JP2012219341A - 冷延鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.05〜0.20%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.1〜3.0%、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:1.0%以下、及びN:0.01%以下を含有する化学組成を有し、フェライト及びベイナイトを合計で60面積%以上、残留オーステナイトを3〜20面積%含有し、フェライト及びベイナイトの平均粒径が0.5〜6.0μm、前記残留オーステナイト中のC濃度が0.5〜1.2質量%の鋼組織を有し、鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の圧延直角方向の平均間隔が1000μm以下であり、鋼板表面のクラックの最大深さが4.5μm以下、幅6μm以下、深さ2μm以上のクラックの数密度が10個/50μm以下の表面性状を有し、引張強度が800〜1200MPa、加工硬化指数(n3-8)が0.10以上、曲げ性が次式を満たす機械特性を有する冷延鋼板。
R/t≦1.5(Rは曲げ角度90°の曲げ試験で湾曲部の外側に割れの発生しない最小内側半径、tは板厚)。
【選択図】 なし
Description
(ア)高い引張強度と高いn値とを確保するには、残留オーステナイトを含有させた鋼組織とし、その加工誘起変態を利用することが有効である。
その結果、鋼板表面近傍の特定元素の濃度分布及び鋼板の表面性状が曲げ性に大きく影響することを突き止め、これらを規定することによって曲げ性を一層高めることが可能であるとの新たな知見を得た。
本発明は、上記新知見に基づくものであり、その要旨は以下のとおりである。
フェライト及びベイナイトを合計で60面積%以上、並びに残留オーステナイトを3面積%以上、20面積%以下含有し、前記フェライト及びベイナイトの平均粒径が0.5μm以上、6.0μm以下、前記残留オーステナイト中のC濃度が0.5質量%以上、1.2質量%以下である鋼組織を有し、
鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の圧延直角方向の平均間隔が1000μm以下である元素濃度分布を有し、
鋼板表面のクラックの最大深さが4.5μm以下であり、かつ、幅6μm以下で深さ2μm以上のクラックの数密度が10個/50μm以下である表面性状を有し、
引張強度(TS)が800MPa以上、1200MPa以下、3%以上、8%以下の塑性ひずみ域における加工硬化指数(n3-8)が0.10以上、曲げ性が下記(1)式を満たす機械特性を有することを特徴とする冷延鋼板。
ここで、Rは曲げ角度90°の曲げ試験において湾曲部の外側に割れの発生しない最小内側半径であり、tは板厚である。
ここで、R及びtは上記の通りである。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.5質量%以下を含有し、前記平均間隔が500μm以下である、前記(1)項又は(2)項に記載の冷延鋼板。
(A)前記(1)項から(5)項までのいずれかに記載の鋼組成を有する溶鋼を、スラブの表面から10mm深さ位置における液相線温度〜固相線温度間の平均冷却速度を10℃/秒以上として鋳造することによりスラブとする鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた前記スラブを、1100℃以上、1280℃以下の温度として粗熱間圧延を施して粗バーとし、前記粗バーを1100℃以上としてデスケーリングした後に、仕上熱間圧延に供し、840℃以上、950℃以下の温度域で仕上熱間圧延を完了し、仕上熱間圧延完了後10秒以内に650℃以下の温度域に冷却し、300℃以上、600℃以下の温度域で巻取り、下記(3)式を満足する冷却条件で室温まで冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする、酸洗工程;
(D)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする、冷間圧延工程;及び
(E)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、1℃/秒以上の平均加熱速度でAc3点以上、880℃以下の温度域に加熱し、前記温度域で10秒間以上、200秒間以下保持し、3℃/秒以上、200℃/秒以下の平均冷却速度で550℃まで冷却し、150℃以上、550℃以下の温度域に30秒間以上、1000秒間以下保持し、その後室温まで冷却する連続焼鈍を施す連続焼鈍工程。
