JP2012513030A - 修飾グリカンに関する方法 - Google Patents

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Abstract

特に、本開示は、異常修飾グリカン(リン酸化グリカン、硫酸化グリカンおよび/または多アセチル化グリカンなど)を富化、同定および/または定量化する方法を提供するものである。多くの実施形態において、方法が、シアル酸の放出元となったグリカン調製物を提供し、このシアリダーゼ処理グリカン調製物に対して、電荷質量比に基づいてグリカンを分離する分離技法を適用し、少なくとも1つの定量化標準を用いて、荷電した産物を定量化すること含む。
【選択図】図4

Description

本出願は、2008年12月19日にファイルされた米国仮特許出願第61/139,224号の優先権の利益を主張するものであり、その開示内容全体を参照により本明細書に援用する。
背景
複合糖質(糖タンパク質など)のグリカンに対する修飾が、複合糖質の機能に大きく影響を与えることが多い。たとえば、グリカン修飾は、糖タンパク質が正しく折り畳む能力、安定性(タンパク質分解および/または他の分解に対する耐性など)、触媒活性、薬理学的特性および/または薬物動態特性および/または他の分子との相互作用に影響しかねない。糖タンパク質のグリカン修飾は、糖タンパク質の輸送および標的化に影響しかねない。たとえば、糖タンパク質のグリカン修飾は、糖タンパク質が細胞内に残るか否か(適切な細胞下コンパートメントへの糖タンパク質の正しい標的化を含む)、糖タンパク質が膜結合されるか否かおよび/または糖タンパク質が細胞から分泌されるか否かに影響しかねない。
概要
グリカンは一般に、シアリル化すなわち、シアル酸の付加によって修飾される。硫酸化、リン酸化、多アセチル化シアリル化(ジアセチル化シアリル化など)といったグリカンに対する異常修飾が、糖タンパク質を分析する際に見過ごされることが多い。このような修飾は、その分析が複雑であって当該修飾が不安定であるがゆえに少なくとも一部は見過ごされることがある。本開示は、それにもかかわらず異常修飾が生物学的に関連し、これらを同定および定量化するための方法が望ましいという認識を包含する。
特に、本開示は、異常修飾グリカンを富化、同定、検出および/または定量化する方法を提供するものである。多くの実施形態において、方法は、シアル酸の放出元となったグリカン調製物を提供することを含む(シアリダーゼ処理グリカン調製物など)。この調製物は、シアル酸を放出する処理によって切断されなかったグリカン(すなわち、シアリダーゼ耐性グリカン)を含む。提供される方法は一般に、提供されるグリカン調製物に対して、第1の電荷を有するグリカンを未荷電のグリカンおよび/または第2の電荷を有するグリカンから分離する、および/または電荷質量比に基づいてグリカンを分離する分離技法を適用し、任意選択により、分離されたグリカンを定量化すること含む。多くの実施形態では、定量化は、少なくとも1つの定量化標準を使用することを含む。
例示としてのN−結合型グリカンの構造を示す。 グリカンにおける修飾残基の非限定的な例を示す:マンノース−6−ホスフェート(M6P)および6−スルホ−N−アセチルグルコサミン(6−スルホ−GlcNAc)。一般的なシアル酸であるN−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)の構造を、わかりやすくするために何ら追加で修飾することなく示す。アセチル化は普通、5位(図示)に存在する。別のアセチル化が7位、8位、9位に生じることもある。本明細書で使用する場合、シアル酸に関して「多アセチル化された」とは、7位、8位、9位のうちの2箇所異常でさらにアセチル化がなされることを示す。「ジアセチル化された」は、シアル酸に関して、7位、8位、9位のうちの2箇所における別のアセチル化に用いられる。 シアリダーゼ処理後に、中国のリサーチソースから入手した、生物活性を有するエリスロポエチン治療用糖タンパク質由来の異常修飾種のアニオン交換クロマトグラフィ−高速液体クロマトグラフィ(AEX−HPLC)プロファイルを示す。挿入画像は、2−アミノベンズアミド−キトビオースを外部標準として用いる較正曲線を示す。ここで異常修飾種として同定したピークはさらに、リン酸化N−グリカンおよび硫酸化グリカンとして同定された。 シアリダーゼ処理後に、図3で説明したエリスロポエチン治療用糖タンパク質とのアミノ酸配列同一性が97%で生物活性を有する、対象となる第2の糖タンパク質由来の異常修飾種のアニオン交換クロマトグラフィ−高速液体クロマトグラフィ(AEX−HPLC)プロファイルを示す。ここで異常修飾種として同定したピークはさらに、リン酸化N−グリカンおよび硫酸化グリカンとして同定された。 マウスで産生されたモノクローナル抗EGFR抗体由来の硫酸化グリカンをクロマトグラフ分析した結果を示す。ピーク内のグリカンの組成を質量分析で確認した。パネルBで用いる命名法では、「5,4,1,0,0+SO3」がHexNAc5、Hex4、Fuc1、NeuAc0、NeuGc0+硫酸塩1つに相当するといった具合である。 単一のクローン(クローン1)からのCTLA4−IgG由来の硫酸化およびジアセチル化シアリル化グリカンをクロマトグラフ分析した結果を示す。ピーク内のグリカンの組成を質量分析で確認した。 2種類の単一クローン(クローン2、上側パネル;クローン3、下側パネル)からのCTLA4−IgG由来の硫酸化およびジアセチル化シアリル化グリカンをクロマトグラフ分析した結果を示す。
定義
アセチル:本明細書で使用する場合、「アセチル」という用語(「エタノイル」としても知られ、「Ac」と略されることが多い)は、本明細書では化学式−COCHの官能基を示すのに用いる。
アセチル化(された):本明細書で使用する場合、「アセチル化(された)」という表現は、アセチル基の共有付加によって修飾されたことを意味する。たとえば、アセチル化グリカンは、1種類以上のアセチル基の共有付加によって修飾されたグリカンである。アセチル化グリカンは、さらに追加で修飾を含むものであってもよいし、含まなくてもよい。
アセチル化:本明細書で使用する場合、「アセチル化」という用語(IUPAC命名法では「エタノイル化」としても知られる)は、分子(グリカンなど)に対して1つ以上のアセチル基を共有結合的に付加するプロセスを示す。
およそ、約、だいたい:本明細書で使用する場合、1以上の目的の値に適用される「およそ」、「約」または「だいたい」という表現は、明記された参照値に近い値を示す。特定の実施形態では、「およそ」、「約」または「だいたい」という表現は、明記された参照値の25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%またはそれ未満以内に入る値の範囲を示す。
生物学的試料:「生物学的試料」という用語は、本明細書で使用する場合、組織培養、バイオリアクター試料、人間または動物の組織、植物、果物、野菜、単細胞微生物(細菌および酵母など)、多細胞生物を含むがこれに限定されるものではない、何らかの生きた細胞または生物体から得られる、排泄される、あるいは分泌される、あらゆる固体試料または流体試料を示す。たとえば、生物学的試料は、血液、血漿、血清、尿、胆汁、精液、脳脊髄液、房水または硝子体液などから得られる生物流体あるいは、分泌液、浸出液、滲出液(膿瘍または他の任意の感染部位または炎症部位から得られる流体など)または関節(正常な関節またはリウマチ性関節炎、変形性関節炎、痛風性関節炎または敗血症性関節炎などの疾患に羅患した関節)から得られる流体であってもよい。また、生物学的試料は、臓器または組織(生検組織または剖検標本を含む)から得られる試料などであってもよく、細胞(一次細胞であるか培養細胞であるかを問わない)、細胞または組織または臓器で調節した培地、組織培養を含むものであってもよい。
細胞表面糖タンパク質:本明細書で使用する場合、「細胞表面糖タンパク質」という用語は、少なくとも一部が細胞の外面に存在する糖タンパク質を示す。いくつかの実施形態では、細胞表面糖タンパク質は、グリカン構造の少なくとも1つが細胞の外面に存在するように細胞表面に位置するタンパク質である。
細胞表面グリカン:「細胞表面グリカン」とは、細胞の外面に存在するグリカンである。本開示の多くの実施形態では、細胞表面グリカンは、細胞表面糖タンパク質の一部としてポリペプチドに共有結合される。細胞表面グリカンは、細胞膜脂質にも結合可能である。
相関:「相関」という表現は、本明細書で使用する場合、2つの事柄の間に予測可能な関係が確立されることを示す。本明細書に記載の実施形態では、細胞表面でのグリコシル化パターン(またはその特徴)が、その細胞によって産生される標的複合糖質(糖タンパク質など)のグリコシル化パターン(またはその特徴)と相関している。相関したパターン(または特徴)は、一方から他方を予測できさえすれば必ずしも互いに同一である必要はない。相関が確立されると、これをたとえば文書記録に残すことが可能であり、あるいは、媒体またはメモリソース(コンピュータ読み取り可能な媒体またはコンピュータメモリバンクまたはディスクなど)に保存することも可能である。この場合、相関したグリコシル化パターン(またはその特徴)の検出には、書きとめた記録または保存した記録あるいは比較器実験を参照して、相関を確認するなどしてもよい。このような比較器実験は、グリコシル化パターン(またはその特徴)の評価と同時に実施してもよいし、履歴的な実験であっても将来の実験であってもよい。
ジアセチル化:本明細書で使用する場合、「ジアセチル化」という用語は、通常はアセチル化が見られない分子上の2箇所でのアセチル化を示す。シアル酸分子の修飾に関して使用する場合、「ジアセチル化」は、一般にシアル酸でアセチル化される5位でのアセチル化に加えて2箇所でのアセチル化を示す。いくつかの実施形態では、シアル酸分子のジアセチル化は、7位、8位、9位のうちの2箇所でのアセチル化を含む。(図2参照。)
グリカン:当該技術分野において周知のように、かつ本明細書で使用する場合、「グリカン」とは糖である。グリカンは、糖残基のモノマーまたはポリマーであってもよいが、一般に少なくとも3つの糖を含み得るものであり、直鎖であっても分岐鎖であってもよい。グリカンには、天然の糖残基(ブドウ糖、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルノイラミン酸、ガラクトース、マンノース、フコース、ヘキソース、アラビノース、リボース、キシロースなど)および/または修飾糖(2’−フルオロリボース、2’−デオキシリボース、ホスホマンノース、6’スルホN−アセチルグルコサミンなど)を含むこともある。「グリカン」という用語は、糖残基のホモポリマーおよびヘテロポリマーを含む。「グリカン」という用語はまた、(糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどの)複合糖質のグリカン成分も包含する。この用語はまた、複合糖質から切断されたか、そうでなければ放出されたグリカンをはじめとする、遊離グリカンも包含する。
グリカン調製物:「グリカン調製物」という用語は、本明細書で使用する場合、特定の製造方法で得られる一組のグリカンを示す。いくつかの実施形態では、「グリカン調製物」は、糖タンパク質調製物(下記の糖タンパク質調製物の定義を参照のこと)から得られる一組のグリカンを示す。特定の実施形態では、グリカン調製物はシアリダーゼ耐性グリカンを含む。
複合糖質:「複合糖質」という用語は、本明細書で使用する場合、少なくとも1つの糖部分が、少なくとも1つの他の部分に共有結合されたあらゆる分子を包含する。この用語は、たとえば、N−結合型糖タンパク質、O−結合型糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどをはじめとする、共有結合付加された糖部分を有するあらゆる生体分子を明確に包含する。
糖型:「糖型」という用語は、本明細書では、複合糖質の特定の形態を示すものとして用いられる。すなわち、複合糖質の一部である同じ骨格部分(ポリペプチド、脂質など)が、異なるグリカンまたは一組のグリカンに結合できる可能性を持つ場合、複合糖質の異なる形態(すなわち、骨格が特定の一組のグリカンに結合している)それぞれを「糖型」と呼ぶ。
糖脂質:「糖脂質」という用語は、本明細書で使用する場合、1つ以上の共有結合した糖部分(すなわちグリカン)を含む脂質を示す。糖部分は、単糖、二糖、オリゴ糖および/または多糖の形であってもよい。糖部分は、糖残基の単一の非分岐鎖を含むものであってもよいし、1つ以上の分岐鎖で構成されるものであってもよい。特定の実施形態では、糖部分が、硫酸基および/またはリン酸基を含むものであってもよい。特定の実施形態では、糖タンパク質がO−結合型糖部分を含有する。特定の実施形態では、糖タンパク質がN−結合型糖部分を含有する。
糖タンパク質:本明細書で使用する場合、「糖タンパク質」という用語は、1つ以上の糖部分(すなわちグリカン)に共有結合されたペプチド骨格を有するタンパク質を示す。当業者であれば理解できるように、ペプチド骨格は一般に、アミノ酸残基の直鎖を含む。特定の実施形態では、ペプチド骨格が、膜貫通部分と細胞外部分とを含むように細胞膜にまでおよぶ。特定の実施形態では、細胞膜にまでおよぶ糖タンパク質のペプチド骨格が、細胞内部分、膜貫通部分および細胞外部分を含む。特定の実施形態では、本開示の方法は、プロテアーゼで細胞表面糖タンパク質を切断し、糖タンパク質の細胞外部分またはその一部を放出させることを含み、当該曝露では細胞膜を実質的に破壊しない。糖部分は、単糖、二糖、オリゴ糖および/または多糖の形であってもよい。糖部分は、糖残基の単一の非分岐鎖を含むものであってもよいし、1つ以上の分岐鎖を含むものであってもよい。特定の実施形態では、糖部分は、硫酸基および/またはリン酸基を含むものであってもよい。上記の他にまたは上記に加えて、糖部分は、アセチル、グリコリル、プロピルまたは他のアルキル修飾を含むものであってもよい。上記の他にあるいは上記に加えて、糖部分はジアセチル化によって修飾されてもよい。特定の実施形態では、糖タンパク質がO−結合型糖部分を有する。特定の実施形態では、糖タンパク質がN−結合型糖部分を有する。特定の実施形態では、本明細書に開示の方法が、細胞表面糖タンパク質、細胞表面糖タンパク質の遊離フラグメント(糖ペプチドなど)、細胞表面糖タンパク質に結合した細胞表面グリカン、細胞表面糖タンパク質のペプチド骨格、このような糖タンパク質、グリカンおよび/またはペプチド骨格のフラグメント、およびこれらの組み合わせのうちのいずれかまたはすべてを分析するステップを含む。
糖タンパク質調製物:「糖タンパク質調製物」とは、この用語を本明細書で使用する場合、各々が少なくとも1つのグリコシル化部と共有結合した少なくとも1つのグリカンと特定のアミノ酸配列(このアミノ酸配列は少なくとも1つのグリコシル化部位を含む)を有するポリペプチドを含む個々の糖タンパク質分子の組を示す。糖タンパク質調製物中の特定の糖タンパク質の個々の分子は一般に、同じアミノ酸配列を有するが、少なくとも1つのグリコシル化部位の占有率および/または少なくとも1つのグリコシル化部位に結合されたグリカンのアイデンティティが異なっていてもよい。すなわち、糖タンパク質調製物は、特定の糖タンパク質の糖型を1つだけ含むものであってもよいが、より一般には複数の糖型を含む。同じ糖タンパク質の異なる調製物同士で、存在する糖型のアイデンティティが異なる(1つの調製物に存在する糖型が他の糖型には存在しなくてもよい)および/または異なる糖型の相対量が異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、本発明は、同一の糖タンパク質(すなわち、アミノ酸配列が同一である)の異なる調製物を分析するための方法および試薬を提供するものである。いくつかの実施形態では、本発明は、アミノ酸配列の同一性が、少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれより大きい、2つの(またはそれより多くの)糖タンパク質の調製物を分析するための方法および試薬を提供するものである。
グリコシダーゼ:「グリコシダーゼ」という用語は、本明細書で使用する場合、グリカンにおける連続した糖と糖との間または糖と骨格部分との間(糖と糖タンパク質のペプチド骨格との間など)の共有結合を切断する作用剤を示す。いくつかの実施形態では、グリコシダーゼが酵素である。特定の実施形態では、グリコシダーゼが、1つ以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質(タンパク質酵素など)である。特定の実施形態では、グリコシダーゼが化学的な切断剤である。
