発明の背景
発明の分野
本発明は、癌診断法の分野に関する。さらに詳細には、本発明は、特異的抗原/抗体複合体に基づく癌の診断に関する。
背景技術
本願を通じて言及される総ての刊行物は、引用することにより完全に本明細書の開示の範囲とされ、その中に引用される総ての参照文献を含むものである。
対象の生体サンプルにおける癌の検出のための様々なイムノアッセイ法が開発されている。これらの方法の一部は、癌細胞と関係があると考えられる自己抗体の存在の検出に基づいている。
癌または腫瘍細胞は、体(腫瘍を有することが分かっているヒトおよび任意の他の動物の両方)の正常細胞から出現し、正常細胞が変化を受け腫瘍形成性となる。これらの変化は、細胞の遺伝子コードにおける突然変異として始まるが、それらはタンパク質含量および/またはタンパク質発現レベルの変化へと変わり、細胞挙動の変化を引き起こす。
腫瘍細胞は、「腫瘍抗原」の存在に対して正常細胞とは抗原性が異なる。これらの腫瘍抗原は、腫瘍細胞に特有である可能性があり、また、違った発現を示す、または過度に発現される可能性があるため、「腫瘍関連抗原」(TAA)と考えられる。腫瘍細胞は、タンパク質一次構造、すなわち、アミノ酸配列(ゲノム配列の変化に由来する)だけでなく、翻訳後修飾の変化、例えば、グリコシル化、リン酸化の変化などのために、二次構造および三次構造においても正常細胞と異なる可能性があり、それらの変化は、結果として該タンパク質の抗原性を変化させ、またそれを腫瘍関連抗原と特徴付ける。一つの典型的な例は、乳腺由来のタンパク質ムチンであり、ムチン自体は腫瘍細胞において変化しないが、乳癌を(時には卵巣癌も)有する患者ではそれに対して自己抗体が見られる。その理由は、おそらく、正常細胞のタンパク質は高度にグリコシル化され、濃厚で厚い炭水化物鎖層のために全く露出していないことであろう。腫瘍細胞では、グリコシル化が不十分であり、タンパク質フラグメントが露出することになり、それらのタンパク質フラグメントが免疫系に対する抗原決定基として働く。
免疫系に対する新たな抗原として出現し、機能する正常タンパク質の別の一般的な例は、新たな状況において出現される正常タンパク質のものであり、例えば、成体細胞において「デノボ(de novo)」発現される胎児性タンパク質などである。
いかなる定義にも拘束されないが、TAAは、腫瘍に対する細胞性および/または体液性免疫応答を引き起こし得るが、腫瘍から宿主を守ることはほとんどない、特定腫瘍、例えば、リンパ腫、癌腫、肉腫、または黒色腫と関係があると思われる分子であると現在考えられている。従って、TAAは現在次の三つの種類に分類されている:特定腫瘍に高度に特異的な、1名またはわずか数名の個体中に存在し正常細胞では見られないもの、例えば、腫瘍特異移植抗原(クラス1)、異なる患者由来の複数の関連腫瘍中に存在するもの(クラス2)、ならびに正常細胞および悪性細胞上に存在するが悪性細胞において大量で発現されるもの(クラス3)。クラス2 TAAは、多くの腫瘍中に存在するが正常対象ではめったに観察されないため、クラス2 TAAは、臨床的に有用なアッセイを得る最大の可能性を有すると考えられる。
一部の研究においては、検査の感度を高めるための、2種以上の自己抗体の同定について言及している[例えば、Zhang J. Y., et al., Cancer Epidemiology & Prevention 12:136-143 (2003)]。他の研究では、健常対象と癌対象とを識別する存在であると予想される抗体のアレイを表すための「抗体プロファイリング」について言及されたた[例えば、Chen, G., et al., Cancer Res. 67(7):3461-3467 (2007)、 Zhong et al., Journal of Thoracic Oncology 1(6) pp. 513-518 (2006)]。
WO2008/008708号公報には、対象において肺癌の存在を検出するための方法が開示されており、その方法は、対象からサンプルを準備する工程、およびそのサンプルを肺癌と関係がある少なくとも2種のマーカーの存在について解析する工程を含み、ここで、そのサンプル中に該マーカーの少なくとも半分が存在するならば、該対象中に肺癌が存在する可能性があり、または該サンプル中の該少なくとも2種のマーカー各々の存在と関連付けられる正規化値を得、該正規化値を集計して合計を得、該合計を、該少なくとも2種のマーカーからの肺癌の最大予測値である参照値と比較して、該合計が該参照値の少なくとも30%であるならば、該対象中に肺癌が存在する可能性がある。
本発明の使用および目的は、記載を進めるにつれて明らかになるであろう。
癌マーカーまたはマーカーパネル(自己抗体など)の存在を検出する方法と異なった方法で、本発明は、一方で、生体サンプルを、複数の抗原に対しての特異的抗体−抗原複合体レベルの相対的および定量的測定値について解析し、抗原が診断対象における癌の発生に対して生理学的寄与またはその他の方法での寄与をしていると考えるような所定の寄与因子によってそれらの測定値を調整し、もう一方で、集団全体での抗体発現プロファイル/レベルの多様な性質を確認する、診断方法および適用を提供する。本発明の診断方法および適用は、診断対象の生体サンプルにおける自己抗体レベルの相対的対レベルを確認し、アッセイ装置の様々な制限に対する技術的解決法も提供する。
本発明の実施形態は、癌の存在についての評価中に対象へ診断(結果)を割り当てることおよび/または対象が罹患している可能性が高いことを判定する方法に関し、その方法は以下を含む、(i)該対象から生体サンプルを準備すること、(ii)該サンプルを所定の抗原セットと接触させて該サンプル中に存在する自己抗体と複合体を形成すること(該自己抗体は、該抗原と特異的に結合可能である)、ここで、該抗原は各々、癌の存在に対する所定の相対的寄与因子によって特徴付けられる、(iii)該対象における該抗原−抗体複合体各々のレベルを測定すること、(iv)所定の相対的寄与因子に従って該抗原−抗体複合体レベル各々を調整することによって、該抗原−抗体複合体レベル各々の、癌の存在に対する相対的寄与パラメーターを決定すること、および(v)検査関数、(x)=f(相対的寄与パラメーター)の出力を決定すること、それによって、該(x)が健常対象について事前に確立された閾値より高いならば、該対象には、現在癌に罹患している可能性が高いという診断が割り当てられる。
本発明の方法の総ての実施形態では、その抗原セットは、少なくとも2種の抗原を含んでいてもよく、該抗原は各々、前記対象における癌の存在に対する所定の相対的寄与因子によって特徴付けられ、それらの所定の相対的寄与因子は相対的寄与因子マトリックスを定義する。
本発明の方法の総ての実施形態では、その相対的寄与因子マトリックスは、前記診断対象における癌の発生を特徴付ける2種以上の抗原−抗体複合体レベルの比例関係を含んでなる。
本発明の方法の総ての実施形態では、その生体サンプルは、限定されるものではないが、血漿サンプルまたは血清サンプルであってよい。
本発明の方法の総ての実施形態では、そのサンプルはアリコート(aliquot)に分けてよい、例えば、測定可能な抗原−抗体複合体レベルを提供するために好適な緩衝液を用いて、例えば、1:5〜1:2000の範囲である、第1の希釈率で希釈されていてよい第1のアリコート、および測定可能な抗原−抗体複合体レベルを提供するために好適な緩衝液を用いて、例えば、1:5〜1:2000の範囲である、第2の希釈率で希釈されていてよい第2のアリコート。その第2の希釈率は、第1の希釈率とは異なっていてよく、その第1および第2の希釈率は、抗原との接触後に測定可能な抗原−抗体複合体レベルを提供するレベルに、自己抗体が異なる希釈率で希釈されるようなものであり、それらの抗原−抗体複合体は、2種の異なる抗原とともに存在する。
本発明の総ての実施形態では、その第1および第2の希釈率は、前記2種の異なる抗原の相対的希釈比率、または前記2種の異なる抗原間の比例関係を定義する。前記相対的希釈比率は、少なくとも二つの相対的希釈比率を含んでいてもよい。
本発明の実施形態では、その方法は、乳房または卵巣の癌、子宮頸癌、結腸、肺、または前立腺の癌を検出し、それらの診断を割り当てるために設計されるが、それに限定されるものではない。
さらなる実施形態では、本発明は、癌の存在についての評価中に診断対象への診断の割り当てに用いる診断モニタリングシステムを提供し、そのシステムは以下を含む:(i)相対的寄与因子マトリックスを保持するためのレジスター、その相対的寄与因子マトリックスは、少なくとも二つの所定の相対的寄与因子を含んでなる、(ii)該診断対象の生体サンプルを所定の抗原セットと接触させて該サンプルの自己抗体と複合体を形成することによって得られる抗原−自己抗体複合体レベルを含んでなる測定データを受信するための入力モジュール、ここで、該抗原は各々、癌の存在に対する該所定の相対的寄与因子によって特徴付けられる、(iii)該測定データおよび該相対的寄与因子マトリックスを処理するためのプロセッサモジュール、該処理は、所定の相対的寄与因子に従って該抗原−自己抗体複合体レベル各々を調整することによって、該抗原−自己抗体複合体レベルの相対的寄与パラメーターを決定すること、および検査関数(x)=f(相対的寄与パラメーター)の出力(x)を決定することを含み、それによって、該(x)が健常対象について事前に確立された閾値より高いならば、システム変数は、その診断対象に、その診断対象が癌を患っているステータスが割り当てられることを示す、ならびに(iv)その診断対象に、その診断対象が癌を患っているとのステータスが割り当てられる、該システム変数に保存された表示を出力するための出力ユニット。
別の実施形態では、本発明は、癌の存在について評価中の診断対象への診断の割り当てに用いる、コンピュータにより実行される診断方法に関し、その方法は、以下を含む:(i)相対的寄与因子マトリックスを得ること、その相対的寄与因子マトリックスは、少なくとも二つの所定の相対的寄与因子を含んでなる、(ii)該診断対象の生体サンプルを所定の抗原セットと接触させて該サンプルの自己抗体と複合体を形成することによって得られる抗原−抗体複合体レベルを含んでなる測定データを受信すること、ここで、該抗原は各々、癌の存在に対する該所定の相対的寄与因子によって特徴付けられる、(iii)該測定データおよび該相対的寄与因子マトリックスを処理すること、該処理は、所定の相対的寄与因子に従って該抗原−自己抗体複合体レベル各々を調整することによって、該抗原−自己抗体複合体レベルの相対的寄与パラメーターを決定すること、および検査関数(x)=f(相対的寄与パラメーター)の出力(x)を決定することを含む、(iv)該出力(x)を健常対象について事前に確立された閾値と比較すること、それによって、該(x)が該閾値より高いならば、該システム変数には、その診断患者が癌を患っているというステータスが割り当てられる、ならびに(v)その診断対象に、その診断対象が癌を患っているとのステータスが割り当てられるという表示を出力すること。
さらに別の実施形態では、本発明は、癌の存在についての評価中に診断対象に診断を割り当てるためのコンピュータプログラム製品に関し、そのコンピュータプログラム製品は、プロセッサにより実行されると、該コンピュータにより実行される方法が遂行される、その中に保存されたコンピュータプログラムコードを含むコンピュータ読み取り可能な媒体を含んでなる。
別の実施形態では、本発明は、抗原指標を符号化する(encoding)ための方法に関し、その方法は、以下を含む:(i)生体サンプル中に存在する自己抗体と複合体を形成するために使用される抗原セットを含んでなる情報を得ること、(ii)それらの抗原各々に対して、好適な緩衝液を用いてある希釈率で、そのサンプルを所定の抗原セットと接触させてそのサンプル中に存在する自己抗体と複合体を形成することを含むアッセイにおいて測定可能な抗原−自己抗体複合体レベルを提供するような希釈率を示す情報を得ること、それらの自己抗体は、それらの抗原と特異的に結合可能である、および(iii)その抗原指標を符号化すること、またその抗原指標はその希釈率を示す情報を管理し、またその抗原指標は、キーおよび関連値を含んでなり、また各キーは、候補抗原の同一性を保持し、ここで、各値は、その候補抗原に対しての希釈率を示す情報を保持し、それによって、対象となる抗原を含んでなる照会(query)に応答して、その指標により、対象となる抗原に対しての希釈率を示す情報が検索される。いくつかの実施形態では、その指標は、少なくとも2種の抗原の希釈率を示す情報を保持する。
さらなる実施形態では、本発明は、抗原指標を符号化するためのコンピュータプログラム製品に関し、そのコンピュータプログラム製品は、プロセッサにより実行されると、該コンピュータにより実行される診断方法が遂行される、その中に保存されたコンピュータプログラムコードを含むコンピュータ読み取り可能な媒体を含んでなる。
総ての実施形態では、そのマトリックスは、以下にさらに説明するように、少なくとも二つの相対的寄与因子を保持する値のアレイによるものであり得る(例えば、[b0、b1、..bn])。
さらに、本発明は、ヒト対象における癌の診断のためのキットを提供し、該キットは、以下を含んでなる:(a)場合により、診断対象の生体サンプルを希釈するための緩衝液、(b)少なくとも2種の抗原、ここで、該抗原は各々、癌の存在に対する所定の相対的寄与因子によって特徴付けられ、該所定の相対的寄与因子は、レジスターに保持される相対的寄与因子マトリックスを定義する、および(c)対象の生体サンプルにおいて該抗原に特異的な抗原−自己抗体複合体を測定するための試薬および手段、ならびに(d)使用説明書。
本発明のキットは、本発明によるコンピュータプログラム製品のいずれかを含んでいてもよい。
本発明のキットは、前記診断対象の生体サンプルを前記抗原と接触させて該サンプルの自己抗体と複合体を形成することによって得られる抗原−抗体複合体レベルを含んでなる測定データを処理するためのプロセッサモジュールを含んでいてもよく、該処理は、所定の相対的寄与因子に従って該抗原−抗体複合体レベル各々を調整することによって、該抗原−抗体複合体レベルの相対的寄与パラメーターを決定すること、および検査関数(x)=f(相対的寄与パラメーター)の出力を決定することを含む、ここで、該(x)の値が、健常対象について事前に確立された閾値より高いことは、その診断対象が癌を患っていることを示す。
本発明のキットは、生体サンプル、例えば、血漿サンプルまたは血清サンプルなどを検査するために設計することができる。
本発明のキット中に含んでなる抗原は、配列番号1〜26によって示される抗原から選択される少なくとも2種の抗原であってよい。
一層さらなる実施形態では、本発明は、アッセイにおいて対象となる希釈率での抗体−抗原複合体の予測光学濃度(OD)読み取り値を決定するための方法に関し、そのアッセイは、アッセイ装置を用いて、生物学的(または生体)サンプルを準備することおよびそのサンプルを抗原種と接触させてそのサンプル中に存在する抗体と複合体を形成することによって実施され、それらの抗体は、その抗原種と特異的に結合可能であり、(i)少なくとも三つの異なる希釈率でそれらの抗体−抗原複合体の少なくとも三つのOD測定値を得ること、それによって、少なくとも3組の希釈率および割り当てられたOD測定値を含んでなるデータを得ること、(ii)統計的平滑化手法(statistical smoothing procedure)により関数[OD]=f(希釈率)を決定すること、および(iii)f(対象となる希釈率)に対する[OD]値を決定すること、それによって、対象となる希釈率での抗体−抗原複合体の予測光学濃度(OD)読み取り値を得ることによって、その予測光学濃度(OD)が決定されることを特徴とする。
その関数[OD]=f(希釈率)に、少なくとも三つの異なる希釈率のうちの一つが入力されるならば、その関数[OD]は、割り当てられた測定ODを出力する(または割り当てられた測定ODの値ぐらいの数値を出力する)。
この方法は、前記少なくとも三つのOD測定値が総て、そのアッセイ装置の線形範囲内にあることを確認する工程をさらに含んでよい。その予測光学濃度(OD)読み取り値は、その測定装置の線形範囲外となり得る。
総ての実施形態では、その生体サンプルは、哺乳類またはヒト対象から得ることができる。
