図1は、本発明が好適に適用される車両6に備えられた車両用動力伝達装置8(以下、「動力伝達装置8」という)の構成を説明するための骨子図である。その動力伝達装置8は、エンジン10と駆動輪38との間に介装されており、自動変速機12と、エンジン10の出力軸13に連結されてそのエンジン10と自動変速機12との間に介装されたトルクコンバータ14とを備えている。そして、動力伝達装置8は、車両6(図3参照)の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものである。
自動変速機12は、トルクコンバータ14と駆動輪38(図3参照)との間の動力伝達経路の一部を構成しており、複数の油圧式摩擦係合装置(クラッチC、ブレーキB)具体的には5つの油圧式摩擦係合装置を備え、その複数の油圧式摩擦係合装置の何れかの掴み替えにより複数の変速段(ギヤ段)が選択的に成立させられる変速機である。端的に言えば、一般的な車両によく用いられる所謂クラッチツークラッチ変速を行う有段変速機である。その自動変速機12は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置16を主体として構成されている第1変速部18と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置20およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置22を主体としてラビニヨオ型に構成されている第2変速部24とを同軸線上に有し、変速機入力軸26の回転を変速して出力歯車28から出力する。その変速機入力軸26は自動変速機12の入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の動力を供給する内燃機関であるエンジン10によって回転駆動されるトルクコンバータ14のタービン軸である。また、上記出力歯車28は自動変速機12の出力回転部材に相当するものであり、差動歯車装置32(図3参照)に動力を伝達するためにそのデフドリブンギヤ(大径歯車)34と噛み合うデフドライブギヤとして機能している。上記エンジン10の出力は、トルクコンバータ14、自動変速機12、差動歯車装置32、および一対の車軸36を介して一対の駆動輪(前輪)38へ伝達されるようになっている(図3参照)。従って、出力歯車28の回転速度である自動変速機12の出力回転速度Nout(rpm)が高いほど車速V(km/h)も高くなり、出力回転速度Noutは、車速Vと一対一で対応する。なお、この自動変速機12は中心線に対して略対称的に構成されており、図1ではその中心線の下半分が省略されている。
上記第1変速部18を構成している第1遊星歯車装置16は、第1サンギヤS1と、第1ピニオンギヤP1と、その第1ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1と、第1ピニオンギヤP1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1とを備えている。すなわち、その第1遊星歯車装置16では、第1サンギヤS1、第1キャリアCA1、および第1リングギヤR1によって各々3つの回転要素が構成されている。第1遊星歯車装置16では、第1サンギヤS1が変速機入力軸26に連結されて回転駆動されるとともに、第1リングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能にトランスミッションケース30に固定されることにより、中間出力部材としての第1キャリアCA1が変速機入力軸26に対して減速回転させられる。
前記第2変速部24を構成している第2遊星歯車装置20は、第2サンギヤS2と、互いに噛み合い1対を成す第2ピニオンギヤP2および第3ピニオンギヤP3と、そのピニオンギヤP2およびP3を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2と、ピニオンギヤP2およびP3を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2とを備えている。また、第2変速部24を構成している第3遊星歯車装置22は、第3サンギヤS3と、第3ピニオンギヤP3と、その第3ピニオンギヤP3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3と、第3ピニオンギヤP3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3とを備えている。そして、第2遊星歯車装置20および第3遊星歯車装置22では、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素RM1〜RM4が構成されている。具体的には、第3遊星歯車装置22の第3サンギヤS3によって第1回転要素RM1が構成され、第2遊星歯車装置20の第2リングギヤR2および第3遊星歯車装置22の第3リングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素RM2が構成され、第2遊星歯車装置20の第2キャリアCA2および第3遊星歯車装置22の第3キャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素RM3が構成され、第2遊星歯車装置20の第2サンギヤS2によって第4回転要素RM4が構成されている。上記第2遊星歯車装置20および第3遊星歯車装置22は、第2、第3キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、第2、第3リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第3遊星歯車装置22の第3ピニオンギヤP3が第2遊星歯車装置20の一方のピニオンギヤを兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