グリコシル化パターン:本明細書で使用する場合、「グリコシル化パターン」という用語は、特定の試料に存在する一組のグリカン構造を示す。たとえば、特定の複合糖質(糖タンパク質など)または一組の複合糖質(一組の糖タンパク質など)がグリコシル化パターンを持つことになる。いくつかの実施形態では、細胞表面グリカンのグリコシル化パターンすなわち「表面グリコシル化パターン」に言及する。本明細書で使用する場合、「表面グリコシル化パターン」は、目的の単一の細胞表面糖タンパク質および/または糖脂質の細胞外ドメインに存在するグリカンのパターン(「またはグリコシル化パターン」)を示すこともある。それに加えてあるいはその代わりに、「表面グリコシル化パターン」が、複数の細胞表面糖タンパク質および/または糖脂質の細胞外ドメインに存在するグリカンのパターン(または「グリコシル化パターン」)を示すこともある。特定の実施形態では、「表面グリコシル化パターン(pattnern)」とは、細胞表面糖タンパク質および/または糖脂質の相補体全体に存在するグリカンのパターン(または「グリコシル化パターン」)を説明するものである。文脈に応じて、「表面グリコシル化パターン」が、複数の細胞表面糖タンパク質および/または糖脂質のグリコシル化パターンを示すことは、当業者であれば容易に理解できよう。グリコシル化パターンは、たとえば、グリカンのアイデンティティ、個々のグリカンまたは特定タイプのグリカンの量(絶対量または相対量)、グリコシル化部位の占有度、グリカンの修飾(シアリル化、多アセチル化されたシアリル化、リン酸化、硫酸化など)など、あるいはこれらのパラメータの組み合わせによって特性決定可能なものである。
多アセチル化:本明細書で使用する場合、「多アセチル化」という用語は、通常はアセチル化が見られない分子上の2箇所以上でのアセチル化を示す。シアル酸分子の修飾に関して使用する場合、「多アセチル化」は、一般にシアル酸でアセチル化される5位でのアセチル化に加えて2箇所以上でのアセチル化を示す。いくつかの実施形態では、シアル酸分子の多アセチル化は、7位、8位、9位のうちの2箇所以上でのアセチル化を含む。(図2参照。)
N−グリカン:「N−グリカン」という用語は、本明細書で使用する場合、複合糖質から放出されたが、それまでは窒素結合によって複合糖質に結合されていた糖のポリマーを示す(下記のN−結合型グリカンの定義を参照のこと)。
N−結合型グリカン:「N−結合型グリカン」という用語は、本明細書で使用する場合、窒素リンケージを介して複合糖質にリンクしたグリカンを示す。種々雑多なN−結合型グリカンが存在するが、一般に共通のコアである五糖(Man)(GlcNAc)(GlcNAc)をベースにしている。
O−グリカン:「O−グリカン」という用語は、本明細書で使用する場合、複合糖質から放出されたが、以前は酸素リンケージ(下記のO−結合型グリカンに関する定義を参照のこと)を介して複合糖質にリンクしていた糖のポリマーを示す。
O−結合型グリカン:「O−結合型グリカン」という用語は、本明細書で使用する場合、酸素リンケージを介して複合糖質にリンクしたグリカンを示す。O−結合型グリカンは一般に、N−アセチル−d−ガラクトサミン(GalNAc)を介して糖タンパク質に結合されるか、N−アセチル−d−グルコサミン(GlcNAc)を介してl−セリン(Ser)またはl−トレオニン(Thr)のヒドロキシル基に結合される。O−結合型グリカンの中には、アセチル化および硫酸化などの修飾を有するものもある。場合によっては、O−結合型グリカンは、フコースを介して糖タンパク質に結合されるか、マンノースを介してL−セリン(Ser)またはL−トレオニン(Thr)のヒドロキシル基に結合される。
ホスフェート:本明細書で使用する場合、「ホスフェート」という用語は、本明細書ではPO 基(自由溶液中)またはPO基(化合物の一部として)を示すものとして用いられる。化学名の一部として、「ホスフェート」という用語は、ホスフェート基を付加して修飾した化学物質を示す。
リン酸化(された):本明細書で使用する場合、「リン酸化(された)」という表現は、ホスフェート基の共有付加によって修飾されたことを意味する。たとえば、リン酸化グリカンは、1種類以上のリン酸化基の共有付加によって修飾されたグリカンである。リン酸化グリカンは、さらに追加で修飾を含むものであってもよいし、含まなくてもよい。
リン酸化:本明細書で使用する場合、「リン酸化」という用語は、分子(グリカンなど)に1つ以上のリン酸基を共有結合するプロセスを示す。
プロテアーゼ:「プロテアーゼ」という用語は、本明細書で使用する場合、ポリペプチド鎖における連続したアミノ酸の間にあるペプチド結合を切断する作用剤を示す。いくつかの実施形態では、プロテアーゼが酵素(すなわちタンパク質分解酵素)である。特定の実施形態では、プロテアーゼが、1つ以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質(タンパク質酵素など)である。特定の実施形態では、プロテアーゼが化学的な切断剤である。
タンパク質:通常、「タンパク質」とは、ポリペプチド(すなわちペプチド結合によって互いに結合された少なくとも2つの連続したアミノ酸)である。タンパク質は、アミノ酸以外の部分を含むものであってもよい(糖タンパク質であってもよい)および/または加工または修飾されたものであってもよい。細胞(シグナル配列の有無を問わない)によって産生されれば「タンパク質」が完全なポリペプチド鎖あるいはその機能的部分であってもよいことは、当業者であれば理解できよう。また、タンパク質には、たとえば1つ以上のジスルフィド結合で結合されるか、他の手段で会合された2つ以上のポリペプチド鎖が含まれる場合もあることは、当業者であれば理解できよう。
シアル酸:「シアル酸」という用語は、本明細書で使用する場合、9炭素の単糖であるノイラミン酸のN−置換誘導体またはO−置換誘導体の総称である。ノイラミン酸のアミノ基には一般に、シアル酸のアセチル基またはグリコリル基を運搬する。シアル酸のヒドロキシル置換基は、アセチル化、メチル化、硫酸化、リン酸化によって修飾されていてもよい。優位なシアル酸にN−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)がある。シアル酸はグリカンに負電荷を与えるが、これはカルボキシル基が生理学的pHでプロトンを解離するためである。脱プロトン化したシアル酸の例を以下に示す。
Figure 2012513030
シアリダーゼ:本明細書で使用する場合、「シアリダーゼ」という用語(「sialydase」とも綴られる)は、グリカンからシアル酸残基を切断する作用剤を示す。いくつかの実施形態では、シアリダーゼは酵素である。特定の実施形態では、シアリダーゼは、1種類以上のポリペプチド鎖を含むタンパク質(タンパク質酵素など)である。特定の実施形態では、シアリダーゼは化学的切断剤である。このような実施形態のいくつかでは、シアリダーゼは弱酸である。
シアリダーゼ耐性:本明細書で使用する場合、「シアリダーゼ耐性」という用語は、グリカンを示すのに用いる場合、本明細書で定義するようなシアリダーゼ処理による切断に対して実質的に耐性である特徴を説明する。たとえば、シアリダーゼ耐性であるグリカンには、シアリダーゼ修飾がない場合もある。上記に加えてあるいは上記の他に、シアリダーゼ耐性グリカンは、シアリダーゼ処理では実質的に切断できない修飾を含むことがある。このような修飾の例として、硫酸化、リン酸化および/または多アセチル化シアリル化があげられる。本明細書で使用する場合、「シアリダーゼ耐性」グリカンは、シアリダーゼ処理では実質的に切断できないシアル酸修飾と他の修飾の両方を含有するグリカンを包含する。たとえば、シアル酸修飾とリン酸化の両方を有するグリカン分子が、シアリダーゼ耐性である。
シアリダーゼ処理:本明細書で使用する場合、「シアリダーゼ処理」は、作用剤がシアル酸残基のリンケージに対してかなりの割合で切断を可能にする適切な条件下での処理を示す。いくつかの実施形態では、シアリダーゼ処理によって、グリカンなどの分子からシアル酸が放出される。いくつかの実施形態では、作用剤が、シアリダーゼポリペプチドなどの酵素ポリペプチドである。いくつかの実施形態では、作用剤が弱酸または弱酸の組み合わせなどの化学的作用剤である。いくつかの実施形態では、シアリダーゼ活性を有する作用剤の組み合わせを、シアリダーゼ処理で使用する。したがって、シアリダーゼ処理グリカン調製物などの「シアリダーゼ処理」試料は、シアル酸残基のリンケージに対してかなりの割合で切断を可能にする条件下での作用剤での処理の対象となる。
実質的に:本明細書で使用する場合、「実質的に」という表現は、目的の特徴または特性の提示された程度全体またはほぼ全体あるいは度合いの定性的な条件を示す。生物学的現象および化学的現象が、完了に至るおよび/または完全な状態まで進行あるいは絶対的な結果が実現または回避されることは、あるとしてもめったにない点を、生物学分野の当業者であれば理解できよう。よって、「実質的に」という表現は、本明細書では、多くの生物学的現象および化学的現象に固有の完全性を欠く可能性について用いるものである。具体例をあげると、処理が「実質的に」細胞膜を破壊しないと表現した場合、これは、たとえば細胞内糖タンパク質または糖ペプチドが細胞から放出されないように処理時と処理後に細胞膜の全部またはほとんどが無傷のまま残る旨を示すことを意図したものである。特定の実施形態では、破壊されない細胞膜に対して「実質的に」という表現を適用する場合、特定の処理をほどこした細胞のうち15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%またはこれよりも少ない細胞に測定可能な細胞膜の破壊が認められる状態を示す。特定の実施形態では、破壊されない細胞膜に「実質的に」という表現を適用する場合、特定の処理をほどこした細胞に測定可能な細胞膜の破壊がまったく認められない状態を示す。
スルフェート:本明細書で使用する場合、「スルフェート」という用語は、本明細書ではSO 基(自由溶液中)またはSO基(化合物の一部として)を示すものとして用いられ、「sulphate」とも綴られる。化学名の一部として、「スルフェート」という用語は、スルフェート基を付加して修飾した化学物質を示す。
硫酸化(された):本明細書で使用する場合、「硫酸化(された)」という表現は、スルフェート基の共有付加によって修飾されたことを意味し、「sulphated」とも綴られる。たとえば、硫酸化グリカンは、1種類以上のスルフェート基の共有付加によって修飾されたグリカンである。硫酸化グリカンは、さらに追加で修飾を含むものであってもよいし、含まなくてもよい。
硫酸化:本明細書で使用する場合、「硫酸化」という用語は、分子(グリカンなど)に対して1つ以上のスルフェート基を共有結合的に付加するプロセスを示す。
異常修飾:本明細書で使用する場合、「異常修飾」という用語は、グリカンに対する修飾に関して使用する場合、シアル酸への修飾のないシアリル化以外、5位でのアセチル化以外の修飾を示す。異常修飾の非限定的な例として、リン酸化、硫酸化、多アセチル化シアリル化があげられる。たとえば、マンノース残基はC−6位でリン酸化可能であり、N−アセチルグルコサミン残基はC−6位で硫酸化可能であり、シアル酸残基は、通常の5位でのアセチル化に加えて、7位、8位、9位のうちの2箇所でアセチル化可能であるといった具合である。
特定の好ましい実施形態の詳細な説明
本明細書で説明するように、本開示は、混合物中の異常修飾グリカンを富化、同定、検出および/または定量化する方法に関するものである。通常、異常修飾グリカンは、グリカンに電荷を与えるシアリル化以外の修飾を含む。いくつかの実施形態では、電荷が負電荷である。異常修飾の例として、リン酸化、硫酸化、多アセチル化シアリル化またはこれらの組み合わせがあげられる。多くの実施形態において、方法が、シアル酸の放出元となったグリカン調製物を提供し、このグリカン調製物に対して、電荷質量比に基づいてグリカンを分離する分離技法を適用し、少なくとも1つの分離されたグリカンを定量化すること含む。多くの実施形態では、このような定量化は、少なくとも1つの定量化標準の使用を伴う。
I.シアル酸の放出元であるグリカン調製物
通常、グリカン調製物は、グリカン供給源から材料を得て、この材料を処理することで提供される。「グリカン調製物」という用語は、本明細書で使用する場合、一般にグリカンを放出させる処理をした後のグリカンを含む材料を示す。多くの実施形態では、グリカン調製物に、当該調製物からシアル酸を放出するための処理および/またはプロセスがほどこされる。いくつかの実施形態では、シアル酸を放出するための処理が、本明細書で説明するようなシアリダーゼ処理を含む。同じくシアリダーゼ処理したグリカン調製物を、本明細書では「シアリダーゼ処理グリカン調製物」と呼ぶ。「シアリダーゼ処理グリカン調製物」という用語は、本明細書で使用する場合、記載の処理に加えてプロセシングがなされた材料を包含する。
グリカンは、後述するような多岐にわたる供給源から入手可能なものである。得られる方法に関する一層よい理解を容易にするために、グリカンおよび複合糖質について説明する。
A.グリカンおよび複合糖質
通常、グリカンとは、いくつかの実施形態では、糖タンパク質と共有結合的に結合した炭水化物部分を示す。炭水化物部分(オリゴ糖鎖など)は、小胞体およびゴルジ体においてN−リンケージまたはO−リンケージのいずれかを介して糖タンパク質とリンクしている。本開示は、グリカン(糖タンパク質におけるポリペプチドにコンジュゲートしたグリカンなど)の異常修飾(リン酸化など)を判断するのに利点があるという認識を包含する。本明細書に記載の方法を使用すれば、どのようなグリカンの異常修飾(グリカン調製物内の量、修飾の化学的性質など)でも分析できる。上記の他にあるいは上記に加えて、方法を用いて異常修飾グリカン種を富化してもよい。
1.N−結合型グリカン
一般に、N−結合型オリゴ糖鎖は小胞体の管腔で糖タンパク質に付加される(Alberts et al., Molecular Biology of the Cell, 1994(本明細書に援用する)を参照のこと)。炭水化物部分は、Asn−X−Ser/Thrの標的コンセンサス配列内に含有されるアスパラギン残基の側鎖のアミノ基に付加され、ここで、Xはプロリン以外のどのようなアミノ酸であってもよい。はじめのオリゴ糖鎖は通常、小胞体における特定のグリコシダーゼ酵素によって切り詰められ、2つのN−アセチルグルコサミンと3つのマンノース残基とからなる短く分枝したコアオリゴ糖になる。
N−結合型グリカンおよびN−グリカンは、「高マンノース型」、「ハイブリッド型」、「複合型」と呼ばれる3つの異なる群に分けることができ、3つの群のすべてに共通の五糖コア(Manp(α1,6)−(Manp(α1,3))−Manp(β1,4)−GlcpNAc(β1,4)−GlcpNAc(β1,N)−Asn)がある。コアの修飾としては、たとえば、さらにグリコシル化して二分GlcNAcを提供する、一番内側のGlcNAcにフコシル残基を結合する、シアル酸(Neu)残基でキャッピングすることがあげられる。N−結合型グリカン構造の例を図1に示す。図1に示すように、N−結合型グリカンの構造的なばらつきの大半が、図1に示すN−結合型グリカンの左側の(最大)4つのアンテナに関して生じている。N−結合型グリカンは一般に、ペプチドの成分(すなわち糖ペプチド)およびタンパク質の成分(すなわち糖タンパク質)として見られる。
小胞体での初期プロセシング後、糖タンパク質はゴルジ体に輸送され、そこでさらにプロセシングが起こることもある。切り詰められたN−結合型オリゴ糖鎖にいくつかのマンノース残基を付加して修飾すると、「高マンノースオリゴ糖」が得られる。上記の他にあるいは上記に加えて、N−アセチルグルコサミンの1つ以上の単糖ユニットをコアマンノースサブユニットに付加して、「複合オリゴ糖」を形成してもよい。ガラクトースをN−アセチルグルコサミンサブユニットに付加し、シアル酸サブユニットをガラクトースサブユニットに付加すれば、シアル酸、ガラクトースまたはN−アセチルグルコサミン残基のいずれかで終端する鎖が得られる。フコース残基をコアオリゴ糖のN−アセチルグルコサミン残基に付加してもよい。これらの付加は各々、特定のグリコシルトランスフェラーゼに触媒される。
「ハイブリッド型グリカン」は、高マンノース型グリカンと複合型グリカンの両方の特徴を合わせ持つ。たとえば、ハイブリッド型グリカンのひとつの枝が、マンノース残基を主にまたは排他的に含み、別の枝がN−アセチルグルコサミン、シアル酸、ガラクトースおよび/またはフコースを含むものであってもよい。
N−結合型グリカンは、多岐にわたる細胞プロセスに関与している。たとえば、N−結合型グリカンは、真核細胞での適切なタンパク質フォールディングの一助をなす。小胞体のシャペロンタンパク質(カルネキシンおよびカルレティキュリンなど)がN−結合型グリカンコアに存在する3つのグルコース残基に結合する。シャペロンタンパク質は一般に、グリカンが結合されるタンパク質のフォールディングを助ける。適切なフォールディングの後、3つのグルコース残基を除去し、N−結合型グリカンをさらにプロセシング反応に供することが可能である。タンパク質が正しく折り畳まれない場合、3つのグルコース残基を再度結合させ、タンパク質がシャペロンと再会合できるようにする。タンパク質が適切な構造になるまで、このサイクルを数回繰り返してもよい。適切な折り畳みに繰り返し失敗したら、そのタンパク質は通常、小胞体から排泄されて細胞質プロテアーゼによって分解される。
