に作動する弁(以下、「第一アーム流量制御弁」とする。)である。また、流量制御弁159は、アーム操作レバー16Aが所定のレバー操作量以上で操作された場合にのみ作動する弁(以下、「第二アーム流量制御弁」とする。)である。
アーム操作レバー16Aは、アーム5を操作するための操作装置であって、コントロールポンプ(図示せず。)が吐出する圧油を利用して、レバー操作量に応じたパイロット圧を第一アーム流量制御弁158及び第二アーム流量制御弁159のそれぞれにおける左右何れかのパイロットポートに導入させる。
ブーム操作レバー16Bは、ブーム4を操作するための操作装置であって、コントロールポンプが吐出する圧油を利用して、レバー操作量に応じたパイロット圧を第一ブーム流量制御弁156及び第二ブーム流量制御弁157のそれぞれにおける左右何れかのパイロットポートに導入させる。
バケット操作レバー16Cは、バケット6を操作するための操作装置であって、コントロールポンプが吐出する圧油を利用して、レバー操作量に応じたパイロット圧を流量制御弁154の左右何れかのパイロットポートに導入させる。
アームパイロット圧センサ17Aは、操作量検出部の一例であり、アーム操作レバー16Aのレバー操作量をパイロット圧の圧力値として検出する圧力センサであって、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
ブームパイロット圧センサ17Bは、操作量検出部の一例であり、ブーム操作レバー16Bのレバー操作量をパイロット圧の圧力値として検出する圧力センサであって、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
バケットパイロット圧センサ17Cは、操作量検出部の一例であり、バケット操作レバー16Cのレバー操作量をパイロット圧の圧力値として検出する圧力センサであって、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
吐出圧センサ17D、17Eは、メインポンプ12L、12Rの吐出圧を検出する圧力センサであり、検出した値をコントローラ30に対して出力する。
左右走行レバー(又はペダル)及び旋回操作レバー(何れも図示せず。)はそれぞれ、下部走行体2の走行、及び、上部旋回体3の旋回を操作するための操作装置である。これらの操作装置は、アーム操作レバー16A等と同様に、コントロールポンプが吐出する圧油を利用して、レバー操作量(又はペダル操作量)に応じたパイロット圧を左右の走行用油圧モータ及び旋回用油圧モータのそれぞれに対応する流量制御弁の左右何れかのパイロットポートに導入させる。また、これらの操作装置のそれぞれに対する操作者の操作内容(レバー操作方向及びレバー操作量である。)は、圧力センサ17A〜17Cと同様に、対応する圧力センサによって圧力の形で検出され、検出値がコントローラ30に対して出力される。
メインリリーフ弁18は、メインポンプ12L又は12Rの吐出圧が所定のリリーフ圧以上となった場合に圧油を油タンクに排出して吐出圧を所定のリリーフ圧未満に制御する安全弁である。
リリーフ弁19L、19Rは、ネガティブコントロール絞り20L、20Rの上流におけるネガコン圧が所定のリリーフ圧以上となった場合に圧油を油タンクに排出してネガコン圧を所定のリリーフ圧未満に制御する安全弁である。
比例電磁弁21は、ネガコン圧とは別に、レギュレータ13L、13Rを制御するための装置であり、例えば、コントローラ30からの制御指令電流に応じて出力圧を変化させる比例電磁弁である。
比例電磁弁21は、例えば、制御指令電流の値が大きいほど、メインポンプ12L、12Rのポンプ吐出量Qを増大させるようにレギュレータ13L、13Rを制御する。なお、比例電磁弁21は、制御指令電流の値が小さいほど、メインポンプ12L、12Rのポンプ吐出量Qを増大させるようにレギュレータ13L、13Rを制御するようにしてもよい。
コントローラ30は、油圧回路を制御するための制御装置であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備え、さらに、圧力センサ17A〜17E等の出力信号が入力される入力部、比例電磁弁21等の制御指令電流を出力する出力部等を備えたコンピュータで構成される。
また、コントローラ30は、過負荷状態予測部300、ポンプ入力トルク制御部301、及びポンプ入力トルク調整部302のそれぞれに対応するプログラムをROM等の不揮発性記憶媒体から読み出してRAM等の揮発性記憶媒体に展開しながら、それぞれに対応する処理をCPUに実行させる。
