以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付し、説明は省略する。
(DMV)
本発明のタイヤを説明する前に、本発明のタイヤが装着される車両であるDMVの一例について、図3〜図5を用いて簡単に説明する。図3および図4は、本発明のタイヤが装着された車両(DMV)200の側面図である。DMV200は、道路上および軌道上の両方を走行可能に構成されている。図3は、DMV200が道路の路面D上を走行している状態を示しており、これを「道路走行状態」という。図4は、DMV200が軌道のレールR上を走行している状態を示しており、これを「軌道走行状態」という。
DMV200は、車体201、前輪202、後輪203、前方案内輪206、後方案内輪207を有する。前輪202のホイールリムには、前輪タイヤ204が装着されている。後輪203は、道路走行時の荷重を支えるべく複輪となっており、ホイールリムに後輪内側タイヤ100(本発明タイヤ)と後輪外側タイヤ205が装着されている。後輪203は、エンジンにより駆動される駆動輪であり、前輪202は従動輪である。前方案内輪206および後方案内輪207は、一般的に用いられている鉄道車両用車輪と同様の構造であり、鋼等の金属からなる。
図3の道路走行状態では、前方案内輪206および後方案内輪207は使用されず、車体201の内部に収容されている。道路走行状態では、DMV200は、エンジンの駆動力が後輪203から路面Dに伝達されることにより走行する。
一方、図4の軌道走行状態では、前方案内輪206および後方案内輪207が使用される。前方案内輪206および後方案内輪207は、一般的な鉄道と同様に、レールRに当接する。この結果、DMV200は脱線することなくレールRの上を走行することができる。すなわち、前方案内輪206および後方案内輪207は、DMV200をレールR上でガイドする役割を果たす。
後輪203は、軌道走行状態においてもレールRと当接しており、DMV200は、エンジンの駆動力が後輪203、より厳密には後輪の内側タイヤ100からレールRに伝達されることにより走行する。一方、前輪202はレールRから上方に離れた状態となっており、レールRとは当接していない。
このように後輪203を道路走行状態と軌道走行状態の両方で駆動輪として使用することで、DMV200を簡易に駆動することができる。ここで、軌道走行状態において、前方案内輪206の上下方向位置は、前輪202がレールRから離れるような位置とされる。一方、軌道走行状態において、後方案内輪207の位置は、後輪203および後方案内輪207がレールRと当接するように設定される。このように、道路走行状態から軌道走行状態へ移行するときは、車体201の内部に収容されている前方案内輪206および後方案内輪207を下方に移動させてレールRと当接させ、逆に、軌道走行状態から道路走行状態へ移行するときは、上方に移動させて車体201に収容する。前方案内輪206および後方案内輪207の上下移動は、油圧式アクチュエータなどにより行えばよい。
軌道走行状態において、DMV200の後方荷重は、後輪203と後方案内輪207とで分担して支持される。後輪203が荷重を分担することにより、後輪203に装着されたタイヤとレールRとの間に摩擦力が発生しうる。この摩擦力により駆動力が得られる。後方案内輪207が荷重を分担することにより、DMV201の脱線が防止される。
図5においては、レールRが二点鎖線で示されている。また図5において、車軸の一部を除き、車両下部の構成は省略されている。軌道走行状態において、後輪203の後輪内側タイヤ100がレールRと当接している。まっすぐな軌道を走行している場合、タイヤ100は、タイヤ幅方向略中心位置においてレールRと当接している。左右のタイヤ100の中心間距離Tcは、レールRの中央間距離Rcと略同一である。軌道における2本のレールの間隔は、一般に軌間(ゲージ)と称される。例えば日本において、軌間には、標準軌、狭軌、広軌等がある。日本においては、新幹線や一部の私鉄等で標準軌が採用され、それら以外の多くの路線では狭軌が採用されている。レールRと当接するタイヤ100の中心間距離Tcは、DMV200が走行する軌道の軌間に基づいて設計される。既存の軌道の軌間に基づいてタイヤの中心間距離Tcを設定すれば、DMV200は既存の軌道を走行することができる。
DMV200に装着されたタイヤのうち、レールRと当接しないタイヤ204,205には、従来の自動車用タイヤを用いることができる。一方、レールRと当接するタイヤ100は、本発明のタイヤを用いる。
