以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき詳細に説明する。以下では、回転電機として、車両に搭載される三相同期型回転電機を説明するが、車両搭載以外に用いられるものでもよい。
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
図1は、回転電機制御システム10の構成を示す図である。回転電機制御システム10は、車両に搭載される回転電機20の動作制御を行うシステムであるが、ここでは、特に回転電機20がロック状態になるときの制御を行う機能を有する。
回転電機制御システム10は、回転電機20と、回転電機20に接続されるインバータ回路30と、車両に対するトルク要求等に応じてインバータ回路30を駆動する駆動指令部40と、これらの要素の動作を全体として制御する制御装置50を含んで構成される。
回転電機20は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(M/G)であって、インバータ回路30から電力が供給されるときはモータとして機能する三相同期型回転電機である。なお、図示されていないエンジンによる駆動時、あるいはハイブリッド車両の制動時には発電機として機能する。
回転電機20は、三相巻線を有している。図1でUとして示されるのがU相巻線、Vとして示されるのがV相巻線、Wとして示されるのがW相巻線である。各相巻線のそれぞれの一方端はインバータ回路30に接続され、それぞれの他方端は相互に接続されて中性点Nとなる。
回転電機20に設けられる角速度取得部22は、回転電機20の角速度ωを取得して、制御装置50に伝送する機能を有する。角速度取得部22としては、回転電機20のロータの回転角度を検出するレゾルバを用い、回転角度から角速度ωを算出して取得するものとできる。その他に、回転電機20に回転速度センサを設けて、回転速度から角速度ωを算出して取得してもよい。
インバータ回路30は、回転電機20に接続される駆動回路で、複数のスイッチング素子と逆接続ダイオード等を含んで構成され、交流電力と直流電力との間の電力変換を行う機能を有する。すなわち、インバータ回路30は、回転電機20をモータとして機能させるときは、図示されていない蓄電装置側からの直流電力を交流三相駆動電力に変換し、回転電機20に交流駆動電力として供給する直交変換機能を有する。なお、回転電機20を発電機として機能させるときは、回転電機20からの交流三相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。
インバータ回路30は、図1に示されるように、2つのスイッチング素子を直列接続し、それぞれのスイッチング素子に並列にダイオードを逆接続したものを1つのスイッチングアームとして、正極側母線と負極側母線の間に3つのスイッチングアームを並列に接続した構成を有する。各スイッチングアームにおいて、2つのスイッチング素子の接続点は、それぞれ、回転電機20の各相巻線の一方端に接続される。
図1では、最も左側のスイッチングアームが回転電機20のU相巻線の一方端に接続されるので、これをU相スイッチングアームとして、Uの符号を付した。同様に、図1の中央のスイッチングアームをV相スイッチングアームとしてVの符号を付し、最も右側のスイッチングアームをW相スイッチングアームとしてWの符号を付した。各スイッチング素子のオンオフ制御によって回転電機20の各相巻線に流れる電流を制御できるが、その内容の詳細については後述する。
インバータ回路30と回転電機20の間を接続する各相動力線に設けられる各相電流値取得部24は、インバータ回路30から回転電機20の各相巻線に出力される各相電流値を取得して、制御装置50に伝送する機能を有する。各相電流値取得部24は、別の見方をすれば、インバータ出力電流値を取得する機能を有するものである。
回転電機20の各相巻線の他方端は互いに接続されて中性点Nとなるので、各相電流の和はゼロである。したがって、2つの相電流値が分かれば、残りの1つの相電流値は計算で求められる。したがって、各相電流値取得部24としては、各相動力線の内の任意の2つの相動力線に流れる電流値を検出して取得するものであればよい。図1では、各相電流値取得部24として、V相動力線を流れる電流値を検出する電流検出センサと、W相動力線を流れる電流値を検出する電流検出センサが用いられる様子が示されている。電流検出センサとしては、電流が流れることで発生する磁束を検出するものを用いることができる。