また、上記第1回転要素RM1(第3サンギヤS3)は第1クラッチC1を介して選択的に変速機入力軸26に連結される。第2回転要素RM2(リングギヤR2、R3)は第2クラッチC2を介して選択的に変速機入力軸26に連結されると共に、第2ブレーキB2によって選択的に非回転部材であるトランスミッションケース30に連結されて回転停止させられる。第4回転要素RM4(第2サンギヤS2)は第1遊星歯車装置16の第1キャリアCA1に一体的に連結されており、第1ブレーキB1によって選択的にトランスミッションケース30に連結されて回転停止させられる。第3回転要素RM3(キャリアCA2、CA3)は出力歯車28に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。なお、第2回転要素RM2とトランスミッションケース30との間には、第2回転要素RM2の正回転(変速機入力軸26と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する係合要素である一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
図2は、自動変速機12において複数の変速段(ギヤ段)を成立させる際の係合要素の作動状態を説明するための作動表である。自動変速機12は、第1変速部18および第2変速部24の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の6つの前進変速段が成立させられるとともに、後進変速段「R」の後進変速段が成立させられる。図2に示すように、たとえば前進ギヤ段では、(1)クラッチC1とブレーキB2の係合により第1速ギヤ段が、(2)クラッチC1とブレーキB1の係合により第2速ギヤ段が、(3)クラッチC1とブレーキB3の係合により第3速ギヤ段が、(4)クラッチC1とクラッチC2の係合により第4速ギヤ段が、(5)クラッチC2とブレーキB3の係合により第5速ギヤ段が、(6)クラッチC2とブレーキB1の係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3の係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3のいずれも解放されることによりニュートラル状態となるように基本的に構成されている。本実施例の自動変速機12では、所定のギヤ段を達成させるために一対の油圧式摩擦係合装置が係合させられるようになっており、その一対の油圧式摩擦係合装置の一方が解放されるとその所定のギヤ段が不成立とされ、自動変速機12内の動力伝達経路が解放されてニュートラル状態となる。
図2の作動表は、上記各変速段とクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。また、各変速段の変速比(=入力回転速度Nin/出力回転速度Nout)は、第1遊星歯車装置16、第2遊星歯車装置20、および第3遊星歯車装置22の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
上記クラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路40(図1参照)に設けられたリニアソレノイドバルブの励磁、非励磁や電流制御により、係合、解放状態が切り換えられるとともに、係合、解放時の過渡油圧などが制御される。
上記クラッチC1およびクラッチC2は、図2に示されるように、前進ギヤ段のいずれにおいてもそれらのうちの一方或いは他方が必ず係合させられる。すなわち、上記クラッチC1またはクラッチC2の係合が前進ギヤ段の達成要件とされており、したがって、本実施例においては、クラッチC1またはクラッチC2がフォワードクラッチ(前進クラッチ)に相当する。
また、自動変速機12の第1速ギヤ段を成立させる上記クラッチC1は、係合によりトルクコンバータ14からの動力を駆動輪38へ伝達する発進用摩擦係合要素に相当する。また、ブレーキB1は、それが係合されると一方向クラッチF1と協働して出力歯車28の逆回転を阻止するので、動力伝達のために係合され且つ係合により車両6の後退を防止する後退防止用摩擦係合要素に相当する。
図1に示すように、エンジン10は、そのエンジン10に吸気を行う吸気管に、電子制御装置52からの電気信号により開閉作動させられる電子スロットル弁44を備えている。その電子スロットル弁44は、エンジン駆動中においてエンジン10の吸入空気量Qを調整するための電動の調整弁であり、電子スロットル弁44の開度θth(スロットル開度θth)が大きいほどエンジン出力は大きくなる。また、基本的には、予め定められた関係に基づいて、アクセルペダルの操作量であるアクセル開度Acc(%)が大きいほど、上記スロットル開度θth(%)は大きくされる。