前記(1)において、「鋼板表面のクラック」とは、冷延鋼板の表面に開口しているクラックのことである。クラックの幅、深さ、数密度は、冷延鋼板の板厚断面をSEMを用いて2000倍で観察することにより測定される。クラックの数密度は、圧延方向長さを50μmとした任意の10箇所の観察視野について観察を行ってクラックの個数を求め、10個所の計測値を平均することにより求める。
ここで、Rは曲げ角度90°の曲げ試験において湾曲部の外側に割れの発生しない最小内側半径(mm)であり、tは板厚(mm)である。
(1)化学組成
以下の説明において、鋼板の化学組成に関する%は全て質量%である。本発明に係る冷延鋼板の化学組成において、以下に述べる元素以外の残部は鉄及び不純物である。
Cは、鋼板の強度を高める作用を有する元素である。また、オーステナイトを安定化させて鋼中に残留させることによりn値を高める作用を有する。C含有量が0.05%未満では、800MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。また、3面積%以上の量の残留オーステナイトを確保することが困難となる。従って、C含有量は0.05%以上とする。一方、C含有量が0.20%超では、抵抗溶接のナゲット部の硬度上昇により溶接部強度の低下が著しくなる。従って、C含有量は0.20%以下とする。好ましくは0.15%以下である。
Siは、鋼板の強度を高める作用を有する元素である。Si含有量が0.05%未満では、800MPa以上の引張強度を安定して確保することが困難となる。従って、Si含有量は0.05%以上とする。好ましくは0.2%以上である。一方、Si含有量が2.0%超では、抵抗溶接のナゲット部の硬度上昇により溶接部強度の低下が著しくなる。従って、Si含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.5%以下である。
Mnは、鋼板の強度を高める作用を有する元素である。Mn含有量が0.1%未満では、800MPa以上の引張強度を確保することが困難となる。従って、Mn含有量は0.1%以上とする。一方、Mn含有量が3.0%超では、抵抗溶接のナゲット部の硬度上昇により溶接部強度の低下が著しくなる。従って、Mn含有量は3.0%以下とする。
Pは、不純物として含有される元素であり、抵抗溶接のナゲット内で偏析を生じてナゲット部の靭性を低下させる作用を有する。P含有量が0.02%超では、抵抗溶接のナゲット部の靭性低下が著しくなる。従って、P含有量は0.02%以下とする。
Sは、不純物として含有される元素であり、抵抗溶接のナゲット部の靭性を低下させる作用を有する。また、鋼中にMnSを形成して鋼板の加工性を低下させる。S含有量が0.01%超では、抵抗溶接のナゲット部の靭性低下が著しくなったり、鋼板の加工性低下が著しくなったりする。従って、S含有量は0.01%以下とする。
Alは、鋼の精錬過程において鋼を脱酸して鋼材を健全化する作用を有する元素である。しかし、Al含有量が1.0%超では、酸化物系介在物増加に起因する表面性状の劣化や加工性の劣化が顕著となる。このため、Al含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.60%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには、Al含有量を0.02%以上とすることが好ましい。
Nは、不純物として含有される元素であり、鋼中に粗大な窒化物を形成して鋼板の加工性を低下させる作用を有する。N含有量が0.01%超では、鋼板の加工性低下が著しくなる。従って、N含有量は0.01%以下とする。
これらの元素は、任意元素であって、鋼中に微細な析出物を形成して鋼組織を微細化することにより、鋼板の曲げ性を高める作用を有する。従って、より良好な曲げ性を確保する観点からは、これら元素の1種又は2種以上含有させることが好ましい。
R/t≦1.0 (2)
ここで、Rは曲げ角度90°の曲げ試験において湾曲部の外側に割れの発生しない最小内側半径であり、tは板厚である。
Biは、任意元素であって、凝固の接種核となり、凝固時のデンドライトアーム間隔を小さくし、凝固組織を細かくすることにより、MnやSi等の偏析し易い元素の偏析を抑制し、鋼板の局所的な強度差を低減し、曲げ性を向上させる作用を有する。従って、より良好な曲げ性を確保する観点からは、Biを含有させることが好ましい。