上記の他にあるいは上記に加えて、N−結合型グリカンは、立体効果によるタンパク質フォールディングの一助となる。たとえば、近くにあるグリカンの大きさがゆえに、ペプチドのシステイン残基が一時的に他のシステイン残基との間でジスルフィド結合を形成できなくなることがある。このため、N−結合型グリカンが存在することで、どのシステイン残基がジスルフィド結合を形成するかを細胞で制御することが可能になる。
N−結合型グリカンが、細胞間相互作用に関与することもできる。たとえば、腫瘍細胞は異常なN−結合型グリカン構造を生成することが多く、これをナチュラルキラー細胞のCD337受容体では当該細胞が癌性である徴候として認識することが可能である。
N−結合型グリカンは、リソソームに対する分解性リソソーム酵素の標的に関与することもできる。特に、N−結合型グリカンをマンノース−6−ホスフェート残基で修飾すると、このグリカンが結合されるタンパク質をリソソームに標的すべきシグナルとしての役目を果たすことができる。
2.O−結合型グリカン
ポリペプチド鎖の特定のセリンまたはトレオニン残基にO−結合型オリゴ糖鎖を加える。多くの場合はN−アセチルガラクトサミンである第1の糖残基の移動は、一般に小胞体で開始されてゴルジ体で完了する。O−結合型オリゴ糖の残基を一度にひとつずつ加え、各残基の付加を特定の酵素で触媒する。N−結合型グリコシル化とは対照的に、O−結合型グリコシル化のコンセンサスアミノ酸配列はあまりうまく画定されない。
3.複合糖質
本開示の技術を適用すれば、対象となるどのような複合糖質(以下、「標的複合糖質」)の異常修飾グリカンでも評価および/または富化できる。「対象となる複合糖質」、「対象となる糖タンパク質」、「標的複合糖質」、「標的糖タンパク質」などといった言い回しは、グリカンが評価される特定の複合糖質が常に1つあることを示唆するものではない。特に、特定の実施形態では、提供される方法を用いて、特定の複合糖質を意図することなく供給源材料中に存在する複合糖質からグリカンを評価する。
特定の実施形態では、対象となる特定の複合糖質上のグリカンを評価する。いくつかの実施形態では、対象となる複合糖質が糖タンパク質(以下、「標的糖タンパク質」)である。
いくつかの実施形態では、標的複合糖質が、細胞によって自然に産生される。いくつかの実施形態では、標的複合糖質が、細胞によって自然に産生されるのではなく、細胞を操作してこれを産生する。いくつかの実施形態では、標的複合糖質が細胞によって自然に産生されるが、細胞を操作してこれを高濃度および/またはあらかじめ定められた条件下(誘導剤の存在下など)で産生する。
多くの実施形態では、動物(ヒトといった哺乳動物など)に投与した際に標的複合糖質が治療活性を有する。たとえば、特にエリスロポエチン、インターフェロン、凝結因子、コロニー刺激因子、多岐にわたる抗体、特定の酵素はいずれも、現在、操作された細胞系でバイオ製剤として製造されている糖タンパク質である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載したようにバイオ製剤(たとえば、上述したものなど)のグリカンをアッセイする。治療および他の目的で工業的に(製造バイオリアクタなど)発現可能な他の商業的に関連する複合糖質が、当業者であれば自明であろう。本開示は、このような商業的に関連した複合糖質(糖タンパク質など)のグリカンを評価するための方法を提供するものである。
代表的な市販の糖タンパク質産物としては、たとえば、表1に列挙したものがあげられる。
Figure 2012513030
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当業者であれば明らかなように、このような治療用糖タンパク質のグリコシル化パターン(たとえば、本明細書で説明するものなどの修飾を含む)は、潜在的にその治療特性に影響し得る。いくつかの実施形態では、治療用糖タンパク質のグリカンが、糖タンパク質が産生されるすなわち、さまざまな産生段階にあると評価される。このような評価によって、品質制御が容易になることもある。
本開示が、先に列挙した複合糖質あるいは、特に治療用複合糖質あるいは、発現(および/または発現の度合いとタイミング)を細胞で操作した複合糖質でのグリカンの評価に限定されるものではないことは、当業者であれば自明であろう。これらは本開示のある特定の実施形態を表すが、この開示の原理がどのような標的複合糖質にでも適用できることは、当業者であれば自明であろう。
B.グリカンおよび/または複合糖質の供給源
グリカン調製物を得るために処理可能な材料は、通常、グリカンが分析および/または富化される複合糖質(糖タンパク質など)を含む。材料は、治療用製剤(エリスロポエチン、インスリン、ヒト成長ホルモンなど)、市販の生物製品(表1にあげたものなど)、バイオリアクタ、生物学的試料を含むがこれに限定されるものではない、多岐にわたる供給源から得られる。材料を1つの供給源から入手してもよいし、複数の供給源からプールしてもよい。本明細書で使用する場合、「生物学的試料」という用語は、組織培養、ヒトまたは動物の組織、植物、果実、野菜、単細胞微生物(細菌および酵母など)、多細胞生物、およびこれらの組み合わせを含むがこれに限定されるものではない、何らかの生きた細胞または生物体から得られる、排泄される、あるいは分泌される、あらゆる固体試料または流体試料(体液など)を示す。たとえば、生物学的試料は、血液、血漿、血清、尿、胆汁、精液、脳脊髄液、房水または硝子体液などから得られる生物流体あるいは、分泌液、浸出液、滲出液(膿瘍または他の感染部位または炎症部位から得られる流体など)または関節(正常な関節あるいは、リウマチ性関節炎、変形性関節炎、痛風性関節炎または敗血症性関節炎などの疾患に羅患した関節)から得られる流体であってもよい。また、生物学的試料は、臓器または組織(生検試料または剖検標本を含む)から得られる試料などであってもよく、細胞(一次細胞であるか培養細胞であるかを問わない)、細胞または組織または臓器で調節した培地、組織培養を含むものであってもよい。
グリカン調製物を得るために処理可能な供給源材料は、どのような機械、人間、実体から受け取るものであってもよい。いくつかの実施形態では、機械によって供給源材料を受け取ってもよく、次いでこれを糖タンパク質調製物の1種類以上の試験、プロセスまたは精製に供してもよい。いくつかの実施形態では、供給源材料を人間が受け取ってもよい。いくつかの実施形態では、供給源材料を外部の実体から受け取ってもよい。いくつかの実施形態では、他者または他の事業のためのキャラクタリゼーションサービスを実施している人間または事業から供給源材料を受け取ってもよい。たとえば、供給源材料(特性決定対象となるグリカンを含む)を他の事業または研究室から受け取る事業を営んでもよい。グリカン調製物を得るための処理に適した供給源材料を、どのように前処理してもよい。たとえば、供給源材料を前処理して、1種類以上のグリコフォームを単離してもよい。
特定の実施形態では、供給源材料は、細胞によって産生される複合糖質(糖タンパク質など)を含む。糖タンパク質は、多岐にわたる細胞および/または細胞系のいずれにおいても産生可能である。特に、そのタンパク質のうち少なくともいくつかをグリコシル化する細胞を使用して、このようなグリコシル化を発生させることのできる条件下で増殖させることが可能である。好適な細胞としては、哺乳類の細胞、鳥の細胞、魚の細胞、昆虫の細胞、植物の細胞、真菌の細胞、細菌の細胞、ハイブリッド細胞があげられるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、細胞を操作(遺伝的におよび/または化学的になど)して、ヒトの細胞に一層よく似ている1つ以上のグリコシル化の特徴を持たせるようにする。
本開示に基づいて使用可能な哺乳類の細胞の例としては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、メイディンダービーイヌ腎臓(MDCK)細胞、ベビーハムスター腎臓(BHK細胞)、NS0細胞、MCF−7細胞、MDA−MB−438細胞、U87細胞、A172細胞、HL60細胞、A549細胞、SP10細胞、DOX細胞、DG44細胞、HEK 293細胞、SHSY5Y、ジャーカット細胞、BCP−1細胞、COS細胞、Vero細胞、GH3細胞、9L細胞、3T3細胞、MC3T3細胞、C3H−10T1/2細胞、NIH−3T3細胞、C6/36細胞があげられるが、これに限定されるものではない。
本開示に基づいて使用可能な魚の細胞系の例としては、ZF4細胞、AB9細胞、GAKS細胞、OLF−136細胞、CAEP細胞、CAF細胞、OLHE−131細胞、OLME−104細胞、ULF−23細胞、BRF41細胞、Hepa−E1細胞、Hepa−T1細胞、GEM−81細胞、GEM−199細胞、GEM−218細胞、GAKS細胞、D−11細胞、R1細胞、RTG−2細胞、RTO細胞、TPS細胞があげられるが、これに限定されるものではない。一層完全な一覧が、Fryer and Lannan,2005,“Three decades of fish cell culture:a current listing of cell lines derived from fishes,”J.Tissue Culture Methods,16:87〜94に記載されている。
本開示に基づいて使用可能な昆虫の細胞系の例としては、SFM細胞、Sf21細胞、Sf9細胞、Schneider細胞、S2細胞、T.ni細胞、SES−MaBr−1細胞、SES−MaBr−3細胞、NIAS−MB−25細胞、NIAS−MaBr−92細胞、FRI−SpIm−1229細胞、SES−MaBr−4細胞、NIAS−LeSe−11細胞、TUAT−SpLi−221細胞、NIAS−PX−64細胞、NIAS−MB−32細胞、NIAS−MaBr−93細胞、SES−MaBr−5細胞、BM−N細胞、NIAS−PX−58細胞、MBHL−2細胞、MBHL−3細胞があげられるが、これに限定されるものではない。
これは、包括的なものではなく本開示に基づいて使用できるさまざまな細胞の一例としての一覧であることは、当業者であれば分かるであろう。他の細胞を都合よく利用して標的糖タンパク質を産生してもよい。このような細胞は、培養中のものであってもよいし、組織、臓器または生物体の状態であってもよい。
本開示に基づいて用いられる目的のタンパク質を細胞または細胞系で発現させる目的で、多岐にわたる発現系およびベクターを使用できることは、当業者であれば自明であろう(Sambrook編,Molecular cloning:A Laboratory Manual,CSHL Press,2002などを参照のこと)。
また、1つ以上の細胞型または細胞系の増殖を支持できる複合培地および/または無血清培養液をはじめとする多岐にわたる細胞培養液のうちの任意のものを、本開示に基づいて使用してもよい。一般に、細胞培養液には、緩衝液、塩、エネルギ源、アミノ酸(天然アミノ酸、非天然アミノ酸など)、ビタミンおよび/または微量元素が含まれる。細胞培養液は、任意選択により、炭素源(天然糖、非天然糖など)、コファクター、脂質、糖、ヌクレオシド、動物由来の成分、加水分解物、ホルモン/成長因子、界面活性剤、指示薬、鉱物、特定酵素の活性化因子/阻害因子、有機物(グリコシラーゼを放出し、アポトーシスを誘導する酪酸によって、細胞の増殖率が落ちることがよくあり、これによってグリコシルトランスフェラーゼレベルが変化し、結果として一層成熟したグリコシル化につながることもあれば、細胞のエネルギが変化することもある;細胞内pHに影響するクロロキン;ベタインすなわち浸透圧保護剤;細胞内pHレベルを変化させ、グリコシルトランスフェラーゼ効率を変化させることのできるアンモニアなど)および/または小分子代謝物(CMP−シアル酸、グルコサミン、非天然糖誘導体など)などであるがこれに限定されるものではない、多岐にわたる他の成分を含むものであってもよい。本開示に基づいて使用するのに適した細胞培養液は、ATCC(Manassas、Va)などの多岐にわたる供給源から市販されている。
特定の実施形態では、以下の培地のうちの1つ以上を使用して、細胞を増殖させる。RPMI−1640培地、ダルベッコ変法イーグル培地、最小必須培地Eagle、F−12K培地、イスコフ改変ダルベッコ培地。当業者であれば理解できるであろうように、無血清および/またはペプトンを含まない既知培地を使用する場合、この培地は一般に、アミノ酸および微量元素が極めて濃縮されたものである(たとえば、Matherらに付与された米国特許第5,122,469号およびKeenらに付与された米国特許第5,633,162号を参照のこと)。
細胞培養液が違えば、培地で発現される糖タンパク質のグリコシル化パターンに影響することもある。たとえば、特定の細胞培養液を用いて、グリコシル化パターンの増えた糖タンパク質、グリコシル化パターンの減った糖タンパク質、あるいはグリコシル化の変化した(特定のグリカンが増加し、他のグリカンが減少するなど)糖タンパク質を産生させてもよい。当業者であれば、本開示の特定の方法でグリカンを分析する対象となる細胞の増殖に用いられる1種類以上の好適な細胞培養液を知っており、かつ選択できるであろう。
いくつかの実施形態では、回分培養、流加培養、灌流培養、静置浮遊(ローラボトル、T型フラスコ、マイクロキャリア、T150など)において、および/または振盪機で細胞を培養する。
本開示による少なくとも1種類の糖タンパク質(すなわち標的糖タンパク質)を産生する細胞を、多岐にわたる細胞培養条件のうちの任意の条件で増殖させることが可能である。
いくつかの実施形態では、標的糖タンパク質が所望のグリコシル化パターンを呈すると想定されるような条件下で細胞を培養する。いくつかの実施形態では、さらに望ましいグリコシル化パターンの標的糖タンパク質を産生する目的で、1以上の細胞培養条件を制御および/または改変する。このような制御または改変可能な細胞培養条件としては、pH、CO濃度、酸素濃度、培養攪拌速度、酸化還元条件、培養温度、細胞密度、種培養密度、培養時間、反応器の設計、スパージ速度および/またはモル浸透圧濃度があげられるが、これに限定されるものではない。
必要があれば、多岐にわたる方法のうちのいずれかを用いて、細胞を細胞培養液から単離することが可能である。特定の実施形態では、浮遊培養で細胞を増殖させる。このような実施形態では、遠心分離と洗浄(リン酸緩衝食塩水などの生理学的に好適な洗浄溶液を用いるなど)からなる1以上のサイクルで、細胞を細胞培養液から精製してもよい。
特定の実施形態では、付着培養で細胞を増殖させる。このような実施形態では、まずは細胞を培養表面から放出することで、細胞を細胞培養液から精製してもよい。たとえば、細胞をEDTAに曝露すれば、培養表面から放出させることができる。当業者であれば、付着細胞を培養表面から放出するのに使用可能な他の好適な作用剤を知っているであろう。放出後、遠心分離と洗浄(リン酸緩衝食塩水などの生理学的に好適な洗浄溶液を用いるなど)からなる1以上のサイクルで細胞を精製してもよい。浮遊培養で増殖させた細胞の場合と同様に、不必要に細胞を破壊してしまわないようにするために、細胞を遠心処理する力が強くなりすぎないように注意が払われてもよい。
C.処理
次に、複合糖質を含む供給源材料を後述のようにデュアル処理する。「シアル酸の放出元であるグリカン調製物」とは、本明細書で使用する場合、デュアル処理および任意の別のプロセシング(たとえば、別の処理、保管、画分、凍結、解凍など)後に得られる調製物を示す。
グリカン調製物の調製に用いられるデュアル処理は通常、(1)グリカンを複合糖質から放出するための処理、(2)シアル酸を放出するための処理を含む。処理は、同時および/または重複処理を含めて互いにどのような順序でも実施可能なものである。たとえば、グリカンを複合糖質から放出した後、処理してシアル酸を(シアリダーゼでなど)放出させることが可能である。いくつかの実施形態では、複合糖質を処理してシアル酸を(シアリダーゼでなど)放出させた後、グリカンを複合糖質から放出させる。いくつかの実施形態では、デュアル処理の全工程の少なくとも一部において複合糖質に両方の処理を同時にほどこす。
1.グリカンの放出
グリカンは、本明細書に記載の方法など多岐にわたる方法のどれを用いても複合糖質から放出される。
特定の実施形態では、複合糖質を(詳細については後述するように、プロテアーゼでの処理によるなどして)細胞から遊離させた後で、1つ以上のグリカン構造を複合糖質から切断する。特定の実施形態では、細胞から遊離していない複合糖質(細胞表面の複合糖質など)から1つ以上のグリカン構造を切断する。