本発明の実施形態は、対象における癌の診断方法に関し、該方法は、(a)該対象から生体サンプルを準備する工程、(b)該サンプルを少なくとも2種の異なる好適な抗原と接触させて該サンプル中に存在する抗体と少なくとも2種の異なる複合体を形成する工程(該抗体は、該抗原と特異的に結合可能である)、ここで、該抗原は各々、癌を有する対象由来のサンプルにおける該少なくとも2種の抗原に特異的な抗体レベル間の比率が、健常対象について確立された同じ少なくとも2種の抗原に特異的な抗体レベル間の比率とは異なるという特徴によって特徴付けられる、(c)該対象における該抗原−抗体複合体各々の実際のレベルを決定する工程、(d)該対象における該少なくとも2種の異なる複合体のレベル間の比率を確立する工程、および(e)該比率を、同じ少なくとも2種の抗原と健常対象由来のサンプルとの間で形成される抗原−抗体複合体レベル間の所定の比率と比較する工程を含み、それによって、工程(d)において決定された該比率が、健常対象について事前に確立された所定のカットオフポイントより高いまたは低いならば、該対象は癌であると診断される。そのような方法では、健常対象について事前に確立された所定のカットオフポイントは、健常患者について事前に確立された前記同じ少なくとも2種の抗原との間で形成される抗原−抗体複合体レベル間の比率の範囲の上限または下限であり得る。
本発明の総ての実施形態では、そのサンプルまたはそのアリコートは、好適な緩衝液を用いて、抗体の好適な検出可能レベルを提供する希釈度、例えば、限定されるものではないが、1:5〜1:2000の希釈度に希釈することができる。
本発明の総ての実施形態では、前記抗原は、配列番号1〜26によって示される抗原のいずれか一つであってよい。
総ての実施形態では、本発明の方法は、検出しようとする癌の種類に合わせることができる、特異的な所定の特異性および/または感度を得るために設計することができる。
本発明の実施形態では、本発明は、特定種類の癌の検出に有効な、特異的抗原組を確認するための方法を提供する。この方法は、既知癌サンプル、ならびに健常対象のサンプルの受信者操作特性(ROC)解析を採用することができる。そのような「有能な」組を確認するための特別のアルゴリズムを提供する。
本発明の実施形態では、本発明の診断方法に用いる特異的抗原組についての、癌を診断するためのカットオフ比率または比率の範囲を決定するための方法を提供する。そのカットオフ比率または比率の範囲は、各種類の癌についての感度および特異性の具体的な要件に従って設計することができる。
いくつかの実施形態では、本発明の診断方法は、以下からなる群から選択される少なくとも2種の抗原を含んでなる抗原セットを使用して行われる:配列番号5(LDPe071)、配列番号6(LDPe070)、配列番号7(LDPe069)、配列番号9(LDPe002)、配列番号10(LDPe008)、配列番号11(LDPe012)、配列番号12(LDPe016)、配列番号13(LDPe039)、配列番号21(LDPe041)、配列番号14(LDPe066)、配列番号15(LDPe072)、配列番号22(LDPe076)、配列番号23(LDPe077)、配列番号24(LDPe078)、配列番号25(LDPe079)、および配列番号26(LDPe095)、その診断は乳癌の診断である。
他の実施形態では、本発明の診断方法は、以下からなる群から選択される少なくとも2種の抗原を含んでなる抗原セットを使用して行われる:配列番号8(LDPe001)、配列番号9(LDPe002)、および配列番号16(LDPe092)、その診断は卵巣癌の診断である。
いくつかの実施形態では、本発明の診断システムは、以下からなる群から選択される少なくとも2種の抗原を含んでなる抗原セットを利用する:配列番号5(LDPe071)、配列番号6(LDPe070)、配列番号7(LDPe069)、配列番号9(LDPe002)、配列番号10(LDPe008)、配列番号11(LDPe012)、配列番号12(LDPe016)、配列番号13(LDPe039)、配列番号21(LDPe041)、配列番号14(LDPe066)、配列番号15(LDPe072)、配列番号22(LDPe076)、配列番号23(LDPe077)、配列番号24(LDPe078)、配列番号25(LDPe079)、および配列番号26(LDPe095)、その診断は乳癌の診断である。
他の実施形態では、本発明の診断システムは、以下からなる群から選択される少なくとも2種の抗原を含んでなる抗原セットを利用する:配列番号8(LDPe001)、配列番号9(LDPe002)、および配列番号16(LDPe092)、その診断は卵巣癌の診断である。
次の図面により本発明をさらに説明する。それらの図面は例示にすぎず本発明の範囲を限定しない。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。
A.同じ希釈度での複合体の直接測定例を表す(材料と方法を参照)。B.装置制限のために行うことができない、異なる希釈度での複合体の直接測定例を表す(材料と方法を参照)。C.異なる希釈度での複合体の直接測定例および装置制限の数学的克服を表す(材料と方法を参照)。
抗原LDPe051、LDPe064、LDPe069、およびLDPe070に対して抗体のCT1およびCT2の三つの希釈物をプロットしたグラフを表す。
OC(卵巣癌)、CT(健常対照)およびBC(乳癌)についてのLDPe051とLDPe069の計算比率(希釈番号2)を表す。
表7−乳癌51_69についてのROC曲線の計算結果(実施例1)を表す。
実施例1において示した結果の乳癌についてのROC曲線−抗原LDPe051およびLDPe069を表す。
表8−卵巣癌51_69についてのROC曲線の計算結果(実施例1)を表す。
卵巣癌の診断における抗原LDPe051およびLDPe069についてのROC曲線を表す。
OC(卵巣癌)、CT(健常対照)およびBC(乳癌)についてのLDPe064とLDPe070の計算比率(希釈番号2)を表す。
表9−卵巣癌64_70についてのROC曲線の計算結果(実施例1)を表す。
卵巣癌の診断における抗原LDPe064およびLDPe070についてのROC曲線を表す。
表10−乳癌64_70についてのROC曲線の計算結果(実施例1)を表す。
乳癌の診断における抗原LDPe064およびLDPe070についてのROC曲線を表す。
様々な抗原組に関する結果の解析例(A:配列番号18および配列番号20、B:配列番号19および配列番号20、C:配列番号1および配列番号2、D:配列番号1および配列番号20、E:配列番号2および配列番号5、F:配列番号4および配列番号17、G:配列番号5および配列番号17、H:配列番号3および配列番号17、I:配列番号5および配列番号19)を表す。
表11−特異的抗原の配列を表す。
図5A−4種の抗原に対して得られた抗原−自己抗体複合体レベル測定値を示している(検査1139)。それらの測定値は同一の希釈率系列により得た、図5B−検査1139の4種の抗原に対して得られた平滑化測定値を表し、図5C−その4種の抗原に対して得られた抗原−自己抗体複合体レベル測定値を表す(検査1139)。それらの測定値は各抗原に対して種々の希釈率により得た:Ag1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512、図5D−検査1139に関してAg1〜4に対して得られた平滑化結果を示している。各抗原に対してのサンプルの出発希釈はAg1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512であった。
図6A−4種の抗原に対して得られた抗原−自己抗体複合体レベル測定値を示している(検査1200)、それらの測定値は同一の希釈率系列により得た、図6B−検査1200の4種の抗原に対して得られた平滑化測定値を表し、図6C−その4種の抗原に対して得られた抗原−自己抗体複合体レベル測定値を表す(検査1200)。それらの測定値は各抗原に対して種々の希釈率により得た:Ag1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512、図6D−検査1200に関してAg1〜4に対して得られた平滑化結果を示している。各抗原に対してのサンプルの出発希釈はAg1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512であった。
図7A〜7M:図7A−罹患/癌対象と健常対照の統計的分離を可能にする14種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供し、図7B−表17、各抗原および各サンプルの第1の希釈率またはポイントについてのln(OD)結果を詳述している。横行「0」は健常サンプルを表し、横行「1」は癌サンプルを表す、図7C−13種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7D−12種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7E−11種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7F−10種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7G−9種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7H−8種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7I−7種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7J−6種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7K−5種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7L−4種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する、図7M−3種の抗原を含んでなるサブセットについてのAUCを決定するROC解析を提供する。図7N:7名の卵巣癌患者および17名の健常対象で、LDPe002およびLDPe092について第1の最小希釈度(1:8)で得られた結果の二次元グラフを表す。図7O:7名の卵巣癌患者および17名の健常対象で、LDPe002およびLDPe092について第1の最小希釈度(1:8)で図7Nにおいて得られ示した結果のAUC曲線を表す。図7P:14名の卵巣癌患者および14名の健常対象で、LDPe001およびLDPe092について第1の最小希釈度(1:8)で得られた結果の二次元グラフをを表す。図7Q:14名の卵巣癌患者および14名の健常対象で、LDPe001およびLDPe092について第1の最小希釈度(1:8)で図7Pにおいて得られ示した結果のAUC曲線を表す。
表38−実施例1〜8において自己抗体と複合体を形成するために抗原として使用されるペプチド/タンパク質の配列の一覧表を表す。
癌の存在について評価中の診断対象への診断の割り当てに用いる、コンピュータにより実行される診断方法のフローチャートを表す。
癌の診断法のために作動する診断モニタリングシステムの概略ブロック図を表す。
発明の具体的説明
導入部で記述したとおり、癌過程で、将来の癌性細胞は、そのDNA、遺伝子発現、転写後レベル、翻訳レベル、および/または翻訳後レベルにおいて変化を受け、それによってそれらの表現型が変化する。言い換えれば、これらの細胞は、それまでそれらの細胞の「正常な」レパートリーの一部ではなかったために腫瘍関連抗原(TAA)として同定されているタンパク質を発現し始める。TAAはまた、正常細胞中にもあるいは正常な(健常)対象由来の細胞中にも存在し得る。腫瘍抗原は、ウイルスによって導入された新たな遺伝情報によるものかもしれない、原癌遺伝子の活性化を通じて起こり得る、発癌物質による遺伝機能の変更(それによって、通常は不活性である(胚発生過程中を除く)遺伝物質が、癌遺伝子に活性化されその細胞表現型において発現されるようになる)、新生物細胞の膜構成成分(例えば、シアル酸)合成不能を通じての、通常は正常細胞上に存在するかまたは細胞膜に「埋もれている」抗原の露出、および新生物細胞の死滅を通じての、通常は細胞またはそのオルガネラ内に隔離されている抗原の放出。
TAA発現の一つの重要な結果は、体の免疫系による免疫認識をもたらすことができることである。免疫認識は、最終的には、自己抗体とも呼ばれる、TAA認識抗体の生成をもたらすことができ、免疫系が「自己」と「非自己」を明らかにするために、それらの抗体が体内で基礎レベルに維持される。しかし、現在まで、特に高レベルの感度および特異性によらない、「カットオフ(cut off)」基準を用いて、癌患者と正常な集団を鑑別可能であると確認された特異的自己抗体は存在しない。これは、これらのTAAに対する血清自己抗体を両方の集団が有しているという事実によるものと考えられる。癌が出現すると、これらの自己抗体の生産は変化する。他の自己抗体は、厳密にはTAAとは呼ばれず、健常集団と比べて、癌患者では異なる発現レベルを有することがある。
簡単で、費用効率が高く、高度に特異的で、感度の高い癌診断方法を求めて、その方法が、診断する対象における特異的自己抗体の血中存在ではないことが見出された。むしろ、とりわけ、健常個体と癌患者の両方の血液中に見られる任意の2種以上の自己抗体のレベル間の比率が重要な特徴であり、癌患者の診断はそれに基づいて行うことができる。一般的に、既存の技術は、癌が疑われる患者におけるTAAに対する自己抗体マーカーの存在に基づく。本研究結果を考慮すると、ある特定の自己抗体のレベルは、決定すべきパラメーターではない。このように、実際の自己抗体レベルがある特定のカットオフを超えることにより癌の診断を示すカットオフ比較に対して、本発明者らは、検査対象において、少なくとも2種の抗原、例えば、TAAに対する自己抗体の実際のレベルを決定し、これらの2種の自己抗体のレベル間の比率を計算し、その比率を、所定の正常な参照集団における同じ少なくとも2種の抗原に対する自己抗体の実際のレベルの比率と比較するという新たな方法を見出した。検査対象のサンプルにおける比率が参照比率と異なるときは必ず、その差異が癌を有する対象を示す。その差異は比率が高いことまたは低いことのいずれかであり得ることを記しておく。上記の方法は、各対象の健常状態と癌状態における自己抗体の自己生産を考慮に入れている。前記比率の変化は集団のこの変化を反映する。
本発明の新規方法を評価するために、本発明者らは、以下に詳述するように、実験目的で、ある特定のTAAを使用した。しかしながら、重要であるのは、本発明の方法(群)において使用すべき抗原が必ずしも、TAAと古典的に定義された抗原ではないことに留意することである。本発明の方法での対象となる抗原は、検査サンプルと健常対照(群)由来のサンプル(群)の両方に存在する自己抗体と特異的に結合する抗原であり、その場合、癌陽性患者における少なくとも2種のこのような自己抗体の実際のレベル間の比率は、健常集団について確立された同じ比率とは異なる。下の実施例に示すように、本発明によれば、TAAであることが分かっている抗原によって認識される自己抗体が単に存在することでは、その対象が癌を有することの指標とはならず、このような自己抗体の実際のレベルでもない。従って、本発明の方法において有用な抗原は、必ずしも古典的なTAAである必要はない。本発明での使用に適した、抗原、特に少なくとも2種の抗原組は、当業者ならば、本明細書において記載する方法を用いて特定することができる。
最も重要なことに、本明細書において記載する方法は、血液検査に基づき、血漿サンプルまたは血清サンプルを使用する。その結果として、本発明の方法は、公知の診断方法と比べて迅速で、安価で、全体的に有利な方法である。