具体的には、コントローラ30は、圧力センサ17A〜17E等が出力する検出値を受信し、それら検出値に基づいて過負荷状態予測部300、ポンプ入力トルク制御部301、及びポンプ入力トルク調整部302のそれぞれによる処理を実行する。
その後、コントローラ30は、過負荷状態予測部300、ポンプ入力トルク制御部301、及びポンプ入力トルク調整部302のそれぞれの処理結果に応じた制御指令電流を適宜に比例電磁弁21に対して出力する。
過負荷状態予測部300は、過負荷状態を予測するための機能要素であり、例えば、圧力センサ17A〜17E等が出力する検出値に基づいて過負荷状態を予測する。
「過負荷状態」とは、ポンプ吐出圧Pとポンプ吐出量Qとの積で表されるポンプ入力トルクが所定の設定トルク(例えば、最大ポンプ入力トルクTmaxである。)を上回る状態をいう。
具体的には、過負荷状態予測部300は、アームパイロット圧センサ17A、ブームパイロット圧センサ17B、バケットパイロット圧センサ17C等のパイロット圧センサの出力に基づいて、アーム操作レバー16A、ブーム操作レバー16B、バケット操作レバー16C等の操作装置の操作量を検出する。そして、過負荷状態予測部300は、操作装置の操作量の変化率(単位時間当たりの操作量の変化)が閾値を上回った場合に、過負荷状態の発生を予測する。
また、過負荷状態予測部300は、吐出圧センサ17D、17Eの出力に基づいてメインポンプ12L、12Rの吐出圧を検出し、吐出圧の上昇率(単位時間当たりの圧力の変化)が閾値を上回った場合に、過負荷状態の発生を予測するようにしてもよい。
ポンプ入力トルク制御部301は、メインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクを設定トルク(例えば、最大ポンプ入力トルクTmaxである。)以下に制御するための機能要素であり、例えば、ROM等に記憶された所定のポンプ特性線図(P−Q線図)を参照しながら、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクを最大ポンプ入力トルクTmax以下に制御する。メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えないようにするためである。以下、ポンプ入力トルク制御部301によるこの制御を「全馬力制御」とする。
具体的には、ポンプ入力トルク制御部301は、吐出圧センサ17D、17Eの出力に基づいてメインポンプ12L、12Rのポンプ吐出圧Pを検出し、所定のP−Q線図を参照して、最大ポンプ入力トルクTmax以下の所定のポンプ入力トルクをもたらすポンプ吐出量Qを導き出す。そして、ポンプ入力トルク制御部301は、導き出したポンプ吐出量Qと現在のポンプ吐出圧Pとの積であるポンプ入力トルクに対応する制御指令電流を比例電磁弁21に対して出力する。比例電磁弁21は、制御指令電流の値に応じた出力圧をレギュレータ13L、13Rに対して適用し、メインポンプ12L、12Rのポンプ吐出量が、導き出したポンプ吐出量Qとなるようにする。
ポンプ入力トルク調整部302は、メインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクの上限を一時的に低減させる一時的調整を実行するための機能要素である。ポンプ入力トルク調整部302は、例えば、過負荷状態予測部300が過負荷状態を予測した場合に、ポンプ入力トルク制御部301が出力する制御指令電流の値を一時的に低減させる。
比例電磁弁21に対する制御指令電流の一時的な低減は、レギュレータ13L、13Rの出力圧の一時的な増大、ひいては、メインポンプ12L、12Rのポンプ吐出量の一時的な低減をもたらし、結果として、メインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクの上限の一時的な低減をもたらす。
図3は、制御指令電流とポンプ入力トルクとの間の関係の一例を説明する図であり、ポンプ入力トルクを横軸に配し、比例電磁弁21に対して供給される電流を縦軸に配する。
図3で示すように、制御指令電流は、値I0から値Imaxまでの範囲で大きさが可変である。
制御指令電流の値が値Imaxの場合に、ポンプ出力制御部301は最大ポンプ入力トルクTmaxによる全馬力制御を実行する。
一方、制御指令電流の値が値I0の場合に、ポンプ出力制御部301は最大ポンプ入力トルクTmaxよりも小さいポンプ入力トルクT1による全馬力制御を実行する。