これらの元素は、任意元素であって、鋼板の焼入れ性を高めることにより、鋼板の強度を高める作用を有する。従って、800MPa以上の引張強度を確保することを容易にする観点からは、これらの元素の1種又は2種以上を含有させることが好ましい。
これらの元素は、任意元素であって、硫化物や酸化物等の介在物を球状化して介在物による成形性の劣化を無害化する作用を有する。また、Ti含有鋼の場合には、TiNなどの窒化物の生成核となる酸化物を形成することから、TiNを微細分散化して、粗大なTiNに起因する成形性の劣化を無害化する作用を有する。従って、これらの元素の1種又は2種以上を含有させることが好ましい。
(フェライト及びベイナイトの合計面積率:60%以上)
フェライト及びベイナイトの合計面積率を60%以上とすることによって、後述する残留オーステナイト面積率及び残留オーステナイト中C濃度を確保することが可能となり、800MPa以上の高い引張強度を有しながら優れた成形性を確保することが可能になる。従って、フェライト及びベイナイトの合計面積率は60%以上とする。
残留オーステナイトの面積率が3%未満では、加工誘起変態によるn値向上作用を十分に得ることができない。従って、残留オーステナイトの面積率は3%以上とする。好ましくは5%以上である。一方、残留オーステナイトの面積率が20%超では、加工誘起変態により生成されるマルテンサイトの量が多くなり、曲げ性が劣化する。マルテンサイトを含有する複合組織鋼板に曲げ加工を施す場合において、マルテンサイトとその他の相や組織との界面はそれらの組織間硬度差に起因してマイクロクラック(鋼板内部に生ずる微小クラック)が発生し易い部位となるためである。従って、残留オーステナイトの面積率は20%以下とする。
本発明では、連続焼鈍工程においてオーステナイト単相組織状態とする際にオーステナイトを微細化することにより、その後の冷却過程において、フェライト変態及びベイナイト変態を一気に進行させる。それにより、本来的に軟質で加工性に富むフェライトの割合を高めるとともに、ベイナイトをC含有量の比較的低い軟質なものとし、さらに比較的C含有量の低いオーステナイトを効率よく残留させ、しかも微細なオーステナイトから生成するフェライト及びベイナイトは微細となる。これらの相及び組織の相乗作用によって、高い引張強度と高いn値とを確保し、さらに良好な曲げ性をも確保することができる。
(残留オーステナイト中のC濃度:0.5質量%以上、1.2質量%以下)
残留オーステナイト中のC濃度が0.5質量%未満では、加工誘起変態によるn値向上作用を十分に得ることができない。従って、残留オーステナイト中のC濃度は0.5質量以上とする。一方、残留オーステナイト中のC濃度が1.2質量%超では、加工誘起変態によって生成されるマルテンサイトの硬度が高くなり、曲げ性や伸びフランジ性が劣化する。上述したように、マルテンサイトを含有する複合組織鋼板に曲げ加工や伸びフランジ加工を施す場合において、マルテンサイトとその他の相や組織との界面はそれらの組織間硬度差に起因してマイクロクラックが発生し易い部位となるところ、加工誘起変態により生成されるマルテンサイトの硬度が高くなると、上記組織間硬度差が一層大きくなり、マイクロクラックの発生がさらに容易になるためである。このため、残留オーステナイト中のC濃度は1.2質量%以下とする。
(3)濃度分布
本発明に係る冷延鋼板では、鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の圧延直角方向の平均間隔が1000μm以下である濃度分布を有する。こうすることで、冷延鋼板の曲げ性が向上する。
鋼板表面のクラックの最大深さを4.5μm以下とし、かつ幅6μm以下で、深さ2μm以上のクラックの数密度を10個/50μm以下とする。
(引張強度:800MPa以上、1200MPa以下)
引張強度が800MPa未満では、元来成形性が良好であることから、本発明が目的とする高いn値と良好な曲げ性を確保するという課題が顕在化することは少ない。従って、引張強度は800MPa以上とする。好ましくは900MPa以上である。一方、引張強度が1200MPa超では、本発明をもってしても高いn値と良好な曲げ性を確保することが困難である。従って、引張強度は1200MPa以下とする。
3%以上、8%以下の塑性ひずみ域における加工硬化指数(n3-8)が0.10未満では、r値の低い高強度鋼板において、深絞り成形時に十分な成形性が得られない場合がある。また、成形された後の鋼板部材は加工硬化が不十分であるため、降伏応力が低く、衝撃吸収能が十分に得られない場合がある。従って、n3-8は0.10以上とする。なお、加工硬化指数はJIS Z 2253:2011により規定される。