以下で詳述するように、その検査サンプルおよび/またはそのアリコートは、抗原(群)と接触させる前に連続希釈して、検出方法/装置の検出限界に合わせることができる。例えば、そのサンプルにおける自己抗体のレベルが高い場合には、希釈が望ましい。希釈の程度は、当業者ならば、容易に決定することができる、一般的に、各サンプルまたはそのアリコートは、検出方法(ELISA、FACS、ウエスタンブロットなどである)による総ての抗原−自己抗体複合体の正確な検出に必要なレベルに連続希釈するべきである。下の実施例に示すように、総てのサンプルを同じ希釈度に希釈する必要はなく、各複合体を同じ希釈度で測定する必要もない。特定希釈度で2種の複合体間の比率を確立することによって、各対象についての比率を決定する。すなわち、高レベルの自己抗体を有する対象では高倍率希釈する必要があり、一方、自己抗体レベルが低い別の対象のサンプルは、低倍率に希釈する必要がある。その比率は「自己比率」であるため、総ての条件を総ての対象の間で同様に維持する必要はない。異なる希釈度が必要であるために2種の抗体を同じシステムで検出することができないケースは、異なる希釈度を採用してよく、図1(A、B、C)および下の実施例に示すように、外挿によって対応値を決定することができる。希釈は、好適なレベル、具体的には、使用する検出システムに適したレベルに行うことができる。よって、異なる仕様および技術的な制限を有する異なる検出システムでは、基礎検出レベルを超えるために、異なる希釈度が必要であるかもしれない。希釈の程度などのアッセイ詳細の設計は、当業者の技能範囲内である。重要であるのは、総てのサンプルについて検査した抗原複合体各々の希釈サンプル間の所定の相対的希釈比率を維持することである。
本研究の目的では、限定されるわけではないが、本発明者らは、表11(および図8、表38)に明記する複数の抗原(ペプチドを含む)を選択し、血漿サンプル中の対応する抗体の同定/検出にそれらを使用した。本明細書において、抗原という用語は、体内に導入されると免疫応答を促進しその免疫応答によって抗体生産をもたらすことができる任意の物質を意味すると解釈すべきである。ある特定の実施形態では、それらの抗原は、少なくとも2個以上のアミノ酸からなる腫瘍関連ペプチド、このような腫瘍関連ペプチドを含んでなるペプチドおよびタンパク質ならびにそれらの誘導体である。しかし、上記のように、抗原は必ずしも、TAAとして古典的に知られているものである必要はない。
ペプチドに基づく抗原およびタンパク質に基づく抗原に加えて、他の抗原を使用することができ、例えば、核酸に基づく物質、炭水化物に基づく物質、脂質に基づく物質、天然有機物に基づく物質、合成的に誘導された有機物に基づく物質、無機物に基づく物質およびペプチドミメティクスに基づく物質がある。このような物質は、例えば、ペプチドのコンビナトリアルライブラリー、環状ペプチドミメティクスのライブラリーおよびランダムまたは専用ファージディスプレイライブラリーのポジショナルスキャニングの産物であってよい。
本願では、配列番号1〜26によって定義される特異的抗原(TAA)を利用する(図8−表38で示されるとおりである)。本質的に、TAAおよびTAA認識抗体は、癌の診断のための重要なツールとして本明細書に記載する。
よって、本発明の抗原は、対象から得られた血漿サンプルにおける抗体の検出のために、それ自体をまたは診断用組成物中に含められた活性剤として使用した。特異的抗原が認識する抗体の検出は、そのサンプルを少なくとも2種の特異的抗原と(すなわち、本発明の抗原、例えば、配列番号1〜26によって示される、表1、表5、表11、および表38(図8)に詳述する抗原と)接触させることによって達成される。好ましくは、それらの抗原は、約2.5〜250μg/mlの濃度で使用される(ELISAに基づく抗体検出アッセイの場合)。
本明細書における「抗体」または「自己抗体」という用語はまた、完全な分子ならびに抗原と結合可能なそれらのフラグメント(例えば、scFv、Fv、Fab’、Fab、ダイアボディー(diabody)、線状(linear)抗体、抗体のF(ab’)2抗原結合フラグメントなど)の両方を含むことを意味する[Wahl et al. (1983) J. Nucl. Med. 24, 316-325]。本明細書において定義するように、「抗体」または「自己抗体」は、IgG、IgMおよびIgAのいずれか一つであり得る。理論に縛られることなく、癌を示す自己抗体は主としてIgGであると考えられる。IgGの測定はより特異的であり得る。
抗体は、ある分子「と結合可能である」または「を認識する」と表現しているが、それは、その抗体がその分子と特異的に反応することが可能であり、それによって、該分子をその抗体と結合可能である場合である。「エピトープ」という用語は、抗体が結合可能な任意の分子の部分を意味するものであり、また、その抗体またはその抗体を生産する細胞は認識することができる。エピトープまたは「抗原決定基」は通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面群からなり、特異的三次元構造特性ならびに特異的電荷特性を有する。
「抗原」は、抗体が結合可能な分子または分子の部分である。抗原は、一つまたは二つ以上のエピトープを有し得る。上記で言及した特異的反応とは、抗原は、高度選択的かつ特異的に、その対応する抗体と反応するが他の抗原によって誘発され得る多数の他の抗体とは反応しないことを示すものである。
本発明によって検出しようとする抗体またはそれらのフラグメントは、任意の方法によって対象のサンプルにおいて検出し得る。これは、視覚的に検出可能なシグナルを与える技術によって成し遂げることができ、そのシグナルは、蛍光(免疫蛍光)、酵素反応の発色生成物、沈殿の生成、化学発光または生物発光のいずれか一つであってよい。一般的には、抗原(群)を、好適な支持体、特に固体支持体上に固定化し、その後、自己抗体を含有する生体サンプルをその抗原(群)と接触させ、酵素、タグ、色素などのような検出手段を添加し、自己抗体のレベルを測定する。詳細は下の実験項において知ることができる。自己抗体の検出に使用することができる他の技術としては、限定されるものではないが、コロイド金、放射性タグ、GFP(緑色蛍光タンパク質)など、アビジン/ストレプトアビジン−ビオチン、磁性ビーズ、ならびに実際の結合に対する感度の高い、物理システム、例えば、ナノテクノロジーシステムが挙げられる。
その支持体は、「固相支持体」、「固相担体」、「固体支持体」、「固体担体」、「支持体」、または「担体」であってよく、それらは総て、抗原と結合可能である。周知の支持体または担体としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン アミラーゼ、天然および変性セルロース、ポリアクリルアミド、ならびに磁鉄鉱が挙げられる。担体の性質は、本発明の目的のためには、ある程度可溶性であるか、または不溶性であり得る。支持体材料は、カップリングされた/固定された抗原分子が抗体と結合可能である限り、実質的に考えられるあらゆる構造形態を有していてよい。よって、その支持体または担体の形態は、ビーズの場合のような球形であってよく、試験管の内部表面または棒の外部表面の場合のような円筒形であってもよい。同じ管内の異なる抗原に異なる担体を使用してもよい。また、その表面は、シート、試験紙などのように平らであってよい。好ましい支持体または担体としては、ポリスチレンビーズが挙げられる。当業者ならば、抗原の結合に適した多くの他の担体が分かるであろうし、またルーチン実験を用いることによってそれを突きとめることができるであろう。
洗浄、撹拌、振盪、濾過などのような他の工程は、通常どおりにまたは特定の状況に必要ならば、アッセイに追加してもよい。
本発明は、一方で、生体サンプルを、各々が癌の発生に対して異なる生理学的寄与またはその他の方法での寄与をしている複数の抗原に対しての特異的抗体−抗原複合体の測定値について解析し、もう一方で、集団全体での抗体発現プロファイルの多様な性質を確認する、診断方法および適用を提供する。この点に関して、対象の自己抗体生産は、ある特定の自己抗体のレベルが、別の対象の「弱」自己抗体生産と比較して相対的に十分である「強」と特徴付けることができる。
以下に示すように、本発明は、とりわけ、柔軟な診断アプローチを採用することによってこれらの課題に対処するアッセイを提供する。総ての抗体−抗原複合体に適用できる所定の単一希釈率で希釈している生体サンプル(例えば、血漿または血清)において診断アッセイを行う代わりに、本発明は、複数(二つ、三つ、およびそれ以上)の希釈率で行われる診断アッセイを開示し、そこから集まった情報の収集および整理統合を教示する。以下に示すように、同時に用いる総ての抗体−抗原複合体に対して単一の希釈範囲は必ずしも利用できない。たとえそうであったとしても、アッセイの単一希釈率への限定は、臨床の場における検出装置の技術的制約を提示するであろう。
そのため、診断用抗原セットを同定する際にまたは無数の患者サンプルにおいて診断検査を行う際に、総ての抗原に対して同じ希釈率の使用が適用できないという状況が起こる。単一希釈率は、様々な臨床の場での使用には、不正確という理由からだけでなくアッセイ装置の制限からも適用できない可能性がある。例えば、そのサンプルにおいて形成された抗体−抗原複合体の一つが非常に高い(または非常に低い)収量であり、特定の検出装置で検出できない場合に、不正確さが生じる可能性がある。
この問題を克服するために。本発明は、異なる抗体−抗原複合体について事前に定義された異なる希釈率のセットを提供する。加えて、様々な異なる抗原−自己抗体複合体について決定される、異なる希釈率間の相対的希釈比率を定義し、総ての検査サンプルについて常に維持する。
さらに、特定のサンプルについて、総ての抗体−抗原複合体が非常に高濃度であるケースもあり、他のサンプルの場合のように同じ初期希釈率を用いることができない。本発明はさらに、その「高濃度」サンプルを、決定された典型的希釈率に希釈することを教示し、その典型的希釈率から、例えば、異なる抗原に対しての抗体−抗原複合体の希釈率間の希釈比率を維持することによって、一部または総ての希釈率を導く。よって、所定の典型的希釈率において抗体−抗原複合体レベルを得た後、別の抗体−抗原複合体レベルを、所定の典型的希釈率と第2の希釈率の間の希釈比率を維持する第2の希釈率において得ることができる。同様に、連続的に、さらなる抗体−抗原複合体レベルを得ることができる。
例えば、サンプルを、Ag1に対して希釈率1:5で、Ag2に対して希釈率1:10で希釈するならば、Ag1と、Ag2との間の希釈比率は2(10/5)である。この希釈比率は、同じ抗原(Ag1およびAg2)に対して測定した総てのサンプルにおいて維持する必要がある。高レベルの自己抗体では、そのサンプルを1:100(Ag1に対して)および1:200(Ag2に対して)に希釈し得るが、希釈比率は2(200/100)に維持される。これは、「高濃度」サンプルでは抗体が常に存在しながらも、抗体の実際の存在が診断を下すには十分でない理由の一つである。
単に読み取り値の信頼性を高めるためだけに多連反復OD測定(例えば、二連測定、三連測定など)を用いる代わりに、抗体−抗原複合体各々について行われる連続希釈手法を利用することによって、各抗原に対して特定の希釈率範囲においてOD測定値を得た。このようにして、抗体−抗原複合体各々について、典型的希釈率を選択する。典型的希釈率は、その測定装置の線形範囲でOD測定値をもたらすものである。例えば、抗原の典型的希釈率は、その一連の測定においてOD読み取り値を得るために用いられその測定装置の線形範囲内の結果をもたらす第1の希釈率であってよい。こうして、複合体の抗体−抗原量の正確な測定値が得られる(すなわち、測定装置の線形範囲内にある)。
希釈率セットでの診断アッセイによって過剰に高い(その測定装置の線形範囲を超えている)シグナルを生じた生体サンプルでは、その装置の線形範囲がより広いという前提の下で、本明細書に定義する外挿手法を用いて、予測ODシグナルを計算することができる(例えば、図1Cを参照)。一般的に、本発明の外挿は、OD読み取り値を、これらの読み取り値をもたらし得る希釈率と関連付ける関数を利用することによって行われる。これまでに述べたように、診断用セットの各抗原に対して、特定希釈率に応じて一連のOD読み取り値を得、それによって希釈曲線を得る。そのデータを、希釈関数に変換する(または平滑化する)、すなわち、[OD]=f(希釈率)。場合によって、fは、一次関数、指数関数、多項式関数などであり得る。その測定装置により、特定の希釈率ではシグナルを得ることができないかまたは得られるODシグナルがその線形範囲外である場合には、その関数を用いて、他の希釈範囲で、好ましくは測定装置の線形範囲において行われたOD測定値から予測光学濃度(OD)読み取り値を推定する。次いで、診断用抗原セットおよび各抗原を特徴付ける相対的寄与因子を決定する(または同定する)ために、これらの理論値または予測値をさらに用いる(以下の実施例5〜7を参照)。
信頼性のある結果を得るために、平滑化手法によってそのデータセットから外れ値(数学的考察による極値)を除き、その後、上記のように理論希釈関数を計算する。平滑化手法は、線形回帰による関数を得る形態をとることができる。この希釈関数を用いてさらなる処理を行って、それらの独自の相対的プロファイルによって癌集団と健常集団を最もよく鑑別する抗原を同定する。
本明細書では次の用語を用いる:
「診断を割り当てること」とは、診断対象が癌に罹患しているかあるいはその生体サンプルを得た時点において癌を患っている可能性が高いという指標を提供することを意味するものとする。
「相対的寄与因子」とは、抗原を特徴付けるまたは抗原に割り当てられている変数、診断対象における癌の存在に対するその抗原の寄与測定値を表す値を支持する変数を意味するものとする。特に、その相対的寄与因子は、診断対象において測定された抗原−自己抗体複合体レベル(群)についての、該対象における癌の発生または存在に対する相対的寄与をさらに特徴付ける。特に、相対的寄与因子は、所定の希釈または所定の希釈率において測定された抗原−自己抗体複合体レベル(群)の相対的寄与を特徴付けることができる。この点に関して、抗原−自己抗体複合体レベル(群)は、実際の測定値、または平滑化/予測した測定値のいずれかを含む。限定されない例示として、(抗原組を特徴付ける)相対的寄与因子組間の大きさの関係は、該組各々の、癌の発生に対する相対的寄与を規定する。
「希釈」、「希釈率」、または「希釈ポイント」とは、生体サンプル(例えば、血清または血漿など)が好適な緩衝液を用いて希釈されているアッセイを指すものとし、希釈率または希釈ポイントは、その生体サンプルの濃度を低下させることを意味し、そのような低下した濃度はその好適な緩衝液の体積量に対する生体サンプルの体積量によって定義される。限定されない例として、その生体サンプルは、希釈率1:8、すなわち、緩衝液8単位当たり生体サンプル1単位、1:32などで希釈することができる。
「対希釈比率」、「相対的対希釈比率」、または「相対的希釈比率」とは、生体サンプルを抗原組の第1の抗原および第2の抗原と接触させてその生体サンプル中に存在する自己抗体と複合体を形成する接触工程を含むアッセイを指すものとし、測定可能な抗原−抗体複合体レベルを提供するために好適な緩衝液を用いて、そのサンプルの第1のアリコートは、第1の希釈率(例えば、x1)で希釈されていてよく、そのサンプルの第2のアリコートは、第2の希釈率(例えば、x2)で希釈されていてよく、測定値または値は、診断集団についてプリセットされ、それにより、その抗原組について決定された希釈率組間の比例関係が推定され、各希釈率は、測定装置の線形範囲で得られる。限定されない例として、x1およびx2をそれぞれ、Ag1およびAg2についての希釈率組とし、その希釈率組によって、測定装置の線形範囲内でOD読み取り値組を得る。よって、その相対的希釈比率は、x1/x2、ln(x1)/ln(x2)などと定義することができる。特に断りのない限り、その相対的希釈比率は、x1/x2を意味するものとする。限定されない例として、第1のアリコートを希釈率1:8、すなわち、x1=1:8(Ag1当たり)で得、第2のアリコートを希釈率1:32、すなわち、x2=1:32(Ag2当たり)で得た場合、対希釈比率はx2/x1=0.25である。
いくつかの実施形態では、下に例示するように、抗原組間として対希釈比率を決定またはプリセットした後、その対希釈比率を本発明のシステムおよび方法の操作中維持することができる。例えば、その対希釈比率がx2/x1=0.25であり、得られたAg1当たりの抗原−自己抗体複合体レベルが1:16であったならば、対希釈比率を維持するとは、Ag2当たりの抗原−自己抗体複合体レベルを希釈率1:64で得ることを意味する。以下に説明するように、1:64で測定装置がその線形範囲外であるならば、予測を確かめる。
「レジスター」とは、記憶装置、メモリーユーティリティまたはその一部によって保持された記録を意味するものとする。そのレジスターは、コンピュータシステムあるいはコンピュータメモリーの一部であり得る。本発明に関連して、レジスターは、相対的寄与因子マトリックスまたはアレイを保持するが他の情報も含んでいてもよい。