インバータ回路30に設けられる素子温度センサ32は、スイッチング素子の温度である素子温度θを検出する素子温度検出手段である。インバータ回路30は、6つのスイッチング素子を含むので、素子温度センサ32は、6つのセンサで構成される。素子温度センサ32の検出データは、適当な信号線を介して制御装置50に伝送される。
ここで、ユーザの車両の走行に関する要求は、車両のアクセル42の踏み度、ブレーキ44の踏み度等によって与えられる。このユーザの要求は、制御装置50によって、回転電機20に対する角速度指令値ω*46、トルク指令値T*48に換算されて、駆動指令部40に与えられる。
駆動指令部40は、トルク指令値T*48に基づいて、ベクトル制御に用いられるd軸電流指令値とq軸電流指令値を求め、この電流指令値に基づいて、インバータ回路30の各スイッチング素子のオンオフ制御信号を生成する。すなわち、駆動指令部40は、駆動回路であるインバータ回路30を駆動する制御信号を生成する機能を有する。
具体的には、次のような処理が行われる。すなわち、まず、各相電流値取得部24によって取得された各相電流値をd軸電流値とq軸電流値に変換し、変換された現在実際に流れているd軸電流値とd軸電流指令値の差である電流偏差を求め、同様に、実際に流れているq軸電流値とq軸電流指令値の差である電流偏差を求める。そして、これらの電流偏差をゼロとするようなd軸電圧指令値とq軸電圧指令値を求める比例積分制御が行われる。求められたd軸電圧指令値とq軸電圧指令値は、U相電圧指令値、V相電圧指令値、W相電圧指令値に変換される。このようにして求められる各相電圧指令値に基づいて、インバータ回路30を構成する6つのスイッチング素子に対するオンオフ指令が生成される。
例えば、U相スイッチングアームの正極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、V相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、W相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、他の3つのスイッチング素子はオフとする。このときは、回転電機20のU相巻線から中性点Nに向かって電流が流れ、中性点からV相巻線とW相巻線に半分ずつ電流が流れ出す。
同様に、V相スイッチングアームの正極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、U相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、W相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、他の3つのスイッチング素子はオフとする。このときは、回転電機20のV相巻線から中性点Nに向かって電流が流れ、中性点からU相巻線とW相巻線に半分ずつ電流が流れ出す。
また、W相スイッチングアームの正極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、U相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、V相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、他の3つのスイッチング素子はオフとする。このときは、回転電機20のW相巻線から中性点Nに向かって電流が流れ、中性点からU相巻線とV相巻線に半分ずつ電流が流れ出す。
このように、各スイッチング素子を適当なタイミングでオンオフさせることで、回転電機20の各相巻線に、電気角で互いに120度の位相差を有する各相電流を流すことができる。その様子を図2に示す。図2の横軸は電気角で、縦軸は各相電流値である。ここに示されるように、U相巻線に流れるU相電流と、V相巻線に流れるV相電流と、W相巻線に流れるW相電流とは、電気角で互いに120度の位相差を有する。