R/t>1.5では、厳しい曲げ成形を施した際に割れが発生する場合がある。従って、R/t≦1.5とする。好ましくはR/t≦1.0である。
上述した鋼板の表面には、耐食性の向上等を目的としてめっき層を設けることにより表面処理鋼板としてもよい。めっき層は電気めっき層であってもよく溶融めっき層であってもよい。電気めっき層としては、電気亜鉛めっき、電気Zn−Ni合金めっき等が例示される。溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。また、めっき後に適当な化成処理(例えば、シリケート系のクロムフリー化成処理液の塗布と乾燥)を施して、耐食性をさらに高めることも可能である。
本発明の冷延鋼板は、上記化学組成、鋼組織、濃度分布、表面性状及び機械特性を満足するものであればよく、その製造方法は特に限定する必要はないが、以下の方法により製造することが好適である。
上記鋼組成を有する溶鋼を、スラブの表面から10mm深さ位置における液相線温度〜固相線温度間の平均冷却速度を10℃/秒以上として鋳造することによりスラブとする。
上記鋳造工程により得られたスラブを、1100℃以上、1280℃以下の温度として粗熱間圧延を施して粗バーとなし、該粗バーを1100℃以上としてデスケーリングした後に、仕上熱間圧延を施して、840℃以上、950℃以下の温度域で仕上熱間圧延を完了し、仕上熱間圧延完了後10秒以内に650℃以下の温度域に冷却し、300℃以上、600℃以下の温度域で巻取り、下記(3)式を満足する冷却条件で室温まで冷却して熱延鋼板とする。
粗熱間圧延に供するスラブの温度が1100℃未満では、合金元素のオーステナイト中への固溶が不十分となり、その後の加工熱処理により目的とする鋼組織等を得ることが困難となる場合がある。従って、粗熱間圧延に供するスラブの温度は1100℃以上とすることが好ましい。一方、粗熱間圧延に供するスラブの温度が1280℃超では、スケール生成による歩留低下が著しくなる場合がある。従って、粗熱間圧延に供するスラブの温度は1280℃以下とすることが好ましい。
粗熱間圧延後のスケールが厚く残存した状態で粗バーを仕上熱間圧延に供してしまうと、仕上熱間圧延後の熱延鋼板の表面に形成されるスケールの厚さが大きくなり、これにより、結晶粒径の酸化が過剰に促進されてしまい、冷延鋼板の表面に深いクラック及び鋭いクラックが形成される場合がある。従って、粗熱間圧延により得られた粗バーにデスケーリングを施すことにより、仕上熱間圧延に供する粗バーのスケールを適切に除去することが重要となる。
仕上熱間圧延の完了温度が840℃未満では、仕上熱間圧延中にフェライト変態に起因するハンチングが生じて、操業が困難となる場合がある。従って、仕上熱間圧延の完了温度は840℃以上とすることが好ましい。
仕上熱間圧延完了後に650℃以上の温度域に10秒間より長くさらされると、熱延鋼板の鋼組織が粗大化してしまい、冷間圧延及び連続焼鈍後において目的とする鋼組織や機械特性を得ることが困難となる。また、鋼板表層部の全体的な酸化や粒界酸化の進行が著しくなり、酸洗及び冷間圧延後において、曲げ性に悪影響を及ぼす深いクラックや鋭いクラックが鋼板表面に多数生成する場合がある。従って、仕上熱間圧延完了後10秒以内に650℃以下の温度域に冷却することが好ましい。
巻取温度が600℃超であったり、巻取後の冷却条件が上記式(3)を満足しなかったりすると、鋼板表層部の全体的な酸化や粒界酸化の進行が著しくなって、酸洗及び冷間圧延後において、曲げ性に悪影響を及ぼす深いクラックや鋭いクラックが鋼板表面に多数生成する場合がある。従って、巻取温度は600℃以下とし、巻取後の冷却条件は、上記式(3)を満足するものとすることが好ましい。
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗及び冷間圧延を施すが、これらは常法でかまわない。冷間圧延の条件は特に規定する必要はないが、連続焼鈍後において好適な集合組織を具備させて良好な加工性を得るとの観点からは、圧下率を25%以上とすることが好ましい。
前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、1℃/秒以上の加熱速度でAc3点以上、880℃以下の温度域に加熱し、前記温度域で10秒間以上、200秒間以下保持し、3℃/秒以上、200℃/秒以下の平均冷却速度で550℃まで冷却し、150℃以上、550℃以下の温度域に30秒間以上、1000秒間以下保持し、その後、室温まで冷却する連続焼鈍を施す。
