JP2013012454A - 電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダー、およびそれを用いた試料加熱方法 - Google Patents

電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダー、およびそれを用いた試料加熱方法 Download PDF

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Abstract

【課題】超高真空化が不要で、試料表面の破壊を引き起こすことなく、試料表面のコンタミを安定して防止できる電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダー、およびそれを用いた試料加熱方法を提供する。
【解決手段】発熱体として、正温度計数(PTC)サーミスタを備えることを特徴とする、観察・分析中のカーボンコンタミネーションの成長と熱ドリフトの抑制能力に優れた、電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダー。
【選択図】図1

Description

本発明は、電子顕微鏡、電子線マイクロアナライザ等の電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダー、およびそれを用いた試料加熱方法に関する。
材料の微細構造の評価に用いられる走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡、電子線マイクロアナライザ、オージェ電子分光装置等の電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置には、評価用試料の表面や周辺に存在するハイドロカーボン等の汚染物質が入射電子線と相互作用して試料表面にカーボンコンタミネーション(以下、「コンタミ」と呼ぶ)を生成し、観察像のコントラストを変化させたり、カーボンをはじめとする元素分析の精度を低下させるといった深刻な問題がある。
汚染物質は、主に、試料、試料ホルダー、真空排気系、装置の内部部品という4つのルートから混入する。真空排気系からの汚染物質の混入は、試料室の窒素ガスパージや液体窒素トラップ、オイルフリー真空ポンプの使用等によってある程度は抑制できる。一方、一旦、試料室に持ち込まれた汚染物質は、試料室の壁や試料ホルダー等に付着もしくは吸着して、高真空に排気してもなかなか除去されない。また、如何に清浄な試料でも、大気に曝されるとその表面にハイドロカーボン等のカーボン源が吸着する。試料の前処理、ハンドリング、保管が不適切だと試料によって試料室に持ち込まれる汚染物質は増加する。
装置内に持ち込まれた汚染物質の分子は表面拡散や気相拡散を介して装置内を動き回る。動き回るこれら汚染物質の分子はやがて電子線に引き寄せられるようにその試料照射位置に凝集してコンタミを生成する。このようなコンタミの生成過程から、汚染物質に電子線を照射して観察・分析する前に出来る限りそれらを試料の周辺から取り除くか、それらが動かないように固定することがコンタミ対策として有効である。
こうした試料の表面や周辺に存在する汚染物質を除去する方法としては、液体窒素トラップが最もポピュラーである。これは、試料の近傍に液体窒素で冷却したコールドフィンを設けてこれに気相拡散や表面拡散を介して到達した汚染物質の分子を一時的に固定する方法である。この方法では、試料周辺の汚染物質を完全に除くことは出来ないため、コンタミを完全に防止出来ない。
試料室を超真空化する方法や試料表面をArイオン等でスパッタリングする方法も広く知られている。しかし、試料室を超真空化する方法では、試料室周辺を100〜200℃で数時間〜数日間加熱するベーキング操作が必要なため、装置に使用する材料や分析用の分光器や電子銃をこのベーキング操作と超高真空の維持に耐えるものにしなければならないといった装置上の制約が多い。また、この方法は、試料表面に存在する汚染物質を直接除去するものではないため、この方法単独ではコンタミの生成を完全に抑止できないといった問題がある。また、Arイオン等でスパッタリングする方法は、スパッタリング用のイオン銃を設置できる装置でなければ適用できず、試料表面の破壊を伴うため、スパッタリングが試料表面の像観察や元素分析に悪影響しない場合にしか適用できないという制約がある。また、試料室の超高真空化と組み合わせて使用しなければ、スパッタリングで一旦除去しても試料表面に汚染物質分子の再吸着が起こるため、コンタミの成長を完全に防止できない。