トルクコンバータ14は、エンジン10の出力軸(クランク軸)13に連結されたポンプ翼車14aと、自動変速機12の変速機入力軸26に連結されたタービン翼車14bと、一方向クラッチを介して自動変速機12のハウジング(トランスミッションケース)30に連結されたステータ翼車14cとを備えており、エンジン10により発生させられた駆動力を自動変速機12へ流体を介して伝達する流体伝動装置である。上記ポンプ翼車14aはトルクコンバータ14の入力回転部材として機能し、上記タービン翼車14bはトルクコンバータ14の出力回転部材として機能する。また、上記ポンプ翼車14a及びタービン翼車14bの間には、直結クラッチであるロックアップクラッチ46が設けられており、油圧制御等により係合状態、スリップ状態、或いは解放状態とされるようになっている。このロックアップクラッチ46が係合状態とされることにより、厳密に言えば、完全係合状態とされることにより、上記ポンプ翼車14a及びタービン翼車14bが一体回転させられる。
図3は、本実施例の動力伝達装置8を制御するための制御装置として機能する電子制御装置52に入力される信号を例示した図であると共に、電子制御装置52に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。この電子制御装置52は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン10や自動変速機12に関する車両制御を実行するものである。
電子制御装置52には、図3に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン10のシリンダブロックに設けられたエンジン水温センサ54からのエンジン水温TEMPwを表す信号、エンジン回転速度Neを表すエンジン回転速度センサ56からの信号、出力歯車28の回転速度Nout(以下、「出力回転速度Nout」という)に対応する車速Vを表す車速センサ58からの信号、常用ブレーキであるフットブレーキペダル60の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ62からのフットブレーキペダル操作を表す信号、運転者の要求出力に対応するアクセルペダル64の操作量であるアクセル開度Accを表すアクセル開度センサ66からの信号、エンジン10の吸気管に設けられた電子スロットル弁44のスロットル開度θthを表すスロットル弁開度センサ68からの信号、タービン翼車14bの回転速度Nt(以下、「タービン回転速度Nt」という)すなわち変速機入力軸26の回転速度Ninである自動変速機12の入力回転速度Ninを表すタービン回転速度センサ70からの信号、シフトレバー74の操作位置(操作ポジション)Pshを表すレバー操作位置センサ72からの信号等が、それぞれ供給される。なお、タービン翼車14bはトルクコンバータ14の出力回転部材であるので、上記タービン回転速度Ntはトルクコンバータ14の出力回転速度である。
上記シフトレバー74はシフト操作部材に相当するもので、例えば図3に示すシフトパターンに従って駐車ポジション「P」、後進走行ポジション「R」、ニュートラルポジション「N」、前進走行ポジション「D」、「S」へ操作されるようになっている。「D」ポジションは、自動変速機12の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)である。「S」ポジションは、自動変速機12のギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。「P」および「N」ポジションでは動力伝達を遮断するニュートラルが成立させられるが、「P」ポジションでは図示しないメカニカルパーキング機構によって機械的に駆動輪38の回転が阻止される。
図3に示すように、電子制御装置52は、変速制御部である変速制御手段90と、ニュートラル制御条件判断部であるニュートラル制御条件判断手段92と、タービン回転速度判断部であるタービン回転速度判断手段96と、ニュートラル制御部であるニュートラル制御手段98と、ヒルホールド制御部であるヒルホールド制御手段100とを備えている。
変速制御手段90は、自動変速機12による変速動作を制御する。例えば、変速制御手段90は、よく知られたアップシフト線とダウンシフト線とから構成された変速線図(変速マップ)を予め記憶しており、その変速線図から、実際の自動変速機12の出力回転速度Nout(車速V)とスロットル開度θthとに基づいて自動変速機12の変速段を決定し、この決定された変速段および係合状態が得られるように油圧制御回路40に設けられた前記リニアソレノイドバルブを制御する。
上記変速線図における変速線(アップシフト線、ダウンシフト線)は、実際のスロットル開度θthを示す横線上において実際の出力回転速度Noutが線を横切ったか否か、言い換えれば、変速線上の変速を実行すべき値(変速点出力回転速度)を越えたか否かを判断するためのものである。すなわち、上記変速線図に含まれる上記ダウンシフト線は自動変速機12のダウンシフトを実行すべき変速点(ダウンシフト点)の連なりであり、上記変速線図に含まれる上記アップシフト線は自動変速機12のアップシフトを実行すべき変速点(アップシフト点)の連なりである。なお、上記変速線図の一例が図4に示されており、その図4では、前記ダウンシフト線が破線で表されており、前記アップシフト線が実線で表されている。また、図4では、図中の「1」〜「6」は第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」をそれぞれ意味している。