熱間圧延工程においては、鋳造工程で得られたスラブを「スラブ加熱温度」まで加熱し、次いで粗熱間圧延を施して粗バーとし、該粗バーを「粗バー加熱温度」まで再加熱してデスケーリングした後に、仕上熱間圧延に供し、「仕上圧延完了温度」で仕上熱間圧延を完了し、圧延完了後10秒後の温度を「圧延後10秒後温度」まで冷却し、「巻取温度」で巻き取った。ここで、得られた熱延鋼板の板厚は「仕上板厚」に示した通りであった。
その後の連続焼鈍工程においては、冷延鋼板を「昇温速度」で「焼鈍温度」まで加熱し、該温度で「焼鈍時間」だけ保持し、「平均冷却速度」で「冷却停止温度・低温保持温度」まで冷却し、該温度で「低温保持時間」だけ保持し、「低温保持後冷却速度」で室温まで冷却した。
(1)スラブの表面から10mm深さ位置における液相線温度〜固相線温度間の平均冷却速度(鋳造工程の「平均冷却速度」)
得られたスラブの一部を切り出し、ピクリン酸にてエッチングを行った。光学顕微鏡を用いて、スラブの凝固組織を観察した。スラブ表面から10mm深さ位置におけるデンドライト2次アーム間隔を鋳込方向に5mmピッチで100点測定した。各々の箇所で冷却速度を求め、その平均値を平均冷却速度とした。
仕上熱間圧延の出口、ランナウトテーブル、巻取装置の各位置に設置された放射温度計のデータと通板速度のデータより、熱間仕上圧延完了10秒後の鋼板温度を内挿して求めた。
巻取後、一定時間ごとに鋼帯の表面温度、すなわち最外周の鋼板の幅方向中心部の温度を、放射温度計を用いて測定した。その測定値と時間(t)及び測定から得られたt1の値から式(3)の左辺の値を算出した。
各種冷延鋼板から試験片を採取し、表2に示す条件で熱処理を行った際の膨張率変化を解析することによって、焼鈍温度に保持した際にオーステナイト単相となっているか否かを評価した。
(1)引張試験
各冷延鋼板から、圧延方向に直角な方向を長手方向とするJIS5号引張試験片を採取し、引張特性(降伏強度YS、引張強度TS、全伸びEl、n3-8)をJISに準拠して調査した。
鋼板の組織は、鋼板の幅の1/4の位置において、圧延方向に対して平行方向及び直角方向の板厚断面を、SEMを用いて2000倍で50視野(各方向につき25視野ずつ)観察し、画像解析によりフェライト+ベイナイトの合計面積率、残留オーステナイトの面積率、及びフェライト及びベイナイトの平均粒径を測定した。粒径の測定は、JIS G 0551:2005の切断法に準拠して実施し、50視野の平均を求めた。
また、上述したSEM断面観察と画像解析による方法によって、鋼板表面に開口したクラックについて、最大深さが5μm超のクラックの有無を調べ、幅6μm以下で深さ2μm以上のクラックの数密度とを求めた。
各冷延鋼板から圧延方向に直角方向を長手方向とするJIS1号曲げ試験片を採取し、JIS Z 2248:2006の規定に準拠したVブロック法により、曲げ性を調査した。割れの判定は、光学顕微鏡及びSEMを用いて曲げ部表面、断面を調査し、上記規格に規定されている基準に従って評価した。
鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の間隔の測定は、鋼板表面を深さ50μm位置まで研削し、EPMAの線分析により実施した。Mn濃化部及びSi濃化部の平均間隔は、線分析から得られたSiとMnの濃度の波形を読み取って濃度平均値の1.1倍以上である濃度極大部間の間隔を求め、それらの平均値を算出した。
供試材No.9は、鋳造工程におけるスラブの表面から10mm深さ位置における液相線温度〜固相線温度間の平均冷却速度が10℃/秒未満であるため、鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の圧延直角方向の平均間隔が1000μm超となっており、曲げ性に劣る。
供試材No.11は、仕上熱間圧延完了後10秒以内に650℃以下の温度域に冷却していないため、熱延鋼板の鋼組織が粗大となり、連続焼鈍時のオーステナイト粒径が粗大となった。そのため、微細なフェライトとベイナイトへの変態が一気に起こらず、未変態オーステナイトへのC濃化が不十分となったために、残留オーステナイト面積率が低くなり、その結果n値が低い。また、フェライトとベイナイトの平均粒径が大きくなり、さらに曲げ性の低下をもたらすクラックが鋼板表面に多数形成されており、曲げ性に劣る。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.05%以上、0.20%以下、Si:0.05%以上、2.0%以下、Mn:0.1%以上、3.0%以下、P:0.02%以下、S:0.01%以下、Al:1.0%以下、及びN:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不純物からなる化学組成を有し、