そして、U相電流値が最大値をとる電気角で、V相電流値とW相電流値とは、U相電流値と符号が逆で、1/2の値である。このときが、U相スイッチングアームの正極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、V相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、W相スイッチングアームの負極側母線に接続されるスイッチング素子をオンさせ、他の3つのスイッチング素子はオフとしたときに相当する。同様に、V相電流値が最大値をとる電気角で、U相電流値とW相電流値とは、V相電流値と符号が逆で、1/2の値である。また、W相電流値が最大値をとる電気角で、U相電流値とV相電流値とは、U相電流値と符号が逆で、1/2の値である。
制御装置50は、上記のように、アクセル42の踏み度、ブレーキ44の踏み度等を取得して、角速度指令値ω*46、トルク指令値T*48を生成する機能を有する。これによって、回転電機制御システム10を構成する各要素の動作を全体として制御することができる。この全体制御の機能に加えて、ここでは、回転電機20がロック状態になったときのロック時制御を行う機能を有する。
ロック時制御は、回転電機20がロック状態になったときに、特定のスイッチング素子に過度の電流集中が起こることを防止するためにトルク制限を行うが、その際に、スイッチング素子の保護を図りつつ、高トルクを出力できる時間を長くするような制御を行うものである。車両に搭載される回転電機20がロックする1つの例は、車両が登坂時に回転電機20の回転が停止するものであるが、このロック時処理において、高トルクを出力する時間を長くすることで、車両の登坂性能が向上する。
制御装置50は、ロック時制御のために、ロック判定部52と、素子温度取得部54と、トルク制限部56とを含んで構成される。そして、トルク制限部56は、回転電機20のスイッチング素子の素子温度に応じてトルク指令値T*48の低減レートを設定してトルク指令値T*48を低減させる処理を行う。これらの機能は、ソフトウェアを実行することで実現できる。具体的には、回転電機制御プログラムに含まれるロック時制御プログラムを実行することで実現できる。これらの機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
制御装置50に接続される記憶部70は、回転電機制御プログラムを格納する機能を有する記憶装置である。ここでは特に、ロック時制御のために、素子温度θとトルク指令値T*の低減レートSとの関係を示す関係ファイル72を記憶する。関係ファイル72は、素子温度θが高いほど、繰り返しロック時のインターバルが長くなるように設定されるトルク指令値T*の低減レートS=ΔT*/Δtを記憶するデータファイルである。ここで、tは時間である。繰り返しロック時のインターバルとトルク指令値T*の低減レートとの関係の詳細については後述する。
関係ファイル72は、素子温度θと低減レートSとの関係を示すマップ形式、ルックアップテーブル形式の他、素子温度θと低減レートSとの関係を示す関係式の形式、素子温度θを入力すると低減レートSが出力されるROM形式等を用いることができる。
上記構成の作用、特に、繰り返しロック時のインターバルとトルク指令値T*の低減レートとの関係を用いたロック時制御の内容について、図3から図5を用いて詳細に説明する。
ここで、ロック状態とは、狭義では、文字通り、回転電機20の出力トルクと負荷とが釣り合って回転電機20の回転が停止する状態である。図2で説明したように、通常の回転電機20の駆動制御においては、電気角に応じて各相電流値が120度の位相差を有して変化する。回転電機20が回転すると、電気角はその回転に応じて進展するので、通常の駆動制御では、特定の電気角に留まることがなく、各スイッチング素子のオンオフが連続的に行われる。ここで、回転電機20の出力トルクと負荷とが釣り合うと、そこで電気角が進展を止め、回転電機20は回転を停止する。このとき、特定のスイッチング素子に電流集中が生じる。