ニュートラル制御条件判断手段92は、ニュートラル制御手段98により実行されるニュートラル制御の開始条件が成立したか否か、および、そのニュートラル制御の終了条件(「ニュートラル制御からの復帰条件」とも言う)が成立したか否かを判断する。そのニュートラル制御の開始条件(以下、ニュートラル制御開始条件という)は、例えば、(a)シフトレバー74によりDレンジが選択されていること、(b)アクセルペダル64が非操作状態すなわちアイドルオン状態であること、(c)車速Vが零または零付近であること、(d)エンジン回転速度Neが予め設定されたニュートラル制御実行回転速度Ne1以下であること、(e)エンジン水温TEMPwが予め設定された暖機判定温度TEMPw1よりも高いこと、(f)フットブレーキペダル60が踏込操作されていること、の全てが満足されることである。また、前記ニュートラル制御の終了条件とは、それらの(a)〜(f)の条件のうち何れか1つが満足されなくなったことである。ニュートラル制御は、主として、交差点における赤信号で車両6が一時停止したときに実行されるものであるから、通常、フットブレーキペダル60の踏込操作が解除されてフットブレーキペダル60が原位置に戻されたときに、前記ニュートラル制御の終了条件が成立する。なお、上記ニュートラル制御とは、停車に際して、第1クラッチC1をスリップ状態乃至解放状態としてエンジン10から駆動輪38への動力伝達を抑制する制御である。
タービン回転速度判断手段96は、前記ニュートラル制御開始条件が成立したと判断された後、要するに、ニュートラル制御の開始後において、ニュートラル制御条件判断手段92によって前記ニュートラル制御の終了条件が成立したと判断されると、タービン回転速度Ntが予め定められた第1回転速度判定値Nt1未満であるか否かを判断する。それと共に、そのタービン回転速度Ntが上記第1回転速度判定値Nt1よりも大きい予め定められた第2回転速度判定値Nt2以下であるか否かも判断する。例えば、タービン回転速度判断手段96は、前記ニュートラル制御の終了条件が成立した時のタービン回転速度Ntを各回転速度判定値Nt1,Nt2と比較判断してもよいし、或いは、前記ニュートラル制御を終了させるための第1クラッチC1の係合作動開始時のタービン回転速度Ntを各回転速度判定値Nt1,Nt2と比較判断してもよい。ここで、前記ニュートラル制御が開始されると、その開始当初では、タービン回転速度Ntはエンジン回転速度Neに引き摺られて上昇する(図7参照)。上記第1回転速度判定値Nt1および上記第2回転速度判定値Nt2は、その上昇過程におけるタービン回転速度Ntに基づいて前記ニュートラル制御の開始当初の進行度合を判断するための判定値であって、それぞれの判定値Nt1,Nt2に基づいて行われるニュートラル制御およびヒルホールド制御の終了に起因したショックが小さくなるように予め実験的に定められている。
ニュートラル制御手段98は、前記ニュートラル制御開始条件の成立に従って、前記ニュートラル制御を実行する。具体的に、ニュートラル制御手段98は、ニュートラル制御条件判断手段92によって上記ニュートラル制御開始条件が成立したと判断されると、変速制御手段90からの自動変速機12の第1クラッチC1の係合指令を内容とする第1速ギヤ段の成立指定に優先してその第1クラッチC1をスリップ状態乃至解放状態とし、自動変速機12中の動力伝達を抑制する。これにより、トルクコンバータ14による引摺りが軽減される。
また、ニュートラル制御手段98は、ニュートラル制御条件判断手段92によって前記ニュートラル制御からの復帰条件(以下、ニュートラル制御復帰条件という)が成立したと判断されると、第1クラッチC1を再係合させて、ニュートラル制御を終了する。この第1クラッチC1の再係合の際には、図7の破線L01に示すように、ニュートラル制御手段98は、第1クラッチC1の係合作動開始時にその第1クラッチC1の係合油圧を一時的に上昇させるためのクイックフィル指示油圧PC1qfを油圧制御回路40に出力して、第1クラッチC1の係合油圧を一時的に上昇させるクイックフィルを行う。ニュートラル制御手段98は、タービン回転速度判断手段96によってタービン回転速度Ntが前記第2回転速度判定値Nt2以下であると判断された場合には、そう判断されなかった場合と比較して、前記クイックフィル指示油圧PC1qfを低くして、その低くしたクイックフィル指示油圧PC1qfを油圧制御回路40に出力する。要するに、タービン回転速度Ntが前記第2回転速度判定値Nt2以下である前記ニュートラル制御開始直後に、そのニュートラル制御終了のために第1クラッチC1を係合させる場合には、ニュートラル制御開始時から十分に時間経過した後に上記第1クラッチC1を係合させる通常のニュートラル制御終了時と比較して、前記クイックフィル指示油圧PC1qfを低くする。このタービン回転速度Ntが第2回転速度判定値Nt2以下であるときのクイックフィル指示油圧PC1qfは、例えば、上記通常のニュートラル制御終了時のクイックフィル指示油圧PC1qfから所定のクイックフィル補正量CPC1qfを差し引いた値とされる。そのクイックフィル補正量CPC1qfは、第1クラッチC1の係合に起因したショックが小さくなるように且つその係合作動が迅速に完了するように予め実験的に求められ定められている。また、上記クイックフィル補正量CPC1qfは、タービン回転速度Ntに拘らず一定値であっても差し支えないが、本実施例では、図5に示すように、第1クラッチC1の係合作動開始時におけるタービン回転速度Ntが低いほど、大きくなるように設定されている。すなわち、ニュートラル制御手段98は、その第1クラッチC1の係合作動開始時におけるタービン回転速度Ntが低いほど、クイックフィル指示油圧PC1qfを低くする。なお、ニュートラル制御の終了は、ニュートラル制御からの復帰とも呼ばれる。また、前記クイックフィルはファーストフィルとも呼ばれる。