このように、制御指令電流の値が小さくなるほど、ポンプ出力制御部301が全馬力制御を実行する際の目標となるポンプ入力トルクも小さくなる。
具体的には、ポンプ入力トルク調整部302は、過負荷状態予測部300が過負荷状態を予測した時点で制御指令電流の値Imaxを瞬時に所定の下限値I0まで低減させる。その後、ポンプ入力トルク調整部302は、過負荷状態予測部300が過負荷状態の予測を解除した時点で制御指令電流の値I0を所定の推移パターンに沿って徐々に元の値Imaxまで復帰させる。
また、ポンプ入力トルク調整部302は、制御指令電流の値を所定の下限値I0から元の値Imaxまで復帰させる途中であっても、過負荷状態予測部300が過負荷状態を新たに予測した場合には、制御指令電流の値を再び所定の下限値I0まで低減させる。過負荷状態が連続的に予測された場合であっても、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えてしまうことがないようにするためである。
なお、以下では、ポンプ入力トルク調整部302が制御指令電流の値を下限値I0に設定する処理を「下限設定処理」とし、ポンプ入力トルク調整部302が制御指令電流の値を下限値I0から元の値Imaxに復帰させる処理を「復帰処理」とする。また、下限設定処理を開始するための条件を「開始条件」とし、下限設定処理を終了させて復帰処理を開始させるための条件を「解除条件」とする。
ここで、図4を参照しながら、コントローラ30が過負荷状態の発生を回避するためにメインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクを制御する処理(以下、「ポンプ入力トルク制御処理」とする。)の一例について説明する。なお、図4は、ポンプ入力トルク制御処理の流れを示すフローチャートであり、このポンプ入力トルク制御処理は、油圧ショベルが稼働している場合に、所定周期で繰り返し実行される。また、ポンプ入力トルク制御部301は、油圧ショベルが稼働している場合に全馬力制御を継続的に実行しているものとする。
最初に、コントローラ30は、過負荷状態予測部300により、操作装置の操作量の変化率が閾値TH1以上であるか否かを判定する(ステップS1)。
操作量の変化率が閾値TH1未満であると判定した場合(ステップS1のNO)、過負荷状態予測部300は、メインポンプ12L、12Rの吐出圧の上昇率が閾値TH2以上であるか否かを判定する(ステップS2)。
操作量の変化率が閾値TH1以上であると判定した場合(ステップS1のYES)、又は、メインポンプ12L、12Rの吐出圧の上昇率が閾値TH2以上であると判定した場合(ステップS2のYES)、過負荷状態予測部300は、過負荷予測フラグF1がOFF設定となっているか否かを判定する(ステップS3)。なお、過負荷予測フラグF1は、油圧ショベルの起動時にリセットされOFF設定になっているものとする。
過負荷予測フラグF1がOFF設定であると判定した場合(ステップS3のYES)、コントローラ30は、ポンプ入力トルク調整部302により、下限設定処理の実行を開始し(ステップS4)、過負荷予測設定フラグF1をON設定にして(ステップS5)、現在のポンプ入力トルク制御処理を一旦終了させる。
なお、過負荷予測フラグF1がON設定であると判定した場合(ステップS3のNO)、コントローラ30は、現在のポンプ入力トルク制御処理をそのまま終了させる。下限設定処理の実行が既に開始されているためである。
一方、操作量の変化率が閾値TH1未満であり(ステップS1のYES)、かつ、メインポンプ12L、12Rの吐出圧の上昇率が閾値TH2未満であると判定した場合(ステップS2のNO)、過負荷状態予測部300は、過負荷予測フラグF1がON設定となっているか否かを判定する(ステップS6)。
過負荷予測フラグF1がON設定であると判定した場合(ステップS6のYES)、コントローラ30は、ポンプ入力トルク調整部302により、復帰処理の実行を開始し(ステップS7)、過負荷予測設定フラグF1をOFF設定にして(ステップS8)、現在のポンプ入力トルク制御処理を一旦終了させる。ここで過負荷予測設定フラグF1をOFF設定にすることによって、コントローラ30は、復帰処理が実行中であり制御指令電流の値が未だ元の値に復帰していない場合であっても、過負荷状態予測部300により、新たな過負荷状態を予測することができるようになる。