非特許文献1とその引用文献には、試料や試料ホルダーに低エネルギーの高周波反応ガスプラズマを照射して汚染物質を除去する技術が提案されている。また、特許文献1〜3には、大気などの酸素含有ガスから高周波プラズマを発生させて酸素ラディカルを生成し、これを試料の表面や周辺に照射して存在している汚染物質を酸化し、排気されやすいH2O、CO、CO2等に分解して除去する方法および装置が提案されている。
T. C. Isabell et al: Microsc. Microanal 5, 126 (1999)
米国特許第6,610,257号公報 米国特許第6,105,589号公報 米国特許第6,452,315号公報
しかしながら、非特許文献1や特許文献1〜3に記載された技術では、プラズマやラディカルの照射域が試料およびその周辺に十分に及ばないためと思われるが、汚染物質を完全には除去できず、試料表面のコンタミを安定して防止することができない。
本発明は、超高真空化が不要で、試料表面の破壊を引き起こすことなく、試料表面のコンタミを安定して防止できる、電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダー、およびそれを用いた試料加熱方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、以下のことを見出した。
i) 高真空環境下で試料表面のコンタミを防止するには試料の加熱が有効である。試料加熱によってコンタミが防止されるのは、試料表面に吸着する汚染物質の分子が熱的に強制離脱させられて、表面拡散や気相拡散を介して電子線の照射位置に到達できなくなるためだと考えられる。但し、この場合、発熱体として通常のニクロム線やタングステン線等の金属製のヒーター線を用いると、加熱温度が安定しないために試料や試料ホルダーの熱膨張に起因する熱ドリフトが発生し、顕微鏡像の撮影や元素分析に要する数10秒〜数分間、像観察位置や元素分析位置を安定させることが困難である。
ii) この熱ドリフトの発生を抑制するには、試料加熱用の発熱体としてその温度変化を自己抑止する正温度計数(PTC)サーミスタを用いることが効果的である。
iii) 特に、PTCサーミスタに直流電流を流して発熱させて試料加熱することが好ましい。
本発明は、このような知見に基づいてなされたものであり、発熱体として、正温度計数(PTC)サーミスタを備えることを特徴とする、電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダーを提供する。
本発明は、また、上記の試料加熱ホルダーを用い、PTCサーミスタに直流電流を流して発熱させることを特徴とする、観察・分析中のカーボンコンタミネーションの成長と熱ドリフトの抑制能力に優れた、電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置における試料加熱方法を提供する。このとき、プラズマあるいは酸素ラディカルを照射することが好ましい。
本発明の試料加熱ホルダーの使用により、超高真空化されていない電子顕微鏡や電子線マイクロアナライザ等の電子線を照射する装置で、Arイオンスパッタリング等で試料表面の破壊を引き起こすことなく、試料表面のコンタミの成長を安定して防止でき、かつ試料の熱ドリフトの発生も抑制できるので、像観察や元素分析を高精度に行うことができるようになる。
加熱(直流)、加熱(直流)+酸素ラディカル照射、加熱なしの未処理の状態でのC積算強度の経時変化を示す図である。 直流で加熱した場合の像観察結果を示す図である。 交流で加熱した場合の像観察結果を示す図である。
上述したように、高真空環境下で試料表面のコンタミを防止するには試料を加熱することが効果的である。このコンタミの防止効果は、加熱温度が50℃前後から認められ、高温になるほど顕著となる。しかし、著しく高温にすると試料の微細構造の変化や変質が生じるので加熱温度は試料に合わせて設定する必要がある。例えば、無機材料や金属材料を対象とする場合は100℃前後に加熱することが好ましい。これは、100℃前後の加熱であれば、像観察や元素分析などに要する数10秒〜数分間における元素の拡散距離が結晶粒サイズの1%以下に留まり、試料の変化や変質を無視できるためである。例えば、平均粒径が10μmのフェライト粒からなる鋼材のカーボン分析を行う場合、カーボンの100℃における拡散係数は約2×10-14cm2/sなので、1時間加熱しても拡散距離は約85nmであり、通常の分析時間内では加熱による像観察や元素分析の精度の劣化が問題になることはない。