特定の実施形態では、グリカン構造を認識および切断する酵素または複数の酵素を用いて、1つ以上のグリカン構造を放出させる。グリカン構造を複合糖質から切断する多岐にわたるグリコシド酵素および他の酵素のうちのいずれを本開示に基づいて使用してもよい。このような酵素のいくつかの例が、R.A.O’Neill,Enzymatic release of oligosaccharides from glycoproteins for chromatographic and electrophoretic analysis,J.Chromatogr.A 720,201〜215.1996;S.Prime,et al.,Oligosaccharide sequencing based on exo− and endo−glycosidase digestion and liquid chromatographic analysis of the products,J.Chromatogr.A 720,263〜274,1996(各々その内容全体を本明細書に援用する)に概説されている。特定の実施形態では、酵素PNGase F(ペプチドN−グリコシダーゼF)を用いてグリカンを糖ペプチドまたは糖タンパク質から除去する。PNGase Fは、N−結合型糖タンパク質からの高マンノース型、ハイブリッド型および複合型オリゴ糖の一番内側のGlcNAcとアスパラギン残基との間のアミド結合を切断するアミダーゼである。それに加えてあるいはその代わりに、特定の実施形態では、酵素PNGase A、O−グリカナーゼおよび/またはEndo−Hを使用してグリカンを除去する。
切断酵素にとっての糖タンパク質中のグリコシル化部位の到達性を改善するために、いくつかの糖タンパク質がタンパク質変性工程を経てもよい。一般に、タンパク質の変性は洗浄剤(SDSなど)および/またはジスルフィド還元剤(β−メルカプトエタノールなど)を用いて達成されるが、本開示に基づいて用いられる糖タンパク質を変性させる方法は、このような作用剤を使うことに限定されるものではない。たとえば、グリカン構造の切断に好適な酵素が切断部位に到達できるように糖タンパク質を変性させるには、高温への曝露でも十分な場合もある。特定の実施形態では、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、約100℃またはこれよりも高い温度で、糖タンパク質を変性させるのに十分な時間だけ糖タンパク質をインキュベートして、糖タンパク質を変性させる。
特定の実施形態では、洗浄剤、ジスルフィド還元剤、高温および/または他の作用剤または反応条件の組み合わせを用いて糖タンパク質を変性させる。当業者であれば、糖タンパク質を変性させるのに十分な好適な条件、インキュベーション時間などが分かるであろう。免疫グロブリンG(IgG)の保存されたFc部位に位置するオリゴ糖はPNGase Fによって容易に切断される点に注意されたい。このため、IgG分子を使う場合でも、この酵素にはタンパク質変性ステップは一般に必要ない。また、PNGase Fは、希水酸化アンモニウム溶液でオリゴ糖を除去することもでき、2.5Mの尿素中37℃で24時間安定であり、5Mの尿素中でも依然としてその活性の40%を保持する。このため、PNGase Fには、特定の変性条件下で糖タンパク質からグリカンを切断できるという利点がある。
本開示に基づいてグリカン構造を複合糖質から切断するのに使用可能な他の好適な酵素としては、PNGase A、O−グリカナーゼおよび/またはEndo−Hがあげられるが、これに限定されるものではない。当業者であれば、グリカンを複合糖質から切断するための他の好適な酵素が分かるであろう。いくつかの実施形態では、複数の酵素を使用して、グリカン構造を複合糖質から切断する。いくつかの実施形態では、このような複数の切断酵素を同時に投与する。いくつかの実施形態では、このような複数の切断酵素を逐次的に投与する。
いくつかの実施形態では、酵素以外の作用剤を使用して、1つ以上のグリカン構造を複合糖質から切断する。いくつかの実施形態では、化学作用剤または複数の化学作用剤(ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、エンドグリコシダーゼ、トリフルオロメタンスルホン酸(trifluoromethasenulfonic acid)(TFMS)などの作用剤への曝露などおよび/またはβ−除去など)を使用して、グリカン構造を複合糖質から切断することができる。たとえば、化学ヒドラジンを採用して、グリカン構造をうまく切断できた実績がある。もうひとつの非限定的な例として、天然形態のN−結合型オリゴ糖とO−結合型オリゴ糖の両方にアルカリ放出にアンモニア−炭酸アンモニウム混合物を使用できることが示唆されている(Y.Huang,et al.,Microscale nonreductive release of O−linked glycans for subsequent analysis through MALDI mass spectrometry and capillary electrophoresis,Anal.Chem.73,6063−60,2001(その全体を本明細書に援用する)を参照のこと)。当業者であれば、本開示に基づいて使用可能な他の好適な化学作用剤が分かるであろう。場合によっては、化学作用剤を用いてグリカン構造を糖タンパク質から切断すると、タンパク質が切断されるだけでなく分解もされる。しかしながら、切断後に、グリカン構造を糖タンパク質のタンパク質成分から精製してから分析および/または特性決定をすることが多い。このような場合、化学作用剤での処理後にタンパク質成分が分解されても、本開示の実施に有害になることはない。場合によっては、タンパク質成分の分解が、切断されたグリカン構造を精製するプロセスの助けになることすらある。
2.シアル酸の放出
シアル酸の放出元となったグリカン調製物を提供することは通常、グリカン(放出または複合糖質との関連あるいはその両方)を含む組成物を、シアル酸残基の切断を可能にする条件下で、シアル酸残基を切断する1種類以上の作用剤に曝露することを含む。提供される方法に基づいて、グリカンからシアル酸残基を切断する多岐にわたる作用剤のいずれを用いてもよい。
いくつかの実施形態では、グリカン調製物からシアル酸を放出することが、シアリダーゼでの処理を含む。シアリダーゼ処理については、たとえば、シアリダーゼ活性を有する酵素ポリペプチド、化学物質(弱酸など)またはこれらの組み合わせを用いて達成してもよい。
いくつかの実施形態では、シアル酸のリンケージを切断できる(たとえば、シアル酸のグリコシド結合を加水分解可能、オリゴ−またはポリ(シアル)酸における(2→8)−α−シアロシルリンケージをエンド型加水分解可能および/またはN−アセチルノイラミン酸グリコシドにおけるα−シアリル基を排除可能)1種類以上の酵素ポリペプチドを用いてシアリダーゼ処理を達成する。このような酵素は一般に、シアリダーゼおよび/またはノイラミニダーゼとして知られる。一般に、特定のシアリダーゼ酵素は、特定種類のシアル酸リンケージを優先的に切断する。
使用するのに適した酵素ポリペプチドとしては、エキソ−α−シアリダーゼ(アセチルノイラミニルヒドロラーゼ、α−ノイラミニダーゼまたはアセチルノイラミニダーゼとしても知られる;E.C.3.2.1.18下で分類される酵素ポリペプチドを含む)、エンド−α−シアリダーゼ(ポリシアロシド2,8−α−シアロシルヒドロラーゼ、エンド−N−アシルノイラミニダーゼ、エンドノイラミニダーゼ、エンド−N−アセチルノイラミニダーゼ、ポリ(α−2,8−シアロシル)エンド−N−アセチルノイラミニダーゼ、ポリ(α−2,8−シアロシド)α−2,8−シアロシルヒドロラーゼまたはエンドシアリダーゼとしても知られる;E.C.3.2.1.129下で分類される酵素ポリペプチドを含む、およびアンヒドロシアリダーゼ(アンヒドロノイラミニダーゼ、シアル複合糖質N−アシルノイラミニルヒドロラーゼ(2,7−環化)またはシアリダーゼLとしても知られる)があげられるが、これに限定されるものではない。
シアリダーゼ酵素の非限定的な具体例として、シアリダーゼ1(リソソームシアリダーゼ、NEU1またはノイラミニダーゼ1としても知られる)、シアリダーゼ2(細胞質シアリダーゼ、NEU2またはノイラミニダーゼ2としても知られる)、シアリダーゼ3(膜シアリダーゼ、NEU3またはノイラミニダーゼ3としても知られる)、シアリダーゼ4(NEU4またはノイラミニダーゼ4としても知られる)、G9シアリダーゼ、ガングリオシドシアリダーゼ、ガングリオシド特異的シアリダーゼ、赤血球凝集素−ノイラミニダーゼタンパク質、マウス骨格筋シアリダーゼ、N−アセチルノイラミノシルグリコヒドラーゼ、N−アシルノイラミン酸グリコヒドラーゼ、SA85−1.1タンパク質、SA85−1.2タンパク質、SA85−1.3タンパク質、シアリダーゼA、シアリダーゼC、シアリダーゼS、trans−シアリダーゼがあげられる。
シアリダーゼ処理で用いるのに適した酵素ポリペプチドは、天然に生じる供給源、組換え操作した種などを含むがこれに限定されるものではない、多岐にわたる供給源から得られるものである。周知のおよび/または天然に生じるシアリダーゼ酵素の変異体を用いてもよい。多岐にわたる種(アルスロバクター・ニコチアナエ(Arthrobacter nicotianae)、アルスロバクター種(Arthrobacter sp.)、アルスロバクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)、バクテリオファージE、バクテリオファージK1E、バクテリオファージK1F、バクテリオファージPK1A、バクテリオファージPK1F、クロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)、クロストリジウム・ショウベイ(Clostridum chauvoei)、クロストリジウム・ソルデリー(Clostridum sordellii)、コリネバクテリウム・ジフテリエ(Corynebacterium diphtheriae)、コリネバクテリウム・ウルセランス(Corynebacterium ulcerans)、クラッソストレア・ヴァージニカ(Crassostrea virginica)、チャイニーズハムスター(Cricetulus griseus)、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)、エリジペロスリックス・ルジオパシエ(Erysipelothrix rhusiophatiae)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、マクロブデラ・デコラ(Macrobdella decora)、ミクロモナス・ビリディファシエンス(Micromonas viridifaciens)、ムンプスウイルス、ハツカネズミ(mus musculus)、ニューカッスル病ウイルス、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、ストレプトコッカス種(Streptococcus sp.)、腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)、パスツレラ・マルトシダ(Pasteurella multocida)、ストレプトコッカス種(Streptococcus sp.)、イノシシ(Sus scrofa)、腟トリコモナス(Trichomonas vaginalis)、トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi)、ビブリオ・コレラエ(Vibrio cholerae)を含むがこれに限定されるものではない)が、提供される方法によって産生可能および/または使用可能な酵素シアリダーゼを産生する。
従来技術において周知のように、周知ではないおよび/または酵素データベースに列挙されていない酵素(たとえば、いまだ特性決定されていない酵素など)であるが、シアル酸残基のリンケージを切断するものが、提供される方法および系によって使用するのに適していることもある。
酵素ポリペプチドを用いる処理に適切な条件は、特定の酵素ポリペプチドに応じて変動し得るものである。一般に、特定の時間をかけて、所望の量の切断を触媒するのに十分な濃度の酵素ポリペプチドの存在下、グリカン含有試料を酵素ポリペプチドに最適な温度またはその前後でインキュベートする。たとえば、インキュベーションによっては、約37℃で実施できるものがある。インキュベーション時間は、約5分間、10分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、55分間、1時間、1時間10分間、1時間20分間、1時間30分間、1時間40分間、1時間50分間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、4.5時間、5時間、5.5時間、6時間またはそれより長くものであってもよい。いくつかの実施形態では、酵素ポリペプチドを用いて、グリカン含有試料を一晩インキュベートしてもよい。
本明細書に記載のシアリダーゼ酵素および/またはその変異体の組み合わせを、シアリダーゼ処理に使用してもよい。2種類以上の酵素を用いる処理を連続的に(すなわち、一方の酵素ポリペプチドのインキュベーションに続いて、任意選択により、一方の酵素の不活性化によって分離した他方をインキュベーションする)してもよいおよび/または同時に(すなわち、2種類以上の酵素ポリペプチドを同時に使用)してもよい。
いくつかの実施形態では、1種類以上の化学物質を用いてシアリダーゼ処理を達成する。たとえば、従来技術において周知の多岐にわたる方法のいずれかを用いて、シアル酸残基の弱酸加水分解を実施可能である。通常、弱酸加水分解には、希酸を用いて短時間、任意選択により熱を加えて試料をインキュベートすることを含む。弱酸加水分解に用いられる酸の非限定的な例として、硫酸(HSO)、塩酸(HCl)、ギ酸(CH)などがあげられる。弱酸加水分解で用いる酸溶液のpHは一般に、約pH1.4〜約pH6.9の範囲、たとえば約pH6.9、pH6.8、pH6.7、pH6.6、pH6.5、pH6.4、pH6.3、pH6.2、pH6.1、pH6.0、pH5.9、pH5.8、pH5.7、pH5.6、pH5.5、pH5.4、pH5.3、pH5.2、pH5.1、pH5.0、pH4.9、pH4.8、pH4.7、pH4.6、pH、pH4.5、pH4.4、pH4.3、pH4.2、pH4.1、pH4.0、pH3.9、pH3.8、pH3.7、pH3.6、pH、pH3.5、pH3.4、pH3.3、pH3.2、pH3.1、pH3.0、pH2.9、pH2.8、pH2.7、pH2.6、pH、pH2.5、pH2.4、pH2.3、pH2.2、pH2.1、pH2.0、pH1.9、pH1.8、pH1.7、pH1.6、pH1.5またはpH1.4である。いくつかの実施形態では、これよりも低いpH条件を用いてもよい。弱酸加水分解処理に用いられる酸の濃度は、たとえば、約0.70M、0.65M、0.60M、0.55M、0.50M、0.45M、0.40M、0.35M、0.30M、0.25M、0.20M、0.15M、0.10M、0.05M、0.025M、0.020M、0.015M、0.010M、0.005Mまたはそれ未満であればよい。いくつかの実施形態では、これよりも高濃度の酸を用いてもよい。弱酸でのインキュベーションは、約10.0時間未満、9.5時間、9.0時間、8.5時間、8.0時間、7.5時間、7.0時間、6.5時間、6.0時間、5.5時間、5.0時間、4.5時間、4.0時間、3.5時間、3.0時間、2.5時間、2.0時間、1.5時間、1.0時間、50分間、45分間、40分間、35分間、30分間、25分間、20分間、15分間、10分間、5分間、1分間またはそれ未満などの時間、実施可能である。いくつかの実施形態では、これより長い時間グリカン含有試料をインキュベートしてもよい。
弱酸加水分解を用いるいくつかの実施形態では、グリカン含有試料を弱酸処理時に加熱する。試料については、たとえば、約30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃、75℃、80℃、85℃、90℃、95℃、100℃またはそれより高い温度などの温度で加熱してもよい。
いくつかの実施形態では、シアル酸を放出するための処理によって、グリカンが実質的に脱シアリル化される。従来技術において周知のように、シアル酸を放出するための処理の対象となったグリカン分子からすべてのシアル酸残基を放出できるわけではない。いくつかの実施形態では、シアル酸を放出するための処理によって、このシアル酸を放出するための処理の前にグリカン調製物に存在したシアル酸残基の最大約25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%またはそれ未満が残る。いくつかの実施形態では、このような残留シアル酸残基は以後の処理および/または分析に干渉しない。いくつかの実施形態では、別の処理を使用して、以後の処理および/または分析の前に残留シアル酸のパーセンテージを下げる。このようないくつかの実施形態では、別の処理が、別のシアル酸を放出するための1つ以上の処理を含む。