なお、過負荷予測フラグF1がOFF設定であると判定した場合(ステップS6のNO)、コントローラ30は、現在のポンプ入力トルク制御処理をそのまま終了させる。復帰処理の実行が既に開始されているためであり、また、過負荷状態予測部300による新たな過負荷状態の予測が可能となっているためである。
なお、本実施例において、コントローラ30は、操作量の変化率が閾値TH1以上であること、又は、メインポンプ12L、12Rの吐出圧の上昇率が閾値TH2以上であることを下限設定処理の開始条件としている。しかしながら、コントローラ30は、操作量の変化率が閾値TH1以上であり、かつ、メインポンプ12L、12Rの吐出圧の上昇率が閾値TH2以上であることを下限設定処理の開始条件としてもよい。また、コントローラ30は、他の条件を組み合わせて下限設定処理の開始条件を決定してもよい。
同様に、コントローラ30は、操作量の変化率が閾値TH1未満であり、かつ、メインポンプ12L、12Rの吐出圧の上昇率が閾値TH2未満であることを下限設定処理の解除条件(過負荷状態の予測の解除条件)としている。しかしながら、コントローラ30は、何れか一方の条件を下限設定処理の解除条件としてもよい。また、コントローラ30は、他の条件を組み合わせて下限設定処理の解除条件を決定してもよい。
次に、図5を参照しながら、過負荷予測フラグF1及び制御指令電流の推移について説明する。なお、図中の期間X1は、ポンプ入力トルク調整部302による下限設定処理が実行されている期間を示し、図中の期間X21、X22は、ポンプ入力トルク調整部302による復帰処理が実行されている期間を示す。また、期間X21は、比較的急な復帰率(単位時間当たりの電流の変化)で制御指令電流の値が増加する第一復帰処理に対応し、期間X22は、比較的緩やかな復帰率で制御指令電流の値が増加する第二復帰処理に対応する。
時刻t0において過負荷状態予測部300により過負荷状態が予測されると、過負荷予測フラグF1はON設定とされ、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による下限設定処理の実行が開始されることによって、瞬時に値I0に設定される。その結果、メインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクの上限が最大ポンプ入力トルクTmaxよりも小さい値T1に制限され、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えてしまう状況を発生しにくくする。
その後、時刻t1において過負荷状態予測部300により過負荷状態の予測の解除が判定されるまで、過負荷予測フラグF1はON設定のまま維持され、制御指令電流の値も値I0のまま維持される。
時刻t1において過負荷状態予測部300により過負荷状態の予測の解除が判定されると、過負荷予測フラグF1はOFF設定とされ、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による第一復帰処理が開始されることによって、比較的急な復帰率で増加し始める。
その後、所定時間が経過した時刻t2において、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による第二復帰処理が開始されることによって、復帰率が比較的緩やかな復帰率に切り替わった上で増加し続ける。
その後、所定時間が経過した時刻t3において、制御指令電流の値は、過負荷状態が予測される前の元の値Imaxに復帰する。その結果、ポンプ出力制御部301は、最大ポンプ入力トルクTmaxによる全馬力制御を再び実行できるようになる。
時刻t4において過負荷状態予測部300により新たな過負荷状態が予測されると、過負荷予測フラグF1は改めてON設定とされ、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による下限設定処理が開始されることによって、瞬時に値I0に設定される。その結果、メインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクの上限が最大ポンプ入力トルクTmaxよりも小さい値T1に再び制限され、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えてしまう状況を発生しにくくする。
その後、時刻t5において過負荷状態予測部300により過負荷状態の予測の解除が判定されると、過負荷予測フラグF1はOFF設定とされ、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による第一復帰処理が開始されることによって、比較的急な復帰率で増加し始める。