ヒルホールド制御手段100は、前記ニュートラル制御開始条件の成立に従って、ヒルホールド制御を実行する。そのヒルホールド制御は、停車に際して、第1ブレーキB1を係合させて車両6の後退を防止する制御であり、本実施例では、前記ニュートラル制御と並列的に実行される。具体的に、ヒルホールド制御手段100は、ニュートラル制御条件判断手段92によって上記ニュートラル制御開始条件が成立したと判断されると、変速制御手段90からの自動変速機12の第1ブレーキB1を解放させる解放指令に優先してその第1ブレーキB1を係合させる。これにより、係合中の第1ブレーキB1と一方向クラッチF1とが協働して出力歯車28の逆回転をロックするので、登坂路などにおける車両6の後退が阻止される。また、図1から判るように、第1ブレーキB1が係合されても、変速機入力軸26の回転は拘束されないので、前記ニュートラル制御は制限されない。なお、本実施例の前記ヒルホールド制御では、出力歯車28の正回転は阻止されないが、出力歯車28の正回転と逆回転との両方向ともが阻止されても差し支えない。
また、ヒルホールド制御手段100は、ニュートラル制御条件判断手段92によって前記ニュートラル制御復帰条件が成立したと判断されると、第1ブレーキB1を解放させて、ヒルホールド制御を終了する。具体的には、前記ニュートラル制御の終了に際しての第1クラッチC1の係合作動の進行に伴ってタービン回転速度Ntが低下するので、ヒルホールド制御手段100は、その低下するタービン回転速度Ntに基づいて第1ブレーキB1の解放開始時を判断する。すなわち、ヒルホールド制御手段100は、そのタービン回転速度Ntが所定のヒルホールド解除時判定値未満になった時を第1ブレーキB1の解放開始時として、その時から、第1ブレーキB1を解放させ始める。例えば、その第1ブレーキB1を解放させる際には、上記第1ブレーキB1の解放開始時から、第1ブレーキB1の解放ショックを抑え且つ早期に解放完了するように予め実験的に定められた所定の時間変化率で、第1ブレーキB1を係合させる指示油圧(油圧指令値)を低下させる。上記ヒルホールド解除時判定値は、例えば、前記ヒルホールド制御の終了に際しての第1ブレーキB1の解放と前記ニュートラル制御の終了に際しての第1クラッチC1の係合とに起因したショックが抑制されるように予め実験的に定められており、具体的には、第1クラッチC1の係合によりその第1クラッチC1の入出力部材の回転が同期する直前に第1ブレーキB1が解放され始めるように定められている。
但し、ヒルホールド制御手段100は、タービン回転速度判断手段96によってタービン回転速度Ntが前記第1回転速度判定値Nt1未満であると判断された場合には、タービン回転速度Ntが前記ヒルホールド解除時判定値未満か否かに拘らず、第1クラッチC1の係合作動によりタービン回転速度Ntが継続的に低下し始めてから、第1ブレーキB1を解放させる。すなわち、そのタービン回転速度Ntが継続的に低下し始めてから、第1ブレーキB1の指示油圧を低下させ始める。このときの第1ブレーキB1の指示油圧の前記所定の時間変化率は、タービン回転速度Ntが前記第1回転速度判定値Nt1以上であるときと変わらない。上記タービン回転速度Ntが継続的に低下し始めたか否かに関しては、その判断手法に特に限定は無いが、本実施例では、例えば、ヒルホールド制御手段100は、タービン回転速度Ntが予め定められた判定時間TIME1nt以上継続して低下した場合に、そのタービン回転速度Ntが継続的に低下し始めたと判断する。その判定時間TIME1ntは極短時間であり、例えば第1クラッチC1のトルク容量が増大し始めたことがタービン回転速度Nt変化からできるだけ早期に確認できるように予め実験的に定められている。
図6は、電子制御装置52の制御作動の要部、すなわち、前記ニュートラル制御および前記ヒルホールド制御を終了する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図6に示す制御作動は、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。
先ず、ステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、前記ニュートラル制御の実施中であり且つ前記ヒルホールド制御の実施中であるか否か判断される。そのニュートラル制御およびヒルホールド制御は、前記ニュートラル制御開始条件が成立した場合に開始される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、前記ニュートラル制御の実施中であり且つ前記ヒルホールド制御の実施中である場合には、SA2に移る。一方で、このSA1の判断が否定された場合にはSA1の判断が繰り返される。なお、ニュートラル制御は、略してN制御と表記されることがある。