いくつかの実施形態では、グリカンを含む組成物が、シアル酸を放出するための処理に対して自らを耐性にするよう修飾されたシアル酸を含む。このようないくつかの実施形態では、修飾によって、シアル酸がシアリダーゼによる切断に対して耐性になる。このような修飾の一例に、5位(一般にアセチル化される)以外の2箇所以上でのアセチル化があり、詳しくは後述するように「多アセチル化シアリル化」と呼ばれる。グリカンを含む組成物が、このような修飾されたシアル酸を含有する場合、シアル酸残基の残りのパーセンテージが高くなることもある。
3.細胞からの複合糖質の放出
細胞によって産生される複合糖質を用いるものなどの特定の実施形態では、方法がさらに、複合糖質を細胞から放出することを含む。このようないくつかの実施形態では、複合糖質が細胞から放出された後に複合糖質からグリカンが放出される。
いくつかの実施形態では、細胞内に存在する複合糖質が放出される。
いくつかの実施形態では、細胞の表面に存在する複合糖質からグリカンが放出される。このようないくつかの実施形態では、主に細胞表面から放出される複合糖質からグリカン調製物が得られる。このような実施形態によって提供される利点の中でも、主に細胞内にみられるグリカンによって有意に汚染することなく、細胞表面グリカンの高純度個体群を得ることが可能な点がある。たとえば、本開示の特定の方法を用いて、細胞表面グリカンが細胞から遊離される際に細胞の溶解を実質的に回避する。上記に加えてあるいは上記の他に、本明細書に開示される特定の方法では、現在利用可能な方法と比較して、操作ステップの数および/または困難さが大幅に低減される。
特定の実施形態では、細胞を1種類以上のプロテアーゼに曝露することで、複合糖質を細胞から放出させる。プロテアーゼは、ポリペプチド鎖のアミド結合を切断する。化学的作用剤と酵素的作用剤の両方を含めて、いくつかのクラスのプロテアーゼが存在する。タンパク質分解酵素としては、たとえば、セリンプロテアーゼ、トレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、メタロプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼがあげられる。本開示に基づいて使用可能な具体的なタンパク質分解酵素の非限定的な例としては、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、スブチリシン、プロテイナーゼK、ペプシン、フィシン、ブロメライン、プラスメプシン、レニン、キモシン、パパイン、カテプシン(カテプシンKなど)、カスパーゼ(CASP3、CASP6、CASP7、CASP14など)、カルパイン1、カルパイン2、サーモリシン、カルボキシペプチダーゼAまたはB、マトリックスメタロプロテイナーゼ、グルタミン酸プロテアーゼおよび/またはこれらの組み合わせがあげられる。当業者であれば、細胞の表面から糖タンパク質を放出するために本開示に基づいて使用可能な他の多数のプロテアーゼが分かるであろう。
いくつかの実施形態では、細胞表面複合糖質が膜から放出される。このようないくつかの実施形態では、1種類以上のきつい洗剤を用いて膜結合複合糖質を抽出した後、複合糖質からグリカンを放出するための処理の前に遊離糖を透析して取り除く。複合糖質が膜から放出されるいくつかの実施形態では、細胞膜の破壊を最小限に抑えるために、洗剤での処理を最小限に抑えるか完全に排除する。たとえば、いくつかの実施形態では、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれより多くの細胞膜が無傷のまま(トリパンブルー色素排除試験で監視した場合など)残る。このような方法を用いて、細胞内に存在する未熟な高マンノース型糖タンパク質からの汚染を低減または排除してもよい。
いくつかの実施形態では、細胞膜の破壊を最小限に抑えられる条件下で細胞を1種類以上のプロテアーゼに曝露する。いくつかの実施形態では、細胞膜の実質的な溶解を回避する目的で、限られた時間だけ細胞を1種類以上のプロテアーゼに曝露する。
たとえば、約15分、14分、13分、12分、11分、10分、9分、8分、7分、6分、5分、4分、3分、2分または1分未満の時間だけ細胞を1種類以上のプロテアーゼに曝露してもよい。いくつかの実施形態では、細胞膜の実質的な溶解が起こらないかぎり、15分を超える時間をかけて細胞を1種類以上のプロテアーゼに曝露する。たとえば、全体としてのプロテアーゼ活性が細胞膜の実質的な溶解が起こらない点まで下がるように、十分に低濃度のプロテアーゼ、十分に低温および/または多岐にわたる他の要因または条件のいずれかを採用してもよい。当業者であれば、細胞膜の実質的な溶解が起こらないようにする要因または条件が分かり、これを採用できるであろう。
いくつかの実施形態では、たとえばプロテアーゼでの処理によって、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれより多くの複合糖質が放出される。
特定の実施形態では、少なくとも約0.1mg/mLの濃度で細胞を1種類以上のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素など)に曝露することで、複合糖質を放出させる。特定の実施形態では、約2.0mg/mL未満の濃度で細胞を1種類以上のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素など)に曝露することで、複合糖質を放出させる。特定の実施形態では、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、5.0、6.0、7.0、8.0、9.0、10.0mg/mLまたはこれより高い濃度で細胞を1種類以上のプロテアーゼ(タンパク質分解酵素など)に曝露することで、細胞表面グリカンを放出させる。
特定の実施形態では、細胞を複数のプロテアーゼに曝露することで、複合糖質を放出させる。たとえば、2、3、4、5、6、7、8、9、10種類またはそれよりも多くのプロテアーゼに細胞を曝露して、複合糖質を放出してもよい。このような複数のプロテアーゼは、細胞に対して同時におよび/または逐次的に投与できるものである。特定の実施形態では、細胞を複数のプロテアーゼに同時に曝露して複合糖質を放出した後、放出された複合糖質を細胞から精製する。
特定の実施形態では、細胞を第1のプロテアーゼ(または複数の第1のプロテアーゼ)に第1の時間だけ曝露して複合糖質を放出した後、細胞を第2のプロテアーゼ(または複数の第2のプロテアーゼ)に第2の時間だけ曝露する。第2のプロテアーゼでの処理の前に、第1のプロテアーゼを任意選択により除去および/または不活性化してもよい。一例として、第1のプロテアーゼを不活性化するのに十分な温度と時間でプロテアーゼをインキュベートして、これを不活性化してもよい。上記に加えてあるいは上記の他に、プロテアーゼに特異的な阻害剤(第1のプロテアーゼと特異的に結合し、その触媒活性を阻害する抗体または他の分子など)と一緒にインキュベートして、第1のプロテアーゼを不活性化してもよい。第1のプロテアーゼを不活性化する他の方法が、当業者には周知になろう。特定の阻害剤と一緒にインキュベートして第1のプロテアーゼを不活性化する場合、阻害剤の存在が第2のプロテアーゼの活性を実質的に阻害しないものでなければならない点は理解できよう。
いくつかの実施形態では、グリカンの放出前にプロテアーゼを除去および/または不活性化する。一例として、プロテアーゼを不活性化するのに十分な時間と温度でこれをインキュベートして、プロテアーゼを不活性化してもよい。上記の他にあるいは上記に加えて、プロテアーゼと特異的に結合し、その触媒活性を阻害する阻害剤または抗体または他の分子と一緒にインキュベートして、プロテアーゼを不活性化してもよい。
4.別のエキソグリコシダーゼ処理
いくつかの実施形態では、上述したようなグリカンを放出するための処理およびシアル酸を放出するための処理に加えて、グリカンを1種類以上のエキソグリコシダーゼで消化する。このようないくつかの実施形態では、提供される方法に従って、当該別のエキソグリコシダーゼ処理の消化産物を分析する。
上述したように、シアリダーゼは一般にエキソグリコシダーゼとして分類される。任意の別のエキソグリコシダーゼ処理には通常、シアリダーゼ以外の少なくとも1種類のエキソグリコシダーゼでの処理を含む。いくつかの実施形態では、1種類以上のシアリダーゼを、シアリダーゼではない1種類以上の他のエキソグリコシダーゼと併用する。
いくつかの実施形態では、別のエキソグリコシダーゼ処理を、グリカン放出処理および/またはシアル酸を放出するための処理と同時または重ねて実施する。いくつかの実施形態では、シアリダーゼ処理の前に別のエキソグリコシダーゼ処理を実施する。いくつかの実施形態では、シアリダーゼ処理の後に別のエキソグリコシダーゼ処理を実施する。
エキソグリコシダーゼは、末端グリコシド結合をグリカンの非還元末端から切断する酵素である。この酵素は一般に、特定の単糖結合およびアノマ性(α/β)に対して極めて特異性が高い。いくつかの実施形態では、隣り合った分岐パターンがエキソグリコシダーゼの特異性に影響することがある。エキソグリコシダーゼ処理によって、通常は、標準的な分岐型結合が五糖コア(M3N2)(3マンノースおよび2glcNAc残基を含む)に切断されたグリカンが得られる。しかしながら、本明細書に記述したとおり、特定のグリカン種(分岐型フコシル化種、高マンノースおよびハイブリッド型グリカン、ラクトサミン伸長グリカン、リン酸化グリカン、硫酸化グリカン、多アセチル化されたシアリル化グリカンなど)は、エキソグリコシダーゼ処理がきかない可能性があるため、クロマトグラフ的に分離してM3N2五糖に対して定量化することができる。
いくつかの実施形態では、本開示に基づいて用いられるエキソグリコシダーゼが、特定の1つのタイプのグリコシド結合だけを認識および切断する。いくつかの実施形態では、本開示に基づいて用いられるエキソグリコシダーゼが、特定の2つ以上のタイプのグリコシド結合を認識および切断する。本開示に基づいて用いられるエキソグリコシダーゼの例としては、シアリダーゼ、ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼ、フコシダーゼ、マンノシダーゼがあげられるが、これに限定されるものではない。エキソグリコシダーゼについては、商業的供給源(QA−Bio、ProZyme、Roche、Sigma、NEB、EMD、Glykoなどから)をはじめとするどのような供給源から入手してもよい。上記の他にまたは上記に加えて、エキソグリコシダーゼを細胞源(細菌、酵母、植物など)から単離および/または精製することも可能である。
エキソグリコシダーゼ(シアリダーゼ、ガラクトシダーゼ、ヘキソサミニダーゼ、フコシダーゼおよびマンノシダーゼなど)を複数のカテゴリすなわち「サブセット」に分けることが可能である。いくつかの実施形態では、サブセットが違えば、異なるタイプの結合を切断するための機能も異なる。表1に、エキソグリコシダーゼ、その結合特異性、由来となった生物体の例をいくつかあげておく。このエキソグリコシダーゼの一覧は一例にすぎず、包括的なものではない旨、また、どのような結合特異性を持つ、どのようなエキソグリコシダーゼでも本開示に基づいて使用できる旨は、当業者であれば理解できよう。
Figure 2012513030
本開示によれば、どのエキソグリコシダーゼでも(たとえば、糖タンパク質および/または細胞表面から放出されたものなどの)グリカンを消化可能である。特定の実施形態では、グリカン集合体を複数のエキソグリコシダーゼに曝露することでグリカンを消化する。たとえば、グリカン集合体を、2、3、4、5、6、7、8、9、10種類またはそれよりも多くのエキソグリコシダーゼに曝露してもよい。いくつかの実施形態では、複数のエキソグリコシダーゼを同時に投与する。いくつかの実施形態では、複数のエキソグリコシダーゼを逐次的に投与する。いくつかの実施形態では、投与対象となるエキソグリコシダーゼのアイデンティティを変えることで、グリカンの構造および/または組成に関する情報が明らかになる。いくつかの実施形態では、複数のエキソグリコシダーゼを投与する順序を変えることで、グリカンの構造および/または組成に関する情報が明らかになる。
いくつかの実施形態では、複数のエキソグリコシダーゼで逐次消化することで、同じ一組のエキソグリコシダーゼでの同時消化によって明らかになる情報とは異なる、グリカンの構造および/または組成に関する情報が明らかになる。いくつかの実施形態では、複数のエキソグリコシダーゼで逐次消化することで、同じ一組のエキソグリコシダーゼでの同時消化によって明らかになる情報と同じ、グリカンの構造および/または組成に関する情報が明らかになる。グリカン構造の分析にあたってのエキソグリコシダーゼ消化の実用性に関する一層完全な説明については、Parsonsらによって発明の名称「CHARACTERIZATION OF N−GLYCANS USING EXOGLYCOSIDASES」で2008年4月15日に出願された同時係属中の国際出願PCT/US08/60343号明細書(その内容全体を参照により本明細書に援用する)を参照のこと。
D.シアル酸の放出元となったグリカン調製物
上述したデュアル処理(グリカンを放出するための処理およびシアル酸を放出するための処理)の後、提供される方法とシアル酸の放出元となったグリカン調製物とを併用してもよい。
特定の実施形態では、シアル酸の放出元となったグリカン調製物が、シアリル化されていないグリカンを含む。
特定の実施形態では、シアル酸の放出元となったグリカン調製物が、シアリダーゼ耐性グリカンを含む。
特定の実施形態では、シアル酸の放出元となったグリカン調製物が、異常修飾グリカンを含む。通常、異常修飾グリカンは、シアリル化以外の修飾を持つ。多くの実施形態では、異常修飾がグリカンに電荷を与える。このようないくつかの実施形態では、電荷が負電荷である。
いくつかの実施形態では、異常修飾グリカンが、リン酸化グリカンを含む。グリカンにおけるリン酸化残基の非限定的な例に、マンノース−6−ホスフェート(Man−6−P)がある。
いくつかの実施形態では、異常修飾グリカンが硫酸化グリカンを含む。グリカンでの硫酸化は、多岐にわたる位置のどこでも起こり得る。グリカンは、単独硫酸化および/または複数硫酸化(すなわち、特定のグリカン分子の複数箇所で硫酸化)可能である。いくつかのグリカン種で硫酸化されることが知られている位置の非限定的な例として、末端GalのC−3ならびに末端N−アセチルラクトサミン単位のGlcNAc残基のC−6があげられる。硫酸化グリカンは、硫酸ヘパラン、硫酸デキストラン、硫酸ケラタン、硫酸コンドロイチンなどの硫酸化グリコサミノグリカンを含む。
いくつかの実施形態では、異常修飾グリカンが、シアル酸残基をシアリダーゼによる切断に対して耐性にする別の修飾を有するシアリル化グリカンを含む。たとえば、グリカン調製物は、多アセチル化シアリル化グリカンを含むものであってもよい。シアル酸残基は一般に、5位でアセチル化される(図2参照);このような5−アセチル化シアル酸は一般に、シアリダーゼ処理に感受性である。本出願人らは、別の2箇所以上でアセチル化されたシアル酸(多アセチル化シアル酸)が通常、シアリダーゼ処理に対して耐性であることを発見した。いくつかの実施形態では、多アセチル化シアル酸は、7位、8位、9位のうちの2箇所以上でアセチル化される(図2参照)。
いくつかの実施形態では、シアル酸の放出元となったグリカン調製物が、修飾(本明細書で説明したシアリル化および/または異常修飾を問わない)を持たないグリカンを含む。
いくつかの実施形態では、異常修飾グリカンが、低存在量のグリカンである。たとえば、いくつかの実施形態では、異常修飾グリカンが、グリカン調製物の約50%、40%、30%、20%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.08%、0.05%未満またはそれより少ない割合を占める。いくつかの実施形態では、シアリダーゼ耐性グリカンが、グリカンの約0.01%を占める。いくつかの実施形態では、異常修飾グリカンが、供給源調製物中(および/または元の供給源材料中)のグリカン個体群全体の約50%、40%、30%、20%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、0.1%、0.08%、0.05%未満またはそれより少ない割合を占める。いくつかの実施形態では、異常修飾グリカンが、供給源調製物および/または材料中のグリカン個体群全体の約0.01%を占める。
II.グリカン調製物の分析