「インデックス」とは、それを用いた問合せ処理を可能にする任意の連想データ構造、アレイ、コンテナー、辞書を含んでなる、情報の保存および検索を可能にするデータベースまたは任意の他のシステムもしくはユーティリティを意味するものとする。インデックスは、一般に、キーのコレクションと値のコレクションを含んでなり、各キーはもう一つの値と関連している。キーと関連している値を検索する操作は、ルックアップと一般的に呼ばれており、これは、本明細書において開示するインデックスにより支援される操作である。
「抗原インデックス」は、キーで表される抗原のコレクションを含んでなるインデックスであり、各キー(またはそれによって連想される抗原)は、その抗原に対しての希釈率または第2の抗原に関する対希釈比率を示す情報を表す値と関連している。
「符号化すること」とは、一つの表現を、異なる等価表現に変換することを意味するものとする。例えば、p53抗原は、符号化形式の文字列「LDPr077」により表すことができる。
「照会」とは、インデックスまたはデータベース内の情報の検索を意味するものとする。その情報は、特定の抗原に対する所定の希釈率またはポイントを示す情報であり得る。
さらに、総ての数値(入力、出力、本明細書において提供された式に従う出力または関数、OD測定値など)は、表示値から10%まで、場合によっては5%まで(+)または(−)変動する近似値である。たとえ必ずしも明記されていないとしても、総ての数字表示の前に「約」という用語が置かれることは理解されよう。
抗原−自己抗体複合体レベルを本発明に従って測定し得る方法の一つは酵素イムノアッセイ(EIA)による。そのアッセイに使用することができる酵素としては、限定されるものではないが、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、δ−5−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼが挙げられる。その検出は、酵素の発色基質を使用する比色法によって行うことができる。測定はまた、基質の酵素反応の程度を、同様に調製した標準との目視比較によって行ってもよい(この手法は、例えば、ニトロセルロース支持体またはプラスチック支持体上の、可溶性有色生成物および非可溶性有色生成物の両方に適している)。
抗原との抗体の反応の検出は、適当な場合には、異なるエピトープと特異的に、またはそのリガンドもしくは反応抗体と非特異的に反応する二次抗体もしくは他のリガンドの使用によって、さらに支援することができる。
酵素イムノアッセイ、例えば、免疫蛍光アッセイ(IFA)、測光アッセイ、酵素免疫測定法(ELISA)、ELISPOTアッセイ、および免疫ブロット法などは、特異的抗体の検出を行うように容易に合わせることができる。自己抗体の検出に有効なELISA法は、例えば、次の工程を含むことができる:(1)対象となる抗原、例えば、TAAを固体支持体と結合する工程、(2)その結合した抗原を生体サンプル、例えば、血漿または血清などと接触させる工程、(3)検出可能な部分(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ酵素またはアルカリ性ホスファターゼ酵素)と結合した二次抗体と上記を接触させる工程−その二次抗体は、工程(2)の該抗体を検出することが可能である、(4)その酵素の基質と上記を接触させる工程、(5)好適な試薬と上記を接触させる工程、(6)その色の変化を観察し定量する工程。
抗体の存在を免疫酵素法により検出する他の方法は、ウエスタンブロットおよびドットブロットである。抗原をニトロセルロース膜または他の好適な支持体に転写する。次いで、検査するサンプル、通常血漿をその膜と接触させ、形成された免疫複合体の存在を既述の方法により検出する。この方法の変形では、精製された抗原をラインまたはスポットで膜上に塗布し、結合させる。続いて、その膜を、検査する血漿と接触させ、本明細書において記載する技術を用いて、形成された免疫複合体を検出する。
そのサンプル中の特異的抗体の測定は凝集反応によって行ってもよい。抗原を用いて、例えば、均一懸濁液を形成するラテックス粒子を、コーティングすることができる。付着した抗原に対する特異的自己抗体を含有する血漿と混合すると、そのラテックス粒子は凝集し、大きな凝集体の存在を視覚的に検出することができる。
自己抗体もまた、様々なイムノアッセイ法により測定することができる。イムノアッセイ技術による抗体の測定に適用できる免疫学的手法およびイムノアッセイ手法の概説については、Basic and Clinical Immunology [D. Stites et al. (eds.), (1994) Basic and Clinical Immunology, 8th Ed.]を参照のこと。
抗原との抗体の反応の測定は、当技術分野で公知の方法によって検出可能な部分で標識した抗体またはリガンドの使用によって、容易に行うことができる。このような検出可能な部分によって、沈殿または色の変化の目視検出、顕微鏡による目視検出、あるいは分光測定法または放射分析測定による自動検出などが可能である。検出可能な部分の例としては、フルオレセインおよびローダミン(蛍光顕微鏡検査法用)、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびアルカリ性ホスファターゼ(光学顕微鏡または電子顕微鏡用および生化学的検出用ならびに色の変化による生化学的検出用)、ならびにビオチン−ストレプトアビジン(光学顕微鏡または電子顕微鏡用)が挙げられる。その検出方法および使用する部分は、このような選択に適用される標準的な基準によって、例えば、上記のリストまたは他の好適な例から選択することができる[Harlow and Lane (1988) Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY]。
測定は、様々な他のイムノアッセイのいずれかを用いて行うことができる。例えば、抗原を放射性標識することによって、ラジオイムノアッセイ(RIA)の使用を通じて抗体を検出することができる。RIAの解説は、Work, T. S. et al., North Holland Publishing Company, NY (1978) によるLaboratory Techniques and Biochemistry in Molecular Biologyにおいて、Chard, T.による"An Introduction to Radioimmune Assay and Related Techniques"と題する章に特に関連して見出すことができ、それは引用することにより本明細書の開示の一部とされる。その放射性同位元素は、γ/β線カウンターもしくはシンチレーションカウンターの使用のような手段によってまたはオートラジオグラフィーによって検出することができる。
上述したように、そのサンプルは、抗原と接触させる前に連続希釈してよい。いくつかの実施形態では、例えば、スキムミルクを用いて、非特異的結合についての抗原をブロッキングすることを推奨したい。
興味深いことに、本明細書において定義する、少なくとも2種の好適な抗原、例えば、TAAに対する、癌患者の血液中に存在する自己抗体の実際のレベル間の比率は、健常個体について決定された、同じ少なくとも2種の抗原に対する自己抗体レベル間の比率(本明細書では参照比率ともいう)とは異なる。よって、サンプルにおいて抗原−抗体複合体の見出したものをまず、その対象における他の抗原−抗体複合体に関して解析し、その総合的な結果を、健常または対照無病集団(正常ともいう)において同じ抗原−抗体複合体について得られたパターンと比較する必要がある。
3種以上の自己抗体を測定する場合、各抗原に対して相対的寄与因子を決定する。その相対的寄与因子は、各抗原を特徴付け、診断対象における癌の存在に対するその抗原の寄与測定値を表す値を支持し、各抗原に対して使用する相対的希釈率と、他の抗原に対する他の抗体総てに対しての各抗体の相対量を埋め込む。
上記実施形態では、2種の自己抗体間の比率を決定することができる。しかしながら、特異的抗原が認識する自己抗体と非特異的抗体混合物(総Igを含む)の間の比率を確立することも可能である。
その方法は、対象のサンプルにおける自己抗体の測定を目的とすることができるが、癌診断それ自体を目的とすることも考えられる。そのサンプルにおける異なる自己抗体間の前記「異なる」比率(健常個体における同じ比率とは異なる)の検出は、癌の存在の指標である。
本発明の範囲内において、サンプルにおける2種の自己抗体間の比率を数字によって表す場合、その数字は健常対象または癌患者を示す範囲の限度であり、その分布範囲がその範囲の上限またはその範囲の下限であり得ることは理解されよう。例えば、健常患者についての比率が上限であるならば、比率がより低い総ての患者は健常である。その比率が下限であるならば、比率がより高い総ての患者は健常である。癌患者の比率についても(必要な変更を加えて)同様である。その範囲の下限または上限は、下により詳細に論じるように、担当医の具体的な要求に従って変更することができ、限度の設定は本発明の範囲内にある。
ある特定の実施形態では、(1)そのサンプルにおける2種の抗体間の定量的比率は、(2)健常または正常個体から得られたサンプル中に存在する同じ2種の抗体間の同一の比率(参照比率または基準比率となる)との関連で決定し、相対値を得ることができる。よって、その相対値は、サンプル比率と参照比率を互いに除算した結果であり得る(1より大きい、1に等しい、または1より小さい値を得、この場合、1以外の値はその検査サンプルが陽性であったことを示し、相対値が実質的に1以外である、すなわち、採用した解析のパラメーターによって決定されることは本願の範囲内にある)。その相対値は、参照比率からサンプル比率をまたはサンプル比率から参照比率を減算することによっても得ることができる(正もしくは負の値、またはゼロを得、この場合、ゼロ以外の値はその対象が癌を有することを示し−これについては次の実施例に示している、相対値が実質的にゼロ以外であり、ゼロとは異なる可能性がある、すなわち、採用した解析のパラメーターによって決定されることは本願の範囲内にある)。本明細書における健常または正常な対象とは、限定されるものではないが、癌、腫瘍、悪性、または増殖性障害のない対象を意味するものである。
本発明の診断方法は、一つのサンプルにおける様々な抗原−自己抗体複合体の測定に関して様々な形式で行うことができる。例えば、一つの実施形態では、そのサンプルは少なくとも二つのアリコートに分けてよく、アリコートの数は、本明細書において定義するように、好適な抗原の数に等しく、その抗原に対して、抗原が認識する抗体を調べる。従って、3種の抗原を検査するならば、そのサンプルを三つのアリコートに分けてよく、4種の抗原を検査するならば、そのサンプルを4つのアリコートに分けてよいなどである。実施する特異的イムノアッセイにそのような分割が必要ならば、そのサンプルをアリコートに分けてよい。分けるならば、その方法の後続の工程を各アリコートにおいて同時に行い、各サンプルについて得られた抗体−抗原複合体の結果を比較し、ペアワイズ解析(pair-wise analysis)または任意の他の好適な統計解析によって解析することができる。
次いで、その対象のサンプルについて得られた結果(群)を、正常(健常)集団について得られたまたは入手可能な結果と比較することができる。その検査サンプルの結果が、正常集団について確立された値とは異なっているならば、該対象は癌について陽性の診断を受ける。
また、本発明の診断方法は、Gannotら[Gannot et al. (2005) Layered Peptide Array - High-Throughput antibody screening of clinical samples. J. Mol. Diagn. Vol. 7:427-436]により記載されているように、例えば、レイヤーペプチドアレイを用いて、ハイスループットスケールで行うことができ、それによって、一つのサンプルにおいて、さらに、いくつかのサンプルにおいて同時に、多数の抗原認識抗体について検査することが可能になるであろう。
別の選択肢は、マルチプレックスイムノアッセイを使用することであろう。検査すべき異なる抗原は、様々な異なる標識、例えば、異なる色素または異なる蛍光染料で標識することができ、それらの標識は異なる波長で検出される。そのサンプルをその異なる抗原とともにインキュベートする工程の後、そのサンプルを異なる複合体の存在について解析する。その複合体の定量は、抗原が固相、プレートに結合されて与えられている場合にはELISAによってよく、抗原が溶液で与えられている場合にはFACS解析によってよい。ELISAおよびFACSについての標準的なプロトコールは、本明細書において記載しており、当業者には周知である。
腫瘍指標となる自己抗体の検出に必要な抗原は、その抗原として働くことができる、(腫瘍の)全細胞を含む、いくつかの形であり得る、細胞膜(その産物を抗原として使用することができる)、単離されたもしくは組換えにより生産された(それらのタンパク質は、通常、細胞、細菌、酵母、ファージを形質転換するためにベクターに挿入された構築物から作製される)、または合成的に生産された腫瘍関連タンパク質(またはそれらのフラグメント)。好適な腫瘍抗原の具体的な例は、本明細書において表1、表5、表11、および図8に詳述する抗原である。
本明細書において引用するように、腫瘍特異的タンパク質、腫瘍特異抗原、腫瘍抗原、腫瘍関連抗原という用語およびそれらの変形は、同義的に使用される。
本発明の方法の検出検査結果の解析の基礎となる基本計算方法は、受信者操作特性(ROC)である[http://www.medcalc.be/manual/roc.php]。この方法によれば、罹患ケースと正常ケースを判別する、検査の診断性能、または検査の精度を(ROC)曲線解析を用いて評価する[Metz CE (1978) Seminars in Nuclear Medicine, 8, 283-298、 Zweig MH & Campbell G (1993) Clin. Chem. 39, 561-577]。ROC曲線を用いて、二つ以上の実験室検査または診断検査の診断性能を比較することもできる[Griner PF, Mayewski RJ, Mushlin AI, Greenland P (1981) Annals of Internal Medicine, 94, 555-600]。二つの集団、疾患のある一集団、その疾患のないもう一方の集団における特定検査の結果を考察した場合に、その二つの群間の完全分離が観察されることはほとんどなく、実際にはその検査結果の分布は部分的に重なり合う。二つの集団を判別するために選択されるあらゆるカットオフポイントまたは基準値では、陽性と正しく分類される疾患のあるケース(TP=真陽性率)が一部存在するが、一部の疾患のあるケースは陰性に分類される(FN=偽陰性率)。もう一方で、下の表に概略的に示すように、一部のその疾患のないケースは陰性と正しく分類される(TN=真陰性率)が、一部のその疾患のないケースは陽性と分類される(FP=偽陽性率)。
次の統計用語を定義することができる:
感度−その疾患が存在する場合に検査結果が陽性である確率(真陽性率、百分率で表される)=a/(a+b)
特異性−その疾患が存在しない場合に検査結果が陰性である確率(真陰性率、百分率で表される)=d/(c+d)
陽性尤度比−疾患が存在することで陽性検査結果となる確率と疾患が存在しないことで陽性検査結果となる確率との比率、すなわち、=真陽性率/偽陽性率=感度/(1−特異性)
陰性尤度比−疾患が存在することで陰性検査結果となる確率と疾患が存在しないことで陰性検査結果となる確率との比率、すなわち、=偽陰性率/真陰性率=(1−感度)/特異性
陽性予測値−検査が陽性である場合に疾患が存在する確率(百分率で表される)=a/(a+c)
陰性予測値−検査が陰性である場合に疾患が存在しない確率(百分率で表される)=d/(b+d)
選択される基準値を高くすると、特異性が上がることで偽陽性率は下がるが、一方で、真陽性率と感度は下がる。
選択される基準値が低くすると、真陽性率と感度は上がる。一方で、偽陽性率も上がるため、真陰性率と特異性は下がる。