ニュートラル制御条件判断手段92に対応するSA2においては、前記ニュートラル制御復帰条件が成立したか否かが判断される。例えば、停車中に、フットブレーキペダル60の踏込操作が解除されてフットブレーキペダル60が原位置に戻されたときに、前記ニュートラル制御復帰条件が成立する。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、前記ニュートラル制御復帰条件が成立した場合には、SA3に移る。一方で、このSA2の判断が否定された場合にはSA1に移る。
タービン回転速度判断手段96に対応するSA3においては、タービン回転速度Ntが前記第1回転速度判定値Nt1未満であるか否かが判断される。このSA3の判断が肯定された場合、すなわち、タービン回転速度Ntが上記第1回転速度判定値Nt1未満である場合には、SA5に移る。一方で、このSA3の判断が否定された場合には、SA4に移る。
タービン回転速度判断手段96に対応するSA4においては、タービン回転速度Ntが前記第2回転速度判定値Nt2以下であるか否かが判断される。この第2回転速度判定値Nt2は前記第1回転速度判定値Nt1よりも大きい。また、その第1回転速度判定値Nt1は前記ヒルホールド解除時判定値以上の値に設定されている。このSA4の判断が肯定された場合、すなわち、タービン回転速度Ntが上記第2回転速度判定値Nt2以下である場合には、SA9に移る。一方で、このSA4の判断が否定された場合には、SA8に移る。
ニュートラル制御手段98に対応するSA5においては、前記ニュートラル制御を終了させるために、第1クラッチC1の係合作動が開始される。このとき、第1クラッチC1の油圧においてクイックフィル指示油圧PC1qfは、前記通常のニュートラル制御終了時と比較して前記クイックフィル補正量CPC1qfだけ低くされる。この第1クラッチC1の係合作動が完了すれば、前記ニュートラル制御は終了する。第1クラッチC1の係合作動が開始されると、SA6に移る。
ヒルホールド制御手段100に対応するSA6においては、タービン回転速度Ntが継続的に低下し始めたか否かが判断される。例えば、タービン回転速度Ntが前記判定時間TIME1nt以上継続して低下した場合、換言すれば、タービン回転速度Ntの負勾配変化が上記判定時間TIME1nt以上継続した場合に、そのタービン回転速度Ntが継続的に低下し始めたと判断される。このSA6の判断が肯定された場合、すなわち、タービン回転速度Ntが継続的に低下し始めた場合には、SA7に移る。一方で、このSA6の判断が否定された場合にはSA6の判断が繰り返される。
ヒルホールド制御手段100に対応するSA7においては、第1ブレーキB1が解放させられる。具体的には、第1ブレーキB1の指示油圧が前記所定の時間変化率で零に向けて低下させられる。要するに、第1ブレーキB1の係合油圧が漸減させられる。この第1ブレーキB1の解放作動が完了すれば、前記ヒルホールド制御は終了する。
ニュートラル制御手段98に対応するSA8においては、前記ニュートラル制御を終了させるために、第1クラッチC1の係合作動が開始される。このとき、クイックフィル指示油圧PC1qfは、前記通常のニュートラル制御終了時どおりである。すなわち、そのクイックフィル指示油圧PC1qfは、前記クイックフィル補正量CPC1qfだけ低くされることはない。第1クラッチC1の係合作動が開始されると、SA10に移る。
ニュートラル制御手段98に対応するSA9においては、前記ニュートラル制御を終了させるために、第1クラッチC1の係合作動が開始される。このとき、クイックフィル指示油圧PC1qfは、前記SA5と同様に、前記通常のニュートラル制御終了時と比較して前記クイックフィル補正量CPC1qfだけ低くされる。第1クラッチC1の係合作動が開始されると、SA10に移る。
ヒルホールド制御手段100に対応するSA10においては、第1クラッチC1の入出力部材の回転が同期する直前であるか否かが判断される。具体的には、第1クラッチC1の係合作動に伴い低下するタービン回転速度Ntが前記ヒルホールド解除時判定値未満になると、上記第1クラッチC1の入出力部材の回転が同期する直前であると判断される。このSA10の判断が肯定された場合、すなわち、タービン回転速度Ntが前記ヒルホールド解除時判定値未満になった場合には、SA7に移る。一方で、このSA10の判断が否定された場合にはSA10の判断が繰り返される。
図7は、自動変速機12の第2速ギヤ段から前記ニュートラル制御および前記ヒルホールド制御が開始された場合を例として、そのニュートラル制御の開始時にタービン回転速度Ntが上昇している途中で前記ニュートラル制御復帰条件が成立した場合の第1クラッチC1の係合制御および第1ブレーキB1の解放制御を説明するためのタイムチャートである。この図7のタイムチャートには、タービン回転速度Ntが前記第1回転速度判定値Nt1未満である時に前記ニュートラル制御復帰条件が成立した場合である復帰〔1〕と、タービン回転速度Ntが前記第1回転速度判定値Nt1以上であり且つ前記第2回転速度判定値Nt2以下である時に前記ニュートラル制御復帰条件が成立した場合である復帰〔2〕と、タービン回転速度Ntが前記第2回転速度判定値Nt2よりも高い時に前記ニュートラル制御復帰条件が成立した場合である通常復帰とが、それぞれ表されている。その復帰〔1〕のタイムチャートは実線で表され、その復帰〔2〕のタイムチャートは破線で表され、その通常復帰のタイムチャートは二点鎖線で表されている。また、図7から判るように、前記第1回転速度判定値Nt1および前記第2回転速度判定値Nt2は、ニュートラル制御の開始時の上昇後に定常的に推移するタービン回転速度Ntすなわちタービン回転速度Ntの定常値よりも低い設定値である。