(DMV用タイヤ)
以下、本発明の一実施形態にかかるタイヤ100について、図1および図2を用いて説明する。タイヤ100は、道路上の走行および軌道のレール上の走行の両方に使用されるタイヤであり、DMV200の駆動輪として使用されるものである。
本発明に従うタイヤは、トレッド部に、タイヤ周方向に沿って延びる複数本の周方向溝を配置して、複数列の分割陸部を区画形成する。本実施形態のタイヤ100は、トレッド部10に、タイヤ周方向Cに沿って延びる7本の周方向溝11,12a,12b,13a,13b,14a,14bを配置して、8列の分割陸部20a,20b,30a,30b,40a,40b,50a,50bを区画形成している。
第1周方向溝11はタイヤ赤道CL上に配置され、第2周方向溝12a,12bは、図2に示す溝底のタイヤ幅方向位置がタイヤ赤道CLからトレッド幅の12.5%離れた位置にあり、同様に、第3周方向溝13a,13bは25%、第4周方向溝14a,14bは37.5%離れた位置にある。また、本実施形態のタイヤ100では、複数の分割陸部は全てブロック陸部列となっている。なお、本明細書において「トレッド幅」とは、両トレッド端E間のタイヤ幅方向距離を意味する。これら周方向溝の溝幅および溝深さは、リブ状陸部13の剛性バランスを保つため、互いに等しくすることが好ましい。
ここで、タイヤ100は、トレッド幅がレールRの頂面の幅Wrよりも大きいことが一般的であり(図2参照)、トレッド部10の一定の範囲でのみレールRと接することとなる。そのため、上記の複数列(タイヤ100では8列)の分割陸部は、レールとの当接関係において以下の3つに分類される。まず第1に、トレッド部10のレール当接領域Tのタイヤ幅方向両端部が位置する一対の分割陸部(第1分割陸部)である。図1,2において、レール当接領域Tのタイヤ幅方向両端部は、破線で表示しており、一対の第1分割陸部は20a,20bである。第2に、頂面の全体がトレッド部10のレール非当接領域Nに位置する分割陸部(第2分割陸部)である。図1,2において、第2分割陸部は30a,30b,40a,40bである。第3に、頂面全体がトレッド部10のレール当接領域Tに位置する分割陸部(第3分割陸部)である。図1,2において、第3分割陸部は50a,50bである。
本発明の特徴的構成は、複数列の分割陸部のうち、トレッド部10のレール当接領域Tのタイヤ幅方向W両端部が位置する一対の第1分割陸部20a,20bの少なくとも一方が、非発泡ゴムにより形成され、トレッド部10のレール非当接領域Nに位置する第2分割陸部30a,30b,40a,40bが、発泡ゴムにより形成される構成である。
ここで、本明細書において「レール当接領域」とは、トレッド部のうち、タイヤが軌道上を走行するときにレールRと接触しうる領域を意味し、例えば図2に示すように、タイヤのトレッド部においてレール頂面の幅中心位置を中心として、レール幅Wrの100%以内の領域として、特定することができる。この場合は、当接領域Tの幅がレール幅Wrと等しい幅を有する。また、トレッド部におけるレールのタイヤ幅方向端部の両外側であっても、車両旋回など通常の軌道走行においてレールRと接触する頻度が高い領域として、例えば、タイヤのトレッド部においてレール頂面の幅中心位置を中心として、レール幅の150%以内の領域として特定してもよい。なお、タイヤ赤道がレール頂面の幅中心と一致するように当接する場合には、レール当接領域は、タイヤ赤道を中心として、レール幅の100%または150%以内の領域として特定することができる。また、用いるレールのレール幅およびタイヤサイズにも依るが、通常、タイヤ当接領域は、タイヤ当接領域は、タイヤ赤道を中心としてトレッド幅の55%以下の領域となる。なお、タイヤが空気入りタイヤの場合には、タイヤを適用リムに装着し所定空気圧を充填した後、所定負荷条件におけるタイヤの状態を基準として、レール当接領域を設定する。
本明細書において「所定空気圧」とは、下記規格に記載されている適用サイズにおける複輪の最大荷重(最大負荷能力)に対応する空気圧のことを意味する。また「所定負荷条件」とは、同規格に記載されている適用サイズにおける複輪の最大荷重(最大負荷能力)の荷重をかけることを意味する。「適用リム」とは、同規格に記載されている適用サイズにおける標準リム(または“Approved Rim”、“Recommended Rim”)のことである。かかる産業規格については、タイヤが生産又は使用される地域に有効な規格が定められている。例えば、アメリカ合衆国では、”The Tire and Rim Association Inc.のYear Book”であり、欧州では、”The European Tire and Rim Technical OrganizationのSTANDARDS MANUAL”であり、日本では日本自動車タイヤ協会の”JATMA Year Book”である。