図2を用いて1つの例をあげると、図2の電気角90度のときに、回転電機20の出力トルクと負荷とが釣り合ったとする。このとき、U相電流値は最大値の状態であり、V相電流値とW相電流値はU相電流値と符号が逆で、大きさはU相電流値の1/2である。この状態で電気角の進展が止まると、U相電流値が最大値のまま継続する。つまり、V相電流値、W相電流値に比較して、U相電流値が大きく電流集中が生じていることになる。スイッチング素子でいえば、U相スイッチングアームの正極側母線に接続されるスイッチング素子に電流集中が生じる。
ここでは、電気角が90度で進展を止めた場合を説明したが、他の電気角でその進展が止まった場合も、進展を止めた電気角に対応する特定のスイッチング素子に電流集中が生じる。また、回転電機20の角速度ωがごく小さい値の場合も、特定のスイッチング素子に電流集中が継続することになる。すなわち、車両が低速走行し、これに対応して回転電機20がごく低回転を行なって角速度ωがごく小さい値であるとする。このとき、電気角の進展はきわめて遅くなるので、上記の例で、電気角90度の近傍で電気角の進展が極めて遅いと、電気角が90度で停止したときと同様に、U相スイッチングアームの正極側母線に接続されるスイッチング素子に電流集中が生じることが長期間継続することになる。
このように、インバータ回路30を構成する6つのスイッチング素子の内で特定のスイッチング素子に過度の熱損失が発生し得るのは、狭義のロック状態に限られない。すなわち、電気角の進展が非常に遅い状態である回転電機20のごく低速回転状態においても、特定のスイッチング素子に過度の熱損失が発生し得る。そこで、ここでは、ロック状態として、回転電機20の回転が停止する狭義のロック状態の他に、回転電機20がごく低速で回転する場合も含む広義のものとする。
図3は、一般的にロック状態が繰り返される繰り返しロックの様子を説明する図である。なお、図3では、本発明の特徴事項である素子温度に応じたトルク低減レートを用いていない。
図3は、横軸に時間をとり、縦軸に、トルク指令値T*、インバータ出力電流値、ロック判定の変化がとられている。ロック判定とは、回転電機20がロック状態となって、トルク制限を行う必要があると判定されることである。ロック判定によってロック状態と判定されると、トルク制限が行われ、ロック判定によってロック解除と判定されると、トルク制限が解除される。
図3において、最上段の図は、繰り返しロック時のトルク指令値T*の時間変化を示す図である。ここで、回転電機20にロック状態が生じたときに、特定のスイッチング素子に電流集中が生じたとして、その特定のスイッチング素子が損傷しない範囲で連続的に出力できるトルク値を連続許容トルク値として示した。したがって、トルク指令値T*が連続許容トルク値を超えることは、トルク判定においてロック状態とされるための1つの条件である。
図3において、中段の図は、繰り返しロック時のインバータ出力電流値の時間変化を示す図である。具体的には、電流集中が生じている1つの相電流値の時間変化が示されている。上記の例で、電気角90度でロック状態となったとした場合は、U相電流値の時間変化が示されている。ここで、回転電機20にロック状態が生じたときに、特定のスイッチング素子に電流集中が生じたか否かを判定する閾値として、電流集中判定閾値が示されている。したがって、インバータ出力電流値が電流集中判定閾値を超えることは、トルク判定においてロック状態とされるための1つの条件である。
図3において、下段の図は、ロック判定の状態を示す図である。ロック判定がロック状態とされる条件は、(トルク指令値T*が連続許容トルク値を超えること)AND(インバータ出力電流値が電流集中判定閾値を超えること)AND(回転電機20の角速度ωが所定の値未満であること)である。最後の条件は、広義のロック状態を示している。図3では、この最後の条件は常に満たしているものとする。なお、この3つの条件の1つでも欠けると、ロック判定はロック解除とされる。
図3において、時間t1は、トルク指令値T*が増大して、連続許容トルク値となった時点である。t1を過ぎると、トルク判定の2つの条件が満たされたことになる。時間t2は、インバータ出力電流値が上昇して電流集中判定閾値となった時点である。t2を過ぎると、トルク判定の3つの条件が満たされることになるが、実際には、この時間t2から予め定めた電流集中判定時間であるΔt0の間で、トルク判定の3つの条件が維持されているかが確認される。したがって、時間t2からΔt0経過した時間t3において、ロック判定の3つの条件が満たされていると、そこで、ロック判定は、ロック状態と判定される。このようにしてロック状態の判定が行われる。ここまでの処理手順は、制御装置50のロック判定部52の機能によって実行される。