図7のt1時点は前記ニュートラル制御開始条件が成立した時点を示しており、t1時点から前記ニュートラル制御が開始されるので、第1クラッチC1の指示油圧(油圧指令値)がt1時点を境に段階的に低下させられ、そのt1時点以降、時間経過に従って低下させられている。それと共に、t1時点から前記ヒルホールド制御が開始されるので、第1ブレーキB1の指示油圧(油圧指令値)がt1時点を境に段階的に低下させられその後は一定とされている。そのように第1ブレーキB1の指示油圧が段階的に低下させられるのは、前記ヒルホールド制御の終了時に応答性良く第1ブレーキB1を解放させるためであるので、このt1時点後においても第1ブレーキB1はスリップしているわけではなく係合状態であることに変わりはない。
また、タービン回転速度Ntが、t1時点から、第1クラッチC1の解放作動の進行に伴いエンジン回転速度Neに近付くように次第に上昇している。これは、トルクコンバータ14の作用である。
t2時点は、前記復帰〔1〕の例で、前記ニュートラル制御復帰条件が成立した時点を示している。すなわち、このt2時点でのタービン回転速度Ntは前記第1回転速度判定値Nt1未満である。そうすると、図6のSA2およびSA3の判断が肯定されるので、SA5が実行される。すなわち、t2時点から、前記ニュートラル制御を終了させるために、第1クラッチC1の係合作動が開始される。図7の第1クラッチC1の指示油圧のタイムチャートには、その係合作動の開始当初の前記クイックフィルを行わせる指示油圧の波形が図示されている。図7に示すように、このクイックフィルでは、クイックフィル指示油圧PC1qfが、前記通常のニュートラル制御終了時と比較して前記クイックフィル補正量CPC1qfだけ低くされる。
また、前記復帰〔1〕の例において、t2時点から、第1クラッチC1の係合作動の進行に伴いタービン回転速度Ntが次第に低下してしており、そのタービン回転速度Ntが前記判定時間TIME1nt以上継続して低下した時点で、図6のSA6の判断が肯定され、SA7にて第1ブレーキB1の指示油圧が前記所定の時間変化率で零に向けて低下させられている。図7では、その第1ブレーキB1の指示油圧がt2時点から低下し始めているように図示されているが、詳細には、上記第1ブレーキB1の指示油圧は、上記t2時点以降で、タービン回転速度Ntの低下開始時点から、極短時間である上記判定時間TIME1ntが経過した時から低下し始めている。
t3時点は、前記復帰〔2〕の例で、前記ニュートラル制御復帰条件が成立した時点を示している。すなわち、このt3時点でのタービン回転速度Ntは前記第1回転速度判定値Nt1以上であり且つ前記第2回転速度判定値Nt2以下である。そうすると、図6のSA2の判断が肯定されSA3の判断が否定され更にSA4の判断が肯定されるので、SA9が実行される。すなわち、t3時点から、前記ニュートラル制御を終了させるために、第1クラッチC1の係合作動が開始される。図7に示すように、その第1クラッチC1の係合作動では、前記クイックフィル指示油圧PC1qfが、前記通常のニュートラル制御終了時と比較して前記クイックフィル補正量CPC1qfだけ低くされる。
t4時点は、前記復帰〔2〕の例で、前記t3時点から低下しているタービン回転速度Ntが前記ヒルホールド解除時判定値未満になった時点を示している。そのため、そのt4時点にて図6のSA10の判断が肯定され、t4時点から、図6のSA7にて第1ブレーキB1の指示油圧が前記所定の時間変化率で零に向けて低下させられている。
t5時点は、前記通常復帰の例で、前記ニュートラル制御復帰条件が成立した時点を示している。すなわち、このt5時点でのタービン回転速度Ntは前記第2回転速度判定値Nt2よりも高い。そうすると、図6のSA2の判断が肯定されSA3の判断が否定され更にSA4の判断が否定されるので、SA8が実行される。すなわち、図7に図示されていないが、t5時点から、前記ニュートラル制御を終了させるために、第1クラッチC1の係合作動が開始される。そして、前記t5時点から低下しているタービン回転速度Ntが前記ヒルホールド解除時判定値未満になった時点で、図6のSA10の判断が肯定され、図6のSA7にて第1ブレーキB1の指示油圧が前記所定の時間変化率で零に向けて低下させられる。なお、第1クラッチC1の指示油圧のタイムチャートにおいて、第1クラッチC1を係合させる際の波形は、前記復帰〔2〕の例(破線)を除き図示が省略されているが、前記復帰〔1〕の例(実線)および前記通常復帰の例(二点鎖線)でも、前記クイックフィル指示油圧PC1qfの大きさを除き、前記復帰〔2〕の例と同様の波形となる。すなわち、前記復帰〔1〕の例および前記復帰〔2〕の例では、前記通常復帰の例と比較して、第1クラッチC1の係合作動において前記クイックフィル指示油圧PC1qfの大きさだけが変更され、それを除けば、何れの例でも同じ指示油圧が油圧制御回路40に出力される。