その後、時刻t6において、第一復帰処理が開始された後で第二復帰処理が開始される前にさらに別の過負荷状態が予測されると、過負荷予測フラグF1は再びON設定とされ、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による下限設定処理が開始されることによって、再び値I0に設定される。その結果、メインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクの上限が最大ポンプ入力トルクTmaxよりも小さい値T1に再び制限され、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えてしまう状況を発生しにくくする。
その後、時刻t7において過負荷状態予測部300により過負荷状態の予測の解除が判定されると、過負荷予測フラグF1はOFF設定とされ、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による第一復帰処理が開始されることによって、比較的急な復帰率で増加し始める。
その後、所定時間が経過した時刻t8において、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による第二復帰処理が開始されることによって、復帰率が比較的緩やかな復帰率に切り替わった上で増加し続ける。
その後、時刻t9において、第二復帰処理が開始された後で制御指令電流の値が元の値Imaxに復帰する前にさらに別の過負荷状態が予測されると、過負荷予測フラグF1は再びON設定とされ、制御指令電流の値は、ポンプ入力トルク調整部302による下限設定処理が開始されることによって、再び値I0に設定される。その結果、メインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクの上限が最大ポンプ入力トルクTmaxよりも小さい値T1に再び制限され、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えてしまう状況を発生しにくくする。
このように、コントローラ30は、下限設定処理及び復帰処理が何れも実行されていないときに加え、復帰処理の実行中であっても、下限設定処理を新たに開始し、制御指令電流の値を値I0に設定し直すことができる。
次に、図6を参照しながら、全馬力制御の実行中に過負荷状態が予測されたときのポンプ吐出量Qの推移について説明する。なお、図6は、ポンプ吐出量Qを縦軸に配し、ポンプ吐出圧Pを横軸に配したポンプ特性図(P−Q線図)であり、ポンプ吐出圧Pは継続的に上昇するものとする。
最初に、点R1(ポンプ吐出圧P1、ポンプ吐出量Q1)のときに過負荷状態予測部300が過負荷状態を予測すると、制御指令電流が値I0に設定され、比例電磁弁21の出力圧が増大する。比例電磁弁21の出力圧の増大は、ポンプ吐出圧Pが値P1から値P1Vに圧力差Dmaxだけ擬似的に高められることを意味する。その結果、ポンプ吐出量Q1は、ポンプ入力トルク制御部301による最大ポンプ入力トルクTmaxに基づく全馬力制御により、等馬力曲線C上の点R1aVに対応する値Q1aに減少する。このとき、実際のポンプ吐出圧Pは値P1のままであり、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクは、最大ポンプ入力トルクTmaxよりも小さいポンプ入力トルクT1による全馬力制御の等馬力曲線CV上の点R1aで表される状態(P1×Q1a)となっている。
その後、ポンプ入力トルク調整部302による下限設定処理が実行されている間、見かけ上のポンプ吐出圧P1Vに対応する点R1aVは、等馬力曲線Cに沿って点R2Vまで推移し、実際のポンプ吐出圧に対応する点R1aは、等馬力曲線CVに沿って点R2まで推移する。
このとき、過負荷状態の予測が解除されてポンプ入力トルク調整部302による復帰処理が開始されると、比例電磁弁21の出力圧が徐々に減少する。比例電磁弁21の出力圧の減少は、圧力差Dmaxの減少を意味する。その結果、見かけ上のポンプ吐出圧に対応する点R2Vが等馬力曲線Cに沿って点R3V、点R4V、点R5Vと推移する間に、実際のポンプ吐出圧に対応する点R2は、破線で示す経路を辿って圧力差を値D1、値D2と減少させながら点R3、点R4と推移し、点R5において等馬力曲線C上の点R5Vに達する。点R5(点R5V)は、ポンプ入力トルク調整部302による復帰処理が完了し、比例電磁弁21の出力圧が元の状態に戻り、見かけ上のポンプ吐出圧と実際のポンプ吐出圧との間の圧力差がゼロになったことを表す。