本明細書において「レール非当接領域」とは、トレッド部のうちレール当接領域以外の領域を意味する。
なお、レール当接領域は、タイヤ100を装着するDMV200が走行するレールRの寸法、レールの中央間距離Rc、およびタイヤ100の中心間距離Tcにより特定することができる。タイヤ間中心とレール間中心は一致するため、RcとTcが等しい場合には、タイヤ赤道CLがレールR頂面の幅中心と一致するように当接する。しかし、既存の車両を部分的に改造してDMV200を製造する場合や、既存の軌道を利用してDMV200を走行させる場合など、必ずしもRcとTcを一致させることができず、タイヤ赤道が多少タイヤ幅方向にオフセットして、レールRと当接する場合もある。いずれにしても、レール当接領域を予め特定することができる場合は、この情報に基づいて、本発明の内容を実施するように発泡ゴムと非発泡ゴムを振り分ければよい。また、タイヤ100の発泡ゴムと非発泡ゴムの分布に従って、本発明を実施するべくレール当接領域を設定してもよい。
タイヤ100が走行可能なレールRの種類は限定されない。レールRの種類として、例えば、30kgレール、37kgレール、40kgレール、50kgNレール、50kgTレール、60kgレール等が存在する。30kgレールのレール幅Wrは60.33mmであり、37kgレールのレール幅Wrは62.71mmであり、40kgレールのレール幅Wrは64mmであり、50kgNレールおよび50kgTレールのレール幅Wrは65mmであり、60kgレールのレール幅Wrは65mmである。一般的な鉄道において、レール幅Wrは、通常、60mm以上65mm以下の範囲である。
本発明の上記特徴的構成を採用することによる作用効果を説明する。レールとの当接領域Tの中でも、そのタイヤ幅方向端部に位置する第1分割陸部20a,20bには、局所的に非常に大きな荷重がかかる。そのため、一対の第1分割陸部20a,20bの少なくとも一方を非発泡ゴムで形成することにより、当該分割陸部のもげ発生を抑制でき、トレッド部の耐久性を維持することができる。そして、トレッド部10のレール非当接領域Nに位置する第2分割陸部30a,30b,40a,40bを発泡ゴムで形成することにより、トレッド部全面が非発泡性ゴムで形成された従来タイヤに比べて、道路上の道路上における氷雪上性能を向上させることができる。ここで、レールと当接することによって「もげ」に対して厳しい入力がかかるのは、片側装着時第1分割陸部20a,20bのどちらか一方であり、ローテーションを行うため、非発泡ゴムとするのは、一対の第1分割陸部20a,20bの少なくとも一方で構わない。しかし、トレッド部の耐久性を維持する効果をより確実に得るためには、一対の第1分割陸部20a,20bの両方を非発泡ゴムで形成することが好ましい。
タイヤ100では、トレッド部10のレール当接領域Tに位置する第3分割陸部50a,50bは、発泡ゴムにより形成することが好ましい。レールと当接して特にブロックのもげに対して不利になるのは、第1分割陸部20a,20bのどちらかなので、第3分割陸部50a,50bについては道路上の氷雪上性能、レール上での氷雪上性能を重視して設計することが好ましいからである。
(発泡ゴム)
本発明で用いる発泡ゴムとしては、通常のスタッドレスタイヤのトレッド部として使用できるものであれば限定されないが、発泡率が10%〜20%となるゴムを用いることが好ましい。ここで、発泡率Vは、V=(ρ0/ρ1−1)×100(%)で表され、ρ1は、発泡ゴムの密度(g/cm3)を表し、ρ0は、発泡ゴムにおける固相部(非発泡部分)の密度(g/cm3)を表す。固相部の密度は、エタノール中の質量と空気中の質量を測定し、これから算出する。
発泡率が10%未満であると、氷雪上性能が十分に得られない可能性があるため好ましくない。一方、発泡率が20%を超えると、ブロックのもげに対して不利になるため好ましくない。
発泡ゴムの基本成分としては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリブタジエンゴム(BR)、これらとその他のゴムとのブレンド等を用いることができる。