提供される方法によれば、シアル酸の放出元となったグリカン調製物(シアリダーゼ処理グリカン調製物など)は、このような処理(など、シアリダーゼ耐性グリカン)では放出されず、第1の電荷を有するグリカンを未荷電グリカンおよび/または第2の電荷を有するグリカンから分離させるおよび/または電荷質量比に基づいてグリカンを分離させる1種類以上の分離技術が適用されるグリカンを含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの分離されたグリカン(第1の電荷を有するグリカンまたは第1の電荷質量比を有するグリカンなど)を、少なくとも1つの定量化標準を用いて定量化する。特定の実施形態では、定量化の前および/または後に、分離されたグリカンで(第1の電荷を有するグリカンおよび/または第1の電荷質量比を有するグリカンなどで)別の分析を実施する。いくつかの実施形態では、分離ステップ、任意の分析ステップまたはこれらの組み合わせの際に得られた情報を用いて、分離されたグリカンを同定する。いくつかの実施形態では、試料中における分離されたグリカン種(たとえば、異常修飾グリカン種など)を分離、分析および/または定量化するステップを繰り返し、そのような繰り返しで得られるデータを、後述するようなデータベースなどに入力する。いくつかの実施形態では、グリカン種(異常修飾グリカンなど)の同定が、完全にまたは一部がデータベース内の情報によって左右されることがある。
A.荷電したグリカンの分離
試料内の未荷電および/または逆に荷電した分子および/または電荷質量比の異なる他の分子から、荷電した分子を分離するための多岐にわたる方法が、従来技術において周知である。これらの方法そのバリエーションのいずれを用いて本開示によるグリカンを分離することも可能である。いくつかの実施形態では、第1の電荷を有するグリカンおよび/または第1の電荷質量比を有するグリカンを、グリカン調製物の残りの部分から単離する。
いくつかの実施形態では、特定の第1の電荷質量比を有するグリカンを、それよりも低い第1の電荷質量比を有するグリカンから分離する。いくつかの実施形態では、特定の第1の電荷質量比を有するグリカンを、これよりも高い第1の電荷質量比を有するグリカンから分離する。
いくつかの実施形態では、第1の電荷質量比が絶対値で約0〜約0.0014の範囲内であり、このような第1の電荷質量比を持つグリカンを、電荷質量比の絶対値で約0〜約0.003の範囲内の他のグリカンから分離する。
いくつかの実施形態では、第1の電荷を有するグリカンを、グリカン調製物の残りの部分から単離する。
特定の実施形態では、第1の電荷が負電荷であり、第2の電荷が正電荷である。このような実施形態では、分離されたグリカンが負に荷電したグリカンを含み、これを中性のグリカンおよび/または正に荷電したグリカンから分離する。このようないくつかの実施形態では、負に荷電したグリカンが、リン酸化グリカン、硫酸化グリカン、多アセチル化シアリル化グリカンまたはこれらの組み合わせを含む。
多くの実施形態では、荷電したグリカンを、クロマトグラフィの技術を用いて分離する。たとえば、イオン交換クロマトグラフィでの場合のように、荷電したカラムを用いてシアル酸の放出元となったグリカン調製物(シアリダーゼ処理グリカン調製物など)を分離可能である。負に荷電したグリカンを他のグリカンから分離するには、たとえば、アニオン交換クロマトグラフィ(AEC/AEX)での場合のようにアニオン交換カラムを使用可能である。アニオン交換クロマトグラフィで一般に用いられる樹脂としては、Q−樹脂(第4級アミン)およびDEAE樹脂(ジエチルアミノエタン)があげられるが、これに限定されるものではない。アニオン交換クロマトグラフィで用いる荷電した樹脂は、BioRad(Hercules、CA)およびAmersham Biosciences(Chalfont St. Giles、United Kingdom)などの供給業者から商業入手可能である。
クロマトグラフィ実験の特定の条件が、分離対象となる特定のグリカン種、グリカン調製物の組成などに左右されることがある。
いくつかの実施形態では、大きさ、疎水性、電荷、電荷質量比またはこれらの組み合わせに基づいて分離を可能にする方法などを含むがこれに限定されるものではない、分子の分離に適した方法を用いて、1種類以上の別の分離ステップを実施する。前の分離ステップの直後および/または後述するような任意の分析などの他のプロセスの直後に、別の分離ステップを実施してもよい。非限定的な例として、アニオン交換カラムで分離するステップの後に、順相アミドクロマトグラフィなどの二次元のクロマトグラフィを用いてもよい。一方または両方の分離するステップで得られる情報を用いて、グリカン種を同定してもよい。
B.分離したグリカンの分析
特定の実施形態では、提供される方法が、分離および/または単離されたグリカン(第1の電荷を有するグリカンおよび/または第1の電荷質量比を有するグリカン)の構造的な特徴を分析することを含む。いくつかの実施形態では、分析によって、荷電されたグリカンを同定できることがある。分離および/または単離されたグリカンを、2種類以上のグリカン調製物および/または試料から任意選択によりプールしてもよい。
グリカンの分析には、たとえば、配位子結合、質量分析、核磁気共鳴および/または他の方法論をはじめとするどのような手法を用いてもよい。グリカンを分析するための多岐にわたる方法が従来技術において周知である。たとえば、Anumula,Anal.Biochem,350(1):1〜23,2006;Klein et al.Anal.Biochem.,179:162〜66,1989;and Townsend,R.R.,Carbohydrate Analysis:High Performance Liquid Chromatography and Capillary Electrophoresis,ed.Z.El Rassi,pp.181〜209,1995,Yuan et al.,J.Chromatography A(2005)1067:145〜152(各々その内容全体を参照により本明細書に援用する)を参照のこと。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載したようなグリカンの分析は、たとえば、グリカンを処理して特定の糖(単糖など)成分を放出させることを含むものであってもよい。たとえば、いくつかの実施形態では、グリカンを1種類以上のエンドグリコシダーゼ処理で処理する。
グリカンについては、多岐にわたる方法のうちの1種類以上で分析可能である。非限定的な例として、核磁気共鳴(NMR)、質量分析、液体クロマトグラフィ、二次元クロマトグラフィ、SDS−PAGE、抗体染色、レクチン染色、単糖定量化、キャピラリー電気泳動、蛍光標識糖質電気泳動(FACE)、ミセル動電クロマトグラフィ(MEKC)、エキソグリコシダーゼ処理および/またはエンドグリコシダーゼ処理、およびこれらの組み合わせなどの方法で、グリカンを特性決定可能である。当業者であれば、グリカンの特性決定に使用できる他の方法も分かるであろう。
いくつかの実施形態では、グリカンの構造および/または組成(単糖類組成など)を、たとえば、液体クロマトグラフィ(LC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、超高速液体クロマトグラフィ(UPLC)、薄層クロマトグラフィ(TLC)、およびこれらの組み合わせなどの、クロマトグラフによる方法で分析する。
いくつかの実施形態では、グリカンの構造および/または組成(単糖類組成など)を、たとえば、タンデムMS、LC−MS、LC−MS/MS、マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI−MS)、フーリエ変換質量分析(FTMS)、イオン移動度質量分析(IMS−MS)、電子移動解離(ETD−MS)、およびこれらの組み合わせなどの、質量分析(MS)および関連の方法で分析する。
いくつかの実施形態では、グリカンの構造および/または組成(単糖類組成など)を、たとえば、細管式電気泳動(CE)、CE−MS、ゲル電気泳動、アガロースゲル電気泳動、アクリルアミドゲル電気泳動、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に続いて特定のグリカン構造を認識する抗体を用いるウェスタンブロッティング、およびこれらの組み合わせなどの、電気泳動法で分析することが可能である。
いくつかの実施形態では、グリカンの構造および/または組成(単糖類組成など)を、一次元NMR(1D−NMR)、二次元NMR(2D−NMR)、相関分光磁気角スピニングNMR(COSY−NMR)、全相関分光NMR(TOCSY−NMR)、異種核一量子コヒーレンスNMR(HSQC−NMR)、異種核多重量子コヒーレンス(HMQC−NMR)、回転系での核オーバーハウザー効果分光NMR(ROESY−NMR)、核オーバーハウザー効果分光法(NOESY−NMR)、およびこれらの組み合わせを含むがこれに限定されるものではない、核磁気共鳴(NMR)および関連の方法で分析する。
特定の実施形態では、特性決定の前に、複合等質および/またはグリカン構造を標識する。当業者間で周知のように、このような標識によって、特性決定時のシグナルを増大および/またはバックグラウンドノイズを低減できることがある。蛍光標識、放射性標識および/または化学発光標識を含むがこれに限定されるものではない、多岐にわたる標識のうちのどれを本開示に基づいて使用してもよい。特定の実施形態では、蛍光2−アミノベンズアミド(「2−AB」)でグリカン構造を標識する。当業者であれば、本開示に基づいて使用可能な他の好適な標識も分かるであろう。
いくつかの実施形態では、2種類以上の分析技術を採用してもよいおよび/または別の分析ステップを実施する。別のステップは、前の分析ステップおよび/または異なるステップ(第1の電荷を有するグリカンおよび/または特定の電荷質量比を有するグリカンの分離など)の直後であってもよい。
C.定量化
いくつかの実施形態では、方法が、少なくとも1つの定量化標準すなわち、分離されたグリカンと並列および/または分離されたグリカンと一緒に実施できる周知の量の分子を用いて少なくとも1つの分離されたグリカンを定量化することを含む。たとえば、クロマトグラフィなどの方法では、クロマトグラムで分離されたグリカンを表すピーク下の高さおよび/または面積で、定量化標準を用いて生成した較正曲線を外挿し、試料中における分離されたグリカンの量の概算値を得るようにしてもよい。
いくつかの実施形態では、定量化が相対的なものすなわち、特定種のグリカンの量を他の種との相対量で求める。たとえば、異常修飾グリカン種の量を他のグリカン種との相対量で求めてもよい。上記の他にあるいは上記に加えて、いくつかのタイプの異常修飾グリカン種(リン酸化グリカン、硫酸化グリカンおよび/または多アセチル化シアリル化グリカンなど)の量を、互いに対する相対量で求めてもよい。
いくつかの実施形態では、定量化が絶対的なものである。たとえば、分離されたグリカン種(たとえば、異常修飾グリカン種など)の絶対量を求める。絶対定量化は、たとえば、定量化標準を用いて得られる値の標準曲線(または「較正曲線」)を用いて求められる。
標準は、「外部」(すなわち、たとえば並列などグリカン調製物とは別途実施される)および/または「内部」(すなわち、グリカン調製物と一緒に実施され、「スパイキング」としても知られる)であってもよい。内部または外部を問わず、標準を標識してもよい。いくつかの実施形態では、グリカン調製物と標準の両方のグリカンを標識する。このようないくつかの実施形態では、グリカンと標準をともに同じタイプの標識で標識する。内部標準および外部標準の両方をグリカンと同じタイプの標識で標識してもよい。同じ標識の内部標準を用いる実施形態では、大きさなどの差に基づいて、内部標準が一般に標識されたグリカンから分離されるおよび/または区別可能である。たとえば、調製物中のグリカンとは異なる時点での標準の溶出が想定されるように、標準が分子量の点で特定の調製物におけるほとんどのグリカンよりかなり小さいこともある。
好適な定量化標準として機能し得る分子として、植物炭水化物やグリカン分子の小さめのものなどがあげられるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、2−アミノベンズアミド−キトビオースを定量化標準として使用する。いくつかの実施形態では、グリカンの断片が精製されるように複合糖質および/またはグリカンを切断し、得られる断片を標識し、関連の分離および/または分析技術で求めた場合にこれらの断片の大きさがわかるような形で、断片を特性決定して定量化標準を得る。
III.用途
本明細書に開示の方法が多岐にわたる用途のいずれにも用いられることは自明であろう。通常、提供される方法は、グリカンの構造的キャラクタリゼーションを伴う用途(標的複合糖質(糖タンパク質など)および/または特定のグリカン種(異常修飾グリカンなど)の単離と関連するグリカンを特性決定すると望ましい用途などで有用である。
本明細書に記載したような方法を利用して、たとえば、特定の異常修飾グリカン(および/またはこれを含有する複合糖質)の特性挙動を判断してもよい。このような特性挙動を求めたら、技術を応用して、グリカンまたは複合糖質調製物中の特定のこのようなグリカンを同定することが可能である。上記の他にあるいは上記に加えて、本明細書に記載の技術を単独あるいは他の技術(本明細書に記載したものなど)との組み合わせで用いて、1種類以上の複合糖質(異常修飾グリカンを含有するなど)またはグリカン(異常修飾グリカンなど)を単離および/または特性決定してもよい。同様に、検出されたピークまたはバンドに存在する異常修飾グリカンの構造が周知であるか否かを問わず、ピーク/バンドプロファイルを互いに比較して、異なる複合糖質またはグリカン調製物中の異なるレベル/量の異常修飾グリカンを評価することが可能である。
上述したように、提供される方法を、治療用製剤および生物学的試料(細胞を含有する試料など)を含むがこれに限定されるものではない、広範囲にわたる供給源から得られるグリカン調製物に適用可能である。このようなグリカン調製物に対して、本開示に従って分析する前または後で1以上の分析および/または精製ステップを実施してもよい。たとえば、いくつかの実施形態では、グリカン調製物のグリカンを、たとえば、質量分析またはNMRの技術による分析を容易にし得る1種類以上の検出可能なマーカーまたは他の作用剤で標識する。本開示のグリカン調製物に、多岐にわたる分離および/または単離ステップのいずれを適用してもよい。
いくつかの実施形態では、提供される方法を用いて、治療用産物の品質を特性決定および/または制御または比較する。治療用タンパク質産物の活性、バイオアベイラビリティまたは他の特徴に対して、グリコシル化が影響し得ることが多い。提供される方法を使用して、たとえば、治療用タンパク質産物を生む細胞中のグリコシル化パターン(組成および/または異常修飾のタイプなど)を評価することが可能である。いくつかの実施形態では、産物を単離することなく分析を達成する。特に、提供される方法は、治療用タンパク質の産生系においてグリコシル化パターンのリアルタイム分析を容易にし得るものである。
提供される方法を、治療用または他の商業的に関連のある目的の糖タンパク質製造用のプロセス開発の1つ以上の段階に使用してもよい。本開示の方法を採用可能なこのようなプロセス開発段階の非限定的な例としては、細胞選択、クローン選択、培地の最適化、培養条件、プロセス条件および/または精製手法があげられる。当業者には他のプロセス開発段階も分かるであろう。
たとえば、特定の所望のグリコシル化パターンを達成するために、あるいは特定の望ましくないグリコシル化パターンの展開を回避するために、提供される方法を用いて、特定の細胞培養でおよび/または特定の成長条件下で生じるグリコシル化の度合いおよび/またはタイプ(異常修飾がある場合はそのタイプも含む)をモニタすることで、培養の調節または考え得る終端を可能にしてもよい。
提供される方法を使用して、(たとえば、細胞または細胞系を操作して糖タンパク質を産生あるいは糖タンパク質を商業的に関連のあるレベルで産生する前であっても)特定の所望の糖タンパク質の製造で検討対象となっている細胞または細胞系のグリコシル化の特徴を評価することも可能である。
いくつかの実施形態では、提供される方法を用いて、糖タンパク質を産生する細胞の培養時におけるグリコシル化パターンをモニタする。たとえば、糖タンパク質の製造(量産など)には、(1)糖タンパク質を産生する細胞を培養し、(2)細胞を培養するプロセス全体の一定間隔または不規則な間隔で試料を入手し、(3)試料からグリカン調製物を得て、(4)調製物におけるグリカンでのグリコシル化パターン(特に異常修飾の組成とタイプ)を分析するステップを伴うことがある。いくつかの実施形態では、細胞表面複合糖質でのグリコシル化パターンを分析する。このようないくつかの実施形態では、方法が、異なる試料の細胞表面グリコシル化パターンを互いに比較および/または関連の細胞によって産生される1種類以上の非細胞表面糖タンパク質のグリコシル化パターンと比較するステップをさらに含む。いくつかの実施形態では、方法が、得られた1種類以上の試料についてのグリコシル化パターンを、参照試料のグリコシル化パターンと比較するステップをさらに含む。