時間t4においてロック判定がロック状態とされると、特定のスイッチング素子に過度の電流集中が生じないように、トルク指令値T*が低減される。この処理手順は、制御装置50のトルク制限部56の機能によって実行される。図3においては、時間t4からトルク指令値T*が低下を始める様子が示されている。これと共に、インバータ出力電流値も時間t4から低下を始める。これによって、電流集中が緩和される。
時間t5は、ロック判定がロック解除とされる時間である。上記のように、ロック判定の3つの条件のうちで1つでも欠けるとロック解除とされるが、誤判定を避けるために、ロック解除判定期間を設けることが好ましい。図3では、インバータ出力電流値がゼロとなる時間にロック解除とされる。
時間t5を過ぎて、トルク要求があると、再びトルク指令値T*が上昇し、インバータ出力電流値も上昇する。これ以後は、上記で説明した時間t1以降と同じことが繰り返される。すなわち、時間t5は、インバータ出力電流値が電流集中判定閾値となった時間である。そして、時間t5から電流集中判定時間Δt0を経過した時間t6において、再びロック状態と判定される。このようにして、ロック状態とロック解除が繰り返されるのが繰り返しロック時である。
繰り返しロック時において、ロック解除とされて、インバータ出力電流値が電流集中判定閾値を超えるまでは、特定のスイッチング素子への電流集中が緩和される。したがって、この期間は、ロック時において電流集中が生じた特定のスイッチング素子の冷却期間となる。この期間は、繰り返しロック時におけるインターバルIと呼ばれる。
繰り返しロック時におけるインターバルIが長いほど、電流集中の緩和期間が長くなるが、繰り返しロック時にはロック状態とロック解除が頻繁に生じるので、インターバルIがあまり長く取れない。すなわち、次にロック状態とされるまでの時間が短く、繰り返しロック時において電流集中が生じた特定のスイッチング素子の冷却時間が短いので、高トルクを出力できる時間が短い。
以上で、一般的な繰り返しロック時の説明が終るので、次に、本発明の特徴事項である素子温度に応じたトルク低減レートを用いる場合を述べる。上記のように、電流集中の緩和期間を長くして、ロック時において電流集中が生じた特定のスイッチング素子の冷却時間を長くするには、繰り返しロック時におけるインターバルIを長くすればよい。
ここで、ロック時におけるトルク制限の際のトルク低減レートを緩やかにすると、繰り返しロック時におけるインターバルIを長くなることが、実験的に分かってきた。そこで、トルク制限の際のトルク低減レートを緩やかにすることを検討すると、素子温度θが十分低いときに繰り返しロック時におけるインターバルIを長くする必要はない。したがって、素子温度θが高いほど、繰り返しロック時のインターバルIが長くなるように、トルク指令値T*の低減レートS=ΔT*/Δtを設定する。具体的には、素子温度θが高いほど、緩やかな値となる低減レートSとする。このように、素子温度θに関連付けて設定された低減レートSは、記憶部70において関係ファイル72として記憶される。
図4は、素子温度θと、トルク制限の際のトルク指令値T*の低減レートSの関係の1例を示す図である。横軸は素子温度θで、縦軸は低減レートSである。S=ΔT*/Δtは、トルク指令値T*の時間変化の勾配で、低減レートの場合、トルク指令値T*は時間と共に低下するので、Sは負の値となる。そこで、図4では、低減レートSをマイナス側の軸に沿って示してある。
制御装置50は、次の手順によって、回転電機20がロック時となったときの処理を実行する。すなわち、図3で説明したように、3つの条件に基づいて、ロック状態であるか否かの判定を行う(ロック判定処理手順)。この処理は、上記のように、ロック判定部52の機能によって実行される。次に、繰り返しロック時において電流集中が生じているスイッチング素子の素子温度θを取得する(素子温度取得処理手順)。この処理は、素子温度取得部54の機能によって実行される。電流集中が生じているスイッチング素子の特定は、素子温度θの最大値を示すスイッチング素子を特定する方法の他、各相電流値取得部24の取得結果を用いて判断することができる。また、駆動指令部40における各スイッチング素子に対するオンオフ指令に基づいて、現在オンされているスイッチング素子を特定して判断することができる。