フェライト及びベイナイトを合計で60面積%以上、並びに残留オーステナイトを3面積%以上、20面積%以下含有し、前記フェライト及びベイナイトの平均粒径が0.5μm以上、6.0μm以下、前記残留オーステナイト中のC濃度が0.5質量%以上、1.2質量%以下である鋼組織を有し、
鋼板表面から50μm深さ位置における圧延方向に展伸したMn濃化部及びSi濃化部の圧延直角方向の平均間隔が1000μm以下である元素濃度分布を有し、
鋼板表面のクラックの最大深さが4.5μm以下であり、かつ、幅6μm以下で深さ2μm以上のクラックの数密度が10個/50μm以下である表面性状を有し、
引張強度(TS)が800MPa以上、1200MPa以下、3%以上、8%以下の塑性ひずみ域における加工硬化指数(n3-8)が0.10以上、曲げ性が下記(1)式を満たす機械特性を有することを特徴とする冷延鋼板。
R/t≦1.5 (1)
ここで、Rは曲げ角度90°の曲げ試験において湾曲部の外側に割れの発生しない最小内側半径であり、tは板厚である。 - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.12%以下、Nb:0.06%以下、及びV:0.1%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を含有し、前記フェライト及びベイナイトの平均粒径が0.5μm以上、4.0μm以下であり、前記曲げ性が下記(2)式を満たす、請求項1に記載の冷延鋼板。
R/t≦1.0 (2)
ここで、R及びtは請求項1に記載した通りである。 - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.5質量%以下を含有し、前記平均間隔が500μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の冷延鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:2.0%以下、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下、及びB:0.01%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の冷延鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、REM:0.1%以下、Mg:0.01%以下、及びCa:0.01%以下からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、請求項1から請求項4までのいずれかに記載の冷延鋼板。
- 下記工程(A)〜(E)を有することを特徴とする冷延鋼板の製造方法:
(A)請求項1から請求項5までのいずれかに記載の鋼組成を有する溶鋼を、スラブの表面から10mm深さ位置における液相線温度〜固相線温度間の平均冷却速度を10℃/秒以上として鋳造することによりスラブとする鋳造工程;
(B)前記鋳造工程により得られた前記スラブを、1100℃以上、1280℃以下の温度として粗熱間圧延を施して粗バーとし、前記粗バーを1100℃以上としてデスケーリングした後に、仕上熱間圧延に供し、840℃以上、950℃以下の温度域で仕上熱間圧延を完了し、仕上熱間圧延完了後10秒以内に650℃以下の温度域に冷却し、300℃以上、600℃以下の温度域で巻取り、下記(3)式を満足する冷却条件で室温まで冷却して熱延鋼板とする熱間圧延工程;
(C)前記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする、酸洗工程;
(D)前記酸洗工程により得られた酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする、冷間圧延工程;及び
(E)前記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、1℃/秒以上の平均加熱速度でAc3点以上、880℃以下の温度域に加熱し、前記温度域で10秒間以上、200秒間以下保持し、3℃/秒以上、200℃/秒以下の平均冷却速度で550℃まで冷却し、150℃以上、550℃以下の温度域に30秒間以上、1000秒間以下保持し、その後室温まで冷却する連続焼鈍を施す連続焼鈍工程。
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