また、かかる発泡ゴムとしては、特に天然ゴムとポリブタジエンゴムとを含むことが好ましい。天然ゴムは、ゴム成分100質量部中に20〜70質量部の範囲で含まれることが好ましく、ポリブタジエンゴムは、ゴム成分100質量部中に30〜80質量の範囲で含まれることが好ましい。また、ポリブタジエンゴムは、シス−1,4−ポリブタジエンが好ましく、シス含有率が90%以上のものが特に好ましい。シス−1,4−ポリブタジエンは、ガラス転移温度が低く、氷上性能の効果が大きい点で好ましい。なお、本発明において、ゴム成分中には、天然ゴムおよびポリブタジエンゴム等の発泡ゴム以外の他のゴム成分を含んでいてもよい。
本発明において、発泡ゴムは、発泡剤を配合した独立気泡を有するものであることが好ましい。
上記発泡剤としては、例えば、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタスチレンテトラミンやベンゼンスルホニルヒドラジド誘導体、オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、二酸化炭素を発生する炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソフタルアミド、トルエンスルホニルヒドラジド、P−トルエンスルホニルセミカルバジド、P,P’−オキシービス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等が挙げられる。
これらの発泡剤の中でも、製造加工性を考慮すると、ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)、アゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましく、特にアゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記発泡剤の作用により、得られた上記加硫ゴムは発泡率に富む発泡ゴムとなる。
本発明においては、効率的な発泡を行う観点から、その他の成分として発泡助剤を用い、上記発泡剤と併用するのが好ましい。上記発泡助剤としては、例えば、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛や亜鉛華等、通常、発泡製品の製造に使用する助剤等が挙げられる。これらの中でも、尿素、ステアリン酸亜鉛、ベンゼンスルフィン酸亜鉛等が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
上記発泡剤の含有量としては、目的に応じて適宜決定すればよいが、一般にはゴム成分100質量部に対して1〜10質量部程度が好ましい。
また、上記発泡ゴムには、上述の配合成分の他、本発明の効果を害しない範囲で他の成分を用いることができ、例えば、カーボンブラック等の補強性充填剤、有機繊維、硫黄等の加硫剤、ジベンゾチアジルジスルフィド等の加硫促進剤、加硫促進助剤、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジル−スルフェンアミド、N−オキシジエチレン−ベンゾチアジル−スルフェンアミド等の硫化防止剤、オゾン劣化防止剤、着色剤、帯電防止剤、分散剤、滑剤、酸化防止剤、軟化剤等の他に、通常ゴム業界で用いる各種配合剤等を目的に応じて適宜選択して使用することができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、ゴム成分に対し、上記各種配合剤等を添加したものをゴム組成物と称す。
上記補強性充填剤としては、カーボンブラックおよび/またはシリカが好ましい。かかるカーボンブラックとしては、そのゴム層の力学的性能を高め、加工性等を改善させるものである限り、I2吸着量、CTAB比表面積、N2吸着量、DBP吸着量等の範囲を適宜選択した公知のカーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックの種類としては、例えば、SAF、ISAF−LS、HAF、HAF−HS等の公知のものを適宜選択して使用することができる。耐摩耗性を考慮すると、微粒子径のISAFやSAFが好ましい。
本発明において、カーボンブラックの含有量としては、ゴム成分100質量部に対して好ましくは5〜95質量部、より好ましくは10〜60質量部である。カーボンブラックの含まれる量を上記範囲にすることにより耐摩耗性を維持し、優れたWET性能を得ることができる。
また、上記シリカとしては、狭義の二酸化珪素のみを示すものではなく、ケイ酸系充填剤を意味し、具体的には、無水ケイ酸の他に、含水ケイ酸、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩を含む。