一方、高真空環境下で試料を通常のニクロム線やタングステン線等の金属線ヒーターで加熱すると、温度計測に基づくフィードバック/フィードフォワード制御をおこなってもヒーターから試料や試料ホルダーに流入する熱と熱伝導を介して周辺の構造物に流出する熱の収支がバランスせず、試料もしくは試料ホルダーの温度がハンチングを起こすため、熱膨張に起因する熱ドリフトが発生する。熱ドリフトが発生すると、観察中に視野が移動するため、像観察や元素分析の位置精度を確保することが困難になる。そこで、本発明では、発熱体としてそれ自体の温度変化を自己抑制する機能を有するPTCサーミスタを用い、試料もしくは試料ホルダーにおける熱ドリフトの発生を抑制する。
サーミスタとは、温度変化に対して電気抵抗変化の大きな抵抗体のことであり、PTCサーミスタは温度上昇に対して電気抵抗が増大するタイプのサーミスタである。このタイプのサーミスタはキューリー温度を超えると、急激に抵抗が上昇するような非線形の動作をするため、電流を流し続けると、自己発熱によって電流が流れ難くなって一定の温度を保つようになるため、定温発熱体として機能する。このように、PTCサーミスタはそれ自体が温度調節機能を有しており、温度上昇を迅速に行え、設定温度でのハンチングも起こさないので、熱ドリフトの発生を抑制する上で極めて効果的な発熱体といえる。
PTCサーミスタとしては、チタン酸バリウムに添加物を加えたセラミックPTCサーミスタが好適である。これは、このサーミスタでは、チタン酸バリウムが室温で安定な正方晶から120℃以上で安定な立方晶に相転移することでサーミスタ特性が発現され、その設定温度(キューリー温度)も添加物の量で100℃未満から300℃程度の範囲で調整できるためである。
PTCサーミスタの使用に当たっては、直流電流を流して発熱させることが好ましい。使用電流を交流にすると、サーミスタを含む電流の流路の周辺に交流磁場が発生するため、照射電子線が振動を起こして電子顕微鏡像の歪み、焦点ボケ、狙った分析位置の位置ずれ等の不具合が発生し、特に、電子線照射位置の精度が重要な高倍率での電子顕微鏡像の撮影や極微小領域の分析で深刻な問題となる。一方、使用電流を直流にすると、静磁場しか生じないため、こうしたことが問題になることはない。
また、プラズマや酸素ラディカル照射と組み合わせて使用すれば、さらに安定してコンタミを低減できる。
発熱体の温度が一定でも、それを保持する試料ホルダーなどの熱伝達部分の熱膨張率が大きいと、それらの上に固定された試料にも熱ドリフトの影響が現れやすい。そのため、試料に直接・間接的に連結する加熱によって温度上昇しやすい部品には、低熱膨張率合金、例えばFeNi36合金などを用いることが望ましい。
なお、こうしたPTCサーミスタを用いれば装置の超高真空化やArスパッタリング等は不要であるため、試料表面の破壊を引き起こすこともない。
キューリー温度92℃、使用電圧100V、安定電流32mAのセラミックPTCサーミスタを既製の走査電子顕微鏡用アルミ製試料ホルダーの上に銅両面テープ(銅含有両面テープ)で固定した本発明の試料加熱ホルダーと、絶縁被覆されたニクロム線ヒーターと熱電対を上記アルミ製試料ホルダーの上に銅テープで固定したPID制御可能な比較用の試料加熱ホルダーを用いて以下の試験を行った。
これらの試料加熱ホルダーの加熱部分に試料として、イソプロピルアルコールで10分間洗浄後、大気乾燥した市販の鏡面研磨したシリコンウェハーを銅両面テープで固定し、Carl Zeiss社製走査電子顕微鏡SUPRA55VPの試料ステージにセットして室温(28℃)と92℃に温度設定した時のコンタミ量と熱ドリフト量を次の方法で測定した。尚、いずれの試料加熱ホルダーへも、SUPRA55VP試料ステージの前面に取り付けた電流導入端子を介して直流電圧を供給した。この時、比較の試料加熱ホルダーには温度制御用マイクロプロセッサーも結線して92℃にPID制御できるようにした。走査電子顕微鏡の操作条件は、加速電圧:5kV、照射電流:0.1nA、電子線照射時間:500秒、観察倍率:10万倍とした。なお、いずれの試料加熱ホルダーの場合にも、チャージアップの影響を避けるために、市販の導電性Cuテープを用いて試料をアルミホルダーに接地した。
コンタミ量:走査電子顕微鏡に搭載されたエネルギー分散型特性X線分析装置を用い、電子線照射時間における試料表面のカーボン(C)-Kα線の積算強度(バックグランド込みのピーク強度、単に「C積算強度」と呼ぶ)でコンタミ量を評価した。
熱ドリフト量:電子線照射時間における観察視野の移動距離で評価した。