受信者操作特性(ROC)曲線では、異なるカットオフポイントについて真陽性率(感度)を偽陽性率(100−特異性)の関数でプロットする。ROCプロット上の各ポイントは、特定の識別閾値に相当する感度/特異性組を表す。完全に判別する検査(二つの分布に重なりはない)は、左上角(100%感度、100%特異性)を通るROCプロットを示す。そのため、ROCプロットが左上角に近づくほど、検査の総合精度は高くなる[Zweig & Campbell, 1993, 同書]。
実施例3では、健常(陰性)な検査対象と病気(陽性)の検査対象を区別することができる抗原の組またはトリプレット(または他の抗原サブセット)を設計するために採用することができる一般戦略を説明している。本発明の診断方法およびキットは、担当医による要求に従って、異なる特異性および感度で設計することができ、それらの要求は、いくつか挙げると、疾患の性質、検査する患者、疫学的および統計学的情報に基づいて決定されることは忘れないように注意されたい。例として、致死性が高い種類の癌である卵巣癌を診断するためには、偽陽性数がより高い傾向があるとしてもより高い感度、すなわち、偽陰性数がより少ないことが最も重要であり、担当医は最も感度の高い検査を必要とする。もう一方で、例えば、致死性が低い乳癌では、より高い特異性、すなわち、偽陽性数がより少ないことがより重要であると思われる。上述のように、その閾値は、具体的な優先事項および特異性対感度の必要性に応じて決定することができる。本発明によって使用する解析的統計的方法は、特定の検査の必要性に答え得るものである。よって、本発明のさらなる実施形態は、好適な解析手段とともに、特別設計された正確かつ信頼性のある診断検査を提供する、本発明の診断方法に用いる抗原を選択するための方法および手段を提供することである。いくつかの実施形態では、特別設計された正確かつ信頼性のある診断検査が実施例8において提供される。
本発明を記載するために本明細書において使用するように、「腫瘍」、「癌」、「悪性増殖性障害」、および「悪性腫瘍」は総て、同等に、組織または器官の過形成に関連している。その組織がリンパ系または免疫系の一部であるならば、悪性細胞に循環細胞の非固形腫瘍が含まれ得る。他の組織または器官の悪性腫瘍は、固形腫瘍を生み出し得る。一般的に、非固形腫瘍および固形腫瘍は、例えば、癌腫、黒色腫、白血病、およびリンパ腫である。
癌および腫瘍には、限定されるものではないが、骨髄性白血病、例えば、慢性骨髄性白血病、成熟に伴う急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性白血病、好塩基球の増加を伴う急性非リンパ球性白血病、急性単球性白血病、好酸球増加を伴う急性骨髄単球性白血病、悪性リンパ腫(バーキット型非ホジキンリンパ腫など)、リンパ球性白血病(急性リンパ芽球性白血病など)、慢性リンパ球性白血病、骨髄増殖性疾患、固形腫瘍、例えば、良性髄膜腫、唾液腺混合腫瘍、口唇および口腔、咽頭、喉頭、副鼻腔の腫瘍、結腸腺腫、腺癌(小細胞肺癌、腎臓、子宮、前立腺、膀胱、卵巣、結腸など)、肉腫、脂肪肉腫、粘液型、滑膜肉腫、横紋筋肉腫(肺胞)、骨外性粘液型軟骨肉腫、ユーイング腫瘍が含まれ、その他としては、精巣および卵巣の未分化胚細胞腫、網膜芽腫、ウィルムス腫瘍、神経芽腫、悪性黒色腫、中皮腫、乳房、皮膚、前立腺および卵巣の癌、眼瞼癌、結膜癌、結膜の悪性黒色腫、ブドウ膜の悪性黒色腫、網膜芽腫、涙腺癌、眼窩、脳、脊髄、血管系の肉腫、血管肉腫、およびカポジ肉腫が挙げられる。
自己抗体の検出および癌の診断のための、本明細書において記載する方法は、癌のいずれの病期に対しても適している。これらの方法は、例えば、乳癌の診断では、危険なレベルの放射能を利用し患者にかなりの不快感をもたらすマンモグラフィーと比べ、比較的高率で偽陽性結果となることを除き、最も有利であることが分かる(マンモグラフィーにより数多くの患者がさらなる生検を受け、不必要な不安を伴うこととなるが、それは偽陽性結果の上記事例では不必要である)。本発明に記載する診断方法は、簡単な血液検査に基づいており、その方法は高感度ならびに高特異性であるため、偽陽性結果ならびに偽陰性結果の罹患率がずっと低い可能性がある。本発明の方法の特異性および感度の評価アプローチは、実施例3に記載している。現在のマクロレベルの診断ツール−マンモグラム、直腸診(DRE)および超音波(乳癌、前立腺癌および卵巣癌それぞれに用いる)では、疑わしい腫瘍塊が視覚的に検出可能な大きさにすでに発達してしまった癌しか診断することができず、その結果、患者の生存率は低くなり生活の質が低下することとなる。例えば、乳癌の場合、毎年およそ3000万件のマンモグラフィー処置が行われ、疑わしい乳房病変を有する女性において200万件以上の外科的乳房生検が行われているのは米国だけである。
本明細書において定義するように、「サンプル」とは、生物から得られた任意のサンプルを指す。生体サンプルの例としては、体液検体および組織検体が挙げられる。そのサンプルの供給源は、血液、血清、血漿、唾液、痰、母乳、膿、組織擦過物、洗液、尿、組織(リンパ節など)などのような生理学的媒体から得ることができる。組織検体には、脾臓、リンパ節および任意のリンパ球含有組織の生検材料が含まれる。組織サンプルには腫瘍自体の生検材料も含んでよい。好ましいサンプルは血漿サンプルである。
本発明はまた、癌の診断のためのキットを提供する。本質的に、そのキットは、対象由来のサンプルにおける好適な抗原−自己抗体複合体の存在を検出するための試薬を提供し、該抗体は、本明細書において定義する好適な抗原またはその免疫反応性フラグメントと特異的に反応する。そのキットは、少なくとも2種の好適な抗原またはそれ以上(固体支持体に結合されていても結合されていなくてもよい)、抗原が認識する自己抗体と反応する(または結合する)二次抗体、および抗原認識抗体との二次抗体の反応/結合を検出するための試薬、ならびに使用説明書を含む。
そのキットは、対象における少なくとも2種の抗原−自己抗体複合体の検出のために本質的に設計されるが、そのキットは、当然、3種以上の複合体、例えば、複合体のトリプレットの検出に必要な試薬を含んでいてもよい。その対象は、癌患者であってよく、または健常個体であってもよい。
一つの実施形態では、このようなキットは、ELISAキットなどの、抗体捕捉アッセイキットであり、固体支持体、抗原(群)、二次抗体と、必要に応じて、上記のような、検出可能な部分、酵素基質および発色試薬などの任意の他の必要な試薬を含んでなる。あるいは、その抗体捕捉診断キットは、本明細書において記載する成分および試薬を一般的に含んでなる免疫ブロットキットである。本発明の診断キットに含まれる特定の試薬および他の成分は、そのキットにより実施される具体的な診断方法に従って当技術分野で入手可能なものから選択することができる。そのようなキットを用いて、対象から得られる生体サンプル、例えば、組織または体液など、特に血漿において少なくとも2種の抗体を検出することができる。
別の実施形態では、そのキットは、血液サンプルを採取するための密閉真空容器、およびそれから血漿または血清を得るための手段をさらに含んでいてもよい。
その使用説明書は、検査技師に対する教示、ならびに本明細書において記載する、標準化曲線、参照比率または相対的比率を確立するための教示、適用する希釈度などを含み得る。
本発明はさらに、癌の存在について評価中の診断対象への診断の割り当てに用いる、コンピュータにより実行される診断方法100に関する。癌は、乳癌または卵巣癌のいずれかであってよい。他の実施形態では、癌は、結腸癌、肺癌、または前立腺癌である。
ここで、本発明の実施形態に従う、コンピュータにより実行される診断方法100を示す図9を参照する。この方法は、該診断対象の生体サンプルを所定の抗原セットと接触させて該サンプルの自己抗体と複合体を形成することによって得られる抗原−抗体複合体レベルを含んでなる測定データを受信することを含み、ここで、該抗原は各々、癌の存在に対する該所定の相対的寄与因子によって特徴付けられる。その生体サンプルは、血漿サンプルまたは血清サンプルであってもよい。
診断方法100はまた、相対的寄与因子マトリックスを得る工程を含んでよく、その相対的寄与因子マトリックスは、少なくとも二つの所定の相対的寄与因子110を含んでなる。各相対的寄与因子組は、その生体サンプルにおける2種の自己抗体間の断定されたシグナル強度関係を定義する。それらの2種の抗体は、それらを好適な抗原と接触させてそれらと抗原−抗体複合体を形成することによって測定され、それらの抗原は、それらの相対的寄与因子によって特徴付けられる。2種の自己抗体間の断定されたシグナル強度関係は、その診断対象が癌に罹患していることを確認するために用いられる。
それらの相対的寄与因子マトリックスは、診断結果を与えるために固定されるかまたは一定であることが有用である。
その測定データおよび前記相対的寄与因子マトリックス130の処理は、抗原−自己抗体複合体レベルの相対的寄与パラメーターを決定することを含む。これは、所定の相対的寄与因子に従って該抗原−自己抗体複合体レベル、すなわち、それらの測定データ各々を調整することによって行われる。
調整は、相対的寄与因子(例えば、抗原(i)についての、(bi))との相関により測定データ(例えば、(oi))を増減することによって行うことができる。その増減は、相対的寄与因子の大きさに比例し得る。限定されない例として、相対的寄与因子の値が比較的高い場合には、その測定データは実質的に増大し、その逆もまた同様である。別の限定されない例として、次の値調整によって各相対的寄与パラメーターを計算することができる:
PARAMi=oibi,1≧i≧n、または
PARAMi=ln(oibi),l≧i≧n
(式中、PARAMi、相対的寄与パラメーター(i))。
コンピュータにより実行される診断方法100は、試験関数(x)=f(相対的寄与パラメーター)140の出力(x)を決定することを含む。それらの相対的寄与パラメーターは、試験関数または判別関数(x)の入力である。いくつかの実施形態では、その判別関数または試験関数は、以下である:
診断方法100は、前記関数の出力(x)と健常対象について事前に確立された閾値との比較150を含み、それによって、該(x)が該閾値より高いならば、該システム変数には、その診断患者が癌を患っているというステータスが割り当てられる。言い換えれば、診断対象は、x>Z(閾値の所定のカットオフポイント)ならば、「癌に罹患している可能性が高い」に、そうでなければ「健常」に割り当てられ、または分類される。
方法100は、場合により、その診断対象には、その診断対象が癌に罹患しているというステータスが割り当てられるという表示を出力することを含む。
癌の存在について評価中の診断対象に診断を割り当てるためのコンピュータプログラム製品も提供される。そのプログラムは、プロセッサにより実行されると方法100を遂行させる、その中に保存されたコンピュータプログラムコードを含むコンピュータ読み取り可能な媒体で提供することができる。
本発明はさらに、図10に示すように、癌の診断法のために作動する診断モニタリングシステム200を提供する。癌は、乳癌または卵巣癌のいずれかであってよい。他の実施形態では、癌は、結腸癌、肺癌、または前立腺癌である。
そのモニタリングシステムは、癌の存在について評価中の診断対象に診断を割り当てる。システム200は、相対的寄与因子マトリックスを保持するためのレジスター220を備える。当業者ならば、レジスターを様々に実行することができることは理解されよう。限定されない例として、レジスターは、プロセッサベースシステムまたはコンピュータ環境のレジスターであり得る。また、レジスターは、RAMなどのコンピュータシステムである割当メモリーによって得てもよく、その中に相対的寄与因子マトリックスが保存されるあるいは自動的に記録される。加えて、レジスターはまた、EPROMなどの読み取り専用メモリー(ROM)によって使用してもよく、その中に相対的寄与因子マトリックスが永久に保存されるあるいは自動的に記録される。
それらの相対的寄与因子マトリックスは、診断的適用を与えるために固定されるかまたは一定であることが有用である。
その相対的寄与因子マトリックスは、診断対象における癌の発生に対する腫瘍関連抗原の相対的寄与を決定するために用いられる少なくとも二つの所定の相対的寄与因子を含んでなる。
その相対的寄与因子マトリックスは、前記診断対象における癌の発生を特徴付ける2種以上の抗原−抗体複合体レベルの比例関係を含んでなる。
その決定は、その対象の生体サンプルにおける自己抗体レベルを測定することによって行われ、その測定値は、抗原−自己抗体複合体レベルの測定値である。その生体サンプルは、血漿サンプルまたは血清サンプルであってよい。
入力モジュール210は、前記診断対象の生体サンプルを所定の抗原セットと接触させてその生体サンプルの自己抗体と複合体を形成することによって得られる抗原−自己抗体複合体レベルを含んでなる測定データを受信するために用いられる。これらの抗原またはTAAは、レジスター中に保存されている、その診断対象における癌の存在に対する所定の相対的寄与因子によって特徴付けられる。
プロセッサモジュール240は、測定データを相対的寄与因子マトリックスとともに処理するために用いられる。処理は、測定した抗原−自己抗体複合体レベルの相対的寄与パラメーターを決定することによって行われる。各抗原−自己抗体複合体レベルは、レジスター中に保存されている相対的寄与因子に従って調整する(すなわち、値補正)。
調整は、相対的寄与因子(例えば、抗原(i)についての、(bi))との相関により測定データ(例えば、(oi))を増減することによって行うことができる。その増減は、相対的寄与因子の大きさに比例し得る。限定されない例として、相対的寄与因子の値が比較的高い場合には、その測定データは実質的に増大し、その逆もまた同様である。別の限定されない例として、次の値調整によって各相対的寄与パラメーターを計算することができる:
PARAMi=oibi,1≧i≧n、またはPARAMi=ln(oibi),l≧i≧n
(式中、PARAMi、相対的寄与パラメーター(i))。
その調整手順に従って試験関数(x)=f(相対的寄与パラメーター)の出力(x)を決定する。コンピュータにより実行される診断方法100は、試験関数(x)=f(相対的寄与パラメーター)140の出力(x)を決定することを含む。それらの相対的寄与パラメーターは、試験関数または判別関数(x)の入力である。いくつかの実施形態では、その判別関数は、以下である:
(x)が健常対象について事前に確立された閾値より高いならば、システム変数250には、その診断対象が癌に罹患しているという値またはステータス値が割り当てられる。
レジスター220は、二つの相対的寄与因子またはそれ以上を保存することができる。相対的寄与因子の数は、診断する疾患または医師もしくはその他のものが要求する感度または特異性の癌の種類に従って事前に決定される。
抗原−自己抗体複合体レベルの測定値の取得または受信は、その生体サンプルの第1のアリコートが、測定可能な抗原−抗体複合体レベルを提供するために好適な緩衝液を用いて第1の希釈率で希釈されて得られるように行うことができる。第1の希釈率は、1:5〜1:2000に範囲であってもよい。例示的な希釈率は、1:5、1:8、1:10、1:16、1:24などを挙げることができる。抗原−自己抗体複合体レベルの測定値の取得または受信は、その生体サンプルの第2のアリコートが、測定可能な抗原−抗体複合体レベルを提供するために好適な緩衝液を用いて第2の希釈率で希釈されているように行うことができる。
第2の希釈率は、第1の希釈率とは異なっていてよい。よって、二つの測定可能な抗原−抗体複合体レベルは、異なる希釈率で2種の異なる抗原から得られる。
第1および第2の希釈率は、前記2種の異なる抗原の相対的希釈比率、または前記2種の異なる抗原の比例した大きさの関係を定義する。
それらの技術は、コンピュータまたはプロセスベースの環境などの様々なコンピューティング環境または処理環境に適用性を見出すことができる。それらの技術は、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの二つの組合せにより実行することができる。それらの技術は、固定コンピュータなどのプログラム可能な機械、ならびに各々がプロセッサ、そのプロセッサによって読み取り可能な記憶媒体、少なくとも一つの入力装置、および1以上の出力装置を備える同様の装置において実行するプログラムによって実行することができる。プログラムコードは、その入力装置を用いて入力されたデータに適用され、記載した関数を実行し出力情報を作成する。その出力情報は、1以上の出力装置に適用される。