本実施例によれば、図7の復帰〔1〕の例に示すように、電子制御装置52は、前記ニュートラル制御の開始時にタービン回転速度Ntが上昇している途中で前記ニュートラル制御および前記ヒルホールド制御を終了する場合において、タービン回転速度Ntが前記第1回転速度判定値Nt1未満である場合には、第1クラッチC1の係合作動によりそのタービン回転速度Ntが継続的に低下し始めてから、第1ブレーキB1を解放させる。従って、前記ニュートラル制御の開始時にタービン回転速度Ntが上昇している途中で前記ニュートラル制御および前記ヒルホールド制御を終了する場合に、タービン回転速度Ntの継続的な低下から、ニュートラル制御を終了させるために第1クラッチC1がその係合作動によりトルク容量を増大し始めたことが確認できる。そのため、その第1クラッチC1の係合作動の進行に従って第1ブレーキB1を解放させることができるので、相互のタイミングを調節して、ニュートラル制御およびヒルホールド制御の終了に伴うショックを抑えることが可能である。本実施例では、前記ニュートラル制御および前記ヒルホールド制御の終了の際に、第1クラッチC1の係合タイミングと第1ブレーキB1の解放タイミングとが互いにずれて、例えば、第1クラッチC1が完全に係合した後に第1ブレーキB1が解放されたとすれば、図2から判るように、停車状態において自動変速機12の第2速ギヤ段を一旦成立させてから第1速ギヤ段にダウンシフトすることになる。そのため、そのダウンシフトによるショックが生じるおそれがある。一方で、第1クラッチC1が殆ど係合されていない時点で第1ブレーキB1が解放されたとすれば、前記ヒルホールド制御が実施されずに第1ブレーキB1が当初から解放されていた場合と同様に、第1クラッチC1の係合に起因したショックが発生するおそれがある。
また、本実施例によれば、電子制御装置52は、タービン回転速度Ntが、前記第1回転速度判定値Nt1よりも大きい予め定められた前記第2回転速度判定値Nt2以下である場合には、そのタービン回転速度Ntがその第2回転速度判定値Nt2よりも大きい場合と比較して、ニュートラル制御の終了時に第1クラッチC1を係合させる際のその第1クラッチC1のクイックフィル指示油圧PC1qfを低くする。従って、そのクイックフィル指示油圧PC1qfを低くすることにより、第1クラッチC1の係合作動の進行が、前記ニュートラル制御の開始から十分に時間が経過した通常時と比較して早まることを抑制することができ、第1クラッチC1の係合と第1ブレーキB1の解放との互いのタイミングを、ショックを抑えるように調節することが容易となる。
また、本実施例によれば、ニュートラル制御手段98は、その第1クラッチC1の係合作動開始時におけるタービン回転速度Ntが低いほど、クイックフィル指示油圧PC1qfを低くする。そのため、前記ニュートラル制御の終了のために第1クラッチC1の係合作動が開始される時まで進行していた第1クラッチC1の解放作動の進行度合が浅いほど、その第1クラッチC1の係合作動における上記クイックフィル指示油圧PC1qfが低くされる。そして、そのクイックフィル指示油圧PC1qfの低下は、第1クラッチC1の係合作動の進行を遅らせる方向に作用する。従って、前記ニュートラル制御の終了時において第1クラッチC1の係合作動の進行が上記通常時に対して早まることを抑制することができる。その結果として、第1クラッチC1の係合と第1ブレーキB1の解放との互いのタイミングを、ショックを抑えるように調節することが容易となる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
例えば、前述の本実施例において、トルクコンバータ14が流体伝動装置として用いられているが、そのトルクコンバータ14のトルク増幅作用は必ずしも必要ではなく、例えば、そのトルクコンバータ14がトルク増幅作用のないフルードカップリングに置き換わっていても差し支えない。
また、前述の本実施例において、前記ヒルホールド制御で係合される前記後退防止用摩擦係合要素は第1ブレーキB1であるが、その後退防止用摩擦係合要素としては停車時に変速機入力軸26をロックせずに出力歯車28の逆回転を阻止できればよいので、他の摩擦係合要素が上記後退防止用摩擦係合要素として機能しても差し支えない。また、2以上の摩擦係合要素が上記後退防止用摩擦係合要素として機能しても差し支えない。例えば、図2に示すように2つの摩擦係合要素の係合で何れかの変速段が成立する自動変速機12において、3つの摩擦係合要素が同時に係合されればその自動変速機12はロックされるので、その3つの摩擦係合要素は上記後退防止用摩擦係合要素として機能し得る。
また、前述の本実施例において、前記ヒルホールド制御では、第1ブレーキB1と一方向クラッチF1とが協働して出力歯車28の逆回転を阻止するが、そのヒルホールド制御において一方向クラッチF1は必須ではなく、例えば、一方向クラッチF1が無く、前記ヒルホールド制御は第1ブレーキB1と第2ブレーキB2とが係合されるものであっても差し支えない。
また、前述の本実施例において、前記ニュートラル制御での前記発進用摩擦係合要素は第1クラッチC1であるが、その発進用摩擦係合要素はそのニュートラル制御からの復帰後の車両発進で係合される摩擦係合要素であれば特に限定はない。また、上記第1クラッチC1は第1速ギヤ段を成立させる摩擦係合要素であるが、車両6が第1速よりも高車速側のギヤ段で発進することもあり得るので、上記発進用摩擦係合要素は自動変速機12の第1速ギヤ段を成立させるものでなくても差し支えない。また、2以上の摩擦係合要素が上記発進用摩擦係合要素として機能しても差し支えない。
また、前述の本実施例において、車両6は走行用の駆動力源としてエンジン10を備えているが、走行用の駆動力源としてエンジン10に加えて電動機を備えていても差し支えない。