このようにして、コントローラ30は、過負荷状態が予測されたときに下限設定処理を開始し、制御指令電流の値を値I0に設定してメインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクを下げ、ポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えてしまうのを確実に防止することができる。
次に、図7を参照しながら、復帰処理の実行中に過負荷状態が予測されたときのポンプ吐出量Qの推移について説明する。なお、図7は、図6と同様のポンプ特性図(P−Q線図)であり、ポンプ吐出圧Pは継続的に上昇するものとする。また、点R1から点R3までの推移は図6の場合と同様であるため、その説明を省略する。
点R3(ポンプ吐出圧P3、ポンプ吐出量Q3)のときに過負荷状態予測部300が再び過負荷状態を予測すると、制御指令電流が再び値I0に設定され、比例電磁弁21の出力圧が再び増大する。比例電磁弁21の出力圧の増大は、ポンプ吐出圧Pが値P3から値P3Vに圧力差Dmaxだけ擬似的に高められることを意味する。その結果、ポンプ吐出量Q3は、ポンプ入力トルク制御部301による最大ポンプ入力トルクTmaxに基づく全馬力制御により、等馬力曲線C上の点R3aVに対応する値Q3aに減少する。このとき、実際のポンプ吐出圧Pは値P3のままであり、メインポンプ12L、12Rのポンプ入力トルクは、最大ポンプ入力トルクTmaxよりも小さいポンプ入力トルクT1による全馬力制御の等馬力曲線CV上の点R3aで表される状態(P3×Q3a)となっている。
その後、ポンプ入力トルク調整部302による再度の下限設定処理が実行されている間、見かけ上のポンプ吐出圧P3Vに対応する点R3aVは、等馬力曲線Cに沿って点R6Vまで推移し、実際のポンプ吐出圧に対応する点R3aは、等馬力曲線CVに沿って点R6まで推移する。
このとき、過負荷状態の予測が再び解除されてポンプ入力トルク調整部302による復帰処理が再び開始されると、比例電磁弁21の出力圧が徐々に減少する。比例電磁弁21の出力圧の減少は、圧力差Dmaxの減少を意味する。その結果、見かけ上のポンプ吐出圧に対応する点R6Vが等馬力曲線Cに沿って点R7V、点R8Vと推移する間に、実際のポンプ吐出圧に対応する点R6は、破線で示す経路を辿って圧力差を減少させながら点R7を通って推移し、点R8において等馬力曲線C上の点R8Vに達する。点R8(点R8V)は、ポンプ入力トルク調整部302による再度の復帰処理が完了し、比例電磁弁21の出力圧が下限設定処理前の元の状態に戻り、見かけ上のポンプ吐出圧と実際のポンプ吐出圧との間の圧力差がゼロになったことを表す。
このようにして、コントローラ30は、復帰処理の実行中であっても、下限設定処理を新たに開始し、制御指令電流の値を値I0に設定し直してメインポンプ12L、12Rが出力可能なポンプ入力トルクを下げ直し、ポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えてしまうのを確実に防止することができる。
以上の構成により、上述の実施例に係る油圧ショベルは、短時間に連続して発生し得る過負荷状態にも適切に対応し、ポンプ入力トルクがエンジンの出力トルクを超えるのを防止することができる。その結果、上述の実施例に係る油圧ショベルは、操作装置の急操作や負荷の急上昇によるポンプ吐出圧の急上昇に起因するエンジン回転数の低下を防止することができ、ひいては、低下したエンジン回転数を復帰させるために燃料が消費されるのを防止して燃費を向上させることができる。
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなしに上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
例えば、上述の実施例において、操作量検出部17A〜17Cは、操作レバー16A〜16Cのレバー操作量をパイロット圧の圧力値として検出するが、ポテンショメータ等の他のセンサを用いて操作量を他の物理量(例えば、電圧、電流、角度等である。)として検出するようにしてもよい。
また、上述の実施例において、コントローラ30は、油圧ショベルに搭載されるが、旋回用油圧モータの代わりに旋回用電動モータを搭載するハイブリッド式ショベルに搭載されてもよい。