各プログラムは、処理ベースシステム(a processed based system)と通信するために高水準手続き型またはオブジェクト指向プログラミング言語により実行することができる。しかしながら、それらのプログラムは、必要に応じて、アセンブリ言語または機械語により実行してもよい。
別の実施形態では、それらの方法およびシステムは、ネットワークコンピューティングシステムおよび/または環境を通じて利用することができる。複数のコンピュータシステムを、ローカルエリアネットワーク(LAN)または広域ネットワーク(WAN)などのネットワーク経由でつなぐことができる。よって、方法100は、全体またはその機能工程(110、120、130、140、150、またはその任意の組合せ)として、遠隔ネットワークコンピュータまたはいくつかの組合せによって実行することができる。システム200の任意の機能部分は、コンピュータネットワーク経由で提供するまたは接続することができる。限定されない例として、そのレジスターは、その中に保存された因子マトリックスをそのネットワークを通じて提供する遠隔レジスターであってよい。加えて、そのプロセッサモジュール240はまた、ネットワークを通じて遠隔操作でプロセッササービスを提供することもできる。
このようなプログラムの各々は、記憶媒体もしくは装置、例えば、コンパクトディスク読み取り専用メモリー(CD−ROM)、ハードディスク、磁気ディスケット、または同様の媒体もしくは装置に保存されていてよく、その記憶媒体もしくは装置は、その機械を設定し操作するために汎用または専用のプログラム可能な機械によって読み取り可能である(本書に記載する手順を遂行するためにその記憶媒体もしくは装置がそのコンピュータによって読み取られる場合)。そのシステムはまた、プログラムを用いて設定される機械読み取り可能な記憶媒体としても実行され得、その場合、そのように設定された記憶媒体が機械を特定の事前定義済みの方法で操作させる。
本明細書および添付の特許請求の範囲において、長年の特許法の慣例に従って使用するように、単数形「一つの(a)」「一つの(an)」および「その(the)」は、他に明示しない限り、「少なくとも一つの(at least one)」、「1以上の(one or more)」および他の複数形の参照語を一般的に意味する。よって、例えば、「1種の抗原(an antigen)」は、1種以上の抗原を含んでいても良い。
本明細書および次の特許請求の範囲を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、単語「含んでなる(comprise)」、および「含んでなる(comprises)」および「含んでなっている(comprising)」などの変化形は、表明した整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を含むことを意味しているが任意の他の整数もしくは工程または整数もしくは工程の群を排除することを意味していないと理解されよう。
次の実施例は、本発明の態様の実施において本発明者らが使用した技術の典型である。これらの技術は本発明の実施に好ましい実施形態の例示であり、当業者ならば、本開示に照らして、本発明の精神および意図された範囲から逸脱することなく、数多くの修飾を行うことができることを明確に理解することができるであろう。
試験手順
分子生物学における一般的方法
分子生物学分野のいくつかの方法は、当業者には周知であるため、本明細書では詳述しない。このような方法には、PCR、cDNAの発現、ヒト細胞のトランスフェクションなどが含まれる。このような方法を記載しているテキストは、例えば、Sambrook et al. (1989) Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor laboratory, ISBN: 0879693096、 F. M. Ausubel (1988) Current Protocols in Molecular Biology, ISBN: 047150338X, John Wiley & Sons, Inc.である。さらに、いくつかの免疫学的技術も、当業者には周知であるため、本明細書ではそれぞれの場合ごとに、詳細に記載していない(例えば、ウエスタンブロットなど)(例えば、Harlow and Lane (1988) Antibodies: a laboratory manual, Cold Spring Harbour Laboratoryを参照)。
ELISAプロトコール
酵素免疫測定法(ELISA)は、アッセイが容易な酵素と結合した抗体または抗原を使用することによって、抗体の特異性と簡単な酵素アッセイの感度を組み合わせている。ELISAは、抗原または抗体濃度の有用な測定値を与えることができる。ELISAは、5段階法である:1)マイクロタイタープレートウェルをPBSで希釈した抗原でコーティングし、4℃でインキュベートし、洗浄する、2)スキムミルクをPBSに加えたもので結合していない総ての部位をブロッキングして偽陽性結果を防ぎ、1時間インキュベートし、洗浄する、3)それらのウェルに抗体を加え、1時間インキュベートし、洗浄する、4)酵素とコンジュゲートした抗ヒトIgGを加え、1時間インキュベートし、洗浄する、5)その酵素と基質の反応によって有色の生成物が生じ、それによって、陽性反応を表示する。
連続希釈
抗原(群)と接触させる前にサンプルを連続希釈することができる。一部の検査対象では、所定のアッセイ装置の検出限界を克服するために、サンプルの連続希釈が必要である場合がある。決定する少なくとも2種の抗原−抗体複合体を同じ希釈度で測定することができる場合には、図1Aに示すように、抗原−抗体複合体レベル間の比率を直接測定により計算することができる。
それらの複合体の1種が他の複合体よりもはるかに濃度が高いケースでは、両方の複合体で同じ希釈度を使用することはできない。図1Bに例を示しており、その例では、装置制限(3>OD>0)のために複合体レベル間の比率を測定することができない。これらのケースでは、(それらの複合体の各々に対して別々に好適な)少なくとも二つの異なる希釈度または希釈率での連続希釈によって、理論線[複合体濃度]=f(希釈)、またはELISA試験のケースでは[OD]=f(希釈)の計算が可能になる。この理論線を用いて、任意の希釈についての理論ODを、外挿を用いて計算することができる(図1C)。外挿後、両方の複合体間の比率を同じ理論希釈について決定することができる。
ペプチド抗原
表1および表2に、本研究で選択した一部の特異的抗原を示す。
表1
表1−LDPE051、LDPE069、LDPE064、およびLDPE070の配列
ペプチドをBiomer Technologyによって合成した。
実施例1
乳癌および卵巣癌の潜在患者の診断
本発明は、免疫系を介した対象における腫瘍の検出のための簡易方法を提供する。
検査対象
−マンモグラフィー陰性結果の女性を健常対照(CT)と考えた、n=12(LDPe051およびLDPe069)、n=6(LDPe064およびLDPe070)。
−乳房生検または乳房病理結果が癌の女性を乳癌患者(BC)と考えた、n=10(LDPe051およびLDPe069)、n=7(LDPe064およびLDPe070)。病理学によって確認された卵巣癌を有する女性を卵巣癌患者(OC)と考えた、n=8(LDPe051およびLDPe069)、n=7(LDPe064およびLDPe070)。
同意を得て、健常対照および癌患者の血液サンプル(乳房および卵巣)を採取した。10分の遠心分離、RT、3000xgの後、ヘパリンチューブを用いて、それらの血液サンプルから血漿を集めた。
ELISAプレートを4種の異なる抗原(LDPe051−配列番号3、LDPe069−配列番号7、LDPe064−配列番号4、LDPe070−配列番号6)でコーティングし、1%スキムミルクを用いてブロッキングした。
血漿を、PBS中5%スキムミルクで希釈し(1:30〜1:4000)、各々に異なる抗原(LDPe051、LDPe064、LDPe069、LDPe070)が入っている4つの異なるELISAウェル上にロードし、37℃で1時間インキュベートした。
プレートを0.1%PBSTで洗浄し、ヤギ抗ヒトIg HRPコンジュゲート(ブロッキングバッファーで1:5000希釈したもの)を各ウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。
プレートを0.05%PBSTで洗浄し、TMBEを各ウェルに加えた。
30分後0.5M H2SO4を用いて発色を止め、450nmでODを測定した。
二つの健常対照(CT1、CT2)について得られた結果のサンプルを表2および図2Aに示している。
表2
表2−4種の異なる抗原(LDPE051、LDPE064、LDPE069、LDPE070)に対するCT1およびCT2の三つの異なる希釈物についてのOD結果、および2組(LDPEp51_LDPE069、およびLDPE064_LDPE070)間の計算比率
希釈番号2では、次のサンプルについて次の結果を得た(表3):
表3:LDPe051、およびLDPe069に対して得られたOD結果および計算比率(希釈2)
OCx−卵巣癌患者番号x
CTx−健常対照番号x
BCx−乳癌患者番号x
上の結果をグラフにプロットした(図2B)。
図2Bに示すように、LDPe051およびLDPe069間の比率は、乳癌患者と健常対照では異なっていた(比率<0.8は乳癌患者を示し、一方、比率>0.8は健常対照を表している)。卵巣癌患者と健常対照では同じ2種の抗原間の比率は同一であった(図2B)。
乳癌についてのROC計算−2種の抗原間の比率の結果を昇順にソートし、各比率ポイントついて、次の値を計算した。データは、表7に示し、図2Cに示す。
閾値は0.849であると決定した−その値を下回った総ての検査は真陰性(健常)でありその値を上回った総ての検査は真陽性であった(乳癌)。
図2Dに示すように、各閾値ポイントについてROC曲線をプロットした。
卵巣癌患者(OC)と対照(CT)でも、同じ抗原に対して同様の計算を行った。それらの結果は表8に示す(図2E)。
以上から分かるように、抗原組LDPe051およびLDPe069を用いた場合には、健常対象と、卵巣癌を有する患者との良好な分離は得られなかった(その場合、PPVおよびNPVが高い)。これはさらに、図2F(卵巣癌の検出のためのLDPe051_LDPe069についてのROC曲線)でも見られる。
抗原組LDPe064およびLDPe070を用いて、次の結果を得た(表4)
表4
LDPe064およびLDPe070に対して得られたOD結果およびその計算比率(希釈番号2)
OCx−卵巣癌患者番号x
CTx−健常対照番号x
BCx−乳癌患者番号x
上の結果をグラフにプロットした(図2G)。
図2Gに示すように、LDPe064およびLDPe070間の比率は、卵巣癌患者と健常対照では異なっていた(比率>0.85は卵巣癌患者を示し、一方、比率<0.85は健常対照を表していた)。乳癌患者と健常対照では同じ2種の抗原間の比率は同一であった(図2G)。
卵巣癌についてのROC計算−2種の抗原間の比率の結果を昇順にソートし、各比率ポイントついて、表9に示した値を算出した(図2H)。
閾値は0.803であると決定した−その値を下回った総ての検査は真陰性(健常)でありその値を上回った総ての検査は真陽性であった(乳癌)。
各閾値ポイントについてROC曲線をプロットした。それを図2Iに示している。
乳癌(BC)患者と対照(CT)でも、同じ抗原に対して同様の計算を行った。それらの結果は表10に示している(図2J)。
以上から分かるように、これらの抗原を用いて、良好な分離は得られなかった(その場合、PPVおよびNPVが高い)。
表10のデータについて得られたROC曲線を図2Kに示している(乳癌と健常対照との分離についてのLDPE064_LDPe070)。
上の実施例では、AUC=1、およびそれらの比率の閾値ポイントを100%感度−100%特異性のポイントとして明確に定義した。
他のケースでは、AUC<1の場合、それらの比率の閾値ポイントは臨床的必要性(高感度または高特異性)に応じて決定される。
実施例2
本発明の方法による乳癌の潜在患者の診断についての評価
生検前に乳癌が疑われるトレーニングセットの対象から血液を採取し、血漿を得、サンプルサイズを統計的考察によって決定した。
それらの病理生検結果を「B陽性」(癌サンプルの場合)または「B陰性」(健常サンプルの場合)と記録した。
実施例1の手順によって、抗原LDPe051およびLDPe069の抗原−抗体複合体量について各サンプルを検査し、それらの複合体間の比率を決定した。
比率>0.8ならば、そのサンプルを「R陰性」と指定した。比率が<0.8ならば、そのサンプルを「R陽性」と指定した。
各サンプルの生検結果(「B陽性」または「B陰性」)を比率結果(「R陽性」または「R陰性」)と比較した。
各サンプルを次のとおり分類した:
サンプルが「B陽性」および「R陽性」であったならばサンプルは真陽性(TP)であった
サンプルが「B陽性」および「R陰性」であったならばサンプルは偽陰性(FN)であった
サンプルが「B陰性」および「R陽性」であったならばサンプルは偽陽性(FP)であった
サンプルが「B陰性」および「R陰性」であったならばサンプルは真陰性(TN)であった
実施例1に例示したように、検査についての特異性(TN率)および感度(TP率)を決定し、ROC(受信者操作特性)曲線上にプロットし、AUC(曲線下面積)を計算した。
AUCが0.5よりもはるかに大きい場合、抗体比率と乳癌(BC)の存在との間に関係があることが立証される。しかしながら、AUC<0.7は、臨床用途には不十分であると考えるべきである。AUCが0.7〜0.85の間である検査は、他の方法との併用により潜在的に有用であると考えられ、AUC>0.85の検査は単独で適用することができる。
実施例3
指標となる/診断用抗原組を同定する一般戦略
本実施例では、診断指標となる抗原組を同定する戦略を一般的に説明し、その戦略では、その抗原組とそれらの抗体との複合体間の比率によって検査対象における癌の有無が示される。
その戦略を、表5に列挙するペプチド/タンパク質に基づいて例示する。
完全配列を図4(表11)に示す。
健常個体(「真陰性」)と、例えば、生検により、乳癌であると明確に診断された個体(「真陽性」)由来の血液サンプルを採取し、血漿を得た。統計的評価に十分な数の陽性サンプルおよび陰性サンプルを集めた。各血漿サンプルについて、表5に列挙した抗原各々を用いて9つの異なるELISA試験を(実施例1に記載のとおり)行った。ELISAの結果から、それらのサンプル各々における9種の抗原各々に対する自己抗体の実際のレベルを決定した。各個体についての総ての考えられる組合せの自己抗体レベル、2種の複合体間の比率を計算し、各抗原組に対する各個体の比率を収集し、それらの結果を、(実施例1の場合のように)公知の統計的方法によってAUCについて解析した。総ての考えられる組合せを、計算したAUCによりソートした。抗原組が高いAUC値を示すほど診断上の関連性が高くなるが、AUC値が50%に近い抗原組はそれほど重要ではない。表6から分かるように、(AUCによって)「良好な」組合せと、「不良の」組合せとが存在する。「良好な」対(陽性被験者と陰性被験者を所定の範囲で区別することができる比率、例えば、少なくとも80%AUC、をその間に有するような組)の選択には非常に多くの試験が必要となる場合がある。そのような試験は、本明細書において詳細に記載する方法に従う(例えば、上の実施例1を参照)が、日常的に行われている。最良の対を、指標となる/診断用抗原組として使用することができる。
各サンプルのELISAのために9種総ての抗原を用い、(9x8)/2通りの異なる組合せの比率が考えられる、すなわち、比率計算のために36組の異なる抗原を使用することができ、それらを下の表6に示す。
表6:9種の抗原からなる組の36通りの組合せについてのAUC解析
x_x1−ELISAに使用した第1の抗原
x_x2−ELISAに使用した第2の抗原
Ncase−患者の数
Ncont−対照の数
AUC−この抗原−抗体複合体組についてのROC曲線から計算した曲線下面積
Chi2e−統計パラメーター(χ
2)