かかるシリカの含有量としては、ゴム成分の100質量部に対して、好ましくは5〜95質量部、より好ましくは15〜80質量部である。シリカの含有量を上記範囲とすることにより、温度変化によるタイヤの硬度の低下を減少させDRY性能を維持するばかりではなく、優れた氷上性能およびWET性能を得ることができる。
なお、カーボンブラックおよびシリカを合わせた合計の配合量は、成分100質量部に対して、好ましくは30〜120質量部、より好ましくは40〜80質量部であり、また、カーボンブラックとシリカの混合比[カーボンブラック]/[シリカ]は質量比で0.04〜6.0であることが好ましい。特に、WET性能を考慮すると、シリカの配合比率を増すことが好ましい。
本発明においては、補強用充填剤としてシリカを用いる場合、その補強性および低発熱性をさらに向上させる目的で、シランカップリッグ剤を配合することができる。
かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−卜リエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、ビス(3−ジエトキシメチルシリルプロピル)テトラスルフィド、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、ジメトキシメチルシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、ジメトキシメチルシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド等が挙げられるが、これらの中で補強性改善効果等の点から、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィドおよび3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィドが好適である。これらのシランカップリング剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
シランカップリング剤の配合量としては、シランカップリング剤の種類等により異なるが、シリカに対して、好ましくは1〜20質量%の範囲で選定される。
本発明において、有機繊維としては、必ずしもその材質、形状、径、長さ等が一致した同じものを同時に使用することはなく、互いに異なった有機繊維を使用してもよいが、共に以下の性質を有する範囲の有機繊維を使用することが好ましい。
かかる有機繊維の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。しかしながら、ゴム組成物との関係から加硫時に加硫最高温度に達するまでの間に、ゴムマトリックスの粘度よりも低くなる粘度特性を有する繊維を構成する樹脂を用いることが、本発明においては好ましい。即ち、上記有機繊維を構成する樹脂としては、ゴム組成物が加硫最高温度に達するまでの間に溶融(軟化を含む)する熱特性を有していることが好ましい。
このような熱特性を、上記有機繊維を構成する樹脂が有していると、ゴム組成物を加硫して得た加硫ゴム中に、ミクロな排水溝として機能し得る長尺状気泡を容易に形成することができる。なお、加硫最高温度とは、ゴム組成物の加硫時に達する最高温度を意味する。例えば、モールド加硫の場合には、ゴム組成物がモールド内に入ってからモールドを出て冷却されるまでに該ゴム組成物が達する最高温度を意味する。加硫最高温度は、例えば、ゴム組成物中に熱電対を埋め込むこと等により測定することができる。また、ゴムマトリックスの粘度は、流動粘度を意味し、例えば、コーンレオメーター、キャピラリーレオメーター等を用いて測定する。また、上記有機繊維を構成する樹脂の粘度は、溶融粘度を意味し、例えば、コーンレオメーター、キャピラリーレオメーター等を用いて測定する。従って、本発明で選択される好ましい樹脂は、例えば、その融点が上記加硫最高温度よりも低い結晶性高分子樹脂等が特に好適に挙げられる。
上記結晶性高分子樹脂では、その融点と、ゴム組成物の加硫最高温度との差が大きくなる程、ゴム組成物の加硫中に速やかに溶融するため、結晶性高分子樹脂の粘度がゴムマトリックスの粘度よりも低くなる時期が早くなる。このため、結晶性高分子樹脂が溶融すると、そのゴム組成物に配合した発泡剤から発生したガス等のゴム組成物に存在するガスは、ゴムマトリックスよりも低粘度である結晶性高分子樹脂の内部に集まる。その結果、加硫ゴム中には、ゴムマトリックスとの間に微粒子を含有する樹脂層を有する独立気泡、即ち、上記樹脂により被覆されたカプセル状の長尺状気泡が潰れのない状態で効率よく形成される。