いくつかの実施形態では、特定の標的糖タンパク質に望ましいグリコシル化パターンが周知であり、本明細書に記載の技術では、培養試料を監視して、所望のグリコシル化パターンを産生することが知られている経路での産生の進行を評価することができる。たとえば、標的糖タンパク質が1つ以上の国で法令による審査があるなどの治療用糖タンパク質である場合、培養を監視して、厳密に同一の経路で製造されるか否かを問わず、グリコシル化パターンがすでに確立された医薬製品のグリコシル化パターンにできるだけ近い産物が生成される尤度を評価すると望ましいことが多い。本明細書で使用する場合、グリコシル化パターンに関連して、産物のグリコシル化パターンとの比較において「近い」とは、すでに確立された医薬製品のグリコシル化パターンに対して少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%相関するグリコシル化パターンを示す。このような実施形態では、相対的なグリコシル化を評価するために、産生培養の試料は一般に、複数の時点で採取され、確立された標準または対照培養と比較される。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満またはそれよりも少なくなど)またはハイレベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超えるまたはそれより多くなど)の異常修飾グリカンを含むことになる。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満またはそれよりも少なくなど)またはハイレベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超えるまたはそれより多くなど)のリン酸化グリカンを含むことになる。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満またはそれよりも少なくなど)またはハイレベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超えるまたはそれより多くなど)の硫酸化グリカンを含むことになる。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満またはそれよりも少なくなど)またはハイレベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超えるまたはそれより多くなど)のアセチル化グリカンを含むことになる。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満またはそれよりも少なくなど)またはハイレベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超えるまたはそれより多くなど)の(ジアセチル化グリカンの)多アセチル化シアリル化グリカンまたは特定の多アセチル化グリカンを含むことになる。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、異常修飾に関連する特徴に加えて、他の特定の特徴を持つことになる。たとえば、いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満またはそれよりも少なくなど)またはハイレベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超えるまたはそれより多くなど)のコアフコシル化を含むことになる。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満またはそれよりも少なくなど)またはハイレベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超えるまたはそれより多くなど)の、N−アセチルグルコサミンにリンクしたシアル酸を含むことになる。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターン(産生された非細胞表面糖タンパク質で観察される細胞表面グリコシル化パターンおよび/またはグリコシル化パターンなど)が一層広範囲におよぶことになる。たとえば、いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンは、グリコシル化部位の占有率が高い(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超える、あるいはそれよりも高いなど)。いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンは、分岐度が高い(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超える、あるいはそれよりも多くの三または四分岐型構造を有するなど)。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンがそれほど広範囲にはおよばない。たとえば、いくつかの実施形態では、所望の細胞表面グリコシル化パターンは、グリコシル化部位の占有率が低い(約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、約20%、約15%、約15%、約5%、約1%未満、あるいはそれよりも少ないなど)および/または分岐度が低い(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満、あるいはそれよりも少ない三または四分岐型構造を有するなど)。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが、いくつかの態様では一層広範囲におよび、他の態様ではそれほど広範囲にはおよばない。たとえば、長い未分岐のオリゴ糖鎖のある糖タンパク質を産生しやすい細胞系を用いると望ましいことがある。あるいは、短い高度分岐オリゴ糖鎖のある糖タンパク質を産生しやすい細胞系を用いると望ましいこともある。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが特定タイプのグリカン構造で富化される。たとえば、いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンは、低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満、あるいはそれよりも低いなど)のマンノースまたはハイブリッド構造、高レベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超える、あるいはそれよりも高いなど)の高マンノース構造、高レベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超える、あるいはそれよりも高いなど;たとえば糖タンパク質1つあたり少なくとも1つ)のリン酸化高マンノースまたは低レベル(約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満、あるいはそれよりも低いなど)のリン酸化高マンノースを有する。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンが少なくとも約1つのシアル酸を含む。いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンは、高レベル(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超える、あるいはそれよりも高いなど)のシアリル化末端を含む。いくつかの実施形態では、シアリル化を含む所望のグリコシル化パターンは、少なくとも約85%、約90%、約95%、約98%、約99%またはそれよりも多くのN−アセチルノイラミン酸および/または約20%、約15%、約10%、約5%、約1%未満、あるいはそれよりも少ないN−グリコリルノイラミン酸を呈する。
いくつかの実施形態では、所望のグリコシル化パターンは、分岐鎖の伸長度に特異性がある(約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超える、あるいはそれよりも多くの伸長物がα1,6マンノース分岐鎖にあるか、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約98%、約99%を超える、あるいはそれよりも多くの伸長物がα1,3マンノース分岐鎖にある)。
本開示によって産生および/または品質を監視可能な代表的な治療用糖タンパク質産物としては、たとえば、多岐にわたる血液作用剤(たとえば、エリスロポエチン、血液凝固因子など)、インターフェロン、コロニー刺激因子、抗体、酵素、などホルモンなどがあげられる。
いくつかの実施形態では、異なる供給源または試料からのグリカン同士を比較する方法が提供される。このようないくつかの例では、同一の供給源から時間をかけて複数の試料を取得し、グリコシル化パターン(ならびに、特に異常修飾の組成および/またはタイプ)の変化を監視する。いくつかの実施形態では、グリカン含有試料を一定間隔で除去する。いくつかの実施形態では、グリカン含有試料を約30秒間、約1分間、約2分間、約5分間、約10分間、約30分間、約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約10時間、約12時間または約18時間間隔あるいは、さらに長い間隔で除去する。いくつかの実施形態では、グリカン含有試料を不規則な間隔で除去する。いくつかの実施形態では、グリカン含有試料を5時間間隔で除去する。
いくつかの実施形態では、試料のひとつがヒストリカル試料であるおよび/またはヒストリカル試料の記録を比較に用いる(薬剤製品のバッチ放出試験の場合など)。いくつかの実施形態では、試料のひとつが参照試料である。
特定の実施形態では、1以上の異なる成長パラメータのもとで展開された該当する糖タンパク質のグリコシル化パターンの変化を試験し、糖タンパク質生成用の1以上の所望の成長パラメータあるいは、パラメータの組み合わせを求める。いくつかの実施形態では、限定することなく、異常修飾グリカンの組成および/またはタイプ、グリコシル化部位占有率、リンクされたグリカン同士の同一性、リンクされたグリカンの相対量、リンクされたグリカンの完全組成または部分組成および/またはリンクされたグリカンの相対量などのグリコシル化パターン特性を観察および/または測定することで、グリコシル化パターンの差を求める。上記の他にあるいは上記に加えて、当業者間で周知の他のグリコシル化パターン特性を測定してもよい。
いくつかの実施形態では、ここに提供される方法を使用して、(異なる細胞培養物などにおける)異なる試料で起こるグリカン修飾の程度および/またはタイプを監視する。
いくつかの実施形態では、1つ以上の選択されたパラメータ(細胞型、培養のタイプ[連続供給対バッチ供給など]、培養条件[培地のタイプ、特定培地の特定の成分の存在または濃度(a)、モル浸透圧濃度、pH、温度、タイミングまたは1つ以上の成分のシフトの度合い、たとえばモル浸透圧濃度、pH、温度など]、培養時間、単離ステップなど)は異なるがそれ以外は同じ条件下で調製した、異なる細胞培養試料からのグリカン同士を比較するため、選択されたパラメータがグリカン修飾および/またはその他のグリコシル化パターンの特徴におよぼす影響を判断できる。特定の実施形態では、選択された単一のパラメータがグリカン修飾および/またはその他のグリコシル化パターンの特徴におよぼす影響を判断できるように、選択された単一のパラメータが異なる条件下で調製した、異なる細胞培養試料からのグリカンを比較する。よって、他の用途として、本技法によって、特定のパラメータが細胞のグリコシル化パターンにおよぼす影響を判断しやすくすることができる。
いくつかの実施形態では、目的の糖タンパク質(治療用糖タンパク質など)を産生する細胞の異なるバッチからのグリカン同士を、同一の方法で調製するか異なる方法で調製するかを問わず、かつ、同時に調製するか別々に調製するかを問わず、比較する。このような実施形態では、本開示は、糖タンパク質調製物(すなわち標的糖タンパク質調製物の調製物)の品質制御を容易にするものである。いくつかの実施形態では、方法が目的の糖タンパク質を産生する特定の培養の進行の監視を容易にする(異なる時点で培養から試料を除去し、分析して互いに比較する場合など)。これらの実施形態のいずれにおいても、グリカン分析の特徴を、たとえば品質制御記録に記録することが可能である。上述したように、いくつかの実施形態では、比較が、糖タンパク質の事前または標準的なバッチの履歴記録および/または参照試料との間で実施される。
特定の実施形態では、本開示を研究に使用して、細胞のグリコシル化の特徴を改変し、たとえば1つ以上の望ましい異常修飾を有する細胞系および/または培養条件を確立してもよい。必要があれば、このような細胞系および/または培養条件をさらに使用し、当該グリコシル化の特徴が有益であると想定される特定の標的複合糖質(糖タンパク質など)を産生することが可能である。
本開示によれば、本明細書に記載の技法を用いて、望ましいグリカンまたは望ましくないグリカンを検出し、たとえば産物中の1種類以上の汚染物質を検出または定量化あるいは、1種類以上の活性種または所望の種の存在を検出または定量化することが可能である。
さまざまな実施形態では、この方法を用いて、存在または濃度(絶対濃度であるか相対濃度であるかを問わない)が特定の疾患状態(特定の疾患への羅患性を含む)と関連している可能性のある1種類以上の特定のグリカンおよび/またはこのようなグリカンの濃度の経時的変化を検出することで、治療不能または治療しにくい症状に対する徴候が現れるおよび/または疾患状態が進行する前に疾患状態などを示す1つ以上のバイオマーカーのグリコシル化を評価することが可能である。たとえば、本開示のいくつかの実施形態では、標的複合糖質がバイオマーカーである。
特定の実施形態では、提供される方法を用いて、特定のグリカン種または一組のグリカン種などの特定のグリカンを単離する。たとえば、提供される方法を用いて、リン酸化グリカン、硫酸化グリカン、多アセチル化シアリル化グリカンまたはこれらの組み合わせなどの異常修飾グリカンを単離してもよい。
特定の実施形態では、本明細書に記載の方法は、供給源(生物学的試料など)に極低濃度で存在する特別なグリカン(異常修飾グリカンなど)の検出および/または分離を容易にする。このような実施形態では、供給源中のグリカン集合体に、約10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1.5%未満、1%未満、0.75%未満、0.5%未満、0.25%未満、0.1%未満、0.075%未満、0.05%未満、0.025%未満または0.01%未満の濃度で存在するグリカンの濃度を検出および/または任意選択により定量化することが可能である。いくつかの実施形態では、0.1%から5%、たとえば0.1%から2%、たとえば0.1%から1%のグリカン調製物を含むグリカンの濃度を検出および/または任意選択により定量化することが可能である。特定の実施形態では、約0.1fmolから約1mmolの間のグリカンの濃度を検出および/または任意選択により定量化することが可能である。
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の技法を、グリカンまたは複合糖質を検出、分析およびまたは単離するための1つ以上の他の技術と組み合わせてもよい。
IV.データベース
いくつかの実施形態では、分離されたグリカンを、分離されたグリカンを事前に同定したものと比較する。このような比較によって、分離されたグリカンを分析できるようになる場合がある。いくつかの実施形態では、分離されたグリカンを事前に同定したものの特徴をデータベースに格納する。分離されたグリカンの分析は、たとえば、データベースの情報を用いることを含むものであってもよい。
また、提供される方法は、たとえば、1種類以上の異なる分析技術を適用した場合の特定の異常修飾グリカンの挙動といったグリカン特性の一覧を生成することを含み得る。さらに、特定のグリカンおよび/または複合糖質調製物の特性の一覧を生成する方法も提供される。そのような特性の代表的なものとして、たとえば、調製物中における特定の異常修飾グリカンの存在または量、1種類以上の特定のグリコシル化部位の(異常修飾グリカンなどでの)占有度合い、グリカン(存在する異常修飾グリカンなど)のタイプ、異なるグリカン(異常修飾グリカンなど)の相対量などがあげられる。いくつかの実施形態では、一覧が、グリカンまたは複合糖質調製物中に存在する1以上のタイプの単糖の数を含む。一覧には、上記に加えてまたは上記に代えて、グリカンまたは複合糖質の合計質量、複合糖質の非糖類部分の質量、1種類および/またはそれより多くの異常修飾グリカンの質量などを含む。