本発明の目的が、「病気の」対象(癌を有する患者)と、「健常な」対象とを区別することが可能な診断方法を提供することであることは理解されよう。(実施例1および実施例2に例示した)特定の実施形態では、その方法は、抗原のカップルまたはトリプレットとともに形成される複合体の光学濃度(OD)の測定に基づいている。潜在的に有効な抗原カップルおよびトリプレットを見出すために、ロジスティック回帰を用いることができる。検査品質は、受信者操作特性(ROC)曲線下面積(AUC)を用いて評価される。AUC[例えば、Bamber D. J. Math. Psychol. (1975) 12:387-415、 Hanley, J. A. and McNeil B. J., Radiology (1982) 143(1):29-36、 D'Agostino R. B. et al., Proc. Biometrical Section. Alexandria, VA, USA American Statistical Association, Biometric section: Alexandria VA. (1997) 253-258を参照のこと]は、新たな提案がいくつかあるにもかかわらず、それでもなお最も使用に適した、モデル性能の評価尺度である[Cook, N. R. Circulation (2007) 115:928-935、 Pepe M. S., et al., UW Biostatistics Working paper Series, #289, (2006). http://www.bepress.com/uwbiostat/paper289. accessed 9 March 2007で利用可能である、 Pencina M. J., et al., Medicine (2008) 27:157-172]。AUCは、検査の感度をその「1−特異性」の関数として表す。AUCは、二つの無作為かつ独立に選択されたサンプル(一つの「病気の」サンプルと一つの「健常な」サンプル)の中では、「病気の」患者がより高い検査値を示すという確率を提供する。
そのような解析に基づき、有効な特性の抗原組またはトリプレットを、提案する検査においてそれらの抗原として使用される非常に多過ぎる候補から選択することができる。
図3A〜図3Iでは、好適な抗原を選択する方法を説明している。すなわち、そのような抗原は、サンプル中に存在する抗体とそれらが形成する複合体間の定量的比率によって、AUC解析を用いて、健常対象と癌を有する対象を有効に区別することができるようなものである。
図3A、図3B、図3C、図3D、および3Eは、上の考えられる組合せ(表6)からの5つの最良の組を示しており、それらの組は(健常および病気の)集団を分離することができる高いAUCを与える。図3F、図3G、図3H、および図3Iは、低いAUC(0.5)を与える組を示しており、そのAUCでは集団を区別することができない。
実施例4
診断用セットにおける抗体−抗原複合体各々についての希釈率および相対的希釈比率の定義
本明細書では、一方で、生体サンプルを、各々が癌の発生に対して異なる生理学的寄与またはその他の方法での寄与をしている複数の抗原に対しての特異的抗体−抗原複合体の測定値について解析し、もう一方で、集団全体での抗体発現プロファイルの多様な性質を確認する、診断方法および適用を提供する。これまでに述べたように、対象の自己抗体生産は、ある特定の自己抗体のレベルが、別の対象の「弱」自己抗体生産と比較して相対的に十分である「強」と特徴付けることができる。
下に示すように、その診断アプローチは柔軟である。形成され得る総ての抗体−抗原複合体に適用できる所定の単一希釈率(または希釈系列もしくは希釈率群)で希釈している生体サンプルにおいて診断アッセイを行う代わりに、複数の希釈率で診断アッセイを行った。そこから集まった情報の収集および整理統合を示す。以下に説明するように、同時に用いる総ての抗体−抗原複合体に対して単一の希釈範囲は必ずしも利用できなかった。アッセイの単一希釈率への限定は、検出装置の技術的制約を提示した。そのため、単一の希釈範囲はまたは希釈率群は、アッセイ装置の制限から適用できなかった。そのサンプルにおいて形成された抗体−抗原複合体の一つが、下に示すように、非常に高いODを与え、使用した特定の検出装置で測定できなかった場合に、不正確さが生じた。
よって、次の実施例では、測定可能な抗原−自己抗体複合体レベルを作り出すために、異なる希釈率を用いた。ここで、本実施例では、複数の検出可能な抗原−自己抗体複合体を含むアッセイを行うために、異なる希釈率を用いることができることを説明する。
二つの生体サンプルを、Ag1(LDPe002)−配列番号9、Ag2(LDPe012)−配列番号11、Ag3(LDPr041)−配列番号21、Ag4(LDPr077)−配列番号23として示される4種の異なる抗原を用いて、二つの異なる検査様式で検査した。
第1の様式では、総ての抗原に対してサンプルを同じ希釈度(同一の連続希釈)に希釈した(「希釈1」で始め、「希釈1」は希釈率1:8を示す)。それらの結果を表12に要約する。表12では、検査1139および検査1200についての、抗原Ag1、Ag2、Ag3、およびAg4各々に関する、1:8〜1:256の範囲の種々の希釈によるOD読み取り値を示す。連続希釈は総ての抗原に対して同じであった。太字の値は平滑化に適している。
第2の様式では、生体サンプルをいくつかのアリコートに分け、それを各抗原で異なる連続希釈を行った。Ag1のOD測定は希釈率1:8で始め、Ag2では出発希釈率は1:32、Ag3では1:64、Ag4では1:512であった。結果を表13に要約する。表13では、検査1139および検査1200についての、抗原Ag1、Ag2、Ag3、およびAg4に対する、異なる第1の希釈Ag1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512でのOD読み取り値を示している。太字の値は、平滑化手法に適したデータを表す。
OD読み取り値を平滑化した。第1の様式で行った検査は、検査1139について分かるように、出発希釈率(1:8)では、平滑化を選択しない抗原が一部あったことを示し、未加工データは、表12に記載のとおりであった。
明らかに、表12の複数のOD測定値は過度に高いシグナルを示しており、これはシグナルの飽和を示す。
第1の様式に戻り、図5Aは、生体サンプルを総ての抗原に対して1:8で始める単一希釈率で希釈した場合の、検査1139についてAg1〜Ag4に対して得られた結果を示すグラフである。図5Bは、検査1139に関してAg1〜Ag4に対して得られた平滑化結果を示している。
図6Aは、生体サンプルを総ての抗原に対して1:8で始める単一希釈率で希釈した場合の、検査1200についてAg1〜Ag4に対して得られた結果を示すグラフである。図6Bは、検査1200についてAg1〜Ag4に対して得られた平滑化結果を示している。Ag2、Ag3およびAg4は、十分なデータポイントがなかったため除いた。
図5Bでは、十分なデータポイントがなかったためAg2およびAg4を除いた。特に、抗原Ag2およびAg4では、OD<2.5の測定ポイントが三つ以下存在するが、それでは高い確実性で線形回帰を得るのに十分ではない。表14は、検査1139および検査1200のAg1〜Ag4についての平滑化結果を示している。検査1139に関し、抗原Ag2およびAg4についての不十分なデータポイントは明らかである。
検査1200に関して、表14は、Ag2、Ag3、およびAg4に関しての不十分なデータポイントを示している。検査1200について、未加工データを、表12ならびに図6Aおよび図6Bに記載している。Ag2、Ag3、およびAg4では、(外れ値の排除後)OD<2.5の測定値が三つ以下存在するが、それでは高い確実性で線形回帰を得るには不十分であった。
総ての抗原に対して同一の希釈率を使用する上での欠点を克服するために、生体サンプルを4つの異なる出発希釈に希釈した。Ag1に対する出発希釈は1:8、Ag2では1:32、Ag3では1:64、Ag4では1:512であった。未加工データは、表13に要約し、検査1139については図5Cに、検査1200については図6Cに要約する。
表15では、検査1139および検査1200についての、抗原Ag1、Ag2、Ag3およびAg4に対する、異なる第1の希釈Ag1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512での平滑化結果を示している。検査1139および検査1200について、平滑化結果をそれぞれ図5Dおよび図6Dに説明する。
図5Dおよび図6Dから分かるように、第2の様式で行った検査では、完全な平滑化を行い、各抗原−抗体複合体について測定装置の線形範囲内にあるOD読み取り値を得た。よって、これらの結果は、診断アルゴリズムおよび適用にさらに組み込むことができる。
上の実施例によれば、第1の様式では、抗原セットAg1、Ag2、Ag3およびAg4の総ての抗原に対して用いることができる共通の希釈率系列はなかった。具体的に言えば、Ag1およびAg4は、そのような共通の(または相互の)希釈率系列を示さなかった。Ag1は非常に低いシグナルを示し、一方、Ag4は非常に高いシグナル(用いた総ての希釈率1〜6で飽和シグナルOD>2.5)示した。
第2の様式では、適当なOD範囲内、例えば、0>OD<=3に測定可能なシグナルをもたらし、さらなる処理を可能にしまたは本発明の診断方法、診断アルゴリズムおよびシステムを可能にするために、各抗原に対して異なる希釈系列を用いた。
いくつかの実施形態では、診断手順、システムおよびソフトウェアは、異なる抗原に対する希釈間の比率が維持される限り異なる第1の希釈を用いて、平滑化手法に従う予測値を利用する(実施例5〜7を参照)。
表12
検査1139および検査1200について、Ag1〜Ag4に対して得られたOD読み取り値、総ての出発希釈率は1:8である。
表13
検査1139および検査1200についての、抗原Ag1、Ag2、Ag3およびAg4に対する、異なる第1の希釈Ag1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512でのOD読み取り値
表14
検査1139および検査1200のAg1〜Ag4についての平滑化結果
、総ての抗原に対する第1の希釈率は1:8である。
表15
検査1139および検査1200のAg1〜Ag4についての平滑化結果、第1の希釈率Ag1−1:8、Ag2−1:32、Ag3−1:64、Ag4−1:512
実施例5
アッセイプラットフォームの分類規則(群)
一般的に、分類規則を構築するためのツールとしてロジスティック回帰を用いた症例対照アプローチ(癌−健常)は、トレーニングセットで実行された。プラットフォーム規則およびアルゴリズムの目的は、診断での使用に適した抗原サブセットに焦点を合わせることである。本発明者らは、測定可能な抗原−自己抗体複合体レベル各々の相対的計算を可能にするアルゴリズムおよび式を開発し、患者に「罹患」または「癌患者である可能性が高い」のいずれかとして診断を割り当てた。測定可能な抗原−自己抗体複合体レベル各々の相対的計算は、各レベルが適当な測定可能範囲に調整されるように異なる希釈率度で複数の抗原をアッセイすることをさらに含む。さらに、診断対象の自己抗体レベルの個人の変動性に対処するための組み込みの解決策(群)を提供する。よって、そのプラットフォームは、とりわけ、単に多数のマーカーの存在を確認することが可能なだけでなく、各抗原−自己抗体レベルの相対的寄与に基づく癌診断法も提供し、抗体プロファイルレベルの個人の変動性も考慮する。
初めに、さらなる処理のために、潜在的に有用な抗原のリストを選択する。分類規則の作成のために、「癌」対象および「健常」対象のトレーニングサンプルを得る。
各対象について、各抗原の複数の連続希釈物を用いて抗原−自己抗体レベルの測定を行った、それによって、抗原−自己抗体レベルの測定値パターンまたはセットを希釈率の関数として得た。所定の抗原についての所定の希釈での光学濃度(OD)測定は1回だけ行った(いくつかの実施形態では測定を繰り返してもよい)。よって、一般に、抗原に関する所定の希釈率での反復に必須条件はない。
いくつかの実施形態では、行った測定の信頼度を高めるために品質管理手段を講じる。所定の閾値より大きい(例えば、ある特定の測定装置では2.5を超える)ODの測定値は使用できない(検出装置の線形範囲外である)と考えられるため、除外することができる。各抗原について、所定のOD閾値を下回るまたは測定装置の線形範囲内にあるODをもたらした希釈率を確立するまたは決定する。所定のOD閾値を下回るODをもたらした希釈率が二つ以上ある場合には、最小のものを用いることができる。
場合により、各抗原について、OD読み取り値のセットを処理して、平滑化/予測(または処理)したOD読み取り値を生み出す。いくつかの実施形態では、線形回帰手法を用いて、平滑化/予測したデータを得る。その線形回帰手法は、プラットフォームによって信頼性があると見なされたOD読み取り値のセットに適用される。限定されない例として、データセットの平滑化に用いられる信頼性のあるOD読み取り値セットは、最小二乗回帰を用いて、希釈率の上昇に比例してシグナルの線形減少を示す測定値である。また、加重最小二乗回帰を実行することも任意選択肢である。
組<患者、抗原>のデータは、線形回帰の二乗相関が所定の閾値(例えば、0.9)を下回った場合も除外される。ln(OD)の実測値を、平滑化/予測値に置き換える。分類にはこれらの平滑化した値を用いた。
少なくとも一つの抗原組について、相対的対希釈比率を決定する。相対的希釈比率とは、希釈率間の比率である。言い換えれば、測定値または値を、診断集団についてプリセットし、それにより、その抗原組について決定された希釈率組間の比例関係を推定し、各希釈率を測定装置の線形範囲で得る。限定されない例として、x1およびx2をそれぞれ、Ag1およびAg2についての希釈率組とし、その希釈率組によって、測定装置の線形範囲内でOD読み取り値組を得る。よって、その相対的希釈比率は、x1/x2と定義することができる。
その後、相対的希釈率を(トレーニングセットの)癌対象または健常対象のいずれかの解析に用いる。(対象から得られる)抗原組の抗原−自己抗体レベルの測定値は、希釈比率が測定組間および対象集団全体で維持されるようなものであると仮定され、そのように操作可能である。
限定されない例として、相対的希釈率を次のとおり用いることができる。特定の希釈率x1で(例えば、Ag1)の抗原−自己抗体複合体レベルの測定値を得た後、希釈比率(例えば、x1/x2)を用いて、Ag2の抗原−自己抗体複合体レベルを得るための希釈率を予測するまたは理論的に推定する。予測希釈率での抗原−自己抗体複合体レベルが(技術的な制限/予測/理論希釈率でのシグナル飽和などを理由に)利用できない場合には、平滑化したデータを用いて、予測/理論希釈率での抗原−自己抗体複合体レベルを予測することができる。このような予測は、外挿手法の形で行うことができる(相対的希釈比率のこのような使用は、下に論じる診断方法および適用においても同様に用いられる)。
OD読み取り値を得るこの手法は、「癌」群および「健常」群両方の各対象および潜在的に有用な抗原各々に関して総ての平滑化した抗原−自己抗体複合体レベルが確認されるまで繰り返す。
「癌」群および「健常」群いずれもの対象の総ての組<抗原、平滑化OD読み取り値>のセットをロジスティック回帰手法によって処理する。ロジスティック回帰手法を用いて、各自己抗体−抗原複合体の平滑化OD読み取り値の相対的寄与を測定することができる。従って、それらの結果は、複数の考えられる抗原サブセットと癌の発生に対するそれらの相対的寄与を含み、これらは、プリセットされた相対的希釈比率制約下で得られた。
それらの結果は、受信者操作曲線下面積(AUC)によって順序づける。特定の組合せが許容感度または特異性に制限または不満をもたらしたならば、結果を順序付ける、すなわち、感度または特異性に所定の制限を課すために、一部のAUC(pAUC)を用いることができる。最良の組合せの一部の抗原サブセットは、次いで、さらなる非形式的エキスパート解析に向けられる。
ロジスティック回帰手法は、以下を含むことができる:
a)「最良のn個のサブセット」Ag1、Ag2およびAg3...Agn、
b)z=b0+b1o1+b2o2+b3o3+...+bnon