路面と実質接する発泡ゴムを有するタイヤトレッドゴムにおいては、このカプセル状の長尺状気泡はトレッドの表面に現れ、表面の摩耗により生じた溝が上記ミクロな排水溝として機能し、水膜排除効果として作用する。
これに対して、有機繊維を構成する樹脂の融点が、ゴム組成物の加硫最高温度に近い場合、加硫初期に速やかに溶融せず、加硫末期に溶融する。加硫末期では、ゴム組成物中に存在するガスの一部は加硫したゴムマトリックス中に取り込まれてしまい、溶融した樹脂の内部には集まらない。その結果、上記ミクロな排水溝として効果的機能する長尺状気泡が、効率よく形成されず、また、有機繊維の樹脂融点が低過ぎる場合、有機繊維をゴム組成物中に配合し混練りする際に有機繊維同士の融着が発生し、有機繊維の分散不良が生じる。これもまた、ミクロな排水溝して機能し得る長尺状気泡が効率よく形成されない。したがって、有機繊維の樹脂の融点は、加硫前の各工程における温度では溶融軟化せず、加硫工程中にゴムマトリックスと樹脂との粘度とが逆転するような範囲で選択するのが好ましい。
有機繊維を構成する樹脂の融点の上限としては、特に制限はないものの上記の点を考慮して選択するのが好ましく、上記ゴムマトリックスの加硫最高温度よりも低く、10℃以上低いのがより好ましく、20℃以上低いのが特に好ましい。ゴム組成物の工業的な加硫温度は、一般的には最高で約190℃程度であるが、例えば、加硫最高温度がこの190℃を超えて設定されている場合には、上記樹脂の融点としては、190℃以下の範囲で選択され、180℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。なお、上記樹脂の融点は、それ自体公知の融点測定装置等を用いて測定することができ、例えば、DSC測定装置を用いて測定した融解ピーク温度を上記融点とすることができる。
以上のことから有機繊維を構成する樹脂は、結晶性高分子樹脂および/または非結晶性高分子樹脂から形成されていてもよい。但し、上述したように本発明においては、相転移があるために粘度変化がある温度で急激に起こり、粘度制御が容易な点で結晶性高分子樹脂を多く含む有機素材から形成されていることが好ましく、結晶性高分子樹脂のみから形成されるのがより好ましい。
このような結晶性高分子樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、シンジオタクティック−1,2−ポリブタジエン(SPB)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の単一組成重合物や、共重合、ブレンド等により融点を適当な範囲に制御したものも使用でき、さらにこれらの樹脂に添加剤を加えたものも使用できる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの結晶性高分子樹脂の中でも、ポリオレフィン、ポリオレフィン共重合体が好ましく、汎用で入手し易い点でポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)がより好ましく、融点が比較的低く、取扱いが容易な点でポリエチレン(PE)が特に好ましい。
なお、非結晶性高分子樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリスチレン(PS)、ポリアクリロニトリル、これらの共重合体、これらのブレンド物等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、上記有機繊維の平均長さとしては、0.5〜20mmの範囲にある短繊維であることが好ましく、特に、1〜10mmの範囲にある短繊維であることがより好ましい。
上記発泡ゴム中に、かかる長さの有機繊維が存在すれば、徐水効果が有効に作用すると共に、前述の発泡剤等を含めるとミクロな排水溝として効率よく機能し得る長尺状気泡を十分に形成することも可能となる。上記有機繊維の平均長さを上記範囲にすることにより作業性を確保し上記効果を充分に得ることができる。
また、上記有機繊維において、その平均繊維径が0.01〜0.1mmの範囲が好ましく、特に、0.015〜0.09mmの範囲がより好ましい。平均繊維径を上記範囲にすることによって繊維等の切断による加工性の問題もなく、優れた徐水効果を得ることができる。