このような方法の一例として、特定のグリカン、グリカン調製物または複合糖質調製物の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれより多くの特性を測定し、1以上の特性についての値を記録して、グリカン特性の一覧を生成することを含む。このような方法は、複合糖質特性の一覧を生成することを上記に加えてまたは上記に代えて含むものであってもよい。
いくつかの実施形態では、一覧が、コンピュータハードドライブ、フロッピー(登録商標)ディスク、CD−ROMなどのコンピュータ読み取り可能な媒体で有形実現されるデータ構造である。たとえば、データ構造は、複数のエントリを有し、各エントリが特性の値をコードするようにできるものである。エントリは、たとえば、単一ビット値、単一桁16進数値、10進数値などのどのような値によってもコード可能である。
同じく提供されるのが、1種類以上のコンピュータ読み取り可能な媒体で有形実現されるデータベースであり、ここで、このデータベースは1種類以上のグリカン、グリカン調製物および/または複合糖質調製物について説明する情報(異常修飾の組成および/またはタイプに関する情報など)を格納する。提供されるデータベースは、グリカンおよび/または複合糖質に対応するデータ単位を含む。データ単位は、1以上のフィールドを含む識別子を含み、各フィールドがグリカンおよび/または複合糖質の1種類以上の特性に対応する値を格納している。いくつかの実施形態では、識別子が、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれより多くのフィールドを含む。データベースは、たとえば、考え得るすべての複合糖質および/またはグリカンのデータベースであってもよいし、1種類以上の試料のグライコームプロファイルまたはパターンを表す値のデータベースであってもよい。
提供されるのは、グリカン(異常修飾グリカンなど)を含有する試料を分析するための改善された方法であり、ここでは併用分析計算プラットフォームを用いてグリカンの綿密なキャラクタリゼーションを達成する。本明細書に記載のどの方法でも計算方法と組み合わせることが可能である。異なる実験技術で集めた多岐にわたる情報を使用して、制約を生成してもよい。制約の生成は、該当するグリカン/複合糖質混合物の効率的なキャラクタリゼーション(異常修飾、グリコシル化部位占有率、定量化、グリカン構造など)のためのプロテオミクスおよびグライコミクスベースのバイオインフォマティクスツールおよびデータベースのパネルとの組み合わせで実施可能なものである。データベースは、従来技術において周知のものであってもよいし、提供される方法で生成することも可能である。一例として、分析および計算技術を併用してグリカンを分析する方法に、グリカンを含有する試料での実験を実施し、実験結果を分析し、制約を生成し、これを解決することを含み得る。制約は、実験結果ならびに、グリカンまたは複合糖質に関する情報を含むデータベースからの情報などの他の周知の情報から得られるデータならびに、グリカン、複合糖質またはその非糖類部分(質量および酵素作用など)の特性を分析する他のツールで生成および/または解決可能である。
制約は、たとえば、グリカン合成の生合成経路で知られるものを用いて生成可能である。
V.キット
1以上の提供される方法を実施するのに有用な試薬は、望ましくはキットに組み込んで一緒に提供されることがある。特定の実施形態では、本開示のキットが、細胞(1種類以上のプロテアーゼ、グリコシダーゼおよび/または他の作用剤など)から糖タンパク質を放出するのに有用な1種類以上の試薬、1種類以上のシアリダーゼおよび/または緩衝液、コファクターなどの補助成分を含む。特定の実施形態では、本開示のキットが、グリカン調製物の精製および/または分析に有用な1種類以上の試薬を含む。
いくつかの実施形態では、提供されるキットが、糖タンパク質または糖ペプチド(PNGase F、PNGase A、O−グリカナーゼおよび/またはEndo−Hといった酵素など)からグリカン構造を切断するのに有用な1種類以上の試薬を含む。いくつかの実施形態では、本開示のキットが、糖タンパク質または糖ペプチド(1種類以上のグリコシダーゼなど)のタンパク質成分から切断されたグリカン構造を精製に有用な1種類以上の試薬を含む。
いくつかの実施形態では、キットが、グリカン構造を標識するための1種類以上の試薬を含む。たとえば、本開示のキットは、蛍光標識、放射性標識および/または化学発光標識を含むものであってもよい。特定の実施形態では、本開示のキットが蛍光2−アミノベンズアミド(「2−AB」)を含む。
特定の実施形態では、提供されるキットが、細胞を培養(細胞培養培地、緩衝液、培地成分など)および/または細胞を培養後に精製するための1種類以上の試薬を含む。
実施例
実施例1:異常修飾グリカン種の同定および定量化
この例で提示されるのは、提供される方法を異常修飾グリカン種の同定および定量化に用いる実験結果である。
まず、酵素的方法または化学的方法(たとえば、PNGase F、ヒドラジノ溶解などを用いる)によって、グリカンを該当する糖タンパク質から放出する。次に、放出されたグリカンを2−アミノベンズアミド蛍光標識で標識する。さらに、蛍光標識N−グリカン混合物の試料をシアリダーゼ酵素で処理し、37℃で一晩インキュベートする。インキュベーション後、アニオン交換カラムに試料を注入し、(負に荷電した種を含む)保持された種を回収して質量分析によって分析する。
これとは別に、混合物中のグリカンの標識と同じ蛍光標識を含有する外部標準を用いて較正曲線を生成する。次に、較正曲線に対して異常修飾グリカンのピーク高さ/面積を外挿し、これを定量化する。あるいは、異常修飾グリカン(リン酸化グリカン、硫酸化グリカンおよび/または多アセチル化シアリル化グリカンなど)をクロマトグラフィ(順相アミドなど)の二次元で分析することが可能であり、あらかじめ定められたグリカン種との比較で両方のクロマトグラフ分離での保持時間から種の同一性を求めることが可能である。
図3および図4に示すように、異常修飾グリカンは、中性(脱シアリル化)グリカンよりも後で溶出される。よって、このプロトコールをグリカン混合物に適用し、異常修飾種を混合物中の他のグリカンから分離することが可能である。異常修飾グリカンの量を求めるには、図3の挿入図に示す較正曲線を使用することができる。図4で同定した異常修飾グリカンの定量分析からも同様の結果が得られた(データ図示せず)。
本明細書に記載したように、図3は、中国のリサーチソースから入手した、生物活性を有するエリスロポエチン治療用糖タンパク質由来の異常修飾グリカン種のAEX−HPLCプロファイルを示す。図4は、図3で説明するエリスロポエチン糖タンパク質とのアミノ酸同一性が97%である、該当する第2の治療用糖タンパク質由来の異常修飾グリカン種のAEX−HPLCプロファイルを示す。各治療用糖タンパク質試料からの異常修飾グリカンのプロファイルは、互いに異なっている。これらのデータは、提供される方法で(グリカン成分に関してなどの)高度に類似した糖タンパク質調製物が区別されることを裏付けるものである。抗体糖タンパク質調製物でも同様のデータが得られている(図5−図7参照)。
図5、図6、図7に示すように、高解像度クロマトグラフィを用いると、一硫酸化グリカンなどの同じ電荷状態の種を分離可能であり、安定した分離条件下で定量化できる。図5は、マウスで産生されるモノクローナル抗EGFR抗体由来の硫酸化グリカンのクロマトグラフ分析を示す。図6および図7は、抗CTLA4−IgGモノクローナル抗体の個々のクローン由来の異常修飾グリカンのクロマトグラフ分析を示す。これらのデータは、提供される方法で異なる細胞系(異なるクローンなど)によって産生される糖タンパク質が区別されることを裏付けるものである。
等価物
当業者であれば、本明細書に記載の本開示の特定の実施形態の多くの等価物を常法による実験だけで認識するか、または確認できる。本発明の明細書または本明細書に開示の実施内容を考慮すれば、当業者には他の実施形態も自明であろう。明細書および実施例は一例にすぎず、本発明の真の範囲は以下の特許請求の範囲によって示されるものとする。
特許請求の範囲において、「a」「an」「the」などの冠詞は、1つまたは2つ以上を意味することがある(そうでないことが明示されている場合または文脈から明らかな場合を除く)。1つ以上のグループメンバ間に「または」を含む特許請求の範囲またはその説明は、グループメンバのうちの1つ、2つ以上またはすべてが、特定の産物またはプロセスに存在し、用いられ、または関連している場合に満たされるものとする(そうでないことが明示されている場合または文脈から明らかな場合を除く)。本開示は、厳密に1つのグループメンバが、特定の産物またはプロセスに存在し、用いられ、または関連している実施形態を含む。本開示は、2つ以上またはすべてのグループメンバが、特定の産物またはプロセスに存在し、用いられ、または関連している実施形態を含む。
さらに、本開示は、列挙した特許請求の範囲のうちの1項以上の1つ以上の限定、要素、句、記述用語などが他の特許請求の範囲に導入された、あらゆる変形例、組み合わせおよび置き換えを包含する。たとえば、他の特許請求の範囲に従属する特許請求の範囲を修正して、同一の基本クレームに従属する他のいずれかの特許請求の範囲にある1つ以上の限定を含むようにすることが可能である旨を理解できよう。さらに、特許請求の範囲で組成について言及する場合、特に明記しないかぎり、あるいは矛盾または不一致が生じることが当業者らに自明でないかぎり、その組成を本明細書に開示の何らかの目的に用いる方法も含まれ、本明細書に開示の製造方法または当該技術分野において周知の他の方法によってその組成を作るための方法も含まれる点も理解できよう。
たとえばマーカッシュ群形式で要素を列挙する場合、要素の各サブグループも開示され、いずれの要素もグループから除外可能であることは理解できよう。通常、本開示または本開示の態様が特定の要素や特徴などを含む場合、本開示の特定の実施形態または本開示の態様がこのような要素や特徴からなるまたは実質的にこれからなるものである点を理解されたい。分かりやすくする目的で、これらの実施形態は、本明細書では正確に引用して具体的に記載したものではない。「含む(comprising)」という用語は、オープンであることを意図したものであり、別の要素またはステップの追加も許容される。
範囲が記載されている箇所では、端点もその範囲に含まれる。さらに、特に明記しないかぎり、あるいは文脈および当業者の理解から自明である場合をのぞき、範囲として表されている値は、本開示の異なる実施形態において、その範囲の下限の単位の十分の一まで具体的な値または表記の範囲内の部分的な範囲を仮定できる(文脈から明らかにそうではないことが分かる場合を除く)旨は理解できよう。
また、従来技術の範囲に含まれる本開示の特定の実施形態については、1つ以上の特許請求の範囲から明示的に除外できることも理解できよう。このような実施形態は当業者らに周知であると思われるため、本明細書で明示的に除外しなくても自身でこうしたものを除外できる。また、何らかの理由で、従来技術の存在に関連しているか否かを問わず、本開示の組成物の特定の実施形態(エキソグリコシダーゼ、グリコシド結合、反応条件、精製方法、産物分析方法など)を1つ以上の特許請求の範囲から除外することも可能である。
上記ならびに本明細書全体をとおして論じた刊行物はいずれも、本出願の出願日以前の開示物として記載したものである。これらはいずれも、先行する開示がゆえに本発明者らが当該開示物に先行する権利がないと認めることを意図したものではない。

Claims (31)

  1. a)シアル酸の放出元となったグリカン調製物を提供するステップと、
    b)前記グリカン調製物に対して、電荷質量比に基づいてグリカンを分離する分離技法を適用するステップと、
    c)少なくとも1つの定量化標準を用いて、少なくとも1つの分離されたグリカンを定量化するステップと、を含む方法。
  2. 前記提供するステップが、グリカンを含む組成物を、シアル酸残基の切断を可能にする条件下で、シアル酸残基を切断する少なくとも1つの作用剤に曝露することを含む、請求項1に記載の方法。
  3. 前記グリカン調製物が、硫酸化グリカン、リン酸化グリカン、多アセチル化シアリル化グリカン、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される異常修飾グリカンを含む、請求項1に記載の方法。
  4. 前記異常修飾グリカンが、前記グリカン調製物中に存在する前記グリカンの約50%未満を占める、請求項3に記載の方法。
  5. 前記異常修飾グリカンが、前記グリカン調製物中に存在する前記グリカンの約10%未満を占める、請求項4に記載の方法。
  6. 前記異常修飾グリカンが、前記グリカン調製物中に存在する前記グリカンの約5%未満を占める、請求項4に記載の方法。
  7. 前記異常修飾グリカンが、前記グリカン調製物中に存在する前記グリカンの約1%未満を占める、請求項4に記載の方法。
  8. 前記異常修飾グリカンが、前記グリカン調製物中に存在する前記グリカンの約0.1%未満を占める、請求項4に記載の方法。
  9. 前記異常修飾グリカンが、前記グリカン調製物中に存在する前記グリカンの約0.05%未満を占める、請求項4に記載の方法。
  10. 分離されたグリカンの構造的な特徴を分析することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
  11. 分離されたグリカンの単糖組成を分析することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
  12. 前記構造的な特徴を分析するステップが、核磁気共鳴(NMR)、質量分析、液体クロマトグラフィ、二次元クロマトグラフィ、キャピラリー電気泳動(CE)、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される技術を実施することを含む、請求項10または11に記載の方法。
  13. 分離されたグリカンと、分離されたグリカンを事前に同定したものとを比較することをさらに含む、請求項1、10または11に記載の方法。
  14. 前記分離されたグリカンを事前に同定したものの特徴をデータベースに格納する、請求項13に記載の方法。
  15. 分離されたグリカンと、分離されたグリカンを事前に同定したものとを比較することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
  16. 前記分離されたグリカンを事前に同定したものの特徴をデータベースに格納する、請求項15に記載の方法。
  17. 分離されたグリカンの構造的な特徴を分析する1回以上の別ラウンドをさらに含む、請求項12に記載の方法。
  18. 前記適用するステップが、荷電したカラム上の前記グリカン調製物を分離することを含む、請求項1に記載の方法。
  19. 前記荷電したカラムがアニオン交換カラムである、請求項18に記載の方法。
  20. 前記グリカン調製物中のグリカンを標識するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
  21. 前記定量化標準が前記グリカンと同じ標識で標識される、請求項20に記載の方法。
  22. 提供するステップが、複合糖質から放出されるグリカンの調製物を提供することを含む、請求項1に記載の方法。
  23. 前記複合糖質が糖タンパク質を含む、請求項22に記載の方法。
  24. グリコシダーゼポリペプチドを用いて複合糖質から前記グリカンを放出させる、請求項22に記載の方法。
  25. ヒドラジン分解によって複合糖質から前記グリカンを放出させる、請求項22に記載の方法。
  26. 前記複合糖質が、治療用製剤、市販の生物製品、バイオリアクタ、生物学的試料から得られる、請求項22に記載の方法。
  27. 前記複合糖質が、組織培養、ヒトまたは動物の組織、植物、果実、野菜、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される供給源から得られる、請求項22に記載の方法。
  28. 前記複合糖質が体液から得られる、請求項26に記載の方法。
  29. 前記複合糖質が、血清、血漿、血液、唾液、精液、尿、脳脊髄液、およびこれらの組み合わせからなる群から選択される体液から得られる、請求項28に記載の方法。
  30. 前記分離されたグリカンを同定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
  31. 大きさ、疎水性、電荷またはこれらの組み合わせに基づいて分子の分離を可能にする1種類以上の技術を実施することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
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