そして、記憶部70において関係ファイル72を検索し、素子温度取得処理手順で取得された素子温度θに対応する低減レートSを読み出して、実行する低減レートSを決定する(低減レート決定処理手順)。そして、決定された低減レートSで、トルク制限を行う(トルク制限処理手順)。この処理は、トルク制限部56の機能によって実行される。
図5は、繰り返しロック時において、素子温度θに応じたトルク指令値T*の低減レートSを用いてトルク制限を行う様子を説明する模式図である。ここでは、横軸に時間をとり、縦軸に素子温度θをとり、時間t10,t11,t12,t13,t14,t15,t16において、ロック判定がロック状態とされて、トルク制限が行われるものとして、丸枠の中にトルク指令値T*の変化を示した。
ここで、時間t10では、素子温度θ=θ1であるので、図4に従い、トルク制限の低減レートS=S1である。ここでは、Sが急峻であるので、繰り返しロック時のインターバルI=I1は短い。したがって、電流集中が生じていたスイッチング素子の冷却時間が十分でないので、次の時間t11では素子温度θがθ1よりも高くなってθ2となる。
時間t11では、素子温度θ=θ2であるので、図4に従い、トルク制限の低減レートS=S2である。ここで、S2はS1よりも緩やかであるので、繰り返しロック時のインターバルI=I2はI1より長くなる。したがって、電流集中が生じていたスイッチング素子の冷却時間がt10の場合に比べ長く取れる。これでも、まだ十分な冷却時間ではないとすると、次の時間t12では素子温度θがθ2よりも高くなってθ3となる。
時間t12では、素子温度θ=θ3であるので、図4に従い、トルク制限の低減レートS=S3である。ここで、S3はS2よりもさらに緩やかであるので、繰り返しロック時のインターバルI=I3はI12よりもさらに長くなる。したがって、電流集中が生じていたスイッチング素子の冷却時間がt11の場合に比べさらに長く取れる。これで、冷却時間はかなり十分となったとして、次の時間t13では素子温度θがθ3を維持されるものとする。
時間t13では、素子温度θ=θ3が維持されるので、図4に従い、トルク制限の低減レートS=S3であり、繰り返しロック時のインターバルは、I=I3である。これにより、電流集中が生じていたスイッチング素子の冷却時間が十分に取れるので、次の時間t14では素子温度θがθ3よりも低下する。
このように、素子温度θが高くなるに応じて、トルク制限の低減レートSを緩やかにすることで、繰り返しロック時のインターバルIを長くできる。これによって、電流集中が生じていたスイッチング素子の冷却時間が長くなり、十分な冷却時間となると、素子温度が低下する。素子温度θを低下できると、回転電機20において、高トルクを出力できる時間を長くできる。これによって、例えば、車両の登坂性能を向上させることができる。
時間t14以降は、ロック時の素子温度θ等の状況によって左右されるが、ここでは、インターバルI3によって、電流集中が生じていたスイッチング素子が十分に冷却され、時間と共に素子温度θが低下するものとして説明を続ける。
時間t14では、素子温度θ=θ2であるので、図4に従い、トルク制限の低減レートS=S2であり、繰り返しロック時のインターバルは、I=I2である。素子温度θは下がっている途中であるので、このインターバルI2でも電流集中が生じていたスイッチング素子の冷却時間が十分であるとして、次の時間t15では素子温度θがθ2よりも低下する。その低下した素子温度θをθ1とする。
時間t15では、素子温度θ=θ1であるので、図4に従い、トルク制限の低減レートS=S1であり、繰り返しロック時のインターバルは、I=I1である。素子温度θは下がっている途中であるので、このインターバルI1でも電流集中が生じていたスイッチング素子の冷却時間が十分であるとすると、次の時間t16でも素子温度θがθ1に維持される。
このように、素子温度θが高くなるに応じて、トルク制限の低減レートSを緩やかにすることで、電流集中が生じていたスイッチング素子を十分冷却できるようになる。