本発明においては、加硫後に気泡を形成させるために、上記発泡ゴムの成形前の加硫ゴム中および/または有機繊維中に発泡剤を配合する。発泡剤および有機繊維を用いることにより、加硫ゴムあるいはトレッド部となる上記発泡ゴムは、長尺状気泡を有してミクロな排水溝を形成して水膜除去能が付与される。
本発明においては、有機繊維がさらに微粒子を含有することが、より氷上性能を高める上で好ましい。この微粒子を含有する有機繊維(以下、微粒子含有有機繊維という)を構成する素材、平均繊維長、平均径、融点等は、上記有機繊維と同じものを用いることができる。上記微粒子としては、モース硬度が2以上の無機微粒子が好ましく用いられる。このような微粒子としては、例えば、石膏、方解石、蛍石、正長石、石英、金剛石等が挙げられるが、好ましくは、モース硬度5以上のシリカガラス(硬度6.5)、石英(硬度7.0)、溶融アルミナ(硬度9.0)等を挙げることができる。中でもシリカガラス、アルミナ(酸化アルミニウム)等が安価で容易に使用することができる。また、微粒子が角部を有することが引っ掻き効果向上の観点から好ましい。
また、上記微粒子はその粒径分布の頻度数の80質量%以上、好ましく90質量%以上が10〜50μmの範囲にあることが好ましく、また、その平均粒径が10〜30μmの範囲であることが好ましい。
微粒子含有有機繊維の長尺発泡体は、予め所定量の微粒子を有機繊維を構成する素材に混練し有機繊維にしたのち、上記有機繊維を用いて長尺発泡体を製造した同じ方法で得ることができる。この、微粒子含有の長尺発泡体は、前述の徐水効果はもとより、エッヂ効果や引っ掻き効果等を発現しさらなる氷上性能の向上をはかることができる。
本発明において、無機化合物粉体や微粒子の平均粒径および粒径分布は、電子顕微鏡法により粉体または微粒子の投影面積円相当径(粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径であり、Heywood径とも呼ぶ。)無作為に200個を測定し、粒径分布を得ると共に、相加平均により平均粒径を求める。
有機繊維の平均繊維径および平均長さは、顕微鏡法により、無作為に200個の長さと直径をそれぞれ測定し、それぞれ相加平均により平均繊維径および平均長さを求める。
(非発泡ゴム)
本発明で用いる非発泡ゴムとしては、通常のタイヤのトレッド部として使用できるものであれば限定されないが、その100%モジュラスが、1.5MPa〜2.5MPaであるゴムを用いることが好ましい。100%モジュラスが1.5MPa未満であると、ブロックのもげに対して不利になるおそれがあり、一方、100%モジュラスが2.5MPaを超えると、氷雪上性能が十分に得られなくなる可能性があるためである。ゴム組成としては、気泡を含まない点以外は上記の発泡ゴムと同様の組成を用いることができる。
(タイヤ100の製造方法)
次に、トレッド部のうち、一部の分割陸部を非発泡ゴムで形成し、残りの分割陸部で形成してタイヤ100を製造する方法を説明する。TOPコンターにてゴムの分割を変えることによって製造する。具体的には、発泡ゴム/非発泡ゴムの分割を深さ方向だけではなく、幅方向にも分割を加えることによって製造する。
(タイヤ100の他の構成)
タイヤ100では、第1分割陸部20a,20bおよび第3分割陸部50a,50bが、第2分割陸部30a,30b,40a,40bよりも硬いゴムで形成されることが好ましい。タイヤ100は軌道のレール上も走行するため、レールRと当接する第1分割陸部20a,20bおよび第3分割陸部50a,50bは、当接しない第2分割陸部30a,30b,40a,40bよりも摩耗しやすいが、これにより第1分割陸部20a,20bおよび第3分割陸部50a,50bと第2分割陸部30a,30b,40a,40bとの不均一摩耗を抑制することができる。
本明細書において硬さの基準として用いる100%モジュラスとしては、第1分割陸部20a,20bが1.5MPa〜2.5MPa、第2分割陸部30a,30b,40a,40bが1.0MPa〜2.5MPa、第3分割陸部50a,50bが1.0MPa〜1.5MPaの範囲内とすることが好ましい。また、硬さを調節する方法としては、ゴムの基本成分は同じだが、発泡率を異ならせる方法や、発泡率は同等にしながら、ゴムの基本成分を異ならせて硬さを変化させる方法が挙げられる。
本実施形態では、分割陸部20a,20b,30a,30b,50a,50bは、それぞれタイヤ周方向に所定間隔で配置された複数本の幅方向溝21a,21b,31a,31b,51a,51bにより、複数個のブロック陸部22a,22b,32a,32b,52a,52bに区画されている。また、分割陸部40aおよび40bは、周方向に交互に配置された幅方向溝41a,42aおよび41b,42bにより、ブロック陸部43a,44aおよび43b,44bに区画されている。