(式中、o1、o2、o3およびonは、所定の希釈度(異なる抗原では異なっていてよい)でのn個の抗原Ag1、Ag2、Ag3...、Agnの光学濃度の平滑化対数であり、b0、bx、b2、b3およびbnは、用いる適当なロジスティック回帰モデルの係数または因子である)の形の一次検査関数、
c)z>Z0ならば、女性/対象は「癌」と分類され、z≦Z0ならば、女性/対象は「健常」と分類されるような全体の閾値Z0。
いくつかの実施形態では、ロジスティック回帰モデルにおいて関数z=f(相対的寄与パラメーター)を用いる、いくつかの特定の実施形態では、その関数は、z=b0+b1o1+b2o2+b3o3+...+bnonの形の多項式関数である、他の特定の実施形態では、その関数は、z=ln(b0+b1o1+b2o2+b3o3+...+bnon)、z=ln(b0)+ln(b1o1)+ln(b2o2)+ln(b3o3)+...+ln(bnon)、などである。
好ましいまたは最良の選択抗原サブセットに基づく線形分類器は、そのサブセットの、未知集団の健康ステータスを予測する能力の安定性を確認するための「癌」対象および「健常」対象の独立した(検査)サンプルにおいて確認されている。そのサブセットの安定性を支持することが確認されている係数セットb0、b1、b2、b3およびbnと未知集団の健康ステータスを予測するその能力を、相対的寄与因子として、臨床の場でのさらなる診断方法および適用のために用いることができる。b0は、一般にフリー係数(a free coefficient)である。それらの値または係数は、相対的寄与因子マトリックス内に、診断的適用を与えるために固定されるかまたは一定であるように保持され得る。
上記の分類規則および手順を下記の実施例6および実施例7に用いた。
実施例6
診断的適用に用いる抗原サブセットの決定
同意を得て、乳癌について生検陽性の40名の癌患者から血漿サンプルを得た。同意を得て、乳癌について陰性の42名の健常対象から血漿サンプルを得た。
限定されない例示として、表16では、本明細書において下で用いる抗原のリストを示す。
これまでに述べたように、上の抗原に対して、相対的対希釈比率を、1:10からの少なくとも5つのサンプルの連続希釈によってさらに決定した。
本実施例では、各抗原に対する典型的希釈率を、サンプルの希釈に対応する少なくとも6つのOD読み取り値系列、すなわち、飽和しておらず測定シグナルと用いた希釈率との間に対数依存関係を実質的に示した少なくとも6つの連続的なOD読み取り値において第1の/最小希釈率として決定した。
抗原または抗原組間の相対的希釈比率は、異なる希釈率を用いることによって得られた一連の平滑化OD読み取り値から得た。
その相対的希釈比率を、その組の各抗原の対応するOD系列における第1の希釈率から得た。その相対的希釈比率は、癌群または健常群における各対象のOD読み取り値の処理のための制約として維持される。
本発明は、少なくとも3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ以上の連続するOD読み取り値からの典型的希釈率によっても同様に用いることができることには留意すべきである。さらなる処理のためにその系列における典型的希釈率を選択する。
表16は、各抗原に対する血漿サンプルの(OD系列において第1の希釈率に選択された)典型的希釈率をさらに示す。
癌対象および健常対象いずれもの各サンプルを、表16に詳述する第1の希釈率またはポイントに希釈し、ELISAを行った。ln(OD)を計算し、各抗原に対する第1の希釈ODを用いた。一般的に、群:{LDPe002、LDPe012、LDPe016、LDPe039、LDPe066、LDPe069、LDPe070およびLDPe071}のいずれか一つの抗原と群:{LDPr041、LDPr076、LDPr077、LDPr078、LDPr079、LDPr095}のいずれか一つの抗原との間で決定された対希釈比率は0.5であった。特に、LDPr041に対するLDPe071の対希釈比率は0.5である。測定ODデータを得る間は対希釈比率を維持した。
表16
実施例6で用いた抗原のリストおよび各々に対する第1の希釈率
表17(図7B)では、各抗原および各サンプルの第1の希釈率についてのln(OD)結果を詳述している。列ntypeの「0」は健常サンプルを表し、列ntypeの「1」は癌サンプルを表している。上記のように、上の抗原組合せのロジスティック回帰を行い、図7Aに示すように、ROC解析により上のサンプルセットのAUCを決定した。
同一の手順を用いて、罹患/癌対象と健常対照の統計的分離を可能にするとしてさらなる抗原サブセットが確認された。
特に、13種の抗原を含んでなるサブセットの利用の結果、ROC曲線下面積は0.9091であり(表18、図7C)、12種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.8794であり(表19、図7D)、11種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.8576であり(表20、図7E)、10種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.9545であり(表21、図7F)、9種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.9545であり(表22、図7G)、8種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.9545であり(表23、図7H)、7種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.9577であり(表24、図71)、6種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.9053であり(表25、図7J)、5種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.8892であり(表26、図7K)、4種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.8989であり(表27、図7L)、3種の抗原を含んでなるサブセットの結果、ROC曲線下面積は0.8792であった(表28、図7M)。
表18
13種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表19
12種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表20
11種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表21
10種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表22
9種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表23
8種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表24
7種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表25
6種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表26
5種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表27
4種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
表28
3種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
実施例7
卵巣癌の診断的適用に用いる抗原サブセットの決定
確認された病理を有する20名の上皮性卵巣癌患者から血漿サンプルを得た。20名の健常対象からも血漿サンプルを得た。総ての対象からインフォームドコンセントを得た。
表29では、本明細書において下で用いる抗原のリストを示す。これまでに記載したように、抗原に対して、相対的希釈比率を、1:5からの少なくとも5つのサンプルの連続希釈によって決定した。
表29
卵巣診断法に用いる3種の抗原のサブセットおよび各々に対する第1の希釈率
本実施例では、これまでに説明したように、各抗原に対する典型的希釈率を、サンプルの希釈に対応する少なくとも6つのOD読み取り値系列において第1の/最小希釈率として決定した。
表29では、各抗原に対する血漿サンプルの第1の希釈率をさらに示す。ln(OD)を計算し、各抗原に対する第1の希釈ODを用いた。表30では、各抗原および各サンプルの第1の希釈率についてのln(OD)結果を詳述している。ntypeの「0」は健常サンプルを表し、ntypeの「1」は患者サンプルを表している。計7名の患者と17名の健常者を検査した。
上記のように、上の抗原組合せLDPe002(配列番号9)およびLDPe092(配列番号16)のロジスティック回帰を行い、図7Nに示すように、ROC解析により上のサンプルセットのAUCを決定した。
表30
各抗原および各サンプルの第1の希釈率についてのln(OD)結果。ntypeの「0」は健常サンプルを表し、ntypeの「1」は癌サンプルを表す。
図7Nは、7名の患者および17名の健常対象で、LDPe002およびLDPe092について第1の最小希釈度で得られた結果を示しており、図7Oは、上のデータについてのAUC計算値を90%として示している。
同一の手順を用いて、罹患/癌対象と健常対照の統計的分離を可能にするとしてさらなる抗原サブセットが確認された。
上記のように、上の抗原組合せLDPe001(配列番号8)およびLDPe092(配列番号16)のロジスティック回帰を行い、図7Pに示すように、ROC解析により上のサンプルセットのAUCを決定した。
表31
各抗原および各サンプルの第1の希釈率についてのln(OD)結果。ntypeの「0」は健常サンプルを表し、ntypeの「1」は癌サンプルを表す。
図7Pは、14名の患者および14名の健常対象でLDPe001およびLDPe092について第1の/最小希釈度で得られた結果を示す。
図7Qは、上のデータについてのAUC計算値を85%として示す。
実施例8
診断方法および適用
癌の存在について評価中の対象に診断を割り当てるための方法および適用は、事前に決定された入力パラメーターを利用する。そのため、それらの方法および適用は、確立された抗原セット、そのセットの抗原組の相対的希釈比率および/または抗原典型的希釈率、ならびに該抗原各々の相対的寄与因子の情報を利用する。
それらの方法および適用によって、診断対象に癌に罹患しているという診断を割り当てるべきか否かまたはその対象が癌に罹患している可能性が高いか否かの判定が可能である。
初めに、診断しようとする対象から生体サンプルを得る。一般的に、そのサンプルを、診断手順に好適であると事前に決定された抗原サブセットと接触させる。
その抗原サブセット、例えば、Ag1、Ag2、およびAg3を対象の生体サンプルと接触させ、その後、各抗原に対して三つ以上の希釈率で、少なくとも三つのOD読み取り値(所望により、6つ)について解析する。
そのアッセイは、前記生体サンプルを典型的希釈率で接触させて複数のサンプルアリコート内の自己抗体と複合体を形成することを含む。一般に、最小のものから連続希釈を行う。これまでに説明したように、それらの希釈率(最小希釈率を含む)は異なる抗原では異なっていてよい。異なる希釈率の複数のサンプルアリコートを得る。
品質管理手順は、各抗原−抗体複合体レベルの測定データに別々に適用する。所定の閾値より大きい(例えば、ある特定の測定装置では2.5を超える)ODの測定値は使用できない(検出装置の線形範囲外である)と考えられるため、除外することができる。そのデータが品質管理段階をパスしない場合、その検査は「技術的にうまくいかない」と考えられる。診断を下すためには、反復測定を行った後に再度品質保証手順を行うことが必要である。
品質管理手順の後、それに関して各抗原に対する測定値を確認した場合、本明細書において上に記載したようにデータを平滑化し、それによって、平滑化/予測したOD読み取り値を得る。所望により、その平滑化または予測したOD読み取り値に基づいて診断判定をする。いくつかの実施形態では、その相対的希釈比率は、抗原の間で維持される。そのようにして、抗原−自己抗体複合体レベルを表すOD読み取り値/平滑化OD読み取り値/予測OD読み取り値のセットを得る。例えば、n個の抗原Ag1、Ag2、Ag3...、Agnのo1、o2、o3およびon光学濃度。
癌の存在に対する前記抗原−抗体複合体レベル各々の相対的寄与の値を、事前に決定されたまたは固定された所定の相対的寄与因子に従って前記抗原−抗体複合体レベル各々を調整することによって計算する。いくつかの実施形態では、調整は、積PARAMi=oibi,1≧i≧n(式中、oiは、Agiの抗原−抗体複合体レベルであり、biは、抗原Agiを特徴付ける相対的寄与因子である)の形をとる。他の実施形態では、PARAMi=ln(oibi),l≧i≧n。
次いで、判別/検査関数(x)を計算し、その入力は相対的寄与パラメーターである。値(x)を所定のカットオフポイントと比較する。いくつかの実施形態では、判別/検査関数は以下である:
診断対象は、x>Zならば「癌に罹患している可能性が高い」、そうでなければ「健常」として割り当てられるまたは分類される。
次の実施例では、乳房外科医は高感度および中特異性を与える診断用抗原セットを要望している。この様式により、外科医は、現在行われている不必要な生検の大部分をなくすことができる。
乳房生検または外科手術が予定されていた疑わしい女性の集団からインフォームドコンセントを得て血漿サンプルを得た。それらの女性の各々は生検結果の利用も許可した。血漿サンプルを無作為に2セットのサンプル−トレーニングセットと検証セットに分けた。
計106サンプルをトレーニングセットとした。抗原セットを提案し、上に開示した方法によって外科医仕様(患者を見落とさないように高感度で、生検を受ける必要のないモニタリング目的のみで健常集団の少なくとも50%を送る、中特異性)に基づき、最良のサブセットを選択した。
8種の抗原を含有するサブセットでは、表32に示す次の相対的寄与因子となった。
表32
診断に用いる8種の抗原のサブセット、それらの相対的希釈率およびロジスティック回帰によって計算した相対的寄与因子
特定の典型的希釈度で行うアッセイにおけるこの抗原セット、およびそれらの相対的寄与因子の使用により、検査の総感度−97%(57/59が正しく診断される)。表33に示されるとおり、検査の総特異性−49%(23/47が正しく診断される)。
表33
トレーニングセットの感度および特異性パラメーター
15名の癌患者および21名の健常対照を含む検証セット(生検によって確認されたもの)において同じ抗原セットを利用した。カットオフによってそれらのサンプル各々に健康ステータスを割り当て、Z>−1.16の場合には割り当ては癌であり、Z<=−1.16の場合には健常と割り当てた。
よって、この特定の相対的寄与因子と判別/検査関数の使用の結果、表34に示すように、乳房外科医による臨床的要求に厳密に従う、高感度(93%)および中特異性(53%)であった。
別の適用で、乳房外科医は、スクリーニング集団(約10%である)の偽陰性結果の多くを検出するために、高度に特異的な検査を、中程度に感度の高い検査とともに要望する。
115サンプルのセット(64の癌サンプルおよび51の健常サンプル)において同じ手順を行った。7種の抗原を含むサブセットでは、表35に示す次の相対的寄与因子となった。
表35
診断に用いる7種の抗原のサブセット、それらの相対的希釈率およびロジスティック回帰によって計算した相対的寄与因子
この特定の相対的寄与因子と判別関数の使用の結果、表36に示すように、乳房外科医による臨床的要求に厳密に従う、中感度(50%)および高特異性(92%)であった。
表36
トレーニングセットの感度および特異性パラメーター
18名の癌患者および22名の健常対照を含む検証セット(生検によって確認されたもの)において同じ抗原セットを測定した。カットオフによってそれらのサンプル各々に健康ステータスを割り当て、Z>1.1の場合には割り当ては癌であり、Z<=1.1には健常と割り当てた。
この特定の相対的寄与因子と判別関数の使用の結果、表37に示すように、乳房外科医による臨床的要求に厳密に従う、中感度(44%)および高特異性(91%)であった。