結果を表1に示す。
コンタミ量(C積算強度)は、本発明の試料加熱ホルダーと比較の試料加熱ホルダー、いずれの場合も、室温では多いが、92℃まで加熱するとバックグランドレベルまで低下する。
一方、熱ドリフト量(視野移動距離)は、いずれの場合も、室温では10nm程度で小さいが、92℃まで加熱すると両者のホルダー間で顕著な差が認められ、本発明の試料加熱ホルダーの場合は90nm程度で、像観察や元素分析の位置を追従可能なほどに小さく、比較の試料加熱ホルダーの場合は1000nm以上で、像観察や元素分析の位置を追従不可能になる。
以上のことから、本発明の試料加熱ホルダーを用いれば、電源に接続するだけで(特別な温度制御回路を設けることなく)狙った温度に自動制御されるため、試料加熱により試料表面のコンタミを防止できるとともに、熱ドリフトの発生も抑制できるので、像観察や元素分析を高精度に行うことができるといえる。
本発明の試料加熱ホルダーに、試料として、実施例1で用いたシリコンウェハーの代わりに純鉄(市販の板状標準試料:純度99.9%)を固定し、加熱、加熱+酸素ラディカル照射、加熱なしの未処理の状態で、電子線照射時間を変えて試料表面のコンタミ量(C積算強度)を測定した。このとき、加熱は実施例1と同様な条件で行い、酸素ラディカル照射は市販の高周波プラズマ発生装置を用いて行った。なお、純鉄は表面が活性なために、シリコンウェハーよりもコンタミが付着しやすく、長時間電子線を照射するとコンタミにより分析が妨害されるため、照射時間60分までのコンタミ量の経時変化を測定した。測定は、実施例1と同様の条件で行い、アセトンにて超音波洗浄した純鉄試料を複数準備し、各試料、各時間において5回測定して平均のコンタミ量を求めた。
結果を図1に示す。
本発明の試料加熱ホルダーを用いて試料を加熱すると、加熱しない未処理の場合に比較して、60分間電子線を電子線照射してもコンタミ量の上昇が大幅に抑制されることがわかる。また、加熱に加え、酸素ラディカル照射を施すと、より安定してコンタミを低減できることがわかる。
実施例1と同様なキューリー温度92℃、使用電圧100V、安定電流32mAのセラミックPTCサーミスタを既製の走査電子顕微鏡用アルミ製試料ホルダーの上に銅両面テープ(銅含有両面テープ)で固定した本発明の試料加熱ホルダーを用いて以下の試験を行った。
この試料加熱ホルダーの加熱部分に試料として、ナイタール腐食後アルコールで洗浄し、大気乾燥した市販の極低炭素鋼板を銅両面テープで固定し、Carl Zeiss社製走査電子顕微鏡SUPRA55VPの試料ステージにセットして92℃に温度設定して像観察を行った。このとき、試料加熱ホルダーへは、SUPRA55VP試料ステージの前面に取り付けた電流導入端子を介して直流電圧と交流電圧を供給して、それぞれの場合において像観察を行った。走査電子顕微鏡の操作条件は、加速電圧:5kV、照射電流:0.1nA、電子線照射時間:500秒、観察倍率:1万倍とした。なお、試料加熱ホルダーには、チャージアップの影響を避けるために、市販の導電性Cuテープを用いて試料をアルミホルダーに接地した。
直流で加熱した場合の像観察結果を図2に、交流で加熱した場合の像観察結果を図3に示す。交流で加熱した場合は、磁場発生により観察像に電気的なノイズが入り、像が非常に不明瞭になるが、直流で加熱した場合は、観察像に電気的なノイズ発生がなく、しかも加熱によりコンタミが増加しない状態で、明瞭な像観察を実施できることがわかる。

Claims (3)

  1. 発熱体として、正温度計数(PTC)サーミスタを備えることを特徴とする、観察・分析中のカーボンコンタミネーションの成長と熱ドリフトの抑制能力に優れた、電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置用の試料加熱ホルダー。
  2. 請求項1に記載の試料加熱ホルダーを用い、PTCサーミスタに直流電流を流して発熱させることを特徴とする、観察・分析中のカーボンコンタミネーションの成長と熱ドリフトの抑制能力に優れた、電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置における試料加熱方法。
  3. プラズマあるいは酸素ラディカルを照射することを特徴とする、請求項2に記載の観察・分析中のカーボンコンタミネーションの成長と熱ドリフトの抑制能力に優れた、電子線を用いた顕微鏡あるいは分析装置における試料加熱方法。
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