また、ブロック陸部52aには、タイヤ周方向中央部分に近接した2本のオープンサイプ53,54を有し、他のブロック陸部22a,22b,32a,32b,52bも同様のサイプを有する。また、ブロック陸部43a,44aには、一端が幅方向溝41aに開口し、他端が各ブロック陸部内で終端する周方向サイプ45,46を有する。ブロック陸部43b,44bも同様である。このようにサイプを配置することにより、エッジ効果が生じ、道路走行時の氷上性能および雪上性能を向上させることができる。また、軌道走行時にレール上の水膜を切って、排水性を向上させることもできる。サイプを設けることにより、軌道走行時にレールを引っ掻き、DMVにより駆動力を与えることができる点でも好ましい。
しかし、本発明はこのようなブロック基調のトレッドパターンにサイプを配置した構成に限定されることはなく、例えば、複数列の分割陸部の少なくとも一部がリブ状陸部であってもよい。
トレッド部10は、点対称のトレッドパターンを有することが好ましい。これにより、タイヤ100をローテーションして、DMV200の反対側の後輪に用いる場合、均等に摩耗が進行するため好ましい。
また、タイヤ100は冬用タイヤであることが好ましい。トレッド部10を通常のスタッドレスパターンとすることにより、道路走行時の氷雪上性能を確保することができる。
本発明のタイヤ100は、任意の荷重で用いることができるが、重荷重用タイヤであることが好ましい。DMV200は一般に、乗用車用よりむしろ、トラックや大人数の搬送を想定したバスであるためである。
本発明のタイヤ100は、トレッド部を形成するゴムを発泡ゴムと非発泡ゴムとで使い分けたことが特徴であるため、タイヤ構造には何ら限定されず、公知のタイヤ構造を用いることができる。
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、以下の実施例タイヤおよび比較例タイヤを用いて行った比較評価について説明する。
それぞれの空気入りタイヤに共通する事項は以下の通りである。トレッドパターンは、全てのタイヤにおいて図1に示したものを用いた。また、発泡ゴム(発泡率:11%)および非発泡ゴム(100%モジュラス:2.5MPa)のゴム成分としては、表1に示すものを使用した。
タイヤサイズ:11R22.5(トラック・バス用)
タイヤの内部構造:1組の交差ベルトを有するラジアルタイヤ
(ベルトコード角度:40°,74°、カーカス:1枚)
これらのタイヤをリム幅7.50インチの適用リムに装着し、900kPaの内圧を充填して、以下の性能試験を行った。評価結果を表1に併せて示す。
<道路上における氷雪上性能の評価>
これらのタイヤを車両(日野プロフィア)に装着し、テストコース(氷上)で発進加速試験および制動試験を行った。発進加速試験では、初速度5.0km/hで15.0mを走行する時間を測定し、比較例1タイヤを100として指数表示した。制動試験では、時速20kmから停止するまでの時間を測定し、比較例1タイヤを100として指数表示した。いずれも時間がかかるほど、小さな指数で表示することした。(例えば、2倍時間がかかった場合には、指数を50とする。)発進加速試験の指数と制動試験の指数の平均を表1に示した。よって、指数が大きいほど、氷上性能が優れていることを示す。雪上性能についても、テストコース(雪上)にて同様の発進加速試験および制動試験を行った。
<トレッド耐久性の評価>
70%をレール走行、30%を路面走行の割合で60時間走行したのち、トレッド部外観を評価した。比較例1タイヤを100として、トレッド部に生じたもげの個数が少ないほど指数が高くなるように評価した。試験に用いたレールは、標準レール(レール幅:60mm)であり、レールとタイヤはタイヤ赤道がレール頂面の幅中心と一致するように当接し、レール当接領域は、タイヤ赤道を中心として、レール幅の120%以内の領域として設定し、トレッド幅の55%以内の領域であった。なお、走行路の状況により荷重バランスは一定とはならないが、概ね後輪タイヤに50%〜60%の荷重がかかり、後輪案内輪に50%〜40%の荷重がかかる条件で走行試験を行った。
比較例2は比較例1よりも大きく氷雪上性能に優れるが、逆にトレッド部耐久性に大きく劣る結果となった。しかし、実施例1,2はトレッド部耐久性をさほど犠牲にすることなく、氷雪上性能を向上させることができた。